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関連審決 訂正2005-39025
関連ワード 技術的思想 /  創作性(創作) /  使用方法 /  新規性 /  公然知られ(29条1項1号) /  守秘義務 /  秘密保持義務 /  共同開発 /  公然実施(29条1項2号) /  容易に実施 /  進歩性(29条2項) /  技術的範囲 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  明細書の記載要件 /  実質的に同一 /  特許出願日 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  信義則 /  禁反言 /  特許発明 /  実施 /  社会通念 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  損害額 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  減縮 /  変更 /  釈明 /  訂正明細書 / 
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事件 平成 17年 (ネ) 10085号 特許権侵害差止等請求控訴事件
控訴人テクトロニクスインコーポレイテッド
訴訟代理人弁護士松尾和子,高石秀樹
訴訟代理人弁理士大塚文昭,近藤直樹
補佐人弁理士竹内英人,中村彰吾
被控訴人リーダー電子株式会社
訴訟代理人弁護士大場正成,尾崎英男,磯部健介
補佐人弁理士大塚住江,中西基晴
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/09/26
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
全容
第1当事者の求めた裁判1控訴人原判決を取り消す。
被控訴人は,別紙物件目録1ないし3記載の装置を製造し,販売し,販売のために展示するなど販売の申出をしてはならない。
被控訴人は,被控訴人の占有に係る上記装置の完成品及びその半製品を廃棄せよ。
被控訴人は,控訴人に対し,5億円及びこれに対する平成16年5月20日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は一審,二審を通じ,被控訴人の負担とする。
2被控訴人主文と同旨。
第2事案の概要本件は,特許権を有する控訴人が,被控訴人が販売する装置が特許権を侵害するとして,特許権に基づき,被控訴人が販売する装置の製造,販売又は販売の申出の差止め及び同装置の廃棄,並びに,被控訴人が同装置を販売したことに基づく損害金(一部請求)及び遅延損害金の支払いを求めた事案である。原審は,特許権には公然と実施された発明に基づく進歩性欠如の無効理由が存在することが明らかであるとして控訴人の請求をいずれも棄却し,控訴人がこれを不服として控訴した。
1争いのない事実等( )日本テクトロニクス株式会社は 次の特許権(以下 本件特許権 という )1 ,「」。
を有していた(甲2 。)特許番号第2974301号発明の名称トリガ生成回路及び波形表示装置出願日平成10年1月23日(以下「本件出願日」という )。
登録日平成11年9月3日( )後記( )記載の本件訂正前の明細書(甲3)の特許請求の範囲の請求項524の記載は,次のとおりである。
「第1テレビジョン信号が入力される第1入力端子と,上記第1テレビジョン信号と1フィールドの周期は等しいものの上記1フィールド当たりの走査線数が異なる第2テレビジョン信号中の少なくとも垂直同期信号が入力される第2入力端子と,上記第2テレビジョン信号の上記垂直同期信号に位相ロックされ,上記第2テレビジョン信号の上記垂直同期信号の周期を上記第1テレビジョン信号の1フィールド中の走査線数で等分した周期のトリガ信号を生成するトリガ生成手段と,上記トリガ信号に応じて上記第1テレビジョン信号の波形を表示する表示手段とを具える波形表示装置」( )日本テクトロニクス株式会社は,テクトロニクス・インターナショナル・3セールス・ゲーエムベーハー(以下「テクトロニクス・インターナショナル」という。)に対し,本件特許権を譲渡し,平成15年1月16日,その旨の登録がされた。
,,, テクトロニクス・インターナショナルは 控訴人に対し 本件特許権を譲渡し平成16年5月12日,その旨の登録がされた。また,テクトロニクス・インターナショナルは,控訴人に対し,同年4月7日,テクトロニクス・インターナショナルが本件特許権の侵害によって被控訴人に対して取得した損害賠償請求権を譲渡した。(甲2,3,7の1・2,弁論の全趣旨)( )控訴人は,平成17年1月28日付け訂正審判請求書により,特許庁に対4し,明りょうでない記載の釈明及び特許請求の範囲減縮を理由として,本件特許権に係る明細書の訂正(以下「本件訂正」という )を求める審判請求をし,特許 。
庁は,これを訂正2005-39025号事件として審理し,平成17年3月30日,上記審判請求書添付の明細書及び図面のとおり訂正することを認める旨の審決をした(甲21,22 。)( )本件訂正後の明細書(甲22。以下「訂正明細書」という )の特許請求5 。
の範囲の請求項5の記載は,次のとおりである(以下,同請求項に記載された発明を「訂正発明5」といい,訂正発明5に係る特許を「本件特許」という。。)「第1テレビジョン信号が入力される第1入力端子と,上記第1テレビジョン信号と1フィールドの周期は等しいものの上記1フィールド当たりの走査線数が異なる第2テレビジョン信号中の少なくとも垂直同期信号が入力される第2入力端子と,上記第2テレビジョン信号の上記垂直同期信号に位相ロックされ,上記第2テレビジョン信号の上記垂直同期信号の周期を上記第1テレビジョン信号の1フィールド中の走査線数で等分した周期のトリガ信号を生成するトリガ生成手段と,上記トリガ信号により上記第2テレビジョン信号を基準信号にしてトリガをかけることによって,上記第1テレビジョン信号と上記第2テレビジョン信号との間の位相関係を表示できるように上記第1テレビジョン信号の波形を表示する表示手段とを具える波形表示装置(下線部が訂正部分) 。」( )訂正発明5を分説すると,次のとおりである(以下,分説した各構成要件6について,単に「構成要件@」などということがある。)。
@第1テレビジョン信号が入力される第1入力端子と,A上記第1テレビジョン信号と1フィールドの周期は等しいものの上記1フィールド当たりの走査線数が異なる第2テレビジョン信号中の少なくとも垂直同期信号が入力される第2入力端子と,B上記第2テレビジョン信号の上記垂直同期信号に位相ロックされ,上記第2テレビジョン信号の上記垂直同期信号の周期を上記第1テレビジョン信号の1フィールド中の走査線数で等分した周期のトリガ信号を生成するトリガ生成手段と,C上記トリガ信号により上記第2テレビジョン信号を基準信号にしてトリガをかけることによって,上記第1テレビジョン信号と上記第2テレビジョン信号との間の位相関係を表示できるように上記第1テレビジョン信号の波形を表示する表示手段とDを具える波形表示装置。
( )被控訴人の行為(甲4ないし6,甲9,弁論の全趣旨)7ア被控訴人は,遅くとも平成14年1月以降,別紙被控訴人物件説明1記載(ただし 「被告」については「被控訴人」と読み替える。以下同じ )の構成 , 。
を有する別紙物件目録1記載の装置(以下「被控訴人物件1」という )を販売し。
ている。
イ被控訴人は,遅くとも平成14年7月以降,別紙被控訴人物件説明2記載の構成を有する別紙物件目録2記載の装置(以下「被控訴人物件2」という )。
を販売している。
ウ被控訴人は,平成16年5月以降,別紙被控訴人物件説明3記載の構成を有する別紙物件目録3記載の装置(以下 「被控訴人物件3」といい,被控訴人 ,物件1ないし3を併せて「被控訴人物件」という )を販売している。。
2争点( )被控訴人物件の訂正発明5の技術的範囲への属否1( )本件特許の無効理由の存否(その1)-日本放送協会(以下「NHK」と 2いう。)の編集室2において実施された発明(以下「公然実施発明1」という )。
に基づく新規性,進歩性の欠如( )本件特許の無効理由の存否(その2)-NHKの中継車において実施され3た発明(以下「公然実施発明2」という )に基づく新規性,進歩性の欠如 。
( )本件特許の無効理由の存否(その3)-株式会社テレビ朝日(以下「テレ4ビ朝日」という )の四谷放送センターにおいて実施された発明(以下「公然実施
発明3」という )に基づく新規性,進歩性の欠如 。
( )本件特許の無効理由の存否(その4)-取扱説明書に記載された発明に基5づく進歩性の欠如( )本件特許の無効理由の存否(その5)-訂正明細書の記載要件の不備6( )控訴人の損害額73争点に関する当事者の主張( )被控訴人物件の訂正発明5の技術的範囲への属否について1〔控訴人の主張〕ア被控訴人物件は,訂正発明5のすべての構成要件を充足する。
すなわち,被控訴人物件の「SDI信号入力端子101,301,501」は,訂正発明5の構成要件@を充足し,被控訴人物件の「外部同期入力端子102,302,502」は,訂正発明5の構成要件Aを充足し,被控訴人物件の「トリガ生成手段103,303,503」は,訂正発明5の構成要件Bを充足し,被控訴人物件の「波形表示部104」は,訂正発明5の構成要件Cを充足し,被控訴人物件は波形表示装置であって,訂正発明5の構成要件Dを充足する。
イ被控訴人は,控訴人が訂正発明5の構成要件Cの第1テレビジョン信号について,第2テレビジョン信号とは異なる基準信号に同期した別個のシステムの信号を意味する旨主張しているとして,そのような解釈を前提とすると,被控訴人物件が訂正発明5の構成要件Cを充足しない旨主張するが,控訴人の主張を曲解している。
