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関連審決 無効2004-80181 訂正2005-39148
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成18行ケ10404審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10098審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 技術的思想 /  使用方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  周知技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  実質的に同一 /  援用権(援用) /  参酌 /  技術的意義 /  置き換え /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  交換 /  設定登録 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  減縮 /  変更 /  独立特許要件 /  訂正明細書 /  原告適格 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10421号 審決取消請求事件
原告株式会社ハイテック・プロダクト
訴訟代理人弁護 士吉澤敬夫
同 牧野知彦
訴訟代理人弁理 士岡本啓三
被告ロ ーツェ株式会社
訴訟代理人弁護 士山下英樹
同 仲卓也
訴訟代理人弁理 士木村高久
同 小幡義之
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/09/12
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1特許庁が無効2004−80181号事件について平成18年8月15日にした審決中,「特許第2580489号の請求項1ないし4,6ないし10に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文第1項と同旨
争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,平成6年5月13日,発明の名称を「多関節搬送装置,その制御方法及び半導体製造装置」とする発明について特許出願(優先権主張・平成5年11月4日,特願平6-100065号。以下「本件出願」という。)をし,平成8年11月21日,特許庁から特許第2580489号(請求項の数10。以下「本件特許」という。)として特許権の設定登録を受けた。
本件特許に対し被告から特許無効審判請求がされ,特許庁はこれを無効2004-80181号事件として審理し,平成17年6月28日,「特許第2580489号の請求項1ないし4,6ないし10に係る発明についての特許を無効とする。特許第2580489号の請求項5に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決(以下「第1次審決」という。)をした。
原告は,第1次審決中,請求項1ないし4,6ないし10に係る発明についての特許を無効とする部分の取消しを求める審決取消訴訟(知財高裁平成17年(行ケ)第10599号)を提起した後,同年8月22日,本件特許の特許請求の範囲減縮等を目的とする訂正審判請求(訂正2005-39148号事件)をした。
知的財産高等裁判所(第2部)は,同年11月8日,特許法181条2項に基づき,事件を審判官に差し戻すため,第1次審決中,請求項1ないし4,6ないし10に係る発明についての特許を無効とする部分を取り消す旨の決定をした。差戻し後の事件について,所定の期間内に訂正の請求がされなかったため,上記訂正審判請求の請求書に添付された訂正した明細書,特許請求の範囲又は図面を援用した訂正(以下「本件訂正」という。)の請求がされたものとみなされた(以下,本件訂正後の訂正明細書及び図面を併せて「本件明細書」という。)。
そして,特許庁は,審理の結果,平成18年8月15日,「訂正を認める。特許第2580489号の請求項1ないし4,6ないし10に係る発明についての特許を無効とする。特許第2580489号の請求項5に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決をし,同審決は,同月24日,原告に送達された(以下,上記審決中,「特許第2580489号の請求項1ないし4,6ないし10に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を「本件審決」という。)。
2 特許請求の範囲本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし10の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件発明1」といい,請求項2ないし10に係る発明もこれに準じて「本件発明2」などという。なお,下線は本件訂正による訂正箇所である。)。
「【請求項1】 第1の搬送部(15)と,前記第1の搬送部(15)の回転面に対して上又は下側に位置するように高さを規定した第2の搬送部(16)と,前記第1の搬送部(15)を一方向に伸縮する第1の多関節駆動部(11)と,前記第2の搬送部(16)を一方向に伸縮する第2の多関節駆動部(12)と,前記第1の多関節駆動部(11)の回動中心となる第1の固定軸(13A)と前記第2の多関節駆動部(12)の回動中心となる第2の固定軸(13B)とを有し,かつ,前記第1の多関節駆動部(11)に回転力を与える第1の駆動軸(13C)と前記第2の多関節駆動部(12)に回転力を与える第2の駆動軸(13D)とを有する共通駆動部(13)と,前記第1の多関節駆動部(11),第2の多関節駆動部(12)及び共通駆動部(13)を回動制御する駆動制御手段(14)とを備え,前記駆動制御手段(14)が行う制御には,第1の搬送部(15)又は第2の搬送部(16)を伸縮するために共通駆動部(13)を回動させる制御と,この共通駆動部(13)を回動させる制御中,第2の搬送部(16)又は第1の搬送部(15)が共通駆動部(13)上に取り込まれた状態であるようにする制御とが含まれるものであって,前記第1の搬送部(15)及び第2の搬送部(16)を前記共通駆動部(13)の上部に縮めたとき,前記第1の搬送部(15)と第2の搬送部(16)とを高低差をもって重なるようにしたことを特徴とする多関節搬送装置。
【請求項2】前記共通駆動部(13)を高さ方向に移動する高さ調整手段(17)が設けられることを特徴とする請求項1記載の多関節搬送装置。
【請求項3】前記第1の搬送部(15)及び第2の搬送部(16)が共通駆動部(13)上に取り込まれる状態を有し,かつ,前記取り込まれた第1の搬送部(15)の載置面から第2の搬送部(16)の載置面までの間隔が,前記第2の搬送部(16)に載置する被搬送物(20)の厚み(t0)と,前記第1の搬送部(15)の厚み(t1)と隙間(g)を加算した載置間距離(Dz)に規定されることを特徴とする請求項1記載の多関節搬送装置。
【請求項4】前記第1の駆動軸(13C),第2の駆動軸(13D)及び共通駆動部(13)を個別に回動制御する電動機(24A,24B,24C)を有する駆動制御装置(24)が設けられ,前記駆動制御装置(24)は,前記第1の搬送部(15)と同じ方向に前記第2の搬送部(16)を伸縮するように前記電動機(24A,24B,24C)を制御することを特徴とする請求項1記載の多関節搬送装置。
【請求項5】前記共通駆動屈曲アーム(33)を回動制御する電動機(34A)と,前記電動機(34A)の回転力に基づいて第1の駆動軸(23C)及び第2の駆動軸(23D)を回動制御する動力伝達制御器(34B,34C)とを有する駆動制御装置(34)と,前記駆動制御装置(34)を共通駆動屈曲アーム(33)の軸を中心にして回動する電動機(44)が設けられることを特徴とする請求項1記載の多関節搬送装置。
【請求項6】前記共通駆動部(13)の回転軸を概略垂線とする平面において,該共通駆動部(13)が「く」の字型に屈曲されたアーム状を構成することを特徴する請求項1記載の多関節搬送装置。
【請求項7】前記第1の駆動軸(13C)を固定し,前記第2の駆動軸(13D)及び共通駆動部(13)を同期させて回動することを特徴とする請求項1〜6記載の多関節搬送装置の制御方法。
【請求項8】前記第2の駆動軸(13D)を固定し,前記第1の駆動軸(13C)及び共通駆動部(13)を同期させて回動することを特徴とする請求項1〜6記載の多関節搬送装置の制御方法。
【請求項9】前記第1の駆動軸(13C),第2の駆動軸(13D)及び共通駆動部(13)を同期させて回動することを特徴とする請求項1〜6記載の多関節搬送装置の制御方法。
【請求項10】被加工基板(19)を各種加工処理するn個のプロセスチャンバ(Pn,〔n=1,2,…n〕)と,前記プロセスチャンバ(Pn)に被加工基板(19)を出し入れする基板搬送手段(18)とを備え,前記基板搬送手段(18)が請求項1〜6記載の多関節搬送装置から成ることを特徴とする半導体製造装置。」3 本件審決の内容本件審決の内容は,別紙審決書写しのとおりである。
その理由の要旨は,本件発明1ないし4及び6ないし10は,特開平5-109866号公報(甲2)記載の発明(以下「甲2発明」という。),特開平4-30447号公報(甲1)及び特開昭63-288677号公報(甲3)記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,さらに,本件発明6は,平成6年法律第116号による改正前の特許法36条(以下「特許法旧36条」という。)4項に規定する要件を満たしていないというものである。
本件審決は,本件発明1ないし4,6ないし10と甲2発明とを対比し,次のとおりの一致点及び相違点があると認定した。
