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関連審決 不服2004-5262
関連ワード 特許を受ける権利 /  発明者 /  創作性(創作) /  製造方法 /  29条1項3号 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の判断 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  翻訳文 /  パリ条約 /  優先権 /  名義変更 /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  変更 /  独立特許要件 / 
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事件 平成 19年 (行ケ) 10122号 審決取消請求事件
原告ザプロクターアンドギャンブル カンパニー
訴訟代理人弁護 士吉武賢次
同 宮嶋学
同 高田泰彦
訴訟代理人弁理 士永井浩之
同 磯貝克臣
被告特許庁長官 肥塚雅博
指定代理人関口勇
同 寺本光生
同 高木彰
同 内山進
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/09/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2004-5262号事件について平成18年11月28日にした審決を取り消す。
第2事案の概要本件は,原告が後記特許出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これに対する不服審判請求をしたが,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,その取消しを求めた事案である。
第3当事者の主張1 請求の原因(1) 特許庁における手続の経緯アイタリア国法人であるチェントロリチェルケファーテルピエジソシエタペルアチオニ(CENTRORICERCHEFATERP&GS.P.A。以下「訴外会社」という。)は,平成6年12月19日,名称を「層状吸収体構造,この構造を含む吸収体製品,及びその製造方法」とする発明について,パリ条約による優先権(平成5年[1993年]12月31日イタリア国)を主張して,国際特許出願をし(以下「本願」という。請求項の数33。PCT/EP94/04215。特願平7-517759号),平成8年6月28日付けで特許法184条の5第1項の規定による書面並びに明細書及び請求の範囲翻訳文(甲2)を,日本国特許庁に提出した。
イその後訴外会社は,平成8年10月18日付けで原告に対し,本願に係る特許を受ける権利を譲渡し,平成8年11月29日付けで日本国特許庁に対し出願人名義変更届(甲6)を提出した。
ウそして原告は,特許庁から平成15年4月10日付けで拒絶理由通知を受けたことから,平成15年10月21日付けで本願について請求の範囲を補正(第1次補正。請求項の数33。甲3)をしたが,平成15年12月4日拒絶査定を受けた。
そこで原告は,平成16年3月15日付けで不服の審判請求を行い,特許庁は同請求を不服2004-5262号事件として審理することとし,その中で原告は,平成16年4月1日付けで特許請求の範囲変更を内容とする補正をした(第2次補正。請求項の数30。以下「本件補正」という。甲4)が,特許庁は,平成18年11月28日,本件補正(第2次補正)を却下した上,「本件審判の請求は,成り立たない」との審決を行い,その謄本は平成18年12月8日原告に送達された。なお,出訴期間として90日が付加された。
(2) 発明の内容ア 第1次補正時(平成15年10月21日。甲3)のもの第1次補正時の請求の範囲は,請求項1〜33から成るが,そのうち請求項1の内容は次のとおりである(以下,この発明を「本願発明」という。)。
「【請求項1】層状吸収体構造において,第1及び第2の繊維質材料層(1,2)及び第1及び第2の繊維質層(1,2)間に分配された120g/m 以上の量のヒドロゲル吸収体材料粒子(6)を含む中間層(5)2を組み合わせて有し,第1及び第2の層の少なくとも一方は液体透過性であり,中間層(5)は熱可塑性材料(7)を更に含み,熱可塑性材料(7)は粒子であり,中間層(5)が,第1及び第2の繊維質層(1,2)を,これらの層間に中間層(5)を挟んで互いに結合しており,当該結合は,熱可塑性材料(7)の粒子が溶融してヒドロゲル吸収体材料粒子を含むブリッジを形成することによってなされていることを特徴とする吸収体構造。」イ 本件補正時(第2次補正時。平成16年4月1日。甲4)のもの本件補正後の特許請求の範囲は,請求項1〜30から成るが,そのうち請求項1の内容は次のとおりである(以下,この発明を「本願補正発明」という。下線部は本件補正に係る部分)。
