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関連審決 無効2004-80040
関連ワード 使用方法 /  新規性 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明特定事項 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  周知技術 /  技術常識 /  択一的 /  優先権 /  実質的に同一 /  登録実用新案 /  優先日 /  参酌 /  技術的意義 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 /  減縮 /  変更 /  訂正明細書 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10283号 審決取消請求事件
原告ヒーリング・スポーツ・リミテッド
訴訟代理人弁理 士鈴江武彦
同 河野哲
同 中村誠
同 峰隆司
被告株 式会社ジョイナス
訴訟代理人弁理 士藤沢則昭
同 藤沢正則
同 藤沢昭太郎
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/09/12
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2004-80040号事件について平成18年2月14日にした審決を取り消す。
争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,平成12年3月31日,発明の名称を「ヒーリング装置とヒーリング方法」とする発明につき特許出願(優先権主張・平成11年4月1日米国,特願2000-608897号。以下「本件出願」という。)をし,平成15年12月12日,特許第3502044号として特許権(請求項の数37。この特許権に係る特許を「本件特許」という。)の設定登録を受けた。
本件特許に対し被告から平成16年5月7日に無効審判請求がされ,特許庁は同請求を無効2004-80040号事件として審理し,その係属中の平成17年7月25日,原告は,本件特許に係る明細書について特許請求の範囲減縮等を目的とする訂正請求をした。原告は,同年12月12日,上記訂正請求に係る訂正請求書について補正をした(以下,この補正後の訂正請求を「本件訂正」といい,本件訂正後の本件特許に係る明細書を図面と併せて「本件明細書」という。)。
そして,特許庁は,平成18年2月14日,「訂正を認める。特許第3502044号の請求項1ないし37に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同月27日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし37の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件特許発明1」といい,請求項2ないし37に係る発明もこれに準じて「本件特許発明2」などという。なお,下線部は本件訂正による訂正箇所である。)。
「【請求項1】履物のアイテムであって:つま先部,アーチ部およびヒール部を有するソールを備えていて,ヒール部はそれに形成された開口部を有していて;ヒール部の開口部内に保持された転がり手段を備えていて;転がり手段は,使用の際,転がらないモードにおいて,履物のアイテムの地面との本質的な接触がソールのつま先部によってなされ,また,転がらないモードにおいて,履物のアイテムが転がるためにまたは滑るために操作可能ではなく,転がりモードにおいて,転がり手段は,地面上で転がることを使用者に可能にするように地面との本質的な接触を提供するように配置されていて,転がりモードにおいて転がり手段以外の部材は地面と接触せず,また,履物のアイテムは前記転がり手段以外の部材が地面と接触した場合にブレーキ状態になり,さらに,履物のアイテムを転がすための転がり手段は少なくとも第1の転がり手段を含み,全てヒール部に設けられていてつま先部には設けられていず,モードの切り換えは,つま先部から転がり手段への使用者の体重の移動によって実行され,ソールのつま先部は,転がりモードにおいて地面の前上方に持上げられ,また,ソールのつま先部は,地面上を走行,歩行,停止する為であって,転がる為ではなく,転がらないモードに変移した時,ソールのつま先部の地面接触部は一般にソールの第1の側から第2の側に延びており,地面と本質的な接触がなされた時に,ソールのつま先部を使用して走行,歩行,停止することが可能な履物のアイテム。
【請求項2】少なくとも第1の転がり手段は,使用者にとって可能にするために走行の通常の方向へ履物のアイテムの少なくとも長手方向軸線に沿って自由に回転可能であり,適切にバランスしている場合,走行の通常の方向へ地面に沿って転がることができ,また,つま先部は摺動するために操作可能な板を備えていない請求項1記載の履物のアイテム。
【請求項3】少なくとも第1の転がり手段は,第1の部分と第2の部分とを備えていて,少なくとも第1の転がり手段の第1の部分が履物のソールのヒール部の底面に形成された開口部内に存在するように,また,少なくとも第1の転がり手段の第2の部分が履物のソールのヒール部の底面に形成された開口部の下方に,かつ履物のソールのヒール部の底面の最も低い位置の下方に存在するように配置されていて,履物は,人が,転がらないモードから,少なくとも第1の転がり手段が地面と接触して転がる転がりモードへ,ついでソールのヒール部の一部分が地面と接触するヒールブレーキ状態に変移することを可能にする請求項1記載の履物のアイテム。
【請求項4】少なくとも第1の転がり手段の開口部内に保持されている部分は,開口部の外側にある転がり手段の部分よりも大きい請求項3記載の履物のアイテム。
【請求項5】ソールのヒール部の部分は,ヒールブレーキである請求項4記載の履物のアイテム。
【請求項6】少なくとも第1の転がり手段は車輪で,第1のセグメントと第2のセグメントとの間の軸に回転可能に設けられていて,軸は,軸の回転を阻止するように第1のセグメントと第2のセグメントとに保持されている請求項1記載の履物のアイテム。
【請求項7】 第1の精密ベアリングと;第2の精密ベアリングとをさらに備えていて,軸に回転可能に設けられた少なくとも第1の転がり手段は,第1の凹部を有する第1の側部と第2の凹部を有する第2の側部とを有し,第1の精密ベアリングが少なくとも第1の転がり手段と軸との間で第1の凹部に設けられ,第2の精密ベアリングが少なくとも第1の転がり手段と軸との間で第2の凹部に設けられている請求項6記載の履物のアイテム。
【請求項8】第1の精密ベアリングが第1のリングクリップを使用して軸に設けられていて,第2の精密ベアリングが第2のリングクリップを使用して軸に設けられている請求項7記載の履物のアイテム。
【請求項9】ヒール制御板を有する据え付け構造部をさらに供えた請求項4記載の履物のアイテム。
【請求項10】転がり手段は外径を有していて,少なくとも第1の転がり手段の第2の部分は,転がり手段の外径の半分に等しいか半分より小さい量だけ,履物のソールのヒール部の底面の最も低い位置の下方に存在する請求項9記載の履物のアイテム。
【請求項11】ソールのアーチ部に結合された摺擦板をさらに備えたことを特徴とする請求項10記載の履物のアイテム。
【請求項12】2つの開口部がヒール部に設けられている請求項1記載の履物のアイテム。
【請求項13】ソールのアーチ部に結合された摺擦板をさらに備えたことを特徴とする請求項1記載の履物のアイテム。
【請求項14】少なくとも第1の転がり手段は,唯一の転がり手段で,ヒール部に設けられていて,ソールのつま先部はローラーを備えていない請求項13記載の履物のアイテム。
【請求項15】履物のソールのヒール部の一部分は,ヒールブレーキ状態において地面と接触し,ヒール部のこの部分は,履物の後部とソールのヒール部の底面に形成された開口部との間に設けられている請求項14記載の履物のアイテム。
【請求項16】ヒールブレーキ状態において地面と接触する履物のソールのヒール部の部分は,耐磨耗性の材料で形成されている請求項15記載の履物のアイテム。
【請求項17】少なくとも第1の転がり手段は,ローラーである請求項16記載の履物のアイテム。
【請求項18】少なくとも第1の転がり手段は,球形のボールである請求項16記載の履物のアイテム。
【請求項19】少なくとも第1の転がり手段は,車輪である請求項16記載の履物のアイテム。
【請求項20】少なくとも第1の転がり手段は,履物のソールのヒール部に形成された開口部内で取り外し可能に結合されている請求項1記載の履物のアイテム。
【請求項21】少なくとも第1の転がり手段は,履物のソールのヒール部に形成された開口部内に引き込み可能に結合されている請求項1記載の履物のアイテム。
【請求項22】履物のソールのヒール部の底面に形成された開口部の下方に存在する転がり手段の第2の部分を覆うために操作可能な少なくとも第1の転がり手段カバーをさらに備えた請求項4記載の履物のアイテム。
【請求項23】 請求項1に記載されたものの1対の履物のアイテム。
【請求項24】少なくとも第1の転がり手段は,軸開口部を有する車輪と,第1の側で軸開口部を取り囲む車輪の第1の側の第1の環状の凹部と,第2の側で軸開口部を取り囲む車輪の第2の側の第2の環状の凹部とを備えていて,さらに:車輪の第1の側の第1の環状の凹部に設けられた第1のベアリングと;車輪の第2の側の第2の環状の凹部に設けられた第2のベアリングと;および車輪が,第1のベアリングと第2のベアリングとによって軸に回転可能に結合されるように車輪の軸開口部内に設けられた軸と;をさらに備えた請求項1記載の履物のアイテム。
【請求項25】車輪は:軸開口部と,第1の環状の凹部と,第2の環状の凹部とを形成し,湾曲した外側表面を有した内側コア部をさらに備え;および車輪の内側コア部の湾曲した外側表面に設けられた比較的軟らかい外側タイヤをさらに備えた請求項24記載の履物のアイテム。
【請求項26】地面上で使用するための装置であって,この装置は,歩行状態または走行状態からヒール転がり状態に変移するために人の足に装着可能であり,この装置は:前部,後部,上方部,およびソールを有する履物を備え,このソールは;歩行状態と走行状態の間地面と係合するためのつま先部を有し,アーチ部を有し,および底面を有するヒール部を有し;履物に接続された軸を備え;および装置は,人が歩行状態または走行状態から,軸に設けられた車輪が転がるために地面と接触しかつ履物のつま先部の底面が地面の上方に持上げられているヒール転がり状態に変移することを可能にするように軸に設けられた車輪を備えていて;ヒール転がり状態において車輪以外の部材は地面と接触せず,また,履物は前記車輪以外の部材が地面と接触した場合にブレーキ状態になり,さらに,履物を転がすための車輪は全てヒール部に設けられていてつま先部には設けられておらず,ソールのつま先部は,ヒール転がり状態において地面の上方に持上げられ,さらにまたソールのつま先部は,地面上を走行,歩行,停止する為のものであり,転がらないモードに変移した時,ソールのつま先部の地面接触部は一般にソールの第1の側から第2の側に延び,地面と本質的な接触がなされ,その時に,ソールのつま先部を使用して走行,歩行,停止することが可能な履物の装置。
【請求項27】軸に設けられた車輪は,軸に設けられた1つ以上の車輪を備えている請求項26記載の履物の装置。
【請求項28】第2の軸に設けられた第2の車輪をさらに備えていて,第2の軸に設けられた第2の車輪は,転がり状態の間転がるために地面と接触する請求項26記載の履物の装置。
【請求項29】履物のアイテムであって:つま先部,アーチ部およびヒール部を有するソールを備えていて,ヒール部はソールのヒール部の一部分に形成された開口部を有していて;ヒール部の開口部に保持された転がり手段を備えていて,転がり手段は,使用の際,転がらないモードにおいて,履物のアイテムの地面との本質的な接触がソールのつま先部によってなされ,また,転がりモードにおいて,転がり手段は,地面上で転がることを使用者に可能にするように地面との本質的な接触を提供するように配置されているのに対して,ソールのつま先部は地面の上方に持上げられていて,転がりモードにおいて転がり手段以外の部材は地面と接触せず,また,履物のアイテムは前記転がり手段以外の部材が地面と接触した場合にブレーキ状態になり,さらに,履物のアイテムを転がすための転がり手段は全てヒール部に設けられていてつま先部には設けられていず,モードの切り換えは,つま先部から転がり手段への使用者の体重の移動によって実行され,また,ソールのつま先部は,地面上を走行,歩行,停止する為のものであり,転がらないモードに変移した時,ソールのつま先部の地面接触部は一般にソールの第1の側から第2の側に延び,地面と本質的な接触がなされた時に,ソールのつま先部を使用して走行,歩行,停止することが可能な履物のアイテム。
【請求項30】地面上で使用するための装置であって,この装置は,歩行状態または走行状態からヒール転がり状態に変移するために人の足に装着可能であり,この装置は:前部,後部,上方部,およびソールを有する履物を備え,このソールは;歩行状態と走行状態の間地面と係合するためのつま先部を有し,このつま先部は歩行状態と走行状態において地面上の転がり用には操作されないものであり,アーチ部を有し,およびソールのヒール部の少なくとも一部分に形成された開口部を有するヒール部を有し,第1のセグメントと第2のセグメントとを有する軸を備え;および軸の第1の部分と軸の第2の部分との間の軸に回転可能に設けられた車輪を備え,軸に回転可能に設けられた車輪は,第1の部分,第2の部分を有していて,車輪の第1の部分が履物のソールに形成された開口部内に存在するように,また,車輪の第2の部分が履物のソールに形成された開口部の下方に存在するように装置に結合されていて,装置は,人が,歩行状態または走行状態から,軸に回転可能に設けられた車輪が転がるために地面と接触するヒール転がり状態に変移することを可能にするために操作可能であるのに対して,ソールのつま先部は地面の上方に持上げられていて,ヒール転がり状態において車輪以外の部材は地面と接触せず,また,履物は前記車輪以外の部材が地面と接触した場合にブレーキ状態になり,さらに,履物を転がすための車輪は実質的に全てヒール部に設けられていてつま先部には設けられていない,また,ソールのつま先部は,地面上を走行,歩行,停止する為のものであり,転がらないモードに変移した時,ソールのつま先部の地面接触部は一般にソールの第1の側から第2の側に延び,地面と本質的な接触がなされた時に,ソールのつま先部を使用して走行,歩行,停止することが可能な装置。
【請求項31】軸に回転可能に設けられた車輪は,開口部内に存在する車輪の第1の部分が,開口部の下方に存在する車輪の第2の部分より大きいようにソールのヒール部の開口部内に設けられている請求項30記載の装置。
【請求項32】 第1の精密ベアリングと;第2の精密ベアリングとをさらに備えていて,軸に回転可能に設けられた車輪が第1の凹部を有する第1の側部と第2の凹部を有する第2の側部とを有し,第1の精密ベアリングが車輪と軸との間で第1の凹部に設けられていて,第2の精密ベアリングが車輪と軸との間で第2の凹部に設けられている請求項30記載の装置。
【請求項33】装置は,ソールのヒール部の一部分が地面と接触して,人がヒールブレーキ状態に変移するためにさらに操作可能である請求項30記載の装置。
【請求項34】ソールのアーチ部に隣接して結合された摺擦板をさらに備えた請求項30記載の装置。
【請求項35】軸の第1の部分と軸の第2の部分との間の軸に設けられた回転可能な車輪は,履物のソールのヒール部に配置された軸に設けられた1つ以上の車輪としてさらに規定されている請求項30記載の装置。
【請求項36】地面上で使用するための装置であって,この装置は,歩行状態または走行状態からヒール転がり状態に変移するために人の足に装着可能であり,この装置は:前部,後部,上方部,およびソールを有する履物を備え,このソールは;歩行状態と走行状態の間地面と係合するためのつま先部を有し,このつま先部は歩行状態と走行状態において地面上の転がり用には操作されないものであり,アーチ部を有し,およびソールのヒール部の少なくとも一部分に形成された開口部を有するヒール部を有し,少なくとも第1の係合可能なセグメントを有する軸を備え;およびこの少なくとも第1の係合可能なセグメントに隣接する軸に取着された少なくとも1つの車輪を備えていて,軸に取着された少なくとも1つの車輪は,第1の部分,第2の部分を有していて,車輪の第1の部分が履物のソールに形成された開口部内に存在するように,また,車輪の第2の部分が履物のソールに形成された開口部の下方に存在するように係合可能なセグメントを介して装置に結合されていて,装置は,人が,歩行状態または走行状態から,軸に回転可能に設けられた少なくとも1つの車輪が転がるために地面と接触するヒール転がり状態に変移することを可能にするために操作可能であるのに対して,ソールのつま先部は地面の上方に持上げられていて,ヒール転がり状態において車輪以外の部材は地面と接触せず,また,履物は前記車輪以外の部材が地面と接触した場合にブレーキ状態になり,さらに,履物を転がすための車輪は実質的に全てヒール部に設けられていてつま先部には設けられていない,またソールのつま先部は,地面上を走行,歩行,停止する為のものであり,転がらないモードに変移した時,ソールのつま先部の地面接触部は一般にソールの第1の側から第2の側に延び,地面と本質的な接触がなされた時に,ソールのつま先部を使用して走行,歩行,停止することが可能な装置。
【請求項37】車輪は,外形を有していて,車輪の第2の部分は,車輪の外径の半分に等しいか半分より小さい量だけ,履物のソールのヒール部の最も低い位置の下方に存在する請求項36記載の装置。」3 審決の内容審決の内容は,別紙審決書写しのとおりである。審決は,主引例を異にする,独立した2つの無効理由を挙げている。
第1に,本件特許発明1ないし37は,実願昭49-50354号(実開昭50-139077号)のマイクロフィルム(以下「刊行物1」という。
甲1)に記載された発明(以下「刊行物1発明」という。)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると判断した。審決が認定した刊行物1発明と本件特許発明1ないし37の一致点及び相違点は,(1),(2)のとおりである。
第2に,本件特許発明1,2,23,26,27,29は,登録実用新案第6417号明細書(以下「刊行物2」という。甲2)に記載された発明(以下「刊行物2発明」という。)と実質的に同一であり,少なくとも当業者が刊行物2発明に基づいて容易に発明をすることができたものであると判断した。審決が認定した,刊行物2発明の内容及び同発明と本件特許発明1,2,23,26,27,29との形式的な相違点は,(3),(4)のとおりである。
(1) 刊行物1発明と本件特許発明1ないし25,29との対比【一致点】「履物のアイテムであって:つま先部,アーチ部およびヒール部を有するソールを備えていて,開口部を有していて;開口部内に保持された転がり手段を備えていて;転がり手段は,使用の際,転がらないモードにおいて,履物のアイテムの地面との本質的な接触がソールによってなされ,また,転がらないモードにおいて,履物のアイテムが転がるためにまたは滑るために操作可能ではなく,転がりモードにおいて,転がり手段は,地面上で転がることを使用者に可能にするように地面との本質的な接触を提供するように配置されていて,転がりモードにおいて転がり手段以外の部材は地面と接触せず,また,履物のアイテムは前記転がり手段以外の部材が地面と接触した場合にブレーキ状態になり,さらに,履物のアイテムを転がすための転がり手段は少なくとも第1の転がり手段を含み,モードの切り換えは,使用者の体重の移動によって実行され,ソールの接地面部は,転がりモードにおいて地面の上方に持上げられ,また,ソールの接地面部は,地面上を走行,歩行,停止する為であって,転がる為ではなく,地面と本質的な接触がなされた時に,ソールの接地面部を使用して走行,歩行,停止することが可能な履物のアイテム。」である点【相違点1】接地面部及び「転がり手段」の設置箇所に関し,本件特許発明1(及び本件特許発明2ないし25,29)では,接地面部が,「ソールのつま先部」にてなされ,「転がり手段」の設置箇所が,「ヒール部に設けられていてつま先部には設けられて」いないとされ,「ソールのつま先部」は,「転がりモードにおいて地面の前上方に持上」げられ,また,「転がらないモードに変移した時,ソールのつま先部の地面接触部は一般にソールの第1の側から第2の側に延びて」いるのに対して,刊行物1発明では,接地面部が,外側半部の接地底(1)及び踵部(2)にてなされ,「転がり手段」の接地箇所が,外側半部の接地底(1)に対応する内側の段状凹部(3)であり,外側半部の接地底(1)及び踵部(2)が,「転がりモード」において,「地面」の「上方に持上げられて」いるが,「地面の前上方に持上げられて」いるか否かが明らかでなく,転がらないモードに変移した時,外側半部の地面接触部が「一般にソールの第1の側から第2の側に延びて」いるか否かが明らかでない点。
【相違点2】開口部の設置箇所に関し,本件特許発明1(及び本件特許発明2ないし25,29)では,「ヒール部」に「形成」されているのに対して,刊行物1発明では,「接地底(1)及び踵部(2)に対応する内側半部」である点。
【相違点3】「モードの切り換え」に際しての「使用者の体重の移動」方向に関し,本件特許発明1(及び本件特許発明2ないし25,29)では,「つま先部から転がり手段へ」,すなわち,「つま先部」と「ヒール部」との間の移動であるのに対して,刊行物1発明では,履物の内側と外側との間での移動である点。
【相違点4】転がり手段について,本件特許発明3(及び本件特許発明4,5,9,10,22)では,「第1の部分と第2の部分とを備えて」いて,「第1の部分が履物のソールのヒール部の底面に形成された開口部内に存在する」ように,また,「第2の部分が履物のソールのヒール部の底面に形成された開口部の下方に,かつ履物のソールのヒール部の底面の最も低い位置の下方に存在するように配置されてい」るものであるのに対して,刊行物1発明では,かかる構成となっていない点。
【相違点5】本件特許発明4(及び本件特許発明5,9,10,22)では,「転がり手段の開口部内に保持されている部分は,開口部の外側にある転がり手段の部分よりも大きい」ものであるのに対して,刊行物1発明では,かかる構成を備えているか否かが直接的には明らかでない点。
【相違点6】本件特許発明6(及び本件特許発明7,8)では,「転がり手段」は,「車輪」で,「第1のセグメントと第2のセグメントとの間の軸に回転可能に設けられていて,軸は,軸の回転を阻止するように第1のセグメントと第2のセグメントとに保持されている」ものであるのに対して,刊行物1発明では,そのような態様であるか否か明らかでない点。
【相違点7】本件特許発明7(及び本件特許発明8)では,「第1の精密ベアリングと;第2の精密ベアリングとをさらに備えていて,軸に回転可能に設けられた少なくとも第1の転がり手段は,第1の凹部を有する第1の側部と第2の凹部を有する第2の側部とを有し,第1の精密ベアリングが少なくとも第1の転がり手段と軸との間で第1の凹部に設けられ,第2の精密ベアリングが少なくとも第1の転がり手段と軸との間で第2の凹部に設けられているもの」であるのに対して,刊行物1発明では,かかる構成を備えていない点。
【相違点8】本件特許発明8では,「第1の精密ベアリングが第1のリングクリップを使用して軸に設けられていて,第2の精密ベアリングが第2のリングクリップを使用して軸に設けられている」のに対して,刊行物1発明では,かかる構成を備えていない点。
【相違点9】本件特許発明9(及び本件特許発明10,11)では,「ヒール制御板を有する据え付け構造部をさらに備えた」ものであるのに対して,刊行物1発明では,かかる構成を備えているか否かが明らかでない点。
【相違点10】本件特許発明10(及び本件特許発明11)では,「転がり手段は外径を有していて,少なくとも第1の転がり手段の第2の部分は,転がり手段の外径の半分に等しいか半分より小さい量だけ,履物のソールのヒール部の底面の最も低い位置の下方に存在する」ものであるのに対して,刊行物1発明では,かかる構成を備えていない点。
【相違点11】本件特許発明11では,「ソールのアーチ部に結合された摺擦板をさらに備えた」ものであるのに対して,刊行物1発明では,かかる構成を備えていない点。
