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関連審決 不服2002-4191
関連ワード 技術的思想 /  アクセス /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  優先権 /  参酌 /  均等 /  置き換え /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 16年 (行ケ) 193号 審決取消請求事件
原告 エルジー電子株式会社
訴訟代理人弁理士 山川政樹,黒川弘朗,紺野正幸,西山修,山川茂樹
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 樋口信宏,瀧廣往,高橋泰史,大橋信彦,井出英一郎,尾崎淳史
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/12/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が不服2002-4191号事件について平成15年12月15日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成9年9月3日(大韓民国1996年9月3日の優先権主張),「プラズマディスプレイパネル及びその分割方法」なる名称の発明(平成15年10月14日付け手続補正書により,名称を「3電極面放電方式のプラズマディスプレイパネル」に補正)について特許出願し,平成13年11月13日拒絶査定を受けたので,これを不服として平成14年3月11日拒絶査定不服の審判を請求した。これに対して特許庁は,平成15年12月15日「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は平成16年1月6日原告に送達された。
2 本願発明(請求項1に係る発明)の要旨(平成15年10月14日付け手続補正書における特許請求の範囲の請求項1の記載) 上下基板の間に共通電極,走査電極及びデータ電極が配置されるとともに,共通電極と走査電極とは互いに平行に配列され,かつデータ電極は上記共通電極及び走査電極に対して直角に配列される一方,上記上下基板のうち一方の基板に形成された上記共通電極及び走査電極と上記上下基板のうち他方の基板に形成された上記データ電極とを覆うように絶縁膜が形成され,上記共通電極と上記走査電極とが上記データ電極と交差するところにセルが形成されている3電極面放電方式のプラズマディスプレイパネルにおいて, 上記データ電極は,複数の電極に分割され, 上記データ電極に印加されるデータパルスは,上記分割された複数の電極に対して独立に印加され, 上記データパルスの印加と同時に上記走査電極に印加されるアドレッシング用走査パルスの時間幅と,このアドレッシング用走査パルスの印加後に上記共通電極に印加される維持パルスの時間幅と,共通電極への上記維持パルスの印加後に上記走査電極に印加される維持パルスの時間幅との和からなる維持周期の最小値は5.5μSであるとともに,上記維持周期の許容値は上記データ電極の分割数の増加につれて増加することを特徴とする3電極面放電方式のプラズマディスプレイパネル。
3 審決の理由の要点 (1) 引用刊行物に記載された発明 刊行物1(特開平4-42289号公報,本訴甲4)には,以下の発明が記載されている。
「第1絶縁基板と第2絶縁基板の間に共通行電極,走査電極及び列電極が配置されるとともに,共通行電極と走査電極とは互いに平行に配列され,かつ列電極は上記共通行電極及び走査電極に対して直角に配列される一方,上記第1絶縁基板と第2絶縁基板のうち一方の基板に形成された上記共通行電極及び走査電極と上記第1絶縁基板と第2絶縁基板のうち他方の基板に形成された上記列電極とを覆うように絶縁層が形成され,上記共通行電極と上記走査電極とが上記列電極と交差するところに画素が形成されているプラズマディスプレイパネルにおいて,多数の走査線を有するプラズマディスプレイパネルを安定的に駆動する手段を適用し,また,プラズマディスプレイパネルは,上記列電極に印加されるデータパルスの印加と同時に走査電極に印加される走査パルス,この走査パルスの印加後に共通行電極に印加される維持パルスA,共通行電極への維持パルスAの印加後に走査電極に印加される維持パルスB,によって駆動されるものである,プラズマディスプレイパネル。」 刊行物2(特開平2-136889号公報,本訴甲5)には,以下の発明が記載されている。
