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関連審決 不服2004-24900
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18行ケ10055審決取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10192審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10369審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10207審決取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10393審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  限定的減縮 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  誤記の訂正 /  請求の範囲 /  減縮 /  変更 /  釈明 /  独立特許要件 / 
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事件 平成 19年 (行ケ) 10062号 審決取消請求事件
原告独立行政法人科学技術振興機構 1 原告X2 原告X
原告ら訴訟代理人弁理士小林良平
被告特 許庁長 官肥塚雅博
同 指定代理 人正山旭
同 岡和久
同 小池正彦
同 大場義則
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/10/31
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告らの請求を棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2004-24900号事件について平成18年12月21日にした審決を取り消す。
第2事案の概要1特許庁における手続の経緯原告らは,発明の名称を「プラズマ生成装置」とする発明につき,平成15年1月23日,特許を出願(以下「本願発明」という。)し,平成16年7月12日付け手続補正書により明細書の補正をしたところ,同年10月20日付けの拒絶査定を受けた。そこで,原告らは,平成16年12月6日,これに対する不服の審判請求(不服2004-24900号事件)をすると共に,平成17年1月5日付け手続補正書を提出した(以下この補正を「本件補正」という。)。特許庁は,平成18年12月21日,本件補正を却下すると共に,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。
2特許請求の範囲の記載(1)平成17年1月5日付け手続補正書による補正後の本願発明の請求項1,2,10(以下「本願補正発明1」,「本願補正発明2」,「本願補正発明10」等という。請求項の数は全部で11項である。)は,以下のとおりである。
【請求項1】a)真空容器と,b)前記真空容器内にグループ分けして設けられた複数個の高周波アンテナであって,各グループが1個の高周波電源に並列に接続されている高周波アンテナ群と,c)各々の高周波アンテナに接続した,各アンテナ毎の電流又はアンテナ電極間の電圧を調節するインピーダンス素子と,を備えることを特徴とするプラズマ生成装置。
【請求項2】a)真空容器と,b)前記真空容器内に設けられ,1個の高周波電源に並列に接続された複数の高周波アンテナと,c)各々の高周波アンテナに接続した,各アンテナ毎の電流又はアンテナ電極間の電圧を調節するインピーダンス素子と,を備えることを特徴とするプラズマ生成装置。
【請求項10】真空容器内にグループ分けして設けられた複数個の高周波アンテナであって,各グループが1個の高周波電源に並列に接続されている高周波アンテナ群を備えたプラズマ生成装置において,各々の高周波アンテナにインピーダンス素子を接続し,各インピーダンス素子のインピーダンス値を調節することによって該真空容器内のプラズマ密度分布を制御することを特徴とするプラズマ制御方法。
