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事件 平成 18年 (ワ) 9352号 特許権侵害に基づく差止等請求事件
原 告井前工業株式会社
訴訟代理人弁護 士村林隆一
同 井上裕史
被 告有限会社三洋商会
訴訟代理人弁護 士石井義人
同 石田大輔
同 安藤誠一郎
同 林健太郎
同 村上知子
訴訟代理人弁理 士内山邦彦
補佐人弁理士杉本勝徳
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2007/11/08
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求1被告は,別紙物件目録記載1,2の各製品の製造,販売若しくは販売の申出をしてはならない。
2被告は,別紙物件目録記載1,2の各製品を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,198万円及びこれに対する訴状送達の日(平成18年9月21日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4被告は,原告に対し,3850万円及びこれに対する平成18年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要本件は,圧延油中に含まれる異物を除去するためのフィルタモジュールに関する特許権を有する原告が,原告の特許の出願公開後に被告が製造販売する濾過フィルターは,原告の特許権に係る特許発明技術的範囲に属するとして,被告に対し,?@濾過フィルターの製造販売等の差止め及び廃棄,?A平成16年6月17日(出願公開後の原告が特許を受ける権利の移転を受けた日)から平成17年3月17日(特許権の設定登録日の前日)までの濾過フィルターの製造販売について,特許法65条1項により補償金の支払(遅延損害金は特許権の設定登録日より後である平成18年9月21日(訴状送達の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による。),?B平成17年3月18日(特許権の設定登録日)から平成18年8月31日までの濾過フィルターの製造販売について,民法709条により,特許権侵害による損害賠償金の支払(遅延損害金は不法行為の日以後である平成18年9月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による。)をそれぞれ求めた事案である。
第3前提となる事実(次の事実は,当事者間に争いがないか,弁論の全趣旨により認めることができる。)1特許権原告は,次の特許の特許権者である(以下,この特許を「本件特許」,その特許権を「本件特許権」,その特許出願の願書に添付された明細書を「本件明細書」という。)。
発明の名称フィルタモジュール出願日平成11年7月14日(特願平11-200085)公開日平成13年1月30日(特開2001-25621)登録日平成17年3月18日特許を受ける権利の移転日平成16年6月17日特許番号特許第3657466号特許請求の範囲別紙特許公報のとおり2構成要件の分説本件特許の特許請求の範囲の請求項1(以下「本件特許発明」という。)は,次のとおり分説することができる。(以下,その記号に従って「構成要件A」などという。)A圧延油が流れる円筒状の筒体の周壁に多数の貫通孔を形成し,前記円筒状の筒体の外周に複数個の円環状のグラスウールのブロックを装着すると共に,前記筒体の両端部に設けた一対の圧縮プレートの間で前記グラスウールのブロックを前記筒体の軸方向に圧縮した状態で前記筒体に固定して,前記グラスウールのブロックの外周面で濾過された圧延油が前記貫通孔を通過して前記筒体内に流れ込むようにしたフィルタモジュールであって,B前記グラスウールを構成する繊維の平均径を5μm以上12μm以下,C前記グラスウールの嵩密度を250kg/m 以上420kg/m 以下に設3 3定すると共に,D下記(10)式で定義されるグラスウールの捕捉孔の仮想孔径φを15μmから30μmに設定したことを特徴とするφ =D ・(2500-M)/M…(10)22M:不織布の嵩密度(kg/m )D:繊維の平均径(μm)3Eフィルタモジュール。
3被告の行為被告は,別紙物件目録記載1,2の各製品(以下,それぞれ「イ号製品」「ロ号製品」といい,これらを併せて「被告製品」という。)を製造販売し又はしていた(製造販売開始時期については,後記のとおり争いがあるが,平成16年6月1日以降に製造販売し又はしていたことについては争いがない。)。
4被告製品の本件特許発明技術的範囲の属否被告製品は,いずれも本件特許発明技術的範囲に属する。
第4争点1出願前の公知ないし公然実施による本件特許権の無効事由(新規性の欠如)の有無(争点1)2先使用による被告の通常実施権の有無(争点2)3本件特許権による補償金請求権及び本件特許権侵害による損害賠償請求権の各存否並びに各数額(争点3)第5争点に対する当事者の主張1出願前の公知ないし公然実施による本件特許権の無効事由の有無(争点1)について(1)被告の主張アユニオン化学機械株式会社(以下「ユニオン」という。)等による実施(ア)経緯三共理化学株式会社(以下「三共理化学」という。)は,平成元年2月ころ,日本金属工業株式会社(以下「日金工」という。)から,同社の相模原工場(以下「日金工相模原工場」という。)及び衣浦工場(以下「日金工衣浦工場」という。)で使用しているユニオン製濾過フィルター数本(以下「ユニオン製サンプル」という。)をサンプルとして借り受け,調査,分析を行った。
当時,日金工が使用していた濾過フィルターはすべてユニオン製であり,三共理化学技術部の従業員Q(以下「Q」という。)の調査によれば,当時,ユニオン以外に濾過フィルターを製造販売している業者はなかった。
分析の結果は次のとおりであった。
?@その形状は,すべて本件明細書の図2と同型であった。
?Aフィルター部分のグラスウール繊維の直径は,電子顕微鏡での測定の結果,すべて11.2μmであった。
?Bフィルター部分のグラスウールの重量は,サンプルごとにばらつきがあり,日金工相模原工場のものは概ね約319g/本であったが,日金工衣浦工場のものはロットの違い等によりばらつきが大きく,250ないし290g/本,355g/本とさまざまであった。
?Cフィルター部分のグラスウール嵩密度(グラスウールの重量をグラスウール部分の体積で割ったもの)は,日金工相模原工場のものは概ね400kg/m ,日金工衣浦工場のものは,重量のばらつきが影響して,3313kg/m (250g/本のもの),363kg/m (290g/本3 3のもの),445kg/m (355g/本のもの)であった。
3(イ)ユニオン製サンプルの構成ユニオン製サンプルの構成は次のとおりである。
a1圧延油が流れる円筒状の筒体の周壁に多数の貫通孔を形成し,前記円筒状の筒体の外周に複数個の円環状のグラスウールのブロックを装着すると共に,前記筒体の両端部に設けた一対の圧縮プレートの間で前記グラスウールのブロックを前記筒体の軸方向に圧縮した状態で前記筒体に固定して,前記グラスウールのブロックの外周面で濾過された圧延油が前記貫通孔を通過して前記筒体内に流れ込むようにしたフィルタモジュールであって,b1前記グラスウールを構成する繊維の平均径を11.2μm,c1前記グラスウールの嵩密度を313kg/m ,363kg/m ,403 30kg/m に設定すると共に,3d1下記式で定義されるグラスウールの捕捉孔の仮想孔径φを25.66μm,29.61μm,27.17μmに設定したφ =D ・(2500-M)/M22M:不織布の嵩密度(kg/m )D:繊維の平均径(μm)3【日金工相模原工場のサンプル】φ =125.44×(2500-400)/400=658.562φ=25.66【日金工衣浦工場のサンプル】φ =125.44×(2500-313)/313=876.482φ=29.61φ =125.44×(2500-363)/363=738.472φ=27.17e1フィルタモジュール。
(ウ)原告の主張について?T原告は,日金工が当時ユニオン製の濾過フィルターを使用していたという立証がないと主張する。
仮に,ユニオン製サンプルがユニオン製造に係るものではなかったとしても,当時,日金工は,ユニオン以外の業者が製造した濾過フィルターを使用し,同濾過フィルターは本件特許発明技術的範囲に属するので,本件特許発明が,ユニオン以外の者により公然実施されていたことになる。
?U原告は,乙4ないし乙6は,ユニオン製濾過フィルターとは無関係であると主張するが,すべてユニオン製濾過フィルターに関するものである。
すなわち,乙4は,ユニオン製サンプル,日本無機株式会社(以下「日本無機」という。)及び旭ファイバーグラス株式会社(以下「旭ファイバー」という。)製のガラスウールの各サンプルについて,各ガラスウールの繊維径を測定し比較したものである。
乙5は,日金工衣浦工場に販売する三共理化学製フィルターの仕様及び見積りを記載したものであり,日金工衣浦工場におけるユニオン製サンプルの数値のばらつきが大きいことを伝えて後日のクレームを防止するため,ユニオン製サンプルの数値が記載されている。
乙6の上段は,Qが平成元年7月下旬に,日金工への納入の代理店であるステート工業のP2氏と連絡をとった際のメモであり,中段は同年8月1日に,下段は同月11日に,それぞれQが作成したメモである。
(エ)まとめユニオン製サンプルの構成は,本件特許発明構成要件をすべて充足するので,本件特許発明技術的範囲に属する。よって,本件特許発明は,その特許出願前である平成元年2月ころに,ユニオン若しくはユニオン以外の第三者によって公然実施されていた。
イ三共理化学による実施(ア)経緯三共理化学は,平成元年6月,製造販売するフィルター(以下「三共理化学製フィルター」という。)の基本仕様を決定し,同社桶川工場(以下「三共理化学桶川工場」という。)に,鉄鋼会社に研磨布紙を販売している営業所の営業担当者を集め,新製品の濾過フィルターの説明会(以下「本件新製品説明会」という。)を行った。
本件新製品説明会における資料として配布された「スパミック・フィルター(ガラスウール・フィルター)の概要」という文書(乙7)において,三共理化学製フィルターの形状,仕様等が詳細に記載されていたが,形状は,本件明細書の図2と同型であり,ガラスウールの繊維径を11μm,ガラスウールの充填密度を0.376g/cm (376kg/m )とする3 3ものであった。
三共理化学の営業担当者は,本件新製品説明会の後,各鉄鋼会社に対し,濾過フィルターの営業を行い,三共理化学は,遅くとも平成元年7月24日,その製造販売を開始した。
(イ)三共理化学製フィルターの構成三共理化学製フィルターの構成は次のとおりである。