「【請求項1】層状吸収体構造において,第1及び第2の繊維質材料層(1,2)及び第1及び第2の繊維質層(1,2)間に分配された120g/m 以上の量のヒドロゲル吸収体材料粒子(6)を含む中間層(5)2を組み合わせて有し,第1及び第2の層の少なくとも一方は液体透過性であり,中間層(5)は熱可塑性材料(7)を更に含み,熱可塑性材料(7)は粒子であり,中間層(5)が,第1及び第2の繊維質層(1,2)を,これらの層間に中間層(5)を挟んで互いに結合しており,当該結合は,熱可塑性材料(7)の粒子が溶融してヒドロゲル吸収体材料粒子及び溶融した熱可塑性材料(7)の粒子のみからなるブリッジを形成することによってなされていることを特徴とする吸収体構造。」(3) 審決の内容審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,@本願補正発明は,特開平2-303826号(以下「引用例」という。甲1)に記載された発明(以下「引用発明」という。)に基づいて容易に発明をすることができたから,特許法29条2項により特許出願の際独立して特許を受けることができず,本件補正は認められない,A本願発明は,上記引用発明と同一であるから,特許法29条1項3号により特許を受けることができない,というものである。
なお,審決が認定する引用発明の内容並びに本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
〈引用発明の内容〉「紙の内層2と紙の内層4の間に,シート1m 当たり0.1〜200g2の高吸水性材料と脱臭性を有する機能性材料と熱可塑性樹脂のバインダーとからなる混合物を挟み,加熱エンボスロールを通して挟着一体化した挟着体。」〈一致点〉「層状吸収体構造において,第1及び第2の繊維質材料層(1,2)及び第1及び第2の繊維質層(1,2)間に分配された120g/m 以上の量2のヒドロゲル吸収体材料粒子(6)を含む中間層(5)を組み合わせて有し,第1及び第2の層の少なくとも一方は液体透過性であり,中間層(5)は熱可塑性材料(7)を更に含み,熱可塑性材料(7)は粒子であり,中間層(5)が,第1及び第2の繊維質層(1,2)を,これらの層間に中間層(5)を挟んで互いに結合しており,当該結合は,熱可塑性材料(7)の粒子が溶融して,ヒドロゲル吸収体材料粒子及び溶融した熱可塑性材料(7)の粒子からなるブリッジを形成することによってなされている吸収体構造」である点〈相違点〉本願補正発明では,ブリッジが,ヒドロゲル吸収体材料粒子及び溶融した熱可塑性材料の粒子のみからなるのに対して,引用発明では,ブリッジが,ヒドロゲル吸収体材料粒子や脱臭性を有する機能性材料及び溶融した熱可塑性材料の粒子からなる点。
(4) 審決の取消事由しかしながら,本件補正発明は以下に述べるとおり独立特許要件を満たすものであるにもかかわらず,審決はこれを満たさないとして本件補正(第2次補正)を却下しているから,違法として取り消されるべきである(本願発明についての判断は争わない)。
アすなわち,審決は,「本願補正発明は,引用例記載の発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。」と判断する(6頁2行〜4行)。
そして,このように判断する根拠として,以下の2点を挙げる。
〈根拠1〉「…引用例記載の発明に係る吸収体構造は,本願補正発明と同様に,生理用品,おむつなどに利用される…ものである。そして,生理用品やおむつの技術分野において,本願補正発明の『脱臭性を有する機能性材料』,すなわち,脱臭剤は,必要に応じて適宜添加可能なことが知られているものであり,脱臭性を必要とされない場合に,脱臭剤を含まないものとすることは,当業者の通常の創作能力の発揮である。」(5頁15行〜20行)〈根拠2〉「…本願明細書6頁8ないし11行の『乾燥状態の製品においてヒドロゲル材料粒子の少なくとも幾つかが熱可塑性材料粒子に結合している場合でも,液体が存在するとヒドロゲル材料粒子が膨潤し,これらの粒子と熱可塑性材料粒子とのリンクを切り,かくしてヒドロゲル材料がその全吸収力を発揮できるということがわかってくる』との記載を参酌すると,機能性材料の有無が本願補正発明の効果に格別顕著な差異をもたらすものとは認められない。」(5頁28行〜34行)しかし,いずれの根拠も,本願明細書及び引用例における記載の誤った理解に基づくものであり,このような誤った理解に基づく根拠付けにより,本願補正発明と引用発明との相違点の判断をしたため,結果として審決は相違点の判断を誤っている。この誤りが審決の結論に影響することは明らかであるから,審決は取消しを免れないものである。
以下では,上記の根拠1及び根拠2につき誤りが存することを,それぞれ具体的に主張する。
