関連審決 | 不服2004-23401 |
---|
関連ワード | 頒布された刊行物 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 周知技術 / 技術常識 / 化学構造 / パリ条約 / 優先権 / 技術的意義 / 置換 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 加工 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 変更 / |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|
事件 |
平成
19年
(行ケ)
10021号
審決取消請求事件
|
---|---|
原告ロレアル 訴訟代理人弁理士志賀正武 同 渡邊隆 同 実広信哉 同 堀江健太郎 被告特 許庁長 官肥塚雅博 指定代理 人福井悟 同 塚中哲雄 同 徳永英男 同 大場義則 |
|
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2007/09/26 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1原告の請求を棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 3この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
---|---|
全容
第1請求特許庁が不服2004-23401号事件について平成18年9月5日にした審決を取り消す。 第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「少なくとも一のポリウレタン及び/またはポリウレア単位を含む重縮合物及びポリオールを含む髪用組成物」とする発明につき,平成11年8月16日(パリ条約による優先権主張1998年8月27日フランス),特許を出願し(以下「本願」という。),平成16年6月2日付け手続補正書(甲9)を提出したが,同年8月10日付けで拒絶査定を受けたので,同年11月5日,審判請求を行った。 特許庁は,この審判請求を不服2004-23401号事件として審理し,その結果,平成18年9月5日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。 2特許請求の範囲平成16年6月2日付け手続補正書(甲9)による補正後の本願の請求項1(請求項の数は全部で21項である。)は,次のとおりである。 【請求項1】「エアロゾル装置を用いて適用することを目的とする髪用組成物であって,化粧品として許容される媒体中に,組成物全重量に対する重量割合で(i)少なくとも一のポリウレタン及び/またはポリウレア鎖を含む重縮合物0.1から20%,(ii)有機溶媒7.5から70%,(iii)推進ガス15から85%,を含有し,該組成物が少なくとも一のポリオールまたはその混合物を0.01から20%更に含有し,推進ガスの有機溶媒に対する重量比が,1.75以上であることを特徴とする組成物。」(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」という。)3審決の理由別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願発明は,優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平6-321741号公報(甲1。以下「刊行物1」という。)及び周知技術(甲2,3。以下これらをそれぞれ「刊行物2」,「刊行物3」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとするものである。 審決は,上記結論を導くに当たり,刊行物1記載の発明(以下「引用発明」という。)の内容並びに本願発明と引用発明との一致点及び相違点を次のとおり認定した。 (1)引用発明の内容55%VOCと表示されたポリウレタンAを10.65重量%,AMPを0.24重量%,エタノールを22.00重量%,水を34.11重量%,DMEを33,0重量%を含むエアロゾル配合物。 (2)一致点「エアロゾル装置を用いて適用することを目的とする髪用組成物であって,化粧品として許容される媒体中に,組成物全重量に対する重量割合で:(i)少なくとも一のポリウレタン及び/またはポリウレア鎖を含む重縮合物0.1から20%(ii) 有機溶媒7.5から70%(iii)推進ガス15から85%を含有する組成物」である点。 (3)相違点ア推進ガスの有機溶媒に対する重量比の相違本願発明は,推進ガスの有機溶媒に対する重量比が1.75以上であるのに対し,引用発明は1.5である点(以下「相違点1」という。)。 