関連審決 | 不服2000-8501 |
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関連ワード | 方法の発明 / アクセス / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 相違点の認定 / 周知技術 / 優先権 / 援用権(援用) / 置き換え / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 構成要件 / 拒絶査定 / 拒絶理由通知 / 請求の範囲 / 申し立てない理由 / |
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事件 |
平成
15年
(行ケ)
31号
審決取消請求事件
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原告 ザイブナーコーポレーション 訴訟代理人弁理士 小堀益,堤隆人 被告 特許庁長官小川洋 指定代理人 千葉輝久,片岡栄一,吉村宅衛,小曳満昭,林栄二,大橋信彦,井出英一郎 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/12/27 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
「特許庁が不服2000-8501号事件について平成14年9月19日にした審決を取り消す。」との判決。 |
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事案の概要
本件は,原告が,後記本願発明の特許出願をしたが,拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたところ,審判請求は成り立たないとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。 1 特許庁における手続の経緯 (1) 本願発明 出願人:ザイブナー コーポレーション(原告) 発明の名称:「ハンドフリーコンピュータ装置とハンドフリーで情報を検索及び表示するための方法」(出願当初の名称は「ハンドフリーコンピュータ装置」) 出願番号:特願平8-134984号 出願日:平成8年5月29日(優先権主張:平成7年10月2日,米国) (2) 本件手続 手続補正日:平成9年5月26日 拒絶理由通知:平成10年2月3日付け(以下「拒絶理由通知@」という。) 手続補正(意見書提出):平成10年5月1日(以下「補正@」という。甲11) 拒絶理由通知:平成11年4月8日付け(以下「拒絶理由通知A」という。甲5-2) 手続補正(意見書提出):平成11年7月16日(以下「補正A」という。甲5-3) 拒絶理由通知:平成11年9月20日付け(以下「拒絶理由通知B」という。甲5-5) 手続補正(意見書提出):平成11年12月28日(以下「補正B」という。甲5-6) 拒絶査定日:平成12年3月6日(以下「本件拒絶査定」という。拒絶理由通知Aに記載した理由1(特許法29条2項)によって拒絶査定するというもの。甲8) 審判請求日:平成12年6月8日(不服2000-8501号) 手続補正:平成12年7月10日(以下「補正C」という。甲7) 補正却下決定:平成14年9月19日(「補正Cは,特許法17条の2第3項に違反する」というもの。甲6) 審決:平成14年9月19日(「本件審判の請求は,成り立たない。」というもの。) 審決謄本送達日:平成14年10月4日(原告に対し。出訴期間として90日附加) 2 本願発明の要旨 (1) 補正B後の特許請求の範囲請求項15の記載(審決が判断対象とした請求項であり,以下「本願発明」という。) 「作動手段,表示装置,及びプロセッサ手段を含むハウジングを含み,コンピュータが提供する画像をユーザが手を使わずに見れるようにユーザに装着した前記表示装置及び前記作動手段を有する移動式ハンドフリーコンピュータシステムを提供及び利用する段階と,前記プロセッサ手段は,内部記憶手段を含み,かつ,ユーザには装着されないもので,通常のキーボード無しに前記作動コマンドだけを用いて手を使わずに作動させて,そのプロセッサの動作をコンピュータコマンドに変換するハンドフリー作動コマンドを用いて指示する段階と,前記プロセッサ手段の中で作動コマンドを電気信号に変換し,前記プロセッサが,前記コマンドを電気信号又は情報によって認識し,前記情報を前記表示装置に交信することによって前記認識されたコマンドに応答する段階と,前記コンピュータシステムが,ハンドフリー作動コマンドだけを利用して受信情報を手を使わずに表示すべく作動できるようにするという段階と,音声作動手段,眼球追跡作動手段,脳波作動手段,及びその組み合わせからなる群から利用可能であるハンドフリー作動手段を作動する段階を有するハンドフリーで情報を検索及び表示するための方法。」 (2) 原告が求めた補正Cによる特許請求の範囲請求項15の記載(本件補正却下決定により却下されたもの。下線部分が(1)のものに補正が加えられた部分。) 「作動手段,表示装置,及びプロセッサ手段を含むハウジングを含み,コンピュータが提供する画像をユーザが手を使わずに見れるようにユーザに装着した前記表示装置及び前記作動手段を有する移動式ハンドフリーコンピュータシステムを利用する ハンドフリー で情報 を検索及 び表示 するための 方法 であって ,前記プロセッサ手段は,内部記憶手段を含み,かつ,ユーザには装着されないもので,通常のキーボード無しに前記作動コマンドだけを用いて手を使わずに作動させて,そのプロセッサの動作をコンピュータコマンドに変換するハンドフリー作動コマンドを用いて指示する段階と,前記プロセッサ手段の中で作動コマンドを電気信号に変換し,前記プロセッサが,前記コマンドを電気信号又は情報によって認識し,前記情報を前記表示装置に交信することによって前記認識されたコマンドに応答する段階と,前記コンピュータシステムが,ハンドフリー作動コマンドだけを利用して受信情報を手を使わずに表示すべく作動できるようにするという段階と,音声作動手段,眼球追跡作動手段,脳波作動手段,及びその組み合わせからなる群から利用可能であるハンドフリー作動手段を作動する段階を有し,外部記憶装置 から ,プロセッサ 手段の内部 バス に追加情報 を供給 し,この 追加情報 を少なくとも コンピュータ 装置 が有する 情報 の一部 を残して ,コンピュータ 装置 が有する 補助情報及 びデータ と協同 させる ハンドフリーで情報を検索及び表示するための方法。」 3 補正却下決定の理由の要点 「この補正により付加された事項(判決注:上記2(2)の二箇所の下線部分のうち,後者の部分を指している。)に関して,出願当初の明細書(判決注:本訴甲3の特開平9-114543号公報に記載の明細書。以下これを「出願当初明細書」という。)には,段落【0028】に『第2の態様では,ホストコンピュータは更に,装置のある部品を修理するチームとして作業するヘッドセットを有する数人のユーザに対応することができる。ユーザはすべて同一の手順から作業したり,別の手順をディスプレイ内の追加ウインドウとして表示するように呼び出すことができる。』との記載はあるが,『少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残』すこと,『コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させる』ことは記載されておらず,また,上記記載から直接的かつ一義的に導き出せるものでもない。 したがって,この補正は,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではない。したがって,この補正は特許法17条の2第3項の規定に違反してなされたものである。」 4 審決の理由の要点 (1) 審決は,引用文献として,特開平7-249006号公報(以下「引用文献1」といい,これに記載された発明を「引用発明1」という。),特開平6-51901号公報(以下「引用文献2」という。),特開昭64-18814号公報(以下「引用文献3」という。)を引用した。 (2) 審決は,本願発明と引用発明1を対比し,次のとおり一致点を認定した。 「引用発明1における『マイクロホン122』,『ディスプレイスクリーン110』,『(携帯用)計算機102』,『メモリー506』,『オーディオコマンド』,『計算機の処理』は,それぞれ,本願発明の『(音声)作動手段』,『表示装置』,『(移動式ハンドフリー)コンピュータ(システム)』,『内部記憶手段』,『(ハンドフリー)作動コマンド』,『コンピュータコマンド』に相当する。したがって,本願発明と引用発明1とは,次の一致点を有する。 (一致点) 『作動手段,表示装置,及びプロセッサ手段を含むハウジングを含み,コンピュータが提供する画像をユーザが手を使わずに見れるようにユーザに装着した前記表示装置及び前記作動手段を有する移動式ハンドフリーコンピュータシステムを提供及び利用する段階と,前記プロセッサ手段は,内部記憶手段を含み,通常のキーボード無しに前記作動コマンドだけを用いて手を使わずに作動させて,そのプロセッサの動作をコンピュータコマンドに変換するハンドフリー作動コマンドを用いて指示する段階と,前記プロセッサ手段の中で作動コマンドを電気信号に変換し,前記プロセッサが,前記コマンドを電気信号又は情報によって認識し,前記情報を前記表示装置に交信することによって前記認識されたコマンドに応答する段階と,前記コンピュータシステムが,ハンドフリー作動コマンドだけを利用して受信情報を手を使わずに表示すべく作動できるようにするという段階と,音声作動手段をハンドフリー作動手段として作動する段階を有するハンドフリーで情報を検索及び表示するための方法。』」 (3) 審決は,本願発明と引用発明1との相違点を次のとおり認定した。 