イ 取消事由1(根拠1の誤り)引用発明は,その発明の名称が「機能性を有する吸水シート」とされていることに典型的に表れているとおり,「機能性材料」をその本質的内容とするものである。引用例の「特許請求の範囲」を見ても,その請求項1で「特定の機能性材料」が必須の構成要素とされており,その他の請求項(請求項2〜4)もすべて請求項1に従属するものであるから,「特許請求の範囲」には「特定の機能性材料」を必須の構成要素とする発明しか開示されていない。また,引用例の「発明の詳細な説明」を見ても,「特定の機能性材料」を必須の構成要素とする発明しか開示されていない。とりわけ,「熱可塑性樹脂,その他適宜のバインダーを使用することができる。」と説明している箇所(甲1の4頁右上欄9行〜10行)においても,「高吸水性材料と特定の機能性材料を包装材料の間に挟着一体化させるため」(同上7行〜8行)と説明されており,「特定の機能性材料」を必須の構成要素とする発明しか開示されていない。
このような引用例を目にした当業者が,引用例発明における一番のポイントの構成要素である「特定の機能性材料」を除くことを容易になし得たということはできない。
したがって,「特定の機能性材料」を除くことが,当業者の通常の創作能力の発揮にすぎず,本願補正発明は当業者が容易に想到し得たとする審決の判断は,引用例において強調されている「特定の機能性材料」の必須性・重要性を無視した判断といわざるを得ず,この点において誤っているというほかない。
引用例には,〔従来の技術〕として,引用例発明の出願前における吸水性シートに関する説明がなされているが,この部分において,本願補正発明の構成を開示・示唆する記載がないことは明らかであるし,また,様々な問題点を有している従来技術が当業者にとって動機付けとなることはない。
以上のとおり,根拠1における審決の判断は,引用例の記載と相反するものであり,誤っている。本願補正発明は,引用例発明から当業者が容易に想到し得たということができないものである。
なお,上記根拠1の判断中,「本願補正発明の『脱臭性を有する機能性材料』」の部分は,本願補正発明は「脱臭性を有する機能性材料」をその構成要素とするものではないので,そこでいわんとしていることが不明瞭である。
ウ 取消事由2(根拠2の誤り)(ア)審決は,根拠2において,本願明細書(甲2)6頁8行〜11行の記載を参酌することにより,機能性材料の有無が本願補正発明の効果に格別顕著な差異をもたらすものとは認められないとし,本願補正発明は顕著な効果を有するので進歩性が認められるべきであるという次の原告の主張を否定している。
「…引用文献1(原告注:審決の引用例)の混合物は,高吸収性材料と熱可塑性バインダーとの他に,特定の機能性材料を含んでいる。従って,2つの内層の結合を担うためにブリッジが形成されているとしても,当該ブリッジは,当然に,高吸収性材料と熱可塑性バインダーと機能性材料とから構成されている筈である。そして,機能性材料がブリッジ内に混在しているが故に,高吸収性材料が膨潤するためのスペースが制限され,すなわち,当該高吸収性材料の吸収力が制限されてしまう。
これに対して,本願請求項1及び9の発明では,その特徴()(原@告注:特徴()は「第1及び第2の繊維質層は,ヒドロゲル吸収体材 @料粒子及び溶融した熱可塑性材料の粒子のみからなるブリッジを形成することによって結合されていること。甲5の2頁16行〜17行」)によって,ヒドロゲル吸収体材料粒子が膨潤することによる吸収力を最大限に発揮させることが可能である。
当該効果は,本願出願時の技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものである。請求項に係る発明が,引用発明と比較した有利な効果であって引用発明が有するものとは異質な効果を有する場合,この事実により進歩性の存在が推認されるべきである(…)。」(甲5[審判請求書の理由の補正書]3頁13行〜24行)(イ)審決は,上記原告の主張を否定する根拠として,上記本願明細書の記載以外の理由を示していないから,審決は,上記本願明細書の記載のみを根拠に,上記原告の主張を否定したというほかない。
しかし,上記本願明細書の記載が「機能性材料の有無が本願補正発明の効果に格別顕著な差異をもたらすものとは認められない」ことにつながるのか,全く明らかでない。審決は,単に上記本願明細書の記載を引用し,いきなり結論を述べるのみで,その理由付けについて全く説明していない。したがって,審決は原告の主張を理由なく否定したに等しく,このような審決の判断が妥当なものとはいえず,この点において審決は誤りである。
(ウ)また,より踏み込んで本願明細書の記載を検討すると,審決が引用する上記本願明細書の記載は,ヒドロゲル材料粒子と熱可塑性材料粒子との結合と,ヒドロゲル材料の吸収力の発揮の程度との関係を述べている部分である。一方,原告が主張しているのは,「機能性材料がブリッジ内に混在しているが故に,高吸収性材料が膨潤するためのスペースが制限され,すなわち,当該高吸収性材料の吸収力が制限されてしまう」ということであり,ブリッジ内における機能性材料粒子の存在と,ヒドロゲル材料の吸収力の発揮の程度との関係についての主張である。このように原告の主張は,審決で引用される上記本願明細書の記載部分において問題とされている,ヒドロゲル材料粒子と熱可塑性材料粒子との結合とは関係のないものである。したがって,原告の主張を否定するために上記本願明細書の記載を引用することは的外れというほかない。