イポリオール配合の有無本願発明は,少なくとも一のポリオール又はその混合物を0.01から20%更に含有しているのに対し,引用発明はポリオールを配合していない点(以下「相違点2」という。)。 第3原告主張の取消事由審決は,相違点1,相違点2の各判断を誤るとともに,本願発明の顕著な効果の判断を誤ったものであるところ,これらの誤りがいずれも結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである。 1相違点1(推進ガスの有機溶媒に対する重量比の相違)の判断の誤りについて審決は,「刊行物1の表1に記載された上記ポリウレタン,エタノール,DMEを含有するエアロゾル形態の毛髪固定剤において,DMEの配合量を固定して噴射性能を維持しつつ,揮発性有機化合物(VOC)の放出が抑えられるように,組成物中のエタノールの配合量のみを『22.0重量%』から『20重量%以下』に再調整し,本願発明の構成である『推進ガスの有機溶媒に対する重量比を1.75以上』に至ることは当業者が容易に推考し得ることである。」と判断したが,誤りである。 (1)DMEもエタノールと同様に揮発性有機化合物であるところ,大気中への揮発性有機化合物の放出が抑制されるべきであれば,エタノールだけでなくDMEについても削減の対象とされるはずである。したがって,引用発明において,DMEについてのみその配合量を維持し,エタノールのみその配合量を削減するのは不合理である。 仮に,引用発明において,DMEの配合量を変化させずに,エタノールの配合量だけを22.0重量%から20重量%としても,DMEのエタノールに対する重量比は1.65(33.0/20.00)となり,本願発明に規定されるように1.75以上とはならない。 (2)引用発明において,エタノールの配合量を20重量%未満のいかなる値に具体的に設定すべきかについて,刊行物1には何ら開示がなく,むしろ,刊行物1には,エタノールを含まないエアロゾル配合物(「33%VOC」)が記載されている点に鑑みると,当業者であれば,引用発明において,エタノールの配合量を,20重量%未満の中途半端な値とするよりは,0重量%とするのが自然である。 (3)乙2には,「原液と噴射剤の混合比率により,使用時の噴霧滴の細かさ,噴霧範囲の広さが変化するため,留意が必要である。」とヘアスプレー製品において,原液と噴射剤との比率を慎重に設定する必要性が記載されている。 そして,刊行物1にはヘアスプレー製品の原液と噴射率との比率をヘアスプレー製品の噴霧滴の細かさ,噴霧範囲の広さ等に悪影響を与えることなく変更することについて何ら知見も指針も開示されていないから,DMEのエタノールに対する重量比を1.75以上となるように設定することは容易に想到できない。 (4)本願発明は,推進ガスの有機溶媒に対する重量比を1.75以上とすることによって,ノズル出口での液滴の分散について十分なスプレー品質を有するという有利な効果を奏するものであるが,刊行物1には,推進ガスの有機溶媒に対する重量比を1.75以上とすることによる効果について記載も示唆もされていない。 したがって,審決の判断は,推進ガスの有機溶媒に対する重量比を1.75以上と本願発明が規定した効果を看過したものである。 2相違点2(ポリオール配合の有無)の判断の誤りについて(1)審決は,「刊行物1には,毛髪固定剤の特性を改良するために,可塑剤としてのグリセリン,グリコールを約0.1〜10重量%の範囲で添加することが記載されているので,かかる教示に従い刊行物1の表1に記載されたエタノールを含有する上記エアロゾル形態の毛髪固定剤にグリセリン,グリコール等のポリオールを適量配合することは当業者が容易になし得ることである。」と判断したが,誤りである。 可塑剤は,合成樹脂を可塑化して成形加工性を向上させたり,柔軟性を与えるために合成樹脂に添加する液状又は固形状物質を意味し,合成樹脂に対する可塑化機能を発揮させるために,極性基と非極性基の組合せをその化学構造中に有することが必要である(甲5,6)。これに対して,グリセリン,グリコールは,極性基と非極性基の組合せをその化学構造中に有していない。 そうすると,刊行物1には,グリセリン,グリコールを可塑剤として配合してよい旨の記載が存在するが,当業者にとっては,グリセリン,グリコールの化学構造からみて,それらがポリウレタンの可塑剤として機能するとは想像し難い。 (2)本願発明ではグリセリン,グリコール等のポリオールを毛髪の美容性向上のために配合しているのに対して,刊行物1ではグリセリン,グリコールを毛髪固定剤自体の改良のために,可塑剤として配合することが記載されている。また,刊行物1には,グリセリン,グリコール等のポリオールが毛髪のスタイリング特性を向上させる機能を有する点について記載も示唆もされていない。 したがって,毛髪の美容性向上のために引用発明にグリセリン,グリコール等のポリオールを適量配合することは,当業者にとって容易に想到できたとはいえない。 