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審判番号(事件番号) データベース 権利
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事件 平成 14年 (ワ) 8496号 特許出願権譲渡対価請求事件
原告A
同訴訟代理人弁護士 新井裕幸
同 新井正男
被告 コニカミノルタホールディングス株式会社
同訴訟代理人弁護士 内田敏彦
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2006/01/26
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 主位的請求 被告は,原告に対し,1億円及びこれに対する平成5年4月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 予備的請求 被告は,原告に対し,別紙特許権目録記載の各特許権につき,同目録記載の各持分の各移転登録手続をせよ。
事案の概要等
1 事案の概要 本件は,原告が,被告(当時の商号はコニカ株式会社)に在職中,写真用フィルム支持体及びその表面加工の研究等に従事し,別紙出願特許目録に記載の合計26件の発明(以下,まとめて「本件26件の発明」という。)を単独であるいは他の従業員と共同して発明したとして,原告が被告に対し,主位的請求として,平成16年法律第79号による改正前の特許法35条3項(以下,同条について「特許法」という場合,特に断らない限り,平成16年法律第79号による改正前の特許法をいう。)に基づき,本件26件の発明につき,特許を受ける権利の譲渡に対する相当の対価として算定した55億円のうち1億円の支払を求め,予備的請求として,本件26件の発明のうち,特許登録に至った別紙特許権目録記載の8件の特許権(以下,まとめて「本件各登録特許」という。)について,原告が被告に対して特許を受ける権利を譲渡していないとして,原告の本件各登録特許の各持分について,移転登録手続を求めている事案である。
これに対し,被告は,本件26件の発明の出願明細書の「発明者」欄には原告の名前は記載されておらず,形式的にも発明者とはいえないし,実質的にみても共同発明者ではないと主張し,また,仮に,原告が共同発明者と評価されるとしても,本件26件の発明により被告は独占の利益を得ていないから,特許を受ける権利の譲渡に対する相当の対価は存しない,などとして争っている。
2 前提となる事実(当事者間に争いのない事実,該当箇所末尾掲記の各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実) (1) 当事者 ア 被告(当事者間に争いがない。) 被告は,写真用フィルム等の感光材料等及びカメラ等の写真機材等その他の開発,製造及び販売等を目的とする株式会社である。
イ 原告の経歴 a) 被告に入社するまでの経歴(甲2,乙62の2のほか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨) 原告は,昭和45年3月,国立東京工業大学大学院高分子工学科博士課程を修了して工学博士を取得した。博士論文のテーマは,「α-メチルスチレン・エチレンオキサイド・ブロックコポリマーの結晶化動力学」であった。
原告は,同年4月に,帝人株式会社(以下「帝人」という。)に入社し,同年6月から昭和58年8月まで,帝人プラスチック研究所にて,ポリエステルフィルムの開発研究に従事した。なお,このポリエステルフィルムは,主として磁気記録用(VHS,β-max等),電気用(コンデンサーや電気絶縁用等),農業用(耐候性ハウス用)等に使用するものであった。
原告は,昭和58年8月から平成2年3月まで,帝人フィルム販売部・技術サービスグループなどに所属し,国内外の技術サービスを担当し,同年4月,帝人東京本社フィルム技術部から岐阜事業所に転勤となった。原告は,岐阜事業所において,技術部長を務め,工場で生産するポリエステルフィルムの技術問題を担当した。原告は,単身赴任で岐阜事業所に勤務していたこともあって,同年6月30日をもって,帝人を退職した。
原告は,この間,昭和46年から昭和57年にかけて,合計88件のポリエステルフィルムに関連する発明を,単独あるいは共同で発明し,これらは帝人から出願されている(甲15の1ないし34,38)。原告は,これらのうち,昭和48年から昭和50年にかけて,ポリエステルフィルムの中でも,積層ポリエステルフィルムに関連する発明を合計27件を発明している(甲39)。
原告は,帝人から,昭和47年に製膜ポリマーハンドリング工程の改善について,同48年にPETフィルムの色相改良について表彰を受けたほか(甲86の1,2),昭和53年から平成2年の間には,ポリエステルフィルム開発の功績により,合計11件の表彰を受けた(甲102ないし109。枝番号を含む。)。
そのほか,原告は,昭和57年には社団法人繊維学会から,農業用耐光性ポリエステルフィルムの開発について繊維学会賞技術賞も受けている(甲101の1及び2)。
b) 被告における経歴等(甲2,甲51) @ 原告は,平成2年7月1日に被告に入社した後,自宅待機期間を経て,同年10月16日から,実際に被告における勤務を開始した。そして,同年7月から平成3年10月までは,被告感材生産本部長室部長を,平成3年11月から,CTA(=セルローストリアセテート,「TAC」ともいう。)代替フィルム新支持体開発研究のプロジェクトリーダーを,平成4年5月から平成6年3月までは,同プロジェクトリーダー兼感材生産本部第4開発センター第1研究室長を,平成6年4月から平成8年11月までは,感材生産本部技術研究所部長を,同年12月から平成13年11月までは,CI事業本部第1開発センター(平成11年6月CM開発センターと組織名称変更)部長を務め,同月末日をもって,被告を退職した。
A 原告は,被告に在籍していた平成6年10月以降,積層ポリエステルフィルム支持体に関係しない発明について,合計20件の特許を出願しているほか(甲51,52),被告を退職後も,積層ポリエステルフィルム支持体に関する発明を5件出願している。
(2) 原告が特許法35条に基づく相当の対価を請求している発明について ア はじめに 原告が,被告に対し,特許を受ける権利を譲渡したとして,相当の対価を請求している本件26件の発明は,別紙出願特許目録記載の各公開公報に記載された発明である(甲71の1ないし25,乙4参照。以下,別紙出願特許目録に記載したとおり「第1発明」,「第2発明」などという。)。
本件26件の発明に係る上記各公開公報の発明者の欄には,原告の名前は記載されていない。
そして,本件26件の発明は,次に述べるとおり,@特許登録に至った発明(下記イ),A拒絶査定が確定した発明(下記ウ),B出願審査の請求期間徒過により,特許出願を取下げたものとみなされた発明(下記エ)に分類される。
イ 特許登録に至った発明について 本件26件の発明のうち,特許登録に至った発明は,次の八つであり,各特許権の内容及び特許登録後の各特許請求の範囲は,次のとおりである(以下,登録に至った発明をまとめて「本件各登録発明」という。)。
a) 第9発明(乙82の1) 特許番号 特許第3297724号 登録日 平成14年4月19日 発明の名称 積層フィルム及び写真用支持体 出願番号 特願平4-292162 出願日 平成4年10月6日 公開番号 特開平6-115033 公開日 平成6年4月26日 発明者(特許公報に記載された者。以下同旨) B,C,D,E,F,G,H 【特許請求の範囲】 【請求項1】 ポリエステルからなる層が2層積層されている積層フィルムであって,該ポリエステルの固有粘度差が0.02〜0.5であり,該ポリエステルが共重合成分として金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸を全エステル結合単位に対して2〜7モル%,かつポリアルキレングリコールを3〜10重量%含有することを特徴とする積層フィルム。
【請求項2】 前記ポリアルキレングリコールの数平均分子量が300〜20000であることを特徴とする請求項1記載の積層フィルム。
【請求項3】 前記積層フィルムが写真用支持体であることを特徴とする請求項1または2記載の積層フィルム。
b) 第11発明(乙82の2) 特許番号 特許第3345623号 登録日 平成14年9月6日 発明の名称 写真用支持体 出願番号 特願平4-292164 出願日 平成4年10月6日 公開番号 特開平6-118559 公開日 平成6年4月28日 発明者 B,C,D,E,F,G,H 【特許請求の範囲】 【請求項1】 金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸を含まないポリエステル層の少なくとも片面に共重合ポリエステル層が少なくとも1層積層されている多層フィルムからなる写真用支持体において,該共重合ポリエステルが共重合成分として金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸を含有し,該多層フィルムのハロゲン化銀乳剤層に隣接する層以外の少なくとも1層に該多層フィルムを回収して得られる回収ポリエステルを含有し,ハロゲン化銀乳剤層に隣接する層には該回収ポリエステルを含有しないことを特徴とする写真用支持体。
【請求項2】 金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸を含まないポリエステル層の少なくとも片面に共重合ポリエステル層が少なくとも1層積層されている多層フィルムからなる写真用支持体において,該共重合ポリエステルが共重合成分として金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸を含有し,更に共重合成分としてポリアルキレングリコール又は飽和脂肪族ジカルボン酸の少なくとも1種を含有し,該多層フィルムのハロゲン化銀乳剤層に隣接する層以外の少なくとも1層に該多層フィルムを回収して得られる回収ポリエステルを含有し,ハロゲン化銀乳剤層に隣接する層には該回収ポリエステルを含有しないことを特徴とする写真用支持体。
【請求項3】 金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸を含まないポリエステル層の少なくとも片面に共重合ポリエステル層が少なくとも1層積層されている多層フィルムからなる写真用支持体において,該共重合ポリエステルが共重合成分として金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸を含有し,更に共重合成分としてポリアルキレングリコール及び飽和脂肪族ジカルボン酸の少なくとも1種をそれぞれ含有し,該多層フィルムのハロゲン化銀乳剤層に隣接する層以外の少なくとも1層に該多層フィルムを回収して得られる回収ポリエステルを含有し,ハロゲン化銀乳剤層に隣接する層には該回収ポリエステルを含有しないことを特徴とする写真用支持体。
【請求項4】 該回収ポリエステルの含有量が,該回収ポリエステル含有量の重量に対して50重量%以下であることを特徴とする請求項1,2又は3に記載の写真用支持体。
c) 第14発明(乙82の3) 特許番号 特許第3390795号 登録日 平成15年1月24日 発明の名称 写真用支持体 出願番号 特願平5-123332 出願日 平成5年4月27日 公開番号 特開平6-175279 公開日 平成6年6月24日 発明者 C,D,E,B,F,G,H 【特許請求の範囲】 【請求項1】 ポリエステルフィルムの少なくとも片面に共重合ポリエステルフィルムが少なくとも一層積層された多層ポリエステルフィルムであって,該共重合ポリエステルフィルムに含有される共重合ポリエステルが,共重合成分として金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸を含有し,かつジエチレングリコールを全エステル結合単位に対して5モル%以下の範囲で含有することを特徴とする写真用支持体。
【請求項2】 請求項1記載の共重合ポリエステルが,共重合成分として更にポリアルキレングリコール類を含むことを特徴とする請求項1記載の写真用支持体。
【請求項3】 請求項1記載の共重合ポリエステルが,共重合成分として更に炭素原子数4〜20の脂肪族ジカルボン酸を含むことを特徴とする請求項1または2記載の写真用支持体。
【請求項4】 請求項1記載の共重合ポリエステルが,エステル交換時および/または重合時に,水酸化物の金属塩,脂肪族カルボン酸の金属塩および第四級アンモニウムから選ばれる少なくとも1種を添加して形成されることを特徴とする請求項1,2または3記載の写真用支持体。
d) 第15発明(乙82の4) 特許番号 特許第3493207号 登録日 平成15年11月14日 発明の名称 写真用支持体 出願番号 特願平5-99650 出願日 平成5年4月26日 公開番号 特開平6-180481 公開日 平成6年6月28日 発明者 C,E,B,F,G,H 【特許請求の範囲】 【請求項1】 金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸をモノマーユニットとして有する共重合ポリエステルを溶融押し出しして未延伸フィルムを得,その後二軸延伸して得られるフィルムであり,該フィルム中のジエチレングリコール含有量が全エステル結合に対して5モル%以下であることを特徴とする写真用支持体。
【請求項2】 前記共重合ポリエステルは,モノマーユニットとしてポリアルキレングリコール類を含有する前記請求項1に記載の写真用支持体。
【請求項3】 前記共重合ポリエステルは,さらにモノマーユニットとして炭素数4〜20の脂肪族ジカルボン酸を有する前記請求項1または2に記載の写真用支持体。
【請求項4】 前記共重合ポリエステルは,エステル交換時および/または重合時に,酢酸ナトリウム,水酸化ナトリウム,テトラエチルヒドロキシアンモニウムよりなる群から選択される少なくとも一種を添加して得られてなる前記請求項1〜3のいずれかに記載の写真用支持体。
e) 第18発明(乙183) 特許番号 特許第3592731号 登録日 平成16年9月3日 発明の名称 フィルム 出願番号 特願平5-99649 出願日 平成5年4月26日 公開番号 特開平6-240020 公開日 平成6年8月30日 優先権主張 特願平4-139472 優先日 平成4年5月29日 発明者 E,C,D,B,F,G,H 【特許請求の範囲】 【請求項1】二層以上のポリエステル層および共重合ポリエステル層から成り,熱処理後の巻きぐせカール度が135m-1以下で,温水浴処理後の回復カール度が45m-1以下であり,巾方向におけるカール度が5〜30m-1であり,前記ポリエステル層の片面に共重合ポリエステル層を積層してなり,該共重合ポリエステル層が,共重合成分として金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸を全エステル結合に対し2〜7モル%含有すると共に共重合成分としてポリアルキレングリコール類および/または飽和脂肪族ジカルボン酸を反応生成物の全重量に対して3〜10重量%含有してなることを特徴とするフィルム。
なお,第18発明が登録に至るまでの経過は次のとおりである。
第18発明の出願に対し,平成15年9月4日,拒絶理由が通知され(乙200),被告は,特許庁に対し,同年11月11日付け意見書(乙201)と手続補正書(乙202)を提出し,補正を求めたが,特許庁は,同年12月2日,上記補正によっても拒絶理由は解消しないとして,拒絶査定をした(乙188)。そこで,被告は,特許庁長官に対し,平成16年1月5日,同査定の取消を求めて審判を請求し(乙189),同年2月4日,手続補正書により,特許請求の範囲について,従来29個あった請求項(別紙第18発明の出願当時の特許請求の範囲を参照。以下,出願当時の請求項を「旧請求項1」などという。)を,上記の特許請求の範囲の請求項1に記載のとおり,一つの請求項として(以下「新請求項1」という。),出願当初明細書の全文の補正を求めた(乙190。以下「本件補正」という。)。その後,原告は,特許庁長官から平成16年3月2日,手続補正指令書を受けたため(乙191),同月26日,手続補正書を提出し(乙192),同年4月12日,上記拒絶査定不服審判事件は,審査官による前置審査に付され(乙193),同年5月14日,特許庁審査官は,本件補正後の明細書の記載について,特許法36条4項違反のみを理由とする拒絶理由を通知し(乙194),被告は,同年7月16日,意見書を提出するとともに(乙195),手続補正書を提出した(乙196)。その結果,第18発明は特許査定に至った(乙197)。
f) 第19発明(乙82の5) 特許番号 特許第3337518号 登録日 平成14年8月9日 発行日 平成14年10月21日 発明の名称 写真用支持体 出願番号 特願平5-72476 出願日 平成5年3月30日 公開番号 特開平6-289534 公開日 平成6年10月18日 発明者 B,C,E,F,G,H 【特許請求の範囲】 【請求項1】 ポリエステルからなる層が2層以上積層された多層フィルムであって,該多層フィルムの少なくとも一層が共重合成分として金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸およびポリアルキレングリコール類を含有し,任意の隣接する2層間において,金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸の含有量の差(ΔSIP )が5.5モル%/全エステル結合以下であり,かつポリアルキレングリコール類の含有量の差(ΔPEG )が6.0重量%/全重量以下であることを特徴とする写真用支持体。
g) 第25発明(乙82の6) 特許番号 特許第3496165号 登録日 平成15年11月28日 発明の名称 写真用支持体 出願番号 特願平6-4842 出願日 平成6年1月20日 公開番号 特開平7-209805 公開日 平成7年8月11日 発明者 C,E,I 【特許請求の範囲】 【請求項1】 少なくとも1層の吸水性ポリエステルからなる層を有する多層構成のポリエステルフィルムであり,該ポリエステルフィルムは縦方向に一軸延伸した後,Tg〜Tm-20℃の温度範囲内で,2つ以上に分割された延伸領域で昇温しながら横延伸し,次いで熱固定したものであり,該ポリエステルフィルムの横方向のカール度が5〜50m-1でカール度のムラが10m-1以内であり,縦方向の熱収縮率が0.5〜3.0%で横方向の熱収縮率が-0.5〜0.5%であることを特徴とするポリエステルフィルムからなる写真用支持体。
【請求項2】 前記吸水性ポリエステルを構成するジカルボン酸成分として,スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸および/又はそのエステル形成性誘導体を含むことを特徴とする請求項1記載のポリエステルフィルムからなる写真用支持体。
【請求項3】 前記吸水性ポリエステルを構成するジカルボン酸成分またはジオール成分として,ポリオキシアルキレン基を有するエステル形成性化合物を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2記載のポリエステルフィルムからなる写真用支持体。
【請求項4】 ポリエステルフィルムを縦,横方向に二軸延伸した後,その最終横延伸温度以下で,Tg-40℃以上の範囲に0.01〜5分間保持することにより得ることを特徴とする請求項1,請求項2,又は請求項3記載のポリエステルフィルムからなる写真用支持体。
【請求項5】 ポリエステルフィルムを縦,横方向に二軸延伸した後,その最終横延伸温度より高温でTm-20℃以下の温度範囲内で,2つ以上に分割された領域で昇温しながら熱固定することにより得ることを特徴とする請求項1,請求項2,請求項3,又は請求項4記載のポリエステルフィルムからなる写真用支持体。
【請求項6】 ポリエステルフィルムを縦,横方向に二軸延伸し熱固定した後,その最終熱固定温度以下,Tg以上の温度範囲内で横方向に0.1〜10%弛緩処理することにより得ることを特徴とする請求項1,請求項2,請求項3,請求項4,又は請求項5記載のポリエステルフィルムからなる写真用支持体。
【請求項7】 ポリエステルフィルムを縦,横方向に二軸延伸し熱固定した後,その最終熱固定温度からTg以下まで冷却するに際して,毎秒100℃以下の冷却速度で徐冷することにより得ることを特徴とする請求項1,請求項2,請求項3,請求項4,請求項5,又は請求項6記載のポリエステルフィルムからなる写真用支持体。
h) 第26発明(乙82の7) 特許番号 特許第3429546号 登録日 平成15年5月16日 発明の名称 ポリエステルフィルム及び写真用支持体 出願番号 特願平6-18918 出願日 平成6年1月19日 公開番号 特開平7-209811 公開日 平成7年8月11日 発明者 E,C,I,J,G,H 【特許請求の範囲】 【請求項1】 少なくとも二層以上積層してなるポリエステルフィルムであって,共重合成分として金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸を含有し,かつ共重合成分としてオキシアルキレン基の繰り返し構造を有する化合物をポリマーの全重量に対して5重量%以上含有するポリエステル層(A層)と,共重合成分として金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸を含有し,かつ共重合成分としてオキシアルキレン基の繰り返し構造を有する化合物をポリマーの全重量に対して5重量%未満含有するポリエステル層(B層)とを有し,かつ,A層及びB層のポリエステルの固有粘度が,0.45〜0.65であり,A層の厚みの総和dA,B層の厚みの総和dBの比dA/dBが0.7未満であり,かつ,フィルムの全厚みを半分に分割する面に対して,その面の上下で層構成が非対称であって,任意の隣接する二層間の,金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸の含有量の差(ΔS)が5.5モル%/全エステル結合以下であり,オキシアルキレン基の繰り返し構造を有する化合物の含有量の差(ΔAL)が1〜15重量%/全重量以下であることを特徴とするポリエステルフィルム。
【請求項2】 三層以上のフィルムを積層してなるポリエステルフィルムであって,共重合成分として金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸を含有し,かつ共重合成分としてオキシアルキレン基の繰り返し構造を有する化合物をポリマーの全重量に対して5重量%以上含有する層(A層)が表面を形成するように積層されていることを特徴とする請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項3】 アンチカール度が5〜30m-1であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項4】 23℃,55%RHの雰囲気下におけるアンチカールの凸面側の最上層の膜厚が20μm以下であることを特徴とする請求項1〜3に記載のポリエステルフィルム。
【請求項5】 温水浴処理後の回復カール度が45m-1以下であることを特徴とする請求項1〜4に記載のポリエステルフィルム。
【請求項6】 請求項1〜5に記載のポリエステルフィルムよりなることを特徴とする写真用支持体。
拒絶査定が確定したものについて 本件26件の発明のうち,第2発明,第5発明,第17発明,第23発明及び第24発明に係る各特許出願(合計5件)は,いずれも被告から出願審査請求をして,特許庁審査官の審査を受けたものの,拒絶査定を受け,拒絶査定が確定した(以下,これら5件の出願に係る発明をまとめて「拒絶査定確定分」という。)。
拒絶査定確定分の拒絶査定に至る経緯の概略は,次のとおりである。
a) 第2発明について 被告は,平成4年10月21日に第2発明を出願した後(甲71の2),平成11年10月20日,第2発明に係る当初明細書の記載の誤記等を訂正するための手続補正書(乙83の3)と出願審査請求書(乙83の2)を提出した。
特許庁審査官は,第2発明の出願に対し,この出願に係る発明は特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,とする平成13年1月31日付け拒絶理由通知(乙83の4)を発した。これに対し,被告は,同年4月10日付けの意見書(乙83の5)を提出したが,特許庁審査官は,平成14年2月26日付けで,「この出願については,平成13年1月31日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって,拒絶をすべきものである。なお,意見書の内容を検討したが,拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせない。」として拒絶査定をした(乙83の7)。
b) 第5発明について 被告は,平成4年10月14日,第5発明を出願し(甲71の5),平成11年8月17日,出願審査請求書(乙84の2)を提出した。
特許庁審査官は,第5発明の出願に対し,この出願に係る発明は特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,とする平成13年2月22日付け拒絶理由通知(乙84の3)を発した。これに対し,被告は,同年4月26日付け意見書(乙84の4)を提出したが,特許庁審査官は,平成14年2月27日付けで,「この出願については,平成13年2月22日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって,拒絶をすべきものである。なお,意見書の内容を検討したが,拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせない。」として拒絶査定をした(乙84の5)。
c) 第17発明について 被告は,平成5年4月26日,第17発明を出願し(甲71の17),平成12年3月13日,第17発明に係る当初明細書の記載の誤記等を訂正するための手続補正書(乙85の3)と出願審査請求書(乙85の2)を提出した。
特許庁審査官は,第17発明の出願に対し,この出願に係る発明は特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,とする平成14年10月30日付け拒絶理由通知(乙85の4)を発し,平成15年2月28日付けで,「この出願については,平成14年10月30日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって,拒絶をすべきものである。」として拒絶査定をした(乙85の5)。
d) 第23発明について 被告は,平成5年8月20日,第23発明を出願し(甲71の22),平成12年7月7日,第23発明につき出願審査請求書(乙86の2)を提出した。
特許庁審査官は,第23発明の出願に対し,この出願に係る発明は特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,とする平成15年6月25日付け拒絶理由通知(乙86の3)を発し,同年11月28日付けで,「この出願については,平成15年6月25日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって,拒絶をすべきものである。」として拒絶査定をした(乙86の4)。
e) 第24発明について 被告は,平成5年11月4日,第24発明を出願し(甲71の23),平成12年6月30日,第24発明に係る当初明細書の記載の誤記等を訂正するための手続補正書(乙87の3)と出願審査請求書(乙87の2)を提出した。
特許庁審査官は,第24発明の出願に対し,この出願に係る発明は特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,とする平成15年1月23日付け拒絶理由通知(乙87の4)を発し,同年5月29日付けで,「この出願については,平成15年1月23日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって,拒絶をすべきものである。」として拒絶査定をした(乙87の5)。
出願審査請求の期間を徒過したものについて 本件26件の発明のうち,次の合計13件の発明は,いずれも出願審査請求期間の徒過により,出願を取り下げたものとみなされている(平成11年法律第41号による改正前の特許法48条の3第4項。以下,これらの13件の発明を「みなし取下げ分」という。)。
a) 第1発明 被告は,平成4年10月19日に第1発明を出願したが(甲71の1),審査請求をしなかったため,平成11年10月19日,同出願は取り下げられたものとみなされた(乙108の1)。
b) 第3発明 被告は,平成4年5月29日に第3発明を出願したが(甲71の3),審査請求をしなかったため,平成11年5月29日,同出願は取り下げられたものとみなされた(乙108の2)。
c) 第4発明 被告は,平成4年10月14日に第4発明を出願したが(甲71の4),審査請求をしなかったため,平成11年10月14日,同出願は取り下げられたものとみなされた(乙108の3)。
d) 第6発明 被告は,平成4年8月24日に第6発明を出願したが(甲71の6),審査請求をしなかったため,平成11年8月24日,同出願は取り下げられたものとみなされた(乙108の4)。
e) 第7発明 被告は,平成4年8月31日に第7発明を出願したが(甲71の7),審査請求をしなかったため,平成11年8月31日,同出願は取り下げられたものとみなされた(乙108の5)。
f) 第8発明 被告は,平成4年9月24日に第8発明を出願したが(甲71の8),審査請求をしなかったため,平成11年9月24日,同出願は取り下げられたものとみなされた(乙108の6)。
g) 第10発明 被告は,平成4年10月6日に第10発明を出願したが(甲71の10),審査請求をしなかったため,平成11年10月6日,同出願は取り下げられたものとみなされた(乙108の7)。
h) 第12発明 被告は,平成4年11月25日に第12発明を出願したが(甲71の12),審査請求をしなかったため,平成11年11月25日,同出願は取り下げられたものとみなされた(乙108の8)。
i) 第13発明 被告は,平成5年1月21日に第13発明を出願したが(甲71の13),審査請求をしなかったため,平成12年1月21日,同出願は取り下げられたものとみなされた(乙108の9)。
j) 第16発明 被告は,平成4年12月22日に第16発明を出願したが(甲71の16),審査請求をしなかったため,平成11年12月22日,同出願は取り下げられたものとみなされた(乙108の10)。
k) 第20発明 被告は,平成5年5月11日に第20発明を出願したが(甲71の19),審査請求をしなかったため,平成12年5月11日,同出願は取り下げられたものとみなされた(乙108の11)。
l) 第21発明 被告は,平成5年6月2日に第21発明を出願したが(甲71の20),審査請求をしなかったため,平成12年6月2日,同出願は取り下げられたものとみなされた(乙108の12)。
m) 第22発明 被告は,平成5年6月2日に第22発明を出願したが(甲71の21),審査請求をしなかったため,平成12年6月2日,同出願は取り下げられたものとみなされた(乙108の13)。
(3) 補償金等の支払 本件26件の発明が出願された当時,被告においては,被告工業所有権管理規程(ただし,平成9年11月25日改正前のもの。乙184。以下「被告規程」という。)が整備されている。
原告は,本件26件の発明について,被告規程に基づく各種補償金の支払を受けていない(当事者間に争いがない)。
(4) 本件26件の発明についての実施状況 被告は,現在に至るまで,本件26件の発明を実施していない(当事者間に争いがない)。
(5) フィルム支持体の開発 ア フィルム支持体とは,写真用フィルムのベースとなる部分のことである。写真用フィルムは,フィルム支持体の両側のそれぞれの表面に様々な薬剤を塗布し,感光性乳剤層及びバックコート層を付けて加工することにより構成されている。
イ 本件26件の発明が出願された当時,市場で使用されているカラーフィルムは,フィルム支持体としてセルローストリアセテート(以下「CTA」という。トリアセチルセルロース(TAC)ともいう。)を用いていた。CTAの片面には,10層程度の「感光性乳剤層」を塗布し,CTAの逆側の片面に,帯電防止剤等から成る「バックコート層」を塗布していた。
CTAは,透明性等の光学的特性に優れ,切断し易く,寸法安定性にも優れ,100年以上前からフィルム支持体として使われてきた。
しかし,CTA製造の際,溶剤として,有害物質であるメチレンクロライドを使用せざるを得ず,メチレンクロライドを大気中に放出することを完全に避けることができなかったため,環境保護の観点から,多くの付帯設備が必要でコスト高になっていた。
また,写真フィルムは,カメラの小型化に伴い写真フィルム収納スペースのコンパクト化が必要となっており,写真フィルム自体の厚さを薄くすることが求められており,そのためには,感光層の厚みに比べてかなりの厚みを有していた写真用フィルム支持体の厚みを薄くすることが最も有効な手段であった。
そこで,CTA類似のフィルム支持体を作ることが必要とされていた。
ウ フィルムの支持体としては,ポリエチレンテレフタレート(PET)が従来から知られており,X線用フィルムや製版用フィルムに用いられてきた。PET支持体は強度に優れているものの,いったんついた巻ぐせが現像処理後もほとんど取れないという,巻ぐせ解消性に劣る欠点があった。
(以上は,当事者間に争いがない)。
3 争点 (1) 原告は本件26件の発明の単独の発明者あるいは共同発明者といえるか(争点1)。
ア 原告は,第18発明について共同発明者といえるか(争点1-ア)。
イ 原告は,第18発明以外の本件各登録発明について単独の発明者あるいは共同発明者といえるか(争点1-イ)。
ウ 本件26件の発明中,登録に至らなかった発明(みなし取下げ分及び拒絶査定確定分)について原告は,共同発明者といえるか(争点1-ウ)。
(2) 被告は,原告から本件26件の特許を受ける権利承継したか(争点2)。
(3) 原告が,本件26件の共同発明者であり,被告がこれを承継した場合,これらについての特許を受ける権利の譲渡の相当の対価の額(争点3)。
(4) 仮に,本件各登録発明について,原告が単独ないし共同発明者であり,かつ,原告と被告の間に,特許を受ける権利を譲渡する旨の合意がなかったとして,原告は,本件各登録特許に係る自己の持分につき,被告に対し,特許権の持分移転登録を請求できるか(争点4)。
争点に関する当事者の主張
1 争点1-ア(原告は,第18発明について共同発明者といえるか)について 【原告の主張】 (1) 第18発明の本質的部分について アa) 第18発明の本質的部分は,「非対称積層アンチカールの発想をCTA代替写真用フィルム支持体に使用したこと」にあり,これは原告のオリジナルな発想である。すなわち,巻癖(以下「カール」ともいう。)回復性と機械的強度との二律背反性の要請を共に満足させ,かつ,バックコート層(カールを調節する目的などで従来カラー写真用フィルムにおいて,乳剤を塗布する層と反対側に塗布されていた層。)の塗布を省略できるための手段として,「複数のポリエステルフィルムを貼り合わせる(以下「積層」という。)際にそれぞれ物理的あるいは化学的あるいは機械的に相違する複数のポリエステルフィルムを貼り合わせること(以下「非対称積層」という。)により,わざとカールさせ,乳剤を塗ったとき逆にカールすることによって,カールしていないフラットなカラー写真用フィルムを製造するという発想」(以下「非対称積層アンチカールの発想」ともいう。)を,CTA代替写真用フィルム支持体に応用し,実現化したものである。
b) 非対称積層アンチカールが第18発明の本質的部分であることは,第18発明において優先権主張している発明からも明らかである。
すなわち,第18発明は,平成4年5月29日に出願された特願平4-139472号(以下,この出願に係る発明を「第18-1発明」という),同年10月6日に出願された特願平4-267697号(以下,この出願に係る発明を「第18-2発明」という。),同年12月24日に出願された特願平4-344017号(以下,この出願に係る発明を「第18-3発明」という。)の三つの国内特許出願に基づく優先権を主張して出願されたものである。
そして,第18発明の本質的部分は,最も早い優先権主張番号の発明,つまり第18-1発明に現れている。第18-1発明の請求項1は,第18発明の旧請求項28の内容とほぼ同一であり,その内容は非対称積層を示している。
c) 熱処理後の巻き癖カール,温水浴処理後の回復カール及び巾手方向におけるカール(以下「三カール度」という。)は,第18発明の本質的部分ではない。
熱処理後の巻き癖カール及び温水浴処理後の回復カールは,第18発明を特許として仕上げる段階で,既存のフィルム支持体であるCTAと類似の性質を持たせるべく,周辺的なものとして考案されたにすぎない。
巾手方向におけるカール度は,フィルム支持体が垂れ下がったり,折れ曲がったりなどしないように(腰を強くすること。以下,「スティッフネス」という。),わざと付与するもので,非対称なる手法で初めて可能となった特性である。スティッフネスを付与するための,巾手方向におけるカール度という発想は,原告が,特開昭50-16783号公報(甲46。以下「甲46公開公報」という。)において既に実現していたもので,原告は,プロジェクトリーダーとして,甲46公開公報の内容を部下に教えたものである。
