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関連審決 無効2006-80100
関連ワード 容易に発明 /  周知技術 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 /  減縮 /  拡張 /  変更 /  釈明 /  訂正要件 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10556号 審決取消請求事件
原告X
訴訟代理人弁理 士重信和男
同 清水英雄
同 中野佳直
同 秋庭英樹
被告株式会社水道技術開発機構
被告株式会社南水設計事務所
被告ら訴訟代理人弁理士尾崎雄三
同 梶崎弘一
同 谷口俊彦
同 椚田泰司
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/10/31
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1特許庁が無効2006−80100号事件について平成18年11月28日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告らの負担とする。
事実及び理由
請求
主文第1項と同旨
争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯被告らは,平成13年2月20日,発明の名称を「管路における不平均力の支持装置」とする発明について特許出願(特願2001-42868号。
以下「本件出願」という。)をし,平成15年9月12日,特許庁から特許第3470804号として特許権(請求項の数7。以下,この特許権に係る特許を「本件特許」という。)の設定登録を受けた。
原告は,本件特許の請求項1ないし3,7について,特許無効審判請求(無効2006-80100号事件)をし,被告らは,その係属中の平成18年8月18日,特許請求の範囲減縮等を目的として本件特許に係る明細書(以下,同明細書を本件出願の願書に添付した図面と併せて「本件明細書」という。)の訂正(以下「本件訂正」という。)の請求をした。特許庁は,同年11月28日,「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同年12月7日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲(1)本件特許の設定登録時の特許請求の範囲の請求項1ないし3,7の記載は,次のとおりである(以下,請求項1を「旧請求項1」といい,請求項2,3,7もこれに準じて「旧請求項2」などという。)。
「【請求項1】支持部に固定されるフレームと,前記フレームに管体を固定する固定機構とを設け,前記固定機構に,前記フレームから前記管体に向けて作用される押圧力によって前記管体の外面に押圧されることで,前記フレームに対して前記管体が管軸方向に移動するのを阻止可能なくさび体を設けてあり,このくさび体を,前記管軸方向に所定の間隔を置いて複数配置するとともに,前記管軸方向で隣合う一対のくさび体のくさび作用方向が,前記管軸方向で互いに反対方向になる状態に各くさび体の姿勢を設定してある管路における不平均力の支持装置。
【請求項2】支持部に固定されるフレームと,前記フレームに管体を固定する固定機構とを設け,前記固定機構に,前記管体を挟んで前記管体の径方向一方側から前記管体の外面を受け止めるエッジ部を前記フレームに設け,前記フレームから前記管体に向けて作用される押圧力によって前記管体の外面に前記管体の径方向他方側から押圧されることで,前記フレームに対して前記管体が管軸方向に移動するのを阻止可能なくさび体を設けてあり,このくさび体を,前記管軸方向に所定の間隔を置いて複数配置するとともに,前記管軸方向で隣合う一対のくさび体のくさび作用方向が,前記管軸方向で互いに反対方向になる状態に各くさび体の姿勢を設定してある管路における不平均力の支持装置。
【請求項3】支持部に固定されるフレームと,前記フレームに管体を固定する固定機構とを設け,前記固定機構に,前記フレームから前記管体に向けて作用される押圧力によって前記管体の外面に押圧されることで,前記フレームに対して前記管体が管軸方向に移動するのを阻止可能なくさび体を設けてあると共に,前記フレームは,前記支持部に固定される取付座部と,この取付座部から立ち上がり前記管体を支持する管支持部と管軸方向に沿うリブと,が一体に設けて構成されている不平均力の支持装置。
【請求項7】支持部に固定されるフレームと,前記フレームに管体を固定する固定機構とを設け,前記固定機構に,前記フレームから前記管体に向けて作用される押圧力によって前記管体の外面に押圧されることで,前記フレームに対して前記管体が管軸方向に移動するのを阻止可能な移動阻止体を設け,前記移動阻止体は,前記管体の外面に押圧される一対のエッジ部を,管軸方向で所定の間隔を置いて位置する状態に設けて構成してあると共に,前記フレームは,前記支持部に固定される取付座部と,この取付座部から立ち上がり前記管体を支持する管支持部と管軸方向に沿うリブと,が一体に設けて構成されている管路における不平均力の支持装置。」(2)本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし3,7の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件特許発明1」といい,請求項2,3,7に係る発明もこれに準じて「本件特許発明2」などという。なお,下線は本件訂正による訂正箇所である。)。
「【請求項1】支持部に固定されるフレームと,前記フレームに設けられ,このフレームに管体を固定する固定機構とを設け,前記固定機構に,前記フレームから前記管体に向けて作用される押圧力によって前記管体の外面に押圧されることで,前記フレームに対して前記管体が管軸方向に移動するのを阻止可能なくさび体を設けてあり,このくさび体上面を垂直方向に押圧する押しボルトが,前記フレームのくさび体収容部に螺合されていて,前記くさび体を,前記管軸方向に所定の間隔を置いて複数配置するとともに,前記管軸方向で隣合う一対のくさび体のくさび作用方向が,前記管軸方向で互いに反対方向になる状態に各くさび体の姿勢を設定してあり,前記フレームは,前記支持部に固定される取付座部と,この取付座部から立ち上がり前記管体を支持する管支持部と,管軸方向に沿い前記管体外周面に近接するリブと,が一体に設けて構成されている管路における不平均力の支持装置。
【請求項2】支持部に固定されるフレームと,前記フレームに設けられ,このフレームに管体を固定する固定機構とを設け,前記固定機構に,前記管体を挟んで前記管体の径方向一方側から前記管体の外面を受け止めるエッジ部を前記フレームに設け,前記フレームから前記管体に向けて作用される押圧力によって前記管体の外面に前記管体の径方向他方側から押圧されることで,前記フレームに対して前記管体が管軸方向に移動するのを阻止可能なくさび体を設けてあり,このくさび体上面を垂直方向に押圧する押しボルトが,前記フレームのくさび体収容部に螺合されていて,前記くさび体を,前記管軸方向に所定の間隔を置いて複数配置するとともに,前記管軸方向で隣合う一対のくさび体のくさび作用方向が,前記管軸方向で互いに反対方向になる状態に各くさび体の姿勢を設定してあり,前記フレームは,前記支持部に固定される取付座部と,この取付座部から立ち上がり前記管体を支持する管支持部と,管軸方向に沿い前記管体外周面に近接するリブと,が一体に設けて構成されている管路における不平均力の支持装置。
【請求項3】支持部に固定されるフレームと,前記フレームに設けられ,このフレームに管体を固定する固定機構とを設け,前記固定機構に,前記フレームから前記管体に向けて作用される押圧力によって前記管体の外面に押圧されることで,前記フレームに対して前記管体が管軸方向に移動するのを阻止可能なくさび体を設けてあると共に,前記くさび体上面を垂直方向に押圧する押しボルトが,前記フレームのくさび体収容部に螺合されていて,前記フレームは,前記支持部に固定される取付座部と,この取付座部から立ち上がり前記管体を支持する管支持部と,管軸方向に沿い前記管体外周面に近接するリブと,が一体に設けて構成されている不平均力の支持装置。