a2圧延油が流れる円筒状の筒体の周壁に多数の貫通孔を形成し,前記円筒状の筒体の外周に複数個の円環状のグラスウールのブロックを装着すると共に,前記筒体の両端部に設けた一対の圧縮プレートの間で前記グラスウールのブロックを前記筒体の軸方向に圧縮した状態で前記筒体に固定して,前記グラスウールのブロックの外周面で濾過された圧延油が前記貫通孔を通過して前記筒体内に流れ込むようにしたフィルタモジュールであって,b2前記グラスウールを構成する繊維の平均径を11μm,c2前記グラスウールの嵩密度を376kg/m に設定すると共に,3d2下記式で定義されるグラスウールの捕捉孔の仮想孔径φを26.14μmに設定したφ =D ・(2500-M)/M22M:不織布の嵩密度(kg/m )D:繊維の平均径(μm)3φ =121×(2500-376)/376=683.522φ=26.14e2フィルタモジュール。
(ウ)原告の主張について原告は,乙7ないし乙9の信用性を争っている。
しかし,乙7が簡素な資料であることが,本件新製品説明会で配布された資料ではないことにはならない。
また,乙5と乙7に記載された各見積価格が異なるのは,乙7は,Qと当時三共理化学の技術部長P3が,技術者の立場で原価や利益率を考慮して設定した価格であり,実際に販売する段階において,営業的観点から,販売先や販売量,競合品の価格に応じて値引きすることは当然のことである。
乙8の「ZRフィルター」「フィルター」については,平成元年当時,三共理化学が扱っていた商品で上記の名称の商品は濾過フィルター以外に存在しなかったし,濾過フィルターを預かった目的が「巻替」とされていることからも明らかなとおり,当時,巻替目的で濾過フィルターを預かることは巻替販売以外にはなかった。
乙9は,川崎製鉄株式会社(以下「川鉄」という。)が使用する濾過フィルターを分析した結果と三共理化学のサンプル品を比較したもので,川鉄への営業のために作成されたものであり,乙9の三共理化学のサンプルの繊維径は乙7の繊維径より0.9μm小さいが,当時の繊維径の測定方法は,繊維の一部を電子顕微鏡で拡大して直径を測り,係数で計算して平均を出すもので誤差が生じやすく,上記の程度の違いは通常生じる誤差の範囲内である。
(エ)まとめ三共理化学製フィルターの構成は,本件特許発明構成要件をすべて充足するので,本件特許発明技術的範囲に属する。よって,本件特許発明は,その特許出願前である平成元年7月24日,三共理化学によって公然実施されていた。
ウ被告による実施(ア)経緯?T三共理化学の製造停止三共理化学は,平成6年ころ,濾過フィルターの製造を停止することとなったが,従来の顧客に対して納品するために,他社で同種商品を製造させて仕入れる必要があった。被告代表者は,当時,三共理化学の大阪営業所の営業次長であったが,不織布に精通していた本件特許発明発明者であるP4(以下「P4」という。)に,濾過フィルターの仕入先について相談するようになり,三共理化学は,P4が勤めていた株式会社ティアンドティ(以下「ティアンドティ」という。)から濾過フィルターを購入するようになった。
?U被告による濾過フィルターの開発被告代表者は,平成8年3月,三共理化学を退職し,同年5月8日,被告を設立したが,平成10年8月ころ,P4から,当時ティアンドティが製造販売していた円環状のグラスウールを積層して圧縮するタイプの濾過フィルター(以下「ティアンドティ製フィルター」という。)を川鉄に販売してほしいとの依頼を受け,株式会社岡尾商会(以下「岡尾商会」という。)を通じて,川鉄西宮工場に対し,ティアンドティ製フィルター2352本を販売した。
被告代表者は,平成10年10月ころ,岡尾商会から,同様の濾過フィルターを安価で製造できないかとの要請があり,開発に着手した。
?V濾過フィルターの製造装置の設置被告代表者は,同年12月8日,濾過フィルターの製造装置について有限会社関西空機設備(以下「関西空機」という。)との打合せを開始し,同装置は,平成11年1月29日,被告の工場に設置された。
?W濾過フィルターの原材料の納入被告は,平成11年3月12日,濾過フィルター製造に必要な円環状グラスウール(外径55φ,内径22φ)を河久商事株式会社(以下「河久商事」という。)に発注し,河久商事は,株式会社マグ(以下「マグ」という。)製のグラスウールボード(嵩密度64kg/m ,繊3維径7μm,厚さ25mm,商品名「MAGBL6425」)に加工を加えて円環状グラスウールを作成し,同月21日及び4月2日に被告に6万個ずつ納品した。
?X被告による濾過フィルターの製造販売被告は,平成11年3月15日,岡尾商会を通じて,川鉄西宮工場から濾過フィルター1680本の巻き替えの注文を受け,被告は,代金218万4000円で巻替作業をし,同年4月21日,川鉄西宮工場に濾過フィルターを送付した。
被告は,同年5月13日,高林商事株式会社(以下「高林商事」という。)を通じて,日立金属株式会社(以下「日立金属」という。)安来工場に濾過フィルター350本を代金77万円で販売した。
被告は,テラダ産業株式会社(以下「テラダ産業」という。)からの紹介で,同月28日,日新製鋼株式会社(以下「日新製鋼」という。)大阪支社に対し,濾過機の補助タンクのフィルター35本の交換を代金5万6000円で受注できる目処が立ち,同年7月14日,交換した濾過フィルターをテラダ産業に納品した。
?Y被告が製造販売した濾過フィルター被告が,川鉄,日立金属,日新製鋼に販売した被告製の濾過フィルター(以下「被告製フィルター」という。)のグラスウールの仕様は,前記のとおり,嵩密度64kg/m ,繊維径7μm,厚さ25mmで,完3成した被告製フィルター1本の重量は550g(うち金属軸部分は325g),円環状グラスウール約70個を全長40cmの長さの部分に装填したもので,円環状グラスウールは1個3.19gであった。
(イ)被告製フィルターの構成被告製フィルターの構成は次のとおりである。
a3圧延油が流れる円筒状の筒体の周壁に多数の貫通孔を形成し,前記円筒状の筒体の外周に複数個の円環状のグラスウールのブロックを装着すると共に,前記筒体の両端部に設けた一対の圧縮プレートの間で前記グラスウールのブロックを前記筒体の軸方向に圧縮した状態で前記筒体に固定して,前記グラスウールのブロックの外周面で濾過された圧延油が前記貫通孔を通過して前記筒体内に流れ込むようにしたフィルタモジュールであって,b3前記グラスウールを構成する繊維の平均径を7μm,c3前記グラスウールの嵩密度を280kg/m (70個の場合)又は2384kg/m (71個の場合)に設定すると共に,3d3下記式で定義されるグラスウールの捕捉孔の仮想孔径φを19.71μm(70個の場合),19.55μm(71個の場合)に設定したφ =D ・(2500-M)/M22M:不織布の嵩密度(kg/m )D:繊維の平均径(μm)3【70個の場合】φ =49×(2500-280)/280=388.502φ=19.71【71個の場合】φ =49×(2500-284)/284=382.342φ=19.55e3フィルタモジュール。
(ウ)原告の主張について?T乙13の信用性について原告が指摘する平成10年12月8日の関西空機との打合せは,濾過フィルター製造装置に関するものではないが,同月から濾過フィルターの製造装置に関する打合せは行っていた。
乙13の77ページの記載は,被告が当時製造していた濾過フィルターを被告代表者が計量してその数値を記載したものである。
原告は,濾過フィルターの仕様は顧客の要望により変動するので,実際に納品された濾過フィルターの仕様は乙13に記載されたものかどうか不明であると主張するが,被告は,川鉄への販売前に同社にサンプルを持参して,同サンプルの仕様での販売に合意しているので,川鉄に販売した濾過フィルターの仕様は乙13に記載のものである。
?U構成要件Cの充足について原告は,グラスウールのみの重量は165gであり,これを前提とすると,構成要件Cを充足しないと主張する。
しかし,原告の計算は誤りであり,乙13の77ページには,「1シャフトのみ(1set)重量 325g」と記載されており,「(1set)」とあることから,シャフト部分のセット,すなわちステンレスパイプ部分,ナット,フランヂを含めた重量という意味で記載されたものであり,濾過フィルター1本のグラスウールのみの重量は225gである。このことは,濾過フィルターに充填された円環状のグラスウールの数が70個又は71個であり,その1個の重量が3.19gであることからも明らかである。この数値を前提とすれば,前記のとおり,構成要件Cは充足する。
(エ)まとめ被告製フィルターの構成は,本件特許発明構成要件をすべて充足するので,本件特許発明技術的範囲に属する。よって,本件特許発明は,その特許出願前である平成11年4月から,被告により,川鉄,日立金属,日新製鋼に販売されて公然実施されていた。
なお,イ号製品は,原告が,被告に対し,平成11年4月当時の被告製フィルターを再現して貸与してほしいと依頼し,被告が当時の仕様で製造したものである。
エ小括以上のとおり,ユニオン,三共理化学,被告は,本件特許発明技術的範囲に属する濾過フィルターを本件特許の特許出願前に製造販売しており,本件特許発明は,特許出願前に日本国内において公然知られ,公然実施されていた発明である。よって,本件特許は新規性を欠き無効とされるべき発明であるから,原告は,本件特許権を行使することはできない。
仮に,本件特許に上記の無効事由が認められない場合であっても,本件特許発明は,その特許出願前に,ユニオン,三共理化学,被告等が製造販売していた圧延油の濾過フィルターに基づいて,当該発明の技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明することができたものであり,進歩性がないから,特許無効審判により無効とされるべきものである。
(2)原告の主張アユニオンによる実施について本件特許の特許出願前のユニオンによる本件特許発明実施は否認する。
(ア)ユニオンの行動の不自然さユニオンは,本件特許の後願となる特許出願(特願平11-314287号,甲10,16。以下「ユニオン特許出願」という。)をしているが,その特許請求の範囲は,本件特許発明よりも広範囲であって,昭和39年から同様の製品を製造販売していた者が記載するはずがない内容である。
また,被告が主張するように,ユニオンが昭和40年代に本件特許発明実施していれば,同時期に平成11年の特許出願と同一の特許出願をしたはずであるし,ユニオン特許出願に際して本件特許出願に接しているので,本件特許発明新規性を争っているはずである。
(イ)ユニオンのフィルター製造能力の欠如ユニオンは,平成13年に,特許庁に対し,本件特許発明のような高い嵩密度の製品を製造することはできないと述べている。
すなわち,ユニオンが,ユニオン特許出願について特許庁より拒絶理由通知書を送付された後に提出した意見書において「引例2明細書【0022】において,グラスウールのブロック(3)は圧縮プレート 41,42 の間でネジ力により圧縮されるとあるが,この記載は自然法則に反している」,密度96kg/m のグラスウールを圧縮し,その嵩密度を240kg/m とし3 3た場合の実験結果として「グラス密度96kg/m の実験では,濾過材の3内部に割れや変形等が見られた」と述べている。
