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関連審決 不服2003-2541
関連ワード アクセス /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  周知技術 /  パリ条約 /  優先権 /  共有 /  優先日 /  参酌 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  交換 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  拡張 / 
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事件 平成 19年 (行ケ) 10020号 審決取消請求事件
原告インターナショナル・ビジネス・ マシーンズ・コーポレーション
訴訟代理人弁護 士桐原和典
同 勝田裕子
訴訟代理人弁理 士上野剛史
同 太佐種一
同 灘口明彦
被告特許庁長官 肥塚雅博
指定代理人青木重徳
同 長島孝志
同 赤川誠一
同 小池正彦
同 大場義則
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/10/31
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2003-2541号事件について平成18年9月5日にした審決を取り消す。
争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,平成8年7月16日,発明の名称を「複数のホスト・コンピュータ・システムにより複数の記憶装置アレイを共有するシステム及び方法」とする発明につき特許出願(特願平8-186269号,パリ条約による優先権主張1995年9月19日・米国。以下「本件出願」という。)をし,平成14年10月17日付け手続補正書をもって本件出願に係る明細書について特許請求の範囲の補正をした。
特許庁は,同年11月19日,本件出願につき拒絶査定をし,原告は,これに対して不服審判請求(不服2003-2541号事件)をし,その係属中,平成15年2月18日付け手続補正書をもって本件出願に係る明細書について特許請求の範囲の補正をした(以下,この補正後の明細書を図面と併せて「本願明細書」という。)そして,特許庁は,平成18年9月5日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は同月19日原告に送達された。
2 特許請求の範囲の記載本願明細書の特許請求の範囲は,請求項1ないし10からなり,請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。
「【請求項1】複数のホスト・コンピュータのデータを複数の記憶装置アレイ上に記憶し,任意の記憶装置上のデータが任意のホスト・コンピュータによりアクセスされ得るようにするシステムであって,各々がホスト・コンピュータに関連付けられ,指定されたアレイの1次制御を有する,複数のアダプタと,前記アダプタ間のピア・ツー・ピア通信のためのアダプタ通信相互接続と,を含み,ホスト・コンピュータから関連アダプタへの,前記アダプタにより本来制御されないアレイに対するデータ・アクセス要求が,前記アダプタ通信相互接続を介して,前記アレイの1次制御を有する前記アダプタに伝達され,各々がホスト・コンピュータに関連付けられ,指定されたアレイの2次制御を有する,複数の2次アダプタを含み,指定アレイを本来制御するアダプタが使用不能な場合,2次アダプタが前記指定アレイを制御し,指定アレイの1次制御を有するアダプタ,及び2次制御を有するアダプタが,異なるホスト・コンピュータに内在する,システム。」3 審決の内容審決の内容は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,引用例1(特開昭59-53963号公報。甲1),引用例2(実願平1-15510号(実開平2-108142号)のマイクロフィルム。甲2)に記載の発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないというものである。
審決は,本願発明と引用例1に記載の発明(以下「引用例1発明」という。)との間には,次のとおりの一致点及び相違点があると認定した。
(一致点)「複数のホスト・コンピュータのデータを複数の記憶装置上に記憶し,任意の記憶装置上のデータが任意のホスト・コンピュータによりアクセスされ得るようにするシステムであって,各々がホスト・コンピュータに関連付けられ,指定された記憶装置の1次制御を有する,複数のインタフェースと,前記インタフェース間のピア・ツー・ピア通信のためのインタフェース通信相互接続と,を含み,ホスト・コンピュータから関連インタフェースへの,前記インタフェースにより本来制御されない記憶装置に対するデータ・アクセス要求が,前記インタフェース通信相互接続を介して,前記記憶装置の1次制御を有する前記インタフェースに伝達されるシステム。」である点。
(相違点1)本願発明においては,「記憶装置」が「記憶装置アレイ」であるのに対し,引用例1発明においては,A系,B系それぞれのディスク3A,ディスク3Bが「記憶装置アレイ」を構成していない点。
(相違点2)複数の「インタフェース」が,本願発明においては「アダプタ」として構成されているのに対し,引用例1発明においては,「チャネルコントローラ(2A,2B)」,「ディスクコントローラ(4A,4B)」,「通信装置(6A,6B)」という別体の構成部分よりなるものとして構成されている点。
(相違点3)本願発明は,「各々がホスト・コンピュータに関連付けられ,指定されたアレイの2次制御を有する,複数の2次アダプタを含み,指定アレイを本来制御するアダプタが使用不能な場合,2次アダプタが前記指定アレイを制御」するものであるのに対し,引用例1発明は,そのようなものではない点。
(相違点4)本願発明は,「指定アレイの1次制御を有するアダプタ,及び2次制御を有するアダプタが,異なるホスト・コンピュータに内在する」ものであるのに対し,引用例1発明は,そのようなものではない点。
当事者の主張
1 取消事由についての原告の主張審決には,本願発明と引用例1発明との一致点の認定の誤り(取消事由1),相違点3の容易想到性の判断の誤り(取消事由2),相違点4の容易想到性の判断の誤り(取消事由3),本願発明の格別な効果の看過による容易想到性の判断の誤り(取消事由4)がある。
(1) 取消事由1(一致点の認定の誤り)審決は,引用例1発明における「伝送線路(7)」は,本願発明における「アダプタ通信相互接続」に対応する構成部分であるとして,本願発明と引用例1発明とは「前記インタフェース間のピア・ツー・ピア通信のためのインタフェース通信相互接続」を含む点で一致すると認定したが,誤りである。