(1) 本件発明1ないし4,6ないし10と甲2発明との一致点「第1の搬送部と,前記第1の搬送部の回転面に対して下側に位置するように高さを規定した第2の搬送部と,前記第1の搬送部を一方向に伸縮する第1の多関節駆動部と,前記第2の搬送部を一方向に伸縮する第2の多関節駆動部と,前記第1の多関節駆動部の回動中心となる第1の固定軸を有し,かつ前記第1の多関節駆動部に回転力を与える第1の駆動軸を有する駆動部と,前記第2の多関節駆動部の回動中心となる第2の固定軸を有し,かつ前記第2の多関節駆動部に回転力を与える第2の駆動軸を有する駆動部と,前記第1の多関節駆動部,第2の多関節駆動部及び駆動部を回動制御する駆動制御手段とを備え,前記駆動制御手段が行う制御には,第1の搬送部又は第2の搬送部を伸縮するために駆動部を回動させる制御と,第1の搬送部又は第2の搬送部が駆動部上に取り込まれた状態であるようにする制御とが含まれるものであって,前記第1の搬送部及び第2の搬送部を前記駆動部の上部に縮めたとき,前記第1の搬送部と第2の搬送部とを高低差をもって重なるようにした多関節搬送装置。」である点。
なお,本件発明2と甲2発明とは,「駆動部を高さ方向に移動する高さ調整手段が設けられる」点も一致すると認定した。
(2) 相違点ア 相違点1多関節駆動部と固定軸とを支持する駆動部が,本件発明1ないし4,6ないし10では第1の多関節駆動部及び第1の固定軸と,第2の多関節駆動部及び第2の固定軸とについて共通の部材であるのに対し,甲2発明では個別に回動可能な2部材からなる点。
イ 相違点2駆動制御手段が行う制御には,本件発明1ないし4,6ないし10では,第1の搬送部又は第2の搬送部を伸縮するために共通駆動部を回動させる制御と,この共通駆動部を回動させる制御中,第2の搬送部又は第1の搬送部が共通駆動部上に取り込まれた状態であるようにする制御とが含まれるのに対し,甲2発明では一方の搬送部を伸縮するために駆動部を回動させる制御と,他方の搬送部が駆動部上に取り込まれた状態であるようにする制御との間に関連がない点。
ウ 相違点3第1の搬送部の載置面から第2の搬送部の載置面までの間隔が,本件発明3では第2の搬送部に載置する被搬送物の厚みと,第1の搬送部の厚みと隙間を加算した載置間距離に設定されるのに対し,甲2発明では載置間距離について特定されていない点。
エ 相違点4本件発明4は第1の駆動軸,第2の駆動軸及び単一の共通駆動部を個別に駆動する電動機を有するのに対し,甲2発明は第1の駆動軸,第2の駆動軸及び2つの駆動部を個別に駆動する電動機を有する点。
オ 相違点5多関節駆動部と固定軸を支持する駆動部が,本件発明6では「く」の字形の屈曲された単一のアーム状を構成するのに対し,甲2発明では個別に回動し得る第1の駆動部と第2の駆動部との2部材からなる点。
カ 相違点6本件発明7では第1の駆動軸を固定し,第2の駆動軸及び共通駆動部を同期させて回動するのに対し,甲2発明ではこのような動作をさせることについて特定がない点。
キ 相違点7本件発明8では第2の駆動軸を固定し,第1の駆動軸及び共通駆動部を同期させて回動するのに対し,甲2発明ではこのような動作をさせることについて特定がない点。
ク 相違点8本件発明9では第1の駆動軸,第2の駆動軸及び共通駆動部を同期させて回動するのに対し,甲2発明ではこのような動作をさせることについて特定がない点。
ケ 相違点9本件発明10は,「被加工基板を各種加工処理するn個のプロセスチャンバと,前記プロセスチャンバに被加工基板を出し入れする基板搬送手段とを備え,前記基板搬送手段が多関節搬送装置から成る半導体製造装置」であるのに対し,甲2発明はプロセスチャンバを備える半導体製造装置について記載されていない点。
当事者の主張
1 原告主張の取消事由本件審決には,以下のとおり,本件発明1の容易想到性の判断の誤り(取消事由1),本件発明2ないし4,6ないし10の容易想到性の判断の誤り(取消事由2),本件発明6に関する明細書の記載不備の判断の誤り(取消事由3)がある。
(1) 取消事由1(本件発明1の容易想到性の判断の誤り)ア 本件発明1と甲2発明との一致点の認定の誤り本件審決がした本件発明1と甲2発明との一致点の認定中,下線部分は,以下のとおり誤りである。
「第1の搬送部と,前記第1の搬送部の回転面に対して下側に位置するように高さを規定した第2の搬送部と,前記第1の搬送部を一方向に伸縮する第1の多関節駆動部と,前記第2の搬送部を一方向に伸縮する第2の多関節駆動部と,前記第1の多関節駆動部の回動中心となる第1の固定軸を有し,かつ前記第1の多関節駆動部に回転力を与える第1の駆動軸を有する駆動部と,前記第2の多関節駆動部の回動中心となる第2の固定軸を有し,かつ前記第2の多関節駆動部に回転力を与える第2の駆動軸を有する駆動部と,前記第1の多関節駆動部,第2の多関節駆動部及び駆動部を回動制御する駆動制御手段とを備え,前記駆動制御手段が行う制御には,第1の搬送部又は第2の搬送部を伸縮するために駆動部を回動させる制御と,第1の搬送部又は第2の搬送部が駆動部上に取り込まれた状態であるようにする制御とが含まれるものであって,前記第1の搬送部及び第2の搬送部を前記駆動部の上部に縮めたとき,前記第1の搬送部と第2の搬送部とを高低差をもって重なるようにした多関節搬送装置。」(ア)甲2の搬送装置においては,第1(第3)中空シャフトは,これと一体の第1(第5)歯車上に第2(第4)モータが設けられているため,第1(第3)中空シャフトを回転させても,第2中空シャフト及び第1アームも一体となって回転するため,第2(第5)アームは第1(第4)アームに対して回転することはないのであるから,「第1中空シャフト」は,「第2アームに回転力を与える駆動軸」ではなく,本件発明1の「第1の駆動軸」に相当するものではなく,また,甲2の搬送装置の「第3中空シャフト」は,「第5アームに回転力を与える駆動軸」ではなく,本件発明1の「第2の駆動軸」に相当するものではない。
以上のとおり,甲2の搬送装置は,「第1の駆動軸」及び「第2の駆動軸」を備えていないから,「前記第1の多関節駆動部の回動中心となる第1の固定軸を有し,かつ前記第1の多関節駆動部に回転力を与える第1の駆動軸を有する駆動部と,前記第2の多関節駆動部の回動中心となる第2の固定軸を有し,かつ前記第2の多関節駆動部に回転力を与える第2の駆動軸を有する駆動部と」の構成を具備しない。
したがって,本件審決が,上記構成を備えている点で本件発明1と甲2発明とは一致すると認定した点には誤りがある。
(イ)本件発明1(請求項1)では,「前記駆動制御手段(14)が行う制御には,第1の搬送部(15)又は第2の搬送部(16)を伸縮するために共通駆動部(13)を回動させる制御と,この共通駆動部(13)を回動させる制御中,第2の搬送部(16)又は第1の搬送部(15)が共通駆動部(13)上に取り込まれた状態であるようにする制御とが含まれる」との構成における「この共通駆動部(13)を回動させる制御中」との要素により,一方の搬送部が搬送動作を行っているときの他方の搬送部の動作を限定している点に技術的意義を有する。
これに対し甲2発明は,そもそもが2つのアーム部(51,52)を同時に別々に動かすことを目的とする発明であるから(甲2の段落【0013】),「第1の搬送部又は第2の搬送部を伸縮するために駆動部を回動させる制御」と「第1の搬送部又は第2の搬送部が駆動部上に取り込まれた状態であるようにする制御」動作を個別的に行うことはできるのであって,一方の搬送部が搬送動作を行っているときの他方の搬送部の動作を限定することはない。
したがって,本件審決が,本件発明1の「この共通駆動部(13)を回動させる制御中」という構成(要素)を無視し,「前記駆動制御手段が行う制御には,第1の搬送部又は第2の搬送部を伸縮するために駆動部を回動させる制御と,第1の搬送部又は第2の搬送部が駆動部上に取り込まれた状態であるようにする制御とが含まれる」点で,一致すると認定した点に誤りがある。
イ 相違点1についての容易想到性の判断の誤り(ア) 甲3の記載事項の認定の誤り本件審決は,甲3には,「左右のウエハ保持部を用いて,同一方向において,一方のウエハ保持部に載置されたウエハを搬送先に移動して,それを他方のウエハ保持部を用いて搬送先のウエハと交換する運動を行う搬送装置において,左右のアーム部材とそれらの回転軸とを共通の第1のアーム部材に設けること」(審決書17頁12行〜16行)が記載されていると認定しているが,以下のとおり誤りである。
a甲3には,第1図ないし第3図に記載された搬送装置の実施例について,「左右のウエハ保持部材を用いて,一方のウエハ保持部材が未処理基板を処理室に搬入し,その間他方のウエハ保持部材は,処理済み基板を保持して待機し,他方のウエハ保持部材が処理済み基板を搬出し,その間一方のウエハ保持手段は,未処理基板を保持して待機する運動を行うこと」が記載されており,審決にいう「左右のウエハ保持部を用いて,同一方向において,一方のウエハ保持部に載置されたウエハを搬送先に移動して,それを他方のウエハ保持部を用いて搬送先のウエハと交換する運動を行う」こと(以下「記載事項a」ということがある。)が記載されている。
また,甲3には,第4図及び第5図に記載された搬送装置の実施例について,「2つのウエハ保持部材を全く同期させて直線軌道に沿って動かす場合には,第2のアーム部材とその回転軸及び第3のアーム部材とその回転軸とを共通の第1アーム部材とその回転軸とを共通の第1アーム部材に設けること」が記載されており,審決にいう「左右のアーム部材とそれらの回転軸とを共通の第1のアーム部材を設けること」(以下「記載事項b」ということがある。)が記載されている。
bしかし,甲3の第4図及び第5図に記載された搬送装置は,「ウエハ保持部を全く同期させて直線軌道に沿って動かす」目的で(すなわち,左右のアームを反対方向に同時に直線軌道に沿って動かす目的で),「第2のアーム部材とその回転軸及び第3のアーム部材とその回転軸とを共通の第1アーム部材とその回転軸とを共通の第1アーム部材に設け」たものであるから,「同一方向において,一方のウエハ保持部に載置されたウエハを搬送先に移動して,それを他方のウエハ保持部を用いて搬送先のウエハと交換する」ことを目的とした搬送装置ではなく,したがって,その点で第1図ないし第3図に記載された搬送装置とは異なる。
