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関連審決 不服2004-5177
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成17行ケ10775審決取消請求事件 判例 特許
平成15行ケ90審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 物の発明 /  方法の発明 /  製造方法 /  物を生産する方法 /  新規性 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明特定事項 /  周知技術 /  技術的範囲 /  先行技術 /  クレーム /  参酌 /  特許発明 /  実施 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  減縮 /  拡張 /  変更 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10494号 審決取消請求事件
原告株式会社島津製作所
訴訟代理人弁理士喜多俊文,江口裕之
被告特許庁長官肥塚雅博
指定代理人森口良子,江塚政弘,森川元嗣,森山啓
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/09/20
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2004-5177号事件について平成18年9月21日にした審決を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「ホログラフィック・グレーティング」とする発明につき,平成12年2月25日,特許を出願(以下「本件出願」という。)し,平成15年12月12日付け手続補正書により補正を行ったが,平成16年2月12日付けの拒絶査定を受けたため,同年3月12日,審判を請求するとともに,同年4月8日付け手続補正書(以下,この補正書による補正を「本件補正」という。)を提出した。
特許庁は,上記審判請求を不服2004-5177号事件として審理した結果,平成18年9月21日,本件補正を却下した上で「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年10月3日,審決の謄本が原告に送達された。
2特許請求の範囲(1)平成15年12月12日付け手続補正書による補正後で本件補正前の請求項1ないし3は,次のとおりである(以下,これらをそれぞれ「補正前請求項1ないし3」といい,各請求項に係る発明を「補正前発明1ないし3」という。)。
【請求項1】光学ガラス基板上に設けたホトレジスト層に,所望の回折格子溝深さ以上の溝深さを有するレジストパターンをホログラフィック露光法により刻線し,該レジストパターンが完全に消失するまでレジストに対するエッチング速度が基板に対するそれより大きくなるように調整したフッ素系ガスと酸素との混合ガスから生成されるイオンビームによりエッチングすることにより,光学ガラス基板上に所望の溝深さの回折格子溝を直接刻線してなるホログラフィック・グレーティング。
【請求項2】エッチングの際のイオンビームを,レジストパターンの刻線方向に垂直で且つ基板の法線方向に対して傾斜した方向から照射することにより作製された請求項1記載のホログラフィック・グレーティング。
【請求項3】請求項1及び請求項2記載のホログラフィック・グレーティングからの転写により作製されたネガ・グレーティング及びレプリカ・グレーティング。
(2)本件補正後の請求項1(以下「補正後請求項1」といい,この請求項に係る発明を「補正後発明」という。)は,次のとおりであり,本件補正により補正前の請求項のうち二つの請求項が削除された。
【請求項1】光学ガラス基板上に設けたホトレジスト層に,所望の回折格子溝深さ以上の溝深さを有するレジストパターンをホログラフィック露光法により刻線し,該レジストパターンが完全に消失するまでレジストに対してエッチングし,該光学ガラス基板上に所望の溝深さの回折格子溝を直接刻線するホログラフィック・グレーティング製作方法において,(a)該ホトレジスト層に対するエッチング速度が該ガラス基板に対する速度より大きくなるようにフッ素系ガスと酸素との混合ガスを調整し,(b)該レジストパターンの刻線方向に対して垂直で且つ基板の法線方向に対して傾斜した方向から,該混合ガスから生成されるイオンビームを照射することでエッチングし,(c)エッチングする際には,該混合ガス中の酸素が該ホトレジスト層から析出するカーボンと反応し,該レジストの表面から離脱するようにした,ことを特徴とするホログラフィック・グレーティング製作方法。