「プラズマディスプレイパネルにおいて,データ電極群は,複数分割され,上記データ電極群に供給されるデータ信号は,上記分割された複数のデータ電極群のそれぞれに対して独立に供給されるようにしたプラズマディスプレイパネル。」 (2) 対比 本願発明と刊行物1に記載された発明とを対比する。
第1に,刊行物1に記載された発明の「第1絶縁基板と第2絶縁基板」,「共通行電極」,「走査電極」,「列電極」,「絶縁層」,「画素」,及び,「走査パルス」は,それぞれ,本願発明の「上下基板」,「共通電極」,「走査電極」,「データ電極」,「絶縁膜」,「セル」,及び,「アドレッシング用走査パルス」に相当する。
第2に,刊行物1全体の記載,特に,第7図(a)(b)を見れば,刊行物1に記載された発明の「プラズマディスプレイパネル」は「3電極面放電方式のプラズマディスプレイパネル」である。
第3に,本願発明の「上記データ電極は,複数の電極に分割され,上記データ電極に印加されるデータパルスは,上記分割された複数の電極に対して独立に印加され,」という構成は,段落番号【0013】「まず,画面を上下に2等分する場合に対して説明する。・・・したがって,同一の1280×1024の解像度を有する表示素子を本実施形態による方法で駆動する場合,従来技術による方法に比べて維持パルスの周期が2倍に増加してプラズマディスプレイパネルセルの放電特性から与えられる放電に必要な最少要求時間を充足できることを分かる。」などの作用効果に関する記載からみて,刊行物1に記載された発明の「多数の走査線を有するプラズマディスプレイパネルを安定的に駆動する手段」に対応する。
第4に,本願発明のプラズマディスプレイパネルは「データパルスの印加と同時に上記走査電極に印加されるアドレッシング用走査パルスの時間幅と,このアドレッシング用走査パルスの印加後に上記共通電極に印加される維持パルスの時間幅と,共通電極への上記維持パルスの印加後に上記走査電極に印加される維持パルスの時間幅との和からなる維持周期の最小値は5.5μSであるとともに,上記維持周期の許容値は上記データ電極の分割数の増加につれて増加する」という記載によって特定されるものであるから,「データ電極に印加されるデータパルスの印加と同時に上記走査電極に印加されるアドレッシング用走査パルス,このアドレッシング用走査パルスの印加後に上記共通電極に印加される維持パルス,共通電極への上記維持パルスの印加後に上記走査電極に印加される維持パルス,によって駆動されるもの」という点において,刊行物1に記載された発明と対応する。
したがって,本願発明と刊行物1に記載された発明とは,「上下基板の間に共通電極,走査電極及びデータ電極が配置されるとともに,共通電極と走査電極とは互いに平行に配列され,かつデータ電極は上記共通電極及び走査電極に対して直角に配列される一方,上記上下基板のうち一方の基板に形成された上記共通電極及び走査電極と上記上下基板のうち他方の基板に形成された上記データ電極とを覆うように絶縁膜が形成され,上記共通電極と上記走査電極とが上記データ電極と交差するところにセルが形成されている3電極面放電方式のプラズマディスプレイパネルにおいて,多数の走査線を有するプラズマディスプレイパネルを安定的に駆動する手段を適用し,また,プラズマディスプレイパネルは,上記データ電極に印加されるデータパルスの印加と同時に上記走査電極に印加されるアドレッシング用走査パルス,このアドレッシング用走査パルスの印加後に上記共通電極に印加される維持パルス,共通電極への上記維持パルスの印加後に上記走査電極に印加される維持パルス,によって駆動されるものである,3電極面放電方式のプラズマディスプレイパネル。」の点で一致し,他方,以下の点において相違する。
(相違点1) 本願発明における「多数の走査線を有するプラズマディスプレイパネルを安定的に駆動する手段」は,「上記データ電極は,複数の電極に分割され,上記データ電極に印加されるデータパルスは,上記分割された複数の電極に対して独立に印加され」るものであるのに対して,刊行物1に記載された発明のそれは,これとは異なる構成である点。