3顕著な効果の判断の誤りについて審決は,本願発明の効果について,「本願発明の効果,すなわちスプレー品質,髪の美容特性についてみても,刊行物1に『低い発泡特性』を示すことや『塩基及び中和度』の選択により毛髪に『柔軟性』を付与できることが記載されていること,更にポリウレタン重縮合物が毛髪に柔軟性やより良い感触を付与できることが刊行物2,3に記載されていることを考え合わせれば,当該効果は当業者が当然に期待し,予想し得る程度のものである。」と判断したが,誤りである。 すなわち,@刊行物1記載の「低い発泡特性」とは,水性ポリウレタンの粘度低下を意味しており,ノズル口での液滴の分散に注目した本願発明のスプレー品質とは関係がないこと,A刊行物1記載の「塩基及び中和度」とは,引用発明で使用されるポリウレタンが有するカルボキシル基の中和に使用される塩基及びその中和度を意味しており,当該塩基及び中和度の選択による毛髪への柔軟性の付与は,ポリオールの添加による柔軟性の付与を意味しないから,ポリオールの添加により毛髪の美容特性を高める本願発明の効果とは関係がないこと,B刊行物2,3には,ポリウレタン骨格に結合したポリシロキサン鎖によりもたらされる効果が記載されているのであって,ポリオールを配合することによる本願発明の効果とは何ら関係がないこと,以上からすると,本願発明の効果が刊行物1ないし3から予期し得る程度のものであるとはいえない。 第4被告の反論審決の判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。 1相違点1(推進ガスの有機溶媒に対する重量比の相違)の判断の誤りについて(1)原告は,「DMEについてのみその配合量を維持し,その一方で,エタノールだけその配合量を削減するのは不合理である」と主張する。しかし,刊行物1には,「エーロゾルシステムにより送出しする毛髪固定剤は噴射剤を必要」とし,エアロゾル配合物の処方例としては,DMEを33.00重量パーセントで固定したもののみが記載されている。また,刊行物1には,ポリウレタンを10.65重量%,DMEを33.00重量%含有し,エタノール不含のエアロゾル配合物(低VOC配合物)が,エタノールを22.00重量%含有するエアロゾル配合物(高VOC配合物)と同様に良好な高湿カール保持性を有し,低い発泡特性,すなわち良好な噴霧特性を備えることが記載され,エタノールの配合の有無に関わらずポリウレタンが優れた高湿カール保持性,噴霧特性(スプレー品質)を呈することが開示されている。 そうすると,一定量の噴射剤を必要とするエアロゾル装置による髪用組成物で,揮発性有機化合物(VOC)の放出を制御するには,噴射剤よりむしろエタノールの配合量を削減する方が好ましいことは当業者が容易に想起することであるから,審決が「DMEの配合量を固定して噴射性能を維持しつつ,揮発性有機化合物(VOC)の放出が抑えられるように,組成物中のエタノールの配合量のみを・・・再調整」することを「当業者が容易に推考し得る」と判断した点に誤りはない。 (2)原告は,エタノールの配合量として20重量%未満の値が刊行物1に具体的に記載されていないので,当業者であれば0重量パーセントとするのが自然であると主張する。しかし,刊行物1の請求項16には,「極性溶媒」を「全重量の20重量%以下」とすることが記載され,それを具体化したものとしてエタノール不含の処方例が示されている以上,刊行物1には,0重量パーセントより上で20重量%以下の範囲,更には推進ガス(33.00重量%)の有機溶媒に対する重量比が1.75以上である18.85重量%以下の範囲の採用も示唆されているとみるべきである。 2相違点2(ポリオール配合の有無)の判断の誤りについて原告は,グリセリン,グリコールの化学構造からみて,グリセリン,グリコールが可塑剤として機能するとは想像し難いと主張する。しかし,グリセリン,グリコールが整髪化粧料における可塑剤であることは技術常識であり(乙1,2),また,グリセリン,グリコールは,化粧料以外の技術分野においても可塑剤として用いられている(乙3ないし5)。 そうすると,刊行物1の「毛髪固定剤の特性を改良するために,可塑剤としてのグリセリン,グリコールを約0.1〜10重量%の範囲で添加する」との教示から,当業者はグリセリン,グリコールがポリウレタンの可塑剤として機能すると当然理解するのであり,かかる可塑剤を配合することで,「被膜に柔軟性を与える」のみならず,「ソフトでしなやかなカールをつくる」,「なめらかな手触りを与える」等の美容特性が得られることも,乙2が示す技術常識からみて当業者が予測し得ることである。したがって,審決が刊行物1に基づき「グリセリン,グリコール等のポリオールを適量配合することは当業者が容易になし得ることである」と判断した点に誤りはない。 3顕著な効果の判断の誤りについて本願明細書(甲4)には,「スプレー品質」,「美容特性」についての漠然とした記載があるにとどまり,かかる記載から,本願発明の髪用組成物が「スプレー品質」,「美容特性」という定性的な効果を具備することは把握できるが,それらの効果の程度,「スプレー品質」と「ノズル出口での液滴の分散」との関係,更にそれらの効果と「1.75以上」,「ポリオール」の関係については明らかでない。 