3審決の理由審決の理由は,別紙審決書の写しのとおりである。要するに,@補正後請求項1が補正前請求項1を補正したとした場合において,本件補正前は発明のカテゴリーが物であったのに,本件補正後は発明のカテゴリーが方法になっており,特許請求の範囲に記載された発明のカテゴリーを変更する補正は,平成18年法律第55号による改正前の特許法17条の2第4項各号(以下,この項を「特許法17条の2第4項」という。)に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しない,A補正後請求項1が補正前請求項2又は3を補正したとした場合においても同様に,本件補正により発明のカテゴリーが物から方法になっており,特許法17条の2第4項各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しない,B補正前請求項1に係る発明は,特開平1-161302号公報及び特開平7-108612号公報に記載された発明並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとするものである。
第3審決取消事由の要点審決は,本件補正の適否の判断(前記第2の3@)を誤ったものであるところ,この誤りが結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである。
なお,原告は,本件補正の適否の判断について,以下のとおり,補正前請求項1と補正後請求項1とを対比した場合の取消事由のみを述べており,補正後請求項1が補正前請求項2又は3を補正したとした場合(前記第2の3A)の取消事由は述べていない。また,原告は,本件補正却下の判断が適法である場合における審決の判断(前記第2の3B)を争っておらず,取消事由を主張していない。
1東京高等裁判所平成13年(行ケ)第84号事件平成14年6月11日判決(甲第10号証。以下「東京高裁平成14年判決」という。)の判示事項を反対解釈すれば,プロダクト・バイ・プロセス・クレームにおいて,請求項に記載された物が出願に係る明細書において当該請求項に記載された製法によって製造されたものに限られることが明示されていれば,当該物は請求項に記載された製法によって限定される,すなわち,当該請求項の実質的なカテゴリーが「方法」であると解釈されるべきである。
上記の解釈に基づけば,補正前請求項1は,いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームであり,補正前請求項1に記載された物が出願に係る明細書において当該請求項に記載された製法によって製造された物に限られるから,補正前発明1の実質的なカテゴリーは「方法」であり,本件補正は,特許法17条の2第4項2号に規定する特許請求の範囲減縮を目的とする補正に該当する。
2特許法17条の2第4項の規定は,発明の保護を十全に図るという特許制度の基本目的を考慮しつつ,迅速・的確な権利付与を確保する審査手続を確立するために,最後の拒絶理由通知に対する補正は,既に行った審査結果を有効に活用できる範囲内で行うこととする趣旨で設けられたものであるところ,補正前発明1について,被告は先行技術として回折格子の製作方法に関する発明のみを列挙し,また,審査官は発明特定事項が「ホログラフィック・グレーティングの製造方法」に関するものであることを認識していたから,本件補正は,既に行った審査結果を有効に活用できる範囲内で行われたものである。審決が請求項の末尾の文言のみによって発明のカテゴリーを「物」であると認定し,本件補正が不適法であるとした判断は誤りである。
3被告が「発明のカテゴリーの変更」について言及しているのは,訂正審判における特許法126条4項についてであるところ,同項は,特許法17条の2においては準用されていない。もちろん,これにより直ちに,特許法17条の2第4項の規定に基づく補正では,実質上特許請求の範囲拡張し,又は変更する補正が許容されていることを意味するものではないが,特許法17条の2第4項の制度趣旨である審査結果を有効に活用できる範囲内ならば「形式的なカテゴリーの変更」を許容するものであると推察できる。法律的体系および審査基準等から言っても,補正の適否の判断は,特許法17条の2第4項の立法趣旨を参酌して判断されるべきであり,本件補正を目的要件違反として却下した判断は明らかに誤りである。
4欧州特許庁において,本件補正のように「その時点でクレーム対象となった方法が結果として,過去にクレーム対象であった製品を生ずるだけである」場合には,発明のカテゴリーを文言上「製品」から「方法」に変更したとしても「当初に付与された保護を拡張するものでない」と認められている。したがって,制度の国際的調和の観点から,本件補正は「当初に付与された保護を拡張するものでない」として容認されるべきである。