(相違点2) 本願発明におけるプラズマディスプレイパネルは「データパルスの印加と同時に上記走査電極に印加されるアドレッシング用走査パルスの時間幅と,このアドレッシング用走査パルスの印加後に上記共通電極に印加される維持パルスの時間幅と,共通電極への上記維持パルスの印加後に上記走査電極に印加される維持パルスの時間幅との和からなる維持周期の最小値は5.5μSであるとともに,上記維持周期の許容値は上記データ電極の分割数の増加につれて増加する」という記載によって特定されるものであるのに対し,刊行物1にはこのような記載はない点。
(3) 審決の判断 (相違点1について) 本願発明と,刊行物2に記載された発明を比較すると,刊行物2に記載された発明の「データ電極群」,「複数分割され」,「データ信号」,及び,「供給する」は,それぞれ,「データ電極」,「複数の電極に分割され」,「データパルス」,及び,「印加する」に相当する。
したがって,「プラズマディスプレイパネルにおいて,データ電極は,複数の電極に分割され,上記データ電極に印加されるデータパルスは,上記分割された複数の電極に対して独立に印加されるようにした,プラズマディスプレイパネル。」の発明は,刊行物2に記載されており,公知である。
また,刊行物2の2頁右下欄15行〜3頁左上欄15行の記載を考慮すれば,刊行物2に記載された発明は,「多数の走査線を有するプラズマディスプレイパネルを安定的に駆動する手段」である。
そして,刊行物1及び刊行物2に記載された発明が,プラズマディスプレイパネルに関するものであるという,産業上の利用分野の共通性を考慮すれば,刊行物1に記載された多数の走査線を有するプラズマディスプレイパネルを安定的に駆動する手段として,刊行物2に記載された「データ電極は,複数の電極に分割され,上記データ電極に印加されるデータパルスは,上記分割された複数の電極に対して独立に印加され」る構成を採用することは,当業者が容易にできることである。
(相違点2について) 「データパルスの印加と同時に上記走査電極に印加されるアドレッシング用走査パルスの時間幅と,このアドレッシング用走査パルスの印加後に上記共通電極に印加される維持パルスの時間幅と,共通電極への上記維持パルスの印加後に上記走査電極に印加される維持パルスの時間幅との和からなる維持周期の最小値は5.5μSであるとともに,上記維持周期の許容値は上記データ電極の分割数の増加につれて増加する」という記載によって特定されるものとしては,例えば,以下の(ア),(イ),及び(ウ)の要件を備えたものが含まれる。
(ア)データパルスの印加と同時に上記走査電極に印加されるアドレッシング用走査パルス,このアドレッシング用走査パルスの印加後に上記共通電極に印加される維持パルス,共通電極への上記維持パルスの印加後に上記走査電極に印加される維持パルス,によって駆動されるもの。
(イ)維持周期は5.5μs以上であるもの。
(ウ)データ電極の分割数の増加につれて維持周期の許容値が増加する性質のもの。
ここで,上記(ア)は,刊行物1に記載された発明が有するものである。
また,刊行物1に記載された発明のプラズマディスプレイパネルにおいて,走査パルス,維持パルスの時間幅は各々5マイクロ秒であるから,「データパルスの印加と同時に上記走査電極に印加されるアドレッシング用走査パルスの時間幅と,このアドレッシング用走査パルスの印加後に上記共通電極に印加される維持パルスの時間幅と,共通電極への上記維持パルスの印加後に上記走査電極に印加される維持パルスの時間幅との和からなる維持周期」は15マイクロ秒であり,これは,上記(イ)に該当する。
さらにまた,刊行物1に記載されたプラズマディスプレイパネルも,データ電極を分割すれば走査線数は減少するから,維持周期の許容値は増加し得る性質のものである。
したがって,相違点2は,実質的な相違点ではない。
そして,本願発明の作用効果は,刊行物1及び刊行物2に記載された発明から予期し得るものであって,刊行物1及び2に記載された発明を組み合わせたことにより予期し得ない格別な効果を奏しているとすることはできない。
したがって,本願発明は,刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4) 審決のむすび 以上のとおりであるから,本願発明は特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