(2)本件補正前の本願発明の請求項1,2,11(以下「本願発明1」,「本願発明2」,「本願発明11」等という。請求項の数は全部で12項である。)は,以下のとおりである。
【請求項1】a)真空容器と,b)前記真空容器内に設けた複数の高周波アンテナと,c)各々の高周波アンテナに接続した,各アンテナ毎の電流又はアンテナ電極間の電圧を調節するインピーダンス素子と,を備えることを特徴とするプラズマ生成装置。
【請求項2】複数個の高周波アンテナが1個の高周波電源に並列に接続されていることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ生成装置。
【請求項11】真空容器内に複数の高周波アンテナを備えたプラズマ生成装置において,各々の高周波アンテナにインピーダンス素子を接続し,各インピーダンス素子のインピーダンス値を調節することによって該真空容器内のプラズマ密度分布を制御することを特徴とするプラズマ制御方法。
(3)本願補正発明1,10は,それぞれ本願発明1,11を減縮するものであるが,これに対し,本願補正発明2は本願発明2と同じである(当事者間に争いはない。)。
3審決の内容別紙審決書の写しのとおりである。
審決は,本願補正発明2についてのみ検討し,同発明は,特開2001ー35697号公報(甲12,以下「刊行物1」という。)及び周知例(甲13ないし15,以下順に,「周知例1」,「周知例2」,「周知例3」といい,これらを併せて「本件各周知例」という場合がある。)記載の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により独立して特許を受けることができないから,本件補正は却下すべきものであり,また,本願発明2も,刊行物1及び上記周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,と判断した。
審決は,引用発明の内容,本願補正発明2(本願発明2)と引用発明との一致点及び相違点を,それぞれ,以下のとおり認定した。
□引用発明の内容「真空容器と,前記真空容器内に設けられ,1個の高周波電源に並列に接続された複数の直線状アンテナ18a〜18fとを備えたプラズマ発生装置。」(2)一致点「真空容器と,前記真空容器内に設けられ,1個の高周波電源に並列に接続された複数の高周波アンテナと,を備えたプラズマ生成装置」である点。
(3)相違点本願補正発明2が,各々の高周波アンテナに接続した,各アンテナ毎の電流又はアンテナ電極間の電圧を調節するインピーダンス素子を備えているのに対し,引用発明では,そのような構成のない点。
第3取消事由に係る原告らの主張本件審決は,周知例の認定等の誤り(取消事由1),相違点についての容易想到性の判断の誤り(取消事由2),本願補正発明2に関する手続的瑕疵(取消事由3)があり,これらの理由により取り消されるべきである。
1取消事由1(周知例の認定等の誤り)(1)周知例1,2についてア周知技術は,その技術分野において一般的に知られている技術であって,例えば,これに関し,相当多数の公知文献が存在し,又は業界に知れわたり,あるいは,例示する必要がない程よく知られている技術を指すというべきである。しかし,周知例1,2は,2件の公知文献にすぎず,「業界に知れわたり,あるいは,例示する必要がない程よく知られている技術」に該当しないので,周知技術とはいえない。審決には,周知技術の記載されていない文献を周知例とした点において誤りがある。
イ周知例1,2は,審決において初めて出願人(原告ら)に提示された。
周知例1,2については,審判の過程で,新たに拒絶理由通知を発した上で,出願人(原告ら)に反論・補正の機会を与えるべきであったにもかかわらず,審決をした点において違法がある。
(2)周知例3について審決は,周知例3の「インピーダンス整合器」が,本願補正発明2の「インピーダンス素子」に相当すると認定するが,誤りである。
周知例3のインピーダンス整合器は,個々のアンテナにおける入力インピーダンスと出力インピーダンスを整合させるものにすぎず,それが接続されたアンテナに供給される電力を抑制することや他のアンテナに供給される電力と比較して電力を増加又は減少させるという機能を持つものではない。
