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関連審決 不服2005-9856
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19行ケ10098審決取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10185審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10040審決取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10202審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10298審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 新規性 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  周知技術 /  技術常識 /  限定的減縮 /  数値限定 /  技術的意義 /  置き換え /  置換 /  同一の作用効果 /  実施 /  加工 /  構成要件 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  減縮 /  変更 / 
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事件 平成 19年 (行ケ) 10139号 審決取消請求事件
原告ナ カシン印刷株式会社
訴訟代理人弁理士渡辺三彦
被告特許庁長官 肥塚雅博
指定代理人田中玲子
同 松縄正登
同 森川元嗣
同 内山進
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/11/06
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2005-9856号事件について平成19年3月5日にした審決を取消す。
第2事案の概要本件は,名称を「紙製容器(変更後 」とする後記特許の出願人である原告 )が,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたものの,特許庁から請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを求めた事案である。
争点は,本願が,発明の名称「垂れ蓋開閉用ひも掛け具」とする公開特許公報(引用発明。出願人 日東電工株式会社及びナカシン印刷株式会社〔原告 ,〕公開日 平成10年1月27日)との関係で進歩性を有するかである。
第3当事者の主張1請求原因( )特許庁における手続の経緯1原告は,名称を「垂れ蓋開閉用ひも掛け具とこれを用いた紙製容器」とする発明について,平成13年8月28日に特許出願(特願2001-257124号。請求項の数2。以下「本願」という。甲7)をし,その後平成16年3月8日付け補正(第1次補正)で発明の名称を「紙製容器」と,請求項の数を1と変更し(甲4 ,次いで平成16年9月29日付けでも特許請 )求の範囲の変更等を内容とする補正(第2次補正。以下「旧補正」という。
甲5)をしたが,特許庁は,平成17年4月25日付けで拒絶査定をした。
そこで原告は,これに対する不服の審判請求をし,同請求は不服2005-9856号事件として特許庁に係属し,同事件の中で原告は平成17年6月23日付けで特許請求の範囲変更等を内容とする補正(第3次補正。以下「本件補正」という。甲6)をした。しかし特許庁は,平成19年3月5日,本件補正を却下した上 「本件審判の請求は,成り立たない 」とする審 , 。
決をし,その謄本は平成19年3月26日原告に送達された。
( )発明の内容2ア旧補正時(平成16年9月29日)の請求項1に係る発明の内容(以下「本願発明」という )は,下記のとおりである。 。
記材料に紙を用いて形成されたひも掛け具基材に片面側へ突出するよう厚み方向の段差を,この段差の外径がひも掛け具基材の最大径に対して39%から82%の範囲となるようプレス加工によって設け,このひも掛け具基材を紙製容器の垂れ蓋と本体のそれぞれに接着し,一方ひも掛け具基材を掛けひも付きとした紙製容器において,前記ひも掛け具基材の前記段差の突出面側に,溶融状態のホットメルト接着剤を噴射して塗布し,このひも掛け具基材を紙製容器の垂れ蓋と本体のそれぞれに,加熱加圧によるホットメルト接着剤の溶融により接着固定し,この時,一方のひも掛け具基材は,容器と段差の突出面間に掛けひもの一端側を挟み込んだ状態でホットメルト接着剤により接着固定して掛けひも付きのひも掛け具基材とした紙製容器。
イ本件補正時(平成17年6月23日)の請求項1に係る発明の内容(以下「補正発明」という )は,下記のとおりである(下線は補正箇所 。 。 )記材料に紙を用いて形成されたひも掛け具基材に片面側へ突出するよう厚み方向の段差を設け,このひも掛け具基材を紙製容器の垂れ蓋と本体のそれぞれに接着し,一方ひも掛け具基材を掛けひも付きとした紙製容器において,前記ひも掛け具基材の厚み方向の段差の突出高さが0.1mm〜2.5mmで外径がひも掛け具基材の最大径に対して39%から82%の範囲となるようプレス加工によって設け,前記ひも掛け具基材の前記段差の突出面側に,溶融状態のホットメルト接着剤を噴射して塗布し,このひも掛け具基材を紙製容器の垂れ蓋と本体のそれぞれに,加熱加圧によるホットメルト接着剤の溶融により接着固定し,この時,一方のひも掛け具基材は,容器と段差の突出面間に掛けひもの一端側を挟み込んだ状態でホットメルト接着剤により接着固定して掛けひも付きのひも掛け具基材とした紙製容器。
( )審決の内容3ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。
その理由の要点は,?@補正発明は,その出願前に頒布された下記引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから,特許法(以下「法」という )29条2項により特許出願 。