「(相違点1)プロセッサ手段は,本願発明においては,ユーザには装着されないものであるのに対し,引用発明1では,ユーザに取り外し可能に装着されるものである点。 (相違点2)本願発明においては,(プロセッサの動作を指示する)ハンドフリー作動手段が,音声作動手段,眼球追跡作動手段,脳波作動手段,及びその組み合わせからなる群から利用可能であるのに対し,引用発明1では,マイクロフォン(「音声作動手段」に相当)のみがプロセッサのハンドフリー作動に用いられる点。」 (4) 審決は,上記相違点について,次のとおり判断した。 「(相違点1)について 引用発明1において,プロセッサ手段は,ユーザに取り外し可能に装着されるものであり,また,ユーザから取り外した状態においても使用可能であることは明らかであるから,これを必要に応じて取り外した状態でも使用することは当業者が容易に想到できたものである。 (相違点2)について ハンドフリーでプロセッサの動作を指示する手段として,眼球追跡作動手段,脳波作動手段,複数の作動手段を組み合わせたものは,それぞれ,引用文献2,引用文献3に記載されているように当業者に周知の技術であるから,引用発明1において,ハンドフリー作動手段として,音声作動手段に加えて上記周知の眼球追跡作動手段,脳波作動手段,及び複数の作動手段を組み合わせたものから利用可能にすることは当業者が容易に想到できたものである。」 (5) 審決は,次のとおり結論付けた。 「本願発明は,引用発明1及び引用文献2,引用文献3に記載された周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。したがって,本願は,その余の請求項について論及するまでもなく,拒絶すべきものである。」 |
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原告の主張(審決取消事由)の要点
1 取消事由1(補正Cを却下した決定の誤り) (1) 補正却下の決定は,補正Cの「少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残」すこと,「コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させる」ことは,出願当初明細書には記載されておらず,また,その記載から直接的かつ一義的に導き出せるものでもないとした。 しかし,上記却下の対象となった事項は,その前提である「外部記憶装置から,プロセッサ手段の内部バスに追加情報を供給し」という事項(この事項は,決定でも出願当初明細書の段落【0028】に記載されていることが認められている。)の当然の実施態様を表すもので,実質的にその出願時の明細書に記載の範囲内の事項である。 以下に,「外部記憶装置から,プロセッサ手段の内部バスに追加情報を供給し,この追加情報を少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させるハンドフリーで情報を検索及び表示するための方法。」という要件の実施態様を挙げた出願当初明細書(甲3)の記載箇所について説明する。 (2) 同じ表示機能を有する装置とはいっても,コンピュータ装置がテレビのような単なる受動的な受信装置と異なる点は,入力,演算,出力を行う点にある。このコンピュータ装置の基本的な機能を考えると,上記要件の前段にいう「外部記憶装置から,プロセッサ手段の内部バスに追加情報を供給」した場合には,同じく後段の「この追加情報を少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させる」ことは,コンピュータ装置が有する当然の機能である。 補正却下の決定がいうように,出願当初明細書の段落【0028】に「外部記憶装置から,プロセッサ手段の内部バスに追加情報を供給」することが記載されているというのであれば,「コンピュータ装置」に「外部記憶装置から,プロセッサ手段の内部バスに追加情報を供給」したとき,「コンピュータ装置」が有する基本的な機能と本願発明の課題からいって,「この追加情報を少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させる」ことは当然の実施態様を表すというのは,極めて自然の論理である。 したがって,前記前段についての記載が明細書にあるというのであれば,後段が記載されているのに等しいと判断されるべきところを,後段の記載を,「この追加情報を少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して」と,「コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させる」に分けて,これを明細書に記載されていないとしたことは,発明を理解しないあまりにも表面的な判断である。 以下,この要件を具体的に表す実施態様を示した出願当初明細書(甲3)の箇所について説明する。 (3) 出願当初明細書(甲3)の段落【0027】〜【0031】は,本願発明に係るシステムの実施形態を説明したものである。段落【0027】の記載はユーザが単独の場合で,詳細なデータベースを有する外部記憶装置であるホストコンピュータにアクセスする例を挙げており,段落【0028】の記載はユーザが数人の場合で,それぞれのユーザが,外部記憶装置として,ホストコンピュータあるいは他のユーザのコンピュータにアクセスする例を挙げている。 (a) 段落【0027】に記載のヘッドセットは,本願発明の「移動式ハンドフリーコンピュータ」のヘッドセットを意味し,ホストコンピュータは,「外部記憶装置」に相当する。そして,ユーザは,ホストコンピュータに特定の手順を表示するように命令し,ホストコンピュータからユーザに送り返された情報あるいはデータは,「追加情報を供給し」に相当する。しかも,この「追加情報」は,ユーザのニーズによってホストコンピュータに命令した結果ユーザに送り返されたものであることを考えると,供給された追加情報は,「この追加情報を少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させ」て,ニーズに合った情報にデータ処理されるのは当然である。 (b) 段落【0028】の記載における「追加ウインドウとして表示するように呼び出すことができる」という事項は,上記要件にいう「外部記憶装置から,プロセッサ手段の内部バスに追加情報を供給」を意味し,「所見を比較する」は,「少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させる」ことを意味するものである。さらには,「いくつかのホストにアクセスでき,また作動しているいくつかのヘッドセットを1台のホストにアクセスできるように構成して」との記載は,「追加情報を供給」するだけではなく,ユーザのコマンドに適用させるように,「少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させる」ことも,また,当然である。 (c) 段落【0029】には,段落【0028】に記載の「第2の態様」の具体的な処理例を示すもので,この段落の「上述の例のように,1台の移動式コンピュータのヘッドセットは他の移動装置から表示を受け取ったり,別の移動式コンピュータの作動手段を数値化することができる。」との記載は,段落【0028】に記載のように,作業中の特定のユーザが,ホストコンピュータとして他の移動式コンピュータが有する情報あるいはデータを必要とする際,その特定のユーザが使用している移動式コンピュータにホストコンピュータが所有しているデータを呼び出し,すなわち,「外部記憶装置から,プロセッサ手段の内部バスに追加情報を供給し」を意味し,その特定のユーザの要求に合致するようにデータ処理すること,すなわち,「この追加情報を少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させる」ことを意味する。 (4) 本願発明の上記要件の実施形態は,段落【0016】〜【0021】,段落【0030】,【0034】,【0056】,【0066】等にも表されている。段落【0016】〜【0021】は,海軍用のコンピュータ・インターフェイスの例を挙げている。このインターフェイスとは,段落【0007】に記載された,ユーザが追加の情報を求める「外部記憶装置」との「接続手段」を意味する。 (a) 段落【0016】の「このインターフェイスにより,オペレータは,コンピュータディスプレイ内の項目を見るだけで選択できる。」とは,上記要件の「外部記憶装置から,プロセッサ手段の内部バスに追加情報を供給し,この追加情報を少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させる」ことを意味する。 (b) 特に,段落【0019】の「校正を完了すれば,頭を自由に動かすことができる。快適な姿勢を選択したオペレータの通常の…カメラはロックを喪失した同一個所で目を再び捕捉する用意をする。」との記載は,コンピュータの本来の機能に基づく前の状態の記憶保持動作に基づく動作を意味し,小さい動きの時はシステムに影響が出ないのは,コンピュータがこの動きが次の指示なのか,有効か無効かを判断し,有効としてロック位置を更新し続けているのである。無効であれば,ロックが喪失し,ストップする。ロック喪失時,単にストップしているのではない。さらに,次の動きが有効か無効か判断している。無効であればそれまでのロック位置を記憶し,保持している。有効であれば,新しいデータが情報として選択され,次々に上書きされていく動作を意味している。ここでは「追加情報とコンピュータ装置が有する情報と協同させる」を目の関心地点を比較する上で実施している。前の関心地点のデータと次の関心地点のデータが入ってきてから,両者を比較し,どちらを有効か無効か判断している。次のデータが無効であれば,前の保持しているデータを情報として取る動作を説明するものである。 (c) 段落【0030】は,通信手段として電話を利用した例を示すものであるが,その適用例として,タンクを修理しているユーザのチームを挙げ,チームリーダのコンピュータ装置が,本願発明の要件にいう「外部記憶装置」に相当する。この「外部記憶装置」にチームメンバがアクセスし,必要情報,すなわち,本願発明にいう供給された「追加情報」が,チームメンバのコンピュータ装置のヘッドセットで見ることができ,いわゆるデータ処理して,利用することを記載している。 すなわち,「それを修理現場のホストにダウンロードして他のチームメンバがそのヘッドセットで見て利用できるようにする。」,そして,「このようにチームメンバのヘッドセットによりローカル及びリモートホストを起動することができる。 次にリモートホストから情報を入手して,ローカルホストコンピュータにダウンロードする。」という記載は,前記要件にいう「外部記憶装置から,プロセッサ手段の内部バスに追加情報を供給し,この追加情報を少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させるハンドフリーで情報を検索及び表示する」ことを意味する。チームリーダのコンピュータ装置がホストとして機能し,他のチームメンバが,その情報を見ている間に,チームリーダ自身も,さらに他のチームメンバも,作業を継続しているわけであるから,別の追加情報をホストへダウンロードして見る必要がでてくる。したがって,追加の情報も前のダウンロードした情報もどちらも存在していて,複数のメンバの要求に応えているのが通常であり,このことからも,追加情報を供給したときに,コンピュータ装置が有する情報の一部を残していること,さらに,その情報同士を協同させることが明らかである。 (d) 段落【0034】は,数台のワイヤレスヘッドセット-ホストコンピュータ間,すなわち,保守要員のチームが飛行機の保守点検を行う例を示す。そして,「チームのそれぞれのメンバは通信したりホストコンピュータの様々な機能を作動することができる。チームの様々なメンバが異なるデータを必要とする場合は,それぞれそのデータ用の別々の表示ウインドウを利用することになる。」という記載は,上記要件そのものの実施の態様を示している。 この例は,他の例共々,OS(オペレーションソフト)として,典型的には,周知のWindows(マイクロソフト社の商標名),特に,Windows95に見られる周知のパソコンの並列処理を利用した例を記載している。 このパソコンの並列処理とは,複数のプログラムが同時に動作できる状態をいうが,従来のOSのマルチタスク機能とマルチウインドウ機能を一体化したWindows95によって初めて本格的に可能としたといえるもので,パソコンのディスプレイ上に複数の「ウインドウ」が複数のアプリケーション用に次々に開いて動作することで,高い処理能力を実現した。そして,このOSの下ではオーバーラップ・ウインドウとして,格別の作動を行って閉じない限りは,システムリソースが許す限りいつまでも同時に開いている。コンピュータで文書作成や表計算などの処理を行っている時に,ディスプレイ上で,「元に戻す・入力」の矢印のついたボタンで入力のやり直しをして元に戻すことや,Internet ExplorerでWebページを見ているときに「戻る」の矢印のついたボタンで前の画面に戻ることができる。このような修正ができる機能や,アドレスの履歴をたどって,元に順次,戻すことができる機能により,操作途中で「待った」ができる。このことは,OSがユーザの操作やデータを記憶し残しており,新しいデータを追加しても,古いデータを保持していることに他ならない。さらにそのデータ同士の比較検討を行うことも可能である。 すなわち,段落【0034】に記載の並列処理において,古いデータを保持した状態で「プロセッサ手段の内部バスに追加情報を供給し,この追加情報を少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させる」ことを意味することに他ならない。 (e) 段落【0055】から段落【0065】は,本願発明における移動式コンピュータの構成をブロック図によって示す【図2】を説明したものである。 このうち,段落【0056】における「バス202に接続したメモリ206」との記載は,本願発明の「移動式ハンドフリーコンピュータ」において,前記要件における前段の「プロセッサ手段の内部バスに追加情報を供給」のためのハード面の構成を表したものである。また,同段落の「メモリ206はアプリケーションプログラム208並びにコンピュータが作動中に他のデータを記憶する」との記載において,「他のデータ」は,前記要件における「追加情報」を意味し,「コンピュータが作動中に他のデータを記憶する」とは,特定目的のために導入した外部情報(データ)をコンピュータが作動中に導入してデータ処理できることを意味する。このことは,特定のユーザによるコンピュータの作動中のデマンドを外部の記憶装置に発し,この外部の記憶装置から追加情報を得て,作業を続行することを意味する。この際,コンピュータの基本機能から前記要件「少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させる」ことは当然である。 (f) さらに,段落【0055】の「中央演算装置(CPU)として,…当業者にはインテル80386ないしそれより速いマイクロプロセッサが好ましい…」と,段落【0066】の「中央演算装置(CPU)は,好適にはインテル社から入手可能な80XXXシリーズ16,32ないし64ビットマイクロプロセッサである。他の適切なプロセッサも所望により使用できる。」という記載において,インテル社の80386あるいは80XXXシリーズが使用されていることは,当業者にとって「外部記憶装置から,プロセッサ手段の内部バスに追加情報を供給し」たとき,「この追加情報を少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させるハンドフリーで情報を検索及び表示する」を意味するものであることは当然である。 (5) 出願当初明細書に記載のCPUはインテル社の80386以降のCPU(32ビット)の使用を指定しており,高機能のものであり,プログラム本体やデータ領域のメモリーを壊さない仕組みが確立され,コンピュータが勝手にメモリーを消去できないようになっている。上記明細書に記載のハンドフリーコンピュータは,Windows95前後の時代のものであり,その構成は当時考えられる最高のレベルであり,現在のオフィスのコンピュータのレベルと劣らないものである。 このように,出願当初明細書に記載のハンドフリーコンピュータがプログラム本体やデータ領域のメモリーを壊さない仕組みが確立されている以上,本願発明の要件にいうように,「外部記憶装置から,プロセッサ手段の内部バスに追加情報を供給し」たときには,「この追加情報を少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させるハンドフリーで情報を検索及び表示する」ことは当然である。 このように,「この追加情報を少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させる」は,「外部記憶装置から,プロセッサ手段の内部バスに追加情報を供給」した際の,入力し,演算し,出力するというコンピュータの基本機能を機能させるに当たっての当然の操作態様を表しているものである。 したがって,前記要件において,前段の「外部記憶装置から,プロセッサ手段の内部バスに追加情報を供給」しという事項は明細書に記載されており,その供給された追加情報をデータ処理することも記載されている以上,これが後段の「この追加情報を少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させる」は当然であり,記載されているに等しいものである。 2 取消事由2(審決における本願発明と引用発明1の一致点の認定の誤り) 審決は,前掲のとおり,一致点を認定したが,そのうちの「前記情報を前記表示装置に交信する」と「受信情報を手を使わずに表示すべく作動できるようにする」との構成における「交信する」と「受信情報」は,本願明細書の段落【0028】に記載されているように,「外部記憶装置から,プロセッサ手段の内部バスに追加情報を供給する」ことをも意味するものであるが,引用文献1にはその点の記載はなく,これを含めて一致点としたのは誤りである。 審決は,上記のように一致点の認定を誤ったことにより,上記の点を相違点として挙げることをせず,したがって,その相違点について判断していない。 3 取消事由3(審決における相違点についての判断の誤り) 審決においては,コンピュータ機能本体は離れた箇所にあって,表示手段と作動手段のみを身につける,手を用いなくとも操作できる,いわゆるハンドフリー作動手段付きのハンドフリーコンピュータに,通信機能を持たせて,ハンドフリーで外部情報を導入し,検索し,ユーザに表示するための要件として,その相違点1,2の組み合わせがなぜ容易とするのかその論拠は示されていない。 4 取消事由4(手続上の瑕疵) (1) 拒絶査定が拒絶理由通知Aの拒絶理由を理由として行われた瑕疵 特許法17条の2に関する「改正特許法・実用新案法解説」(特許庁総務部総務課工業所有権制度改正審議室編著1994年3月20 初版第3刷発行)の18頁の解説,特許庁の審査審判における平成6年改正法の運用基準を記載した「注解:改正特許・実用新案法のてびき」第2章「審査ガイドライン」とその注釈の43頁の指針に当てはめると,拒絶理由通知Bは,特許法17条の2第1項3号の「最後の拒絶理由通知」に相当する。審査官は,拒絶理由通知Bに対して原告が補正Bをしたことよって,最後の拒絶理由を解消したにもかかわらず,既に解消した拒絶理由通知Aの拒絶理由を理由として,拒絶査定を行った。このことは,同法17条1項の規定及び17条の2の制定の意義を無視したもので,審査の手続上重大な瑕疵である。このように,審査の手続上重大な瑕疵があるにもかかわらず,その瑕疵について,何らの対応がなされずに,審決が行われたことは,違法である。 