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関連審決 不服2004-9771
関連ワード 29条1項3号 /  頒布された刊行物 /  複写物 /  進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  技術的手段 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  請求の理由 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  合理的な理由 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10544号 審決取消請求事件
原告オイレス工業株式会社
訴訟代理人弁理士高田武志
被告特許庁長官肥塚雅博
指定代理人亀丸広司,高木彰,村本佳史,大場義則, 大町真義
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/11/14
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2004-9771号事件について平成18年10月31日にした審決を取り消す。
第2当事者間に争いがない事実1特許庁における手続の経緯原告は,平成7年5月30日,発明の名称を「高減衰性ゴムを使用した積層ゴム体」とする発明について特許出願(特願平7-155362号,以下「本件出願」という。)したが,平成16年4月7日付けで拒絶査定を受けたので,拒絶査定不服審判を請求した。
特許庁は,これを不服2004-9771号事件として審理し,平成18年10月31,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年11月22日,原告に送達された。
2平成16年3月15日付け手続補正書により補正された明細書(甲6。以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)の要旨「【請求項1】高減衰性ゴム組成物よりなるゴム層と硬質の平板状の補強板とを交互に多段に積層してなる積層ゴム体において,前記積層ゴム体を貫通する円柱状の鉛プラグが1又は2以上積層面に直交して拘束状態をもって埋め込まれてなる,ことを特徴とする高減衰性ゴム組成物を使用した積層ゴム体」3審決の理由( )審決は,別紙審決記載のとおり,本願発明が,特開平3-84232号広1報(甲3,以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。),特開平4-52384号公報(甲4,以下「刊行物2」という。)に記載された発明,表紙に「橋構造の基礎免震用鉛ゴムエネルギー吸収装置」等の記載がある文献(甲5,以下「刊行物3」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
( )審決が認定した引用発明は,次のとおりである。
2「金属繊維等からなるコードを用いて製織されたすだれ織またはメッシュに高減衰率ゴムをトッピングしたトッピングコードのみを多数枚積層するか,一部に鉄板等の硬質板を介在させて積層した弾性柱状体が,上下方向に貫通する中空部を有し,この中空部に鉛が充填されている免震用支持体。」( )審決が認定した,本願発明と引用発明の一致点及び相違点は,それぞれ次3のとおりである。
ア一致点「高減衰性ゴム組成物よりなるゴム層と硬質の平板状の補強板とを交互に多段に積層してなる積層ゴム体において,前記積層ゴム体を貫通する円柱状の鉛が1又は2以上積層面に直交して埋め込まれてなる,ことを特徴とする高減衰性ゴム組成物を使用した積層ゴム体。」イ相違点「本願発明1では,鉛が『鉛プラグ』であって『拘束状態をもって』埋め込まれているのに対し,引用発明では,鉛が『鉛プラグ』とは明示されておらず,『拘束状態をもって』埋め込まれているとも明示されていない点。」第3原告主張の審決取消事由審決は,手続の違法があり(取消事由1),刊行物3の認定を誤り(取消事由2),一致点の認定を誤り(取消事由3),容易想到性判断を誤り(取消事由4),本願発明の顕著な作用効果を看過し(取消事由5),その結果,本願発明は,当業者が容易に発明をすることができたものであるとの誤った結論を導いたものであり,違法であるから,取り消されるべきである。
1取消事由1(手続の違法)( )審決は,「本願の請求項1に係る発明(本願発明1)は,刊行物1〜3に1記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」(6頁第2段落)としたが,これは,審査における拒絶の理由及び拒絶査定の理由と異なる理由であり,審決は,審決の理由をあらかじめ通知し,原告に意見を述べる機会を与えるべきであったにもかかわらず,それをしなかった違法な手続によってされたものである(特許法159条2項において準用する特許法50条)。
( )本件出願に対しては,「引用文献1-4(判決注:拒絶理由通知書には,2引用文献として,順に,刊行物1,特開平6-58008号公報,刊行物2及び刊行物3が記載されている。以下,これらを「引用文献」ということがある。)には,それぞれ本願の請求項1と同様の事項が記載されている」から,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとして,平成16年1月20日付け(発送日)で,拒絶理由通知書(甲2,以下「本件拒絶理由通知書」という。)が出された。
本件拒絶理由通知書の備考欄及び全体の記載からすると,拒絶理由の趣旨は,本件出願の請求項1に係る発明は,それぞれの刊行物に記載された発明に基づいて,容易に発明をすることができたものであると理解するのが自然である。
そこで,原告は,同年3月15日付けの手続補正書(甲6)により,特許請求の範囲を含めて本件出願に係る明細書の全文を補正するとともに,意見書(甲7)において,?@刊行物1に記載の「高減衰率ゴム」がどのようなのか不明である,刊行物1には鉛プラグの適用の開示はない,刊行物1には「積層ゴム体を貫通する円柱状の鉛プラグが1又は2以上積層面に直交して拘束状態をもって埋め込まれてなること」は何ら開示されていない,刊行物1には本願発明の技術的課題の認識がなく,本願発明に係る動機付けもない,刊行物1に記載された発明では本願発明の作用効果を得られず,本願発明は刊行物1から容易に推考し得たものではない,?A刊行物2には,高減衰性ゴムについいて全く開示されていない,刊行物2に記載の発明は,本願発明の目的と相違する,本願発明は刊行物2から容易に推考し得たものでないことを主張した。
これに対し,拒絶査定(甲8)においては,原告の意見を全く無視し,拒絶理由通知書の理由の内容を翻し,「免震装置で用いるゴムとして,高減衰ゴムを用いることは,本願出願前に慣用の技術であり(必要であれば,引用文献1,2等参照),引用文献3,4に明示的な記載がないとしても,免震装置で用いるゴムとして,高減衰性ゴムを採用することは,実施に際し当業者が適宜なし得ることでしかない。」として,本件出願を拒絶した。この拒絶査定の趣旨は,「本願の請求項1-4に係る発明は,引用文献3,4と,(引用文献1,2の)慣用の技術とから容易に発明をすることができたものである」と理解するのが自然である。
そこで,原告は,平成16年5月10日付けの審判請求書(甲9)を提出して,拒絶査定不服の審判を請求し,拒絶査定の理由に対して反論した。
ところが,審決では,「刊行物2又は3に記載された構成を引用発明に適用することによって,鉛を『鉛プラグ』とし,かつ『拘束状態をもって』埋め込まれている構成として,相違点に係る本願発明1の構成に想到することは当業者が容易になし得たことである。」(5頁第1段落)とした。
したがって,特許庁の拒絶の理由は2転3転している。原告は,拒絶理由及び拒絶査定で示された理由に対して,それぞれ対応する主張をしたのであるが,審査における拒絶の理由及び拒絶査定の理由と異なる理由により審決するのであれば,その理由をあらかじめ通知して原告に意見を述べる機会を与えるべきであったにもかかわらず,そのような拒絶理由通知はされていない。拒絶理由通知書及び拒絶査定における備考欄の記載は,具体的な拒絶理由及び拒絶査定の理由を出願人に通知するという意義を有するものである。
被告は,拒絶査定の理由には引用文献1-4をそれぞれ容易想到性の主な根拠とする拒絶理由が含まれている旨主張するが,これは,拒絶理由における備考欄の具体的な指摘と拒絶査定における備考欄の具体的な指摘とを無視したものである。本件は,各刊行物の引用の趣旨が根本的に異なって,しかも,拒絶の論理構成が異なっていて,実質的な拒絶の理由が異なる場合に当たる。
拒絶の理由の適用条項が同一であっても,実質的な拒絶の理由の内容が異なるのであれば,異なる拒絶の理由であり,その拒絶理由を通知すべきであったにもかかわらず,そのような通知はされなかった。そして,原告は,そのような通知がされず,明細書を補正する機会(特許法17条の2)も失ったものである。
( )被告は,原告が,意見書及び審判請求書において,刊行物1と他の引用文3献との組合せについて検討しているとするが,そのことは,原告に意見を述べる機会や補正する機会を与えなくてもよいということにはならない。
出願人が意見書等に記載する事項は,刊行物1と他の引用文献との組合せのすべてについて行うことが困難であるから,ある程度の推測に基づいて行わざるを得ない結果,往々にして的を得ないものとなり,この観点からも,原告は,的を射た意見を述べる機会や的確・適正な補正をする機会を失った。
2取消事由2(刊行物3の認定の誤り)( )審決は,刊行物3が本件出願前に頒布された刊行物であるとするが,誤り1である。したがって,刊行物3に記載された事項に基づく,審決の容易想到性判断も誤りである。