の際に独立して特許を受けることができず,本件補正は却下すべきものである,?A本願発明も,同様に法29条2項により特許を受けることができない,としたものである。
記引用例:特開平10-24938号公報(甲1。以下「甲1文献」といい,これに記載された発明を以下「引用発明」という。出願人 日東電工株式会社及びナカシン印刷株式会社〔原告 ,公開日 平成10年1月27 〕日)イなお審決は,上記判断をするに当たり,補正発明と引用発明との一致点及び相違点を次のとおり認定した。
[一致点]「材料に紙を用いて形成されたひも掛け具基材に片面側へ突出するよう厚み方向の段差を設け,このひも掛け具基材を紙製容器の垂れ蓋と本体のそれぞれに接着し,一方ひも掛け具基材を掛けひも付きとした紙製容器において,前記ひも掛け具基材の厚み方向の段差の外径がひも掛け具基材の最大径に対して39%から82%の範囲となるようプレス加工によって設け,前記ひも掛け具基材の前記段差の突出面側に,ホットメルト系粘着剤を設け,このひも掛け具基材を紙製容器の垂れ蓋と本体のそれぞれに,ホットメルト系粘着剤により接着固定し,この時,一方のひも掛け具基材は,容器と段差の突出面間に掛けひもの一端側を挟み込んだ状態でホットメルト系粘着剤により接着固定して掛けひも付きのひも掛け具基材とした紙製容器」である点。
[相違点1],, ひも掛け具基材の厚み方向の段差の突出高さが 補正発明においては「0.1mm〜2.5mm」であるのに対し,引用発明では 「0.1 ,mm〜2.0mm」である点。
[相違点2]ひも掛け具基材の前記段差の突出面側において,補正発明では「溶融状態のホットメルト接着剤を噴射して塗布し,加熱加圧によるホットメルト接着剤の溶融により接着固定したもの」であるのに対し,引用発明では,ホットメルト系両面粘着テープを用いて「 封筒などの容器にひ (も掛け具を)固定」するものである点。
( )審決の取消事由4しかしながら,補正発明は本件補正によって独立して特許を受けることが, , できる発明になったにもかかわらず 審決は誤って補正却下したものでありまた仮に補正却下が合法だとしても本件補正前の本願発明は特許要件をすべ, , て具備しているのに 審決は誤って特許を受けることができないとしたから以下に述べる次第により,審決は違法として取り消されるべきである。
ア取消事由1(補正発明と引用発明との相違点の認定の誤り)審決は,補正発明と引用発明との相違点として,上記( ),イのとおり3の相違点1,2であるとした。
しかし,補正発明と引用発明とでは 「掛けひも」の一端側の取付位置 ,が異なることを審決は看過しており,これも相違点と認定すべきである。
すなわち,補正発明においては,容器と段差の突出面間に掛けひもの一端側を挟み込んだ状態でホットメルト接着剤により接着固定して掛けひも付きのひも掛け具基材としているのに対し,引用発明は (ひも掛け具) ,基材と,この(ひも掛け具)基材よりも小径の両面粘着テープを,該基材片面の略中央において,両者の間に掛けひもの一端を挟み込んだ状態で粘着した垂れ蓋開閉用ひも掛け具である。すなわち,掛けひもの一端側は,補正発明では容器とひも掛け具基材の段差の突出面の間でホットメルト接着剤によって容器の垂れ蓋の表面に直接接触して接着固定されているのに対し,引用発明では(ひも掛け具)基材と両面粘着テープの間で接着されているので,掛けひもの一端側は容器に直接接触して接着固定されるのではなく,両面粘着テープを介して容器の垂れ蓋の表面に接着固定されている点が相違点としてあり,審決はこれを看過した点で違法である。
また,引用発明の掛けひもは,1つの両面粘着テープにつき2回,つまり (ひも掛け具)基材Aを作製する時とこの基材Aを書類袋の垂れ蓋に ,貼り付ける時の2回,加熱加圧をしなければ掛けひも付きの書類袋を得られないことになるのに対し,補正発明においては,加熱加圧が1回のみで良い。これは補正発明の構成要件である「前記ひも掛け具基材の前記段差の突出面側に溶融状態のホットメルト接着剤を噴射して塗布」が予めなされていることによる。これにより,容器と段差の突出面間に掛けひもの一,, 端側を挟み込んだ状態でホットメルト接着剤により接着固定できる 即ち1回のホットメルト接着剤の加熱加圧で掛けひもを一方のひも掛け具基材と容器の垂れ蓋の間に挟み込んで接着固定できる。すなわち,引用発明では2回の加熱加圧が必要であるのに対し,補正発明は1回の加熱加圧で容器と段差の突出面間に掛けひもの一端側を挟み込んだ状態で接着固定できるという作用効果の差異もある。
イ取消事由2(補正発明と引用発明との相違点についての判断の誤り)(ア)相違点1について,,「 , 審決は 相違点1について格段の作用・効果の差異も認められず当業者が必要に応じて容易に採用しうる設計上の変更である(6頁1。」0行〜11行)と判断しているが,補正発明のひも掛け具基材の厚み方向の段差の突出高さ「0.1mm〜2.5mm」は,引用発明の「0.1mm〜2.0mm」より0.5mmだけ大きい分,容器とひも掛け具基材の段差の突出面が形成する隙間が大きくなり,掛けひもを巻き付ける際に容器とひも掛け具基材の段差の突出面が形成する隙間の間に入れ易くなり,締付け時における作業能率が向上する利点を有している。このような作用効果を補正発明は引用発明と較べ有しているが,審決はこの点を考慮することなく看過しており,その判断は誤りである。
(イ)相違点2についてまた審決は,相違点2について,引用発明の両面粘着テープにおいても,ホットメルト系等の粘着剤を用いたものであるとしている(6頁13行〜14行 。そして補正発明は,ホットメルト接着剤により接着固 )定したものであるが,ホットメルト接着剤も,過熱して溶融状態になった状態で噴射して塗布し,さらに,該塗布された接着剤を加熱加圧によるホットメルト接着剤の溶融により接着固定することは,甲2(柳原栄一著「接着技術の新展開」株式会社工業調査会1985年9月10日発行。以下「甲2文献」という )によって周知であるとしている。つま 。
