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関連審決 異議2003-73272
関連ワード 創作性(創作) /  進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  周知技術 /  公知技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  実質的に同一 /  技術的意義 /  発明の要旨認定 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  構成要件 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  取消決定 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10057号 特許取消決定取消請求事件
原告アルゼ株式会社
訴訟代理人弁護士津山齊,土居範行,菊地将人
訴訟復代理人弁護士池上慶
被告特許庁長官 肥塚雅博
指定代理人二宮千久,渡部葉子,大場義則,山本章裕
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/10/31
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が異議2003-73272号事件について平成18年1月10日にした異議決定中「特許第3443024号の請求項1,2,4に係る特許を取り消す。」との部分を取り消す。
第2事案の概要1特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「遊技機及びその制御装置」とする特許第3443024号発明(平成11年1月22日出願,平成15年6月20日設定登録。以下,この出願を「本件出願」,その特許を「本件特許」という。)の特許権者である(甲10)。
その後,本件特許について特許異議の申立て(異議2003-73272号事件として係属)がされ,原告は,上記審理の過程で,平成17年8月12日,本件出願の願書に添付した明細書の訂正請求をした(甲11)。特許庁は,平成18年1月10日,「訂正を認める。特許第3443024号の請求項1,2,4に係る特許を取り消す。同請求項3に係る特許を維持する。」との決定(以下,「決定」というときは,上記請求項1,2,4に係る特許取消しの関係部分を指す。)をし,同月30日,その謄本を原告に送達した。
2平成17年8月12日付けの明細書の訂正により訂正された明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1ないし4の記載(以下,請求項1に係る発明を「本件発明1」,請求項2に係る発明を「本件発明2」,請求項4に係る発明を「本件発明4」という。)【請求項1】複数の絵柄を移動表示させるとともに所定の有効ライン上に停止させることができる可変表示装置(本判決では,これを「構成要件A」という。以下,構成要件につき同様に呼称する。)と,遊技者の操作により移動表示中の前記絵柄を前記有効ライン上に停止させる停止手段(構成要件B)と,所定の開始信号に応じて乱数を抽出し,該乱数の抽出値と,一般遊技状態,ボーナス役の内部当たり状態及びボーナスゲーム状態の各状態に対応して設けられた,複数の抽選役および該抽選役の当選確率を特定する所定の確率テーブルとを照合することで,内部当たりか否かを決定する抽選処理手段(構成要件C)と,前記有効ライン上に停止した前記絵柄が,予め決定された入賞の組合せであるか否かを判定する入賞判定手段(構成要件D)と,前記抽選処理手段の抽選処理結果がボーナス役の内部当たりとなった状態であって前記入賞判定手段の判定結果が非入賞となったとき,次回のゲームに前記ボーナス役の内部当たり状態を持ち越すボーナス役内部当たり記憶手段と,を備えた遊技機(構成要件E)において,前記ボーナス役内部当たり記憶手段は,前記ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能であり,ボーナス役の内部当たりが持ち越された状態における前記抽選処理手段の抽選処理結果が更にボーナス役の内部当たりの場合には,前記持ち越し分のボーナス役の内部当たりに加え,前記抽選処理結果を記憶し(構成要件F),前記入賞判定手段の判定結果がボーナス役の入賞となったとき,前記ボーナス役内部当たり記憶手段に記憶されたボーナス役の内部当たりに基づいて所定のボーナスゲームを実行するとともに,前記ボーナス役内部当たり記憶手段に記憶されたボーナス役の内部当たりの数を1つ減少させ,前記ボーナス役内部当たり記憶手段に記憶した抽選結果として残りのボーナス役の内部当たりが存在することに基づいて,前記ボーナスゲーム状態が終了した後の抽選条件を,ボーナスゲーム状態が終了した直後の一般遊技状態における1ゲーム目のゲームからボーナス役の内部当たり状態に移行させるように変更するようになっており(構成要件G),かつ,ボーナス役の内部当たり中における抽選処理においては,一般遊技状態における抽選処理の確率テーブルとボーナス役の抽選確率が同一である確率テーブルを使用することを特徴とする遊技機(構成要件H)。
【請求項2】所定の開始信号に応じて遊技機の表示部で複数の絵柄を移動表示させるとともに,遊技者の停止操作に応じて該絵柄の移動表示を停止させる表示制御手段と,一般遊技状態,ボーナス役の内部当たり状態及びボーナスゲーム状態の各状態で,前記開始信号を受け付けたとき,複数の抽選役及び該抽選役の当選確率を特定する所定の確率テーブルに基づいて抽選処理を実行し,ボーナス役の内部当たりか否かを決定する抽選処理手段と,前記絵柄の移動表示が停止したとき,該停止した絵柄が前記ボーナス役の内部当たりに対応する入賞絵柄の組合せになったか否かを判定する入賞判定手段と,を備えた遊技機の制御装置において,前記抽選処理手段が,前記一般遊技状態と同一の確率テーブルに基づいて,前記ボーナス役の内部当たり状態における抽選処理を実行するとともに,該内部当たり状態下における前記抽選処理手段の抽選結果がボーナス役の内部当たりとなったとき該抽選結果を記憶するボーナス役内部当たり記憶手段を併有し,該ボーナス役内部当たり記憶手段に記憶した抽選結果として残りのボーナス役の内部当たりが存在することに基づいて,前記ボーナスゲーム状態が終了した後の抽選条件を,ボーナスゲーム状態が終了した直後の一般遊技状態における1ゲーム目のゲームからボーナス役の内部当たり状態に移行させるように変更するようにしたことを特徴とする遊技機の制御装置。
【請求項3】所定の開始信号に応じて遊技機の表示部で複数の絵柄を移動表示させるとともに,遊技者の停止操作に応じて該絵柄の移動表示を停止させる表示制御手段と,一般遊技状態,ボーナス役の内部当たり状態及びボーナスゲーム状態の各状態で,前記開始信号を受け付けたとき,複数の抽選役及び該抽選役の当選確率を特定する所定の確率テーブルに基づいて抽選処理を実行し,ボーナス役の内部当たりか否かを決定する抽選処理手段と,該抽選処理手段の抽選結果がボーナス役の内部当たりである場合であって前記絵柄の移動表示が停止したとき,該停止した絵柄が前記ボーナス役の内部当たりに対応する入賞絵柄の組合せになったか否かを判定する入賞判定手段と,を備えた遊技機の制御装置において,前記抽選処理手段が,前記ボーナス役の内部当たり状態及び前記ボーナスゲーム状態のうち少なくとも一つの利益状態における抽選処理を実行するとき,ボーナス抽選確率が0を超えるところの,前記一般遊技状態における抽選処理の確率テーブルよりボーナス抽選確率の低い確率テーブルを使用するとともに,該利益状態における抽選結果がボーナス役の内部当たりであるとき,該抽選結果を記憶するボーナス役内部当たり記憶手段を併有し,該ボーナス役内部当たり記憶手段に記憶した抽選結果として残りのボーナス役の内部当たりが存在することに基づいて,前記ボーナス役の内部当たりに対応するボーナスゲーム状態が終了した後の抽選条件を,ボーナスゲーム状態が終了した直後の一般遊技状態における1ゲーム目のゲームからボーナス役内部当たり状態に移行させるように変更したことを特徴とする遊技機の制御装置。
【請求項4】前記一般遊技状態及び前記ボーナス役の内部当たり状態で使用する確率テーブルが,小役,再遊技及び所定のボーナス抽選役を抽選可能で,前記ボーナスゲーム状態で使用する確率テーブルが,前記所定のボーナス抽選役以外の抽選役を抽選可能であることを特徴とする請求項2又は3に記載の遊技機の制御装置。
3決定の理由( ) 決定は,本件発明1,2,4は,いずれも,本件出願前の下記( )の各刊行1 2物に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明1,2,4に係る特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法(平成15年法律第47号による改正前のもの)113条2号に該当し,取り消されるべきものであるとした(別紙決定記載のとおり)。
( )刊行物2ア特開平6-335560号公報(甲1。以下「刊行物1」という。)イ平成5年6月1日株式会社白夜書房発行「月刊パチスロ必勝ガイド」平成5年6月号8頁ないし11頁(甲3。以下「刊行物3」という。)ウ平成3年10月28日株式会社双葉社発行「パチンコ攻略マガジン増刊10月28日号,パチスロ攻略マガジンNo.5」第3巻第14号通巻第38号の70頁ないし71頁(甲4。以下「刊行物4」という。)エ平成3年8月19日株式会社双葉社発行「パチンコ攻略マガジン増刊8月19日号,パチスロ攻略マガジンNo.4」第3巻第11号通巻第36号の88頁ないし89頁(甲5。以下「刊行物5」という。)オ平成5年5月1日株式会社白夜書房発行「パチスロ必勝ガイド1993年5月号」第4巻第7号通巻第30号の6頁ないし9頁(甲6。以下「刊行物6」という。)カ平成元年12月15日キャッツ・タイムス社発行「パチンコパチスロ攻略情報2」(初版)60頁ないし61頁(甲7。以下「刊行物7」という。)キ特開昭59-186580号公報(甲8。以下「刊行物8」という。)ク特開平9-173530号公報(甲9。以下「刊行物9」という。)( )本件発明1について3ア本件発明1と引用発明1との対比(ア)一致点複数の絵柄を移動表示させるとともに所定の有効ライン上に停止させることができる可変表示装置と,遊技者の操作により移動表示中の前記絵柄を前記有効ライン上に停止させる停止手段と,所定の開始信号に応じて乱数を抽出し,該乱数の抽出値と,一般遊技状態,ボーナス役の内部当たり状態及びボーナスゲーム状態の各状態に対応して設けられた,複数の抽選役および該抽選役の当選確率を特定する所定の確率テーブルとを照合することで,内部当たりか否かを決定する抽選処理手段と,前記有効ライン上に停止した前記絵柄が,予め決定された入賞の組合せであるか否かを判定する入賞判定手段と,前記抽選処理手段の抽選処理結果がボーナス役の内部当たりとなった状態であって前記入賞判定手段の判定結果が非入賞となったとき,次回のゲームに前記ボーナス役の内部当たり状態を持ち越すボーナス役内部当たり記憶手段と,を備えた遊技機において,前記入賞判定手段の判定結果がボーナス役の入賞となったとき,前記ボーナス役内部当たり記憶手段に記憶されたボーナス役の内部当たりに基づいて所定のボーナスゲームを実行するとともに,前記ボーナス役内部当たり記憶手段に記憶されたボーナス役の内部当たりの数を更新させるようになっている,遊技機。
(イ)相違点ボーナス役内部当たり記憶手段が,本件発明1は,ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能であり,ボーナス役の内部当たりが持ち越された状態における抽選処理手段の抽選処理結果が更にボーナス役の内部当たりの場合には,前記持ち越し分のボーナス役の内部当たりに加え,前記抽選処理結果を記憶し,ボーナスゲームを実行すると前記ボーナス役内部当たり記憶手段に記憶されたボーナス役の内部当たりの数を1つ減少させる構成を備えているのに対し,引用発明は,ボーナス役の内部当たりを1つのみ記憶可能であり,本件発明1に係る前記構成を備えていない点(相違点A)。
本件発明1が,ボーナスゲームを実行すると,残りのボーナス役の内部当たりが存在することに基づいて,ボーナスゲーム状態が終了した後の抽選条件を,ボーナスゲーム状態が終了した直後の一般遊技状態における1ゲーム目のゲームからボーナス役の内部当たり状態に移行させるように変更する構成を備えているのに対し,引用発明が,本件発明1に係る前記構成を備えていない点(相違点B)。
ボーナス役の内部当たり中における抽選処理において使用する確率テーブルが,一般遊技状態における抽選処理の確率テーブルと比較して,本件発明1は,ボーナス役の抽選確率が同一であるのに対し,引用発明は,ボーナス役の抽選確率が異なる点(相違点C)。