【相違点12】本件特許発明12では,「2つの開口部がヒール部に設けられている」ものであるのに対して,刊行物1発明では,かかる構成を備えていない点。
【相違点13】本件特許発明13(及び本件特許発明14ないし19)では,「ソールのアーチ部に結合された摺擦板をさらに備えた」ものであるのに対して,刊行物1発明では,かかる構成を備えていない点。
【相違点14】本件特許発明14(及び本件特許発明15ないし19)では,「少なくとも第1の転がり手段は,唯一の転がり手段で,ヒール部に設けられていて,ソールのつま先部はローラーを備えていない」ものであるのに対して,刊行物1発明では,かかる構成を備えていない点。
【相違点15】ヒールブレーキ状態において地面と接触する履物のソールのヒール部の部分が,本件特許発明16(及び本件特許発明17ないし19)では,「耐磨耗性の材料で形成されている」ものであるのに対して,刊行物1発明では,そのような材料で形成されているものであるか否か明らかでない点。
【相違点16】転がり手段が,本件特許発明18では,「球形のボール」であるのに対して,刊行物1発明では,そのような形状の態様でない点。
【相違点17】転がり手段が,本件特許発明20では,「履物のソールのヒール部に形成された開口部内で取り外し可能に結合されている」ものであるのに対して,刊行物1発明では,かかる構成を備えていない点。
【相違点18】転がり手段が,本件特許発明21では,「履物のソールのヒール部に形成された開口部内に引き込み可能に結合されている」ものであるのに対して,刊行物1発明では,かかる構成を備えていない点。
【相違点19】転がり手段が,本件特許発明22では,「履物のソールのヒール部の底面に形成された開口部の下方に存在する転がり手段の第2の部分を覆うために操作可能な少なくとも第1の転がり手段カバーをさらに備えた」ものであるのに対して,刊行物1発明では,かかる構成を備えていない点。
【相違点20】転がり手段が,本件特許発明24(及び本件特許発明25)では,「軸開口部を有する車輪と,第1の側で軸開口部を取り囲む車輪の第1の側の第1の環状の凹部と,第2の側で軸開口部を取り囲む車輪の第2の側の第2の環状の凹部とを備えていて,さらに,車輪の第1の側の第1の環状の凹部に設けられた第1のベアリングと,車輪の第2の側の第2の環状の凹部に設けられた第2のベアリングと,および車輪が,第1のベアリングと第2のベアリングとによって軸に回転可能に結合されるように車輪の軸開口部内に設けられた軸とをさらに備えた」ものであるのに対して,刊行物1発明では,かかる構成を備えていない点。
【相違点21】車輪が,本件特許発明25では,「軸開口部と,第1の環状の凹部と,第2の環状の凹部とを形成し,湾曲した外側表面を有した内側コア部をさらに備え,および車輪の内側コア部の湾曲した外側表面に設けられた比較的軟らかい外側タイヤをさらに備えた」ものであるのに対して,刊行物1発明では,かかる構成を備えていない点。
(2)刊行物1発明と本件特許発明26ないし28,30ないし37との対比【一致点】「地面上で使用するための装置であって,この装置は,歩行状態または走行状態から転がり状態に変移するために人の足に装着可能であり,この装置は:前部,後部,上方部,およびソールを有する履物を備え,このソールは;歩行状態と走行状態の間地面と係合するための接地面部を有し,アーチ部を有し,および底面を有するヒール部を有し;履物に接続された軸を備え;および装置は,人が歩行状態または走行状態から,軸に設けられた車輪が転がるために地面と接触しかつ履物の接地面部の底面が地面の上方に持上げられている転がり状態に変移することを可能にするように軸に設けられた車輪を備えていて;転がり状態において車輪以外の部材は地面と接触せず,また,履物は前記車輪以外の部材が地面と接触した場合にブレーキ状態になり,さらに,ソールの接地面部は,転がり状態において地面の上方に持ち上げられ,さらにまたソールの接地面部は,地面上を走行,歩行,停止する為のものであり,転がらないモードに変移した時,地面と本質的な接触がなされ,その時に,接地面部を使用して走行,歩行,停止することが可能な履物の装置。」である点。
【相違点22】接地面部の設置箇所及び「履物を転がすための車輪」の「全て」の設置箇所に関し,本件特許発明26(及び本件特許発明27,28,30ないし37)では,接地面部が,「ソール」の「つま先部」であり,「履物を転がすための車輪」の「全て」の設置箇所が,「ヒール部に設けられていてつま先部には設けられていない」とされ,「転がらないモードに変移した時,ソールのつま先部の地面接触部は一般にソールの第1の側から第2の側に延び」ているものであるのに対して,刊行物1発明では,接地面部が,外側半部の接地底(1)及び踵部(2)であり,「履物を転がすための車輪」の「全て」の設置箇所が,同じく,外側半部の接地底(1)に対応する内側の段状凹部(3)であり,転がらないモードに変移した時,「ソールのつま先部の地面接触部は一般にソールの第1の側から第2の側に延び」ているか否かが明らかでない点。
【相違点23】本件特許発明26(及び本件特許発明27,28,30ないし37)では,転がり状態が「ヒール転がり状態」であって,「ヒール転がり状態」では「履物のつま先部の底面が地面の上方に持上げられている」のに対して,刊行物1発明では,転がり状態は,着用者が底面部をやや内傾する状態であり,該内傾する状態では,外側半部の底面が地面の上方に持ち上げられている点。
【相違点24】軸に設けられた車輪について,本件特許発明28では,「第2の軸に設けられた第2の車輪をさらに備えていて,第2の軸に設けられた第2の車輪は,転がり状態の間転がるために地面と接触する」ものであるのに対して,刊行物1発明では,かかる構成を備えているか否かが明らかでない点。
【相違点25】本件特許発明30(及び本件特許発明31ないし37)では,軸が,「第1のセグメントと第2のセグメントとを有し」,さらに「軸の第1の部分と軸の第2の部分との間の軸に回転可能に設けられた車輪を備え」ているものであるのに対して,刊行物1発明では,そのような態様ではない点。
【相違点26】ヒール部に関して,本件特許発明30(及び本件特許発明31ないし37)では,「ソールのヒール部の少なくとも一部分に形成された開口部を有する」ものであるのに対して,刊行物1発明ではそのような態様でない点。
【相違点27】本件特許発明30(及び本件特許発明31ないし37)では,「軸に回転可能に設けられた車輪は,第1の部分,第2の部分を有していて,車輪の第1の部分が履物のソールに形成された開口部内に存在するように,また,車輪の第2の部分が履物のソールに形成された開口部の下方に存在するように装置に結合されてい」るのに対して,刊行物1発明では,かかる構成を備えていない点。
【相違点28】本件特許発明31では,「軸に回転可能に設けられた車輪は,開口部内に存在する車輪の第1の部分が,開口部の下方に存在する車輪の第2の部分より大きいようにソールのヒール部の開口部内に設けられている」のに対して,刊行物1発明では,かかる構成を備えていない点。
【相違点29】本件特許発明32では,「第1の精密ベアリングと;第2の精密ベアリングとをさらに備えていて,軸に回転可能に設けられた車輪が第1の凹部を有する第1の側部と第2の凹部を有する第2の側部とを有し,第1の精密ベアリングが車輪と軸との間で第1の凹部に設けられていて,第2の精密ベアリングが車輪と軸との間で第2の凹部に設けられている」のに対して,刊行物1発明では,かかる構成を備えていない点。
【相違点30】本件特許発明34では,「ソールのアーチ部に隣接して結合された摺擦板をさらに備えた」のに対して,刊行物1発明では,かかる構成を備えていない点。
【相違点31】軸及び車輪に関して,本件特許発明36(及び本件特許発明37)では,「少なくとも第1の係合可能なセグメントに隣接する軸に取着された少なくとも1つの車輪を備えてい」るのに対して,刊行物1発明では,かかる構成を備えていない点。
【相違点32】軸及び車輪に関して,本件特許発明36(及び本件特許発明37)では,「軸に取着された少なくとも1つの車輪は,第1の部分,第2の部分を有していて,車輪の第1の部分が履物のソールに形成された開口部内に存在するように,また,車輪の第2の部分が履物のソールに形成された開口部の下方に存在するように係合可能なセグメントを介して装置に結合されてい」るのに対して,刊行物1発明ではかかる構成を備えていない点。
【相違点33】本件特許発明37では,「車輪は,外形を有していて,車輪の第2の部分は,車輪の外径の半分に等しいか半分より小さい量だけ,履物のソールのヒール部の最も低い位置の下方に存在する」のに対して,刊行物1発明では,かかる構成を備えていない点。
(3) 刊行物2発明の内容「一輪下駄であって,長方形の下駄台を備え,下駄台の下面の中央やや後部に空所が設けられており,空所内に軸木(ニ)で軸支される形で保持された車輪(ハ)を備えていて,これから転行を始めようとするときや停止しようとするとき,もしくは歩いて坂路を昇降するときには,下駄の進行方向前側の下面に設けられた爪立台(イ)が用いられ,車輪(ハ)は,下駄が水平なときにその最下端が下駄全体で最下方に位置するように取り付けられており,下駄の進行方向後ろの部位の下面に突出した踵台(ロ)は後方に転倒するのを防止するために用いられるものである一輪下駄。」(4)刊行物2発明と本件特許発明1,2,23,26,27,29との形式的な相違点本件特許発明1(及び本件特許発明2,23,26,27,29)では,「モードの切り換えは,つま先部から転がり手段への使用者の体重の移動によって実行され」るとしているのに対して,刊行物2発明では,モードの切り換えに関する操作内容が明らかでない点。
当事者の主張
1 審決の取消事由に関する原告の主張以下の(1)ないし(37)は,刊行物1を主引例とする審決の判断の誤りについての主張であり,(38)ないし(40)は,刊行物2を主引例とする審決の判断の誤りについての主張である。
(1) 本件特許発明1の進歩性の判断の誤りア 一致点の認定の誤り審決がした本件特許発明1と刊行物1発明との一致点の認定中,下線箇所の認定部分は,以下のとおり誤りである。
「履物のアイテムであって:つま先部,アーチ部およびヒール部を有するソールを備えていて,開口部を有していて;開口部内に保持された転がり手段を備えていて;転がり手段は,使用の際,転がらないモードにおいて,履物のアイテムの地面との本質的な接触がソールによってなされ,また,転がらないモードにおいて,履物のアイテムが転がるためにまたは滑るために操作可能ではなく,転がりモードにおいて,転がり手段は,地面上で転がることを使用者に可能にするように地面との本質的な接触を提供するように配置されていて,転がりモードにおいて転がり手段以外の部材は地面と接触せず,また,履物のアイテムは前記転がり手段以外の部材が地面と接触した場合にブレーキ状態になり,さらに,履物のアイテムを転がすための転がり手段は少なくとも第1の転がり手段を含み,モードの切り換えは,使用者の体重の移動によって実行され,ソールの接地面部は,転がりモードにおいて地面の上方に持上げられ,また,ソールの接地面部は,地面上を走行,歩行,停止する為であって,転がる為ではなく,地面と本質的な接触がなされた時に,ソールの接地面部を使用して走行,歩行,停止することが可能な履物のアイテム。」(ア)アーチ部とは文字どおりアーチ状の部分を意味する。刊行物1の底板部(a)は,全ての箇所が平坦であり,アーチ部を有するとはいえず,刊行物1は,「つま先部,アーチ部およびヒール部を有するソール」を備えていない。
(イ)開口とは,口が開いていること,外に向かって穴があくこと,又はその穴を意味する。そして,開口部といえるためには,周囲全面に開口を形成するための側壁が必要である。刊行物1の段状凹部(3)は,切欠きであって,周囲全面に側壁が存在しないので,「開口部」に相当するものではなく,刊行物1は,「開口部」を有していない。
また,刊行物1は,「開口部」を有していない以上,「開口部内に保持された転がり手段」を備えていない。
(ウ)「使用の際,転がらないモードにおいて,履物のアイテムの地面との本質的な接触」が,本件特許発明1では,「ソール」ではなく「ソールのつま先部」によって「なされ」ているの対し,刊行物1では,「外側面」によって「なされ」ている。したがって,「使用の際,転がらないモードにおいて,履物のアイテムの地面との本質的な接触がソールによってなされ」ている点で一致するとはいえない。
(エ)刊行物1では,ローラーで滑走する時は,両足の履物の底面部をいずれも内傾し,ローラー滑走後歩く時は,両足の履物の底面部を外側に戻す必要がある。すなわち,刊行物1においては,「モードの切り換え」は,両履物を内傾から外傾に移動する操作をするが,右側の履物と左側の履物との動きが対称的であり,この操作は使用者の体重移動とはならないので,「モードの切り換えは,使用者の体重の移動によって実行され」ていない。
(オ)刊行物1では,非接地踵部(4)がないと,履物を内側に傾けてもローラーが接地せず,滑走することは困難なので,非接地踵部(4)は必須の構成であり,非接地踵部(4)は,転がり手段以外の部材に該当する。しかし,非接地踵部(4)が地面に触れて摩擦ブレーキとなることはありえないので,刊行物1では,「転がり手段以外の部材が地面と接触した場合にブレーキ状態にな」るとの構成を備えていない。
(カ)本件特許発明1の「つま先部」は,単に「接地面部」であることを意味するものではなく,第1の側から第2の側に延びているつま先部の地面接触部が接地することに本件特許発明1の技術的意義があるので,「つま先部」の概念を捨象し,本件特許発明1の「つま先部」と刊行物1の「外側半部」が「接地面部」という概念で共通するというのは誤りである。
(キ)刊行物1では,片方の履物だけでは,使用者は滑走状態を維持することができず,必然的に左右の履物を内傾して滑走し,刊行物1の転がり状態(「転がりモード」)は,左右の履物が協働して始めて達成されるのに対し,本件特許発明1は,片方(右側又は左側)の履物に関する発明であり,転がり状態(「転がりモード」)の達成には他方の履物と協働する必要がなく,片方の履物の「転がりモード」であって,両者の「転がりモード」は異なるものである。したがって,「転がりモード」を有している点で一致するとはいえない。
イ 相違点1ないし3の認定の誤り(ア) 相違点1の認定の誤り刊行物1の履物においては,外側半部の接地底(1)及び踵部(2)は,転がりモードにおいて,「地面の両外側」に持ち上げられているが,「地面の上方」にも,「地面の前上方」にも持ち上げられていないことは明らかである。
また,刊行物1の履物においては,転がらないモードに変移した時,地面接触部が「一般にソールの第1の側から第2の側に延びて」いないこと(内側半部は切り欠かれており,転がらないモードでは地面に接触しない。)は明らかである。
したがって,審決の相違点1の認定中,「刊行物1発明では,外側半部の接地底(1)及び踵部(2)が,『転がりモード』において,『地面』の『上方に持上げられて』いるが,『地面の前上方に持上げられて』いるか否かが明らかでなく,転がらないモードに変移した時,外側半部の地面接触部が『一般にソールの第1の側から第2の側に延びて』いるか否かが明らかでない」との部分は誤りである。
(イ) 相違点2の認定の誤り前記ア(イ)のとおり,刊行物1の履物には「開口部」は設置されていないので,これが設置されていることを前提とした,審決の相違点2の認定は誤りである。
(ウ) 相違点3の認定の誤り刊行物1の履物では,右側の履物と左側の履物とは左右対称の動きをし,「使用者の体重の移動」はなく,まして,前後方向の体重移動はないので,刊行物1発明に「使用者の体重の移動」があることを前提とした,審決の相違点3の認定は誤りである。
ウ 相違点1の容易想到性の判断の誤り審決は,@(転がり手段と地面との本質的接触をなす部分との)「両者を履物の長手方向に配置することは,他に履物の幅方向の配置の選択肢がある以上,二者択一的なことであり,当業者であれば,本件特許発明1が採用した両者の配置を長手方向にすることは,刊行物1発明の両者が幅方向に配置された構成から容易に想到することのできるものといえる。」(審決書30頁19行〜23行),A「両者を長手方向に配置し,かつ転がり手段を履物の後半部分に設置する形式のものは,刊行物3発明,刊行物4発明がそうであるように周知の技術」であるから,「当業者であれば,両者を長手方向に配置し,その際に,『転がり手段』を履物の後半部分に,『地面との本質的接触』をなす部分を履物の前半部分に設置することは,格別困難なく採用し得たことといえる。」(以上,同30頁24行〜29行),B「開口部の位置をソールのヒール部分に設置しないと,本件訂正明細書の請求項各項に記載された発明の効果を奏するのに本質的な影響を与えるものとはいえないこと,すなわち,転がり手段を履物の台の後半部の前側から後側のどの位置に設置したとしても,使用者の体重がかかる位置を車輪が設置されている位置とすれば,転がり手段は転がることが可能であることが技術常識であって,開口部の配置位置に格別の技術的意味が存在するものとはいえないことを考慮すると,転がり手段の設置位置をさらに限定して,『ヒール部に設けられてい』るようにすること,反対に,『つま先部には設けられて』いないようにすることは,当業者において設計的事項の範疇に属するものといえる。」(同30頁35行〜31頁5行),C「さらに,相違点1の『転がり手段』と『地面との本質的接触』をなす部分は上記したような排他的関係にあり,『転がり手段』を『ヒール部』に設けた場合は,『地面との本質的な接触』をなす部分の位置は転がり手段を設けた位置以外の履物の部分となることは必然であり,該部分を転がり手段の設置位置と反対の『つま先部』とすることは,履物の機能,及び構成からみて自然であるから,「地面との本質的な接触」をなす部分,すなわち,接地面部を『つま先部』とすることも,当業者において格別困難なこととはいえない。そして,そのような配置・構造にした場合,『転がりモード』にあっては,『つま先部』の『持上』がり状態が『前上方』に持上がるのは自然であり,刊行物1発明において,『転がり手段』を履物の後半部分に,『地面との本質的接触』をなす部分を履物の前半部分に設置した場合には,履物の両側のうち一方の側(例えば,内側)と他方の側(例えば,外側)とを別構造とする必要性はないから,ソールのつま先部の地面接触部をソールの『第1の側から第2の側』(例えば,内側から外側)「に延びて」いるようにすることは,当然の事項にすぎない。」(同31頁6行〜21行)として,相違点1に係る本件特許発明1の構成は,当業者が,刊行物1発明及び上記周知の技術から容易になし得たと判断した。
しかし,審決の判断は,以下のとおり誤りである。
(ア)「転がり手段」及び「地面との本質的接触をなす部分」を長手方向に配置することの困難性a本件特許発明1と刊行物1発明とは,以下のとおり,モードの切り替え,外観等において相違がある。
@ローラーの配置及び車輪の列設本件特許発明1では,開口部が存在し,ヒール部の開口部にローラーは保持されているのに対し,刊行物1発明では,開口部が存在せず,ローラーが開口部に保持されておらず,しかも,ローラーの構造上,開口部にローラーを保持する構造を採ることはできない(開口部にローラーを保持する構造をとった場合,履物を傾けてもローラーが接地することはできないため)。
本件特許発明1では,その目的を達成するのに数多くの車輪の列設を必須としないのに対し,刊行物1の履物では,数多くの車輪の列設を必須とする。
A転がらないモード本件特許発明1では,転がらないモードにおいて,地面との本質的な接触がなされるのは,ソールの第1の側から第2の側に延びているソールのつま先部であり,このつま先部全面を接地するため,歩行,走行,停止を安定して行うことができる。すなわち,歩行,走行には,踵と母指球(親指の付け根)が重要な役割を果たし,特に,母指球を蹴り上げることにより直立二足歩行,走行が成立するが,本件特許発明1では母指球に対応する箇所が接地しているので,安定した歩行,走行ができる。また,停止は,踵と母指球と小指球(小指側の付け根)との3点で体重を支えるが,本件特許発明1では土踏まず(アーチ部が対応する)がサスペンションの役割を果たすため,安定した停止を行うことができる。
これに対し刊行物1では,転がらないモードにおいて,地面との本質的な接触がなされるのは,外側面(外側半部の接地底(1)及び踵部(2))であり,内側面(ローラー(5)及び非接地踵部(4))は接地せず,母指球に対応する箇所は接地しないため,歩行,走行時に母指球を蹴り上げる動作ができないので不自然,不安定な歩行,走行となるのみならず,使用者が,その習慣に従って,母指球を蹴り上げようとすると,履物が不用意に傾斜し,バランスが崩れて転倒したり,足首をねじり,損傷しかねない危険がある。また,母指球に対応する箇所が接地していないので,踵と小指球との2点支持となり,アーチ部が存在しないため不安定な停止状態になる。このように,刊行物1では,その構造上,歩行,走行及び停止を安定して行うことができない。
Bモードの切り替え本件特許発明1では,モードの切り替えは,つま先部から転がり手段への使用者の体重の移動によって実行され,この移動方向は前後方向であり,転がり,滑り,走行,歩行の際の移動方向に一致するため,転がりモードと転がらないモードとの変移を安定して行うことができる。
これに対し刊行物1では,モードの切り替えは,両履物を同時に動作させ,いわば内股にしたり外股にしたりする対称的な動きにより行われ,両者の動きが相殺されて使用者の体重の移動はされず,このような動作は,走行,歩行の動作には全くない動作であるため,転がりモードと転がらないモードとの変移を安定して行うことができない。
次に,本件特許発明1では,転がり手段がヒール部の開口部内に保持され,転がりモードにおいて,ソールのつま先部が地面の「前上方」に持ち上げられているので,一方の履物がこの転がりモードであれば,他方の履物との重心バランスをとることにより,転がることが可能であり,転がりモードと転がらないモードの切り換えは一方の履物に関する事項である(甲35)。
これに対し刊行物1では,ローラーが内側に装着されているので,両方の履物を同時に内側に傾けなければ転がりモードにはならず(転がりモードにおいて,ソールのつま先部は内側下,外側上となるように傾けられている。),一方の履物だけを内側に傾けた場合,使用者の重心が傾き転倒などの危険が伴い,事実上一方の履物だけでは転がりモードとすることはできないので,モードの切り換えは,左右両履物の協働事項である。
C外観履物の外観に関し,一般に,履物のヒール部は,通常つま先部に比べて厚肉である。
本件特許発明1では,厚肉のヒール部に開口部を形成し,この開口部内に転がり手段を保持することにより,履物の外観を維持したままで,転がりモードを有する履物を得ることができる。
これに対し,刊行物1では,切欠かれた箇所の履物の外側にローラーを配置しているので,ローラーが丸見えであり,履物本来の外観を維持することは全くできない。また,本来肉厚が薄いつま先部にもローラーを配置しているので,外側部分にはローラーの高さ分以上の厚さを確保しなければならず,その外観形状が特異で使用者にとって扱いにくい。
b上記のとおり,本件特許発明1と刊行物1発明の構造の違いが,モードの切り替え,外観等に関して本質的な相違をもたらしているので,刊行物1発明において,「転がり手段」及び「地面との本質的接触をなす部分」の両者を長手方向に配置することを想到することは困難であり,これが容易想到であるとした審決の判断は誤りである。
(イ) 周知技術の認定の誤りa審決が周知例として挙げる刊行物3(甲3)及び刊行物4(甲4)から,「(転がり手段と地面との本質的接触をなす部分との)両者を長手方向に配置し,かつ転がり手段を履物の後半部分に設置する形式のもの」が周知の技術であるとはいえない。
すなわち,刊行物3発明は,「スケート」の発明であり,滑板(4)はスケート滑走を行うためのものであり,これを用いて通常の走行,歩行をすることはできないこと,転子(2)は滑板(4)の補助として設けられ,転子(2)のみでスケート滑走を行うものではなく,スケート滑走を行う場合,滑板(4)と転子(2)の双方に体重がかかることはないことに照らすならば,刊行物3発明は,そもそも本件特許発明1の転がり手段と地面との本質的接触をなす部分との組合せ構造を備えていない。
次に,刊行物4発明は,「ローラースケート」の発明であり,ブレーキ突起(2)を用いて,走行,歩行するものではないことに照らすならば,刊行物4発明も,そもそも本件特許発明1の転がり手段と地面との本質的接触をなす部分との組合せ構造を備えていない。