り,補正発明は引用発明のホットメルト系等の粘着剤を用いている両面粘着テープをホットメルト接着剤に置き換えたものであり,しかもそのホットメルト接着剤の塗布,接着固定は周知技術であるというものである。しかし,引用発明は両面粘着テープを用いているのに対し,補正発明はこれを使用することなくホットメルト接着剤によって直接にひも掛け具基材と容器とを接着している。この両面粘着テープからホットメルト接着剤への置換えは当業者といえども容易に行えるものではなく,審決はこの点で誤っている。その理由の詳細は以下のとおりである。
甲1文献の【0023】には 「次に基材1に貼り合わせられる両面 ,,, , 粘着テープ2としては 不織布 合成樹脂系やゴム系等の発泡体シートプラスチックフィルム等の支持体の両面にアクリル系,ゴム系,ホットメルト系等の粘着剤を塗布した構成のもの,あるいは,支持体が無い粘着剤層のみの構成のものなどがある 」と記載されている。すなわち, 。
両面粘着テープは,合成樹脂フィルム等からなる支持体の両面にホットメルト系粘着剤等を塗布したものである 「支持体が無い粘着剤層のみ 。
の構成のもの」とは,この言葉の主語が「両面粘着テープ」であることから,2つのホットメルト粘着剤層が積層されてテープ状になったものと解釈されるべきである。
また甲1文献の【0024】には 「両面粘着テープ2の厚さは,掛 ,けひも3の巻き易さや,容器に対する接着強度の点から,0.05mm〜1.2mm,好ましくは0.1mm〜0.5mmが望ましい 」と記。
載されていることから,所定の厚さを有したテープ状のものである。
これらのことから,上記「両面粘着テープ」の意味は,合成樹脂フィルム等からなる支持体の両面にホットメルト粘着剤を塗布した所定厚さを有するテープ状のものか,若しくは,ホットメルト粘着剤層を2つ以上積層した所定厚さを有するテープ状のものかのいずれかである。このような補正発明と引用発明との構成上の相違に基づく作用効果は,以下のaないしeに述べるような多くの相違がある。
a引用発明の両面粘着テープは,支持体の両面にホットメルト粘着剤を塗布するので,ひも掛け具基材の段差の突出面にホットメルト接着剤が塗られるだけの補正発明と較べて,ホットメルト粘着剤が2倍の量必要であると共に,合成樹脂フィルム等からなる支持体も必要であるので,補正発明は引用発明と較べて材料費が2分の1以上安価になる。原告が実際に引用発明を用いてひも掛け具基材と両面粘着テープの間に掛けひもの一端を挟み込んだ状態で貼着した垂れ蓋開閉用ひも掛け具を作製したところ,1セットの単価が約7円程度であったが,補正発明のホットメルト接着剤のものでは約3円で製作でき,製作単価は約半分であった。
b引用発明の両面粘着テープが,支持体が無い粘着剤層を積層したテープの場合であっても,ホットメルト接着剤を塗っただけの補正発明の方が材料費が単純計算でも2分の1となる。実際にこのようなホットメルト粘着剤を積層してテープ状とすることができたとしても,その製作費がかかり製作単価が更に高価となる。
c引用発明で用いている両面粘着テープは,作製工程で表面に露出している粘着剤が他のものに触れて接着しないように少なくとも片面には離剥紙を貼っておかなければならないが,この離剥紙の廃棄処分の手数が面倒であり,焼却処分の場合には材質が通常は合成樹脂製であるので公害の問題も生ずる。これに対して,補正発明は,掛けひも具基材の片面に溶融状態のホットメルト粘着剤を噴射して塗布するだけでよいので,この様な面倒な作業は不要で,且つ廃棄処理に伴う公害発生がないという利点がある。
d引用発明は,両面粘着テープの支持体として合成樹脂フィルム等を使用していることから,これを用いたひも掛け具基材を使用している封筒などの容器を廃棄処理する際に,焼却した場合には前記離剥紙と同様にダイオキシンなどの有害物質が発生し,地中に埋めた場合にもそのまま残存するなど,公害問題が生ずる。そのため,封筒など紙からなる容器とひも掛け具基材とを分離して廃棄処理しなければならなくなって手数が多く掛かっている。これに対し,補正発明は支持体を使用せず,且つひも掛け具基材の材料として紙を使用しているので,そのまま紙の容器と共に焼却等のような廃棄処理をしても公害が発生することがないという利点がある。
e補正発明のホットメルト接着剤によって,容器とひも掛け具基材を接着固定した場合には,強い接着力を有する。これは試験結果(本願明細書〔甲7〕の【0036 【0037 【表2 )からも明らかで 】】】ある。すなわち,手で容器とひも掛け具基材を引き剥がせば,温度条件や紐の有無に関係なく,ホットメルト接着剤によって接着した部分が剥がれるのではなく,全てひも掛け具基材が破壊されている。引用発明にはこれと同じ条件での実験結果が開示されていないので単純に比較することは困難ではあるが,ひも掛け具基材の破壊が最高の接着強度と判断できるので,両面粘着テープを用いる引用発明と同等以上であることが推測できる。
, , 上記aないしeの効果 すなわち引用発明と比較して安価であること製作が容易であること,無公害であること,強固に接着できること等を有するが故に,補正発明の封筒などの紙製容器は,環境省や地方自治体の環境担当部署などから高く評価され,これらの官公庁を始めとして大手企業をも含めて納入実績が徐々に拡大しつつあるのが現状である。このような事実は,補正発明が引用発明と比較して,十分に有用な進歩性を具備していることの証左でもある。この点からも審決は誤っているといえる。