ウ相違点についての認定判断(ア)相違点Aについて「引用発明に示される,ボーナス役の内部当たりを1つのみ記憶可能な構成に代えて,前記周知技術A(判決注:「ボーナス役内部当たり記憶手段は,ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能である」との技術。)を採用して,前記相違点Aに係る本件発明1のように構成することは,当業者が容易に想到できるものである。」(イ)相違点Bについて「引用発明における,ボーナスゲーム状態が終了した直後の一般遊技状態において,前記周知技術B(判決注:相違点Bに係る本件発明1の構成)を採用して,前記相違点Bに係る本件発明1のように構成することは,当業者が容易に想到できるものである。」(ウ)相違点Cについて「引用発明に示される,ボーナス役の内部当たり中における抽選処理においては,一般遊技状態における抽選処理の確率テーブルとボーナス役の抽選確率が異なる確率テーブルを使用する構成に代えて,一般遊技状態及びボーナス役の内部当たり中において同一の抽選処理の確率テーブルを使用する前記周知技術Cを採用して,前記相違点Cに係る本件発明1のように構成することは,当業者が容易に想到できるものである。」(エ)本件発明1の作用効果について「本件発明1の作用効果は,引用発明及び前記周知技術A乃至Cに基づいて,当業者が容易に予測できるものである。」( )本件発明2について4ア本件発明2と引用発明との対比(ア)一致点「所定の開始信号に応じて遊技機の表示部で複数の絵柄を移動表示させるとともに,遊技者の停止操作に応じて該絵柄の移動表示を停止させる表示制御手段と,一般遊技状態,ボーナス役の内部当たり状態及びボーナスゲーム状態の各状態で,前記開始信号を受け付けたとき,複数の抽選役及び該抽選役の当選確率を特定する所定の確率テーブルに基づいて抽選処理を実行し,ボーナス役の内部当たりか否かを決定する抽選処理手段と,前記絵柄の移動表示が停止したとき,該停止した絵柄が前記ボーナス役の内部当たりに対応する入賞絵柄の組合せになったか否かを判定する入賞判定手段と,を備えた遊技機の制御装置において,前記抽選処理手段が,確率テーブルに基づいて,前記ボーナス役の内部当たり状態における抽選処理を実行するとともに,前記抽選処理手段の抽選結果がボーナス役の内部当たりとなったとき該抽選結果を記憶するボーナス役内部当たり記憶手段を併有する遊技機の制御装置。」(イ)相違点ボーナス役の内部当たり状態における抽選処理が,本件発明2は,一般遊技状態と同一の確率テーブルに基づいて実行されるのに対し,引用発明は,一般遊技状態と異なる確率テーブルに基づいて実行される点(相違点D)。
ボーナス役内部当たり記憶手段が,本件発明2は,内部当たり状態下における抽選処理手段の抽選結果がボーナス役の内部当たりとなったとき該抽選結果を記憶する構成を備えているのに対し,引用発明は,本件発明2に係る前記構成を備えていない点(相違点E)。
抽選処理手段が,本件発明2は,ボーナス役内部当たり記憶手段に記憶した抽選結果として残りのボーナス役の内部当たりが存在することに基づいて,ボーナスゲーム状態が終了した後の抽選条件を,ボーナスゲーム状態が終了した直後の一般遊技状態における1ゲーム目のゲームからボーナス役の内部当たり状態に移行させるように変更する構成を備えているのに対し,引用発明は,本件発明2に係る前記構成を備えていない点(相違点F)。
イ相違点についての判断(ア)相違点Dについて「引用発明に示される,ボーナス役の内部当たり中における抽選処理においては,一般遊技状態における抽選処理の確率テーブルとボーナス役の抽選確率が異なる確率テーブルを使用する構成に代えて,一般遊技状態及びボーナス役の内部当たり中において同一の抽選処理の確率テーブルを使用する前記周知技術C(判決注:相違点Cに係る本件発明1の構成)を採用して,前記相違点Dに係る本件発明2のように構成することは,当業者が容易に想到できるものである。」(イ)相違点Eについて「相違点Eに係る本件発明2の構成は,相違点Aに係る本件発明1の構成と比較すると,相違点Aに係る本件発明1の構成に実質的に含まれるものであるところ,前記相違点Aの検討にて示したように,前記相違点Aに係る本件発明1の構成は,周知技術A(判決注:「ボーナス役内部当たり記憶手段は,ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能である」との技術。)である。そうすると,引用発明において,前記周知技術Aを採用して,前記相違点Eに係る本件発明2のように構成することは,当業者が容易に想到できるものである。」(ウ)相違点Fについて「相違点Fに係る本件発明2の構成は,相違点Bに係る本件発明1の構成と比較すると,相違点Bに係る本件発明1の構成と実質的に同一であるところ,前記相違点Bの検討にて示したように,前記相違点Bに係る本件発明1の構成は,周知技術Bである。そうすると,引用発明において,前記周知技術Bを採用して,前記相違点Fに係る本件発明2のように構成することは,当業者が容易に想到できるものである。」(エ)本件発明2の作用効果について「本件発明2の作用効果は,引用発明及び前記周知技術A乃至Cに基づいて,当業者が容易に予測できるものである。」( )本件発明45ア本件発明4と引用発明との対比(ア)一致点一般遊技状態及びボーナス役の内部当たり状態で使用する確率テーブルが,小役,再遊技を抽選可能で,前記ボーナスゲーム状態で使用する確率テーブルが,前記所定のボーナス抽選役以外の抽選役を抽選可能である遊技機の制御装置。
(イ)相違点ボーナス役の内部当たり状態で使用する確率テーブルが,本件発明4は,所定のボーナス抽選役を抽選可能なものであるのに対し,引用発明は,本件発明4に係る前記構成を備えていない点(相違点J)。
イ相違点についての判断(ア)相違点Jについて「相違点Jに係る本件発明4の・・・構成は,相違点Dに係る本件発明2の・・・構成と実質的に同一であるところ,前記相違点Dの検討にて示したように,前記相違点Dに係る本件発明2の構成は,周知技術Cである。そうすると,引用発明において,前記周知技術Cを採用して,前記相違点Jに係る本件発明4のように構成することは,当業者が容易に想到できるものである。」(イ)本件発明4の作用効果について「本件発明4の作用効果は,引用発明及び前記周知技術A乃至Cに基づいて,当業者が容易に予測できるものである。」第3原告主張の決定取消事由決定は,本件発明1と引用発明との相違点AないしCに係る各技術事項が,いずれも,刊行物3ないし9に基づき周知であると誤認し(取消事由1〜3),その結果,本件発明1と引用発明との相違点AないしC,本件発明2と引用発明との相違点DないしF,本件発明4と引用発明との相違点Jについて,引用発明及び周知技術に基づく容易想到性の判断を誤ったものである(取消事由4〜6)から,違法として取り消されるべきである。
1取消事由1(相違点Aに係る構成が周知であるとの誤認)( ) 決定は,相違点Aに関し,「本件発明1の前記相違点Aに係る『ボーナス役1の内部当たりを2つ以上記憶可能であり,ボ-ナス役の内部当たりが持ち越された状態における抽選処理手段の抽選処理結果が更にボーナス役の内部当たりの場合には,前記持ち越し分のボーナス役の内部当たりに加え,前記抽選処理結果を記憶し,ボーナスゲームを実行すると前記ボーナス役内部当たり記憶手段に記憶されたボーナス役の内部当たりの数を1つ減少させるボーナス役内部当たり記憶手段』という構成は,周知技術(例えば,刊行物3,刊行物4,刊行物5,刊行物6,刊行物8,刊行物9参照。以下『周知技術A』という。)である。」(18頁17行〜24行)と認定したが,誤りである。
( ) 本件発明1は,その特許請求の範囲に,「前記抽選処理手段の抽選処理結果 2がボーナス役の内部当たりとなった状態であって前記入賞判定手段の判定結果が非入賞となったとき,次回のゲームに前記ボーナス役の内部当たり状態を持ち越すボーナス役内部当たり記憶手段と,を備えた遊技機において,前記ボーナス役内部当たり記憶手段は,前記ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能であり」(構成要件E,F)と記載されているとおり,相違点Aにおいて,「ボーナス役の内部当たり状態を持ち越すボーナス役内部当たり記憶手段」(構成要件E)をもって,「前記ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能であ」(構成要件F)るようにしたこと,すなわち,次回以降に抽選されるボーナス役内部当たりの格納手段としても用いることを特定事項とするものである。このことは,本件発明1の上記記載から明白であり,かつ,刊行物1,3ないし9に全く開示されていない新規事項である。
本件出願当時,ボーナス役の内部当たり状態中に,さらにボーナス役の内部当選を行い,これを持ち越し中のボーナス役内部当たり記憶手段に記憶するスロットマシンは存在せず,また,少なくとも適法な回胴式遊技機において,ボーナス役内部当たり中に,重ねてボーナス役の再抽選を行うスロットマシンも存在しない。かえって,例えば,特開平10-165564号公報(甲16)をみると,図7の実施例においては,ボーナス内部当たり中の場合には抽選が実行されていないなどの記載があり,ボーナス役内部当たり中の再抽選は行わないことが当業界の技術常識であったものである。
( ) 決定は,「刊行物3には,『裏トライアンフ』なる機種について,スタート3して最初に通常設定値にしたがった各役の抽選を行い,ビッグの抽選に合格すると,貯金か否かの判定に進み,貯金が選択されると貯金カウンターを+1し,目標貯金数に到達していなければ,貯金が決定され,再び最初に戻り,通常設定値にしたがった各役の抽選を行い,設定された目標貯金数に到達すると貯金の放出が始まり,連チャンビッグフラグが成立し,連チャン残り回数を-1するものが記載されている」(18頁25行〜31行)から,刊行物3に周知技術Aが開示されていると認定した。
しかし,刊行物3には,初回のボーナス役内部当たりを格納する記憶手段が,次回以降に抽選されるボーナス役内部当たりの格納手段と同じものであることを示す記載は存在しないのみならず,かえって,「貯金が選択されると貯金カウンター(貯金の数を記憶)を+1」(10頁第1段)するとの記載があり,また,「これが裏トライアンフの連チャンの仕組みだ」という見出しのフローチャート(8頁〜9頁)によれば,「貯金設定に応じた貯金抽選を行う」の処理に続く「貯金か?」の識別子がNOの場合には「単発BIGフラグ成立」の処理がされるが,その際に,当該単発BIGフラグが格納されるボーナスフラグ格納領域と「貯金カウンター」とは別個のものである。
被告は,上記の点を認めつつ,刊行物3に記載の「裏トライアンフ」というパチスロ機(以下「甲3パチスロ機」という。)について,これを貯金確率が0%となるように貯金設定して動作させた場合には,「BIGフラグは成立したか」がYESのときに「貯金設定に応じた貯金抽選を行う」ことにより必ず「貯金か?」がNOとなって「単発BIGフラグ成立」となるとし,2つの格納領域を含めてボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能であることにおいて,本件発明1のボーナス役内部当たり記憶手段の構成と何ら相違するものではないと主張する。
しかし,刊行物3には,「ビッグの抽選に合格すると,貯金か否かの判定に進む。
この確率は,前述のように貯金設定値で変わる。ここで貯金でなければ,ビッグのフラグが成立。当たり前だが,このビッグは連チャンしない」(9頁第3段)と記載されているから,第2回目のBIGフラグを次々回に持ち越すという被告の主張は,明らかに失当である。
( ) 刊行物8には,ヒットリクエストカウンタにおいて,ヒットリクエストが発4生すると「+1」の加算処理がされ,ヒットすると「-1」の減算処理がされ,ヒットしない場合には,リクエストカウンタが零となるまでヒットリクエストが発生し続け,このためペイアウト率は一定に保たれることが開示されているのみであって,ボーナス役の内部当たり記憶手段においてボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶する技術事項は,一切開示されていない。
また,本件出願時,公安委員会規則による制限の下で,ボーナス役の内部当たり中に再度ボーナス役の抽選を行う技術常識(持越し中のボーナス役内部当たり記憶手段に2つ以上のボーナス内部当たりを記憶可能とすること)が存在しなかったから,刊行物8において,2つ以上のボーナス役内部当たりを記憶する領域が開示されているとはいえない。
さらに,刊行物8に開示されたスロットマシンは,4コマずれの範囲内における当選図柄の引込みのアシストが機能するものであるから,図柄配列数の少ないボーナス役を仮に取りこぼした場合,初心者であってもその後せいぜい5〜6ゲーム遊技しているうちに入賞を獲得でき,中・上級者であれば持ち越された大ヒットリクエスト(ボーナスフラグ)を更に取りこぼす確率は限りなくゼロに近い。また,いったんボーナス役(大ヒット)に内部当選した場合には,数ゲームのうちに当該当選フラグは必然的に消化され,次に大ヒットが巡ってくるのは,平均300ゲーム以上も後であって,大ヒットリクエストの持ち越し中に重ねて大ヒットリクエストが発生すること自体がおよそ想定し難いのである。したがって,刊行物8に接した本件出願時の当業者が,被告のいうように,同刊行物に,ボーナス役(大ヒット)の内部当たりが発生する「毎に」ボーナス役のリクエストカウンタを「逐次」+1する(ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能とする)構成が開示されていると理解することはあり得ない。