乙2の1に記載された濾過フィルターの嵩密度は445kg/m という3極めて大きな値であり,上記のユニオンの実験結果と比較しても信憑性がない。
(ウ)書証の信用性の欠如被告の主張する事実は,その根拠とする証拠に信用性がなく立証がない。
?T乙4ないし乙6は,ユニオン製の濾過フィルターである旨の記載がない。乙4は,ユニオン以外の複数のメーカーが製造したガラスファイバーの分析であり,ユニオン製の濾過フィルターとは無関係である。乙5は,三共理化学の「ガラスウールフィルターの再見積」であって,ユニオン製の濾過フィルターとは無関係である。乙6は,作成者,作成時期が不明であり,証拠としての価値がない。
?Uユニオン製サンプルの構成が乙2に記載のものであったとしても,構成要件Cを充足しない。
?V同一の工業製品において,嵩密度が313kg/m (乙6),4453kg/m (乙2)等と広範囲にばらついていることはありえないから,3両者は異なる製品である。
?Wその他の証拠も,Qの個人的なメモ書きばかりであり,信用できない。
(エ)交渉経過の不自然性原告の本件訴訟提起前の警告書の送付に対し,被告は,被告の公然実施のみを主張し,ユニオンの公然実施の主張をしていないところ,被告の実施を裏付ける証拠は,被告代表者のメモと陳述書のみであることからすれば,まずユニオンの製造販売を主張するのが自然であり,これをまったくしなかった交渉経過は甚だ不自然である。
イ三共理化学による実施について本件特許の特許出願前の三共理化学による本件特許発明実施は否認する。
(ア)書証の信用性の欠如被告の提出する書証は信用性がなく,被告主張の事実は立証がない。
?T乙7の信用性乙7に記載された使用目的,使用方法,ガラスフィルターの使用状況は,同様の製品を扱っている営業担当者に説明するような内容ではない。
外形もラフな図面だけであり,外観写真もなく,営業上重要な「本品の利点」も非常に簡素な記載で,社名すら入っていない白紙の用紙にタイプされており,平成元年6月14日に作成されたという根拠もない。
全社的に配布される書類でありながら,当時の技術部長の承認印すらなく,社内書類として正式に作成されたものとは考えられない。
乙7に記載された見積価格は,使用済みのガラスウールの取出しを含めた場合で2150円/本,詰替えのみの場合で2000円/本であるのに対し,その直後に送信されたというファックス送信案内(乙5)の見積価格は,シャフトのみ支給の場合1750円/本,使用済みガラスウール抜きを含む場合1870円/本であり,乙5と乙7は,見積価格という営業上根本的な部分で矛盾している。
被告は,無効審判請求において,乙7と類似の書類(甲8の15)につき,Qが平成元年7月26日に三共理化学営業本部のP5課長宛に送付した資料であると異なった説明をするが,仮に,本件新商品説明会を同年6月14日に行って,製造販売の開始を宣言したのであれば,その後に営業本部の課長に書類を送付することはない。
甲8の15と乙7は,作成日付及び記載内容が同一であるが,表題が異なる上に,甲8の15では新商品であるにもかかわらず「従来名」の記載がある点で不自然である。
三共理化学が弁理士からユニオン製濾過フィルターが公知であるとの報告を受けたのは,乙7が配布されたとする平成元年6月14日のまさに当日であるが,本件新商品説明会を実施するには数週間の準備が必要と考えられることから,同日に本件新商品説明会を実施したという被告の主張は信用できない。
三共理化学は,平成元年9月27日まで,新商品である三共理化学製フィルターの耐薬品性試験(甲8の18)を完了しておらず,同製品を顧客に出荷できる状況にはなかった。そして,各種データやサンプルがないまま,納入先の企業が価格のみで製品の購入を決定することは考えにくい。
よって,乙7が新製品の発売に際して,営業担当者に配布された資料であることは信用できない。
?U乙8の信用性乙8は,いずれも三共理化学が日金工から「ZRフィルター」又は「フィルター」を預かったことを示す「預かり証控」であり,三共理化学がどのような製品を販売したかを証するものではない。また,「フィルター」とあるだけで,その仕様は不明である。
?V乙9の信用性乙9は,作成目的が不明であり,乙9に記載されたガラスウール原布の繊維径,樹脂含浸量,価格は乙7と異なり,矛盾する。
(イ)三共理化学が製造を中止する際の事情の不自然さ三共理化学が平成6年ころ濾過フィルター製造を中止し,第三者から供給を受けることになった際,技術的交渉をするのであれば,技術部に行わせるはずであり,一営業にすぎなかった被告代表者にさせるはずはないし,三共理化学製フィルターに関する情報をQから入手すればよいのであって,知識を有している人を探す必要性はない。
ティアンドティ製の巻付型フィルターは,特願平8-156287号の実施品で,嵩密度は175〜225kg/m であり,本件特許発明と同一3の構成ではないし,仮に三共理化学製フィルターが本件特許発明と同一の構成であるとしても,これに劣るティアンドティ製濾過フィルターを三共理化学が継続して販売するはずはない。
(ウ)知的財産の取得がないことの不自然さ三共理化学は,濾過フィルター開発にあたり,当時の公知技術を調査して,誰も特許等の知的財産権を有していないことを知っていたにもかかわらず,知的財産の取得をしなかったことは不自然である。
(エ)被告の主張内容の不自然さ被告の主張によれば,被告製品の製造販売は本件出願直前であり,被告製品の構成を裏付ける証拠が被告代表者作成のメモ(乙13)と陳述しかなく,被告製品自体が三共理化学製フィルターをコピーしたと主張している状況からすれば,本件訴訟においては,まず三共理化学の製造販売をまず主張するのが自然であるにもかかわらず,原告による警告書送付の段階では,被告は,そのような主張を全くしなかったという交渉経緯は甚だ不自然である。
ウ被告による実施について本件特許の特許出願前の被告による本件特許発明実施は否認する。
(ア)P6(以下「P6」という。)の供述(甲19)との矛盾P6は,本件特許の無効審判の証人尋問において,被告製フィルターの製造の際に,円環状グラスウールをシャフトに20個,ガイドに50個取り付けたと述べるが,430mmの長さしかないシャフトに,1個25mmの厚さのグラスウール20個を取り付けることは不可能であるから,被告の主張は全体として信用できない。
(イ)書証及び供述の信用性の欠如被告製フィルターの構成を示す証拠は,被告代表者のメモ(乙13)と供述のみであるが,いずれも信用できない。
?T乙13について被告代表者が作成した平成10年12月8日の打合せメモ(乙13の2ページ)によれば,被告代表者が関西空機と打ち合わせた内容は,いずれも研磨装置など他の設備に関するものであり,濾過フィルターとは無関係である。
被告は,当時,濾過フィルターの他にも多数の製品を製造販売していたのであり,乙13の記載がそもそも濾過フィルターに関するものかどうか不明である。
仮に,乙13が濾過フィルターに関する記載であったとしても,乙17(注文書)の製品が乙13で記載された製品であるとの立証はない。
濾過フィルターの仕様は,顧客の要望により変動するのであり,乙13のメモ書きは,必ずしも実際に顧客に納品された製品の仕様であるという根拠にはならない。仕様が納品から2か月後に記録されていることや,川鉄という大手メーカーに納入する製品の仕様が代表者のメモにしか記載されていないのは不自然である。
?U被告代表者の供述について被告代表者は,1人で川鉄向けの巻替作業を行ったと供述していたが,P6は,被告代表者の息子2名と共に巻替作業をしたと述べ,実際にも1人で作業をすることは不可能である。
川鉄への納入がわずか10日で決定するのは不自然である。
川鉄従業員のP7(以下「P7」という。)は,本件特許の無効審判の証人尋問において,川鉄の3ZRのチャンバーの形状は角形であると明言しているが,被告代表者は円形であると供述し,食い違っている。
P7は,川鉄が被告に送付した交換実績(甲8の9)は,被告の納入実績を示したものかどうか不明であるとも述べている。
(ウ)被告製フィルターの構成要件Cの非充足仮に,乙13が濾過フィルターに関する記載であり,それが乙17により販売されたとしても,その嵩密度は206kg/m であり,構成要件C3を充足しない。すなわち,乙13には「シャフトのみ重量 325g」「ナット 45g」「フランヂ 15g」「製品 550g」と記載されている。とすれば,乙13のグラスウールの重量は,製品(550g)から,シャフト(325g),ナット(45g),フランヂ(15g)の各重量を引いたものであるから,165gであり,これを前提に嵩密度を求めると206kg/m となる。
3被告は,「シャフトのみ」は,シャフトにナットとフランヂの重量を加えたものであると主張するが,同主張は「シャフトのみ」の記載に明らかに齟齬する。
エその他被告は,本件特許に関して無効審判請求をしており,特許庁において無効審判請求に対する審決がされる本件においては,訴訟経済等の観点からは,公然実施の主張に対する判断は無効審判においてされるべきであり,本件侵害訴訟においてされるべきではない。
2先使用による被告の通常実施権の有無(争点2)について(1)被告の主張ア平成11年4月ころから8月までの製造販売被告は,前記のとおり,本件特許発明技術的範囲に属する被告製フィルターを,本件特許発明の内容を知らずに,平成11年1月ころから開発,製造し,同年4月ころから販売している。
イ平成11年8月以降の製造販売被告は,平成11年8月24日,円環状グラスウール1個の嵩密度を80kg/m に変更する改良を行った(以下「改良後被告製フィルター」とい3う。)。改良後被告製フィルターは,嵩密度80kg/m のグラスウールを365個使用して製造されている。
ウ改良後被告製フィルターの構成改良後被告製フィルターの構成は次のとおりである。
a4圧延油が流れる円筒状の筒体の周壁に多数の貫通孔を形成し,前記円筒状の筒体の外周に複数個の円環状のグラスウールのブロックを装着すると共に,前記筒体の両端部に設けた一対の圧縮プレートの間で前記グラスウールのブロックを前記筒体の軸方向に圧縮した状態で前記筒体に固定して,前記グラスウールのブロックの外周面で濾過された圧延油が前記貫通孔を通過して前記筒体内に流れ込むようにしたフィルタモジュールであって,b4前記グラスウールを構成する繊維の平均径を7μm,c4前記グラスウールの嵩密度を325kg/m に設定すると共に,3d4下記式で定義されるグラスウールの捕捉孔の仮想孔径φを18.11μmに設定したφ =D ・(2500-M)/M22M:不織布の嵩密度(kg/m )D:繊維の平均径(μm)3φ =49×(2500-325)/325=327.922φ=18.11e4フィルタモジュール。
エ被告の先使用権に基づく通常実施権以上のとおり,改良後被告製フィルターも本件特許発明技術的範囲に属するのであり,被告は,本件特許出願前から現在に至るまで,本件特許発明技術的範囲に属する発明の実施である事業を行っているので,先使用に基づく通常実施権を有する。
(2)原告の主張被告の本件特許発明先使用の事実は否認する。
被告は,先使用権の成立の要件である「特許出願に係る発明の内容を知らないで」という要件を主張立証していない。