なお,甲3には,「また,他の実施例として,上記ウエハ保持部(28),(33)はどちらか一方だけを動かすことも可能である。」(3頁左下欄12行〜13行)との記載がされている。しかし,ウエハ保持部(28),(33)は,第1図,第2図に記載された部材を示しており,第4図,第5図に記載された部材(ウエハ保持部(53),(54))を示しているものではないこと,また,第4図,第5図の実施例は,駆動軸を駆動させるモータが1つしかなく,ウエハ搬送部の「どちらか一方だけを動かす」ことは不可能であるから,上記記載は,記載事項aについての「他の実施例」を示したものと理解すべきである。
c以上のとおり,記載事項a及び記載事項bは,別の搬送装置に関する相互に独立した事項であって,甲3において,両者を兼ね備えた技術的事項が記載されているとはいえない。
したがって,本件審決が,「左右のウエハ保持部を用いて,同一方向において,一方のウエハ保持部に載置されたウエハを搬送先に移動して,それを他方のウエハ保持部を用いて搬送先のウエハと交換する運動を行う搬送装置において,左右のアーム部材とそれらの回転軸とを共通の第1のアーム部材に設けること」が甲3に記載されていると認定した点には誤りがある。
(イ) 容易想到性の判断の誤り本件審決は,相違点1について,「甲第3号証記載の事項は,甲第2号証記載の発明と同じく,多関節搬送装置に係るから,前者の技術を後者に適用して,相違点1に係る構成を本件発明1のものとすることは,当業者であれば容易になし得る。」と判断した。
しかし,本件審決の判断には,以下のとおり誤りがある。
aまず,前記(ア)のとおり,甲3には,「左右のウエハ保持部を用いて,同一方向において,一方のウエハ保持部に載置されたウエハを搬送先に移動して,それを他方のウエハ保持部を用いて搬送先のウエハと交換する運動を行う搬送装置において,左右のアーム部材とそれらの回転軸とを共通の第1のアーム部材に設けること」の記載はない。
b甲2には,「上述した従来のウェハ移載ロボットは,アーム部が1本しかなかったので,第1ウェハカセットから第2ウェハカセットにウェハを移載する場合には,ウェハ移載ロボットは例えば25スロットのウェハカセットでは25往復ハンドリングする必要があり,ウェハの移載に時間がかかる欠点がある。」(段落【0003】)及び「ウェハカセット移載ロボット50の片方のアーム部51と他方のアーム部52は個々に,半径(R)方向と回転(θ)方向に動作可能である。よって,図4に示すように,第1ウェハカセット60から第2ウェハカセット61にウェハを移載する場合には,ウェハカセット移載ロボット50は例えば25スロットのウェハカセットでは12.5往復分でハンドリングすることができる。」(段落【0012】)との記載があることに照らすならば,甲2発明は,「アーム部51」(第4アーム22,第5アーム26及び第6アーム31で構成)と「アーム部52」(第1アーム7,第2アーム11及び第3アーム16で構成)は,それぞれ,独立して動作することができる点において技術的な意味が存在する。甲2発明は,第1アームと第4アームが独立して回動することを前提として,第1(第3)のモータを駆動したときには,アームの向き(θ)を変え,第2(第4)のモータを駆動したときにはウォンドが伸縮(R)運動をするという技術思想の下に,駆動系が設計された発明である。
このような技術思想に基づく甲2の搬送装置について,仮に甲3の記載事項b(前記(ア)a)に従って,第1アーム7と第4アーム22を一体化した場合には,2つのアーム部51と52は,それぞれ,独立して動作することができなくなり,第1アーム7と第4アーム22を一体化することは,甲2発明の目的に反する構成をあえて採用することになるから,阻害事由があるといえるし,少なくとも動機付けは存在しない。
すなわち,甲3の第4図及び第5図に示された連動型共通アームは,一対のウエハ保持部が互いに対称の動作をするものであり,その駆動系の技術思想を,それぞれのウォンドが独立して動作する甲2の搬送装置の駆動系に適用することは,不可能であるか,又は意味がない。
cしたがって,甲2発明に,甲3記載の技術を適用して,相違点1に係る本件発明1の構成を容易に想到し得たとの本件審決の判断は誤りである。
ウ 相違点2についての容易想到性の判断の誤り本件審決は,相違点2について,「甲第2号証記載の発明では,第1の搬送部又は第2の搬送部を伸縮するために駆動部を回動させる制御と,第2の搬送部又は第1の搬送部が駆動部上に取り込まれた状態であるようにする制御とは,互いに干渉することなく,独立して別個に行うことができるが,左右の搬送部を用いて,同一方向において,一方の搬送部に載置された被搬送物を搬送先に移動して,それを他方の搬送部を用いて搬送先の被搬送物と交換する運動を行う場合,一方の搬送部を伸縮するために一方の駆動部を回動させている間,他方の搬送部を他方の駆動部上に取り込まれた状態としておくことは,甲第2号証記載の発明の使用法として,当業者が容易に選択し得るものである。甲第2号証記載の発明をこのような使用法に適用するにあたり,駆動部を甲第3号証記載の事項のように第1及び第2の駆動部を一体化した共通駆動部とした場合,一方の搬送部を伸縮するために共通駆動部を回動させる制御中に,他方の搬送部を共通駆動部上に取り込まれた状態であるようにする制御を行うことは,第1及び第2の駆動部を一体化した共通の駆動部とすることに伴う,当然の結果というべきである。」(審決書17頁30行〜18頁7行)と判断した。
しかし,本件審決の判断には,以下のとおり誤りがある。
(ア)前記ア(イ)のとおり,本件発明1(請求項1)の「前記駆動制御手段(14)が行う制御には,第1の搬送部(15)又は第2の搬送部(16)を伸縮するために共通駆動部(13)を回動させる制御と,この共通駆動部(13)を回動させる制御中,第2の搬送部(16)又は第1の搬送部(15)が共通駆動部(13)上に取り込まれた状態であるようにする制御とが含まれる」との構成は,「この共通駆動部(13)を回動させる制御中」という要素によって,一方の搬送部が搬送動作を行っているときの他方の搬送部の動作を限定している点に技術的意義を有する。しかし,本件審決は,上記の構成の技術的意義に関する検討をすることなく,これ無視し,相違点2について,漫然と第1及び第2の駆動部を一体化した共通の駆動部とすることに伴う「当然の結果」であると判断したものであり,このような判断手法は誤りである。
(イ)甲2の搬送装置は,アーム部51と52とを別々のウエハカセットに交互に動かすことで,1つのアーム部からなる装置と比較して半分の往復分でハンドリングすることをできるようにするための装置であるから(段落【0012】等),一方のアーム部が稼働している時に,あえて他方のアーム部を使わない(すなわち,「取り込まれた状態であるようにする」)という方法を採用する動機付けはない。
また,甲2の搬送装置は,一方の搬送部のみが搬送を行い,他方の搬送部は搬送を行わないという使用方法を行う場合,第1アームと第4アームとを相互に独立して回転させて搬送部を別々に駆動することができるのであるから,わざわざ,甲3に記載された左右の搬送部を用いて反対方向に同時に搬送するための構成(第1アーム及び第4アームを一体化する構成)を採用する動機付けもない。
以上のとおり,甲2の搬送装置において,審決がいう「一方の搬送部を伸縮するために一方の駆動部を回動させている間,他方の搬送部を駆動部上に取り込まれた状態としておく」ような使用法を適用する際に,第1アームと第4アームを一体化して共通の駆動部とすることは考えられない。
(ウ)前記ア(ア)のとおり,甲2の搬送装置は,「第2アームに回転力を与える駆動軸」及び「第5アームに回転力を与える駆動軸」を備えておらず,本件発明1の構造とは異なり,「第1(第4)アームが回転したとき,第2(第5)アームを第1(第4)アームの上に収納した状態とするため」に必要な「第2(第5)アームを第1(第4)アームに対して回転させる駆動手段」がないのであるから,このような甲2の構造に照らすならば,当業者が,甲2の第1アーム及び第4アームを一体化させた場合に,相違点2に係る本件発明1のような動作を行うことを想定するはずがない。
エ 小括以上によれば,本件発明1が容易想到であるとした本件審決の判断は誤りである。
(2)取消事由2(本件発明2ないし4,6ないし10の容易想到性の判断の誤り)ア 本件発明2ないし4,6ないし10に共通前記(1)のとおり,本件発明1が容易想到であるとした本件審決の判断は誤りであるから,請求項1(本件発明1)を引用する本件発明2ないし4,6ないし10が容易想到であるとした本件審決の判断も誤りである。
イ相違点4の認定及び判断の誤り(ア) 相違点4の認定の誤り前記(1)ア(ア)のとおり,甲2の搬送装置は,「第1の駆動軸」及び「第2の駆動軸」を備えていないから,本件審決が相違点4において「甲2発明は第1の駆動軸,第2の駆動軸及び2つの駆動部を個別に駆動する電動機を有する」と認定した点は誤りである。
(イ) 相違点4についての容易想到性の判断の誤り本件審決は,「相違点4は,甲第2号証記載の発明における2つの個別に回動する駆動部を,本件発明1において単一の共通駆動部にて置き換えたことに伴い,共通駆動部を1つの電動機で駆動するようにしたという,当業者にとって当然の設計変更にすぎない。」(審決書19頁19行〜22行)として,本件発明4は,甲2発明と甲1及び甲3記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと判断した。
しかし,本件審決の判断には,以下のとおり誤りがある。