この三カール度は,第18-1発明には明示的には全く現れていなかったが,潜在的に現れているといえ,発明の洗練化の過程で,原告が自覚するに至り,CTA代替写真用フィルム支持体として,CTA数値に近づけるべく,第18-2発明で明示するに至った。
その後,第18発明において,非対称を記載する請求項に先立って,旧請求項1ないし5に三カール度が記載されているが,三カール度は,非対称積層アンチカールという本質的部分を土台として発見されるに至った補充的性質にすぎない。
仮に,三カール度が第18発明の本質的部分といえるとしても,三カール度は,原告が,第18発明のプロジェクトリーダーであった時期に完成された発明である。プロジェクトリーダーは,管理職ではなく,一つのプロジェクトの実現に向け,人・物・金を管理しつつ,自己の発想及びその実現手段を研究チームの構成員全員に周知徹底させ,細部にわたって指示・指導し,研究チームの全員を自己の手足として用いて,自己の発想を実現させていくものである。
したがって,原告がプロジェクトリーダーであった時期の発明は,原告の主導に基づき発明されたものというべきである。
イ 第18発明は,バックコート層の塗布を省略できることをも目指す発明である。このことは,第18発明公開特許公報(特開平6 -240020号公報・乙4。以下,「第18発明公開公報」という。)の【0141】における「本発明の効果を損なわない範囲で反対側に少なくとも一層以上のバッキング層(原告注,=「バックコート層」)かハロゲン化銀乳剤層を有していてもよい」と記載されており,この記載は,裏を返せば,単に「本発明の効果を損なわない範囲で」バックコート層を「有していてもよい」だけであるにすぎず,有していない方が望ましいことを意味する。
(2) 第18発明に関する原告の請求の根拠 ア 第18発明が特許登録されるに至った経緯 第18発明は,別紙第18発明の出願当時の特許請求の範囲の各請求項に記載のとおり,旧請求項1ないし旧請求項29の全29項により出願されたが,前記のとおり,拒絶査定などを受け,結局,本件補正により特許登録に至ったのは,新請求項1のみであった。
イ 新請求項1に基づく原告の請求について a) 新請求項1の「二層以上のポリエステル層および共重合ポリエステルから成り」,「前記ポリエステル層の片面に共重合ポリエステル層を積層してなり」という部分が,原告の発想に係るものであることは,第18発明の本質的部分から明らかである。
b) 新請求項1の「熱処理後の巻きぐせカール度が135m-1以下で,温水浴処理後の回復カール度が45m-1以下であり,巾方向におけるカール度が5〜30m-1であり」という部分は,第18発明がCTA代替支持体である以上,CTAに近づけるべく数値を取ったにすぎず,何ら第18発明の本質的部分ではない。
仮に,当該部分が第18発明の本質的部分であるとしても,熱処理後の巻きぐせカール度,温水浴処理後の回復カール度及び巾方向におけるカール度の各数値をCTAの各数値に近づけるように指示したのは原告であり,その試行錯誤の過程で絶えず指示を与え続けたのも原告であるから,原告が当該本質的部分の主導的発明者である。特に,巾手方向におけるカール度については,原告の先行発明(甲46公開公報)があることからも,原告が指示したことが明らかである。
c) 新請求項1の「該共重合ポリエステル層が,共重合成分として金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸を全エステル結合に対し2〜7モル%含有すると共に共重合成分としてポリアルキレングリコール類および/または飽和脂肪族ジカルボン酸を反応生成物の全重量に対して3〜10重量%含有してなる」という部分は,第18-1発明(乙16の1)の請求項1を引き継いだ部分であり,共重合成分として何を選択し,その選択された共重合成分をどれだけの割合で含有させるかについて(それらは当時公知ではなかった。),原告が原告の先行発明たる特開昭54-155232号(甲78の3)に記載の粘着テープにかかる発明における知見(第18発明の構成ポリマーである変性ポリエステルに直結する知見)を踏まえた上で,部下達に具体的指示を与え,絞り込むに至ったのである。したがって,当該部分についても,原告が主導的発明者である。
ウ 旧請求項に基づく原告の請求について 新請求項1は,おおむね旧請求項1ないし8,12,23及び27(この合計11項の請求項を,以下,まとめて「旧請求項T群」という。)を合体させ,一つの請求項としたものである。
したがって,旧請求項T群に基づいて原告が被告に対して相当の対価を求めることができることは明らかである。
また,旧請求項9ないし11,13ないし22,24ないし26及び28(この合計17件項の請求項を,以下,まとめて「旧請求項U群」という。)は新請求項1に取り入れられていないものの,本件においては,次に掲げる特段の事情があるため,原告は,旧請求項U群に基づいても相当の対価を請求することができる。
a) 旧請求項U群は,おおむね非対称積層アンチカールを内容とする請求項であり,第18発明の本質的部分は,前述のとおり,非対称積層アンチカールにある。
旧請求項に関する拒絶査定(乙188)は,その拒絶理由Tにおいて,「引用文献・特開昭50-123420号公報(甲7・甲15の21)には,ポリエステルの固有粘度,層厚,感光層の伸縮性がフィルムのカールに影響を与えることが示されているから,これらのカール低減手法を適宜に組み合わせて本願発明に相当するフィルムを得ることは,当業者が容易になし得た程度のことである。」と述べ,第18発明における非対称積層アンチカールの新規性を否定している。しかし,この拒絶査定は,誤りである。上記の引用文献(甲7・甲15の21)においては,旧請求項と異なり,原則として,固有粘度の異なるポリエステル(PET)ホモポリマーの積層フィルムのみを扱っていたにすぎないからである。
ただし,同引用文献に係る発明においても,変性ポリマーを用いてもよいが,変性ポリマーを用いる場合も,それまでの単層ポリエステルの発明にならって(甲110,116の1及び2,120の1その他多数),変性ポリマーを接着性等の観点から使用するにすぎず,非対称積層アンチカールの観点から使用していたのではなかった。
したがって,第18発明出願当時は,固有粘度の異なるポリエステル(PET)ホモポリマー又はホモポリマーと同視できる変性ポリマーを使用した積層フィルムの限度で,非対称積層アンチカールが公知であったにすぎない。
一方,旧請求項では,@原則として変性ポリエステル(m-PET)を扱っている。すなわち,固有粘度が異なり,かつ,厚みが同一で,かつ,同一の変性ポリエステルを積層した場合,しかも,その変性ポリエステルが共重合成分としてPEGとSIPを特定かつ同一の割合で含む場合において,実用に耐えるアンチカールが産まれるかは,当時公知ではなかった。また,旧請求項では,A共重合成分としてPEGとSIPを用いているが,上記引用文献では使用していない。さらに,旧請求項では,B固有粘度は同じで,かつ,厚みが異なり,かつ,同一の変性ポリエステル(共重合成分としてPEGとSIPを特定かつ同一の割合含む。)を扱っているが,このような場合,実用に耐えるアンチカールが産まれるかは,当時公知ではなかった。さらに,旧請求項では,C固有粘度は同じで,異なる変性ポリエステル(共重合成分としてPEGとSIPを特定かつ異なる割合で含む2つの層。)を,同一の厚みで積層した場合を扱っている。かかる場合,実用に耐えるアンチカールが産まれるかは,当時公知ではなかった。
b) 以上からすると,非対称積層アンチカールを内容とする旧請求項U群を新規性に欠けるとして排斥した第18発明に対する拒絶査定(乙188)は誤りであった。
ところが,原告は,同拒絶査定の内容を当時知る由もなく,その誤りを指摘できなかった。さらに,被告も,その誤りを指摘しなかった。被告がその誤りを指摘しなかった理由は,(@)同査定の日付が平成15年12月2日であり,他方,原告本人尋問,C証人尋問及びE証人尋問がなされた日が同年10月30日及び11月11日と,同査定の日付の直前であること,(A)上記三尋問によって,原告が非対称積層アンチカールの主導的発明者である事実が明確となったこと,(B)同年12月2日に拒絶査定がなされている以上,特許庁における通常の手続の流れからして,拒絶査定を巡っての特許庁と被告とのやり取りは同年初めころから始められていたはずであり,その時期は,原告が,本件訴訟において自らが非対称積層アンチカールの主導的発明者である事実を明確に主張立証しつつあったこと,(C)上記(B)及び(A)の結果,被告は,非対称積層アンチカールを第18発明の請求項として外したい衝動に強く駆られていたものと推測される。
c) このように,特許庁が第18発明の本質的部分について誤解し,誤った拒絶査定をしたこと,及び,被告が上記査定に対して,正当な反駁をせず,第18発明の本質的部分(旧請求項U群)を新請求項から除外したことを容認することはできないし,容認すべきでもない。
したがって,このような特段の事情があるため,原告は,旧請求項U群に基づいても,相当対価の主張をすることができる。
d) 旧請求項に積層,アンチカール及び非対称なる手法が記載されていること @ 積層なる手法の記載は自明である。
A 非対称なる手法は,旧請求項のほとんどすべてに現れている。最も端的に現れているのは旧請求項24であり,その他,旧請求項13には厚みについての非対称が現れており,旧請求項18には,共重合成分についての非対称が現れている。
B アンチカールについては,第18発明公開公報の「発明の詳細な説明」(同公報73欄の下から5行目,74欄の下から2行目など)に,記載されている。アンチカールという目的を実現する手段が非対称なる手法なので,非対称が旧請求項に明示されている以上,アンチカールも旧請求項に記載されているといえる(なお,アンチカールとは,非対称という手法によりフィルムを積層することによりわざとカールさせ(アンチカール特性),乳剤を塗ったときに逆にカールすることによって,カールしていないフラットなカラー写真用フィルムを製造するという発想のもと,加熱処理したときに初めて出現する特性である。)。
C アンチカールにより,乳剤塗布によるカールをバランスするという発想は,第18発明公開公報の【0056】【0080】【0095】及び【0141】に記載されている。
(3) 原告が第18発明を発明した経緯 ア 被告に入社する以前の原告の経歴(平成2年6月30日まで) 原告が被告に入社する前に勤務していた帝人は,昭和20年代からポリエステルフィルム開発を行っており,世界的な競争力を有していた。原告は,その帝人において,ポリエステルフィルム開発に従事し,昭和46年から昭和57年にかけて,ポリエステルフィルム等につき88件の発明をした。この88件の発明のほとんどは,発明者の筆頭者として原告の名前が掲げられており,このうち,積層ポリエステルフィルムについては,昭和48年から同50年にかけて27件の発明をなした。また,そのうち,第18発明の本質的部分たる非対称積層アンチカールに関係する発明は34件にも及ぶ(甲15の1ないし34及び甲46)。(ただし,上記34件は,いずれも,非対称積層アンチカールではあるものの,CTA(=TAC)代替写真用フィルム支持体についての非対称積層アンチカールではなく,それゆえに,第18発明は特許性を有する。)。特に,特開昭50-123420号(甲7・甲15の21),特開昭51-131577(甲15の27)等においては,非対称積層アンチカールによってフラットなフィルムを製造するという発想も特許化していた(ただし,アンチカールの目的はもっぱらバックコート層の塗布の省略にあった点が,第18発明とは異なる。)。
このように,原告は,被告に入社する以前から,ポリエステルフィルム全般について熟知し,かつ,指導的立場にある,実績・経験豊かな練達の研究者・発明者であった。
イ 第18発明の着想に至るまで(平成2年7月1日より平成3年11月23日まで) 原告が被告における勤務を開始したのは,平成2年10月16日からであった。原告が被告における勤務を開始した当時,被告では,ポリエステルを用いてCTA代替カラー写真用フィルム新支持体を作れないかという問題意識は持っていたものの,ポリエステルフィルム一般につき,ほとんど実績が無く,設備・知見・人材のいずれにも乏しかった。特に,積層ポリエステルフィルムについては,実績・設備・知見・人材は皆無であった。被告においては,CTA代替写真用フィルム支持体としてのポリエステルフィルム支持体の開発を,平成2年7月に始めたばかりで,その開発に際しての具体的問題点の内容ないし所在さえ,暗中模索状態であって,この時点では,単層ポリエステルフィルムのみをターゲットとしていた。
原告は,長年,高分子重合体,分けても高分子重合体の一種であるポリエステルを原料とする単層及び積層ポリエステルフィルムについて専門知識・経験を蓄積してきたことから,いかなる熱可塑性樹脂をCTA代替カラー写真用新支持体として使用できるかについて,被告の他の共同研究者たちと共に,研究・開発に取り掛かった(甲2)。
共同研究者たちの中で,当時,ポリエステルフィルムについての十分な専門知識を有していたのは,原告のほかには,第4開発センターのKセンター長とCだけであった。しかし,CやKとて,議論できるのは単層ポリエステルフィルムについてのみで,積層ポリエステルフィルムについてはほとんど知らなかった。
したがって,原告は,初出社の平成2年10月16日以降,直ちに,CTA代替写真用フィルム新支持体開発につき,研究者兼事実上のプロジェクトリーダーとして,リーダーシップを取って従事した。原告は,当時,単層ポリエステルフィルムをカラー写真用支持体として使えるか否かについて,他の研究者たちを自己の手足として使いつつ,いろいろと試行錯誤していた(平成3年1月度ないし11月度月報(甲68,甲65の1ないし6,甲65の8及び9,並びに甲66。なお,同年10月度月報は欠落。)及び甲65の7「鐘紡〜コニカ技術打ち合わせ」を参照。)ものの,単層ポリエステルフィルムでは,カラー写真用支持体として必要な二つの特性,機械的強度のアップと巻き癖除去とを同時に満足させることが困難であること(二律背反)が分かってきた。原告は,平成3年11月16日,CTA代替写真用新支持体(NS)のプロジェクトリーダーに就任し,同月23日,自宅で風呂に入っていたとき,突然,「CTA代替カラー写真用フィルム支持体について,積層ポリエステルフィルムでいけば,うまくいくかもしれない。主として,同フィルムの各層の構成(各層の共重合組成の構成),各層の厚み,分子量の三つをいろいろに変えてみれば,すなわち,「非対称」の手法を採って,アンチカールを付ければ,カラー写真用新支持体のために必要な機械的強度を維持しつつ,巻き癖を除けるに違いない。」とひらめいた(なお,原告は,後に,これを原告作成の研究ノート(甲21。以下,「甲21原告研究ノート」という。)の12月10日付部分に記載した(この記載は,甲16・4頁と同じもの。以下同様。))。
同月20日,原告のみが,上記プロジェクトのメンバーに対し,カラー写真用フィルム支持体として積層ポリエステルフィルムを開発すべきだとの提案を行った。
ウ 発明の着想から実現化に至るまで(平成3年11月23日より平成4年12月) a) 原告は,直ちに,非対称積層アンチカールという自己の着想をCに話した。しかし,当時,被告内では,KやL室長が中心となって,単層ポリエステルフィルムを中心に開発をしていくことになっていたことや,非対称積層ポリエステルフィルムにおいて,実用性のあるアンチカールを得ることができるか否かは,原告とて実験試作して見るまでは分からなかったため,原告は,単層ポリエステルフィルムと積層ポリエステルフィルムとの二本立てで,開発研究を進めた。
原告は,CTA代替写真用フィルム支持体開発プロジェクトを行う第4開発センターにおいて,原告の部下であったCをはじめ,Eなどに対して,毎週,各自に週報を提出させ,かつ,報告会を実施させ,その席上において,必要事項につき細かな具体的指示を与えた。原告は,同プロジェクトの部下達とは1つの部屋で机を並べていたので,日々,毎時間のようにCやEに対して,詳細な指示を与え,報告を聞いた。
第18発明の本質的部分たる,非対称積層アンチカールなる発想は,平成3年12月10日付け甲21原告研究ノート(甲21)の記載からも明らかである。
同日の研究ノートには,次の記載がある。すなわち, 「*********** ********** ******************** **************** *********************** ** *****************」 そして,非対称なる発想は,「******************」なる部分に明瞭に現れている。要するに,3層の各層の厚みの構成比が,「非対称」となるように変えられるべきとの発想が,ここに記載されているのである。
また,原告は,各層の厚みだけでなく,各層につき共重合組成の構成,及び,各層の分子量等を変えた組み合わせをも意図していた。原告のこの意図は,上記の「*************************」なる部分と併せ読めば,明らかである。そして,その「非対称」なる発想を採る目的が,巻癖回復性と機械的強度の二律背反性を同時に満足させることというCTA代替写真用フィルム新支持体の目的にあることは,上記の「******************」なる部分を読めば明瞭である。
さらに,アンチカールについては,アンチカールという目的を実現する手段は「非対称」なる手法によるほかないから,アンチカール特性についても,暗に記載されているといえる。
b) 積層ポリエステルフィルムの場合,複数(2枚以上)のフィルムを共押出して貼り合わせる必要があり,この貼り合わせのためには,「積層多層シート機」という特殊な機械が必要であったものの,当時,被告には,積層多層シート機がなかったため,鐘紡株式会社(略称は「KB」。以下「鐘紡」という。)に協力を仰ぎ,山口県にある鐘紡防府合繊工場(以下「防府工場」という。)にある積層多層シート機を使わせてもらうことにした。
原告は,Cと,平成4年1月16日から同月17日にかけて,防府工場に出張した。原告は,当初,非対称積層ポリエステルフィルムを副次的にしか作製するつもりがなく,主として,対称積層ポリエステルフィルムを試作する積もりだった。また,この時点では,単層をあきらめたわけではなく,積層についても,層の数が少ない程,コストが安く済むから2層で製造することも考えていた。
防府工場では,鐘紡のメンバーも加え,2日間にわたり,どのようなPETと変性PET(M-PET)とをどのような割合で貼り合わせれば,カラー写真用フィルム支持体として適当な積層ポリエステルフィルムを得られるかについて,実験を行った(以下「防府工場での本件実験」という。)。
c) 防府工場での本件実験後,原告らが,積層ポリエステルフィルム(未延伸であって,未完成の状態。)のサンプルを被告に持ち帰ったところ,同サンプルは,原告の意に反して,非対称積層ポリエステルフィルムであった(甲44,乙34(Bノート)の57頁及び58頁の記載参照。)。
原告は,過去の経験・知見から,@防府工場において結果的に作製された非対称積層ポリエステルフィルム支持体(2層積層PETフィルム支持体(M-PET/PETからなる層構成の非対称のもの)及び3層積層PETフィルム支持体(両表層のM-PETの厚み構成比が異なるので,共重合成分は同じだが,非対称のもの)は,見た目はフラットであるけれども潜在的にはカールする性質を有すること,A加熱すれば潜在的なカールが顕在化することを明確に予測できた。ただ,原告でさえ,そのカールの度合がどれだけか,その度合がきつ過ぎて実用に耐えづらいのか,あるいはその度合がマイルドで実用化が有望であるのか,等の予測できなかった。
d) 原告は,平成4年1月末ころ,Cに命じて,防府工場での本件実験において得られた非対称積層サンプルを10cm程度四方に切ってシートとし,その10cm程度四方に切ったシートを延伸し,熱固定させた。延伸・熱固定の結果作られた積層ポリエステルフィルムのサンプルを原告が見ると,同サンプルは,カラー写真用新支持体として使用可能なアンチカールを産み出していることが判明した。このことは,非対称積層ポリエステルフィルム支持体(非対称積層アンチカール)について長年の経験を有する原告には,容易に理解できたが,Cを初めとする他のメンバーには分からなかった。
この非対称積層アンチカールの意義につき,原告はCに対して詳しく説明し,Cが「積層テスト評価結果」と題する書面をまとめた(甲44。以下,「甲44書面」という。)。
したがって,甲44書面は,形式的にはC作成に係るものであるけれども,実質的には原告作成といえる。
e) 原告は,平成4年2月10日に,特許出願の打ち合わせを行い,同月12日に,鐘紡と技術連絡会を開いた(甲11及び同12)。
原告は,上記打ち合わせ及び技術連絡会を受けて,同月中旬には「CTA代替写真用フィルム支持体開発」の方向を,「単層変性ポリエステルフィルム支持体」から「非対称積層ポリエステル支持体の開発」の方向に完全に切り替えた。
このように,被告におけるCTA代替写真用フィルム新支持体開発プロジェクトでは,第18発明の本質的部分をなす原告の発想(非対称積層アンチカール)が主流となり,同年2月中旬ころには第18発明の骨格部分が完成するに至った(原告作成に係る甲50の3頁の「2/10 共押出特許出願打合せ」及び「2/12 鐘紡〜コニカ技術連絡会」なる記載を参照。)。
f) 第18発明の完成のためには,さらに精密な微調整を要し,この微調整にも多くの試行錯誤を要した。例えば,カラー写真用新支持体として使用可能なアンチカール度を生む積層非対称は具体的にどんなものかを厳密に定めるということ(アンチカール度の調節)は,試行錯誤の過程から始めて生まれるのである。しかし,このような試行錯誤は,完成品に至るためには不可欠であるとはいえ,決して「発明」にとって本質的部分ではない。かかる試行錯誤の後,平成4年8月には,積層ポリエステルフィルムに乳剤(実験レベル)を用いて,実験レベルでは,第18発明が一応完成した。
g) その後,商業レベルの「第18発明」を作れるかの観点から,工場レベルの完成品のサンプルを作るため,積層多層シート機と延伸機とが一体となった装置を有する三菱重工株式会社(以下,「MHI」ないし「三菱重工」ともいう。)の協力を仰いだ。
そして,平成4年10月から同年12月にかけて,MHIでサンプルを作り,被告にサンプルを持ち帰って精密に乳剤を塗るという実験を行い(甲13。MHIにおける第4回目の実験。),第18発明は,試作品としての段階ではあるけれども,発明として完成した(製品となるまでには,なおさらに微調整を要する。)。ただし,原告は,すべてのMHIにおけるテストに出席していない。これは,当時の第4開発センター長であったKから出席しないように指示されたからである。この指示の理由は,原告が被告に入社する際に,被告と帝人との間で締結された密約に基づくものと推測される(後述の(5)参照)。しかし,原告は,Cらに対し,いかなるテストを行うべきかを予め細密かつ具体的に指示していた。
h) まとめ 以上のとおり,第18発明の本質的部分の完成は,平成4年1月中旬における鐘紡の防府工場での本件実験における試作,同月31日における上記試作結果の分析を経て,同年2月10日から12日にかけての会議においてなされたもので,それ以後の原告の指示は,第18発明の本質的部分とは関係がない。
したがって,原告は,第18発明を発明するに際し,その発想・実現に到るすべての過程において,他の発明者たちを指揮監督し,完全なる主導権を取ったもので,原告なくしては,第18発明は発明され得なかったものである。
(4) 被告において第18発明を発明する人材及び基盤が存在しなかったこと ア 被告における人材の不存在 第18発明の発明者として記載されている者のうち,Eは,他事業所から転勤して来たばかりの素人で,ポリエステルフィルムのこと自体分からない見習い中の者であった。Bは入社したばかりであった。さらに,Dは,ポリエステルフィルムについては素人であった。加えて,Cは,単層ポリエステルフィルムについては玄人であったものの,積層ポリエステルフィルムについては未経験者であった。そして,F,G,Hは,鐘紡の社員であり,第18発明の原料となるポリマー重合を手伝ったので,発明者として名前が入っているだけであった。
第18発明の発明当時,被告において,非対称積層アンチカールについての特許を有した者は,原告のほかに存在しなかった。それゆえに,当時,ポリエステルフィルムをCTA代替写真用フィルム支持体として開発しようとしていた被告において,原告が途中入社したのである。当時の被告において,原告だけがただ一人,第18発明の本質的部分の発想をなし得たのである。原告の発想を前提にして初めて,第18発明の完成への根本的にして本質的第一歩を踏み出し得たのであり,そのような基盤,方向付けと,原告による日々の具体的,かつ,詳細な指示の上に立って初めてC及びEは個々の些細な工夫をすることができたにすぎない。
イ 被告における基盤の不存在 a) 被告が平成2年8月6日に出願した特許(乙3。以下「M特許」という。)は,第18発明の先行特許として役に立たなかった。M特許は,@積層ポリエステルフィルムをカラー写真用フィルム支持体に用いる点,A積層ポリエステルフィルムを共押出法で作成する点,B巻癖解消性という問題意識を有する点等で,第18発明と共通点がある。
しかし,Aについては,共押出法はおよそ積層ポリエステルフィルムを作成する一般的手法の一つにすぎない。Bについては,巻癖解消の手法は,第18発明とM特許では甚だしく異なる。M特許は,対称の手法を墨守しつつ,巻癖が付きにくくすることや,付いた巻癖が現像処理時の吸水により緩和されることを狙った特許である。これに対し,第18発明の本質的部分は,非対称積層アンチカールにある。すなわち,非対称積層アンチカールによって,巻癖を解消し,カールしていないフラットなカラー写真用フィルムを製造するという発想の実現にある。これに対して,M特許は,「対称」なる手法を用いており,「非対称」なる手法を用いていない。「アンチカール」なる手法も用いていない。
b) 被告が,被告におけるポリエステルフィルムを利用した写真用支持体の研究開発経緯として指摘する特許第2565370号(甲28),特開平2-54254号(乙5)などの発明,CとDが報告したPETとM-PETのラミネート(積層)実験サンプルについての報告(乙12)などは,いずれも,第18発明の本質的部分であるところの非対称積層アンチカール(非対称なる手法を意識的に用いて,不可避的に生じる邪魔物としての巻癖を除去しようという発想)を全く欠いていた。これらの発明はいずれも「積層ポリエステルフィルム」を開発すべき基盤ではあり得ても,第18発明を発明すべき基盤ではあり得なかった。
なお,被告が挙げている第1回TAC代替技術連絡会に提出された資料(乙13の2)には,「乳剤塗布後フラットに保つためアンチカール性が必要」なる記載がある。しかし,ここにいう「アンチカール」は,非対称積層によるアンチカールではない。単にバックコート層によって,乳剤塗布後に不可避的に生じる邪魔物としての巻癖を除去するとの意味である。フィルム支持体(CTAを含む。)を乳剤塗布後フラットに保つためにこそ「バックコート層」が伝統的に塗布されてきたのであった。その他に,上記乙13の2には,どこにも「非対称」なる語も「非対称」を窺わせる記載はない。
c) 被告において,原告が,甲21原告研究ノートの平成3年12月10日の箇所に,「非対称積層アンチカール」なる第18発明の本質的部分の記載をする以前に,積層ポリエステルフィルムを開発しようという具体的な機運はなかった。実際,平成3年12月10日以前には,被告においては積層ポリエステルフィルム開発のために必要な装置がなく,原告がCと共に平成4年1月16日及び17日,防府工場に出張する以前に,積層ポリエステルフィルムを実際に試作するための出張等は皆無であった。
(5) 特許公開公報等に原告の名前が欠けている理由 原告がその名前を,第18発明の発明者として出願依頼書等に記載したにもかかわらず,被告が原告の名前を削除していたのは,帝人と被告との間で,「ポリエステルフィルムにつき原告を発明者として特許出願しない。」等を骨子とする密約が締結されていたからであると推認される。
原告は,帝人において,既に積層ポリエステルフィルムの熟練した研究者であり,多くの発明を行ってきたことから,帝人を退職する際,ポリエステルフィルム作製等について帝人と競合する他社に3年間は就職しないこと等を骨子とする念書及び覚書(甲59及び甲60)を作成し,帝人に提出した。
原告が被告に初出社した日(平成2年10月16日)から3年間は,原告の名前が発明者として掲げられた特許はないのに対し,平成6年10月以降に出願された写真用フィルム支持体に関する20件の特許については,発明者として原告の名前が記されている(甲52)。また,原告は,平成13年11月末日に被告を退社した後も,非対称積層ポリエステルフィルム支持体に関する発明を5件も出願しており,非対称積層ポリエステルフィルム支持体関連以外にも,ダイヤモンド関連特許(特開2003-146637,特開2004-018909,特開2004-141837),メッキ関連特許(特開2004-190126,特開2004-167598,特開2004-162158),プラズマ関連特許(特開2004-268009,特開2004-111137)等の特許を出願しているのに,初出社から3年間だけ原告の名前が発明者として掲げられていないのは不自然である。
(6) 本件訴訟前の被告との話合い 被告は,本件訴訟前に,本件について,原告と13回に及ぶ話し合いを持っており,このことは原告が発明者であることを裏付けるものといえる。すなわち,仮に,原告が発明者でないなら,まともに原告に応対する必要はなかったはずである。また,原告と被告との13回目の話合いは,12回目の話合いから,半年間程度の期間を経た後に行われており,この間に,原告が第18発明を含む本件26件の発明の発明者であるか否かを充分に調べ得たはずであるから,原告が発明者でないと判明したのであれば,原告と妥協する必要はなく,原告との交渉を打ち切るか,原告に対して,「発明者として認めない。」と通告すれば済むはずである。
(7) 被告の主張に対する反論 ア 被告は,甲21原告研究ノートの平成3年12月10日付の記載部分は,甲21原告研究ノートの4頁部分が大部分空白であったところに後日記載された可能性を否定できないと主張する。
しかし,被告の疑念は,ことごとく根拠のないものであるか,その根拠は著しく薄弱なものである。原告は捏造を行う人柄ではなく,仮に,捏造を行うならば,原告は平成3年11月23日に第18発明の着想を得たと主張しているのであるから,平成3年11月23日の直後の研究ノートの余白部分に記載をする方が自然である。また,甲21原告研究ノートの平成3年12月10日付の記載部分は,第18発明の着想を十全に証明し得るものではあるが,証明資料としては記載の脱落があり,不要の記載もあるから,後から捏造したと考えることはかえって不自然である。
イ 被告は,原告のすべての研究ノート(甲20ないし26)を見るに,原告は研究に関する着想を研究ノートに書き留める習慣を持ち合わせておらず,単に会議のメモとして使用していただけなどとも主張する。
しかし,原告作成の研究ノート(甲20。(以下「甲20原告研究ノート」という。)の平成2年11月7日付の記載には,1頁余にわたり,原告の懸念点が記載されているし,平成3年10月1日付の記載,同年11月27日付の記載,甲21原告研究ノートの平成4年2月7日付の記載にも原告の着想が記載されている。
原告が,もともと,会社から支給された研究ノートを含む研究ノートに自己の日々の些細な着想を記載する習慣がなかったことは事実であり,原告は,小さなメモ帳(1頁ずつを直ぐ破り取ることができるもの)に自己の日々の些細な着想を記載する習慣があった。遺憾ながら,これらのメモはすべて散逸した。日々使い捨てにしていくのであるから,当然である。しかしながら,原告は,重要な着想については「研究ノート」に記載したし,また,上記のメモ等に記載した着想等を,毎月原告がプロジェクトリーダーとして執筆していた月報や部下達に命じて執筆させていた月報に記載していた。
ウ 被告は,甲21原告研究ノートの平成3年12月10日付の部分に記載された着想は,同年12月27日の「積層テスト内容」(乙22)や平成4年1月9日付「FAX送信案内」(乙23)に全く反映されていないなどと主張するが,事実と反する。乙22には, 「1.各層の厚みの比 M-PET/PET/M-PET (中略) 3/1 2層 2/1 〃 (中略) 1/2 〃」 と記載されており,これは明らかに「非対称」の発想を反映している。
また,乙23には, 「@積層テスト優先順位 (中略) (M-PET/PET) 2-1 -A (中略) 3-1 -H 1-2 -I」 と記載されており,明らかに「非対称」の発想を反映している。
したがって,被告の主張は誤っている。
【被告の主張】 (1) 被告における発明者の認定 ア 出願依頼書の氏名の記載 乙1の1ないし乙1の26の出願依頼書は,本件26件の発明に関する研究開発を所管していた被告の部門(感材生産本部第4開発センター)から被告の特許部に届出された本件26件の発明の出願依頼書である。この「出願依頼書」は,いずれも表側にある「1.起案者記載欄」の二段目が譲渡証になっており,譲渡人たる発明者の氏名欄に,氏名・個人コードを横一列に刻した横長のゴム印を黒又は青スタンプで押したうえで,個人コード番号の右横に発明者個人の印鑑が押捺されている(発明者が被告の従業者である場合)。また,当該発明者の事業場,所属,並びに内線電話番号も記入される。
被告においては,本件26件の発明の出願当時,すべての発明について,特許庁に提出する願書の発明者欄に記載する発明者の特定は,上記「出願依頼書」の譲渡証部分に,発明者として横長のゴム印により氏名・個人コードが表示されている従業者をそのまま願書の発明者欄に記載する発明者としていた(乙2)。
イ 本件26件の発明について 本件26件の発明に係る「出願依頼書」(乙1の1〜26)の譲渡証部分に横長ゴム印による原告の氏名・個人コードが表示された形跡は全くない。
したがって,これらの記載様式,押印状況に照らせば,原告が,被告に対し,本件26件の発明に関し,発明者として自己の名前を記載した(譲渡書を兼ねる)出願依頼書を届けていないことは明らかである。
この点,原告は,原告が出願依頼書に発明者として原告の名前を記載しても,被告によりその名前を繰り返し削除された等と主張している。
しかし,本件26件の発明について,その明細書原案を作成した発明者は,いずれも原告を発明者と考えなかったし,原告も,決裁者(室長)として,これを認めており,当時は自分が発明者として記載されないことについて何ら異議を唱えていなかった。
また,原告が,入社3年後から,特許出願を行っているのは,原告自身が帝人との契約に基づき3年間の競業避止義務を負担していること(その違反は割増退職金の返還になること)を承知していたからで,原告は自らの意思で,帝人と競業関係にあるポリエステルフィルムの研究活動を被告入社時から3年間程度自粛していたが,その経過とともに,自発的に研究活動を始め,発明者と名乗って特許出願をするに至ったものである。
(2) 被告における写真用支持体の開発経緯 ア 被告における写真用支持体の開発の開始時期 a) 原告の被告入社前 被告においては,原告の被告入社日(平成2年7月1日)以前において,既に積層ポリエステルフィルムを用いた写真用支持体の研究を進めており(乙6ないし8,10ないし12),写真用支持体に用いるポリエステルフィルムに「アンチカール」特性を付与することについても十分に認識していた(ただし,被告における「アンチカール」の語の意義は,フィルムに巾手カールを付与する処理を指し,積層ポリエステルフィルムに限らず単層PETフィルムについても用いるものである。)。
b) 被告と鐘紡との共同開発の開始 被告と鐘紡との第1回TAC代替技術連絡会は,平成2年7月17日,開催された(乙13の1,鐘紡のH作成の平成2年7月28日付け議事録参照。)。
この会議において,************************************************************************* ************************************************************************ なお,本件26件の発明は,上記のとおり,被告と鐘紡との間における「TAC代替技術(新写真用支持体)」の共同開発プロジェクトの成果であるため,発明者として,被告の研究者のほか,鐘紡の研究者(F,G,H)の氏名が掲げられている。これは,樹脂の試作は鐘紡で行い,その評価はコニカ(被告)が行う,という上記共同開発プロジェクトの当初からの取り決め事項であり,(M-PET/PET/M-PET)3層フィルムに用いる樹脂の試作は,この取り決めに従い,鐘紡側が行ったからである。
イ 原告の職責 被告は,原告が作成した履歴書を人材紹介会社である訴外イムカ株式会社から入手し(乙62の1及び2),原告の学歴,職歴からみて,プラスチックフィルムに関する技術開発に関しては,原告は少なくともプロジェクトリーダー等の部長待遇の管理職として務まり得るだけの能力・経験の持ち主であると判断し,原告と面接のうえ「部長クラス」すなわち管理職としての待遇を約束のうえ採用を決定した。