控訴人が訂正発明5と公然実施発明1との構成の相違において主張したのは,訂正発明5は,@第2入力端子に第1テレビジョン信号と同一の信号源から発生した第2テレビジョン信号が入力される場合と,A第2入力端子に第1テレビジョン信号と異なる信号源から発生した第2テレビジョン信号が入力される場合の両方に対, , 応可能であるというものであり 潜在的にAの場合に対応可能か否かが異なる以上。,, 訂正発明5と公然実施発明1が相違するというものである そして 訂正発明5は, ,, 上記Aの場合に限定されず 上記@の場合を含むものであるから 被控訴人物件は構成要件Cを充足する。
〔被控訴人の主張〕控訴人は,訂正発明5の構成要件Cの第1テレビジョン信号について,第2テレビジョン信号とは異なる基準信号に同期した別個のシステムの信号を意味する旨主張するが,そのような2つの信号の位相関係は被控訴人物件では観測できず,控訴人の上記解釈を前提とすると,被控訴人物件は,構成要件Cを充足しない。
訂正発明5の構成要件Cについての控訴人の上記解釈は誤っているが,公然実施発明1との比較では上記の誤った解釈に基づく主張をし,技術的範囲の解釈において,被控訴人の主張する正しい解釈で侵害を主張することは禁反言により許されない。
( )本件特許の無効理由の存否(その1)-公然実施発明1に基づく新規性,2進歩性の欠如について〔被控訴人の主張〕アNHKは,編集室2において,遅くとも平成9年12月5日までに,同期系統図(乙11の4。以下「本件同期系統図」という )に記載されている発明で 。
ある公然実施発明1を公然実施した。
公然実施発明1の公然実施について(ア)公然実施発明1は,NHKの編集室2において,遅くとも平成9年12月5日までに実施された。
NHKの編集室2の更新工事は,NHK年鑑(乙17の3)や控訴人が販売した(), 。 装置の納入記録 乙8の3 によっても 平成9年11月ないし12月に完成したそして,本件同期系統図は,入札で工事を請け負った請負人であるソニー株式会社(以下「ソニー」という )が,NHKの仕様書に基づき,NHKの編集室2及 。
び3の更新工事のために,その工事完成前に作成したものであり,同期系統図は,いったん確定すると,根本的なシステム変更がない限り書き換えられることはないこと,本件同期系統図は,NHKの編集室2及び3の更新工事後の運用が平成9年12月ころに開始したことなどを知らせる告知文(乙12の1ないし3)のコピーとともに,同一工事に関するものとして,NHK技術局の担当者から被控訴人の従業員に提供されたものであることなどから,本件同期系統図に記載されている発明である公然実施発明1は,更新工事の完成後の平成9年12月までには,NHKの編集室2において実施された。
(イ)公然実施発明1の実施に当たって,NHKに秘密保持義務はなかった。
一般入札により行う新設・更新工事において,同期系統図,機器配置図,映像系統図,及び,図面に記載され,購入して使用する機器につき,NHKに秘密保持義務はないし,本件で,NHKについて,特別の理由に基づき,特段の契約をした事実の主張も立証もない。また,受注者や機器納入者の機密保持義務は,放送局の公然実施の妨げになることはないし,公開入札においては,あらかじめ仕様書等で技術内容は公開されていて,公然実施発明1において,NHKから技術内容を開示された受注者にも守秘義務はない。
そして,公然実施発明1において,秘密にしなければならないような新規な技術内容はなく,業者に対して守秘義務を課す理由はなかったし,NHKでも民間放送でも,この種放送システムの改良変更については,むしろ積極的に広報措置を講じていた。
,, , さらに NHKでは 秘密保持を含む技術的な問題の処理は技術局の職責であり技術局は,特許出願等の必要な措置をとった上で,守秘義務がなく,自由に設備の使用ができるようにして,放送技術局に管理を移転するのであり,放送技術局における実施段階では守秘義務はない。また,NHKの情報公開規程(甲35)においても,公然実施発明1の技術内容を秘密にするような規程はない。
ウ訂正発明5と公然実施発明1の同一について公然実施発明1は,訂正発明5の各構成要件に相当する構成を有する。
本件同期系統図において,5100で示されているHDウェーブフォームモニター5100(以下「WFM5100」という。)や,1735HD,1730HDで示されているのがハイビジョン波形モニターであり,ハイビジョンテレビジョン信号(以下「HDTV信号」という )が「第1テレビジョン信号」に相当し,それ 。
らの波形モニターのHDTV信号の入力端子が,構成要件@の「第1入力端子」に相当する。
そして,標準テレビジョン信号(SDTV信号)の一つであるNTSC信号とHDTV信号は,1フィールドの周期は等しいが,1フィールド当たりの走査線数が異なり,NTSC信号は 「第2テレビジョン信号」に相当し,SDTVコンポジ ,ットディジタルシグナルジェネレータ411D(以下「411D」という。)から出力された,NTSC信号の垂直同期信号を含むブラックバースト信号が入力されるHDディジタルシグナルジェネレータLT440D(以下「LT440D」という。)のゲンロック入力端子が,構成要件Aの「第2入力端子」に相当する。
LT440Dは,入力したNTSC信号のブラックバースト信号の垂直同期信号を分離し,分離した垂直同期信号をフィールド単位の垂直同期のタイミング信号として使用すると共に,この垂直同期信号周期を計算上,562.5に分割してハイビジョンの水平同期周期の信号を発生させ,上記のハイビジョン波形モニターではこの信号をトリガ信号として使っており,LT440Dは,構成要件Bの「上記第2テレビジョン信号の上記垂直同期信号に位相ロックされ,上記第2テレビジョン信号の上記垂直同期信号の周期を上記第1テレビジョン信号の1フィールド中の走査線数で等分した周期のトリガ信号を生成するトリガ生成手段」に相当する。
波形モニターであるWFM5100等は,第2テレビジョン信号であるNTSC信号の垂直同期信号と第1テレビジョン信号であるハイビジョン映像信号の垂直同期信号の位相関係の観測をするもので これらの波形モニターは 構成要件Cの 上 ,,「記トリガ信号により上記第2テレビジョン信号を基準信号にしてトリガをかけることによって,上記第1テレビジョン信号と上記第2テレビジョン信号との間の位相関係を表示できるように上記第1テレビジョン信号の波形を表示する表示手段」に相当する。
そして,特許発明において複数のものからなる装置という場合,必ずしも一つの箱体に収納されることを意味せず,一つの箱体に収納することに特段の技術的意義がある場合を除き,各要件を充足する機構が組合せとしてすべて具備されるものが物理的に存在すれば足り,特に,電気工学上の見地からは,要件を充足する機構を一つにまとめるか複数の箱体に収納するかを問題とする技術的意味はないから,上記構成要件@,A,B及びCの機能を備えた機構を組み合わせて使用される状態の物理的存在は,構成要件Dの装置に相当する。
公然実施発明1からの容易推考について訂正発明5の構成要件Dの「波形表示装置」が1つの装置を意味するとしても,シグナルジェネレータの出力を波形モニターの外部同期信号として用いることは慣用されている事項であり,公然実施発明1における,訂正発明5の構成要件A及びBに相当する,シグナルジェネレータであるLT440Dと,構成要件@及びCに相当する,WFM5100等の汎用の波形モニターとを組み合わせてこれを一つの装置とすることは,何の困難もなく,当業者が,容易になし得たものである。
〔控訴人の主張〕ア公然実施発明1の公然実施について(ア)公然実施発明1の公然実施が認められるためには,@本件同期系統図,(。「」。), 映像系統図 乙11の5 以下 本件映像系統図 というに示されているのがNHKが実施したシステムと実質的に同一であること,ANHKが「本件特許出願日以前に」システムを実施したこと,BNHKがシステムを「公然と」実施したことが必要であるが,それらの事実はいずれも認められない。
(イ)本件同期系統図,本件映像系統図に示されているのが,NHKが実施したシステムと実質的に同一であるとは認められない。
すなわち,本件同期系統図には,日付の記載も,最終的に具体的なシステムとして構築されたことを示す記載もなく,このような不完全な図面のみが存在し得たのか納得困難である。本件映像系統図も,入手経路等についての説明も,日付の記載もない。これらの図面は,重要な設計図面であるにもかかわらず,不自然に空白部分が多く,最終的にシステムとして承認され,確定した図面であるとは認められない。そして,被控訴人は,本件同期系統図と対となる映像信号系統図を証拠として提出しないできたのであり,なぜ,本件同期系統図だけが,単独で担当者の手元にあり,証拠として提出されることになったかなど,出所について不明確である。本件同期系統図,本件映像系統図の文書としての成立は認められない。
また,本件同期系統図,本件映像系統図には,日付の記載がなく,両図面中の多くの不一致などから,同一時点での改訂版とは認められない。両図には,右下部に「HISTORYXCOUNT」という項目が存在し,本件同期系統図では,Xが4であり,本件映像系統図では,Xが3であって,これらに照らせば,これらの図は,最終的に承認されて具体的なシステム構築に使用されたものではなく,作成者であるソニー内部において,最終案に至るまでの異なる改訂段階で作成された図面である。本件同期系統図,本件映像系統図は,NHKにおいて実際に稼働したシステムの図面とは異なるものであり,本件同期系統図等に示されたシステムは,NHKが実施したシステムと実質的に同一ではない。
(ウ)NHKが 「本件特許出願日以前に」公然実施発明1のシステムを実施 ,したとは認められない。
被控訴人は,システムの稼働について 「火入れ式」の案内等に関するビラ(乙 ,12の1ないし3)を提出するが,これらは,控訴人が提出する図面に記載されたシステムと1対1に対応するものでなく,システムが,上記ビラ等記載の日付に稼働した事実を立証するものではないし,NHKの従業員であった証人の(以下A「 」という )も具体的には,システムの稼働を知らない。 A 。