a甲2の搬送装置は,第2中空シャフトを回転させる「第2モータ」と第4シャフトを回転させる「第4モータ」とは,それぞれ第1アームと第4アームを回転させ,アーム部51と,アーム部52にそれぞれ半径(R)方向の動作(伸縮運動)を行わせるものであり,第1アームと第4アームを一体化すれば,一方のモータは不要となるので,これを外すことは考えられる。また,第1中空シャフトを回転させる「第1モータ」と,第3中空シャフトを回転させる「第3モータ」とは,第1歯車と第5歯車とをそれぞれ回転させることにより,アーム部51と,アーム部52にそれぞれ回転(θ)方向の動作(旋回運動)を行わせるものであり,アーム部51と,アーム部52のそれぞれの回転方向を定める第1アームと第4アームを一体化すれば,一方のモータは不要となるので,当業者は一方のモータを外すことも考えられる。
しかし,当業者であれば,「第2モータ」と「第4モータ」について一方を外したにもかかわらず,「第1モータ」と「第3モータ」について2つのモータを残すという構成を採用することは考えられないから,甲2の搬送装置において,2つの駆動部を共通駆動部にしたときに,「第1の駆動軸,第2の駆動軸及び単一の共通駆動部を個別に駆動する電動機を有する」構成(相違点4に係る本件発明4の構成)とすることは,当業者が当然に行う設計変更であるとはいえない。
bまた,前記のとおり,甲2発明は,第1アームと第4アームが独立して回動することを前提として,第1(第3)のモータを駆動したときには,アームの向き(θ)を変え,第2(第4)のモータを駆動したときにはウォンドが伸縮(R)運動をするという技術思想の下に,駆動系が設計された発明であり,第1モータ及び第3モータは旋回運動用のモータとして,第2モータ及び第4モータは伸縮運動用のモータとしてそれぞれ機能しており,それぞれのモータの機能が異なっている。したがって,仮に,甲2の搬送装置において,第1モータと第3モータを共通駆動部を駆動するとの機能を持たせようとした場合には(第2モータと第4モータは,第1歯車又は第5歯車の上にあるので両者を1つのモータで駆動するようにすることは簡単ではない。),それぞれのモータが固定されている第2歯車と第6歯車の2つは不要であるので,それらの軸を共通の軸とし,これを1つのモータで回転させるようにするのであろうが,この場合には,共通駆動部を回転させ,一方のアーム部51(52)を伸縮させつつ,他方のアーム部52(51)を,共通駆動部上に取り込まれた状態とする動作をすることはできない。
以上のとおり,甲2の搬送装置において,第1アームと第4アームを一体化した際に,第1ないし第4のモータのうちのいずれか1つを取り除いても,単純に「第1の駆動軸,第2の駆動軸及び単一の共通駆動部を個別に駆動する電動機を有する」との機能を持たせることはできない。
c被告は,甲2の搬送装置において,例えば,第1アームと第4アームとを一体化すれば,第2モータ及び第2中空シャフトが省略でき,モータは全体で4つから3つに減少することができると主張する。しかし,以下のとおり,被告の主張のとおり改造した甲2の搬送装置は,本件発明4とは全く異なったものにしかならない。
すなわち,被告の主張のとおり改造した甲2の搬送装置において,本件明細書記載の第1の制御方法(第2の搬送部16を共通駆動部上に取り込んだ状態で第1の搬送部15を伸縮させる作動。段落【0019】及び【0020】)に対応するように動作させるには,(第1中空シャフト用の)第1モータ(35)を固定し,第4モータ(44)が駆動されて第4シャフト(5)を回転させ,同時に第3モータ(41)を駆動することが必要である。しかし,第2ウォンドを第4アームに取り込んだ状態で第1アーム及び第4アームを一体化した部材が回動,すなわち,本件明細書記載の「第1の制御方法」に対応した回動をすることはない。また,第2モータ省略後の第3モータ(41)が本件明細書記載の「駆動軸13D用のモータ24B」に対応するはずであるが,第3モータ(41)を駆動すると,第3中空シャフト(4)に連れて第4シャフトが回転し,一体化した第1アームと第4アーム全体が回動するため,「駆動軸13D用のモータ24B」とは全く異なることとなる。
また,被告の主張のとおり改造した甲2の搬送装置において,本件明細書記載の第2の制御方法(第1の搬送部15を共通駆動部上に取り込んだ状態で第2の搬送部16を伸縮させる作動。段落【0020】及び【0021】)に対応するように動作させるには,第3モータ(41)を固定し,第4モータ(44)が駆動されて第4シャフト(5)を回転させ,同時に第1モータ(35)が同期して駆動されると第1中空シャフトが(2)回転させられることになるので,第1アームと第4アームとが一体化された場合であっても,第2ウォンド(32)が伸縮し,第1ウォンド(17)が第1アーム(7)上に取り込まれた状態で作動する。これは,甲2の搬送装置は,もともと,第3モータが固定した状態で第4モータが回転すると第2ウォンド(「第2の搬送部16」に対応)が伸縮し,第2モータが固定された状態で第1モータが回転すると第1ウォンド(「第1の搬送部15」に対応)を第1アームに取り込んだ状態で第1アームが回動するように構成されていたから,その動作と全く同一である。本件発明4と被告が主張する改造した甲2の「作動」は同じではあるが,それぞれのモータの機能は本件発明4のものとは異なる。
さらに,被告の主張のとおり改造した甲2の搬送装置において,本件明細書記載の第3の制御方法(第1の搬送部15及び第2の搬送部16が取り込まれた状態で共通駆動部が旋回する作動。段落【0022】及び【0023】)に対応するように,第1モータ(35),第3モータ(41)及び第4モータ(44)を駆動させた場合には,どのような作動になるのかを特定することは困難であり,本件明細書記載のようにこれらのすべてを駆動した場合には,少なくとも,第2ウォンドを第4アームに取り込んだ状態で第1アーム及び第4アームを一体化した部材が回動することはない。
dしたがって,本件発明4は,甲2発明と甲1及び甲3記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの本件審決の判断は誤りである。
ウ相違点5についての容易想到性の判断の誤り本件審決は,@「個別に回動し得る2つの駆動部を単一の共通駆動部とすることは,・・・(相違点1の判断)に示したとおり,当業者が容易に想到し得る」(審決書19頁末行〜20頁1行),A「共通駆動部を,直線状のものから,「く」の字型に屈曲されたアーム状のものに変更することは,当業者が適宜に採用し得る設計上の事項にすぎない」(同20頁3行〜4行),B「甲第3号証記載の事項のように第1及び第2の駆動部を一体化した共通駆動部とした場合でも,一方の駆動軸と共通駆動部とが同期して回動する間,他方の駆動軸を固定して多関節駆動部を伸縮させることは,当業者であれば容易に想到し得る。」(同21頁9行〜12行),C本件明細書の発明の詳細な説明に「「収納角度」が必要である理由が実質的に記載されているということはできず,被請求人が主張する,共通駆動部を「く」の字型に屈曲したアーム状とすることの効果も認めることはできない。」(同20頁24行〜27行)として,本件発明6は,甲2発明と甲1及び甲3記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと判断した。
しかし,本件審決の判断には,以下のとおり誤りがある。
(ア)本件発明6の「く」の字型に屈曲されたアーム状の共通駆動部(相違点5に係る本件発明6の構成)について,本件明細書(甲8の2)に,「さらに,本発明の第2の実施例によれば,図10(原告注・「図9」とあるのは誤記)に示すように,「く」の字型に屈曲された共通駆動屈曲アーム33が採用される。このため,共通駆動屈曲アーム33上に両フォーク35及び36を取り込んだ状態において,従来例のような収納角度γを設けることなく,両フォーク35及び36を重なった状態に揃えることが可能となる。このことで,被搬送物30を同一方向に伸縮させることが可能となる。これにより,第1の実施例に比べて,各フォーク35及び36の伸縮方向を切り換える旋回時間が無用となり,被搬送物30の入れ替え時間の短縮化を図ることが可能となる。」(段落【0074】,【0075】),「また,本発明の他の装置によれば,共通駆動部が「く」の字型に屈曲されたアーム状に構成される。このため,共通駆動部上に第1,第2の搬送部を取り込んだ状態において,両搬送部を揃えることが可能となる。このことで,従来例に比べて装置の旋回半径を小さくすること,及び,被搬送物を同一方向に伸縮させることが可能となる。また,両搬送部の切り換え旋回時間が無用となり,被搬送物の入れ替え時間の短縮化を図ることが可能となる。」(段落【0109】)と記載されているとおりの技術的意義を有するのであるから,この技術的意義を考慮することなく,当業者が適宜採用し得る設計上の事項であると判断することはできない。
(イ)したがって,本件発明6は,甲2発明と甲1及び甲3記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの本件審決の判断は誤りである。
エ相違点6についての容易想到性の判断の誤り本件審決は,「甲第2号証記載の発明では,第2又は第4モータを駆動しない限り,第1の駆動軸と第1の駆動部及び第2の駆動軸と第2の駆動部とはそれぞれ同期して回動し,また,第2又は第4モータだけを駆動すると,対応する第1又は第2の駆動軸は固定されたまま,第1又は第2の多関節駆動部が伸縮する。第2及び第4モータは個別に回動制御されるものであるから,一方の駆動軸と駆動部とが同期して回動する間,他方の駆動軸を固定して多関節駆動部を伸縮させることは,当業者が容易になし得る。」(審決書21頁2行〜8行)から,甲2発明において,「甲第3号証記載の事項のように第1及び第2の駆動部を一体化した共通駆動部とした場合でも,一方の駆動軸と共通駆動部とが同期して回動する間,他方の駆動軸を固定して多関節駆動部を伸縮させることは,当業者がであれば容易に想到し得る。」(同21頁9行〜12行)として,本件発明7は,甲2発明と甲3記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと判断した。