原告は,審判手続において,審査手続の上記違法について主張を行っていない。 しかしながら,原告は,審判請求に際しての拒絶査定を行った審査官と面接し,面接資料に基づいて,本件出願に係る発明についての説明とともに,拒絶理由の過程を伝えた。この審査官による面接の記録は審判合議体に伝えられ,審判合議体はこのことについては承知していたはずである。しかも,審判請求書の手続補正書(方式,甲10)冒頭の「手続の経緯」の項には,「面接による説明と指摘」を挙げた後,拒絶理由通知Bを挙げている。この記載によって,審査過程における上記手続上の違法性は,当然認識されていたはずである。審判官は,審判における実質審理に入る前の「手続の経緯」を確認する過程での審査において,手続上の違法性を自ら判断すべきであり,この審理を行わず,上記拒絶査定を支持した点に違法性がある。 (2) 本願発明(請求項15に係る発明)について,審査及び審判の過程で,原告に対し,意見を述べ補正を行う機会が与えられなかった瑕疵 審査官による拒絶査定の理由とされた拒絶理由通知Aにおける理由1は,補正@によって補正された請求項に対して行われたものである。しかも,拒絶査定では,最後の拒絶理由通知Bに対してされた補正Bにより補正された請求項については,なんらの指摘もない。そして,審決は,補正Bによる補正後の請求項15の発明(本願発明)についてのみの拒絶査定を認めたものであるが,当該発明については,審査の過程でも,審判の審理の過程でも,原告には意見書又は補正書の提出の機会は何ら与えられてはいない。この点における違法性は免れることはできない。 被告は,拒絶理由通知Aの直前に提出した補正@における請求項17が,上記請求項15の発明(本願発明)に相当するものであると主張する。しかし,審決において拒絶査定の対象となった請求項15に係る「ハンドフリーで情報を検索及び表示するための方法」に係る発明は,補正@の請求項17に係る「携帯型コンピュータのハンドフリー使用のための操作方法」とは単に発明の対象が異なるばかりではなく,それぞれの個々の構成要件も異なる。したがって,拒絶査定の理由1に該当するとした発明の一つである先の請求項17の発明に対する拒絶理由が,その後提出した手続補正書に記載の請求項15の発明に対する拒絶理由でもあるという被告の説明は不条理である。 |
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被告の主張の要点
1 取消事由1(補正Cを却下した決定の誤り)に対して 補正却下の決定においては,「外部記憶装置から,プロセッサ手段の内部バスに追加情報を供給」することが出願当初明細書に記載されているかどうかについては,判断をしているものではない。この点で,原告の主張は前提を欠く。 仮に,上記の事項が出願当初明細書に示されていたとしても,そのことから「この追加情報を少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させる」ことが当然であるといえる根拠も何ら示されていない。この意味においても,原告主張は失当である。 段落【0027】でいう「ホストコンピュータ」が,補正Cの「外部記憶装置」に相当するといえる根拠がない。上記「ホストコンピュータ」は,他の構成要素との接続関係や,機能からすれば,補正Cでいう「プロセッサ手段」に相当するものと考えるのが自然である。また,段落【0027】の記載をみても,「追加情報」という用語自体は何ら示されておらず,しかも「この追加情報を少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させ」ることは全く記載されていないから,原告主張のように,当然であるとはいえない。 段落【0028】において,「追加ウィンドウとして表示するように呼び出すことができる」という事項が,「外部記憶装置からプロセッサ手段の内部バスに追加情報を供給」を意味するとはいえないし,「所見を比較する」が「少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させる」ことを意味するともいえない。「追加情報」「情報の一部」「補助情報」などが【0028】の記載のどの部分に対応するのかは不明であり,対応関係の説明も全く記載されていない。原告主張は失当である。 段落【0029】において,特定のユーザの要求に合致するようにデータ処理することが,すなわち,「この追加情報を少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させる」ことを意味するというのは,明細書に記載もなく,根拠が不明である。 段落【0016】〜【0021】には,眼球追跡システムについての詳細が記載されているのみであって,「外部記憶装置から,プロセッサ手段の内部バスに追加情報を供給し,この追加情報を少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させる」ことについては全く記載されていない。ここに記載された「インターフェース」とは,【0013】【0014】に記載された「ヒューマンインターフェース」や「マンマシーンインターフェース」のことであって,【0007】の「インターフェース」とは技術上明らかに異なるものである。原告のこの主張は誤認に基づくもので,失当である。 段落【0030】にも,補正Cの「この追加情報を少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させる」ことは記載されておらず,特に,コンピュータ装置が有する情報の一部を残していることについては全く記載されていない。 段落【0034】には,Windowsに限らずオペレーティングシステムについての記載は全くなく,原告の主張は明細書には全く根拠がない上,仮に,パソコンの並列処理が周知であったとしても,その並列処理が「プロセッサ手段の内部バスに追加情報を供給し,この追加情報を少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させる」ことを意味するともいえない。 原告は,「メモリ206はアプリケーションプログラム208並びにコンピュータが作動中に他のデータを記憶する」において,「他のデータ」は,前記要件における「追加情報」を意味し,「コンピュータが作動中に他のデータを記憶する」とは,特定目的のために導入した外部情報(データ)をコンピュータが作動中に導入してデータ処理できることを意味する,と主張するが,全く根拠がない。「他のデータ」が「追加情報」や「外部情報」であることは,出願当初明細書中には全く記載がない。また,CPUにインテル社の80386あるいは80XXXシリーズが使用されているからといって,それが「外部記憶装置から,プロセッサ手段の内部バスに追加情報を供給し」たとき,「この追加情報を少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させるハンドフリーで情報を検索及び表示する」を意味するものであることを当然とする根拠も示されておらず,両者は本来全く関係がない。 出願当初明細書には,Windows95などのオペレーティングシステムについての記載は全くなく,CPUがメモリ領域をどのように使用しているかについても全く示されていないから,そのような技術が明細書に記載のハンドフリーコンピュータで用いられていることを前提とした原告の主張は,失当である。 また,そもそも「外部記憶装置から,プロセッサ手段の内部バスに追加情報を供給」するからといって,「この追加情報を少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させる」ことは当然ではない。一般的には,追加情報を他の情報と協同させないで単独で用いる場合や,コンピュータ装置の有する情報の一部を残さない場合なども当然にあり得る。たとえ,「外部記憶装置から,プロセッサ手段の内部バスに追加情報を供給」する発明が出願当初明細書に記載されていたということを言い得たとしても,それだけで,「この追加情報を少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させる」ようにした発明までもが出願当初明細書に記載されていたとはいえない。 2 取消事由2(審決における本願発明と引用発明1の一致点の認定の誤り)に対して 本願明細書の段落【0028】には,「外部記憶装置」に関する直接的な記載はなく,請求項15には,「前記プロセッサが,前記コマンドを電気信号又は情報によって認識し,前記情報を前記表示装置に交信する」また,「前記コンピュータシステムが,ハンドフリー作動コマンドだけを利用して受信情報を手を使わずに表示すべく作動できるようにする」としか記載されておらず,外部記憶装置から,プロセッサ手段の内部バスに追加情報を供給することまでも規定するものではない。したがって,原告の主張は,請求項15の記載に基づかないものである。 情報が外部記憶手段からのものであるかどうかにかかわらず,引用文献1に,「前記情報を前記表示装置に交信する」と「受信情報を手を使わずに表示すべく作動できるようにする」ことが記載されているのは,審決に記載したとおりであって,審決の一致点の認定に誤りはない。 審決には,原告が主張するような相違点の看過や判断の遺脱の違法もない。 3 取消事由3(審決における相違点についての判断の誤り)に対して 前記のとおり,本願発明が,外部との通信機能を持たせたものであるという原告の主張には根拠がない。また,「前記情報を前記表示装置に交信する」ことと,「受信情報を手を使わずに表示すべく作動できるようにする」ことは,引用文献1に記載された事項であって,相違点ではないので,原告の主張は失当である。 仮に,本願発明が,外部との通信機能を持ちハンドフリーで外部情報を導入し,検索し,ユーザに表示するものであるとても,引用文献1には,外部との通信を行うための入出力インターフェース510,アンテナ544等を備えたハンドフリーコンピュータが記載されている(図5)から,引用文献1に記載されたものにおいて,ハンドフリーで外部情報を導入し,検索し,ユーザに表示することは当業者が必要に応じて適宜なし得る事項にすぎない。 