第4被告の反論の骨子審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1まず,原告の主張するように東京高裁平成14年判決(甲第10号証)の判旨を「反対解釈」する論理的説明がされていない。また,東京高裁平成14年判決には,「本件訂正発明が,製造方法の発明ではなく,物の発明であることは,上記特許請求の範囲の記載から明らかであるから,本件訂正発明の上記特許請求の範囲は,物(プロダクト)に係るものでありながら,その中に当該物に関する製法(プロセス)を包含するという意味で,広い意味でのいわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当するものである。そして,本件訂正発明が物の発明である以上,本件製法要件は,物の製造方法特許発明の要件として規定されたものではなく,光ディスク用ポリカーボネート成形材料という物の構成を特定するために規定されたものという以上の意味は有し得ない。」と判示されている。これによれば,東京高裁平成14年判決は,請求項がプロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当する場合には,請求項に,たとえ「製法」を記載していたとしても,請求項に係る発明は,物の製造方法に関する発明ではなく,物に関する発明であることを判示しているということができる。原告の主張するとおり,補正前請求項1は,プロダクト・バイ・プロセス・クレームであって,発明のカテゴリーが「物」であることは明らかであり,審決の認定に誤りはない。したがって,本件補正は,補正発明のカテゴリーを「物」から「方法」へと変更する補正であり,このような補正は,特許法17条の2第4項各号のいずれの事項を目的とするものにも該当しないから,審決の判断に誤りはない。
2補正前請求項1の末尾の「ホログラフィック・グレーティング」という文言も発明特定事項の一つであり,補正前発明1の対象は,「ホログラフィック・グレーティング」という「物」であることは明らかである。
拒絶査定書(甲第7号証)の備考には「本願請求項に係る発明は,ホログラフィックグレーティングという物を対象としているから,その物の製造方法に関する要件(エッチングガスの成分や特性等。すなわちエッチングガスはホログラフィックグレーティングという物の組成対象外である。)をいくら特定してみても,物としての特徴を表現することは原則として困難であるところ,この点からみても,先に示した引例1(第2頁右下欄第1〜4行及び関連する記載によって作製されたホログラフィックグレーティング)との間に格別の差異があるとはいえない。」との記載がある。これによれば,審査官が補正前発明1を物の製造方法に係る発明としてではなく,物に係る発明として認定して,本件出願を審査したことは明らかである。
3本件補正により,発明のカテゴリーが補正前のものと同一とはいえなくなると,本件補正前の審査結果を補正後請求項1に係る発明の新規性,進歩性の判断に有効に利用することはできない。
特許法17条の2第4項の目的は,限定列記であり,発明のカテゴリーを変更することが同項各号のいずれにも該当しない以上,本件補正が認められる余地はない。
なお,発明のカテゴリーを変更することは,実質上特許請求の範囲変更する態様の一つであり,特許法17条の2第4項2号に規定する要件を満たさないことは明らかである。
4欧州特許庁における審査実務の運用規定は,我が国の特許出願についての実務を何ら拘束するものではないから,原告の主張は失当である。
第5当裁判所の判断1物の発明方法の発明の区別特許法は,発明の実施について「物の発明」と「方法の発明」とを区別して規定し(同法2条3項),そのいずれであるかによって,法律効果が異なるものとしている(例えば,同法101条,104条,175条2項)。
また,出願人は,「物の発明」としての特許を請求するか,「方法の発明」としての特許を請求するかを選択することができるだけでなく,2以上の請求項に分けて記載することによって,両者の特許を請求することもできる。本件出願時において,平成15年法律第47号による改正前の特許法37条は,「二以上の発明については、これらの発明が一の請求項に記載される発明(以下「特定発明」という。)とその特定発明に対し次に掲げる関係を有する発明であるときは、一の願書で特許出願をすることができる。
一その特定発明と産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である発明二その特定発明と産業上の利用分野及び請求項に記載する事項の主要部が同一である発明三その特定発明が物の発明である場合において、その物を生産する方法の発明、その物を使用する方法の発明、その物を取り扱う方法の発明、その物を生産する機械、器具、装置その他の物の発明、その物の特定の性質を専ら利用する物の発明又はその物を取り扱う物の発明四その特定発明が方法の発明である場合において、その方法の発明実施に直接使用する機械、器具、装置その他の物の発明五その他政令で定める関係を有する発明」と定めていたから,「物の発明」と「方法の発明」の両者を一出願により請求することが可能であった。