しかし,本件審決の判断には,以下のとおり誤りがある。
(ア)前記(1)ア(ア)のとおり,甲2の搬送装置は,「第1の駆動軸」及び「第2の駆動軸」を備えていない。また,仮に,甲2の搬送装置の「第1中空シャフト」及び「第3中空シャフト」がそれぞれ本件発明7の「駆動軸1」及び「駆動軸2」に相当するとしても,2つの駆動部を共通駆動部にしたとき「一方の駆動軸と駆動部とが同期して回動する間,他方の駆動軸を固定して多関節駆動部を伸縮させる」ものとすることは単なる設計変更とはいえない。
(イ)甲2の搬送装置では,第1(第2)の駆動軸と一体の第1(第5)歯車上に第2(第4)モータが設けられているため,第2(第4)モータを駆動しないときには,第1(第2)の駆動軸(第1中空シャフト)が第1(第2)の駆動部(第1アーム)と一体となって回転するのであり,第1(第2)の駆動軸(第1中空シャフト)が第1(第2)の駆動部(第1アーム)と無関係に回転することができ,それらの回転を同期させる構成は採用されていない。一方,甲2の搬送装置において,アーム部51,52に回転(θ)方向の運動(旋回運動)をさせる際には,第1の駆動軸と第1の駆動部及び第2の駆動軸と第2の駆動部とはそれぞれ一体となって回動するので,第1駆動部(第1アーム)又は第2駆動部(第4アーム)に回転(伸縮運動)を与える第2モータ又は第4モータは停止させていなければならない。
(ウ)以上によれば,甲2の搬送装置において,「一方の駆動軸と駆動部と自由に回転させ,これを同期して回動する間,他方の駆動軸を固定して多関節駆動部を伸縮させること」は当業者が容易になし得るということはできず,相違点6に係る本件発明7の構成(「第1の駆動軸を固定し,第2の駆動軸及び共通駆動部を同期させて回動する」構成)を採用することに容易に想到し得るものではないから,本件発明7は,甲2発明と甲3記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの本件審決の判断は誤りである。
オ相違点7についての容易想到性の判断の誤り本件審決は,相違点7について,「本件発明8は,固定する駆動軸と,共通駆動部と同期させて回動する駆動軸を本件発明7のそれらと入れ換えただけのものである」(審決書21頁24行〜25行)ので,相違点6の判断と同様の理由により,本件発明8は,甲2発明と甲3記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと判断した。
しかし,前記エと同様の理由により,甲2の搬送装置において,相違点7に係る本件発明8の構成(「第2の駆動軸を固定し,第2の駆動軸及び共通駆動部を同期させて回動する」構成)を採用することに容易に想到し得るものとはいえないから,本件審決の上記判断は誤りである。
カ相違点8についての容易想到性の判断の誤り本件審決は,「甲第2号証記載の発明では,第2又は第4モータを駆動しない限り,第1の駆動軸と第1の駆動部及び第2の駆動軸と第2の駆動部とはそれぞれ同期して回動する」(審決書22頁2行〜4行)から,甲2発明において,甲3記載の事項のように第1及び第2の駆動部を一体化した共通駆動部とした場合に,「第1の駆動軸,第2の駆動軸及び共通駆動部を同期して回動すること」(相違点8に係る本件発明9の構成)は当業者であれば容易に想到し得るとして,本件発明9は,甲2発明と甲3記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと判断した。
しかし,本件審決の判断には,以下のとおり誤りがある。
(ア)前記エ(イ)のとおり,甲2の搬送装置において,アーム部51,52に回転(θ)方向の運動(旋回運動)をさせる際には,第1の駆動軸と第1の駆動部及び第2の駆動軸と第2の駆動部とはそれぞれ一体となって回動し,第1駆動部(第1アーム)又は第2駆動部(第4アーム)に回転(伸縮運動)を与える第2モータ又は第4モータは停止させていなければならないことに照らすならば,甲2の搬送装置において,第1及び第2の駆動部を一体化した共通駆動部とした場合,アーム部51,52に回転(θ)方向の運動をさせる際に,第1の駆動軸(又は第2の駆動軸)を回転させる第3のモータ(第1のモータ)を,第1の駆動部(又は第2の駆動部)と同期するよう回転させればよいと考えることが容易に想到し得るとはいえない。
(イ)したがって,本件発明9は,甲2発明と甲3記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの本件審決の判断は誤りである。
(3) 取消事由3(本件発明6に関する明細書の記載不備の判断の誤り)本件審決は,@「本願の発明の詳細な説明には,共通駆動部が直線状である場合に「収納角度」が必要である理由が,実質的に記載されていないため,両搬送部を同じ方向に伸縮させるために共通駆動部を回転させなければならない理由が不明である」(審決書20頁6行〜9行),A「搬送部が向きを変えずに一直線上を移動するためには,共通駆動部の回動中心軸から第1又は第2の固定軸までの距離と,多関節駆動部の第1又は第2の固定軸から第1又は第2の搬送部までの距離との関係,並びに共通駆動部の旋回角度と共通駆動部に対する多関節駆動部の旋回角度の比率を特定することが必要であるところ,本願の明細書にも図面にもこれらの距離の関係や比率については記載されていないため,本件発明6が上記課題を満たすことを目的としていると理解することはできず,本件明細書の発明の詳細な説明に「収納角度」が必要である理由が実質的に記載されているということはできない」(同20頁17行〜24行)と指摘し,「共通駆動部が「く」の字型に屈曲されたアーム状を構成することの技術的意義は,・・・当業者が理解しうる程度に記載されているということはできない。
よって,本件発明6は,特許法第36条第4項に規定する要件を満たさない。」(同23頁28行〜32行)と判断した。
しかし,本件審決の判断には,以下のとおり誤りがある。
ア(ア)本件明細書(甲8の2)の発明の詳細な説明及び図面(甲7)には,共通駆動部を「く」の字型に屈曲したアーム状にした場合における,共通駆動部の回動中心軸から第1又は第2の固定軸までの距離と,多関節駆動部の第1又は第2の固定軸から第1又は第2の搬送部までの距離との関係,並びに共通駆動部の旋回角度と共通駆動部に対する多関節駆動部の旋回角度の比率が実質的に記載されているから,当業者が本件明細書に接すれば容易に本件発明6の搬送装置を設計することができる。
(イ)本件明細書には,共通駆動部を「く」の字型に屈曲されたアーム状に構成した効果について,「共通駆動部上に第1,第2の搬送部を取り込んだ状態において,両搬送部を揃えることが可能となる。このことで,従来例に比べて装置の旋回半径を小さくすること,及び,被搬送物を同一方向に伸縮させることが可能となる。また,両搬送部の切り換え旋回時間が無用となり,被搬送物の入れ替え時間の短縮化を図ることが可能となる。」(段落【0109】)と記載されているから,効果を奏する理由の説明が不十分であるということはない。
(ウ)共通駆動部が直線状である場合に,同じ搬送ストロークを確保しつつ,搬送装置の占有面積を小さくするために,「収納角度」が必要であることは,本件特許明細書の記載に基づいて当業者が容易に理解をすることができる。また,本件特許明細書の図3,図6,図7(とりわけ図6,図7の(B)図では直線に移動する矢印が記載されている。),図13,図14,図19,図21を見れば,いずれも,「搬送部が向きを変えずに直線上に移動していること」が示されており,かつ,このような事項は正に技術常識であるから,本件明細書に接した当業者であれば,本件明細書から「搬送部が向きを変えずに直線上に移動」するとの技術事項を当然に認識できる。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明には,共通駆動部が直線状である場合に「収納角度」が必要である理由が,実質的に記載されていないとはいえず,記載不備に関する前記@の指摘は理由がない。
イ本件明細書の図面(甲7)に,共通駆動部の回動中心軸から第1又は第2の固定軸までの距離と,多関節駆動部の第1又は第2の固定軸から第1又は第2の搬送部までの距離との関係,並びに共通駆動部の旋回角度と共通駆動部に対する多関節駆動部の旋回角度の比率については,実質的に記載されているのであるから,記載不備に関する前記Aの指摘も理由がない。
ウ以上のとおり,本件発明6は,特許法旧36条4項に規定する要件を満たさないとの本件審決の判断は誤りである。
2 被告の反論(1) 取消事由1に対しア 一致点の認定の誤りに対し(ア)本件発明1(請求項1)の「前記第1の多関節駆動部(11)に回転力を与える第1の駆動軸(13C)」及び「前記第2の多関節駆動部(12)に回転力を与える第2の駆動軸(13D)」中の「回転力を与える」について,駆動軸の回転は,アームの「旋回運動」だけに関与するのであって,「伸縮運動」に関与することはなく,「伸縮運動」をするときには,駆動軸は固定されている。このことは,請求項1の文言及び本件明細書の段落【0042】,【0043】,【0045】,【0046】,図6及び図7の記載から明らかである。
ところで,甲2には,第1モータ35が回転すると,その回転力が第1中空シャフト2に伝達されて第2アーム11が回転θ方向に回転されるという発明が記載されており(4頁5欄1行〜4行),第1モータ35の回転力が第1中空シャフト2に伝達されて第2アーム11が回転されている以上,「第1中空シャフト2」は,「第2アーム11に回転力を与える駆動軸」であるといえる。同様に,甲2には,第3モータ41が回転すると,その回転力が第3中空シャフト4に伝達されて第5アーム26が回転θ方向に回転されるという発明が記載されており(4頁5欄8行〜10行),第3モータ41の回転力が第3中空シャフト4に伝達されて第5アーム26が回転されている以上,「第3中空シャフト4」は,「第5アーム26に回転力を与える駆動軸」であるといえる。