( )刊行物3の表紙に続く頁の記載によれば,刊行物3の当該頁以降は,オー2クランド大学博士学位(又はディプロマ)のために提出された論文の複製物であり,刊行物3の表紙及び次頁は,論文の複製物が作成される際に添付されたものである。
刊行物3の表紙には,「August,1982」の記載が一応存在するが,複製物である刊行物3の作成については,1994年(平成6年)の著作権法の規定の適用の旨が記載されていて,表紙の記載からは,論文原本が1982年(昭和57年)8月に作成されたことを一応推定できるにすぎない。
論文原本自体は,一般の博士学位請求論文と同様に,公衆に対し頒布により公開を目的として作成されたものと認められないから,特許法29条1項3号にいう刊行物ということはできない。
そして,論文原本の複製物が,本件出願日前に現実に作成(複写),すなわち現実に頒布されたことを窺い得る記載は,刊行物3には一切ないし,ニュージーランドの1994年の著作権法は,1995年(平成7年)1月から施行されたのであるから,論文原本の複製物である刊行物3が平成7年1月以前に作成(複写)されたことはあり得ないし,複製物である刊行物3がいつ作成されたかは不明で,刊行物3を本件出願日前に頒布された刊行物ということはできない。
特許法29条1項3号にいう刊行物は,必ずしも公衆の閲覧を期待してあらかじめ公衆の要求を満たすことができるとみられる相当程度の部数が原本から複製されて広く公衆に提供されているようなものに限られるとしなければならないものではなく,(a)右原本自体が公開されて(b)公衆の自由な閲覧に供され,かつ,(c)その複写物が公衆からの要求に即応して遅滞なく交付される態勢が整つているならば,公衆からの要求をまってその都度原本から複写して交付されるものであっても差し支えないとも解されるが,仮に,本件出願日前に,複製物である刊行物3が作成されたとしても,これが,公衆からの要求をまって,その都度,論文原本から複写して交付されるものであるかどうかのみならず,上記の要件(a)及び(b)のすべてを満たしているか否かは不明である。
3取消事由3(一致点の認定の誤り)( )審決は,「『高減衰性ゴム組成物よりなるゴム層と硬質の平板状の補強板1とを交互に多段に積層してなる積層ゴム体において,前記積層ゴム体を貫通する円柱状の鉛が1又は2以上積層面に直交して埋め込まれてなる,ことを特徴とする高減衰性ゴム組成物を使用した積層ゴム体。』である点」(4頁第6段落)が引用発明と本願発明との一致点であるしたが,誤りである。
( )審決は,一致点の認定に当たり,「引用発明の『金属繊維等からなるコー2ドを用いて製織されたすだれ織またはメッシュに高減衰率ゴムをトッピングしたトッピングコードのみを多数枚積層するか,一部に鉄板等の硬質板を介在させて積層した弾性柱状体』は本願発明1の『高減衰性ゴム組成物よりなるゴム層と硬質の平板状の補強板とを交互に多段に積層してなる積層ゴム体』に相当する。」(4頁第2段落)としたが,誤りである。
ア本願発明は,「高減衰性ゴム組成物よりなるゴム層と硬質の平板状の補強板とを交互に多段に積層してなる積層ゴム体」であり,本件明細書の段落【0005】,【0009】の記載によれば,本願発明の「硬質の平板状の補強板」は,通常には鋼板であって,繊維補強硬質ゴム板や繊維補強合成樹脂板,あるいは帆布であってもよいものをいう。他方,刊行物1は,トッピングコード自体の具体的な構成を開示しないのであるが,刊行物1において,繊維コードからなるすだれ織及びメッシュ織物又はトッピングコードは,鉄板等の硬質板と対比されるものである。
そうすると,刊行物1の繊維コードからなるすだれ織及びメッシュ織物又はトッピングコードが,刊行物1にいう鉄板等の硬質板に相当する本願発明の「硬質の平板状の補強板」に相当するとはいえない。
そして,刊行物1の繊維コードからなるすだれ織及びメッシュ織物又はトッピングコードは,鉄板等の硬質板と対比されるものであるから,当業者は,刊行物1にいう繊維コードからなるすだれ織及びメッシュ織物又はトッピングコードを,鉄板等の硬質板と認識しないし,刊行物1にいう鉄板等の硬質板に相当する本願発明にいう硬質の平板状の補強板と認識しない。
イ本願発明にいう硬質の平板状の補強板は,単に,他の層よりも相対的に硬質で,平板状であって補強の機能を発揮できればよいものではなく,本願発明が,高減衰性ゴム組成物よりなるゴム層と硬質の平板状の補強板との協働で,板面に沿う方向に作用する荷重に対しては撓み性を示してエネルギー吸収を行い得るエネルギー吸収体としての積層ゴム体に係るもの(本件明細書の段落【0002】)であるから,当然に,このようなエネルギー吸収体としての積層ゴム体の作用を妨げないで,他の層よりも相対的に硬質で,平板状であって,補強の機能を発揮できるものをいう。また,トッピングコードは,繊維コードからなるすだれ織及びメッシュ織物に高減衰率ゴムをトッピングして加硫接着されるのであるから,繊維コードからなるすだれ織及びメッシュ織物の網目には,高減衰率ゴムが介在しているものと推認できるが,このような高減衰率ゴムが網目に介在している繊維コードからなるすだれ織及びメッシュ織物は,通常,高減衰率ゴムと交互に積層されたとはいわないのであるから,ゴム層と交互に積層する本願発明にいう硬質の平板状の補強板に相当しない。
引用発明において,ゴム中に配された繊維コードからなるすだれ織及びメッシュ織物又はトッピングコードは,例えば,繊維コードの切断等により,撓み性を変位δ1以上でも維持させるための補強の機能を発揮していない。そして,この業界では,補強板には,通常,積層ゴムのせん断変形時にゴム層を面内,面外方向ともに拘束できるような厚さや強度が要求されるものであり,このようなものでないものは,仮に,他の層よりも相対的に硬質で,平板状であったとしても,当業界では,補強板とはいわず,繊維コードからなるすだれ織及びメッシュ織物は,仮に,それが他の層よりも相対的に硬質で,平板状であるとしても,使用に際し予定される変位δ1以上でも撓み性を維持させるための補強の機能を発揮できず,エネルギー吸収体としての積層ゴム体の作用を妨げるのであって,しかも,ゴム層と交互に積層されるものでもないのであるから,引用発明のうちトッピングコードのみを多数枚積層する場合について,「硬質の平板状の補強板」に相当するものはない。
ウ本件明細書の記載に照らすと,本願発明にいうゴム層は,天然ゴム,スチレンブタジエンゴム(SBR),ニトリルブタジエンゴム(NBR),ブタジエンゴム素材(BR),イソプレンゴム(IR),ブチルゴム(IIR),ハロゲン化ブチルゴム(X-IIR),クロロプレンゴム(CR)のゴム素材に高減衰性を発揮する添加剤を加えて生成された高減衰性ゴム組成物,具体的には,通常には,a.ゴム素材にカーボンブラックを加えたもの,b.天然ゴムを主成分とするゴム成分100重量部及び充填剤としてシリカを70重量部を含有したもの,c.天然ゴムとハイスチレンラバーとを4/1の比で含有させたゴム成分100重量部に対して,クマロンインデン樹脂15重量部を配合してなるものをいう。
他方,刊行物1にいうトッピングコードは,ゴム板1bと対比されるものであって,しかも,組成とは,普通には,物質をつくっている元素や化合物,又は分析によって得られる元素や化合物をいうのであり,繊維コードからなるすだれ織及びメッシュ織物の類のものを組成物といわない。
したがって,刊行物1にいう繊維コードからなるすだれ織及びメッシュ織物を含む「トッピングコード」全体は,刊行物1にいうゴム板に相当する本願発明にいう高減衰性ゴム組成物よりなるゴム層に相当するとはいえないし,本願発明は,ゴム層と補強板とを「交互」に多段に積層してなるものであるから,「一部に」鉄板等の硬質板を介在させて積層した場合には,「トッピングコード」全体と鉄板等の硬質板とを「交互」に多段に積層してなるものではないのであるから,「トッピングコード」全体が,「高減衰性ゴム組成物よりなるゴム層」に相当するとはいえない。
( )審決は,一致点の認定に当たり,「引用発明において『弾性柱状体が,上3下方向に貫通する中空部を有し,この中空部に鉛が充填されている』点は,・・・本願発明1の構成のうち『積層ゴム体を貫通する円柱状の鉛が1または2以上積層面に直交して埋め込まれてなる』点に限り相当している」(4頁第3段落)としたが,誤りである。
刊行物1には,「弾性柱状体に中空部を設け」ることは記載されているが,「円柱」中空部を弾性柱状体に設けることは記載されていない。
( )被告は,金属繊維等からなるコードを用いて製織されたすだれ織又はメッ4シュと高減衰率ゴムとを含んだトッピングコードと鉄板等の硬質板とを比較して,トッピングコードは,鉄板等の硬質板に比べて軟質である旨主張するが,金属繊維等からなるコードを用いて製織されたすだれ織又はメッシュと鉄板等の硬質板とを比較するか,高減衰率ゴムと鉄板等の硬質板とを比較するのであれば格別,そもそも軟質であるか否かを比較することができない,メッシュと高減衰率ゴムとを含んだトッピングコードと鉄板等の硬質板を比較して,トッピングコードは,鉄板等の硬質板に比べて軟質であるというのは,技術常識に反するものである。
また,被告は,トッピングコードは,全体を高減衰率ゴムで覆ったものであって,ゴムを主体とするものである旨主張するが,高減衰率ゴムをすだれ織又はメッシュにトッピングしてなるトッピングコードは加硫接着されるのであるから,外観上いかなる形態になるかは明らかでないし,刊行物1には,弾性柱状体がゴムを主体とすると記載されているだけであって,トッピングコードがゴムを主体とするものであるとは,一切記載されていない。そして,金属繊維等からなるコードを用いて製織されたすだれ織又はメッシュと高減衰率ゴムとを含んだトッピングコードを用いた免震支持体は,高減衰免震ゴムのヒステリシスループと異なる弾性ヒステリシス曲線を示すのであり,当業者は,このようなトッピングコードを高減衰性ゴム組成物よりなるゴム層とみなすことはない。