また,被告代表者は,不織布やフィルターに関する知識がなく,P4に相談したり試作品作製を依頼しており,嵩密度や濾過性能について技術的に理解した上で試行錯誤を繰り返したのではなく,単に手触りの感覚だけで製品の構成を決定したと述べている。したがって,被告は,自ら発明したり,別個に発明した者から知得したという事実はない。
3本件特許権による補償金請求権及び本件特許権侵害による損害賠償請求権等の各存否並びに各数額(争点3)について(1)原告の主張ア故意又は過失被告は,本件特許の出願公開日(平成13年1月30日)より後に,被告製品が本件特許の出願に係る発明であることを知って,被告製品を製造販売した。また,被告は,本件特許が登録された平成17年3月18日以降,故意又は過失により,本件特許権を侵害した。
イ補償金被告は,平成16年6月17日から平成17年3月17日まで,合計2000本の被告製品を合計1800万円で販売した。
原告が,本件特許発明実施に対して受けるべき金銭の額は,販売金額の10パーセントが相当である。よって,原告が受けるべき補償金は,180万円である。
ウ本件特許権侵害による損害(逸失利益)被告は,平成17年3月18日から平成18年8月31日まで,合計9300本の被告製品を合計1億2100万円で販売し,これにより3500万円の利益を得た。原告は,本件特許発明実施品である圧延設備研磨潤滑油ろ過フィルターを製造販売している。
したがって,原告の損害額は,特許法102条2項により,3500万円と推定される。
エ弁護士費用原告は,本件訴訟を提起するにあたり,原告代理人弁護士に依頼し,着手金及び報酬金を支払うことを約したが,本件に関する弁護士費用は,補償金請求につき18万円,特許権侵害に基づく差止等請求につき350万円が相当である。
オまとめよって,原告は,被告に対し,補償金として198万円(遅延損害金の起算日は訴状送達の日),本件特許権侵害による損害賠償金として3850万円(遅延損害金の起算日は平成18年9月1日)を請求することができる。
(2)被告の主張否認ないし争う。
第6当裁判所の判断1出願前の公知ないし公然実施による本件特許権の無効事由の有無(争点1)について(1)ユニオンによる実施についてア前記第3の前提となる事実,証拠(各事実の末尾に記載した。なお,名前の後のページ数は尋問調書のページである。)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる(本項目において特に年の記載がない日付の年はすべて平成元年である。)。
(ア)日金工から三共理化学への依頼三共理化学名古屋営業所のP8営業課長(以下「P8」という。)は,平成元年初めころ,担当の営業先である日金工衣浦工場の担当者から,当時,日金工がユニオンから購入し,巻替作業を依頼していた濾過フィルターについて,同種のものの安価での製造,巻替えの可否について相談を受けた(Q2,4ページ,乙33)。
そこで,P8課長は,三共理化学桶川工場のP3技術部長(以下「P3」という。)に対し,圧延油の濾過フィルターの製造販売の可否について相談し,P3は,Qに対し,濾過フィルターの製造の可否について検討するよう指示した(Q3ページ,乙33)。
(イ)三共理化学におけるQの調査Qは,濾過フィルターの現状を調査し,文献を収集すると共に(Q4ないし6,45ページ,乙35,36),日金工衣浦工場及び日金工相模原工場に納入されているユニオン製の濾過フィルターをサンプルとして入手し,分析した(Q4,5,7,33ページ,乙33)。当時,日金工衣浦工場及び日金工相模原工場が使用していた濾過フィルターはすべてユニオン製であり,Qの調査によれば,当時,同様な形状の濾過フィルターを製造しているメーカーはユニオンだけであった(被告代表者18ページ,Q5ページ,乙33)。
(ウ)Qの分析によるユニオン製サンプルの形状Qは,2月22日,ユニオン製サンプルについて,2種類の硬度計による硬度,サイズ,重量を計測し,同月28日,ガラスウールの分析を市川毛織株式会社(以下「市川毛織」という。)に依頼した(Q8,9ページ,乙2の1・2,33)ユニオン製サンプルの形状は,ドーナツ状のガラスウールをそのドーナツの穴をステンレスパイプが通るようにして,ステンレスパイプの通る方向に圧縮してステンレスパイプに充填し,その両端をフランジで止めてあるもので,ステンレス製のパイプには多数の孔があって,濾過される圧延油がグラスウールを通過し,ステンレスパイプの穴を通過してステンレスパイプの管内に流入することができるようになっていた。1つのドーナツ状ガラスウールの厚さは20mm,直径は55mm,ステンレスパイプ管の外径が21.7mm,長さが400mm,使用されているガラスウールの重量は,1回目に日金工衣浦工場から支供されたもので355g/本であった(Q11,34,46ページ,乙2の1,7,33)。
グラスウール充填量は,サンプルによってばらつきがあり,2回目,3回目に日金工衣浦工場から支供されたサンプルは,それぞれ290g/本,255g/本であった(Q8,11,23,48,49ページ,甲8の17,乙5,33)。Qが,7月20日に日金工相模原工場から入手したユニオン製サンプルは319g/本であった(Q22,24,25ページ,乙31)。
市川毛織は,3月15日,三共理化学技術部に対し,濾過フィルターの分析結果について,繊維の種類はガラス繊維,繊維の織度は2デニール,長さは測定不可という内容の結果を送付した(Q9ページ,乙3)。
(エ)グラスウールの繊維径の測定市川毛織では,ガラス繊維は扱っていないとのことであったため,Qは,ガラスウールの仕入先を探すこととし,建物の断熱材として使用する板状のガラスウールを使用することを考えたところ,三共理化学内には日本無機と旭ファイバーの断熱材の板状ガラスウールのサンプルがあったため,日本無機にユニオン製サンプルのうち濾過フィルターから抜き取ったドーナツ状のガラスウール1個を渡し,サンプルの提供を依頼した(乙33)。
Qは,4月10日,?@ユニオン製サンプル,?A日本無機から届いたサンプル,?B三共理化学内にあった旭ファイバーのサンプルを電子顕微鏡を使用して拡大写真を撮り,各繊維の繊維径を測定し,平均値を計算した(Q10ページ,乙4,33)。
その結果,各ガラスウールの繊維の平均径は,?@ユニオン製サンプルが11.2μm,?A日本無機のサンプルが10.9μm,?B旭ファイバーのサンプルが12.7μmであった(乙4)。各サンプルについて,ガラスウールの平均径に大差はなかったので,Qは,日本無機から仕入れることとした(Q10,11ページ,乙33)。
(オ)通気抵抗の測定濾過フィルターの能力は,その通気抵抗を測定することにより知ることができるので,Qは,7月18日,同月20日,ユニオン製サンプルについて通気抵抗の実験をした(Q12ページ,乙31,33)。このときのユニオン製サンプルのグラスウールの充填量は290g/本と319g/本であった(甲8の19,乙31,33)。なお,Qは,平成2年4月18日にも,日金工相模原工場に納入する濾過フィルターについての通気抵抗試験を行っている(甲8の20)。
(カ)川鉄において使用されていたユニオン製フィルターの分析川鉄に営業を行っていた当時の三共理化学大阪営業所のP9営業課長(現在は被告代表者。以下「P9」という。)は,川鉄に営業した結果,ユニオンより価格が安く品質的に問題なく互換性があれば三共理化学からの購入も検討するとのことだったので,品質を分析するため,川鉄からサンプルを入手し,Qに送付した(被告代表者18,19ページ,乙9)。
Qは,9月27日,P9に依頼されて,川鉄から提供を受けた濾過フィルターを分析し,三共理化学のサンプルと比較したところ,川鉄のサンプル(ユニオン製)は,繊維径11.8μm,フィルターサイズ22mm×55mm×400mm,充填重量340g/本であり,三共理化学のものは繊維径10.1μm,充填重量300g/本であった。(Q27,28ページ,甲8の18,乙9,33)なお,当時の繊維径の計測方法は,電子顕微鏡で繊維の一部の拡大写真を撮り,その写真の繊維を測定して平均値を出すという方法であったため,測定時の誤差が生じることがあった(Q28ページ,乙33,34)。
(キ)被告代表者の所持していたグラスウールの分析被告代表者は,平成10年12月ころ,被告において濾過フィルターを開発するにあたり,被告代表者が三共理化学に勤務していた当時,川鉄から入手したユニオン製の濾過フィルターのグラスウールを数個所持していたので,グラスウールメーカーのマグにその分析を依頼した。マグの分析結果は,旭ファイバー製で,密度が32kg/m というものであった。
3(被告代表者2,3ページ)イユニオンによる実施の有無(ア)ユニオンが製造販売していた濾過フィルターの仕様等上記アで認定した事実からすれば,平成元年当時,日金工衣浦工場,日金工相模原工場,川鉄は,ユニオン製の濾過フィルターを使用しており,その形状は,いずれも全体として直径55mm×長さ400mmの円筒形で,内部に直径約22mmの金属管が入っており,金属管には多数の孔があって,濾過される圧延油が金属管の孔を通過して金属管内に流入することができるようになっていること,ガラスウール部分は,ドーナツ状のガラスウールをドーナツの穴に上記の金属管が通るようにして金属管と平行な方向に圧縮する形で金属管に充填されたもので,その両端がフランジで止めてあるものであったことが認められる。
また,各濾過フィルターのガラスウール部分の重量は,日金工衣浦工場から3回にわたって入手したサンプルについては,?@355g/本,?A290g/本,?B255g/本,?C平成元年7月20日に日金工相模原工場から入手したサンプルについては319g/本,?D平成元年9月ころに川鉄から入手したサンプルについては340g/本であったこと,ガラスウールの繊維径は,日金工衣浦工場から入手したもの(上記?@?A?B)が11.2μmであり,川鉄から入手したもの(上記?D)が11.8μmであったことが認められる。
そして,各濾過フィルターの形状により計算されるガラスウール部分の体積は797.87cm であるから(計算式:(2.75 × 2.75-1.1 × 1.1)3× 3.14 × 40.0=797.87 …),各濾過フィルターの嵩密度は,?@重量355g/本のものが444.93kg/m ,?A重量290g/本のものが3633.47kg/m ,?B重量255g/本のものが319.60kg/m ,3 3?C重量319g/本のものが399.81kg/m ,?D重量340g/本の3ものが426.13kg/m であると計算される(計算式:?@ 355 ÷ 797.387=0.44493 …,?A 290 ÷ 797.87=0.36347 …,?B 255 ÷ 797.87=0.31960 …,?C 319 ÷ 797.87=0.39981 …,?D 340 ÷ 797.87=0.42613 …)。
(イ)ユニオン製濾過フィルターの構成の分説以上を前提に,ユニオン製濾過フィルターの構成を分説すると,次のとおりとなる。