これに対して,本願補正発明2におけるインピーダンス素子は,各アンテナ毎の電流又はアンテナ電極間の電圧を調節するものであり,必要に応じてアンテナに供給される電力を抑制したり,他のアンテナとの間で電流及び/又は電圧に差を生じさせる動作を可能とするものである。したがって,周知例3記載のインピーダンス整合器は,本願補正発明2の「インピーダンス素子」に相当するものではない。
2取消事由2(相違点についての容易想到性の判断の誤り)(1)周知例1のコイル21〜24は,その順に径が増加する異径の円状コイルであり,コイルユニット20内で同心円状に内周側から外周側へ並べて設置されるものである。このように各コイルの径が異なること,及びコイルの内側に他のコイルが存在したりコイルの外側が他のコイルにより囲まれることにより,インダクタンス(自己インダクタンス及び相互インダクタンス)が各コイル毎に異なる値となる。インダクタンスの値が異なるコイルを同時に使用すると,各コイルにより生成されるプラズマの密度も当然コイル毎に異なる。このような前提条件の下では,均一なプラズマを形成するためにコイル毎に電流・電圧の調整を行うことは当然である。周知例2も同様である。
これに対して,引用発明の「マルチ型直線状アンテナ」は,各アンテナが同じ形状を有し,かつ他のアンテナに囲まれたり,他のアンテナを囲むことはない。したがって,各アンテナのインピーダンスは等しいものと推測されるから,引用発明の「マルチ型直線状アンテナ」には,上記の前提条件が存在しないため,刊行物1と周知例1,2とを組み合わせる動機もない。
したがって,本願補正発明2は,当業者が刊行物1及び周知例1,2の記載に基づいて本願補正発明2を容易に想到することができたものではない。
(2)引用発明の「マルチ型直線状アンテナ」は,現実には,プラズマ生成装置内における温度分布による影響や,高周波アンテナが並ぶ方向にプラズマが拡散することの影響により,プラズマ密度に不均一性が生じる。このような引用発明における解決課題は,本願発明者が発見したのであり,解決課題の発見なくして本願補正発明2を想到することは,当業者にとって困難であるといえる。
したがって,当業者が刊行物1及び周知例1,2の記載に基づいて本願補正発明2を容易に想到することができたものとはいえない。
3取消事由3(本願補正発明2に関する手続的瑕疵)審決は,本願補正発明2が独立特許要件を欠くことを理由として,本件補正を却下した。本願補正発明2は,限定的減縮がされていないのであるから,特許出願の際の独立特許要件を満たすものではないことを理由として補正を却下したのは誤りである。
なお,この点については,特許・実用新案審査基準(甲16。以下単に「審査基準」という。)には,独立特許要件について「この要件が課されるのは限定的減縮に相当する補正がされた請求項のみであり,これに相当しない『誤記の訂正』又は『明りょうでない記載の釈明』のみの補正がなされた請求項及び補正されていない請求項については,独立して特許を受けることができない理由が存在する場合において,それを理由として補正を却下してはならない。」とされている。
本件において,本願補正発明2について独立特許要件がないとの理由により本件補正を却下した結果,限定的減縮がされた本願補正発明1について,本来,独立特許要件の有無を判断する必要があったにもかかわらず,その判断がされなかった。審決は,平成18年6月法律第55号による改正前の特許法(以下「改正前特許法」という。)17条の2第4項2号に反する手続上の瑕疵がある。
第4被告の反論1取消事由1(周知例の認定等の誤り)に対し(1)周知例1,2について周知例1,2は,複数の高周波アンテナにおける「各アンテナ毎の電流又はアンテナ電極間の電圧を調節するインピーダンス素子」の例示であって,周知例1,2以外にも,例えば,特開平8-50998号公報(乙2)や,特開平7-86238号公報(乙3)にも上記インピーダンス素子が開示されている。
これらの周知例の存在からすれば,本件特許出願当時,「各アンテナ毎の電流又はアンテナ電極間の電圧を調節するインピーダンス素子」は周知の技術事項といえるから,本件各周知例記載の技術を周知技術とした審決の認定に誤りはない。
また,審決は,原査定と同じ理由の下に,周知事項の具体例として周知例1,2を示したものである。原査定と理由が異なるものではない以上,周知例1,2を提示したことによって,新たな拒絶理由を通知し,原告らに対し,反論及び補正の機会を与える必要はなく,審決に手続的瑕疵もない。