さらに,被告は,引用発明のうちトッピングコードのみを多数枚積層する場合が繊維コードからなるすだれ織及びメッシュ織物を,硬質の平板状の補強板に相当するとし,引用発明のうち一部に鉄板等の硬質板を介在させて積層した場合については,繊維コードからなるすだれ織及びメッシュ織物を含めて高減衰性ゴム組成物よりなるゴム層に相当する旨主張するが,引用発明のうち,一部に鉄板等の硬質板を介在させて積層した場合について,高減衰率ゴムに対して繊維コードからなるすだれ織及びメッシュ織物が無視できる程度に僅少であればまだしも,そうであるかどうかは不明であるから,繊維コードからなるすだれ織及びメッシュ織物を,一方では,硬質の平板状の補強板に,他方では,ゴム層に相当するとすることに,合理的な理由はない。
そして,被告は,数層のトッピングコード全体を一つの段と見ればトッピングコードの段と鉄板等の硬質板の段とを交互に多段に積層したものということができる旨主張するが,トッピングコードの段をゴム層に相当するとすることに加えて,数層のトッピングコード全体を一つの段と見ることに合理的な理由がない。
4取消事由4(進歩性判断の誤り)( )審決は,「刊行物2又は3に記載された構成を引用発明に適用することに1よって,鉛を『鉛プラグ』とし,かつ『拘束状態をもって』埋め込まれている構成として,相違点に係る本願発明1の構成に想到することは当業者が容易になし得たことである。」(5頁第1段落)としたが,誤りである。
( )本願発明では,「鉛プラグ」は「封入」(本件明細書の段落【0009】,2【0011】)されているとされ,「封入」とは,通常,「入れて封じること」,「封じこむこと」をいう(甲12)ものと解されるから,「鉛プラグが拘束状態をもって埋め込まれてなる」とは,入れて封じられた結果として又は封じこまれた結果として得られた拘束状態で埋め込まれた鉛プラグをいうものとするのが相当である。
一方,「充填」とは,「あいた所につめてふさぐこと」(甲12)をいうものと解され,また,「嵌装」とは,嵌めて装うことを意味すると解されるが,これら「充填」及び「嵌装」は,「封じること」,「封じこむこと」の意味を一切含まないのである。
そうすると,審決の「『充填する』ものであれば『拘束状態をもって』埋め込むことが示唆されていると言うこともできる。」(4頁下から第2段落),「刊行物2には・・・空洞に鉛柱が嵌装されている構成が記載されており,『鉛柱』であり,『嵌装』されていることから,『鉛プラグ』であって『拘束状態をもって』埋め込まれることが示唆されていると言うこともできる。」(4頁最終段落〜5頁第1段落)との認定は,いずれも合理的な根拠がなく,恣意的になされたものであり,誤った認定に基づいてされた,「これら刊行物2又は3に記載された構成を引用発明に適用することによって,鉛を『鉛プラグ』とし,かつ『拘束状態をもって』埋め込まれている構成として,相違点に係る本願発明1の構成に想到することは当業者が容易になし得たことである。」(5頁第1段落)との判断は誤りである。
( )被告は,本願発明の「鉛プラグが・・・拘束状態をもって埋め込まれてな3る」とは,自由に動くことのない状態で埋め込まれていると明確に理解できる旨主張する。
しかし,本願発明の円柱状の鉛プラグ自体は,それに外力が付加されない限り,円柱状の形状を維持するはずで,しかも,自由に動くことのないものであり,本願発明は,それに特定の外力が付加された状態の高減衰性積層ゴム体を規定しているのではなく,外力が付加されない状態の高減衰性積層ゴム体を規定しているものである。したがって,本願発明にいう「拘束状態をもって埋め込まれてなる」とは,外力以外の何らかの力,いい換えると,入れて封じられた結果として又は封じこまれた結果として生じた内圧により自由に動こうとする円柱状の鉛プラグを「自由に動くことのない状態」をもって埋め込まれてなること,すなわち,本来自由に動くことがないが封入されて自由に動こうとする状態になった円柱状の鉛プラグを自由に動くことのない状態をもって埋め込まれてなることを意味する。
したがって,中空部と鉛とは隙間のない状態で充填されているとか,嵌装されて空洞と鉛柱の間には隙間がないとかでは,「拘束状態をもって埋め込まれてなる」ことが記載又は示唆されているということはできず,刊行物1も刊行物2も,本願発明の「拘束状態」を記載するものではない。
5取消事由5(効果の看過)( )審決は,「本願発明1の効果を検討しても,引用発明及び刊行物2又は31に記載された発明から,当業者が予測し得る範囲内のものであって,格別のものとはいえない。」(6頁第1段落)とするが誤りである。
( )高減衰性ゴム組成物よりなるゴム層を有する積層ゴム体においては,高減2衰性ゴム組成物を構成する組成物の配合により特性が種々変化し,一定の性状のものが得られ難く,その減衰性(ロスファクター)にも実用上から制限があって一般に減衰比で20%以下であり,また,せん断荷重-変位特性を示す履歴曲線に線形性を持たすことが困難で,特に大変位域(δ軸の左右端)において荷重が大きく振れるという現象を抑えることができない上に,この高減衰性ゴム組成物を使用する積層ゴム体においては,温度差によるせん断荷重-変位特性の差が大きく,合理的な設計がなし難いという欠点があるということにかんがみ,本願発明がされたものである。
そして,高減衰性ゴム組成物よりなるゴム層と硬質の平板状の補強板とを交互に多段に積層してなる積層ゴム体において,前記積層ゴム体を貫通する円柱状の鉛プラグが1又は2以上積層面に直交して拘束状態をもって埋め込まれてなる積層ゴム体によって,換言すれば,高減衰性ゴム組成物よりなるゴム層と拘束状態をもって埋め込まれてなる円柱状の鉛プラグとの機能的な連関によって,大きな減衰性能が得られるばかりでなく,線形をなす履歴特性が得られ,かつ,その特性は安定的で明確であり,また,温度変化に対しても影響が小さく,したがって,高減衰性ゴム組成物を使用した従来の積層ゴム体の特性が大きく改善されるとの相乗効果を,初めて得られたものである。
そして,線形をなす履歴特性が得られることにより,多くは注文生産であるこの種の積層ゴム体において,設計が極めて簡単になって生産性の向上につながり,ひいては,設計とおりの積層ゴム体を提供できるという積層ゴム体の技術分野における独特の格別な効果を奏し,温度変化に対する影響を少なくできることにより,多くは空調などを期待することが困難な屋外で使用されるこの種の積層ゴム体において,昼夜,季節の変化においても安定な特性を発揮できるという積層ゴム体の技術分野における独特の格別な効果を奏し得る。
刊行物1及び刊行物2のいずれにも,本願発明の上記のような相乗効果についての記載はなく,示唆すらもしないので,審決の判断は,本件発明の効果を看過したされたものであり,誤りである。
( )被告は,積層ゴム体に鉛プラグを埋め込むことにより,大きな減衰性能と3線形をなす履歴特性が得られることは本件出願前に周知の技術事項である旨主張するが,被告が掲げる文献にも,高減衰性ゴム組成物からなるゴム層を有する積層ゴム体においては,せん断荷重-変位特性を示す履歴曲線に線形性を持たすことが困難であるという課題は記載されていなく,標準天然ゴム系からなる積層ゴム体に仮に被告のいうように鉛プラグを埋め込むことにより,大きな減衰性能と線形をなす履歴特性が得られることが知られていたとしても,高減衰性ゴム組成物からなるゴム層を有する積層ゴム体に鉛プラグを埋め込んでいる本願発明によって,初めて,このような課題を解決できて,線形をなす安定な履歴特性が得られるのであり,本願発明の効果は当業者が予測し得たものではない。
第4被告の反論審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1取消事由1(手続の違法)に対して( )原告は,審決の理由が,審査における拒絶の理由及び拒絶査定の理由と異1なる理由であり,審決では,審決の理由をあらかじめ通知し,原告に意見を述べる機会を与えるべきであったにもかかわらず,それをしなかった手続の違法(特許法159条2項において準用する特許法50条)がある旨主張するが,失当である。
( )本件拒絶理由通知書(甲2)においては,刊行物1,特開平6-580028号公報,刊行物2及び刊行物3が,それぞれ引用文献1ないし4として提示され,備考には「引用文献1-4には,それぞれ本願の請求項1と同様の事項が記載されている。」と記載されて特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとされた。
それに対し,原告は手続補正書(甲6)を提出して明細書を補正するとともに,意見書(甲7)を提出して意見を述べた。
その後,本件拒絶理由通知書に記載した理由によって拒絶査定がなされ,その備考として,「免震装置で用いるゴムとして,高減衰性ゴムを用いることは,本願出願前に慣用の技術であり(必要であれば,引用文献1,2参照),引用文献3,4に明示的な記載がないとしても,免震装置で用いるゴムとして,高減衰性ゴムを採用することは,実施に際し当業者が適宜なし得ることでしかない。」(甲8)との記載がある。
審決においては,刊行物2又は3に記載された構成を引用発明に適用することにより相違点に係る本願発明1の構成に想到することは当業者が容易になし得たこととし,本願発明は,刊行物1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと結論している。
これらからも明らかなとおり,本件拒絶理由通知書には,引用文献1ないし4が,それぞれ特許法29条2項容易想到性の根拠として示されていた。
補正により特許請求の範囲がより限定され,原告からの意見も出されたため,拒絶査定においては,特に引用文献3,4には限定された構成が示されていないことにかんがみて,備考において,その点は慣用の技術であると指摘されているが,拒絶査定の趣旨は,拒絶理由通知書に記載した理由によって拒絶査定しているものであるから,拒絶査定の理由には,引用文献1ないし4をそれぞれ容易想到性の主な根拠とする拒絶理由が含まれている。