(ウ)審決が認定しなかった相違点について(上記ア)審決が言及していない原告主張の相違点(上記ア)について,補正発明においては掛けひもの一端の取付け固定位置が,ひも掛け具基材の段差の突出面のホットメルト接着剤と容器の表面との間であり,引用発明においては両面粘着テープとひも掛け具基材の段差の突出面の間である。この構成上の相違により,補正発明においては容器の表面へ接着固定した状態で,掛けひもは容器の垂れ蓋の表面にぴったりと密着した状態にあるのに対し,引用発明においては,容器の垂れ蓋の表面から両面。 , 粘着テープの厚さ分だけ浮いた状態にある この浮いた厚さ分の長さは【】,「.. 引用発明では甲1文献の 0024 記載の通り0 05mm〜12mm」であるが,甲1文献の【0037】の実施例によると0.3mmである。ひも掛けは,容器の垂れ蓋と本体にそれぞれ接着固定してある2つのひも掛け具基材の段差の突出面と容器の垂れ蓋や本体の表面の間に形成されている僅かな間隙,補正発明では段差の突出高さ0.1mm〜2.5mmにホットメルト接着剤の厚さを加えた距離の間隙に掛けひもを入れて巻回して何回か往復させることによって,容器の蓋と本体とをこのひもで締結して容器の開口部を閉塞するので,掛けひもの垂れ蓋の表面への固着側の一端部は,垂れ蓋の表面から離れているよりも密着している方がこの狭い僅かな間隙に入れ易い。加えて,掛けひもを使用しない時には,この掛けひもが垂れ蓋の表面に密着している方が積み。, 重ね保存する際や持ち運びの際にも邪魔にならない これらのことから補正発明の方が,引用発明と比較して使用し易いという利点があるが,審決はこの補正発明の構成及びその効果を見逃している。
甲2文献には周知技術として補正発明で用いるホットメルト接着剤についての説明と,ホットメルト接着剤の塗布方法の図解が示されているが,補正発明は単に両面粘着テープに代えてホットメルト接着剤を塗布するだけの技術ではないことは掛けひもの一端の取付け固定位置その他上述の作用効果から明らかである。甲2文献が補正発明の拒絶理由とならないことは明白であり,また甲1文献と甲2文献を合わせてもそこから補正発明が容易に発明できるものでもない。したがって,これらから容易に発明できるとした審決の判断は誤りである。
(エ)まとめ以上のことから補正発明は,進歩性その他の特許要件を全て具備した有用な発明であるので,独立して特許を受けることができる発明であることが明白である。従って,本件補正は法17条の2第5項で準用する法126条5項の規定に違反しないことが明らかであり,法159条1項で準用する法53条1項の規定により本件補正を却下した審決は違法であり,取り消されるべきである。
ウ取消事由3(本願発明の判断の誤り)上述のように,本件補正が有効であり補正発明は独立して特許を受けることができることから,本件補正がなされなかったことを前提として議論している審決の「<3>本願発明について (6頁下3行目以下)は考慮 」するまでもないが,仮に本件補正が却下され,補正発明が本件補正前の本願発明に戻ったとしても,上述したことから新規性,進歩性を含む全ての特許要件を具備しており,特許されるべき発明であるので,本願発明を法29条2項の規定により特許を受けることができないとした審決は取り消されるべきである。
2請求原因に対する認否請求原因( )ないし( )の各事実は認めるが,同( )は争う。
13 43被告の反論審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
( )取消事由1に対し1原告は補正発明において,掛けひもの一端側の取付位置が異なることを審決は相違点として見逃している旨主張する。
しかし,補正発明の特許請求の範囲には 「加熱加圧によるホットメルト ,接着剤の溶融により接着固定し」と記載されていることから,ひも掛け具基材と容器とが掛けひもとホットメルト接着剤をそれらの間に挟んだ状態で加熱加圧すれば,接着した状態においては掛けひもが溶融したホットメルト接着剤の中に埋没する形で存在することが明白であり,掛けひもの一端側の取付位置が特定されているわけではない。
一方,引用発明において,甲1文献の段落【0023】には 「…両面粘 ,着テープ2としては,…支持体の両面にアクリル系,ゴム系,ホットメルト系等の粘着剤を塗布した構成のもの,あるいは,支持体が無い粘着剤層のみの構成のものなどがある 」と記載されていることから,引用発明において 。
は 「支持体が無いホットメルト系粘着剤層のみの構成からなる両面粘着テ ,ープ」を用いる場合が開示されている。
ここで,接着固定する際に,ホットメルト系粘着剤を加熱加圧する方法を採用することは,技術常識である。
してみると,引用発明においても,支持体が無いホットメルト系粘着剤層のみの構成からなる両面粘着テープで接着した状態においては,掛けひもがホットメルト接着剤の中に埋没する形で存在することが明白である。
したがって,補正発明と引用発明とはホットメルト接着剤の加熱加圧による接着を用いる手段において,両者は同じであり,掛けひもがホットメルト接着剤の中に埋没する形で存在するから,接着が終了した状態においては,相違はなく,原告の主張は失当である。
そして,甲1文献の「図3(イ (ロ)は,ひも掛け具を構成する掛けひ )もを有する側の部材Aの更に他の例を示し,厚み方向に段差を設けた円形状の基材1の片面に掛けひも3を介在させて,該基材1の面積よりも小さい面積を有する円形状の両面粘着テープ2を貼り合わせた構造を有している 」。
(段落【0016「 図3(ハ (ニ)は,上記部材Aの掛けひも3を巻 】),)き付ける為に使用される掛止具Bの更に他の例を示し,厚み方向に段差を設けた円形状の基材1の片面に,該基材1の面積よりも小さい面積を有する円形状の両面粘着テープ2を貼り合わせた構成になっている( 段落【00。」17「次に基材1に貼り合わせられる両面粘着テープ2としては,不織 】),布,合成樹脂系やゴム系等の発泡体シート,プラスチックフィルム等の支持体の両面にアクリル系,ゴム系,ホットメルト系等の粘着剤を塗布した構成のもの,あるいは,支持体が無い粘着剤層のみの構成のものなどがある 」。