a1*圧延油が流れる円筒状の筒体の周壁に多数の貫通孔を形成し,前記円筒状の筒体の外周に複数個の円環状のグラスウールのブロックを装着すると共に,前記筒体の両端部に設けた一対の圧縮プレートの間で前記グラスウールのブロックを前記筒体の軸方向に圧縮した状態で前記筒体に固定して,前記グラスウールのブロックの外周面で濾過された圧延油が前記貫通孔を通過して前記筒体内に流れ込むようにしたフィルタモジュールであって,b1*前記グラスウールを構成する繊維の平均径を11.2μm(上記?@?A?Bについて。なお,?Cは不明),11.8μm(上記?Dについて),c1*前記グラスウールの嵩密度を?@444.93kg/m ,?A363.347kg/m ,?B319.60kg/m ,?C399.81kg/m ,?D3 3 3426.13kg/m に設定すると共に,3d1*下記式で定義されるグラスウールの捕捉孔の仮想孔径φを?A27.15μm,?B29.25μm,?C25.67μm(?@?Dは記載を省略)に設定したφ =D ・(2500-M)/M22M:不織布の嵩密度(kg/m )D:繊維の平均径(μm)3【?A363.47kg/m 】3φ =11.2×11.2×(2500-363.47)/363.472=737.35φ=27.15【?B319.60kg/m 】3φ =11.2×11.2×(2500-319.60)/319.602=855.79φ=29.25【?C399.81kg/m 】3ただし,繊維の平均径が日金工衣浦工場と同じ11.2μmの場合。
φ =11.2×11.2×(2500-399.81)/399.812=658.93φ=25.67【?@?Dは記載を省略】e1*フィルタモジュール。
(ウ)各濾過フィルターの構成要件の充足上記?@?Dの各構成 c1*は,いずれも,少なくとも構成要件Cを充足していないので,本件特許発明技術的範囲にはない。
上記?Aないし?Bの各構成 a1*ないし e1*は,いずれも構成要件AないしEを充足しており,本件特許発明技術的範囲に属する。
上記?Cは,繊維の平均径が日金工衣浦工場と同じ11.2μmの場合の場合は,各構成要件を充足することとなるが,証拠上,繊維の平均径が不明であるから,本件特許発明技術的範囲にあるとはいえない。
(エ)まとめ以上からすれば,ユニオンは,平成元年当時,本件特許発明技術的範囲に属する濾過フィルター(上記?A?B)を製造して,少なくとも日金工衣浦工場に販売していたことが認められるので,本件特許発明は,平成元年当時,ユニオンにより,公然実施されていた発明であると認められる。
ウ原告の主張について(ア)ユニオン特許出願について?T原告は,ユニオン特許出願の特許請求の範囲は,本件特許発明よりも広範囲で,本件特許発明実施している者が記載するはずのない内容である,ユニオン特許出願についての拒絶理由通知書に対する意見書の記載から,ユニオンは,本件特許発明実施する能力がなかったことを認めていると主張する。
?Uユニオン特許出願についての拒絶理由通知書(甲11)は,本件特許発明に係る出願の願書に最初に添付された明細書又は図面(以下,まとめて「本件当初明細書」という。)に記載された発明と同一であるとして,特許法29条の2を根拠に,ユニオン特許出願に係る発明は,特許を受けることができないとするものであり,原告が指摘するユニオンの意見書(甲12)は,上記の拒絶理由通知書に対するものである。
?V本件明細書【0022】には次の記載があり,本件当初明細書の記載も同様であったものと推認される。
「前記パイプ 2 の周壁には多数の貫通孔 21 が穿設されている。前記パイプ 2 の片方の端面には,前記第2圧縮プレート 42 が溶着されており,該パイプ 2 の一端は閉塞されている。一方,前記パイプ 2 の他方の端部は開放端 22 とされており,この開放端 22 には雄ネジ 20 が螺設されている。該パイプ 2 の他方の端部には第1圧縮プレート 41 が装着されている。前記パイプ 2 の雄ネジ 20 にはナット 40 が螺合しており,該ナット 40 のネジ力によって一対の圧縮プレート 41,42 の間でグラスウールのブロック 3 がパイプ 2 の軸方向 S に圧縮された状態に保たれていると共に,パイプ 2 に固定されている。」?Wユニオンの意見書(甲12。6,8ページ)には次の記載がある。
「本件発明は「濾材として,JISK-2276 規定の試験方法で93%以上の夾雑物除去率を有する様に予め積層方向に圧縮されたグラスウール又は不織布の積層体を用い」るに対し,引例2(判決注:本件当初明細書を指す。)技術は引例明細書【0022】第8行目乃至第11行目に「該ナット 40 のネジ力によって一対の圧縮プレート 41,42 の間でグラスウールのブロック 3 がパイプ 2 の軸方向 S に圧縮されている…(後略)。」とあり濾材の圧縮方法,圧縮力及び圧縮程度が全く異なる技術である。
引例2技術は引例1技術同様濾過材はネジ力で圧縮されているに過ぎず,後述の如く係る圧縮方法では本件発明で必要な,JISK-2276 規定の試験方法で93%以上の夾雑物除去率をもつ嵩密度は得られないことに加え,繊維間の摩擦力が逆洗時の圧縮空気による剥離力よりも強力となるまで圧縮することはできない。
本件発明は,パイプ上で濾過材をネジ力で圧縮するのでは無く,「濾過材を予め積層方向に」しかも「JISK-2276 規定の試験方法で93%以上の夾雑物除去率を有する」程度に「圧縮したグラスウール又は不織布の積層体を用い」るのである。
この構成特に,濾材としてグラスウールを使用した場合,グラスウールの如き硬質素材を本件発明の如く予め圧縮せずに,引用例のような単なるナット締めによって,繊維間の摩擦力が逆洗時の圧縮空気による剥離力よりも強力となるまで強く圧縮することは到底不可能である。後記,実験例で明確にする。」(以上6ページ)「三,実験例引例2明細書【0022】において,グラスウールのブロック(3)は圧縮プレート 41,42 の間でネジ力により圧縮されるとあるが,この記載は自然法則に反している。
現在市販されるグラスウールの最も嵩密度の大きい物は,96kg/m で,本発明者らが使用しているものは64kg/m である。
3 3この二つを使って実験した。
その結果は,次の通りでこのような低密度では,逆洗時に繊維のぬけが生じることは明らかである。…グラス枚数40枚(φ55mm/φ22mm×25mm)を400mm長さのパイプに挿入してネジ力でのみ圧縮充填した上記グラスの嵩密度を計算した。…尚,グラス密度96kg/m の実験では,濾過材の内部に割れや変形3が見られた。」(以上8ページ)?X以上からすれば,ユニオンは,本件当初明細書で開示されている技術が,円環状のグラスウールをあらかじめ圧縮せずに圧縮プレートの間に入れ,その後でナット締めによるネジ力のみによって圧縮したものであると理解していたものと認められる(ただし,上記はユニオンの理解であって,それが正しいかどうかは別の問題である。)。そして,ユニオンの意見書は,この理解を前提として,ユニオン特許出願は予め積層方向に圧縮されたグラスウール等を用いるから,その点で,本件当初明細書に開示された技術とは異なることを説明し,かつ,本件当初明細書に記載された250kg/m 以上という嵩密度は,ネジ力のみによって作3出することはできないと主張して,そのことを実験によって明らかにしようとしたものであると読みとることができる。
したがって,ユニオンの意見書は,ユニオンが本件特許発明実施する能力がなかったことを示すものであるという原告の主張は採用できない。
また,ユニオン特許出願に係る特許請求の範囲が,同出願当初には本件特許発明よりも広範囲であるとしても,ユニオンは,ユニオン製フィルターが三共理化学に分析され,同様の製品を製造されていたことを知らなかった可能性もあり(後記認定のとおり,日金工は,三共理化学に対し,日金工にフィルターの納入実績があることを口外しないでほしいと依頼し,三共理化学製フィルターの存在を秘している。),以前より実施していた発明を後に特許出願しないとは限らないから,ユニオン特許出願をもって,ユニオンが平成元年ころに本件特許発明実施に当たる行為をしていなかったことの証左とすることはできない。のみならず,ユニオン特許出願は,最終的には,実施例を根拠として,「JISK-2276規定の試験方法で93%以上の夾雑物除去率を有する様に予め積層方向に圧縮されたグラスウール又は不織布の積層体を用いた」として,上記下線部分の限定を付加した特許請求の範囲で特許査定されており(甲10,16),上記特許請求の範囲に係る発明は本件当初明細書記載の発明と同一とはいえないと判断されたものと認められる。したがって,ユニオンは,本件特許発明と同一ではない技術を実施例として特許出願しながら,より広範な権利を取得しようとして出願当初の特許請求の範囲では過去に実施していた発明(本件特許発明技術的範囲に属する発明)まで含まれるような広範囲の記載を試みたにすぎない可能性も考えられるから,ユニオン特許出願の出願当初の特許請求の範囲が,本件特許発明実施行為をしていた者が記載するはずのない内容であるということはできない。
なお,上記のとおりユニオン特許出願は特許査定されており,ユニオンにおいて本件特許発明新規性を争う必要がある場面がこれまでにあったとは認められない。
(イ)その他の主張について原告は,乙4ないし乙6の書証の信用性を争う。しかし,乙4の一番上の電子顕微鏡写真の横には「日本金属工業サンプルパイプより取りハズシ」との記載があり,日金工から提供されたもの,すなわちユニオン製のものであることが注記されている。また,Qの証言によれば,乙4ないし6は,いずれもQがそこに記載されている日付(乙6には,「'89.8.1」,「'89.8.11」として平成元年8月と解される日付が記載されている。)のころに三共理化学の業務に伴って作成したものであることが認められ,証拠として採用することができるところである。
また,ユニオン製サンプルのうち,乙2に記載されたものは構成要件Cを充足しないけれども,前記のとおり,日金工衣浦工場に納入されたガラスウール部分の重量が?A290g/本,?B255g/本のものについては,本件特許発明技術的範囲に属している以上,技術的範囲外のものが存在したとしても,公然実施を認定する妨げとなるものではない。
また,被告は,ユニオン製サンプルの嵩密度のばらつきが広範囲に及ぶことから,乙2と乙6は異なる製品であると主張する。しかし,乙5,6にも,日金工から入手したユニオン製サンプルには重量(ひいては嵩密度)にばらつきがあることが記載されており,ユニオンの製品にはばらつきがあった可能性があるから,乙2,6に各記載された製品の嵩密度にばらつきがあることをもって,直ちに両者が異なる用途に用いられる製品であるとすることはできない。
(2)三共理化学による実施についてア前記第3の前提となる事実,証拠(各事実の末尾に記載した。)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる(本項目において特に年の記載がない日付の年はすべて平成元年である。)。