すなわち,引用例1には,「チャネルコントローラ(2A)はプロセッサ(1A)から入力命令(300a)をとり出し,矢印(300)で示すように通信装置(6A)へ送る。通信装置(6A)は矢印(301)で示すように入力命令(300a)を伝送線路(7)を通して通信装置(6B)へ送る。次に通信装置(6B)は入力命令(300a)をデータバス(5B)を介してディスクコントローラ(4B)へ送る。」(4頁左上欄19行〜右上欄6行)との記載がある。上記記載中の「通信装置(6A)が伝送線路(7)を通して通信装置(6B)と通信する」態様のみに着目すれば「通信相互接続」と呼ぶことができるとしても,通信装置(6A),伝送線路(7)及び通信装置(6B)は,通信の中継としての介在役にすぎず,引用例1では,通信の実際の主体であるチャネルコントローラ(2A)からチャネルコントローラ(2B)への実質的な通信関係がなく,チャネルコントローラ(2A)とディスクコントローラ(4B)との間で「ピア・ツー・ピア通信」を行っていないから,引用例1では,「アダプタ間」の「ピア・ツー・ピア通信」を行っていない。通信の実際の主体を切り離して,通信の中継としての介在役にすぎない通信装置(6A)と通信装置(6B)だけを各々部分的に含めてしまえば,あらゆる対象間の通信が「ピア・ツー・ピア通信」ということになってしまい,意味をなさなくなる。
以上によれば,引用例1発明における「伝送線路(7)」は,本願発明における「アダプタ通信相互接続」に相当するとした審決の認定は誤りである。したがって,引用例1発明は「アダプタ間」の「ピア・ツー・ピア通信」を行っていないことになるから,本願発明と引用例1発明とは「前記インタフェース間のピア・ツー・ピア通信のためのインタフェース通信相互接続」を含む点で一致するとした審決の一致点の認定は誤りである。
(2) 取消事由2(相違点3の容易想到性の判断の誤り)審決は,「複数のコンピュータと複数の記憶装置を有するシステムにおいて,制御経路に存在する構成を二重化し,一方の構成の故障時に,他方の構成を用いることによって,信頼性を向上するようにすることは,上記引用例2記載の発明に見られるような周知技術にすぎない。」,「してみれば,引用例1記載の発明において,信頼性の向上を図るために,他系のディスクを直接制御できるような冗長構成を設けるようにすることは,当業者が容易に想到し得ることと認められる。・・・上記相違点2で検討したように,引用例1記載の発明において,『チャネルコントローラ(2A,2B)』,『ディスクコントローラ(4A,4B)』,『通信装置(6A,6B)』という別体の構成部分を『アダプタ』として一体化した構成とすることは,当業者が適宜に設計できる事項にすぎないから,該『アダプタ』の,他系のディスクを直接制御できるような冗長構成部分を『2次アダプタ』と称して冗長機能を果たすようにさせることは,当業者が適宜になし得ることと認められる。」(以上,審決書9頁3行〜16行)とした上で,引用例1発明を,「各々がホスト・コンピュータに関連付けられ,指定されたアレイの2次制御を有する,複数の2次アダプタを含み,指定アレイを本来制御するアダプタが使用不能な場合,2次アダプタが前記指定アレイを制御」するようなもの」(相違点3に係る本願発明の構成)とすることは,「当業者が適宜に設計できる事項にすぎないものと認められる」(同9頁20行〜21行)と判断した。
しかし,審決の判断は,以下のとおり誤りである。
ア引用例1には,1つのアダプタを異なるディスクの1次制御及び2次制御のために用いることを可能とするような技術思想については何ら開示も示唆もない。
他方,引用例2は,すべての各要素を2つずつ用意(CPUAとCPUB,各CPU内のインターフェイスAとB,バスAとB,コントローラAとB,ディスク装置4Aと4B,各ディスク装置内のポートAとB)して,すべての要素を二重化するので,要素の数の増加は避けられない(明細書5頁13行〜17行)。
イそうすると,1つのアダプタを1次制御及び2次制御の双方の目的で用いるという技術思想を何ら有していない引用例1に,各要素を2つずつ用意するような引用例2の周知技術を適用して,要素の数を増やさないという本願発明の目的を達成するように,1つの「アダプタ」を1次制御を有するアダプタ及び2次制御を有するアダプタとして兼用させることは困難であるというべきであるから,引用例1に,引用例2に示される二重化技術を適用することに阻害要因がある。
したがって,引用例1発明において,相違点3に係る本願発明の構成とすることは「当業者が適宜に設計できる事項にすぎないものと認められる」とした審決の判断は誤りである。
(3) 取消事由3(相違点4の容易想到性の判断の誤り)審決は,「引用例1記載の発明においても,例えば,ディスク(3A)を直接制御するチャネルコントローラ(2A)及びディスクコントローラ(4A)よりなる部分は,プロセッサ(1A)に関連する構成部分であり,ディスク(3A)を間接制御するチャネルコントローラ(2B)及び通信装置(6B)よりなる部分は,プロセッサ(1B)に関連する構成部分,すなわち,プロセッサ(1A)とは異なるプロセッサに関連する構成部分である。そして,上記相違点2で検討したように,引用例1記載の発明において,『チャネルコントローラ(2A,2B)』,『ディスクコントローラ(4A,4B)』,『通信装置(6A,6B)』という別体の構成部分を『アダプタ』として一体化した構成とすることは,当業者が適宜に設計できる事項にすぎず,また,該一体化した『アダプタ』部分をコンピュータに内在させるようにすることも,例えば,特開平7-141232号公報の図2に記載のものにおいて『ディスクI/F制御部107』が『ホスト1』に内在されていることに見られるような周知技術参酌すれば,当業者が必要に応じて適宜になし得ることにすぎないと認められる。」(審決書9頁23行〜末行)とした上で,引用例1発明を,「指定アレイの1次制御を有するアダプタ,及び2次制御を有するアダプタが,異なるホスト・コンピュータに内在する」ようなものとすること(相違点4に係る本願発明の構成)は,「当業者が適宜に設計できる事項にすぎないものと認められる」(同10頁3行〜4行)と判断した。
しかし,審決の判断は,以下のとおり誤りである。
ア本願発明の「アダプタ」が,引用例1における「チャネルコントローラ(2A,2B)」,「ディスクコントローラ(4A,4B)」,「通信装置(6A,6B)」という別体の構成部分を一体化した構成としたものに対応するものであることを前提としても,「ディスクコントローラ(4A,4B)」という構成部分は,ディスク(3A,3B)を制御するために重要な構成部分である。
ディスク(3A)を間接制御するに当たっては,チャネルコントローラ(2B)及び通信装置(6B)よりなる構成部分だけでは足りず,実際には,ディスクコントローラ(4A)を経由してディスク(3A)を制御するしかないので,ディスク(3A)の間接制御は,「チャネルコントローラ(2B)+通信装置(6B)+ディスクコントローラ(4A)」という別体の構成部分(の集合)に頼らなければ実現されない。
すなわち,ディスク(3A)を間接制御する「アダプタ」として機能させるためには,「チャネルコントローラ(2B)+通信装置(6B)+ディスクコントローラ(4B)」が必要であるにもかかわらず,審決は,ディスクコントローラ(4B)の存在なくしても間接制御ができるかのように認定した点において誤りがある。実際上も,一体化した構成であるアダプタとして,ホスト・コンピュータに内在させることも実現できない。