(段落【0023「…基材1に貼り合わせた両面粘着テープ2の反対側 】),。」 の粘着層は書類袋や段ボール箱等の容器に部材を固定する為に使用される(段落【0031「この発明のひも掛け具は,例えば図4に示す書類袋 】),4の場合,掛けひも3を有する側の部材Aを書類袋の垂れ蓋5の中央部に両面粘着テープ層を下側にして貼り付け,書類袋本体の背面上端部の上記部材Aに対応する位置に掛けひも3を巻き付ける為の防止具Bを固定する(段。」落【0035 )等の記載及び【図3【図4】の図示内容から,甲1文献 】】,には基材1の段差の突出面側に,ホットメルト系粘着剤を設け,この基材1を容器(書類袋)の垂れ蓋5と本体のそれぞれに,ホットメルト系粘着剤により接着固定するものが開示されているといえる。そして,この掛けひも3を有する側の部材Aは,基材1を容器(書類袋)の垂れ蓋5に,ホットメル,【】, ト系粘着剤により接着固定された時には 掛けひも3は上記段落 0016【】【】,【】 , 段落 0035 及び 図3図4 の図示内容からみて明らかなように容器と段差の突出面の間に一端側を挟み込んだ状態にあるものであり 「一,方のひも掛け用基材は,容器と段差の突出面の間に掛けひもの一端側を挟み込んだ状態でホットメルト系粘着剤により接着固定して掛けひも付きのひも掛け具基材とした」といえるものである。
したがって,補正発明と引用発明とは「前記ひも掛け具基材の前記段差の突出面側に,ホットメルト系粘着材を設け,このひも掛け具基材を紙製容器の垂れ蓋と本体のそれぞれに,ホットメルト系粘着材により接着固定し,この時,一方のひも掛け用基材は,容器と段差の突出面間に掛けひもの一端側を挟み込んだ状態でホットメルト系粘着剤により接着固定して掛けひも付きのひも掛け具基材」の点で一致するとした審決の認定に誤りはない。
( )取消事由2に対し2ア相違点1につき補正発明は,ひも掛け具基材の厚み方向の段差の突出高さを「0.1mm〜2.5mm」としているのに対し,引用発明は 「0.1mm〜2. ,0mm」としており,両者はひも掛け具基材の厚み方向の段差の突出高さが「0.1mm〜2.0mm」において重複しており,補正発明が,ひも掛け具基材の厚み方向の段差の突出高さを「0.1mm〜2.5mm」に限定したものであっても,これが引用発明と一部において重複している以上,引用発明も重複する構成の範囲において,補正発明と同一の作用効果を奏することは明らかである。
なお, 引用発明も甲1文献の段落【0021】に「…基材1の厚み方向に段差を設けた形状とすることにより,掛けひも3を部材に巻き易くすることができるという利点がある」と記載されていることからみて,掛けひもを容器とひも掛け具基材の段差の突出面が形成する隙間の間に入れ易くするという同じ目的で段差を形成するものであるから,引用発明の数値の上限である2.0mmを超えて2.5mmまで段差とすることは,掛けひもの太さに応じて,当業者が容易になし得ることであり,補正発明の数値限定に格別の技術的意義はない。
したがって,審決が「 ひも掛け具基材の厚み方向の段差の突出高さ』 『,『..』,『. を0 1mm〜2 5mm にしたことは 引用例記載の発明の 01mm〜2.0mm』に比べ,格段の作用・効果の差異も認められず,当業者が必要に応じて容易に採用しうる設計上の変更である(6頁8行〜。」11行)と判断したことに誤りはない。
イ相違点2につき甲1文献の段落【0023】には 「…両面粘着テープ2としては,… ,支持体の両面にアクリル系,ゴム系,ホットメルト系等の粘着剤を塗布した構成のもの,あるいは,支持体が無い粘着剤層のみの構成のものなどがある 」と記載されているのであって 「2つのホットメルト粘着剤層が積 。 ,層されてテープ状になったもの」という記載はなく 「支持体が無い粘着 ,剤層のみの構成のもの」と明確に記載されており 「2つのホットメルト ,粘着剤層が積層されてテープ状になったものと解釈されるべきである」というのは原告独自の解釈にすぎない。
さらに,甲1文献の段落【0024】の記載は,両面粘着テープ2の厚さについて言及しているのみで,特に「支持体が無い粘着剤層のみの構成のもの」を除いているわけではなく 「支持体が無い粘着剤層のみの構成 ,のもの」についての厚さが「0.05mm〜1.2mm,好ましくは0.1mm〜0.5mmが望ましい 」とされることを除外して記載している 。
わけではない。
そして,上記甲1文献の段落【0023】には,両面粘着テープの粘着剤としてホットメルト系粘着剤を用いることが記載されており,引用発明がホットメルト粘着剤による接着固定を想定していることは明らかである。
一方,ホットメルト系接着剤を,加熱して溶融状態になった状態で噴射して塗布し,加熱加圧によるホットメルト接着剤の溶融により接着固定することは,甲2文献に開示されているように周知の技術である。
よって,ホットメルト系粘着剤を使用する引用発明においても,ホットメルト系両面接着テープによって接着固定する技術に代えて,甲2文献に示されたように従来周知の技術であるホットメルト系接着剤を,加熱して溶融した状態で噴射して塗布し,加熱加圧によるホットメルト接着剤の溶融により接着固定する技術を採用することは,当業者が容易になし得たものである。
また,審決が相違点2として認定した相違点については,甲2文献に記載されているとおり周知技術であり,その相違点による効果も,周知技術に元来含まれる効果である。したがって,原告が相違点2について補正発明の特有の効果と主張するものは,当業者が予測し得た効果にすぎない。
よって,審決の相違点2の判断に誤りはない。
ウ審決が言及していない相違点に関する主張につき上記( )で被告が主張したとおり,補正発明と引用発明には原告が主張1する相違点はないのであるから,原告の主張は失当である。
原告は,補正発明においては掛けひもは容器の垂れ蓋の表面にぴったりと密着した状態にあり,垂れ蓋の表面から離れているよりも密着している方が,ひも掛け具基材の段差の突出面と容器の垂れ蓋や本体の表面の間に形成されている狭い僅かな間隙に入れ易いと主張するので,念のためひも掛け具基材と掛けひもの位置関係による掛けひもの間隙への入れ易さについて検討する。
少なくとも掛けひもをひも掛け具基材の段差の突出面と容器の垂れ蓋や本体の表面の間に形成されている狭い僅かな間隙に入れる際には,まず,ひも付きのひも掛け具基材からひも無しのひも掛け具基材に掛けるのであるから,補正発明と引用発明が,掛けひもの間隙への入れ易さが異なることはなく,次にひも付きのひも掛け具基材に掛ける際には,ひもの出ている側でなく側面側を通って反対側に掛け回すのであるから,この際も特段異なるものとはいえず,原告のいう狭い僅かな隙間に入れ易いという効果は,仮にあったとしても,その後にひも付き掛け具基材のひもの出ている側に掛け回す際の極僅かなものに過ぎない。