bしたがって,「(転がり手段と地面との本質的接触をなす部分との)両者を長手方向に配置し,かつ転がり手段を履物の後半部分に設置する形式のもの」が周知の技術であるとの審決の認定は誤りであり,これが周知の技術であることを前提に,「両者を長手方向に配置し,その際に,「転がり手段」を履物の後半部分に,「地面との本質的接触」をなす部分を履物の前半部分に設置することは,格別困難なく採用し得た」との審決の判断は誤りである。
(ウ) 転がり手段を「ヒール部」にすべて配置することの困難性a直立二足歩行は,左右の足を交互に前に繰り出すことにより実行される。例えば,右足を前に繰り出す時は,右側の履物のソールのヒール部が接地するが,この状態では,ソールのつま先部は地面の前上方に持ち上げられており,ソールのヒール部及びつま先部とが同時に接地することはない。次いで,地面の前上方に持ち上げられていたソールのつま先部が接地され,同時にソールのヒール部が地面から離れる。次いで,右足のつま先部が接地された状態で,左足を前方に繰り出す。左足を前方に繰り出す際,右足のつま先部の母指球部分を蹴り上げる。繰り出された左足は,上述した右足の動作と同様のことを実行し,これを繰り返すことにより直立二足歩行が実行される。
b直立二足歩行において,履物のソールのヒール部が接地し,次いで,ソールのつま先部が接地する場合,つま先部が,ヒール部を回動中心として,地面の前上方から地面までの所定角度回動する。したがって,ヒール部に転がり手段を設けても,つま先部が地面の前上方から地面までの所定角度回動する動きを阻害することはなく,歩行を阻害することはない。
次に,直立二足歩行において,接地した右足のつま先部,特に母指球部により地面を蹴り上げて,左足を前方に繰り出す動作は,右足のつま先部(特につま先部の母指球部)と地面との間に摩擦力があることにより可能となり,この摩擦力を確保するためには,つま先部の接地面積が大きくなければならないし,特につま先部の母指球部が接地していることが必須である。
本件特許発明1では,つま先部の接地面はソールの第1の側から第2の側までの全面であり,接地面積を充分確保している。当然に母指球部に対応する箇所は接地している結果,一方の履物のつま先部と地面との摩擦力を充分確保して母指球部を蹴り上げる動作を安定して確実に行うことができる。
しかも,モードの切り替えは,直立二足歩行の動作の一環として行うことができる。例えば,転がりモードから転がらないモードへの切り替えは,直立二足歩行における履物のソールのヒール部が接地している状態から,ソールのつま先部を接地する状態にすることにより可能である。逆に,転がらないモードから転がりモードへの切り替えは,直立二足歩行における他方の履物のつま先部が接地している時に,一方の履物のヒール部を接地することにより可能である。
これに対し,刊行物1のローラーは内側面に配置されているので,履物を内傾とすることにより転がり状態としており,直立二足歩行の動作の一環として転がりモードにすることはできない。また,転がらないモードにおいても,つま先部の半分しか接地しないので,地面との設置面積が少なく,特に母指球に対応する箇所が接地していないので,摩擦力が小さいのみならず母指球を蹴り上げることができないので,歩行,走行が不自然かつ不安定となる。さらに,転がりモードは両履物を内側に傾ける(内股になる)という直立二足歩行とは関係のない動作を両履物について同時に行わなければならず,モードの切り替えを,直立二足歩行の動作の一環としては行うことはできない。
このように,刊行物1は,転がり状態においても転がらない状態においても,さらにはその切り換えにおいても,直立二足歩行におけるソールのヒール部及びつま先部,特に内側にある母指球に対応する箇所の働きを全く考慮していない。
c刊行物1の履物は,車輪以外の転がらない部分が接地している状態では,車輪は接地しておらず,一方,車輪を接地させた状態では,車輪以外の転がらない部分は接地しておらず,履物の内側の車輪列と履物の外側のソール部分とを同時に接地するという状態にないという従来の車輪付き履物と同様の設計思想に基づくものであり,歩行,走行のためのソール部分(つま先部)と,転がるためのソール部分(ヒール部)とが同時に接地するという設計思想に基づくものではない。したがって,刊行物1の履物に基づいて,転がり手段と地面との本質的接触をなす部分を履物の長手方向に配置する形式の履物を設計しようとする場合,車輪以外の転がらない部分が接地している状態では,車輪は接地しておらず,車輪を接地させた状態では,車輪以外の転がらない部分は接地していない状態になるように転がり手段を配設しようとするため,ヒール部にすべて転がり手段(車輪)を配設するということに想到することはない。
一方で,本件特許発明1は,「つま先を前上方に持ち上げた状態で転がり,普通に立ち上がっている状態では転がらない」という,従来の履物にはみられない考え方を採用したことにより,ヒール部にすべて転がり手段(車輪)を配設しても,使用者が履物を履いて転がることを可能とした。
なお,被告が主張する刊行物2(甲2)及び甲4の各履物は,いずれも車輪とつま先部とで立ち上がった状態を維持するものではなく,車輪で接地するという従来公知のローラスケートの使用方法を越えるものではない。また,甲2において,車輪のみならずつま先部をも接地させるとしても,車輪がほぼ中央部にあるため,つま先部分のうちごく一部しか接地させることができず,履物のアイテムの地面との本質的な接触がソールのつま先部によってなされることはないのに対して,本件特許発明1においては,つま先部分全体を接地させることができ,履物のアイテムの地面との本質的な接触がソールのつま先部によってなされるのであるから,安定感が全く異なり,この点において,両者に質的な相違がある。
d以上のとおり,刊行物1は,直立二足歩行におけるソールのヒール部及びつま先部の働きを全く考慮しておらず,車輪以外の転がらない部分が接地している状態では,車輪は接地しておらず,また,車輪を接地させた状態では,車輪以外の転がらない部分は接地しておらず,履物の内側の車輪列と履物の外側のソール部分とを同時に接地するという状態にないという従来の設計思想に基づくものであり,刊行物1から本件特許発明1の「ヒール部」に転がり手段をすべて設けるとの構成を得ることは困難である。したがって,これが設計的事項の範疇に属するとした審決の認定は誤りである。
(エ) 本件特許発明1の作用効果の予測困難性本件特許発明1は,転がり手段をすべてヒール部に配置することにより,転がりモードにおいては,今までの履物にはない新しい特徴的な動きを可能とし,つま先部から転がり手段までの距離が長くなり,その結果,転がり手段がソールの底面より下方向に突出していても,その傾斜を緩くすることができるので,歩行・走行の安定性に寄与し,通常の履物と同様の歩行・走行性を確保することができ,転がらないモードも安定し,安全であり,しかも,両モードの切り換えもスムーズに行えるという予測困難な作用効果を奏する(甲35ないし37)。
これに対し,刊行物2の履物は使用者の重心付近に車輪を配設して,車輪とつま先部との距離が短かく,つま先を接地したときにその傾斜がきつくなっており,両者を対比すれば,本件特許発明1の優れた効果を容易に理解できる。
なお,被告は,本件特許発明1の履物は「通常の歩行又は走行動作は不可能である。」,「停止時は,ソールのかかと部の転がり手段(車輪)により当該かかと部は地面より浮き上がり,つま先部が地面と接地している極めて不安定な状態で停止している。」などと主張するが,本件特許発明は,既に商品名「ヒーリーズ」として商品化され,当該商品は世界各国で販売され,多くの需要者に使用され,商業的成功を収めている事実(甲35〜37)を無視したもので,失当である。
また,本件特許に係る製品には,車輪の着脱が可能な履物のみならず,車輪を固定して取り外しができない履物もあり,これらはいずれも,世界中で販売され,多くの需要者に日常的に安全に使用されており,車輪を外さなければ歩行,走行が危険であるということはない。
乙1は,製造物に対する適切な情報開示義務を果たしたにすぎないものである。
(オ)以上のとおり,刊行物1発明において,「転がり手段」及び「地面との本質的接触をなす部分」を長手方向に配置すること,転がり手段を「ヒール部」にすべて配置することはいずれも困難であること,審決の周知技術の認定に誤りがあること,本件特許発明1の作用効果の予測困難性に照らすならば,相違点1に係る本件特許発明1の構成が容易想到であるとした審決の判断は誤りである。
エ 相違点2の容易想到性の判断の誤り審決は,「『開口部』は,『転がり手段』を収容するためのものであるから,相違点1の「転がり手段」の設置位置が決まれば,必然的にそれに従ってその設置位置が決まるものである。そして,転がりモードと転がらないモードを選択的に採用し得る履物において開口部をヒール部分の裏面に形成し,その開口部に転がり手段を設けたものが,刊行物5の図2,刊行物6の図2に示されているように周知の技術であることを考慮すると,『開口部』の設置位置を『ヒール部』に形成することも,当業者において,格別困難なこととはいえない。」(審決書31頁26行〜33行)として,相違点2に係る本件特許発明1の構成は,当業者が,刊行物1発明及び上記周知の技術から容易になし得たと判断した。
しかし,審決の判断は,以下のとおり誤りである。
前記ア(イ)のとおり,刊行物1は凹状段部という切欠き部分を備えているが,開口部を備えていないので,刊行物1に開口部があることを前提とした相違点2の判断は誤りである。
しかも,刊行物1は開口部に転がり手段を設けることができない設計思想を有しているのであるから,「開口部に転がり手段を設けたもの」(刊行物5の図2,刊行物6の図2)を刊行物1に適用することはできない。
オ 相違点3の容易想到性の判断の誤り審決は,「上記相違点1についてで,刊行物1発明から当業者が容易になし得るものと説示した,接地面部と『転がり手段』との配置構成として,両者を履物の長手方向の前後に配置する形式のものでは,使用者の体重の移動は,『つま先部』と『ヒール部』との間の移動となることが必定といえる」(審決書31頁38行〜32頁2行)として,相違点3に係る本件特許発明1の構成は,当業者が,刊行物1発明及び上記周知の技術から容易に想到し得たと判断した。
しかし,本件特許発明1を「接地面部と「転がり手段」との配置構成として,両者を履物の長手方向の前後に配置する形式」と抽象化して具体的な構成を捨象した審決の認定判断は誤りであり,また,刊行物1から本件特許発明1の配置構成を想到することが困難であることは既に述べたとおりである。
(2) 本件特許発明2の進歩性の判断の誤り前記(1)アないしオと同旨(3) 本件特許発明3の進歩性の判断の誤りア前記(1)アないしオと同旨イ相違点4の認定判断の誤り審決は,「刊行物1発明に上記周知の開口部をヒール部分の裏面に形成して,その開口部に転がり手段を設ける技術を適用したものは,刊行物1発明の『段状凹部(3)』が周知の技術の開口部に置き換えられたものといえ,そうしたものは,相違点4に係る本件特許発明3の発明特定事項と実質的に相違するものとはいえない。」(審決書33頁7行〜11行)として,相違点4に係る本件特許発明3の構成は,当業者が,刊行物1発明及び周知の技術から容易に想到し得たと判断した。
しかし,刊行物1に開口部は存在しないこと,刊行物1のローラーは,ソールの底面より没入した箇所に配置されており,この構成は必須であること,刊行物1に,開口部に転がり手段を設ければ,開口部より没入した箇所に転がり手段を配置することができないことに照らすならば,相違点4に関する審決の認定判断は誤りである。
(4) 本件特許発明4の進歩性の判断の誤りア前記(1)アないしオ,(3)イと同旨イ相違点5の認定判断の誤り審決は,「転がりモードと転がらないモードを選択的に採り得る履物において開口部をヒール部分の裏面に形成し,その開口部に転がり手段を設けたものは,周知の技術であることは,上記・・・で説示したとおりであるが,該周知の技術に関連して,該転がり手段の露出態様を具体化した相違点5にかかる『転がり手段の開口部内に保持されている部分は,開口部の外側にある転がり手段の部分よりも大きい』点も,同じく刊行物5の図1,刊行物6の図1に示されているように周知の技術である。」(審決書33頁27行〜33行)として,相違点1に関して説示したことを考慮すると,当業者が,刊行物1発明及び上記周知の技術から相違点5に係る本件特許発明4の構成を容易に想到し得たと判断した。
しかし,刊行物1発明では,転がり手段は開口部内に保持されておらず,また,転がり手段であるローラーは,ソールの底面より没入しており,刊行物1発明は「転がり手段の開口部内に保持されている部分は,開口部の外側にある転がり手段の部分よりも大きい」との構成を備えていないことに照らすならば,相違点5に関する審決の認定判断は誤りである。
(5) 本件特許発明5の進歩性の判断の誤り前記(1)アないしオ,(3)イ,(4)イと同旨(6) 本件特許発明6の進歩性の判断の誤りア前記(1)アないしオと同旨イ相違点6の認定判断の誤り審決は,「相違点6は,要するに,転がり手段が,車輪で,固定軸に回転自在に取り付けられ,かつ,固定軸の両端部分が第1のセグメントと第2のセグメントにより固定保持されてなる態様を規定したものと解せる。」,「刊行物1発明は,『ローラー(5)・・・(5)を支軸(51)により回動自在に装着した』ものであり,固定軸に対してローラー(5)・・・(5)が回転可能か,ローラー(5)・・・(5)を軸着した軸が回転可能かは明らかではないが,転がり手段が,車輪で,固定軸に回転自在に取り付けられたものは,刊行物7の図面,刊行物16の図8に示されているように周知の技術である。」(以上,審決書34頁22行〜30行)として,当業者が,刊行物1発明及び上記周知の技術から相違点6に係る本件特許発明6の構成を容易に想到し得たと判断した。
しかし,刊行物1のローラーを支えている軸は,一端が保持されているが,他端は自由端であり,第1のセグメントと第2のセグメントとに保持されている態様ではなく,また,刊行物1のローラーは履物の内側に装着され,他端が開放されているので,第1のセグメントと第2のセグメントとに保持する構成を採用することはできない。
また,審決は刊行物7,16を挙げ,「転がり手段が,車輪で,固定軸に回転自在に取り付けられたものは,刊行物7の図面,刊行物16の図8に示されているように周知の技術である。」と認定しているが,刊行物7の図面,刊行物16の図8に示されている車輪は開口部内に保持されているものではない。
さらに,刊行物1のローラーは,履物の内側に装着され,他端が開放されているので,刊行物7の図面,刊行物16の図8に示されている車輪の取り付けをすることができない。
したがって,刊行物1発明に上記周知の技術を適用して,相違点6に係る本件特許発明6の構成とすることは当業者が容易に想到し得たとの審決の判断は誤りである。
(7) 本件特許発明7の進歩性の判断の誤りア前記(1)アないしオ,(6)イと同旨イ相違点7の認定判断の誤り審決は,「相違点7に係る転がり手段は,ローラースケート靴の分野で刊行物7の図面に記載されているように周知の技術である。」(審決書35頁11行〜12行)として,当業者が,「刊行物1発明における支軸(51)により回動自在に装着したローラー(5)・・・(5)に上記相違点6に係る周知の技術を適用して」(同35頁13行〜14行)相違点7に係る本件特許発明7の構成を容易に想到し得たと判断した。
しかし,刊行物7の転がり手段は,開口部内に保持されているものではないこと,刊行物1のローラーは履物の内側に装着され,他端が開放されているので,刊行物7に示されている転がり手段の取り付けをすることができないことに照らすならば,相違点7に関する審決の認定判断は誤りである。
(8) 本件特許発明8の進歩性の判断の誤りア前記(1)アないしオ,(6)イ,(7)イと同旨イ相違点8の認定判断の誤り審決は,「車輪装置一般において,ベアリングにリングクリップの範疇に含まれる,スナップリングを使用することは,刊行物8の第2図に示されているように周知の技術である。」(審決書35頁29行〜31行)として,当業者が,「刊行物1発明における支軸(51)により回動自在に装着したローラー(5)・・・(5)に上記周知のリングクリップを適用して」(同35頁32行〜33行)相違点8に係る本件特許発明8の構成を容易に想到し得たと判断した。
しかし,刊行物8は単にベアリングの支持構造を示しただけであり,軸が回転を阻止するように設けられていることや,軸に支持された車輪が開口部内に設けられていることなどの開示がないことに照らすならば,相違点8に関する審決の認定判断は誤りである。
(9) 本件特許発明9の進歩性の判断の誤りア前記(1)アないしオ,(3)イ,(4)イと同旨イ相違点9の認定判断の誤り審決は,「刊行物1発明の『底板部(a)の底面部を,その長さ方向に沿うほぼ中央で二分して外側半部を接地底(1)とし,これに続く後端部は踵部(2)とするとともに,前記接地底(1)及び踵部(2)に対応する内側はその厚さを薄くして段状凹部(3)及び被接地踵部(4)とし,前記段状凹部(3)にローラー(5)・・・(5)をその外周縁が接地底(1)よりも少許ばかり内方に入るように装着し』たものでは,その機能及び構造からみて,底板部(a)自体が,使用者の体重を受け,かつ,ローラーに伝達し,転がり状態の制御に寄与するものと理解することが相当であり,本件特許発明9の『ヒール制御板』が奏する機能と同等の機能を奏するものといえる。」(審決書36頁29行〜末行)として,刊行物1発明は,実質的に相違点9に係る構成を備えてなるものといえると認定判断した。
しかし,刊行物1の段状凹部(3)は開口部ではなく,また,軸はいわゆる片持ち梁の形態で,ローラーの力は主に側面の板にかかり,刊行物1の底板部(a)は構成,機能において本件特許発明9のそれとは異なることに照らすならば,相違点9に関する審決の認定判断は誤りである。
(10) 本件特許発明10の進歩性の判断の誤りア前記(1)アないしオ,(3)イ,(4)イ,(9)イと同旨イ相違点10の認定判断の誤り審決は,「相違点10のように,『転がり手段の第2の部分』を,『転がり手段の外径の半分に等しいか半分より小さい量だけ,履物のソールのヒール部の底面の最も低い位置の下方に存在するもの』とした点は,当業者において必要に応じて適宜なし得る設計的事項といえる。」(審決書37頁20行〜23行)として,本件特許発明10の進歩性を否定した。
しかし,相違点10に係る本件特許発明10の構成は,転がりモードにおいても安定して転がることができ,また,転がらないモードにおいてもヒール部の接地からつま先部への接地への移行を円滑に行うことができるものであるが,このことを考慮していない審決の認定判断は誤りである。
(11) 本件特許発明11の進歩性の判断の誤りア前記(1)アないしオ,(3)イ,(4)イ,(9)イ,(10)イと同旨イ相違点11の認定判断の誤り審決は,「ソールのアーチ部にプラスチック等の部材を当てて摺動させることのできる履物は,刊行物10・・・に記載されているように周知の技術である。」(審決書38頁5行〜7行)として,当業者が,刊行物1発明に上記周知の技術を適用して相違点11に係る本件特許発明11の構成を容易に想到し得たと判断した。
しかし,刊行物10は,車輪がないことを必須の要件とし,車輪(転がり手段)を必須の構成とする本件特許発明11とは異なること,そもそも,刊行物1には,ソールのアーチ部がなく,アーチ部がないことが必須の構成といえるから,刊行物1からアーチ部にプラスチック等の部材を当てて摺動させるということは全く想到できないことに照らすならば,相違点11に関する審決の認定判断は誤りである。
(12) 本件特許発明12の進歩性の判断の誤りア前記(1)アないしオと同旨イ相違点12の認定判断の誤り審決は,「ソールに2つの回転機構が収納される開口部を並列に設けたものは,刊行物6に記載されているように周知の技術である。」(審決書38頁21行〜22行)として,当業者が,刊行物1発明に上記周知の技術を適用して相違点12に係る本件特許発明12の構成を容易に想到し得たと判断した。
しかし,刊行物6の開口部は,履物の両側に設け,ここに車輪を設けているので,刊行物6から,「ソールに2つの回転機構が収納される開口部を並列に設けたものは周知の技術である」とはいえない。一方,刊行物1では,開口部に車輪を保持する構造を採用することはできず,まして,両側に車輪を設けてしまえば,走行するという機能が失われる。
したがって,相違点12に関する審決の認定判断は誤りである。
(13) 本件特許発明13の進歩性の判断の誤りア前記(1)アないしオと同旨イ相違点13の認定判断の誤り審決は,「相違点13は,相違点11と共通するから,相違点11に関して上記・・・で説示したことを考慮すると」(審決書39頁1行〜2行),当業者が,相違点13に係る本件特許発明13の構成を容易に想到し得たと判断した。
しかし,刊行物1にはアーチ部が存在しないし,そもそも存在し得ないのであるから,ソールのアーチ部に結合された摺擦板が公知であるとしても,刊行物1にこれを組み合わせることはできないことに照らすならば,相違点13に関する審決の認定判断は誤りである。
(14) 本件特許発明14の進歩性の判断の誤りア前記(1)アないしオ,(13)イと同旨イ相違点14の認定判断の誤り審決は,「唯一の転がり手段がヒール部近傍に設けられているものは,刊行物2発明,刊行物3発明がそうであるように周知の技術であり,『ソールのつま先部はローラーを備えていない』点は相違点1に含まれる。」(審決書39頁16行〜18行)として,相違点1ないし3で説示したことを考慮すると,当業者が,「刊行物1発明に上記周知の技術を適用する際に,同時に該周知の唯一の転がり手段をヒール部近傍に設ける技術を適用して」(同39頁20行〜21行)相違点14に係る本件特許発明14の構成を容易に想到し得たと判断した。
しかし,審決は,刊行物2,3のローラーがヒール部近傍に設けられていることをもって,ヒール部に設けられていると判断したが,この点が誤りであることに照らすならば,相違点14に関する審決の認定判断は誤りである。
(15) 本件特許発明15の進歩性の判断の誤り前記(1)アないしオ,(13)イ,(14)イと同旨(16) 本件特許発明16の進歩性の判断の誤りア前記(1)アないしオ,(13)イ,(14)イと同旨イ相違点15の認定判断の誤り審決は,「地面と接触する履物のソールのヒール部の部分はブレーキとして機能する部分であるから,耐摩耗性を要求されることは当然であり,耐摩耗性を達成するために耐摩耗性材料で形成して相違点15に係る本件特許発明16の発明特定事項とする程度のことは当業者が必要に応じてなし得る設計的事項にすぎない。」(審決書40頁11行〜15行)として,本件特許発明16の進歩性を否定した。
しかし,本件特許発明1(16)は,ソールのつま先部を使用して,走行,歩行,停止をするものであり,ヒールブレーキ状態において地面と接触する履物のソールのヒール部分は,走行,歩行,停止の機能ではなく,ブレーキとしての機能が求められているので,当該箇所を耐摩耗性材料としている。これに対し,刊行物1の踵部分は,走行,歩行,停止の機能が求められているのであるから,一義的にこの機能に適した材料でなければならない。また,刊行物1には,走行,歩行,停止の機能に適した材料を用いずに,ブレーキとしての機能に適した材料を選択することの記載も示唆もない。
したがって,相違点15に関する審決の認定判断は誤りである。
(17) 本件特許発明17の進歩性の判断の誤り前記(1)アないしオ,(13)イ,(14)イ,(16)イと同旨(18) 本件特許発明18の進歩性の判断の誤りア前記(1)アないしオ,(13)イ,(14)イ,(16)イと同旨イ相違点16の認定判断の誤り審決は,「転がり手段としての車輪やローラに替えて,球形のボールを採用し,相違点16に係る本件特許発明18の発明特定事項とすることは,ボールベアリングのボールで知られるように,球形のボールが転がり手段として周知の技術であることを考慮すると」(審決書40頁末〜41頁3行),当業者が,相違点16に係る本件特許発明18の構成を容易に想到し得たと判断した。
しかし,球形のボールを履物の転がり手段に適用した公知例を示すことなく,用途の全く異なるボールベアリングを例示して周知技術であるとした認定判断は誤りであることに照らすならば,相違点16に関する審決の認定判断は誤りである。
(19) 本件特許発明19の進歩性の判断の誤り前記(1)アないしオ,(13)イ,(14)イ,(16)イと同旨(20) 本件特許発明20の進歩性の判断の誤りア前記(1)アないしオと同旨イ相違点17の認定判断の誤り審決は,「車輪を取り外し可能としたローラー付きの靴は,刊行物5の図4に示されているように周知の技術である。」(審決書41頁24行〜25行)として,相違点1ないし3で説示したことを考慮すると,当業者が,「刊行物1発明に上記周知の技術を適用する際に,車輪を取り外し可能としたローラー付きの靴に関する該周知の技術を適用して」(同41頁26行〜28行)相違点17に係る本件特許発明20の構成を容易に想到し得たと判断した。