そして,刊行物1(甲1)記載の「毛髪固定剤」は「発泡」が低いという噴霧特性(スプレー品質)を備えるから,本願発明の髪用組成物の「スプレー品質」という定性的効果が当業者に予想外であるということはできない。また,本願明細書(甲4)の記載からは,ポリオールにより高められた「美容特性」の程度を理解することはできないから,重縮合物に基づく「美容特性」とポリオールによる「美容特性」は客観的に区別がつかないものであり,本願発明の髪用組成物の「美容特性」という定性的効果は,ポリオールによる「美容特性」を考慮しなくても,刊行物1ないし3記載の重縮合物の特性から当業者が予測し得るものである。また,グリセリン,グリコール等のポリオールが美容特性を具備することは技術常識であり,こうした美容特性も当業者が予測し得るものである。 したがって,審決中で本願発明の「スプレー品質」,「美容特性」の効果が,当業者が当然に予測し,期待し得る程度のものと判断した点に誤りはない。 第5当裁判所の判断当裁判所も,また,本願発明について,引用発明との相違点に関する構成は当業者が容易に想到し得たと解するものであり,審決の認定判断に誤りはない。 その理由は,以下のとおりである。 1本願明細書(甲4)及び刊行物(甲1,乙2)の記載内容(1)本願明細書(甲4)には,次の各記載がある。 ア【特許請求の範囲】【請求項1】「エアロゾル装置を用いて適用することを目的とする髪用組成物であって,化粧品として許容される媒体中に,組成物全重量に対する重量割合で(i)少なくとも一のポリウレタン及び/またはポリウレア鎖を含む重縮合物0.1から20%,(ii)有機溶媒7.5から70%,(iii)推進ガス15から85%,を含有し,該組成物が少なくとも一のポリオールまたはその混合物を0.01から20%更に含有し,推進ガスの有機溶媒に対する重量比が,1.75以上であることを特徴とする組成物。」イ【0005】「エアロゾル装置を用いて得られるスプレーの品質,即ち,本質的にはノズル出口での液滴の分散は,使用する組成物の化学構造に大きく依存する。最も有利なのは,一層十分なスプレー品質を生み出す化粧品組成物の製剤である。」ウ【0006】【発明が解決しようとする課題】「ヘアスタイルの固定及び/または維持を目的とする組成物は,時に髪の美容特性を損なう作用なる欠点を有する。したがって,髪は粗くなり,自然な柔らかさを失うことになる。よって,ヘアスタイルを固定及び/または維持すると同時に優れた化粧品特性を供するスタイリング組成物が求められている。」エ【0007】「独国特許公報19540326号には,エアロゾル装置から分配されるスタイリング組成物が開示されており,これは水性-アルコール性媒体中に,固定用ポリマーとしてのポリウレタン単位を含むポリマー,及び推進剤を含有する。これらの組成物は,ヘアスタイルの固定に関しては既に十分なものであるが,最適なスプレー品質を供することと同時に,特に髪に与える美容効果に関しては改善可能である。」オ【0008】【課題を解決するための手段及び発明の実施の形態】「全ての予想に反して,出願人は,驚くべきことに,また,予期せぬことに,ある特定のコンディショナーを,ポリウレタン及び/またはポリウレア単位を含む少なくとも一の重縮合物と組み合わせることにより,上記の要求が満たされることを見出した。」カ【0009】「本発明の主題は,エアロゾル装置を用いて適用することを目的とした,化粧品として許容される媒体中に,組成物全重量に対する割合で:(i)少なくとも一のポリウレタン及び/またはポリウレア鎖を含む重縮合物0.1から20%,(ii)有機溶媒7.5から70%,(iii)推進ガス15から85%,を含有し,少なくとも一のポリオールまたはその混合物を0.01から20%更に含有し,推進ガスの有機溶媒に対する重量比が,1.75以上であることを特徴とする髪用組成物である。」キ【0010】「本発明の目的のためには,“ポリオール”なる語は直鎖状,分枝状または環状であって,飽和または不飽和の脂肪族炭化水素タイプのC2からC14化合物であって,そのアルキル鎖上に少なくとも二の水酸基を坦持するもの,並びにこれらのポリヒドロキシアルキル化合物のポリエーテルタイプのポリマーを意味することとする。」ク【0042】「本発明によれば,有機溶媒は特に,C1からC4低級アルコール,例えばエタノール,イソプロパノール,アセトン,メチルエチルケトン,メチルアセタート,ブチルアセタート,エチルアセタート,ジメトキシエタン及びジエトキシエタン,及びこれらの混合物を含む群より選択される。エタノールが好ましく使用される。」ケ【0044】「本発明によれば,組成物中に可溶または不溶な気体,例えばジメチルエーテル,フッ化または非フッ化炭化水素,通常の液化ガスまたはこれら推進ガスの混合物が推進ガスとして好ましく使用される。