イ従来技術には,「1サブシステムに接続可能なホスト・コンピュータの数に制限があり,・・・また,図2に示される従来技術では,ホストがそれ自身のDASDセット用の独自の制御装置を有して独立しないように,ホストとアレイ間に別々のレベルの制御装置を有する。更に,アウトボード制御装置が追加の電子回路,電源,及びパッケージングを要求し,そのことがコストを増加させ,システム全体の信頼性を低下させる。」(本願明細書の段落【0008】)という解決すべき課題があったので,本願発明は,上記課題を解決するために,「アダプタ」部分をホスト・コンピュータに内在させ,「指定アレイの1次制御を有するアダプタ,及び2次制御を有するアダプタが,異なるホスト・コンピュータに内在する」ようにしたもの(相違点4に係る構成)である。
これに対し,引用例1の記載内容は,本件出願の願書に添付した図2で示されているように,チャネルコントローラ(2A,2B)とディスクコントローラ(4A,4B)という別々のレベルの制御装置を有しているもの,すなわち,本願明細書が既に従来技術として認識している図2に関連する程度の内容のものに留まっており,引用例1は,本願発明が従来技術について解決しようとしている上記課題に触れていない。
したがって,審決が「アダプタ」部分をホスト・コンピュータに内在するようなものとすることも「当業者が必要に応じて適宜に設計できる事項にすぎない」と判断したのは,本願発明の技術的背景及び技術的意義を正しく理解していないものであって,誤りである。
(4) 取消事由4(本願発明の格別な効果の看過)審決は,「本願発明の構成によってもたらされる効果も,引用例1,2に記載の発明及び上記周知技術から当業者ならば容易に予測することができる程度のものであって,格別のものとはいえない。」(審決書10頁5行〜7行)と判断した。
しかし,審決の判断は,以下のとおり誤りである。
ア本願明細書に,「【課題を解決するための手段】本発明は従来システムにおける上述の問題を解決する一方,安価でよりスケーラブルな解決策を提供する。本発明は,ホストに内在することができ,多数の記憶装置アレイを制御できるホスト・アダプタ・カードを使用するアーキテクチャを提供する。」(段落【0010】)との記載がある。本願発明は,そもそも,信頼性の向上のみを技術的課題とする引用例1,2及び審決認定の周知技術には示唆すらされていない上記のような技術的背景及び技術的意義に着目して解決を図っているのであって,その構成の全体からもたらされる効果(例えば,技術的制約を考慮したスケーラビリティの向上)は容易に予測することができる程度のものであるとはいえない。
イ引用例1に記載されているA1(アダプタ1)-A2(アダプタ2)という相互接続が,さらに1回繰り返されることで,A1(アダプタ1)-A2(アダプタ2)-A3(アダプタ3)という3つのアダプタ間の相互接続(物理的な意味での“通常の”「相互接続」)が得られるとしても,伝送線路を介して単に“通常の”「相互接続」が繰り返されるだけでは,A1(アダプタ1)とA3(アダプタ3)との相互接続が機能するとまではいえない。
一方において,本願発明の「ピア・ツー・ピア通信のためのアダプタ通信相互接続」が機能すれば,A2(アダプタ2)が故障するなど,A2(アダプタ2)が通信の介在などの役割を果たせない状況が生じたとしても,A1(アダプタ1)とA3(アダプタ3)との間でも「ピア・ツー・ピア通信」が機能するものであり,本願発明が着目しているスケーラブルなシステム構成となり得る。
ウしたがって,審決には,本願発明の上記の格別な効果を看過した誤りがある。
2 被告の反論(1) 取消事由1に対し「ピア・ツー・ピア」とは,コンピュータとコンピュータを接続してお互いの情報を処理したり,交換したりする形態のことを意味する。
引用例1発明における「プロセッサ(1A,1B)から関連するディスクコントローラ(4A,4B)を通じて行う,他系のディスク(3A,3B)に対するデータ・アクセス要求が,通信装置(6A,6B)及び伝送線路(7)を介して,他系のディスクコントローラ(4A,4B)に伝達される」処理は,?@「プロセッサ(1A)が通信装置(6A)及び伝送線路(7),通信装置(6B)を介してディスクコントローラ(4B)を通じて行う,他系のディスク(3B)に対するアクセス要求」,?A「プロセッサ(1B)が通信装置(6B)及び伝送線路(7),通信装置(6A)を介してディスクコントローラ(4A)を通じて行う,他系のディスク(3A)に対するアクセス要求」に対する処理であるといえる。そして,引用例1発明において,「チャネルコントローラ」,「ディスクコントローラ」,「通信装置」という別体の構成部分を「アダプタ」として一体化した構成とすること(相違点2に係る本願発明の構成)は,当業者が適宜に設計できる事項にすぎないことに照らすならば,「チャネルコントローラ(2A)」,「ディスクコントローラ(4A)」,「通信装置(6A)」からなる構成部分を「アダプタA」とし,「チャネルコントローラ(2B)」,「ディスクコントローラ(4B)」,「通信装置(6B)」からなる構成部分を「アダプタB」とすることは,当業者が適宜に設計できる事項にすぎない。
そして,上記?@のアクセス要求は,「アダプタA」から「アダプタB」に伝送線路(7)を介して伝達されるディスク(3B)へのアクセス要求であり,上記?Aのアクセス要求は「アダプタB」から「アダプタA」に伝送線路(7)を介して伝達されるディスク(3A)へのアクセス要求であるから,引用例1発明における伝送線路(7)を介した「アダプタA」と「アダプタB」との利用形態を,「ピア・ツー・ピア」による通信とすること,つまり,「アダプタ間」の「ピア・ツー・ピア通信」に対応する構成とすることは,当業者にとって自明である。
したがって,引用例1発明における伝送線路(7)は,通信装置(6A),(6B)を相互接続する点において(甲1の4頁右上欄10行〜17行),通信インタフェースであるSSAゲートウェイ74を通してアダプタを相互接続しているSSAループ98よりなる本願発明の「アダプタ通信相互接続」(本願明細書の段落【0031】,【0033】,【図6】,【図7】)と対応する構成部分であるといえる。そうすると,引用例1には,本願発明の構成である「前記アダプタ間のピア・ツー・ピア通信のためのアダプタ通信相互接続」が開示されており,審決の一致点の認定の誤りをいう原告の主張は,失当である。
(2) 取消事由2に対しア引用例1発明では,プロセッサ(1A)に関連付けられ指定されたディスク(3A)の自系内での制御を行うディスクコントローラ(4A),及びプロセッサ(1B)に関連付けられ指定されたディスク(3B)の自系内での制御を行うディスクコントローラ(4B)を有することが示されているが,ディスクコントローラ(4A)又はディスクコントローラ(4B)が故障した場合について,特に記載はない。