しかし,刊行物1の履物からローラーを取り外すと,内側半分が欠け,履物として使用することができない欠陥履物になるので,刊行物1の履物のローラーを取り外すという動機付けが全くないことに照らすならば,相違点17に関する審決の認定判断は誤りである。
(21) 本件特許発明21の進歩性の判断の誤りア前記(1)アないしオと同旨イ相違点18の認定判断の誤り審決は,「車輪を履物のソールに形成された開口部内に引き込み可能に取り付けたものは,刊行物6の図1,刊行物13の第1図及び第3図に示されているように周知の技術である。」(審決書42頁3行〜5行)として,相違点1ないし3で説示したことを考慮すると,当業者が,「刊行物1発明に上記周知の技術を適用する際に,車輪を取り外し可能としたローラー付きの靴に関する該周知の技術を適用して」(同42頁6行〜8行)相違点18に係る本件特許発明21の構成を容易に想到し得たと判断した。
しかし,「引き込み可能」という意味は,突出状態のものが引き込み可能というものであり,刊行物1ではローラーがもともと凹状段部内にいわば引き込まれており,刊行物1のローラーを引き込み可能とする動機付けが全くないこと,刊行物1では開口部にローラーを保持することはできないことに照らすならば,相違点18に関する審決の認定判断は誤りである。
(22) 本件特許発明22の進歩性の判断の誤りア前記(1)アないしオ,(3)イ,(4)イと同旨イ相違点19の認定判断の誤り審決は,「ローラースケートにおいて,その車輪回転機構を覆うための取り外し可能のカバー部材を設けたものは,刊行物14の図1,刊行物15の図4に示されているように周知の技術である。」(審決書42頁23行〜25行)として,相違点1ないし3で説示したことを考慮すると,当業者が,「刊行物1発明に上記周知の技術を適用する際に,車輪回転機構を覆うための取り外し可能のカバー部材を設けた該周知の技術を適用して」(同42頁26行〜28行)相違点19に係る本件特許発明22の構成を容易に想到し得たと判断した。
しかし,刊行物14の図1,刊行物15の図4は,開口部内に転がり手段があるものでも,開口部の下方に転がり手段の第2の部分が存在するものでも,この第2の部分を覆うためのものでもなく,単に周知のカバー部材を刊行物1に適用しても,本件特許発明22を想到することはできないことに照らすならば,相違点19に関する審決の認定判断は誤りである。
(23) 本件特許発明23の進歩性の判断の誤り前記(1)アないしオと同旨(24) 本件特許発明24の進歩性の判断の誤りア前記(1)アないしオと同旨イ相違点20の認定判断の誤り審決は,「相違点20に係る転がり手段に相当するものは,ローラースケート靴の分野で刊行物11の図3及び刊行物16の図1に示されているように周知の技術である。」(審決書43頁16行〜18行)として,相違点1ないし3で説示したことを考慮すると,当業者が,「刊行物1発明に上記周知の技術を適用する際に,相違点20に係る転がり手段に相当する該周知の技術を適用して」(同43頁19行〜21行)相違点20に係る本件特許発明23の構成を容易に想到し得たと判断した。
しかし,刊行物11,16の転がり手段は,刊行物1と同様に,ヒールの開口部内に設けられたものではないこと照らすならば,相違点20に関する審決の認定判断は誤りである。
(25) 本件特許発明25の進歩性の判断の誤りア前記(1)アないしオ,(24)イと同旨イ相違点21の認定判断の誤り審決は,「ローラースケートの分野において,いわゆるウレタンタイヤと称されるコアを有する2部品構造のものは,刊行物17・・・に記載されているように周知の技術である。」(審決書43頁36行〜44頁1行)として,相違点1ないし3で説示したことを考慮すると,当業者が,「刊行物1発明に上記周知の技術を適用する際に,上記2部品構造の周知の技術を適用して」(同44頁2行〜3行)相違点21に係る本件特許発明25の構成を容易に想到し得たと判断した。
しかし,刊行物17の転がり手段は,刊行物1と同様に,ヒールの開口部内に設けられたものではないことに照らすならば,相違点21に関する審決の認定判断は誤りである。
(26) 本件特許発明26の進歩性の判断の誤りア審決がした本件特許発明26と刊行物1発明との一致点の認定は,前記(1)アと同様に誤りである。
イ相違点22の認定判断の誤り審決は,「当業者であれば,本件特許発明26が採用したように,接地面部及び『履物を転がすための車輪』の配置を長手方向にし,かつ,その際に,『履物を転がすための車輪』の『全て』を履物の後半部分に,接地面部を履物の前半部分に設置することは,格別困難なく採用し得たことといえる。」,「また,車輪の設置位置をさらに限定して,『ヒール部に設けられてい』るようにすること,反対に,『つま先部には設けられていない』ようにすることは,当業者において設計的事項の範疇に属するものといえる。」,「さらに,接地面部を『つま先部』とすることも,当業者において格別困難なこととはいえない。」,「そして,そのような配置・構造にした場合,転がらないモードに変移した時,接地面部,すなわち,『つま先部』が『一般にソールの第1の側から第2の側に延びて』いる構造を採用することは,機能及び構造からみて,当業者が通常,選択する選択肢の1つといえ,格別困難なこととはいえない。」(以上,審決書46頁13行〜26行)として,当業者が,刊行物1発明及び上記周知の技術から相違点22に係る本件特許発明26の構成を容易に想到し得たと判断した。
しかし,車輪の設置位置をすべてヒール部に設けること,接地面部をつま先部とし,「つま先部」が「一般にソールの第1の側から第2の側に延びて」いる構造を採用することは,単なる設計事項ではないことに照らすならば,相違点22に関する審決の認定判断は誤りである。
ウ相違点23の認定判断の誤り審決は,「『車輪』のソールにおける設置位置が決まれば,転がり状態の態様は決まるものであるから,相違点23は,『車輪』のソールにおける位置関係に依るものであり,相違点22に係る『車輪』が『ヒール部に設けられていてつま先部には設けられていない』状態であれば,『ヒール転がり状態』をなすものといえる。」,「また,その状態においては,相違点23に係る『履物のつま先部の底面が地面の上方に持上げられている』要件を満足しているといえる。」,「そして,本件特許発明26の有する発明の効果は,刊行物1発明並びに上記周知の技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。」(以上,審決書46頁31行〜末行)として,当業者が,刊行物1発明及び上記周知の技術から相違点23に係る本件特許発明26の構成を容易に想到し得たと判断した。
しかし,相違点23は単なる設計事項ではないこと照らすならば,相違点23に関する審決の認定判断は誤りである。
(27) 本件特許発明27の進歩性の判断の誤り審決は,「本件特許発明27は,本件特許発明26を引用し,その『車輪』限定したものであり,刊行物1発明と対比すると,刊行物1発明の『ローラー(5)・・・(5)』は,本件特許発明27の『軸の設けられた1つ以上の車輪を備え』たものに相当するから,相違点22ないし23の他に,特に相違点は認められない。」(審決書47頁4行〜8行)と認定判断した。
しかし,審決には,前記(26)と同旨の誤りがあるほか,本件特許発明27の車輪はヒール部に設けられ,つま先部に設けられていないことが前提であることに照らすならば,履物の内側面につま先部から複数のローラーが列設されていることを理由に,刊行物1との相違点がないとの審決の認定判断は誤りである。
(28) 本件特許発明28の進歩性の判断の誤りア前記(26)と同旨。
イ 相違点24の認定判断の誤り審決は,「相違点24に係る『第1の軸に加え,第2の軸をさらに備え,第2の軸に設けられた第2の車輪が転がり状態の間転がるために地面と接触する』転がり手段に相当するものは,刊行物6の図2及び刊行物18の図2に示されているように,歩行とローラースケートの両方が可能な履物の分野で周知の技術である。」(審決書47頁23行〜27行)として,当業者が,「相違点22ないし23に関して上記・・・で説示した刊行物1発明に上記周知の技術を適用する際に,相違点24に係る上記周知の技術を適用して」(同47頁28行〜30行)相違点24に係る本件特許発明28の構成を容易に想到し得たと判断した。
しかし,刊行物6,18は,両側に車輪を設けた構造を開示しているが,刊行物1にこの構造を適用しようとした場合,外側に車輪を設けることになり,このような構造では,歩くための底面がなくなり,刊行物1の目的を達成することができなくなり,刊行物1に,刊行物6,18を組み合わせることに阻害要因があることに照らすならば,相違点24に関する審決の認定判断は誤りである。
(29) 本件特許発明29の進歩性の判断の誤り前記(1)アないしオと同旨。
(30) 本件特許発明30の進歩性の判断の誤りア前記(26)と同旨。
イ 相違点25の認定判断の誤り審決は,「相違点25に係る,軸が,『第1のセグメントと第2のセグメントとを有し』,さらに『軸の第1の部分と軸の第2の部分との間の軸に回転可能に設けられた車輪を備え』ているものは,刊行物5の図4に示されているように,歩行とローラースケートの両方が可能な履物の分野で周知の技術である。」(審決書49頁13行〜16行)として,当業者が,「相違点22ないし23に関して上記・・・で説示した刊行物1発明に上記周知の技術を適用する際に,相違点25に係る上記周知の技術を適用して」(同49頁17行〜19行)相違点25に係る本件特許発明30の構成を容易に想到し得たと判断した。
しかし,刊行物1は,車輪を一端のみで支持する構造であり,刊行物5の図4の構造を刊行物1の構造に適用するには阻害要因があることに照らすならば,相違点25に関する審決の認定判断は誤りである。
ウ 相違点26の認定判断の誤り審決は,「ヒール部に開口部を有する相違点については,・・・相違点2として挙げられており,また,『開口部をソールの少なくとも一部分に形成された』としても,刊行物1発明との間に,新たな相違点を加えるものとはいえない。」(審決書49頁22行〜25行)として,相違点1ないし3で説示したと同様の理由から,当業者が,相違点26に係る本件特許発明30の構成を容易に想到し得たと判断した。
しかし,刊行物1は,底部を切欠いた箇所にローラーを配置しており,開口部に車輪を配置した構造ではないことに照らすならば,相違点26に関する審決の認定判断は誤りである。
エ 相違点27の認定判断の誤り審決は,「相違点27は,それが『車輪』に関する相違点であり,相違点4が『転がり手段』に関する相違点であることを除いて,相違点4と共通するが,上記・・・相違点4についての説示は,『転がり手段』が『車輪』に限定されてもいえることから」(審決書49頁30行〜33行),当業者が,「刊行物1発明におけるローラー(5)・・・(5)に上記周知の技術を適用して」(同49頁34行〜35行)相違点27に係る本件特許発明30の構成を容易に想到し得たと判断した。
しかし,履物の内側にローラーを配置し,ローラーは履物の底面よりも没入していることが必須の構成である刊行物1からは,車輪の第2の部分が履物のソールに形成された開口部の下方に存在するようにすることはできないことに照らすならば,相違点27に関する審決の認定判断は誤りである。
(31) 本件特許発明31の進歩性の判断の誤りア前記(26),(30)イないしエと同旨。
イ 相違点28の認定判断の誤り審決は,「相違点28と本件特許発明3を引用する本件特許発明4に係る相違点5とは,相違点28が『車輪』に関する相違点であるのに対し,相違点5が『転がり手段』に関する相違点であることを除いて共通し,相違点5についての上記・・・説示は,『転がり手段』が『車輪』に限定されてもいえる」(審決書50頁10行〜14行)として,当業者が,相違点28に係る本件特許発明31の構成を容易に想到し得たと判断した。
しかし,刊行物1のローラーは,開口部内に設けておらず,切欠かれた履物の底面から突出しないように没入して配置されていることが必須の構成であり,履物の底面から下方に突出する車輪の第2の部分を設けること自体想到することができないことに照らすならば,相違点28に関する審決の認定判断は誤りである。
(32) 本件特許発明32の進歩性の判断の誤りア前記(26),(30)イないしエと同旨。
イ 相違点29の認定判断の誤り審決は,「相違点29と相違点7とでは,相違点29が『車輪』に関する相違点であるのに対し,相違点7が『転がり手段』に関する相違点であることを除いて共通し,相違点7についての上記・・・説示は,『転がり手段』が『車輪』に限定されてもいえる」(審決書50頁30行〜33行)として,当業者が,相違点29に係る本件特許発明32の構成を容易に想到し得たと判断した。
しかし,相違点7に関する認定判断と同様に相違点29の認定判断は誤りである。
(33) 本件特許発明33の進歩性の判断の誤り前記(26),(30)イないしエと同旨。
(34) 本件特許発明34の進歩性の判断の誤りア前記(26),(30)イないしエと同旨。
イ 相違点30の認定判断の誤り審決は,「本件特許発明10を引用する本件特許発明11に係る相違点11は,『ソールのアーチ部に隣接して結合された摺擦板を備えたものである』点を含むものであり,相違点30と共通する。したがって,該相違点11に係る上記・・・説示を考慮すれば」(審決書51頁21行〜25行),当業者が,相違点30に係る本件特許発明34の構成を容易に想到し得たと判断した。
しかし,相違点11に関する認定判断と同様に相違点30の認定判断には誤りがある。
(35) 本件特許発明35の進歩性の判断の誤り前記(26),(30)イないしエと同旨。
なお,審決は,「本件特許発明35は,本件特許発明30を引用し,要するにその『車輪』の数を『1つ以上』としたものと認められる。そうとすれば,刊行物1発明の『ローラー(5)・・・(5)』のローラーの数は複数であるから『1つ以上の車輪』に相当し,かかる要件を満足する」(審決書51頁28行〜32行)と判断する。しかし,本件特許発明35の車輪は,ヒール部に設けられ,つま先部には設けられていないのに対し,刊行物1のローラーはつま先部を含めて履物の内側に列設されているのであるから,単にローラーが複数であることを理由に車輪の数が複数であるとの要件を充足しているとした審決の認定判断は誤りである。
(36) 本件特許発明36の進歩性の判断の誤りア前記(26),(30)イないしエと同旨。
イ 相違点31の認定判断の誤り審決は,「ローラースケートの車輪構造として『少なくとも第1の係合可能なセグメントに隣接する軸に取着された少なくとも1つの車輪を備えて』なるものは,刊行物19及び20に記載されているように周知の技術である。」(審決書52頁19行〜21行)として,当業者が,刊行物1発明に上記周知の技術を適用して,相違点31に係る本件特許発明36の構成を容易に想到し得たと判断した。
しかし,刊行物1のローラーは履物内側の切欠き部分に装着されることが必須の構成であり,刊行物1においては,刊行物19,20のように軸の両側に車輪を設けた構造を採ることはでず,刊行物1に,刊行物19,20記載の技術を適用することはできないことに照らすならば,相違点31に関する審決の認定判断は誤りである。
ウ 相違点32の認定判断の誤り審決は,「相違点32と相違点4は,相違点32が『車輪』に関する相違点であり,相違点4が『転がり手段』に関する相違点であることを除いて,共通し,相違点4についての上記・・・説示したことは,『転がり手段』が『車輪』に限定されてもいえる」(審決書52頁27行〜30行)として,当業者が,相違点32に係る本件特許発明36の構成を容易に想到し得たと判断した。
しかし,刊行物1はローラーが履物内側の切欠き内に没入していることを必須の構成とするものであって,「車輪の第2の部分が履物のソールに形成された開口部の下方に存在する」との構成自体をとることができないことに照らすならば,相違点32に関する審決の認定判断は誤りである。
(37) 本件特許発明37の進歩性の判断の誤りア前記(26),(30)イないしエ,(36)イ,ウと同旨。
イ 相違点33の認定判断の誤り審決は,「相違点33と相違点10とでは,相違点33が『車輪』に関する相違点であり,相違点10が『転がり手段』に関する相違点であることを除いて,共通し,相違点10についての上記・・・で説示したことの検討は,『転がり手段』が『車輪』に限定されてもいえる」(審決書53頁8行〜11行)として,当業者が,相違点33に係る本件特許発明37の構成を容易に想到し得たと判断した。
しかし,前記(36)イと同様の理由により,相違点33に関する審決の認定判断は誤りである。
(38)本件特許発明1の新規性進歩性の判断(刊行物2を主引例とする審決の判断)の誤り審決は,@本件特許発明1と刊行物2発明は,「履物のアイテムであって:つま先部,アーチ部およびヒール部を有するソールを備えていて,ヒール部はそれに形成された開口部を有していて;ヒール部の開口部内に保持された転がり手段を備えていて;転がり手段は,使用の際,転がらないモードにおいて,履物のアイテムの地面との本質的な接触がソールのつま先部によってなされ,また,転がらないモードにおいて,履物のアイテムが転がるためにまたは滑るために操作可能ではなく,転がりモードにおいて,転がり手段は,地面上で転がることを使用者に可能にするように地面との本質的な接触を提供するように配置されていて,転がりモードにおいて転がり手段以外の部材は地面と接触せず,また,履物のアイテムは前記転がり手段以外の部材が地面と接触した場合にブレーキ状態になり,さらに,履物のアイテムを転がすための転がり手段は少なくとも第1の転がり手段を含み,すべてヒール部に設けられていてつま先部には設けられていず,ソールのつま先部は,転がりモードにおいて地面の前上方に持上げられ,また,ソールのつま先部は,地面上を走行,歩行,停止する為であって,転がる為ではなく,転がらないモードに変移した時,ソールのつま先部の地面接触部は一般にソールの第1の側から第2の側に延びており,地面と本質的な接触がなされた時に,ソールのつま先部を使用して走行,歩行,停止することが可能な履物のアイテム。」(審決書55頁2行〜20行)である点で一致し,「本件特許発明1では,『モードの切り換えは,つま先部から転がり手段への使用者の体重の移動によって実行され』としているのに対して,刊行物2発明では,モードの切り換えに関する操作内容が明らかでない点。」(同55頁23行〜25行)で一応相違するが(相違点1),A「刊行物2発明においても,モード移行の操作方法は使用者の体重の移動によって実行されるものといえるから,相違点1にかかるモードの切り換えの点において,刊行物2発明のものも,本件特許発明1のものと実質的に相違するものではない。」(同55頁末行〜56頁3行)として,B「本件特許発明1は,刊行物2発明と同一であり,少なくとも当業者が刊行物2発明に基づき容易になし得たものである。」(同56頁4行〜5行)と判断した。
しかし,審決の判断は,以下のとおり誤りである。
ア(ア)刊行物2は,「これから転行を始めようとするとき」及び「歩いて坂路を昇降するとき」にのみソールのつま先部を用いるのであるから,本件特許発明1の転がらないモードには相当しない。また,刊行物2のつま先部は湾曲しているので,つま先部全面が接地するのではなく,その一部が線接触するにすぎない。
したがって,刊行物2は,「転がらないモードにおいて,履物のアイテムの地面との本質的な接触がソールのつま先部によってな」すものではない。
(イ)本件特許発明1において,「ソールのつま先部が地面の前上方に持上げられ」とは,水平状態を基準として,つま先部を前上方に持ち上げるという動作を伴った結果生じる状態を意味し,単に地面から離れているという状態を意味するものではない。したがって,刊行物2において,単に下駄が水平な時に,車輪(ハ)の最下端が下駄全体で最下方に位置するように取り付けられていることをもって,「ソールのつま先部は,転がりモードにおいて地面の前上方に持上げられている」との構成を備えているとはいえない。このことは,刊行物2のつま先部を前上方に持ち上げると,履物の転がりを妨げ,この点で本件特許発明1とは全く異なる構造であることからも明らかである。
(ウ)刊行物2において,足の部位につま先やアーチ,ヒールが存在することをもって,使用者の足裏全体を載せ得る履物が「つま先部,アーチ部およびヒール部を有するソールを有している」とはいえない。
アーチ部とは文字どおりアーチ状の部分を意味するのであるから,刊行物2の履物のソールがつま先部とヒール部との間にアーチ部を備えているということはできない。
(エ)刊行物2の履物は「ヒール部」には「転がり手段」を設けられていない。本件特許発明1の転がり手段はすべてヒール部に設けられているが,刊行物2の「下駄台中央やや後部」が本件特許発明1のヒール部のわずかな部分を含み得ることを理由として,転がり手段がすべてヒール部に設けられているということはいえない。
(オ)本件特許発明1において,地面との本質的な接触とは,ソールのつま先部を使用して走行,歩行,停止することが可能な接触を意味する。刊行物2の爪立台(イ)は,その名称から明らかなように,爪を立てる台であり,先端側が上向きの湾曲した形状をしており,このような形状では,地面と線接触あるいは限られた接触をし,全面的な接触をしていない。このような限られた接触しかできない湾曲形状のつま先部ではまさに爪を立てることはできても「ソールのつま先部を使用して走行,歩行,停止すること」を可能とする本質的な接触は得られない。
(カ) 以上のとおり,審決の一致点の認定に誤りがある。
イ刊行物2には,本件特許発明1でいうところの,つま先部が地面と本質的な接触をしておらず,走行,歩行,停止することが可能な「転がらないモード」は存在せず,モードの切り換えも起こりえない。
ウ以上によれば,「本件特許発明1は,刊行物2発明と同一であり,少なくとも当業者が刊行物2発明に基づき容易になし得た」との審決の認定判断は誤りである。
(39)本件特許発明2,23,26,27,29の新規性の判断(刊行物2を主引例とする審決の判断)の誤り前記(38)のとおり,本件特許発明1に関する認定判断に誤りがあるので,当然の帰結として,本件特許発明2,23,26,27,29の新規性の判断も誤りである。
(40)本件特許発明3ないし22,24,25,28,30ないし37の進歩性の判断(刊行物2を主引例とする審決の判断)の誤り前記(38)のとおり,本件特許発明1に関する認定判断に誤りがあるので,当然の帰結として,本件特許発明3ないし22,24,25,28,30ないし37の進歩性の判断も誤りである。
2 被告の反論(1) 本件特許発明1の進歩性の判断の誤りに対しア 審決認定の一致点及び相違点1ないし3について(ア)@本件明細書(甲26)の段落【0017】,【0024】,図1,図2A及び図2B(甲21)によれば,本件特許発明1においては,アーチ部は,必ずしも文字どおりのアーチ形状を有していないもの,すなわち,扁平なアーチ部も含まれていることは明らかであるので,刊行物1の履物の「足形状の底板部(a)」は,「つま先部,アーチ部及びヒール部を有するソール」に相当すること,A刊行物1の「段状凹部」は,凹部の形成の結果として外面への開口が果たされているので,実質的に「開口部」に相当すること,B刊行物1ではソールの外側面で接地するので,「履物のアイテムの地面との本質的な接触がソールによってなされて」いること,C刊行物1の履物を使用して内傾から外傾に変更するのは,「体重移動」に他ならないこと,D刊行物1の非接地踵部(4)は,もともと転がりモードでも,転がらないモードでも地面と接触しないため,転がり手段以外の部材ではあるが「地面と接触した場合」の状態に陥ることはなく,ブレーキ状態にもならないが,一方で,接地底(1)及び踵部(2)は,地面と接触することが可能な転がり手段以外の部材であり,「外側半分」の接地底(1)及び踵部(2)が地面に触れて摩擦ブレーキとなることが明らかであるから,刊行物1でも「転がり手段以外の部材が地面と接触した場合にブレーキ状態になる」こと,E本件特許発明の「つま先部」及び刊行物1の「外側半分」は,「接地面部」という概念で共通することに照らすならば,審決の一致点の認定の誤りをいう原告の主張(ア)ないし(カ)は理由がない。