さらに,特許法70条1項は,「特許発明技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。」と規定していることからすると,方法の発明物を生産する方法の発明との区別は,まず,「願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載」に基づいて判定すべきものである(最高裁判所平成10年(オ)第604号事件平成11年7月16日判決・民集53巻6号957頁)。
以上によれば,特許請求の範囲の記載は,出願人が「物の発明」と「方法の発明」とで法律効果が異なることを考慮して,いかなる権利を請求するかを選択し,その選択の結果を反映させるべく自ら適切な表現を選んで記載したものであるから,特許出願に係る発明が「物の発明」と「方法の発明」のいずれであるかの区別は,特許請求の範囲の記載に基づいて判断すべきであると解される。
2プロダクト・バイ・プロセス・クレームの実質補正前請求項1が広義のプロダクト・バイ・プロセス・クレームの形式で書かれていることは,当事者間に争いがない。原告は,東京高裁平成14年判決の判示事項を反対解釈して,プロダクト・バイ・プロセス・クレームにおいて,請求項に記載された物が当該請求項に記載された製法によって製造されたものに限られることが明示されていれば,当該請求項の実質的なカテゴリーが「方法」であると解釈されるべきであると主張する。
プロダクト・バイ・プロセス・クレームとは,東京高裁平成14年判決にあるとおり,「物(プロダクト)に係るものでありながら,その中に当該物に関する製法(プロセス)を包含する」形式で記載された特許請求の範囲であり,「発明の対象となる物の構成を,製造方法と無関係に,直接的に特定することが,不可能,困難,あるいは何らかの意味で不適切(例えば,不可能でも困難でもないものの,理解しにくくなる度合が大きい場合などが考えられる。)であるとき」などに認められる特許請求の範囲の記載方法でであるということができる。上記の意義からも明らかなように,プロダクト・バイ・プロセス・クレームにあっては,特許請求の範囲に物の製造方法(プロセス)が記載されていても,その記載は発明の対象となる物(プロダクト)を特定するためであり,物の製造方法についての特許を請求するものではない。したがって,プロダクト・バイ・プロセス・クレームの形式で書かれた発明のカテゴリーは,あくまで「物の発明」であって,「方法の発明」ではないし,「物の発明」かつ「方法の発明」ということもできない。原告の主張は,東京高裁平成平成14年判決を正解するものとはいえず,採用することはできない。
3本件補正の適否(1)前記1のとおり,出願人は「物の発明」と「方法の発明」のいずれとするかを選択し,表現することができる立場にあり,出願人の選択の結果は特許請求の範囲に表現されており,「物の発明」と「方法の発明」の区別は,特許請求の範囲の記載に基づいて判断すべきであるところ,補正前請求項1の記載は,「…光学ガラス基板上に所望の溝深さの回折格子溝を直接刻線してなるホログラフィック・グレーティング。」となっているから,補正前発明1の対象は,「ホログラフィック・グレーティング」という「物」であることは明らかである。原告は,請求項の末尾の文言のみに着目したとして,審決の認定を非難するが,補正前発明1は,特許請求の範囲の記載から上記のとおり一義的に明確であり,この記載に基づき補正前発明1を「物」の発明と認定した審決に誤りはない。
(2)プロダクト・バイ・プロセス・クレームの形式で書かれていることは,発明のカテゴリーが「物の発明」であることを意味し,たとえ製造方法の記載が含まれていても「方法の発明」ではないし,また,「物の発明」かつ「方法の発明」ということもできないから,補正前請求項1がプロダクト・バイ・プロセス・クレームの形式で書かれていることは,上記の結論を左右するものではない。
(3)補正後請求項1は「…ホログラフィック・グレーティング製作方法」と記載され,その発明のカテゴリーが「方法の発明」であることは明らかであるから,本件補正は,「物の発明」であった補正前請求項1を「方法の発明」である補正後請求項に補正することを目的としている。発明のカテゴリーによって,法律効果が異なることは前記1のとおりであるから,発明のカテゴリーを「物の発明」から「方法の発明」に変更することは,「物の発明」として請求していた権利とは異なる効果を有する別の権利を請求することにほかならない。したがって,本件補正は,特許請求の範囲変更するものであり,特許法17条の2第4項各号のいずれにも該当しない。
(4)上記のほか,原告は,審査官が補正前発明1を物の製造方法に係る発明と認識していた,欧州特許庁の審査実務の運用規定との国際的調和を根拠に,本件補正が認められるべきであると主張するが,いずれも上記の結論を左右するものではなく,失当である。
4結論以上に検討したところによれば,本件補正を却下した審決の判断に誤りはなく,原告は,補正前請求項1ないし3を前提にした取消事由は主張していないから,審決取消事由には理由がなく,審決を取り消すべきその他の誤りは認められない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 田中信義
裁判官 古閑裕二
裁判官 浅井憲