【請求項7】支持部に固定されるフレームと,前記フレームに設けられ,このフレームに管体を固定する固定機構とを設け,前記固定機構に,前記フレームから前記管体に向けて作用される押圧力によって前記管体の外面に押圧されることで,前記フレームに対して前記管体が管軸方向に移動するのを阻止可能な移動阻止体を設け,前記移動阻止体は,前記管体の外面に押圧される一対のエッジ部を,管軸方向で所定の間隔を置いて位置する状態に設けて構成してあると共に,前記フレームは,前記支持部に固定される取付座部と,この取付座部から立ち上がり前記管体を支持する管支持部と,管軸方向に沿い前記管体外周面に近接するリブと,が一体に設けて構成されている管路における不平均力の支持装置。」3 審決の内容審決の内容は,別紙審決書写しのとおりである。
その理由の要旨は,本件訂正を認めた上で,?@本件特許発明1,3は,甲1(実願平3-111210号(実開平5-54686号)のCD-ROM)及び甲2(特開昭62-184210号公報)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない,?A本件特許発明2は,甲1,甲2及び甲3(特開平11-218276号公報)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない,?B本件特許発明7は,甲1及び甲3に記載された発明と周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないというものである。
審決は,甲1に次の内容の各発明が記載されていると認定した上で,本件特許発明1ないし3,7とを対比し,次のとおりの一致点及び相違点があると認定した。
(1) 甲1記載の発明の内容ア「底面に固定される管受け台と,前記管受け台に固定され,ダクタイル管の外周を取囲むバンドとを設け,前記管受け台の下端には,底板を溶接し,この底板の上面と受け台本体の外周との間に放射状に複数の三角板状の補強板を溶接したダクタイル管の管受け台」(甲第1号証発明A。以下「甲1発明A」という。)イ「地面に固定される鉄骨枠又はプレキャストコンクリート又はステンレス鋼材からなる管受け台と,この管受け台に取り付けられ,ダクタイル管を支持・固定するバンドとを設け,この管受け台は,地面に固定される部位と,この部位から立ち上がりダクタイル管を支持する部位とを一体に設けて構成されているダクタイル管の管受け台」(甲第1号証発明B)(2) 本件特許発明1と甲1発明Aとの対比(一致点)「支持部に固定されるフレームと,前記フレームに設けられ,このフレームに管体を固定する固定機構とを設け,前記フレームは,前記支持部に固定される取付座部と,この取付座部から立ち上がり前記管体を支持する管支持部と,リブとが一体に設けて構成されている管路における支持装置」である点。
(相違点ア)「本件特許発明1は,固定機構に,フレームから管体に向けて作用される押圧力によって前記管体の外面に押圧されることで,前記フレームに対して前記管体が管軸方向に移動するのを阻止可能なくさび体を設けてあるのに対し,甲1発明Aは,該構成を具備しない点。」(相違点イ)「本件特許発明1は,くさび体上面を垂直方向に押圧する押しボルトが,フレームのくさび体収容部に螺合されていて,前記くさび体を,管軸方向に所定の間隔を置いて複数配置するとともに,前記管軸方向で隣合う一対のくさび体のくさび作用方向が,前記管軸方向で互いに反対方向になる状態に各くさび体の姿勢を設定してあるのに対し,甲1発明Aは,該構成を具備しない点。」(相違点ウ)「本件特許発明1は,リブを,管軸方向に沿い管体外周面に近接するものとするとともに,支持装置を,不平均力の支持装置としているのに対し,甲1発明Aは,リブを,放射状に複数の三角板状のものを,取付座部と管との間に設けたものとするとともに,支持装置を,軸方向のずれを許容するものとしている点。」(3) 本件特許発明2と甲1発明Aとの対比(一致点)「支持部に固定されるフレームと,前記フレームに設けられ,このフレームに管体を固定する固定機構とを設け,前記フレームは,前記支持部に固定される取付座部と,この取付座部から立ち上がり前記管体を支持する管支持部と,リブとが一体に設けて構成されている管路における支持装置」である点。
(相違点ア)「本件特許発明2は,固定機構に,管体を挟んで前記管体の径方向一方側から前記管体の外面を受け止めるエッジ部を前記フレームに設け,前記フレームから前記管体に向けて作用される押圧力によって前記管体の外面に前記管体の径方向他方側から押圧されることで,前記フレームに対して前記管体が管軸方向に移動するのを阻止可能なくさび体を設けてあるのに対し,甲1発明Aは,該構成を具備しない点。」(相違点イ)「本件特許発明2は,くさび体上面を垂直方向に押圧する押しボルトが,前記フレームのくさび体収容部に螺合されていて,前記くさび体を,前記管軸方向に所定の間隔を置いて複数配置するとともに,前記管軸方向で隣合う一対のくさび体のくさび作用方向が,前記管軸方向で互いに反対方向になる状態に各くさび体の姿勢を設定してあるのに対し,甲1発明Aは,該構成を具備しない点。」(相違点ウ)「本件特許発明2は,リブを,管軸方向に沿い管体外周面に近接するものとするとともに,支持装置を,不平均力の支持装置としているのに対し,甲1発明Aは,リブを,放射状に複数の三角板状のものを,取付座部と管との間に設けたものとするとともに,支持装置を,軸方向のずれを許容するものとしている点。」(4) 本件特許発明3と甲1発明Aとの対比(一致点)「支持部に固定されるフレームと,前記フレームに設けられ,このフレームに管体を固定する固定機構とを設け,前記フレームは,前記支持部に固定される取付座部と,この取付座部から立ち上がり前記管体を支持する管支持部と,リブとを一体に設けて構成されている管路における支持装置」である点。
(相違点ア)「本件特許発明3は,固定機構に,フレームから管体に向けて作用される押圧力によって前記管体の外面に押圧されることで,前記フレームに対して前記管体が管軸方向に移動するのを阻止可能なくさび体を設けてあるのに対し,甲1発明Aは,該構成を具備しない点。」(相違点イ)「本件特許発明3は,くさび体上面を垂直方向に押圧する押しボルトが,フレームのくさび体収容部に螺合されているのに対し,甲1発明Aは,該構成を具備しない点。」(相違点ウ)「本件特許発明3は,リブを,管軸方向に沿い管体外周面に近接するものとするとともに,支持装置を,不平均力の支持装置としているのに対し,甲1発明Aは,リブを,放射状に複数の三角板状のものを,取付座部と管との間に設けたものとするとともに,支持装置を,軸方向のずれを許容するものとしている点。」(5) 本件特許発明7と甲1発明Aとの対比(一致点)「支持部に固定されるフレームと,前記フレームに設けられ,このフレームに管体を固定する固定機構とを設け,前記フレームは,前記支持部に固定される取付座部と,この取付座部から立ち上がり前記管体を支持する管支持部と,リブとを一体に設けて構成されている管路における支持装置」である点。
(相違点ア)「本件特許発明7は,固定機構に,フレームから管体に向けて作用される押圧力によって前記管体の外面に押圧されることで,前記フレームに対して前記管体が管軸方向に移動するのを阻止可能な移動阻止体を設け,前記移動阻止体は,前記管体の外面に押圧される一対のエッジ部を,管軸方向で所定の間隔を置いて位置する状態に設けて構成してあるのに対し,甲1発明Aは,該構成を具備しない点。」(相違点イ)「本件特許発明7は,リブを,管軸方向に沿い管体外周面に近接するものとするとともに,支持装置を,不平均力の支持装置としているのに対し,甲1発明Aは,リブを,放射状に複数の三角板状のものを,取付座部と管との間に設けたものとするとともに,支持装置を,軸方向のずれを許容するものとしている点。」