(ア)三共理化学における仕様の決定5月下旬から6月上旬ころ,三共理化学における濾過フィルター製造の目処が立ち,形状は,ユニオン製のものと同じで,穴の開いているステンレスパイプに,ドーナツ状のガラス繊維をそのドーナツの穴にステンレスパイプが通るようにしてステンレスパイプと平行な方向に圧縮して充填し,ガラス繊維の両端をフランジで止め,片方のフランジは固定フランジとし,他方のフランジはナットで押さえたもので,濾過される圧延油がガラス繊維を通過し,ステンレスパイプの穴を通過してステンレスパイプ管内に流入することができるようになっているもの,仕様は,グラスウール充填量300g/本,繊維径11μm,充填密度376kg/m ,サイズ(内径3×外径×長さ)22mm×55mm×400mmと決定した(Q12,13,49ページ,乙5,7,33)。なお,三共理化学では,グラスウールを圧縮するために,空気圧のプレスの機械を準備した(Q36,42ページ)。
(イ)知的財産権関係の調査Qは,ユニオンの知的財産権の出願の有無について,P10弁理士(以下「P10弁理士」という。)に調査を依頼した(Q4,13,1,38,39,51,52ページ,乙33)。
P10弁理士は,6月5日,昭和62年から平成元年3月分までで公開されているユニオンを出願人とする出願の中に濾過フィルターの出願はなく,粘度測定装置に関する実用新案が1件あったのみであるとの回答をした(Q14ページ,乙22,33)。
また,P10弁理士は,6月14日,特公昭49-27014号公報(「各種鋼板製造工程中における水,油,薬液等の絞取ローラー」)等の発明を指摘し,ユニオン製サンプルは,積層の部分も含めて公知技術であって,仮に出願しても許可されないとの見解を示した(Q15ページ,乙23,33)。Qは,P10弁理士に,本件新商品説明会で使用した資料(乙7)から作成した三共理化学製フィルターの仕様についての資料(乙38)を送付した(Q15ページ)。
さらに,P10弁理士は,同月21日,「圧延機における圧延油再生用フィルターの洗浄方法及びその装置」等の発明を指摘し,ユニオン製フィルターにより近い発明がある旨の報告をし(乙24,33),同月23日,昭和55年から平成元年4月15日までの間で濾過フィルターに関するユニオンの出願はない旨の調査結果を示した(Q15ページ,乙25,33)。
(ウ)日金工衣浦工場に対する最初の見積り6月上旬ころ,日金工衣浦工場から,濾過フィルターの見積りをしてほしいとの依頼があり,Qは,同月8日,シャフトを受領して充填のみ行う場合は100本単位で2380円/本,4000本単位で1850円/本,フィルター部分の抜取後充填する場合は100本単位で2530円/本,4000本単位で2000円/本という見積りをP8に連絡した(Q17ページ,甲8の16,乙27,33)。
(エ)本件新商品説明会Qは,P3から,濾過フィルターの販売を開始するにあたって,6月に開催される営業会議の後で,説明会を開催するよう指示を受け,同月14日,本件新商品説明会が三共理化学桶川工場において開催された(Q37ページ,乙33,34)。
本件新商品説明会においては,Qは,「スパミック・フィルター(ガラスウール・フィルター)の概要」と題する資料(乙7)を配布し,本商品が,セイジマーミルという圧延装置の圧延油を濾過するフィルターであること,「繊維径11μm,充填密度376kg/m ,サイズ(内径×外径3×長さ)22mm×55mm×400mm」で,充填量は300g/本という仕様であること,本商品は汚濁オイルの中に入れて,本商品の開口部より吸引すると,オイルはガラス繊維の積層外側からガラス繊維を通過し,ステンレスパイプに設けられた孔を通過して吸引されるという仕組みでフィルター槽が8本あり,各2000本のフィルターがセットされ,8本のフィルター槽を順次使用していくという使用方法について,実物のサンプルを示しながら説明した(被告代表者18ページ,Q13,16,37,38,49ないし52ページ,甲8の15,乙7,33,34)。
見積価格については,当初の見積りより下げてほしいと名古屋営業所から話があったため,P3は,使用済みガラスウールの取出しを含める場合は,「100本以上の単位で2150円/本,詰替えのみの場合は,100本以上の単位で2000円/本である」と説明した(Q17,18ページ,乙7,33)。
Qは,説明会後,希望する営業所に,濾過フィルターの現物を送付した(被告代表者18ページ,Q49ないし51ページ,乙33,34)。なお,カタログは作成されなかった(Q32ページ)。
(オ)日金工衣浦工場に対する再見積りP8が,ユニオンより安価でなければ参入は困難であると指摘したので,Qは,6月28日,P8に対し,「シャフトのみの支給の場合,1000本単位で1750円/本,使用済みグラスウール抜きを含める場合,1000本単位で1870円/本」という再見積りを送付した(Q18ページ,甲8の17,乙5,33)。
なお,上記の再見積りを記載した書面(甲8の17,乙5)には,グラスウール充填量が1本あたり300gであること,ユニオン製サンプルは,290g/本,255g/本とばらつきがあったことが記載されている(Q8,11ページ,甲8の17,乙5,33)。
(カ)日金工衣浦工場の濾過フィルターの巻替えその後,日金工衣浦工場に納入する濾過フィルターについては,上記(オ)の再見積内容の価格で,前記の三共理化学の仕様(300g/本)の濾過フィルターの巻替えの契約が成立し,7月5日,日金工衣浦工場から三共理化学に対し,巻替えのため濾過フィルター用鉄芯150本が送付された(Q19ないし22ページ,乙28ないし30,33)。
(キ)日金工相模原工場の濾過フィルターの巻替え三共理化学は,7月25日,日金工相模原工場から,濾過フィルター2650本を,8月23日に更に1箱を巻替えのために受領し(Q26ページ,乙8の1・2,33),9月7日に「ガラスフィルター」の名称で出荷した(Q19,27ページ,乙32の1・2,33)。
ユニオン製サンプルは,日金工相模原工場のものが充填量319g/本,日金工衣浦工場のものが充填量250ないし290g/本とばらつきがあったため,日金工相模原工場に納品するにあたり,再度,同工場から現状品のサンプルを入手しようとしたが,同工場は夏期休暇中でサンプルの入手ができなかったため,出荷分は充填量300g/本で充填した(Q24ないし26ページ,乙6)。
日金工相模原工場からは,ユニオンとの関係上,三共理化学が他社に対して営業する際に,日金工で実績があることを口外しないでほしいと依頼された(Q7,8ページ,乙37)。
(ク)三共理化学製の濾過フィルターの名称三共理化学製フィルターは,種類としては1種類であったが,三共理化学においては「ガラスフィルター」「ガラスウール・フィルター」などと呼ばれ,ユーザーにおいては「ゼンジマーフィルター」「ZRフィルター」などと呼ばれていた(Q1,2,39,40ページ)。
(ケ)川鉄に対する見積り前記のとおり,川鉄に営業を行っていた当時の三共理化学大阪営業所のP9は,川鉄に営業した結果,ユニオンより価格が安く品質的に問題なく互換性があれば三共理化学からの購入も検討するとのことだったので,品質を分析するため,川鉄からサンプルを入手してQに送付し,Qは,川鉄が使用していたユニオン製フィルターのサンプルの分析をした(被告代表者18,19ページ,乙9)。
その後,Qは,見積価格として,1000本以上で,使用済みの抜きありの場合2050円/本,詰め替えのみの場合1850円/本と伝えた。
(Q27,28ページ,甲8の18,乙9,33)結局,三共理化学は,川鉄に,三共理化学製フィルターを販売することができた(被告代表者19ページ,甲18,乙45)。
(コ)日立金属安来工場への販売P9は,高林商事を通じて,日立金属安来工場で使用している濾過フィルターの製造元の調査を依頼したところ,ユニオン製であり,巻替価格は2700円/本ないし3000円/本程度であるとの報告があり,同時に三共理化学で製造販売する濾過フィルターの仕様や価格を尋ねられたので,9月28日,2200円/本で巻替をすることを伝えた。その後,三共理化学から日立金属安来工場へ前記の三共理化学の仕様(300g/本)の濾過フィルターの納入が決定し,三共理化学は,日立金属に対し,その後も継続的に濾過フィルターを販売した。(被告代表者19,20ページ,乙34)(サ)三共理化学における濾過フィルターの製造工程平成3年3月当時,三共理化学における濾過フィルターの製造工程は,?@入荷した使用後のシャフトからガラスフェルト部分を外す,?Aシャフトのナットを外し,管内のスラッジを除去し,溶剤等で洗浄する,?B450mm×920mmのガラスウールボードを治具を使用して円環状に打ち抜く,?C洗浄済みシャフトをガイドシャフトにつないで,円環状ガラスウールを所定量充填し,フランジを入れる,?D?Cをシャフトのネジ部分が現れるまでプレスする,?Eガイドシャフトから外して,ナットをセットし,ガラスダストを除去する,というものであった。(Q29ページ,乙39)(シ)仕様の変更(日金工相模原工場及び日立金属安来工場)円環状ガラスウールの充填量は,三共理化学が製造販売を開始した平成元年は,いずれの納入先についても前記の三共理化学の仕様(300g/本)であったが,その後,客先によって変更があった。
日金工相模原工場向けのものは,平成3年3月当時,変更されて305g/本(充填する長さは400mm),平成5年5月当時は更に変更されて,290ないし295g/本であった。
日立金属安来工場向けのものは,平成4年度は,変更されて295g/本,平成5年6月には更に変更されて305ないし310g/本(乙39には「310g/m 」と記載されているが,「310g/本」の記載誤り2と思われる。)であった。(被告代表者20ページ,Q29ページ,乙39)(ス)三共理化学の濾過フィルターの製造中止三共理化学では,平成6年ころから製造コストが上昇し,販売価格を維持することができなくなったため,濾過フィルターの製造の中止を決定した。(被告代表者21ページ,Q30,32ページ,乙34)イ三共理化学による実施の有無(ア)三共理化学が製造販売していた濾過フィルターの仕様等上記アで認定した事実からすれば,三共理化学は,平成元年7月ころから平成6年ころまで,日金工衣浦工場,日金工相模原工場,川鉄,日立金属安来工場に自社製の濾過フィルターを販売していたこと,その形状は,ステンレスパイプの周囲にガラス繊維を積層させた円筒状のもので,ステンレスパイプには複数の孔があって,濾過されるオイルはガラス繊維及びステンレスパイプの孔を通過してステンレスパイプの管内に流入することができるもので,ガラス繊維はドーナツ状のものをステンレスパイプに通してステンレスパイプと平行な方向に圧縮したもので,ガラス繊維はその両端をフランジで固定されており,全体のサイズは内径×外径×長さ=22mm×55mm×400mmであって,ガラス繊維の充填量は300g/本,ガラス繊維の1本の繊維径は11μm,ガラス繊維の充填の嵩密度は0.376g/cm すなわち376kg/m であったことが認められる。
3 3そして,計算上も,上記のサイズ(ガラス繊維の体積),ガラス繊維の充填量(重量),嵩密度は合致する(計算式:300 ÷ 797.87=0.3760 …)。