被告において,第4開発センター等の技術開発部門における研究室長などの部長職,あるいは部長待遇の管理職(プロジェクトリーダーはこれである。)に要求されるものは,部下である研究者をしていかに効率的に研究開発をさせるかという,いわゆる人,カネ,物のマネージメント能力であり,技術知識としては,配下の研究者から報告を受け,彼らの研究内容の概略がマネージメントに必要な限度で理解できれば十分であって,自らが研究者として最先端の技術知識を身につけている必要はなかった。それゆえ,被告は,原告が,被告に入社する直近の7年間をプラスチックフィルム技術の研究業務から離れて販売部の技術サービス担当というスタッフ職にあったにもかかわらず,原告を採用した。
ウ 原告の被告入社時のプロジェクトチーム員の研究開発能力 被告において,写真用新支持体の開発研究をしていたCは,昭和57年に東京工業大学有機材料工学科を卒業し,卒業論文のテーマは「PETの高速紡糸」であった。Cは,被告に入社した後,PETの支持体(PETベース)の研究をする部署に配属され,そこでPETの新鋭工場(A-1工場)を建設するためのプロジェクト・チームに入ってPETについていろいろな研究を行い,工場建設後も新工場の技術スタッフとして2年間,PETフィルム(単層)の生産現場を経験している。
その後,Cは,平成元年に第4開発センターへ配属換えになるまでの8年間,ポリエステル,特にPET技術の習得,研究を継続して行っていた。Cは,この間の昭和61年4月10日に,上記A-1工場建設プロジェクトチームの一つであるAPT材料グループのメンバーの一人として,「PET製膜技術資料」(乙166)を作成し,特に,同資料内の「(U)プロセス条件の基礎検討」の部分を中心となって作成した。
したがって,Cは,写真用新支持体の研究開発において,実質的なリーダー的存在であった。
エ 被告入社後の原告の動静等 a) 原告の提出した研究ノート(甲20ないし26)について 原告が提出した研究ノートを確認すれば直ちに明らかになるように,原告は,被告に入社した後,第4開発センターに配属されるまでの,感材生産本部長室付きに所属していた平成3年11月15日までの間,研究らしい研究をしていた痕跡は全くない。すなわち,甲20原告研究ノート,甲21原告研究ノートのみは,被告から支給された正式の「研究ノート」である(ただし,甲21原告研究ノートは,記載されている頁は最初の14頁だけで,それ以降のページはすべて白紙のままである。)。しかし,甲20原告研究ノート及び甲21原告研究ノート以外の原告が「研究ノート」と称して証拠提出している他のノート(甲22〜甲26)は,被告から支給を受けている正式な「研究ノート」ではなくて,市販のA4判ノートである。
また,原告作成の研究ノート(甲20ないし26)に記載されている内容のほとんどは,第4開発センターやその他の部署で開催される会議や打合せ(ミーティング)に原告が参加した際のメモ的な記述ばかりであり,原告自らが実験をしたこと,又は自らが実験をして,実験で得られたデータを記したと思われる記載は皆無である。
b) 原告作成に係る実績報告(原告はこれを「月報」と呼んでいる。)について 平成3年10月16日から同年11月15日までの間(原告が感材生産本部本部長付き部長であった期間)に,原告によって作成されたという甲65の1ないし6及び65の8ないし9の各「実績報告」に記載されている実験や測定・評価などは,いずれも原告自身が研究者として関与したものではなく,当時,第4開発センターの第1研究室又は第2研究室に所属していた研究者達が行った実験や測定・評価など(乙112ないし130,133ないし162に記載された事項)を,原告が見聞し収集して報告書の形式にまとめたものである。このことは,原告が作成したと述べている実績報告書に記載されている研究内容が,他人の研究内容をそのまま転記したに等しいものであることからも明らかである。
原告は,本件26件の発明について,既に平成3年11月度月報(甲81。同年10月16日から同年11月30日の間の成果をまとめた月報)において,早くも「NSプロジェクト検討項目(案)」及び「NSプロジェクト懸念点」を作成したものであり,これらが,被告の蓄積とは何ら関係なく,原告の帝人時代における蓄積の成果であることは明らかである,と主張する。
しかし,その記載内容のうち,大部分は,それより以前に他の研究員により作成された資料(乙13の2,110又は111)に記載されている事項か,原告が被告入社直後に4開センターのL部長等から説明を受けた事項,あるいは,被告における月報会,打合せ等にオブザーバーとして参加した際に,出席者から聞いた技術内容と完全に同一か,実質的に同一である(乙131の1ないし19,132の1ないし6)。
したがって,「11月度実績報告」(甲81)が,原告自らの研究内容を記載したものであるという原告の主張は虚偽である。
c) まとめ 以上から,原告は,被告入社後,自分自身で実験や研究を行ったことはなく,各種の会議やミーティングに参加できる立場を通じて知った社内各部署のプロジェクトチームの研究内容を,K4開発センター長からの命に従い,管理職見習いとしての立場から記述して月報類を作成していたにすぎない。
(3) 第18発明について ア 第18発明の特許出願までの経緯 第18発明は,平成4年5月29日に出願された特願平4-139472号(第18-1発明),同年10月6日に出願された特願平4-267697号(第18-2発明),同年12月24日に出願された特願平4-344017号(第18-3発明)の三つの国内特許出願に基づく優先権を主張して出願されたものである(乙183)。
イ 第18-1発明について 第18-1発明は,鐘紡の防府工場で製造したサンプルフィルムの分析評価結果を基に,Eが筆頭発明者として作成した明細書(乙16の1及び2)に記載されている発明である。
第18-1発明は,防府工場での本件実験の後のサンプル評価の際に,層構成が2層の積層試料フィルムが巾手方向のカールが強過ぎて細長いストロー(長さ120o)のように巻いてしまったことについて,Eが,当該試料フィルムのM-PETを積層した側(PETの裏側)とは反対側(表側)の方にもM-PETを積層して3層の積層フィルムとし,表裏それぞれのM-PETのバランスを調整すれば,2層構成のときに生じた強過ぎる巾手カールを現在使用されているTACフィルムと同程度の適度な巾手カールにすることができるのではないか,と着想したことが基になっているものである。
その特許請求の範囲の記載は,上記サンプルフィルムの分析評価結果に基づく発明として,別途,Cが既に作成していた明細書(乙29の1のもの)の特許請求の範囲に記載されている「PET層の厚みが50μm以下」という条件と,「PET層の厚みの総和とM-PET層の厚みの総和との比率が0.7から3の範囲内である」という条件をそのまま借用したうえで,その上に「両外層にあるM-PET層それぞれの厚みとそれぞれに含まれている2種類の共重合成分の平均含有率とを掛け合わせた積の比率が1.5以上である」という条件を付加した。このような構成をとることにより,積層フィルム全体の厚みを薄くしても強度を失わず,アンチカール性(TACと同程度の巾手カール)を有し,巻ぐせ回復性もよい写真用支持体を得ることができるというものである。
ウ 第18-2発明について 第18-2発明は,次の経緯で出願に至ったものである。すなわち,共同開発の相手方である鐘紡との打合せで,ポリエステル系積層フィルムに関するこれまでの実験で有望と思われたものにつき,工場レベルでいわゆる実機テストをしてみることが決まり,最新の共押出法による積層フィルム製造装置の設備を有しているMHIの協力を得て,平成4年6月16日〜同月18日にかけてMHI名古屋工場において実機テストを行った。C,E,Bの3人は,当該実機テストの1週間前(同年6月10日),実機テストにより評価する項目の打合せをしたところ,M特許(特許第2879251号)の特許公報(乙3)に記載されている「巻ぐせをつきにくくする」こと(これを裏から表現して「巻ぐせのつきやすさ」ということもある。)についても検討することになった。
上記実機テスト後にEが整理した測定データ(乙20,平成4年7月2日(木)付け記載箇所の表参照)に基づいて測定結果の検討において,巻ぐせ回復性と共に「生フィルムの巻ぐせのつきやすさ」についても検討した結果,アンチカール(フィルムに巾手カールを付与する処理)が強いほど生フィルムの巻きぐせはつきにくくなるらしいことが判明し(***************),これを特許出願することになった。
しかし,その明細書の作成に着手できないでいる間に,イーストマン・コダック社(以下「コダック社」という。)の新規写真フィルムに関する米国特許(USP5138024号)(乙31)の公報が平成4年8月11日に発行され,同月24日には東レ株式会社(以下「東レ」という。)の「ポリエステルフイルム及び写真感光材料」の発明に関する公開特許公報(特開平4-235036,乙32)も発行されたことが,同年9月に入って被告の知るところとなった。そこで,被告においても,自社開発技術で有望なものは,早急に特許部の助言をもらってクレームを作成のうえ,1か月以内に特許出願を完了するという方針決定がなされ,同年9月24日(木)に特許部の会議室で出願検討会が開催された。この出願検討会に出席したCとEが報告した上記実機テストの測定結果に基づく知見(アンチカールが強いほど生フィルムの巻きぐせはつきにくくなること)は非常に重要な発明であるということになり,特にこの技術について議論が行われた。議論が終わると直ちに,特許部の出願担当者がこの議論の結果に基づき,その日のうちに請求項を33個作成し,翌25日(金)にこの請求項を記載した書面を受け取ったEは,当該請求項に対応する「発明の詳細な説明」を9月25日(金)から28日(月)まで4日間かけて休日返上で書きあげた(乙30)。
エ 第18-2発明と第18-1発明の関係 第18-2発明の特許出願は,特願平4-139472号(第18-1発明の特許出願)に基づく国内優先権主張出願である。ここで優先権主張の基礎とされた第18-1発明それ自体は,「巾手カールを付けることにより巻ぐせが付きにくくなる」ということを中核とする第18-2発明とは技術的に関係のない発明であったが,被告の特許部の考えは,18-1発明の明細書においては,アンチカール(巾手方向のカール)についての記載や,三層構造でしかも厚みや共重合成分を変えた実施例の記載があるので,「一定の巾手カールを付けて巻ぐせを付きにくくする」という第18-2発明の中核部分と関連する面が多いから,これを最大限に利用して国内優先の基礎出願にすることが同業他社に対する戦略上重要であるということになった。そのため,第18-2発明の特許出願は,その最後から2番目の請求項32に,第18-1発明のクレームを少し拡張しただけの構成(「ポリアルキレングリコール」及び「写真用支持体」を,「ポリアルキレングリコール及び/又は飽和脂肪族ジカルボン酸」及び「フィルム」に書き換えた以外は,単なる字句の修正にすぎない請求項)に係る発明を掲げ,この請求項32に関して特願平4-139472号(第18-1発明の特許出願)に基づく国内優先権を主張する形でなされた。
オ 第18-3発明について 第18-3発明の特許出願は,第18-1発明の特許出願及び第18-2発明に基づく国内優先権主張出願である。第18-3発明の各請求項に記載の発明は,内容的には,第18-2発明の各請求項に記載の発明と実質的に同一である(乙18の1及び乙17の1参照)。
カ 第18発明が登録に至るまでの経緯 a) 第18発明の出願当初の明細書における特許請求の範囲,請求項1ないし同29の各発明は,内容的には,第18-3発明の請求項1ないし同29とほとんど変わらない。相違点は,第18-3発明の請求項8,10,12,23,及び28において,「ポリアルキレングリコール」とあった記載を,第18発明の出願当初の対応する請求項においては「ポリアルキレングリコール類」と記載しているだけである(乙4及び乙18の1参照。)。したがって,第18発明の出願当初の特許請求の範囲に記載の請求項1ないし29の各発明は,第18-2発明の各請求項に記載の発明と実質的に同一といえる。 b) 補正 特許庁は,第18発明の特許出願(平成5年特許願第99649号)に対し,平成15年12月2日付けで拒絶査定(乙188)をした。被告は,特許庁に対し,平成16年1月5日付けで査定不服の審判請求書(乙189)を提出すると共に,本件補正により明細書の全文を補正し(乙190),旧請求項1ないし29の記載をすべて削除し,これに代えて新たな請求項一つのみとした。この記載が,そのまま特許登録時の特許請求の範囲になった(前記前提となる事実参照)。
キ 第18発明の本質的部分 a) 第18発明は,小型カメラに用いる好適な写真用支持体を提供するという目的に限っていえば,そこで目的とされているフィルム特性は, @機械強度が保持され,薄膜化が可能で, A巻きぐせがつきにくく取り扱い性がよく,現像処理前の処理機器適性,現像処理に際しての処理機器適性に優れ,かつ B現像処理後の巻きぐせ解消性にも優れた, という特性である(乙183。特許第3592731号公報・3頁1行目ないし3行目)。
第18発明は,Aの巻きぐせがつきにくい特性をも満足するポリエステルフィルムを用いたTAC代替支持体を提供することを目的としている点で,@及びBのみを目的とするTAC代替支持体の試みとは一線を画する発明である。
b) 特許登録に至った第18発明の新請求項1は,「熱処理後の巻きぐせカール度」が135m-1以下,「温水浴処理後の回復カール度」が45m-1以下で,かつ,「巾方向におけるカール度」が5〜30m-1であるとの3個のカール度に関する数値限定を含む発明である。
この3個のカール度のうち,2番目に掲げている「温水浴処理後の回復カール度」は,フィルムの親水性の改善により,現像処理の際に現像液,水洗水からの吸水によってどの程度巻きぐせが解消されたかという,従来のTAC代替技術が開発目的としていた「現像処理後の巻きぐせ解消性」に関する指標となるカール度である。したがって,この点は,従来技術と大同小異であって第18発明の本質的部分ではない。
c) 新請求項1の後半部分に記載する共重合ポリエステル層の構成の規定は,第18発明の特許出願について拒絶査定(乙188)を受けた被告が,拒絶査定不服審判の段階で,拒絶査定に示された特許法36条4項ないし6項に違反するとの指摘を解消するため,第18発明の出願当初の明細書の発明の詳細な説明中に記載されていた構成を,本件補正により,新請求項1の内容として組み入れたものである。そして,その構成自体は第18発明の最先の優先権主張日(平成4年5月29日)前から特開平1-244446号公報(乙14)や特開平1-298350号公報(乙198)等に開示されて公知になっていたものである。したがって,この共重合ポリエステル層の構成成分の規定も第18発明の本質的部分ではない。
d) 新請求項1の「熱処理後の巻きぐせカール度」は,第18発明の明細書の発明の詳細な説明の段落【0012】ないし【0015】,【0026】を参照すると,将来,パトローネ等の収納容器内に巻き付けられてロール状で保管され,写真機に装填後もロール状に巻き付けられたまま使用され,使用終了となって初めてロール状収納状態から解放された際の,現像処理前における「巻きぐせがつきにくい特性」を表すものである。
したがって,第18発明のフィルムを用いた写真用支持体は,「熱処理後の巻きぐせカール度」が135m-1以下という小さい値であるため,このような支持体を用いて製造した写真フィルムはパトローネからこれを取り出してロール状収納状態から解放された現像処理前の状態においてもほとんど巻きぐせがついていないから,これまでのTAC代替支持体のように,多数のフィルムをスプライサー処理機で1本に継ぎ直し,これをシネ型自動現像処理機で現像処理するスプライサー処理を行う際,入り口部にフィルムの先端が入りにくいということもなく,先端が入った後はスプライサー処理機内でフィルムの目詰まりや折れが発生するということもない。
第18発明は,まさにこの点(すなわち,上記@及びBの特性のみならずAの特性をも有している点)において,他のTAC代替支持体の技術水準を凌駕する効果を奏しているものである。
e) 新請求項1に「巾方向におけるカール度が5〜30m-1」と規定されている「巾方向におけるカール度」は,上記d)の現像処理前における「巻きぐせがつきにくい特性」を表す指標たる「熱処理後の巻きぐせカール度」との間に原因関係を有するものであり,現像処理前における「巻きぐせがつきにくい特性」を実現する直接的な手段である。「巾方向におけるカール度」は,「熱処理後の巻きぐせカール度」とは異なり,未だパトローネ等の収納容器内でロール状に巻き付け収納されていないフィルムにおいて,現に存在するカール度である。すなわち,第18発明のフィルムは,未だロール状に巻き付けていない状態においても,表面が真っ平らになっているわけではなくて,巾手方向に5〜30m-1の数値範囲内の巾手カールがついているのである。第18発明では,巾手方向に巾手カールを付与し,かつ,フィルムの凹面を巻外にしてロール状にすることが,「巻きぐせが付きにくい特性」を実現させる直接的な手段になっているものであり,「巻きぐせがつきにくい特性」の指標としての「熱処理後の巻きぐせカール度」と「巾方向におけるカール度」との間の密接な関係は,第18発明を理解する上で極めて重要な技術的意義を有する。
f) 以上から,他のTAC代替支持体の技術に見られない第18発明の本質的部分は,「巻きぐせがつきにくい特性」の指標たる「熱処理後の巻きぐせカール度」とその実現手段たる「巾方向におけるカール度」とがともに特許請求の範囲に規定する数値範囲内にあることにある。
ク 第18発明の完成時期 第18-1発明は,前項で明らかにした第18発明の本質的部分,すなわち,「巻きぐせがつきにくい特性」の指標たる「熱処理後の巻きぐせカール度」とその実現手段たる「巾方向におけるカール度」とが特許請求の範囲に規定する数値範囲内であることについて,第18-1発明の出願明細書において何ら触れられておらず(乙16の1及び2),全く異なる技術的思想に基づくものといえる。
一方,第18-2発明の出願明細書には,第18発明の明細書(乙183)における「熱処理後の巻きぐせカール度」と「巾手方向におけるカール度」の記載と,同一ないし略同一の内容が記載されている(乙17の1の【発明の詳細な説明】参照。例えば段落【0013】,【0018】,【0019】及び【0061】等。)。したがって,第18-2発明には,第18発明の本質的部分,「熱処理後の巻きぐせカール度」を指標とする「巻きぐせがつきにくい特性」とその実現手段たる「巾方向におけるカール度」についての技術思想の全容がほぼ包含されていることは明らかである(乙17の1及び2参照)。
したがって,第18発明の本質的部分の発明完成時期は,第18-1発明の出願日(平成4年5月29日)以後,第18-2発明の出願日(同年10月6日)前であることが明白である。そして,Cの研究ノート(乙19)及びEの研究ノート(乙20)のその期間における記載からすると,アンチカール処理,すなわちフィルムに巾手カールを付与する処理が強いほど生フィルムの巻きぐせはつきにくくなる(****************)との知見は,第18発明の筆頭発明者であるEが,平成4年6月16日〜同月18日のMHIでのM-PET/PET積層テストのサンプルをCと共に持ち帰り,D,Bを加えた4名のチームで種々の評価を行うことにより,同年7月2日〜同月6日ころに得たものである。よって,第18発明の本質的部分たる「熱処理後の巻きぐせカール度」を指標とする「巻きぐせがつきにくい特性」とその実現手段たる「巾方向におけるカール度」に関する技術思想は,同月2日〜同月6日ころに筆頭発明者であるEを中心とするC,D,Bの4名によって完成に至ったものであり,それ以前にかかる技術思想に到達した者はいなかった。
ケ 第18発明についての原告の関与 上記とおり,第18発明は,「巻きぐせがつきにくい特性」の指標たる「熱処理後の巻きぐせカール度」とその実現手段たる「巾方向におけるカール度」とが共に特許請求の範囲に規定する数値範囲内にあることが本質的部分というべきであるが,原告は,これらいずれの技術事項についても発明者として関与したことはない。
原告が,第18発明に関連して行ったことは,@平成4年1月16,17の両日,鐘紡の防府工場へCと共に出向き,C出願に係る発明及び第18-1発明の着想根拠となった試料延伸フィルム(これは被告において製造した)の原反となった未延伸の積層フィルムの製造に立ち会ったこと,A共同開発者である鐘紡との間で定期的に開催された「写真用新支持体に関する技術連絡会議」の第2回(平成2年11月15日)ないし第15回(平成4年2月12日)にCなどと共に出席したこと,B第4開発センター内部の月報会等のミーティングに出席したこと,C第18-1発明(第18-2発明,第18-3発明及び第18発明)の明細書草案に目を通して出願依頼書に上長としての押印をしたことだけであって,試料延伸フィルムの製造や試料を用いての種々の実験や測定,得られたデータの分析,評価,及び検討に参加したことは一度もない。
また,第18-1発明(第18-2発明,第18-3発明及び第18発明)の明細書草案に目を通す場合も,て・に・を・はをチェックする程度であって,技術的内容についてのアドバイスや指導をしたことはなかった。
したがって,第18発明のコニカ側の発明者は,既に述べたE,C,D,Bの4名である。
コ 原告の主張に対する反論 原告は,第18発明における「アンチカール」と第18-1発明における「アンチカール」は同義であり,両者とも,非対称によって生ずるアンチカールである,と主張する。
しかし,第18-1発明にいう「アンチカール」の意義は,第18-1発明の出願明細書(乙16-1)の段落【0068】に記載されているとおり,当該アンチカールを評価するに当たり,巾35mm,長さ12cmのフィルムを直径10mmの巻芯に巻き,その状態のまま55℃,20RH%にて3日間維持し,その後,巻芯からフィルムを解放し,フィルムの一端に50gの荷重をつけ,38℃の水浴中に15分間浸漬した後,55℃の温風乾燥機で15分間かけて乾燥するという,現像処理後の「巻きぐせ解消性」を評価する場合と同様の処理,特に水浴中に15分間浸漬する処理をしていることに照らせば,このような評価方法による「巾方向のカール度」は,現像処理前の状態における「巻きぐせがつきにくい特性」とは全く異なるカール度の測定である。他方,第18発明の明細書(乙183)における「巾手のカール度」の測定方法に関する説明は,その段落【0020】及び【0021】には,予め巻芯に巻き付けたまま3日間維持したり,巻芯から解放したフィルムを温水浴処理したり,その後に乾燥させる等の操作は一切なさず,製造したままのフィルムを長手方向,巾手方向に留意して所定形状に切り出した試料を,単に1日かけて調湿しただけでカール度を測定しているにすぎない。したがって,同じく巾方向のカールといっても,これを評価する際の,評価方法が全く相違しているのであって,これが巾方向のカールがもつ技術的意義(いかなる目的の下に付与されるカールであって,いかなる作用をもたらすか)が相違していることに起因するものであることは明らかである。
したがって,原告が「第18発明の巾手方向のカール」につき,既に第18-1発明の時点でこれを自覚していたというのは,あり得ないことである。
(4) 旧請求項を根拠とする原告の主張について 原告は,旧請求項U群に記載の発明の構成により,「実用に耐えるアンチカール」が生まれるかは当時公知でなかった,と主張している。しかし,第18発明に対する拒絶理由は,指摘された引用文献に記載の発明に基づき,進歩性の欠如を理由とするものであるから,有効な反論となっていない。
また,被告は,旧請求項U群について,理由もなく,新請求項から除外するようなことはしていない。
被告は,平成15年9月4日付け拒絶理由通知書(乙200)に対し,同年11月11日付け手続補正書(乙202)により,新たな請求項1ないし28とする補正をなし,意見書(乙203)を提出したが,当業者が容易に発明をすることができるとする拒絶査定(乙188)を受けるに至り,進歩性の欠如を覆すことは困難であると判断し,やむを得ず,本件補正により(乙190),明細書の全文を補正し,新請求項1としたものである。
2 争点1-イ(第18発明以外の本件各登録発明の発明者性)について (1) 第9発明(甲71の9)について 【原告の主張】 第9発明は,第18発明の一部をなす発明であるといえ,第9発明の目的は,巻癖回復性と機械的強度の二律背反性を満たし,かつ,巻癖を調節する役割を果たすバックコート層の塗布を省略できるというものである。そのための手段は,非対称積層アンチカールの発想であり,これが第9発明の本質的部分である。
第9発明は,原告が,過去の知見(特開昭50-16783号公報(甲46),特開昭50-123420号公報(甲7,15の21),特開昭51-131577号公報(甲15の27),及び特開昭51-056883(甲76)をもとに着想したものである。
原告は,自己の発明に係る特開昭54-155232号公報(甲78の3。以下「甲78の3公報」という。)に記載の重量%の範囲で,平成3年1月の段階において,PEG(ポリアルキレングリコールの一種)の含有量について,「4,7,8,10」重量%(=wt%)の実験を行い,SIPMとの組み合わせ方にもよるものの,7重量%又は4ないし7重量%の付近が,巻きぐせ回復性が一番良好であることを確認した(甲68〔平成3年1月月報の1頁目の「1)ポリマー」の項,同頁の最終2行〕及び甲65の1〔同年2月月報の2頁目〕を参照)。
また,原告は,これと同時に,特許調査等を実施し,鐘紡において,ビーカースケールで粗篩いし,これよりやや規模の大きい100リットル重合スケールでのポリマー重合,未延伸押出フィルム製膜,カットシートをバッチで延伸,熱固定して,引っ張り試験機で機械的強度を測定するとか,巻きぐせ回復性を測定するという基礎評価を踏まえ,甲78の3公報に係る発明と同じくPEGが主体で,巻きぐせ回復性に問題がないデュポン方式(米国特許第4,217,441号明細書[甲111の1]参照)が有望との結論に至った。デュポン方式では,ポリエチレングリコールの含有量は,2ないし12重量%であった。原告は,デュポン方式の評価をCらに指示し,鐘紡の全面的協力を得て,共重合組成比を変えた試料を100リットル重合スケールでのポリマー重合,未延伸押出フィルム製膜,延伸,熱固定して絞り込んだ結果,機械的強度を維持したまま支持体のカール回復性が良好であって平面性もまた良いと確認し,これを開発の第一弾とした。
原告は,平成3年1月度月報(甲68)に記載の実験結果及びデュポン方式等を踏まえて,ポリアルキレングリコール(PEGはその一種。)の含有量を,やや広めに3ないし10重量%とするに至ったものである。特許出願に際しては,最も良好な数値をやや広めに採るのが通常だからである。
以上の一連の評価状況は,平成2年11月度月報(甲81),平成2年12月度月報(甲90),平成3年1月度月報(甲68),「MHI工場実験にむけて」と題する平成3年2月25日付原告作成に係る書面(甲91),同年2月度月報(甲65の1),同年3月度月報(甲65の2),同年4月度月報(甲65の3)に詳しく記載されている。
したがって,第9発明は,PEG含有量はおおむねデュポン特許(甲111及び112)と同じであるが,デュポン特許と異なる「非対称積層アンチカール」があるために特許されたものである。
従来から原告が主張してきたように,かかる「非対称積層アンチカール」こそ,第9発明の本質的部分である。 【被告の主張】 前記のとおり,本件26件の発明に係る出願依頼書すべてにおいて,原告は発明者として記載されていないから,形式的にみても,本件各登録発明の発明者たり得ないが,実質的にみても,次に述べるとおり,第9発明について原告は発明者たり得ない。
ア 第9発明の特許出願までの経緯 第9発明は,2層の積層ポリエステルフィルムについて,2層のポリエステルの固有粘度差(ΔIV)を規定したものである。従来技術として,2層の積層ポリエステルフィルムにおいて,カラー写真用に用いられるフィルムのようにロール状のものがなかったことと,Bらのグループで進めてきた実験,評価により,巻き癖回復性を達成するために共重合成分の知見が得られたことから,平成4年7月21日の特許出願検討会で特許出願することになったものである。
第9発明の明細書草案の作成については,同日の特許出願検討会でBが分担者になった。このことは,同日付け分担表(乙20の2)の横軸のIV(固有粘度)の欄の縦長の長方形領域に「中」(Bの略記)と記載されているところから明らかである。
ΔIVの従来技術としては,特公昭56-53745号公報(原告提出の甲7の特許出願についての公告公報)のように参考にできる公知文献があり,積層する変性ポリエステルもその共重合成分についての知見もあり,巻き癖回復性,巻き癖つき難さの効果も確認済みであったから,明細書の作成が比較的容易であろうということで入社して2年目のBが明細書作成の分担者になった。上記公報においては,固有粘度差(ΔIV)がある2層のポリエステルフィルムを積層することによって,乳剤層の影響によるカールを解消することについて記載されているものの,これはシート状のフィルムについての発明であり,当該構成を単にロール状フィルムに置き換えるだけでは巻き癖のつきにくさ及び巻き癖回復性は劣ってしまう。そこで,Bが実際に明細書を書くに当たっては,Cと相談のうえ,積層するポリエステルフィルムの組成,具体的には共重合成分として金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸を全エステル結合単位に対して2ないし7モル%含有すること,さらに好ましくはポリエステルの共重合成分としてポリアルキレングリコールを共重合ポリエステルの全重量に対して3ないし10重量%含有することで,同公報に係る発明の欠点を解消したものである。
このように,第9発明は,上記公報に係る発明とは異なる技術的課題を解決し,巻き癖のつきにくさ及び巻き癖回復性に優れ,優れた機械的強度を有する写真用支持体にするということが発明の本質的部分と把握され,その当初明細書(甲71の9,(57)【要約】の【目的】欄参照)が作成されたものである。
イ 出願後の第9発明 第9発明の特許出願に対しては,平成13年6月11日付けで,この出願は特許法29条2項及び同法29条の2の規定により特許を受けることができない旨の拒絶理由通知(乙88)が発せられた。
拒絶理由通知において,第9発明と同一であるとの指摘を受けたのは,特願平4-178176号公報(特開平6-23929号公報,乙89)であった。これには,2層積層フィルムは片方のポリエステル層にポリエチレングリコールを共重合することが示されているのみであった。
他方,第9発明の当初明細書(甲71の9)には,ポリアルキレングリコールは2層積層フィルムを構成する両ポリエステル層に共重合成分として含有されることが明らかであったし,両ポリエステル層にポリアルキレングリコールを共重合させることの技術的理由も「十分な巻ぐせ回復性及び機械的強度を得る」と明記されていたため,この技術事項を第9発明のクレーム中に挿入追加する手続補正をすれば,特許法29条の2の拒絶理由は回避できると考え,手続補正書(乙90)及び意見書(乙91)を提出し,登録に至ったものである。
また,特許法29条2項に基づく拒絶理由については,補正後の第9発明は,積層する2層ともにポリアルキレングリコールを共重合し,さらに固有粘度差を0.02ないし0.5とすることによって写真用支持体として求められる優れたカール特性(特に,現像処理後の巻き癖回復性のみならず,現像処理前のフィルム自身の巻き癖カール)をすべて満足するフィルムが得られる点に特色があることを強調することにより,拒絶理由に示された引用例から発明を推考することは容易でないとして同拒絶理由を克服した(乙91)。
ウ 第9発明についての原告の関与 a) 原告は,Bらが進めていた実験,評価について参加したことはない。
また,Bが,第9発明の当初明細書(甲71の9)の草案を書き終えた後,草案を原告に見てもらったものの,原告から,第9発明の骨子やバックコートの省略を目的とするように修正を命ぜられたこともなかった。
b) 原告は,第9発明は,原告の発明に係る過去の知見(甲46公報など)に基づく原告の着想だと主張する。
Bは,確かに,第9発明の当初明細書の草案を作成するにあたっては,既に公知文献と化している原告が帝人時代に発明した公報を参照した。しかし,第9発明は,公知文献に係る発明とは異なる技術的課題を解決した,別個の発明であることは上記のとおりである。
c) また,原告が一連の評価状況を記したと主張する月報等の記載は,他の研究者達が行った実験や測定・評価などを記載した報告書等を原告が見聞して収集し,報告書の形式にまとめたにすぎないものであることは前記のとおりである。
(2) 第11発明(甲71の11)について 【原告の主張】 第11発明は,第18発明を工場レベルで製品化するときの問題点を解決した発明である。
第11発明は,カブリ現象(乳剤を塗った面が,光が当たっていないにもかかわらず感光してしまう現象で,カラー写真用フィルムにとっては致命的現象である。)を克服するため(第11発明の本質的部分)の発明である。
原告は,第11発明を,原告の有する過去の知見(甲46,甲7,甲15の21,甲76及び甲77)をふまえ,第11発明のすべてを着想した上,その開発から出願に至るまで,プロジェクトリーダー兼室長として,部下たちに対して全面的に指示した。まず,原告は,部下に対して,原告の発明に係る特開昭51-53585号公報(甲77)に記載されている内容,すなわち,ポリマー屑の回収・再利用,カブリ現象の抑制について詳しく説明し,熱履歴を受けた回収チップは,酸化,劣化物を多く含み,乳剤を塗布するとカブリ現象が発生するので,回収は,ハロゲン化銀写真乳剤層(感光層)と接触しない層に入れることを特許の請求項にすることを指示し,併せてその効果,酸化防止剤の効果も実験レベルで確認することを指示した。さらに,Bには,入社後間もなかったため,特許明細書を書かせるに際しては,あらかじめおよその概念と特許請求項の書き方等を口頭で説明して書き上げさせ,特許明細書の細かい字句の訂正までして徹底的に直した。
なお,特許請求の範囲中の「『該』多層フィルムのハロゲン化銀乳剤層に隣接する層以外の少なくとも1層に『該』多層フィルムを回収して得られる回収ポリエステルを含有し,ハロゲン化銀乳剤層に隣接する層には該回収ポリエステルを含有しない」との構成のうち,「該」との記載を抹消すると,その構成は,既に公知性を有する。しかし,「『該』多層フィルム」とは,共重合成分としてPEGなどのポリアルキレングリコールや金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸(SIP)を含有する変性PETを使用した多層フィルムである。このように,共重合成分としてPEGなどのポリアルキレングリコールや金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸(SIP)を含有する変性PETを使用した多層フィルムについて,上記構成を特許請求の範囲として請求することに新規性を有するのである。特に,PEGでは,酸化劣化物によるカブリの問題が重大だからである。
【被告の主張】 ア 第11発明の特許出願までの経緯 ポリエステルフィルムの製造過程では,必然的に生じることになる,製品として使用できないポリエステルフィルムを削減することが課題であり,被告においても,放射線撮影用のフィルムに用いられるポリエステルフィルムの製膜工場があったため,ポリエステルフィルムをカラー写真用フィルムに用いるに当たり,その回収,再利用はコスト上必須であった。
そこで,そのための最適条件について考え,出願しておこうとして,第9発明と同様,平成4年7月21日の特許出願検討会において,第11発明の出願が決まった。同日付け分担表(乙20の2)により,Bが分担者になったものである。このことは,この分担表の横軸の「回収」の欄の縦長の長方形の領域の右上隅に「中」(Bの略記)と記載されてることから分かる。
第11発明を出願するに当たり,単に回収して再利用するだけでは,既に広く検討されており,当然のことであるから,C,D,EとBの4人で話し合い,カラー写真用支持体に用いるにあたって写真性能に悪影響を与えないことを考慮して,回収ポリエステルを含む層の位置を規定することで出願することにした。
具体的には積層ポリエステル支持体のうち,回収ポリエステルを含む層をハロゲン化銀写真乳剤層(感光層)を有さない側に位置させることで写真性能に悪影響を与えないようにできることを第11発明の効果にすることを決めた。
回収ポリエステルの位置と写真性能への悪影響の相関についてはC,D,EとBの4人で実験・評価をしていたので,Bはそのデータに基づいて,Cに相談しながら明細書の草案を作成した。
イ 出願後の第11発明 この第11発明の特許出願に対しては,平成14年2月27日付けで,特許法36条4項,5項及び6項に規定する要件を満たしていない旨の拒絶理由通知(乙92)が発せられた。
しかし,当時の被告知的財産部担当者は,「ハロゲン化銀乳剤層に隣接する層には該回収ポリエステルを含有しない」,「金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸を含まないポリエステル層」などと追記し,回収ポリエステルを含有する層の位置特定条件を明確化するなどして補正する旨の手続補正書(乙93)及び意見書(乙94)を提出し,登録されるに至った。
ウ 第11発明についての原告の関与 Bは,第11発明の出願明細書の草案を書き終えた時,その草案を原告に見てもらったが,このときも発明の骨子を変えるような修正は受けなかった。
