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関連審決 無効2006-80159
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  一致点の認定 /  周知技術 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  請求の範囲 / 
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事件 平成 19年 (行ケ) 10034号 審決取消請求事件
原告イ ンタ ーパ ッ ク株式会 社
同訴訟代理人弁護士下谷收
同 丸山知子
被告日 清食品株式会社
同訴訟代理人弁理士角田嘉宏
同 古川安航
同 山田久就
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/10/31
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が無効2006-80159号事件について平成18年12月19日にした審決を取り消す。
第2事案の概要1特許庁における手続の経緯原告は,特許第3078541号(甲9。発明の名称を「即席春雨およびその製法」,以下「本件特許」という。)の特許権者である。
被告は,平成18年8月24日に,本件特許の請求項1に係る発明につき,無効審判請求(無効2006-80159号事件)をしたところ,特許庁は,平成18年12月19日,「特許第3078541号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をした。
2特許請求の範囲本件明細書に係る特許請求の範囲の請求項1は,以下のとおりである。
【請求項1】緑豆の澱粉を水で捏ね,この捏ねた緑豆の澱粉をノズルから押し出して線状に形成し,線状に形成されたものを熱湯で茹でて,水洗いをしたのち,凍結させて鬆を形成して,解凍したのち,容器の形状に合わせて1食分に束ねて乾燥させた春雨と,調味料を加えた野菜,肉類などのスープを凍結乾燥させた1食分のスープの素とよりなり,上記春雨と上記スープの素とを断熱材料で作ったカップ状容器に入れたことを特徴とする即席春雨(以下この発明を「本件発明」という。)。
3審決の内容別紙審決書の写しのとおりである。要するに,審決は,本件特許は,平成9年9月3日発行の「日本食糧新聞」第7面(甲1,以下「刊行物1」という。)の記載及び周知技術(甲2ないし8)に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,無効にすべきものであると判断した。
上記の結論を導く前提として,審決が認定した刊行物1記載の発明(以下「引用発明」という。)の内容並びに本件発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
(1)引用発明の内容緑豆100%の細めのはるさめとニンジンや椎茸等4種類の具と清湯(チキン・ポークのスープ)から成り,スープはカップタイプのフリーズドライスープとする商品名「スープで食べる緑豆春雨」。
(2)一致点緑豆から製造し凍結乾燥した春雨と,調味料を加えた肉類などのスープを凍結乾燥させたスープの素とよりなり,上記春雨と上記スープの素とをカップ状容器に入れた即席春雨である点。
(3)相違点ア内容物の春雨に関して,本件発明では,「緑豆の澱粉を水で捏ね,この捏ねた緑豆の澱粉をノズルから押し出して線状に形成し,線状に形成されたものを熱湯で茹でて,水洗いをしたのち,凍結させて鬆を形成して,解凍したのち,容器の形状に合わせて1食分に束ねて乾燥させた」と特定しているのに対して,引用発明にはそのような特定がない点(以下「相違点1」という。)。
イ内容物のスープに関して,本件発明では,「1食分のスープの素」と特定しているのに対して,引用発明にはそのような特定がない点(以下「相違点2」という。)。
ウカップ状容器に関して,本件発明では,「断熱材料で作ったカップ状容器」と特定しているのに対して,引用発明にはそのような特定がない点(以下「相違点3」という。)。
第3取消事由に関する原告の主張審決は,?@本件発明と引用発明とを「凍結乾燥させたスープ」の点で一致すると認定した点で誤りがあり(取消事由1),?A引用発明は,「春雨」を他の具材の1つとして使用しているものであって,即席「スープ」の範疇に入る商品であるにもかかわらず,「春雨」を他の具材から独立した存在であると把握している点において,一致点の誤り及び相違点の看過がある(取消事由2,3)から,取り消されるべきである。
1取消事由1(一致点の認定の誤り・その1)刊行物1には,スープが凍結乾燥であることを示す記載はなく,甲10によると,引用発明のスープは実際には「小袋に入った液体状」であるから,本件発明と引用発明とは「凍結乾燥させたスープ」の点で一致するとの審決の認定は誤りである。
2取消事由2(一致点の認定の誤り・その2)本件発明は,「春雨」と「具を加えたスープ」からなるものであり,春雨は,他の具から独立したものとして位置づけられている。これに対し,引用発明は,「春雨の他,チンゲン菜,卵,にんじん,しいたけなどの具材」と「特製調味液スープ」からなるものであり(甲10),春雨は他の具材の中の1つに位置づけられている。