そして,本件特許発明1は,通常は左右両足の履物で転がる点で,刊行物1発明と相違はなく,刊行物1と本件特許発明1が同じ「転がりモード」が存在する点で一致するので,原告の主張(キ)も理由がない。すなわち,本件特許発明1の履物のアイテムを実際に用いる場合,片方の履物のヒール部の転がり手段(車輪)を接地し,つま先部を前上方に上げるため使用者の重心は当該履物の後ろに位置し,その重心を支える必要があるため,他方の履物のつま先部は,前方の履物のつま先部よりやや低くして後傾姿勢をとらずに,他方の履物のヒール部の転がり手段(車輪)で接地し転がる(本件明細書の図14)。
このように本件特許発明1の履物においても片方の履物では転がることはできず,万一できたとしてもほんの一瞬であり,一瞬であれば刊行物1も片方で転がることができる。
(イ)以上のとおり,審決の一致点の認定に,原告の主張の誤りはなく,また,相違点1ないし3の認定に誤りもない。
イ 相違点1の容易想到性について(ア)刊行物1(甲1)には,「本考案の目的は平常は一般の履物と同様に使用して,歩行の用に供するとともに,急ぎの場合にはローラー部を利用してスケーティング走行が行える安全な履物を提供しようとするものである。」,「本考案は歩行具として用いることを主たる目的とし,必要に応じて滑走も行える履物を提供しようとするものであり以下に記載する考案の完成によりその目的を達成することができたものである。」,「このように接地底(1)による通常の歩行即ち長距離,長時間の歩行或いは走ることと併せてローラー(5)・・・(5)による滑走も行えるようにしたことにより使用の場所を選ばずに履物としてのあらゆる用法が得られる特徴がある。」と記載されているように,刊行物1発明は,歩行・走行と滑走との両方が可能な履物であり,また,履物の接地面部と転がり手段の両者を,履物の幅方向に配置している。
(イ)転がり手段と地面との本質的接触をなす部分とを長手方向に配置し,かつ転がり手段を履物の後半部分に配置する形式のものは,刊行物3,4に示されるように周知の技術である。すなわち,刊行物3の「スケート」は,板状の主体の踵部に設けた開口部に転子(2)を軸支して,主体のつま先から中央に滑板(4)を設けており,滑板(4)があってもヒール部の転子(2)は転がっていること,刊行物4の「ローラースケート」は,支台のかかと部に車輪体を回転自在に軸支し,つま先部にブレーキ突起を設けており,ブレーキ突起と車輪体とを着地して歩くことはできるし,また,歩くようになっていることに照らすならば,刊行物3,4は,転がり手段と地面との本質的接触をなす部分(刊行物3では「滑板」であり,刊行物4では「ブレーキ突起」)とを長手方向に配置し,転がり手段をいずれも履物の後半部分に配置している。
当業者であれば,刊行物1発明に,上記周知技術を適用して,相違点1に係る本件特許発明1の構成とすることは容易想到である。
(ウ)なお,原告は,本件特許発明1の履物のアイテムは直立二足歩行の動作に適しているのに対し,刊行物1はこの動作を無視するものである旨主張する。しかし,本件特許発明1は,ヒール部から転がり手段(車輪)が突出しているため,転がり手段(車輪)が接地すると転がり手段(車輪)が回転し,歩行者はひっくり返るおそれがあり,特に,走行状態では危険であるため,歩行,走行及び停止時にはヒール部の転がり手段(車輪)とつま先部とをほぼ同時に着地しなければならず,直立二足歩行の動作と異なる。また,転がりモードにおいて,前方の履物のヒール部の転がり手段(車輪)を着地し,かかと部を前上方に上げる動作は,直立二足歩行と同じであるが,後方の履物は,ヒール部の転がり手段(車輪)を着地し,かかと部を前上方に上げていなければならないので,後方の履物の状態が直立二足歩行の動作と異なる。このように本件特許発明1においても,転がらないモードでも,転がりモードでも,直立二足歩行の動作とは異なる動作でなければ実施できない。
本件特許に係るヒーリング装置の販売時に,「一般道路等を歩く時は,車輪を外して歩行してください」との注意が入った商品取扱いビデオ(乙1)を配っていることは,本件特許に係る履物が,通常の歩行,走行に適していないことを物語っている。
また,原告は,歩行,走行のためのソール部分(つま先部)と,転がるためのソール部分(ヒール部)とが同時に接地するという本件特許発明1の構成が,従来にない独特の構成であると主張しているが,刊行物2及び甲4にあるように,従来と異なる構造のものではない。
特に,刊行物2の履物では,車輪の位置がアーチ部に隣接したヒール部にあるが,つま先部(爪立台)と車輪と両方を接地させて立ち上がる構成は本件特許発明1と同じである。確かにヒール部のできるだけ後部に車輪がある方が,立ち上がった時に使用者はフラットに近くなるが,これは量的な相違であり,質的には変わりない。
ウ 相違点2,3の容易想到性について相違点2,3に係る本件特許発明1の構成が容易想到であるとした審決の判断に誤りはない。
本件特許発明1は,通常の履物の外観とは明らかに異なり,履物のソールのヒール部に転がり手段(車輪)を有しており,使用者が当該履物を装着すると,踵部が地面から浮き上がり,前のめりの姿勢となる。また,転がらないモードにおいて,走行,歩行する場合も,ヒール部の転がり手段(車輪)とつま先部とを同時に着地しなければならないため,通常の歩行,走行動作とは異なるので,刊行物1と効果はほとんど変わらない。
(2) 本件特許発明2ないし37の進歩性の判断の誤りに対しア相違点4ないし12,17ないし33に係る本件特許発明3,4,6,7ないし12,20ないし22,24ないし26,28,30ないし32,34,36,37の構成は,審決が認定するように,いずれも周知の技術である。したがって,当業者であれば,刊行物1に,各周知の技術を適用して,上記各本件特許発明容易に想到することができたとの審決の判断に誤りはない。
また,審決がした相違点13ないし16の判断にも誤りはなく,本件特許発明2,5,13ないし19,23,27,29,33,35を容易に想到することができたとの審決の判断に誤りはない。
イ以上のとおり,本件特許発明2ないし37の進歩性を否定した審決の判断に誤りはない。
(3) 本件特許発明1の新規性進歩性の判断の誤りに対しア(ア)刊行物2(甲2)に「一輪下駄の爪立台は,転行を起さんとする時,若しくは歩みて坂路を昇降する時に用いる」と記載されていることに照らすならば,刊行物2は,歩行・走行時及び停止時に爪立台を地面につけて使用するものであり,使用者が実際にこれらの動作をする時は,爪立台と車輪とを同時に接地して行うこと,又は行い得ることは明白である。そして,本件特許発明1においても,つま先部と,ヒール部の転がり手段(車輪)とを同時に接地して歩行,走行するものであるから,刊行物1の「転行を起さんとする時,若しくは歩みて坂路を昇降する時」は,本件特許発明1の「転がらないモード」に相当する。
(イ)刊行物2の車輪はアーチ部に隣接したヒール部にあり,転がりモードにおいてその台座は地面と平行に転がっているか,又は,その先端部を前上方に傾斜して転がっており,図面から見て,台座の先端をやや前上方に持ち上げた状態でも,踵台は地面と接触しない。したがって,刊行物2は,本件特許発明1の「転がり手段は,地面上で転がることを使用者に可能にするように地面との本質的な接触を提供するように配置されていて,転がりモードにおいて転がり手段以外の部材は地面と接触せず,」かつ「ソールのつま先部は,転がりモードにおいて地面の前上方に持上げられ」ているとの態様を備えている。
(ウ)本件明細書及び図面におけるアーチ部は扁平であり,本件特許発明1の「アーチ部」は文字どおりアーチ形状の部分を意味するものではなく,刊行物2もアーチ部を有している。
(エ)刊行物2の「空所」の車輪はアーチ部に隣接したヒール部にあり,当該空所はヒールにかかっているので,刊行物2は,本件特許発明1の「履物のアイテムを転がすための転がり手段はヒール部に設けられていてつま先部には設けられていず」の構成を有している。
(オ)本件特許発明1は,ヒール部から転がり手段(車輪)を突出しており,歩行,走行の際はこの転がり手段(車輪)の上からかかと部を地面に押し付けるため,かかと部は地面から浮き上がっており,また,つま先部は地面に直接接地しているため低くなっていること,つま先部もフレキシブルなものに限定しておらず,硬いものも含まれることに照らすならば,本件特許発明1も,前下側に傾斜した不自然な状態で歩行,走行,停止する点では,刊行物2と全く変わらない。また,刊行物2の図面は,一実施例であって,技術思想としては,一輪下駄に設けた爪立台であって,まさに「転行を起こさんとする時,或いは転行を停止せんとする時若しくは歩みて坂路を昇降する時」に用いるものである。したがって,刊行物2は,本件特許発明1の「使用の際,転がらないモードにおいて,履物のアイテムの地面との本質的な接触がソールのつま先によってなされ」,「ソールのつま先部は,地面上を走行,歩行,停止するためであって,転がるためではない」こと,及び「地面と本質的な接触がなされた時に,ソールのつま先部を利用して走行,歩行,停止することが可能」であるとの構成を備えている。
(カ)刊行物2には直接記載されていないとしても,刊行物2には,本件特許発明1のモードの切り換えと同様に,「モードの切り換えは,つま先部から転がり手段への使用者の体重移動によって実行され」ており,また,「転がらないモード」も存在する。
イ以上のように,刊行物2発明は,本件特許発明1とほぼ同じ構造を有するものであり,刊行物2の転がり手段の位置と本件特許発明1の転がり手段の位置とが多少ずれているが,略同じである。したがって,本件特許発明1は刊行物2発明と同一であり,少なくとも当業者が刊行物2発明に基づき容易に想到し得たとした審決の認定判断に誤りはない。
(4)本件特許発明2,23,26,27,29の新規性の判断の誤り及び本件特許発明3ないし22,24,25,28,30ないし37の進歩性の判断の誤りに対し審決の認定判断に誤りはなく,原告の主張は理由がない。
当裁判所の判断
当裁判所は,本件特許発明1ないし37は,刊行物1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの審決の判断に誤りはないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1 本件発明1について(1) 一致点の認定の誤りについて原告は,審決がした本件特許発明1と刊行物1発明との一致点の認定中,@「つま先部,アーチ部およびヒール部を有するソール」を備えている点,Aソールに「開口部」を有している点,B「開口部内に保持された転がり手段」を備えている点,C「使用の際,転がらないモードにおいて,履物のアイテムの地面との本質的な接触がソールによってなされ」ている点,D「モードの切り換えは,使用者の体重の移動によって実行され」ている点,E「転がり手段以外の部材が地面と接触した場合にブレーキ状態にな」る点,F「接地面部」を有している点,G「転がりモード」を有している点で一致するとの部分は誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
ア「つま先部,アーチ部およびヒール部を有するソール」を備えている点原告は,アーチ部とは文字どおりアーチ状の部分を意味するが,刊行物1の底板部(a)は,すべての箇所が平坦であり,アーチ部を有するとはいえず,刊行物1は,「つま先部,アーチ部およびヒール部を有するソール」を備えていないと主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア)本件特許発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,「履物のアイテムであって:つま先部,アーチ部およびヒール部を有するソールを備えていて」との記載があるが,「アーチ部」の位置及び形状を規定する記載はない。
そこで,本件明細書(甲26)を参酌すると,本件明細書には,「運動靴12を含む多くの履物において,ソール14はまた,図1に示されたように,(1)ヒール部18,(2)アーチ部20,および(3)つま先部22の3つの部分すなわち領域に分割される。ソール14のヒール部18,アーチ部20,およびつま先部22は正確に規定し位置付けることはできず,また,それらの部分は,ある履物タイプから他の履物タイプに変わる。このように,ヒール部18,アーチ部20,つま先部22同士の位置付け,それらの間の境界,および寸法は極めて概略的なものである。」(段落【0017】)との記載があること,図1,図2A及び図2B(甲21)に,平坦なソールについてのアーチ部20が示されていることが認められる。一方で,本件明細書には,アーチ部20の特定の機能に関する記載はない。
上記認定によれば,本件特許発明1の「アーチ部」は,ソールの「つま先部」と「ヒール部」の間の部分をつなぐ「中間部分」又は「中間領域」を意味するにすぎず,「アーチ部」の範囲を「正確に規定し位置付ける」ことはできないものであり,また,「アーチ部」の形状は,平坦なものをも含み,文字どおりアーチ状のものに限定されるものではないことが認められる。
したがって,本件特許発明1の「アーチ部」は,「文字どおりアーチ状の部分を意味する」との原告の主張は失当である。
(イ)a刊行物1(甲1)には,@「実用新案登録請求の範囲」として,「底板部(a)の底面部を,その長さ方向に沿うほぼ中央で二分して外側半部を接地底(1)とし,これに続く後端部は踵部(2)とするとともに,前記接地底(1)及び踵部(2)に対応する内側はその厚さを薄くして段状凹部(3)及び非接地踵部(4)とし,前記段状凹部(3)には外周縁が接地底(1)よりも内方に入らせたローラー(5)・・・(5)を支軸(51)・・・(51)により回動自在に装着した滑走具を有する履物。」(1頁4行〜11行),A「考案の詳細な説明」として,「本考案は靴,下駄等の履物,特に底部一側に滑走具を備えた履物に関する。本考案の目的は平常は一般の履物と同様に使用して歩行の用に供するとともに,急ぎの場合にはローラー部を利用してスケーティング走行が行える安全な履物を提供しようとするものである。」(1頁13行〜2頁3行),「図は靴に応用した例を示しており,総括的に(a)で示す底板部はその底面部を長さ方向のほぼ中央で二分して外側半部を接地底(1)とし,これに続く後端部は踵部(2)とするとともに前記接地底(1)と対応する内側には段状凹部(3)を,又前記踵部(2)と対応する内側には非接地踵部(4)を前記踵部(2)よりも低くなるよう一体的に形成している。(5)・・・(5)は段状凹部(3)に装着したローラーであり,支軸(51)・・・(51)を接地底(1)の側面に固定するようにして支持させている。
なおこのローラー(5)・・・(5)はその外周縁が接地底(1)より突出しないように装着することが必要である。本考案は叙上のように底板部(a)の底面部を,その長さ方向に沿うほぼ中央で二分し,内側半部を段状凹部(3)として接地しないようにしてこの段状凹部(3)にローラー(5)・・・(5)をその周縁部が接地底(1)よりも少許ばかり内方に入るように装着したので通常の歩行の場合には第3図例示のように接地底(1)部分のみが接地して従来の履物となんら変りがない歩行を行うことができる。又これを滑走具として使用したい場合には第4図に例示するように着用者が底面部をやや内傾するようにすれば段状凹部(3)に装着したローラー(5)・・・(5)部分が接地するようになり,然も接地底(1)及び踵部(2)が浮き上るのでローラー(5)・・・(5)による滑走が行えるものであり,この滑走を止めたい場合には重心を外側半部に移動させるだけで簡単に停止することができる他,重心を踵部(2)に移動させることによる停止も行えるものである。このように接地底(1)による通常の歩行即ち長距離,長時間の歩行或は走ることと併せてローラー(5)・・・(5)による滑走も行えるようにしたことにより使用の場所を選ばずに履物としてのあらゆる用法が得られる特徴がある。」(3頁1行〜5頁4行),B第1図には足形状の底面図が,第2図には側面図が,第3図には歩行時を示す図が,第4図には滑走時を示す図が,第5図には制動時を示す図がそれぞれ記載されており,第3図には,左足の履物の接地底(1)及び踵部(2)が接地し,右足の履物の接地底(1)のみが接地した状態が示されていることが認められる。
b上記aの記載及び図面を総合すれば,刊行物1の履物の「底板部(a)」は,足形状の底部であり,本件特許発明1の「ソール」に相当すること,「底板部(a)」は,「接地底(1)」及びその後端部に位置する「踵部(2)」を備え,接地底(1)の先端部付近は本件特許発明1の「つま先部」に,踵部(2)は「ヒール部」にそれぞれ相当し,先端部付近と踵部(2)とをつなぐ中間領域(接地底(1)のうち,先端部付近を除く部分)が存在することが認められる。そして,前記(ア)のとおり,本件特許発明1の「アーチ部」の形状は,平坦なものをも含み,文字どおりアーチ状のものに限定されるものではないことに照らすならば,刊行物1の「底板部(a)」の「中間領域」は「アーチ部」に相当することが認められる。
(ウ)以上によれば,刊行物1の履物は,「つま先部,アーチ部およびヒール部を有するソール」を備えているといえるから,この点を本件特許発明1との一致点と認定した審決に誤りはない。
イソールに「開口部」を有している点及び「開口部内に保持された転がり手段」を備えている点原告は,開口とは,口が開いていること,外に向かって穴があくこと,又はその穴を意味し,刊行物1は,「開口部」を有せず(段状凹部(3)は,切欠きであって,「開口部」ではない。),また,「開口部」を有していない以上,「開口部内に保持された転がり手段」を備えていないと主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア)本件特許発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,「ヒール部はそれに形成された開口部を有し」,「ヒール部の開口部内に保持された転がり手段を備え」との記載があり,これらの記載によれば,本件特許発明1の「開口部」は,ソールのヒール部に形成され,その内部に「転がり手段」を備えることができるものであると理解されるが,特許請求の範囲には,「開口部」の形状を規定する記載はない。
そこで,本件明細書(甲26)を参酌すると,本件明細書には,「図2Aと2Bは,ヒーリング装置10のソール14の2つの実施例の底面図である。・・・ソール14のヒール部18に開口部40を有している。図示された実施例において,開口部40は正方形または矩形の形状を有している。しかしながら,開口部40は,例えば,円形または楕円形の形状のような,実質的にどのような形状でもよい。」(段落【0024】),「・・・開口部40は,ソール14を部分的にまたは完全に通って延びていてもよい。・・・」(段落【0025】)との記載がある。
(イ)上記(ア)の認定事実に加えて,「開口」は,一般に「外に向かって開いていること」を意味すること(大辞泉432頁)を総合すれば,「外に向かって開いている」部分であって,その内部に「転がり手段」を備えることできるものであれば,本件特許発明1の「開口部」に該当し,形状の如何を問わないことが認められる。
そして,前記ア(イ)a及び刊行物1(甲1)の図面によれば,刊行物1の段状凹部(3)は,底板部(a)(「ソール」に相当)の底面部を,その長さ方向に沿うほぼ中央で二分し,その内側半分を切欠いて,厚さを薄くして形成された部分であって,靴底部の外方に向かって開かれおり,段状凹部(3)の内部に「ローラー(5)」(「転がり手段」に相当)を装着しているのであるから,段状凹部(3)は,本件特許発明1の「開口部」に当たると解される。
なお,原告は,本件特許発明1の「開口部」は,周囲全面に開口を形成するための側壁が存在する必要があるのに対し,刊行物1の「段状凹部」には,周囲全面に側壁は存在していないから,「開口部」ではないと主張するが,本件明細書に「開口部40は,・・・実質的にどのような形状でもよい。」との記載(前記(ア))があるとおり,「開口部」は,周囲全面に開口を形成するための側壁が存在するものに限定されるものではないから,上記主張は失当である。
(ウ)以上によれば,刊行物1の履物は,ソールに「開口部」を有し,「開口部内に保持された転がり手段」を備えているといえるから,これらの点を本件特許発明1との一致点と認定した審決に誤りはない。
ウ「使用の際,転がらないモードにおいて,履物のアイテムの地面との本質的な接触がソールによってなされ」ている点原告は,「使用の際,転がらないモードにおいて,履物のアイテムの地面との本質的な接触」が,本件特許発明1では,「ソール」ではなく「ソールのつま先部」によって「なされ」ているの対し,刊行物1では,「外側面」によって「なされ」ているので,両発明が,「使用の際,転がらないモードにおいて,履物のアイテムの地面との本質的な接触がソールによってなされて」いる点で一致するとはいえないと主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア)前記ア(イ)a及び第3図(甲1)によれば,刊行物1の履物の通常の歩行時において,接地底(1)及び踵部(2)の両方又はその一方が接地した状態にあり,接地底(1)及び踵部(2)は,底板部(a)(「ソール」に相当)の底面部を長さ方向のほぼ中央で二分した「外側半部」を構成するから,転がらないモードにおいて,ソールの「外側半部」が地面と接地し,「ソール」が地面と接地しているといえる。
また,本件特許発明1の「ソールのつま先部」も「ソール」の構成部分であるから,「ソール」が地面と接地していることには変わりはない。
したがって,本件特許発明1と刊行物1発明は,転がらないモードにおいて,履物のアイテムの地面との本質的な接触が「ソール」によってなされている点で一致している。
なお,地面との本質的な接触がなされる位置が,「ソール」の「つま先部」であるか,「ソール」の「外側半部」であるかの違いについては,審決は,相違点1として認定している。
(イ)以上によれば,「使用の際,転がらないモードにおいて,履物のアイテムの地面との本質的な接触がソールによってなされ」ている点を,本件特許発明1と刊行物1発明の一致点と認定した審決に誤りはない。
エ「モードの切り換えは,使用者の体重の移動によって実行され」ている点原告は,刊行物1では,ローラーで滑走する時は,両足の履物の底面部をいずれも内傾し,ローラー滑走後歩く時は,両足の履物の底面部を外側に戻す必要があり,「モードの切り換え」は,両履物を内傾から外傾に移動する操作をするが,右側の履物と左側の履物との動きが対称的であり,この操作は使用者の体重移動とはならないので,「モードの切り換えは,使用者の体重の移動によって実行されて」いないと主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア)前記ア(イ)aによれば,刊行物1の履物においては,「これを滑走具として使用したい場合には・・・着用者が底面部をやや内傾するようにすれば段状凹部(3)に装着したローラー(5)・・・(5)部分が接地するようになり,然も接地底(1)及び踵部(2)が浮き上るのでローラー(5)・・・(5)による滑走が行えるものであり,この滑走を止めたい場合には重心を外側半部に移動させるだけで簡単に停止することができる他,重心を踵部(2)に移動させることによる停止も行えるものであ」り,滑走状態から停止状態へのモードの切り替えは,使用者の重心の移動によって行われるものであるが,この重心の移動は,使用者の体重の移動により実現されることは自明である。
原告は,刊行物1では,右側の履物と左側の履物との動きが対称的であり,この操作は使用者の体重移動とはならないというが,独自の見解であり失当である。
(イ)以上によれば,刊行物1の履物は,「モードの切り換えは,使用者の体重の移動によって実行され」ているといえるから,この点を本件特許発明1との一致点と認定した審決に誤りはない。
オ「転がり手段以外の部材が地面と接触した場合にブレーキ状態にな」る点原告は,刊行物1では,非接地踵部(4)がないと,履物を内側に傾けてもローラーが接地せず,滑走することは困難なので,非接地踵部(4)は必須の構成であり,非接地踵部(4)は,転がり手段以外の部材に該当するが,地面に触れて摩擦ブレーキとなることはあり得ないので,刊行物1では,「転がり手段以外の部材が地面と接触した場合にブレーキ状態にな」るとの構成を備えていないと主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア)前記ア(イ)aによれば,刊行物1の履物においては,接地底(1)又は踵部(2)を接地することにより停止を行うものであるから,接地底(1)及び踵部(2)はいずれも「転がり手段以外の部材」であるから,「転がり手段以外の部材が地面と接触した場合にブレーキ状態にな」るとの構成を備えているといえる。