イ前記(1)のとおり,引用例1発明において,「チャネルコントローラ(2A)」,「ディスクコントローラ(4A)」,「通信装置(6A)」からなる構成部分を「アダプタA」とし,「チャネルコントローラ(2B)」,「ディスクコントローラ(4B)」,「通信装置(6B)」からなる構成部分を「アダプタB」とすることは,当業者が適宜に設計できる事項にすぎない。
一方,引用例2(甲2)には,通常時は,ディスク装置4Bはコントローラ3Bに制御されているが,前記コントローラ3Bの故障時,すなわち使用不能な場合には,ディスク装置4Bをコントローラ3Aが制御することが記載されている(7頁1行〜19行)。
そして,引用例1発明と引用例2に記載されている技術とは,共に複数のコンピュータが複数の記憶装置へアクセスすることを目的とする点において技術的に共通の分野に属するものであり,さらに,システムの故障時やメンテナンス時における信頼性を担保するために冗長構成を採ることは当業者にとって周知の技術である。
ウしたがって,引用例1発明におけるディスク(3A)に対する制御を行う「ディスクコントローラ(4A)」を含む一体化された「アダプタA」や,ディスク(3B)に対する制御を行う「ディスクコントローラ(4B)」を含む一体化された「アダプタB」に対して,引用例2記載の周知技術を採用し,例えば,「アダプタB」の故障時に,通常時は「アダプタB」が制御している「ディスク(3B)」を制御する経路として,「アダプタA」を構成する「ディスクコントローラ(4A)」から「ディスク(3B)」を制御する経路を冗長化して設けることによってシステムの信頼性の向上を図ることは,当業者が容易になし得たことである。冗長化した「アダプタA」を構成する「ディスクコントローラ(4A)」から「ディスク(3B)」を制御する経路が本願発明の「2次アダプタ」が果たす機能を有することは当業者にとって自明であるから,引用例1発明に引用例2記載の周知技術を適用することに,原告が主張するような阻害要因はない。
以上のとおり,相違点3の容易想到性の判断の誤りをいう原告の主張は,失当である。
(3) 取消事由3に対しア審決が,「例えば,ディスク(3A)を直接制御するチャネルコントローラ(2A)及びディスクコントローラ(4A)よりなる部分は,プロセッサ(1A)に関連する構成部分であり,ディスク(3A)を間接制御するチャネルコントローラ(2B)及び通信装置(6B)よりなる部分は,プロセッサ(1B)に関連する構成部分,すなわち,プロセッサ(1A)とは異なるプロセッサに関連する構成部分である。」と認定した趣旨は,引用例1発明において,ディスク(3A)を間接制御するのは,チャネルコントローラ(2B)及び通信装置(6B)とディスクコントローラ(4A)であることから,ディスク(3A)を間接制御する場合に用いる構成のうち,プロセッサ(1B)に関連する構成がチャネルコントローラ(2B)及び通信装置(6B)であると述べたにすぎない。審決は,原告が主張するような「ディスクコントローラ(4B)の存在なくしても間接制御ができるかのような」認定をしていない。
また,前記(1)のとおり,引用例1発明において,プロセッサ(1A)に関連する構成部分である「チャネルコントローラ(2A)」,「ディスクコントローラ(4A)」,「通信装置(6A)」からなる構成部分を「アダプタA」とし,プロセッサ(1B)に関連する構成部分「チャネルコントローラ(2B)」,「ディスクコントローラ(4B)」,「通信装置(6B)」からなる構成部分を「アダプタB」としてそれぞれ一体化することは,当業者が適宜に設計できる事項にすぎない。
なお,「アダプタ」を構成する構成部分の集合として,チャネルコントローラ(2B)+通信装置(6B)+ディスクコントローラ(4A)といったプロセッサ(1A)に関連する構成部分とプロセッサ(1B)に関連する構成部分とからなる集合を想定していないことは,上述したようにプロセッサ(1A)に関連する構成部分と,プロセッサ(1A)とは異なるプロセッサに関連する構成部分とを区別している点から自明である。
イ本願発明における解決すべき課題は,「ホスト及び記憶装置アレイのより大規模な接続性を可能にする,より安価でよりスケーラブル」(本願明細書の段落【0009】)とすることである。
一方,引用例1発明は,プロセッサから関連するディスクコントローラを通じて行う,他系のディスクに対するデータ・アクセス要求が,それぞれの通信装置及び伝送線路(7)を介して,他系のディスクコントローラに伝達されるシステムであり,プロセッサ(1A)は,通信装置(6A),伝送線路(7)及び通信装置(6B)を介して,他系のディスクコントローラ(4B)へデータ・アクセス要求を伝達可能とすることでプロセッサ(1A)がアクセスできるディスク装置が増えていること,すなわちスケーラブルなシステムとなっていることは当業者にとって自明である。
そして,ディスクアレイへの制御を司るインタフェース部をホストコンピュータに内在するシステムは,審決で引用した特開平7ー141232号公報(甲3)の図2に記載されているように周知技術であるから,当該周知技術を考慮することで引用例1発明におけるディスク装置への制御を司る構成部をホストコンピュータに内在した構成とすることは,当業者が適宜に実現できるものである。
したがって,「アダプタ」部分をホスト・コンピュータに内在するようなものとすること(相違点4に係る本願発明の構成)も「当業者が必要に応じて適宜に設計できる事項にすぎない」とした審決の判断に誤りはない。
(4) 取消事由4に対し原告は,本願発明の効果(例えば,技術的制約を考慮したスケーラビリティの向上)は格別の効果である旨主張している。
しかし,引用例1には,通信装置(6B)は情報を伝送線路(7)を通して通信装置(6A)へ送ることが記載されており,引用例1発明においても,通信装置をインタフェースとして伝送線路を介して相互接続を繰り返すことでスケーラブルなシステム構成が得られることは当業者にとって自明である。
したがって,本願発明の格別な効果の看過をいう原告の主張は,失当である。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について原告は,引用例1発明における「伝送線路(7)」は,本願発明における「アダプタ通信相互接続」に対応する構成部分であるとの審決の認定は誤りであり,引用例1発明は「アダプタ間」の「ピア・ツー・ピア通信」を行っていないから,本願発明と引用例1発明とは「前記インタフェース間のピア・ツー・ピア通信のためのインタフェース通信相互接続」を含む点で一致するとした審決の一致点の認定は誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
(1)本願発明の「前記アダプタ間のピア・ツー・ピア通信のためのアダプタ通信相互接続」の意義について本願発明の特許請求の範囲(請求項1)記載の「前記アダプタ間のピア・ツー・ピア通信のためのアダプタ通信相互接続」の意義について,本願明細書(図面を含む。甲4)の記載を参酌して検討する。