更に望ましくは,ジメチルエーテルが使用される。」コ【0046】「本発明により使用されるポリオールは,特にC2からC12ポリオール,並びにポリアルキレングリコール,例えば,特にポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールから選択可能である。」サ【0047】「好ましくは,C2からC8ポリヒドロキシアルカン誘導体が,ポリオールとして使用される。望ましくは,C3からC5化合物が選択され,特にグリセロール,プロピレングリコールまたは1,3-プロパンジオールである。」(2)刊行物1(甲1)には,次の各記載がある。 ア【特許請求の範囲】【請求項1】「(A)(i)ポリウレタン1gあたり0.35〜2.25ミリ当量のカルボキシル官能基を与えるに十分な量の下式・・・で表される1種以上の2,2-ヒドロキシメチル置換カルボン酸(ii)ポリウレタンの重量を基準として10〜90重量%の,活性水素原子を2個以下有する1種以上の有機化合物,及び(iii)前記2,2-ヒドロキシメチル置換カルボン酸のカルボキシレートの水素以外の,2,2-ヒドロキシメチル置換カルボン酸及び有機化合物の活性水素と反応するに十分な量の,1種以上の有機ジイソシアネートの反応生成物を含む,有効量の完全に反応したカルボキシル化線状ポリウレタン,(B)ポリウレタンを水又は水と極性有機溶媒の混合物に可溶にするに十分な割合のポリウレタンのカルボキシル基を中和するに有効な量の,1種以上の化粧品に許容される有機又は無機塩基,並びに(C)(i)水,及び(ii)溶媒の0〜85重量%の,1種以上の極性有機溶媒を含む溶媒,を含む,水性毛髪固定剤。」イ【特許請求の範囲】【請求項16】「極性溶媒が全重量の20重量%以下存在する,請求項1記載の毛髪固定剤。」ウ「大気への揮発性有機化合物(VOC)の放出を制御する環境規制のため,このアルコール及び炭化水素送出しシステムはあまり許容されなくなってきており,水が毛髪固定剤のより大きな成分となることが予測される。 しかしながら,現在用いられている多くの毛髪固定ポリマーは水性システムにおいて性能の損失を示し,例えば溶液粘度が増加し,エーロゾルにより送出された場合,毛髪固定剤はバルブアクチュエーターにおいて及び髪上で発泡する。このことは,水性もしくは低VOCシステム(これはVOCを80%以下含むシステムである)に可溶であり,かつ良好な毛髪固定ポリマーの望ましい特性,すなわち良好な保持力,高湿度カール保持,速い乾燥時間,非粘着性,及び水もしくは水とシャンプーにより容易に除去できる透明な,光沢のあるフィルムをすべて有する毛髪固定剤が望まれている。」(3頁左欄32行〜46行,【0002】)エ【0004】「本発明に係る毛髪固定剤に適するポリウレタンは,完全に反応したカルボキシル化線状ポリマーである。このポリウレタンは,髪保持及び耐湿性を達成するに有効な量で用いられる。これは好ましくは毛髪固定剤の1〜20重量%,より好ましくは1〜10重量%の量である。 このポリウレタンは,(i) ポリウレタン1gあたり0.35〜2.25,好ましくは0.5〜1.85ミリ当量のカルボキシル官能基を与える量存在する1種以上の2,2-ヒドロキシメチル置換カルボン酸,(ii)ポリウレタンの重量を基準として10〜90重量%の,活性水素を2個以下有する1種以上の有機化合物,及び(iii) 前記2,2-ヒドロキシメチル置換カルボン酸のカルボキシレートの水素を除く,2,2-ヒドロキシメチル置換カルボン酸及び有機化合物の活性水素と反応するに十分な量の,1種以上の有機ジイソシアネート,の反応生成物である。2,2-ヒドロキシメチル置換カルボン酸の混入はポリマー鎖に側カルボン酸基を与え,これは中和後,ポリウレタンを水及び水と他の極性溶媒との混合物に可溶にする。活性成分としてこのポリウレタンを用いることにより,毛髪固定剤は低粘度の高固体含量にされる。高固体含量は,良好な保持力を得るため,最少量の溶媒で髪に有効量のポリマーを与える。低粘度はスプレーノズルにおいて有効な噴霧を可能にする。従って,エーロゾルもしくは非エーロゾル毛髪固定剤において使用するに適した毛髪固定剤が得られる。また,2,2-ヒドロキシメチル置換カルボン酸の使用は,ポリウレタンにフィルム硬度及び剛性を与え,毛髪固定剤に望ましい特性を与える。」オ「塩基及び中和度の選択は,毛髪に噴霧した際の得られる毛髪の柔軟性に影響を与え,ソフトもしくはハード保持を与える。柔軟性を達成するに必要な中和度及び用いる塩基の選択は当業者の技術範囲内である。」(5頁右欄38行〜42行,【0020】)カ【0021】「中和されたポリマーは水に可溶であり,従って毛髪固定剤は水のみをベースとしてよいが,より典型的には,溶媒系は極性有機溶媒と水のブレンドである。典型的には,有機溶媒はアルコールもしくはケトンである。特に好適な溶媒は,毛髪固定剤中の他の成分と相溶性である低沸点アルコール,例えばC1〜C4直鎖もしくは分枝鎖アルコールである。