(エ)NHKが,公然実施発明1のシステムを「公然と」実施したとは認められない。公然実施発明1の設計においては,ソニーとNHKとの間で黙示の秘密保持契約が存在していて,そのシステムは,不特定の第三者に公然知り得る状態になく 「公然」と実施されていなかった。証人の陳述書(乙19)が述べるNHK ,A内の厳格な秘密管理態勢から,入札前にNHKが特許出願を行わず不特定の第三者に知られてかまわないといえないことは明らかで,本件同期系統図について,少なくとも慣習上ないし信義則上,NHKは,秘密裏に保持する義務を負担し,秘密状態に保持していた。そして,ソニーの技術担当者は,共同開発においては,黙示の秘密保持義務が存在する旨を述べる。
被控訴人は,一般入札によって行われる更新工事等に秘密保持義務がない旨主張するが,編集室2等のシステムが入札であったとは認められないし,公然実施発明1を特定する本件同期系統図は,公開入札の仕様書等でなく,ソニーが作成した同期系統図であるから,前提を欠く主張である。
イ訂正発明5の公然実施発明1との同一ないしは公然実施発明1からの容易推考について(ア)公然実施発明1は,訂正発明5の構成要件C及びDに相当する構成を備えない。したがって,訂正発明5の新規性が否定されることはないし,また,公然実施発明1から訂正発明5を容易に想到することはできず,訂正発明5の進歩性が否定されることもない。
(イ)訂正発明5は,第1入力端子に入力される時点の第1テレビジョン信号と,第2入力端子に入力される時点の第2テレビジョン信号との位相関係を表示できる波形表示装置である。
これに対し,公然実施発明1のLT440Dのゲンロック入力端子(第2入力端子)に入力されたNTSC信号を基準信号とみると,別紙控訴人説明図の【図2の2 のとおり このNTSC信号にゲンロックして生成されたHDTV信号が波 】, ,「形表示装置」相当部分の外部に再び導出されたときには,LT440D及び同期分配器( HD-SY )に基因し,位相が「凾1」遅延している。そして,このH 「」DTV信号がHDME-7000を経由して,WFM5100のビデオ入力端子に入力する際,HDTV信号は基準信号であるNTSC信号に対して,HDME-7000に基因する遅延(凾2)と合算した分(凾1+凾2)遅延している。
ところが,WFM5100の波形表示部に入力されるトリガ信号も,基準信号に対して上記HD-SY等に基因して凾1遅延するため,同波形表示部には,基準信号から凾2ずれている波形しか表示されない。
すなわち,公然実施発明1の回路構成においては,LT440Dのゲンロック入力端子(第2入力端子)に入力されるNTSC信号(第2テレビジョン信号)と,WFM5100の入力端子(第1入力端子)に入力されるHDTV信号(第1テレビジョン信号)との間の位相差(凾1+凾2)を表示することができないのであり,波形表示部であるWFM5100に表示される位相関係は 「第1テレビジ,ョン信号」と「第2テレビジョン信号」との間の位相関係でないから,公然実施発明1は,訂正発明5の構成要件Cに相当する構成を備えない。
この点について,被控訴人は 「凾1」の遅延について,その小ささから無視 ,できる旨主張するが,公然実施発明1の回路においては,WFM5100に表示される位相関係が,WFM5100のビデオ入力端子に入力されるHDTV信号と,LT440Dのゲンロック入力端子に入力されるNTSC信号との間の位相関係と比較して,常に「凾1」ずれるものであり,同回路は,原理的に訂正発明5と異なる。
, , (ウ)公然実施発明1は 訂正発明5と異なる余分な構成が不可避となるためWFM5100に位相ずれが表示されたとしても,その位相ずれが測定される信号において発生したものであるか,HDTV系垂直同期信号,等化パルスをいったん生成してそれらを重畳させた上で伝送し,それを受け取ってからHDTV系垂直同期信号及び等化パルスを除去するという過程において生じた位相ずれであるかを区別できない。
すなわち,公然実施発明1においては,別紙控訴人説明図の【図2の2】のとおり,LT440Dは,LT440Dのゲンロック入力端子に入力されたNTSC信号の垂直同期信号に位相ロックされ,NTSC信号の垂直同期信号の周期をHDTV信号の1フィールド中の走査線数で等分した周期のHDTV系水平同期信号を生成するだけでなく,HDTV系垂直同期信号及び等化パルスを生成した上でそれらを重畳させ,WFM5100内部の同期分離回路において,LT440Dにより生, , 成されたHDTV系垂直同期信号 HDTV系水平同期信号及び等化パルスのうちHDTV系垂直同期信号及び等化パルスを除去した上で,HDTV系水平同期信号をしきい値回路を用いてパルス化した信号(トリガパルス)を生成し,この信号をトリガとして,WFM5100の同期分離回路に入力されたHDTV信号と,WFM5100の入力端子に入力されたHDTV信号との位相差を表示している。
したがって,公然実施発明1は,訂正発明5と異なる余分な構成が不可避となるため,WFM5100に位相ずれが表示されたとしても,その位相ずれが,測定される信号において発生したものであるか,HDTV系垂直同期信号,等化パルスをいったん生成してそれらを重畳させた上で伝送し,それを受け取ってからHDTV系垂直同期信号及び等化パルスを除去するという過程において生じた位相ずれであるかを区別できない。
逆に,WFM5100に位相ずれが表示されていない場合であっても,LT440Dのゲンロック入力端子に入力されたNTSC信号の位相が,例えば,LT44, ,() 0D内部の同期分離回路 タイミング信号発生手段等において 位相ずれ 凾1を生じた場合には,WFM5100のビデオ入力端子に入力されたHDTV信号との間の位相差(凾1)が発生しているにもかかわらず,同時にWFM5100に入力されるトリガ信号の位相も同じ凾1だけずれることによって相殺されてしまうから,この位相ずれ(凾1)を表示することができない。
訂正発明5は 「第2テレビジョン信号を基準信号にしてトリガをかける」こと ,によって,第1テレビジョン信号と第2テレビジョン信号との間の位相関係を表示するものである。訂正明細書発明の詳細な説明においても,図1を「カウンタ18は,抽出したSDTV信号の垂直同期信号を起点とし,基準クロックPCLKを所定数(・・・)カウントする度にトリガ信号を生成する (訂正明細書の段落【0 」022 )と説明し,公然実施発明1のような,HDTV系水平同期信号に対し, 】HDTV系垂直同期信号,等化パルスをいったん生成してそれらを重畳させた上で他の機器に伝送し,それを受け取った他の機器内において,HDTV系水平同期信号からパルス化した信号(トリガ信号)を生成する前に,HDTV系垂直同期信号及び等化パルスを除去するという迂回的な構成は,全く記載していない。
測定装置における迂回的な構成は,単に付加されたというものではなく,測定対象の正確な測定を不可能にするという意味で,測定装置としての機能そのものを害する。測定(計測)とは,何らかの基準との関係で測定対象の相対的なパラメータを把握することを目的として行われ,測定を行う際には,測定対象にできるだけ影響を与えないことが基本原則であるが,公然実施発明1の回路においては,位相関係の測定対象であるHDTV信号の位相が第2テレビジョン信号の位相に完全に従属するものであって,基準信号が測定対象に影響を与える究極的な場合であり,これを測定器ととらえることは,測定器が自らの制御対象を測定するというトートロジーに陥るものである。
したがって,公然実施発明1は,訂正発明5の構成要件Dの「波形表示装置」に相当する構成を備えない。
原判決は 「本件明細書によれば,原告が主張するとおりのトリガ生成手段にお ,いても,垂直同期信号抽出回路及び同回路において抽出された垂直同期信号に基づきトリガ信号を生成する部分を有するものであるから,位相ずれが測定される信号で発生したのか,それとも垂直同期信号抽出回路等で発生したのかを区別することができないことは,原告が主張するとおりのトリガ生成手段の構成においても同様に発生することであると考えられる(16頁15行目〜21行目)とするが, 。」誤りである。上記判断は,特許請求の範囲に記載されていない構成である垂直同期信号抽出回路等に生じ得る位相ずれを前提として請求項に記載の発明の作用効果を否定するものである。また,訂正明細書中に記載された実施例においては,垂直同期信号抽出回路16が使用されているが,これは,訂正発明の技術的思想においては,あるテレビジョンシステムの垂直同期信号をそれと走査線数が異なる他のテレビジョンシステムの位相の基準とするということであって,迂回的な構成を必然的に有する公然実施発明1の構成が,訂正発明5の技術的思想を開示も示唆もしないことは明らかである。
(エ)公然実施発明1の回路構成から,訂正発明5の構成要件Dの「波形表示装置」に相当する部分のみを切り出し,独立の「波形表示装置」として再構成することは,当業者が容易に想到し得る事項ではない。
, , 公然実施発明1の回路構成は NTSC信号とHDTV信号のそれぞれについて各信号系統内に存在する各電子機器を同期させることを目的として構築されているものであるから,各信号系統内に存在する電子機器が同期しているか否かを確認する必要はあっても,NTSC信号とHDTV信号との間の位相関係を測定するという,訂正発明5の課題は存在しない。
仮に 公然実施発明1の回路構成から 控訴人が主張する 別紙控訴人説明図 図 , ,,【2の2】の「波形表示装置」 相当部分 を除去すると,HDME-7000,HV()C-515及びAHS-200A等で示される電子機器に対し,同期信号を分配す, 。, ることが不可能となり 公然実施発明1の回路は動作不能となる LT440DはHDTV信号系統内に存在する各電子機器に同期信号を分配する機能を担う機器であって,公然実施発明1の回路を動作させるために必要不可欠であり,このような公然実施発明1の回路におけるLT440Dの存在意義を考慮すれば,公然実施発明1から,LT440Dを含む「波形表示装置 (相当部分)を独立の「波形表示 」装置」として切り出して再構成することが,当業者が容易に想到し得る事項でないことは明らかである。