したがって,甲2の搬送装置は,「第1の多関節駆動部に回転力を与える第1の駆動軸」(「第1中空シャフト2」)及び「第2の多関節駆動部に回転力を与える第2の駆動軸」(「第3中空シャフト4」)を備えているから,これらを備えていないことを前提に,本件審決の一致点の認定の誤りをいう原告の主張は失当である。
(イ)原告は,本件発明1の「この共通駆動部(13)を回動させる制御中」という構成(要素)を無視し,「前記駆動制御手段が行う制御には,第1の搬送部又は第2の搬送部を伸縮するために駆動部を回動させる制御と,第1の搬送部又は第2の搬送部が駆動部上に取り込まれた状態であるようにする制御とが含まれる」点で,本件発明1と甲2発明とが一致するとした本件審決の認定は誤りであると主張する。
しかし,本件審決は,「この共通駆動部を回動させる制御中」という構成については,相違点2で実質的に考慮した上で,その容易想到性についての判断をしているから,本件審決の一致点の認定には,実質的な誤りはない。
イ 相違点1についての容易想到性の判断の誤りに対し(ア) 甲3の記載事項a本件審決は,甲3の第3図(b),(c)に示されるように,ウエハ保持部28,33を備えた搬送装置が同一方向(シャッター38の方向)において,一方のウエハ保持部33に載置されたウエハを搬送先に移動して,それを他方のウエハ保持部28を用いて搬送先のウエハと交換する運動を順次行っている点,甲3の第3図(e),(f)に示されるように,ウエハ保持部28,33を備えた搬送装置が同一方向(シャッター39の方向)において,一方のウエハ保持部33に載置されたウエハを搬送先に移動して,それを他方のウエハ保持部28を用いて搬送先のウエハと交換する運動を,順次行っている点を指摘するとともに,この動作が甲3の第4図,第5図に示す,ウエハ保持部53,54を備えた搬送装置にも同様に適用される点を指摘する(審決書14頁5行〜35行)。
b甲3には,第4図,第5図に示す,ウエハ保持部53,54(第3図に示す,ウエハ保持部28,33に対応)を備えた搬送装置が同一方向(シャッタ38ーの方向)において,一方のウエハ保持部54(ウエハ保持部33に対応)に載置されたウエハを搬送先に移動して,それを他方のウエハ保持部53(ウエハ保持部28に対応)を用いて搬送先のウエハと交換する運動を,順次行っている点(第3図(b),(c)),あるいは,第4図,第5図に示す,ウエハ保持部53,54(第3図に示す,ウエハ保持部28,33に対応)を備えた搬送装置が同一方向(シャッタ39ーの方向)において,一方のウエハ保持部54(ウエハ保持部33に対応)に載置されたウエハを搬送先に移動して,それを他方のウエハ保持部53(ウエハ保持部28に対応)を用いて搬送先のウエハと交換する運動を,順次行っている点(第3図(e),(f))が記載されているといえる。また,甲3の第4図,第5図に示す搬送装置は,左右のアーム部材51,52とそれらの回転軸49,50とを共通の第1アーム部材42に設けた構成を備えた装置である。
また,甲3には,第1図ないし第3図に記載された搬送装置の実施例の説明の後に,「また他の実施例として,上記ウエハ保持部(28),(33)を全く同期させて直線軌道に沿って動かす場合には,第4図及び第5図に示すような構造にしてもよい。つまり・・・この第2および第3アーム部材(51),(52)の他端にはウエハ保持部(53),(54)が形成されている。ここで,ウエハ保持部(53),(54)を直線軌道に沿って動かすための条件は,上記第1の実施例で述べた条件と同じである。」(3頁右上欄13行〜左下欄11行)との記載がある。上記記載は,第3図に示す「第1の実施例」の動作を,第4図及び第5図に示すウエハ保持部(53),(54)を備えた搬送装置が同様に行い得ることを示すものと理解することができる。
cしたがって,甲3には,「左右のウエハ保持部を用いて,同一方向において,一方のウエハ保持部に載置されたウエハを搬送先に移動して,それを他方のウエハ保持部を用いて搬送先のウエハと交換する運動を行う搬送装置において,左右のアーム部材とそれらの回転軸とを共通の第1アーム部材に設けること」が記載されているとの本件審決の認定に誤りはない。
(イ) 容易想到性a本件審決は,「一対の搬送部を用いて,同一方向において,一対の搬送部の一方に載置された被搬送物を搬送先に移動して,それを他方の搬送部を用いて搬送先の被搬送物と交換する運動を行うことは,甲第1号証や甲第3号証に例示されるように,従来周知の技術である。甲第2号証記載の発明も,一対の搬送部を有するものであるから,前記運動を行う目的に使用することは,当業者が容易に想到し得る」(審決書17頁6行〜11行)とし,その上で,「甲第3号証記載の事項は,甲第2号証記載の発明と同じく,前者の技術を後者に適用して,相違点1にかかる構成を本件発明1のものとすることは,当業者であれば容易になし得る。」(同17頁26行〜28行)と判断している。
すなわち,甲1や甲3に例示されるように,本件発明1の共通駆動部に相当する部分が,個別に回動可能な2部材となっているものであれ,共通の部材となっているものであれ,「一対の搬送部を用いて,同一方向において,一対の搬送部の一方に載置された被搬送物を搬送先に移動して,それを他方の搬送部を用いて搬送先の被搬送物と交換する運動」を行う点は周知技術であるから,個別に回動可能な2部材からなる甲2に接した当業者は,上記周知技術を用いて,上記運動を行う目的の下に,甲2の個別に回動可能な2部材を,甲3の共通の部材に置換する変更は容易であると述べているのであって,甲2と甲3のみから相違点1の容易想到性を判断したものではない。このように本件審決は,甲2と甲3とを結びつける動機,起因として,「周知技術」の存在を指摘するとともに,本件発明1の作用効果が「周知技術」の作用効果の範疇であるとして,両者を結びけることに困難はないと判断したものであって,その判断手法に誤りはない。
b甲2には,「図4に示すように,第1ウエハカセット60から第2ウエハカセット61にウエハを移載する場合には,ウエハカセット移載ロボット50は例えば25スロットのウエハカセットでは12.5往復分でハンドリングすることができる。」(段落【0012】)との記載があり,共通駆動部に相当する各アームを別個に動作させることを目的とする発明であることが記載され,処理済又は未処理のウエハをウエハカセット60から第2ウエハカセット61に移載するという用途が記載されているものの,本件発明1のように,ウエハカセット60又はウエハカセット61のいずれか一つとの間で処理済みウエハと未処理ウエハを移載する用途に使用しないとの明確な記載やそれを示唆する記載はない。また,甲2には,「ウエハカセット移載ロボット50の片方のアーム部51と他方のアーム部52は個々に,半径(R)方向と回転(θ)方向に動作可能である。」(段落【0012】)との記載があり,第1アーム7と第4アーム22をあたかも単一部材であるかのように同期させて半径方向および伸縮方向に回動させることが可能であるので,回転方向(旋回方向)及び半径方向(伸縮方向)において,それぞれ同期させる制御を行った場合には,第1ウォンドと第2ウォンドとは,ウエハカセット60(及び61)に向かって同一方向に伸縮しており,第1アームと第4アームとがは固定されていても何ら問題もなく,本件発明1と同じ目的を達成することができ,本件発明1と実質的に同一の装置として用いることができる。
また,甲3記載の発明についても,甲2,本件発明1と技術分野を同じくし,共通駆動部に相当する部分が一体となって回動するか,回動し得る点で共通するといえる。
以上のとおり,本件発明1と技術分野において共通し作用,機能において共通している甲2と甲3の技術文献があった場合に,当業者が,上記(ア)の周知技術を適用して,この周知技術の運動を行うことを目的として,甲2の別部材のアームを,甲3の一体となった共通駆動部に置換して本件発明1を想到することに格別困難な事情はない。
ウ 相違点2についての容易想到性の判断の誤りに対し前記イのとおり,「一対の搬送部を用いて,同一方向において,一対の搬送部の一方に載置された被搬送物を搬送先に移動して,それを他方の搬送部を用いて搬送先の被搬送物と交換する運動」を行うという周知技術が存在し,甲2に接した当業者は,上記運動を行うために,一方の搬送部を伸縮するために一方の駆動部を回動させている間,他方の搬送部を他方の駆動部上に取り込まれた状態にしておく使用法を,甲2発明の一使用法として容易に選択し得る。そもそも,甲2発明は,第1の搬送部又は第2の搬送部を伸縮するために駆動部を回動させる制御と,第2の搬送部又は第1の搬送部が駆動部上に取り込まれた状態であるようにする制御とを,互いに干渉することなく,独立して別個に行うことができる自由度,汎用性をもっているのであるから,「一方の搬送部を伸縮するために一方の駆動部を回動させている間,他方の搬送部を他方の駆動部上に取り込まれた状態にしておく」という形態は甲2発明の一使用法にすぎない。
したがって,甲3に接した当業者は,甲2の個別に回動可能な2部材を,甲3の共通の部材に置換した上で,一方の搬送部を伸縮するために一方の駆動部を回動させている間,他方の搬送部を他方の駆動部上に取り込まれた状態にしておく使用法を,当然の結果として行い得るといえるから,相違点2の容易想到性についての本件審決の判断に原告主張の誤りはない。
(2) 取消事由2に対しア 相違点4についての容易想到性の判断の誤りに対し本件発明4(請求項4)は,本件発明1(請求項1)の従属項であり,前記のとおり,甲2発明における2つの個別に回動する駆動部を,本件発明1における単一の共通駆動部に置き換えることは,当業者が容易になし得るものである。
そして,2つの個別に回動する駆動部を駆動する2つの電動機を,単一の共通駆動部に置換したことに伴い,1つの電動機で駆動するように変更することは,モータの数が減るだけの作用効果が得られるだけで,発明として特段の作用効果もない当業者が当然に行い得る設計事項である。