(エ)以上のとおり,根拠2における審決の判断は,本願明細書の記載の誤った解釈に基づくものであり,誤っているというほかない。上記(ア)の原告の主張のとおり,本願補正発明は,本願出願時の技術水準から予測される範囲を超えた顕著な効果を奏するものであり,引用発明との比較によっても進歩性を有するものである。
2 請求原因に対する認否請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。
3被告の反論(1) 取消事由1に対しア引用例(甲1)には,機能性材料について,次のとおり記載されている。
(ア) 産業上の利用分野「本発明は,機能性を有する吸水シートに関するものであり,…高い吸水性が要求される製品の素材として有用な特定の機能を具備した吸水シートに関するものである。」(1頁右欄3行〜8行)(イ) 発明が解決しようとする課題「しかしながら,…青果物を包装するに際しては,吸水性シートとエチレンガス吸着剤の2種類の材料を,各々,個別に包装形態中に収納せしめる必要があり,大量の生鮮食品を包装処理する場合には,余分な手間がかかり,全体の作業能率の低下をもたらし,かつ,コストアップの要因となるなど,種々の問題点を有していた。
…また,肉類や魚貝類などの動物性食品は,一般に冷蔵状態で保存,流通されるが,このとき当該食品の組織からドリップの他に特有の臭いが発生し,この臭いが商品価値を著しく低下させる原因となっていた。特に,一度冷凍し,解凍した場合には組織自体が破壊されているため,臭いの発生が著しく,この臭いを防止もしくは除去するための有効な方策を確立することが強く望まれていた。
上記生鮮食品以外の製品,例えば,生理用品,おむつ,使い捨て雑巾,ペーパータオルなどの高い吸水性が要求される製品についても,吸水性の他に細菌による汚染の防止,脱臭などの面でいまだ有効な方策が充分でなく,吸水性の他に,それらを解決し得る特定の機能を具備した新製品の開発が望まれていた。
…このような状況のもとで,本発明者らは,上記従来技術の問題点を解決すべく鋭意研究を積み重ねた結果,高吸水性材料と特定の機能性材料を特定の包装形態と組み合わせて,吸水性と共に特定の機能を具備した吸水シートを構成することにより,上記問題点を解決し得ることを見い出して本発明を完成するに至った。
すなわち,本発明は,高い吸水性と共に特定の機能を具備した,生鮮食品の鮮度保持材などに有用な機能性を有する新規吸水シートを提供することを目的とする。」(2頁右上欄2行〜右下欄10行)(ウ) 課題を解決するための手段「上記混合物3を構成する高吸水性材料と特定の機能性材料などの材料のうち,機能性材料としては,抗菌剤,脱臭剤,エチレンガス吸収剤など適宜の機能,或いはこれらを組み合わせた適宜の複合機能を有する物質又は組成物が使用される。
そして,抗菌剤としては,銀,銅,亜鉛,錫,鉛,ビスマス,カドミウム,クロム,水銀などの抗菌性金属材料を,ゼオライト,活性炭,シリカ,活性白土,酸性白土,アルミナ,活性ボーキサイト,骨炭,モレキュラーシーブなどの担体に担持させたものが望ましいが,これらの抗菌性材料,担体の種類およびそれらの使用量などは,特に限定されない。」(3頁左下欄7行〜19行)(エ) 発明の効果「以上説明したように,本発明の機能性を有する吸水シートを用いれば,手間がかからず簡単に,かつ低コストで生鮮食品の鮮度を保持することができる利点がある。…また,高吸水性材料と共に,特定の機能性材料を適宜選択して混合するだけで,使用目的に応じた任意の機能を具備した吸水シートを作成し得る利点がある。」(4頁右下欄6行〜17行)イ引用例記載の吸収シートは,高吸水性材料と機能性材料を併用しなければならないものではなく,個別に使用したとしても,それぞれの機能を奏するものである。
また,引用例記載の吸収シートにおいて,機能性材料は,抗菌,脱臭,エチレンガスの吸収等の使用目的に応じた機能を奏するため,必要な材料とその量が適宜選択され,高吸収性材料とともに包装袋内に収納されるものである。
ウしたがって,引用例には,特定の機能を付加した吸収シートとして,「特定の機能性材料」が必須の構成要素として記載されているものの,当該機能性材料は,上述したとおり必要な必要な材料とその量が適宜選択されるものであり,しかも,引用例には,これら吸水性材料と機能性材料との関係において,吸水性材料と機能性材料とを個別に包装形態中収納することも記載されている(引用例[甲1]2頁右上欄3行〜5行)から,機能性材料を特に必要としない状況においては,限りなく添加量を少なくする形態,すなわち,添加しない状態に近い形態とすることは,当業者が容易になし得る程度の事項にすぎないものである。
したがって,審決が「脱臭性を必要とされない場合に,脱臭剤を含まないものとすることは,当業者の通常の創作能力の発揮である。」とした点に誤りはない。