( ) 加えて,刊行物8に開示されたスロットマシンは,いわゆる前段判定方式の5ものであり,スタートレバーを操作した時点で,ヒットリクエストの入賞役を発生させるか否かを内部的に決定し,その決定に係る入賞役あるいは外れに対応する図柄が揃うようにリールが停止するタイミングを機械内部で制御するというものであり,ヒットリクエストの入賞役の決定を得たにもかかわらず入賞できなかった場合に,その入賞役内部当たり状態を次回以降のゲームにも持ち越すことにし,入賞するまで内部当たり状態を維持することで,初心者でもボーナス役が入賞しやすいようにしたものである。そして,ボーナス役内部当たり状態を持ち越すという技術を実現する方法として,ボーナス役内部当たり状態となると「+1」とし,入賞した場合に零にすることにしたのであって,ここにいう「1」という数字に意味があるわけではなく,内部当たり状態であることを示す目印にすぎない。刊行物8に示される「0」と「1」は,内部当たり状態かどうかを表す信号であり,それ以外の「2」とか「3」という数字を観念する余地はない。それゆえ,刊行物8には,「ボーナスフラグの有無(0 or 1)がストアされ」(7頁左下欄下から行4目)というように,「0」又は「1」の有無という表現となっているのである。
( ) 刊行物4に記載される「ワイルドキャッツ」というパチスロ機,刊行物5,66に記載の「ワイルドキャッツ」等が,甲3パチスロ機と同様であることは,被告も認めるところであり,これらのパチスロ機もまた,甲3パチスロ機と同様,持ち越されたビッグボーナスフラグの格納領域と,貯留が抽選された場合の貯留領域とを別個の格納領域として有するものであり,次回以降に抽選されるボーナス役内部当たりの格納手段としても用いるものではなく,本件発明1の「ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能」とする技術事項を開示していない。
刊行物9には,その明細書の発明の詳細な説明に,「この発明は,スロットマシンに関し,特に特別遊技,例えばいわゆるビッグボーナスの継続中に,さらに次回のビッグボーナスの抽選を行わせるようにしたものである。」(段落【0001】)と記載されており,その「いわゆるビッグボーナスゲームの継続中に,さらに次回のビッグボーナスの抽選を行わせるようにしたもの」との記載によれば,次回のビッグボーナスゲームの遊技に移行するための権利が抽選されるのはボーナスゲームの実行中であり,「ボーナス役内部当たり状態」でさえも開示されていない。
( ) したがって,上記各刊行物を根拠として,相違点Aに係る本件発明1の構成7が周知である(周知技術A)とした決定の認定は,誤りである。
2取消事由2(相違点Bに係る構成が周知であるとの誤認)( ) 決定は,相違点Bについて,「ボーナスゲームを実行すると,残りのボーナ1ス役の内部当たりが存在することに基づいて,ボーナスゲーム状態が終了した後の抽選条件を,ボーナスゲーム状態が終了した直後の一般遊技状態における1ゲーム目のゲームからボーナス役の内部当たり状態に移行させるように変更する」(19頁30行〜34行)という構成は,例えば,刊行物3ないし6,8等から周知であるとするが,誤りである。
( ) 刊行物3ないし6は,いずれも,せいぜい,ボーナスゲーム終了後に2.323ないし3.91%の確率で再度ボーナスフラグの成立状態にするかどうかを抽選するパチスロ機が想到されるにとどまるものであって,相違点Bにおいて,ボーナスゲームが終了した直後の1ゲーム目から,ボーナス役内部当たり記憶手段における残りのボーナスフラグの存在に基づいて,抽選条件を100%「ボーナス役の内部当たり状態に移行させる」という構成を開示するものではない。
( ) また,前記1( )のとおり,刊行物8には,「ボーナス役の内部当たりを234つ以上記憶可能であ」(構成要件F)る記憶手段はもとより,ボーナス役の内部当たり状態(適切な操作が行われればボーナス入賞できる状態)を持ち越すことさえも記載されておらず,したがって,2つ以上記憶されたボーナス役内部当たりの連続放出に関する技術事項が開示されていない。
この点につき,決定は,「刊行物8には,ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能としたスロットマシンについて,最終的にボーナス役の内部当たりが0になるまでボーナス役の内部当たりが発生することが記載されており,ボーナスゲーム状態が終了した直後のゲームからボーナス役の内部当たり状態に移行させることについては明示的に記載されていないが,前記刊行物8の記載に接した当業者は,実行中のボーナスゲーム状態が終了する毎に直後のゲームから記憶されている残りのボーナス役の内部当たりをもってボーナス役の内部当たり状態に移行させるものと理解あるいは想定することは明らかである」(19頁下から2行〜20頁6行)とする。
しかし,「ボーナスゲーム状態が終了した直後のゲームからボーナス役の内部当たり状態に移行させることについて明示的に記載されていない」場合,ボーナスゲーム終了後の1ゲーム目の抽選結果を連続してボーナス役の内部当たり状態とする本件発明1の構成も考えられれば,これとは全く異なる抽選結果,例えば,刊行物3ないし7に開示されている「再度の確率抽選における当選を条件にボーナスフラグ成立状態に移行させる」構成,さらには,「抽選履歴に書き込まれたボーナスフラグを数ゲームは内部抽選結果としてセットせず,代わりに異種のゲーム(例えば目押し即止めゲーム)の当選フラグをセットする」構成等も考えられるのである。
したがって,ボーナスゲーム状態終了後のゲームにおける抽選結果について何らの記載もないから,刊行物8に接した当業者が,これをもって,相違点Bに係る本件発明1の構成を開示したものと解することはできない。
( ) 以上のとおり,上記各刊行物を根拠として,相違点Bに係る本件発明1の構4成が周知であるとした決定の認定が誤りであることは明白である。
3取消事由3(相違点Cに係る構成が周知であるとの誤認)( ) 決定は,本件発明1の前記相違点Cに係る「ボーナス役の内部当たり中にお1ける抽選処理においては,一般遊技状態における抽選処理の確率テーブルとボーナス役の抽選確率が同一である確率テーブルを使用する」(20頁23行〜25行)という構成が,例えば,刊行物3ないし6,8,9等により周知である旨認定した。
( ) しかし,決定は,相違点Cに係る本件発明1の構成の認定において,「刊行2物8には,単一の確率テーブルを抽選処理に使用することが記載されており,ボーナス役の内部当たり中における抽選処理において,一般遊技状態における抽選処理の確率テーブルとボーナス役の抽選確率が同一である確率テーブルを使用することは明示的に記載されていない」(20頁28行〜32行)ことを認めながら,「刊行物8の記載に接した当業者は,ボーナス役の内部当たり中及び一般遊技状態において特に区別することなく同一の抽選処理の確率テーブルを使用するものであると理解あるいは想定することは明らかである」(同頁同行〜34行)とし,相違点Cに係る本件発明1の構成は,相違点Cを開示していない文献から「想定」すなわち「容易に想到できる」と推定している。その上で,さらに,推定事実である「相違点C」を引用発明に「容易に適用できる」という二重の推定によって,相違点Cの想到容易性を論理付けるという結論先行の無理のある判断に陥っているのである。
( ) 前記1( )のとおり,本件出願時には,公安委員会規則による制限の下で,34ボーナス役の内部当たり中に再度ボーナス役の抽選を行う技術常識(持越し中のボーナス役内部当たり記憶手段に2つ以上のボーナス内部当たりを記憶可能とすること)が存在しなかったから,刊行物8記載の技術についても,ボーナスの内部当たり役の持ち越しをするだけのものであって,ボーナス役内部当たり状態において,再度ボーナス役の抽選を行うものではない。そうであるならば,刊行物8に開示されている技術においては,ボーナス役内部当たり状態において,一般遊技状態における抽選処理の確率テーブルとボーナス役の抽選確率が同一である確率テーブルを使うということはあり得ないのである。これに対し,本件発明では,ボーナス役1内部当たりをストックするための記憶手段を備えているから,ボーナス役内部当たり状態でおいてボーナス役の抽選をすることに何の不都合もない。
( ) したがって,相違点Cに係る本件発明1の構成が周知であるとした決定の認4定は,誤りである。
4取消事由4(本件発明1についての容易想到性の判断の誤り)( ) 決定は,本件発明1と引用発明の相違点AないしCについて,それぞれ周知1であるとし,これに基づき,相違点AないしCに係る本件発明1の構成がいずれも容易想到であると判断しているが,周知技術の認定が誤りであることは,上記1ないし3において述べたとおりであり,上記誤りは,本件発明1に係る特許を取り消した決定の結論に影響を及ぼすものである。
( ) 仮に,相違点AないしCに係る本件発明1の構成が周知であるとしても,本2件発明1は,新規の技術であるストック方式を採用するものである上,顕著な作用効果を奏するから,進歩性が否定されるべきではない。
ストック方式とは,ボーナス役が内部当たりし,かつ,停止ボタンが有効なタイミングで押されても,リールの回転を制御し,当然にはボーナス役に相当する図柄が揃わないように抑制して,ボーナス役を蓄積するようにした上で,所定の遊技作動図柄が揃ったときに,上記抑制を解除してボーナスゲーム状態に移行し,ボーナスの払い出しが行われ,また,ボーナス役内部当たり(ボーナスフラグ)の蓄積があることを条件に,再抽選により,直ちに再度ボーナス役の内部当たり状態に移行することができるようにしたものであって,ボーナスゲーム状態に移行した場合,払い出しの大きさが全く固定されていないことに特徴がある。本件発明1は,このストック方式を採用するものである。
本件発明1においては,ボーナス役内部当たりを特別な態様で蓄積(ストック)する構成としており,これと,蓄積されたボーナス役内部当たりをいかなるタイミングで払い出すかという抑制・解除技術とを組み合わせることにより,ストック方式によるパチスロ機を実現するところに特徴がある。ボーナスの払い出しの抑制及び解除の技術については,別途,特許出願をし権利化されているが,その蓄積の方式についても進歩性があるものである。
このように,ストック方式を採用する本件発明1は,ボーナス役内部当たりをいつでも立てた状態におき,常にボーナスを払い出せる状況を作り出しておくとともに,いかなる遊技状態でもボーナス役の内部抽選を行って,ボーナス役の内部当たりが得られた場合にそれを蓄積し,これにより大きな塊としての払い出しを可能にし,また,その払い出しの塊の大きさを変動させることによって,遊技者に多大な期待感を与えることを目的としている。
一方,刊行物8記載の技術は,前記のとおり,ボーナスフラグの持ち越しに関する技術であり,ボーナス役が内部当たりをした場合,その得たチャンスを入賞するまで与え続けることを目的としているにすぎず,本件発明1とでは,技術的意義もその目的も全く異なるものである。
したがって,本件発明1は,刊行物8と比較しても,顕著な作用効果を奏するのであって,進歩性が否定されるべきではない。
5取消事由5(本件発明2についての容易想到性の判断の誤り)決定は,本件発明2と引用発明の相違点DないしFについて,それぞれ周知であるとし,これに基づき推考容易であると判断しているが,周知技術の認定が誤りであることは上記4と同様であり,上記誤りは,本件発明2に係る特許を取り消した決定の結論に影響を及ぼすものである。
6取消事由6(本件発明4についての容易想到性の判断の誤り)決定は,本件発明4と引用発明の相違点Jについて,相違点Dと実質的に同一であるとし,その相違点は,周知技術(判決注:相違点Cに係る本件発明1の構成)に基づき推考容易であると判断したが,上記周知技術の認定が誤りであることは,前記3において述べたとおりである。上記誤りは,本件発明4に係る特許を取り消した決定の結論に影響を及ぼすものである。
第4被告の反論決定の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1取消事由1(相違点Aに係る構成が周知であるとの誤認)に対して( ) 原告は,本件発明1は,相違点Aにおいて,「ボーナス役の内部当たり状態を1持ち越すボーナス役内部当たり記憶手段」(構成要件E)をもって,「前記ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能であ」(構成要件F)るようにしたこと,すなわち,次回以降に抽選されるボーナス役内部当たりの格納手段としても用いることを特定事項とするものであると主張する。