当事者の主張
1 原告主張の取消事由審決には,以下のとおり,訂正要件の判断の誤り(取消事由1),本件特許発明1の容易想到性の判断の誤り(取消事由2),本件特許発明2,3,7の容易想到性の判断の誤り(取消事由3)がある。
(1) 取消事由1(訂正要件の判断の誤り)審決は,本件訂正の訂正事項のうち,?@旧請求項1及び2中の「各くさび体の姿勢を設定してある」を「各くさび体の姿勢を設定してあり,前記フレームは,前記支持部に固定される取付座部と,この取付座部から立ち上がり前記管体を支持する管支持部と,管軸方向に沿い前記管体外周面に近接するリブと,が一体に設けて構成されている」とする訂正(「訂正事項c」(審決書3頁15行〜20行),「訂正事項f」(同3頁30行〜35行)),旧請求項3及び7中の「管軸方向に沿うリブ」を「管軸方向に沿い前記管体外周面に近接するリブ」とする訂正(「訂正事項j」(同4頁15行〜17行),「訂正事項n」(同4頁28行〜末行))は,いずれも「フレーム」の構成を限定するものであり,特許請求の範囲減縮を目的とし,?A本件明細書の発明の詳細な説明中の段落【0009】の訂正(「訂正事項o」(同5頁1行〜21行)),段落【0013】の訂正(「訂正事項p」(同5頁22行〜6頁7行)),段落【0017】の訂正(「訂正事項q」(同6頁8行〜24行)),段落【0033】の訂正(「訂正事項s」(同6頁28行〜7頁11行))は,特許請求の範囲に係る訂正に伴い,発明の詳細な説明の整合を図るものであり,明りょうでない記載の釈明を目的とし,?B訂正事項c,f,j,n,o,p,q,sは,いずれも願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって,実質上特許請求の範囲拡張し,又は変更するものではないとして,訂正事項c,f,j,n,o,p,q,sに係る訂正は,特許法134条の2第1項ただし書及び同条5項において準用する同法126条3項及び4項に適合し,適法であると判断した。
しかし,審決の判断は,以下のとおり誤りである。
ア 訂正事項c,f,j,nについて(ア)訂正事項c,f,j,nに係る訂正が,「願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたもの」であるとした審決の判断は,以下のとおり誤りである。
a本件明細書(甲6)の発明の詳細な説明中には,「管軸方向に沿う」リブ(段落【0042】)との記載があるが,「管体外周面に近接するリブ」との記載はなく,「管体外周面に近接する」との文言が記載された箇所もない。
bまた,本件出願の願書に添付した図3(甲6)には,管体3の外周を表す輪郭が管軸方向に実線で描かれており,その実線に平行してリブ16の上端を表す実線を離して描いており,「リブ16の管軸方向に平行な領域のみが管体外周面に近接」している。しかし,「管体外周面に近接するリブ」を,「リブ16の管軸方向に平行な領域のみが管体外周面に近接」しているものに限定して解釈することは,文言上無理があり,その意味は曖昧である。したがって,審決が,「管体外周面に近接するリブ」につきリブのどの部分が管体外周面に近接するのかを特定することなく(図10,16における三角形の一部傾斜部を含むのか否かなど),「管体外周面に近接するリブ」との訂正事項について「願書に添付した図面に記載した事項の範囲内」にあるとした点に誤りがある。
(イ)訂正事項c,f,j,nに係る訂正が特許請求の範囲減縮を目的とする訂正に該当するとした審決の判断は,以下のとおり誤りである。
a前記(ア)bのとおり,「管体外周面に近接するリブ」との文言は,曖昧であって,リブの特にどの部分が管体外周面に近接するのか明らかではなく,発明の構成を特定できる程度に表現された事項ではないから,旧請求項1ないし3,7に「管体外周面に近接するリブ」なる構成を付加した訂正事項c,f,j,nに係る訂正は,特許請求の範囲減縮を目的とするものに当たらない。
bまた,「管体外周面に近接するリブ」なる構成を請求項に付加しても,「近接」が何ら作用効果を奏するものではなく,無用の限定に当たるから,訂正事項c,f,j,nに係る訂正は,特許請求の範囲減縮を目的とするものに当たらない。
仮に「管体外周面に近接するリブ」なる構成を付加することにより,強力な不平均力を受ける「管体」や「管路」の移動を「リブ」によって支持できるといった目的,効果が生ずるとすれば,それは新たな発明の目的,効果であるから,訂正事項c,f,j,nは,形式的に特許請求の範囲減縮されている場合でも,実質上特許請求の範囲変更するものであり,特許請求の範囲減縮を目的とする訂正に該当しない。
イ 訂正事項o,p,q,sについて審決は,訂正事項o,p,q,sに係る訂正は,訂正事項c,f,j,nに係る訂正に伴い,発明の詳細な説明の整合を図るものであるから,明りょうでない記載の釈明を目的(特許法134条の2第1項ただし書2号)とするものであると判断した。しかし,前記アのとおり,訂正事項c,f,j,nに係る訂正は不適法であるから,「管体外周面に近接するリブ」なる記載を付加する訂正事項o,p,sに係る訂正も,明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当しない。
ウ小括以上のとおり,訂正事項c,f,j,n,o,p,q,sに係る訂正は,特許法134条の2第1項ただし書及び同条5項において準用する同法126条3項及び4項に適合するとした審決の判断は誤りである。
(2) 取消事由2(本件特許発明1の容易想到性の判断の誤り)審決は,相違点ウに係る本件特許発明1の構成(「リブを,管軸方向に沿い管体外周面に近接するものとするとともに,支持装置を,不平均力の支持装置としている」との構成)が容易想到であるとはいえないと判断した上で,「他の相違点について検討するまでもなく,本件特許発明1は,甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。」(審決書20頁8行〜10行)と判断した。
しかし,審決の判断は,以下のとおり誤りである。
ア審決は,相違点ウとして,本件特許発明1は,「リブを,管軸方向に沿い管体外周面に近接するものとするとともに,支持装置を,不平均力の支持装置としている」点で,甲1発明Aと相違すると認定している。
しかし,前記(1)のとおり,旧請求項1に「管体外周面に近接するリブ」の構成を付加する訂正事項cに係る訂正は不適法であり,本件特許発明1は,「管体外周面に近接する」リブを含む構成と認定すべきではないから,審決の相違点ウの認定は誤りである。
イ本件明細書には,リブの構成を「管体外周面に近接する」ものとする技術的意義について何ら説明がないのに,審決が相違点ウに係る本件特許発明1の構成により,「これにより,管体の移動を阻止して,不平均力を受け止めることができる。このため,強固な防護工とすることができる」(段落【0010】),「従って,管路における不平均力を支持して防護を図ることができる管路における不平均力の支持装置を提供することができた」(段落【0011】)との作用・効果を奏すると認定判断したのは,新たに「不平均力に対し,管路とリブが近接することによる特段の作用・効果」を認めたことになり,誤りである。
なお,被告ら提出の乙13(「不平均力支持装置の強度解析による性能確認シミュレーション」と題する書面)は,審決の対比判断に何ら影響を及ぼすものではない。
ウ以上のとおり,相違点ウについての審決の認定判断には誤りがあり,この誤った認定判断を前提に,相違点ウに係る本件特許発明1の構成は容易想到とはいえないとした審決の判断は誤りである。
(3) 取消事由3(本件特許発明2,3,7の容易想到性の判断の誤り)審決には,前記(2)と同様に,本件特許発明2と甲1発明Aとの相違点ウについての認定判断,本件特許発明3と甲1発明Aとの相違点ウについての認定判断,本件特許発明7と甲1発明Aとの相違点イについての認定判断にそれぞれ誤りがあり,これらの誤った認定判断を前提に,相違点ウに係る本件特許発明2の構成,相違点ウに係る本件特許発明3の構成及び相違点イに係る本件特許発明7の構成は,それぞれ容易想到とはいえないとした審決の判断は誤りである。