(3) 第14発明(甲71の14)及び第15発明(甲71の15)について 【原告の主張】 ア 第14発明と第15発明とは,ジエチレングリコール(DEG)含有量を全エステル結合単位に対して5モル%以下の範囲で含有する点で共通している。
第14発明は,第15発明の「共重合単層ポリエステルフィルム」での評価結果を,「多層ポリエステルフィルムの積層された共重合ポリエステルフィルム」に適用したものである。
イ DEG量の目標値につき,原告が初めに検討したのは,平成3年4月ころである。原告作成に係る同月月報(甲65の3)においては,DEG量の上限値を「2mol%程度」と設定していた。そして,同年5月には,DEG量を低くするための具体的方法を検討していた(同月月報(甲65の4)参照)。さらに,平成3年9月,原告は,DEG量低下の方法を具体的に提案した(同月月報(甲65の9)参照)。
そして,原告は,鐘紡に対してDEG量を変更した試料の分析・比較実験等を依頼し,平成3年11月15日の打合せの際に,原告は,DEG量の上限値を,当初の「2mol%」から「4mol%」と妥協した。
同月18日付「KB-KC打ち合わせメモ」(甲69)は,同月15日のKB-KC打ち合わせの結果をまとめた書面であり,甲69のうち,白板に記載のコピーNo.1,No.2,No.3,No.6(日付は平成3年11月15日)は原告の直筆であるところ,白板No.1に記載されている「CDEG量(mol%)約4以下(?)」の文字は,原告が自ら記載した数字であると共に,原告が提案した数字である。
さらに,原告は,上記提案を踏まえ,最終的には,安全を見てDEG量をなお一層高めに採って,「5mol%以下」と決定した。その他,DEG量決定についての原告の関与については,甲65の3,4,7,8,9,甲66,甲12の3及び甲12の4に記載がある。
その後,平成4年4月6日から同月11日のMHIでの単層変性PETの生産・商品化レベルでの最終的評価を経て,第15発明のDEG量を確定させ,さらに,平成4年6月16日から同月18日のMHIでのM-PET/PET2層積層フィルムの生産・商品化レベルでの最終的評価を経て,第14発明のDEG量を確定させた。
【被告の主張】 ア 第15発明について a) 第15発明の特許出願から登録に至るまでの経緯 第15発明は特願平4-274679号(以下「第15-2発明」という。)に基づく国内優先権主張を伴う出願である。しかし,第15-2発明は,特願平4-95654号(以下「第15-1発明」という。)に基づく国内優先権出願であった。したがって,本来,第15発明は,第15-1発明及び第15-2発明の2件を国内優先権主張すべきところ,手続ミスで第15-2発明のみを優先権主張をした形になったもので,そのために,第15発明の優先日は,第15の1発明の出願日たる平成4年4月15日ではなく,第15-2発明の出願日である平成4年10月13日となっている。
b) 第15-1発明は,共重合成分としてジエチレングリコール(DEG)の含有量を規定したことに特徴を有している発明である(乙78の1及び2)。
DEG量については,平成3年(1991年)11月18日付け「KB-KC打ち合わせメモ」(甲69)にDEG量約4モル%以下として,DEG量の上限値が設定されたことから分かるように,単層の共重合ポリエステルの白化対策として,既に減量することが議論されており,この時点でDEGの最大使用量をどの程度に抑えるかという減量目標を数値化するという方向付けがなされていた。
第15-1発明は,鐘紡との上記打合せにおいて,鐘紡側から提案された約4モル%以下というDEG量の上限値を,当時グループ員だったE,BとCの3人でこれまでの実験や評価に基づく知見に基づいて検討した結果,やや広めに「5モル%以下」とすることに決定して特許出願したものである(乙78の1,2)。このDEG量の上限値設定はあくまでも単層ポリエステルフィルムについてのものであった。
上記のことをより詳細に説明すると,もともとDEGは,これが多いと種々の弊害のあることが,昭和62年当時から鐘紡の技術陣には認識されており,それゆえ,被告の日野工場内にある最新鋭のポリエステル工場(A-1工場)で製膜するPETベースの原料チップ(KRペット,製造メーカ:鐘紡)に関する昭和62年1月12日鐘紡作成(同年5月19日改定)の製品規格(乙95の3)には,DEG量2%以下(銘柄RA,RBとも)と明記されていた。また,上記原料チップの品質管理に使用する目的で,被告が平成2年以降に,鐘紡から受領した「KCペット生産管理資料」(1990年9月版)(乙96の1)及び同(1992年1月一部改訂版)(乙96の2)にも,「DEG mol% 1.8±0.4」と明記されていた。
しかし,その一方で,TAC代替新支持体の場合には,C研究ノート(乙98)の11月12日付け記載頁の2頁前の頁下半部分に貼り付けられている,同人の平成3年11月14日作成に係る「NS10月度月報(〜11/14)」の「1.ポリマー」,「1)DEG,ヘーズ改良」の項の「1.進捗状況」及び「2.特記事項」には,「*************************************************************************」などが記載されている。
そして,平成3年11月18日の鐘紡(KB)との打合せにおいて,鐘紡新素材研究所作成の同月15日付け「第12回写真用新支持体に関する技術連絡会議資料」(乙77)に記載の「溶液ヘーズ,DEG発生量」の報告データや,DEG量を変えて行った試料の比較結果(殊に,同資料添付別紙C(4枚目)のPF-2004とPF-2008の比較において,DEG3.4→5.9mol%で不良とされた結果)に基づく鐘紡側からの提案によって,DEG量は4モル%以下が良いのではないかという方向性が出された(平成3年11月18日付KB-KC打ち合わせメモ(甲69)にDEG量約4モル%以下とある)。これに対し,上記のとおり,Cは,DEG量を抑制した際の,ヘーズの悪化を避けるためには上限値をもう少し大きくした方がよいのではないかと思い(上記鐘紡側の資料によっても,DEGを5.9まで増やすと不良になるというだけで,4%以上がすべて悪いということでもない),4mol%以下という鐘紡の提案を,4%と5.9%の中間値である5%にまでアップして特許請求の範囲を若干広げて記載することに決め,鐘紡側の了承を得た後,第15-1発明の明細書草案(乙78の1)を作成した。
c) 第15-2発明は,第15-1発明に基づく国内優先権主張出願である。第15-1発明で記載していた金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸についてその構造に誤りがあったため,国内優先権主張を行って手直しをしたものである(乙79の1,2)。この手直しのきっかけとなったのは,東レから,平成4年8月に積層フィルム関連の特許出願が公開となったことにより,この東レの対抗特許を検討する際に構造の誤りに気づいたものである。
d) 第15発明は,その内容自体は第15-1発明,第15-2発明とほぼ同一で実質的に変わらない。しかし,東レから,平成4年9月及び平成5年2月に,積層フィルム関連の特許出願が公開されたため,平成5年2月末から同年4月にかけ,この東レからの対抗出願を検討して,明細書の草案の作成を行い,対抗特許として出願を完了したものである。
したがって,第15発明の本質的部分は,同発明の特許請求の範囲の【請求項1】に記載された「ジエチレングリコール(DEG)を全エステル結合単位に対して5モル%以下の範囲で含有する」との構成部分にあり,この構成を最初に組込んだ時期は,第15-1発明の出願当初明細書(出願日:平成4年4月15日)の作成時である。
e) 第15発明についての原告の関与 第15発明のDEG量の規定については,上記のとおり,原告が発明者として関与したことはない。
@ 原告は,原告作成に係る平成3年4月月報(甲65の3)に問題点が指摘されていると主張する。
しかし,原告が主張する内容は,原告が上記月報(文書の名は,正確には月報ではなく,「実績報告」である。)を作成した4月30日よりも8日前である同月20日に,当時のプロジェクトリーダーであったLが第4開発センターのKセンター長に対して,作成,提出していた月報の内容とほぼ同一である。したがって,原告は,Lの月報の写しを入手し,これを元に甲65の3を作成していたものである。
A 原告は,DEG量の低減方法について具体的に検討していたとも主張する。
しかし,原告が主張する方法は,特開昭63-39917号(乙100の2)及び特開昭63-278927号(乙100の3)に記載されている。
すなわち,写真用も含めて,ポリエチレンテレフタレートの合成の際に,酢酸ナトリウム,水酸化ナトリウム或いはテトラエチルヒドロキシアミン等のアルカリ化合物を触媒と共に含有することは,公知であった。
B 原告は,甲69のうち,白板に記載のコピーNo.1にある「CDEG量(mol%)約4以下(?)」の文字が原告の肉筆であることを理由に,この数値は原告が提案したと強弁している。
しかし,鐘紡との打合せの場における白板の文字が原告の肉筆によって記載されていることは,原告が議事の内容を白板に記載する役割を担当した事実を示すのみであって,約4mol%との数値が鐘紡側から出されたとする被告の主張と何ら矛盾するものではない。のみならず,原告は,この約4という数値は,原告が当初の「2mol%」から「4mol%」に妥協したものである,と述べている。しかし,上記のとおり,DEG量を2.7〜4.0mol%にした場合でもなおヘーズやb値は悪かった実験例が存在することに鑑みれば,4%が「妥協」の産物というのは事実に反することが明らかである。
C 原告は,DEG量の確定時期について,平成4年6月16日から同月18日のMHIでのM-PET/PET2層積層フィルムの生産・商品化レベルでの最終的評価を経た後であると主張する。
しかし,上記のとおり,第15-1発明は,上記MHIでの単層変性PETの生産・商品化レベルでの最終的評価を行う前の,遅くとも同年3月下旬ころに,C,E,Bの3人が発明の完成を認識したので,リーダー格のCがその明細書草案を作成し,当該草案を添えてその出願依頼書(乙78の2)を4月初旬に提出したものである。したがって,DEG量の上限値を5%とすることに確定した時期も,遅くとも同年3月下旬ころである。
原告は,自らの体験に基づく記憶ではなく,第15発明の公開特許公報(甲71の15)に記載されている優先日とMHIでの生産レベルでの実験時期とが近接しているという時系列上の序列のみを頼りに,自ら体験していない第15発明の発明経緯を空想して,あたかも自らが発明したかのように述べているにすぎない。
以上のとおり,原告は,公開特許公報に記載されている事項から読み取れる範囲内の発明の内容ばかりを主張し,また発明の時期としては,公開公報の書誌事項として記載されている出願日や優先日から逆算してその1か月から2か月前には出願内容が固まっていたと推定して主張しているものである。
イ 第14発明について a) 第14発明の特許出願から登録に至るまでの経緯 第14発明は,特願平4-292160号(以下「第14-1発明」という。)に基づく国内優先権主張出願である。
第14-1発明は,共重合成分としてジエチレングリコール(DEG)の含有量を規定したことに特徴を有している発明である(乙76の1及び2)。
第14-1発明は,これまで評価してきた結果を持ち寄って検討した特許出願検討会において,既にCが,第15-1発明として,DEG量を5モル%以下とする単層の共重合ポリエステルフィルムに関する特許出願の明細書を作成し,出願済みであったことから,これを積層のポリエステルフィルムに応用して出願することになり,平成4年7月21日付分担表(乙20の2)により,Cが明細書の草案作成を分担することになったものである。
したがって,第14-1発明のコニカ側の発明者は,積層の共重合ポリエステルフィルムについて共同で実験,評価を行ってきたC,D,E,Bの4人である(乙74,C陳述書5頁)。
b) そして,第14発明は,東レの対抗出願としての位置づけにおいて,上記第14-1発明に基づく国内優先権主張出願としてなされたもので,第14-1発明の特許請求の範囲の文言を手直しした程度のものであって,実質的に発明を変更するものではなかった(「ポリアルキレングリコール」を「ポリアルキレングリコール類」と拡張しただけである。)。
したがって,第14発明のコニカ側の発明者は,第14-1発明と同じC,D,E,Bの4人である。
c) 第14発明についての原告の関与 原告が,第14発明のDEG量規定について発明者として関与したことは全くなかったことは,第15発明で述べたとおりである。
また,Cが作成した第14発明の明細書の記載内容について,原告からは何ら具体的な指示はなかった。
(4) 第19発明(甲71の18)について 【原告の主張】 ア 第19発明は,第18発明を工場レベルで製品化するときの問題点を解決した発明である。その目的は,フィルムの端にパーフォレーション(穿孔)を開けるに際し,M-PET/PET/M-PETは3層から成るため各層がその貼り合わせ面で剥がれやすくなる(層間剥離)のを,剥がれなくなるようにするということにある。隣接する2層のうち少なくとも1層が他方の層を含有するように,すなわち,隣接する2層の各共重合成分(SIP[スルホイソフタール酸],PEG[ポリエチレングリコール])の差(ΔSIP,ΔPEG)を一定の範囲に収めるようにした。
クレーム中の「『任意の隣接する2層間において,金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸の含有量の差(ΔSIP )が5.5モル%/全エステル結合以下であり,かつポリアルキレングリコール類の含有量の差(ΔPEG )が6.0重量%/全重量以下である』との構成を規定するに至った具体的根拠は,次のとおりである。
原告は,隣接する2層の各共重合成分(SIP,PEG)の差(ΔSIP,ΔPEG)を一定の範囲に収めるようにするため,この一定の範囲を,実験に基づいてある程度決めようと試みたが(甲13),結局決められず,実験に基づかない机上の計算によりその数値を求めた。第19発明以前に,既に,第5発明,第6発明,第9発明ないし第14発明及び第17発明が出願されており,それらの発明において,隣接する2層の各共重合成分(SIP,PEG)は,SIPにつき2〜7モル%/全エステル結合,PEGにつき3〜10重量%/全重量と定められていた。ところが,第19発明においては,隣接する2層の間のSIPとPEGの各含有量の差を規定する書き方を採った。そして,既に先行していた上記第5発明,第6発明,第9発明ないし第14発明及び第17発明の結果を単純に踏襲し,@SIP(金属スルホネート基を有する芳香族カルボン酸)については,1つの層に含有されるSIPの最小値が2モル%/全エステル結合,最大値が7モル%/全エステル結合と定められていたのであるから,ΔSIPは,7-2=5モル%/全エステル結合以下となる。A同様に,PEG(ポリエチレングリコール。
ポリアルキレングリコールの一種。)については,ΔPEGは,10-3=7重量%/全重量以下となる。その上で,原告は,経験的に,SIPは相溶性が良いことから,ΔSIPをより高めに採っても問題が少ない反面,PEGは相対的に相溶性が悪く,ΔPEGをより低めに採る必要が有ると判断していたことから,ΔSIPをやや高めに採り,5.5モル%/全エステル結合以下と定め,他方,ΔPEGをやや低めに採り,6.0重量%/全重量以下と定めたのである。
【被告の主張】 ア 第19発明の特許出願までの経緯 第19発明は,膜はがれの課題を解決するための特許出願であったが,主として,東レから出願された特許に対抗する位置づけで出願されたアイデア出願である。
被告は,第19発明の出願前,既に,平成4年11月25日,膜はがれ対策に関して第12発明を特許出願していた。第12発明は,共重合成分としてポリアルキレングリコールを含有する記載になっていたが,東レの出願特許に対抗するため,「ポリエチレンオキシジカルボン酸」を含める形での出願をする必要が生じ,これを出願したのが第19発明である。
もっとも,第19発明は,第12発明を基礎とした国内優先権主張出願としていない。これは,膜はがれについてはまだまだ種々の技術的検討が行われており,明確な解決策がなかったことから,C,EとBの3人が話し合い,第12発明とは別の観点からの出願にすることになったことによる。すなわち,既に出願を終えた第12発明は,3層積層する際には3層とも必ず共通する共重合成分を有する構成になっていたことから,第19発明は,共重合成分を混ぜる必要がない層があってもよいという構成,すなわち必ずしも共重合成分を混ぜる必要がない層も含ませることを目的にして,隣接する2層間で共重合成分の含有量差が小さいことを規定することにしたものである。この第19発明の効果については,実施例により具体的な実験,評価を行ったわけではないが,これまでC,EとBの3人で行ってきた実験,評価から得られている多くのポリエステルフィルムに関する知見からその効果を推定したものである。第19発明において具体的に採用された,共重合成分の含有量差についての「任意の隣接する2層間において,金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸の含有量の差(ΔSIP )が5.5モル%/全エステル結合以下であり,かつポリアルキレングリコール類の含有量の差(ΔPEG )が6.0重量%/全重量以下である」との構成を設定することの効果については,これまでC,EとBの3人で行ってきた実験,評価(特に,Eは,平成4年9月下旬ないし10月上旬ころ,既に,パーフォレーションの穿孔によると思われる膜はがれの確認実験に取り組んでいた。乙75)から得られている多くのポリエステルフィルムに関する知見から合理的に推認できたものである。
このように第19発明は,東レの公開特許出願に対する対抗出願をすることをきっかけとして,これまでの知見に基づいて,C,EとBの3人が話し合って具体的な構成を明確にした上で明細書を作成したものである。
イ 第19発明についての原告の関与 第19発明は,C,EとBの3人で行ってきた実験,評価から得られている多くのポリエステルフィルムに関する知見から,東レの特許対抗策として具体的な構成を上記3人のグループメンバーで話し合って決め,Bがその明細書草案を書くことになったものである。しかし,原告は,上記実験,評価に参加したことはなかったし,東レ特許対抗策の構成を決める話し合いにも参加していない。
また,明細書草案を書き終えたBは,その草案を原告に見てもらったが,このときも発明の骨子を変えるような修正は受けなかった。
したがって,第19発明の被告側の発明者は,C,EとBの3人でである。
(5) 第25発明(甲71の24)について 【原告の主張】 ア 第25発明は,第18発明を基本とする発明である。平成4年6月16から同月18日のMHIで行われた非対称積層フィルム(M-PET/PET/M-PET)の工業レベルでの評価を受けて現れた問題点の克服(第17発明の易切断性,第19発明及び第23発明の穿孔性),東レの出願した特許の対抗策としての特許出願を経て,第25発明(商品設計特許)を構想する段階となった。第25発明は,実際に製造した非対称積層ポリエステルフィルムの物性を測定し,その数値を特許請求の範囲に規定した数値限定特許である。第25発明は,第18発明を元に,第18発明において記載がない,「横方向カール度,横方向カール度のムラ,縦・横方向の熱収縮率」を規定したもので,第18発明を,特許戦略上,補う特許である。
クレーム中の「『該ポリエステルフィルムの横方向のカール度が5〜50m-1でカール度のムラが10m-1以内であり,縦方向の熱収縮率が0.5〜3.0%で横方向の熱収縮率が-0.5〜0.5%である』との構成は,原告が,最も実施したい周辺(製品そのもの)をピンポイントに近い範囲限定で出願する戦略を採り,Cに命じて,作製フィルムの横方向カール度,カール度ムラ,縦,横方向の熱収縮率(130℃で30分間)等を測定させ,その実測値に基づき,規定したものである。しかし,横方向カール度(巾手方向カール度)の実測結果及びカール度ムラについての実測結果については,原告の手元にはない。縦方向の熱収縮率についての実測結果及び横方向の熱収縮率についての実測結果は,甲13の4頁の下から9行目の「2)熱収縮率」,及び「表-4」,「表-5」,「表-5」の下欄に記載の数字等である。原告は,その後の工場実験レポートに記載の数字を見て,縦方向の熱収縮率を0.5〜3.0%,横方向の熱収縮率を-0.5〜0.5%との数値を決めた。ただし,縦方向の熱収縮率が0.5〜3.0%,横方向の熱収縮率が-0.5〜0.5%との数値は,写真フィルムたる以上どうしても必要な,一番ポピュラーな数値であって,これらの数値自体には特段の特許性はない。非対称積層フィルムの巾手方向のカール度やカール度ムラについて,実測した独自の数値を請求項に盛り込んだことにより特許性を持たせたものである。
【被告の主張】 ア 第25発明の特許出願までの経緯 第25発明は,平成5年の11月ないし12月ころに積層PETの熱収縮率についてE,IとCの3人が共同で検討をしていたときに,実際のフィルムをつくって測定したところ,縦方向の熱収縮率が0.5〜3.0%で横方向の熱収縮率が-0.5〜0.5%の範囲に入っていたので,これは新規だろうということで出願することにした発明である。ただ,熱収縮率の規定だけでは,進歩性が低いと思われたので,これまでの実験結果から得られた知見に基づき積層PETであれば通常は入るであろうと推測し得る横方向のカール度とカール度のムラとを組み合わせた構成の発明としている。この第25発明の出願目的は,後願の排除である。
イ 出願後登録に至るまでの第25発明 第25発明の特許出願に対しては,平成14年10月24日付けで,特許法29条2項及び同法36条5項及び同6項の規定により特許を受けることができない旨の拒絶理由通知(乙101)が発せられ,被告は,この拒絶理由通知に対し意見書を提出して争ったが,平成15年4月30日付けで拒絶査定(同年5月14日到達・乙102)がなされた。そこで,被告は,同年6月12日,該拒絶査定の確定を妨げるべく審判の請求をなすと共に,上記査定理由を解消すべく手続補正書(同年7月7日付け・乙103)を提出して明細書の記載の補正(特許請求の範囲の記載の補正を含む。)をなし,手続補正書(同年8月6日付け・乙104)を提出したところ,特許庁審査官の前置審査手続において,「原査定を取り消す。この出願については,拒絶の理由を発見しないから,特許査定する。」旨の査定がなされ,特許登録に至ったものである。
ウ 第25発明についての原告の関与 上記の熱収縮率を検討したり測定したりするに当たって,原告からの指示はなかった。
したがって,第25発明の被告側の発明者は,当時共同で積層PETの熱収縮率について検討していたE,IとCの3人である(乙74,C陳述書9頁)。
原告は,上記積層PETの熱収縮率についての検討に参加していなかったし,明細書草案を書き終えたCは,その草案を原告に見てもらったが,このときも発明の骨子を変えるような修正は受けなかった。
したがって,第25発明のコニカ側の発明者は,当時共同で積層PETの熱収縮率について検討していたE,IとCの3人である(乙74・9頁)。
(6) 第26発明(甲71の25)について 【原告の主張】 第26発明の内容は,第18発明を基本としつつ,より洗練させたものである。東レの特許対策として,「オキシアルキレン基」の繰り返し構造を有する化合物を共重合成分として追加したものである。
第26発明の本質的部分は,非対称積層ポリエステルフィルムであることにあり,@アンチカール度付与(プリント適性),Aプリントボケと切断性の向上,B接着性と短時間での巻ぐせ解消性の効果を与えるということが,その根本的な目的である。この目的を満足させるため,クレーム中の数値が,実測に基づき確定された。ただし,その実測結果については,原告の手元にはない。
【被告の主張】 ア 第26発明の特許出願までの経緯 第26発明は,第23発明の穴埋め的な特許という位置づけのものである。すなわち,第26発明は異なる共重合ポリエステル(A),(B)の積層において,それぞれの厚みをdA,dBとしたときに,その比dA/dBを0.7未満とし,かつ任意の二層間の共重合成分の含有量差を規定したものである。
当時,被告において,望ましいものとして検討していた厚み比は,dA/dBを「0.7以上」とすることであり,これを第23発明で規定して特許出願していた。したがって,第26発明は,それ以外の厚み比の領域「0.7未満」について規定をした,いわば第23発明の穴埋め的な位置づけのものである。
この第26発明は,グループ員であるC,IとE3人の話し合いの中から出てきたアイデアをヒントにして,Eがこれまでの実験や知見に基づいて明細書を作成したものである。
イ 出願から登録に至るまでの第26発明 第26発明の特許出願に対しては,平成14年6月7日,特許法29条の2の規定により特許を受けることができない旨の拒絶理由(乙106の1)が発せられた。被告は,この拒絶理由を回避するために,被告が同年8月12日付け手続補正書により特許請求の範囲クレーム中の「A層及びB層のポリエステルの固有粘度が,0.45〜0.65であり」との構成を挿入追加した(乙107:平成14年8月12日付け意見書2頁参照)。
ウ 第26発明についての原告の関与 a) 第26発明の本質的部分である上記「A層及びB層のポリエステルの固有粘度が,0.45〜0.65であり,A層の厚みの総和dA,B層の厚みの総和dBの比dA/dBが0.7未満であり」との構成は,第26発明の出願当初の明細書において既に特許請求の範囲ないし発明の詳細な説明に記載されていた技術事項であり,その明細書草案は,グループ員であるC,IとEの3人による話し合いの中から出てきたアイデアをヒントにして,Eがこれまでの実験や知見に基づいて明細書を作成したものである。
しかし,原告は,上記アイデアの着想に関与していないし,Eが明細書草案を作成する上で,原告からの指示は全くなかった。
したがって,第26発明のコニカ側の発明者は当時のグループ員であるC,IとEの3人である(乙66・9頁)。
b) 原告が第26発明の本質的部分であると主張する請求項1の記載のうちの「少なくとも2層以上積層してなるポリエステルフィルムであって,・・・かつ共重合成分としてオキシアルキレン基の繰り返し構造を有する化合物をポリマーの全重量に対して5重量%未満含有するポリエステル層(B層)とを有し,」との構成については,既に,第23発明の請求項2において記載されているから,第26発明の本質的部分たり得ない。
したがって,原告の主張は成り立たない。
3 争点1-ウ(登録に至らなかった発明についての発明者)について この点に関する原告及び被告の主張は,次に記載するほか,別紙登録に至らなかった発明についての当事者の主張のとおりである。
【原告の主張】 (1) 第18発明の他の本件各発明は,すべて,恒星たる第18発明の惑星群として発明されたものである。すなわち,第18発明以外の各発明は総じて,第18発明における根本的に斬新,かつ,前人未踏の発想の実現を前提として,第18発明において不足していた点を補充的に拡充しているのである。
第18発明以外の各発明について,内容の観点から分類すると,@「単層変性ポリエステルフィルム」に関する発明で,間接的に第18発明と関係する発明(第1発明,第2発明,第4発明,第7発明,第16発明),A「第18発明」の一部をなす発明(第3発明,第5発明,第6発明,第8発明,第10発明),B「第18発明」を工場レベルで製品化するときの問題点を解決した発明(第12発明,第13発明,第17発明,第23発明),Cその他(第18発明を防衛するための発明-第20ないし第22発明,第18発明の製造法についての発明-第24発明)に分けられる。
(2) 拒絶査定確定分である第2発明,第5発明,第17発明,第23発明及び第24発明の発明者について審理を求める理由は,次のとおりである。
@ 上記5発明は,本件26件の発明中のその余の発明と相互に密接に関わっていることから,その余の発明についての原告の貢献度等を確定するために不可欠といえる。
A 第5発明については,アメリカ合衆国において登録特許となっており(US5387501A),発明自体として価値がある。
B 第2発明及び第5発明については,欧州特許庁において公開され,審査はこれからであり(第2発明につきEP0562533A1,第5発明につきEP0568268A2・EP0568268A3。),特許成立の可能性を残すため,発明としての価値判断はこれからである。
(3) みなし取下げ分である第1発明,第3発明,第4発明,第6発明ないし第8発明,第10発明,第12発明,第13発明,第16発明,第20発明ないし第22発明について審理を求める理由は,次のとおりである。
@ いずれの発明も,審査請求期間の徒過により取り下げとみなされているが,その理由は不明確である。本来,上記13件の発明はいずれも,将来使用される可能性が十分にある発明であるから,被告が恣意的に審査請求をしなかったことにより,原告が不利益を被るいわれはない。
A 第8発明,第10発明及び第13発明については,第14発明と共に,欧州特許庁で登録特許となっており(EP0572275B1),ドイツ特許庁においても同様であり(DE69331718D1),かつ,又アメリカ合衆国においても登録特許となっている(US5372925A,US5580709A)など,発明自体として価値がある。
B 第19発明については,アメリカ合衆国において登録特許となっている(US5556739A)など,発明自体として価値があり,欧州特許庁においても公開されており(EP0618488A1),現時点では未審査であるが,特許成立の可能性を残しているものである。
C 第1発明及び第4発明については,欧州特許庁において公開され(第1発明につきEP0545439A1,第4発明につきEP0566094A2・EP0566094A3。),未審査であるが,特許成立の可能性を残すので,発明としての価値判断はこれからである。 【被告の主張】 (1) みなし取下げ分について 第1発明,第3発明,第4発明,第6ないし第8発明,第10発明,第12発明,第13発明,第16発明,第20ないし第22発明に係る各特許出願(合計13件)は,いずれも出願審査請求期間(出願日より7年)の徒過により出願を取り下げたものとみなされている(平成11年法律第41号による改正前の特許法48条の3第4項・乙108の1ないし13)。
上記の各発明の特許出願(13件)について,被告が出願審査請求をしなかったのは,出願後の年月経過に伴う各種状況の変化により特許取得の必要性が失われたことによる。
上記の13件の特許出願のうち,最も遅くみなし取下の効果を生じたのは,第21発明及び第22発明に係る出願であり,いずれも平成12年6月2日に出願審査請求期間が満了している(前記前提となる事実〔第2の2のウ〕参照)。
原告が,被告に対し,本件26件の特許を含むTAC代替新写真用支持体関連の特許出願について自分が発明者であるから補償金請求権を認めて欲しい旨を最初に申し入れた日は,訴状5頁にも記載されているように,平成12年6月26日である。つまり,原告は,上記13件の発明の各出願審査請求期間がすべて満了した後に被告に対して申し入れをしたもので,被告は,原告から申し入れを受けるまで,原告が上記13件の発明につき発明者としての権利を主張していることすら知らなかった。
したがって,被告が上記13件の発明に関し,それぞれの出願審査請求期間内に審査請求をしなかったことについて,原告の利益を害する意図等を有していなかったことは明らかである。
(2) 拒絶査定確定分について 第2発明,第5発明,第17発明,第23発明および第24発明に係る各特許出願(合計5件)は,いずれも被告から出願審査請求をして,特許庁審査官の審査を受けたものの,拒絶理由を受け,当該拒絶理由を争う余地はないと判断したか,あるいは,意見書を提出したものの,最終的に拒絶査定を受け,拒絶査定の理由の記載が十分説得的であったため,これを争う余地はないと判断して,不服審判の請求を断念した結果,当該拒絶査定が確定したものである。
4 争点2(特許を受ける権利承継)について 【原告の主張】 被告は,工業所有権管理規程に基づき,原告から,本件各発明についての特許を受ける権利承継し,これについて特許出願した。
【被告の主張】 原告の上記主張は否認する。ただし,仮に,原告が,本件26件の発明のいずれかについて,共同発明者の一人であると認められる場合は,その場合に限り,原告主張の承継の事実を認める。
5 争点3(相当の対価の額)について 【原告の主張】 (1) 本件各登録発明における原告の貢献度 ア 第18発明について 原告の貢献度は75%である。
すなわち,原告が単独で,積層ポリエステルフィルム(ポリエステル支持体の張り合わせ)と,非対称の積層を提案し,Cと予備的検討をし,プロジェクト化し,プロジェクト化後は,原告がプロジェクトリーダーとして,具体的構想を練り,テストプラント実験を行い,工場実験を行い,品質設計をし,商品化し得るまでに至らせたものである。Cは,原告の意向を受けて,実験の具体化,製膜テスト,評価の中心として活動したものであり,その貢献度は15%である。その余の者らは,補助的役割を果たしたにすぎず,全体で10%の貢献度である。
イ 第9発明 第9発明は,原告発明に係る甲46発明,甲15の21発明,甲15の27発明及び甲76発明から,原告が着想したものである。第9発明は,甲46発明及び甲15の21発明と,固有粘度,固有粘度差等,規定数値が,いずれも全く同じであり,巻癖回復性と機械的強度の二律背反性を満たし,かつ,巻癖を調節する役割を果たすバックコート層の塗布を省略できるという目的も,その目的達成のための手段,すなわち,「非対称積層アンチカールの発想」(第9発明の本質的部分)も,全く同じである。
したがって,第9発明における原告の貢献度は100%である。
ウ 第11発明 原告は,原告の過去の知見(甲46,甲7,甲15の21,甲76及び甲77)を踏まえ,第11発明のすべてを着想した上,その開発から出願までの間,プロジェクトリーダー兼室長として,部下に全面的に指示した。
したがって,第11発明における原告の貢献度は100%である。
エ 第14発明 原告は,第14発明の発想から出願まで,プロジェクトリーダー兼室長として,第14発明のすべてを発想し,リードした。第14発明の本質的部分は,DEG(ジエチレングリコール)の量を限定したところにあるところ,DEG量については,平成3年,原告が毎月のように検討し続けていた(甲65の3,4,7ないし9及び甲66)。
したがって,第14発明における原告の貢献度は80%である。
オ 第15発明 原告は,第15発明の発想から出願まで,プロジェクトリーダー兼室長として,第15発明のすべてを発想し,リードした。第15発明の本質的部分は,DEGの量の限定に有るところ,DEG量については,平成3年,原告が毎月のように検討し続けていた(甲65の3,4,7乃至9及び甲66)。
したがって,第15発明における原告の貢献度は80%である。
カ 第19発明 原告は,第19発明の発想から出願当時まで,プロジェクトリーダー兼室長であったところ,平成4年12月から平成5年1月にかけて問題が発覚し,M-PETとPETの低温穿孔(孔あけ)で層間剥離するのを防ぐには,隣接するM-PETとPETの中に含まれる成分の内容を近づければ良いことは,原告にとっては発想容易であったが,被告の他の社員には,着想しようがないことであった。
したがって,第19発明における原告の貢献度は70%である。
キ 第25発明 原告は,第25発明の発想から出願当時まで,プロジェクトリーダー兼室長として,部下たちに,「第18発明の商品化に向けて,商品設計に近い物性特許を,広い範囲(商品を含みつつ,それより広い範囲。)を先に,絞り込んだ狭い範囲(商品に近い。)を後にして,多数出願しておくように。」と指示したところ,第25発明は,それらの特許の中で,数値限定を厳しく採った発明(商品そのものに近いもの。)である。
したがって,第25発明における原告の貢献度は50%である。
ク 第26発明 原告は,第26発明の発想から出願当時まで,プロジェクトリーダー兼室長として,東レ特許対策を指示し,実現させた。
したがって,第26発明における原告の貢献度は80%である。
(2) 売上額 ア 本件26件の発明についての第三者の実施状況 本件26件の発明は,現在に至るまでいずれも実施されていない。しかし,コダック社と被告は,平成12年9月6日(効力発生日は同月8日),共同研究開発契約(以下「本件共同開発契約」という。)を締結し,同契約において両社が「フィルム支持体」に関する技術知識を相互に使用することができるようにし(クロスライセンス契約),共同でフィルム支持体を研究開発すべきことが合意されている。かかる本件共同開発契約締結を可能ならしめたのは,被告が,CTAの有力な代替となるフィルム支持体であるところの「積層ポリエステルフィルム」についての特許権(第18発明)を有していたからである。
被告もコダック社も,第18発明以外には,CTAの代替となり得るフィルム支持体特許を有していない以上,近い将来,両社が第18発明の積層ポリエステルフィルムを使用したカラーフィルムを製造・販売する客観的可能性,若しくは,第18発明の積層ポリエステルフィルムを基本的アイデアとするフィルム支持体を製造・販売する客観的可能性は極めて高い。また,被告及びコダック社が,他の会社に対して,第18発明の積層ポリエステルフィルムの特許権の実施権を許諾し,他社において同特許を使用したカラーフィルムを製造・販売する客観的可能性,若しくは,第18発明の積層ポリエステルフィルムを基本的アイデアとするフィルム支持体を製造・販売する客観的可能性も少なくはない。さらに,被告及びコダック社が,仮に,第18発明の積層ポリエステルフィルムないしその類似のフィルム支持体を製造・販売しなくても,被告にとっては,第18発明の積層ポリエステルフィルムがあればこそ,コダック社と提携でき,それゆえ,同社とクロスライセンス契約を締結する恩恵に浴したという利益がある。