エなお,審決の「生理用品やおむつの技術分野において,本願補正発明の『脱臭性を有する機能性材料』,すなわち,脱臭剤は,必要に応じて適宜添加可能なことが知られているものであり,」(5頁17行〜19行)の記載は,@生理用品やおむつの技術分野において,脱臭剤は必要に応じて適宜添加可能なことが知られているものであること,A引用例において,機能性材料として脱臭剤を用いたものは脱臭性を有する機能性材料であること,を併せて述べようとしたものである。
したがって,上記の「本願補正発明の」の部分は不適切であり,「引用例記載の発明の」とすべきであった。しかし,上記の不適切な記載は審決の結論に影響を及ぼす事項ではない。
(2) 取消事由2に対しア発明の構成が容易想到であれば,格別の効果がない限り,発明は容易想到であり,構成につき容易想到性が認められる発明に対して,それにもかかわらず,それが有する効果を根拠として特許を与えることが正当化されるためには,その発明が現実に有する効果が,当該構成のものの効果として予想されるところと比べて格段に異なることを要するものである。
イ審決で本願明細書(甲2)6頁8行〜11行の記載を引用した(5頁28行〜32行)のは,原告が,本願発明の効果を主張するに際し,機能性材料の有無について論じているから,本願明細書の効果の部分に機能性材料の有無との関連で効果が説明されているか否かを検討するためである。
審決の「機能性材料の有無が本願補正発明の効果に格別顕著な差異をもたらすものとは認められない。」(5頁32行〜34行)との判断は,引用発明においても高吸収性材料が適切に膨潤し,吸収力が制限されないように機能性材料の添加量を考慮することは当然考えられることであるから,結果的に機能性材料の有無は本願補正発明と引用例発明との間で格別な差異をもたらすものではないという趣旨を述べたものである。
ウしかも,本願明細書中には,機能性材料の有無との関連で効果を説明している箇所はなく,原告が主張している機能性材料の有無による効果,すなわち,「引用例記載のものは,『機能性材料がブリッジ内に混在しているが故に,高吸収性材料が膨潤するためのスペースが制限され,当該高吸収性材料の吸収力が制限されてしまう』のに対して,本願補正発明は,『ヒドロゲル吸収体材料粒子が膨潤することによる吸収力を最大限に発揮させることが可能である』という効果に関する主張は,本願明細書に記載されていない効果を主張するものにすぎない。この効果は,平成16年4月1日付け手続補正書(甲5)においてはじめて主張されたものである。
エ原告は,引用発明について「機能性材料がブリッジ内に混在しているが故に,高吸収性材料が膨潤するためのスペースが制限され,すなわち,当該高吸収性材料の吸収力が制限されてしまう」と主張しているが,原告が主張するような吸収力の制限が,引用発明において実際に顕著に起こるか否かは,明らかではない。
また,審決で示したとおり,引用発明について脱臭剤等の機能性材料は,必要に応じて適宜添加可能であり,その材料の除去も容易である。
したがって,本件については容易想到性が認められるべきである。
第4 当裁判所の判断1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2取消事由1(根拠1の誤り)について(1)本願補正発明と引用発明の相違点は,審決が認定するとおり,本願補正発明では,ブリッジが,ヒドロゲル吸収体材料粒子及び溶融した熱可塑性材料の粒子のみからなるのに対して,引用発明では,ブリッジが,ヒドロゲル吸収体材料粒子や脱臭性を有する機能性材料及び溶融した熱可塑性材料の粒子からなる点であるから,本願補正発明は,引用発明から脱臭性を有する機能性材料を除いたものということになる。
そこで,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が,引用発明から脱臭性を有する機能性材料を除くことを容易に想到するかどうかが問題となる。
(2) ところで,引用例(甲1)には,次の記載がある。
ア 特許請求の範囲「(1)高吸水性材料と特定の機能性材料を含有する混合物3を,内層2と内層4の間に挟着一体化した後,該挟着体を外層1と外層5で作成した包装袋で包装することを特徴とする機能性を有する吸水シート。
(2) 特定の機能性材料が,抗菌性,脱臭性またはエチレンガス吸着性などの一種以上の特定の機能を有する材料である請求項第(1)項記載の機能性を有する吸水シート。
(3)混合物を,熱可塑性樹脂からなるバインダーと共に内層2と内層4の間に挟着一体化したことを特徴とする請求項第(1)項記載の機能性を有する吸水シート。