しかし,本件発明1の特許請求の範囲には,「前記抽選処理手段の抽選処理結果がボーナス役の内部当たりとなった状態であって前記入賞判定手段の判定結果が非入賞となったとき,次回のゲームに前記ボーナス役の内部当たり状態を持ち越すボーナス役内部当たり記憶手段と,を備えた遊技機において,前記ボーナス役内部当たり記憶手段は,前記ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能であり」(構成要件E,F)と記載されているように,その「ボーナス役内部当たり記憶手段」は,ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能であることを要件とするのみであって,初回のボーナス役内部当たりを格納する記憶手段が,次回以降に抽選されるボーナス役内部当たりの格納手段として用いられることを要件とするものではない。
( ) 刊行物4に記載される「ワイルドキャッツ」というパチスロ機は,刊行物3記2載の「裏トライアンフ」と同様であり,また,刊行物5記載の「ワイルドキャッツ」というパチスロ機,刊行物6記載の3種のパチスロ機におけるボーナス役の内部当たりを記憶する手段の構成も,刊行物3記載の「裏トライアンフ」と同様の構成であるから,ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能としている構成において,本件発明1のボーナス役内部当たり記憶手段の構成と何ら相違するものではない。
刊行物9には,スロットマシンについて,ビッグボーナスの遊技中も,次回のビッグボーナスに移行させるか否かの抽選を行い,抽選結果がビッグボーナスに移行させるもの,すなわち,ボーナス役の内部当たりである場合には,次回のビッグボーナスの遊技に移行するための権利が与えられ,実際に停止表示された表示態様がビッグボーナスに移行させるものである場合には,次回のビッグボーナスに移行させることが記載されており,次回のビッグボーナスの遊技に移行するための権利が遊技中に複数回にわたって発生した場合には,それらがすべて保存されるとみるのが自然であるから,本件発明1における,ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能としている構成と何ら相違するものではない。
( ) 原告は,刊行物3には,初回のボーナス役内部当たりを格納する記憶手段が,3次回以降に抽選されるボーナス役内部当たりの格納手段と同じものであることを示す記載は存在しない旨主張する。
甲3パチスロ機では,ボーナス役の内部当たりを個別に記憶するものとしての単発BIGフラグの格納領域と,ボーナス役の内部当たりを貯金する貯金カウンターの格納領域とが別個のものとして設定されていることは,原告主張のとおりであるが,前記2つの格納領域を含めてボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能であることにおいて,本件発明1のボーナス役内部当たり記憶手段の構成と何ら相違するものではない。
また,甲3パチスロ機の貯金確率が0%となるように貯金設定した状況において,ゲームを継続的に行うことでボーナス役の内部当たりが複数回発生したときの遊技機の動作をみると,まず,現在のゲームにおいて「通常設定値にしたがった各役の抽選を行う」ことで「BIGフラグは成立したか」YESのときには,貯金が行われない設定の下で第1番目の「単発BIGフラグ成立」となり,これによりボーナス役の内部当たりの数が1つ記憶された状態が発生し,当該状態下の絵柄の停止操作において非入賞となったときには前記ボーナス役の内部当たりを持ち越して次回のゲームに移行することになる。そして,続く次回のゲームにおいて「通常設定値にしたがった各役の抽選を行う」ことで「BIGフラグは成立したか」NOのときには,前回からの持ち越し分のボーナス役の内部当たりの状態下で絵柄の停止操作がされることになり,また,前記「通常設定値にしたがった各役の抽選を行う」ことで「BIGフラグは成立したか」YESのときには,貯金が行われない設定の下で,第2番目の「単発BIGフラグ成立」となり,これによりボーナス役の内部当たりの数が2つ記憶された状態下で絵柄の停止操作がなされることになり,非入賞となったときには第1番目のボーナス役の内部当たりに加え第2番目のボーナス役の内部当たりをも次々回以降のゲームに持ち越すことになる。
そうすると,甲3パチスロ機において,貯金確率の設定を0%にした場合に成立するBIGフラグは,いずれも単発BIGフラグとして処理されるため,ゲームを継続的に行うことで複数発生したときのボーナス役の内部当たりは,すべて単発BIGフラグの集合により形成されることになるから,前記単発BIGフラグの集合をボーナス役の内部当たりとして記憶する記憶手段において,ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能な構成となることは明らかである。
( ) 刊行物8には,スロットマシンについて,大ヒットを含む入賞ランク別のヒ 4ットリクエスト,すなわちボーナス役の内部当たりが発生すると,各ヒットリクエストをカウントするリクエストカウンタを+1することが記載されており,前記リクエストカウンタは,実際にヒットしない場合には,ヒットリクエストが発生する毎にリクエストカウンタを逐次+1することになるから,本件発明1における,抽選処理結果がボーナス役の内部当たりとなった状態であって入賞判定手段の判定結果が非入賞となったとき,次回のゲームに前記ボーナス役の内部当たり状態を持ち越すボーナス役内部当たり記憶手段によって,ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能としている構成と何ら相違するものではない。
( ) 原告は,刊行物8に開示されたスロットマシンは前段判定方式であり,ボー5ナス役内部当たり状態を持ち越すという技術を実現する方法として,ボーナス役内部当たり状態となると「+1」とし,入賞した場合に零にすることにしたのであって,ここにいう「1」という数字に意味があるわけではなく,内部当たり状態であることを示す目印にすぎない旨主張する。
しかし,刊行物8の「リクエストカウンタが+1され・・・-1の減算処理が行われ・・・最終的にリクエストカウンタが零になるまでヒットリクエストが発生し」(17頁左上欄第4段落)との記載からすると,刊行物8にボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能な構成が開示されていることは明らかである。要するに,上記記載は,大ヒットリクエストの2つ以上の持ち越しなど特に必要がないとした当時の常識にとらわれない新規な事項が開示されているものとみることができる。
また,原告は,刊行物8に示される「0」と「1」は,内部当たり状態かどうかを表す信号であり,それ以外の「2」とか「3」という数字を観念する余地はなく,それゆえ,刊行物8には,「ボーナスフラグの有無(0 or 1)がストアされ」(7頁左下欄下から行目)というように,「0」又は「1」の有無という表現と4なっている旨主張する。
しかし,上記記載は,当該ゲーム結果においてボーナスゲームが発生したか否かを示すフラグとして「0または1」の値をとることをいっているのであって,リクエストカウンタについてのものではない。「リクエストカウンタ」が多数の値を計数可能なものであるとの意味を有することは,補正前の「すなわち,前述した入賞確率テーブル中の数値それぞれに相当する数値をRAM上にストアしておき,該当したヒットリクエストが発生した際に,その数値に-の減算処理を行なう。こうし1て特定のリクエストカウンタが“0”になると,それ以後の該当するヒットリクエストが発生してもこれが無効化され,ペイアウト率は一定に保たれることになる。
これは例えば第11図に示したフローチャートにより処理される。」(5頁左下欄最終段落〜右下欄第1段落)の記載において,その第11図に,大ヒット,中ヒット,小ヒットの各ヒットリクエストが発生する毎に,該当するリクエストカウンタに対して-1の減算処理を繰り返し行うものであるから,「リクエストカウンタ」は,多数の値を計数可能なカウンタであることが明らかである。
( ) したがって,「引用発明に示される,ボーナス役の内部当たりを1つのみ記6憶可能な構成に代えて,前記周知技術Aを採用して,前記相違点Aに係る本件発明1のように構成することは,当業者が容易に想到できるものである。」とした決定の判断に誤りはない。
2取消事由2(相違点Bに係る構成が周知であるとの誤認)に対して( ) 原告は,刊行物3ないし6は,いずれも,せいぜい,ボーナスゲーム終了後1に2.33ないし3.91%の確率で再度ボーナスフラグの成立状態にするかどうかを抽選するパチスロ機が想到されるにとどまる旨主張する。
しかし,当業者が上記刊行物の記載に接したときに,その技術常識を背景にその記載内容を理解することによって,当該刊行物が主題とする事項の作動原理を含む基本的技術思想を客観的に把握することができるから,上記刊行物記載の各種パチスロ機の作動原理として,ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能であることを前提に,実行中のボーナスゲーム状態が終了したことを条件に,記憶されている残りのボーナス役をもって内部当たり状態に移行させるようにしたパチスロ機の構成をみてとることは,当業者の理解の範疇というべきものである。
( ) 刊行物8には,前記1( )で述べたように,ボーナス役の内部当たりが発生2 4すると,各ヒットリクエストをカウントするリクエストカウンタを+1することによって,ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能としている構成が開示されており,これを前提に,ボーナスゲーム状態が終了した直後のゲームにおけるボーナス役の内部当たり状態の処理を理解しようとすれば,ボーナスゲーム終了後の1ゲーム目からボーナス役の内部当たり状態に移行させる構成が最も単純明快なものとして当業者が理解するものといえる。
3取消事由3(相違点Cに係る構成が周知であるとの誤認)に対して( ) 刊行物3には,貯金が決定されるか,あるいは単発BIGフラグが成立した1場合には,再びスタートに戻り,通常設定値に従った各役の抽選を行うことが記載されており,一般遊技状態及びボーナス役の内部当たり中において同一の抽選処理の確率テーブルを使用することは明らかである。また,前記1( )のとおり,甲33パチスロ機の貯金確率の設定を0%にした場合には,貯金を行うことなく,単発BIGフラグが成立してスタートに戻り,通常設定値に従った各役の抽選を行うことになるから,刊行物3に相違点に係る本件発明1の構成が開示されていることCは明らかである。
( ) 刊行物8には,単一の確率テーブルを抽選処理に使用することが記載されて2おり,かつ,前記したように,ボーナス役の内部当たりが発生すると,各ヒットリクエストをカウントするリクエストカウンタを+1することによって,ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能としている構成が開示されており,これを前提に,ボーナス役の内部当たり中における抽選処理において使用する確率テーブルにおけるボーナス役の抽選確率を理解しようとすれば,一般遊技状態におけるボーナス役の抽選確率と同一である構成が最も単純明快なものとして当業者が理解するものといえる。
( ) 原告は,本件出願時には,公安委員会規則による制限の下で,ボーナス役の3内部当たり中に再度ボーナス役の抽選を行う技術常識(持越し中のボーナス役内部当たり記憶手段に2つ以上のボーナス内部当たりを記憶可能とすること)が存在しなかったとの前提で,刊行物8に開示されている技術においては,ボーナス役内部当たり状態において,一般遊技状態における抽選処理の確率テーブルとボーナス役の抽選確率が同一である確率テーブルを使うということはあり得ない旨主張する。
しかし,発明の創作性と公安委員会規則による規制とは別問題であって,公安委員会規則による規制は,当業者による新たな発明の発想自体を阻害するものではない。そもそも,規制が不変なものとみるべき必然性がないことは,原告のいうストック機が後にホールに設置されていることからも明らかである。
( ) 刊行物4ないし6には,刊行物3と同様に,貯金が決定されるとスタートに4戻ることが記載されており,これにより一般遊技状態及びボーナス役の内部当たり中において同一の抽選処理の確率テーブルを使用することになるのは明らかである。
刊行物9も,ボーナス役の内部当たり中におけるボーナス役の抽選確率が一般遊技状態におけるボーナス役の抽選確率と必然的に同一となっていることは明らかである。
4取消事由4(本件発明1についての容易想到性の判断の誤り)に対して( ) 本件発明1と引用発明との相違点AないしCに係る決定の判断には誤りがな1いから,原告主張の取消事由4は理由がない。
( ) 原告は,本件発明1は,いわゆるストック方式を採用しており,進歩性があ2るとともに,顕著な作用効果を奏するものであるから,進歩性が否定されるべきではない旨主張する。