イ 被告が受けるべきと見込まれる売上総額 現時点(平成14年時点)において,カラーフィルムの全世界での年間売上金額は,約4000億円と推定される。なぜなら,@フィルム等の市場動向を調査する文献として権威ある第12回年次ロビンソン・レポート(甲6)によれば,全世界におけるカラーフィルム売上総本数は約30億本であり(甲6,ページ25,図表3.1),A日本におけるカラーフィルム1本の売価は100円ないし150円であるからである。なお,上記時点で,カラーフィルムの全世界での年間売上金額は,毎年3%ずつ伸張している。
そして,被告とコダック社とのカラーフィルム(=カラーネガティヴフィルム)の全世界におけるマーケットシェアは約65%と推定され,(甲6,ページ(10),写真フィルムの中に占めるフィルム支持体の原価構成率は,被告において,平成14年時点で10%程度であると見込まれる。
したがって,被告が第18発明を実施した積層ポリエステルフィルムにより,コダック社とともに受けるべきと見込まれる年間売上高は,1年目が約250億円,2年目が約258億円(250億円×1.03),3年目が266億円(258億円×1.03)である。
そして,被告が有する積層ポリエステルフィルム特許権存続期間は平成25年4月25日までの約11年間であるから,被告がコダック社とともに受けるべきと見込まれる総売上高は,約3200億円である。
ウ 他人の発明の実施を禁止することができることに起因する比率 50%と推定される。
エ 被告の貢献度 本件26件の発明中,積層ポリエステルフィルムのアイデアは,原告独自のものであり,原告が発想し,被告社員に指示して開発したものであって,被告に蓄積された技術知識とは無関係であるから,本件26件の発明に対する被告の貢献度は35%である。
実施料率 本件26件の発明に係る特許の実施料率は,全体で7%と推定される。
(3) 本件26件の発明の対価の算定 ア 原告は,上記のとおり,売上額を約3200億円と算定した上で,これに,他人の発明の実施を禁止することができることに起因する比率50%,被告の貢献度35%を減じた65%,実施料率7%及び原告の本件各登録発明における各貢献度をそれぞれ乗じた上で,次のイのとおり,本件各登録発明全体の相当対価の一部請求として,合計1億円を請求するものである。
イ 本件26件の発明中,第18発明は,その中核をなす発明であり,その余の発明は,第18発明を支える発明である。第18発明が中核をなす発明であることを考慮すれば,被告の売上額に占める各発明の寄与の割合は,第18発明は65%,その余の第9発明,第11発明,第14発明,第15発明,第19発明,第25発明及び第26発明は,それぞれ5%を占めるものである。
したがって,各別の発明が相当の対価の全額に占める割合は,次のとおりである。
第18発明:第9発明:第11発明:第14発明:第15発明:第19発明:第25発明:第26発明 = 0.65×0.5×0.65×0.07×0.75 :0.05×0.5×0.65×0.07×1.0 :0.05×0.5×0.65×0.07×0.8 :0.05×0.5×0.65×0.07×0.7 :0.05×0.5×0.65×0.07×0.5 :0.05×0.5×0.65×0.07×0.8 = 195:20:20:16:16:14:10:16 原告は,本訴において,上記各発明の相当の対価として,合計1億円を請求するものであるが,上記割合に基づいて,同請求金額を割り振ると,第18発明は6351万7916円,第9発明は651万4658円,第11発明は651万4658円,第14発明は521万1726円,第15発明は521万1726円,第19発明は456万0261円,第25発明は325万7329円,第26発明は521万1726円(合計1億円)となる。
ところで,登録されなかった18件の発明(第1ないし第8発明,第10発明,第12発明,第13発明,第16発明,第17発明,第20ないし第24発明)については,その相当対価は,それぞれ1万円であり(合計18万円),これらが第18発明を補う発明であることからすれば,上記18件の発明と第18発明についての相当の対価の合計金額として,上記6351万7916円を請求することとする。
以上によれば,原告は,本訴において,第18発明について6333万7916円,登録されなかった18件の発明について各1万円,登録されたその余の発明については,上記の金額を請求するものである。
【被告の主張】 (1) 相当の対価について 本件26件の発明のいずれかについて,仮に,原告が共同発明者である可能性があるとしても,原告も認めているように,被告が本件26件の発明を実施したことはない。
また,デジタルカメラの普及により,今後,フィルムの販売数量が増える見込みはなく,フィルムの販売により利益を上げることは困難な状況にあり,カラーフィルムの需要が減少していくスピードは加速度を増していることから,被告においても,フォトイメージング事業の経営資源を,成長分野へシフトして,新たな成長を目指すとの経営方針に転換している。
このような経済情勢において,カラーフィルムの需要回復の見込みはほとんどなく,フィルム製造販売の各社とも大幅な事業規模の縮小が避けられない状況にあり,今後も,本件26件の発明が実施される見込みはまったくない。
原告が主張している売上総額は,「積層ポリエステルフィルム」(第18発明)の実施品たるフィルム支持体の売上を想定して算出されている。しかし,この想定は客観的な実現可能性が全くないものである。
したがって,原告が発明者であると仮定しても,相当対価の額はゼロである。
(2) コダック社との本件共同開発契約について 原告は,被告とコダック社とが,「クロスライセンス契約」を締結したかのような主張をしている。しかし,被告とコダック社とが平成12年9月8日に締結した本件共同研究開発契約は,研究開発から生ずる技術知識と,該契約締結前に有する技術知識の取扱いとを定めているにすぎず,あくまで共同の研究開発目的で締結されたもので,「技術知識の取り扱いに関する規定」というべきものである。
上記契約によれば,無条件に実施許諾の対象となる技術知識は,上記契約に定める共同研究開発から新たに生じた発明又は発見に限定されていて,上記契約締結前の技術知識については,共同研究開発の遂行及び開発成果として両社が合意したフィルム支持体の製造販売に必要な限度で,権利を有する当事者から異議を申し立てられることなく使用し得るにすぎない。したがって,「クロスライセンス契約」締結なる表現は不適切である。
しかも,上記契約の締結を可能ならしめた要因には様々なものがあり,第18発明の存在のみによるものではない。
6 争点4(移転登録請求の可否)について 【原告の主張】 (1) 原告は,被告に在職中,平成2年10月より平成13年11月までの間,別紙特許目録記載のとおり,被告従業員らと共同で総計8件の各発明をし,これらは,すべて写真用フィルム支持体及び表面加工に関するものであるゆえ,被告の業務範囲に属し,かつ,原告は,一貫して感光材料の研究開発に携わっていたものである。
しかし,被告は,当時から現在まで,原告が本件各登録発明の発明者であるとは認めていないから,原告と被告との間では,本件各登録発明につき,原告が有している特許を受ける権利を被告に譲渡する旨の合意がなされたことはない。
したがって,原告は,本件各登録発明について特許を受ける権利を有しており,本件各登録発明の特許権のうち,原告の持分部分は原告に帰属する。
(2) 原告の持分 第18発明については,48.75%であり,第9発明は65%,第11発明は65%,第14発明は52%,第15発明は52%,第19発明は45.5%,第25発明は32.5%及び第26発明は52%である。
(3) ところが,第18発明,第9発明,第11発明,第14発明,第15発明,第19発明,第25発明及び第26発明の各特許権について,原告の各持分は登録されていない。
したがって,原告は,被告に対し,予備的に,上記各特許権のうち,上記に記載した自己の持分部分について移転登録手続を求めるものである。
【被告の主張】 原告は,本件各登録発明のいずれについても,発明者として関与していない。
したがって,原告は,本件各登録発明のいずれについても,特許を受ける権利の持分を取得していない。
当裁判所の判断
1 特許法35条相当の対価請求と発明者の認定について 特許法35条相当の対価を請求し得る,特許出願された発明の発明者については,特許法2条1項,35条,65条,68条及び70条等に照らし,願書に添付した特許請求の範囲の記載を基準としてその発明の技術的思想を把握したうえで,当該技術的思想創作に貢献している者か否かによって判断すべきである。
本件においては,第1に,第18発明のように,特許出願時及び出願公開時の請求項の数が別紙第18発明の出願当時の特許請求の範囲のとおり,29あったものの,前記のとおり,拒絶査定を受けたため,本件補正がなされ,最終的には請求項の数が1に減縮されたものがあり,このような発明については,特許登録前については,補正の前後いずれの請求項によって特許法35条4項の「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」を認定すべきか(特許登録後について,登録時の特許請求の範囲に基づいて認定すべきことは異論がないところであろう。),また,この場合,登録時の請求項のみならず,補正前の旧請求項についても,その技術的思想を把握し,その発明者を認定する必要があるか,との問題があり,第2に,本件26件の発明中,8件の本件各登録発明を除いたものは,拒絶査定が確定したり,出願審査請求期間の徒過による取り下げとみなされるなどしており,これらの発明についてはそもそも特許法35条にいう相当の対価の支払を受け得る特許を受ける権利が生じているかどうかとの問題がある(これらの発明について,特許法35条にいうところの相当の対価の支払を受け得る特許を受ける権利を観念し得ないとすれば,本件については,これらの発明について検討する必要がないことになる。)。以下,これらについて判断する。
当裁判所は,特許法35条職務発明についての相当の対価請求においては,@特許法35条4項の「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」については,特許を受ける権利が,将来特許を受けることができるか否かも不確実な権利であり,その発明により使用者等が将来得ることができる利益をその承継時に算定することも極めて困難であることからすると,その発明により実際に使用者が受けた利益の実績をみた上で,「その発明又は特許発明により使用者等が実際に受けた利益」から同条項にいう「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」を事後的に算定することは,同条項の文言解釈として許容し得る解釈であり,同条項の「利益の額」の合理的な算定方法の一つである,A使用者等は職務発明について特許を受ける権利又は特許権を承継することがなくとも,当該発明について同条1項が規定する通常実施権を有することに鑑みれば,同条4項にいう「その発明により・・・受けるべき利益の額」は,単なる通常実施権を超えたものの譲渡により得た利益,すなわち,特許権による法的独占権又は特許を受ける権利については補償金請求権ないしはその登録後に生じる法的独占権に由来する独占的実施の利益あるいは第三者に対する実施許諾による実施料収入等の利益であると解すべきである,B特許法35条4項は,「その発明により・・・受けるべき利益の額」と規定しているのであるから,上記「利益」には,発明が特許登録される前から当該発明により生じた実施料等の登録後の法的独占権に由来する利益も含まれるものであり,特許登録後に特許発明により生じた法的独占権による利益のみに限定する必要はない,そのため,出願時から登録時までの間に特許請求の範囲について補正等による大幅な減縮がある場合には,発明者の認定と共同発明者間の発明に対する寄与率の認定に変動が生じることがあり得るから,必要に応じ,その出願時ないし出願公開時の請求項と登録時の請求項(訂正があれば訂正後の請求項)毎に発明者の認定と共同発明者間の寄与率の認定をすべきである,C特許を受ける権利は,発明をすることにより原始的に生じるものであるから,従業者等から使用者に職務発明に関する特許を受ける権利が譲渡され,使用者により特許出願された後に拒絶査定され,同査定が確定したものについても,特許法35条3項の「使用者等に特許を受ける権利・・・を承継させ・・・たときは,相当の対価の支払を受ける権利を有する。」との規定の適用があり,当該発明について,出願後に得た実施料などの法的独占権に由来する利益があると認められる場合には,これを考慮して同条にいう「相当の対価」を算定すべきである(なお,上記利益がない場合には,「相当の対価」はゼロとなる。),と解するものである。その理由の詳細は,次に述べるとおりである。
(1) 特許法35条3項の「相当の対価」の算定方法について 従業者等は,契約,勤務規則その他の定めにより,職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させたときに,「相当の対価」の支払を受ける権利を取得する(特許法35条3項)。ただし,その「相当の対価」の算定資料となる「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」(同条4項)については,特許を受ける権利が,将来特許を受けることができるか否かも不確実な権利であり,その発明により使用者等が将来得ることができる独占的実施による利益あるいは第三者からの実施料収入額による利益の額をその承継時に算定することが極めて困難である(特許権の承継の場合においても,将来の利益の算定の困難さについて,程度の差こそあれ,同様の問題が生じ得る。)ことからすると,当該発明の独占的実施による利益を得た後,あるいは,第三者に当該発明の実施許諾をし,実施料収入を得た後の時点において,相当の対価を判断する場合に,これらの独占的実施による利益あるいは実施料収入額(いずれも経済情勢,市場の動向,競業者の存在等により,大きく変動する額である。)をみて,その法的独占権に由来する利益を認定し,これをもって,「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」を認定することは,35条4項文言解釈としても許容し得る合理的な解釈であり,上記「利益」を「その発明又は特許発明により使用者等が実際に受けた利益」から算定することは,これまでの多くの裁判例が採用している方法であって,合理的な算定方法の一つであるというべきである。
なお,被告規程においても,被告は,従業員に対し,被告が特許等を受ける権利を承継した発明等につき,出願したとき及び登録時に補償金を支払うことのほか,被告が,発明者等から特許等を受ける権利を承継した発明等若しくは発明者等から承継した特許権等を実施して利益を得た場合に,登録前の実施については登録時に,登録後の実施については登録から5年経過後に補償金を支払うこと(実績補償),被告が発明者等から承継した特許等を受ける権利若しくは特許権等を第三者に譲渡し,又は,実施許諾して利益を得たとき補償金を支払うこと(譲渡・許諾補償),被告が発明者等から特許等を受ける権利を承継した発明等若しくは発明者等から承継した特許権等につき,被告が著しい利益を得たことが明らかなとき補償金を支払うこと(特別補償)などが定められている(乙184・被告規程の第19条ないし第24条参照)。被告規程におけるこのような実績補償の定め自体は,上記のとおり,合理的理由があり,特許法35条4項の「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」を考慮して相当の対価を定めるとの規定に反するものではない(現に,職務発明に関する勤務規則を備えている多数の企業においてこのような実績補償の定めがあることは当裁判所に顕著な事実である。)。ただし,被告規程において別途定められている,具体的な補償金額の定めは,特許法35条にいう相当の対価であるといえない場合には,当該補償金額の定め自体は,強行法規である同条に反するものであり,一部無効であるといわざるを得ず,被告は従業者に対し,職務発明について特許を受ける権利等の承継を受けた場合には,実際に支払われた補償金額と相当の対価との差額を支払うべき義務を負うことは最高裁平成15年4月22日第三小法廷判決(民集57巻4号477頁・オリンパス事件)の判断するとおりである。
(2) 使用者等は職務発明承継することがなくとも,当該発明について特許法35条1項が規定する通常実施権を有することに鑑みれば,同条4項にいう「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」とは,単なる通常実施権を超えたものの譲渡により得た利益,すなわち,特許権による法的独占権又は特許を受ける権利については補償金請求権ないしはその登録後に生じる法的独占権に由来する独占的実施の利益あるいは第三者に対する実施許諾による実施料収入等の利益であると解すべきである。
(3) 特許法35条4項にいう「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」は,「その発明又は特許発明により使用者等が実際に受けた利益」と解し得ることは上記のとおりである。この場合の使用者等が実際に受けた利益とは,特許出願ないし出願公開から登録時までの間においては,当該発明を第三者に実施許諾し,これにより得た実施料収入,あるいは,特許出願人が第三者に対し,出願公開後に補償金請求権を取得し得ること,若しくは,特許登録後には差止請求権を行使し得ることに裏打ちされた事実上の独占的実施による利益(出願公開後は,補償金請求の制度があること等により,第三者が特許出願人の実施許諾なく当該発明を実施することが事実上困難であり,特許出願人が当該発明を事実上独占的に実施することができ得る事態が生じることは稀ではない。),又は,出願公開後に実際に得た補償金請求権,並びに,特許登録後においては,特許権による独占的実施による利益又は第三者に対する実施許諾により得た実施料収入,あるいは,特許権侵害を理由とする損害賠償請求により得られた損害金などが挙げられる。そして,審査請求後に拒絶理由通知が発せられ,特許請求の範囲が補正により減縮され,その後,特許登録されることはよくあることである。この場合,特許法35条相当の対価を請求し得る発明者の認定は,特許請求の範囲の記載に基づいて行われるため,補正により,特許請求の範囲により認定される発明の技術思想がより減縮されたものになることは当然であり,これにより共同発明者の認定が変わり,あるいは共同発明者間の発明者寄与率に変動が生じることもあることは容易に推測できるところである。したがって,共同発明者の認定が争点となる事案においては,出願時ないし出願公開時の特許請求の範囲と特許登録時の特許請求の範囲のいずれについても共同発明者を認定し,それぞれの特許請求の範囲の記載に基づいて,「その発明又は特許発明により使用者等が実際に受けた利益」をそれぞれ認定する必要が生じる場合もあることは否定できないところである。
ただし,本件各登録発明の場合は,後記認定のとおり,特許出願後登録に至るまでに,被告が本件各登録発明により実際に得た利益は存在しない。すなわち,被告が本件各登録発明が特許登録されるまでの間に,同各発明を実施したこともなければ,第三者に実施許諾したこともないことは後記認定のとおりであるから,少なくとも特許登録までの間に被告が本件各登録発明により利益を得ていない以上,本件各登録発明の相当の対価請求に関しては,補正したものについては,補正前の特許請求の範囲に基づいて,その発明者の認定をする必要はない(なお,本件各登録発明については,特許登録後も被告が同各発明により得るべき利益の額は存在しないと認められることは後記認定のとおりであるものの,本件各登録発明については,特許権の持分移転登録請求が予備的に求められていること,及び,本件においては,共同発明者が誰かを中心的な争点として審理をしてきたとの審理経過に鑑み,第18発明及びその余の本件各登録発明については,後記のとおり,登録時の特許請求の範囲の記載に基づいてその技術思想を把握し,その発明者について判断する。)。
(4) 特許法2条1項は,「この法律で「発明」とは,自然法則を利用した技術的思想創作のうち高度のものをいう。」と定義しており,特許登録に必要な要件を備えるべきことを「発明」の要件とはしていない。そして,特許を受ける権利は,「発明」をすることにより原始的に生じるものであると解すべきであるから,特許法は,「発明」についての前記2条1項の要件を満たす限り,その発明者特許を受ける権利を取得することを認めているのであり,この特許を受ける権利の取得について,特許法29条,32条及び36条等の特許要件を備えることまでは要求していないと解すべきである(このことは,特許法29条及び32条は,「特許を受けることができる」発明と特許を受けることができない発明とがあることを明記しており,また,同法2条2項は,「この法律で「特許発明」とは,特許を受けている発明をいう。」と定義し,「発明」と「特許発明」を明瞭に書き分けていることからも明らかである。)。すなわち,特許を受ける権利は,発明者が発明をすることにより原始的に取得するものであり,そのうち特許出願されたものについては,特許法が特許登録をするのに必要な要件を備えるもののみが特許権として成立し,その余は拒絶査定の確定あるいは出願審査請求期間の徒過によるみなし取り下げ等により消滅するものである。
特許法35条は,従業者がなした職務発明について,特許を受ける権利ないし特許権を承継した使用者等に対し,相当の対価を支払うべき義務を規定しているものであり,承継した特許を受ける権利について特許要件があることを,相当の対価請求権発生のために要求してはいない。このことは,同条4項が「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」と規定し,「その特許発明により・・・」と規定していないところからも明らかである(なお,「発明」である限り,ノウハウについても特許を受ける権利は生じ,これについても特許法35条が適用されることは当然である。)。
したがって,従業者等から使用者に職務発明に関する特許を受ける権利が譲渡され,使用者により特許出願がされた後に拒絶査定され,同査定が確定したものについても,特許法35条3項の「使用者等に特許を受ける権利・・・を承継させ・・・たときは,相当の対価の支払を受ける権利を有する。」との規定の適用があり,当該発明について,出願後に得た実施料などの法的独占権に由来する利益があると認められる場合には,同条にいう「相当の対価」請求権が生じ得る(これに対し,法的独占権に由来する利益がない場合には,「相当の対価」請求権は生じない。),と解すべきである。
そして,本件26件の発明中,拒絶査定され,あるいは取り下げとみなされたものについては,被告がその間に法的独占権に由来する利益を得ていると認めることができないことは後記認定のとおりである。したがって,本件26件の発明に関する相当の対価を請求している本件においては,少なくとも,本件各登録発明を除いた発明については,その対価が存在しないのであるから,そもそも原告がその発明者かどうかについて,判断する必要がない。
(5) 以上からすれば,本件における主位的請求については,争点1(共同発明者か否か)のうち,まず本件各登録発明について,原告が単独ないし共同発明者か否かを判断し,争点2(特許を受ける権利承継の有無)についても念のため判断した後,本件26件の発明について,争点3(相当の対価の額)を判断し,その後に,本件各登録発明に関する予備的請求について,判断することとする。
2 争点1-ア(第18発明の発明者)について (1) 第18発明の技術的思想について 第18発明については,上述した理由により,本件補正前の特許請求の範囲に記載された発明の発明者について判断する必要がないため,本件補正後の特許請求の範囲に基づいて,その技術思想を把握し,その上で,原告が,当該技術思想の着想あるいは具体化に貢献しているか否かを検討し,原告が第18発明の発明者たり得るか否かを判断する。
ア 出願に至るまでの経緯 被告は,平成4年5月29日に出願された特願平4-139472号(第18-1発明),同年10月6日に出願された特願平4-267697号(第18-2発明),同年12月24日に出願された特願平4-344017号(第18-3発明)の三つの出願の国内優先権主張を伴って,平成5年4月26日,第18発明の特許出願をした(特願平5-99649号。乙183参照)。
イ 出願後登録に至るまでの経緯 a) 第18発明の出願当初の特許請求の範囲は,別紙第18発明の出願当時の特許請求の範囲に記載の請求項1ないし29のとおりであり,第18発明は平成6年8月30日に公開された(特開平6-240020号。乙4)。
b) 特許庁審査官は,平成15年9月4日付で拒絶理由通知(乙200)を発した。同拒絶理由通知書には,特開平4-235036号公報(乙32,以下「刊行物1」という。),特開平4-093927号公報(以下「刊行物2」という。),特開平1-244446号公報(乙14,以下「刊行物3」という。)及び特開昭50-123420号公報(甲7・甲15の21,以下「刊行物4」という。)に記載された発明に基づいて,その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとして,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないことが記載されていた。すなわち,同通知書においては,刊行物1ないし3には,金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸及びポリアルキレングリコール類を共重合させた共重合ポリエステルの層を含むカール解消性に優れた写真支持体に用いられるフィルム,及び,他のポリエステル重合体層と積層フィルムとすることが示され,また,刊行物4には,写真支持体用積層ポリエステルフィルムにおいて,組み合わせるポリエステルの固有粘度や層の厚み,感光層の伸縮性等を勘案することにより,積層フィルムのカールを低減できることが示されており,したがって,刊行物1ないし4に示された公知のカール低減手法を適宜組み合わせて用いることにより第18発明の旧請求項に記載されたフィルムを得ることは,当業者が容易になし得たことであることが記載されていた。
また,同拒絶理由通知書には,上記以外の拒絶理由として,「ポリエステルの構成成分は特定されていないか,または少量成分についてしか特定されていないが,そのような成分不特定の任意のポリエステルを用いて請求項1等に記載された所望のカール特性を有するフィルムを製造することができるとは認められない。また,・・・カールに関する特性を特定の数値範囲に制御するために必須の製造条件が何であるのかを把握できず,当業者が発明を実施するためには過度の試行錯誤を強いられることとなる・・・よって,本願の請求項には当業者が実施することのできない構成が包含され,発明の詳細な説明欄には,当業者が発明を容易に実施することができる程度に十分詳細に記載されていない」として,特許法36条4項又は5項及び6項に規定する要件を満たしていないことも記載されていた。
c) これに対して,被告は,平成15年11月11日,意見書(乙201)及び手続補正書(乙202)を提出し,明細書全文を補正した。しかし,特許庁審査官は,同年12月2日,同補正によっても拒絶理由は解消しないとして,拒絶査定(乙188)をした。
d) 被告は,特許庁に対し,平成16年1月5日,拒絶査定不服の審判請求書(乙189)を提出すると共に,同年2月4日,本件補正により(乙190),明細書の全文を補正し,従前の特許請求の範囲の記載をすべて削除し,これに代えて新たに請求項1のみとした。
特許庁長官は,被告に対し,同年3月2日,上記審判請求手続において,審判請求の実質的理由を記載した書面を提出するように求め(乙191),被告は,同月26日,審判請求の請求の理由を補充した(乙192)。そして,特許庁長官から被告に対し,同年4月12日付け審査前置移管通知(乙193)が通知された後,特許庁審査官は,被告に対し,特許法36条4項に規定する要件を満たしていないとして,同年5月21日,拒絶理由通知書を発した(乙194)。これに対し,被告は,特許庁長官に対し,同年7月16日,明細書の発明の詳細な説明欄を補正する補正書(乙196)及び意見書(乙195)を提出した。
特許庁審査官は,同年8月9日,拒絶の理由を発見しないとして,特許査定(乙197)をした。
ウ 第18発明の特許請求の範囲及び第18発明の明細書(以下「第18発明明細書」という。)の記載について a) 特許請求の範囲 特許請求の範囲を分説すると,次のとおりである。
構成要件A 二層以上のポリエステル層および共重合ポリエステル層から成り, 構成要件B 熱処理後の巻きぐせカール度が135m-1以下で,温水浴処理後の回復カール度が45m-1以下であり,巾方向におけるカール度が5〜30m-1であり, 構成要件C 前記ポリエステル層の片面に共重合ポリエステル層を積層してなり, 構成要件D 該共重合ポリエステル層が,共重合成分として金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸を全エステル結合に対し2〜7モル%含有すると共に共重合成分としてポリアルキレングリコール類および/または飽和脂肪族ジカルボン酸を反応生成物の全重量に対して3〜10重量%含有してなる 構成要件E ことを特徴とするフィルム。
b) 第18発明明細書の記載について 第18発明明細書には,次の記述がある。
発明の詳細な説明】 【0001】【産業上の利用分野】 本発明は,フィルムに関し,詳しくは,強度を保持しつつ,巻きぐせが付きにくく,巻きぐせ解消性に優れ,適度な巾手カールを持ち,取扱い性が優れた,印刷材料,磁気材料,包装材料またロール状にして使用されるフィルムとして有用であり,特に現像処理前の処理機器適性,現像処理工程での処理機器適性,処理後の取扱い性のいずれにも優れた,ハロゲン化銀写真感光材料に好適な写真用支持体に用いられるフィルムに関するものである。
【0004】 ところで,従来使用されているプラスッチクフィルム支持体としては,トリアセチルセルロース(以下,TACと略称されることがある。)などのトリアセテートフィルムが代表的であるが,TACフィルムはもともと機械的強度が弱いので,現行よりも薄くしたときに写真用支持体としては適切ではない。また,TACは,フィルム作製の際にメチレンクロライドを多量に使用しており,環境保護の点から,回収装置等多くの付帯設備が必要でコスト高になって好ましくない。
【0005】 一方,支持体としてポリエチレンテレフタレートが従来知られており,X線用フィルムや製版用フィルムに用いられてきた。強度が優れていることからカラーネガフィルムへの応用も考えられる。しかし,ポリエチレンテレフタレート支持体は強度に優れているものの,一旦ついた巻きぐせが現像処理後もほとんど取れないという,巻きぐせ解消性に劣るという欠点がある。
【0006】 ポリエステル支持体の巻きぐせをなくす手段として,ポリエステル支持体に親水性を持たせる方法,例えば特開平2-120857号公報および特開平1-244446号には親水化による改良技術が示されているが,現像処理後の巻きぐせ解消性をTACと同程度まで向上させるため,共重合成分量を添加することによりただ単に親水化しただけでは,共重合ポリエステル支持体の現像処理前の巻きぐせが逆に増加してしまい,現像処理前の取扱い性が悪くなるという問題点がある。特に,現在の写真業界では,多数のフィルムをスプライサー処理機で1本に継ぎ直し,これをシネ型自動現像処理機で現像処理するのであるが,このときのスプライサー処理の際,この親水性共重合ポリエステル支持体は,あまりにも顕著な巻きぐせがついているので,入り口部にフィルムの先端が入りにくく,無理に入れるとスプライサー処理機内でフィルムの目詰まりや折れが発生してしまい,実用性に耐えなかった。
【0007】 また,親水性共重合ポリエステル支持体は,共重合成分を含有しているのでその強度が低下してしまい,フィルムの膜厚が100μm以下では,自動現像処理機で現像処理する際に,自動現像処理機内でフィルムの折れが発生してしまい,巾手カールを有していないのでフィルムの取り扱い性が悪い,つまり腰が弱いためにすぐに座屈してフィルムの搬送トラブルを起こすという致命的な欠点があり,この点でも実用に耐えなかった。
【0008】 このように,取り扱い性に優れた薄手のフィルム,特に写真用として小型カメラに使用することのできる感光材料を得るためには,強度に優れ,適度な巾手カールを有すると共に,巻きぐせがつきにくい性質を有して取り扱い性がよく,かつ水浴浸漬後の巻きぐせ解消性が良いという相反する特性を満たす薄手の支持体の開発が必要である。
【0009】 本発明は,前記課題を解決するためになされたものであり,その目的は,特に機械強度が保持され,薄膜化が可能で,巻きぐせがつきにくく取り扱い性がよく,現像処理前の処理機器適性,現像処理に際しての処理機器適性に優れ,かつ現像処理後の巻きぐせ解消性にも優れた,小型カメラに用いて好適な写真用支持体を提供することにあり,さらには,用途は特に限定されず,強度を保持し,巻きぐせが付きにくく,巻きぐせ解消性に優れ,適度な巾手カールを持ち,取扱い性が優れた,印刷材料,磁気材料,包装材料またロール状にして使用することのできる材料等として有用であるフィルムを提供することである。
【0010】 【前記課題を解決するための手段】 請求項1に記載の発明は,二層以上のポリエステル層および共重合ポリエステル層から成り,熱処理後の巻きぐせカール度が135m-1以下で,温水浴処理後の回復カール度が45m-1以下であり,巾方向におけるカール度が5〜30m-1であり,前記ポリエステル層の片面に共重合ポリエステル層を積層してなり,該共重合ポリエステル層が,共重合成分として金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸を全エステル結合に対し2〜7モル%含有すると共に共重合成分としてポリアルキレングリコール類および/または飽和脂肪族ジカルボン酸を反応生成物の全重量に対して3〜10重量%含有してなることを特徴とするフィルムである。
【0013】 <熱処理後の巻きぐせカール度> サンプルサイズが12cm(製造時の縦方向)×35mm(製造時の横方向)である試料としてのフィルムを23℃および55%RHの条件下で1日かけて調湿した後に,直径が10.8mmである巻芯にこれを巻き,55℃および20%RHの条件下で4時間かけて熱処理を行なった。なお,巻芯に調湿後のフィルムを巻く場合において,フィルムに巾手カールがあるときは,そのフィルムの凹面が外側になるようにしてフィルムを巻芯に巻く。その後に,23℃および55%RHの雰囲気下で30分かけて放冷した後に,巻芯から解放し,1分経過後にフィルムの巻ぐせカール度を測定する。
【0014】 そして,カール度を1/r(m-1)で表す。このrは,カールしたフィルムの曲率半径を表し,単位はm(メートル)である。
【0016】 <温水浴処理後の回復カール度> サンプルサイズが12cm(製造時の縦方向)×35mm(製造時の横方向)である試料としてのフィルムを,直径が10.8mmである巻芯に巻き,55℃および20%RHの条件下に4時間かけて熱処理を行い,その後,巻芯から解放してフィルムの一端に70gの荷重をかけ,38℃の水浴中に10分間かけて浸漬した後に,荷重をかけたまま55℃の温風乾燥機で3分間かけて乾燥する。なお,巻芯に調湿後のフィルムを巻く場合において,フィルムに巾手カールがあるときは,そのフィルムの凹面が外側になるようにしてフィルムを巻芯に巻く。
【0017】 荷重を除去し,試料としてのフィルムを横置きにし,23℃および55%RHの条件下で1日かけて調湿した後に,横置きのカール度をフィルムの中央部分について測定する。
【0018】 そして,カール度は,巻きぐせカール度と同じく,1/r(m-1)で表す。このrは,カールしたフィルムの曲率半径を表し,単位はm(メートル)である。
【0020】 <巾手のカール度> 支持体としてのフィルムを製造した後に,支持体を製造時の縦方向に2mm,横方向(巾手方向)に35mmに切り出して試料フィルムを得,23℃および55%RHの条件下で1日かけて調湿した後に,巾手方向のカール度を測定する。
【0021】 そして,カール度は,巻きぐせカール度と同じく,1/r(m-1)で表す。このrは,カールしたフィルムの曲率半径を表し,単位はm(メートル)である。
【0026】 (2)フィルム -フィルムの特性- 本発明のフィルムは,熱処理後の巻きぐせカール度が135m-1以下で,温水浴処理後の回復カール度が45m-1以下であるところの,ポリエステル層または共重合ポリエステル層を有する単層からなるフィルムもしくは少なくとも二層のポリエステル層および/または共重合ポリエステル層を有する積層構造のフィルムであり,好ましくは,熱処理後の巻きぐせカール度が125m-1以下で,温水浴処理後の回復カール度が25m-1以下であるところの,ポリエステル層または共重合ポリエステル層を有する単層からなるフィルムもしくは少なくとも二層のポリエステル層および/または共重合ポリエステル層を有する積層構造のフィルムである。熱処理後の巻きぐせカール度が前記範囲内にあると共に温水浴処理後の回復カール度が前記範囲内にあると,現像処理前のスプライサー処理機器適性と現像処理後の巻きぐせ解消性とが良好になる。特に,熱処理後の巻きぐせカール度が135m-1以下であると現像処理前のスプライサー処理機器適性に優れ,温水浴処理後の回復カール度が45m-1以下であると現像処理後の巻きぐせ解消性に優れ,焼き付け等の作業の際に作業性に優れると共に,ピントが甘くなりにくくて好ましい。