また,本件出願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものであるから,その余の請求項に係る発明について審究するまでもなく,本件出願は拒絶すべきものである。
原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(相違点1についての判断の誤り) (1) 審決では,本願発明と技術的には無関係な刊行物1から本願発明を容易に発明することができたという結論を導くために,本願明細書,刊行物1,2のいずれにも記載されていない「多数の走査線を有するプラズマディスプレイパネルを安定的に駆動する手段」なる概念を勝手に持ち出して,その手段として刊行物2に記載された「データ電極は,複数の電極に分割され,上記データ電極に印加されるデータパルスは,上記分割された複数の電極に対して独立に印加され」る構成を採用する(すなわち,置き換える)ことは,当業者が容易にできることであると認定しているが,そもそも「多数の走査線を有するプラズマディスプレイパネルを安定的に駆動する手段」なる手段がどこにも記載されていないのであるから,このような認定は無意味である。その上,刊行物2に記載された技術は対向放電型であって,その技術をそのまま面放電型に利用できるという保障はなく,面放電型である刊行物1に記載の技術に,「「データ電極は,複数の電極に分割され,上記データ電極に印加されるデータパルスは,上記分割された複数の電極に対して独立に印加され」る構成を採用することは,当業者が容易にできることである」ことは,通常ない。
(2) 刊行物1に記載された発明は,プラズマディスプレイパネルの駆動方法であり,その点において本願発明と共通しているが,それ以外に共通する部分はない。
すなわち,刊行物1に記載されたプラズマディスプレイパネルの駆動方法は,共通電極に連続的に加えられる維持パルスの1周期の間に異なる複数の走査電極に走査パルスを加えるようにしたことが特徴で,刊行物1はその説明に終始している。データ電極を分割することはもとより,維持周期の最小値を5.5マイクロ秒となるようにデータ電極を分割することに関しては一言の説明もない。確かに,二つの維持パルスと走査パルスのパルス幅がそれぞれ5マイクロ秒であるという説明はあるが,それは刊行物1に記載された駆動方法においてそれぞれのパルス幅を5マイクロ秒としたということであって,維持周期の最小値を5.5マイクロ秒とすべきことを示唆するものではない。
(3) 刊行物2にも同様に,プラズマディスプレイパネルの駆動方法が記載されており,それにはデータ電極を分割して駆動することが記載されている。その限りにおいて,本願発明と同じである。しかしながら,この刊行物2に記載されたプラズマディスプレイパネルは,本願発明のような面放電型ではなく,対向放電型プラズマディスプレイパネルである。対向放電型プラズマディスプレイパネルの技術を面放電型プラズマディスプレイパネルの技術に利用することは,プラズマディスプレイであるという広い意味での技術分野においては共通するものの,放電のさせ方に違いがあるため(対向放電は上下の基板の間に向き合っている電極の間で放電させる一方,面放電は一方の基板に隣接して並列に配置した電極の間で放電させる。),必ずしも容易ではない。しかも,この刊行物2には,維持周期の最小値を5.5マイクロ秒となるようにデータ電極を分割することに関しては記載されておらず,それを示唆する記載もない。
(4) したがって,刊行物1に記載された発明と刊行物2に記載された発明とを組み合わせることそれ自体が必ずしも容易ではなく,仮に組み合わせることができたとしても,本願発明を示唆することにはならない。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り) 相違点2について判断するに際し,審決は,請求項1に記載された事項の一部を部分的に取り出して,その取り出した部分が刊行物に記載されていないから相違点であると認定し,発明思想を無視して単にその一部の記載だけを刊行物の一部の記載と比較して,認定した相違点に実質的な相違はないとしている。請求項1の一部の記載部分を,発明の本質と無関係に単に数字を並べてあるにすぎない他の刊行物の記載と比較すること,それ自体が不当である。すなわち,審決でしたのは,発明ではなく請求項に記載された事項の一部を,本願発明とは異なっている技術の本願発明と無関係な記載と比較しているだけである。したがって,審決における本願発明と刊行物の記載との比較は,技術的思想としての発明の容易性を導くための比較ではない。