しかし,本件発明1は,ボーナス役の内部当たり状態でボーナス役の入賞が抑制されることがなく,しかも,上記抑制が解除されるための特定遊技作動図柄もなく,内部当たりが存在すれば,通常のボーナス役の大当たり図柄が揃うことでいつでもボーナスゲーム状態に突入可能であるから,本件発明1は,原告主張のストック方式とは異なるものであり,単に,ボーナス役の内部当たりを複数蓄積可能とする前提的構成において共通するにすぎない。したがって,本件発明1と異なるストック方式が公知技術あるいは周知技術と相違することをいくら力説しても,本件発明1の進歩性,顕著な作用効果が証明されるものではない。
5取消事由5(本件発明2についての容易想到性の判断の誤り)に対して本件発明2と引用発明との相違点DないしFに係る決定の判断は,それぞれ,本件発明1と引用発明との相違点C,A,Bに係る決定の判断と実質的に同一であるところ,その判断に誤りがないことは,取消事由1ないし3に対する反論において述べたとおりである。
したがって,決定における相違点DないしFに関する判断に誤りがないから,原告主張の取消事由5は理由がない。
6取消事由6(本件発明4についての容易想到性の判断の誤り)に対して本件発明4と引用発明との相違点Jに係る決定の判断は,本件発明1と引用発明との相違点Cに係る決定の判断と実質的に同一であるところ,その判断に誤りがないことは,取消事由3に対する反論において述べたとおりである。
したがって,決定における相違点Jに関する判断に誤りがないから,原告主張の取消事由6は理由がない。
第5当裁判所の判断1取消事由1(相違点Aに係る構成が周知であるとの誤認)について( ) 本件発明1と引用発明とが,「ボーナス役内部当たり記憶手段が,本件発明11は,ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能であり,ボーナス役の内部当たりが持ち越された状態における抽選処理手段の抽選処理結果が更にボーナス役の内部当たりの場合には,前記持ち越し分のボーナス役の内部当たりに加え,前記抽選処理結果を記憶し,ボーナスゲームを実行すると前記ボーナス役内部当たり記憶手段に記憶されたボーナス役の内部当たりの数を1つ減少させる構成を備えているのに対し,引用発明は,ボーナス役の内部当たりを1つのみ記憶可能であり,本件発明1に係る前記構成を備えていない点。」(相違点A)で相違することについては,当事者間に争いがない。
相違点Aに係る構成の技術的意義について,原告は,「ボーナス役の内部当たり状態を持ち越すボーナス役内部当たり記憶手段」(構成要件E)をもって,「前記ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能であ」(構成要件F)るようにしたこと,すなわち,次回以降に抽選されるボーナス役内部当たりの格納手段としても用いることを特定事項とすると主張するのに対し,被告は,「ボーナス役内部当たり記憶手段」は,ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能であることを要件とするのみであって,初回のボーナス役内部当たりを格納する記憶手段が,次回以降に抽選されるボーナス役内部当たりの格納手段として用いられることを要件とするものではないと主張するので,検討する。
( ) 上記相違点Aに係る本件発明1の「ボーナス役内部当たり記憶手段」が「ボ2ーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能であり,ボーナス役の内部当たりが持ち越された状態における抽選処理手段の抽選処理結果が更にボーナス役の内部当たりの場合には,前記持ち越し分のボーナス役の内部当たりに加え,前記抽選処理結果を記憶し,前記入賞判定手段の判定結果がボーナス役の入賞となったとき,前記ボーナス役内部当たり記憶手段に記憶されたボーナス役の内部当たりに基づいて所定のボーナスゲームを実行するとともに,前記ボーナス役内部当たり記憶手段に記憶されたボーナス役の内部当たりの数を1つ減少させ」(構成要件F,G)るという構成,並びに,「前記抽選処理手段の抽選処理結果がボーナス役の内部当たりとなった状態であって前記入賞判定手段の判定結果が非入賞となったとき,次回のゲームに前記ボーナス役の内部当たり状態を持ち越すボーナス役内部当たり記憶手段」(構成要件E)との構成によると,本件発明1の「ボーナス役内部当たり記憶手段」は,?@「抽選処理手段の抽選処理結果がボーナス役の内部当たりとなった状態であって前記入賞判定手段の判定結果が非入賞となったとき,次回のゲームに前記ボーナス役の内部当たり状態を持ち越す」(構成要件E)もの,?A「ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能であり,ボーナス役の内部当たりが持ち越された状態における前記抽選処理手段の抽選処理結果が更にボーナス役の内部当たりの場合には,前記持ち越し分のボーナス役の内部当たりに加え,前記抽選処理結果を記憶」(構成要件F)するもの,?B「所定のボーナスゲームを実行するとともに,前記ボーナス役内部当たり記憶手段に記憶されたボーナス役の内部当たりの数を1つ減少させ」(構成要件G)るものであると認められる。
また,本件発明1の「所定の開始信号に応じて乱数を抽出し,該乱数の抽出値と,一般遊技状態,ボーナス役の内部当たり状態及びボーナスゲーム状態の各状態に対応して設けられた,複数の抽選役および該抽選役の当選確率を特定する所定の確率テーブルとを照合することで,内部当たりか否かを決定する抽選処理手段と,・・・前記抽選処理手段の抽選処理結果がボーナス役の内部当たりとなった状態であって」(構成要件C,E)との構成によれば,「ボーナス役内部当たり」とは,抽選処理手段による抽選処理結果がボーナス役の当選となったことを,「ボーナス役の内部当たり状態」とは,「前記抽選処理手段の抽選処理結果がボーナス役の内部当たりとなった状態」のことを意味するものと解される。
そして,「ボーナス役の内部当たりが持ち越された状態」とは,「ボーナス役の内部当たり」がボーナス役内部当たり記憶手段に記憶された状態であるから,「前記ボーナス役の内部当たり状態」でもあり,この状態において,「抽選処理手段の抽選処理結果が更にボーナス役の内部当たりの場合」に,「前記持ち越し分のボーナス役の内部当たりに加え,前記抽選処理結果を記憶」するというのであるから,「前記ボーナス役の内部当たり状態」において,さらに「ボーナス役の内部当たり」となり得るものである。
したがって,本件発明1は,「ボーナス役内部当たり記憶手段」が「前記入賞判定手段の判定結果が非入賞となったとき,次回のゲームに前記ボーナス役の内部当たり状態を持ち越す」のみならず,ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶することが可能とされて,「ボーナス役の内部当たり状態」において,さらに抽選処理手段による抽選処理を行い,「ボーナス役の内部当たり」となると,「持ち越し分のボーナス役の内部当たりに加え,前記抽選処理結果を記憶」するというものであり,「ボーナス役の内部当たり状態を持ち越すボーナス役内部当たり記憶手段」は,次回以降に抽選されるボーナス役内部当たりの格納手段としても用いられると解される。
( ) 念のため,本件明細書(甲11)の発明の詳細な説明について検討すると,3次の記載がある。
「ここで,抽選処理について説明すると,前記制御装置は,遊技者の開始操作がなされたとき,一般遊技状態,ボーナス内部当たり状態,ボーナスゲーム状態の各状態に対応する複数の異なる確率テーブルをメモリに記憶しており,これらの確率テーブルにより抽選可能な複数の抽選役とその当選確率を特定するようになっている。そして,現在の遊技状態に対応する確率テーブルに基づき,所定の抽選処理を実行して内部当たりか否かを決定し,内部当たりになった場合,各リールについて内部当たりに該当する絵柄が停止可能な回転範囲で前記遊技者の停止操作がなされれば,その絵柄を入賞ライン上に引き込むようにリールの回転制御が実行される。
通常,チェリーやベルといった所謂小役と称される入賞役に関しては,ゲームの開始時に抽選処理を行い,内部当たりした場合であっても,遊技者の停止操作が有効ライン上に入賞絵柄を引き込めないタイミングで行われた場合,原則その回のゲーム終了と同時に内部当たりも消滅してしまう。つまり,今回のゲームで成立した内部当たりは,今回のゲームで入賞しないと消えてしまうような構成になっている。
ところが,遊技者に対して比較的多くの利益を与える特定の入賞,例えばビッグボーナス,レギュラーボーナスといった入賞役(以下,ボーナス役という)の場合,払出しが多い分だけ内部当選確率は低く抑えられている。そのため,小役の場合と同様に内部当選が消滅してしまうというのでは,多大な投資をして内部当たりを引き当てた遊技者にあまりにも酷である。そこで,ボーナス役の内部当たりに限って,入賞するまで内部当たり状態を保持する構成とした遊技機が開発されている。」(段落【0005】〜【0008】)「【発明が解決しようとする課題】しかしながら,上述のようにボーナス役の内部当たりに限って入賞まで内部当たり状態を保持する遊技機にあっても,ボーナス役の内部当たり中はボーナス内部当たり状態専用の確率テーブルが用いられており,ボーナス役の内部当たり状態における抽選の際には,小役抽選は行うがボーナス役の抽選は行わないようになっている。そのため,ビッグボーナスやレギュラーボーナスが当選した内部当たり状態では,その内部当たりに該当する特定の絵柄が停止可能な回転範囲で遊技者の有効な停止操作がなされないと,ボーナス役が抽選されない状態が続き,言い換えれば,遊技者に不利な抽選を繰り返すことになり,初心者は十分に遊技を楽しむことができなかった。」(段落【0009】)「【課題を解決するための手段】・・・この発明では,ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能であるとともに,今回のゲームにてボーナス役の内部当たり状態で非入賞となったとき,ボーナス役の内部当たり状態が次回のゲームに持ち越されるのみならず,次回のゲームでの抽選においてもボーナス役の内部当たりとなる抽選が可能であり,この抽選処理結果が更にボーナス役の内部当たりとなった場合には,持ち越し分のボーナス役の内部当たりに加え,抽選処理結果を記憶する。したがって,初心者がボーナス役内部当たり状態で不利なゲームを繰り返すという問題が解消され,十分に遊技を楽しむことができる。本発明においては,また,前記入賞判定手段の判定結果が入賞となったとき,前記ボーナス役内部当たり記憶手段に記憶されたボーナス役の内部当たりに基づいて所定のボーナスゲームを実行するとともに,前記ボーナス役内部当たり記憶手段に記憶されたボーナス役の内部当たりの数を1つ減少させ,前記ボーナス役内部当たり記憶手段に残りのボーナス役の内部当たりがあるとき,前記所定のボーナスゲームが終了した後の抽選結果をボーナスゲームが終了した直後の一般遊技における1ゲーム目のゲームから再度ボーナス役の内部当たりとするようにすると,ボーナス役の内部当たり状態で他のボーナス当選に該当するような特定の入賞絵柄が揃ったとき,その結果を以降の遊技に反映させることができる。」(段落【0012】〜【0014】)「【発明の効果】本発明によれば,ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能にするとともに,ボーナス役の内部当たりとなった状態であって非入賞となったとき,ボーナス役の内部当たり状態が次回のゲームに持ち越されるのみならず,次回のゲームでの抽選においてもボーナス役の内部当たりとなる抽選を可能とし,この抽選処理結果が更にボーナス役の内部当たりとなった場合には,持ち越し分のボーナス役の内部当たりに加え,抽選処理結果を記憶するようにしたので,初心者がボーナス役内部当たり状態で不利なゲームを繰り返すといた問題を解消し,十分に遊技を楽しむことができる遊技機を提供することができる。」(段落【0069】)( )上記記載によれば,本件発明1は,ボーナス役の内部当たり記憶手段に,4ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能にするとともに,ボーナス役の内部当たりとなった状態であって非入賞となったとき,ボーナス役の内部当たり状態が次回のゲームに持ち越されるのみならず,次回のゲームでの抽選においてもボーナス役の内部当たりとなる抽選を可能とするというものであって,「ボーナス役の内部当たり状態」において,さらに抽選処理手段による抽選処理を行い,「ボーナス役の内部当たり」となると,「持ち越し分のボーナス役の内部当たりに加え,前記抽選処理結果を記憶」し,「ボーナス役の内部当たり状態を持ち越すボーナス役内部当たり記憶手段」は,次回以降に抽選されるボーナス役内部当たりの格納手段としても用いられるという,上記( )の認定を裏付けるものである。
2そうすると,ボーナス役内部当たり記憶手段は,ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能であることを要件とするのみであって,初回のボーナス役内部当たりを格納する記憶手段が,次回以降に抽選されるボーナス役内部当たりの格納手段として用いられることを要件とするものではないとの被告の主張は,誤りである。