被控訴人は,訂正発明5の「波形表示装置」が一つの装置としてまとめられる必要はないと主張するが,訂正発明5の「波形表示装置」は,特許請求の範囲の記載から,明らかに独立かつ完結した装置としての「波形表示装置」を意味しているところ,仮に,公然実施発明1における特定の一部分のみを取り出して観察した場合に訂正発明5の「波形表示装置」に類似していたとしても,公然実施発明1から当該部分を分離できない限り,独立かつ完結した装置としての「波形表示装置」を実現することは不可能である。
( )本件特許の無効理由の存否(その2)-公然実施発明2に基づく新規性,3進歩性の欠如について〔被控訴人の主張〕アNHKは,遅くとも平成9年3月31日までに,中継車において,HV中継車映像系統図/同期系統図(乙13の3,4。以下「公然実施発明2映像系統図/同期系統図」という )に記載されている発明である公然実施発明2を公然実施し 。
た。
イ株式会社NHKテクニカルサービスの従業員の陳述書(乙13の1 ,放送)技術1997年3月号記事(乙13の2)及びNHK年鑑の記事(乙17の2)を総合すると,公然実施発明2映像系統図/同期系統図に示される機構を備えた中継車は,平成9年3月31日までにMHKの本部と広島放送局に配備され,公然実施発明2が,公然と実施されていた。
公然実施発明2は,訂正発明5の各構成要件に相当する構成を有する。
すなわち,公然実施発明2映像系統図/同期系統図において,VE1LV5150Dと記載されているのがデジタル対応のハイビジョン波形モニターであり,他にも4台のハイビジョン波形モニターがあり,HDTV信号が「第1テレビジョン信号」に相当し,上記波形モニターの入力端子が構成要件@の「第1入力端子」に相当する。公然実施発明2映像系統図/同期系統図における,SYNCGENで示されるHDTV信号用の3値同期信号発生器には,NTSC垂直同期信号が含まれたブラックバースト信号が入力されていて,SYNCGENの端子である525SG1は,構成要件Aの「第2入力端子」に相当する。そして,公然実施発明2においては,上記の第2入力端子に相当する525SG1でBB信号を入力しゲンロックして,SYNCGENの中でHDTV信号用の3値同期信号を生成し,3SY出力端子から3値同期信号を出力していて,この3値同期信号はHDTV信号用の複合同期信号であり,NTSC信号と周期が同じHDTV垂直同期信号の周期内で1フィールド中のHDTV信号の走査線数の水平同期信号を発生し,これが波形モニターでトリガ信号として用いられていて これらの構成は 構成要件Bの 上 ,,「記第2テレビジョン信号の上記垂直同期信号に位相ロックされ,上記第2テレビジョン信号の上記垂直同期信号の周期を上記第1テレビジョン信号の1フィールド中の走査線数で等分した周期のトリガ信号を生成するトリガ生成手段」に相当する。
さらに,公然実施発明2映像系統図/同期系統図には,複数のハイビジョン波形モニターが存在し,これらの波形モニターにはSYNCGENの3SY(複合3値同期信号)が分配器HVEQAにより分配されて接続されており,波形モニターにおいては位相関係を観測できるから これらの波形モニターは 構成要件Cの 上 ,,「記トリガ信号により上記第2テレビジョン信号を基準信号にしてトリガをかけることによって,上記第1テレビジョン信号と上記第2テレビジョン信号との間の位相関係を表示できるように上記第1テレビジョン信号の波形を表示する表示手段」に相当する。
そして,上記@,A,B及びCの機能を備えた機構を組み合わせて使用される状態の物理的存在は,構成要件Dの装置に相当する。
公然実施発明1についてと同様,公然実施発明2について,NHKに守秘義務はない。中継車を管理・使用する立場からも,技術的なノウハウや権利保全はすべてNHKの技術局で解決されていて,その実施に当たっては,一般の機械購入者の立場と同じであり,守秘義務はない。
オ仮に,訂正発明5の波形表示装置が各構成要素を1つの装置にまとめることを要件とするものであるとしても,各構成要素を1つの装置にまとめることは,当業者が公然実施発明2から容易に行うことができたことである。
〔控訴人の主張〕ア公然実施発明2に基づく本件特許の無効理由をいう被控訴人の主張は,重大な過失により時期に後れて提出された攻撃防御方法であり,訴訟の完結を遅延させることになるから,民事訴訟法157条1項により却下されるべきである。
すなわち,原審において,被控訴人が主張する公然実施発明2の技術的細目は明らかでなく,控訴人は,具体的反論ができないまま公然実施の事実を否認していた,,, , ところ 被控訴人は 当審において 平成17年12月9日付け準備書面において。,, これを独立した無効理由として主張しないことを明言した ところが 被告訴人は平成18年11月30日付け準備書面において,これを覆して,独立した無効理由として主張する旨訂正したのであり,いたずらに審理を混乱させるものである。
イ控訴人の公然実施発明2に関する主張は成り立たない。
公然実施発明2について被控訴人が提出する証拠は,具体的技術内容が一切明らかでないハイビジョン制作中継車に関する一般的記事であったり,装置のメーカー名,型名等の機種,又はその構成・機能等が一切記載されていない図面であり,装置の取扱説明書がない限り,図面の信号がどういう関係にあるのか不明であり,これらから公然実施発明2の存在を認めることはできない。
また,公然実施発明2は,同時制作ではなく,ハイビジョンの一体化制作に関するものであり,LT440Dのような信号発生器が搭載されているか明らかではないし,ハ,, イビジョンの一体化制作に係る文献も技術的詳細を記載するものではなく 証人も A客観的な技術の詳細を示さない。
公然実施発明2映像系統図/同期系統図とNHKが現実に実施したシステムの同一性は認められない。また,NHKが,本件出願日前に上記図面に記載されたシステムを実施したことも,NHKが秘密保持契約をしないでそのシステムを公然と実施したことも認められない。
( )本件特許の無効理由の存否(その3)-公然実施発明3に基づく訂正発明45の新規性,進歩性の欠如について〔被控訴人の主張〕, , , アテレビ朝日は 遅くとも平成9年3月までに 四谷放送センターにおいてシバソク社製TS15A6(以下「TS15A6」という,HDディジタルウェ 。)ーブフォームモニターLV5150D(以下「LV5150D」という )等から。
なる発明である公然実施発明3を公然と実施した。
公然実施発明3は,訂正発明5の各構成要件に相当する構成を有する。
四谷放送センターにおける,波形表示手段であるLV5150Dの映像信号が入力される端子であるシリアル信号入力端子及びアナログ信号入力端子は,構成要件@の「第1テレビジョン信号が入力される第1入力端子」に相当する。同期信号発生器であるTS15A6のNTSC信号のブラックバースト信号が入力される端子は 「上記第1テレビジョン信号と1フィールドの周期は等しいものの上記1フィ ,ールド当たりの走査線数が異なる第2テレビジョン信号中の少なくとも垂直同期信」。,, 号が入力される第2入力端子 (構成要件A)に相当する そして TS15A6はNTSC信号のブラックバースト信号にゲンロックした3値SYNCを出力するところ,3値SYNCとは,HDTV信号の複合3値同期信号のことであるから,TS15A6と波形表示手段であるLV5150Dを組み合わせた構成は,構成要件Bの「第2テレビジョン信号の上記垂直同期信号に位相ロックされ,上記第2テレビジョン信号の上記垂直同期信号の周期を上記第1テレビジョン信号の1フィールド中の走査線数で等分した周期のトリガ信号を生成するトリガ生成手段」に相当する。
LV5150Dは,外部同期用入力端子(EXTREF)に入力されるNTSC信号のブラックバースト信号にゲンロックした,TS15A6が出力するHDTV同期信号によって,HDTV映像信号(第1テレビジョン信号)とNTSC同期信号(第2テレビジョン信号)の位相関係を表示できるので,構成要件Cの「上記トリガ信号により上記第2テレビジョン信号を基準信号にしてトリガをかけることによって,上記第1テレビジョン信号と上記第2テレビジョン信号との間の位相関係を表示できるように上記第1テレビジョン信号の波形を表示する表示手段」に相当する。そして,同期信号発生器であるTS15A6とLV5150Dとの組合せは,全体として構成要件@からCを備えた波形表示装置を構成するので,これらの組合せは,構成要件Dの「波形表示装置」に相当する。
ウいったん機器・システムを購入調達して実用に供する段階で,放送局が守秘義務を負うことはないから,公然実施発明3は,公然と実施されたものである。
放送局において,新規な設備開設には,火入れ式など,宣伝周知も兼ねて,大々的に広く外部の業者なども招待し,システムを秘密にすることなどなかった。
エ仮に,訂正発明5の構成要件Dの波形表示装置が1つの装置であるとしても,公然実施発明3の構成要素を一体的に組み込むことは容易にし得る。特に,公然実施発明3では,既にテレビジョンカメラなど多くのHDTV機器にはこれが組み込み済みで,波形モニターについても同様とする計画が示されていた。
〔控訴人の主張〕ア公然実施発明3に基づく本件特許の無効理由をいう被控訴人の主張は,重大な過失により時期に後れて提出された攻撃防御方法であり,訴訟の完結を遅延させることになるから,民事訴訟法157条1項により却下されるべきである。原審において,被控訴人が主張する公然実施発明3の技術的細目は明らかでなく,控訴人は,具体的反論ができないまま公然実施の事実を否認していたところ,被控訴人は,当審において,平成17年12月9日付け準備書面において,これを独立した無効理由として主張しないことを明言した。ところが,被控訴人は,平成18年11月30日付け準備書面において,これを覆して,独立した無効理由として主張する旨訂正したのであり,いたずらに審理を混乱させるものである。
イまた,被控訴人は,公然実施発明3について,同期系統図等を証拠として提出するが,それらの図面の信ぴょう性は極めて低く,公然実施の事実は認められない。
( )本件特許の無効理由の存否(その4)-取扱説明書に記載された発明に基5づく訂正発明5の進歩性の欠如について〔被控訴人の主張〕LT440Dの取扱説明書(乙1,以下「乙1刊行物」という )に記載された。
発明と,WFM5100の取扱説明書(乙5,以下「乙5刊行物」という )やL。