極性溶媒の例は,エタノール,プロパノール,イソプロパノール,ブタノール,及びアセトンである。」キ「エーロゾルシステムにより送出しする毛髪固定剤は噴射剤を必要とする。(中略)他の好ましい噴射剤は,エーテル,例えばジメチルエーテル,ヒドロフルオロカーボンプロパン,例えば1,1-ジフルオロエタン,並びに圧縮ガス,例えば窒素,空気及び二酸化炭素を含む。」(6頁左上欄5行〜13行,【0022】)。 ク「毛髪固定剤に改良特性を与えるため,所望の従来の添加剤も本発明の毛髪固定剤に混入させてよい。この添加剤の例は,可塑剤,例えばグリセリン,グリコール・・・である。これらの添加剤はその機能を示すに有効な少量存在し,通常各々約0.1〜10重量%・・・含む。」(6頁右欄1行〜10行,【0024】)。 ケ【0027】「ポリウレタンの合成ポリウレタンA16.7重量%のジメチロールプロピオン酸(総カルボキシレート官能数:1.25meq/g)を含むポリウレタンを製造した。生成物を水中のエマルジョンとして単離した。」コ【0049】「毛髪固定剤製造したポリウレタンエマルジョンの各々をエーロゾルヘアースプレーに配合し,以下のようにして対照と比較した。エマルジョンの各々をまず水で適当な粘度に希釈し,次いで2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)で中和し,ポリウレタンを溶液にした。中和率はポリマーのカルボン酸モノマー含量を基準として決定し,通常遊離酸性度の約50〜90%であった。次いでこの溶液をジメチルエーテルもしくはエタノールとエーテルのブレンドの添加により4部の活性ポリマー固体までさらに希釈した。対照ヘアースプレー配合物において用いられるポリマーの割合と等しくするため4部の固体において配合を行った。対照において用いたポリマーは市販入手可能なオクチル-アクリルアミド/アクリート/t-ブチルアミノエチルメタクリレートコポリマーであった。この配合物を,以下の表の下に示す方法によって対照に対しカール保持についてテストした。カール保持テストの値はパーセントで示した。」サ【0050】「ポリウレタンAは毛髪固定剤に望ましい特性の典型を示した。これは透明なフィルムを形成し,比較的かすんだスプレーパターンを形成し,低VOC系において可溶であった。従って,これを表1に示すように33%及び55%VOC系(毛髪固定剤の総重量を基準としてVOCパーセント)に配合し,高湿カール保持についてテストした。この結果を表2に示し,この結果はポリウレタンAが33%及び55%VOC系のいずれにおいても対照より優れていることを示している。」シ【0051】【表1】表1には,@「33%VOC」と表示された「ポリウレタンAを10.65重量%,AMPを0.24重量%,エタノールを0.00重量%,水を56.11重量%,DMEを33.0重量%を含むエーロゾル配合物」(以下「配合物1」という。),A「33%VOC」と表示された「対照ポリマーを4.00重量%,AMPを0.79重量%,エタノールを0.00重量%,水を62.21重量%,DMEを33.0重量%を含むエーロゾル配合物」(以下「配合物2」という。)」,B「55%VOC」と表示された「ポリウレタンAを10.65重量%,AMPを0.24重量%,エタノールを22.00重量%,水を34.11重量%,DMEを33.0重量%を含むエーロゾル配合物」(引用発明。 以下「配合物3」という。),C「55%VOC」と表示された「対照ポリマーを4.00重量%,AMPを0.79重量%,エタノールを22.00重量%,水を40.21重量%,DMEを33.0重量%を含むエーロゾル配合物」(以下「配合物4」という。)が記載されている。 ス【0052】【表2】表2は,90%RH,21℃での時間経過に伴う高湿カール保持を表にしたものであり,これによると,上記シ記載の各試料の@60分後,A3時間後,B24時間後の高湿カール保持は,それぞれ配合物1が@93.78%,A91.27%,B89.33%,配合物2が@86.8%,A82.36%,B81.73%,配合物3(引用発明)が@87.37%,A78.78%,B75.55%,配合物4が@80.67%,A73.04%,B70.99%となっている。 セ【0053】「ポリウレタンA33%VOC系を,剛性,コーミング抵抗性,フレーク凝集,光沢,静電気,最初の粘着性の時間,乾燥時間,及びシャンプー除去性の特性について対照と比較した。このポリウレタンシステムは剛性及びコーミング抵抗性について95%信頼レベルで対照より優れており,他の特性については対照と同等であった。」ソ【0054】「噴霧特性も比較し,ポリウレタンAは対照と比較し,55%及び33%VOC系において低い発泡を示した。前記のように,現在高VOCスプレー用に開発された多くのポリマーは水性エタノールシステムにおいて用いた際に粘度が増加する。粘度は高固体を意味する。