上記見解を前提として,刊行物3ないし9は,いずれも,2つの格納領域を含めてボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能であることにおいて,本件発明1のボーナス役内部当たり記憶手段の構成と何ら相違するものではないとする決定及び被告の主張は,「ボーナス役の内部当たり状態」において,さらに抽選処理手段による抽選処理を行い,「ボーナス役の内部当たり」となると,「持ち越し分のボーナス役の内部当たりに加え,前記抽選処理結果を記憶」するという相違点Aに係る本件発明1の構成の技術的意義を看過したものである。
( )なお,本件発明1においては,「内部当たり状態」が発生しない場合につ5いて特定していないが,「内部当たり状態」になって初めて入賞可能となるという構成である以上,「内部当たり状態」にならずに絵柄がそろって入賞するということは予定していないというべきであり,本件発明1は,「内部当たり」が発生しない場合には,入賞絵柄が揃わないように制御されることを前提にしているものと解される。
この点につき,本件明細書の発明の詳細な説明をみると,「現在の遊技状態に対応する確率テーブルに基づき,所定の抽選処理を実行して内部当たりか否かを決定し,内部当たりになった場合,各リールについて内部当たりに該当する絵柄が停止可能な回転範囲で前記遊技者の停止操作がなされれば,その絵柄を入賞ライン上に引き込むようにリールの回転制御が実行される。」(段落【0005】),「通常,チェリーやベルといった所謂小役と称される入賞役に関しては,ゲームの開始時に抽選処理を行い,内部当たりした場合であっても,遊技者の停止操作が有効ライン上に入賞絵柄を引き込めないタイミングで行われた場合,原則その回のゲーム終了と同時に内部当たりも消滅してしまう。つまり,今回のゲームで成立した内部当たりは,今回のゲームで入賞しないと消えてしまうような構成になっている。ところが,遊技者に対して比較的多くの利益を与える特定の入賞,例えばビッグボーナス,レギュラーボーナスといった入賞役(以下,ボーナス役という)の場合,払出しが多い分だけ内部当選確率は低く抑えられている。そのため,小役の場合と同様に内部当選が消滅してしまうというのでは,多大な投資をして内部当たりを引き当てた遊技者にあまりにも酷である。」(段落【0006】,【0007】)との記載があり,上記記載によれば,小役と称される入賞役に関しては,そのゲームで入賞しなければ,原則として,その回のゲーム終了と同時に内部当たりも消滅するところ,ボーナス役の場合にも,小役の場合と同様に内部当たりが消滅すると,遊技者にとってあまりにも酷であるとされているのであるから,「内部当たり」が消滅した場合には,次回のゲームにおいて,当該消滅した内部当たりに対応する入賞を得ることができないものと理解されるのである。そして,その「回転制御」について,「ここで,停止ボタン41a〜41cは,遊技者によって特定種のシンボルマークmをメダル投入枚数に対応する有効本数の入賞ライン上(定位置)に停止させるべく操作され,制御装置50により所定の停止指令信号を発生させる停止手段となっている。」(段落【0025】),「制御装置50は,そのマイコン54により,ROM52に格納された所定の制御プログラムに従って,同ROM52に格納されている所定の抽選確率テーブル(後述する),シンボルマークテーブル,及び,入賞絵柄(入賞に該当するシンボルマークmの組合せ)テーブル等の記憶データと,上記スイッチ類からの遊技者の操作情報や上記センサ類からの動作状態検知情報とに基づいて,ステップモータ35A〜35Cをはじめとするアクチュエータ類や表示器23等の動作を制御するようになっている。」(段落【0028】)との記載があるから,リールの回転制御は,内部当たりになった場合には,遊技者の停止操作に対応して,所定の絵柄を入賞ライン上に引き込む制御をするというのであって,逆に,内部当たりにならない場合には,そのような制御をしないということであり,かつ,制御をする以上,当然に入賞絵柄がそろわないようにリールの回転制御をするものと理解し得るものである。
( ) 次に,「ボーナス役の内部当たり状態」において,さらに抽選処理手段によ6る抽選処理を行い,「ボーナス役の内部当たり」となると,「持ち越し分のボーナス役の内部当たりに加え,前記抽選処理結果を記憶」するという相違点Aに係る本件発明1の構成の技術的意義を前提として,相違点Aに係る本件発明1の構成が本件出願時に公知であったか否かについて,更に検討する。
( ) 刊行物3について7ア刊行物3には。以下の記載がある。
(ア) 「トライアンフ裏ROM解析報告」との見出しの下に,「裏ROMプログラムの流れを解説していこう。裏プログラムが起動するのは,ビッグのフラグが成立してからである。他の役には,何ら加工は加えられていない。判定の合否がそのままフラグの成立,不成立になる。出現率の低さから,今までいろんな推測がなされていたレギュラーについても,これは同じだ。ビッグの抽選に合格すると,貯金か否かの判定に進む。この確率は前述のように貯金設定値で変わる。ここで貯金でなければ,ビッグのフラグが成立。当たり前だがこのビッグは連チャンしない。」(9頁第3段)(イ) 「貯金が選択されると貯金カウンター(貯金の数を記憶)を+1。そしてこの数値が,あらかじめ決められていた目標貯金数に到達しているかを参照する。到達していなければ,貯金決定。設定された数が貯まるまで,前記の方式で貯金し続ける。つまり言い返すと,目標貯金数に到達していれば,貯金の放出が始まるのである。なお,ここで貯金カウンターは“連チャンの残り回数”に加算され,これを新しい連チャン残り回数とする。紛らわしい処理だが,貯金カウンターと連チャン残りの回数は,要するに機能的には同じ意味。混乱しないように。あくまでもプログラムがそうなっているという話である。連チャンビッグフラグ成立後は,よくあるお決まりのパターンだ。高確率でビッグのフラグを再抽選(確率は放出確率設定値による)。当選すれば,ビッグのフラグが成立。そして連チャン残り回数を-1。
この数値が0になるまで高確率抽選を続ける。」(10頁第1段)(ウ) 8頁及び9頁には,「これが裏トライアンフの連チャンの仕組みだ」と題するフローチャートが記載されており,当該フローチャートからは,「START」↑「通常設定値にしたがった各役の抽選を行う」↑「BIGフラグが成立したか?」↑YES↑「貯金設定に応じた貯金抽選を行う」↑「貯金か?」↑YES↑「貯金カウンタ+1」↑「貯金目標数に達したか?」↑YES↑「貯金カウンター+連チャン残り回数を連チャン残り回数とする」↑「貯金カウンター=0」↑「貯金目標設定にしたがい次貯金目標の抽選を行う」↑「放出確率設定にしたがい放出確率の抽選を行う」↑「選択された確率にしたがい貯金放出の抽選を行う」↑「当選か?」↑YES↑「連チャンBIGフラグ成立」↑「連チャン残り回数-1」↑「連チャン残り回数は0か?」とのフローに合わせ,上記の各手順のYESがNOである場合に分岐する「BIGフラグが成立したか?」↑NO↑「通常設定値にしたがった各役の抽選を行う」,「貯金か?」↑NO↑「単発BIGフラグ成立」↑「通常設定値にしたがった各役の抽選を行う」,「貯金目標数に達したか?」↑NO↑「通常設定値にしたがった各役の抽選を行う」,「当選か?」↑NO↑「選択された確率にしたがい貯金放出の抽選を行う」,「連チャン残り回数は0か?」↑NO↑「選択された確率にしたがい貯金放出の抽選を行う」というフローが示されている。
イ上記記載によれば,刊行物3には,甲3パチスロ機について,ゲームを開始して,「通常設定値にしたがった各役の抽選」を行った結果,BIGフラグが成立すると,貯金設定に応じた貯金抽選を行い,貯金が選択されなければ,「単発BIGフラグ」を成立させた後に,再び,「通常設定値にしたがった各役の抽選」に戻って貯金抽選までの処理が繰り返され,貯金が選択された場合には,貯金カウンタを+1にし,貯金目標数に達しなければ,再び,「通常設定値にしたがった各役の抽選」に戻って貯金抽選までの処理が繰り返され,貯金目標数に達した場合に,貯金カウンタの数字を連チャン残り回数とし,連チャン残り回数がゼロになるまで,選択された確率にしたがって貯金放出の抽選を行い,抽選結果が当選であるときに,「連チャンBIGフラグ」を成立させるとともに,連チャン残り回数を-1するパチスロ機が記載されているものと認められる。
甲3パチスロ機の「貯金カウンタ」は,BIGフラグを貯金するから,次回以降のゲームにBIGフラグを持ち越すものということができるが,貯金したBIGフラグを放出する場合においても,「連チャンBIGフラグ成立」を条件として,すなわち,「連チャンBIGフラグ」を記憶する領域にBIGフラグが記憶されることを条件として,ボーナス絵柄をそろえられる状態,すなわち「ボーナス役内部当たり状態」となるものであるから,貯金カウンタにBIGフラグを貯金していたとしても,BIGフラグが所定の条件により放出されて「連チャンBIGフラグ」が成立するか,あるいは,「単発BIGフラグ」が成立するかしない限り,ビッグボーナス絵柄がそろえられる状態とはならない。したがって,貯金カウンタにBIGフラグを貯金されていることは,「ボーナス役の内部当たり状態」ではなく,「貯金カウンタ」は,次回ゲームに「ボーナス役の内部当たり状態」を持ち越すためのものではないから,本件発明1の「ボーナス役内部当たり記憶手段」に相当するものはない。
なお,甲3パチスロ機において,貯金確率が0%となるように貯金設定して動作させた場合には,「BIGフラグは成立したか」がYESのときに「貯金か?」が必ずNOとなって「単発BIGフラグ成立」となり,ボーナス役の内部当たりの数が2つ記憶された状態下で絵柄の停止操作がされることになるとの被告の主張は,貯金確率設定別貯金確率の表に,設定が「0%」との記載があることを根拠とするものである。しかし,刊行物3の8頁及び9頁には,「貯金か?」↑NO↑「単発BIGフラグ成立」とのフローが記載されており,この「単発BIGフラグ」の格納領域が複数の「BIGフラグ」を記憶するとの記載も示唆もされていないから,甲3パチスロ機がBIGフラグを持ち越すことを予定しているとはいい難く,「0%」との記載のみを根拠とする被告の上記主張は,失当である。
( ) 刊行物8について8ア刊行物8には,次の記載がある。
(ア) 「スタートレバーの操作により回転駆動される複数のリールと,これらのリールを停止させるリールストップ手段とを有するスロットマシンにおいて,前記リールの回転駆動後に,順次発生される乱数列から一つの乱数を特定するサンプリング手段と,前記特定された乱数が確率テーブル中のいかなる群に属するかを比較照合する手段と,前記比較照合の結果を入賞ランク別のリクエスト信号として出力するリクエスト発生手段と,前記リクエスト信号を評価し,前記リールのストップ位置を設定すると共に,前記リールストップ手段を制御するリールストップ制御手段とを備えたことを特徴とするスロットマシン。」(1頁左下欄5行〜18行)(イ) 「第9図は発生,更新される乱数値のサンプリング,ヒットリクエストチェック処理のフローチャートである。このフローチャートは,第4図に示したフローチャートにおける“ヒットリクエスト”処理に該当するもので,ゲーム開始後例えばスタートレバーの操作後の所定のタイミング信号・・・により,その時点で乱数値RAM80(第8図)に存在する乱数値をそのゲームの乱数値として決定する。
こうして決定された乱数値は第9図のフローチャートに従い,後述する入賞確率テーブルと照合され,大ヒットに該当する数値であれば大ヒットリクエスト信号の発生,また中ヒットに該当する数値であれば中ヒットリクエスト信号の発生というように小ヒットまでの判断,処理がなされいずれかのヒットリクエストが発生されるかあるいはヒットリクエストなしかがチェックされることになる。」(5頁左上欄12行〜右上欄9行)(ウ) 「これまでに述べてきた大,中,小の各ヒットの例としては,大ヒットが15枚のメダル支払いの後ボーナスゲームができるようになるもの,中ヒットが10〜15枚のメダル支払い,小ヒットが2〜5枚程度のメダル支払など適宜設定される。ボーナスゲームとしては,例えばメダル1枚の投入毎に1個のリールのみでゲームを実行し,その1個のリールについてある種のシンボルマークが出ればそのまま15枚のメダル支払いがなされ,このような手順で数回のゲームができるようにすることなどが考えられる。」(5頁右下欄8行〜18行)(エ) 「さらにRAM5には得られたヒットに応じたエリア,すなわち大ヒットエリア5a,中ヒットエリア5b,小ヒットエリア5c,ヒットなしのエリア5dにフラグがセットされる。」(7頁左下欄18行〜右下欄2行)(オ) 「第3リールの処理以上のようにして第2リールストツプ処理が終了した後,第3リールの停止処理は,大ヒツトリクエストが発生されている場合第23図のフローチャートにより行われる。」(9頁左上欄12行〜16行)(カ) 「また,リールの処理は4コマずれを想定して説明してきたが,このためヒットリクエストに対応したシンボルがその4コマずれの範囲内に存在しないこともあり得る。(特に大ヒットシンボルは少ないため,充分あり得る。)このような場合にはヒットリクエストを満足しない結果となってしまい,設定された入賞確率が低下することになり,特に大ヒットでその影響が大きくなる。これを適正化するためには,ヒットリクエストが発生されながらも入賞なしとなった場合にはそのヒットリクエストを次回のゲームまで保存するようにすればよい。」(9頁右下欄10行〜10頁左上欄1行)(キ) 「すなわち,前述したヒットリクエストが発生すると,各ヒットリクエストをカウントするリクエストカウンタが+1され,RAM上にストアされる。そして,ヒットした際に,そのリクエストカウンタは-1の減算処理が行われる。また,ヒットしない場合には,そのまま保存され,最終的にリクエストカウンタが零になるまでヒットリクエストが発生し,このためペイアウト率は一定に保たれる。」(17頁左上欄8行〜15行)(ク) 第23図には,第3リールのストップ制御のフローチャートが記載されており,大ヒットリクエスト発生中においては,大ヒットシンボルを出すように制御されることが記載されている。