V5150Dの取扱説明書(乙6,以下「乙6刊行物」という )に記載された発。
明を組み合わせ,訂正発明5の構成に想到することは,当業者が容易にできた。
乙1刊行物,乙5刊行物及び乙6刊行物は,本件出願日前に刊行されていた。
乙1刊行物には,シグナルジェネレータであるLT440Dの使用目的,構造,機能等が具体的に記載され,訂正発明5の構成要件A及びBに一致する構成が記載されている。すなわち,LT440Dのゲンロック入力端子は,訂正発明5の「第2入力端子」に相当し,乙1刊行物には,構成要件Aの構成が記載され,また,乙1刊行物には,LT440Dが,ゲンロック機能により,NTSC信号のブラックバースト信号の垂直同期信号に位相ロックされ,NTSC信号の垂直同期信号の周期をHDTV信号の1フィールド中の走査線数で等分した周期の水平同期信号(3値同期信号に含まれる )を生成する構成を備えていることが記載されていて,構 。
成要件Bに相当する構成が記載されている。
乙5刊行物には,HDTV信号用のWFM5100波形モニターが記載されており,WFM5100の入力端子(INPUT)は,構成要件@の「第1入力端子」に相当する。また,乙5刊行物には,WFM5100が,外部同期端子(EXTREF)に入力された同期信号を基準としてトリガすることによって,HDTV信号の1H波形及び1V波形を表示することができることが記載されている。HDTV信号の1H波形及び1V波形を表示できるようにするためには,外部同期端子に入力される外部同期信号が,波形表示されるHDTV信号と,水平周期及び垂直周期において同一である必要があり,乙5刊行物には,WFM5100が,波形表示されるHDTV信号(第1テレビジョン信号)と垂直周期及び水平周期が同一の外部同期信号により,HDTV信号(第1テレビジョン信号)の1H波形を表示する表示手段を備えていることが記載されている。WFM5100の外部同期端子に供給される外部同期信号は,HDTV信号と垂直周期及び水平周期が一致している信号であるから,LT440Dからの3値同期信号と同等の信号である。その外部同期信号をWFM5100の外部同期端子に接続した場合,WFM5100の波形モニターにおいて,1Hスイープすなわち1H波形表示が選択された場合に,その3値同期信号に含まれる水平同期信号と同期するトリガ信号により HDTV信号 第,(1テレビジョン信号)とNTSC信号(第2テレビジョン信号)との間の位相関係を表示することになる。そして,放送局やスタジオにおいては,シグナルジェネレータの出力を波形モニターの外部同期信号として供給することは従来から行われていて,シグナルジェネレータであるLT440Dの出力信号を波形モニターのWFM5100の外部同期端子に供給することには困難性がないから,LT440DとWFM5100とを組み合わせることは当業者が容易に想到し得ることであり,これらを組み合わせた場合には,構成要件Cを充足し,当然ながら,構成要件@〜Dのすべてを充足する。
〔控訴人の主張〕被控訴人は 乙1刊行物記載の発明 LT440D と乙5刊行物記載の発明 W ,()(FM5100)等を組み合わせて訂正発明5に容易に想到できる旨主張するが,理由がない。
LT440Dは,NTSC信号の入力を受け,複数の機器に分配するためのHDTV系同期信号を生成する機器であって,LT440Dが生成した同期信号は,同期信号分配器によりシステム全体に分配される。
そして,LT440Dは,訂正発明5とは無関係の手段を多く含んでいることもあり,相当な高額である。システム全体に分配されるHDTV系同期信号を生成するためであれば格別,同期信号を分配するために,例えばWFM5100などのそれぞれのHDTV信号用機器に,LT440Dを個別に付加・設置することなどあり得ない。
仮に,これが容易であったならば,NHKもそのように構成したであろうが,実際は,ソニーに開発を依頼して,本件同期系統図に記載されたような,複雑なシステムを構築する必要があったものであり,このことは,当業者であっても,訂正発明5のような簡易なシステムを容易に想到し得なかったことを示す。
( )本件特許の無効理由の存否(その5)-訂正明細書の記載要件の不備につ6いて〔被控訴人の主張〕仮に,控訴人主張のように訂正発明5を解釈すると,訂正明細書は,特許法36条4項1号及び同6項1号の規定に違反し,訂正発明5は,特許法123条4項により無効とされるべきである。
波形表示装置によって,被観測信号の同期信号が基準同期信号に位相が合っているかどうかを観測するためには,少なくとも両者の垂直同期信号の周期が完全に一致していることが必要であり,そのために,被観測映像信号は発生源において,基, ,, 準同期信号にロックされているとするのが 当該分野の技術者の常識であり かつ世界中の放送局においてそのように実施されてきた。基準信号と被観測信号のフォーマットが違う場合も,この原則は同じである。
これに対し,控訴人は,訂正発明5以前は,全く別系統の同期信号によって駆動されているSDTV信号とHDTV信号間の位相関係を表示するため,SDTV信号を基準信号にしてトリガをかけて,HDTV信号をライン(走査線)単位で表示することができなかったところ,訂正発明5により,これが可能になった旨主張するが,これは,訂正発明5以前にはできなかったものが可能になったというものであり,その実現のための手段を当業者が容易に実施できるように説明する必要がある。ところが,訂正明細書には,そのような開示は皆無である。
〔控訴人の主張〕控訴人が,訂正発明5と公然実施発明1の構成の相違として主張したのは,訂正発明5は,@第2入力端子に第1テレビジョン信号と同一の信号源から発生した第2テレビジョン信号が入力される場合と,A第2入力端子に第1テレビジョン信号と異なる信号源から発生した第2テレビジョン信号が入力される場合の両方に対応可能であるというものであり,両者は,潜在的にAの場合に対応可能か否かが異なる以上,相違するというものである。
, ,, 訂正発明5は 上記Aの場合に限定されるものではないから 被控訴人の主張は控訴人の主張を誤解したものであり,失当である。
( ) 控訴人の損害額について7〔控訴人の主張〕被控訴人は,平成14年1月から平成16年3月末日までの間に,被控訴人物件1及び2を合計1100台販売した。被控訴人の侵害行為がなければ,控訴人は,1台当たり45万4546円を超える利益を得ることができた。
したがって,控訴人の損害額は5億円を超える。
〔被控訴人の主張〕被控訴人が,平成14年1月から平成16年3月末日までの間に,被控訴人物件1及び2を合計1100台販売したことは認め,その余は否認する。
第3当裁判所の判断1当裁判所は,公然実施発明1は,本件出願日前に公然と実施された発明であるところ,訂正発明5は,公然実施発明1から容易に想到することができ,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものであって,控訴人は特許権を行使できないから,被控訴人の請求はその余を判断するまでもなく,理由がないと判断する。
2公然実施発明1の公然実施について被控訴人は,公然実施発明1が,遅くとも平成9年12月5日までに,NHKにおいて公然と実施された旨主張し,控訴人はこれを争うので,以下検討する。
,, , (1)乙12の1ないし3 乙17の3 乙22の2及び弁論の全趣旨によればNHKの編集室には,ハイビジョン編集室2及び3(以下,単に「編集室2」などということがある )があること,編集室2及び3においては,平成9年から10 。
年にかけて更新工事が行われ,編集室2については,更新工事は平成9年11月4日に始まって同月27日に完成し,同年12月5日から更新後のシステムの運用が開始されたこと,編集室3については,更新工事は同月4日に始まって同月26日に完成し,平成10年1月9日から更新後のシステムの運用が開始されたこと,更新後の編集室2と編集室3のシステムの内容は同じであったことが認められる(以下,編集室2及び3についての上記更新工事を「本件更新工事」ということがある。。),, ,, 本件更新工事がされた当時の状況についてみると 乙11の1 2 乙17の3, , , 乙19 証人Aの証言及び弁論の全趣旨によれば 1画面が2フィールドからなり1フィールドの走査線数を262.5本とし,垂直同期の周波数を59.94ヘルツとする,標準テレビジョン信号(SDTV信号)の一つであるNTSC信号による標準規格のテレビ放送(以下単に「標準放送」ともいう )とは別に,平成6年 。
から,1画面が2フィールドからなり,1フィールドの走査線数562.5本とする,HDTV信号によるハイビジョンの実用化試験放送が始まったこと,当初は,上記ハイビジョン放送は,垂直同期の周波数を60ヘルツとしていたが,その後,59.94ヘルツとすることとなったこと,平成10年2月から始まる長野オリンピックにおいては,ハイビジョン放送用と標準放送用のカメラが混在する状態で,双方のカメラを利用して,ハイビジョン番組と標準放送の番組を製作するという,同時制作と呼ばれる方法が採用されたことが認められる。
,,, , そして 乙16の1ないし6 乙19 証人Aの証言及び弁論の全趣旨によれば複数のカメラ等の映像機器を使用して番組等を制作する際には,それらカメラ等からの映像信号の垂直周期と位相を一致させる必要があり,映像機器に対し,継続して基準となる基準同期信号を供給し,映像機器において垂直同期信号を同期させ,また,映像機器からの信号の位相の測定をする必要があるところ,テレビ放送においては,基準同期信号として,NTSC信号に含まれ,垂直同期信号を含むブラックバースト信号と呼ばれる信号を使用していたこと,ハイビジョン放送における垂直同期の周波数が従来放送のものと同じとなり,これらの放送の垂直同期信号の同期が可能となったが,平成9年当時には,ハイビジョン放送用の機器にはブラックバースト信号を直接参照できないものもあり,NTSC信号とHDTV信号の同期の実現のための方法としては,ブラックバースト信号の同期信号に位相ロックしたHDTV信号用の3値同期信号を発生できる信号発生器を用意し,既存のハイビジョン機器に,上記3値同期信号を分配する方法が考え得るものであったことが認められる。