審決の判断に誤りはない。 4 取消事由4(手続上の瑕疵)に対して (1) 拒絶査定が拒絶理由通知Aの拒絶理由を理由として行われた瑕疵について 拒絶理由通知Aの後,さらに拒絶理由通知Bがされたが,このことにより,拒絶理由通知Aが撤回されたわけではないから,拒絶査定に手続上の瑕疵はない。 審査段階の拒絶理由通知Bは,「最後」が明示されていないことからも明らかなように,最後の拒絶理由通知ではない上,特許法17条の2は,最後の拒絶理由通知を発した後に,最初の拒絶理由通知で通知した理由により拒絶査定することを禁じるものでもない。よって,拒絶理由通知Aに示した理由により拒絶査定をしたことは,何ら違法ではない。 また,審判においては,当事者が申し立てない理由についてまで常に審理することが求められているわけではないところ,原告は,審判手続中では,審査手続上の瑕疵がある旨の主張は行っていないのであるから,原告の主張は失当である。仮に,審査段階の手続に適切でない点があったとしても,原告は,そのことを審判請求時に主張しなかったので,責問権を喪失している。 (2) 本願発明(請求項15に係る発明)について,審査及び審判の過程で,原告に対し,意見を述べ補正を行う機会が与えられなかった瑕疵について 拒絶理由通知は,出願人に対し特許出願を拒絶すべき事由があることを通知することにより,出願人に意見の陳述の機会を与え,同時に右通知に対応した必要な補正をする機会を与えるものであり,特定の理由による拒絶理由通知がなされているときは,既に出願人に意見の陳述と補正の機会が与えられているのであるから,重ねて同一の理由を示して拒絶理由通知をしなくても出願人の利益保護に欠けるところはない。 本件においては,審決が本件出願を拒絶すべきものとした理由は,拒絶理由通知書Aにおける理由1として原告に通知され,意見書,補正書を提出する機会が与えられ,適正な手続がなされたことは明らかである。本件手続に違法はない。 原告は,審査段階における拒絶理由通知A及びBに対して意見を述べ,明細書について補正をする機会が与えられたことを受けて,拒絶理由通知Aの時における請求項17を補正Bにより拒絶査定時における請求項15に補正したのであるから,原告には,意見を述べ,補正をする機会は十分に与えられている。 発明の対象や個々の構成要件が,補正の前後で互いに相違していたとしても,当該補正の前後の両発明が,共に,通知した拒絶理由に示された引用発明から容易に発明できたものである場合は十分にあり得るのであり,先の請求項17の発明に対する拒絶理由が,その後提出した手続補正書に記載の請求項15の発明に対する拒絶理由でもあるということは,何ら不条理なことではない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(補正Cを却下した決定の誤り)について (1) 本願発明の出願当初明細書(甲3)の【従来の技術】段落【0002】〜【0003】,【発明が解決しようとする課題】段落【0004】〜【0006】,【課題を解決するための手段】段落【0007】においては,「記憶手段」,「ETMやIETMの大きなデータベース」,「データベースを含む記憶装置」,「データを含む様々な記憶手段」,「先に入力する情報」の記載があるが,「追加情報」や「補助情報」についての記載はなく,補正Cの請求項15における「この追加情報を少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させる」を導き出せる記載はない。 (2) 原告は,前記第3,1(2)のように主張するが,コンピュータ装置がテレビのような単なる受動的な受信装置と異なる点は,入力,演算,出力を行う点にあるといっても,「追加情報」や「補助情報」がどの情報を指すのか定義されず,コンピュータ装置の処理として,「情報の一部を残して」や「協同させる」がどのような処理であるかが特定されないとするならば,「外部記憶装置から,プロセッサ手段の内部バスに追加情報を供給」した場合には,「この追加情報を少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させる」ことはコンピュータ装置が有する当然の機能である,とはいえないのは明らかである。 したがって,仮に,「外部記憶装置から,プロセッサ手段の内部バスに追加情報を供給」したことが記載されていても,「この追加情報を少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させる」ことを導き出せないのは明らかであり,原告の主張は,採用し得ない。 (3) 本願発明の出願当初明細書(甲3)には,次のような記載がある。 「【0027】第1の態様では,作動手段,ディスプレイスクリーン,通信手段を有するヘッドセットを持つユーザは,表示手段内に含まれるユーザの人が装着ないしその人から離れたホストコンピュータと連結されている。ユーザはホストコンピュータに装置のある部品を修理する特定の手順を表示するように命令するとする。そこでホストコンピュータはその手順を探索し,ユーザに送り返してユーザのヘッドセットに表示する。 【0028】第2の態様では,ホストコンピュータは更に,装置のある部品を修理するチームとして作業するヘッドセットを有する数人のユーザに対応することができる。ユーザはすべて同一の手順から作業したり,別の手順をディスプレイ内の追加ウィンドウとして表示するように呼び出すことができる。このようにしてチームメンバは更にチームメンバ間でシステムを相互接続の形で通信手段として並びにシステムの図形表示機能を用いて所見を比較する手段として利用することができる。チームが必要とする情報がいくつかのホストコンピュータに含まれる場合がある。そこでそれぞれのヘッドセットの通信手段を,それぞれのヘッドセットがいくつかのホストにアクセスでき,また作動しているいくつかのヘッドセットを1台のホストにアクセスできるように構成して調整する。 【0029】明らかに本システムはいくつかの互いに相互作用する移動式コンピュータ装置の構成部分で機能する。上述の例のように,1台の移動式コンピュータのヘッドセットは他の移動装置から表示を受け取ったり,別の移動式コンピュータの作動手段を数値化することができる。 【0030】本発明の実施例の更なる機能は,それぞれの移動式コンピュータで使用するアダプタを利用してその中でセルラないし有線電話通信を可能にすることである。セルラ電話通信手段の代わりに,無線周波数,赤外線,レーザ,光ファイバトランシーバその他の通信手段を使用できる。それらは本開示で全般的に「通信手段」と称することにする。通信手段はホストコンピュータを通してあるいはヘッドセットをその内蔵通信機能と共に使用してアクセスできる。従って通信はヘッドセット間,ヘッドセットとホストコンピュータ間,及び制御装置としてヘッドセットにより起動したホストコンピュータ間で行うことができる。作業シナリオとしてタンクを修理しているユーザのチームを考える。ホストコンピュータユニットはチームリーダのベルトに配置する。他のチームメンバはそのヘッドセットを用いてホストコンピュータを起動する。一人のチームメンバが修理現場から2マイルの修理工場の後ろにあるホストコンピュータに記憶された情報を必要とする。このチームメンバはこのヘッドセット通信手段とセルラ電話リンクを用いて修理工場のリモートホストコンピュータにアクセスする。必要情報はそのヘッドセットで参照し,見ることができる。正しい参考資料を得た後,それを修理現場のホストにダウンロードして他のチームメンバがそのヘッドセットで見て利用できるようにする。このようにチームメンバのヘッドセットによりローカル及びリモートホストを起動することができる。次にリモートホストから情報を入手して,ローカルホストコンピュータにダウンロードする。 【0031】チームメンバはその間でヘッドセット間通信リンクを用いて及び必要に応じてホストコンピュータと通信できる。ローカル通信ではヘッドセットとホスト間及びヘッドセット間をリンクする様々な手段を使用できる。分散赤外線は盗聴機密可能性,帯幅,低い構成部品コスト,通信の信頼性故に,ローカルリンクの媒体として有用である。」 (a) 原告は,前記第3,1(3)(a)のように主張する。 しかしながら,段落【0027】の記載からは,「この追加情報を少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させ」てとの技術的事項を導き出すことはできない。 (b) 原告は,前記第3,1(3)(b)のように主張する。 しかしながら,段落【0028】における「追加ウインドウとして表示するように呼び出すことができる」ということが,「外部記憶装置から,プロセッサ手段の内部バスに追加情報を供給」することを意味するものといえるものではないし,そのように導き出すこともできないことは明らかである。また,「所見を比較する」処理も,「少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させる」との処理を意味するものとはいえないし,そのように導き出すこともできない。そして,「いくつかのホストにアクセスでき,また作動しているいくつかのヘッドセットを1台のホストにアクセスできるように構成して」が,「追加情報を供給」するだけではなく,ユーザのコマンドに適用させるように,「少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させる」ことを意味するともいえない。原告の主張は,採用することができない。 (c) 原告は,前記第3,1(3)(c)のように主張する。 しかしながら,段落【0029】に記載の「上述の例のように,1台の移動式コンピュータのヘッドセットは他の移動装置から表示を受け取ったり,別の移動式コンピュータの作動手段を数値化することができる。」