イ上記記載によれば,刊行物8には,スロットマシンにおいて,ボーナスゲームである大ヒットを含む入賞ランク別のヒットリクエストが発生すると,各ヒットリクエストをカウントするリクエストカウンタを+1し,実際にヒットした際にそのリクエストカウンタを-1し,また,実際にヒットしない場合にはそのまま保存され,最終的にリクエストカウンタが零になるまでヒットリクエストが発生するものが記載されていると認められる。
そして,上記アの(オ)及び(ク)によれば,刊行物8のスロットマシンは,大ヒットリクエストが発生すれば,大ヒットに対応したシンボルをそろえるようリールが制御されるものであって,適切な操作を行えば大ヒットシンボルをそろえることができる状態となっているから,「大ヒットリクエストが発生している状態」は,本件発明1の「ボーナス役の内部当たり状態」に相当する。
さらに,上記ア(キ)によれば,大ヒットリクエストが発生し,大ヒットリクエストカウンタが+1された後,大ヒットが,ヒットしない間に,再度大ヒットリクエストが発生すれば,ヒットリクエストカウンタがさらに+1されるものであるから,大ヒットリクエストカウンタは,大ヒットリクエストを2以上記憶することが可能なものであると認められる。
加えて,上記ア(カ)によれば,大ヒットリクエストカウンタは,そのヒットリクエストを次回のゲームまで持ち越すものであるといえるから,大ヒットリクエストカウンタは,本件発明1の「ボーナス役内部当たり記憶手段」が「前記入賞判定手段の判定結果が非入賞となったとき,次回のゲームに前記ボーナス役の内部当たり状態を持ち越す」という構成に相当するのみならず,「ボーナス役の内部当たり状態を持ち越すボーナス役内部当たり記憶手段」が,次回以降に抽選されるボーナス役内部当たりの格納手段としても用いられる構成にも相当するものということができる。
ウ原告の主張について(ア) 原告は,刊行物8には,ヒットリクエストカウンタにおいて,ヒットリクエストが発生すると「+1」の加算処理がされ,ヒットすると「-1」の減算処理がされ,ヒットしない場合には,リクエストカウンタが零となるまでヒットリクエストが発生し続け,このためペイアウト率は一定に保たれることが開示されているのみであって,ボーナス役の内部当たり記憶手段においてボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶する技術事項は,一切開示されていないと主張する。
しかし,原告主張のとおり,刊行物8には,ヒットリクエストカウンタにおいて,ヒットリクエストが発生すると「+1」の加算処理がされることが開示されているところ,ここに「カウンタ」とは,数値を計数して記憶する手段を意味することが明らかであり,ヒットリクエストカウンタが「+1」の加算処理されるということは,当該カウンタに計数して記憶されている数字を「1」だけ大きくすることを意味するから,加算処理前の状態が「1」であれば「2」,「2」であれば「3」の数値を記憶することになることが明らかである。したがって,刊行物8には,ボーナス役の内部当たり記憶手段においてボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶する技術事項が開示されているものというべきである。
(イ) 原告は,本件出願時,ボーナス役の内部当たり中に再度ボーナス役の抽選を行う技術常識が存在しなかったから,刊行物8において,2つ以上のボーナス役内部当たりを記憶する領域が開示されているとはいえないと主張する。
しかし,上記ア(イ)によれば,刊行物8のスロットマシンにおいては,スタートレバーを操作したときに大ヒットリクエストを含む各種のヒットリクエストが発生するのか発生しないのかが判断されるところ,ヒットリクエストが持ち越された状態で,スタートレバーが操作されると,さらに,大ヒットリクエストを含む各種のヒットリクエストが発生するのかしないのかが判断されるから,刊行物8には,明らかに,ボーナス役の内部当たり中に再度ボーナス役の抽選を行う技術が開示されている。
(ウ) 原告は,刊行物8に開示されたスロットマシンは,いったんボーナス役(大ヒット)に内部当選した場合,数ゲームのうちに当該当選フラグは必然的に消化され,次に大ヒットが巡ってくるのは,平均300ゲーム以上も後であって,大ヒットリクエストの持ち越し中に重ねて大ヒットリクエストが発生すること自体がおよそ想定し難いから,刊行物8に接した本件出願時の当業者が,被告のいうように,同刊行物に,ボーナス役(大ヒット)の内部当たりが発生する「毎に」ボーナス役のリクエストカウンタを「逐次」+1する(ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能とする)構成が開示されていると理解することはあり得ないなどとも主張する。
しかし,仮に,原告主張のとおり,抽選確率により,次に大ヒットが巡ってくるのが平均300ゲーム以上も後であるとしても,それが確率である以上,数ゲーム以内にボーナス役が再度当選することもあり得るのであるから,大ヒットリクエストの持ち越し中に重ねて大ヒットリクエストが発生すること自体がおよそ想定し難いとはいえない。
(エ) 原告は,刊行物8に開示されたスロットマシンは前段判定方式であり,ボーナス役内部当たり状態を持ち越すという技術を実現する方法として,ボーナス役内部当たり状態となると「+1」とし,入賞した場合に零にすることにしたのであって,ここにいう「1」という数字に意味があるわけではなく,内部当たり状態であることを示す目印にすぎない旨主張する。
しかし,刊行物8に開示されたスロットマシンが前段判定方式であるかどうかはともかく,刊行物8には,上記ア(キ)のとおり,「前述したヒットリクエストが発生すると,各ヒットリクエストをカウントするリクエストカウンタが+1され,RAM上にストアされる。そして,ヒットした際に,そのリクエストカウンタは-1の減算処理が行われる。また,ヒットしない場合には,そのまま保存され,最終的にリクエストカウンタが零になるまでヒットリクエストが発生し」との記載があるのであるから,ボーナス役の内部当たり記憶手段においてボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶する技術事項が開示されていることは,明らかである。
(オ) 原告は,刊行物8に,「ボーナスフラグの有無(0 or 1)がストアされ」との記載があることを理由に,刊行物8に示される「0」と「1」は,内部当たり状態かどうかを表す信号であり,それ以外の「2」とか「3」という数字を観念する余地はない旨主張する。
確かに,刊行物8には,「RAM4の4aのエリアにはボーナスゲームが発生したか否か,すなわボーナスフラグの有無(0or1)がストアされ」(7頁左下欄下から6行目〜同4行目)との記載があるが,ここにいう「0or1」は,ボーナスゲームが発生したか否かを意味するものであって,リクエストカウンタについての記載ではないことが記載自体から明らかである。
(カ) したがって,原告の上記各主張は,いずれも採用の限りでない。
( ) 刊行物4ないし6記載の「ワイルドキャッツ」等が甲3パチスロ機と同様の7構成であることは,当事者間に争いがないところ,被告主張のとおり,ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能であることが開示されているとしても,甲3パチスロ機と同様に,本件発明1のような,次回ゲームに「ボーナス役の内部当たり状態」を持ち越すためのものではないから,本件発明1の「ボーナス役内部当たり記憶手段」に相当するものはない。
また,刊行物9についてみると,仮に,被告が主張するとおり,スロットマシンについて,ビッグボーナスの遊技中も,次回のビッグボーナスに移行させるか否かの抽選を行い,抽選結果がビッグボーナスに移行させることが開示されているとしても,そもそも,ビッグボーナスの遊技に移行するための権利の記憶をどのように行うかについては,同刊行物を検討しても,何らの記載を見いだすこともできないから,「前記ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能であ」(構成要件F)るという構成が記載されているとはいえない。
( ) そうすると,刊行物8においては,「ボーナス役の内部当たりを2つ以上記8憶可能」とする技術事項が開示されているのみならず,「ボーナス役の内部当たり状態を持ち越すボーナス役内部当たり記憶手段」は,次回以降に抽選されるボーナス役内部当たりの格納手段としても用いられる構成が開示されているから,刊行物8は,相違点Aに係る本件発明1の構成を開示しているものである。
2取消事由2(相違点Bに係る構成が周知であるとの誤認)について( ) 決定は,相違点Bの「ボーナスゲーム状態が終了した直後の一般遊技状態」1について,「ボーナスゲームを実行すると,残りのボーナス役の内部当たりが存在することに基づいて,ボーナスゲーム状態が終了した後の抽選条件を,ボーナスゲーム状態が終了した直後の一般遊技状態における1ゲーム目のゲームからボーナス役の内部当たり状態に移行させるように変更する」という構成は周知であるとするのに対して,原告は,決定が指摘する刊行物(刊行物3〜6,8等)には,「ボーナス役の内部当たりを2つ以上記憶可能」である記憶手段はもとより,ボーナス役の内部当たり状態(適切な操作が行われればボーナス入賞できる状態)を持ち越すことすら明記されていないから,2つ以上記憶されたボーナス役内部当たりの連続放出に関する技術事項が開示されているとはいえない旨主張する。
( ) 確かに,刊行物3ないし6には,貯金したボーナスフラグを,ボーナスゲー2ムの終了直後の1ゲームから放出するようにする,すなわち,本件発明1の相違点Bに係る構成である「ボーナスゲームを実行すると,残りのボーナス役の内部当たりが存在することに基づいて,ボーナスゲーム状態が終了した後の抽選条件を,ボーナスゲーム状態が終了した直後の一般遊技状態における1ゲーム目のゲームからボーナス役の内部当たり状態に移行させるように変更する」構成は記載も示唆もされていない。しかし,刊行物8には,前記1( )アの(ウ),(キ)のとおり,「これま6でに述べてきた大,中,小の各ヒットの例としては,大ヒットが15枚のメダル支払いの後ボーナスゲームができるようになるもの,中ヒットが10〜15枚のメダル支払い,小ヒットが2〜5枚程度のメダル支払など適宜設定される。ボーナスゲームとしては,例えばメダル1枚の投入毎に1個のリールのみでゲームを実行し,その1個のリールについてある種のシンボルマークが出ればそのまま15枚のメダル支払いがなされ,このような手順で数回のゲームができるようにすることなどが考えられる。」,「すなわち,前述したヒットリクエストが発生すると,各ヒットリクエストをカウントするリクエストカウンタが+1され,RAM上にストアされる。そして,ヒットした際に,そのリクエストカウンタは-1の減算処理が行われる。また,ヒットしない場合には,そのまま保存され,最終的にリクエストカウンタが零になるまでヒットリクエストが発生し,このためペイアウト率は一定に保たれる。」との記載があるほか,「まず,大ヒットリクエストが発生されている場合には第16図のフローチャートに従つて,ストツプボタンが操作された時点でのRAM1のエリアR1(第14図)のデータに基づき,シンボルマークの4コマずれの範囲でシンボルマークをチェツクし,その範囲内に大ヒツトを構成するシンボルマーク要素が存在すれば,それがリール窓に現れるようにモータに送り出されるパルス数を調整する。」(7頁右下欄13行〜8頁左上欄1行)との記載もある。
大ヒットリクエストを記憶して持ち越すことは,ペイアウト率を一定とするためのものであるところ,大ヒットリクエストが2つ以上記憶されている場合であって,大ヒットとなったときには,そのボーナスゲームを消化した後に再度大ヒットを発生させるようにしなければ,当該大ヒットの時のボーナスゲームによる払い出し枚数が所定の枚数以下となってしまい,ペイアウト率が一定とならないことは明らかであることから,刊行物8のスロットマシンにおいても,大ヒットが発生してボーナスゲームに移行中には,大ヒットリクエストが発生しないようにされているものと理解するのが自然かつ合理的である。