(2)周知例3について周知例3の「インピーダンス変換器61a乃至61h」は,各アンテナ毎にインピーダンス整合を図るためのインピーダンス素子といえる。インピーダンスとは,「アンテナ給電端子において,電圧と電流の比,あるいは放射される全複素電力を|電流| で割った値」と定義され,インピーダンス整2合とは,「インピーダンス変成器」等を用いて,「アンテナが接続される給電線の特性インピーダンスとアンテナインピーダンスが一致しないと(不整合),反射が起こり種々の悪影響が生じる」ことを防ぐことである(乙1)。
上記インピーダンスの定義からすると,アンテナインピーダンスはアンテナに供給される電圧又は電流によるものであり,インピーダンス整合とは,アンテナに供給される電圧又は電流を調節する機能を有することとなる。また,周知例3は,各アンテナにより発生するプラズマの調節,すなわち,各アンテナに供給される電力の調節も意図している。
そうすると,周知例3の「インピーダンス変換器」は,各アンテナ毎のインピーダンス整合の機能のみならず,それが接続されたアンテナに供給される電力を調節する機能をも有することになるため,「各アンテナ毎の電流又はアンテナ電極間の電圧を調節するインピーダンス素子」に相当するものといえる。
よって,審決の周知例3の認定に誤りはない。
2取消事由2(相違点についての容易想到性の判断の誤り)に対し刊行物1の図11において,真空容器の辺にある直線状アンテナ同士の間隔や配置(例えば,18aと18b)と,真空容器の隅に近い部分にある直線状アンテナ同士の間隔や配置(例えば,18bと18c)とでは異なるため,引用発明においても,アンテナ同士によって互いに影響を及ぼすインピーダンス(相互インピーダンス)に違いが生じる可能性がある。たとえ,各アンテナ自身のインピーダンス(自己インピーダンス)が等しい場合であっても,各アンテナから生成されたプラズマにアンテナ配置の疎密に起因する空間的な分布が生じる。また,半導体などの基板を製造するプラズマ生成装置において,より良く均一なプラズマ処理が可能な装置を求めることは,必須の課題である。
そうすると,引用発明においても,膜厚やエッチングのより良い均一化のために,プラズマ密度分布の調整やインピーダンス整合等を行う必要性は存在する。したがって,このような課題解決のため,引用発明において,一様なプラズマ密度をより良く得るために調整手段を加えることは,当業者であれば,容易に想到し得る。引用発明と周知例1及び周知例2とを組み合わせる動機付けは存在するから,相違点に関する前記審決の判断に誤りはない。
3取消事由3(本願補正発明2に関する手続的瑕疵)に対し改正前特許法17条の2第4項2号所定の「特許請求の範囲減縮」に該当するか否かについては,補正に係る個々の「請求項」ではなく,「特許請求の範囲」全体を対象として判断すべきである。すなわち,「特許請求の範囲」全体が減縮されていれば,独立特許要件を充足しているか否かの判断が必要となるものと解すべきである。本件では,本願補正発明1,10において,改正前特許法17条の2第4項第2号で規定する限定的減縮を目的とする補正がされているのであるから,「特許請求の範囲」全体が減縮されていると解されるから,限定的減縮がされていない本願補正発明2について,特許出願の際独立して特許を受けることができないことを理由に補正を却下しても,手続上の瑕疵はないといえる。
なお,審査基準は,特許要件の審査に当たる審査官にとって基本的な考え方を示すものであり,その審査基準によって審査・審理を行うことが望ましいとはいえるが,限定的減縮がされていない本願補正発明2について,特許出願の際独立して特許を受けることができないことを理由として,本件補正を却下した審決の措置が,審査基準に反したからといって,違法を来すものではない。
本願補正発明2については,本件補正の前後で記載に変更がないのであるから,本願補正発明2について判断した内容は,本願発明2にもそのままあてはまることとなり,瑕疵はない。したがって,本願補正発明1について独立特許要件を判断しなかったからといって,審決の結論に影響を及ぼすものではない。