ア本願明細書(甲4)には,(a)各ホスト・コンピュータが有する「各アダプタ」は,指定された記憶装置アレイに対する制御機能を有し,「RAID制御装置,1つ以上の外部インタフェース,及び読出し及び書込みキャッシュ」を構成に含むこと(段落【0012】),(b)「アダプタ通信インタフェース(相互接続)」は,「アダプタとディスク間の通信の他に,アダプタ間(ピア・ツー・ピア)の通信を可能」(段落【0012】)にし,指定された記憶装置アレイを本来制御するアダプタが使用不能な場合に,その指定された記憶装置アレイを制御する「2次アダプタを含む全てのアダプタを相互接続する」こと(段落【0013】),(c)「任意の時点において,各アレイは1つのアダプタにより制御され,あるアレイの制御アダプタ以外のアダプタから発信されるそのアレイに対する要求は,最初に制御アダプタに経路指定されなければならず,その後,制御アダプタがアレイをアクセスし,結果を発信元リクエスタに返却する」(段落【0016】)ものであり,「例えば,アダプタA1(86)は,ディスク・アレイA(92)の1次制御装置であり,ディスク・アレイB(93)の2次アダプタでもあり,アダプタA2(87)は,ディスク・アレイB(93)の1次制御装置であり,ディスク・アレイA(92)の2次アダプタでもある。アダプタは全てSSAループ98を通じて相互接続され・・・ディスク・アレイ対は,SSAデバイス・ループ99を通じて接続される。1次アダプタがアクティブの時,I/O要求は1次アダプタを通じて転送される」(段落【0033】)が,1次アダプタ・カードが故障すると,「そのオペレーションは2次アダプタにより引き継がれ,他のホストは2次アダプタを通じて,ディスク・アレイにアクセスすることができる」こと(段落【0033】,【0037】),(d)多くの技法が「相互接続性23」を提供するために使用され得るものであり,「本発明の好適な態様は,相互接続アーキテクチャとしてSSAに関連して述べられるが,他のアーキテクチャも使用可能である」こと(段落【0019】)が記載されている。また,本願明細書には,「アダプタ間(ピア・ツー・ピア)の通信」との記載があるが,「ピア・ツー・ピア」の意義を規定する記載はない。
イ以上の認定事実及び請求項1を総合すれば,?@本願発明(請求項1)の「アダプタ」は,特定のホスト・コンピュータに関連付けられ,指定された記憶装置アレイに対する制御機能を有すること,?A任意の時点において,各アレイは1つの制御アダプタ(1次アダプタ)により制御され,あるアレイの制御アダプタ(1次アダプタ)以外のアダプタから発信されるそのアレイに対する要求は,最初に制御アダプタ(1次アダプタ)に経路指定され,制御アダプタ(1次アダプタ)がそのアレイにアクセスし,その結果を発信元のアダプタに返却し,制御アダプタ(1次アダプタ)が使用不能のときは,そのオペレーションは2次アダプタにより引き継がれ,2次アダプタを通じてそのアレイにアクセスすることができるものであり,アレイを基準にみると,1次制御機能を有する1次アダプタと2次制御機能を有する2次アダプタとがあるが,アダプタを基準にみると,各アダプタは,指定された記憶装置アレイに対する制御機能を持ち,1次アダプタにも,2次アダプタになり得る点で,上下関係はなく同等で,横並びの関係にあること,?B本願発明(請求項1)の「アダプタ通信相互接続」は,2次アダプタを含む全てのアダプタ間の相互の通信を可能にするものであること,?C「アダプタ通信相互接続」の相互接続の態様としては,多くの技法が使用され得るものであり,本願明細書では,特にその態様を制限していないことを理解できる。
そうすると,請求項1記載の「アダプタ間のピア・ツー・ピア通信」は,指定された記憶装置アレイに対する制御機能を有する「アダプタ」間の通信を意味するものであって,「ピア・ツー・ピア」には通信する「アダプタ」が,同等で,上下関係のない横並びの関係にあること以上の特段の意味はなく,「アダプタ間のピア・ツー・ピア通信のためのアダプタ相互通信接続」は,すべての「アダプタ」間の通信を相互に可能にするものであれば,特に限定はないと理解できる。
そして,「アダプタ」は,情報のやり取りを仲介する要素であるから,「インタフェース」に当たり,「アダプタ間のピア・ツー・ピア通信のためのアダプタ相互通信接続」は,審決にいう「インタフェース間のピア・ツー・ピア通信のためのインタフェース通信相互接続」に該当する。
(2) 引用例1の記載内容ア引用例1(甲1)には,A系の計算機システムとB系の計算機システムとの間におけるデータ転送方法として,?@A系の計算機システムは,プロセッサ(1A)のデータをディスク(3A)上に記憶し,プロセッサ(1A)により,プロセッサ(1A)に関連付けられたチャネルコントローラ(2A)及びディスクコントローラ(4A)を介してディスク(3A)上のデータの入出力(転送)の動作をできるようにし,チャネルコントローラ(2A)及びディスクコントローラ(4A)とデータバス(5A)で接続されて直接相互に情報転送を可能とした通信装置(6A)を備え,一方,B系の計算機システムは,プロセッサ(1B)のデータをディスク(3B)上に記憶し,プロセッサ(1B)により,プロセッサ(1B)に関連付けられたチャネルコントローラ(2B)及びディスクコントローラ(4B)を介してディスク(3B)上のデータの入出力(転送)の動作をできるようにし,データバス(5A)で接続されてチャネルコントローラ(2B)及びディスクコントローラ(4B)と直接相互に情報転送を可能とした通信装置(6B)を備え,通信装置(6A)と通信装置(6B)とは伝送線路(7)を通じて相互に情報転送を可能にしていること,?AA系の計算機システムのプロセッサ(1A)にB系のディスク(3B)の内容の一部を転送する場合には,A系のプロセッサ(1A)からB系のディスク(3B)へのデータ・アクセス要求が,A系のチャネルコントローラ(2A)から,A系の通信装置(6A),伝送線路(7),B系の通信装置(6B)を介してB系のディスクコントローラ(4B)に伝達されることが記載されており,また,上記記載に照らせば,?B同様に,B系の計算機システムのプロセッサ(1B)にA系のディスク(3A)の内容の一部を転送する場合には,B系のプロセッサ(1B)からA系のディスク(3A)へのデータ・アクセス要求が,B系のチャネルコントローラ(2B),B系の通信装置(6B),伝送線路(7),A系の通信装置(6A)を介してA系のディスクコントローラ(4A)に伝達されることは自明である。
イ上記認定事実によれば,引用例1におけるA系の計算機システムの「チャネルコントローラ(2A),ディスクコントローラ(4A),通信装置(6A)」は,いずれもA系のディスク(3A)の経路にある要素であり,情報のやり取りを仲介するものであるから,上記各要素の構成はA系の「インタフェース」に該当し,同様に,B系の計算機システムの「チャネルコントローラ(2B),ディスクコントローラ(4B),通信装置(6B)」は,いずれもB系のディスク(3B)の経路にある要素であり,情報のやり取りを仲介するものであるから,上記各要素の構成はB系の「インタフェース」に該当するといえる。