(4)全体を加熱エンボスロールにより挟着一体化したことを特徴とする請求項第(1)項記載の機能性を有する吸水シート。」イ 発明の詳細な説明(ア) 産業上の利用分野「本発明は,機能性を有する吸水シートに関するものであり,さらに詳しくは生鮮食品の鮮度保持材,生理用品,おむつ,使い捨て雑巾,ペーパータオルなど高い吸水性が要求される製品の素材として有用な特定の機能を具備した吸水シートに関するものである。」(1頁右欄3行〜8行)(イ) 従来の技術「従来,生鮮食品の鮮度保持材,生理用品,おむつ,使い捨て雑巾,ペーパータオルなどの素材として,高吸水性樹脂が広く使用されている。
生鮮食品に関しては,その鮮度を保持するために,従来,種々の方策がとられているが,とり分け,肉類,魚貝類などの生鮮食品から滲出する遊離水は,当該食品の鮮度を著しく低下させることから,該遊離水を直ちに除去することが鮮度保持に欠かせない重要なファクターとなっている。
従来,この遊離水対策として,高吸水性高分子材料を用いた吸水性シートを生鮮食品の包装形態中に収納して該遊離水を吸水除去する方法が先行技術として知られている。
また,果物,野菜などの青果物に関しては,箱詰め,袋詰めなどの密閉状態もしくはそれに近い状態で青果物から発生するエチレンガスや呼吸作用による水蒸気の結露などが原因で鮮度低下が生起する。
このような青果物の鮮度低下を防ぐために,従来,例えば,高吸水性樹脂を用いた吸水性シートと,エチレンガス吸着剤の2種類の鮮度保持材料を箱詰めあるいは袋詰めした青果物の輸送形態中に収納する方法が知られている。
その他各種用途に使用される吸水性シート製品としては,例えば,透水性を有する2枚のシート基材の間に高吸水性樹脂粉末をサンドイッチした構造のもの,シート基材面に高吸水性樹脂を含有する塗工剤によってパターン状の吸水層を設けると共に,その非パターン部に接着剤層を形成して他のシート基材を貼合したもの,など種々の形態のものが知られている。」(1頁右欄10行〜2頁左上欄20行)(ウ) 発明が解決しようとする課題「しかしながら,上記従来技術の場合,例えば,青果物を包装するに際しては,吸水性シートとエチレンガス吸着剤の2種類の材料を,各々,個別に包装形態中に収納せしめる必要があり,大量の生鮮食品を包装処理する場合には,余分な手間がかかり,全体の作業能率の低下をもたらし,かつ,コストアップの要因となるなど,種々の問題点を有していた。
さらに,輸送中に,エチレンガス吸着剤を入れた小袋が破損して中のエチレンガス吸着剤が青果物の表面に付着し,製品の外観を悪くしたり,エチレンガス吸着剤の化学成分が製品を汚染する危険性などがあった。
そして,通常の生鮮食品を対象とする包装体は,通常の包装材料を使用するものであり,包装材料自体には,例えば,抗菌性などの特定の機能はないため,食品変敗菌による汚染を原因とする生鮮食品の鮮度低下を確実に防止することは,吸水シート単独では不可能であり,その有効な方策の確立が望まれていた。
また,肉類や魚貝類などの動物性食品は,一般に冷蔵状態で保存,流通されるが,このとき当該食品の組織からドリップの他に特有の臭いが発生し,この臭いが商品価値を著しく低下させる原因となっていた。特に,一度冷凍し,解凍した場合には組織自体が破壊されているため,臭いの発生が著しく,この臭いを防止もしくは除去するための有効な方策を確立することが強く望まれていた。
上記生鮮食品以外の製品,例えば,生理用品,おむつ,使い捨て雑巾,ペーパータオルなどの高い吸水性が要求される製品についても,吸水性の他に細菌による汚染の防止,脱臭などの面でいまだ有効な方策が充分でなく,吸水性の他に,それらを解決し得る特定の機能を具備した新製品の開発が望まれていた。
…このような状況のもとで,本発明者らは,上記従来技術の問題点を解決すべく鋭意研究を積み重ねた結果,高吸水性材料と特定の機能性材料を特定の包装形態と組み合わせて,吸水性と共に特定の機能を具備した吸水シートを構成することにより,上記問題点を解決し得ることを見い出して本発明を完成するに至った。
すなわち,本発明は,高い吸水性と共に特定の機能を具備した,生鮮食品の鮮度保持材などに有用な機能性を有する新規吸水シートを提供することを目的とする。」(2頁右上欄2行〜右下欄10行)(エ) 課題を解決するための手段「内層および外層を構成する包装材料としては,例えば,無サイズ紙,不織布…など,適宜の種類の透水性材料が使用される他,熱可塑性樹脂からなるプラスチックフィルム…など適宜の種類の非透水性材料を使用することも可能である。
…上記混合物3を構成する高吸水性材料と特定の機能性材料などの材料のうち,機能性材料としては,抗菌剤,脱臭剤,エチレンガス吸収剤など適宜の機能,或いはこれらを組み合わせた適宜の複合機能を有する物質又は組成物が使用される。
そして,抗菌剤としては,銀,銅,…などの抗菌性金属材料を,ゼオライト,活性炭,…などの担体に担持させたものが望ましいが,これらの抗菌性材料,担体の種類およびそれらの使用量などは,特に限定されない。
脱臭剤としては,下記のものが例示される。
…これらの脱臭剤以外にも脱臭作用を有するものであれば何でも良く,これらの1種または2種以上の脱臭剤の混合物が使用可能である。これらの脱臭剤は,シート1u当たり0.1〜150gの範囲で挟着されるように,高吸水性材料と混合し,包装材の間に挟着することが好ましい。