第5当裁判所の判断当裁判所は,原告らの請求には理由がなく棄却すべきものと判断する。以下理由を述べる。
1取消事由1(周知例の認定の誤り)について(1)周知例1,2について当該技術分野において,一般的によく知られている技術又はよく用いられている技術,すなわち周知技術については,審判手続の公平公正さを欠かない限り,審決において,常に,その認定根拠を詳細に示すまでの必要性はない。本件において,周知例1,2はいずれも公開特許公報であること,審決において周知とされた事項(複数の高周波アンテナにおける各アンテナ毎の電流又はアンテナ電極間の電圧を調節するインピーダンス素子)について,その周知性(その技術分野において,一般的によく知られている技術であること)を否定する事情が窺えないことに照らすならば,周知例1,2を挙げて上記事項を周知であると認定した点に,手続上及び実体上の瑕疵はない。
また,審決が示した文献の数をもって,周知性を否定する根拠とはならない。
そして,上記技術は当該技術分野においてよく知られている技術事項である以上,審決において,拒絶理由通知に挙げられない周知例が示されたとしても,出願人に対する不意打ちとなるものではなく,手続上の違法はない。
以上のとおり原告らの主張は採用できない。
(2)周知例3についてア証拠(甲15)によると,周知例3には以下の記載がある。
?@「放電用はしご型電極を用いる方法による高周波電源4の高周波数化が困難な理由は次の通りである。図13に示すように,放電用はしご型電極の構造に起因したインピーダンスの不均一性が存在するために,プラズマ発光の強い部分が局部的になる。例えば,上記電極の周辺部に強いプラズマが発生し,中央部には発生しない。特に60MHz以上の高周波数化に伴なってその減少は顕著になる。」(段落【0014】)?A「(2)図11において,高周波電極22と基板加熱用ヒータ23との間に発生する電界により,反応ガス,例えばSiH はSi,SiH,4SiH ,SiH ,H,H 等に分解され,基板29の表面にa-Si膜2 3 2を形成する。しかしながら,a-Si膜形成の高速化を図るため,高周波電源24の周波数を現状の13.56MHzより,30MHzないし200MHzへ高くすると,高周波電極22と基板加熱用ヒータ23間に発生する電界分布の一様性がくずれ,その結果として,a-Si膜の膜厚分布が極端に悪くなる。図12は,基板面積30cm×30cmでのプラズマ電源周波数と膜厚分布(平均膜厚からのずれ)の関係を示す特性図である。膜厚分布の一様性(±10%以内)が確保できる基板の大きさ即ち面積は,5cm×5cmないし20cm×20cm程度である。」(段落【0016】)?B「平行平板電極を用いる方法による高周波電源24の高周波数化が困難な理由は,次の通りである。平行平板型電極は,電極周辺部と中央部の電気特性が異なるため,図14(A)に示すように電極周辺部に強いプラズマが発生するか,あるいは図14(B)に示すように中央部分のみに強いプラズマが発生するという現象がある。」(段落【0017】)?C「本発明は,上記従来技術に鑑み,電極に対する給電を多点給電方式とすることにより,供給電力の高周波化を図った場合でも,従来に比べて格段に膜厚分布の均一化を図り得るプラズマ化学蒸着装置を提供することを目的とする。
また,本発明は,電極に周波数30MHz乃至200MHzのグロー放電発生用電力を供給する複数の供給点と前記電力分配器間に,これらに夫々電気的に接続するインピーダンス変換器を配置した構成とすることにより,さらに優れた膜厚分布が得られるプラズマ化学蒸着装置を提供することを目的とする。」(段落【0019】〜【0020】)?D「各カソード電極22a乃至22hには,後に詳述する真空用同軸ケーブル43a乃至43h,インピーダンス変換器61a乃至61h,電力分配器60,インピーダンス整合器25を介して高周波電源24が接続されている。」(段落【0030】)?E「前記インピーダンス変換器61a乃至61hは,電力分配器60と真空用同軸ケーブル43a乃至43hとカソード電極22a乃至22hのインピーダンスの整合をとるために,図4に示すようなフェライト製環状体65に絶縁被覆導線を2本,トランス巻線比が1対4となるように巻きつけて製作されたものを用いた。その等価回路は図5に示す通りである。