(イ)三共理化学製濾過フィルターの構成の分説以上を前提に,三共理化学製濾過フィルターの構成を分説すると,次のとおりとなる。
a2*圧延油が流れる円筒状の筒体の周壁に多数の貫通孔を形成し,前記円筒状の筒体の外周に複数個の円環状のグラスウールのブロックを装着すると共に,前記筒体の両端部に設けた一対の圧縮プレートの間で前記グラスウールのブロックを前記筒体の軸方向に圧縮した状態で前記筒体に固定して,前記グラスウールのブロックの外周面で濾過された圧延油が前記貫通孔を通過して前記筒体内に流れ込むようにしたフィルタモジュールであって,b2*前記グラスウールを構成する繊維の平均径を11μm,c2*前記グラスウールの嵩密度を376kg/m に設定すると共に,3d2*下記式で定義されるグラスウールの捕捉孔の仮想孔径φを26.14μmに設定したφ =D ・(2500-M)/M22M:不織布の嵩密度(kg/m )D:繊維の平均径(μm)3φ =11×11×(2500-376)/376=683.522φ=26.14e2*フィルタモジュール。
(ウ)三共理化学製濾過フィルターの構成要件の充足上記の構成 a2*ないし e2*は,いずれも構成要件AないしEを充足しており,本件特許発明技術的範囲に属する。
(エ)まとめ以上からすれば,三共理化学は,平成元年7月ころから平成6年ころまで,本件特許発明技術的範囲に属する濾過フィルターを製造して,日金工衣浦工場,日金工相模原工場,川鉄,日立金属安来工場に販売していたことが認められるので,本件特許発明は,平成元年7月ころから平成6年ころまで,三共理化学により公然実施されていた発明であると認められる。
ウ原告の主張について(ア)書証の信用性について原告は,乙7ないし9の信用性を争うが,原告指摘の事実は,次のとおり,いずれも前記認定を覆すに足りるものではない。
すなわち,書類により異なる複数の見積価格が存在したとしても,見積価格自体は,時期,取引相手によって異なることは当然であるし,タイトルが多少異なる類似の書類が存在する点についても,同内容の資料を用途によって多少修正することはあり得ることである。
また,知的財産に関する調査の時期と本件新商品説明会の開催時期との関係についても,本件新商品説明会の開催より約10日前の平成元年6月5日の段階で,直近2年余に公開された分では,ユニオンの濾過フィルターに関する知的財産権の出願はないとの弁理士からの回答を受けているから,これを前提とした見込みに基づき,同月14日に本件新商品説明会を開催したとしても,企業の行動として不自然というほどのものではない。
さらに,試験等の実施時期が販売開始後であったことについては,まったくの新商品を開発販売する場合と異なり,ユニオン製フィルターという既存の製品があり,これとまったく同じ仕様の製品を製造することが目的であったという三共理化学の場合,同じ仕様の製品を製造するのに必要最低限の情報を入手し,その情報に基づいて同じ仕様の製品を製造することが可能となれば,企業としては少しでも早く販売したいと考えるのが通常であり,より詳細な試験等が販売開始後になったとしても,必ずしも不自然であるということはできない。
(イ)その他の主張について原告は,三共理化学が濾過フィルターの製造を中止する際に,営業担当の被告代表者に技術交渉をさせるのは不自然であると主張する。後記認定のとおり,営業担当のP9が三共理化学に代わって濾過フィルターを製造する業者を探すよう指示されているところ,三共理化学は,濾過フィルターを供給してくれるメーカーを探す必要があったのであるから,技術担当者ではなく営業担当者に探させることは不自然ではない。
また,原告は,本件特許発明より劣る内容のティアンドティ製の巻付型フィルターを三共理化学が継続して販売するはずがないと主張する。しかし,ティアンドティ製の巻付型フィルターが三共理化学製のフィルターより劣っていたという証拠はないし(ティアンドティ製の巻き付け型フィルターが三共理化学製のフィルターより嵩密度が低いとしても,フィルターの性能は嵩密度のみで決まるものではない。),仮に性能に多少の相違があるとしても,前記認定のとおり,三共理化学は販売価格を維持することができなくなって製造中止を決定したのであるから,このように値上げをすることなく従来の製品を販売することができないという状況からすれば,値上げをしないでコストがより安い別の代替品を販売することは不自然ともいいきれない。
さらに,原告は,三共理化学が知的財産権を取得していないのは不自然であると主張する。しかし,三共理化学は,ユニオン製フィルターと同様の製品を製造したと認識していたところ,ユニオン製フィルターは積層の部分も含めて公知技術であるとの見解をP10弁理士から示されていたのであるから,知的財産権の取得をしようとしないことは不自然ではない。
原告は,本件訴訟提起前の警告書の送付に対し,三共理化学の製造販売を主張しなかったのは不自然である等とも主張する。しかし,三共理化学の公然実施を主張するには,同社から資料の提供を受ける等の協力を得て,その製品の構成(グラスウールの繊維の平均径や嵩密度)を証明することが必要であるから(被告は,乙1の鑑定書を作成依頼するに当たり,鑑定人弁理士に対し被告のフィルターに関する資料を提示している。),その準備ができない段階では主張しなかったという可能性もないとはいえず,不自然ともいい難い。
結局,いずれの主張も,前記に認定した事実を覆すに足りる根拠となるものではない。
(3)被告による実施についてア前記第3の前提となる事実,証拠(各事実の末尾に記載した。)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(ア)三共理化学の濾過フィルターの製造中止三共理化学では,平成6年ころ,濾過フィルターの製造の中止を決定した。(被告代表者21ページ,Q30,32ページ,乙34)これに伴い,P9は,三共理化学に代わって濾過フィルターを製造する業者を探すよう指示された。(被告代表者21ページ,乙34)(イ)三共理化学のティアンドティからのフィルターの仕入れP9は,不織布やフィルターに関する詳細な知識を有していなかったので,P11から,精研株式会社大阪営業所のP4が不織布について詳しいと聞き,三共理化学が製造していた濾過フィルターと同様のものを安価に製造する方法について相談した。(被告代表者1ページ,乙34)P4は,濾過材には,耐熱性の観点からグラスウールを使用する必要があること,日本無機が製造しているグラスウールをパイプに巻き付けることでフィルターユニットを製造できるかもしれないことを教示した。P9は,日本無機に対し,日本無機製のグラスウールをバームクーヘン状にパイプに巻き付ける方法でのフィルターユニットの製造(以下「バームクーヘン型」という。)の可否を相談したところ,可能であるとの回答を得た。
(被告代表者1,21ページ,乙34)そこで,P9は,P4に,バームクーヘン型濾過フィルターの試作を依頼し,P4が平成7年ころに再就職したティアンドティに製造を依頼した。
以上の経緯を経て,三共理化学は,日本無機からグラスウールを購入してティアンドティに販売し,ティアンドティはバームクーヘン型濾過フィルターを製造し,これを三共理化学が購入して,鉄鋼会社に販売していた。
(被告代表者1,21ページ,乙34)(ウ)被告による製造販売の開始P9は,平成8年3月,三共理化学を退職し,同年5月,被告を設立した(被告代表者21ページ,乙34)。
P4は,被告代表者に対し,三共理化学時代の人脈を利用して,川鉄に対し,ティアンドティ製の濾過フィルターを販売してほしいと依頼した(被告代表者1ページ,乙34)。
ティアンドティで製造する濾過フィルターは,遅くとも平成10年8月ころまでには,バームクーヘン型から円環状ないしドーナツ状のグラスウールを積層して圧縮するタイプ(以下「ドーナツ型」という。)に変更されていた(乙34)。
被告は,平成10年8月26日,岡尾商会を通じて,ティアンドティ製の濾過フィルター2352本(チャンバー付き,サイズ22mm×55mm×400mm)を川鉄西宮工場に販売した(被告代表者2,26ページ,甲8の21・22,乙10,11,34)。
その後,被告は,岡尾商会から,販売価格の値下げを要請され,P4に尋ねたところ,P4は承諾しなかった。すると,岡尾商会は,被告に対し,被告において同様の濾過フィルターを安価に製造してはどうかと打診してきた。被告代表者は,三共理化学時代は営業を担当し,技術職ではなかったが,濾過フィルターを約5年間販売し,その形状,機能等は熟知していたので,被告において製造することを決意した(被告代表者2,27ページ,乙34)。
(エ)被告における濾過フィルター製造装置の設置三共理化学製濾過フィルターは,積層した円環状のグラスウールを圧縮し,ナットで固定するドーナツ型のものだったので,P9は,まず,グラスウールを圧縮する装置の制作を依頼することとし,平成10年12月ころから,関西空機との打合せを開始し,平成11年1月下旬に上記装置は完成し,被告は,関西空機に代金を支払った(被告代表者5ページ,甲8の12,乙1の資料5,乙12,13の25,40ページ,乙14,34)。
(オ)被告におけるグラスウールの仕入れ被告代表者は,被告製濾過フィルターの仕様を決定するにあたり,形状,機能,手触りのみによって圧縮の程度等を把握していた。
被告代表者は,平成10年12月ころ,グラスウールの仕入先を探し,グラスウールメーカーでトップシェアであると聞いていたマグに相談し,前記のとおり,川鉄から入手して所持していたユニオン製の濾過フィルターのグラスウールの分析の結果を前提に,マグ製の嵩密度48kg/m と364kg/m の2種類のグラスウールをサンプルとして入手した。
3次いで,被告代表者は,これらの2種類の嵩密度のグラスウールを金属パイプに通して圧縮する円環状グラスウールの個数を変更しながら濾過フィルターを試作し,完成した試作品の手触りの感覚と三共理化学時代に扱っていた三共理化学製フィルターの手触りの感覚とを比較して試行錯誤した。その結果,平成11年2月ころ,64kg/m の円環状グラスウール3を70個詰めて圧縮したものが,その手触りとしては三共理化学時代に扱っていたものに一番近いことが判明したので,マグ製の繊維径7μm,嵩密度64kg/m ,厚さ25mmのグラスウールボードを充填するグラス3ウールとして使用することとした。(被告代表者3,4,28ないし30ページ,甲8の14,乙1の資料6,乙13の8,11ページ,乙16,34,48)ドーナツ状のグラスウールの製造については,平成11年3月,被告は,河久商事にボード状のグラスウールを円環状に打ち抜いてもらい,河久商事から打抜後の円環状グラスウール(外径55φ,内径22φ,厚さ25mm)を購入することとした(甲8の4,乙1の資料7,乙13の11,24ページ,乙15,34)。