そして,引用例1のA系の計算機システムのプロセッサ(1A)からB系のディスク(3B)へのデータ・アクセス要求は,A系の「インタフェース」からB系の「インタフェース」に伝送線路(7)を介して伝達され,B系の計算機システムのプロセッサ(1B)からA系のディスク(3A)へのデータ・アクセス要求は,B系の「インタフェース」からA系の「インタフェース」に伝送線路(7)を介して伝達されること,また,引用例1のA,B両系で対応する各要素は,同等の機能を有し,上下関係のない横並びの関係にあることに照らすならば,引用例1では,A系の「インタフェース」とB系の「インタフェース」との間で,伝送線路(7)を介して「ピア・ツー・ピア通信」を行っているものと理解できる。
そうすると,引用例1の「伝送経路(7)」は,A系とB系の「インタフェース」間を接続して「ピア・ツー・ピア通信」を行うものといえるから,審決にいう「インタフェース間のピア・ツー・ピア通信のためのインタフェース通信相互接続」に該当するものと認められる。
ウしたがって,本願発明と引用例1発明とは「前記インタフェース間のピア・ツー・ピア通信のためのインタフェース通信相互接続」を含む点で一致するとした審決の認定に誤りはない。
(3) 原告の主張に対する判断ア原告は,引用例1では,通信装置(6A),伝送線路(7)及び通信装置(6B)は,通信の中継としての介在役にすぎず,通信の実際の主体であるチャネルコントローラ(2A)からチャネルコントローラ(2B)への実質的な通信関係がなく,チャネルコントローラ(2A)とディスクコントローラ(4B)との間で「ピア・ツー・ピア通信」を行っておらず,引用例1では,「アダプタ間」の「ピア・ツー・ピア通信」を行っていないから,引用例1の「伝送線路(7)」は,本願発明における「アダプタ通信相互接続」に対応する構成部分ではないと主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア)審決は,引用例1では,「アダプタ」間の「ピア・ツー・ピア通信」を行っていないことを前提に,「インタフェース間のピア・ツー・ピア通信のためのインタフェース通信相互接続」を備えている点を本願発明と引用例1発明との一致点として認定した上で,複数の「インタフェース」が,本願発明においては「アダプタ」として一体の構成とされているのに対し,引用例1発明においては,「チャネルコントローラ(2A),ディスクコントローラ(4A),通信装置(6A)」及び「チャネルコントローラ(2B),ディスクコントローラ(4B),通信装置(6B)」がそれぞれ別体の構成である点で相違することを相違点2として認定し(なお,原告は,審決の相違点2の認定を争っていない。),その上で,引用例1発明の「インタフェース」を「アダプタ」とすることの容易想到性(相違点2に係る本願発明の構成の容易想到性)を検討したものであって,このような審決の判断手法が不適切であるとはいえない。
原告は,通信装置(6A),伝送線路(7)及び通信装置(6B)は,通信の中継としての介在役にすぎず,通信の実際の主体であるチャネルコントローラ(2A)からチャネルコントローラ(2B)への実質的な通信関係がないので,チャネルコントローラ(2A)とディスクコントローラ(4B)との間で「ピア・ツー・ピア通信」を行っていないと主張する。
しかし,審決は,「インタフェース」間の「ピア・ツー・ピア通信」のための「インタフェース通信相互接続」の構成を備えることを一致点として認定しており,「インタフェース」を構成する一要素であるチャネルコントローラ(2A,2B)間に実質的な通信関係があるかどうかによって,全体としての「インタフェース」と「インタフェース」との間に通信関係があるかどうかを決定づけるものではないから,原告の主張は,この点において既に失当である。また,?@本願明細書には,「アダプタ間(ピア・ツー・ピア)の通信」との記載があるが,「ピア・ツー・ピア」の意義を規定する記載はなく,「ピア・ツー・ピア」には通信する一方と他方が,同等で,上下関係のない横並びの関係にあること以上の特段の意味はないこと(前記(1)イ),?A引用例1には,「通信装置(6A),(6B)は伝送線路(7a)(判決注・「(7a)」は「(7)」の誤記と認める。)を介してデータバス(5A),(5B)間の情報転送を可能にし,したがってチャネルコントローラ(2A),ディスクコントローラ(4A)の任意のいずれかとチャネルコントローラ(2B),ディスクコントローラ(4B)の任意のいずれかとの間の情報転送を可能にしている。」(3頁右下欄15行〜4頁左上欄1行)との記載があり,この記載は,引用例1は,チャネルコントローラ(2A)とチャネルコントローラ(2B)との間の通信も可能であることを示すものであることに照らすならば,引用例1において,チャネルコントローラ(2A)とチャネルコントローラ(2B)との間で「ピア・ツー・ピア通信」が可能であることを開示しているといえる。したがって,この点においても,原告の主張は失当である。
(イ)そして,引用例1の「チャネルコントローラ(2A),ディスクコントローラ(4A),通信装置(6A)」で構成されるA系の「インタフェース」と,「チャネルコントローラ(2B),ディスクコントローラ(4B),通信装置(6B)」で構成されるB系の「インタフェース」は,同等で,上下関係のない横並びの関係にあり,「伝送経路(7)」により,A系とB系の「インタフェース」間を接続して「ピア・ツー・ピア通信」を行っているといえるから,引用例1の「伝送線路(7)」は,本願発明の「アダプタ通信相互接続」に「対応する」構成部分であるとした審決の認定に誤りはない。
イ原告は,引用例1では,通信の実際の主体を切り離して,通信の中継としての介在役にすぎない通信装置(6A)と通信装置(6B)だけを各々部分的に含めるならば,あらゆる対象間の通信は「ピア・ツー・ピア通信」に該当することになり,意味をなさなくなる旨主張する。
しかし,原告の主張は,独自の見解に基づくものであり,採用することができない。
(4) 小括以上によれば,原告主張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(相違点3についての容易想到性の判断の誤り)について原告は,引用例1発明において,相違点3に係る本願発明の構成とすることは「当業者が適宜に設計できる事項にすぎないものと認められる」とした審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
(1) 引用例2の記載事項引用例2(甲2)には,?@複数のCPU(CPUA,CPUB)と複数のディスク装置(4A,4B)を有するシステムにおいて,制御経路に存在するコントローラを二重化(コントローラ3A,3B)し,「通常時」は,ディスク装置4Bは自系のコントローラ3Bに制御されているが,コントローラ3Bの「故障時」,すなわちコントローラ3Bが使用不能な場合には,ディスク装置4Bを他系のコントローラ3Aが制御する冗長経路を設け,一方のコントローラの故障時に,他方のコントローラを用いることによって,信頼性を向上させること,?Aコントローラ3Aは,「通常時」には,自系のディスク装置4Aの制御に用いられ,他系のコントローラ3Bの「故障時」,すなわち使用不能な場合には,他系のディスク装置4Bの制御に用いられ,自系及び他系のディスク装置の制御を「兼用」することが記載されている。