そして,審決においては,本願発明と引用発明(引用文献1に記載された発明)との相違点をより詳細に検討し,その容易想到性を判断する上で刊行物2又は刊行物3を用いたものであって,拒絶査定に引用されたものと同じ刊行物を用いて容易想到性の判断をしているのであるから,拒絶査定の理由と異なる新たな拒絶理由を構成するものではない。
( )原告は,実質的な拒絶の理由が異なる旨主張するが,当初複数の刊行物を3それぞれ根拠とする拒絶理由としても,補正により構成が付加されたり,意見書等により新たな論点が生じれば,それに対応して拒絶理由で示した複数の刊行物の範囲内で,それらを組み合わせた論理構成とすることは,各刊行物の引用の趣旨が根本的に異なるといった事情がない限り,当初の拒絶理由の範囲内のことである。
そして,原告は意見を述べる機会や補正する機会を失ったと主張するが,刊行物1ないし3は当初の本件拒絶理由通知書から示されているものであり,本件拒絶理由通知書に対する応答や審判請求書において,それらを組み合わせた論理構成についても検討した上で意見を述べる機会や補正する機会はあったものである。
2取消事由2(刊行物3の認定の誤り)に対して( )原告は,刊行物3が,特許法29条1項3号にいう本件出願前に頒布され1た刊行物でない旨主張するが,刊行物3の本件出願前の頒布刊行物性について,原告は,審査・審判段階を通じ何ら争っていなかった。
( )審決は,本願発明の容易想到性判断において,刊行物2と刊行物3とを選2択的に用い得るものとして記載している。
そして,引用発明の鉛は「鉛プラグ」であるということができ,本願発明と引用発明の相違点である,鉛が「鉛プラグ」であって「拘束状態をもって」埋め込まれている点は,引用発明に明示されていなくても,引用発明及び刊行物2において,記載あるいは示唆されている。したがって,引用発明の示唆及び刊行物2の記載あるいは示唆を考慮すれば,引用発明の鉛を「鉛プラグ」とし,かつ「拘束状態をもって」埋め込まれている構成として,相違点に係る本願発明1の構成に想到することは当業者が容易になし得たことである。
したがって,容易想到性の判断において,刊行物3を用いないとしても,審決の容易想到性判断の結果が変わるものでなく,審決の結論に影響しない。
3取消事由3(一致点の認定の誤り)に対して( )原告は,引用発明の繊維コードからなるすだれ織及びメッシュ織物又はト 1ッピングコードは,鉄板等の硬質板に相当する本願発明の「硬質の平板状の補強板」に相当するとはいえず,また,刊行物1にいうトッピングコードは,ゴム板1bと対比されるものであって,しかも繊維コードからなるすだれ織及びメッシュ織物の類のものを組成物といわないのであるから,それらを含む「トッピングコード」全体は,ゴム板に相当する本願発明にいう高減衰性ゴム組成物よりなるゴム層に相当するとはいえない旨主張する。
しかし,本願発明にいう「硬質の平板状の補強板」は,鋼板に限らず,繊維補強硬質ゴム板や繊維補強剛性樹脂板,あるいは帆布であってもよいものであるから,要は,他の層よりも相対的に硬質で,平板状であって補強の機能を発揮できればよい。
引用発明のうち,トッピングコードのみを多数枚積層する場合,各々のトッピングコードは,金属繊維等からなるコードを用いて製織されたすだれ織又はメッシュを高減衰率ゴムで覆った(トッピングした)ものである。ここで,金属繊維等からなるコードを用いて製織されたすだれ織又はメッシュは,高減衰率ゴムよりも相対的に硬質で,平板状であって補強の機能を有するものといえるので,これは,「硬質の平板状の補強板」に相当し,トッピングに用いられた高減衰率ゴムの部分はいうまでもなく高減衰性ゴム組成物よりなるゴム層に相当する。
したがって,トッピングコードのみを多数枚積層した全体としてみても,金属繊維等からなるコードを用いて製織されたすだれ織又はメッシュは,「硬質の平板状の補強板」に相当し,残りの高減衰率ゴムの部分が「高減衰性ゴム組成物よりなるゴム層」に相当する。
( )原告は,「一部に」鉄板等の硬質板を介在させて積層した場合には,「ト2ッピングコード」全体と鉄板等の硬質板とを「交互」に多段に積層したものではないから,「トッピングコード」全体が「高減衰性ゴム組成物よりなるゴム層」に相当するとはいえない旨主張する。
しかし,トッピングコードは内部に金属繊維等からなるコードを用いて製織されたすだれ織又はメッシュを含んでいても,鉄板等の硬質板に比べて軟質である。また,トッピングコードは全体を高減衰率ゴムで覆ったものであって,ゴムを主体とするものであるから,外観上からみても主成分からみても,概ね高減衰性ゴム組成物よりなるゴム層とみなすことができる。
したがって,一部に鉄板等の硬質板を介在させて積層したもの全体としてみても,鉄板等の硬質板が「硬質の平板状の補強板」に相当し,残りのトッピングコードの部分が「高減衰性ゴム組成物よりなるゴム層」に相当するとした審決の認定に誤りはない。
引用発明のうち一部に鉄板等の硬質板を介在させた場合を示す刊行物1の第3図を参照すると,鉄板等の硬質板の間に数層のトッピングコードが積層されているが,数層のトッピングコード全体を一つの段と見ればトッピングコードの段と鉄板等の硬質板の段とを交互に多段に積層したものということができる。
( )原告は,刊行物1には「弾性柱状体に中空部を設け」ることは記載されて3いるが,「円柱」中空部を弾性柱状体に設けることは記載されていない旨主張する。
しかし,刊行物1の「第4図は,その構造例を示し,5は弾性柱状体,5aはドーナツ形状のトッピングコード」(3頁右上欄10行目〜12行目)との記載と第4図をみると,弾性柱状体はドーナツ形状のトッピングコードを積層したものということができる。そうすると,弾性柱状体には「円柱」中空部が設けられているとするのが自然な理解であるし,仮に,完全な「円柱」中空部でないとしても,その差異は単なる設計上の微差にすぎず,刊行物1には実質的に円柱中空部が記載されているに等しいから,引用発明において「弾性柱状体が,上下方向に貫通する中空部を有し,この中空部に鉛が充填されている」点は,本願発明の構成のうち,「積層ゴム体を貫通する円柱状の鉛が1または2以上積層面に直交して埋め込まれてなる」点に限り相当している。
4取消事由4(進歩性判断の誤り)に対して( )原告は,本願発明の「鉛プラグが拘束状態をもって埋め込まれてなる」と 1は,入れて封じられた結果として又は封じこまれた結果として得られた拘束状態で埋め込まれた鉛プラグをいい,「充填」及び「嵌装」には,「封じること」「封じこむこと」の意味を一切含まないとして,空洞に鉛柱が嵌装されている構成が記載されている刊行物2について,これが,「鉛プラグ」であって「拘束状態をもって」埋め込まれることが示唆されているとした審決の認定判断が誤りである旨主張するが,失当である。
( )本願発明の特許請求の範囲には,単に「鉛プラグが・・・拘束状態をもっ2て埋め込まれてなる」と記載されているのみであり,「入れて封じられた結果として又は封じこまれた結果として得られた拘束状態で」とは記載されていないのであるから,明細書に積層体の孔内に鉛プラグが「封入される」旨の記載があるからといって,「鉛プラグが拘束状態をもって埋め込まれてなる」とは,入れて封じられた結果として又は封じこまれた結果として得られた拘束状態で埋め込まれた鉛プラグであるということはできない。
本願発明の認定は,特段の事情のない限り特許請求の範囲に基づいてされるべきであり,「鉛プラグが・・・拘束状態をもって埋め込まれてなる」とは,文字とおり,鉛プラグが拘束状態すなわち自由に動くことのない状態で埋め込まれていると明確に理解できるのであるから,それ以外の条件を付して理解すべきではない。
引用発明は「中空部に鉛が充填されている」ものであり,「充填」とは「あいた所につめてふさぐ」意味であるから,その結果中空部と鉛とは隙間のない状態となり,自由に動くことのない状態ともいえるので,審決の認定には誤りはない。
また,刊行物2には,「空洞に鉛柱が嵌装されている」構成が記載されており,「嵌装」とは「嵌めて装う」意味と解される。そして刊行物2の第1図及び第2図をみると空洞と鉛柱の間には隙間がない。もし空洞と鉛柱の間に隙間があればその部分で全く減衰作用なく振動してしまい,鉛柱を設ける意味がないか著しくその効果が減衰されるから,免震装置の水平振動をエネルギー吸収によって減衰するという鉛柱の機能を考慮すれば,空洞と鉛柱の間に隙間がないのは当然の構成である。
したがって,空洞と鉛柱の間には通常隙間を設けず,鉛柱は自由に動くことのない状態であるから,刊行物2の鉛柱について,「『鉛プラグ』であって『拘束状態をもって』埋め込まれることが示唆されていると言うこともできる。」との審決の認定にも誤りはない。
5取消事由5(効果の看過)に対して( )原告は,本願発明は,高減衰性ゴム組成物よりなるゴム層と拘束状態をも1って埋め込まれてなる円柱状の鉛プラグとの機能的な連関により,大きな減衰性能が得られるばかりでなく,線形をなす履歴特性が得られ,かつその特性は安定的で明確であり,また,温度変化に対しても影響が小さいという格別な効果がある旨主張する。
( ) 平成5年1月財団法人土木研究センター発行「土木技術資料」(乙1,以2下「乙1文献」という。)及び平成元年発行日本ゴム協会誌第62巻第5号(乙3,以下「乙3文献」という。)によれば,積層ゴム体に鉛プラグを埋め込むことにより,大きな減衰性能と線形をなす履歴特性が得られることは本願出願前周知の技術事項であり,履歴特性が線形をなせば,特性は安定的で明確といえる。
そして,引用発明及び刊行物2に記載された構成に基づき,本願発明の構成に想到することが容易であるから,本願発明の構成のものが,大きな減衰性能が得られるばかりでなく,線形をなす履歴特性が得られ,かつ,その特性は安定的で明確であるとの効果は,上記の周知の技術事項を考慮すれば,引用発明及び刊行物2に記載された発明から当業者が予測し得る範囲内のものである。