には,「外部記憶装置」,「追加情報」についての記載がないから,「外部記憶装置から,プロセッサ手段の内部バスに追加情報を供給し」ということを導き出すことはできず,また,特定のユーザの要求に合致するようにデータ処理することは,「この追加情報を少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させる」ことを意味するものではない。したがって,段落【0029】から,「この追加情報を少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させる」ことを導き出すことはできない。原告の主張は,採用し得ない。 (4) 本願発明の出願当初明細書(甲3)には,次のような記載がある。 「【0016】最近,海軍用のコンピュータインターフェイスのプロトタイプがバージニア州ダルグレンの海軍海上戦闘センタ(Naval Surface Warefare Center)で実証された。このインターフェイスにより,オペレータはコンピュータディスプレイ内の項目をそれを見るだけで選択できる。この計画はAEGISワークステーションで現在使用されているトラックボールインターフェイスを,よく早く,疲れが少なく,より正確な眼球追跡インターフェイスで置き換えるものである。 【0017】「仮想トラックボール」の原理は単純である。オペレータの目の1つを自動映像追跡器で補足して追跡する。眼球の中心と瞳孔の中心の位置を別々に計算する。空間内のそれらの2つの地点はオペレータが見ている地点のコンピュータディスプレイを通過する線を決定する。この位置データにより,目でちょうどマウスと同様にコンピュータに情報を与えることができる。 【0018】オペレータはディスプレイスクリーンの水準点を見て追跡器を校正する。それによりそれぞれのオペレータは快適な位置,ディスプレイからの距離,頭と首の姿勢を選択することができる。校正データを使用してディスプレイ上の関心地点を計算するのに使用する数式の定数を補正する。 【0019】校正を完了すれば,頭を自由に動かすことができる。快適な姿勢を選択したオペレータの通常の小さい動きは「仮想トラックボール」の精度にほとんど影響を与えない。まばたきをしても追跡器のロックが失われることはない。(例えばオペレータが瞬時にディスプレイから目を離した時に)ロックが喪失すれば,追跡は停止して,カメラも停止する。オペレータがディスプレイに戻ると,カメラはロックを喪失した同一箇所で目を再び捕捉する用意をする。 【0020】「注視線」ないしオペレータの目が見ている空間内の線を計算するため,眼球と目の瞳孔を別々に追跡する。眼球は,角膜からのIR(赤外線)基準光の反射を眼球の中心の位置の指標として用いて空間内で追跡する。角膜はほぼ球面であるので,基準位置は眼球の回転の影響をあまり受けない。従って眼球の中心に関する瞳孔の中心の位置を常に計算することができ,それらの2つの地点の位置は注視線に関係する。瞳孔と角膜の反射差の測定値は,+/-15度の視角以上でほぼ線形である。大きな目の動きはより複雑な計算で処理する。 【0021】基本システムは単純である。標準の高感度CCDでIR光源で照射した眼球を映像化する。最初のプルキンエ(Purkinje)像すなわち角膜反射はこの照射器で形成する。瞳孔は,IR光源は検出器の軸から外れており,IRを吸収するので,暗像として追跡される。照射器の配置は計算にとって重要ではなく,眼球上の基準反射の質を最適化することができる。これによりフォスタ・ミラー刊行物からの引用を終了する。 【0030】本発明の実施例の更なる機能は,それぞれの移動式コンピュータで使用するアダプタを利用してその中でセルラないし有線電話通信を可能にすることである。セルラ電話通信手段の代わりに,無線周波数,赤外線,レーザ,光ファイバトランシーバその他の通信手段を使用できる。それらは本開示で全般的に「通信手段」と称することにする。通信手段はホストコンピュータを通してあるいはヘッドセットをその内蔵通信機能と共に使用してアクセスできる。従って通信はヘッドセット間,ヘッドセットとホストコンピュータ間,及び制御装置としてヘッドセットにより起動したホストコンピュータ間で行うことができる。作業シナリオとしてタンクを修理しているユーザのチームを考える。ホストコンピュータユニットはチームリーダのベルトに配置する。他のチームメンバはそのヘッドセットを用いてホストコンピュータを起動する。一人のチームメンバが修理現場から2マイルの修理工場の後ろにあるホストコンピュータに記憶された情報を必要とする。このチームメンバはこのヘッドセット通信手段とセルラ電話リンクを用いて修理工場のリモートホストコンピュータにアクセスする。必要情報はそのヘッドセットで参照し,見ることができる。正しい参考資料を得た後,それを修理現場のホストにダウンロードして他のチームメンバがそのヘッドセットで見て利用できるようにする。このようにチームメンバのヘッドセットによりローカル及びリモートホストを起動することができる。次にリモートホストから情報を入手して,ローカルホストコンピュータにダウンロードする。 【0034】B.数台のワイヤレスヘッドセット-ホストコンピュータ間:保守要員のチームが飛行機の保守点検を行っているとする。チームのそれぞれのメンバはチームリーダが腰に装着したモービルアシスタント(Mobile Assistant(商標))ホストコンピュータとの間でワイヤレス通信リンクを有するモービルアシスタント(Mobile Assistant(商標))ヘッドセットを装備する。チームのそれぞれのメンバは通信したりホストコンピュータの様々な機能を作動することができる。チームの様々なメンバが異なるデータを必要とする場合は,それぞれそのデータ用の別々の表示ウィンドウを利用することになる。更にそれぞれのヘッドセットは相互通信のためにヘッドセット間で通信を可能にする回路を有している。これは音声コマンドを用いてないしヘッドセットに搭載した眼球追跡機能を用いてユーザのヘッドセットディスプレイ上の適切なアイコンを起動することでそのモードに切り替えることで行うことができる。 【0055】図2は本実施例のコンピュータ102の主な構造的機能を示す模式的なブロック図である。コンピュータ102には,少なくとも16ビットのデータ幅を好適に有するバス202が含まれている。本実施例では,バス202はシステムユニット106内に含まれている。コンピュータ102は更に中央演算装置(CPU)204などのプロセッサ手段を含み,それはバス202に接続され,更に好適にシステムユニット106内に含まれている。好適にはCPU204はインテル(Intel)から市販されているような16ないし32,64ビットマイクロプロセッサである。当業者にはインテル80386ないしそれより速いマイクロプロセッサが好ましいが,現在あるいは将来入手可能などのような中央プロセッサないしマイクロプロセッサをも使用できることが理解されよう。 【0056】コンピュータ102は更に,例えば数千Mバイトのランダムアクセスメモリ(RAM)を有するメモリ206を有している。バス202に接続したメモリ206はソリッドステート,磁気記憶装置からなり,好適にはシステムユニット106内に含まれる。 メモリ206はアプリケーションプログラム208並びにコンピュータが作動中に他のデータを記憶する。 【0057】アプリケーションプログラム208はオペレータの指示に従って磁気記憶装置219(後述)からメモリ206にロードしておくことができる。 【0058】コンピュータ102は更にCPU204及びCPU204と交信するがバス202に直接接続されていない特定の他の構成部分(ここでは周辺装置と称する)の間ですべてのデータの転送を制御する入出力インターフェイス210を含んでいる。好適には入出力インターフェイス210は,映像インターフェイス,少なくとも2つのRS232コンパチブルシリアルポート用のコントローラ,セントロニクス・コンパチブルパラレルポート用のコントローラ,キーボード及びマウス・コントローラ,フロッピィディスク・コントローラ,ハードドライブインターフェイスを有する。しかし当業者には入出力インターフェイス210には,イーサネット(Ethernet(登録商標)),アークネット(Arcnet(登録商標)),トークンリングインターフェイスなどの他の種類の周辺装置で使用する追加の,あるいは,異なるインターフェイスやコントローラを含めることができることが明白であろう。入出力インターフェイス210はバス202に接続され,好適にシステムユニット106内に位置している。 【0059】コンピュータ102は更に,集合的に上述の物理的周辺ポートや付随する電気回路を示す入出力コネクタ218を含んでいる。しかし当業者には,入出力コネクタ218には追加ないし異なる種類の物理的ポートを含めることができることが理解されよう。 【0060】コンピュータ102には更に,内部バッテリ239,外部バッテリ240,通常の電気コンセントなどのAC電源に接続した電力変換装置236が含まれている。電力変換装置236と内部バッテリ239は好適にはシステムユニット106内に配置するが,外部バッテリ240はシステムユニット106外にあり,好適にはベルト104に取り付ける。外部バッテリ240は外部電源ポートを通して電力変換装置236に接続する。コンピュータ102を「デスクトップ」モード(例えば非携帯モード)で使用する場合,外部バッテリ240をAC電源に接続して安定化DC電力をコンピュータ102に供給できる。コンピュータ102を携帯モードで使用する場合は,電力変換装置236を通常,内部バッテリ239ないし外部バッテリ240に接続して,安定化DC電力をコンピュータ102に供給する。好適には内部バッテリ239は,電力変換装置236が外部バッテリ240にもAC電源にも接続されていない場合のみ,電力変換装置236(及び最終的にコンピュータ102)に電力を供給する。コンピュータ102は更に内部バッテリ239と外部バッテリ240を使用していないときに充電する別のバッテリ充電器234を有している。