2 被告らの反論(1) 取消事由1に対しア訂正事項c,f,j,nの「管体外周面に近接するリブ」は,本件出願の願書に添付した図面(甲6)に明示的に記載されている。
すなわち,「管体外周面に近接するリブ」は,リブにおいて管体外周面に近接している領域が存在すれば足りる。そして,図1,図3に示す長方形状のリブ16も,図10,図16に示す三角形状のリブ16も,リブ16の上端(管軸方向に平行な領域)が管体外周面に近接した状態で明示的に記載されている以上,「管体外周面に近接するリブ」の文言の意義が曖昧であるとはいえない。
したがって,訂正事項c,f,j,nに係る訂正は,「願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたもの」であるとの審決の判断は,正当である。
イ訂正事項c,f,j,nの「管体外周面に近接するリブ」なる訂正事項は,先行技術である甲1に記載されている,管体外周面には近接しない「放射状に複数の三角板状のリブ」と明確な差異を設けるための訂正であり,無用の限定に当たるものではない。
本件特許発明1は,甲1に記載される支持装置とは異なり,管体の管軸方向の移動を阻止して不平均力を受け止めようとするものであり,管体の管軸方向の移動は,くさび体や移動阻止体の固定機構により管体をフレームに対して強固に固定して阻止するものであるが(本件明細書の段落【0010】等),リブには管体の管軸方向の移動を阻止する(じかに受け止める)機能はない。しかし,フレーム自身の強度が弱ければ,固定機構により管体をフレームに対して強固に固定した意味がなくなるため,「管体外周面に近接するリブ」を設けることで,本件特許発明1の「管体の管軸方向の移動を阻止して不平均力を受け止める」(本件明細書の【0010】)という作用・効果を実効あるものとした。このように,「近接」するリブの構成を具備することによる作用効果は,本件明細書の段落【0010】,【0011】に記載されている内容に基づくものであって,「管体外周面に近接するリブ」なる訂正事項は,「実質上特許請求の範囲変更する」ものではない。
したがって,審決が,訂正事項c,f,j,nに係る訂正はフレームの構成を限定するものであって,特許請求の範囲減縮を目的とするとした判断に,誤りはない。
ウ前記のとおり,訂正事項c,f,j,nに係る訂正は適法であり,「管体外周面に近接するリブ」との記載を付加する訂正事項o,p,sに係る訂正も,明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当するとした審決の判断に誤りはない。
(2) 取消事由2に対しア前記(1)のとおり,旧請求項1に「管体外周面に近接するリブ」の構成を付加する訂正事項cに係る訂正に何ら違法性はなく,審決の相違点ウの認定に誤りはない。
イ「管体外周面に近接するリブ」とした趣旨は,前記(1)イのとおり,フレーム自身の強度が弱ければ,固定機構により管体をフレームに対して強固に固定した意味がなくなるため,「管体外周面に近接するリブ」を設けることにより,「管体の管軸方向の移動を阻止して不平均力を受け止める」(本件明細書の【0010】)という作用・効果を実現するためであって,その技術的意義は明白である。すなわち,本件特許発明1のように固定機構を設けて管体の管軸方向の移動を阻止して受け止める構成とした場合,大きな管軸方向の不平均力が作用すると,フレーム自身が,じかに,その不平均力を受け止めなければならないので,フレーム自身の強度を十分に確保するため,「管体外周面に近接するリブ」が必要とされる。これにより,固定機構を設けて管体の管軸方向の移動を阻止しようとする構成が意味を持つこととなる。これに対して,甲1においては,管体の管軸方向の移動が許容されているため,本件特許発明1と比べて,フレームに要求される強度は小さくてすむ。
なお,被告らは,「管軸方向に沿い管体外周面に近接するリブ」の技術的意義を確認するため,コンピュータ・シミュレーションによる試験を行い,その解析結果によれば,「管軸方向に沿い管体外周面に近接するリブ」の構成とすることで,フレームにかかる応力が大幅に低減できることを確認し,その解析結果と実施製品による試験の解析結果が整合することも確認した(乙13)。
ウ以上のとおり,相違点ウに係る本件特許発明1の構成は容易想到とはいえないとした審決の判断に誤りはない。
(3) 取消事由3に対し前記(2)と同様の理由により,本件特許発明2と甲1発明Aとの相違点ウ,本件特許発明3と甲1発明Aとの相違点ウ,本件特許発明7と甲1発明Aとの相違点イについての審決の認定判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(訂正要件の判断の誤り)について(1) 訂正事項c,f,j,nについて原告は,旧請求項1ないし3,7に「管体外周面に近接するリブ」なる構成を付加した訂正事項c,f,j,nは,願書に添付した図面に記載した事項の範囲内にはなく,また,実質上特許請求の範囲変更するものであり,特許請求の範囲減縮を目的とするものにも当たらないから,訂正事項c,f,j,nに係る訂正が適法であるとの審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
ア本件明細書(甲6)の発明の詳細な説明には,「前記固定機構23に,フレーム11から管体3に向けて作用される押圧力によって管体3の外面に押圧されることで,フレーム11に対して管体3が管軸方向に移動するのを阻止可能な金属製のくさび体20を設けてある。」(段落【0041】),「前記フレーム11は,板状の取付座部14と,この取付座部14から立ち上がった管支持部15と,管軸方向に沿うリブ16とを一体に設けて構成してある。前記管支持部15に,管体3を挿通させる丸孔部17を貫通形成してある。」(段落【0042】)との記載がある。
そして,図3(甲6)には,フレーム11の取付座部14上に管支持部15と一体に設けられたリブ16,円筒状の管体3,固定機構23等が図示されており,リブ16の上辺と,管体3の外周面の下部(下辺線)とは,管軸方向に沿って近くに接した状態で示されている。また,同様に,図10及び図16(甲6)には,リブ16の上辺と,管体3の外周面の下部(下辺線)とは,管軸方向に沿って近くに接した状態で示されている。
以上によれば,本件出願の願書に添付した図面である図3,図10,図16には,「管軸方向に沿い管体外周面に近接するリブ」が示されており,訂正事項c,f,j,nに係る訂正は,「願書に添付した図面に記載した事項の範囲内」においてされたものであることが認められる。
イ訂正事項c,fに係る訂正は,旧請求項1及び2の「フレーム」について,取付座部と,管支持部と,「管軸方向に沿い前記管体外周面に近接するリブ」とが一体に設けて構成されているものに限定するものであり,また,訂正事項j,nに係る訂正は,旧請求項3及び7中の「フレーム」を構成する「管軸方向に沿うリブ」について,「管軸方向に沿い前記管体外周面に近接するリブ」に限定し,管体外周面に当接し,あるいは管体外周面から離れた位置にあるものを除外するものであるから,訂正事項c,f,j,nに係る訂正は,いずれもフレームの構成を限定するものであり,特許請求の範囲減縮を目的とするものであると認められる。
ウ(ア)これに対し原告は,「管体外周面に近接するリブ」を,「リブ16の管軸方向に平行な領域のみが管体外周面に近接」しているものに限定して解釈することは,文言上無理があり,その意味は曖昧であるにもかかわらず,審決が,「管体外周面に近接するリブ」につきリブのどの部分が管体外周面に近接するのかを特定することなく(図10,16における三角形の一部傾斜部を含むのか否かなど),「管体外周面に近接するリブ」なる訂正事項が「願書に添付した図面に記載した事項の範囲内」にあると認定した点に誤りがあると主張する。しかし,「管体外周面に近接するリブ」は管体外周面の近くにあるリブを意味するものと解され,前記ア認定のとおり,図1,図10及び図16には,リブ16の上辺と,管体3の外周面の下部(下辺線)とは,管軸方向に沿って近くに接した状態で示されている以上,「管軸方向に沿い前記管体外周面に近接するリブ」との訂正事項が「願書に添付した図面に記載した事項の範囲内」にあることは自明であり,審決の認定に誤りはない。