同図に示すように,当該インピーダンス変換器61a乃至61hは,トランスとコンデンサとを組み合わせた,伝送線路トランス方式である。」(段落【0033】)?F「表1に示されるデータから,電源周波数70MHz,基板面積40cm×80cmで,インピーダンス変換器が無い場合,膜厚分布±14%,インピーダンス変換器がある場合,膜厚分布±10%と,従来装置では実現できなかった良好な結果が得られていることが判る。」(段落【0036】)?G「上述の如く,上記第1の実施の形態においては,インピーダンス変換器61a乃至61hとして図4及び図5に示す伝送線路トランス方式のものを用いている。この場合,高周波電源24の出力周波数が70MHz程度の場合には,従来に比べ極めて良好な成膜状態を実現することができるが,電源周波数をさらに上昇させた場合,120MHz程度の周波数で生成されるプラズマが不安定になることが分かった。そこで,120MHz程度以上の高周波数領域でもプラスマの安定化を図り,良好な成膜状態を得るべく,実験を重ねた結果,インピーダンス変換器61a乃至61hにπ回路方式を採用することにより,所望の特性が得られることが分かった。このπ回路方式のインピーダンス変換器とは,その等価回路を図7に示すように,コイルの両端に可変コンデンサを並列に接続し,全体としてπ型に形成したインピーダンス変換器である。」(段落【0040】)?H「図7は入力パワー150Wあたりの反射パワーを,伝送線路トランス方式のインピーダンス変換器を用いた場合と,π回路方式のインピーダンス変換器を用いた場合のCVD装置で計測した結果を示す特性図である。同図の横軸は電源周波数,縦軸は反射パワーである。同図を参照すれば,伝送線路トランス方式の場合,電源周波数が100MHzを越えたあたりから反射パワーが急激に増加しているのに対し,π回路方式では200MHzを越えても反射パワーは十分小さいことが分かる。ちなみに,反射パワーが小さい方が電力が効率よく負荷へ供給されていることを意味している。」(段落【0041】)?I「【発明の効果】以上実施の形態とともに詳細に説明した通り,本発明によれば,放電用高周波電極,即ちカソード電極を,複数個の小面積電極に分割して各小面積電極を一平面内に配置するか,又は複数の給電点を有するはしご型電極を用いて多点給電方式とし,夫々のカソード電極にインピーダンス整合器,電力分配器,インピーダンス変換器,電流導入端子及び真空用同軸ケーブルを介して30MHz乃至200MHzの高周波電源が出力する高周波電力を供給することにより,従来技術に比べ,著しく均一性が向上した良好な膜厚分布が得られるという効果を奏する。
上述の如き効果は,a-Si薄膜応用に限らず,30MHz乃至200MHz級の高周波電源を用いるプラズマCVD技術が,微結晶Si及び薄膜多結晶Siの製造方法としての用途があることから,太陽電池,薄膜トランジスタ及び感光ドラムなどの産業上の利用価値は著しく大きい。
また,インピーダンス変換器を設けた場合には,さらに膜厚分布の均一化を図ることができる。しかも,このとき120MHz程度以上の高周波領域では,π回路方式のインピーダンス変換器を用いることにより,安定なプラズマを生成させることができ,従来は不可能とされていた高周波領域での所望の薄膜を高効率で形成することが可能になる。」(段落【0047】〜段落【0049】)イ以上の記載によると,?@周知例3のインピーダンス変換器は,個々のカソード電極ごとにそれぞれ接続されるものであること,?Aインピーダンス変換器の回路方式として,伝送線路トランス方式や,コイルの両端にインピーダンスが可変な素子を並列に接続したπ回路方式が用いられること,?Bインピーダンス変換器は,カソード電極に供給される電力に対する反射パワーを減らす機能を有すること,?C電極に対する給電を多点給電方式とすることで膜圧分布の均一性を向上するものにおいて,インピーダンス変換器を設けることにより,さらに膜圧分布が均一化されることが認められる。また,証拠(乙1)によると,インピーダンスとは,アンテナ給電端子において,電圧と電流の比,あるいは放射される全複素電力を|電流|で割った値をいい,インピーダンス整合とは,インピーダンス変成器等2を用いて,アンテナが接続される給電線の特性インピーダンスとアンテナインピーダンスを一致させることを指すものと認められる。