コンピュータ102にはシステムユニット106に取り付け,外部バッテリ240ないし内部バッテリ239の電力レベルが低い場合を示すバッテリ出力のインジケータを含めることも可能である。 【0061】好適に上述のバス202,CPU204,メモリ206,入出力インターフェイス210,入出力コネクタ218,電力変換装置236は,当業者には周知の形で,バックプレーン回路カード,プロセッサ回路カード,メモリ回路カード,入出力回路カード,入出力回路カードを用いて実施する。プロセッサ回路カード,メモリ回路カード,入出力回路カード,入出力回路カードはバックプレーン回路カードに差し込む。好適には,コロラド州ロングモントのDover Electronics Manufacturing社及びカリフォルニア州サニーベールのAmpro Computers社から販売されているIBM PC/ATコンパチブル及び80386コンパチブル回路カードを使用する。Dover Electronics Manufacturing社の回路カードは約2インチ×5インチ×2インチの立方空間を占めるが,Ampro社のそれぞれの回路カードは約3.8インチ×3.6インチである。しかし当業者には,Dover Electronics Manufacturing社から販売されている回路カードは,システムユニット106の比較的小さいサイズに合致する機能的に互換性のあるどのような回路カードででも置き換えることができることが分かるであろう。 【0062】コンピュータ102は更に表示手段を含み,表示手段は図1について上述したように本実施例では,ヘッドバンド108,ディスプレイスクリーン110及びディスプレイスクリーン110とヘッドバンド108を接続する調節可能アーム112を含んでいる。図2に示すように,表示手段は更にディスプレイスクリーンドライバモジュール214を含んでおり,それは好適にはシステムユニット106内に配置するが,代わりにディスプレイスクリーン110に隣接してシステムユニット106外に配置することもできる。ディスプレイスクリーンドライバモジュールは,(入出力インターフェイス210,バス202及び入出力コネクタ218を通して)CPU204から受け取った表示情報(すなわちオペレータに対して表示する情報)を,ディスプレイスクリーン110に送りまたそれと互換性がある映像信号に変換する。ディスプレイスクリーンドライバモジュール214は当業者には周知の標準設計のものである。 【0063】作動手段122及びモジュール222は,音声,眼球追跡あるいはEEGないしその組合せとすることができる。 【0064】好適には,ディスプレイスクリーン110は「接眼モニタ」と称するミニチュアモニタとし,通常の12インチモニタ(すなわち約25行×80文字/行)に相当する表示を提供するが,約1インチの対角長さのビュースクリーンを有している。ディスプレイスクリーン110はオペレータの目の近くにあり,オペレータの頭で支持しており,オペレータの頭の動きに従うので,オペレータは作業場(たとえば,装置が修理中である)から離れることなく,単に修理中の装置からディスプレイスクリーン110に目を移すだけでディスプレイスクリーン110を見ることができる。従って,上述したように,ディスプレイスクリーン110は,電子データベースに含まれる情報を検索するのに役に立ち,作業から大きく注意をそらすことなくこのような情報を見ることができる。 【0065】当業者にとって,ディスプレイスクリーン110及びディスプレイスクリーンドライバモジュール214は,カラーグラフィックスアダプタ(CGA)及びエンハンスドグラフィックアダプタ(EGA),映像グラフィックスアレイ(VGA),スーパーVGAなどの現在及び将来入手可能などのような映像技術を用いても実施できることが明らかであろう。しかし本実施例では,ディスプレイスクリーン110とディスプレイスクリーンドライバモジュール214は周知のモノクロ及びカラー映像グラフィックアレイ(VGA)技術を用いて実施している。VGA接眼モニタは,AMLCDモニタを製造販売しているマサチューセッツ州タウントンのコピン(Kopin)社から入手できる。VGA接眼部品は,カラーないしモノクロコンピュータディスプレイを提供するマトリックス状のアクティブ薄膜トランジスタ(TFT)を用いて作動できる。そのような装置は業界で製造されており,当業者には周知である。また周知のカラーシャッタホイール技術に従って作動するVGA接眼モニタは,オレゴン州ビーバートンのテクトロニクス(Tektronix)社が製造するニューカラー(Nucolor(商標))シャッタなどのソースから現在入手できる。好ましいディスプレイスクリーンは左ないし右の目の正面に配置した単一スクリーンであるが,2つ以上のスクリーンを有する双眼頭部装着式ディスプレイ(HMD)を使用できる。これは液浸とすることができ(上部と側部の視野はすべて妨げられるのでユーザはスクリーン上の画像だけしか関係することができない)あるいはユーザの視野の一部としてユーザがディスプレイの上ないし下側を見られるようにできる。そのような装置は仮想現実の新しい技術あるいは表示情報に関係するのに立体視野が必要な場合に利用される。表示手段は代わりにシステムユニット106に取り付けた平らなパネルディスプレイスクリーンとすることができる。平らなパネルには,現在普及している液晶ディスプレイ(LCD)や薄膜トランジスタ(TFT)(アクティブマトリックス)設計に加えて,シリコンビデオ(Silicon Video)社,テキサスインスツルメント(Texas Instruments)社及びミクロンテクノロジ(Micron Technology)社が生産しているような電界放射ディスプレイ(FED)を含めることができる。」 (a) 原告は,前記第3,1(4)(a)のように主張する。 しかしながら,段落【0016】の「インターフェイス」は,機械と人間とのコミュニケーションをよくするためのヒューマンインターフェイス(甲3段落【0013】)であって,「このインターフェイスにより,オペレータは,コンピュータディスプレイ内の項目を見るだけで選択できる。」ということが,「外部記憶装置から,プロセッサ手段の内部バスに追加情報を供給し,この追加情報を少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させる」ことを導き出すことができないことは明らかである。 (b) 原告は,前記第3,1(4)(b)のように主張する。 しかしながら,段落【0019】では,目の関心地点を比較する上で実施していることと「追加情報」との関係が特定して記載されていないから,「追加情報とコンピュータ装置が有する情報と協同させる」ことを導き出すことはできない。 (c) 原告は,前記第3,1(4)(c)のように主張する。 しかしながら,段落【0030】には,「追加情報」や「補助情報」の記載がないので,「このようにチームメンバのヘッドセットによりローカル及びリモートホストを起動することができ,次にリモートホストから情報を入手して,ローカルホストコンピュータにダウンロードする。」という記載が,「外部記憶装置から,プロセッサ手段の内部バスに追加情報を供給し,この追加情報を少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させるハンドフリーで情報を検索及び表示する」ということを導き出し得るとはいえない。 (d) 原告は,前記第3,1(4)(d)のように主張する。 しかしながら,Windows95の機能が周知であるとしても,段落【0034】において,「外部記憶装置」,「追加情報」や「補助情報」についての記載はなく,段落【0034】の記載から,「プロセッサ手段の内部バスに追加情報を供給し,この追加情報を少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させる」ことを導き出すことはできない。 (e) 原告は,前記第3,1(4)(e)のように主張する。 しかしながら,段落【0056】において,「他のデータ」と「追加情報」との関係が特定されているわけではなく,「補助情報」が導き出されることはなく,「外部記憶装置」や「補助情報」についての記載はなく,段落【0056】の記載から,「プロセッサ手段の内部バスに追加情報を供給し,この追加情報を少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させる」ことを導き出すことはできない。 (f) 原告は,前記第3,1(4)(f)のように主張する。 しかしながら,インテル社の80386あるいは80XXXシリーズが使用されている記載があるとしても,出願当初明細書に「追加情報」や「補助情報」についての記載はないから,そこからは,「プロセッサ手段の内部バスに追加情報を供給」することも,「この追加情報を少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させる」ことも,いずれも導き出すことはできないのは明らかである。 (5) 原告は,前記第3,1(5)のように主張する。 しかしながら,「外部記憶装置から,プロセッサ手段の内部バスに追加情報を供給」しという事項は,出願当初明細書に記載されているとはいえず,「出願当初明細書に記載のCPUはインテル社の80386以降のCPU(32ビット)の使用を指定しており,高機能のものであり,プログラム本体やデータ領域のメモリーを壊さない仕組みが確立され,コンピュータが勝手にメモリーを消去できないようになっている」としても,出願当初明細書に,本願発明でその仕組みをどのように構成に取り込んだのかを含め,「追加情報」や「補助情報」についての記載はないから,「プロセッサ手段の内部バスに追加情報を供給」することも,「この追加情報を少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させる」ことも,いずれも導き出すことはできないことは明らかである。 (6) 以上のとおりであるから,「少なくともコンピュータ装置が有する情報の一部を残して,コンピュータ装置が有する補助情報及びデータと協同させる」という事項を付加することを含む補正Cは,願書に最初に添付した明細書,又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえない。よって,補正Cを却下した決定は,是認し得るものであって,原告主張の取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(審決における本願発明と引用発明1の一致点の認定の誤り)について (1) 甲4の記載内容に照らせば,審決が引用発明1の内容につき,「マイクロホン122,ディスプレイスクリーン110,及びプロセッサ手段(CPU504,メモリー506)を有するハウジング(システムユニット106)を含み,計算機102が提供する画像をユーザが手を使わずに見れるようにユーザに装着した前記ディスプレイスクリーン110及び前記マイクロホン122を有する携帯用計算機102を提供及び利用する段階と,前記プロセッサ手段は,メモリー506を含み,かつ,ユーザに取り外し可能に装着されるもので,通常のキーボード無しにオーディオコマンドだけを用いて手を使わずに作動させて,そのプロセッサの動作を計算機の処理に変換するオーディオコマンドを用いて指示する段階と,前記プロセッサ手段の中でオーディオコマンドを電気信号に変換し,前記プロセッサが,前記コマンドを電気信号又は情報によって認識し,前記情報を前記 ディスプレイスクリーン 110 に交信 する ことによって前記認識されたコマンドに応答する段階と,前記携帯用計算機102が,オーディオコマンドだけを利用して受信情報を手を使わずに 表示 すべく 作動 できるようにする という段階と,マイクロホン122を作動する段階を有するハンドフリーで情報を検索及び表示するための方法。」(甲1,5頁2行〜19行。下線は判決が付した。)とした認定は,是認し得るものである。 これと,前記第2,2(1)に記載した本願発明の構成とを対比すれば,審決の一致点の認定に誤りはないというべきである。 原告は,明細書の段落【0028】の記載を援用する。しかし,同段落では,「第2の態様では,ホストコンピュータは更に,装置のある部品を修理するチームとして作業するヘッドセットを有する数人のユーザに対応することができる。ユーザはすべて同一の手順から作業したり,別の手順をディスプレイ内の追加ウィンドウとして表示するように呼び出すことができる。このようにしてチームメンバは更にチームメンバ間でシステムを相互接続の形で通信手段として並びにシステムの図形表示機能を用いて所見を比較する手段として利用することができる。チームが必要とする情報がいくつかのホストコンピュータに含まれる場合がある。そこでそれぞれのヘッドセットの通信手段を,それぞれのヘッドセットがいくつかのホストにアクセスでき,また作動しているいくつかのヘッドセットを1台のホストにアクセスできるように構成して調整する。」と記載されているだけであり,本願発明の「交信する」と「受信情報」を,「外部記憶装置から,プロセッサ手段の内部バスに追加情報を供給する」こととして限定して解釈すべきことを示唆するものではない。 (2) 上記のとおり,審決が,「前記情報を前記表示装置に交信する」と「受信情報を手を使わずに表示すべく作動できるようにする」を一致点と認定したことに誤りがないのであるから,審決が,これらの点につき,相違点として挙げず,判断もしていないからといって,違法であるとはいえない。 (3) 原告主張の取消事由2は,採用することができない。 3 取消事由3(審決における相違点についての判断の誤り)について 原告は,前記第3,3のとおり,「要件」として主張するが,「ハンドフリーで外部情報を導入し」との構成に本願発明が限定されるとするなど,要するに,一致点の認定の誤りとして主張する前記諸点が本願発明と引用発明1との相違点であるということを前提とし,あるいはそのことを表現を変えてなす主張であると解される。しかし,既に判示したところに照らせば,審決の一致点及び相違点の認定に誤りはないのであって,原告の主張は採用の限りではなく,その他,審決の相違点1,2についての判断に誤りがあるとは認められない。 4 取消事由4(手続上の瑕疵)について (1) 平成11年9月20日付け拒絶理由通知B(甲5-5)によれば,同日付けの拒絶理由通知Bは,請求項13及び15に係る発明は明確でないとして,特許法36条6項2号所定の要件を満たしていないことを拒絶理由としている。これに対し,平成12年3月6日付けの拒絶査定(甲8)は,平成11年4月8日付けの拒絶理由通知A記載の理由1(当時の請求項17を含む請求項に係る発明は特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない,というもの。請求項17は,補正Aにより請求項15となった。下記の(2)の説示参照。)によって拒絶する,としたものである。 ここで,性質上,特許法36条6項2号所定の要件が充足されたとしても,当然に特許法29条2項の規定の適用を免れるものではなく,請求項15に係る発明に関しては,拒絶理由通知Aにおける拒絶理由の通知が維持されているものというべきであり,拒絶査定が拒絶理由通知Aに記載の拒絶理由を引用したことに違法はないというべきである。 ただし,拒絶理由通知Bには,「これらの請求項以外の請求項に係る発明については,現時点では拒絶の理由を発見しない。拒絶の理由が新たに発見された場合には拒絶の理由が通知される。」と付記されており,他方,拒絶理由通知Aには,進歩性欠如の拒絶理由(理由1)のほか,請求項15(当時)に係る発明について特許法36条6項などの拒絶理由(理由2)も掲げられていたのに,拒絶理由通知Bにおいては,請求項13及び15に係る発明は明確でないという拒絶理由のみが掲げられていることからすると,出願人の原告としては,拒絶理由通知Aで進歩性欠如を指摘された請求項17(補正後の15)以外の請求項についての進歩性欠如の拒絶理由への対処にとまどったのではないかということも理解し得ないではない。 この点につき原告は,拒絶理由通知Bが特許法17条の2第1項3号所定の「最後の拒絶理由通知」に該当することを前提にして,審査手続に瑕疵があったことを主張する。しかし,同拒絶理由通知には,「拒絶の理由が新たに発見された場合には,拒絶の理由が通知される。」と付記されていて,同拒絶理由通知をもって「最後の拒絶理由通知」と認めることはできないし,原告は,拒絶査定不服の審判請求をするに際して補正Cの手続補正をしていて,上記審査の瑕疵については審判において何ら主張していないところである。したがって,上記の事実関係をもって,拒絶理由通知及び補正の経緯を前提として審理した審判段階での手続の違法があったと解すべきまでの瑕疵があったということはできない。 取消事由4の(1)の原告の主張は理由がない。 (2) 証拠(甲1,5-2・3・5・6,8,11)及び弁論の全趣旨によれば,拒絶理由通知Aは,補正@による補正後の請求項17について,引用発明1及び引用文献2に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとして,特許法29条2項により特許を受けることができないとの拒絶理由を通知するものであったこと,原告は,拒絶理由通知Aに対し,意見書を提出するとともに補正Aをし(この事実は原告が訴状2頁で自認するところである。),請求項の数を20から17に減じ,上記請求項17を補正して新たな請求項15としたこと,その後,拒絶理由通知Bにより,上記請求項15につき,内容が技術的に不明瞭であるとの拒絶理由が通知されたこと,その後の補正Bでは,請求項15は請求項番号を維持したまま,内容の補正がされたこと,そして,拒絶理由通知Aによって通知された拒絶の理由に基づいて拒絶査定がされたこと,審判段階でされた補正Cの却下決定により,審決では,上記補正Bによる補正後の請求項15に係る発明が本願発明とされ,引用発明1及び引用文献2,3に記載された周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとして,特許法29条2項により特許を受けることができないと判断され,審判請求不成立との結論が導かれたことが認められる。 なお,原告は,補正Aによる補正前の請求項17と同補正後の請求項15とが異なるなどと主張する。しかし,補正Aによる補正前の特許請求の範囲をみると(甲11),請求項1が装置に関する発明で,これに従属した装置の発明として請求項2ないし16が記載され,請求項17が独立した操作方法に関する発明で,これに従属した操作方法の発明として請求項18ないし20が記載されている。一方,補正A(甲5-3)においては,請求項の数が17とされ,請求項1が装置に関する発明で,これに従属した装置の発明として請求項2ないし14が記載され,請求項15が独立した操作方法に関する発明で,これに従属した操作方法の発明として請求項16,さらにこれに従属した操作方法の発明として請求項17が記載されている。そうすると,操作方法に関する独立の請求項である上記補正前の請求項17が,操作方法に関する独立の請求項である上記補正後の請求項15へと補正されたことは明らかであるというべきである。 以上の事実によれば,上記拒絶理由通知Aに対する意見書,補正書の提出の機会が原告に与えられたことにより,本願発明(補正Bによる補正後の請求項15に係る発明)について,既に意見陳述の機会及び補正の機会は与えられているというべきである。 取消事由4の(2)の原告の主張も理由がない。 5 結論 以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。 |
裁判長裁判官 | 塩月秀平 |
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裁判官 | 田中昌利 |
裁判官 | 高野輝久 |