他方,乙1,2の1,乙2の2,乙8の1ないし3によれば,被控訴人の製品であるLT440Dは,遅くとも平成9年5月には発売されたものであり,平成9年6月及び8月には,パンフレットが制作され,そこにおいて 「HDTVテストシ,グナルジェネレータ」であると説明され,その概要として 「LT440Dは,B ,TA規格シリアルディジタルインターフェース出力のHDTVテストシグナルジェネレータです。余分な機能を廃して低価格を実現しました。基本機能を充実し,1125/59.94システムを標準に1125/60システムにもオプション対応しています。ゲンロック機能も当然装備,1125/59.94システムではNTSCの同期信号でロックがかかります。また,AES/EBU音声出力や3値同期信号などアナログ同期出力を備えています,特徴には 「アナログの3値同期信 。」,号,HD,及びVDの外部同期用信号出力を備えています 」と記載されているこ 。
,,, 「」 と 被控訴人は 平成9年10月29日 2台のLT440DをNHKに 仮納品し,同年11月14日付けで 「HV-2.3向」としてその売上げを記録したこ ,とが認められる。
( )本件同期系統図(乙11の4)は,411D,LT440D,モニターの2WFM5100等が同期系統を示す線等とともに記載されているものである。本件同期系統図には,上部欄外に「SONY」のロゴが記載され,右下に 「USER,日本放送協会殿「DESCRIPTIONハイビジョン編集システムHVE 」,」,「 」 -2/3同期系統図PARTNO.Q-M78-00-AK-01-0等の記載があり,また 「APPROVEDBY」との欄に「B」のサインがあ ,り 「HISTORYXCOUNT」という欄のXが3である。なお,本件同期 ,系統図に作成日の記載はない。
RACK外観図(乙11の3,以下「本件ラック外観図 )は,ラックに収めら 」れた多数の機器を示したもので,411D,LT440Dやモニターである5100,1735HD,HDDEGITALMULTIEFFECTSHDME-7000等の機器が記載されている。本件ラック外観図には,上部欄外に「SONY」のロゴが記載され,右下に 「USER 日本放送協会殿「DESCR , 」,IPTIONハイビジョン編集システムHVE-2/3RACK外観図「P」,ARTNO.Q-M78-00-AB-02-0」との記載があり,また 「A,PPROVEDBY」との欄に「B」のサインがあり 「HISTORYXC ,OUNT」という欄のXが3である。本件ラック外観図にも作成日の記載はない。
本件映像系統図(乙11の5)は,モニターの5100等が示された映像系統図であり,上部欄外に「SONY」のロゴが記載され,右下に 「USER 日本放,送協会殿「DESCRIPTIONハイビジョン編集システムHVE-2/ 」,3映像系統図「PARTNO.Q-M78-00-AE-01-0」との 」,記載があり,また 「APPROVEDBY」との欄に「B」のサインがあり, ,「HISTORYXCOUNT」という欄のXは4である。本件映像系統図にも作成日の記載はない。
( )本件ラック外観図及び本件同期系統図は,これらの図面の「APPROV3EDBY」の欄にサインしたが 「ソニーは,NTSC系とHDTV系とが混 B ,在し,HDTV系機器がNTSCのブラック・バースト信号に同期して動作するハイビジョン編集システムHVE-2/3を日本放送協会から依頼されて構築した。
, ( ,) その際 乙11号証の3〜4の図面 判決注:本件ラック外観図 本件同期系統図も作成した(甲33)ことを確認することや,両図面の上部欄外及び右下の記 。」載内容等に照らしても,NHKの編集室2及び3のシステムの構築のため,NHKから依頼を受けたソニーが作成したものであると認められる。
本件ラック外観図及び本件同期系統図について,被控訴人の従業員のは,平C成16年,平成9年当時の図面のコピーとしてNHKの担当者から入手したとする(乙7の1,乙21 。そして,前記( )の平成9年10月に被控訴人からNHK )1に仮納品されその後正式に納入されたLT440Dは,本件更新工事に際しNHKに納入されたものであると認められるところ,LT440Dが本件ラック外観図及び本件同期系統図に記載されていること(LT440Dは,本件同期系統図では,「既設機器または支給品」であるとされている 「支給品」とは証人の証言によ 。
Aれば,NHKから支給された品の意味であると認められる,NHK年鑑(乙1。)7の3,乙22の2)によれば,ディジタル化を主目的とする本件更新工事によって,新たにデジタルスイッチャーとしてHDS-7000が導入されたと認められるところ,本件同期系統図においては,HDS-7000が新設機器として記載されていること,平成9年末から平成10年にかけての本件更新工事以外に,編集室2及び3の更新工事があったとは認められないことから,本件ラック外観図及び本件同期系統図は,上記( )に記載した,編集室2及び3の本件更新工事に当たって1作成されたものであると認められる。
そして,上記( )記載の本件更新工事がされた当時の技術的状況に,本件同期系1統図から認められる,後記3のとおりの公然実施発明1の構成を考慮すると,本件, ,, 同期系統図から認められる発明のうち 公然実施発明1に係る部分の構成は 正に本件更新工事のころ,NHKの編集室においても必要とされていた構成であって,本件同期系統図に示されている各機器の構成のうち,少なくとも,公然実施発明1の構成に係る部分については,本件更新工事後の編集室2及び3において実施されたものと認められる。
したがって,本件更新工事後の編集室2の運用開始時期に照らせば,公然実施発明1は,平成9年12月5日には,NHKの編集室2において,実施されたと認められる。
( )本件更新工事はNHKがソニーに依頼し,ソニーが本件同期系統図などを4作成して行ったものであるところ,公然実施発明1について,ソニーとNHKとの間に明示の秘密保持契約が締結されていたと認めるべき証拠はない。
もっとも,秘密保持について,社会通念上又は商慣習上,秘密扱いとすることが暗黙のうちに要請ないし期待され,かつ,これに暗黙の了解がされていることも少なくなく,その中には,そのような暗黙の了解が法的な拘束力を有するに至ることB D が認められることも考えられないではない。前記は,その陳述書(甲33。
, ), が作成した陳述書にがその内容に間違いないと確認した体裁のもの においてB「ソニーは,NTSC系とHDTV系とが混在し,HDTV系機器がNTSCのブラック・バースト信号に同期して動作するハイビジョン編集システムHVE-2/3を日本放送協会から依頼されて構築した その際 乙11号証の3〜4の図面 判 。, (決注:本件ラック外観図,本件同期系統図)も作成した 」とするとともに 「ソ 。,ニーは,このように,他社から依頼を受けてシステムを構築する場合,依頼者との信頼関係に基づいて,商慣習上,システムの具体的構成を第三者に漏洩することはない 」と供述している。。
しかし,本件更新工事の依頼者であるNHKにおいて,自らが工事を依頼して完成させた編集室のシステムについて,商道徳上,みだりにこれを第三者に開示しないことが期待されるなどの事情はあるにしても,その技術内容,交渉経緯等にかかわらず,当然に法的な拘束力を伴う秘密保持義務を負うと認めるべき証拠はない。
公然実施発明1に係る構成をみると,後記3のとおり,訂正発明5の構成要件@ないしCに相当する構成は,LT440Dと従来からある波形モニターとの組合せによるものであり,その主要な機能をLT440Dによって実現しているものである。従来からある波形モニターの技術内容が一般に明らかであることはもとより,LT440Dは,前記( )のとおり,既に装置として一般に販売され,パンフレッ1ト等によって,その機能も一般に明らかであったのであり,また,公然実施発明1においても,LT440Dは,その機器本来の目的の一つに従った使用がされている。波形モニターも特殊な使用方法がされているとは認められない。
そして,LT440Dと波形モニターとの組合せからなる公然実施発明1について,その組合せについて,ソニーとNHKが特別の共同開発を行った結果として創作された技術であったと伺わせる事情は認められないし,また,その組合せが,本件更新工事に当たり,ソニーからNHKに対し,新たな技術として認識し得るよう,, な形で特別に開示された技術であったとの事情も証拠上認められず その技術内容交渉経緯等から,NHKが法的な拘束力を伴う秘密保持義務を負っていたとは認められない。
以上のとおり,公然実施発明1の実施の時点において,公然実施発明1に係る構成について,NHKに,公然実施発明1に係る構成について,明示又は黙示の秘密保持義務等があったとは認められない。
NHKは,編集室2の運営の必要からも,公然実施発明1の内容を知っていたと認められ,そうすると,公然実施発明1は,その内容を知る秘密保持義務を負わな,,, , い者によって 実施されたものであり 前記(3)と併せ 平成9年12月5日には公然と実施されたと認められる。
( )控訴人は,本件同期系統図及び本件映像系統図は,NHKが実施したシス5テムと実質的に同一であるとは認められないとして,本件同期系統図や本件映像系統図が不自然な図面であること,被控訴人が本件映像系統図を証拠として提出しなかったこと,これらの図面は,NHKにおいて実際に稼働したシステムの図面とは異なることを主張する。
しかし,本件同期系統図は,の述べるところやその記載内容などから,編集室B2及び3の更新工事のためにソニーが作成したものと優に認めることができるのであり,また,記載されている内容に不自然な点があるとは認められない。確かに,同期系統図と映像系統図は対になるものとして存在するところ,被控訴人は,証拠として,原審において本件同期系統図を提出する一方,控訴審における証人のA証人尋問終了後の平成19年3月20日まで映像系統図を提出しなかったのであるが,本件映像系統図は,その体裁からも,編集室2及び3の更新工事のためにソニーが作成したものと認められ,その内容も本件同期系統図に記載された内容と矛盾するとは認められず,本件映像系統図の証拠としての提出時期が,本件同期系統図についての前記の認定を左右するものとは認められない。