確かに,刊行物1の非接地踵部(4)は,「転がり手段以外の部材」であり,停止を行う際に接地するものではないが,審決は,「転がり手段以外の部材」の「全部」について「地面と接触した場合にブレーキ状態にな」るとまで認定するものではなく,原告の主張は審決を正解しないものである。
(イ)以上によれば,刊行物1の履物は,「転がり手段以外の部材が地面と接触した場合にブレーキ状態にな」るとの構成を備えているといえるから,この点を本件特許発明1との一致点と認定した審決に誤りはない。
カ 「接地面部」を有している点原告は,本件特許発明1の「つま先部」は,単に「接地面部」であることを意味するものではなく,第1の側から第2の側に延びているつま先部の地面接触部が接地することに技術的意義があるのであるから,審決が,「つま先部」の概念を捨象し,本件特許発明1の「つま先部」と刊行物1の「外側半部」が「接地面部」という概念で共通するとした点には誤りがあると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり採用できない。すなわち,審決は,相違点1において,本件特許発明1では,「接地面部が,『ソールのつま先部』にてなされ・・・『転がらないモードに変移した時,ソールのつま先部の地面接触部は一般にソールの第1の側から第2の側に延びて』いる」のに対して,刊行物1発明では,「接地面部が,外側半部の接地底(1)及び踵部(2)にてなされ・・・転がらないモードに変移した時,外側半部の地面接触部が『一般にソールの第1の側から第2の側に延びて』いるか否かが明らかでない点」で相違すると認定している。このように,審決では,本件特許発明1では「ソールのつま先部」で接地することを明確に認定した上で,相違点1に係る本件特許発明1の構成の容易想到性の有無について判断しており,審決が「接地面部」という共通概念を用いたことによって「つま先部」の概念を捨象したとはいえないから,審決の一致点の認定に誤りはない。
キ「転がりモード」を有している点原告は,刊行物1では,片方の履物だけでは,使用者は滑走状態を維持することができず,必然的に左右の履物を内傾して滑走し,刊行物1の転がり状態(「転がりモード」)は,左右の履物が協働して始めて達成されるのに対し,本件特許発明1では,片方(右側又は左側)の履物に関する発明であり,転がり状態(「転がりモード」)の達成には他方の履物と協働する必要がない点において,両者の「転がりモード」は異なるから,本件特許発明1と刊行物1発明とが「転がりモード」を有している点で一致するとはいえないと主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア)本件特許発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,「転がりモード」が片方の履物のみによって実現されるものであることを特定する記載はない。
また,本件明細書(甲26)の「ヒーリングの間の好ましい位置は,図14のヒール人間によって示されていて,一方のヒーリング装置802が,地面上を転がっている他方のヒーリング装置804の前方に位置している。ヒーリング装置802の後部ヒール部806から分かるように,後部ヒール部806と地面との間の間隙は時として小さい。」(段落【0052】)との記載及び図14(甲21)によれば,本件明細書には,左右両方の履物を同時に「転がりモード」として滑走する場合が発明の実施例(図14)として示されていることが認められる。一方で,本件明細書には,「転がりモード」が片方の履物のみによって実現されるものに限定されることの記載や示唆はない。
上記認定によれば,本件特許発明1の「転がりモード」は,片方の履物のみによって実現されるものに限定されるものではなく,左右両方の履物によって実現されるものをも含むものと解される。
(イ)以上によれば,本件特許発明1の「転がりモード」は,片方の履物のみによって実現されるものに限定されることを前提に,本件特許発明1と刊行物1発明とが「転がりモード」を有している点で一致するとはいえないとの原告の主張は,その前提を欠くものとして,採用することができない。
ク 小括以上のとおり,審決に,原告主張の一致点の認定の誤りは認められない。
(2) 相違点1ないし3の認定の誤りについてア 相違点1の認定について原告は,刊行物1の履物においては,外側半部の接地底(1)及び踵部(2)は,転がりモードにおいて,「地面の両外側」に持ち上げられているが,「地面の上方」にも,「地面の前上方」にも持ち上げられていないこと,転がらないモードに変移した時,地面接触部が「一般にソールの第1の側から第2の側に延びて」いないこと(内側半部は切欠かれており,転がらないモードでは地面に接触しない。)は,いずれも明らかであるから,審決がした相違点1の認定中,「刊行物1発明では,外側半部の接地底(1)及び踵部(2)が,『転がりモード』において,『地面』の『上方に持上げられて』いるが,『地面の前上方に持上げられて』いるか否かが明らかでなく,転がらないモードに変移した時,外側半部の地面接触部が『一般にソールの第1の側から第2の側に延びて』いるか否かが明らかでない」との部分は誤りであると主張する。
しかし,審決は,相違点1において,本件特許発明1は,「ソールのつま先部」は,「転がりモードにおいて地面の前上方に持上」げられている構成及び「転がらないモードに変移した時,ソールのつま先部の地面接触部は一般にソールの第1の側から第2の側に延びて」いる構成を有していることを認定し,その点で刊行物1発明と相違することを示した上で,上記相違に係る本件特許発明1の構成の容易想到性の判断をしているから,原告が主張する相違点1の認定中の刊行物1発明に係る部分の認定の誤りは,審決の結論に影響を及ぼすものではなく,審決の取消事由に該当しない。
イ 相違点2の認定について原告は,刊行物1の履物には「開口部」は設置されていないので,これが設置されていることを前提とした,審決の相違点2の認定は誤りであると主張する。
しかし,前記(1)イで認定したとおり,刊行物1の履物は「開口部」を有しているので,原告の上記主張は理由がない。
ウ 相違点3の認定について原告は,刊行物1の履物では,右側の履物と左側の履物とは左右対称の動きをし,「使用者の体重の移動」はなく,まして,前後方向の体重移動はないので,刊行物1発明に「使用者の体重の移動」があることを前提とした,審決の相違点3の認定は誤りであると主張する。
しかし,前記(1)エで認定したとおり,刊行物1の履物は,「モードの切り換えは,使用者の体重の移動によって実行され」おり,また,体重の移動方向が両発明で相違することは,審決が相違点3において認定するところであるから,原告の上記主張は理由がない。
(3) 相違点1の容易想到性の判断の誤りについて原告は,刊行物1発明において,「転がり手段」及び「地面との本質的接触をなす部分」を長手方向に配置すること,転がり手段を「ヒール部」にすべて配置することはいずれも困難であること,審決の周知技術の認定に誤りがあること,本件特許発明1の作用効果の予測困難性に照らすならば,相違点1に係る本件特許発明1の構成が容易想到であるとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
容易想到性の有無について(ア)審決は,(「転がり手段」と「地面との本質的接触」をなす部分との)「両者を長手方向に配置し,かつ転がり手段を履物の後半部分に設置する形式のもの」は,周知の技術であると認定するので(審決書30頁24行〜26行),まず,この点について検討する。
a刊行物2(登録実用新案第6417号明細書。出願・明治40年4月4日,登録・明治40年8月15日。甲2)には,@審決が認定するように(審決書53頁20行〜28行),「一輪下駄であって,長方形の下駄台を備え,下駄台の下面の中央やや後部に空所が設けられており,空所内に軸木(ニ)で軸支される形で保持された車輪(ハ)を備えていて,これから転行を始めようとするときや停止しようとするとき,もしくは歩いて坂路を昇降するときには,下駄の進行方向前側の下面に設けられた爪立台(イ)が用いられ,車輪(ハ)は,下駄が水平なときにその最下端が下駄全体で最下方に位置するように取り付けられており,下駄の進行方向後ろの部位の下面に突出した踵台(ロ)は後方に転倒するのを防止するために用いられるものである一輪下駄。」が記載されていること(この点は,当事者間に争いがない。),A第1図及び第2図には,長方形の下駄台上に鼻緒が設けられ,爪立臺(イ)が下駄台下面の前側に設けられ,車輪(ハ)が,爪立臺(イ)と踵臺(ロ)に挟まれた下駄台下面の中央やや後部に開口して設けられた空所内に取り付けられ,車輪(ハ)の軸木(ニ)が下駄台下面の後ろ寄りに備え付けられた一輪下駄が図示されていることが認められる。
そして,上記認定事実と第1図及び第2図によれば,刊行物2記載の一輪下駄においては,「滑走状態」のときは,下駄を水平状態とし,車輪(ハ)のみを接地させ,爪立臺(イ)及び踵臺(ロ)を接地させないようにし,「滑走を開始」するとき,「滑走状態から停止」するとき又は「歩いて坂路を昇降」するときは,爪立台(イ)を接地させて用いることが認められる。
b前記aの認定事実を総合すれば,刊行物2の一輪下駄は,「転がりモード」(「滑走状態」)と「転がらないモード」(「滑走状態以外の状態」)の切り換えができる履物であって,「転がり手段」である車輪(ハ)は履物の下面の中央より「後部」に,「地面との本質的接触」をなす部分である爪立臺(イ)は履物の下面の中央より「前側」に設けられているものといえるから,刊行物2には,(「転がり手段」と「地面との本質的接触」をなす部分との)「両者を長手方向に配置し,かつ転がり手段を履物の後半部分に設置する形式のもの」が記載されていることが認められる。
そして,刊行物2に係る考案の登録日は「明治40年8月15日」であり,その登録後速やかに刊行物2が公開されたものと推認できること,上記公開後,本件出願の優先日(平成11年4月1日)まで極めて長期間が経過しているので,多くの者が刊行物2に接したものと推認できることに照らすならば,「転がりモード」と「転がらないモード」の切り換えができる履物において,(「転がり手段」と「地面との本質的接触」をなす部分との)「両者を長手方向に配置し,かつ転がり手段を履物の後半部分に設置する形式のもの」とする技術は,刊行物2に記載があるように,本件出願の優先日当時,周知であったものと認められる。
なお,審決は,甲3及び甲4を周知例として例示し,刊行物2を例示していないが,刊行物2は,本件の審判における無効理由通知で引用され,その上で,刊行物2の記載事項に関し実質的な審理がされている経緯に照らし(甲24,弁論の全趣旨),本訴において,上記周知の技術を刊行物2に基づいて認定することに妨げはない。
(イ)そして,刊行物1の履物は,「転がりモード」と「転がらないモード」の切り換えができる履物であり,開口部内に保持された転がり手段を備え,転がりモードにおいては,転がり手段以外の部材は地面と接触せず,転がらないモードにおいて,履物のアイテムの地面との本質的な接触がソールによってなされていること(審決認定の一致点),「転がり手段」の設置箇所が,内側半部の段状凹部(3)であり,ソールの接地面部(地面との本質的な接触をなす部分)が,外側半部の接地底(1)及び踵部(2)であって(審決認定の相違点1),「転がり手段」と「地面との本質的な接触をなす部分」が幅方向に配置されていることに照らすならば,刊行物1の履物において,(「転がり手段」と「地面との本質的な接触をなす部分」の)「両者を長手方向に配置し,かつ転がり手段を履物の後半部分に設置する形式のもの」とする周知の技術を適用して,両者を幅方向に配置することに代えて,両者を長手方向に配置することとし,その際に「転がり手段」の設置箇所をソールの「ヒール部」(履物の後半部分)に設置し,転がらないモードにおいて地面との本質的な接触をなす部分を,ソールの「つま先部」(履物の前側の部分)に設置する構造とすることは,当業者であれば格別困難なく想到し得たものと認められる。
そして,「転がり手段」の設置箇所をソールの「ヒール部」(履物の後半部分)に設置し,転がらないモードにおいて地面との本質的な接触をなす部分を,ソールの「つま先部」(履物の前側の部分)に設置する場合においても,転がりモードにおいては,転がり手段以外の部材は地面と接触しない構造を採ることが前提となっているのであるから,ソールの「つま先部」は地面と接触しないように「地面の前上方に持上」げられ,また,履物の内側と外側を別構造とする必要性はないので,ソールの「つま先部」の地面接触部を「ソールの第1の側から第2の側」(内側から外側)「に延びて」いるような配置・構造とすることは,当業者であれば格別困難なく容易に想到し得たものと認められる。
そうすると,刊行物1発明に,上記周知の技術を適用して,相違点1に係る本件特許発明1の構成(地面との本質的な接触をなす部分である「接地面部が,『ソールのつま先部』にてなされ,『転がり手段』の設置箇所が,『ヒール部に設けられていてつま先部には設けられて』いないとされ,『ソールのつま先部』は,『転がりモードにおいて地面の前上方に持上』げられ,また,『転がらないモードに変移した時,ソールのつま先部の地面接触部は一般にソールの第1の側から第2の側に延びて』いる」との構成)とすることは,当業者であれば容易に想到し得たものと認められる。
イ 原告の主張に対する判断(ア)原告は,本件特許発明1と刊行物1発明の構造の違いが,モードの切り替え,外観等に関して本質的な相違をもたらしているので,刊行物1発明において,「転がり手段」及び「地面との本質的接触をなす部分」の両者を長手方向に配置することを想到することは困難であると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
a原告は,本件特許発明1では,開口部が存在し,ヒール部の開口部にローラーは保持されているのに対し,刊行物1発明では,開口部が存在せず,ローラーが開口部に保持されておらず,しかも,ローラーの構造上,開口部にローラーを保持する構造を採ることはできない(開口部にローラーを保持する構造を採用した場合には,履物を傾けてもローラーが接地することはできないため),また,本件特許発明1では,その目的を達成するのに数多くの車輪の列設を必須としないのに対し,刊行物1の履物では,数多くの車輪の列設を必須とする点の相違を指摘する。
しかし,前記(1)イで認定したとおり,刊行物1の履物も,ソールに「開口部」を有し,「開口部内に保持された転がり手段」を備えている。
また,刊行物1(甲1)の各図面に車輪が4個のローラー(5)の履物が実施例として記載されてはいるものの,刊行物1の明細書中には,ローラー(5)の個数や大きさに関する記載はなく,車輪が4個より少ないものも考案に含まれると解され,刊行物1の履物では,数多くの車輪の列設を必須とするものと認めることはできない。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
b原告は,本件特許発明1では,転がらないモードにおいて,地面との本質的な接触がなされるのは,ソールの第1の側から第2の側に延びているソールのつま先部であり,このつま先部全面を接地するため,歩行,走行,停止を安定して行うことができるのに対し,刊行物1では,転がらないモードにおいて,地面との本質的な接触がなされるのは,外側面であり,内側面は接地しないため,その構造上,歩行,走行及び停止を安定して行うことができない点の相違を指摘する。
しかし,原告の主張する歩行,走行,停止の安定に関する本件特許発明1と刊行物1の履物の相違は,その主張自体,転がらないモードにおいて,地面との本質的な接触がされるソールの部位(位置)に関する両者の相違(相違点1)に由来するものであり,そのような相違点があるからといって直ちに「転がり手段」及び「地面との本質的接触をなす部分」の両者を長手方向に配置することに想到することが困難であるとはいえない。
c原告は,本件特許発明1では,モードの切り替えは,つま先部から転がり手段への使用者の体重の移動によって実行され,転がり,滑り,走行,歩行の際の移動方向に一致するため,転がりモードと転がらないモードとの変移を安定して行うことができるのに対し,刊行物1では,モードの切り替えは,両履物を同時に動作させ,いわば内股にしたり外股にしたりする対称的な動きにより行われ,使用者の体重の移動はされず,このような動作は,走行,歩行の動作には全くない動作であるため,転がりモードと転がらないモードとの変移を安定して行うことができない点の相違を指摘する。
しかし,前記(1)エで認定したとおり,刊行物1の履物は,「モードの切り換えは,使用者の体重の移動によって実行され」ているといえるから,原告の主張は,この点において前提を欠き,失当である。
また,原告が主張する転がりモードと転がらないモードとの変移の安定に関する本件特許発明1と刊行物1の履物の相違も,その主張自体,「転がり手段」及び「地面との本質的接触をなす部分」の配置が長手方向であるか,幅方向であるかの相違(相違点1)に由来するものであり,そのような相違点があるからといって直ちに長手方向に配置することに想到することが困難であるとはいえない。
d原告は,本件特許発明1では,転がりモードにおいて,ソールのつま先部が地面の「前上方」に持ち上げられているので,一方の履物がこの転がりモードであれば,他方の履物との重心バランスをとることにより,転がることが可能であり,転がりモードと転がらないモードの切り換えは一方の履物に関する事項である(甲35)のに対し,刊行物1では,両方の履物を同時に内側に傾けなければ転がりモードにはならず,一方の履物だけを内側に傾けた場合,使用者の重心が傾き転倒などの危険が伴い,事実上一方の履物だけでは転がりモードとすることはできないので,モードの切り換えは,左右両履物の協働事項である点の相違を指摘する。
しかし,前記(1)キで認定したとおり,本件特許発明1の「転がりモード」は,片方の履物のみによって実現されるものに限定されるものではなく,左右両方の履物によって実現されるものをも含むものであるから,転がりモードと転がらないモードの切り換えは一方の履物に関する事項であるとはいえない。
また,原告が主張する転がりモードと転がらないモードの切り換えに関する本件特許発明1と刊行物1の履物の相違も,上記cと同様の理由により,「転がり手段」及び「地面との本質的接触をなす部分」の配置を長手方向に想到することが困難であることの根拠となるものではない。
e原告は,本件特許発明1では,厚肉のヒール部の開口部内に転がり手段を保持することにより,履物の外観を維持したままで,転がりモードを有する履物を得ることができるのに対し,刊行物1では,切欠かれた箇所の履物の外側にローラーを配置しているので,ローラーが丸見えで,履物本来の外観を維持することは全くできず,また,本来肉厚が薄いつま先部にもローラーを配置しているので,外側部分にはローラーの高さ分以上の厚さを確保しなければならず,その外観形状が特異で使用者にとって扱いにくい点の相違を指摘する。
しかし,原告が主張する外観に関する本件特許発明1と刊行物1の履物の相違も,上記cと同様の理由により,「転がり手段」及び「地面との本質的接触をなす部分」の配置を長手方向に想到することが困難であることの根拠となるものではない。
(イ)原告は,審決が例示する刊行物3及び刊行物4は周知例として不適切であり,また,審決が「(転がり手段と地面との本質的接触をなす部分との)両者を長手方向に配置し,かつ転がり手段を履物の後半部分に設置する形式のもの」が周知の技術であると認定したのは誤りであると主張する。
しかし,前記ア(ア)で説示したとおり,審決の周知技術の認定に誤りはない。
(ウ)原告は,刊行物1の履物は,車輪以外の転がらない部分が接地している状態では,車輪は接地しておらず,一方,車輪を接地させた状態では,車輪以外の転がらない部分は接地しておらず,履物の内側の車輪列と履物の外側のソール部分とを同時に接地するという状態にないという従来の車輪付き履物と設計思想の範疇内にあるため,刊行物1の履物に基づいて,転がり手段と地面との本質的接触をなす部分を履物の長手方向に配置する形式の履物を設計しようとする場合,車輪以外の転がらない部分が接地している状態では,車輪は接地しておらず,車輪を接地させた状態では,車輪以外の転がらない部分は接地していない状態になるように転がり手段を配設しようとし,ヒール部にすべて転がり手段(車輪)を配設するということに想到することはないと主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
a原告は,車輪以外の転がらない部分が接地している状態では,車輪は接地しておらず,一方,車輪を接地させた状態では,車輪以外の転がらない部分は接地しておらず,履物の内側の車輪列と履物の外側のソール部分とを同時に接地するという状態にないというのが従来の車輪付き履物であり,刊行物1の履物も,従来の車輪付き履物と同様の設計思想に基づいたものであると主張する。
しかし,前記ア(ア)aの認定事実によれば,刊行物2の一輪下駄において,「滑走を開始」するとき,「滑走状態から停止」するとき又は「歩いて坂路を昇降」するときは,爪立台(イ)を接地させ,地面との本質的な接触は爪立台(イ)によってなされるが,その際に,爪立台(イ)を接地させるのと同時に,車輪(ハ)を接地させることを排除するものではない。
また,刊行物3(昭和17年実用新案出願公告第3781号公報。甲3)には,@審決が認定するように(審決書27頁20行〜24行),「足裏に装着して使用するスケートであって,爪先,中央,踵部からなる主体(1)と,主体(1)裏部の踵に,空所に軸が枢着された転子(2)とを備え,前記転子(2)の前記空所内にある部分は,前記空所の外側にある部分よりも大きく,非金属体の滑板(4)を爪先より中央に達するように縦方向に植設した,足裏に装着して使用するスケート。」が記載されていること(この点は,当事者間に争いがない。),A明細書中には,「本案品ハ緊縛絛(5)ニヨリ本品ヲ足裏ニ装着シテ使用スルモノトス・・・重量ノ最モ掛ル踵部ニ轉子ヲ使用スルタメ克ク摩滅ヲ輕減シテ使用ヲ長期ナラシメ更ニ滑板(4)ハ接地面少ニシテ輕快ナル走行ヲ容易ナラシムル・・・」(1頁下段6行〜15行)との記載があること,B第2図には側面図が,第3図には裏面図が記載され,第3図には,本案品の轉子(2)が踵部に形成された空所にのみ設けられていることが示されていることが認められる。
そして,上記認定事実と第2図及び第3図を総合すれば,刊行物3には,踵部に形成された空所にのみ設けられた「転子(2)」(「車輪」に相当)と「滑板(4)」(「車輪以外の転がらない部分」)とが同時に接地した状態において普通に立ち上がった状態を維持することが示唆されており,車輪以外の転がらない部分が接地している状態では,車輪は接地しておらず,一方,車輪を接地させた状態では,車輪以外の転がらない部分は接地していないという関係にはないことが認められる。
以上によれば,従来の車輪付き履物の設計思想は,車輪以外の転がらない部分が接地している状態では,車輪は接地しておらず,一方,車輪を接地させた状態では,車輪以外の転がらない部分は接地していないという関係にあるものに限定されるとの原告の上記主張は,その前提を欠くというべきある。
bそうすると,当業者が,刊行物1の履物に,前記ア(ア)認定の周知技術を適用して,転がり手段と地面との本質的接触をなす部分を履物の長手方向に配置する形式の履物を設計しようとする場合に,車輪以外の転がらない部分が接地している状態では,車輪は接地しておらず,車輪を接地させた状態では,車輪以外の転がらない部分は接地していない状態になるように転がり手段を配設することに固執するものとは認め難く,原告の主張は採用することができない。
(エ)原告は,本件特許発明1は,転がり手段をすべてヒール部に配置することにより,転がりモードにおいては,今までの履物にはない新しい特徴的な動きを可能とし,つま先部から転がり手段までの距離が長くなり,その結果,転がり手段がソールの底面より下方向に突出していても,その傾斜を緩くすることができるので,歩行・走行の安定性に寄与し,通常の履物と同様の歩行・走行性を確保することができ,転がらないモードも安定し,安全であり,しかも,両モードの切り換えもスムーズに行なえるという予測困難な作用効果を奏する(甲35ないし37),本件特許発明1は,既に商品名「ヒーリーズ」として商品化され,当該商品は世界各国で販売され,多くの需要者に使用され,商業的成功を収めていると主張する。
しかし,原告主張の作用効果は,本件明細書の記載に基づかないものであり,また,本件特許発明1は,原告主張の製品の構成以外のものを含むものであり,原告主張の製品が商業的成功を収めていることが直ちに本件特許発明1の作用効果が予測困難であることの根拠となるものではない。