以上を総合すると,周知例3のインピーダンス整合は,インピーダンス変換器を用いてアンテナ毎に供給される電圧又は電流を調節する機能を有するものであるから,周知例3のインピーダンス変換器は,「各アンテナ毎の電流又はアンテナ電極間の電圧を調節するインピーダンス素子」に相当するということができ,審決の認定に誤りはない。
2取消事由2(相違点についての容易想到性の判断の誤り)について(1)原告らは,刊行物1の「マルチ型直線状アンテナ」は,各アンテナのインピーダンスは一見して等しいように推測されるはずであるから,当業者にとって,引用例1と周知例1,2とを組み合わせる動機は生じないと主張する。
しかし,原告らのこの点の主張は,以下のとおり採用できない。
すなわち,引用発明は,本願補正発明2の「各々の高周波アンテナに接続した,各アンテナ毎の電流又はアンテナ電極間の電圧を調節するインピーダンス素子を備えている」との構成を備えていないとの点で相違するが(当事者間に争いはない。),このような場合に,当業者は,必要に応じて,プラズマ密度分布の調整やインピーダンス整合等を行い,また,より詳細な設定を可能としようとすることは当然であるといえるから,動機付けがないとはいえない。そして,周知例1,2によれば,「複数の高周波アンテナにおいて,各アンテナ毎に電流又はアンテナ電極間の電圧を調節するインピーダンス素子を設ける」との技術事項が周知である点は前記のとおりであるから,審決に原告ら主張の誤りはない。
(2)次に,原告らは,引用発明の「マルチ型直線状アンテナ」には,プラズマ生成装置内における温度分布による影響等により,プラズマ密度が不均一になるとの解決課題が存在することについて,当業者には発見できなかったはずであるから,本願補正発明2を容易に想到することはできなかったと主張する。
しかし,原告らのこの点の主張は,以下のとおり採用できない。
すなわち,刊行物1の図11によると,真空容器の辺にある直線状アンテナ同士の間隔や配置(例えば,18aと18b)と,真空容器の隅に近い部分にある直線状アンテナ同士の間隔や配置(例えば,18bと18c)とでは異なることが認められる。そうすると,引用発明においても,アンテナ同士によって互いに影響を及ぼすインピーダンス(相互インピーダンス)に違いが生じることになり,したがって,各アンテナ自身のインピーダンス(自己インピーダンス)が等しい場合であっても,各アンテナから生成されたプラズマにアンテナ配置の疎密に起因する空間的な分布が生じることは明らかであるといえる。また,前記認定の周知例3の記載によると,プラズマ生成装置において,より良く均一なプラズマ処理が可能な装置を求めることは,必須の課題ということができる。
そうすると,引用発明においても,膜厚のより良い均一化のために,プラズマ密度分布の調整やインピーダンス整合等を行う必要があるとの解決課題が生じているから,その課題を解決する目的で,引用発明において,一様なプラズマ密度をより良く得るために調整手段を加えることは,容易に想到し得ることである。
したがって,この点の原告らの主張は採用できない。
3取消事由3(本願補正発明2に関する手続的瑕疵)について(1)原告らは,本願補正発明2は,限定的減縮がされていないにもかかわらず,本願補正発明2が独立特許要件を欠くことを理由として,本件補正を却下した審決には,手続上の瑕疵があると主張する。
この点について検討する。
改正前特許法17条の2第4項柱書きは「・・・第1項第3号及び第4号に掲げる場合において特許請求の範囲についてする補正は,次に掲げる事項を目的とするものに限る。」と,同項1号は「・・・請求項の削除」,同項2号は「特許請求の範囲減縮・・・」,同項3号は「誤記の訂正」,同項4号は「明りょうでない記載の釈明・・・」とそれぞれ規定し,また,同条5項は「第126条第4項の規定は,前項第2号の場合に準用する。」と,改正前特許法126条4項は「第1項ただし書第1号及び第2号の場合は,訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。」と,それぞれ規定する。したがって,法は,特許請求の範囲減縮に係る補正の場合のみ,いわゆる独立特許要件の有無を判断することを要するとし,その他の補正(例えば,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明に係る補正等)の場合にはいわゆる独立特許要件の有無を判断することを要しないこととなる。