請求項1の記載を分割した(ア)の駆動方法(審決では「駆動されるもの」と表現している。)は,本願発明や刊行物1に特有のものではなくプラズマディスプレイパネルなら当然の駆動方法である。請求項1における(ア)の部分の記載はあくまでも「維持周期」を定義するために記載したにすぎず,発明の特徴を表明したものではない。また,刊行物1の三つのパルスの時間幅の合計が5.5マイクロ秒以上であっても,単にそういう事実があるというだけで,それ自体は発明の進歩性の判断とは無関係である。刊行物1はそのパルスの時間幅を加えた時間をどの程度にすべきかについては一切記載されていないという点に注目すべきである。また,それがデータ電極を分割することとどのような関係を持たせるかに関して示唆するものではないからである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について (1) 原告は,審決が,「多数の走査線を有するプラズマディスプレイパネルを安定的に駆動する手段」なる概念を勝手に持ち出して判断を進めていると主張するので,以下に検討する。
(1)-1 まず,本願明細書(甲2)には,【課題を解決するための手段】として,次の記載がある。
「本発明は画面を分割して,分割された画面を並列に同時に駆動するようにし,各セルの放電状態を安定に維持して駆動回路が分担するデータ量を減少させるようにしたものである。すなわち,画面分割ができるようにデータ電極を分離したことを特徴とするものである。」(【0010】) 【発明の実施の形態】として,次の記載がある。
「画面を上下に2等分する場合に対して説明する。1フィールドを8個のサブフィールドで構成して,高画質TVのような1280×1024の解像度を有する表示素子を駆動する場合,許容可能な維持パルスの周期は,上記式Bで, Ts2≦1/60÷N/2÷8 である。画面を上下2等分するのでN=1024/2=512を上記式に代入すると, Ts2≦8.14μs になる。従来技術のTs1≦4μsと比較してみると維持パルスの周期を2倍に増加できることが分かる。したがって,同一の1280×1024の解像度を有する表示素子を本実施形態による方法で駆動する場合,従来技術による方法に比べて維持パルスの周期が2倍に増加してプラズマディスプレイパネルセルの放電特性から与えられる放電に必要な最少要求時間を充足できることを分かる。」(【0013】) 【発明の効果】として,次の記載がある。
「本発明はプラズマディスプレイパネル画面を多数個の小画面に分割して,その分割された各々の画面を独立的に同時に駆動することによって,維持パルスの周期を増加してセルの放電を安定的に維持する」(【0015】) これらの記載によれば,本願発明は,「上記データ電極は,複数の電極に分割され,上記データ電極に印加されるデータパルスは,上記分割された複数の電極に対して独立に印加され」る構成を採用することにより,プラズマディスプレイパネルを安定的に駆動しているのであるから,この構成を作用効果の観点から捉え,「多数の走査線を有するプラズマディスプレイパネルを安定的に駆動する手段」と解することができる。
(1)-2 また,刊行物1には,特許請求の範囲として,次の記載がある。
「メモリ機能を有するドットマトリクス表示型ACプラズマディスプレイパネルの駆動方法において,交流駆動の1周期の維持パルスの間にn個の走査パルスを個別のn本の走査電極にそれぞれ1個ずつ印加することを特徴とするプラズマディスプレイパネルの駆動方法。」(1頁左下欄5〜10行) 【発明が解決しようとする課題】として,次の記載がある。
「多数の走査線を有するプラズマディスプレイパネルを駆動しようとすると,必然的に維持パルスの周波数を上げなければならなくなる」(2頁右上欄3〜6行) 【作用】として,次の記載がある。
「本発明では,従来,2個の維持パルスAの間に1個の走査パルスしか挿入していなかったのを改め,2以上のn個の走査パルスを個別のn本の走査電極にそれぞれ1個ずつ挿入するようにした。このようにすると,維持パルスの周波数は走査線の本数に関係なくプラズマディスプレイパネルに最適の輝度や効率を与え,又は発熱を抑えることのできる値に設定可能となる。」(2頁右下欄12〜19行) 第1の実施例として,次の記載がある。