【0028】 本発明のフィルムは,その巾手方向のカールを有することが好ましく,5〜30m-1,更に好ましくは5〜20m-1である。このようにフィルムの巾方向に巾手カールを付与することで,本発明のフィルムをロール状にして使用する際に,該フィルムの凹面を巻外にしてロール状にしたときに巻きぐせが付きにくいという効果を奏することができる。一方,巾手カールを付与しないときには,後述のようにすることで本発明の効果を奏することができる。巾手カールがこの範囲で有れば,本発明のフィルムを写真用支持体とした場合に,特に乳剤層を塗設する際の取扱い性も優れるし,自動現像処理機内で折れの発生も起こりにくい。
【0029】 -フィルムの形成素材- 本発明のフィルムは,ポリエステル層および共重合ポリエステル層を有する。
【0030】 --ポリエステル-- ポリエステル層を形成する素材としてのポリエステルとしては,ジカルボン酸とジオールとの繰り返し単位を主構成成分とするものを言い,好ましくは芳香族二塩基酸とグリコールとの繰り返し単位を主構成成分とするポリエステルを挙げることができる。
【0034】 --共重合ポリエステル-- 共重合ポリエステル層を形成するのに用いられる共重合ポリエステルとしては,金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸を共重合成分とし,ジカルボン酸とジオールとの繰り返し単位を主構成成分とし,好ましくは芳香族二塩基酸とグリコールを主構成成分とする共重合ポリエステルを挙げることができる。
更に又,この発明においては,共重合ポリエステルとして,前記共重合ポリエステルと前記ポリエステルとのブレンド物をも挙げることができる。
【0049】 -フィルムの層構成- 本発明のフィルムは,前記したようにポリエステル層および/または共重合ポリエステル層を含有すると共に,層構造としては,これらの一層からなる単層構造であっても,これらのいずれかが二層,三層,四層などのように任意の数の層が積層された積層構造であっても良い。好ましいフィルムの層構成は,二層以上の重層構造である。なお,本発明のフィルムを構成する「層」は,厚み2ミクロン以上であるものに限り,厚み2ミクロン未満の,例えば下引層などは,フィルムを構成する「層」とはみなさない。
【0068】 本発明の三層以上の積層構造を有するフィルムの,写真用支持体として好ましい態様の一つとして,共重合成分として,金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸を全エステル結合に対して2〜7モル%,好ましくは3〜6モル%,およびポリアルキレングリコール類および/または飽和脂肪族ジカルボン酸を反応生成物の全重量に対し3〜10重量%,好ましくは4〜8重量%を含有する共重合ポリエステル層を,単数または複数の層で形成されるポリエステル層の両方の各表面に積層してなり, 前記ポリエステル層の厚みをd2 とし,前記ポリエステル層の表面に積層された前記共重合ポリエステル層につき,一方の表面における,厚みの総和をd1 とし,前記芳香族ジカルボン酸の全エステル結合に対する平均含有率(モル%)をS1 とし,および,前記ポリアルキレングリコール類または飽和脂肪族ジカルボン酸の反応生成物に対する平均含有率(重量%)をP1 とし,他方の表面についてはそれぞれ,d3 ,S3 ,およびP3 としたとき,以下の条件式1,2,および3を同時に満足するフィルム(なお,このフィルムを特に写真用支持体と称することがある。)を挙げることができる。
【0069】 条件式1; d2 ≦50(μm) 条件式2; 0.7≦{(d1 +d3 )/d2 }≦3 条件式3; {(S1 ×P1 ×d1 )/(S3 ×P3 ×d3 )}≧1.5 共重合ポリエステル層における共重合成分としての,金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸の全酸成分に対する含有割合が前記範囲内にあると,このフィルムを使用した写真フィルムの巻きぐせ回復性をより一層向上させることができる。また,ポリアルキレングリコール類および/または飽和脂肪族ジカルボン酸の,反応生成物の全重量に対する含有割合が前記範囲内にあると,この写真用支持体を使用した写真フィルムの巻きぐせ回復性をより一層向上させることができると共に写真用支持体の機械的強度を向上させることができる。
【0199】【発明の効果】 本発明によると,強度を保持し,巻きぐせがつきにくく,巻きぐせ解消性に優れ,適度の巾手方向のカール度を有し,取り扱い性の優れた,印刷材料,磁気材料等に好適なフィルムを提供し,さらには,かかるフィルムを利用し,小型カメラに用いることのできる写真フィルムに好適な写真用支持体を提供することができる。
エ まとめ 以上の第18発明明細書の記載によれば,次のことが認められる。
第18発明は,従来使用されていたプラスチックフィルム支持体(TAC)は,機械的強度が弱く,フィルム作成の際にメチレンクロライドを多量に使用することにより,回収装置が必要でコスト高であったこと(上記【0004】),従来,支持体としては,ポリエチレンテレフタレートが知られており,強度は優れていたが,巻きぐせが現像処理後もほとんど取れないという,巻きぐせ解消性に劣る欠点があった(上記【0005】)。
そこで,第18発明は,@機械強度が保持され(また,薄膜化が可能で),A巻きぐせがつきにくく取り扱い性がよく,現像処理前の処理機器適性,現像処理に際しての処理機器適性に優れ,Bかつ現像処理後の巻きぐせ解消性にも優れたフィルムを提供することを目的として規定されたものである(上記【0001】【0008】【0009】【0199】参照)。
そして,上記目的@を達成するために,構成要件A及びCにおいて,二層以上のポリエステル層と共重合ポリエステル層からなるフィルムであることと,共重合ポリエステルをポリエステル層に積層することを規定し,上記【0049】参照),上記目的A及びBを達成するために,構成要件Bにおいて,熱処理後の巻ぐせカール度,温水浴処理後の回復カール度,巾方向におけるカール度の範囲を規定し(上記【0010】【0013】【0014】【0016】〜【0018】【0020】【0021】【0026】【0028】参照),構成要件Dにおいて,共重合ポリエステル層の成分及びその成分量の範囲を規定しているものである(上記【0010】【0026】【0029】【0030】【0034】【0068】【0069】参照)。
(2) 第18発明に至るまでの経過 第18発明に至るまでの状況については,次のとおり認められる(文末括弧内に掲げた証拠及び各段落の末尾に掲げた証拠並びに弁論の全趣旨による)。
ア 原告が入社する前の被告における写真用支持体の開発状況 a) ポリエステルフィルムを利用したカラー写真用などのロール状写真用支持体に関する特許出願としては,富士写真フィルム株式会社と東レが,昭和63年3月25日に共同出願し,平成元年9月28日に出願公開された「写真感光材料」に係る発明(特開平1-244446号。特許登録日は平成8年10月3日。
特許第2565370号。甲28)や,アグファ・ゲヴェルト・ナームロゼ・ベンノートチャップが平成元年7月3日に出願し,平成2年2月23日に出願公開された「写真フィルムのカールを制御する方法」に係る発明(特開平2-54254号。乙5)などがあった。被告においても,上記の公開特許出願などに触発され,ポリエステルフィルムを利用した写真用支持体の研究が進められた。
被告は,研究の結果,平成2年4月6日,「ハロゲン化銀カラー写真感光材料」に係る発明を特許出願し(特開平3-289647号公報・乙6),同年6月12日には「ハロゲン化銀写真感光材料」に係る発明を特許出願し(特開平4-44030号公報・乙7),また,同年4月11日には,被告の感材生産本部の研究員N,O及びMの3名が,「ネガ用ポリエステル支持体」の巻ぐせ改良(巻ぐせをつけないようにすることとついた巻ぐせをとること)に関する特許出願のアイデアを検討し,「PET複合化」の観点から積層ポリエステルフィルムによる改善案を提案するなどしていた(乙8)(なお,この提案に基づき,被告が,同年8月6日,M一人を発明者として,「ロール状ハロゲン化銀写真感光材料」に係る発明を特許出願した(特許番号2879251号・乙3。M特許)。
なお,M特許(乙3)の内容は,次のとおりである。
出願日 平成2年8月6日 公開日 平成4年3月26日 【発明の名称】ロール状ハロゲン化銀写真感光材料 【請求項1】複数のポリエステル樹脂フィルムからなる支持体上に少なくとも一層のハロゲン化銀写真乳剤を塗設したロール状ハロゲン化銀写真感光材料であって,該複数のポリエステル樹脂フィルムが含水率の異なる少なくとも2層のポリエステル樹脂フィルムを積層したものであることを特徴とするロール状ハロゲン化銀写真感光材料。
【請求項2】前記複数のポリエステル樹脂フィルムのうちの一層が厚さ5μm以上100μm以下のポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムであることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載のロール状ハロゲン化銀写真感光材料。
【請求項3】前記複数のポリエステル樹脂フィルムが三層以上の積層構造からなり,前記ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムからなる層が表面に出ない層に位置し,表面を形成する層のポリエステル樹脂フィルムの含水率が表面に出ない層を構成するポリエチレンテレフタレート樹脂の含水率より大きいことを特徴とする特許請求の範囲第2項記載のロール状ハロゲン化銀写真感光材料。
【請求項4】ないし【請求項7】の記載は省略する。
[産業上の利用分野](乙3・3欄16行目から21行目) 本発明はロール状ハロゲン化銀写真感光材料に関するものであり,詳しくは複数の積層されたポリエステル樹脂フィルムを支持体として用い,現像処理後のカール解消性に優れたロール状ハロゲン化銀写真感光材料に関するものである。
[発明の効果](乙3・28欄8行目から18行目) 本発明によれば,ポリエステル樹脂フィルムにハロゲン化銀写真乳剤を塗設したロール状ハロゲン化銀写真感光材料で該ポリエステル樹脂フィルムが含水率の異なるポリエステル樹脂フィルムを積層したもので,弾性率が大きいPETを薄層化し,より含水率の大きいコポリエステルの積層によって,巻きぐせの回復能力,即ち現像処理後のカール解消性に優れ,また引裂き強度と耐折度は実用的強度を有すると共に各層の接着性が堅固であるなどの機械的性能に優れているという顕著な効果が得られる。
b) 被告における写真用支持体に関する研究会等 被告は,平成2年5月29日,「TAC代替支持体の研究」と題する研究会を開催し,PET化の問題点を整理したり,各社の公開特許出願の内容を分析するなどし,同年6月27日には,NS検討会(「NS」は,New Supportの頭文字をとった新支持体を意味する略語である。)が開催され,被告の感材生産本部第4開発センターの研究員であったCとDは,同検討会用に作成した資料に基づいてPETとM-PETのラミネート(積層)実験サンプルの結果について報告したこともあった(乙12,弁論の全趣旨)。
ただし,このとき,Cらの上記報告書の資料には,「膜はバリバリ」「押出し不安定」などと記載されていることからすると,同実験はうまく行かなかったことが認められる(乙12)。
c) 被告と鐘紡との共同開発の開始 被告は,鐘紡との間で,平成2年5月ころから,「カラー用新支持体」の開発に関し,平成5年4月に同開発の完了を目指し,共同で開発を行うことを計画していた。この時点では,材料に関しては,「変性PETブレンド」,複合化に関しては,「PETベースを主体とした積層フィルム」などにあることが被告と鐘紡との間で確認されていた(乙10,11)。
被告は,平成5年7月17日,鐘紡と,「第1回写真用新支持体に関する技術連絡会」を開催し,TAC(トリアセチルセルロース)に代替するポリエステル系写真用新支持体の共同開発を開始した。同連絡会では,「*****************************************」であること,「********************************************」ことが確認されていた(乙13の1・3頁)。また,同連絡会の資料(乙13の2)には,ベース(判決注:写真用支持体)の取扱いと必要機能として,次のとおり記載されていた。
「****************************** *** *********************** ******************** ************************ **************************** ********************** ***************** ****************************** *** ****************** **********************」 また,平成2年9月13日には,「第2回写真用新支持体に関する技術連絡会」が開催され,被告第4開発センターでは,写真用新支持体に関する先行特許について十分に調査し,共同開発者である鐘紡の技術者などにその内容を説明していた。その中には,特開昭50-123420号(甲7,甲15の21),特開昭54-101866号及び特開昭54-132666号など,原告が発明者として記載されている帝人が有する特許もあった(乙163)。
イ 原告が被告入社前に,帝人において開発したポリエステルフィルムに関する発明の内容について a) 特開昭50-16783号(甲46。発明者・原告ほか1名) 出願日 昭和48年6月14日 公開日 昭和50年2月21日 【発明の名称】ポリエステルフィルム 【特許請求の範囲】 「固有粘度0.35〜1.0を有する2種のポリエステルフィルムを積層し,両者の固有粘度差が0.02〜0.5であるようにし,且つ二軸延伸してなるポリエステルフィルム」 【発明の詳細な説明】(1頁右欄下から1行目ないし2頁5行目) 「本発明は,・・腰の強い耐摩耗性の優れた接着性良好なポリエステルフィルムを得るため鋭意研究の結果,下記のように固有粘度の異なる二種のポリエステルを積層し,二軸延伸することによって所期目的のフィルムが得られることを知見し本発明を完成させた。」 b) 特開昭50-1234320号公報(甲7・甲15の21。発明者・原告ほか1名) 出願日 昭和49年3月18日 公開日 昭和50年9月27日 【発明の名称】写真フィルム 【特許請求の範囲】 固有粘度差が0.35〜1.0を有し,固有粘度差が0.02〜0.5であるような二種の同種又は異種のポリエステルフィルムを積層し,且つ延伸,熱固定してなるカールした積層ポリエステルベースフィルムの凸部に・・写真感光層を塗布してなるポリエステルフィルム。
発明の詳細な説明】(甲7・1頁下から9行目から2頁18行目) 「・・・ポリエステルを支持体とする写真のフィルムのカール(そり曲がり)性を改良することを目的とする。・・・本発明は固有粘度の異なる二種の同種又は異種のポリエステルフィルムを積層し,延伸,熱固定し,カールしたポリエステルフィルムベースフィルムに感光乳剤を塗布した後にカールをバランスさせるものである。・・・熱固定の際の収縮応力の違いを利用して高固有粘度側を内側に低固有粘度側を外側にカールしたポリエステルベースフィルムの凸部,すなわち低固有粘度側に感光乳剤を塗布,乾燥することによって,感光乳剤層の乾燥収縮によりカールをバランスしようとするものである。」 c) 特開昭51-131577号公報(甲15の27。発明者・原告) 出願日 昭和50年5月13日 公開日 昭和51年11月16日 【発明の名称】潜在的にカールする能力を有するフィルムの製造法 【特許請求の範囲】 固有粘度の異なる同種の芳香族ポリエステルフィルムを積層し,得られた積層フィルムを延伸した後熱固定するに際し,該熱固定をフィルムを縦・横両方向共に緊張した状態に保って終了させることを特徴とする,潜在的にカールする能力を有するフィルムの製造法。
発明の詳細な説明】(1頁左欄下から7行目から末行目まで) 「・・製造されたままの状態ではカールを生じていないが,当該フィルムの延伸温度以上融点以下の温度で無緊張下に熱処理すると,固有粘度の高いフィルムを内側に,固有粘度の低いフィルムを外側にしてカールする性質を有する積層フィルムの製造法を提供しようとするもの・・・」 ウ 第18発明の発明者として掲げられている従業員の経歴 a) C(C証人尋問の結果。なお,同尋問調書1頁下から5行〜2頁20行参照。) Cは,昭和57年3月に,東京工業大学有機材料工学科を卒業し(卒業論文のテーマ「PETの高速紡糸」),同年4月に被告に入社し,PETの支持体(PETベース)の研究をする部署に配属され,そこでPETの新鋭工場を建設するためのプロジェクト・チームに入ってPETについていろいろな研究を行った。また,工場建設後も新工場の技術スタッフとして2年間,PETフィルム(単層)の生産現場を経験している。
したがって,Cは大学在学中の卒業年度に始まり,昭和57年の入社時から平成元年に第4開発センターへ配属換えになるまで,8年の間ポリエステル,殊にPET技術の習得,研究をしてきた。
b) E(乙28,81,E証人尋問の結果) Eは,平成元年3月に東京工業大学大学院修士課程高分子工学科を卒業し,同年4月に被告に入社した。なお,Eの大学院における研究テーマは,ポリエステルのモデル化合物を使ったサーモトロピック結晶の相転移における熱力学特性についてであった。
Eは,被告に入社後,平成3年3月16日から平成4年6月15日までの間,第4開発センター第2研究室に,同月16日から平成6年3月31日までの間,第4開発センター第1研究室に在籍した。
c) B(乙33) Bは,平成3年4月1日に被告に入社してから平成5年4月15日までの間,被告感材生産本部第4開発センター第1研究室で写真用フィルムの研究開発に携わった。
d) D(乙36) Dは,昭和59年4月1日に被告に入社してから平成4年10月15日までの間,被告感材生産本部第4開発センター第2研究室で写真用フィルムの研究開発に携わった。
エ 原告が帝人を退職する際に提出した念書等について a) 帝人退職時に原告が作成した念書(甲59) 原告は,帝人を退職する際,「・・・帝人株式会社に属する秘密の技術的知見(ノウ・ハウ),・・・帝人株式会社退社後も10年間(または下記特定期間)は一切これを第三者に漏らさないことを誓います。また,私が退職後,他に転職し,・・・帝人株式会社の事業(業務)と競合し,その利益を不当に害するおそれがあることを考え,今後3年間はこれらの業務に従事することを避止いたします。」との記載がある念書を,帝人に提出した。
また,原告は帝人を退職する際,帝人における転進援助制度の適用を受け,退職金の特別加算として,1718万8529円の支払を受けた。この特別加算金は,帝人を退職後,少なくとも3年間は,帝人と競合関係にある会社に就職しないことを条件として支払を受けられるものであり,もし,原告が,この条件に違背したと帝人において判断される場合には,帝人に対し,特別加算金を直ちに返すことが約されていた(甲60)。
b) 被告と帝人との間に交わされた約定について 被告と帝人は,原告が被告に入社するにあたり,被告が,原告の帝人退職時に誓約した内容を尊重すること,また,帝人の利益を不当に害することがないように特段の配慮をもって原告を業務に従事させることを合意し,被告は,平成2年10月7日付けで,原告について,「ポリエステルフィルムの生産・技術に直接関与する業務に従事させないこと」などを内容とする念書を作成し,帝人にこれを提出した(甲4の1及び2,被告第13準備書面・3頁)。
オ 原告の入社後,原告が第4開発センターに配属されるまで(平成2年10月16日から平成3年11月16日まで)の経過 a) 原告は,人材コンサルティング会社に提出していた履歴書(乙62の2)に,「転職理由」として「*************************************************************************************」と記載しており,職位としては*******を希望していたことから,平成2年7月1日付けで被告に入社した当時,管理職としての待遇を約束され,被告の感材生産本部長室所属となった。ただし,上記エに記載のとおり,原告は,被告と競合関係にあった帝人に勤務していたため,帝人から被告に転職するにあたっては,帝人と被告との間で,「原告をポリエステルフィルムの生産・技術に直接関与する業務に従事させないこと。」などを内容とする約束を記載した念書が取り交わされていた。そのため,原告は,帝人を平成2年6月30日に退職した後,同年7月1日に被告に入社したものの,その後,約2か月半にわたる自宅待機期間を経て,同年10月16日になってようやく初出社となった(甲51・6頁,甲20)。
原告は,被告に出社後,感材生産本部長室付きであったが,第4開発センターにおけるTAC代替用の写真用新支持体の開発に関する打合せ及びその他の部署で開催される会議や打合せにも参加し,これらの会議等の内容を甲20原告研究ノートに記していた(甲20)。
(なお,上記のことは,平成3年5月21日の時点の職制表(甲43)によれば,原告は,第4開発センターの第1研究室の新カラーネガ支持体研究(変成ポリエステル支持体)のグループのスタッフと,センター長付けの企画,事務管理のグループを兼任していたこととも整合する。)。
b) この点について,原告は,管理職としてではなく,一研究員としてCTA代替新カラーネガ支持体の開発研究に携わり,毎月月報を執筆していた,と主張し,この主張を裏付けるものとして,甲65の1ないし9,81,90などの月報,原告作成の陳述書(甲124)などを提出する。
しかし,次項に記載のとおり,原告が平成2年10月16日から平成3年11月27日までの間に記載した甲20原告研究ノートの記載及び同ノートに綴られた別紙などの記載内容からすれば,原告は,第4開発センターの仕事について,管理職として従事していたとしか認められない。以下,詳述する。
甲20原告研究ノートの記載からは次のことが認められる(いずれも同研究ノートの各日付の該当部分の記載から認定した。)。
原告は,平成2年10月16日に出社した日,人事課長から,日野事業場の組織や概要説明を受け,入社のための諸手続を済ませた。
原告は,同月17日午後には,「感生本会議」に出席し,K理事(4開センター長)による「Waste Manegmentの現状と今後」について講義などを受けた。
原告は,同月18日午後4時からは,「四開会議」に出席し,Corona放電処理の必要性につき打合せをし,翌19日午前9時30分から午後12時まで,Corona放電処理条件についての打合せをした。
原告は,同月20日午後1時からは,P分析センター次長から「分析センターの組織説明」を受けたり,分析センターの装置を見学した。
原告は,同月22日午前10:00から午後12時までは,L部長とNS打合せをし,カラーネガ用New Supportの開発について,品質及びその対策や問題点,富士フィルム及びデュポンなどの関連特許について検討した。
甲20原告研究ノートにおいては,以下,打合せや会議で検討された事項などについての記載が続き,会議などで配布された資料も別紙として同ノートに添付されていた。甲20原告研究ノートの記載の中には,鐘紡と被告(当時の社名はコニカ)の技術打合せにも参加したこと(平成2年12月17日,平成3年5月20日及び21日の記載など),環境問題の観点からPVDCの回収処理について調査を命ぜられていたこと(甲20・12月10日の記載部分など),人材を集めるため,リクルート活動として,大学を訪問し,教授と打合せをしたこと(同・1月30日,2月6日,6月10日の記載部分など),リーダー会議の報告として各部門の進捗状況を検討していること(同・9月13日の記載部分など)等の記載がある。
さらに,甲20原告研究ノートの平成2年11月8日の記載部分には,本社の監査役2名と第4開発センターのK,N,L,原告(いずれも当時の管理職)が出席する会議で,本社の監査役から,「************************************************************** 」との要望があり,監査やり直しを半年後に実施することになったことが記載されており,原告が本社からも,管理職として,第4開発センターの開発の方向付けを指示されていたことがうかがわれる。
なお,平成2年12月5日から同月8日までは教育検習があり,その間の12月7日,第4開発センターのKが原告とN室長に宛てて作成した「PVDCインラインコート時の問題点解決」と題したレポートが,甲20原告研究ノートの当該期日の部分に綴られている。同レポートには,「************************************************************************************ 」と記載されており,第4開発センターのセンター長であるKは,原告に対し,リーダーとしてプロジェクトを指揮していくのにN室長やCの助けを受けることを指示していたことがうかがわれる。
しかし,これらの記載のほかに,甲20原告研究ノートに記載された事項について,原告が一研究員としてテーマを与えられ,何らかの研究をしていたとうかがわせるような着想を示したもの,あるいは,何らかの着想に基づき実験を指示したこと,あるいは,実験から得られたデータの評価から何らかの着想を得たこと等の記述は一切認められない。
原告は,この点について,被告に出社後,開発研究に関し,一研究員として携わっていた証拠として,毎月作成していたという月報等(甲65の1ないし9,81,90など)を提出する。
しかし,これらの月報(正確には実績報告書等)は,K第4開発センター長から,月初めに前月分の月報を仕事内容を経営的な表現で作成することを命じられていたことによるもので,原告が管理職として作成した報告書にすぎず,研究の一環として記載されていたものとは認められない。このことは,甲20原告研究ノートの11月7日における記載部分(冒頭に「90-11-7(K)」と記載のある頁。)からも明らかである(すなわち,当該部分には,「****** **** ******************* ********************* ********* ***** *********** ***** *****************」 と記載されている。)。
また,原告が作成したという上記月報の内容については,次のとおり,原告が研究者としてみずから作成した事項は記載されていないものと認められる。まず,原告作成の「11月度実績報告」(甲81)の記載内容の大部分についてみると,その先行資料たる被告作成の「写真用新支持体に関する技術連絡会資料」(乙13の2),K作成の「90年度11月度研究情報」(乙110)及びOの研究ノート(乙111)に記載されている事項,又は,原告が被告入社直後の20日間に第4開発センターのL部長等から説明を受け,被告社内の月報会,打合せ等にオブザーバーとして参加した際に出席者からの聞いた技術内容と完全に同一ないし実質的に同一のものであることが認められる。
そのほか,原告が作成した「12月度実績報告」(甲90)の記載も,それ以前に作成されたK作成の「90年度12月度研究情報」(乙113・134の2)及び鐘紡のH作成の「第4回写真用新支持体に関する技術連絡会議事録」(乙112・134の3)の記載内容と実質的に同一であり,原告作成の「1月度実績報告」(甲68)の記載も,それ以前に作成された鐘紡のH作成の「第3回写真用新支持体に関する技術連絡会議事録」(乙114・136の2)及びL作成の「Lメモ」(乙115・136の4)の記載内容と実質的に同一である。また,原告作成の「2月度実績報告」(甲65の1)の記載は,それ以前に作成された被告の第4開発センター作成の「第5回写真用新支持体に関する技術連絡会議資料」(乙116・138の2)及び「第5回写真用新支持体に関する技術連絡会議事録」(乙117・138の3)の記載内容と実質的に同一であり,原告作成の「3月度実績報告」(甲65の2)の記載も,それ以前に作成されたL作成の「1991.3月度月報」(乙118・140の2)の記載内容と実質的に同一であり,原告作成の「4月度実績報告」(甲65の3)の記載も,それ以前に作成されたL作成の「1991.4月度月報」(乙99の1・142の2)及びL作成の「KBH氏とのTel(メモ)」と題する書面(乙115・136の4)の記載内容と実質的に同一であり,原告作成の「5月度実績報告」(甲65の4)の記載は,それ以前に作成されたL作成の「1991.5月度月報」(乙119・144の2)ないし鐘紡のH作成の「第6回写真用新支持体に関する技術連絡会議事録」(乙120・144の3)の記載内容と実質的に同一であり,原告作成の「6月度実績報告」(甲65の5)の記載は,それ以前に作成されたL作成の「1991.6月度月報」(乙121・146の2)ないしO作成の研究ノート(乙122・146の3)の記載内容と実質的に同一であり,原告作成の「7月度実績報告」(甲65の6)の記載は,それ以前に作成されたL作成の「1991.7月度月報」(乙123・148の2)ないしO作成の研究ノート(乙69・148の3)の記載内容と実質的に同一であり,原告作成の「鐘紡〜コニカ技術打合せ」(甲65の7)の記載は,それ以前に作成された原告及びLが出席した鐘紡との打合せの結果を記した原告作成の「鐘紡〜コニカ技術打ち合わせ-変性PETについて-」(乙126・150の2)の記載内容と実質的に同一であるものにすぎず,原告作成の「8月度実績報告」(甲65の8)の記載は,それ以前に作成されたL作成の「1991.8月度月報」(乙127・152の2)ないしL作成の「第9回写真用新支持体に関する技術連絡会議資料」(乙128・152の4)の記載内容と実質的に同一であり,原告作成の「9月度実績報告」(甲65の9)の記載は,それ以前に作成されたL作成の「1991.9月度月報」(乙129・154の2)ないしO作成の研究ノート(乙130・154の3)の記載内容と実質的に同一であり,原告作成の「10月度実績報告」(甲92)の記載は,それ以前に作成されたC作成の研究ノート(乙98・156の2)の記載内容と実質的に同一であり,原告作成の「11月度実績報告」(甲66)の記載は,それ以前に作成されたC作成の研究ノート(乙98・158の2)の作成に関与した被告従業員が行った研究の内容と実質的に同一であり,原告作成の「12月度実績報告」(甲93)の記載は,それ以前に作成されたC作成の研究ノート(乙98・160の2)あるいはO作成に研究ノート(乙69・148の3)の記載内容と実質的に同一であり,原告作成の「1月度実績報告」(甲94)の記載は,それ以前に作成されたC作成の研究ノート(乙98・162の2及び乙24・162の3)の記載内容と実質的に同一であって,原告は,被告における様々なプロジェクトチームのミーティングに参加したことによって得た情報等を元に管理者としての立場から把握したものを毎月の実績報告書として作成していたにすぎないものと認められるのである。
したがって,原告が上記のような実績報告書を毎月作成したとしても,これをもって,原告がこれらの報告書に記載された事項について一研究員として,その開発研究に携わっていたと認めることはできない。
カ 上記オ以降,第18-1発明の出願日まで(平成3年11月16日以降平成4年5月29日まで)の経過 a) 原告は,平成3年11月16日から,正式に被告第4開発センターに配属され,「TAC代替ポリエステルフィルムの開発」のプロジェクトリーダーとして,その仕事に従事した(甲40,甲51・7頁)。
そのころの第4開発センター長はKであり,Kセンター長のもと,原告及びNがリーダーとなってテーマごとに開発に取り組んだ。
原告が被告から指示されていたのは,カラー新支持体をテーマにした樹脂開発,製膜,BC処方開発であった。原告のグループは,C,E,Bのグループと,O,E,Dのグループの二つに分かれていたが,Lも原告と同様リーダーとして配置され,リーダーをサポートする形で,Cが配置されていた(甲42)。
b) 平成3年12月20日,被告と鐘紡との間で,「第13回写真用新支持体に関する技術連絡会議」が開催された。同会議では,被告において,組成比のつめ,DEG,ヘーズ対策,強度upを目的に各種のフィルム支持体について評価を行ったとして,資料が配布され,説明された(甲17,18)。同月25日,Cがこの会議の議事録をまとめた(甲19)。
c) 被告第4開発センター原告名義で,鐘紡に対し,平成3年12月27日,「積層テスト内容(案)」題し,書面が送付された(乙22)。
同書面には積層テスト内容(案)として,次の提案がなされていた。
「1.各層の厚み比 M-PET/PET/M-PET 2/1/2 3層 1/1/1 〃 1/2/1 〃 1/3/1 〃 3/1 2層 2/1 〃 1/1 〃 1/2 〃」 なお,同書面の手書きの文字は,Cのものと認められ,同書面は,Cが作成し,原告の了承を得て送付されたものと認められる(C尋問調書・3ないし4頁参照)。
d) 被告第4開発センター原告名義で,鐘紡に対し,平成4年1月9日付けで「積層テストについて」と題し,FAXが送信された(乙23)。
(なお,同文書の手書きの部分については,Cの作成した研究ノートの記載と同様の文字が記載があることから,上記文書(乙23)もCが作成して原告の了承を得てファクシミリ送信したものと認められる。C尋問調書・4頁参照。) 同FAXには,次の記載があった。
「積層テスト優先順位 (M-PET/PET/M-PET) 順位 1-1-1 -@ 1-2-1 -C 2-1-2 -F 1-3-1 -G (M-PET/PET) 2-1 -A 1-1 -D 3-1 -H 1-2 -I (PET/M-PET/PET) 1-1-1 -B 1-2-1 -E @,A,Bは必ず。C,D,Eはできるだけ。FからIは可能なら,作成を希望致します。(担当C)」 e) 原告とCは,平成4年1月16日及び17日,防府工場において,特定組成のM-PET樹脂とPETを,打ち合わせていた8種類の層構成で積層して未延伸のサンプルフィルムを製造する実験に立ち会い,サンプルフィルムを被告に持ち帰った。
C作成に係る平成4年1月20日付け「KB出張報告」(甲9)には,次のとおり記載されていた(なお,Cの研究ノート(乙24・同日付け部分)にも同一の記載がある。)。
「積層テスト 1)メンバーKB 防府合繊工場 Q 新素研 H,F,G,R KC 4開C A,C 2)目的 PET,M-PETを共押出で積層し,巻ぐせ回復性を維持しながら,強度upできるかどうか知見を得るためのサンプル作成。」 (以下略。) f) Cは,第4開発センターのB,D,Eと共に,鐘紡から持ち帰ったサンプルフィルムを,被告の延伸機で2軸延伸し,強度(ことに弾性率),巻ぐせ回復性その他のテストを行った(Dは,強度テストのみに参加した。)ものの,上記テストに,原告は参加していない。
上記テストの結果,M-PETの共重合成分「金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸」を全酸成分2ないし7モル%含有すると共に,他の共重合成分「ポリアルキレングリコール」を反応生成物の全重量に対して3ないし10重量%含有している写真支持体は,優れた機械的強度,特に高い弾性率を有し,かつ現像処理後の巻ぐせ回復性も兼ね備えていること,特に,「PET層の厚みの総和とM-PET層の厚みの総和との比率が0.7から3の範囲内である」という条件と,「PET層の厚みが50μm以下」という条件の両者を満足するものは,上記効果が著しいことが判明し,特許出願をすることになった。そして,Cが,上記発明について明細書を作成し,平成4年4月27日に,被告と鐘紡との共同出願として,写真用支持体に係る発明の出願をしたのが,特願平4-134195号(乙29の1)である(乙29の1の明細書【表1】に記載された試料のほとんどは,Cが平成4年1月20日に作成した「KB出張報告書」(甲9)における表に対応するものであり,防府工場でのサンプルフィルムにないものは,防御的に特許の範囲を広くするために,Cが合理的な数値を推測して記載したものである。)。
また,上記の巻ぐせ回復性のテストにおいて,層構成が2層の試料フィルム(防府工場で作ることができるフィルムは3層の積層に限られていたため,2層のサンプルを作るためにM/M/Pとして製造したもの。)について,巾手カールが強すぎてストローのように巻いてしまったことがあった。
Cは,巾寸法を極端に狭くすれば,巾手方向のカールの影響はほとんどなくなるはずと考え,これをEらに話し,ストロー状に巻いてしまった試料フィルムを広げて1mm巾に切断し,細長い試料を作成したところ,巻癖回復性のテストを行える状態になった。そして,そのテスト結果から,2層フィルムは,温水浴後の巾手カールが強すぎるものの,巻ぐせ回復率は合格圏に入っていることが確認された。