(イ)また,原告は,「管体外周面に近接するリブ」との文言は,曖昧であり,リブの特にどの部分が管体外周面に近接するのか明らかではなく,発明の構成を特定できる程度に表現された事項ではないから,旧請求項1ないし3,7に「管体外周面に近接するリブ」なる構成を付加した訂正事項c,f,j,nに係る訂正は,特許請求の範囲減縮を目的とするものに当たらないとも主張する。しかし,前記(ア)のとおり,「管体外周面に近接するリブ」は管体外周面の近くにあるリブを意味するものとして特定されているといえるから,原告の上記主張は,その前提を欠くものとして採用することができない。
(ウ)さらに,原告は,「管体外周面に近接するリブ」なる構成を請求項に付加しても,「近接」が何らかの作用効果を奏するものではなく,無用の限定に当たるから,訂正事項c,f,j,nに係る訂正は,特許請求の範囲減縮を目的とするものに当たらないと主張する。しかし,訂正により限定された構成が固有の作用効果を奏することは,訂正が特許請求の範囲減縮を目的とすることの要件ではないから,原告の主張は,その前提において採用することができない。
(2) 訂正事項o,p,q,sについて原告は,訂正事項c,f,j,nに係る訂正は不適法であるから,「管体外周面に近接するリブ」なる記載を付加する訂正事項o,p,q,sに係る訂正は,明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当しないと主張する。しかし,前記(1)認定のとおり,訂正事項c,f,j,nに係る訂正は適法であり,原告の主張は,その前提を欠くものである。
(3) 以上によれば,原告主張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(本件特許発明1の容易想到性の判断の誤り)について(1) 審決の容易想到性の判断過程について審決は,?@相違点ウに係る本件特許発明1の構成によって,本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0010】及び【0011】の作用・効果を奏すると認定し,?A相違点ウに係る本件特許発明1の構成は,甲1発明Aに甲2記載の技術を適用することによって当業者が容易に想到し得たものではないと判断した。
審決の判断の過程は,次のとおりである。
ア 甲1についての認定(ア)「甲第1号証には,管体を確実に支持固定でき・・・,管支持部にしっかり固定できる・・・との記載はある。しかし,これらの記載は,全般的な支持固定を示したものであって,不平均力,すなわち,軸方向に働く力に対する支持手段を示唆したものではない。」(審決書18頁20行〜24行)(イ)「甲第1号証発明Aは,軸方向に荷重がかかった場合に,管体をすべらせること,軸方向に一定以上の力が作用した場合,軸方向のずれを許容し得るものとしたこと・・・を記載していることからみて,管を浮上がらせようとする力を押さえるための固定手段に着目した発明であると理解できる。このことは,軸方向の力を小さくすることにより,本件特許発明1のリブに相当する補強板を,放射状の三角板状のものとしていることによって裏付けられるものと考えられる。」(同18頁25行〜末行)(ウ)「甲第1号証発明Bにおいて,管受け台は,鉄骨枠,又はプレキャストコンクリート,又はステンレス鋼鋼材を用いたフレームを用いた構成としているが,この発明は,その設置スペース,生産性等を主な課題として構成されたものである。そして,支持強度を確保する方向として,管を浮上がらせようとする上向きの強い力に対して固定を図ることが記載されている・・・ものの,軸方向に働く力に対する支持手段を示唆する記載はない。・・・甲第1号証発明Bをみても,リブを,管軸方向に沿い管体外周面に近接するものとし,支持装置を,不平均力の支持装置とした点についての示唆があるとはいえない。」(同19頁3行〜12行)イ 甲2についての認定甲2に記載された固着装置は,「・・・管を固着するスリーブは,一方の管と他方の管とを接合するものであって,本願特許発明1のように,大きな不平均力を支持するための装置である,支持部に固定される取付座部と,この取付座部から立ち上がり前記管体を支持する管支持部と,管軸方向に沿い前記管体外周面に近接するリブと,が一体に設けて構成されているフレームと管体の支持装置とは,技術分野を異にするものである」(審決書19頁16行〜21行)ウ 相違点ウに係る本件特許発明1の構成の技術的意義容易想到性本件特許発明1は,相違点ウに係る構成(「リブを,管軸方向に沿い管体外周面に近接するものとするとともに,支持装置を不平均力の支持装置としている」構成)を具備することにより,「『管体の移動を阻止して,不平均力を受け止めることができる。このため,強固な防護工とすることができる。』(特許明細書段落【0010】),『従って,管路における不平均力を支持して防護を図ることができる管路における不平均力の支持装置を提供することができた。』(同段落【0011】)との作用・効果を奏するものである。」(審決書20頁2行〜7行)として,他の相違点について検討するまでもなく,本件特許発明1は,甲1に記載された発明及び甲2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないと判断した。
(2) 相違点ウに係る構成の容易想到性の有無当裁判所は,審決の上記の認定判断には,以下のとおりの誤りがあると判断する。
ア 本件特許発明1の構成中の「不平均力の支持装置」の意義(ア)本件特許発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,「管路における不平均力の支持装置」との記載があるが,「不平均力」の意義を規定する記載はない。そこで,本件訂正後の本件明細書(甲7)を参酌すると,本件明細書には,次のような記載がある。
a「【従来の技術】例えば図20に示すように,一般に曲がり管路2においては,管路2を構成する複数の管体3の継ぎ手部4に,管内の流体圧によって不平均力が作用する。」(段落【0002】)b「そして,この不平均力に起因して管路の継手部に管体の軸芯方向(以下,管軸方向と称する)の力が作用することから,管路を支持するための支持構造が必要になる。」(段落【0003】)c「【発明が解決しようとする課題】上記従来の支持構造によれば,共同溝1のような狭い空間での鉄筋コンクリート施工が困難で,施工に手間がかかるという問題があった。」(段落【0005】),「上記の問題を解消する技術として,鋼製のバンドをボルトによって管体の周囲に巻付け固定する技術が提案されているが,この技術ではバンドと管体との間の摩擦抵抗力で管体の管軸方向の移動を防止することから,管路における不平均力を強固に支持することは困難である。」(段落【0006】)d「本発明は上記実情に鑑みて成されたもので,その目的は,管路における不平均力を支持して防護を図ることができるようにする点にある。」(段落【0007】)e「【課題を解決するための手段】請求項1による発明の構成・作用・効果は次の通りである。」(段落【0008】),「[構成]支持部に固定されるフレームと,前記フレームに設けられ,このフレームに管体を固定する固定機構とを設け,前記固定機構に,前記フレームから前記管体に向けて作用される押圧力によって前記管体の外面に押圧されることで,前記フレームに対して前記管体が管軸方向に移動するのを阻止可能なくさび体を設けてあり,このくさび体上面を垂直方向に押圧する押しボルトが,前記フレームのくさび体収容部に螺合されていて,前記くさび体を,前記管軸方向に所定の間隔を置いて複数配置するとともに,前記管軸方向で隣合う一対のくさび体のくさび作用方向が,前記管軸方向で互いに反対方向になる状態に各くさび体の姿勢を設定してあり,前記フレームは,前記支持部に固定される取付座部と,この取付座部から立ち上がり前記管体を支持する管支持部と,管軸方向に沿い前記管体外周面に近接するリブと,が一体に設けて構成されている。」