「第7図,第8図に示したプラズマディスプレイパネルに対して本発明の駆動方法を適用した第1の実施例では,・・・維持パルスA,維持パルスB及び走査パルスのパルス幅は5マイクロ秒,消去パルス幅は0.7マイクロ秒である。データパルスはこれらの走査パルスに同期して各列電極に印加挿入される。・・・本実施例では維持パルス周波数を従来の1/3に低減できることが分かる。・・・また,本実施例では,維持パルスや走査パルス幅を従来より広く取れる利点もある。第6図(a)に示したように,従来の維持パルスの周期T1は1/115200=8.7マイクロ秒であるから,維持パルス及び走査パルスの幅は均等割り振りで2.9マイクロ秒以下となってしまう。しかし,本実施例の場合は,・・・従来の1.8倍近い幅を割り当てることができる。維持パルスや走査パルスの幅の増大は放電の安定性向上に大きく寄与するので,これは非常に大きな利点である。」(3頁右上欄7行〜右下欄11行), 【発明の効果】として,次の記載がある。
「本発明によれば,維持パルスや走査パルスの幅を従来より広く取れるので,放電の安全性,ひいてはプラズマディスプレイパネルの動作安定性を著しく高めることができ,実用上非常に有益である。」(4頁右上欄9〜13行) これらの記載によれば,刊行物1に記載された発明では,「交流駆動の1周期の維持パルスの間にn個の走査パルスを個別のn本の走査電極にそれぞれ1個ずつ印加する」構成により,プラズマディスプレイパネルを安定的に駆動しているのであるから,この構成は,作用効果の観点から捉えると,「多数の走査線を有するプラズマディスプレイパネルを安定的に駆動する手段」と解することができる。
(1)-3 審決は,一致点の認定において,本願発明の「上記データ電極は,複数の電極に分割され,上記データ電極に印加されるデータパルスは,上記分割された複数の電極に対して独立に印加され」る構成と,刊行物1に記載された発明の「交流駆動の1周期の維持パルスの間にn個の走査パルスを個別のn本の走査電極にそれぞれ1個ずつ印加する」構成との双方を含む広い意味で,「多数の走査線を有するプラズマディスプレイパネルを安定的に駆動する手段」を用いていると説示したものであり,そこに誤りはない。
(2) 原告は,刊行物2には,本願発明のような面放電型のプラズマディスプレイパネルについての開示はないと主張するので,検討するに,刊行物2(甲5)には,以下の記載がある。
実施例では,本発明を対向型のPDPに利用した場合について説明したが,本発明はこれに限るものではなく,本出願人が既に提案した面放電型のPDP(例えば特願昭62-306681号)についても利用することができる。第4図及び第5図は本発明を面放電型のPDPに利用した場合を示すもので,これらの図において1と2は対向して設けられた前面ガラス板と背面ガラス板である。」(3頁左上欄20行〜右上欄7行) この記載によれば,刊行物2に記載された発明は,対向放電型プラズマディスプレイパネルばかりでなく,面放電型プラズマディスプレイパネルについても開示していることは明らかである。
(3) 原告は,刊行物1に記載された発明と刊行物2に記載された発明とを組み合わせることそれ自体が必ずしも容易ではなく,仮に組み合わせることができたとしても本願発明を示唆することにはならないと主張する。
しかしながら,刊行物2には,次の記載がある。
「走査信号が供給される走査電極群と表示データ信号が供給されるデータ電極群とをマトリックス状に配列し,交差部に放電セル群を形成してなるプラズマディスプレイパネルにおいて,・・・前記データ電極群を複数分割してなることを特徴とするプラズマディスプレイパネル。」(特許請求の範囲) 「AC型のPDPでメモリ機能を活かした表示をするには,ある程度のアクセスタイムが確保されなければならないからである。」(2頁左上欄11〜14行) 「第1図,第2図及び第3図は本発明の一実施例を示すもので,・・・背面ガラス板2の対向面には,複数列のデータ電極群Y1,Y 2,Y 3,・・・,Y mを各データ電極毎に前記4つのブロックに対応して4分割された複数列のデータ電極群Y11〜Y14,Y 21〜Y 24,Y 31〜Y 34,…,Y m1〜Y m4が設けられている。」