水中10%固体において,#21スピンドルにより,50rpm及び25℃において,ポリウレタンAは13〜16mPasの粘度を有し,対照は109mPasの粘度を有していた。ポリウレタンの低い粘度は,配合された55%及び33%VOC系において見られる低い発泡に寄与する要因である。」(3)「フレグランスジャーナル1997年1月号」所収の「ヘアスプレー製品の現状と課題」と題する論文(乙2)には,次の各記載がある。 ア「2-1.求められる品質要素ヘアスプレーに求められる品質要素としては以下のような項目があげられる。 @セット力:セット力の強度,セットの持続性,弾力性,柔軟性A感触:髪のべたつき,ごわつき,なめらかさ,B使用性:髪へのなじみ,乾きの早さ,フレーキング性,洗浄性,目詰まりC噴霧特性:噴射の強さ,霧の細かさ,霧の均一性,噴霧角度D香り:原料由来の臭気,香料でのマスキングおよび賦香E安全性:肌や眼への刺激,吸入毒性,引火性」イ「(2)可塑剤可塑剤は,以下のような目的で,樹脂被膜の性質を改善するために用いられる。 @脆い被膜に柔軟性を与える。 Aソフトでしなやかなカールをつくる。 B髪への接着性を高める。 C被膜に光沢を与える。 D被膜に平滑性を与える。 Eなめらかな手触りを与える。 可塑剤を選択する際に最も重要なことは,用いる樹脂や溶剤との相溶性であるが,その他にも,被膜を脆弱化させないこと,揮発性がないこと,色や臭いがないことなどがあげられる。 通常用いられるものとしては,ラノリン,ひまし油,オクチルドデカノールなどの油剤,アジピン酸ジイソプロピルなどの2塩基酸ジエステル,グリセリンなどの多価アルコールがある。柔軟性のある樹脂を可塑剤として用いることもある。適当な被膜特性を得るためには単独使用よりも2種以上の可塑剤を併用した方がよい結果を得る場合もある。」(37頁左欄16行目〜36行目)ウ「(4)溶剤樹脂の溶剤として最もよく使われるのがエタノールである。しかし,米国で開始されたVOC(揮発性有機化合物)規制のため日本でも水の併用が検討されはじめてきている。」(37頁右欄1行目〜5行目)エ「(5)噴射剤人体用の噴射剤として以前はフロンガスが主であったが,平成元年に通産省高圧ガス関係法規改正が施行され,現在使用されている主な噴射剤は液化石油ガス(LPG),ジメチルエーテル(DME),窒素および炭酸ガスである。」(37頁右欄7行目〜12行目)オ「油剤としては,古くは流動パラフィン等の炭化水素系油剤,2-エチルヘキサン酸セチル等のエステル系油剤が用いられてきたが,近年では,使用後の髪の軽さ,べたつき感のなさ,指通りの良さに優れるメチルフェニルポリシロキサン,メチルポリシロキサン等のシリコーン系油剤が汎用されている。また,スプレーした際に,均一な毛髪への付着を得,使用後の髪の乾きを早めるために,これら油剤をエタノール,軽質イソパラフィン,デカメチルペンタシロキサン等の揮発性を有する基剤に溶解させたものをスプレー原液とし,LPG等の噴射剤と混合したものを製品とする。 原液と噴射剤の混合比率により,使用後時の噴霧滴の細かさ,噴霧範囲の広さが変化するため,留意が必要である。」(37頁右欄41行目〜38頁右欄1行目)カ「VOC規制への対応「VOCとは・・(揮発性有機化合物)の略であり,EPA(米国環境保護庁)の定義によると,「CO,CO2,炭酸などを除く全ての炭素化合物で大気中で光化学反応に関与する物質」である。エアゾールに用いられる物質としては,LPG,DMEなどの噴射剤やエタノールなどの溶媒がこれにあたる。 カリフォルニア州では1993年1月から80%規制がはじまり,全米各州に広がりつつあり,55%規制も予定(同州1998年1月)されている。しかし,規制は今のところ米国内に留まっており,欧州や各国に波及するかは定かではない。そのため,日本でも世界的な規制動向を見守っている段階である。 先行している米国での取り組みの中心は水系への移行とDMEの使用である。エタノールの代わりに水を用いる場合,有効成分の溶解性を維持させるため,水との相溶性と樹脂の溶解性に優れたDMEを併用することで,ヘアスプレーとしての品質を得ることが可能となる。」(39頁右欄9行目〜29行目)以上を前提に,原告主張の取消事由について判断する。 2相違点1(推進ガスの有機溶媒に対する重量比の相違)の判断の誤りについて(1)前記1で認定した本願明細書及び各刊行物の記載から,@毛髪固定剤において,極性溶媒を全重量の20重量%以下とするものが刊行物1に開示されているところ,エタノールは極性溶媒に含まれること,A引用発明は,エアロゾル装置を用いて適用することを目的とする髪用組成物であり,噴射剤の含有を必須とするものであること,B溶剤としてよく使われるのがエタノールであり,噴射剤としてよく使われるのがジメチルエーテル(DME)であるところ,いずれも米国において大気への放出の規制対象となる揮発性有機化合物(VOC)であること,米国では,エタノールの代わりに水を用いる場合,有効成分の溶解性を維持させるため,水との相溶性と樹脂の溶解性に優れたDMEを併用することで,ヘアスプレーとしての品質を得ることが可能となると考えられ,日本においても水との併用が検討されていること,CポリウレタンAを含有するエアロゾル配合物の方が,ポリウレタンAを含有しないエアロゾル配合物よりも,エタノールの含有の有無にかかわらず高湿カール保持特性及び噴霧特性が優れていること,Dエタノールを含有するエアロゾル配合物よりも,エタノールを含有していないエアロゾル配合物の方が,高湿カール保持特性が優れていることがそれぞれ認められる。 