その後,Eは,この2層の試料フィルムがストロー状に巻いてしまったことからヒントを得て,PET/M-PETの2層フィルムはそのままでは温水浴後の巾手カールが強すぎて使い物にならないけれども,M-PETを積層したPETの反対側(M-PETが積層されていない側)に,M-PETと共重合成分を少し変えたM-PETを適当な厚さだけ積層して,3層の積層フィルムにすることで,2層構成のときに生じた強すぎる巾手カールを適度のカール具合にコントロールできるのではないか,というアイディアが浮かび,このことを,Cらに話したところ,それは面白いアイディアだということになり,Cの上記特許と合わせて,出願することになった。この明細書については,着想したEが,起案することになったが,当時,Eは明細書を書いたことがなかったため,Cが作成した上記の明細書(乙29の1)を参考にしてこれを作成した。このEが起案して作成されたのが,特願平4-139472号(乙16の1)であり,第18発明の最初の優先権主張となった第18-1発明である。
(以上,乙24・1月18日以降の記載,乙27,乙29の1及び2,乙33,乙34・57頁,同66頁,乙37,乙38,C証人尋問及びE証人尋問の結果) なお,原告が,平成4年1月31日,鐘紡に対して送信したFAX(甲10)には,次のとおり記載されているものの,これは,原告が,Cらから報告を受けた結果を鐘紡に対して送信したにすぎないものと認められる。
「・・・昨日テストの結果の一部が出てきましたので,FAXにて概略連絡致します・・・ 1 積層フィルム評価結果(詳細は,2/12訪問時説明) 巻ぐせ回復性を維持しながら,強度UPは可能。現状,M-PET/PETの中間(加成性が成立する)。但し,製膜条件によっては,さらに強度はUPできる。
2 PEN,M-PENの重合の件 PEN:Tgが高いせいか,巻きぐせが付きやすいが,とれ易いというかなり面白いデータが出ている。但し,TACには及ばない。
M-PEN:同上の観点から強度を維持してカール回復性の良いフィルムが期待される。
PEN/M-PEN積層:M-PET/PET積層フィルム評価結果により,期待出来そう。
PEN/M-PET:難しいと思いますが(理由相分かり)→PEN/M-PENポリマー重合をお願いいたしたく。・・・・」 g) 平成4年2月12日,被告と鐘紡との間で,防府工場で得られたサンプルをもとに,被告において,検証された結果について,「第14回写真用新支持体に関する技術連絡会議」が開かれ,「本機重合品評価結果」や「積層テスト評価結果」が確認され,巻ぐせ回復率が,「**************************************** 」ことなどが報告された(甲11,12の2) h) Cは,平成4年3月,上記のとおり,防府工場でのサンプルフィルムを評価して得られた知見を,特願平4-134195号(乙29の1)として,出願明細書を起案した。その際,Cは,同出願に係る出願依頼書(乙29の2。以下「C出願依頼書」という。)も同時に起案し,これに第4開発センターO主査,同室長N,部門長Kの日付入り確認印を受領した上で,C出願依頼書を被告に提出した。
C出願依頼書において,発明者欄には,Cの名前が記載されるとともに,Cと実験を行った「B,D,E」が記名押印され,鐘紡からは,「F,G,H」の名前が記載された。
C出願依頼書の「発明・考案の概要」の欄には,「ポリエステル層の少なくとも片面に共重合ポリエステル層が積層されている多層フィルムであって,該共重合ポリエステルが金属スルホネート基およびポリアルキレングリコールを有する芳香族ジカルボン酸含有共重合ポリエステルである支持体」と記載されていた。
その後,C出願依頼書のとおりに,出願が決定され,平成4年4月27日に特願平4-134195号が出願された(乙29の1)。
なお,上記特願平4-134195号は,平成4年10月14日,特願平4-301750号の出願の際,国内優先の基礎として主張された結果,特許法42条1項により取り下げたものとみなされ,出願公開されていない。また,特願平4-301750号は,平成14年2月27日,写真用支持体にポリエステル層に共重合ポリエステル層が積層された多層フィルムを使用すること,ポリエステル支持体の巻き癖解消に相当量の金属スルホーネートを有する芳香族ジカルボン酸やポリアルキレングリコールを共重合成分とした共重合ポリエステルフィルムを使用すること,グリコールと芳香族二塩基酸とのエステル交換反応後,金属スルホネートを有する芳香族ジカルボン酸を加えて溶融重合させて写真用支持体に使用可能な共重合ポリエステルの共重合成分を作ること,などは公知であるから,上記出願に係る発明は,当業者が容易に想到できるものとして,拒絶査定が確定している(乙58の1及び2)。
i) Eは,平成4年3月にCが起案した上記出願明細書を参考にして,第18-1発明の出願明細書を,同年4月中に起案し,同時に,第18-1発明の出願依頼書(乙16の2。以下「第18-1出願依頼書」という。)を起案して,これに第4開発センターO主査,同室長原告,部門長Kの日付入り確認印を受領した上で,同依頼書を被告に提出した。
第18-1出願依頼書の発明者欄には,Eのほか,Eと共に,評価実験を行った「C,B」の記名押印がなされ,鐘紡からは,「H,F,G」の名前が記載された。
同出願依頼書の「発明・考案の概要」の欄には,「ポリエステルの両側に共重合ポリエステル(積層フィルム)×厚み×組成比×厚み・組成」と記載されていた。
その後,第18-1出願依頼書のとおり,第18-1発明の出願が決定され,平成4年5月29日に,第18-1発明が出願された(乙16の1)。
なお,原告は,この間の平成4年5月16日,感材生産本部第4開発センター第1研究室長に任命された(乙59の1及び2)。
j) 被告と鐘紡との打合せにおいて,防府工場での本件実験で得られた試料サンプルの評価結果などをふまえ,有望と思われたものについて,工場レベルでのテスト,いわゆる実機テストをすることが決まり,当時,最新の共押出法による積層フィルム製造装置の設備を有していた三菱重工業の協力を得て,平成4年6月16日から同月18日にかけて,MHI名古屋機器製作所において,鐘紡が製造した変性ポリマー及びPETを原料樹脂(TEST RESIN)として,積層テストが行われることになった(第3回MHIテスト)。
この計画は,Cが主に担当し,C,E,Bは実機テストの1週間前の同月10日,評価項目について打合せをし,M特許に記載されている巻ぐせをつきにくくすることについても,検討することとなった。
第3回MHIテストに参加した者は,第4開発センターのK,Cのほか,S,Tの2人であり(乙40の1及び2,41,42,43,48),原告は,同テストには参加していない(なお,三菱重工は,営業活動の一環として顧客が有料で試用できるテストプラントを有しており,顧客の依頼に応じてテストするだけであり(乙46ないし49),被告と共同開発あるいは共同研究といった体制をとっていたわけではない。)。
第3回MHIテスト後,製造された積層ポリエステルフィルムの分析や測定が行われ,C,E,B,Dが,これに参加したが,原告は,測定に参加したり,測定によって得られた知見の検討会にも参加していない。
この測定結果を検討している中で,Eは,巻ぐせ回復性と共に「生巻ぐせのつきやすさ」について検討し,アンチカール(フィルムに巾手カールを付与する処理)が強いほど,生フィルムの巻ぐせはつきにくくなるらしいということが判明した(約80μm以上でTACと同程度)。そこで,これを明らかにするため,「アンチカールの強さ」と「巻ぐせのつきやすさ」との関係が表に示された(乙20・E研究ノート・平成4年7月6日の図1参照)。このことは,同月16日B作成の「第3回MHIテスト(積層テスト)結果」(乙41)における「6.まとめ」にも,「アンチカールをつけることで,巻ぐせかーるは小さくなる。」と記載されている。
(以上,乙20,20の2,28,33,35,36,41,43) キ 上記カ以降,第18-2発明の出願日(平成4年5月29日から同年10月26日)までの経過 a) 平成4年8月18日,K作成の「92年8月度研究情報」(甲75)には,「全般・・・3.新支持体は(a)巻ぐせが回復(現像でとれる)することの他に新たに(b)巻ぐせ自体がつきにくいこと(或値以下のこと)を求められることがはっきりしてきた。(a),(b)は相反する特性であるため,今までの単層でなくPET/M-PET積層フィルムを用いるという全く新たな発想を試みたところ,うまく行きそうである。ゼラチンBC処方もよくなり,何とか目処つく事を期待している。」との記載があり,このころ,積層ポリエステルフィルムを用いると,巻きぐせ回復性がよいことのほか,巻ぐせがつきにくいことの特性もはっきりとしてきたことがうかがわれる。
b) Eは,MHIテストの結果判明していた,上記の巻ぐせのつきにくさについての明細書を作成するよう命じられていたが,着手することができないでいた。しかし,平成4年8月11日には,コダック社の「写真用支持体に有用なM-PET」に関する米国第5138024号特許が登録,公開され(乙31),同月24日には,東レから,「ポリエステルフィルム及び写真感光材料」に関し,特開平4-235036号公報が公開された(乙32)。
そのため,被告においても,自社開発技術で有望なものは,早急に特許部の助言をもらい,特許請求の範囲を作成し,1か月以内に出願を完了することになった。
そして,Eは,同年9月21日には,原告から,特許(巻ぐせつきにくさ規定)に関し,「物性値を検出できない(支持体)」との指摘を受けて,特許請求の範囲を修正し,明細書案を原告に提出していた。
被告においては,その後,同月24日に,特許出願検討会が開催され,準備に取りかかっていないが出願したいと考えている開発技術をすべて報告し,出願するべき技術を議論した。CとEは,この出願検討会に出席して,アンチカール(巾手方向のカール)が強いほど生フィルムの巻ぐせはつきにくくなるという知見を報告したところ,これを出願することが決まり,早急に特許請求の範囲を書き上げるよう求められた。
Eと特許部の担当者は,これに対応すべく,休日を返上して短期間で特許請求の範囲を書き上げた(乙30・9月25日記載分)。
このとき,Eが書き上げた明細書が,第18-2発明の出願明細書である。Eは,第18-2発明の出願依頼書(乙17の2。以下「第18-2出願依頼書」という。)も同時に起案し,これに第4開発センターO主査,同室長原告,部門長Kの日付入り確認印を受領した上で,同依頼書を被告に提出した。
第18-2出願依頼書において,発明者欄には,Eのほか,MHIテストの測定評価等を行った「C,B,D」の記名押印がなされ,共同出願人として鐘紡の会社名が記載されていた。
第18-2出願依頼書の「発明・考案の概要の欄」には,「ポリエステルの両側に共重合ポリエステル(積層フィルム)×厚み×組成比×厚み組成」と記載されていた。
その後,第18-2発明の出願が決定され,平成4年10月6日に,第18-2発明が第18-2出願依頼書の記載に従って出願された。
なお,Eは,巾手カールを付与することで巻ぐせがつきにくくなるという発想を使った第18-2発明と第18-1発明とでは,コンセプトが違うと考えたが,知財部の特許戦略として,似たような構成を書いているのであれば,優先権主張すべきとの考えで,第18-1発明を優先権主張として,第18-2発明が出願された(C尋問調書・45頁,平成15年10月30日E尋問調書・18頁参照)。
(以上,乙17の1及び2,28,50,C証人尋問及びE証人尋問の結果)。
ク 第18-3発明の出願日(平成4年12月24日)までの経過 Eは,平成4年11月,第18-2発明における数値特許の数値の単位が間違っていたのでこれを修正し,また,発明者に一緒にサンプル評価等を行っていたDを加え,第18-3発明として,出願明細書を起案した(平成15年10月30日E尋問調書・16頁参照)。
Eは,同時に,第18-3発明の出願依頼書(乙18の2。以下「第18-3出願依頼書」という。)を起案し,これに第4開発センターO主査,同室長原告,部門長Uの日付入り確認印を受領した上で,同依頼書を被告に提出した。
第18-3出願依頼書において,発明者欄には,被告から,「E,C,B,D」が記名押印され,共同出願人として鐘紡の会社名が記載された。
第18-3出願依頼書の「発明・考案の概要」の欄には,「熱処理後の巻ぐせつきにくさ,回復しやすさ。下位クレーム:巾手カール,厚み,組成」と記載された。
その後,第18-3出願依頼書どおりに,同年12月24日,第18-3発明が出願された。したがって,第18-3発明の内容は,第18-2発明の内容とほとんど同一である(第18-3発明の請求項1ないし9と第18-2発明の請求項1ないし9,第18-3発明の請求項10ないし15と第18-2発明の請求項11ないし16,第18-3発明の請求項16ないし20と第18-2発明の請求項18ないし22,第18-3発明の請求項21ないし27と第18-2発明の24ないし30,第18-3発明の請求項28ないし29と第18-2発明の請求項32ないし33とは,実質的に同一である。乙17の1及び乙18-1参照)。
(以上,乙18の1及び2,E証人尋問の結果)。
ケ 第18発明の出願日(平成5年4月26日)までの経過 第18発明の特許請求の範囲(旧請求項)は,第18-3発明の特許請求の範囲とほとんど同一であり(乙18の1と乙4),第18発明の旧請求項と第18-3発明の請求項との相違点は,第18-3発明の請求項8,10,12,23及び28において,「ポリアルキレングリコール」とあった記載を「ポリアルキレングリコール類」と訂正しただけのものである。これは,東レなどの特許出願がなされたことにより,防御的に特許請求の範囲を広げる必要があったことによる。
Eは,平成5年4月,第18発明の出願明細書を起案し,同時に,第18発明の出願依頼書(乙1の18。以下「第18出願依頼書」という。)も起案し,これに第4開発センターO主査,同室長原告,部門長Uの日付入り確認印を受領した上で,同依頼書を被告に提出した。
第18出願依頼書において,発明者欄には,第18-3発明と同じく,被告の「E,C,D,B」の記名押印がなされ,共同出願人として鐘紡の会社名が記載された。
第18発明出願依頼書の「発明の概要」の欄には,「熱処理後の巻ぐせ,温水浴処理後の回復カール規定。下位クレーム:巾手カール,厚み,組成」と記載された。
その後,第18発明出願依頼書に記載のとおり,平成5年4月26日に,第18発明が出願された。
(以上,乙1の18,乙4)。
(3) 出願依頼書の記載について ア 被告の第4開発センターでは,発明者のうち,明細書の原稿を作成した人(分担者)が出願依頼書(兼譲渡証書)を起案する。出願依頼書の表側には,「1.起案者記載欄」があり,二段目に特許等を受ける権利を被告に譲渡する旨の記載がなされた後,発明者の氏名を記載する様式となっている(なお,譲渡証書と出願依頼書とを,別の書面で行うこともあった(乙55の2及び3参照))。
出願依頼書の氏名欄には,氏名・個人コードを横一列に刻した横長のゴム印を黒又は青スタンプで押した上,個人コード番号の右横に発明者個人の印鑑が押捺されている(発明者が被告の従業者である場合)。また,当該発明者の事業場,所属,並びに内線電話番号も記入されている。
出願依頼書には明細書原稿を添付し,部門の特許担当である特許主査に渡され,必要事項が記入された後,室長及び部門長が順次確認して,それぞれ日付と記名の入った印を押す。その後,特許部に出願を依頼し,出願される。
なお,被告においては,本件26件の発明の出願当時,すべての発明について,特許庁に提出する願書の発明者欄に記載する発明者の特定は,上記の「出願依頼書」の譲渡証部分に,発明者として横長のゴム印により氏名・個人コードが表示されている従業者を,そのまま特許出願の願書の発明者欄に記載する発明者としていた。
(以上,乙1(枝番号含む),乙2)。
イ 乙1の1ないし乙1の26は,本件26件の発明に関する研究開発を所管していた被告の感材生産本部第4開発センターから被告特許部に届け出られた本件26件の発明の「出願依頼書」である。しかし,本件26件の発明に係る「出願依頼書」の譲渡証部分に横長ゴム印による原告の氏名・個人コードが表示された形跡は全くない(乙1の1ないし乙1の26)。
したがって,これらの出願依頼書の記載様式,押印状況に照らせば,原告が,被告に対し,本件26件の発明に関し,発明者として自己の名前を記載した(譲渡書を兼ねる)出願依頼書を届けていないことは明らかである。かえって,原告は,室長として,上記出願依頼書すべてにおいて,その室長の欄に日付入り確認印を押していることは前記のとおりであり,このことからすると,原告は,自分が発明者でないことを承知の上で,これらの出願依頼書の室長欄に上記確認印を押していたものというべきである。
ウ この点,原告は,初めのうちは,自己の名前を発明者として記載していたが,繰り返し削除されたから,あきらめていた,また,発明者として自分の名前がないことは,本件各26件の発明の出願公開後に初めて気づいた,などと主張し,これに沿う供述をする(平成15年10月28日原告本人尋問調書3頁以下など参照)。
しかし,上記出願依頼書において,発明者欄から原告の名前が削除された痕跡は全く残っていないこと,被告においては,仮に出願依頼書の記載に誤りがあった場合には,乙39の1及び2にみられるように,棒線を引いて抹消するなどの方法をとっていること,乙60及び61からすると,原告は自己が発明者となっている出願については,出願補償金がいつ出るかなどを細かく担当者に聞くなどしていたことが認められ,自己の発明したものについては強い関心があったものと認められるから,原告が,自らが発明者であるのに,発明者として記載されていない出願依頼書が回覧された際に,あきらめて異議をとどめなかったというのは明らかに不合理であって,原告の上記主張は採用することができない。
(4) 小括 ア 共同発明者の意義について 特許法35条に基づく相当対価の算定の対象となるべき発明とは,特許請求の範囲の記載に基づき定められるため,同条に基づく相当対価請求権を有する発明者といえるためには,特許請求の範囲の記載に基づいて定められる技術的思想創作に貢献することが必要であり,請求項が複数の場合には,複数の請求項によって定められる複数の技術思想の少なくとも一つの創作に貢献する必要がある。
したがって,特許請求の範囲の記載に基づいて定められる技術的思想創作自体に関係しない者,すなわち,@部下の研究者に対し,具体的着想を示さずに,単に研究テーマを与えたり,一般的な助言や指導を行ったにすぎない者(単なる管理者),A研究者の指示に従い,単にデータをまとめた者や実験を行った者(単なる補助者),B発明者に資金や設備を提供するなどし,発明の完成を援助した者又は委託した者(単なる後援者・委託者)は,発明者たり得ない。
発明者たり得る者,つまり,技術思想の創作に貢献した者とは,新しい着想をした者あるいは同着想を具体化した者の少なくともいずれかに該当する者でなければならない。すなわち,新しい着想をした者は,原則として発明者であるものの,この着想とは,課題とその解決手段ないし方法が具体的に認識され,技術に関する思想として概念化されたものである必要があり,単なる思いつき以上のものでなければならない。また,新しい着想を具体化した者は,その実験やデータの評価などの具体化が当業者にとって自明程度のことに属しない限り,共同発明者たり得る。換言すれば,新しい着想を具体化することが,当業者にとってみれば自明のことである場合は,着想者のみが発明者と認められ,これを単に具体化した者は発明者たり得ない(この場合は,上記の単なる補助者にあたるというべきである。)。
そして,共同発明者となるためには,課題を解決するための着想と具体化の過程において両者間の一体的連続的な協力関係のもとに,それぞれが重要な貢献をなすことが必要であるというべきである。
イ 第18発明について 前記の認定事実からすれば,次のとおり,原告を第18発明の共同発明者とみることはできない。
a) 被告においては,平成2年ころから,TACに代わるフィルム写真用支持体の開発を行い,種々の研究会が開催され,鐘紡とも共同開発契約を締結して積層ポリエステルフィルムに関する研究を始めていた。ただし,積層フィルムベースにおける実験も試されてはいたものの,その実験の結果は芳しくなく,順調に進んでいる状況ではなかった。むしろ,TACに代わるフィルム写真用支持体の開発については,単層ポリエステルフィルムの開発がベースとなっていた。
原告は,帝人に勤務しているときから,数々の積層ポリエステルフィルムに関する発明をしており,積層ポリエステルフィルムに関する見識と豊富な経験も有していた。そのため,原告が,被告に入社した際に,原告には,積層ポリエステルフィルムに関する経歴を生かした役割が期待されていた。
ただし,原告がポリエステルフィルムに関する知識や豊富な経験を有していたとはいえ,これらは写真用フィルムのためのものでなかったため,これを写真用フィルムに応用するためには,写真用フィルムに特有の問題点を克服する必要があり,原告に上記のような知識・経験があったとしても,直ちにそれを写真用フィルムに適用することができるものではなかった。
また,原告が帝人を退職する際に3年間の競業避止義務を負っていたことから,被告は,原告が入社する際,帝人との間で,原告については,ポリエステルフィルムの生産・技術に直接関与する業務に従事させないことなどを約していた。そのため,被告は,ポリエステルフィルムに関する研究開発に原告を直接従事させるのではなく,研究開発部門の管理者としての役割を果たしてもらうことを期待し,第4開発センターにおけるプロジェクトリーダー,あるいは,第1研究室室長としての業務に従事することを求めたものであった。一方,原告も,帝人を退職する際に,3年間の競業避止義務を負い,競業会社において,帝人で培った知見等を漏らさないこと,及び,これに違反すれば割増退職金を返還することなどを約していたため,積極的に研究開発に従事するのではなく,自己の有する知識経験等を,ある程度は部下であるCらに伝えていたことはあったとしても,自らの意思で,帝人と競業関係にあるポリエステルフィルムの研究活動については,3年間程度自粛していたものである。原告は,その後,自発的に研究活動を始め,原告を発明者としてなした特許出願も散見されるようになったのである。
原告が,一研究員としてではなく,管理者としての立場でプロジェクトに臨んでいたことについては,原告自身,その本人尋問において,要旨「被告において,プロジェクトリーダーは,会社から基本的にプロジェクトの内容を決められ,そのプロジェクトの完成の納期を指定される。したがって,人,物,金,これはプロジェクトリーダーの意向もある程度尊重して被告に決めてもらい,部下は,プロジェクトリーダーの考え方に従って仕事をする。プロセスの中で,例えばどうやったら最短距離で走れるとか,どうやったらコストを安くしてプロジェクトを完成できるかということを,全体を管理するのがプロジェクトリーダーの仕事である。」(原告尋問調書・2頁参照),「プロジェクトリーダーになってからは,日常的には机を並べていろいろやり取りをしたりあるいは週報であるとか月報であるとか,部下が書いたものを渡しますので,それをファイルしておりました。したがって,そこに書いてあれば,私はあえて自分のノートに記載するようなことはありませんでした。」(同調書・27頁参照)などと述べていることからも明らかである。
第18発明の出願依頼書の発明者欄に原告の氏名が記載されていないにもかかわらず,原告が同依頼書に室長として日付入りの確認印を押しているのは,原告は個々の発明に発明者として関与していたのではなく,プロジェクト全体の管理者として関与していたからである。
b) 前記認定の第18発明の出願に至る経緯をみても,原告は,防府工場での試料サンプル作成に立ち会ったものの,防府工場で得られた試料サンプルについての巻ぐせ回復性や強度に関する評価実験においてはほとんど関わっていないのである(唯一,平成4年1月31日付けの鐘紡に宛てたFAX(甲10)によれば,原告がその実験結果の一部を部下から報告を受け,これを鐘紡に連絡していることが認められるが,この結果をみても,原告が第18発明の本質的部分と主張する非対称積層アンチカールという発想は認められない。)。前記認定のとおり,第18-1発明は,防府工場で得られたサンプル試料の評価実験を行っている際に,EがM-PET/PETの2層フィルムをM-PET/PET/M-PETの非対称積層構造とすることを着想したものであり,原告がこれに何らかの関与をしたことを認めるに足りる証拠はない。
そして,その後出願された第18-2発明については,Eらが,平成4年6月に行われた第3回MHIテストの後の実験評価の中で,巾手カールを付与する程度が強いほどフィルムの巻ぐせがつきにくい,という知見を新たに発見したことから出願されたものであることは前記認定のとおりであるのに対し,この第3回MHIテストとその実験評価にも原告は関与しておらず,原告が関与したことが認められるのは,第18-2発明を出願する前に明細書の書き方等をEに指導したことが認められる程度である。
さらに,第18発明は,この第18-2発明の内容をほぼそのまま受け継いだ第18-3発明の内容とほぼ同一の内容で出願された発明であり,第18-3発明及び第18発明の出願に際しても,原告の貢献を認めるに足りる証拠はない。
c) 以上に加え,第18発明の出願は,拒絶査定を受けるなどし,その後本件補正を経て登録に至った第18発明の特許請求の範囲は,二層以上のポリエステル層と共重合ポリエステル層からなるフィルムを規定することにより機械的強度を保持し,また,熱処理後の巻きぐせカール度,温水浴処理後の回復カール度,巾方向におけるカール度の範囲を規定することにより,巻きぐせがつきにくく取扱い性がよく,かつ,巻きぐせ解消性にも優れたフィルムを提供することを目的としており,原告が主張する非対称積層アンチカールの技術的思想は,本件補正後の第18発明の本質的部分ではない。
d) 原告は,新支持体の開発プロジェクトのリーダーとして,数々の会議等に出席しており,その都度,どのような実験が行われ,どのような評価になっているのかを把握していた事実は認められるものの,原告が作成した月報等は,前記認定のとおり,原告作成の月報等が作成された以前に,他の従業員の研究ないし実験報告書に基づいて記載されたにすぎないものであり,このほかに,原告が,第18発明についての着想及び具体化に関わったと認めるに足りる証拠はない。
以上からすれば,原告の第18発明に関する関与は,結局,既に公知となっている積層ポリエステルフィルムに関する知識を部下であるCらに伝えただけであるといわざるを得ず,このように公知技術を知らせることだけで,発明を着想したと認めることができないことは明らかである。原告の第18発明への関与は,通常の管理者が行う管理や指示等を超えたものではなく,原告を第18発明の発明者と認めることはできない。
ウ 原告の主張について a) 原告は,平成3年11月23日,入浴中に,非対称積層ポリエステルフィルム支持体を用いれば,「CTA代替写真用フィルム支持体の開発」ができるかもしれないとひらめいたとし,多層積層ポリエステルフィルム支持体を用い,非対称なる手法によりアンチカールを故意に付与することによってカールをバランスさせるという発想(非対称積層アンチカール)を着想したこと,これを同年12月10日付の研究ノートに書き留め,被告において当時,進められていた単層ポリエステルフィルム支持体の開発を維持しつつ,単層ポリエステルフィルム支持体から積層ポリエステルフィルム支持体の開発へ舵切りをしたことなどを主張し,この主張に沿う内容の陳述書(甲51・8頁),平成3年12月10日付けの研究ノートの記載部分(甲16・4頁。甲21原告研究ノートの12月10日分と同じもの。)などを提出する。
しかし,原告がその着想を書き留めたとする甲21原告研究ノートは,その1頁目の下部が大部分余白となっていること,2頁目が全く空白であること,5頁目の下部3分の1程度が空白であること,6頁目が完全に空白であること,8頁目の下部2分の1程度が空白であること,9頁目の下部4分の1程度が空白であること,10頁目の下部3分の2程度が空白であること,11頁目の下部の若干が空白であること,12頁目の下部5分の4程度が空白であること,14頁目の下部の若干が空白であること,15頁の下部4分の1程度が空白であること,16頁目の下部の若干が空白であることなどが空欄が多く認められ,甲20原告研究ノート等の他の箇所と比較すると,甲21原告研究ノートにおける12月10日の部分に限って,非常に詳細に記載され,12月10日前後の記述と比較しても,当該部分だけが詳細に記載されていることなど不自然な点が多い。
そして,原告は,平成3年11月23日に着想したと主張するが,その後2週間以上の間,その着想について何も記載がないことについても,合理的な理由を述べていない。
以上を総合すると,原告が着想を書き留めたと主張する,平成3年12月10日付けの甲21原告研究ノートの記載を採用することはできない。
b) 原告は,自己のアイディアをもとに,非対称積層の方向で,プロジェクトを舵切りした旨主張し,平成3年12月20日の打合せの際に,原告が手書きで白板書きした記載(甲18)「共押出(M-PET/PET/M-PET,M-PET/PET)」をその裏付けとして提出する。
しかし,上記の記載から推測されることは,2層及び3層の積層フィルムの試料と作るという限度であって,上記非対称積層アンチカールとのアイディアを認めることはできない(そもそも,平成4年1月9日付けの防府工場での本件実験前の被告と鐘紡とのFAXでのやりとりをみると,ほとんどが対称の積層ポリエステルのサンプルを念頭においていたもので,非対称の積層ポリエステルを念頭にサンプルを作成したものとは認められないことは前記認定のとおりである。)。
c) 原告は,防府工場での試料サンプルの評価の際に,「これらの試料サンプルをガラス転移温度以上の温度(100℃程度の熱)を付与すると,カールするはずだから,オーブンで加熱処理してみてくれ」などと,自己の着想を確かめるべく,Cに指示したとも主張している。
しかし,原告が,このような指示をしたことについて,これを裏付ける証拠は存せず,また,仮にこれが事実であったとしても,異なる材料を積層した積層フィルムにおいて,表裏両側で収縮応力が丁度つりあうようになっていることは極めて稀であり,ガラス転移温度以上の温度で加熱すればカールすることは当業者にとって自明のことであるから(乙38・4頁),これをもって,第18発明の発明に貢献があったということはできない。
d) 原告は,被告において,単層ポリエステルフィルムで進めていた開発を積層ポリエステルフィルムをベースにする開発に切り替えたとも主張し,これに沿う供述を本人尋問においても述べる(同尋問調書・35頁参照)。
確かに,前記認定事実によれば,原告が入社するまでは,単層ポリエステルフィルムをベースとして開発が進行していたことが認められる。
しかし,被告も,積層ポリエステルフィルムについて,全く開発をしていなかったわけではなく,防府工場での積層ポリエステルフィルムおける試料サンプルの評価結果を見て,巻ぐせ回復性と強度が,従来品のレベルまで対応できることが判明すれば,同積層フィルムによる開発を真剣に検討することは,この研究に携わってきたCら研究者にとっても当然のことであり,開発プロジェクトのプロジェクトリーダーである原告が,積層ポリエステルフィルムによる開発を継続することを指示したとしても,これは,プロジェクトリーダーとして当然の職責であり,これを指示したことによって,原告が第18発明の発明者となるものではないことは明らかである。
e) 原告は,訴訟提起前に被告の担当者と本件に関してやりとりをした際には,原告を発明者として扱うことを認めていた,と主張し,これ沿う証拠として,甲5の1ないし3,甲14,47ないし49などを提出する。
しかし,これらの証拠を勘案しても,被告の担当者が,本件26件の発明について,原告を発明者と認めていたと認めることはできない。
f) 原告は,@「非対称」であればアンチカールが産まれる事実は,2層ポリエステルに限定して知られていたにすぎず,2層の中でも,(@)固有粘度差と厚みとを双方とも変える場合,及び(A)固有粘度差のみを変える場合に限定して知られていたにすぎなかった(原告の発明に係る甲7,甲15の21,甲15の27及び甲46参照。),Aそして,3層については,「非対称」であればアンチカールが産まれるか否かは,第18発明出願当時は,公知ではなく,実用に耐えるアンチカールが産まれるか否かは,全く公知ではなかった,B非対称積層アンチカールについて実績のあった原告にして初めて,「3層であれば,実用に耐えるアンチカールが産まれるであろう。」と予測し,3層の非対称積層ポリエステルフィルム支持体が最適ではないかとの着想を得た,と主張している。
しかし,原告が,同着想をCらに話したことを認めるに足りる証拠はなく,前記のとおり,防府工場における試料サンプルにも3層で非対称積層となっているものを依頼していない。仮に,原告の主張どおり,原告が11月23日に上記の着想を得ていたのであったとすれば,防府工場での試料サンプルの中に,3層の非対称積層ポリエステルフィルムの製造を依頼していたはずである。
よって,原告の上記主張も採用することができない。
エ まとめ 以上のとおりであって,第18発明の原告の関与は,発明者としての着想あるいはその具体化といえず,原告を第18発明の発明者と認めることはできない。
3 争点1-イ(第18発明以外の本件各登録発明の発明者)について (1) はじめに 第18発明以外の本件各登録発明についても,第18発明と同様,原告は,本件各登録発明に関するすべての出願手続依頼書において発明者として記載されておらず,かつ,原告は,自ら発明者として記載されていない同依頼書のすべてについて,上司(室長)として日付入り確認印を押印しているのである(乙1)。
そして,原告の上記各発明に対する関与の程度は,発明者としての着想,あるいはその具体化をしたものということはできないのであり,第18発明以外の本件各登録発明についての発明者と認めることもできないことは,以下のとおりである。
なお,第18発明以外の本件各登録発明についても,出願時の当初明細書は,補正等の手続を経て,前記前提となる事実における各記載のとおりのものに補正されたものである。そして,出願時の特許請求の範囲に規定された発明により,被告が利益を得ていないことは,後記5に認定したとおりであるから,補正前の特許請求の範囲に基づいて発明者を認定する必要はなく,第18発明以外の本件各登録発明についても,第18発明と同様に,その相当の対価請求においては,登録時の特許請求の範囲の記載に基づいて,原告が共同発明者かどうかを認定する。
(2) 第9発明について ア 前記2(2)認定の事実並びに甲71の9,乙20の2,75,80,90,88ないし91及び弁論の全趣旨によれば,次のとおり,認められる。
a) Cらのグループでは,グループ員が分担し合って実験,評価を行ってきたものがある程度まとまったところで,それまでの知見や成果を特許化するために,どのようなものを特許出願するか,明細書の分担などを決める特許出願検討会がたびたび行われていた。
平成4年7月21日に開かれた特許出願検討会において,当時,従来技術として,2層の積層ポリエステルフィルムにおいて,カラー写真用に用いられるフィルムのようにロール状のものがなかったことと,Cらのグループによる実験とその評価により,巻ぐせ回復性を達成するために共重合成分についての知見が既に得られていたことから,2層の積層ポリエステルフィルムについて,2層のポリエステルの固有粘度差(ΔIV)を規定するものを出願することが決まり,Bが明細書の作成を担当することになった。
固有粘度差についての公知例として,原告が発明者として記載されている特公昭56-53745号(甲7,15の21)があった。しかし,同公報においては,固有粘度差がある2層のポリエステルフィルムを積層することにより,乳剤層の影響によるカールを解消することについて記載されていたものの,この発明は,シート状のフィルムについての発明であり,この構成を単にロール状フィルムに置き換えるだけでは,巻ぐせのつき難さ及び巻ぐせ回復性に劣ってしまうものであった。そのため,BはCと相談の上,ロール状フィルムとして使用するときの課題を解決するに当たり,これまでの検討結果から,固有粘度差のみならず,共重合成分として金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸を全エステル結合単位に対して2ないし7モル%含有すること,さらに好ましくはポリエステルの共重合成分としてポリアルキレングリコールを共重合ポリエステルの全重量に対して3〜10重量%含有することを,第9発明の出願当初明細書に記載した。
b) 第9発明の出願に対しては,特許庁から,平成13年6月11日,特許法29条2項及び特願平4-178176号公報を引用例として同法29条の2により特許を受けることができない旨の拒絶理由通知が発せられた(乙88)。被告は,特許法29条の2の拒絶理由を回避するために,特許請求の範囲に「ポリアルキレングリコールを3〜10重量%含有」することの要件を付加する補正を行い(乙90),意見書(乙91)を提出することにより,拒絶理由を回避し,第9特許発明として登録に至ったものである。
c) 以上からすると,第9特許発明特許発明の請求項1の構成中,「ポリアルキレングリコールを3〜10重量%含有する」との補正によって付加された構成がなければ,特許登録に至らなかったものといえるから,C,Bらの検討によって得られていた上記数値が第9特許発明の本質的部分であるといえる。そして,この点について,原告が関与したことを認めるに足りる証拠はない。
イ 原告は,第9発明の本質的部分は,第18発明の本質的部分と同一であり,原告の有する過去の知見をもとに着想し,この着想に基づいてCらに実験を行わせ,得られた数値よりもやや広めの数値を限定して規定したものであると主張する。
しかし,過去の公知文献を示唆するだけでは,発明の着想を行ったものとはいえないことは前記のとおりである。