(段落【0009】),「[作用]管体の外面に押圧されるくさび体によって,この管体とフレームとが一体化される。そして,くさび体のくさび作用によって,不平均力に基づく管体の管軸方向への動きが阻止される。しかも,管体が管軸方向のいずれの方向に移動しようとしてもいずれか一方のくさび体が作用し,これにより,管体の移動を阻止して,不平均力を受け止めることができる。このため,強固な防護工とすることができる。」(段落【0010】),「[効果]従って,管路における不平均力を支持して防護を図ることができる管路における不平均力の支持装置を提供することができた。」(段落【0011】)f「[第1実施形態]図19に示すように,継手部4を備えた管体3から成る管路2を共同溝内に配置してある。」(段落【0038】),「図1,図2,図3,図4に示すように,前記管路における不平均力の支持装置は,共同溝のベースコンクリート12(支持部に相当)にボルト固定される鋳鉄製のフレーム11と,フレーム11に管体3を固定する固定機構23とを設けて構成してある。」(段落【0040】),「前記固定機構23に,フレーム11から管体3に向けて作用される押圧力によって管体3の外面に押圧されることで,フレーム11に対して管体3が管軸方向に移動するのを阻止可能な金属製のくさび体20を設けてある。」(段落【0041】),「<固定機構23の構造>・・・前記管支持部15の管軸方向の両端部側の孔部17の周囲に複数のくさび体収容部18A,18Bを一体形成してある。」(段落【0043】),「前記くさび体20は,くさび体収容部18A,18Bの壁部に螺合させた押ボルト21の先端部に押圧されている。」(段落【0046】),「上記の支持構造において,不平均力が大きくなると,管体3が継手部4から抜け出すように作用し,これによって管体3はフレーム11に対し管軸方向に移動しようとする。」(段落【0054】),「しかしながら,くさび体20は,管軸方向で隣合う一対のくさび体20のくさび作用方向が,管軸方向で互いに反対方向になる状態に各くさび体20の姿勢を設定してあるから,管体3がいずれの方向に移動しようとしてもいずれか一方のくさび体20が作用する。」(段落【0055】),「したがって,このような管体3の移動を阻止して,不平均力を受け止めることができる。」(段落【0056】)(イ)上記(ア)の記載及び図面(甲6)を総合すれば,本件訂正後の本件明細書においては,?@「不平均力」との語を,「曲がり管路を構成する複数の管体の継手部に,管内の流体圧によって作用する力」(上記(ア)a)の意義で用い,「不平均力に起因して管路の継手部に管体の軸芯方向(以下,管軸方向と称する)に作用する力」(同b)と区別して用いていること,?A「不平均力が大きくなると,管体が継手部から抜け出すように作用」するので,管路を支持するための支持構造が必要になること(同b,f),?Bこの支持構造に関する従来技術では,「鋼製のバンドをボルトによって管体の周囲に巻付け固定する技術が提案されているが,この技術ではバンドと管体との間の摩擦抵抗力で管体の管軸方向の移動を防止することから,管路における不平均力を強固に支持することは困難である」という課題があったこと(同c),?C本件特許発明1の「第1実施形態」として,フレーム11に管体3を固定機構23により押圧して固定した支持装置が記載され,その固定機構23に,複数のくさび体20が管軸方向で互いに反対方向になる状態に設定されているため,管体3が管軸方向のいずれかの方向に移動しようとしても,管軸方向で隣合う一対のくさび体20のくさび作用によって管体3の移動を阻止し,不平均力を受け止めることができること(同f)が記載されていると認められる。
(ウ)以上の認定によれば,本件特許発明1(請求項1)の「管路における不平均力の支持装置」とは,「曲がり管路を構成する複数の管体の継手部に,管内の流体圧によって作用する力」を支持する装置を意味するものと解される。そして,本件特許発明1は,不平均力が大きくなると,不平均力に起因して管路の継手部に管体の管軸方向に作用する力も大きくなり,管体が継手部から抜け出すように作用するので,これを抑えることを目的として,フレームに管体を固定する固定機構を設け,この固定機構に,「くさび体を,前記管軸方向に所定の間隔を置いて複数配置するとともに,前記管軸方向で隣合う一対のくさび体のくさび作用方向が,前記管軸方向で互いに反対方向になる状態に各くさび体の姿勢を設定」する構成(請求項1)を採用したものと認められる。
イ 甲1の記載事項(ア) 甲1には,次のような記載がある。
a「【請求項1】受け台本体と,バンドとで構成するダクタイル管の管受け台であって,前記受け台本体は,所定の直径および肉厚を有し,かつ所定長さに切断したステンレス鋼鋼管の上下端に支持板および底板を溶接して構成し,さらに底板には固定用アンカーボルトの挿入孔を設け,支持板には両側立上げ部の間を下方に湾曲してなる管受け部材を設け,この管受け部材に載置したダクタイル管の外周にバンドを当てがい,このバンドによりダクタイル管を受け台本体に固定した構成を特徴とするダクタイル管の管受け台。」,「【請求項2】ステンレス鋼鋼管の直径および支持板の幅寸法がダクタイル管の直径よりも小さいことを特徴とする請求項1のダクタイル管の管受け台。」,「【請求項3】管受け部材の上面にグラフアイトとニッケルとからなる低摩擦溶射皮膜を形成していることを特徴とする請求項1のダクタイル管の管受け台。」b「【従来の技術】ダクタイル管は,数キロメートル,或いはそれ以上の長い距離に亘って延設されるもので,・・・地下に掘削した共同溝に配設されることが多く,その内部に上下水,液体燃料などを流通させることが多い。・・・例えば図10に示すようにダクタイル管が上向き山形に屈曲している部位を流体が流れるとき,管には上向きの強い力Fが働き,管を浮上がらせようとする。これを押さえるためにも,ダクタイル管は強固な構造の管受け台にしっかりと固定することが必要である。」(段落【0002】),「・・・また,管受け台2が図10に示すようにダクタイル管1の山形の曲管部18を支持する場合は,ダクタイル管1に次の式1に示すような浮上力が働く。
【式1】πθF=2・P???・D ・sin???242P:水圧(ton f/m )2D:口径(m)F:不平均力(tonf)θ:曲り角度」(段落【0006】,【0007】)c「【実施例】以下,本考案の第1実施例を図1〜図5を参照して説明する。・・・各図において,43は受け台本体,44はダクタイル管1の外周を押さえる固定用のバンドである。・・・この受け台本体43を,共同溝の地面10に確実かつ強固に固定するため,受け台本体43の下端には,底板45を溶接し,この底板45の上面と,受け台本体43の外周との間に放射状に複数の三角板状の補強板46を溶接している。そして,底板45に開設した複数のボルト挿入孔47にアンカーボルト8を挿入したうえ,このアンカーボルト8を共同溝の底面10に埋込み固定している。・・・」(段落【0017】),「一方,受け台本体43の上端には,この受け台本体43の直径よりも若干幅の広いステンレス製の支持板48を溶接50により固定している。支持板48の両側は,上方に向け直角に折曲げて立上げ部51とし,両側立上げ部51の間に,管受け部材52を設けてある。・・・55は管受け部材52の上面に所定の厚みに装着したグラファイト溶射材からなる低摩擦溶射皮膜である。
この低摩擦溶射皮膜55は,一般に低摩擦係数であり,この上に載置されるダクタイル管1に軸方向に一定以上の力が作用した場合,これの軸方向のずれを許容し得るものである。・・・」(段落【0018】),「バンド44の厚みと幅は,ダクタイル管1の受け荷台本体43に対して要求される固定強度に対応して適当に設定される。・・・バンド44は,図示のようにダクタイル管1の外周に当てがい,これを取囲むように配設したうえ,その両端部56を支持板48の立上げ部51の両外側に当てがう。そして,前記バンド44の両端部56と補強板57と立上げ部51のボルト挿入孔53,58,59を合致させたうえ,各孔にボルト60を挿入し,両側立上げ部51の内側に固定したナット61にボルト60を螺合する。