したがって,審決が,一致点において,「春雨」と「スープ」とを2つの独立した要素と認定したことは誤りである。
3取消事由3(相違点の看過)本件発明は,「春雨」と「スープ」とがそれぞれ独立のものである。本件発明の「春雨」は,1食分を束ねた状態にされ,主要なものと位置づけられている。本件発明は,即席「春雨麺」であって,「スープ」は春雨を食べるために用いるものにすぎない。
これに対し,引用発明では,「春雨」は他の具の一つとして扱われ,その量からみても主要なものではない。「春雨」は,スープの具材の1つとして用いられているにすぎず,その実質は即席「スープ」である。なお,甲10によると,春雨は短くカットされ他の具と一緒になっているものと解される。
審決は,上記のような,発明に係る商品の目的についての相違点を看過した誤りがある。
第4被告の反論審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1取消事由1(一致点の認定の誤り・その1)に対し刊行物1には「FD(フリーズドライ)スープ」と記載されていること,及び本件発明の出願時においてスープをフリーズドライにすることは周知の技術であったこと(乙1ないし3)に照らすならば,刊行物1に接した当業者が刊行物1記載のスープは,フリーズドライ製法で製造されたものであると把握するのは極めて自然である。また,刊行物1に記載されている商品が,実際にどのようなものであるかは,引用発明の内容の認定とは関係がない。したがって,スープの形状に関する審決の認定に誤りはない。
仮に,引用発明のスープが液状であるとしても,本件発明の出願時においてフリーズドライスープが周知技術であることから,本件発明の進歩性を肯定する根拠とはなり得ず,審決の結論に影響を及ぼすものではない。
2取消事由2(一致点の認定の誤り・その2)に対し特許請求の範囲請求項1における「・・乾燥させた春雨と,・・・1食分のスープの素とよりなり」との記載は,単に構成要素を列挙したものにすぎず,春雨が独立した要素であることを意味するものではない。特許請求の範囲の記載から,本件発明の春雨が独立した存在であると明確に限定することはできない。
また,原告は,引用発明の春雨が独立した存在でない理由として,刊行物1には「春雨」,「四種類の具」,「清湯(スープ)」の組み合わせについての記載がないこと,及び引用発明に係るとされる現実の商品は春雨と他の具材が一体となっていることを主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。すなわち,刊行物1には上記の構成要素がどのように組み合わされたかについての記載がないこと,引用発明の認定に当たっては,刊行物1に示されたものに対応する現実の商品を考慮する必要はないことに照らすならば,刊行物1に記載されている「春雨」が独立した位置づけがされているか否かは必ずしも明らかではない。
以上のとおり,本件発明及び引用発明のいずれも,「春雨」が独立した位置づけとされているか否かが明らかでないから,春雨が独立した位置づけにあるか否かについて認定しなかった審決の認定に誤りはない。
仮に,本件発明の「春雨」が独立して位置づけられているのに対し,引用発明の「春雨」が独立して位置づけられていないとしても,春雨と具材を別にすることは何ら新しい技術ではないから,本件発明の進歩性を肯定する根拠とはなり得ず,審決の結論に影響を及ぼすものではない。
3取消事由3(相違点の看過)に対し刊行物1の「スープで食べる緑豆春雨」の記載のほとんどが春雨の説明であるから,刊行物1に接した当業者は,引用発明を「即席春雨」であると把握するのが自然である。したがって,本件発明と引用発明がいずれも即席春雨であるとする審決の認定に誤りはない。
仮に,引用発明が即席「スープ」であるとしても,引用発明の構成要素は何ら変わるものではないから,本件発明の進歩性を肯定する根拠とはなり得ず,審決の結論に影響を及ぼすものではない。
第5当裁判所の判断当裁判所は,取消事由1に係る審決の一致点の認定に誤りがあるものの,その誤りは審決の結論に影響を及ぼすものではなく,その余の取消事由についても理由がないので,審決の結論に誤りはないと判断する。以下理由を述べる。
1取消事由1(一致点の認定の誤り・その1)について(1)本件発明に係る特許請求の範囲請求項1によると,「スープの素」は凍結乾燥させた旨が記載されている。これに対し,刊行物1(甲1)は,「日本食糧新聞」新製品ニュースとして,桃屋「完熟トマトスープ」などの商品の紹介記事が掲載され,その中において,「緑豆春雨」との標章が付されたカップ状容器の写真と共に「?鞄拷ョ・・は,9月1日から,カップタイプのFD(フリーズドライ)スープ『桃屋の完熟トマトスープ』『同スープで食べる緑豆春雨』を全国のCVSで発売した。FD製法を用いた素材感,風味の良さが特徴。」,「生のトマト60g(約2分の1個)をFD製法で仕上げた。」・・・「『スープで食べる緑豆春雨』は緑豆100%のはるさめを使用。コシと食感の向上,スープとの相性に配慮し麺は細目にした。湯戻り後の量は60gと多いが,1食当たりのカロリーは70キロカロリーと低め。