(2頁左下欄4行〜右下欄3行) 「データ電極群Y11〜Ym4のそれぞれに独立のデータ信号を供給すると,対応した放電セル群S,S,・・・が放電発光し,所定の表示がなされる。・・・例えば,HDTV(ハイビジョン)のように,1秒間の画面が60枚,1画面の走査電極群が1000行,パルス数制御による表示の階調数が256(8ビット)の高画質表示にした場合,1行のアクセスタイムは従来の約2μsの4倍の約8μsと長くなり,AC型のPDPでも十分にメモリ機能を活かした走査による表示をすることができる。」(2頁右下欄15行〜3頁左上欄15行) 「本発明によるPDPは,上記のように,走査電極群を走査信号が並列的に供給される複数のブロックに分け,この複数のブロックに対応してデータ電極群を複数分割して構成したので,複数分割されたデータ電極群のそれぞれに独立した表示データ信号を供給して表示すれば,1画面表示に要する走査時間を従来例の複数分の1にすることができ,1行のアクセスタイムを複数倍にすることができる。したがって,走査電極群の行数を増やし,かつ,パルス数制御による表示の階調数を増やして高画質表示にすることが容易となる。」(3頁右下欄11行〜4頁左上欄1行) これらの記載によれば,刊行物2には,多数の走査線を有するプラズマディスプレイパネルを安定的に駆動するために,「データ電極群は,複数分割され,上記データ電極群に供給されるデータ信号は,上記分割された複数のデータ電極群のそれぞれに対して独立に供給されるようにしたプラズマディスプレイパネル」が開示されている。
そして,刊行物2に記載された発明が,刊行物1に記載された発明と同様に,面放電型プラズマディスプレイパネルに関するものも含むことは,前示のとおりである。
そうすると,刊行物1に記載された発明と刊行物2に記載された発明とは,同じ産業上の利用分野に属するのであり,また,多数の走査線を有するプラズマディスプレイパネルを安定的に駆動するという共通の課題を有するから,刊行物1に記載された発明に刊行物2に記載された発明を適用することで,本願発明の構成とすることは,当業者が容易に推考できたこというべきである。
(4) 以上のとおりであり,審決の相違点1に関する判断に誤りはなく,取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について (1) 原告は,刊行物1の三つのパルスの時間幅の合計が5.5μS以上であっても,単にそういう事実があるというだけで,それ自体は発明の進歩性の判断とは無関係であると主張する。
まず,本願明細書には,三つのパルスの時間幅の合計を5.5μSとすることに関し,【発明の背景】として次の記載がある。
「単一の駆動回路として図1のような単一画面を駆動する方式において,プラズマディスプレイパネルの各セルを駆動するためのパルスの幅は,セルの特性によっても異なるが,一般的な走査パルスの場合2.5μs内外の値を有する。図2に示したように,1維持周期内には1走査パルス10と共通電極での維持パルスと走査電極での維持パルスの2維持パルス7,8が印加できる時間間隔が必要なので維持パルスの最少の周期は5.5μsである。
2.5μs[走査パルス10の幅]+1.5μs[維持パルス7の幅]+1.5μs[維持パルス8の幅]=5.5μs・・・・@ 上記の時間は一つの走査電極にデータパルスを印加した後,次の走査電極にデータを印加する時までかかるデータパルスの周期である。」(【0004】〜【0005】) この記載によれば,「5.5μS」というパルスの時間幅の合計値は,走査パルスの幅を2.5μSという一般的な値に設定した場合における,維持パルスの最少の周期である。そうすると,そもそも三つのパルスの時間幅の合計を5.5μS以上とすることは,「5.5μ S」という数値に臨界的な意義はなく,また,走査パルス幅を2.5μSとしたことで必然的に採用しなければならないというべきであるから,当業者が適宜なし得ることといわざるを得ない。
三つのパルスの時間幅の合計を5.5μS以上とすることが,当業者が適宜なし得ることは,刊行物1の次の記載からも明らかである。