(2) 容易想到性の有無についてア前記(1)の引用例2の記載に照らすならば,「複数のコンピュータと複数の記憶装置を有するシステムにおいて,制御経路に存在する構成を二重化し,一方の構成の故障時に,他方の構成を用いることによって,信頼性を向上するようにすること」(審決書9頁3行〜5行)は,本件出願の優先日前に,周知の技術であったものと認められる。
また,?@「一般に,電子装置において,複数の個別の機能を有する構成部分を一体型のものとして構成することは,ごく普通に行なわれていることにすぎない。」こと(審決書8頁28行〜29行),?A引用例1の「チャネルコントローラ」,「ディスクコントローラ」,「通信装置」の各要素は,データバス(5A,5B)で接続されて,直接相互に情報転送を行う関係があること(前記1(2)ア)に照らすならば,引用例1において,A系の「チャネルコントローラ(2A),ディスクコントローラ(4A),通信装置(6A)」という別体の構成であるA系の「インタフェース」を,一体化してA系の「アダプタ」とすること,「チャネルコントローラ(2B),ディスクコントローラ(4B),通信装置(6B)」という別体の構成であるB系の「インタフェース」を,一体化してB系の「アダプタ」とすること(相違点2に係る本願発明の構成)は,当業者が適宜に設計できる事項にすぎないものと認められる。
そして,引用例1発明と引用例2に記載されている技術とは,共に複数のコンピュータが複数の記憶装置へアクセスすることを目的とする点において共通の分野に属するものといえること,引用例1においても,システムの信頼性の向上を図ることは自明の課題であることに照らすならば,引用例1において,別体の構成であるA系の「インタフェース」を一体化してA系の「アダプタ」とし,別体の構成であるB系の「インタフェース」を一体化してB系の「アダプタ」とした上で,システムの信頼性の向上を図るため,前記の周知技術を適用し,例えば,B系の「アダプタB」の故障時に,通常時は「アダプタB」が制御しているディスク(3B)を,直接制御する経路として,A系の「アダプタ」を構成する「ディスクコントローラ(4A)」からディスク3Bを制御する冗長経路を設けることは,当業者が容易になし得たことであり,その結果として,上記冗長経路が本願発明の「2次アダプタ」が果たす機能を有することは当業者にとって自明である。
イそうすると,引用例1発明において,上記アの周知技術を適用して,相違点3に係る本願発明の構成(「各々がホスト・コンピュータに関連付けられ,指定されたアレイの2次制御を有する,複数の2次アダプタを含み,指定アレイを本来制御するアダプタが使用不能な場合,2次アダプタが前記指定アレイを制御」する構成)とすることは,当業者が容易に想到し得たものと認められる。これと同旨の審決の判断は,是認できる。
(3) 原告の主張に対する判断ア原告は,引用例1には,1つのアダプタを異なるディスクの1次制御及び2次制御のために用いることを可能とするような技術思想については何ら開示も示唆もないこと,引用例2は,すべての各要素を2つずつ用意(CPUAとCPUB,各CPU内のインターフェイスAとB,バスAとB,コントローラAとB,ディスク装置4Aと4B,各ディスク装置内のポートAとB)し,要素の数を増やすことによって,二重化するものであることに照らすならば,1つのアダプタを1次制御及び2次制御の双方の目的で用いるという技術思想を何ら有してない引用例1に,各要素を2つずつ用意するような引用例2の周知技術を適用して,要素の数を増やさないで済むように,1つの「アダプタ」を1次制御を有するアダプタ及び2次制御を有するアダプタとして兼用させることには論理的に無理があり,その意味において,引用例1に,引用例2に示される二重化技術を適用することに阻害要因があると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
イすなわち,前記(2)ア認定のとおり,引用例1は,共に複数のコンピュータが複数の記憶装置へアクセスすることを目的とする点において引用例2と共通の技術分野に属すること,引用例1においても,システムの信頼性の向上を図ることは自明の課題であることに照らすならば,引用例1に特段の開示や示唆がなくても,システムの信頼性の向上を図るため,前記(2)アの周知技術を適用し,B系の「アダプタB」の故障時に,通常時は「アダプタB」が制御しているディスク(3B)を,直接制御する経路として,A系の「アダプタ」を構成する「ディスクコントローラ(4A)」からディスク3Bを制御する冗長経路を設けることは当業者にとって格別困難なことではなく,原告主張の阻害要因があるとは認められない。
(4) 小括以上によれば,原告主張の取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(相違点4についての容易想到性の判断の誤り)について原告は,引用例1発明において,相違点4に係る本願発明の構成とすることは「当業者が適宜に設計できる事項にすぎないものと認められる」とした審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
(1) 容易想到性の有無についてア引用例1において,A系の「インタフェース」を一体化してA系の「アダプタ」とし,B系の「インタフェース」を一体化してB系の「アダプタ」とした上で,前記2(2)アの周知技術を適用し,例えば,B系の「アダプタB」の故障時に,通常時は「アダプタB」が制御しているディスク(3B)を,直接制御する経路として,A系の「アダプタ」を構成する「ディスクコントローラ(4A)」からディスク3Bを制御する冗長経路を設けることは,当業者が容易になし得たことであり,その結果として,上記冗長経路が本願発明の「2次アダプタ」が果たす機能を有することが当業者にとって自明であることは,前記2(2)ア認定のとおりである。
このことは,「ディスク(3B)」からみると,B系の「アダプタ」は「1次アダプタ」として,A系の「アダプタ」は「2次アダプタ」として機能していると理解できる。
イそして,ディスクアレイへの制御を司るインタフェース部をホストコンピュータに内在する構成とすることは,本件出願の優先日前,周知の技術であったものと認められること(例えば,甲3の図2)に照らすならば,引用例1発明において,上記周知の技術を適用して,相違点4に係る本願発明の構成(「指定アレイの1次制御を有するアダプタ,及び2次制御を有するアダプタが,異なるホスト・コンピュータに内在する」構成)とすることは,当業者が容易に想到し得たものと認められる。これと同旨の審決の判断は,是認できる。
(2) 原告の主張に対する判断ア原告は,引用例1におけるディスク(3A)の間接制御は,「チャネルコントローラ(2B)+通信装置(6B)+ディスクコントローラ(4A)」という別体の構成部分(の集合)に頼らなければ実現されないから,ディスク(3A)を間接制御する「アダプタ」として機能させるためには,「チャネルコントローラ(2B)+通信装置(6B)+ディスクコントローラ(4B)」が必要であるにもかかわらず,審決は,ディスクコントローラ(4B)の存在なくしても間接制御ができるかのように認定した点において誤りがあり,実際上も,一体化した構成であるアダプタとして,ホスト・コンピュータに内在させることが実現できなくなる旨主張する。