(カ)被告による川鉄への販売被告は,平成11年2月16日,岡尾商会の仲介により,川鉄の担当者に対し,被告製フィルターのサンプルを持参して商品説明をしたところ,同月26日には,被告が川鉄のフィルター交換(巻替え)を行うことが確実になったので,同年3月12日,円環状グラスウール12万個を河久商事に発注し,円環状ガラスウールは,同月20日及び同年4月2日に,6万個ずつ納入された(被告代表者5ないし7ページ,甲8の2,乙1の資料7,乙13の27,33,38,39,53ページ,乙15,34)。
川鉄西宮工場は,同年3月15日,被告に対し,岡尾商会を通じて濾過フィルター1680本を発注し,巻替えをする使用済み濾過フィルターを送付した(被告代表者8ページ,甲8の1・3・5ないし9,甲18,乙1の資料1ないし4,乙13の45,48,51ページ,乙17,18,34,45)。
被告は,同年4月21日,川鉄へ納品する濾過フィルター1680本の巻替えを完成させて川鉄に納品し,岡尾商会を通じて代金の支払を受けた(被告代表者9,26ページ,乙1の資料3,4,乙19,34)。同年8月ころにも巻替えの注文を受け,納品した(乙13の94,101ページ)。
(キ)被告による日立金属安来工場への販売被告代表者は,三共理化学時代の人脈を利用して,平成11年3月5日,日立金属に営業を行い,日立金属は,高林商事を通じて被告から被告製濾過フィルターを,巻替だけではなくシャフト部分も含めて新品のものを購入することとなった。そこで,被告は,同年4月22日,シャフト部分400本の作成を関西空機に依頼し(被告代表者11,31ページ,乙1の資料5,乙40),新品のシャフトを用意した。被告は,河久商事にグラスウール約2万5000個を注文し(被告代表者10ページ),同年5月13日,日立金属安来工場に納品する濾過フィルター350本を完成させて納品し,高林商事を通じて代金の支払を受けた(被告代表者9,11,12ページ,乙13の43,44,67,74ページ,乙20の1・2,34,41)。
(ク)日新製鋼への販売被告は,テラダ産業からの紹介で,平成11年5月19日,日新製鋼を訪れてサンプルを用いて濾過フィルターの営業を行い,同月28日には日新製鋼から補助タンクの濾過フィルター35本の巻替えを受注できる目処が立ち,同年7月2日,巻替えをする濾過フィルター35本を引き取り,河久商事にグラスウール2520個を注文して納品を受け,同月14日,巻替えを完了した濾過フィルター35本をテラダ産業を通じて日新製鋼に納品し,代金の支払を受けた(被告代表者12,13,15ページ,乙13の76,79,81,82,87,109,110ページ,乙21の1・2,34,42,43)。
(ケ)被告製濾過フィルターの仕様被告製濾過フィルターは,形状も仕様も,三共理化学製フィルターとほぼ同じものとなるよう設計したものであり,形状は,外径55mm×内径22mm×長さ400mmの円筒形で,中心に金属管が通してあり,その金属管には多数の孔が開いていて,濾過された圧延油が金属管の孔を通過して金属管内に流入することができるようになっており,金属管の周囲には,金属管と平行な方向に圧縮されたドーナツ状のガラスウールがそのドーナツの穴に金属管が通るようにして充填され,ガラスウールの両端はフランジで止めてあるものであった。
仕様は,前記のとおり,具体的に充填されたガラスウールの嵩密度を測定,計算等して仕様を決定したものではなく,手触りの感覚で,三共理化学製濾過フィルターの手触りと同じになるようにして決定したものであるが,製造開始から平成11年8月24日までは嵩密度64kg/m ,厚さ325mmの円環状グラスウール70個を400mmの長さのパイプに通して圧縮して1本の濾過フィルターを制作することとしていたのであり,充填されたガラスウールの嵩密度は280kg/m (被告代表者4,5,136ページ,甲19,乙1の資料8,乙13の89ページ,乙34,46),シャフトも含めた1本の重さは550g,シャフト(325g)を除いた重量は225g/本であった(乙1の資料9,乙13の77ページ)。
平成11年8月24日以降は,嵩密度80kg/m の円環状グラスウー3ル65個を同じく400mmの長さのパイプに通して圧縮して1本の濾過フィルターを制作している(乙34,48)。
なお,被告代表者がテラダ産業を通じて入手した平成11年当時のユニオン製の濾過フィルターは,嵩密度48kg/m ,厚さ25mmのグラス3ウールを94個を400mmの長さに積層したもので嵩密度は282kg/m ,ティアンドティの濾過フィルターは,嵩密度80kg/m ,厚さ23 35mmのグラスウールを62ないし65個を400mmの長さに積層したもので嵩密度は325kg/m ないし310kg/m であった(被告代表3 3者4ページ,乙13の89ページ)。
(コ)被告から原告への濾過フィルターの貸与被告は,原告から,平成11年4月当時及び現在販売している被告製の濾過フィルターのサンプルを貸与してほしいといわれ,平成18年6月1日,株式会社トクヤマエムテックに嵩密度64kg/m と80kg/m の3 3グラスウールを発注し,平成11年4月に販売開始した被告製フィルターと平成18年6月当時の改良後被告製フィルターのサンプルを作成し,原告に渡した。(被告代表者16,17ページ,甲5,乙44)イ被告による実施の有無(ア)被告が製造販売していた濾過フィルターの仕様等上記アで認定した事実からすれば,被告は,平成11年3月ころから同年7月14日までに,川鉄西宮工場,日立金属安来工場,日新製鋼に対し,圧延油の洗浄のための濾過フィルターを製造,販売したこと,その形状は,直径55mm×長さ400mmの円筒形で,内部は直径22mmの金属製のパイプがあり,パイプには圧延油を吸引するための孔が複数開けられ,濾過された圧延油はパイプの孔を通過してパイプ内に流入できるようになっており,金属製パイプの周囲には円環状のグラスウールが積層し金属パイプと平行な方向に圧縮して充填され,その両端はフランジで止められており,グラスウールは,嵩密度64kg/m ,厚さ25mmのグラスウー3ルを70個使用したもので,グラスウールの1本の繊維径は7μmであったことが認められる。そして,充填されたグラスウールの嵩密度は280kg/m であると計算される(計算式:64 × 70 × 25 ÷ 400=280)。
3(イ)被告製濾過フィルターの構成の分説以上を前提に,被告製濾過フィルターの構成を分説すると,次のとおりとなる。
a3*圧延油が流れる円筒状の筒体の周壁に多数の貫通孔を形成し,前記円筒状の筒体の外周に複数個の円環状のグラスウールのブロックを装着すると共に,前記筒体の両端部に設けた一対の圧縮プレートの間で前記グラスウールのブロックを前記筒体の軸方向に圧縮した状態で前記筒体に固定して,前記グラスウールのブロックの外周面で濾過された圧延油が前記貫通孔を通過して前記筒体内に流れ込むようにしたフィルタモジュールであって,b3*前記グラスウールを構成する繊維の平均径を7μm,c3*前記グラスウールの嵩密度を280kg/m に設定すると共に,3d3*下記式で定義されるグラスウールの捕捉孔の仮想孔径φを19.71μmに設定したφ =D ・(2500-M)/M22M:不織布の嵩密度(kg/m )D:繊維の平均径(μm)3φ =7×7×(2500-280)/280=338.502φ=19.71e3*フィルタモジュール。
(ウ)被告製濾過フィルターの構成要件の充足上記の構成 a3*ないし e3*は,いずれも構成要件AないしEを充足しており,本件特許発明技術的範囲に属する。
(エ)まとめ以上からすれば,被告は,平成11年3月ころから本件特許の特許出願日である同年7月14日までの間に,本件特許発明技術的範囲に属する濾過フィルターを製造して,川鉄西宮工場,日立金属安来工場,日新製鋼に販売していたことが認められるので,本件特許発明は,平成11年3月ころから本件特許の特許出願の前までに,被告により公然実施されていた発明であると認められる。
ウ原告の主張について(ア)P6の供述との矛盾原告は,被告において濾過フィルターの製造に携わったP6が,円環状のグラスウールをシャフトに20個詰めると述べたことについて,430mmの長さしかないシャフトに25mmの厚さのグラスウール20個を付けることはできないから,被告の主張は全体として信用できないと主張する。
しかし,シャフトにグラスウールを20個詰めるというのは,必ずしも,最初から全く圧縮しないまま20個を並べることを意味するとは限らない。
430mmのシャフトに厚さ25mmのグラスウールを20個詰めるためには,グラスウールの厚さが八十数パーセントに減少すれば足りるのであるから,P6が押すなどして少しずつ圧縮しながら詰めていったとか,20個より少ない数を詰めていったん少し圧縮し,更に追加して詰めて最終的にシャフト側に合計20個詰めたということも考えられるのであって,必ずしもP6の供述内容が被告の主張内容と矛盾するものではない。
(イ)書証及び供述の信用性について原告は,被告代表者のメモ(乙13)及び供述は信用できないと主張するが,原告が指摘する点は,上記メモ(乙13)はメモであるため簡潔な記載に止まっているものの,他の証拠を照らし合わせれば前記認定をすることができるものか,記載や供述が不自然とはいえないものか,又は供述の時点の記憶の些細な齟齬と考えられるものにすぎず,いずれも前記認定を覆すに足りるものではない。
(ウ)その他の主張について原告は,乙13には「シャフトのみ重量 325g」「ナット 45g」「フランヂ 15g」「製品 550g」と記載されていることから,グラスウールの重量は,製品の重量550gからシャフト325g,ナット45g,フランヂ15gの各重量を引いたもので,そうすると被告製濾過フィルターは構成要件Cを充足しなくなると主張する。
しかし,被告製濾過フィルターに用いられているドーナツ状ガラスウールの1個の重さは3.19gであり(計算式:(27.5 × 27.5-11 × 11)×3.14 × 25 × 0.000064=3.191496),70個の重量は223.3gであること(計算式:3.19 × 70=223.3)から,計算上,グラスウールの重量は製品全体の重量550gからシャフトの重量を控除した225gであったと理解すべきであるし(計算式:550-325=225),前記認定のとおり,他の関係証拠を併せても,やはり,上記のメモの記載のうち「シャフトのみ重量」は[グラスウール部分を除いた金属製品部分のみの重量]という趣旨であって,ナットやフランヂを含むものとして記載されていると読むべきであるから,原告の主張は理由がない。
(4)小括以上のとおり,本件特許発明は,本件特許の特許出願日である平成11年7月14日より前に,ユニオン(平成元年ころ),三共理化学(平成元年7月ころから平成6年ころ),被告(平成11年3月ころ以降)により,公然実施されていた発明であるから,特許法29条1項2号に該当し,同法123条1項2号の無効事由を有するので,本件特許は,特許無効審判により無効とされるべきものと認められるから,同法104条の3第1項により,原告は,被告に対し,本件特許に基づく権利を行使することができない。
2よって,本件請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山田知司
裁判官 高松宏之
裁判官 村上誠子