また,本願発明において温度変化に対しても影響が小さいとの効果は,本高減衰性積層ゴム体S(本願発明)が大きな減衰性能を有することの結果として生じた効果にすぎない。すなわち,ゴムの特性による温度差に基づく履歴曲線の変化については,鉛プラグの有無による影響は小さいと考えられるから,その変化分は鉛プラグの有無にかかわらずほぼ一定とすれば,履歴曲線の占める面積,すなわち減衰性能の大きさによって,履歴曲線の変化分の比率が変わることが予測される。
そうすると,積層ゴム体に鉛プラグを埋め込むことにより,大きな減衰性能が得られることが本件出願前に周知の技術事項であったことを考慮すれば,積層ゴム体に鉛プラグを埋め込むことにより,履歴曲線の占める面積に対する履歴曲線の温度による変化分の割合が小さくなること,すなわち温度変化に対しての影響が小さくなることも当業者が予測し得る範囲内のものである。
第5当裁判所の判断1取消事由1(手続の違法)について( )原告は,拒絶理由通知,拒絶査定及び審決において,特許庁の拒絶の理由1は2転3転しており,審査における拒絶の理由及び拒絶査定の理由と異なる理由により審決をするのであれば,その理由をあらかじめ通知して原告に意見を述べる機会を与えるべきであったにもかかわらず,そのような拒絶理由通知はされていないとして,審決に手続上の違法性があった旨主張する。
( )本件出願について,以下の事実が認められる。
2ア本件出願につき,特許庁審査官は,平成16年1月9日付けで,拒絶の理由を通知した。本件拒絶理由通知(甲2)には,「この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」,「記(引用文献等については引用文献等一覧参照)・請求項1・引用文献等1-4(判決注:刊行物1,特開平6-58008号公報,刊行物2及び刊行物3)」,「・備考引用文献1-4には,それぞれ本願の請求項1と同様の事項が記載されている。」との記載がある。
イこれに対し,原告は,平成16年3月15日付けで手続補正書(甲6)を提出し,特許請求の範囲及び発明の詳細な説明を補正し,意見書(甲7)を提出した。
ウ特許庁審査官は,平成16年4月7日付けで,本件出願につき,拒絶の査定(甲8)をした。同査定は,「この出願については,平成16年1月9日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって,拒絶査定する。なお,意見書及び手続補正書の内容を検討したが,拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせない。」,「備考○請求項1-4について免震装置で用いるゴムとして,高減衰性ゴムを用いることは,本願出願前に慣用の技術であり(必要であれば,引用文献1,2等参照),引用文献3,4に明示的な記載がないとしても,免震装置で用いるゴムとして,高減衰性ゴムを採用することは,実施に際し当業者が適宜なし得ることでしかない。」と記載されている。
エこれに対し,原告は,平成16年5月10日に拒絶査定不服審判を請求した。同請求書(甲9)の審判請求の理由には,本願発明と引用発明が,「鉛プラグの有無の点で相違する。」(14頁)として,「本願発明は引用例1と同一でもなく,引用例1から容易に推考しえたものでないことに帰着される」(15頁)とし,「そこで進んで,引用例1(判決注:刊行物1)と引用例2,3,4(判決注:特開平6-58008号公報,刊行物2及び刊行物3)との相互性,更にはそれらの適用の容易性に付いて検討する。・・・引用例1は,本願発明の技術的課題・目的とは何ら関連するものではない。また,積層ゴム体,高減衰率ゴムの開示,更には減衰用粘性材料の封入の開示はあるが,鉛につき柱体としての封入の開示も示唆もなく,少なくとも高減衰性ゴムの積層体の特性を改善するための鉛柱体を拘束状態をもって埋め込むとの技術思想は全く欠落している。・・・引用例3及び4は鉛入り積層ゴム体のみの開示があり,高減衰性ゴムに付いては何らの記載もない。
・・・よって,これらの引用例1〜4は互いに異質であって決して奏合されうるものではなく,如何ようにしても本願発明の独自の構成:高減衰性ゴム組成物よりなるゴム層と硬質の平板状の補強板とを交互に多段に積層してなる積層ゴム体において,前記積層ゴム体を貫通する円柱状の鉛プラグが1又は2以上積層面に直交して拘束状態をもって埋め込まれてなる,点が得られるものではない。・・・以上により,本願発明は引用例1〜4の存在によっても進歩性を阻却されないことに帰着される。」(18頁〜19頁)と記載されている。
オ特許庁は,平成18年10月31,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。審決の理由は,本願発明は,刊行物1及び刊行物2又は3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるというものであり,より具体的には,刊行物1に記載された発明(引用発明)と本願発明との相違点を摘示した上で,相違点に係る構成は刊行物1に示唆されているということもでき,また,刊行物2又は3に記載された構成を引用発明に適用することによって,相違点に係る本願発明の構成に当業者が容易に想到するとしたものである。
( )特許法159条2項は,拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒3絶の理由を発見した場合には,同法50条の規定を準用し,拒絶査定不服審判請求を不成立とする審決をしようとするときは,特許出願人に対し,拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与えなければならないこととしているが,同規定の趣旨は,審査手続において通知した拒絶理由によって出願を拒絶することは相当でないが,拒絶理由とは異なる理由によって拒絶するのが相当と認められる場合には,出願人が当該異なる理由については意見書を提出していないか又は補正の機会を与えられていないことが通常であることにかんがみ,出願人に対し改めて意見書の提出及び補正の機会を与えることにあるものと解される。
本件出願において,本件拒絶理由通知は,出願に係る発明が,刊行物1に基づいて容易に想到することができることを記載し,また,同一技術分野の引用文献を掲げ,査定においては,本件拒絶理由通知書に記載した理由により出願を拒絶するとしている。そして,審決は,本願発明は,刊行物1に記載された発明に基づいて本願発明の構成に容易に想到することができるとするものであるから,拒絶査定不服審判においては,査定の理由と同じ理由に基づいてその出願が拒絶されるとしているのであって,査定の理由と異なる拒絶の理由により,出願が拒絶されるとしたものとまでは認められない。
原告も,そのような本件拒絶理由通知,査定の内容を理解し,審判請求の理由において,本願発明と刊行物1に記載された発明(引用発明)の相違点を示すとともに,引用発明によっても,引用刊行物2及び3に記載された発明によっても,上記相違点に係る本願発明の構成に想到することが容易でないことを具体的に述べているといえるのであって,正に審決において拒絶の理由とされた点について,意見を述べているのであり,また補正の機会もあったといえる。
したがって,本件の手続について,その違法をいう原告の主張は,拒絶理由通知,査定の内容及び拒絶理由の通知を必要とする規定の趣旨に照らし,採用することができない。
( )原告は,拒絶理由通知書及び拒絶査定における備考欄の記載は,具体的な4拒絶理由及び拒絶査定の理由を出願人に通知するという意義を有するとして,また,実質的な拒絶の理由が,拒絶理由通知,査定,審判において異なっている旨主張する。
しかし,本件の拒絶査定は,本件拒絶理由通知書に記載した理由により拒絶するとの文言からも,その拒絶の理由に,刊行物1に記載された発明に基づき出願に係る発明が容易に想到することができることが含まれると理解できるものであり,査定の備考欄の記載が,上記理解を排除するものとは認められない。原告は,拒絶査定の趣旨は,「本願の請求項1-4に係る発明は,引用文献3,4と(引用文献1,2の)慣用の技術とから容易に発明をすることができたものである」旨主張するが,査定の備考欄の記載は,原告主張のように一義的に理解できるものではなく,上記に照らし,採用できない。
( )したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。
52取消事由2(刊行物3の認定の誤り)について( )原告は,審決が理由中で引用した,刊行物3は,本件出願前に頒布された1刊行物とはいえない旨主張する。
( )刊行物3(甲5)は,表紙が,「橋構造の基礎免震用鉛ゴムエネルギー吸2収装置」,「BY.S.M.BUILT」,「オークランド大学,土木工学部ニュージーランド」「1982年8月」等の記載があるもので,2枚目に,この論文がオークランド大学の学位のために提出されたものであり,その写しが,1994年(平成6年)の著作権法によって交付された旨などが記載されたオークランド大学の図書館員作成の書類があり,3枚目以下に,論文が続いているものである。
ここで,表紙にある1982年(昭和57年)8月は,論文の作成,提出された年月を表すと推認できるが,論文は学位取得のためのものであって,表紙の記載から,直ちに,同月に論文が公開されたとは認められず,他方,刊行物3の2枚目の記載によっても,この論文について,その作成,提出直後から,公開されて公衆の自由な閲覧に供されたとか,複写物が公衆からの要求により交付される態勢が整っていたと直ちに認めることはできないし,また,仮に,2枚目の記載から,オークランド大学の図書館において,いずれかの時点で,公衆の自由な閲覧に供されて,複写物が公衆からの要求により交付される態勢が整っていた可能性がないとはいえないとしても,そのような閲覧や複写物の交付が可能になった時点はまったく不明である。そして,刊行物3が本件出願日前に頒布されたことを基礎付ける他の証拠はない。