「第1図において,維持パルスA,維持パルスB及び走査パルスのパルス幅は5マイクロ秒,消去パルス幅は0.7マイクロ秒である。データパルスはこれらの走査パルスに同期して各列電極に印加挿入される。」(3頁右上欄18行〜左下欄2行) 「本実施例では,維持パルスや走査パルス幅を従来より広く取れる利点もある。
第6図(a)に示したように,従来の維持パルスの周期T1は1/115200=8.7マイクロ秒であるから,維持パルス及び走査パルスの幅は均等割り振りで2.9マイクロ秒以下となってしまう。しかし,本実施例の場合は,第6図(b)に示したように,維持周波数が38400Hzであるから,維持パルスの周期T2は1/38400=26マイクロ秒となる。」(3頁左下欄15行〜右下欄4行) すなわち,これらの記載によれば,第1図の実施例では,三つのパルス(維持パルスA,維持パルスB及び走査パルス)のパルス幅の合計は15μS(=5μ S×3)であり,また,維持パルスの周期についてみても,第6図(a)の従来例の維持パルスの周期T1では8.7μ Sであり,第6図(b)の実施例の維持パルスの周期T2では26μ Sである。したがって,これらの数値は「5.5μ S以上」という条件を満たしている。そして,また,「5.5μS」という数値に臨界的な意義がないことを参酌すると,三つのパルスの時間幅の合計を5.5μS以上とするのに,困難性はない。したがって,刊行物1に記載の三つのパルスの時間幅の合計が5.5μS以上であるということは,本願発明の維持周期が5.5μ Sであるということに該当するものと理解するのに障害があるということはできない。
(2) また,本願発明は,「パルスの時間幅を加えた時間をどの程度にすべきか」すなわち「維持周期の最小値を5.5μS」とすることと,「データ電極を分割すること」との関係については,「上記維持周期の許容値は上記データ電極の分割数の増加につれて増加する」構成のみを有していることも,前示のとおりである。
そして,刊行物2には,データ電極の分割に関し,次の記載がある。
「走査電極群を走査信号が並列的に供給される複数のブロックに分け,この複数のブロックに対応してデータ電極群を複数分割しているので,複数分割されたデータ電極群のそれぞれに独立した表示データ信号を供給して表示すれば,1画面表示に要する走査時間を分割しない従来例の複数分の1にすることができ,1行のアクセスタイムを複数倍にすることができる。したがって,走査電極群の行数を増やし,かつ,パルス数制御による表示の階調数を増やすことができる。」(2頁右上欄13行〜左下欄2行) 「例えば,HDTV(ハイビジョン)のように,1秒間の画面が60枚,1画面の走査電極群が1000行,パルス数制御による表示の階調数が256(8ビット)の高画質表示にした場合,1行のアクセスタイムは従来の約2μsの4倍の約8μsと長くなり,AC型のPDPでも十分にメモリ機能を活かした走査による表示をすることができる。」(3頁左上欄8〜15行) 「本発明によるPDPは,上記のように,走査電極群を走査信号が並列的に供給される複数のブロックに分け,この複数のブロックに対応してデータ電極群を複数分割して構成したので,複数分割されたデータ電極群のそれぞれに独立した表示データ信号を供給して表示すれば,1画面表示に要する走査時間を従来例の複数分の1にすることができ,1行のアクセスタイムを複数倍にすることができる。したがって,走査電極群の行数を増やし,かつ,パルス数制御による表示の階調数を増やして高画質表示にすることが容易となる。」(3頁右下欄11行〜4頁左上欄1行) これらの記載によれば,刊行物2には,データ電極を分割すれば,1画面表示に要する走査時間を分割しない従来例の複数分の1にすることができ,1行のアクセスタイムを複数倍にすることができることが開示されている。そうすると,この刊行物2に開示されたような公知の事実を参酌すれば,「刊行物1に記載されたプラズマディスプレイパネルも,データ電極を分割すれば走査線数は減少するから,維持周期の許容値は増加し得る性質のものである」とした審決の判断に,誤りはないというべきである。
(3) その他,相違点2の本願発明の構成が刊行物2の構成との間での実質的な相違点であるとすべき事実関係も認められないから,相違点2は実質的な相違点ではないとした審決の判断に誤りはない。よって,取消事由2も理由がない。
結論
以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 塩月秀平
裁判官 野輝久