また,確かに,本件同期系統図,本件映像系統図,本件ラック外観図には 「H,ISTORYXCOUNT」との欄があって,本件同期系統図及び本件ラック外観図のXは3であり,本件映像系統図のXは4であり,このXは,それぞれの図面における版数を示すものではないかとも推認でき,また,それらの図面の「PARTNO.」も異なる。
しかし,上記のとおり,これらの図面はいずれも,編集室2及び3の本件更新工事のために作成されたものと認められるところ,前記(3)のとおり,本件更新工事の当時の技術的状況に,公然実施発明1の構成を考慮すると,本件同期系統図から, ,, 認められる発明のうち 公然実施発明1に係る部分の構成は 本件更新工事のころNHKの編集室においても必要とされていた構成であって,本件同期系統図に示されている各機器の構成のうち,少なくとも,公然実施発明1の構成に係る部分については,本件更新工事後の編集室2及び3において実施されたものと認められる。
さらに,控訴人は,本件同期系統図に記載されたシステムについて,本件出願日前に,実施されたとは認められないと主張する。
しかし,編集室2の更新工事が11月27日に終了して,その運用開始が12月5日であり,編集室3の更新工事が12月26日に終了し,その運用開始が1月9日であるとの記載がある,放技局制技センター映像技術,放術局開発センター番組技術名義の平成9年12月26日付けの「ハイビジョン編集室HVE2,3ディジタル化更新 (乙12の1)と題する書面,編集室2の「お披露目」を11月28 」日に行い,12月5日から運用を開始することが記載された制作技術センター映像技術名義の平成9年11月26日付けの「お知らせ」と題する書面(乙12の2)は,その体裁・内容に照らし,不審な点はなく,編集室2の更新工事が平成9年4月から平成10年3月にされたとするNHK年報の記事(乙17の3)と総合すると,本件更新工事終了後,編集室2の運用は,平成9年12月5日から開始したと。,,,, 認められる そして 前記(4)のとおり 本件同期系統図は 本件更新工事に際し作成されたものであり,本件同期系統図に示された構成のうち,少なくとも,公然実施発明1の構成に係る部分については,本件更新工事後の編集室2で実施されたものと認められる。
さらに,控訴人は,公然実施発明1の設計は,ソニーとNHKとの間で,黙示の秘密保持義務が存在し,不特定の第三者に公然知られ得る状態になく,実施は公然とされたものではなかった旨主張する。
しかし,控訴人が証拠(甲33)として提出する,前記Bの陳述書の内容は直ちにNHKにおける秘密保持義務の根拠となるものではないし,控訴人が主張するNHKの秘密管理態勢が,公然実施発明1についての黙示の秘密保持義務等を導くものとは認められず,前記(4)の説示に照らし,控訴人の主張は採用できない。
3被控訴人は,訂正発明5は,公然実施発明1と同一である,又は,公然実施発明1から容易に想到することができるものである旨主張し,控訴人は,これを争うので,検討する。
( )乙1,乙2の1,2,乙5,乙11の1,3,4,乙19,証人Aの証言1及び弁論の全趣旨によれば,公然実施発明1について,次の構成及び動作を認めることができる。
本件更新工事後の編集室2においては,411D,LT440D,WFM5100等の機器が使用されていた。
411Dは,NTSC信号における基準同期信号であって,垂直同期信号を含むブラックバースト信号を発生,出力する。411Dが発生,出力したブラックバースト信号は,編集室2において,LT440Dのゲンロック入力端子から,LT440Dに入力される。
WFM5100は,波形表示手段であり,測定の対象である映像信号の入力端子(以下「ビデオ信号入力端子」という。)を有し,WFM5100のビデオ信号入力端子には,編集室2における画像信号処理機器であるHDME-7000や,アップコンバーターであるHVC-515,スイッチャーであるHDS-7000等から出力された,HDTV信号が入力され得る。
LT440Dは,入力されたブラックバースト信号に位相ロックした,HDTV信号用の3値同期信号を生成して出力し,その3値同期信号は,信号の分配器であるHD-SYにより関係各機器に分配される。3値同期信号は,WFM5100にも分配され,WFM5100は,その外部同期信号入力端子から入力した3値同期信号のうちの水平同期信号をトリガ信号として使用して,測定の対象の信号であるHDTV信号との位相差を表示する。
( )前記( )によれば,WFM5100は,ビデオ信号入力端子を有するとこ21ろ,同入力端子には,測定の対象となる信号であるHDTV信号が入力され,このHDTV信号は 「第1テレビジョン信号」に相当し,WFM5100のビデオ信 ,号入力端子は,構成要件@の「第1テレビジョン信号が入力される第1入力端子」に相当する。
また,HDTV信号とNTSC信号は,垂直同期周波数はともに59.94ヘルツであるが,1フィールド当たりの走査線数は,HDTV信号が562.5本,NTSC信号が262.5本であることは当事者間に争いがなく,NTSC信号は,「第2テレビジョン信号」に相当する。そして,LT440Dには,ゲンロック入力端子から,第2テレビジョン信号であるNTSC信号の垂直同期信号を含むブラックバースト信号が入力されるのであるから,LT440Dのゲンロック入力端子は 「上記第1テレビジョン信号と1フィールドの周期は等しいものの上記1フィ ,ールド当たりの走査線数が異なる第2テレビジョン信号中の少なくとも垂直同期信号が入力される第2入力端子 (構成要件A)に相当する。 」他方,LT440Dにおいては,第2テレビジョン信号であるNTSC信号の垂直同期信号を含むブラックバースト信号に位相ロックした,第1テレビジョン信号であるHDTV信号用の3値同期信号が生成され,出力されるのであるが,3値同期信号において,水平同期信号は,入力されたブラックバースト信号から,垂直同期信号を分離し,同信号に位相ロックし,その周期を第1テレビジョン信号の走査線数,すなわち水平同期信号の数で分割して,発生させたものである。そして,HDTV信号用の3値同期信号が分配されたWFM5100においては,3値同期信号における水平同期信号をトリガ信号として用いているのであり,LT440DとWFM5100を併せた構成は 「上記第2テレビジョン信号の上記垂直同期信号 ,に位相ロックされ,上記第2テレビジョン信号の上記垂直同期信号の周期を上記第1テレビジョン信号の1フィールド中の走査線数で等分した周期のトリガ信号を生成するトリガ生成手段 (構成要件B)に相当する。 」波形モニターであるWFM5100においては,上記のとおり,第2テレビジョン信号であるNTSC信号を基準信号とするトリガ信号を使用することによって,ビデオ信号入力端子から入力された観測対象である第1テレビジョン信号であるHDTV信号と,基準信号であるNTSC信号との間の位相関係を表示できることとなるのであり,WFM5100は 「上記トリガ信号により上記第2テレビジョン ,信号を基準信号にしてトリガをかけることによって,上記第1テレビジョン信号と上記第2テレビジョン信号との間の位相関係を表示できるように上記第1テレビジョン信号の波形を表示する表示手段 (構成要件C)に相当する。 」他方,構成要件Dは,上記構成要件を備える波形表示装置をいう。ここで 「装,置」とは 「ある目的のために機械・道具などを取り付けること (広辞苑第5版) , 」をいうところ,編集室2における機器類は,ハイビジョン放送番組の編集などのために各種の作業ができるように設置されていて,本件同期系統図等に照らしても,LT440D及び波形表示装置も,編集室2において,公然実施発明1を構成するものとしての機能以外にも,複数の機能を果たしていて,公然実施発明1の実施のためのみに設置されているものではなく,編集室2におけるLT440Dと波形表示装置の設置を,直ちに,ある目的のための装置とすることはできない。したがって,編集室2において実施された発明が構成要件Dを備えているとすることはできない。
しかしながら,編集室2においては,現に,構成要件@ないしCのとおり,LT440Dや波形表示装置が組み合わされて,実施されていたと認められる。このように,本件出願日当時,機器を組み合わせることによって現実に実施されていたものについて,その組合せによって実現している効果を得ることを目的として,それを一つの装置として構成することは,当業者にとって,容易に想到することができたことであると認められる。
したがって,訂正発明5は,本件出願日当時,公然実施発明1から容易に想到することができた。
( )控訴人は,公然実施発明1の回路構成においては,第2入力端子であるL3T440Dのゲンロック入力端子に入力されたNTSC信号と,第1入力端子であるWFM5100のビデオ信号入力端子に入力されたHDTV信号の間には,LT440D及び同期分配器( HD-SY )に基因する遅延である凾1の遅延とH 「」DME-7000等に基因する遅延である凾2の遅延の合計である凾1+凾2の位相差があるところ,波形表示部では,凾2のみを表示し,凾1+凾2の位相差を表示することができないものであり,公然実施発明1は 「第1テレビ,ジョン信号」と「第2テレビジョン信号」の位相差を表示することができず,訂正発明5の構成要件Cに相当する構成を備えない旨主張する。
ここで,訂正発明5の表示装置は 「第1テレビジョン信号と上記第2テレビジ ,ョン信号との間の位相関係 (構成要件C)を表示するものであるとされていて, 」「信号」の位相関係を表示するとしている。