したがって,ひも掛け具基材と容器の間に掛けひもがある以上,掛けひもの取付位置にかかわらず,掛けひもの間隙への入れ易さには影響がないので,原告の主張は失当である。
また,掛けひもが垂れ蓋の表面に密着している方が積み重ね保存する際や持ち運びの際に邪魔にならないという効果についても,掛けひも・ひも掛け具基材・容器の寸法などが特定されていない補正発明が引用発明に較べて格別なものとはいえない。
( )取消事由3に対し3補正発明は,審決が判断するように,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,独立して特許を受けることができないものであり,本件補正は却下されるべきものである。
よって,限定的減縮を目的とした本件補正が却下された本願発明も,同様の理由により,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4当裁判所の判断1請求原因( )(特許庁における手続の経緯 ,(2)(発明の内容)及び(3)(審1 )決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
2取消事由1について( )原告は,審決は補正発明と引用発明との相違点として,掛けひもの一端1側の取付位置が異なる点を看過しているとし,補正発明では掛けひもの一端側は,容器とひも掛け具基材の段差の突出面の間でホットメルト接着剤によって容器の垂れ蓋の表面に直接接触して接着固定されているのに対し,引用発明では(ひも掛け具)基材と両面粘着テープの間で接着されているので,掛けひもの一端側は容器に直接接触して接着固定されるのではなく,両面粘着テープを介して容器の垂れ蓋の表面に接着固定されているのであり,審決はこの相違点を看過したと主張する。
しかし,補正発明の特許請求の範囲の記載は,上記第3,1,(2),イ記載のとおりであり 「一方のひも掛け具基材」の取付けにつき「容器と段差 ,の突出面間に掛けひもの一端側を挟み込んだ状態でホットメルト接着剤により接着固定」すると記載されているところ,補正発明の「掛けひも」の一端側が,原告主張のように「容器とひも掛け具基材の段差の突出面の間でホットメルト接着剤によって容器の垂れ蓋の表面に直接接触して接着固定されている」こと,特に,ホットメルト接着剤によって容器の垂れ蓋の表面に直接接触して接着固定することについては,補正発明の特許請求の範囲には記載されていない。原告の上記主張はそもそも特許請求の範囲の記載に基づかない主張であって,採用することができない。
(2)アまた本願明細書(甲7〔出願時 )をみても,掛けひもの一端側の取付 〕け位置等に関して,以下のとおり記載されている。
【0016】また,ひも掛け具基材は,容器の垂れ蓋と本体に取り付けることになるが,この容器への取り付けは,段差の突出面側に塗布したホットメルト接着剤を容器に重ね,この重なり部分を加熱加圧してホットメルト接着剤を溶融させることによって行え,このとき,一方のひも掛け具基材に対して,掛けひもの一端側を突出面と容器の間に挟み込むことにより,この一方のひも掛け具基材を掛けひも付きとし,容器の垂れ蓋を閉鎖するには,掛けひもを両ひも掛け具基材間に巻き付ければよく,掛けひもは段差によって容器と掛け具基材との間に生じた隙間に納まることになる。
【0017】【発明の実施の形態】以下,この発明の実施の形態を図示例と共に説明する。
【0022】上記ひも掛け具基材1は,図2のように,容器4の垂れ蓋5と本体6にそれぞれ取り付けることになるが,容器4としては,紙や再生紙を用いた大型封筒,書類袋,段ボール箱等を挙げることができ,この容器4へのひも掛け具基材1の取り付けは,段差2の突出面側に塗布したホットメルト接着剤3を容器4に重ね,この重なり部分を加熱加圧してホットメルト接着剤3を溶融させることによって行え,このとき,一方のひも掛け具基材1を掛けひも付き1aとし,他方のひも掛け具基材1はそのまま溶着した掛けひも無し1bとして使用する。
【0023】掛けひも付き1aとするには,一方のひも掛け具基材1の容器4への取り付け時に,掛けひも7の一端側を段差2の突出面と容器4の間に挟み込むことにより,ホットメルト接着剤3で一方のひも掛け具基材1と容器4に対して固定化すればよい。
上記記載によれば補正発明における掛けひもの一端側の取付け位置に関し,原告の主張するような「ホットメルト接着剤によって容器の垂れ蓋の表面に直接接触して接着固定する」ことに関する記載はない。
イ一方,引用発明の両面粘着テープに関しても,甲1文献に以下の記載がある。
【0023】次に基材1に貼り合わせられる両面粘着テープ2としては,不織布,合成樹脂系やゴム系等の発泡体シート,プラスチックフィルム等の支持体の両面にアクリル系,ゴム系,ホットメルト系等の粘着剤を塗布した構成のもの,あるいは,支持体が無い粘着剤層のみの構成のものなどがある。
上記記載によれば,甲1文献には支持体が無いホットメルト系粘着剤層のみの構成からなる両面粘着テープを用いる場合が開示されているといえる。そして,特に支持体が無いホットメルト系粘着剤層のみの構成からなる両面粘着テープと掛けひもの一端を,段差の突出面側と書類袋の間に介在させて加熱加圧すれば,掛けひもの一端の一方の面は,両面接着テープの粘着剤層を介して書類袋に接着し,その他方の面は,粘着テープの厚さと掛けひもの材質や厚さにより種々の態様が考えられるものの,両面接着テープの粘着剤層に接着した状態で段差の突出面側又は容器側に接着固定されるものと解される。
ウそうすると,審決が「一方のひも掛け具基材は,容器と段差の突出面間に掛けひもの一端側を挟み込んだ状態でホットメルト接着剤により接着固定」する点を一致点として認定したことに誤りはない。
,, , (3)また原告は 引用発明の掛けひもは 1つの両面粘着テープにつき2回つまり (ひも掛け具)基材Aを作製する時とこの基材Aを書類袋の垂れ蓋 ,に貼り付ける時の2回,加熱加圧をしなければ掛けひも付きの書類袋を得ら, , れないことになるのに対し 補正発明においては加熱加圧が1回のみでよくこれは補正発明の構成要件である「前記ひも掛け具基材の前記段差の突出面, 」, 側に 溶融状態のホットメルト接着剤を噴射して塗布 が予めなされておりこれにより,1回のホットメルト接着剤の加熱加圧で掛けひもを一方のひも掛け具基材と容器の垂れ蓋の間に挟み込んで接着固定できるという作用効果の差異があるとも主張する。