これにより,バンド44を介して,ダクタイル管1は受け台本体43に強固に固定される。」(段落【0019】,【0020】)(イ)上記(ア)の記載及び図面(甲1)を総合すれば,甲1においては,?@「ダクタイル管が上向き山形に屈曲している部位を流体が流れるとき,管には上向きの強い力Fが働き,管を浮上がらせようとする」ので,「これを押さえるためにも,ダクタイル管は強固な構造の管受け台にしっかりと固定することが必要」であること(上記(ア)b),?Aダクタイル管に働く浮上力を「式1」として示し,「式1」中には,その浮上力を「F:不平均力(tonf)」と表していること(同b),?B実施例1として,地面10に固定される受け台本体43と,バンド44とで構成するダクタイル管1の管受け台が記載されており,その受け台本体43の下端には,底板45が溶接され,この底板45の上面と受け台本体43の外周との間に放射状に複数の三角板状の補強板46が溶接されており,一方,バンド44は,ダクタイル管1の外周に当てがい,これを取囲むように配設した上,バンド44の両端部56と,受け台本体43の上端に固定した支持板48の両側立上げ部51とをボルト60等で固定することにより,バンド44を介して,ダクタイル管1を受け台本体43に強固に固定していること(同c),?Cバンド44の厚みと幅は,ダクタイル管1の受け荷台本体43に対して要求される固定強度に対応して適当に設定されること(同c)が記載されていると認められる。
(ウ)以上の認定によれば,甲1記載の「受け台本体43と,バンド44とで構成するダクタイル管1の管受け台」は,「ダクタイル管1の外周に当てがい,これを取囲むように配設され」たバンド44を介して,ダクタイル管1を受け台本体43に固定する構成を採用することにより,「ダクタイル管が上向き山形に屈曲している部位を流体が流れるとき」に,ダクタイル管に働く浮上力(「式1」記載の「F:不平均力(tonf)」)を押さえる作用を備えているものと認められる。そして,ダクタイル管に働く浮上力は,「曲がり管路を構成する」管体において「管内の流体圧によって作用する力」に起因して管体の曲がり方向(上向き)に作用する力であるものと解される。
そうすると,甲1記載の「受け台本体43と,バンド44とで構成するダクタイル管1の管受け台」は,「曲がり管路を構成する」管体において「管内の流体圧によって作用する力」を支持しているものと認められ,また,甲1記載の「受け台本体43と,バンド44とで構成するダクタイル管1の管受け台」が,他の管体と継ぎ手により継がれたダクタイル管に使用された場合には,バンド44を介して,ダクタイル管1を受け台本体43に固定する構成により,管体の継手部に,「管内の流体圧によって作用する力」を支持するとともに,この力に起因して管路の継手部に管体の管軸方向に作用する力を抑えるように作用すると理解される。
もっとも,甲1記載の「受け台本体43と,バンド44とで構成するダクタイル管1の管受け台」は,両側立上げ部51の間に設けた管受け部材52の上面に,グラファイト溶射材からなる低摩擦溶射皮膜55を備え,「この上に載置されるダクタイル管1に軸方向に一定以上の力が作用した場合,これの軸方向のずれを許容し得る」(上記(ア)c)ものとされている。しかし,低摩擦溶射皮膜55により軸方向のずれが許容され得るとしても,バンド44を介して,ダクタイル管1を受け台本体43に固定する構成は,管内の流体圧によって作用する力に起因して管路の継手部に管体の管軸方向に作用する力を抑えるように作用するものと認められるから,甲1記載の「受け台本体43と,バンド44とで構成するダクタイル管1の管受け台」が低摩擦溶射皮膜55を備えることをもって,上記認定を左右するものとはいえない。
(エ)以上のとおり,甲1記載の「受け台本体43と,バンド44とで構成するダクタイル管1の管受け台」は,「管体の継手部に,管内の流体圧によって作用する力」を支持する構成を備えているから,請求項1の「管路における不平均力の支持装置」(「曲がり管路を構成する複数の管体の継手部に,管内の流体圧によって作用する力」を支持する装置)に該当するものと認められる。
ウ 審決の相違点ウに関する認定の当否甲1記載の「受け台本体43と,バンド44とで構成するダクタイル管1の管受け台」は,審決認定の甲1発明A(「底面に固定される管受け台と,前記管受け台に固定され,ダクタイル管の外周を取囲むバンドとを設け,前記管受け台の下端には,底板を溶接し,この底板の上面と受け台本体の外周との間に放射状に複数の三角板状の補強板を溶接したダクタイル管の管受け台」)に相当するものである。
そして,前記イ(エ)のとおり,甲1記載の「受け台本体43と,バンド44とで構成するダクタイル管1の管受け台」は,請求項1の「管路における不平均力の支持装置」に該当するから,審決がした相違点ウの認定中,甲1発明Aは,相違点ウに係る本件特許発明1の構成中「不平均力の支持装置」との構成を備えていない旨の部分は誤りである。
そうすると,審決の認定した相違点ウは,「本件特許発明は,リブを,管軸方向に沿い管体外周面に近接するのに対し,甲1発明Aは,リブを,放射状に複数の三角板状のものを,取付座部と管との間に設けた」点が相違するとした限度において正当であるというべきであるから,これを前提として,以下,相違点ウの容易想到性について判断することとする。
エ 相違点ウの容易想到性(ア) 相違点ウに係る構成による作用効果についてa審決は,相違点ウに係る本件特許発明1の構成により,「これにより,管体の移動を阻止して,不平均力を受け止めることができる。このため,強固な防護工とすることができる」(本件明細書の段落【0010】),「従って,管路における不平均力を支持して防護を図ることができる管路における不平均力の支持装置を提供することができた」(段落【0011】)との作用・効果を奏すると認定判断した。
しかし,審決の上記認定は誤りである。
すなわち,前記ア(ア)eのとおり,本件訂正後の本件明細書(甲7)の段落【0010】には,「[作用]管体の外面に押圧されるくさび体によって,この管体とフレームとが一体化される。そして,くさび体のくさび作用によって,不平均力に基づく管体の管軸方向への動きが阻止される。しかも,管体が管軸方向のいずれの方向に移動しようとしてもいずれか一方のくさび体が作用し,これにより,管体の移動を阻止して,不平均力を受け止めることができる。このため,強固な防護工とすることができる。」と,段落【0011】には,「[効果]従って,管路における不平均力を支持して防護を図ることができる管路における不平均力の支持装置を提供することができた。」と,記載されている(本件訂正による訂正箇所はない。)。
これらの記載と請求項1を総合すれば,「管体の移動を阻止して,不平均力を受け止めることができる管体の移動を阻止して,不平均力を受け止めることができる。このため,強固な防護工とすることができる」との作用効果は,フレームに管体を固定する固定機構に設けた「くさび体」(相違点ア,イに係る本件特許発明1の構成)の「くさび作用」により奏するものであって,「リブを,管軸方向に沿い管体外周面に近接するものとするとともに,支持装置を,不平均力の支持装置としている」構成(相違点ウに係る本件特許発明1の構成)により奏するものではないと解される。
したがって,上記作用効果が,相違点ウに係る本件特許発明1の構成により奏する旨の審決の認定判断は誤りである。
bこれに対し,被告らは,フレーム自身の強度が弱ければ,固定機構により管体をフレームに対して強固に固定した意味がなくなるため,フレーム自身の強度を十分に確保するためには,「管体外周面に近接するリブ」が必要とされ,これにより,固定機構を設けて管体の管軸方向の移動を阻止しようとする構成が意味を持つこととなり,「管体の管軸方向の移動を阻止して不平均力を受け止める」(本件明細書の【0010】)という作用・効果が実現される旨主張する。