したがって,刊行物3は,本件出願日前に頒布された刊行物ということはできず,これに記載された発明に基づき,本願発明の容易想到性判断を行った審決には,その点において誤りがある。
( )しかしながら,後記4( )のとおり,本願発明は,刊行物3に記載された3 3発明によらなくとも,本件出願日前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて,容易に想到することができたということができるのであり,審決の上記誤りは,審決の結論に影響するものではない。
( ) したがって,原告の取消事由2は理由がない。
43取消事由3(一致点の認定の誤り)について( )原告は,審決が,一致点の認定に当たり,「引用発明の『金属繊維等から1なるコードを用いて製織されたすだれ織またはメッシュに高減衰率ゴムをトッピングしたトッピングコードのみを多数枚積層するか,一部に鉄板等の硬質板を介在させて積層した弾性柱状体』は本願発明1の『高減衰性ゴム組成物よりなるゴム層と硬質の平板状の補強板とを交互に多段に積層してなる積層ゴム体』に相当する。」(4頁第2段落)と認定したのに対し,この認定が誤りである旨主張する。
( )本願発明の特許請求の範囲の記載は,「高減衰性ゴム組成物よりなるゴム2層と硬質の平板状の補強板とを交互に多段に積層してなる積層ゴム体において,前記積層ゴム体を貫通する円柱状の鉛プラグが1又は2以上積層面に直交して拘束状態をもって埋め込まれてなる,ことを特徴とする高減衰性ゴム組成物を使用した積層ゴム体」というものである。特許請求の範囲の記載においては,「高減衰性ゴム組成物よりなるゴム層」と「硬質の平板状の補強板」が対比されていて,後者につき,「硬質」であること,「平板状」であること,「補強板」であることは明らかであるが,それ以上に,この「硬質の平板状の補強板」を限定する記載はない。
ここで,本件明細書には,「( ) 従来の技術積層ゴム体は軟質層としてのゴム2層と硬質層としての補強板とを交互に積み重ね,加硫接着をもって一体に形成されたものであって,板面に直交する方向(縦方向)に作用する荷重に対しては大きな剛性を示し,板面に沿う方向(横方向)に作用する荷重に対しては撓み性を示す。
・・・この積層ゴム支承のゴム層に減衰性能を付与することにより,減衰機能が省略され,配置空間の節減がなされるものであり,このため,高減衰性ゴム組成物の活発な開発がなされている。」(段落【0002】),「B.発明の構成( )問1題点を解決するための手段本発明のゴム組成物を使用した高減衰性積層ゴム体は,具体的には,次の技術的手段を採る。すなわち,高減衰性ゴム組成物よりなるゴム層と硬質の平板状の補強板とを交互に多段に積層してなる積層ゴム体において,前記積層ゴム体を貫通する円柱状の鉛プラグが1又は2以上積層面に直交して拘束状態をもって埋め込まれてなることを特徴とする。」(段落【0005】),「( ) 3実施例本発明の高減衰性ゴムを使用した積層ゴム体(以下「高減衰性積層ゴム体」という)の実施例を図面に基づいて説明する。・・・この高減衰性積層ゴム体Sは,全体として直方体をなし,軟質のゴム層1と硬質の補強板2とが交互に積層された積層体3と,該積層体3に埋め込まれた複数(本実施例では5)の円柱状の鉛プラグ4と,からなる。・・・積層体3は,高減衰性ゴム組成物よりなるゴム層1と硬質の補強板2とからなる。積層体3には複数の孔6が穿設され,これらの孔6内に鉛プラグ4が封入される。・・・(補強板2)補強板2は通常には鋼板が使用される。繊維補強硬質ゴム板や繊維補強合成樹脂板,あるいは帆布であってもよい。補強板2は,上端面に配される厚肉の上部補強板2a及び下端面に配される厚肉の下部補強板2b,並びにこれらの中間部に配される薄肉の複数の中間補強板2c,からなる。上部補強板2a及び下部補強板2bの露出表面には取付け用のねじ穴8が開設される。」(段落【0007】〜【0009】)との記載がある。
これらの記載によれば,従前は,「軟質層としてのゴム層と硬質層としての補強板」を交互に積み重ねる積層ゴム体が知られていたこと,このゴム層に減衰性能を付与する開発がされてきたが,ゴム層に高減衰性組成物を使用した場合には種々の課題があったこと,本願発明は,同課題につき,高減衰性ゴム組成物を使用した積層ゴム体に鉛プラグを加えることによって解決したとされていることが認められ,他方,硬質層としての補強板について,その材質と関連付けて技術的意義等を具体的に述べる記載はなく,実施例において,補強板として,通常は,鋼板が使用されること,繊維補強硬質ゴム板や繊維補強合成樹脂板,帆布であってもいいことが記載されている。
そうすると,本願発明において,ゴム層と交互に多層に積層される硬質の補強板は,軟質のゴム層と対比されるものであり,軟質のゴム層よりも硬質であり,板面に直交する方向において剛性を示すよう補強するものであるが,その技術的意義は,軟質のゴム層よりも硬質であることにあると認められ,通常は,鋼板が使用されるが,軟質のゴム層よりも硬質であれば,鋼板でなくとも同様の作用,効果を奏するものと認められる。
( )刊行物1には以下の記載がある。
3ア「〔2〕ゴムを主体とする弾性柱状体の上下両面に金属板等の硬質フランジを固定した免震用支持体において,弾性柱状体が減衰率1〜8%の通常のゴムに有機繊維,金属繊維等からなるコードを用いて製織されたすだれ織,メッシュ等の織物を上記の硬質フランジと平行かつ多層に配置して形成されると共に,上下方向に貫通する中空部を有し,この中空部に減衰用粘性材料が充填されていることを特徴とする免震用支持体。
〔3〕弾性柱状体のゴムが減衰率10〜50%の高減衰率ゴムである請求項1または2に記載の免震用支持体。」(特許請求の範囲)イ「上記の高減衰率ゴムとしては,側鎖を多く有するゴム,例えば1.2ブタジエンゴム,ブチルゴム,ビニルイソプレンゴム,シリコンゴム,ノーソレックス等が挙げられ,これらのゴムはそれぞれ単独で,または減衰率1〜8%の通常のゴム,例えば天然ゴム,エチレンプロピレンゴム,エチレンプロピレンディエンゴム,ニトリルゴム,ハロゲン化ブチルゴム,クロロプレンゴム,イソプレンゴム,スチレンブタジエンゴム,ブタジエンゴム,エチレン酢ビゴム,可塑化ビニルゴム,ポリウレタンゴム等と混合し,またはこれらの通常のゴムにグラファイト,マイカ,酸化チタン,アスベスト,粉末アルミナ,セミコンカーボン,タルク,クレー等の充填材を混入し,減衰率を10〜50%に調整して使用することができる。なお,上記ゴムの加硫後の硬度は,JIS-Aゴム硬度の30〜70度が好ましい。」(2頁右上欄16行目〜左下欄11行目)ウ「上記のゴム中に配置される繊維コードは,ポリエステル,・・・等の有機繊維,およびスチール,アルミニゥム,鋼等の金属繊維の1本または複数本の撚合わせからなるコードであり,・・・上記のコードは,すだれ織またはメッシュに製織されるが,・・・この発明の弾性柱状体は,上記のすだれ織またはメッシュに前記の高減衰率ゴムをトッピングし,得られたトッピングコードのみを多数枚積層し,しかるのち加硫接着により一体化して製造される。また,上記のトッピングコードと前記の高減衰率ゴムからなる板またはシートとを交互に積層し,これらを加硫接着により一体化することもできる。また,上記トッピングコードを積層する際その一部に鉄板等の硬質板を介在させることができる。」(2頁左下欄12行目〜右下欄12行目)エ「上記の弾性柱状体のトッピングコード1a間に介在させる硬質板1cおよび弾性柱状体1,3,4の上下両端に重ねられる硬質フランジ2は,鉄,アルミニゥム,銅,ステンレス鋼等の金属,・・・等からなる板である。」(3頁左上欄6行目〜16行目)オ「この発明では,上記の弾性柱状体に,これを上下方向に貫通する任意形状,任意個数の中空部を設け,この中空部に減衰用粘性材料として水その他の液体,または鉛,錫,亜鉛,鉄,黄銅等の軟質金属,または前記の高減衰率ゴムを充填することができる。第4図は,その構造例を示し,5は弾性柱状体,5aはドーナツ形状のトッピングコード,5bは中空部,6は両端の硬質板,7は減衰用粘性材料である。そして,この場合は,弾性柱状体を構成するゴム板,ゴムシートまたはトッピングゴムとして前記の高減衰率ゴムの代わりに減衰率1〜8%の通常のゴムを使用することができる。」(3頁右上欄5行目〜16行目)カ「(作用)上記の免震用支持体を任意の構造体とその基礎との間に介在させ,構造体を支持させると,免震用支持体の弾性柱状体が縦振動および横振動の双方を吸収する。そして,弾性柱状体にすだれ織,メツシュ等の補強織物が両端の硬質フランジと平行に,かつ多層に配置されることにより,縦剛性が鉄板およびゴム板の積層体と同程度に向上して高荷重に耐えることができると共に,横剛性が低下して大きい横振動を吸収することができる。しかも,弾性柱状体自体が高減衰率ゴムで形成されるか,または弾性柱状体に形成した中空部に高減衰率の減衰用粘性物質が充填されているので,免震用支持体としての減衰率が15%以上に大きくなり,そのため地震等の振動を迅速に減衰させることができる。ただし,高減衰率ゴムの減衰率が10%未満では所望の効果が得られず,反対に50%を超えるとへたり易くなり,また粘着性が大きくなって底形が困難になる。」(3頁右上欄下から4行目〜左下欄15行目)キ「ポリエステルフィラメント糸1500デニールを2本引揃え,加撚して直径0.65mmのポリエステルコードを得,このポリエステルコードを20本/インチの密度で配列してすだれ織を製織し,このすだれ織をレゾルシンホルマリンで処理したのち,下記第1表に示す組成の通常ゴムAおよび高減衰率ゴムBをトッピングして厚み1.2mmのトッピングコードを作成し,このトッピングコードのみを積層して前記第4図の形式の弾性柱状体(外径90mm,内径20mm,高さ90mm,ただし,減衰用粘性物質の充填なし,)5とし,その両面に硬質板6を固着して実施例および比較例1の免震用支持体を製作した。一方,上記2種のゴムをそれぞれカレンダに供給して圧延し,厚み3mmのゴムシートを作成し,また厚み1mmの鉄板(硬質板)を用意し,接着剤(ロードファーイースト社製,ケムロック252)を塗布して接着処理を行い,上記のゴムシートと交互に,かつ上記実施例と同じ外形に積層して比較例2,3の免震用支持体を製作した。」(3頁左下欄下から4行目〜4頁左上欄下から3行目)( )上記によれば,刊行物1には,弾性柱状体について,すだれ織又はメッシ4ュに高減衰率ゴムをトッピングし,このトッピングコードのみを多数枚積層して製造することがあることが記載されている(上記( )ウ)。このすだれ織又はメッシ3ュは,ポリエステル等の有機繊維,スチール等の金属繊維の1本又は複数本の撚りあわせからなるコードを用いて製織されたものであり(同ア,ウ),これらのすだれ織又はメッシュは,「補強織物」として,両端の硬質フランジと平行,多層に配置されることにより,縦剛性が鉄板およびゴム板の積層体と同程度に向上する(同カ)とされている。