しかし,補正発明のこの作用効果は,その特許請求の範囲に記載されているように,ひも掛け具基材の段差の突出面側に溶融状態のホットメルト接着剤を噴射して塗布することが予めなされていることによるものであり,原告が主張する上記相違点,即ち補正発明では掛けひもの一端側が容器とひも掛け具基材の段差の突出面の間で容器の垂れ蓋の表面に直接接触して接着固定されているのに対し,引用発明では基材と両面粘着テープの間で接着され掛けひもの一端側が容器に直接接触して接着固定されるのではないことの相違による作用効果ではない。
よって,原告の上記主張は採用することができない。
3取消事由2について(1)相違点1につきア原告は,補正発明のひも掛け具基材の厚み方向の段差の突出高さ「0..」 ,「..」. 1mm〜2 5mm は 引用発明の 0 1mm〜2 0mm より05mmだけ大きい分,容器とひも掛け具基材の段差の突出面が形成する隙間が大きくなり,掛けひもを巻き付ける際に容器とひも掛け具基材の段差の突出面が形成する隙間の間に入れ易くなり,締め付け時における作業能率が向上する利点を有していることとなると主張する。
しかし,補正発明は,ひも掛け具基材の厚み方向の段差の突出高さを「0.1mm〜2.5mm」としているのに対し,引用発明は 「0.1 ,mm〜2.0mm」としており,両者はひも掛け具基材の厚み方向の段差の突出高さが「0.1mm〜2.0mm」において重複しているところ,本願当初明細書(甲7)には以下の記載がある。
【0025】上記ひも掛け具基材1に設ける段差2の突出高さと直径は,掛けひも7が巻, , き付けやすく 容器4に対する接着強度が得られる範囲で選択すればよいが例えば突出高さは,0.1mm〜2.5mmとする。突出高さは0.1mm以下であると,掛けひも7をひも掛け具基材1に対して巻き付けにくいと共に,2.5mm以上になると,ひも掛け具基材1の厚みが厚くなり,容器2を重ねて包装する場合に嵩高くなり,包装効率が悪くなる。
,, , 上記記載によれば 補正発明の数値範囲は 引用発明のそれを含みつつ上限を0.5mm広くとっているところ,これにより何らか補正発明の作用効果の点で差異があるかについては特段の記載がない。
イ一方,甲1文献には上記2,(2),イに摘示した段落【0023】のほか,以下の記載がある。
【0021】また,図3に示した様に,基材1の厚み方向に段差を設けた形状とすることにより,掛けひも3を部材に巻き易くすることができるという利点がある。このような段差は,基材1をプレス機で加工することによって形成することができ,通常,0.1mm〜2.0mmの段差が形成されるように基材がプレス加工される。
【0024】両面粘着テープ2の厚さは,掛けひも3の巻き易さや,容器に対する接着強度の点から,0.05mm〜1.2mm,好ましくは0.1mm〜0.5mmが望ましい。
【0025】両面粘着テープ2の厚さが0.05mmよりも薄くなると掛けひもが部材に巻き難くなり,さらに容器に対する接着強度が小さくなって,部。. , 材が容器から剥がれることがある また厚さが1 2mmよりも厚くなると封筒などの容器にひも掛け具を固定したときにひも掛け具による段差が大きくなり,ひも掛け具を貼り付けた封筒などを重ねて包装する場合に嵩高くなり,包装効率が悪くなる。
上記記載によれば,引用発明も,掛けひもを容器とひも掛け具基材の段差の突出面が形成する隙間の間に入れ易くするという同じ目的で段差を形成するものであり,引用発明の段差も補正発明と同様の作用効果を奏するものということができる。そして,引用発明における段差の突出高さの上限である2.0mmを,更に0.5mmだけ大きくして,補正発明のように2.5mmとしたとしても,掛けひもを部材に巻きやすくなることにおいては,格別な差異がなく,段差の突出高さをどの程度とするかは,掛けひもの太さや材質等に応じて当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が容易に決定し得ることである。
ウしたがって,原告の上記主張は採用することができない。
(2)相違点2につきア原告は,相違点2に関し,審決が引用発明の両面粘着テープに関してホットメルト系粘着剤について開示があり,これに周知技術(甲2文献)を適用し補正発明の構成とすることは容易想到と判断したところ,引用発明の両面粘着テープから補正発明のホットメルト接着剤への置換えは当業者といえども容易に行えるものではなく,審決の判断は誤りであると主張するので以下検討する。
(ア)甲2文献には以下の記載がある。
「(4)ホットメルト系,,, 熱可塑性樹脂をベースとした接着剤で ポリアミド ポリエステルエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA ,ポリオレフィンなどが用い )られている。固体なので使用するには加熱,溶融して塗布する必要があり,専用の塗布機が用いられている。冷却するだけで接着強さが得られるので,短時間に作業が終了することから,製本,包装など各方面で使用されている。最近では,発泡させながら塗布する手法も考案されている(18頁)。」「ホットメルト系接着剤では,アプリケータと称して,加熱融解槽と加圧, ()。」 装置 ガンとがセットになったものが市販されている 図2・参照10(30頁),,「. 」 そして 甲2の31頁には図2 10ホットメルトの塗布方式として「a.ローラー方式 「b.ノズル方式」とが紹介され,ノズル 」方式として,ホットメルトアプリケーターから加熱式ホースを経由して自動ガンにより噴射される方法が図示されている。
(イ)また,上記2,(2),イのとおり,甲1文献の段落【0023】には,粘着剤として,ホットメルト系等の粘着剤を使用することが開示されているほか,以下の記載もある。