しかし,審決には,引用例1において,原告が主張するようにディスクコントローラ(4B)の存在なくしても,ディスク(3A)を間接制御ができるかのように認定した部分は存在せず,原告の上記主張は,審決を正解しない独自の解釈を前提とするものであるから,採用することができない。
イ原告は,引用例1の記載内容は,本件出願の願書に添付した図2で示されているように,チャネルコントローラ(2A,2B)とディスクコントローラ(4A,4B)という別々のレベルの制御装置を有しているもの,すなわち,本願明細書が既に従来技術として認識している図2に関連する程度の内容のものに留まっており(本願明細書の段落【0008】),引用例1は,本願発明が従来技術について解決しようとしている課題の本質には何ら触れていないにもかかわらず,審決が「アダプタ」部分をホスト・コンピュータに内在させるようにすることも「当業者が必要に応じて適宜に設計できる事項にすぎない」と判断したのは,本願発明の技術的背景及び技術的意義を正しく認定していないものであって,誤りである旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア)本願明細書(甲4)の段落【0008】には,「図2に示される従来技術では,ホストがそれ自身のDASDセット用の独自の制御装置を有して独立しないように,ホストとアレイ間に別々のレベルの制御装置を有する。」との記載部分がある。同記載部分は,図2(甲4)で示される従来技術のシステムは,ホストと記憶装置アレイとの間に,ホストやアレイと異なるレベルの制御装置を,複数のホストが共有する制御装置として独立して備える構成であるため,各ホストは,そのホストに専用のDASD(直接アクセス記憶装置)の「独自の制御装置」を備えていないことを説明したものと理解できる。
一方,引用例1のシステムは,A系,B系の各系統のプロセッサ(1A,1B)のそれぞれが,自系のチャネルコントローラ(2A,2B)とディスクコントローラ(4A,4B)という「独自の制御装置」を備えたものであるから(前記1(2)ア),従来技術として示された図2に関連する「程度の内容」のものであるとはいえない。
(イ)また,本願明細書(甲4)には,「図2に示されるシステムは多数の制限を有する。1サブシステムに接続可能なホスト・コンピュータの数に制限があり,サブシステムにより制御されるアレイの数にも制限がある・・・」(段落【0008】),「【発明が解決しようとする課題】従って,ホスト及び記憶装置アレイのより大規模な接続性を可能にする,より安価でよりスケーラブルな解決策が必要とされる。こうしたシステムが高い可用性及び優れた性能を有することが望ましい。」(段落【0009】),「【課題を解決するための手段】本発明は従来システムにおける上述の問題を解決する一方,安価でよりスケーラブルな解決策を提供する。・・・」(段落【0010】)との記載があることに照らすならば,本願発明が「解決しようとする課題」は,「ホスト及び記憶装置アレイのより大規模な接続性を可能にする,より安価でよりスケーラブルな解決策」を提供することにあるものと理解できる。
一方で,前記1(2)ア認定のとおり,引用例1においては,A系の計算機システムのプロセッサ(1A)は,自系のディスク(3A)にアクセスできることに加えて,通信装置(6A),伝送線路(7),通信装置(6B)を介して,他系(B系)のディスク(3B)へのデータ・アクセス要求を,他系のディスクコントローラ(4B)に伝達可能とすることにより,ディスク(3B)にもアクセスできるようにして,プロセッサ(1A)のアクセスできるディスク装置を増加させていることに照らすならば,引用例1は,システムの拡張性を備えた「スケーラブルな」システムとなっていることは当業者にとって自明である。また,引用例1(甲1)に,「発明の他の実施例・・・また,ここでは計算機システムがA系とB系の2系の場合について説明したが,通信装置により多数の計算機システムが結合されていても同様の動作が可能である。」(4頁右上欄18行〜左下欄5行)との記載があるように,引用例1のシステムは,A系とB系の2系に限定されることなく,「通信装置により多数の計算機システムが結合されていても同様の動作」を可能とするものであるから,システムの拡張性を備えた「スケーラブルな」システムであるといえる。
したがって,引用例1発明も,本願発明が「従来技術について解決しようとしている課題」を解決する構成を備えているものと認められ,原告の主張は,この点においても失当である。
(3) 小括以上によれば,原告主張の取消事由3は理由がない。
4 取消事由4(本願発明の格別な効果の看過)について(1) 原告の主張に対する判断ア原告は,本願発明は,そもそも,信頼性の向上のみを技術的課題とする引用例1,2及び審決認定の周知技術には示唆すらされていない技術的背景及び技術的意義に着目して解決を図っているのであって,その構成の全体からもたらされる効果(例えば,技術的制約を考慮したスケーラビリティの向上)は容易に予測することができる程度のものであるとはいえないと主張する。
しかし,前記3(2)イ(イ)で判示したとおり,引用例1発明も,システムの拡張性を備えた「スケーラブルな」システムであり,本願発明が「従来技術について解決しようとしている課題」を解決する構成を備えていることに照らすならば,本願発明の効果(例えば,スケーラビリティの向上)は,引用例1,2から予測できる範囲内のものにすぎず,格別な効果であるとまで認めることはできない。
イ原告は,引用例1に記載されているA1(アダプタ1)-A2(アダプタ2)という相互接続が,さらに1回繰り返されることで,A1(アダプタ1)-A2(アダプタ2)-A3(アダプタ3)という3つのアダプタ間の相互接続(物理的な意味での“通常の”「相互接続」)が得られるとしても,伝送線路を介して単に“通常の”「相互接続」が繰り返されるだけでは,A1(アダプタ1)とA3(アダプタ3)との相互接続が機能するとまではいえないの対し,本願発明の「ピア・ツー・ピア通信のためのアダプタ通信相互接続」が機能すれば,A2(アダプタ2)が故障するなど,A2(アダプタ2)が通信の介在などの役割を果たせない状況が生じたとしても,A1(アダプタ1)とA3(アダプタ3)との間でも「ピア・ツー・ピア通信」が機能するものであり,本願発明が着目しているスケーラブルなシステム構成となり得ると主張する。
しかし,前記1(1)イ認定のとおり,本願明細書では,本願発明の「アダプタ通信相互接続」の相互接続の態様を特に制限していないことに照らすならば,「物理的な意味での“通常の”『相互接続』」なる概念を用いて,引用例1発明と本願発明との効果の違いをいう原告の主張は,明細書の記載に基づかないものとして,失当である。
(2) 小括したがって,原告主張の取消事由4は理由がない。
5 結論以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 大鷹一郎
裁判官 嶋末和秀