これらによれば,刊行物1に記載された発明のうち,すだれ織又はメッシュに高減衰率ゴムをトッピングし,これを多数枚積層した弾性柱状体において,すだれ織り又はメッシュの部分は,高減衰性ゴムよりも硬質であり,本願発明の「硬質の平板状の補強板」に相当し,高減衰性ゴム層は,本願発明の「高減衰性ゴム組成物よりなるゴム層」に相当するものである。
そうすると,本願発明の「硬質の平板状の補強板」及び「高減衰性ゴム組成物よりなるゴム層」について,同旨の認定も行っている審決に誤りはない。
( )原告は,刊行物1において,繊維コードからなるすだれ織及びメッシュ織5物又はトッピングコードは,鉄板等の硬質板と対比されるものであるから,当業者は,これらを,刊行物1にいう鉄板等の硬質板に相当する本願発明の硬質の平板状の補強板と認識しない旨主張する。
確かに,刊行物1においては,「上記トッピングコードを積層する際その一部に鉄板等の硬質板を介在させることができる。」(上記( )ウ)等として,トッピン3グコードに加えて,鉄板等の硬質板を使用することができることが記載され,トッピングコードと硬質板について,異なる部材として,ともに使用できるとの記載がある。
しかし,まず,前記( )のとおり,本願発明において,ゴム層と交互に多層に積2層される硬質の補強板は,軟質のゴム層と対比されるものであり,軟質のゴム層よりも硬質である必要があるが,その技術的意義は,軟質のゴム層よりも硬質であることにあり,軟質のゴム層よりも硬質であれば,鋼板でなくともよいと認められる。
そして,刊行物1において,確かに鉄板板の硬質板を使用することができるとされているが,他方,同時に,刊行物1には,すだれ織又はメッシュは,「補強織物」として,両端の硬質フランジと平行に,かつ多層に配置されることにより,縦剛性が鉄板とゴム板の積層体と同程度に向上するとされていて(前記( )カ),す3だれ織又はメッシュと高減衰性ゴム層からなる積層体について,鉄板とゴム層の積層体との対比において記載されている部分がある。
そうすると,本願発明における「硬質の平板状の硬質板」が,軟質のゴム層より硬質であれば,鉄板等に限られるものではないことと,刊行物1においても,すだれ織りとメッシュが,従来の鉄板とゴム層の積層体における鉄板に相当する機能を果たすものとして記載されていることを併せ考えると,原告主張の事実が認められたとしても,すだれ織り又はメッシュについて,本願発明の「硬質の平板状の補強板」に相当すると認めることができる。
( )原告は,本願発明にいう硬質の平板状の補強板は,エネルギー吸収体とし6ての積層ゴム体の作用を妨げないで,他の層よりも相対的に硬質で,平板状であって,補強の機能を発揮できるものをいうとし,引用発明のトッピングコードは,繊維コードからなるすだれ織及びメッシュ織物に高減衰率ゴムをトッピングして加硫接着されるのであるから,繊維コードからなるすだれ織及びメッシュ織物の網目には,高減衰率ゴムが介在しているものと推認でき,高減衰率ゴムが網目に介在している繊維コードからなるすだれ織及びメッシュ織物は,通常,高減衰率ゴムと交互に積層されたとはいわないとして,ゴム層と交互に積層する本願発明にいう硬質の平板状の補強板に相当しない旨主張する。
確かに,すだれ織及びメッシュ織物は,繊維コードからなり,そこに高減衰率ゴムが介在しているものと推測されるが,そうであったとしても,刊行物1においても,「すだれ織またはメッシュに前記の高減衰率ゴムをトッピングし」(前記( )3ウ)などと記載されていて,ここで,「トッピング」は,「料理は菓子の仕上げに,調味や飾りのためにのせるもの。」(広辞苑第5版)などといわれ,土台となるものの上に乗っているものを指したりするものといえ,刊行物1においては,その第1図の記載等に照らしても,高減衰率ゴムが,すだれ織り又はメッシュ織物の上に平板状に乗っているものと理解できるのである。そうすると,「トッピング」との語により表される内容に照らしても,すだれ織り又はメッシュに高減衰率ゴムをトッピングしたトッピングコードを積層したとき,トッピングの土台となっているといえるすだれ織又はメッシュ織物とトッピングされた高減衰率ゴムは,交互に積層しているとみることができるものであり,審決の認定に誤りはない。
また,原告は,引用発明において,ゴム中に配された繊維コードからなるすだれ織及びメッシュ織物又はトッピングコードは,例えば,繊維コードの切断等により,撓み性を変位δ1以上でも維持させるための補強の機能を発揮しておらず,この業界では,補強板には,通常,積層ゴムのせん断変形時にゴム層を面内,面外方向ともに拘束できるような厚さや強度が要求されるものであり,このようなものでないものは,仮に,他の層よりも相対的に硬質で,平板状であったとしても,補強板とはいわないことなどを主張する。
しかし,前記のとおり,本願発明において,補強板が原告が主張するものに限定されることは,特許請求の範囲に記載がないばかりでなく,明細書の発明の詳細な説明にも記載がなく,かえって,発明の詳細な説明には,補強板として,鋼板以外にも,繊維補強硬質ゴム板,繊維補強合成樹脂板,帆布を用いていいとされているのであって,補強板についての原告主張を採用することはできない。
その他,原告は,高減衰率ゴムをすだれ織又はメッシュにトッピングしてなるトッピングコードは加硫接着されるのであるから,外観上いかなる形態になるかは明らかでないことも主張するが,刊行物1の各図に照らしても,高減衰率ゴムをすだれ織又はメッシュにトッピングしてなるトッピングコードは,全体として平板状であり,また,先に述べたように高減衰率ゴムも平板状であると認められる。
なお,審決は,「一部に鉄板等の硬質板を介在させて積層した場合には,『トッピングコード』全体が『高減衰性ゴム組成物よりなるゴム層』に相当し,『鉄板等の硬質板』が『硬質の平板状の補強板』に相当したものと理解することもできる。」(3頁最終段落〜4頁第1段落)としているところ,原告は審決のこの認定も争う。
しかし,本件においては,上記のように,引用発明の「高減衰率ゴムをトッピング」した部分が,本願発明の「高減衰性ゴム組成物よりなるゴム層」に相当し,引用発明の「金属繊維等からなるコードを用いて製織されたすだれ織りまたはメッシュ」が本願発明の「硬質の平板状の補強板」に相当すると認められ,同旨の認定を行った審決に誤りはないから,一部に鉄板等の硬質板を介在させて積層した場合における審決の認定の誤りをいう原告の主張は,結論に影響するものではない。
( )審決は,一致点の認定に当たり,「引用発明において『弾性柱状体が,上7下方向に貫通する中空部を有し,この中空部に鉛が充填されている』点は,・・・本願発明1の構成のうち『積層ゴム体を貫通する円柱状の鉛が1または2以上積層面に直交して埋め込まれてなる』点に限り相当している」(4頁第3段落)としたのに対し,原告は,刊行物1には,「弾性柱状体に中空部を設け」ることは記載されているが,「円柱」中空部を弾性柱状体に設けることは記載されていない旨主張する。
しかし,前記( )オのとおり,刊行物1には,弾性柱状体に,上下方向に貫通す3る任意形状,任意個数の中空部を設けることが記載され,また,その構造例として,弾性柱状体をドーナツ形状としたものがあるするところ,ドーナツ形状においては,中空部は円柱形状であるのであり,第4図も併せみても,これに反する記載はなく,刊行物1には,弾性柱状体に円柱中空部を設けた発明が記載されていると認められる。したがって,審決の認定に誤りはなく,原告の主張は採用できない。
( )したがって,原告主張の取消事由3は理由がない。
84取消事由4(進歩性判断の誤り)について( )審決は,「刊行物2又は3に記載された構成を引用発明に適用することに1よって,鉛を『鉛プラグ』とし,かつ『拘束状態をもって』埋め込まれている構成として,相違点に係る本願発明1の構成に想到することは当業者が容易になし得たことである。」(5頁第1段落)としたのに対し,原告は,本願発明では,「鉛プラグ」は「封入」(本件明細書の段落【0009】,【0011】)されているとされ,「封入」とは,通常,「入れて封じること」,「封じこむこと」をいう(甲12)ものと解されるから,「鉛プラグが拘束状態をもって埋め込まれてなる」とは,入れて封じられた結果として又は封じこまれた結果として得られた拘束状態で埋め込まれた鉛プラグをいうとして,刊行物2又は3にはそのような構成が記載されておらず,審決の上記判断が誤りである旨主張する。
( )本願発明の特許請求の範囲には,「円柱状の鉛プラグが1又は2以上積層2面に直交して拘束状態をもって埋め込まれてなる」と記載されていて,鉛プラグが「拘束状態」をもって,埋め込まれてなることが記載されている。