【0031】この発明のひも掛け具に使用される掛けひもを有する側の部材Aは,基材1の片面の略中央部に,掛けひも3の一端を介在させた状態で両面粘着テープ2を貼り合わせることによって作製される。そして,基材1に貼り合わせた両面粘着テープ2の反対側の粘着層は書類袋や段ボール箱等の容器に部材を固定する為に使用される。
これによれば,甲1文献にはひも掛け具基材の段差の突出面側と容器との間に掛けひもの一端側を挟み込んだ状態にて接着固定することも記載されているといえる。
, , (ウ)以上の検討によれば 審決が周知技術として例示した甲2文献にはホットメルト系接着剤を加熱,溶融した状態でこれを噴射して塗布して, , 接着固定することが開示されており 当業者が甲1文献に接したならば同じホットメルト接着剤である上記周知技術を適用することは格別困難なことではなく,引用発明のホットメルト系等の粘着剤からなる両面粘着テープによる接着固定に換えて,周知技術の溶融状態のホットメルト接着剤を噴射して塗布する技術を適用し,ひも掛け具基材の段差の突出面側に,溶融状態のホットメルト接着剤を噴射して塗布し,このひも掛け具基材を紙製容器の垂れ蓋と本体のそれぞれに,加熱加圧によるホットメルト接着剤の溶融により接着固定する構成とすることは,格別困難なことではない。
イこれに対し原告は,引用発明の両面粘着テープは,2つのホットメルト粘着剤層が積層されてテープ状になったものと解釈されるべきであり,所定の厚さを有したテープ状のものであるところ,補正発明は,ひも掛け具基材の段差の突出面側に溶融状態のホットメルト接着剤を噴射して塗布しているので,掛けひもの一端側の全周囲を接着固定でき,ホットメルト接着剤による接着固定が確実になり,引用発明に比して安価で製作が容易であるほか,無公害で接着も強固にできる等の多くの作用効果の相違があるとも主張する。
しかし,甲1文献の段落【0023】の記載には,引用発明の両面粘着テープにつき,これが積層されテープ状になったもの,あるいは所定の厚さを有したテープ状のものとする根拠はなく,上記原告の主張する作用効果も溶融状態のホットメルト接着剤を噴射して塗布することによるものであって,それ自体は上記ア記載のとおり周知であり,周知技術あるいは引用発明から当然期待できるものというほかなく,補正発明特有の作用効果とすることはできない。
ウさらに原告は,取消事由1で原告が主張し審決が言及していない相違点について,補正発明においては掛けひもの一端の取付け固定位置が,ひも掛け具基材の段差の突出面のホットメルト接着剤と容器の表面との間であり,引用発明においては両面粘着テープとひも掛け具基材の段差の突出面の間であるから,この構成上の相違により,補正発明では段差の突出高さ0.1mm〜2.5mmにホットメルト接着剤の厚さを加えた距離の間隙に,掛けひもを入れて巻回して何回か往復させることによって,容器の蓋と本体とをこのひもで締結して容器の開口部を閉塞するので,掛けひもの垂れ蓋の表面への固着側の一端部は,垂れ蓋の表面から離れているよりも密着している補正発明の方が僅かな間隙に入れ易い効果があるとも主張する。
しかし上記原告の主張する相違点(取消事由1)については,上記2において検討したように,補正発明の特許請求の範囲には,原告主張の掛けひもの一端側を容器の垂れ蓋の表面に直接接触して接着固定することに関する記載はないことなどから認められないほか,本願明細書(甲4〜7)には,ひも掛け具基材の段差の突出面のホットメルト接着剤と容器の表面との間隙の程度あるいは溶融状態のホットメルト接着剤を噴射して塗布する際の塗布厚さ,及び原告が主張する掛けひもの一端部が垂れ蓋に密着していることによる作用効果についても,何ら記載されていないということができる。
さらに,引用発明においても,上記2,(2),イ記載のとおり,甲1文献の段落【0023】には 「…両面粘着テープ2としては,…支持体の ,両面に…粘着剤を塗布した構成のもの,あるいは,支持体が無い粘着剤層のみの構成のものなどがある 」と記載されており,特に,支持体が無い 。
粘着剤層のみの場合は,補正発明と同様に,ひも掛け具基材の段差の突出面のホットメルト接着剤と容器の表面との間隙を薄くすることも示唆されており,補正発明と同様に,引用発明においても,容器の表面に接着固定した状態で,掛けひもは容器の垂れ蓋の表面にぴったりと密着した状態にすることもできる。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
エさらに原告は,掛けひもが垂れ蓋の表面に密着している方が積み重ね保存する際や持ち運びの際にも邪魔にならないなどの作用効果があるとも主張するが,上記ウのように,引用発明においても,特に,支持体が無い粘着剤層のみの場合は,補正発明と同様に,ひも掛け具基材の段差の突出面のホットメルト接着剤と容器の表面との間隙を薄くすることも示唆されており,掛けひもを使用しない時には,この掛けひもが垂れ蓋の表面に密着している方が積み重ね保存する際や持ち運びの際にも邪魔にならないとの作用効果についても補正発明と同様であり,原告の上記主張は採用することができない。
4取消事由3について上記2,3で既に検討したとおり,審決の認定・判断に誤りはなく,補正発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許出願の際に独立して特許を受けることができないものとして本件補正は却下されるべきものである。
そして,本願発明を限定的に減縮することを目的とした補正発明が特許を受けることができないとして補正を却下されたのと同様の理由により,本願発明も引用発明及び周知技術(甲2)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたといえるから,本願発明につき法29条2項の規定により特許を受けることができないとした審決の認定に誤りはない。
5結語以上のとおり,原告が取消事由として主張するところは,いずれも理由がない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 今井弘晃
裁判官 田中孝一