ニンジンや椎茸など4種類の具と清湯(チキン・ポークのスープ)で合わせ,さらりとした中にもコクのある味に仕上げた。」との記載がある。確かに,上記紹介文中にFD(フリーズドライ)スープとの記載があるが,詳細に検討すると,スープとの表記は商品全体を指すものとして使用されているようにも読める点に照らすならば,カップ状容器内の上記スープがフリーズドライ製法によって製造されたものであるか否かについては,必ずしも判然としない。なお,証拠(甲10の1ないし6)によると,上記と同じく株式会社桃屋製造に係る「緑豆春雨」との標章が付されたカップ状容器に入れられたスープにおいてスープの素が液状のものであることが窺え,それがフリーズドライ製法によって製造された旨の記載がない。
そうすると,本件発明と引用発明とが,凍結乾燥させたスープの素とからなる点で一致するとまでは認定することはできないから,審決の一致点の認定には誤りがある。
(2)そこで,審決の上記一致点の認定の誤りが審決の結論に影響を及ぼすか否かについて検討すると,本件発明と引用発明とが内容物のスープに関して「凍結乾燥させたスープの素」か否かについて相違するとしても,その相違点は周知技術から容易に想到し得るものであり,上記誤りは審決の結論に影響を及ぼすものではないと解される。
すなわち,本件発明に係る特許請求の範囲請求項1によると,本件発明は凍結乾燥させた「春雨」及び「スープの素」とをカップ状容器に入れた「即席春雨」であり,いわゆる即席(インスタント)食品である。
そして,証拠(甲2ないし5,乙1ないし3)によると,即席食品において,春雨及びスープを凍結乾燥させたものは周知であると認められる。そうすると,引用発明のフリーズドライ製法を用いた即席食品において,スープに凍結乾燥させたものを用いることは,当業者が容易に想到し得る事項であると認められる。
したがって,原告が主張する取消事由1は採用できない。
2取消事由2(一致点の認定の誤り・その2)について(1)本件発明に係る特許請求の範囲請求項1によると,本件発明は,「春雨」と「スープの素」からなり,それらがカップ状容器に入れられているものである。そして,上記1で認定した刊行物1の記載によると,引用発明は,「春雨」,「ニンジンや椎茸などの4種類の具」及び「清湯(チキン・ポークのスープ)」からなり,それらがカップ状容器の中に入れられていることが認められる。
そうすると,審決が,一致点において,「春雨」と「スープ」とを2つの独立した要素と認定したことに誤りがあるとはいえない。
(2)この点について,原告は,本件発明と引用発明とは「春雨」が独立して位置づけられているか否かの点で相違するから審決の上記一致点の認定は誤りであると主張する。
しかし,引用発明が,「春雨」及び「チキン・ポークのスープ」以外の具材を有するとしても,それをもって新たな相違点とまではいえない。また,仮に本件発明と引用発明の対比において,この点を新たな相違点にしたとしても,春雨と具材とを別々に調製し,カップ状容器に収容することは当事者が適宜選択し得る事項にすぎないものと解される。
したがって,原告が主張する取消事由2は採用できない。
3取消事由3(相違点の看過)について(1)本件発明に係る特許請求の範囲請求項1には「即席春雨」と記載されているのみであり,本件明細書の【発明の詳細な説明】を参酌しても,本件発明の「即席春雨」は,「熱湯を注ぎ込むことにより容易に春雨に戻すことができる。」(段落【0014】)ものを意味すると解される。
他方,前記1(1)で認定した刊行物1によると,「湯戻り後の量は60gと多いが,一食当たりのカロリーは70キロカロリーと低め」,「スープとの相性に配慮し麺は細目にした」との記載があり,これらの記載によると,引用発明の春雨は,熱湯を注ぐことにより戻して食されるものであり,また具材であるという意味においてスープとは区別されたものと認められる。
そうすると,引用発明は,本件発明と同様に「即席春雨」であるということができるから,審決が引用発明を「即席春雨」と認定した点に誤りはない。
(2)この点について,原告は,本件発明の春雨と引用発明の春雨との相違点として量などの違いを主張する。しかし,本件発明に係る特許請求の範囲請求項1には,「1食分に束ねて乾燥させた春雨」と記載されているのみであって,具体的な数量などは特定されておらず,前記1(1)で認定した刊行物1にも「一食当たり」との記載があるのみであるから,両者は,春雨の量の点で実質上の差異はないといえる。
また,原告は,引用発明の春雨は短くカットしたものであるから本件発明の春雨とは異なるとも主張する。しかし,前記1(1)で認定した刊行物1には「短くカットした」との記載はなく,甲10の写真を見ても,そのような春雨形状を確認することができない。
よって,原告の主張は,いずれも理由がない。
4結論以上に検討したところによれば,審決に違法があるとする原告の主張は理由がないことになる。原告はその他縷々主張するが,審決の結論に影響を及ぼすその他の誤りは認められない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 三村量一
裁判官 上田洋幸