すなわち,甲3には,第1図,第2図に示す,個別のアーム部材(14),(21)を,第4図,第5図に示す一体のアーム部材(42)にするときに,個別のアーム部材(14),(21)を個別に回動させていた2つのモータ(12),(15)を,1つのモータ(40)にするという技術思想が明確に記載されている。そして,甲3の個別のアーム部材(14),(21)は,これらアーム部材が回転駆動することで搬送部の伸縮に寄与するという点で,本件発明4の共通駆動部に相当し,一方,甲2の第1アーム,第4アームも,これらアーム部材が回転駆動することで搬送部の伸縮に寄与するという点で,本件発明1の共通駆動部に相当するので,甲3の個別のアーム部材(14),(21)は,甲第2の第1アーム,第4アームに相当する。甲3に接した当業者は,甲3に開示された上記技術思想にかんがみ,甲2の第1アーム,第4アームを一体の部材にするときに,第1アーム,第4アームを個別に回動させていた個別の第2モータ,第4モータを,1つのモータで駆動するように当然になし得るといえる。
したがって,「相違点4は,甲第2号証記載の発明における2つの個別に回動する駆動部を,本件発明1において単一の共通駆動部にて置き換えたことに伴い,共通駆動部を1つの電動機で駆動するようにしたという,当業者にとって当然の設計変更にすぎない。」の本件審決の判断に誤りはない。
イ 相違点5についての容易想到性の判断の誤りに対し本件明細書には,「両搬送部を揃えることによる効果」(段落【0074】,【0075】,【0109】)が記載されているにとどまり,共通駆動部が直線状である場合には両搬送部を揃えることができなくて,共通駆動部を「く」の字型に屈曲したアーム状(相違点5に係る本件発明6の構成)にしたことで両搬送部を揃えることができたとする理由は何ら記載されておらず,「共通駆動部を「く」の字型に屈曲したアーム状にしたことの効果も認めることはできない。」と判断した本件審決に誤りはない。
また,共通駆動部が直線上である場合に「収納角度」が必要である理由は,第1次審決における指摘を受けて提出された訂正審判請求書(甲8の1)において初めて明らかにされた事項であり,本件明細書の記載に基づくものではなく,本件明細書には,共通駆動部が「く」の字型に屈曲されたアーム状を構成することの技術的意義の実質的な記載はない。
したがって,相違点5に係る本件発明6の構成は,「当業者が適宜に採用し得る設計上の事項にすぎない」とした本件審決の判断に誤りはない。
ウ 相違点6についての容易想到性の判断の誤りに対し前記のとおり,甲2の搬送装置は,「第1中空シャフト」は「第2アームに回転力を与える駆動軸」,甲2の「第3中空シャフト」は「第5アームに回転力を与える駆動軸」であり,本件発明の第1の駆動軸,第2の駆動軸を備えている。
そして,甲2には,第3中空シャフト4(第2駆動軸に対応)及び第4アーム22(共通駆動アームに対応)が「同期」して回動することで,第4アーム22(共通駆動アームに対応)と第5アーム26(搬送アームに対応)からなるアーム51全体が見かけ上静止した状態で回転θ方向に旋回するという発明(4頁5欄7行〜10行)が記載されており,これは,本件明細書の【0042】,【0043】及び図6に記載された,第2駆動軸13D及び共通駆動アーム23が「同期」して回動することで,共通駆動アーム23と搬送アーム22からなるアーム全体が見かけ上静止した状態で旋回することと全く同じであり,本件明細書中で定義されているのと同じ「同期」の動きが甲2においても実現されている。
また,甲2には,第1中空シャフト2(第1駆動軸に対応)が回転されず固定されることで,第1アーム7(共通駆動アームに対応)に対して第2アーム11(搬送アームに対応)が相対的に回転して,アーム52が半径R方向に伸縮するという発明(4頁5欄1行〜4行)が記載されている。
そして,甲2の搬送装置では,片方のアーム部51と他方のアーム52がそれぞれ同時に「同期」によるアーム旋回動作及び「固定」によるアーム伸縮動作を個別に行うができること(4頁5欄15行〜16行)に照らすならば,甲3と甲2を結びつけ,甲2の第1アーム7と第4アーム22を一体の共通駆動部に置換すれば,一方の駆動軸と駆動部が同期して回動する間(「同期」によるアーム旋回動作),他方の駆動軸を固定して多関節駆動部を伸縮させる動き(「固定」によるアーム伸縮動作)が実現されることになるから,相違点6に係る本件発明の7の構成を容易に想到し得たとの本件審決の判断に誤りはない。
エ 相違点7についての容易想到性の判断の誤りに対し前記ウと同様の理由により,相違点7に係る本件発明の8の構成を容易に想到し得たとの本件審決の判断に誤りはない。
オ 相違点8についての容易想到性の判断の誤りに対し前記ウと同様の理由により,甲2には,本件明細書中で定義されているのと同じ「同期」の動きが実現されている。
したがって,甲3と甲2を結びつけ,甲2の第1アーム7と第4アーム22を一体の共通駆動部に置換すれば,第1の駆動軸,第2の駆動軸及び共通駆動部を同期して回動させる動きが実現されることになるから,相違点8に係る本件発明の9の構成を容易に想到し得たとの本件審決の判断に誤りはない。
(3) 取消事由3に対しア本件明細書には,「共通駆動部を「く」の字型に屈曲したアーム状にしたことの効果」及び共通駆動部が直線上である場合に「収納角度」が必要である理由の実質的な記載はない。
したがって,本件明細書に接した当業者において,直線状の共通駆動部を用いても,各回動部の軸間距離や旋回角度の組合せによっては収納角度を設けることなく,占有面積を最小化し得る可能性を排除することができない。
また,「搬送部が向きを変えずに直線状に移動する」ことを前提として「収容角度」が不要となるという課題は,訂正審判請求書(甲8の1)で初めて明らかにされた。本件明細書に「搬送部が向きを変えずに直線状に移動している」ことが直接記載されていない以上,「距離や比率」のすべてを特定することによってことを明らかにさせる必要がある。しかし,本件明細書には,「距離や比率」のすべてが特定がされていないので,本件明細書に接した当業者は,本件発明6が「搬送部が向きを変えずに直線状に移動している」ことを理解することができない。
なお,本件明細書の発明の詳細な説明の欄では,図3,図6,図7,図13,図14,図19,図21に関して「フォークが一方向に伸縮する」,「共通駆動アームの最大回動時には,フォーク,搬送アームおよび共通駆動アームが一直線状に並んだ状態となる」と記載されているのみであり,「フォーク(搬送部)が向きを変えない」,「フォーク(搬送部)が一直線上に移動する」という説明は一切されていない。特許明細書における添付図面は,あくまでも明細書の理解の補助の位置付けにあり,当業者は,本件明細書に記載された「フォークが一方向に伸縮し,共通駆動アームの最大回動時には,フォーク,搬送アームおよび共通駆動アームが一直線状に並んだ状態となる」という動きを理解するために図面を参照することができるにすぎない。また,いかに正確に線図が描かれた設計図面といえども寸法等の情報が明示されていない部分に定規をあてて情報を取得できないのと同様に,特許図面に定規をあてて,「フォーク(搬送部)が向きを変えない」ことや,「フォーク(搬送部)が一直線上に移動する」が記載されているとすることはできない。
イ以上によれば,共通駆動部が「く」の字型に屈曲されたアーム状を構成することの技術的意義が,本件明細書に当業者が理解し得る程度に記載されているということはできず,本件発明6は特許法旧36条4項の要件を満たさないとした本件審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明1の容易想到性の判断の誤り)について(1) 一致点の認定についてア原告は,甲2の搬送装置の「第1中空シャフト」は,「第2アームに回転力を与える駆動軸」ではないので,本件発明1の「第1の駆動軸」に相当するものではなく,また,甲2の搬送装置の「第3中空シャフト」は,「第5アームに回転力を与える駆動軸」ではないので,本件発明1の「第2の駆動軸」に相当するものではなく,甲2の搬送装置は,「第1の駆動軸」及び「第2の駆動軸」を備えていないから,「前記第1の多関節駆動部の回動中心となる第1の固定軸を有し,かつ前記第1の多関節駆動部に回転力を与える第1の駆動軸を有する駆動部と,前記第2の多関節駆動部の回動中心となる第2の固定軸を有し,かつ前記第2の多関節駆動部に回転力を与える第2の駆動軸を有する駆動部と」の構成を備えていないので,上記構成を備えている点で本件発明1と甲2発明とが一致するとした本件審決の認定は誤りであると主張する。
(ア) 甲2には,次のとおりの記載がある。
a「【産業上の利用分野】本発明は半導体シリコンウェハの移載に用いるロボットに関し,特に移載用のアームを2本,ウォンドを2個備えたウェハ移載ロボットに関する。」(段落【0001】)b「【従来の技術】従来,この種のウェハ移載ロボットは,図5に示すように,第1ウェハカセット60から第2ウェハカセット61にウェハを移載するのに対し,ウェハカセット移載ロボット62には1個のウォンドを持つ1本のアーム部63のみしか有していなかった。」(段落【0002】),「【発明が解決しようとする課題】上述した従来のウェハ移載ロボットは,アーム部が1本しかなかったので,第1ウェハカセットから第2ウェハカセットにウェハを移載する場合には,ウェハ移載ロボットは例えば25スロットのウェハカセットでは25往復ハンドリングする必要があり,ウェハの移載に時間がかかる欠点がある。」