しかし,被告らのこの点の主張は理由がない。すなわち,本件訂正後の本件明細書(甲7)の発明の詳細な説明中には,リブを管体外周面に「近接」する構成とすることにより,「フレーム自身の強度を十分に確保する」との記載や示唆はなく,また,仮に被告らの主張を前提としても,「管体の管軸方向の移動を阻止して不平均力を受け止める」という作用・効果自体は,固定機構により奏するものといえるから,上記作用効果が,相違点ウに係る本件特許発明1の構成により奏する旨の審決の認定判断が正当であることの根拠となるものではない。
なお,被告らは,「管軸方向に沿い管体外周面に近接するリブ」の技術的意義を試験により確認したとして,その試験結果を記載した乙13を提出する。しかし,リブの大きさや,リブを管体外周面に「近接」させる距離・範囲等の試験条件如何により,その試験結果が変動することは自明であるが,本件訂正後の本件明細書はもとより,本件出願の願書に添付した図面(甲6)にも,リブの大きさや,リブを管体外周面に「近接」させる距離・範囲等に関する記載はないから,乙13の試験結果は,明細書の記載に基づくものとはいえない。したがって,乙13の試験結果をもって,被告ら主張の「管軸方向に沿い管体外周面に近接するリブ」の技術的意義を裏付けることになるものではないし,また,上記作用効果が,相違点ウに係る本件特許発明1の構成により奏する旨の審決の認定判断が正当であることの根拠となるものでもない。
(イ) 相違点ウに係る構成の容易想到性について甲1に,「この受け台本体43を,共同溝の地面10に確実かつ強固に固定するため,受け台本体43の下端には,底板45を溶接し,この底板45の上面と,受け台本体43の外周との間に放射状に複数の三角板状の補強板46を溶接している。」(前記イ(ア)c)との記載があることに照らすならば,甲1発明A(甲1記載の「受け台本体43と,バンド44とで構成するダクタイル管1の管受け台」)の「放射状に複数の三角板状のものを,取付座部と管との間に設けた」リブは,「受け台本体43を・・・地面10に確実かつ強固に固定するため」の構成の一つであることが認められる。
そして,「受け台本体43を・・・地面10に確実かつ強固に固定するため」に,リブの大きさや高さをどの程度のものとするか,リブをダクタイル管にどれだけ近づけるか,リブをどの方向に,どれだけ配置するか等については,当業者が適宜行う設計的事項であると認められるから,当業者であれば,甲1発明Aのリブを,「管軸方向に沿い管体外周面に近接する」構成(相違点ウに係る本件特許発明1の構成)とすることを容易に想到し得たものと認められる。
オ 小括以上によれば,当業者が相違点ウに係る本件特許発明1の構成を容易に想到し得たものではないとした審決の判断は誤りである。
そして,審決は,他の相違点についての容易想到性の有無を判断することなく,本件特許発明1は,甲1に記載された発明及び甲2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないとしているから,上記の判断の誤りは,審決の結論に影響を及ぼす違法なものである。
したがって,原告主張の取消事由2は,理由がある。
3取消事由3(本件特許発明2,3,7の容易想到性の判断の誤り)について(1)審決は,前記2(1)と同様に,?@本件特許発明2に係る相違点ウの構成(「リブを,管軸方向に沿い管体外周面に近接するものとするとともに,支持装置を,不平均力の支持装置としている」構成)とすることは,当業者にとって容易に行えたものということはできず,本件特許発明2は,上記構成を具備することにより,「『これにより,管体の移動を阻止して,不平均力を受け止めることができる。このため,強固な防護工とすることができる。』(特許明細書段落【0014】),『従って,管路における不平均力を支持して防護を図ることができる管路における不平均力の支持装置を提供することができた。』(同段落【0015】)との作用・効果を奏するものである。」(審決書22頁14行〜19行)として,他の相違点について検討するまでもなく,本件特許発明2は,甲1ないし3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない,?A本件特許発明3に係る相違点ウの構成(「リブを,管軸方向に沿い管体外周面に近接するものとするとともに,支持装置を,不平均力の支持装置としている」構成)とすることは,当業者にとって容易に行えたものということはできず,本件特許発明3は,上記構成を具備することにより,「『これにより,管体の移動を阻止して,不平均力を受け止めることができる。このため,強固な防護工とすることができる。
』(特許明細書段落【0010】),『従って,管路における不平均力を支持して防護を図ることができる管路における不平均力の支持装置を提供することができた。』(同段落【0011】)との作用・効果を奏するものである。」(同23頁28行〜31行)として,他の相違点について検討するまでもなく,本件特許発明3は,甲1に記載された発明及び甲2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない,?B本件特許発明7に係る相違点イの構成(「リブを,管軸方向に沿い管体外周面に近接するものとするとともに,支持装置を,不平均力の支持装置としている」構成)とすることは,当業者にとって容易に行えたものということはできず,本件特許発明7は,上記構成を具備することにより,「『これにより,管体の移動を阻止して,不平均力を受け止めることができる。このため,強固な防護工とすることができる。』(特許明細書段落【0034】),『従って,管路における不平均力を支持して防護を図ることができる管路における不平均力の支持装置を提供することができた。』(同段落【0036】)との作用・効果を奏するものである。」(同25頁4行〜9行)として,他の相違点について検討するまでもなく,本件特許発明7は,甲1に記載された発明,甲3に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないと判断した。
(2)しかし,前記2において説示したのと同様の理由により,甲1発明Aは,相違点ウに係る本件特許発明2の構成,相違点ウに係る本件特許発明3の構成及び相違点イに係る本件特許発明7の構成中の「不平均力の支持装置」との構成を備えていない旨の審決の各認定は誤りであり,当業者が甲1発明Aのリブを,「管軸方向に沿い管体外周面に近接する」構成とすることを容易に想到し得たものではないとした審決の各判断は誤りである。審決は,他の相違点についての容易想到性の有無を判断することなく,当業者が本件特許発明2,3,7を容易に発明をすることができたものとはいえないとしているので,上記の判断の誤りは,審決の結論に影響を及ぼす違法なものである。なお,本件特許発明7は,「固定機構に,移動阻止体を設け,前記移動阻止体は,前記管体の外面に押圧される一対のエッジ部を,管軸方向で所定の間隔を置いて位置する状態に設けて構成してある」点で,固定機構に,くさび体を設けた本件特許発明1ないし3とは異なるが,本件訂正後の本件明細書(甲7)の段落【0034】及び【0036】の記載と請求項7とを総合すれば,「管体の移動を阻止して,不平均力を受け止めることができる管体の移動を阻止して,不平均力を受け止めることができる。このため,強固な防護工とすることができる。」との作用効果は,フレームに管体を固定する固定機構に設けた「移動阻止体」(相違点アに係る本件特許発明7の構成)により奏するものであって,「リブを,管軸方向に沿い管体外周面に近接するものとするとともに,支持装置を,不平均力の支持装置としている」構成(相違点ウに係る本件特許発明7の構成)を採用したことにより奏するものではないと認められる。
したがって,原告主張の取消事由3は理由がある。
4 結論以上のとおり,原告主張の取消事由2及び取消事由3は理由があるから,審決は取消しを免れない。
よって,原告の本訴請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 大鷹一郎
裁判官 嶋末和秀