そうすると,引用発明において,高湿カール保持特性及び噴霧特性を維持するとともに,スプレーの噴射性能を維持しつつ,かつ揮発性有機化合物の放出を低減するために,その配合割合の調整の態様として,ポリウレタン及びDMEの含有量をそのままにして,エタノールの含有量のみを22.00重量%よりも少ない20重量%以下とし,エタノールの含有量の減少に対応して,推進ガスの有機溶媒に対する重量比(DME/エタノール)を1.75以上とすることは当業者が適宜選択し得たものであり,容易に想到し得たものというべきである。 (2)原告は,乙2の「原液と噴射剤の混合比率により,使用時の噴霧滴の細かさ,噴霧範囲の広さが変化するため,留意が必要である。」との記載から,本願発明は容易に想到し得たとはいえないと主張する。しかし,上記記載は原液と噴射剤の混合比率を変更し得ることを前提に,噴霧滴の細かさと噴霧範囲の広さに悪影響を及ぼさないことに配慮する必要があることを注意喚起するものであるから,上記記載をもって上記判断を左右するものではない。 (3)原告は,本願発明には,推進ガスの有機溶媒に対する重量比を1.75以上とすることとによる「ノズル出口での液滴の分散について十分なスプレー品質を有するという有利な効果」があるところ,刊行物1は,上記効果を記載するものでも示唆するものでもないと主張する。しかし,本願明細書には,ノズル出口での液滴の分散特性と推進ガスの有機溶媒に対する重量比を1.75以上とすることとの関係につき何ら記載がない。原告の上記主張は,本願明細書の記載に基づかない主張であって,採用できない。 3相違点2(ポリオール配合の有無)の判断の誤りについて(1)前記1で認定した刊行物1の記載によると,毛髪固定剤の特性を改良するために,可塑剤としてのグリセリン,グリコールを約0.1〜10重量%の範囲で添加することが記載されているので,かかる教示に従いエタノールを含有するエアロゾル形態の毛髪固定剤にグリセリン,グリコール等のポリオールを適量配合することは当業者が容易になし得ることである。 (2)原告は,当業者が,グリセリン,グリコールの化学構造からみて,それらがポリウレタンの可塑剤として機能するとは想像し難いと主張するが,前記刊行物1の記載から,グリセリン,グリコールが可塑剤であることは周知である。原告の上記主張は採用できない。 また,原告は,本願発明ではポリオールを毛髪の美容性向上のために配合しているのに対して,刊行物1では,グリセリン,グリコール(ポリオール)を毛髪固定剤自体の改良のために,可塑剤として配合することが記載されている点で相違し,また刊行物1にはポリオールが毛髪のスタイリング特性を向上させる機能を有する点について記載も示唆もないと主張する。 しかし,前記1で認定した刊行物(乙2)によると,可塑剤には「ソフトでしなやかなカールをつくる」,「なめらかな手触りを与える」といった毛髪の美容特性を向上させる機能があること,前記1で認定した刊行物1の記載によると,当業者は,グリセリン,グリコール等のポリオールの配合の有無にかかわらず,引用発明においても,一定程度の美容特性があることが認められるのであるから,毛髪の美容特性向上のためにポリオールを配合することは容易に想到できるというべきである。原告の上記主張は採用できない。 4顕著な効果の判断の誤りについて原告は,スプレー品質,髪の美容特性という本願発明の顕著な効果の存在を理由にその容易想到性がないと主張する。しかし,既に判示したとおり,本願発明の構成自体は容易に想到し得るものであるから,本願発明の作用効果は,特段の事情のない限り,当該構成から当然に予想される範囲のものとして,発明の容易想到性の判断に影響しないものというべきである。しかるに,本願発明の作用効果に関しては,本願明細書の記載は,上記1で認定した記載にとどまり,それが具体的にいかなる効果を指すのか,また本願発明に係る構成の技術的意義といかなる関係があるのかについて何ら開示がない。上記によれば,原告の上記主張は採用できない。 5結論以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由にはいずれも理由がない。その他原告は縷々主張するが,審決を取り消すべきその他の誤りも認められない。 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 三村量一 |
---|---|
裁判官 | 嶋末和秀 |
裁判官 | 上田洋幸 |