ところで,改正前特許法17条の2第4項2号所定の特許請求の範囲減縮に該当するか否かは,当該出願に係る特許請求の範囲の全体により判断すべきではなく,補正に係る個々の「請求項」に限定して判断すべきである。
けだし,出願人が,特定の請求項について,「誤記の訂正」ないし「明りょうでない記載の釈明」のみに係る補正をしたところ,他の請求項に「特許請求の範囲減縮」に係る補正がされ,結果として出願に係る特許請求の範囲の全体として減縮しているという理由によって,特許請求の範囲減縮に該当しない請求項について,いわゆる独立特許要件を充足しない限り,補正が認められないとすることは,そのような解釈を支える条文上の根拠がないというべきである。のみならず,そのような手続を前提とすると,出願人に不慮の不利益を及ぼす可能性も生じ,また,審査,審判の実務の煩雑化を招来することになる。その意味で,独立特許要件について「この要件が課されるのは限定的減縮に相当する補正がなされた請求項のみであり,これに相当しない『誤記の訂正』又は『明りょうでない記載の釈明』のみの補正がなされた請求項及び補正されていない請求項については,独立して特許を受けることができない理由が存在する場合において,それを理由として補正を却下してはならない。」とする審査基準に基づく運用は合理性があるというべきである。なお,知的財産高等裁判所平成18年2月16日判決(平成17年(行ケ)第10266号審決取消請求事件)は,各請求項のいずれについても,特許請求の範囲減縮に係る補正をした事案であって,本件とは事案を異にする。
以上のとおりであるから,本願補正発明2について独立特許要件がないとの理由により本件補正を却下した点は,改正前特許法17条の2第4項2号に反する手続上の瑕疵があることになる。
(2)そこで,進んで,上記手続上の瑕疵が審決の結論に影響を及ぼすか否かについて検討する。
本願補正発明2は,本願発明2が請求項1を引用する形式で記載されていたものを,引用しない形式に変えたものであって,本件補正の前後において,特許請求の範囲の記載に変更はない。本願補正発明2に特許要件がないとした審決の判断は,本願発明2にもそのまま妥当することとなる。そして,前記のとおり,本願補正発明2は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとした審決の判断に誤りはない以上,本願発明2についても,当然に,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。したがって,上記手続き上の瑕疵は,審決の結論に影響を及ぼすことはない。
これに対し,原告らは,?@改めて拒絶理由が発せられれば,意見書提出・補正の機会が与えられたはずであるにもかかわらず,その機会を失ったこと,?A減縮された本願補正発明1については,独立特許要件の有無を判断する必要があったにもかかわらず,その判断がされなかったという点において,前記瑕疵は,審決の結論に影響を及ぼすと主張する。
しかし,本件においては,原告らは,本願発明に係る請求項1ないし12について,平成16年4月30日に刊行物1を含む刊行物の記載及び周知技術により当業者が容易に想到し得るとの拒絶理由通知を受け,本願発明2につき補正の機会があったこと(甲3),本願発明2について特許要件がないとした審決の判断に誤りがないことからすると,他の請求項についての特許性の有無について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものであるから,原告らの上記の各主張に係る瑕疵は,審決の結論に影響を及ぼすものとはいえない。したがって,原告らの主張は採用できない。
4結論以上に検討したところによれば,原告らの主張する取消事由にはいずれも理由がなく,審決を取り消すべきその他の誤りは認められない。
よって,原告らの請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 三村量一
裁判官 上田洋幸
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