本件明細書の発明の詳細な説明には,「B.発明の構成( )問題点を解決す1るための手段本発明のゴム組成物を使用した高減衰性積層ゴム体は,具体的には,次の技術的手段を採る。すなわち,高減衰性ゴム組成物よりなるゴム層と硬質の平板状の補強板とを交互に多段に積層してなる積層ゴム体において,前記積層ゴム体を貫通する円柱状の鉛プラグが1又は2以上に積層面に直交して拘束状態をもって埋め込まれることを特徴とする。・・・」(段落【0005】),「( )作用2積層面に直交する力に対しては鉛プラグの断面を除く積層体により大きな剛性を発揮する。積層面に沿う力すなわちせん断力に対しては,ゴム層は容易に撓み,該せん断力が小さいとき鉛プラグが初期抵抗力を発揮して撓みを阻止し,せん断力が大きくなると鉛プラグは塑性変形を起こしゴム層とともにせん断変形を起こす。そして,当該せん断力が大きく,強制振動力として作用するとき,ゴム層及び鉛プラグは協働してせん断エネルギーを吸収し,大きな減衰性を発揮する。」(段落【0006】),「( )実施例本発明の高減衰性ゴムを使用した積層ゴム体(以下高3減衰性積層ゴム体」という)の実施例を図面に基づいて説明する。・・・以下,この積層ゴム体Sの細部構造について説明する。積層体3積層体3は,高減衰性ゴム組成物よりなるゴム層1と硬質の補強板2とからなる。積層体3には複数の孔6が穿設され,これらの孔6内に鉛プラグ4が封入される。・・・鉛プラグ4鉛プラグ4は,鉛体をもって円柱状に形成され,積層体3の孔6内に密接して封入され,積層体3に拘束される。」(段落【0007】〜【0011】)との各記載がある。
特許請求の範囲に記載された,鉛プラグが「拘束状態」をもって埋め込まれてなるという状態に関連する記載について,本件明細書の発明の詳細な説明には,孔内に鉛プラグが,「封入」されるとの記載はあるが,「封入」そのものの意義の説明はないし,発明の詳細な説明に記載されている作用,効果との関係でも,鉛プラグが,下記のように,孔との隙間なく鉛プラグが設置され,孔内で動くことがなく存在していることに係る作用,効果は認められるが,それ以上の特別の状態の鉛プラグの「封入」に係る作用,効果は記載されていない。そして,発明の詳細な説明の「鉛プラグ4は,鉛体をもって円柱状に形成され,積層体3の孔6内に密接して封入され,積層体3に拘束される。」との記載からしても,特許請求の範囲にある「拘束状態で・・・埋め込まれてなる」という状態は,積層体に設けられた孔において,孔との隙間なく鉛プラグが設置され,孔内で自由に動くことがない状態を表したものであり,それを発明の詳細な説明では「封入」と表現したものであると認められる。
原告は,特許請求の範囲の「拘束状態で・・・埋め込まれてなる」との記載について,「入れて封じられた結果として又は封じこまれた結果として得られた拘束状態で埋め込まれた鉛プラグをいう」旨主張するのであるが,「封入」の語から,直ちに原告主張の状態が一義的に定まるとは到底認められないし,発明の詳細な説明にも,その「封入」につき,原告主張の根拠となる記載はないばかりか,発明の詳細な説明の記載に照らしても,「拘束状態で・・・埋め込まれてなる」との状態について,上記のように自然に理解できることからも,原告主張は採用できない。
( )引用発明は,中空部に鉛が充填されているものであり(前記3( )ア,3 3オ),「充填」とは「あいた所につめてふさぐこと」(広辞苑第5版)という意味であり,積層体における孔との隙間なく設置され,その結果,孔内で自由に動くことがない状態であるといえ,他方,本願発明の「拘束状態をもって埋め込まれている」との意味は,前記( )のとおり,積層体に設けられた孔において,孔との隙間2なく設置され,孔内で自由に動くことがない状態を表したものであるといえるから,「『充填する』ものであれば『拘束状態をもって』埋め込むことが示唆されていると言うこともできる。」(審決4頁下から第2段落)と認められる。
また,刊行物2には,空洞に鉛柱が「嵌装」されている構成が記載されており(甲4の2頁左下欄19行目〜右下欄5行目,第1図,第2図),「嵌装」とは,「嵌めて装う」意味と解され,「嵌める」とは,「窪みに入れて固定する。ある形のものに,ぴったり入れる」(広辞苑第5版)という意味がある語である。そして,刊行物2の第1図及び第2図によっても,空洞と鉛柱の間には隙間がなく,鉛柱は,積層体に設けられた空洞において,孔との隙間なく設置され,自由に動くことがない状態であり,「刊行物2には・・・空洞に鉛柱が嵌装されている構成が記載されており,『鉛柱』であり,『嵌装』されていることから,『鉛プラグ』であって『拘束状態をもって』埋め込まれることが示唆されていると言うこともできる。」(審決4頁最終段落〜5頁第1段落)と認められる。
そして,本願発明1と引用発明とは,「本願発明1では,鉛が『鉛プラグ』であって『拘束状態をもって』埋め込まれているのに対し,引用発明では,鉛が『鉛プラグ』とは明示されておらず,『拘束状態をもって』埋め込まれているとも明示されていない点。」(審決4頁第7段落)において相違するとしても,引用発明について,中空部に充填されている固体の鉛については,これをプラグということができるといえ,また,引用発明において,中空部に充填されている鉛プラグについては,上記のとおり,拘束状態をもって埋め込まれていることが示唆されているといえるから,このような引用発明の構成に照らせば,相違点に係る本願発明の構成に想到することは当業者は容易であったと認められる。また,刊行物2においても,鉛プラグが拘束状態をもって埋め込まれることが示唆されているといえるから,刊行物2の記載に基づいても,相違点に係る本願発明の構成に想到することは当業者は容易であったと認められる。
( )原告は,特許請求の範囲の「拘束状態で・・・埋め込まれてなる」との記4載について,「入れて封じられた結果として又は封じこまれた結果として得られた拘束状態で埋め込まれた鉛プラグ」をいい,刊行物2又は3にはそのような構成が記載されておらず,審決の上記判断が誤りである旨主張するが,「拘束状態で・・・埋め込まれてなる」の意義を原告主張のように解することができないことから,採用できない。
また,原告は,刊行物3が出願日前の刊行物でなく,それに基づく審決の判断が誤りである旨主張している(取消事由2)が,上記( )のとおり,当業者は,引用3発明の構成に照らせば,相違点に係る本願発明の構成に容易に想到できたし,また,出願日前の刊行物である刊行物2の記載に基づいても,相違点に係る本願発明の構成に想到することは当業者は容易であったと認められるから,刊行物3が出願日前の刊行物でないことは,本願発明についての審決の容易想到性判断に影響するものではない。
( )したがって,原告主張の取消事由4は理由がない。
55取消事由5(効果の看過)について( )審決は,「本願発明1の効果を検討しても,引用発明及び刊行物2又は31に記載された発明から,当業者が予測し得る範囲内のものであって,格別のものとはいえない。」(6頁第1段落)としたのに対し,原告は,本願発明は,高減衰性ゴム組成物よりなるゴム層と硬質の平板状の補強板とを交互に多段に積層してなる積層ゴム体において,前記積層ゴム体を貫通する円柱状の鉛プラグが1又は2以上積層面に直交して拘束状態をもって埋め込まれてなる積層ゴム体によって初めて,大きな減衰性能が得られるばかりでなく,線形をなす履歴特性が得られ,かつその特性は安定的で明確であり,また,温度変化に対しても影響が小さく,従って,高減衰性ゴム組成物を使用した従来の積層ゴム体の特性が大きく改善されるという相乗効果が初めて得られたものであり,刊行物1及び刊行物2のいずれにも,本願発明の上記のような相乗効果についての記載がない上に,示唆すらもしない旨主張する。
( )原告の主張する本願発明の効果は,大きな減衰性能が得られること,扇形2をなす履歴特性が得られ,特性が安定的で明確であり,温度変化に対して影響が小さいというものである。
ここで,乙1文献によれば,鉛プラグ入り積層ゴム支承の履歴ループは,鉛プラグを設けないゴム単体の積層ゴム支承の履歴ループに比べて,面積が大きく,減衰性能が大きく,その履歴特性は線形であると認められ,鉛プラグ入りの積層ゴム支承が安定したエネルギー吸収性能を有することが記載されている。また,乙3文献によれば,鉛入り一体型免震ゴムについて,標準免震ゴムに比べ,面積が大きく,減衰性能が大きいなどのことが記載されており,本件出願時,積層ゴムに鉛プラグを用いることにより,より大きな減衰性能が得られること,線形をなす履歴特性が得られること,またその減衰性能が安定的な特性となることは,周知の技術事項であったと認められる。
したがって,原告が本願発明の効果として主張するのは,周知の技術事項として従前から知られていた,積層ゴムに鉛プラグを設けたことによる効果と同様のものであり,その積層ゴムとして,高減衰性ゴム組成物を用いたとしても,当業者が予測し得る効果であると認められる。
原告は,乙1文献及び乙3文献にも,高減衰性ゴム組成物からなるゴム層を有する積層ゴム体においては,せん断荷重-変位特性を示す履歴曲線に線形性を持たすことが困難であるという課題が記載されていない旨主張するが,高減衰性ゴム組成物からなる積層ゴム体に固有の課題があったとしても,原告がここで主張している効果は,従前から知られていた,積層ゴムに鉛プラグを設けたことによる効果と同様のものであることには変わりはないのであり,積層ゴムとして,高減衰性ゴム組成物を用いたとしても,当業者が予測し得る効果であると認められる。
また,原告は,温度変化に対する影響が小さいとの効果も主張するが,これは,本願発明が従来のものと比較して,大きな減衰特性を有することによる結果にすぎず,その他,原告が主張する,設計が簡単になって生産性の向上につながるとか,既設の変化において安定な特性を発揮できるとの効果は,上記において検討した効果による結果にすぎないものであり,それらを当業者が予測し得ない格別な効果と認めることはできない。
( )したがって,原告主張の取消事由5は理由がない。 36以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,原告の請求は理由がない。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 宍戸充
裁判官 柴田義明