ウ 小括以上のとおり,相違点1に係る本件特許発明1の構成が容易想到であるとした審決の判断に誤りはない。
(4) 相違点2の容易想到性の判断の誤りについて原告は,刊行物1は凹状段部という切欠き部分を備えているが,開口部を備えていないので,刊行物1に開口部があることを前提とした審決の相違点2の判断はそもそも誤りであり,また,刊行物1は開口部に転がり手段を設けることができないという設計思想に基づくものであるため,「開口部をヒール部分の裏面に形成し,その開口部に転がり手段を設けたもの」(刊行物5の図2,刊行物6の図2)を刊行物1に適用することはできないので,相違点2に係る本件特許発明1の構成(開口部を「ヒール部」に「形成」する構成)は容易想到であるとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
すなわち,前記(1)イ(ウ)のとおり,刊行物1の履物は,ソールに「開口部」を有し,「開口部内に保持された転がり手段」を備えているといえるから,原告の上記主張は,その前提を欠く。
そして,審決が認定するように,「転がりモードと転がらないモードを選択的に採用し得る履物において開口部をヒール部分の裏面に形成し,その開口部に転がり手段を設けたもの」(審決書31頁29行〜31行)は,本件出願の優先日当時,周知であったものと認められるから(例えば,甲5の図2,甲6の図2),刊行物1の履物において,(「転がり手段」と「地面との本質的な接触をなす部分」の)両者を幅方向に配置することに代えて,両者を長手方向に配置する際に,上記周知技術を適用して,相違点2に係る本件特許発明1の構成(開口部を「ヒール部」に「形成」する構成)とすることは,当業者であれば容易に想到し得たものと認められる。
(5) 相違点3の容易想到性の判断の誤りについて原告は,審決は,「接地面部と『転がり手段』との配置構成として,両者を履物の長手方向の前後に配置する形式のもの」においては,「使用者の体重の移動は,『つま先部』と『ヒール部』との間の移動となること」(相違点3に係る本件特許発明1の構成)が「必定といえる」として,相違点3に係る本件特許発明1の構成は,刊行物1発明及び周知の技術から容易に想到し得たと判断したが,本件特許発明1を「接地面部」と「転がり手段」との配置構成として,両者を履物の長手方向の前後に配置する形式」と抽象化して具体的な構成を捨象した審決の認定判断は誤りであり,また,刊行物1から本件特許発明1の配置構成を想到することは困難であると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
すなわち,審決の相違点の認定に誤りがないことは前記(2)のとおりであり,また,刊行物1発明及び周知技術に基づいて本件特許発明1の配置構成(接地面部と転がり手段を履物の長手方向の前後に配置構成)を容易に想到し得たことは前記(3)ア(イ)のとおりであり,この点において原告の主張は失当である。
また,接地面部と転がり手段を履物の長手方向の前後に配置すれば,使用者の体重の移動方向が「つま先部」と「ヒール部」との間の前後の移動となることは自明であり,審決の相違点3の容易想到性の判断に誤りはない。
(6) まとめ以上によれば,本件特許発明1は刊行物1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの審決の判断(進歩性の判断)の誤りをいう原告主張の取消事由は,いずれも理由がない。
2 本件特許発明2ないし37について(1) 本件特許発明1と共通する取消事由について前記1で説示したとおり,審決における本件特許発明1と刊行物1発明との一致点の認定,相違点1ないし3の認定及び判断の誤りをいう原告の取消事由は理由がないから,本件特許発明2ないし37に関する同様の取消事由も理由がない。
(2) 相違点4の認定判断の誤りについて原告は,刊行物1に開口部は存在しないこと,刊行物1のローラーは,ソールの底面より没入した箇所に配置されており,この構成は必須であること,刊行物1に,開口部に転がり手段を設ければ,開口部より没入した箇所に転がり手段を配置することができないことに照らすならば,相違点4に係る本件特許発明3の構成は,刊行物1発明及び周知の技術から容易に想到し得たと判断した審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,前記1(1)イ(ウ)のとおり,刊行物1の履物は,ソールに「開口部」を有し,「開口部内に保持された転がり手段」を備えている。
そして,前記1(4)のとおり,「転がりモードと転がらないモードを選択的に採用し得る履物において開口部をヒール部分の裏面に形成し,その開口部に転がり手段を設けたもの」は,本件出願の優先日当時,周知であったから,刊行物1の履物において,(「転がり手段」と「地面との本質的な接触をなす部分」の)両者を幅方向に配置することに代えて,両者を長手方向に配置する際に,上記周知技術を適用して,相違点4に係る本件特許発明3の構成(転がり手段について,「第1の部分と第2の部分とを備えて」いて,「第1の部分が履物のソールのヒール部の底面に形成された開口部内に存在する」ように,また,「第2の部分が履物のソールのヒール部の底面に形成された開口部の下方に,かつ履物のソールのヒール部の底面の最も低い位置の下方に存在するように配置されてい」る構成)とすることは,当業者であれば容易に想到し得たものと認められる。これと同旨の審決の判断に誤りはない。
(3) 相違点5の認定判断の誤りについて原告は,刊行物1発明では,転がり手段は開口部内に保持されておらず,また,転がり手段であるローラーは,ソールの底面より没入しており,刊行物1発明は「転がり手段の開口部内に保持されている部分は,開口部の外側にある転がり手段の部分よりも大きい」との構成を備えていないことに照らすならば,相違点5に係る本件特許発明4の構成は,刊行物1発明及び周知の技術から容易に想到し得たと判断した審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
すなわち,前記1(1)イ(ウ)のとおり,刊行物1の履物は,ソールに「開口部」を有し,「開口部内に保持された転がり手段」を備えているといえるから,原告の上記主張は,その前提を欠くものである。
そして,審決が認定するように,転がり手段の露出態様に関し,「転がり手段の開口部内に保持されている部分は,開口部の外側にある転がり手段の部分よりも大きい」(審決書33頁31行〜32行)ものは,本件出願の優先日当時,周知であったものと認められるから(例えば,甲5の図1(Fig.1),甲6の図1),刊行物1の履物において,(「転がり手段」と「地面との本質的な接触をなす部分」の)両者を幅方向に配置することに代えて,両者を長手方向に配置し,「開口部内に保持された転がり手段」を「ヒール部」に「形成」する際に,上記周知技術を適用して,相違点5に係る本件特許発明4の構成(「転がり手段の開口部内に保持されている部分は,開口部の外側にある転がり手段の部分よりも大きい」構成)とすることは,当業者であれば容易に想到し得たものと認められる。これと同旨の審決の判断に誤りはない。
(4) 相違点6の認定判断の誤りについて原告は,刊行物1のローラーを支えている軸は,一端が保持されているが,他端は自由端であり,第1のセグメントと第2のセグメントとに保持されている態様ではないこと,刊行物7の図面,刊行物16の図8に示されている車輪は開口部内に保持されているものではなく,審決の周知技術の認定に誤りがあること,刊行物1のローラーは,履物の内側に装着され,他端が開放されているので,第1のセグメントと第2のセグメントとに保持する構成を採ることはできず,刊行物7の図面,刊行物16の図に示されている車輪の取り付けをすることができないことに照らすならば,相違点6に係る本件特許発明6の構成が容易想到であるとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
ア本件特許発明6の特許請求の範囲(請求項6)の記載は,「少なくとも第1の転がり手段は車輪で,第1のセグメントと第2のセグメントとの間の軸に回転可能に設けられていて,軸は,軸の回転を阻止するように第1のセグメントと第2のセグメントとに保持されている請求項1記載の履物のアイテム。」というものであり,「第1のセグメント」,「第2のセグメント」の用語の意義を規定する記載はない。
そこで,本件明細書(甲26)を参酌すると,本件明細書中には,「第1のセグメント」,「第2のセグメント」の用語を用いた記載はないものの,一方で,「図6は,車輪装置100の底面図で,図4に示されたような軸62に回転可能に設けられた車輪60と,図5の装着構造部70を有している。第1の部材74と第2の部材76は,ねじ/ばね/ボールベアリング装置80のような偏倚機構を使用して装着された偏倚機構によって,軸62の端部と各取り外し可能に結合する。・・・」(段落【0039】),「図10は,ヒーリング装置に使用するために,さらに他の実施例を使用する車輪装置520を示す斜視図であって,精密ベアリング526を使用して軸524に回転可能に設けられた車輪522と,六角ねじ532のようなねじによって軸524の各端部に結合された第1の部材528と第2の部材530を有する。・・・」(段落【0044】)との記載あること及び各図面(甲21)に照らすならば,「セグメント」は「部材」を意味することが認められる。そうすると,相違点6に係る本件特許発明6の構成は,転がり手段である「車輪」は,二つの部材(第1のセグメント,第2のセグメント)の間の軸に回転可能に設けられており,その軸は,軸自体が回転しないように二つの部材によって保持されている構成であることが理解される。
イ(ア)刊行物7(甲7)に,「本考案は・・・車輪を靴の前後又は左右に移し,重心位置を低くして走行を安定せしめるようにしたローラースケート靴を提供するにある。」(明細書2頁10行〜13行),「車輪固定部7には円孔の支持部10の上下をゴム11,12で挟み前記ボルト8を螺子止めしている。該車輪固定部7の下部には車軸13が回転可能に設けられ,該車軸の左右に直径10cmの車輪14,15が固定される。16,17はワッシャ,18,19はベアリングで,車輪の内側および外側から挟持し車輪に設けられた係止部20にて各々係止しこれらを螺子21にて一体に固定しているものである。
又高段部7は同様にボルト22にて車軸固定部(図示せず)に固定している。該車軸固定部にはその左右に車軸(図示せず)が設けられ該車軸の両端に車輪23,24が回転可能に配置されている。」(同3頁2行〜13行)と記載されていることに照らすならば,刊行物7には,「車軸(13)に対して,車輪(15)に設けられた係止部(20)にベアリングを内側及び外側から係止してボルト(8)で螺子止めした構造により車輪を車軸固定部に対して回転可能に保持したローラスケートの車輪の取付構造」が開示されているものと認められる。
次に,刊行物16(甲16)には,図1(FIG.1)において,車軸(axle member)12が,サイドフレーム(side frames)2,4にナット(bolt member)14及び16により固定されており,サイドフレーム2,4の間で,車軸12に対してベアリング(ball bearings)10により回転可能に車輪(wheel)8を保持するインライン用のスケート靴の車輪の取付構造が記載されているものと認められる。
(イ)上記(ア)の認定事実に照らすならば,審決が認定するように,「転がり手段が,車輪で,固定軸に回転自在に取り付けられたもの」(審決書34頁)は,本件出願の優先日当時,周知であったものと認められる。また,開口部内の左右の壁に車輪の軸を保持することは常套手段である(例えば,甲3の第2図及び第3図,甲5の図3(Fig.3)及び図4(Fig.4),甲6の図2)。
そして,前記1(4)で説示したとおり,刊行物1の履物において,(「転がり手段」と「地面との本質的な接触をなす部分」の)両者を幅方向に配置することに代えて,両者を長手方向に配置し,「開口部内に保持された転がり手段」を「ヒール部」に「形成」することは容易想到であり,その際に,上記周知の技術及び常套手段を適用して,相違点6に係る本件特許発明6の構成(「転がり手段」は,「車輪」で,「第1のセグメントと第2のセグメントとの間の軸に回転可能に設けられていて,軸は,軸の回転を阻止するように第1のセグメントと第2のセグメントとに保持されている」構成)とすることは,当業者であれば容易に想到し得たものと認められる。これと同旨の審決の判断に誤りはない。
(5) 相違点7の認定判断の誤りについて原告は,刊行物7の転がり手段は,開口部内に保持されているものではなく,審決の周知技術の認定に誤りがあること,刊行物1のローラーは履物の内側に装着され,他端が開放されているので,刊行物7に示されている転がり手段の取り付けをすることができないことに照らすならば,相違点7に係る本件特許発明7の構成が容易想到であるとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
ア前記(4)イ(ア)の認定事実に照らすならば、相違点7に係る本件特許発明7の構成(「第1の精密ベアリング(18)と,第2の精密ベアリング(19)とをさらに備えていて,軸に回転可能に設けられた車輪(15)は,第1の凹部(20)を有する第1の側部と第2の凹部を有する第2の側部とを有し,第1の精密ベアリングが少なくとも第1の転がり手段と軸との間で第1の凹部に設けられ,第2の精密ベアリングが少なくとも第1の転がり手段と軸との間で第2の凹部に設けられている」構成)は,本件出願の優先日当時,周知であったものと認められる。
イ前記1(4)で説示したとおり,刊行物1の履物において,(「転がり手段」と「地面との本質的な接触をなす部分」の)両者を幅方向に配置することに代えて,両者を長手方向に配置し,「開口部内に保持された転がり手段」を「ヒール部」に「形成」することは容易想到であり,その際に,上記アの周知の技術を開口部内に保持されている転がり手段に適用して,相違点7に係る本件特許発明7の構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得たものと認められる。これと同旨の審決の判断に誤りはない。
(6) 相違点8の認定判断の誤りについて原告は,刊行物8は単にベアリングの支持構造を示しただけであり,軸が回転を阻止するように設けられていることや,軸に支持された車輪が開口部内に設けられていることなどの開示がなく,審決の周知技術の認定に誤りがあることに照らすならば,相違点8に係る本件特許発明8の構成が容易想到であるとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
すなわち,「車輪装置一般において,ベアリングにリングクリップの範疇に含まれる,スナップリングを使用すること」(審決書35頁29行〜30行)は,本件出願の優先日当時,周知であったものと認められる(例えば,甲8の第2図)。
そして,前記1(4)で説示したとおり,刊行物1の履物において,(「転がり手段」と「地面との本質的な接触をなす部分」の)両者を幅方向に配置することに代えて,両者を長手方向に配置し,「開口部内に保持された転がり手段」を「ヒール部」に「形成」することは容易想到であり,その際に,上記周知の技術を開口部内に保持されているベアリングに適用して,相違点8に係る本件特許発明8の構成(「第1の精密ベアリングが第1のリングクリップを使用して軸に設けられていて,第2の精密ベアリングが第2のリングクリップを使用して軸に設けられている」構成)とすることは,当業者であれば容易に想到し得たものと認められる。これと同旨の審決の判断に誤りはない。
(7) 相違点9の認定判断の誤りについて原告は,刊行物1の段状凹部(3)は開口部ではなく,また,軸はいわゆる片持ち梁の形態で,ローラーの力は主に側面の板にかかり,刊行物1の底板部(a)は構成,機能において本件特許発明9のそれとは異なることに照らすならば,刊行物1発明は,実質的に相違点9に係る本件特許発明9の構成を備えてなるものといえるとした審決の認定判断は誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
ア本件明細書(甲26)には,「ヒール制御板」(請求項9)に関し,「図5は,車輪装置を形成するために,図4に示されたような,軸に回転可能に設けられた車輪を有して使用するための装着構造部70の斜視図である。装着構造部70は,全体的にヒール制御板72,第1の部材74,および第2の部材76を有している。これに替わる実施例において,板ばねのようなばねが,2つの部材がヒール制御板72と接触する場所に設けることができる。これは,より大きいクッションとサスペンションの付加的利点を提供する。・・・」(段落【0035】),「図6は,車輪装置100の底面図で,図4に示されたような軸62に回転可能に設けられた車輪60と,図5の装着構造部70を有している。・・・ヒール制御板72は,ヒーリング装置の使用者が,ヒーリング装置を用いてよりよい制御とより大きな達成とを得ることを可能にする。」(段落【0039】),「図7は,ヒーリング装置120を形成するように開口部の上方でそこを通って配置された車輪装置100の側面図である。ヒール制御板72は,ヒーリング装置120のよりよい取り扱いと達成を提供するため,所望により使用者のヒールがヒール制御板に圧力を適用するように靴の内側にある。」(段落【0040】)との記載がある。
上記記載と図5,図6及び図7(甲21)によれば,「ヒール制御板」は,開口部内の「車輪の装着構造部」を構成する部材であり,使用者のヒール部分に対応する箇所の板状の部材であって,使用者のヒールを通じた圧力を車輪の装着構造部を通じて車輪に伝達する機能を奏するものと認められる。
イ前記1(1)ア(イ)aによれば,刊行物1の「底板部(a)」は,履物を使用する使用者の足を支持する部材であり,使用者の体重を受け止めるものであって,「底板部(a)」にローラー(支軸を含む。)が取り付けられているから,「底板部(a)」を通じてローラーの車輪に使用者の足裏を通じた圧力を伝達する作用を奏するものであるといえる。
そうすると,刊行物1の履物の操作においては,「底板部(a)自体が,使用者の体重を受け,かつ,ローラーに伝達し,転がり状態の制御に寄与するものと理解する」(審決書36頁35行〜37行)ことができるから,本件特許発明9の「ヒール制御板」が奏する作用(前記ア)と同等の機能を奏するものと認められる。
加えて,前記1(1)イ(ウ)のとおり,刊行物1の履物は,ソールに「開口部」を有し,「開口部内に保持された転がり手段」を備えているといえるから,刊行物1発明は,実質的に相違点9に係る本件特許発明9の構成(「ヒール制御板を有する据え付け構造部をさらに備えた」構成)を備えているとした審決の認定判断に誤りはない。
(8) 相違点10の認定判断の誤りについて審決は,相違点10に係る本件特許発明10の構成は,当業者において必要に応じて適宜なし得る設計的事項といえると判断したが,上記構成により,転がりモードにおいても安定して転がることができ,また,転がらないモードにおいてもヒール部の接地からつま先部への接地への移行を円滑に行うことができるものであることを考慮していないから,審決の上記判断は誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
すなわち,「転がり手段の第2の部分」を,「転がり手段の外径の半分に等しいか半分より小さい量だけ,履物のソールのヒール部の底面の最も低い位置の下方に存在するもの」(相違点10に係る本件特許発明10の構成)は,本件出願の優先日当時,周知であったものと認められる(例えば,甲5の図3(Fig.3),甲6の図1)。
そして,前記1(4)で説示したとおり,刊行物1の履物において,(「転がり手段」と「地面との本質的な接触をなす部分」の)両者を幅方向に配置することに代えて,両者を長手方向に配置し,「開口部内に保持された転がり手段」を「ヒール部」に「形成」することは容易想到であり,その際に,上記周知の技術を適用して,相違点10に係る本件特許発明10の構成とすることは,当業者であれば格別困難なことではない。
また,地面と接触すべきヒール部の底面と,ローラの接地部分との距離が大きいほど,底面と地面との接触が困難となることは明らかであるから,「ソール部の底面の最も低い位置の下方に存在する第2の部分が,大きすぎると,転がりモードが不安定となり」,「転がらないモードにおいて,ヒール部の接地が困難となる」ことは,予測し得る程度のことであるというべきであるから,原告が主張する効果は,いずれも予測可能なものにすぎない。
そうすると,相違点10に係る本件特許発明10の構成は,当業者において必要に応じて適宜なし得る設計的事項といえるした審決の判断に誤りはない。
(9) 相違点11の認定判断の誤りについて原告は,刊行物10は,車輪がないことを必須の要件とし,車輪(転がり手段)を必須の構成とする本件特許発明11とは異なるから,審決の周知技術の認定に誤りがあること,そもそも,刊行物1には,ソールのアーチ部がなく,アーチ部がないことが必須の構成といえるから,刊行物1からアーチ部にプラスチック等の部材を当てて摺動させるということは全く想到できないことに照らすならば,相違点11に係る本件特許発明11の構成が容易想到であるとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
すなわち,審決が認定するように,「ソールのアーチ部にプラスチック等の部材を当てて摺動させることのできる履物」(審決書38頁5行〜6行)は,本件出願の優先日当時,周知であったものと認められる(例えば,甲10の図1(Fig.1),図2(Fig.2)の「グライディング板25」)。
そして,上記周知の技術を適用することが特に困難であるとする事情はなく,また,前記1(1)ア(ウ)認定のとおり,刊行物1の履物は,「つま先部,アーチ部およびヒール部を有するソール」を備えているから,刊行物1の履物に上記周知の技術を適用して,相違点11に本件特許発明11の構成(「ソールのアーチ部に結合された摺擦板をさらに備えた」構成)とすることは,当業者であれば容易に想到し得たものと認められる。これと同旨の審決の判断に誤りはない。
(10) 相違点12の認定判断の誤りについて原告は,刊行物6の開口部は,履物の両側に設け,ここに車輪を設けているので,審決の周知技術の認定に誤りがあること,刊行物1では,開口部に車輪を保持する構造は採ることができず,まして,両側に車輪を設けてしまえば,走行するという機能が失われることに照らすならば,相違点12に係る本件特許発明12の構成が容易想到であるとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
すなわち,「ソールに2つの回転機構が収納される開口部を並列に設けたもの」(審決書38頁21行)は,本件出願の優先日当時,周知であったものと認められる(例えば,甲6の図2)。
そして,前記1(4)で説示したとおり,刊行物1の履物において,(「転がり手段」と「地面との本質的な接触をなす部分」の)両者を幅方向に配置することに代えて,両者を長手方向に配置し,「開口部内に保持された転がり手段」を「ヒール部」に「形成」することは容易想到であり,その際に,上記周知の技術を適用して,相違点12に係る本件特許発明12の構成(「2つの開口部がヒール部に設けられている」構成)とすることは,当業者であれば容易に想到し得たものと認められる。これと同旨の審決の判断に誤りはない。
(11) 相違点13の認定判断の誤りについて原告は,刊行物1にはアーチ部が存在しないし,そもそも存在し得ないのであるから,ソールのアーチ部に結合された摺擦板が公知であるとしても,刊行物1にこれを組み合わせることはできないことに照らすならば,相違点13に係る本件特許発明13の構成が容易想到であるとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,前記(9)と同様の理由により,相違点13に係る本件特許発明13の構成(「ソールのアーチ部に結合された摺擦板をさらに備えた」構成)は,当業者であれば容易に想到し得たものと認められるから,これと同旨の審決の判断に誤りはない。