しかも,原告の指示に従ってCらが実験を行ったことを裏付ける証拠として原告が提出している月報等は,前記のとおり,原告が会議等で知り得た他の研究者が作成した報告書等に記載された実験結果等をまとめたものにすぎず,そのほかに,原告の指示に基づきCらが実験を行ったと認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告を第9発明の発明者と認めることはできない。
(3) 第11発明について ア 前記2(2)認定の事実並びに甲71の11,乙20の2,75及び弁論の全趣旨によれば,次のとおり,認められる。
a) 第11発明の出願も,上記第9発明の出願と同様,平成4年7月21日の特許出願検討会において,その出願が決定され,Bが,明細書の作成を担当することになったものである。
ポリエステルフィルムの製造においては,延伸という工程があり,延伸工程においては,製品として使用できない部分が生じるため一部が切り落とされたり,不良品として出荷できないポリエステルフィルムが生じることから,このような不要となったポリエステルフィルムを回収して,再利用することで,コストの削減を図ることが従来からの課題であった。第11発明は,このようなポリエステルフィルムの回収,再利用の最適条件について規定するために出願されたものである。C,D,E,Bは,回収ポリエステルの位置と写真性能への悪影響の相関について実験評価していたので,Bが,この実験データをもとに第11発明の出願明細書を作成した。
b) 第11発明の出願に対しては,特許庁から,平成14年2月27日,特許法36条4項,5項及び6項に規定する要件を満たしていないとして,拒絶理由通知(乙92)が発せられた。被告の知的財産部の担当者は,回収ポリエステルを含む層の位置を規定する必要を受けて,出願当初の明細書に記載されていた比較例1と実施例4との回収ポリエステル層を設ける位置の違いをクレーム中にも挿入追加することとし,第11特許発明の請求項1における「 該多層フィルムのハロゲン化銀乳剤層に隣接する層以外の少なくとも1層に該多層フィルムを回収して得られる回収ポリエステルを含有し,ハロゲン化銀乳剤層に隣接する層には該回収ポリエステルを含有しない」と規定し,特許登録に至ったものである。
c) 以上からすると,第11発明は,回収ポリエステルの位置と写真性能への悪影響の相関について実験評価していたCらによって発明されたものといえる。
イ 原告は,特開昭51-53585号公報(甲77)をCらに教示し,特許明細書の記載の仕方も詳細に指導したなどと主張する。
確かに,同公報には,第11発明と同種の発明が記載されている。しかし同発明は既に公知となった発明であり,単に,既に公知となっている公報等を教示しただけでは,発明の着想を行ったものといえないことは,前記のとおりである。第11発明については,その他に,原告が発明者であることを認めるに足りる証拠はなく,原告を第11発明の発明者と認めることはできない。
(4) 第14発明及び第15発明について ア 第14発明は,第15発明の単層ポリエステルフィルムにおける技術思想を,積層ポリエステルフィルムに適用したものであることは,当事者間に争いがない。
そして,第15発明は,特願平4-274679号(第15-2発明,乙79の1)に基づく国内優先権主張を伴う出願であり,第15-2発明は,特願平4-95654号(第15-1発明,乙78の1)に基づく国内優先権出願であったから,本来,第15発明は,第15-1発明と第15-2発明の2件を国内優先権主張すべきものであったが,手続ミスにより,第15-1発明に基づく国内優先権を主張していないものである。
イa) 第15発明の明細書(乙82の4)には,「この発明における共重合ポリエステルは,全エステル結合に対して5モル%以下の割合でジエチレングリコールを含有する。・・・このジエチレングリコールを全エステル結合単位に対して5モル%以下の範囲で含有することにより,この発明の写真用支持体は,巻き癖回復性に優れ,しかも,この写真用支持体の表面に各種の水系塗工液を塗布しこれを高温で熱処理しても写真用支持体の平面性の低下が防止される。 」(【0020】)との記載があり,かかる構成が,優れた機械的強度を有し,現像処理後の巻き癖回復性も兼ね備え,高温での熱処理でも平面性が劣化しない写真用支持体を提供するという第15発明の課題を解決しているものである。
そこで,第15発明において,ジエチレングリコールの含有量が全エステル結合に対し,この5モル%以下との数値が規定されるに至った経緯について検討する。
DEGの含有量の具体的な数値は,Cの研究ノート(乙98)に記載されているように,被告と鐘紡との平成3年11月18日の打合せにおいて,Cらの実験評価テストによって,得られていたDEG3.4ないし5.9モル%という結果をもとに,DEG量を4モル%以下と主張する鐘紡の技術者をCが説得して5モル%と決定し,これが第15-1発明として出願されたものと認められる(甲69,乙77)。
第15発明は,その後出願された第15-2発明に基づく国内優先権主張を伴う出願であるものの,本来,この第15-1発明に基づき国内優先権主張をすべきものであったことは,前記認定のとおりである。
したがって,第15発明はCらの発明に係るものと認められる。また,第14発明は,単層ポリエステルフィルムにおける技術思想を積層ポリエステルフィルムに適用しただけのものであるから,この発明もCらの発明に係るものと認められる。
b) 原告は,平成3年4月ころ,DEG量の上限値を「2mol%程度」と設定していたが,平成3年11月15日に行われた鐘紡との打合せの際に,DEG量の上限値を,当初の「2mol%」から「4mol%」と妥協し,安全を見てDEG量をなお一層高めに採って,「5mol%以下」と決定した,と主張し,DEG量決定についての原告の関与については,甲65の3,4,7,8及び9,甲66,甲69などの証拠を挙げる。
確かに,甲69における白板の記載は,原告によって記載されたものと認められ,原告が平成3年11月15日の鐘紡との打合せに出席し,説明等をしていたことは認められる。しかし,原告は,DEGの含有量の実験については関与しておらず,このような会議に参加したことをもって,原告が第15-1発明,第15発明,あるいは第14発明の発明者といえるだけの関与をしたものとは認めることはできない。
また,原告は,平成4年4月6日から同月11日のMHIでの単層変性PETの生産・商品化レベルでの最終的評価を経て,第15発明のDEG量を確定させ,さらに,平成4年6月16日から同月18日のMHIでのM-PET/PET2層積層フィルムの生産・商品化レベルでの最終的評価を経て,第14発明のDEG量を確定させた,とも主張する。しかし,第15発明の基礎とされたDEG量が5%以下との規定がある第15-1発明(特願平4-95654号)の出願依頼書(乙78の2)の決済日が平成4年4月6日とされていることからみると,同年6月に行われたMHIでの実験結果を経て確定されたという原告の上記主張は採用できない。
しかも,第15-1発明の出願依頼書(乙78の2)においても,本件26件の発明についての出願依頼書と同様,原告は,発明者として記載されておらず,かつ,自ら発明者として記載されていない同依頼書の室長の欄に日付入り確認印を押印しているのである。
以上の事情からすると,原告を第15発明の発明者と認めることはできず,また,第15発明の構成を単層から積層に変更しただけのものにすぎない第14発明についても,原告を発明者と認めることはできない。
(5) 第19発明について ア 第19発明が記載された明細書(乙82の5)の【0020】には,第19発明の特許請求の範囲の前半部分である「ポリエステルからなる層が2層以上積層された多層フィルムであって,該多層フィルムの少なくとも一層が共重合成分として金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸およびポリアルキレングリコール類を含有」するポリエステルフィルムは,特開平4-235036号に記載されているものの,ポリエステル層と共重合ポリエステル層との間の接着性が悪く,非常に低温で使用した場合,ポリエステル層と共重合ポリエステル層との界面で剥離を起こしやすいという問題点があることが指摘されている。
この記載からも明らかなように,第19発明の技術的思想の本質的部分は,その特許請求の範囲の後半部分である「任意の隣接する2層間において,金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸の含有量の差(ΔSIP)が5.5モル%/全エステル結合以下であり,かつポリアルキレングリコール類の含有量の差(ΔPEG)が6.0重量%/全重量以下である」にあり,このように隣接する層間の共重合成分の含有量差を数値限定することとして,低温下での層間剥離を防止したことにあるといえる。
イ 原告は,上記の具体的な数値について第5,第6,第9ないし第14及び第17発明に記載されているSIPとPEGの含有量の差を計算し,その値を少し広めにとって計算したものと主張する。
確かに,Cらが,第19発明の後半部分の上記数値を実験により確認したことを認めるに足りる証拠はない。しかし,第19発明の後半部分の上記数値は,平成4年9月,10月ころまで積層フィルムに関する実験を継続してきたC,E及びBらが,机上で容易に想到し得る程度のものであり,また,原告がこれを発明したこと,すなわち,原告の計算が根拠となって,第19発明が出願されたことを裏付けるに足りる証拠もない。しかも,発明者をC,E及びBとする第19発明の出願依頼書について,原告が上司(室長)として,日付入り確認印を押印していることは前記のとおりである。
以上によれば,原告を第19発明の発明者と認めることはできない。
(6) 第25発明について ア 乙74,101,105(1993年11月4付けの頁に記載された部分)及び弁論の全趣旨によれば,第25発明は,E,I,Cが,平成5年11月から12月ころに積層PETの熱収縮率について検討し,実際のフィルムを作成して熱収縮率を測定して得られた数値をもとに,出願することになったものである。
第25発明の出願に対しては,平成14年10月24日,特許法29条2項及び同法36条5項及び6項の規定により特許を受けることができない旨の拒絶理由通知(乙101)が発せられ,平成15年4月30日,拒絶査定された(乙102)。被告は,同年6月12日,審判請求をなすとともに,同年7月7日,「該ポリエステルフィルムは縦方向に一軸延伸した後,Tg〜Tm-20℃の温度範囲内で,2つ以上に分割された延伸領域で昇温しながら横延伸し,次いで熱固定したものであり」という部分を付加する手続補正書を提出し(乙103),同年8月6日に,「引用文献には,カール度,カール度のムラ,縦方向,横方向の熱収縮率を調整する記載も示唆もなく,得にカール度のムラについては全く記載がないものであり,また,引用文献の実施例を見ても,・・・,この方法では,本願発明のカール度ムラ,熱収縮率を達成することはできないこと」,上記手続補正書にて付加した「該ポリエステルフィルムは縦方向に一軸延伸した後,Tg〜Tm-20℃の温度範囲内で,2つ以上に分割された延伸領域で昇温しながら横延伸し,次いで熱固定」(本願発明の熱処理)について,一切記載も示唆もないことなどを記載した手続補正書を提出したところ(乙104),登録に至ったものである。
イ 原告は,Cに命じて実験を行わせ,実測した独自の数値を請求項に盛り込んだなどと主張する。
しかし,Cらの上記実験が,原告の指示によるものであること,及び,その実験結果の評価について,原告の何らかの示唆があったことを認めるに足りる証拠はない。
原告は,自己の主張を裏付けるものとして原告らが作成した「研究報告書(中間)と題する書面(甲13)に記載された数値を挙げるものの,同書面は平成4年に作成されたもので,第25発明の出願日である平成6年1月20日よりも相当前のものであるから,第25発明に掲げられた熱収縮の構成を規定するに至った根拠としては不自然である。かえって,Cの研究ノート(乙105)の平成5年11月4日のページに熱収縮率についての検討結果が記載されていることをみると,この実験の結果得られた数値をもとに,第25発明を出願したと推測する方が時期的にも合理性がある。
以上によれば,第25発明は,E,I及びCの3人が共同で実験し,検討した結果なされた発明であると認められ,原告を第25発明の発明者と認めることはできない。
(7) 第26発明について ア 第26発明の出願に対しては,平成14年6月7日,拒絶理由が通知され(乙106の1),引用文献として,特願平5-304027号(乙106の2)及び特願平4-178176号(乙106の3)が挙げられ,特許法29条の2により,同一であると認定された後,手続補正により,「A層及びB層のポリエステルとして共に固有粘度0.45ないし0.65の共重合ポリエステル」を使用することを付加し,上記の引用文献に示された固有粘度を有する共重合ポリエステルを用いた場合,第26発明の効果が劣ったものになることが記載された意見書(乙107)を提出することによって,登録査定に至ったものである。
イ 原告は,第26発明が第18発明を洗練したものであるとして,クレーム中の数値は実測に基づき確定されたなどと主張する。
しかし,その実験データは手元にないとし,結局,第26発明については,原告が具体的にどのような関与をしたのかが明らかでなく,ほかに,原告が第26発明の発明者であることを認めるに足りる証拠はない。しかも,発明者をE,C及びIとする第26発明の出願依頼書について,原告が上司(室長)として,日付入り確認印を押印していることは前記のとおりである。
以上によれば,原告を第26発明の発明者と認めることはできない。
(なお,被告の主張によっても,被告が第26発明の本質的部分と主張する部分は,第23発明において,A層及びB層の厚み比が0.7以上であると規定したことを受けて,それ以外の厚み比0.7未満のものを規定したところにあり,第26発明は第23発明のいわゆる穴埋め特許であるということであり,このような経緯で出願されたものを,本来,特許法2条1項に規定された「発明」というべきかどうかは疑問である)。
4 争点2(特許を受ける権利承継の有無)について 前記2及び3に記載のとおり,本件各登録発明については,そもそも原告は,共同発明者と認められないから,原告は特許を受ける権利を有していない。
しかも,本件各登録発明の8件を含め,本件26件の発明のすべてについて,前記認定のとおり,発明者が被告に対して提出する出願依頼書(兼譲渡証書)の発明者欄に,C,E,Iらが記載されているものの,原告名の記載はなく,かえって,原告以外の者が発明者として記載されている本件26件の発明のすべての出願依頼書について,原告は,これらの発明者の上司として,日付入り確認印を押印しているのである。
そして,被告は,本件26件の発明について,原告が共同発明者であることを一貫して否定しているのであり,以上によれば,本件26件の発明については,そもそも,原告から被告に対する特許を受ける権利承継があったと認めることはできない。
5 争点3(相当の対価の額)について (1) 被告が受けるべき利益の算定 ア 被告が,本件26件の発明を特許出願した後,現在に至るまで,いずれも実施したことがないことについては,当事者間に争いがなく,被告が本件26件の発明を独占的に実施するなどして,何らかの利益を得たと認めることはできない。
イ 本件26件の発明が被告によって出願され,これらが出願公開されたことは前記認定のとおりである。しかし,このことによって,同業他社が本件26件の発明を実施することが事実上禁止され,これによって,被告が何らかの利益を得たことについても,これを認めるに足りる証拠はない。すなわち,被告自身も本件26件の発明を実施したことがないこと,及び,後記エ認定の写真フィルムを取り巻く経済情勢からすれば,被告が本件26件の発明を出願したことにより,同業他社が,本件26件の発明を実施することを事実上禁止したことにより何らかの利益を得たということは到底考え難いところである。
ライセンス契約等の実施についてみると,乙205によれば,平成12年9月8日,被告(当時の商号はコニカ株式会社)は,コダック社と本件共同開発契約を締結したこと及び同契約は将来の技術の共同開発契約であり,被告とコダック社が同契約締結時に有していた特許発明を相互にクロスライセンスする契約ではないこと,並びに,共同開発の成果として得られた新たな技術を実施する限度で,従前から両社が有していた技術を利用し得るものであることが認められる。しかし,現段階において,本件共同開発契約による新たな技術が開発されたことも,そのために本件26件の発明が実施許諾されたことも,これを認め得る証拠はなく,本件共同開発契約によって被告が何らかの利益を得ていたことを認めるに足りる証拠はない。
なお,原告は,本件共同開発契約は,フィルム支持体に関する技術を相互に無償で使用することができるようにしたクロスライセンス契約であり,第18発明の存在がなければ,締結に至らなかったものであると主張し,これに沿った原告作成の陳述書(甲2・18頁)を提出する。しかし,この原告の主張を裏付ける客観的な証拠はない。
エ TAC代替技術としてのフィルム支持体の現在の開発状況についてみると,乙169及び弁論の全趣旨によれば,平成8年2月には,世界最初のTAC代替技術として,APSという新しい写真システム(「Advanced Photo System」の略称。撮影データを記録するための磁気層が塗布された24ミリ巾のフィルム。従来フィルムの単なる改良ではなくて,小型カートリッジによりカメラをより小さくでき,フィルムの装填も簡単になるなど,従来のフィルムと異なる種々の新しい機能を持ったフィルムとカメラのシステムである。)が世界的に発表,発売された。このAPSのフィルムベースには,従来より30%薄く,強度の増したポリエチレンナフタレート(PEN-単層)を採用しており,今後期待し得るPET積層フィルムの市場は急激に縮小した。
しかも,乙203,204の1及び2,205によれば,現在,写真用フィルムの需要は,デジタルカメラの普及により,加速度的に減少しており,平成16年におけるフィルム市場における売上は,ピーク時の約半分であり,世界的にみても,その需要が2割以上のペースで縮小しており,写真用フィルム,印画紙の市場は大幅に縮小していることから,被告においては,フィルム事業を大幅に縮小する方針を決めていること,また,被告のみならず,富士フィルム,コダック社などの感材各社も,フィルム事業縮小のために巨額の損失を計上する状況となっていることなどが認められる。
(2) 小括 以上アないしエによれば,過去に本件26件の発明によって被告が得た利益はなく,また,上記の写真用フィルム市場における経済的情勢に鑑みると,今後も,本件各登録発明が被告により実施され,あるいは,第三者に対し実施許諾される見込みもないものといわざるを得ない。
したがって,本件26件の発明については,原告が発明者か否かを判断するまでもなく,本件26件の発明について,原告から特許を受ける権利承継を受けたことにより被告が受けた利益は全くなく,将来において受けるべき利益があると認めるに足りる証拠もないのであるから,そもそも原告の主位的請求はこの点からもすべて棄却されるものというべきである。
(なお,本件各登録発明については,前記のとおり,予備的請求を判断する必要性及び審理の経過などから,その発明者についても判断した。) (3) 原告の主張について ア 原告は,本件26件の発明中の拒絶査定確定分及びみなし取下げ分の発明のうち,他国において特許登録に至ったもの,あるいは,特許申請の手続き中のものもあるから,これらについてもその発明者について審理する必要がある旨を主張する。
しかし,他国において特許登録に至ったものがあったとしても,これらは本件の訴訟物とはなっていないものである。そして,これらの拒絶査定分及びみなし取下げ分の発明によって,被告が法的独占権に由来する利益を得たとの立証がなされていないことは前記のとおりであり,また,今後も,これらを実施することにより,被告が法的独占権に由来する利益を得られることを認めるに足りる証拠もない。
したがって,原告の上記主張は採用できない。
イ 原告は,みなし取下げ分について,被告が恣意的に審査請求をしなかったかのような主張もする。
しかし,みなし取下げ分の13件の出願のうち,最も遅くみなし取下げの効果を生じたのは,前記「前提となる事実」のとおり,第21発明及び第22発明に係る各特許出願であり,いずれも平成12年6月2日に出願審査請求期間が満了している。そして,原告が被告に対し,本件26件の発明について,補償金の請求などを申し入れた日は,平成12年6月26日である(甲5の1。同日付の「出願特許に対する発明者認知確認依頼」と題する内容証明郵便による通知書。)。
そうすると,原告は,13件のみなし取下げ分の各出願審査請求期間がすべて満了した後に,初めて被告に対し,これらの各特許出願について,原告が発明者であることを主張したことが明らかであり,被告は,同日より以前に,原告が発明者であることを主張していることは知らなかったものと認められる。
また,本件全証拠によっても,原告は,被告が,みなし取下げ分について,原告の利益を害する目的で審査請求をしなかったものと認めるに足りる証拠はない。
したがって,被告が,みなし取下げ分13件の発明に関し,それぞれの出願審査請求期間内に審査請求をしなかったことについて,原告の利益を害する意図等を有していなかったことは明らかである。
よって,原告の上記主張も採用することができない。
6 争点4(特許権の持分移転登録請求の可否)について 原告は,予備的に,原告は,本件各登録発明について,共同発明者の一人であり,かつ,特許を受ける権利の持分を被告に譲渡したことはない,として,本件各登録特許の持分の移転登録を求めている。
しかし,前記認定のとおり,原告は,そもそも,本件各登録発明のいずれについても共同発明者とは認められないのであるから,予備的請求はいずれもその請求の根拠を欠くものといわざるを得ない。
また,登録後の特許権については,真の権利者から無権利者に対し,当然に,当該持分について特許権の移転登録手続を請求することができるものでもない。すなわち,特許法は,冒認出願(発明者又は発明者から特許を受ける権利承継した者(以下「発明者等」という。)以外の者による出願。)に対しては拒絶査定をすべきものとし(特許法49条7号),冒認出願者に対して特許権の設定登録がされた場合,その冒認出願は無効とすべきものと規定しているだけであり(同法123条1項6号),特許法においては,発明者等が冒認出願により特許の登録を得た者に対し特許権の返還請求権を有することを認める旨の規定はない。したがって,冒認出願をして特許権の設定登録を受けた場合に,発明者等から冒認出願により特許登録を得た者に対する特許権の移転登録手続を求める権利は当然には認められていない。もっとも,最高裁平成13年6月12日第三小法廷判決(民集55巻4号793頁)の事案のように,真の権利者が他の共有者と共に特許出願した後に,真の権利者から権利の持分の譲渡を受けた旨の証書を偽造して,出願人の変更がなされ,無権利者と他の共有者に対して,特許権の設定がなされた場合で,かつ,真の権利者が移転登録手続請求を認める以外に真の権利者に生じた不都合を是正する他の救済方法が存しないなどの場合には,例外的に真の権利者に特許権の移転登録請求を認め,真の権利者の救済を図る必要がある場合も存する。
しかし,本件では,原告は,自ら出願手続を行っていないのみならず(原告は出願依頼書に発明者として記載した旨主張するが,そのような事実が認められないことは前記認定のとおりである。),原告以外の者が発明者として明記されている本件各登録発明の出願依頼書(前記のとおり,特許を受ける権利の譲渡証を兼ねるものである。)にその上司として日付入り確認印を押印して,これを承認しているものである。しかも,本件各発明については進歩性等が争われており,特許登録に至るまでに補正などもされており,原告は,この間に,特許を受ける権利を有することの確認を求める訴訟を提起するとの方法も採り得たのに,原告が予備的に移転登録請求を提起したのは,上記出願依頼書の作成から相当の長期間が経過した後の平成17年5月23日であり,いずれの特許についても特許登録の後である。したがって,本件については,仮に原告が共同発明者であるとしても,上記の最高裁判決のように,例外的に特許権の移転登録請求を認める必要性がないことは明らかである。
したがって,仮に,原告が共同発明者であると仮定しても,本件の事情の下では,特許権の持分の移転登録請求を認めることは,そもそもできない。
以上によれば,原告の予備的請求も理由がない。
結論
以上によれば,本件各登録発明については,いずれも原告が共同発明者であると認めることはできず,また,本件26件の発明については,そもそも,被告が当該発明により得た利益があると認めることはできないのであるから,原告の主位的請求はいずれも理由がない。また,原告の予備的請求も,同様に,本件各登録発明について,原告が共同発明者であると認められず,かつ,仮に,共同発明者であるとしても,そもそも移転登録請求を認め得る法律上の根拠もないから,いずれも理由がないことは明らかである。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,主文のとおり,判決する。
追加
(別紙)特許権目録(1)第9発明登録番号第3297724号発明の名称積層フィルム及び写真用支持体登録日平成14年4月19日(2)第11発明登録番号第3345623号発明の名称写真用支持体登録日平成14年9月6日(3)第14発明登録番号第3390795号発明の名称写真用支持体登録日平成15年1月24日(4)第15発明登録番号第3493207号発明の名称写真用支持体登録日平成15年11月14日(5)第18発明登録番号第3592731号発明の名称フィルム及び写真用支持体登録日平成16年9月23日(6)第19発明登録番号第3337518号発明の名称写真用支持体登録日平成14年8月9日(7)第25発明登録番号第3496165号発明の名称写真用支持体登録日平成15年11月28日(8)第26発明登録番号第3429546号発明の名称ポリエステルフィルム及び写真用支持体登録日平成15年5月16日(別紙)出願特許目録(1)第1発明発明の名称写真用支持体及びこれを用いたハロゲン化銀写真感光材料出願日平成4年10月19日公開日平成5年8月20日公開番号特開平5-210198号(2)第2発明発明の名称写真用支持体出願日平成4年10月21日公開日平成5年12月7日公開番号特開平5-323496号(3)第3発明発明の名称ハロゲン化銀写真感光材料出願日平成4年5月29日公開日平成5年12月17日公開番号特開平5-333472号(4)第4発明発明の名称写真用支持体出願日平成4年10月14日公開日平成5年12月27日公開番号特開平5-346636号(5)第5発明発明の名称写真用支持体出願日平成4年10月14日公開日平成6年1月21日公開番号特開平6-11795号(6)第6発明発明の名称写真用支持体出願日平成4年8月24日公開日平成6年3月11日公開番号特開平6-67344(7)第7発明発明の名称ハロゲン化銀写真感光材料出願日平成4年8月31日公開日平成6年3月25日公開番号特開平6-82969(8)第8発明発明の名称写真用支持体出願日平成4年9月24日公開日平成6年4月22日公開番号特開平6-110154(9)第9発明発明の名称積層フィルム及び写真用支持体出願日平成4年10月6日公開日平成6年4月26日公開番号特開平6-115033(10)第10発明発明の名称積層フィルム及び写真用支持体出願日平成4年10月6日公開日平成6年4月26日公開番号特開平6-115034(11)第11発明発明の名称写真用支持体出願日平成4年10月6日公開日平成6年4月28日公開番号特開平6-118559(12)第12発明発明の名称写真用支持体出願日平成4年11月25日公開日平成6年6月7日公開番号特開平6-161035(13)第13発明発明の名称積層フィルム及び写真用支持体出願日平成5年1月21日公開日平成6年6月21日公開番号特開平6-171049(14)第14発明発明の名称写真用支持体出願日平成5年4月27日公開日平成6年6月24日公開番号特開平6-175279(15)第15発明発明の名称写真用支持体出願日平成5年4月26日公開日平成6年6月28日公開番号特開平6-180481(16)第16発明発明の名称ポリエステルフィルム及び写真用支持体出願日平成4年12月22日公開日平成6年7月12日公開番号特開平6-192408(17)第17発明発明の名称写真用支持体出願日平成5年4月26日公開日平成6年7月22日公開番号特開平6-202280(18)第18発明発明の名称フィルム及び写真用支持体出願日平成5年4月26日公開日平成6年8月30日公開番号特開平6-240020(19)第19発明発明の名称写真用支持体出願日平成5年3月30日公開日平成6年10月18日公開番号特開平6-289534(20)第20発明発明の名称写真用支持体出願日平成5年5月11日公開日平成6年11月25日公開番号特開平6-324433(21)第21発明発明の名称写真用支持体出願日平成5年6月2日公開日平成7年1月10日公開番号特開平7-5626(22)第22発明発明の名称写真用支持体出願日平成5年6月2日公開日平成7年1月10日公開番号特開平7-5627(23)第23発明発明の名称写真用支持体出願日平成5年8月20日公開日平成7年3月3日公開番号特開平7-56276(24)第24発明発明の名称二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法出願日平成5年11月4日公開日平成7年5月16日公開番号特開平7-125062(25)第25発明発明の名称写真用支持体出願日平成6年1月20日公開日平成7年8月11日公開番号特開平7-209805(26)第26発明発明の名称ポリエステルフィルム及び写真用支持体出願日平成6年1月19日公開日平成7年8月11日公開番号特開平7-209811(別紙)第18発明の出願当時の特許請求の範囲【請求項1】熱処理後の巻きぐせカール度が135m-1以下で,温水浴処理後の回復カール度が45m-1以下であると共にポリエステルからなることを特徴とするフィルム。
【請求項2】熱処理後の巻きぐせカール度が125m-1以下で,温水浴処理後の回復カール度が25m-1以下であると共にポリエステルからなることを特徴とするフィルム。
【請求項3】熱処理後の巻きぐせカール度が135m-1以下で,温水浴処理後の回復カール度が45m-1以下であり,二層以上のポリエステル層を積層してなることを特徴とするフィルム。
【請求項4】熱処理後の巻きぐせカール度が125m-1以下で,温水浴処理後の回復カール度が25m-1以下であり,二層以上のポリエステル層を積層してなることを特徴とするフィルム。
【請求項5】巾方向におけるカール度が5〜30m-1である前記請求項1〜4のいずれかに記載のフィルム。
【請求項6】互いに異なる二層のポリエステル層からなる前記請求項3〜5のいずれかに記載のフィルム。
【請求項7】互いに異なるポリエステル層のいずれか一種のポリエステル層が,共重合成分として,金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸を含有してなる前記請求項6に記載のフィルム。
【請求項8】互いに異なるポリエステル層のいずれか一種のポリエステル層が,共重合成分として,金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸と,ポリアルキレングリコール類および/または飽和脂肪族ジカルボン酸とを含有してなる前記請求項6に記載のフィルム。
【請求項9】互いに異なる二種のポリエステル層を積層してなり,異なる二種のポリエステル層における,共重合成分として含有される,金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸の全エステル結合に対する比率が互いに異なることを特徴とする前記請求項6に記載のフィルム。
【請求項10】異なる二種のポリエステル層を積層してなり,異なる二種のポリエステル層における,共重合成分として含有されるポリアルキレングリコール類の反応生成物に対する比率が互いに異なることを特徴とする前記請求項3〜5のいずれかに記載のフィルム。
【請求項11】異なる二種のポリエステル層を積層してなり,異なる二種のポリエステル層における共重合成分として含有される飽和脂肪族ジカルボン酸の反応生成物に対する比率が互いに異なることを特徴とする前記請求項3〜5のいずれかに記載のフィルム。
【請求項12】ポリエステル層の片面に共重合ポリエステル層を積層してなり,該共重合ポリエステル層が,共重合成分として金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸を全エステル結合に対し2〜7モル%含有すると共に共重合成分としてポリアルキレングリコール類および/または飽和脂肪族ジカルボン酸を反応生成物の全重量に対して3〜10重量%含有してなる前記請求項5に記載のフィルム。
【請求項13】三層の層を積層してなり,中央の層の両側に位置する二層のポリエステル層の厚みが互いに異なることを特徴とするフィルム。
【請求項14】三層の層を積層してなり,中央の層の両側に位置する二層のポリエステル層の厚みが互いに異なる請求項3〜5のいずれかに記載のフィルム。
【請求項15】三層の層を積層してなり,中央の層の両側に位置する二層のポリエステル層の厚みをそれぞれdA,dBとしたときに,1.1≦dA/dB≦5なる関係を満たしてなる前記請求項14に記載のフィルム。
【請求項16】三層の層を積層してなり,中央の層の両側に位置する二層のポリエステル層が互いに相違することを特徴とするフィルム。
【請求項17】三層の層を積層してなり,中央の層の両側に位置する二層のポリエステル層が互いに相違してなる前記請求項3〜5のいずれかに記載のフィルム。
【請求項18】三層の層を積層してなり,中央の層の両側に位置する二層のポリエステル層が,共重合成分として含有される,金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸の全エステル結合に対する比率が互いに異なる前記請求項16に記載のフィルム。
【請求項19】三層の層を積層してなり,中央の層の両側に位置する二層のポリエステル層が,共重合成分として含有されるポリアルキレングリコール類の反応生成物に対する比率が互いに相違してなる前記請求項16に記載のフィルム。
【請求項20】三層の層を積層してなり,中央の層の両側に位置する二層のポリエステル層が,共重合成分として含有される飽和脂肪族ジカルボン酸の反応生成物に対する比率が互いに相違してなる前記請求項16に記載のフィルム。
【請求項21】三層の層を積層してなり,中央の層の両側に位置する二層のポリエステル層の固有粘度が互いに相違してなる前記請求項3〜5のいずれかに記載のフィルム。
【請求項22】三層の層を積層してなり,中央の層の両側に位置する二層のポリエステル層の固有粘度差ΔIVが0.02〜0.5である前記請求項13〜21のいずれかに記載のフィルム。
【請求項23】三層の層を積層してなり,中央の層の両側に位置する二層のポリエステル層が,共重合成分として,金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸を全エステル結合に対して2〜7モル%含有すると共に,共重合成分として,ポリアルキレングリコール類および/または飽和脂肪族ジカルボン酸を反応生成物に対して3〜10重量%含有してなる前記請求項13〜22のいずれかに記載のフィルム。
【請求項24】二層以上のポリエステル層を積層してなると共に,厚みを二等分する位置を中心として,その両側の積層構造が互いに非対称であることを特徴とする前記請求項3〜5のいずれかに記載のフィルム。
【請求項25】四層以上のポリエステル層を積層してなり,少なくとも二層のポリエステル層が互いに相違することを特徴とするフィルム。
【請求項26】四層以上のポリエステル層を積層してなり,少なくとも二層のポリエステル層が互いに相違する前記請求項3〜5のいずれかに記載のフィルム。
【請求項27】いずれの層もポリエステル層である前記請求項3〜26のいずれかに記載のフィルム。
【請求項28】共重合成分として,金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸を全エステル結合に対し2〜7モル%,並びにポリアルキレングリコール類および/または飽和脂肪族ジカルボン酸を反応生成物の全重量に対し3〜10重量%を含有する共重合ポリエステル層を,単数または複数の層で形成されるポリエステル層の両方の各表面に積層してなり,前記ポリエステル層の厚みをd2とし,前記ポリエステル層の表面に積層された前記共重合ポリエステル層につき,一方の表面における,厚みの総和をd1とし,前記芳香族ジカルボン酸の全エステル結合に対する平均含有率(モル%)をS1とし,並びに,前記ポリアルキレングリコール類および/または飽和脂肪族ジカルボン酸の反応生成物に対する平均含有率(重量%)をP1とし,他方の表面についてはそれぞれ,d3,S3,およびP3としたとき,以下の条件式1,2,および3を同時に満足することを特徴とするフィルム。
条件式1;d2≦50(μm)条件式2;0.7≦{(d1+d3)/d2}≦3条件式3;{(S1×P1×d1)/(S3×P3×d3)}≧1.5【請求項29】前記請求項1〜28のいずれかに記載のフィルムからなることを特徴とする写真用支持体。
※「*」部分は,閲覧制限決定がなされた部分である。
裁判長裁判官 設樂・一
裁判官 鈴木千帆
裁判官 荒井章光
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