エチレンガス吸着剤としては,…これらの機能性材料の他,適宜の機能を有する材料を使用することが可能であり,その種類については特に限定されるものではない。
次に,高吸水性材料としては,デンプン・アクリル酸塩のグラフト重合体,カルボキシメチルセルロース架橋体,ビニルアルコール・アクリル酸塩共重合体……などが例示されるが,その他高吸水を有する材料であれば適宜使用し得る。…高吸水性高分子材料の使用量は,シート1u当たり0.1〜200gの範囲が好ましく,特に1〜50gの範囲が望ましい。
高吸水性材料と特定の機能性材料を包装材料の間に挟着一体化させるために,ポリオレフィン,ポリアミド,ポリエステルなどの熱可塑性樹脂,その他適宜のバインダーを使用することができる。
上記の材料を用いて本発明の機能性を有する吸水シートを製造するには,例えば,以下のような方法をとることができる。
すなわち,第1図における内層材料4の上に高吸水性材料,特定の機能性材料およびバインダーの混合物3を均一に散布し,他の内層材料2を重ね合わせ,加熱エンボスロールを通し挟着一体化した後,当該一体化後の原紙を一定サイズにカッティングし,これを3方シールパウチからなる外層材料1,5に手詰めし,密封した後,全体を加熱エンボスロールを通し挟着一体化することにより製造することができる。」(3頁右上欄1行〜4頁左下欄2行)(オ) 発明の効果「以上説明したように,本発明の機能性を有する吸水シートを用いれば,手間がかからず簡単に,かつ低コストで生鮮食品の鮮度を保持することができる利点がある。また,特定の機能性材料が高吸水性高分子材料と共に一体化されているため,袋の破損などによってエチレンガス吸着剤,抗菌剤などの機能性材料が生鮮食品を汚染する危険性が全くないなどの特有の効果を有する。
また,高吸水性材料と共に,特定の機能性材料を適宜選択して混合するだけで,使用目的に応じた任意の機能を具備した吸水シートを作成し得る利点がある。」(4頁右下欄6行〜17行)」(カ)「実施例1坪量25g/uの紙(…)の上に,脱臭剤として,活性炭(…),有機酸及び酸化亜鉛の混合物(…)を各々10g/u,高吸水性高分子材料(…)を70g/u,バインダー(…)(EVAの粉末)を10g/uの量で均一に散布し,同種の紙ではさみ加熱エンボスロールを通し,接着一体化した。(熱ロール温度140℃,エンボス圧力5kg/u)」(5頁左上欄9行〜19行)(3)引用例の上記(2)の記載によると,引用例の「特許請求の範囲」には,抗菌性,脱臭性,エチレンガス吸着性などの特定の機能性材料を含んだ吸水シートのみが記載されている。
しかし,引用例の「発明の詳細な説明」の「従来の技術」,「発明が解決しようとする課題」の各項には,@青果物の鮮度低下を防ぐために,青果物を包装するに際して,吸水性シートとエチレンガス吸着剤の2種類の鮮度保持材料を,各々,個別に包装形態中に収納する方法が知られていたが,この方法では,余分な手間がかかり,全体の作業能率の低下をもたらし,かつ,コストアップの要因となる上,輸送中にエチレンガス吸着剤を入れた小袋が破損することがあるなどの種々の問題点を有していたこと,A通常の生鮮食品を対象とする包装材料自体には,抗菌性などの特定の機能はないため,生鮮食品の鮮度低下を確実に防止することは,吸水シート単独では不可能であり,その有効な方策の確立が望まれていたこと,B肉類や魚貝類などの動物性食品の保存,流通に際しては,特有の臭いが発生するため,この臭いを防止,除去するための有効な方策を確立することが強く望まれていたこと,C生鮮食品以外の製品,例えば,生理用品,おむつ,使い捨て雑巾,ペーパータオルなどの高い吸水性が要求される製品についても,吸水性の他に細菌による汚染の防止,脱臭などの面でいまだ有効な方策が充分でなく,吸水性の他に,それらを解決し得る特定の機能を具備した新製品の開発が望まれていたことが記載されている。
そして,引用例の「発明の詳細な説明」の「発明が解決しようとする課題」,「課題を解決するための手段」,「発明の効果」の各項には,上記の@〜Cの問題点を解決するために,抗菌性,脱臭性,エチレンガス吸着性などの特定の機能性材料を含んだ吸水シートの発明をしたことが記載されている。
そうすると,抗菌性,脱臭性,エチレンガス吸着性などの特定の機能性材料を含まない吸水シートは,引用発明の従来技術と位置付けられるものであり,引用例には,その旨の記載があるということができる。
また,引用発明(引用例)の吸水シートにおいて,高吸水性材料と機能性材料を併用せず,別々に使用した場合に,それぞれの機能が妨げられるというべき事情は見当たらない。
以上を総合すると,当業者は,引用発明から,引用例記載の従来技術を参酌して,脱臭性を有する機能性材料を除くことを容易に想到することができるというべきである。