そして,二つの信号の位相関係を表示するに当たっては,二つの信号の信号源か, , , ら 波形モニターにおいて波形を表示するまで それぞれの信号が経由する各導線機器等の影響を受けて,それぞれ,わずかではあっても遅延が発生することがあることは,技術常識であると認められるところ,訂正発明5は,その構成に照らしても,そのような遅延について,技術課題として解決するものであるとは認められない。訂正明細書においても 「なお,フォーマット変換回路30から波形表示装置 ,32の入力端子36等までは同軸ケーブル等の信号線で信号を伝送するので,こうした信号線においても遅延が発生することになる。しかし,信号線の長さにもよるが,通常はフォーマット変換回路30で生じる遅延時間に比較すると,無視できる程度のものである(訂正明細書の段落【0038 )との記載があり,出力端子か 】ら波形表示までの遅延は無視できるとして,配線等の遅延を課題として取り上げていない。
他方,複数の信号の同期を行ったり,位相関係を表示する場面においては,本件出願時,一般的に,等長配線などと呼ばれる方法で,信号の発生源の位相関係がそのまま波形モニターにおける表示に反映されるような設定がされていたと認めることができる(乙16,証人A 。)控訴人は,公然実施発明1においては,LT440D及び同期分配器に基因する遅延である凾1の部分について,位相差を測定できなくなるとするのであるが,編集室2における下記のような信号の経路を考慮したとしても,凾1の遅延は,結局,411Dにより発生したブラックバースト信号から,実際の波形表示部までの間に,機器等により発生する遅延である。控訴人が主張する部分の遅延も,どのような構成をとったとしても信号源から実際の波形表示に至る各段階で発生することが不可避的に発生する遅延と,本質的に異なるものであるとは認められない。
そして,訂正発明5が,信号源から実際の波形表示に至る各段階で発生する可能性がある遅延の発生を課題としているものではないことを考慮すると,控訴人が主張する凾1の遅延は,信号源から実際の波形表示部までの間の他の箇所での遅延も総合した上で,既知の解決方法で対処することが予定されていたものともいうべきものの一つにすぎないものであって,控訴人主張の凾1の遅延のみをとりあげて,公然実施発明1の波形表示部が,訂正発明5の構成要件Cに相当しないとする控訴人主張を採用することはできない。
また,控訴人は,公然実施発明1の回路においては,WFM5100に表示される位相関係が,WFM5100のビデオ入力端子に入力されるHDTV信号と,LT440Dのゲンロック入力端子に入力されるNTSC信号との間の位相関係と比較して,常に「凾1」ずれるものであり,同回路は,原理的に訂正発明5と異なる旨主張する。
確かに,編集室2において,LT440Dにより生成されたHDTV信号用の3値同期信号は,HD-SYによって各機器に分配されるのであるが,本件同期系統,, , 図によれば 3値同期信号は WFM5100等の波形モニターに分配されるほか画像処理機器であるHDME-7000やNTSC信号からHDTV信号にコンバートするアップコンバーターであるHVC-515等に分配されている。例えば,HDME-7000では,上記3値同期信号を参照信号として使用して同期をとって,映像信号であるHDTV信号が出力され,波形モニターであるWFM5100のビデオ信号入力端子には,観測対象として,このHDME-7000を信号源とするHDTV信号が入力され得る。
このような構成において,控訴人主張のとおり,訂正発明5の第2入力端子に相当するLT440Dのゲンロック入力端子から信号が入った後,LT440D型,HD-SYにより生じた遅延は,そのままでは,波形表示部に表示されるものではない。しかし,上記のとおりの訂正発明5の課題等を考慮すると,そのような機器による遅延自体を取り上げることは,訂正発明5においては,構成要件上の意味を有するものとは認められないのであり,控訴人の主張は採用の限りではない。
(4)控訴人は,測定装置における迂回的な構成は,測定装置としての機能そのものを害するとして,公然実施発明1は,NTSC信号の垂直同期信号に位相ロックされ,NTSC信号の垂直同期信号の周期をHDTV信号の1フィールド中の走査線数で等分した周期の水平同期信号を生成するだけでなく,HDTV信号の垂直同期信号及び等化パルスを生成した上でそれらを重畳させるものであり,訂正発明5と異なる余分な構成が不可避となるため,WFM5100に位相ずれが表示されたとしても,その位相ずれが測定される信号において発生したものであるか,垂直同期信号,等化パルスをいったん生成してそれらを重畳させた上で伝送し,それを受け取ってから,垂直同期信号及び等化パルスを除去するという過程において生じた位相ずれであるかを区別できないとして,公然実施発明1は訂正発明5の構成要件Dに相当する構成を有しない旨主張する。
しかし,公然実施発明1において,垂直同期信号,等化パルスをいったん生成して,それらを重畳させた上で伝送し,それを受け取ってからHDTV系垂直同期信号及び等化パルスを除去するという過程において位相ずれが生じるとしても,前記(3)のとおり,そもそも,どのような構成であったとしても,信号源から実際に波,,,, 形が表示される部分まで 必然的に生じる配線 分配器 トリガ生成手段等により位相ずれは生じるのであり,控訴人主張の構成をとることによる位相ずれは,それらと本質的に異なるものとは認められない。訂正発明5は,それらの過程における遅延,位相ずれを課題とするものではなく,また,公然実施発明1の経路であると控訴人が主張する伝送経路を除外した構成に限るものであるとも認められないのであって,控訴人主張の位相ずれのみをとりあげて,公然実施発明が訂正発明5の構成要件Dに相当する構成を備えないとすることできず,控訴人の主張は採用できない。
また,控訴人は,公然実施発明1の回路においては,位相関係の測定対象であるHDTV信号の位相が第2テレビジョン信号の位相に完全に従属しているので,これを測定器ととらえることは,測定器が自らの制御対象を測定するというトートロジーに陥るものであるとして,公然実施発明1は訂正発明5の構成要件Dに相当する構成を有しない旨主張する。
編集室2において,LT440Dにより生成されたHDTV信号用の3値同期信号は,HD-SYによって各機器に分配されていて,上記(3)のとおり,WFM5100において,測定対象となるのはHDTV信号であるが,そのHDTV信号自体の生成に当たって,WFM5100において位相関係を測定する際の基準として使われる信号と同じHDTV信号用の3値同期信号が参照信号として使用されていると認められる。
しかし,このように,位相関係を測定する際に基準として使用される信号が,測定対象の信号が生成される機器に参照信号として分配されているとしても,測定対象の信号が生成される機器の動作状態,誤差その他の影響によって,同機器を信号源とするHDTV信号と,基準として使用される信号の位相関係が当然に同じになるとは限らないのであるから,その位相関係を表示することには意味があり,それを測定することの意味がなくなるわけではない。したがって,控訴人が主張するような理由により,測定器としての意味を有さないこととなるものではなく,WFM,「」 。 5100が 構成要件Dの 波形表示装置 に相当しないことになるものではない( )控訴人は,公然実施発明1の回路構成は,NTSC信号とHDTV信号の5それぞれについて,各信号系統内に存在する各電子機器を同期させることを目的として構築されているものであるから,各信号系統内に存在する電子機器が同期しているか否かを確認する必要はあっても,NTSC信号とHDTV信号との間の位相関係を測定するという,訂正発明5の課題は存在しないとして,公然実施発明1の回路構成から,訂正発明5の構成要件Dの「波形表示装置」に相当する部分のみを切り出し,独立の「波形表示装置」として再構成することは,当業者が容易に想到し得る事項ではない旨主張する。
しかし,公然実施発明1は,NTSC信号のブラックバースト信号を基準信号として,HDTV信号との位相関係を表示するものであって,これが,訂正発明5の,, 各構成要件@ないしCに相当する構成であることは前記( )のとおりであり また2このような構成を備えれば,結果として,NTSC信号とHDTV信号の間の位相, , 関係も測定することができることになることは 当業者には自明であると認められ控訴人主張の事実が,波形表示装置として構成することが困難であることの理由になるとは認められない。
また,控訴人は,公然実施発明1の回路構成中から 「波形表示装置」の相当部 ,分を除去すると,HDME-7000等の電子機器に同期信号を分配することが不可能となり,公然実施発明1の回路は動作不能となり,当業者であれば,LT440Dが,HDTV信号系統内に存在する各電子機器に同期信号を分配する機能を担う機器であり,公然実施発明1の回路を動作させるために必要不可欠であることを理解するとして,公然実施発明1の回路構成から,訂正発明5の構成要件Dの「波形表示装置」に相当する部分のみを切り出し,独立の「波形表示装置」として再構成することは,当業者が容易に想到し得る事項ではない旨主張する。
しかし,NHKの編集室2において,複数の機能を有するシステムが実施されていたことは認められるものの,編集室2において,公然実施発明1が実施されていたこと,また,公然実施発明1を構成するものとして現実に組み合わされていた複数の機器について,それをひとまとまりの装置として構成することが当業者にとって容易に想到することができるといえることは前記( )のとおりである。訂正発明25の容易想到性判断に当たって,編集室2における機器類のうち,公然実施発明1を構成する機器類のみを除去した場合にどうなるかを想定することに意味があるものとは認められず,控訴人の主張は採用できない。
4結論,,, , したがって 前記2( )のとおり 公然実施発明1は 平成9年12月5日には4公然と実施されたものであり,前記3(2)のとおり,本件出願日(平成10年1月23日)当時,当業者は,公然実施発明1から訂正発明5を容易に想到することができたのであるから,特許法104条の3,123条1項2号,29条1項2号により,控訴人は,本件特許権を被控訴人に対し行使することができない。
よって,控訴人の請求はその余を判断するまでもなく理由がないから,これを棄却した原判決は正当であり,本件控訴を棄却する。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 宍戸充
裁判官 柴田義明