(12) 相違点14の認定判断の誤りについて原告は,審決は,刊行物2,3のローラーがヒール部近傍に設けられていることをもって,ヒール部に設けられていると判断しているがこれは誤りであることに照らすならば,相違点14に係る本件特許発明14の構成が容易想到であるとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,前記1(4)で説示したとおり,刊行物1の履物において,(「転がり手段」と「地面との本質的な接触をなす部分」の)両者を幅方向に配置することに代えて,両者を長手方向に配置し,「開口部内に保持された転がり手段」を「ヒール部」に「形成」することは容易想到であり,その際に,相違点14に係る本件特許発明14の構成(「少なくとも第1の転がり手段は,唯一の転がり手段で,ヒール部に設けられていて,ソールのつま先部はローラーを備えていない」構成)とすることは,当業者が適宜なし得る程度のことであり,容易に想到し得たものと認められるから,これと同旨の審決の判断に誤りはない。
(13) 相違点15の認定判断の誤りについて原告は,本件特許発明1(16)は,ソールのつま先部を使用して,走行,歩行,停止をするものであり,ヒールブレーキ状態において地面と接触する履物のソールのヒール部分は,走行,歩行,停止の機能ではなく,ブレーキとしての機能が求められているので,当該箇所を耐摩耗性材料としているのに対し,刊行物1の踵部分は,走行,歩行,停止の機能が求められているのであるから,一義的にこの機能に適した材料でなければならず,また,刊行物1には,走行,歩行,停止の機能に適した材料を用いずに,ブレーキとしての機能に適した材料を選択することの記載も示唆もないことに照らすならば,相違点15に係る本件特許発明16の構成が容易想到であるとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
すなわち,前記1(1)オ(ア)で説示したとおり,刊行物1の履物において,踵部(2)を接地することにより接地させることができるものであるから,踵部(2)はブレーキとしての機能をも有するものであり,ブレーキとしての機能を有する以上耐摩耗性を要求されることは当然であり,また,そもそも通常の走行,歩行用の靴のソールについても耐摩耗性が要求されることは技術常識であるから,相違点15に係る本件特許発明16の構成(ヒールブレーキ状態において地面と接触する履物のソールのヒール部の部分が,「耐磨耗性の材料で形成されている」構成)とすることは,当業者が必要に応じてなし得る設計的事項にすぎないとした審決の判断に誤りはない。
(14) 相違点16の認定判断の誤りについて原告は,球形のボールを履物の転がり手段に適用した公知例を示すことなく,用途の全く異なるボールベアリングを例示して周知技術であるとした審決の認定は誤りであることに照らすならば,相違点16に係る本件特許発明18の構成が容易想到であるとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
すなわち,本件出願の優先日当時,「球形のボールが転がり手段」(審決書41頁2行)として周知であったことが認められる(例えば,甲5の図9(Fig.9)ないし図12(Fig.12))。
そして,刊行物1の履物に上記周知の技術を適用して,相違点16に本件特許発明18の構成(「球形のボール」を転がり手段とする構成)を採用することは,当業者であれば容易に想到し得たものと認められる。これと同旨の審決の判断に誤りはない。
(15) 相違点17の認定判断の誤りについて原告は,刊行物1の履物からローラーを取り外すと,内側半分が欠け,履物として使用することができない欠陥履物になるので,刊行物1の履物のローラーを取り外すという動機付けが全くないこと照らすならば,相違点17に係る本件特許発明20の構成が容易想到であるとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
すなわち,「車輪を取り外し可能としたローラー付きの靴」(審決書41頁27行〜28行)は,本件出願の優先日当時,周知であったことが認められる(例えば,甲5の図4(Fig.4))。
そして,前記1(4)で説示したとおり,刊行物1の履物において,(「転がり手段」と「地面との本質的な接触をなす部分」の)両者を幅方向に配置することに代えて,両者を長手方向に配置し,「開口部内に保持された転がり手段」を「ヒール部」に「形成」することは容易想到であり,その際に,上記周知の技術を適用して,相違点17に係る本件特許発明20の構成(「転がり手段が,「履物のソールのヒール部に形成された開口部内で取り外し可能に結合されている」構成)とすることは,当業者であれば容易に想到し得たものと認められるから,これと同旨の審決の判断に誤りはない。
(16) 相違点18の認定判断の誤りについて原告は,相違点18の「引き込み可能」という意味は,突出状態のものが引き込み可能というものであり,刊行物1ではローラーがもともと凹状段部内にいわば引き込まれており,刊行物1のローラーを引き込み可能とする動機付けが全くないこと,刊行物1では開口部にローラーを保持することはできないことに照らすならば,相違点18に係る本件特許発明21の構成が容易想到であるとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
すなわち,「車輪を履物のソールに形成された開口部内に引き込み可能に取り付けたもの」(審決書42頁3行〜4行)は,本件出願の優先日当時,周知であったことが認められる(例えば,甲6の図1,甲13の第1図及び第3図)。
そして,前記1(1)イ(ウ)のとおり,刊行物1の履物は,ソールに「開口部」を有し,「開口部内に保持された転がり手段」を備えているといえるから,刊行物1では開口部にローラーを保持することはできないとの原告の主張は失当であり,また,前記1(4)で説示したとおり,刊行物1の履物において,(「転がり手段」と「地面との本質的な接触をなす部分」の)両者を幅方向に配置することに代えて,両者を長手方向に配置し,「開口部内に保持された転がり手段」を「ヒール部」に「形成」することは容易想到であり,その際に,上記周知の技術を適用して,相違点18に係る本件特許発明21の構成(転がり手段が,「履物のソールのヒール部に形成された開口部内で取り外し可能に結合されている」構成)とすることは,当業者であれば容易に想到し得たものと認められるから,これと同旨の審決の判断に誤りはない。
(17) 相違点19の認定判断の誤りについて原告は,刊行物14の図1,刊行物15の図4は,開口部内に転がり手段があるものでも,開口部の下方に転がり手段の第2の部分が存在するものでも,この第2の部分を覆うためのものでもなく,単に周知のカバー部材を刊行物1に適用しても,本件特許発明22を想到することはできないことに照らすならば,相違点19に係る本件特許発明22の構成が容易想到であるとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
すなわち,「ローラースケートにおいて,その車輪回転機構を覆うための取り外し可能のカバー部材を設けたもの」(審決書42頁23行〜24行)は,本件出願の優先日当時,周知であったことが認められる(例えば,甲14の図1(Fig.1),甲15の図4(Fig.4))。
そして,前記1(4)で説示したとおり,刊行物1の履物において,(「転がり手段」と「地面との本質的な接触をなす部分」の)両者を幅方向に配置することに代えて,両者を長手方向に配置し,「開口部内に保持された転がり手段」を「ヒール部」に「形成」することは容易想到であり,その際に,上記周知の技術を適用して,相違点19に係る本件特許発明22の構成(転がり手段が,「履物のソールのヒール部の底面に形成された開口部の下方に存在する転がり手段の第2の部分を覆うために操作可能な少なくとも第1の転がり手段カバーをさらに備えた」構成)とすることは,当業者であれば容易に想到し得たものと認められるから,これと同旨の審決の判断に誤りはない。
(18) 相違点20の認定判断の誤りについて原告は,刊行物11,16の転がり手段は,刊行物1と同様に,ヒールの開口部内に設けられたものではなく,審決の周知技術の認定に誤りがあることに照らすならば,相違点20に係る本件特許発明24の構成が容易想到であるとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
すなわち,ローラースケート靴の分野で,「転がり手段」が,「軸開口部を有する車輪と,第1の側で軸開口部を取り囲む車輪の第1の側の第1の環状の凹部と,第2の側で軸開口部を取り囲む車輪の第2の側の第2の環状の凹部とを備えていて,さらに,車輪の第1の側の第1の環状の凹部に設けられた第1のベアリングと,車輪の第2の側の第2の環状の凹部に設けられた第2のベアリングと,および車輪が,第1のベアリングと第2のベアリングとによって軸に回転可能に結合されるように車輪の軸開口部内に設けられた軸とをさらに備えた」もの(相違点20に係る本件特許発明24の構成)は,本件出願の優先日当時,周知であったものと認められる(例えば,甲11の図3,甲16の図1(FIG.1))。
そして,前記1(4)で説示したとおり,刊行物1の履物において,(「転がり手段」と「地面との本質的な接触をなす部分」の)両者を幅方向に配置することに代えて,両者を長手方向に配置し,「開口部内に保持された転がり手段」を「ヒール部」に「形成」することは容易想到であり,その際に,上記周知の技術を適用して,相違点20に係る本件特許発明24の構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得たものと認められるから,これと同旨の審決の判断に誤りはない。
(19) 相違点21の認定判断の誤りについて原告は,刊行物17の転がり手段は,刊行物1と同様に,ヒールの開口部内に設けられたものではなく,審決の周知技術の認定に誤りがあることに照らすならば,相違点21に係る本件特許発明25の構成が容易想到であるとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
すなわち,「ローラースケートの分野において,いわゆるウレタンタイヤと称されるコアを有する2部品構造のもの」は,本件出願の優先日当時,周知であったものと認められる(例えば,甲17)。
そして,前記1(4)で説示したとおり,刊行物1の履物において,(「転がり手段」と「地面との本質的な接触をなす部分」の)両者を幅方向に配置することに代えて,両者を長手方向に配置し,「開口部内に保持された転がり手段」を「ヒール部」に「形成」することは容易想到であり,その際に,上記周知の技術を適用して,相違点21に係る本件特許発明25の構成(車輪が,「軸開口部と,第1の環状の凹部と,第2の環状の凹部とを形成し,湾曲した外側表面を有した内側コア部をさらに備え,および車輪の内側コア部の湾曲した外側表面に設けられた比較的軟らかい外側タイヤをさらに備えた」構成)とすることは,当業者であれば容易に想到し得たものと認められるから,これと同旨の審決の判断に誤りはない。
(20) 相違点22の認定判断の誤りについて原告は,車輪の設置位置をすべてヒール部に設けること,接地面部をつま先部とし,「つま先部」が「一般にソールの第1の側から第2の側に延びて」いる構造を採用することは,単なる設計事項ではないこと照らすならば,相違点22に係る本件特許発明26の構成が容易想到であるとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,前記1(3)ア(イ)及び(4)と同様の理由により,相違点22に係る本件特許発明26の構成(接地面部が,「ソール」の「つま先部」であり,「履物を転がすための車輪」の「全て」の設置箇所が,「ヒール部に設けられていてつま先部には設けられていない」とされ,「転がらないモードに変移した時,ソールのつま先部の地面接触部は一般にソールの第1の側から第2の側に延び」ている構成)は,当業者が容易に想到し得たとした審決の判断に誤りはない。
(21) 相違点23の認定判断の誤りについて原告は,相違点23に係る本件特許発明26の構成は,単なる設計事項ではないこと照らすならば,上記構成が容易想到であるとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,前記1(3)ア(イ)と同様の理由により,相違点23に係る本件特許発明26の構成(転がり状態が「ヒール転がり状態」であって,「ヒール転がり状態」では「履物のつま先部の底面が地面の上方に持上げられている」構成)は,当業者が容易に想到し得たとした審決の判断に誤りはない。
(22) 相違点24の認定判断の誤りについて原告は,刊行物6,18は,両側に車輪を設けた構造を開示しているが,刊行物1にこの構造を適用しようとした場合,外側に車輪を設けることになり,このような構造では,歩くための底面がなくなり,刊行物1の目的を達成することができなくなり,刊行物1に,刊行物6,18を組み合わせることに阻害要因があることに照らすならば,相違点24に係る本件特許発明28の構成が容易想到であるとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
すなわち,歩行とローラースケートの両方が可能な履物の分野で,「第1の軸に加え,第2の軸をさらに備え,第2の軸に設けられた第2の車輪が転がり状態の間転がるために地面と接触する」転がり手段(審決書47頁23行〜25行)は,本件出願の優先日当時,周知であったものと認められる(例えば,甲6の図2,甲18の図2(Fig.2))。
そして,前記1(4)で説示したとおり,刊行物1の履物において,(「転がり手段」と「地面との本質的な接触をなす部分」の)両者を幅方向に配置することに代えて,両者を長手方向に配置し,「開口部内に保持された転がり手段」を「ヒール部」に「形成」することは容易想到であり,その際に,上記周知の技術を適用して,相違点24に係る本件特許発明28の構成(軸に設けられた車輪について,「第2の軸に設けられた第2の車輪をさらに備えていて,第2の軸に設けられた第2の車輪は,転がり状態の間転がるために地面と接触する」構成)とすることは,当業者であれば容易に想到し得たものと認められるから,これと同旨の審決の判断に誤りはない。
(23) 相違点25の認定判断の誤りについて原告は,刊行物1は,車輪を一端のみで支持する構造であり,刊行物5の図4の構造を刊行物1の構造に適用するには阻害要因があることに照らすならば,相違点25に係る本件特許発明30の構成が容易想到であるとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
すなわち,歩行とローラースケートの両方が可能な履物の分野で,「軸が,「第1のセグメントと第2のセグメントとを有し」,さらに「軸の第1の部分と軸の第2の部分との間の軸に回転可能に設けられた車輪を備え」(審決書49頁13行〜15行)ているもの(相違点25に係る本件特許発明30の構成)は,本件出願の優先日当時,周知であったと認められる(例えば,甲5の図4(Fig.4)))。
そして,前記1(4)で説示したとおり,刊行物1の履物において,(「転がり手段」と「地面との本質的な接触をなす部分」の)両者を幅方向に配置することに代えて,両者を長手方向に配置し,「開口部内に保持された転がり手段」を「ヒール部」に「形成」することは容易想到であり,その際に,上記周知の技術を適用して,相違点25に係る本件特許発明30の構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得たものと認められるから,これと同旨の審決の判断に誤りはない。
(24) 相違点26の認定判断の誤りについて原告は,刊行物1は,底部を切欠いた箇所にローラーを配置しており,開口部に車輪を配置した構造ではないことに照らすならば,相違点26に係る本件特許発明30の構成が容易想到であるとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,前記1(1)イ(ウ)のとおり,刊行物1の履物は,ソールに「開口部」を有し,「開口部内に保持された転がり手段」を備えているといえるから,刊行物1では開口部に車輪を配置した構造ではないとの原告の主張は失当であり,また,前記1(4)で説示したとおり,刊行物1の履物において,(「転がり手段」と「地面との本質的な接触をなす部分」の)両者を幅方向に配置することに代えて,両者を長手方向に配置し,「開口部内に保持された転がり手段」を「ヒール部」に「形成」することは容易想到であり,その際に,相違点26に係る本件特許発明21の構成(「ソールのヒール部の少なくとも一部分に形成された開口部を有する」構成)とすることは,当業者であれば容易に想到し得たものと認められるから,これと同旨の審決の判断に誤りはない。
(25) 相違点27の認定判断の誤りについて原告は,履物の内側にローラーを配置し,ローラーは履物の底面よりも没入していることが必須の構成である刊行物1からは,車輪の第2の部分が履物のソールに形成された開口部の下方に存在するようにすることはできないことに照らすならば,相違点27に係る本件特許発明30の構成が容易想到であるとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,前記1(4)及び2(2)と同様の理由により,相違点27に係る本件特許発明30の構成(「軸に回転可能に設けられた車輪は,第1の部分,第2の部分を有していて,車輪の第1の部分が履物のソールに形成された開口部内に存在するように,また,車輪の第2の部分が履物のソールに形成された開口部の下方に存在するように装置に結合されてい」る構成)は,当業者が容易に想到し得たとした審決の判断に誤りはない。
(26) 相違点28の認定判断の誤りについて原告は,刊行物1のローラーは,開口部内に設けておらず,切欠かれた履物の底面から突出しないように没入して配置されていることが必須の構成であり,履物の底面から下方に突出する車輪の第2の部分を設けること自体想到することができないことに照らすならば,相違点28に係る本件特許発明31の構成が容易想到であるとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,前記1(4),2(2)及び(3)と同様の理由により,相違点28に係る本件特許発明31の構成(「軸に回転可能に設けられた車輪は,開口部内に存在する車輪の第1の部分が,開口部の下方に存在する車輪の第2の部分より大きいようにソールのヒール部の開口部内に設けられている」構成)は,当業者が容易に想到し得たとした審決の判断に誤りはない。
(27) 相違点29の認定判断の誤りについて原告は,相違点7の認定判断の誤りと同様の理由により,相違点29に係る本件特許発明32の構成が容易想到であるとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,前記(5)と同様の理由により,相違点29に係る本件特許発明32の構成(「第1の精密ベアリングと;第2の精密ベアリングとをさらに備えていて,軸に回転可能に設けられた車輪が第1の凹部を有する第1の側部と第2の凹部を有する第2の側部とを有し,第1の精密ベアリングが車輪と軸との間で第1の凹部に設けられていて,第2の精密ベアリングが車輪と軸との間で第2の凹部に設けられている」構成)は,当業者が容易に想到し得たとした審決の判断に誤りはない。
(28) 相違点30の認定判断の誤りについて原告は,相違点11の認定判断の誤りと同様の理由により,相違点30に係る本件特許発明34の構成が容易想到であるとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,前記(9)と同様の理由により,相違点30に係る本件特許発明34の構成(「ソールのアーチ部に隣接して結合された摺擦板をさらに備えた」構成)は,当業者が容易に想到し得たとした審決の判断に誤りはない。
(29) 相違点31の認定判断の誤りについて原告は,刊行物1のローラーは履物内側の切欠き部分に装着されることが必須の構成であり,刊行物1においては,刊行物19,20のように軸の両側に車輪を設けた構造を採ることはできず,刊行物1に刊行物19,20に記載の技術を適用することはできないことに照らすならば,相違点31に係る本件特許発明36の構成が容易想到であるとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
すなわち,ローラースケートの車輪構造として,「少なくとも第1の係合可能なセグメントに隣接する軸に取着された少なくとも1つの車輪を備えて」(審決書52頁19行〜20行)いるもの(相違点31に係る本件特許発明36の構成)は,本件出願の優先日当時,周知であったものと認められる(例えば,甲19,20)。
そして,前記1(4)で説示したとおり,刊行物1の履物において,(「転がり手段」と「地面との本質的な接触をなす部分」の)両者を幅方向に配置することに代えて,両者を長手方向に配置し,「開口部内に保持された転がり手段」を「ヒール部」に「形成」することは容易想到であり,その際に,上記周知の技術を適用して,相違点31に係る本件特許発明36の構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得たものと認められるから,これと同旨の審決の判断に誤りはない。
(30) 相違点32の認定判断の誤りについて原告は,刊行物1はローラーが履物内側の切欠き内に没入していることを必須の構成とするものであって,「車輪の第2の部分が履物のソールに形成された開口部の下方に存在する」との構成自体を採ることができないことに照らすならば,相違点32に係る本件特許発明36の構成が容易想到であるとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,前記(2)と同様の理由により,相違点32に係る本件特許発明36の構成(「軸に取着された少なくとも1つの車輪は,第1の部分,第2の部分を有していて,車輪の第1の部分が履物のソールに形成された開口部内に存在するように,また,車輪の第2の部分が履物のソールに形成された開口部の下方に存在するように係合可能なセグメントを介して装置に結合されてい」る構成)は,当業者が容易に想到し得たとした審決の判断に誤りはない。
(31) 相違点33の認定判断の誤りについて原告は,相違点31の認定判断の誤りと同様の理由により,相違点33に係る本件特許発明37の構成が容易想到であるとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,前記(29)と同様の理由により,相違点33に係る本件特許発明37の構成(「車輪は,外形を有していて,車輪の第2の部分は,車輪の外径の半分に等しいか半分より小さい量だけ,履物のソールのヒール部の最も低い位置の下方に存在する」構成)は,当業者が容易に想到し得たとした審決の判断に誤りはない。
(32) 本件特許発明27に関する相違点の看過について原告は,本件特許発明27の車輪はヒール部に設けられ,つま先部に設けられていないことが前提であることに照らすならば,履物の内側面につま先部から複数のローラーが列設されていることを理由に,刊行物1の「ローラー(5)・・・(5)」は,本件特許発明27の「軸の設けられた1つ以上の車輪を備え」たものに相当するとして,相違点22ないし23のほかに,本件特許発明27には刊行物1との相違点は認められないとの審決の認定判断は誤りであると主張する。
しかし,前記1(1)ア(イ)aによれば,刊行物1の「ローラー(5)・・・(5)」は,支軸(51)に設けられたローラーであり,その車輪は複数あることによれば,刊行物1の「ローラー(5)・・・(5)」が,「軸の設けられた1つ以上の車輪を備え」たものに相当するとした審決の認定に誤りはなく,原告の上記主張は,審決を正解しないものであり,失当である。
(33) まとめ以上のとおり,審決における刊行物1発明との一致点の認定,相違点1ないし3の認定判断に誤りはなく,また,相違点4ないし37に関する審決の認定判断にも誤りはないから,これらに誤りがあることを前提に,本件特許発明2ないし37の進歩性の判断の誤りをいう原告の取消事由は理由がない。
3 結論以上のとおりであるから,本件特許発明1ないし37は,刊行物1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの審決の判断に誤りはなく,上記判断の誤りをいう原告主張の取消事由は理由がない。
原告は,他にも審決の上記判断の誤りを縷々主張するが,その主張自体審決の結論に影響を及ぼすものではなく,審決を取り消すべき瑕疵に該当しない。
よって,刊行物2を主引例とする新規性進歩性の判断の誤りに関する原告主張の取消事由(前記第3の1(38)ないし(40))について判断するまでもなく,原告の本訴請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 大鷹一郎
裁判官 嶋末和秀