そして,上記記載によると,リクエストカウンタは,ヒットすれば-1の減算処理され,ヒットしなければそのまま保存され,当該リクエストカウンタが0になるまで,ヒットリクエストが発生し続けるというものであるから,ヒットした状態からヒットしていない状態に移行した場合,リクエストカウンタが0になっていない限り,ヒットしていない状態の冒頭で,すなわち,ボーナスゲーム終了直後の通常ゲームから,ヒットリクエストが発生するものというべきである。
( ) そうすると,決定が,相違点Bに係る構成が周知技術Bであることを根拠付3けるものとして刊行物3ないし8を例示したことは,必ずしも正確であるとはいえないものの,相違点Bについて,「ボーナスゲームを実行すると,残りのボーナス役の内部当たりが存在することに基づいて,ボーナスゲーム状態が終了した後の抽選条件を,ボーナスゲーム状態が終了した直後の一般遊技状態における1ゲーム目のゲームからボーナス役の内部当たり状態に移行させるように変更する」という構成が本件出願時に刊行物8のスロットマシンにおいて既に採用されていたものであることは,上記のとおりである。
3取消事由3(相違点Cに係る構成が周知であるとの誤認)について( ) 決定は,本件発明1の前記相違点Cに係る「ボーナス役の内部当たり中にお1ける抽選処理においては,一般遊技状態における抽選処理の確率テーブルとボーナス役の抽選確率が同一である確率テーブルを使用する」という構成が周知(周知技術C)であると認定したのに対し,原告は,これを争っている。
( ) 前示のとおり,刊行物3ないし6,9には,「ボーナス役の内部当たり状2態」において,さらに「ボーナス役の内部当たり」があるとの構成が開示されているとは認められないから,刊行物8について検討する。
刊行物8には,「第9図は発生,更新される乱数値のサンプリング,ヒットリクエストチェック処理のフローチャートである。このフローチャートは,第4図に示したフローチャートにおける“ヒットリクエスト”処理に該当するもので,ゲーム開始後例えばスタートレバーの操作後の所定のタイミング信号・・・により,その時点で乱数値RAM80(第8図)に存在する乱数値をそのゲームの乱数値として決定する。こうして決定された乱数値は第9図のフローチャートに従い,後述する入賞確率テーブルと照合され,大ヒットに該当する数値であれば大ヒットリクエスト信号の発生,また中ヒットに該当する数値であれば中ヒットリクエスト信号の発生というように小ヒットまでの判断,処理がなされいずれかのヒットリクエストが発生されるかあるいはヒットリクエストなしかがチェックされることになる。」(5頁左上欄12行目〜右上欄9行目),「第10図は入賞確率テーブルの概念図である。テーブル中のB1〜B3,M1〜M3,S1〜S3はそれぞれ事前に設定された数値で,第8図に示したような2バイトのメモリ領域,但しROM上に存在している。そして投入メダル数に応じていずれかのラインが選択される・・・。従つて,この入賞確率テーブルはいわば入賞の確率を決定する機能をもつと言える。
こうして任意時点でのゲーム開始後に特定の乱数値がサンプリングされ,前述の入賞確率テーブルと照合されてヒツトリクエストが得られることになるが,さらにペイアウト率を一定にする意味でリクエストカウンタを設けておいてもよい。」(5頁右上欄14行目〜左下欄18行目),「以上に述べてきた本発明スロットマシンの基本的な構成ブロックとしては,第26図のように表せる。すなわち本発明によれば,まずスタートレバーの操作タイミングという任意性のある時点で,乱数値をサンプリングし,このサンプリングされた入賞確率テーブルと照合してヒットリクエストを発生させる。そして,このヒットリクエストに応じた入賞が得られるように各リールを制御すると共に,このリール制御にゲーム者のストツプボタン操作タイミングという限定条件を加味することによつて,ランダム性と遊戯者の技術とをミックスすることができることになる。そしてペイアウト率は前記入賞確率テーブルによつてかなりの期待値で一定に保つことができ,またこれを任意に設定し得るものである。従つて,ある設定されたペイアウト率を保つて,配当の高低に関係なく殆んどの入賞配列を出現させることができ,またスロットマシン自体の特徴が現われるのを防止することができる。」(10頁左上欄9行目〜右上欄7行目)との記載がある。
上記記載によれば,刊行物8のスロットマシンは,スタートレバーの操作タイミングという任意性のある時点で,乱数値をサンプリングし,このサンプリングされた入賞確率テーブルと照合してヒットリクエストを発生させるものであって,各ゲームのスタートレバーの操作後に,入賞確率テーブルを利用して抽選を行っているものであり,しかも,これが基本的なゲームの流れであるというのである。加えて,入賞確率テーブルは,コイン投入枚数に応じて入賞確率が異なるものであることは記載されているが,ヒットリクエストが発生した場合に異なる入賞確率となるとの記載も見当たらないから,ヒットリクエストが発生した後であって,ヒットリクエストを持ち越した場合であっても,同じ入賞確率テーブルにより抽選を行っているものであると解するのが相当である。
原告は,本件出願時には,公安委員会規則による制限の下で,ボーナス役の内部当たり中に再度ボーナス役の抽選を行う技術常識(持越し中のボーナス役内部当たり記憶手段に2つ以上のボーナス内部当たりを記憶可能とすること)が存在しなかったとの前提で,刊行物8に開示されている技術においては,ボーナス役内部当たり状態において,一般遊技状態における抽選処理の確率テーブルとボーナス役の抽選確率が同一である確率テーブルを使うということはあり得ない旨主張する。
しかし,仮に,本件出願時に,公安委員会規則による制限の下で,ボーナス役の内部当たり中に再度ボーナス役の抽選を行うパチスロ機による営業ができなかったとしても,それは技術常識とは直接関係がなく,公安委員会規則による規制がいたずらにパチスロ機に関する発明を阻害するものとはいい難い。したがって,原告の上記主張は,その前提において既に誤りである。
( ) そうすると,決定が,相違点Cに係る構成が周知であることを根拠付けるも3のとして刊行物3ないし6,9を例示したことは,必ずしも正確であるとはいえないものの,相違点Cに係る「ボーナス役の内部当たり中における抽選処理においては,一般遊技状態における抽選処理の確率テーブルとボーナス役の抽選確率が同一である確率テーブルを使用する」という構成が本件出願時に刊行物8のスロットマシンにおいて既に採用されていたものであることは,上記のとおりである。
4取消事由4(本件発明1についての容易想到性の判断の誤り)について( ) 原告は,相違点AないしCに係る周知技術の認定が誤りであり,上記誤りは,1本件発明1に係る特許を取り消した決定の結論に影響を及ぼす旨主張する。
しかし,前記のとおり,刊行物8には,相違点AないしCに係る本件発明1の構成が開示されているところ,引用発明及び刊行物8は,いずれもスロットマシンという同一技術分野において,「ボーナス役の内部当たり」に関する技術事項を対象としていて課題となる技術をも共通にしており,一方,遊技者の技量に関係なく,初心者でも十分に遊技を楽しむことができる遊技機を提供するという技術課題は,当業者が当然に持っているものであるから,刊行物8に接した当業者が,同刊行物を引用発明に適用して,相違点AないしCに係る本件訂正発明1の構成とすることは,容易に想到し得たものというべきである。
( ) 原告は,本件発明1は,いわゆるストック方式を採用しており,進歩性があ2るとともに,顕著な作用効果を奏するものであるから,進歩性が否定されるべきではない旨主張する。
ところで,原告主張のストック方式とは,ボーナス役が内部当たりし,かつ,停止ボタンが有効なタイミングで押されても,リールの回転を制御し,当然にはボーナス役に相当する図柄が揃わないように抑制して,ボーナス役を蓄積するようにした上で,所定の遊技作動図柄が揃ったときに,上記抑制を解除してボーナスゲーム状態に移行し,ボーナスの払い出しが行われ,また,ボーナス役内部当たり(ボーナスフラグ)の蓄積があることを条件に,再抽選により,直ちに再度ボーナス役の内部当たり状態に移行することができるようにしたものであるが,本件発明1が,ボーナス役に相当する図柄が揃わないように抑制する構成,並びに,所定の遊技作動図柄が揃ったときに,上記抑制を解除してボーナスゲーム状態に移行する構成を有していないことは,原告自身も認めるところである。
原告は,本件発明1と,蓄積されたボーナス役内部当たりをいかなるタイミングで払い出すかという抑制・解除技術とを組み合わせることにより,ストック方式によるパチスロ機を実現するところに特徴がある旨主張する。
しかし,本件発明1は,単に,ボーナス役の内部当たりを複数蓄積することを可能とするという構成においてストック方式と共通するのみであって,特許請求の範囲にも,更には本件明細書においても,蓄積されたボーナス役内部当たりをいかなるタイミングで払い出すかという抑制・解除技術に関する何の記載も存在しないのである。
結局,原告の主張は,本件発明1に係る特許請求の範囲に存在しない事項を恣意的に読み込もうとするものであって,失当というほかない。
( ) したがって,本件発明1と引用発明の相違点AないしCについて,それぞれ3周知技術AないしCであるとし,これに基づき,相違点AないしCに係る本件発明1の構成がいずれも容易想到であるとした決定の判断は,その前提となる発明の要旨認定において誤っているが,結論において相当というべきであり,原告の取消事由4の主張は理由がない。
5取消事由5(本件発明2についての容易想到性の判断の誤り)について( ) 相違点Cに係る本件発明1の構成と相違点Dに係る本件発明2の構成は,前 1記第2の3( ),( )のとおりであるところ,相違点Dに係る本件発明2の構成は, 34相違点Cに係る本件発明1の構成と比較すると,ボーナス役の内部当たり状態における抽選処理を実行する確率テーブルが,本件発明2は,一般遊技状態と同一の確率テーブルであるのに対し,本件発明1は,ボーナス役の抽選確率を規定する部分において一般遊技状態と同一の確率テーブルである点で両者に差異がある。
そして,前記3( )の判示によれば,本件発明2の「ボーナス役の内部当たり状2態における抽選処理が・・・一般遊技状態と同一の確率テーブルに基づいて実行される」との構成が,刊行物8に開示されているものと認められる。
( ) 相違点Aに係る本件発明1の構成と相違点Eに係る本件発明2の構成は,前2記第2の3( ),( )のとおりであるところ,相違点Eに係る本件発明2の構成は, 34相違点Aに係る本件発明1の構成と比較すると,相違点Aに係る本件発明1の構成に含まれるものである。
そして,相違点Aに係る本件発明1の構成が刊行物8に開示されていることは,前記1( )のとおりであるから,相違点Eに係る本件発明2の構成も同様というべ6きである。
( ) 相違点Bに係る本件発明1の構成と相違点Fに係る本件発明2の構成は,前3記第2の3( ),( )のとおりであるところ,相違点Fに係る本件発明2の構成は, 34相違点Bに係る本件発明1の構成と比較すると,相違点Bに係る本件発明1の構成と同一であるから,前記2( )と同様である。
2( ) そうすると,刊行物8に接した当業者は,同刊行物を引用発明に適用して, 4相違点DないしFに関する本件発明2の構成ととすることは,前記4と同様,容易に想到し得たものというべきである。
したがって,本件発明2と引用発明の相違点DないしFについて,それぞれ周知であるとし,これに基づき,相違点DないしFに係る本件発明2の構成がいずれも容易想到であるとした決定の判断は,その前提となる発明の要旨認定において誤っているが,結論において相当というべきであり,原告の取消事由5の主張は採用の限りでない。
6取消事由6(本件発明4についての容易想到性の判断の誤り)について( ) 相違点Dに係る本件発明2の構成と相違点Jに係る本件発明4の構成は,前1記第2の3( ),( )のとおりであるところ,相違点Jに係る本件発明4の「ボーナ 45ス役の内部当たり状態で使用する確率テーブルが,所定のボーナス抽選役を抽選可能な」という構成は,相違点Dに係る本件発明2の「一般遊技状態と同一の確率テーブルに基づいて,前記ボーナス役の内部当たり状態における抽選処理を実行する」という構成と実質的に同一である。
そして,相違点Dに係る本件発明2の構成が刊行物8に開示されていることは,前記5( )のとおりであるから,相違点Jに係る本件発明4の構成も同様というべ1きである。
( ) そうすると,刊行物8に接した当業者は,同刊行物を引用発明に適用して,2相違点Jに関する本件発明4の構成とすることは,前記4と同様,容易に想到し得たものというべきである。
したがって,本件発明4と引用発明の相違点Jについて周知であるとし,これに基づき,相違点Jに係る本件発明4の構成がいずれも容易想到であるとした決定の判断は,必ずしも正確であるとはいえないものの,結論において相当というべきであり,原告の取消事由6の主張は採用することができない。
7結論以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,原告の請求は棄却を免れない。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 宍戸充
裁判官 柴田義明