なお,引用例には,上記のとおり,従来技術である,抗菌性,脱臭性,エチレンガス吸着性などの特定の機能性材料を含まない吸水シートについての問題点が記載されているが,そうであるとしても,以上述べたところからすると,当業者が機能性材料を除くことを想到することができるとの上記認定を左右するものではない。
したがって,審決の「脱臭性を必要とされない場合に,脱臭剤を含まないものとすることは,当業者の通常の創作能力の発揮である。」(5頁19行〜20行)との判断に誤りはない。
(4)なお,審決の「生理用品やおむつの技術分野において,本願補正発明の『脱臭性を有する機能性材料』,すなわち,脱臭剤は,必要に応じて適宜添加可能なことが知られているものであり,」(5頁17行〜19行)との認定のうち「本願補正発明の『脱臭性を有する機能性材料』」は,被告が認めているように,「引用発明の『脱臭性を有する機能性材料』」の誤りであると認められるが,この点に誤りがあるからといって,上記(3)の判断が左右されるものではない。
(5) したがって,原告主張の取消事由1は採用することができない。
3 取消事由2(根拠2の誤り)について(1)原告は,平成16年4月1日付け手続補正書(審判請求理由の変更。甲5)において,次のとおり,本願補正発明の効果を主張している。
「…引用文献1(判決注:引用例[甲1])の混合物は,高吸収性材料と熱可塑性バインダーとの他に,特定の機能性材料を含んでいる。従って,2つの内層の結合を担うためにブリッジが形成されているとしても,当該ブリッジは,当然に,高吸収性材料と熱可塑性バインダーと機能性材料とから構成されている筈である。そして,機能性材料がブリッジ内に混在しているが故に,高吸収性材料が膨潤するためのスペースが制限され,すなわち,当該高吸収性材料の吸収力が制限されてしまう。
これに対して,本願請求項1及び9の発明では,その特徴()(判決注@:特徴()は「第1及び第2の繊維質層は,ヒドロゲル吸収体材料粒子及 @び溶融した熱可塑性材料の粒子のみからなるブリッジを形成することによって結合されていること」[甲5の2頁16行〜17行])によって,ヒドロゲル吸収体材料粒子が膨潤することによる吸収力を最大限に発揮させることが可能である。
当該効果は,本願出願時の技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものである。請求項に係る発明が,引用発明と比較した有利な効果であって引用発明が有するものとは異質な効果を有する場合,この事実により進歩性の存在が推認されるべきである(…)。」(甲5の3頁13行〜24行)(2)しかし,前記2で述べたとおり,当業者は,引用発明から,脱臭性を有する機能性材料を除くことを容易に想到することができるところ,脱臭性を有する機能性材料を除けば,それだけ高吸収性材料が膨潤するためのスペースが広くなることは,当然に生ずる効果にすぎないというべきであって,それをもって顕著な効果ということはできない。したがって,そのような効果があることから本願補正発明に進歩性を認めることはできない。
(3)なお,審決は,「…本願明細書6頁8ないし11行の『乾燥状態の製品においてヒドロゲル材料粒子の少なくとも幾つかが熱可塑性材料粒子に結合している場合でも,液体が存在するとヒドロゲル材料粒子が膨潤し,これらの粒子と熱可塑性材料粒子とのリンクを切り,かくしてヒドロゲル材料がその全吸収力を発揮できるということがわかってくる』との記載を参酌すると,機能性材料の有無が本願補正発明の効果に格別顕著な差異をもたらすものとは認められない。」(5頁28行〜34行)と判断しているところ,本願明細書(甲2)の「乾燥状態の製品においてヒドロゲル材料粒子の少なくとも幾つかが熱可塑性材料粒子に結合している場合でも,液体が存在するとヒドロゲル材料粒子が膨潤し,これらの粒子と熱可塑性材料粒子とのリンクを切り,かくしてヒドロゲル材料がその全吸収力を発揮できるということがわかってくる」との記載(6頁8行〜11行)は,乾燥状態においてヒドロゲル材料粒子の中に熱可塑性材料粒子と結合しているものがあるとしても,液体が入ってくることにより,ヒドロゲル材料粒子が膨潤し,これらの粒子と熱可塑性材料粒子とのリンクが切れるので,ヒドロゲル材料がその全吸収力を発揮できるということを述べたものであって,機能性材料が存在しないことによる効果を述べたものではないから,審決が,「機能性材料の有無が本願補正発明の効果に格別顕著な差異をもたらすものとは認められない。」(5頁下5行〜下3行)と結論付けるに当たり,本願明細書の上記記載(6頁8行〜11行)だけを参酌したことは適切でないが,その結論である「機能性材料の有無が本願補正発明の効果に格別顕著な差異をもたらすものとは認められない」ことについては上記(2)のとおり誤りはないから,上記審決の記載がその結論に影響を及ぼすものではない。
(4) したがって,原告主張の取消事由2も採用することができない。
4結論よって,原告主張の取消事由はすべて理由がないから,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 森義之
裁判官 澁谷勝海