(段落【0003】)c「【課題を解決するための手段】本発明のウェハ移載ロボットは,上下方向に移動可能なZ軸可動ベースと,前記Z軸可動ベースに回転保持される第1中空シャフトと,前記第1中空シャフト内で回転可能な第2中空シャフトと,前記第2中空シャフト内で回転可能な第3中空シャフトと,前記第3中空シャフト内で回転可能な第4シャフトと,前記第1中空シャフトに固定される第1プーリと,前記第2中空シャフトに固定される第1アームと,前記第1アームに回転保持される第5シャフトと,前記第5シャフトと同軸で第1タイミングベルトにより前記第1プーリと連結され前記第1プーリの半分の歯数の第2プーリと,前記第5シャフトに固定される第2アームと,前記第2アーム内で前記第5シャフトに固定され前記第2プーリと同歯数の第3プーリと,前記第5シャフトに対し前記第1中空シャフトとの軸間距離に等しく第2アーム内に回転保持される第6シャフトと,前記第6シャフトと同軸で前記第3プーリと第2タイミングベルトで連結され前記第1プーリと同歯数の第4プーリと,前記第6シャフトに固定される第3アームと,前記第3アームに固定される第1ウォンドと,前記第3中空シャフトに固定される第5プーリと,前記第4シャフトに固定される第4アームと,前記第4アームに回転保持される第7シャフトと,前記第7シャフトと同軸で第3タイミングベルトにより前記第5プーリと連結され前記第5プーリの半分の歯数の第6プーリと,前記第7シャフトに固定される第5アームと,前記第5アーム内で前記第7シャフトに固定され前記第6プーリと同歯数の第7プーリと,前記第7シャフトに対し前記第3中空シャフトとの軸間距離に等しく第5アーム内に回転保持される第8シャフトと,前記第8シャフトと同軸で前記第7プーリと第4タイミングベルトで連結され前記第5プーリと同歯数の第8プーリと,前記第8シャフトに固定される第6アームと,前記第6アームに固定される第2ウォンドと,前記第1中空シャフトの下部に固定される第1歯車と,前記第1歯車とかみ合う第2歯車と,前記Z軸可動ベースに固定され前記第2歯車を駆動する第1モータと,前記第2中空シャフトの下部に固定される第3歯車と,前記第3歯車とかみ合う第4歯車と,前記第1歯車に固定され前記第4歯車を駆動する第2モータと,前記第3中空シャフトの下部に固定される第5歯車と,前記第5歯車とかみ合う第6歯車と,前記Z軸可動ベースに固定され前記第6歯車を駆動する第3モータと,前記第4シャフトの下部に固定される第7歯車と,前記第7歯車とかみ合う第8歯車と,前記第5歯車に固定され前記第8歯車を駆動する第4モータと,前記Z軸可動ベースが摺動する固定ベースと,前記固定ベースに固定され前記Z軸可動ベースを駆動するボールねじおよび第5モータとを備えている。」(段落【0004】)d「次に,本実施例の動作を説明する。・・・ウェハカセット移載ロボット50の半径(R)方向と回転(θ)方向の動作については,ウェハカセット移載ロボット50の片方のアーム部51(第4アーム22と第5アーム26と第6アーム31)を示した図3と本実施例の断面図の図2を用いて説明する。先に,半径(R)方向の動作について説明する。第5プーリ21の中心と第8プーリ30の中心を結んだ直線をLとする。第4モータ44が回転し,第8歯車43及び第7歯車42により,第4アーム22が直線Lよりα度回転したとき,第5プーリ21と第6プーリ25の歯数比は2:1なので第5アーム26は第4アーム22に対し-2α度回転する。また,第6アーム31は第7プーリ27と第8プーリ30の歯数比が1:2なのでα度回転する。よって,第6アーム31は,第4モータ44の回転により,直線L上を動き,ウェハカセット移載ロボット50の片方のアーム部51の半径(R)方向の動作となる。同様に,他方のアーム部52(第1アーム7と第2アーム11と第3アーム16)も,第2モータ38の回転により,半径(R)方向の動作を行なう。」(段落【0010】)e「次に,回転(θ)方向の動作について説明する。第1モータ35が回転すると,第1歯車33と第2歯車34により,第1アーム7が回転し,これが,ウェハカセット移載ロボット50の他方のアーム部52の回転(θ)方向の動作となる。なお,第2モータ38は第1歯車33に固定されているので第1モータ35が回転しても,半径(R)方向に他方のアーム部52は動作しない。第3モータ41が回転すると,第5歯車39と第6歯車40により,第4アーム22が回転し,これが,ウェハカセット移載ロボット50の片方のアーム部51の回転(θ)方向の動作となる。なお,第4モータ44は第5歯車39に固定されているので第3モータ41が回転しても,半径(R)方向に片方のアーム部51は動作しない。」(段落【0011】)f「以上により,ウェハカセット移載ロボット50の片方のアーム部51と他方のアーム部52は個々に,半径(R)方向と回転(θ)方向に動作可能である。よって,図4に示すように,第1ウェハカセット60から第2ウェハカセット61にウェハを移載する場合には,ウェハカセット移載ロボット50は例えば25スロットのウェハカセットでは12.5往復分でハンドリングすることができる。」(段落【0012】)g「【発明の効果】以上説明したように本発明は,移載用のアーム部を2本とウォンドを2個設けることにより,ウェハを移載する場合に,ウェハカセットのスロット数の2分の1の往復分でハンドリングすることができ,ウェハの移載が迅速に行える効果がある。」(段落【0013】)(イ)上記(ア)の認定事実及び図面(甲2)を総合すれば,@甲2の搬送装置(ウェハ移載ロボット)は,移載用のアーム部2本(アーム部51,アーム部52)及びモータ4つ(第1モータ35,第2モータ38,第3モータ41,第4モータ44)を備え,アーム部51及びアーム部52は,個々に,伸縮(半径(R)方向)及び旋回(回転(θ)方向)の動作を可能とし,アーム部51の伸縮動作は第4モータ44の駆動により,アーム部51の旋回動作は第3モータ41の駆動により,アーム部52の伸縮動作は第2モータ38の駆動により,アーム部52の旋回動作は第1モータ35の駆動により,それぞれ行われること,Aアーム部52(第1アーム7,第2アーム11,第1ウォンド17を固定した第3アーム16)は,第1中空シャフト2に第1プーリ6が固定され,第1アーム7に回転保持される第5シャフト8に第2アーム11が固定され,第5シャフト8に同軸で第1タイミングベルト9により第1プーリ6と連結された第1プーリ6の半分の歯数の第2プーリ10が設けられている構造を有し,第5シャフト8が,第1プーリ6から第1タイミングベルト9により第2プーリ10に伝達される回転力によって回転することで第2アーム11が回動し,その際,第5シャフト8の回転中心が,第2アーム11の回動中心となること,一方,アーム部51(第4アーム22,第5アーム26,第2ウォンド37を固定した第6アーム31)は,第3中空シャフト4に第5プーリ21が固定され,第4アーム22に回転保持される第7シャフト23に第5アーム26が固定され,第7シャフト23に同軸で第3タイミングベルト24により第5プーリ21と連結された第5プーリ21の半分の歯数の第6プーリ25が設けられている構造を有し,第7シャフト23が,第5プーリ21から第3タイミングベルト24により第6プーリ25に伝達される回転力によって回転することで第5アーム11が回動し,その際,第7シャフト23の回転中心が,第5アーム11の回動中心となること,Bアーム部51の半径R方向の動作(伸縮動作)は,第4モータ44の駆動(回転)により第4シャフト5が回転し,第4シャフト5に固定された第4アーム22が回動することにより,第3中空シャフト4に固定された第5プーリ21が第4アーム22に対して相対的に回転し,その第5プーリ21の回転力が第6プーリ25に伝達されて,第5アーム26が第7シャフト23の回転に伴い回動し,同様に第7プーリの回転力が第8プーリ及び第8シャフトに伝達されて,第6アームは,図3の直線L上を動き,一方で,アーム部52の半径R方向の動作(伸縮動作)は,第2モータ38の駆動(回転)により第2中空シャフト3が回転し,第2中空シャフト3に固定された第1アーム7が回転することにより,第1中空シャフト2に固定された第1プーリ6が第1アーム22に対して相対的に回転し,その第1プーリ6の回転力が第2プーリ10に伝達されて,第2アーム11が第5シャフト8の回転に伴い回動し,同様に第3プーリ17の回転力が第4プーリ15及び第6シャフト14に伝達されて,第3アーム16が,半径R方向に動くこと,Cアーム部52のθ方向の動作は,第1モータ35を駆動(回転)させると,第2歯車34,第1歯車33を介して,第1アーム7がθ方向に回転するが,第2モータ38が第1歯車33に固定されているため,第1歯車33と共に回転し(なお,第2モータ38は駆動しない。),これにより第2モータ38に固定された第3歯車36と第1歯車33が同時に回転する結果,第1アーム7と第1中空シャフト2に固定された第1プーリ6が共に回転し,そのため第1プーリ6は第1アームに対して相対的に回転せず,第1プーリ6の回転力が発生しないので,アーム部52は半径R方向の動作をしないこと,一方,アーム部51のθ方向の動作は,第3モータを駆動(回転)させると,第6歯車40,第5歯車39を介して,第4アーム22がθ方向に回転するが,第4モータ44が第5歯車39に固定されているため,第5歯車39と共に回転し(なお,第4モータ44は駆動しない。),これにより第4モータ44に固定された第7歯車42と第5歯車39が同時に回転する結果,第4アーム22と第3中空シャフト4に固定された第5プーリ21が共に回転し,上記と同様に,アーム部51は半径R方向の動作をしないことが認められる。
以上の認定事実に照らすならば,甲2の搬送装置において,アーム部52,51のR方向の動作(伸縮動作)は,第2モータを駆動させることにより,第2中空シャフトを回転させて,第1アームが第2中空シャフトを中心に回動する結果,第1中空シャフトに固定された第1プーリが第1アームと相対的に回転し,その第1プーリの回転力が第2プーリに伝達されて第2アームが(第5シャフトの回転中心を回動中心として)回動するのであるから,「第1中空シャフト」は,第1プーリを介して,「第2アームに回転力を与える駆動軸」であるものと解され,同様に,第4モータを駆動させることにより,第4シャフトを回転させて,第4アームが第3中空シャフトを中心に回動する結果,第3中空シャフトに固定された第5プーリが第4アームと相対的に回転し,その第5プーリの回転力が第6プーリに伝達されて第5アームが(第7シャフトの回転中心を回動中心として)回動するのであるから,「第3中空シャフト」は,第5プーリを介して,「第5アームに回転力を与える駆動軸」であるものと解される。
そうすると,甲2の搬送装置の「第1中空シャフト」及び「第3中空シャフト」は,本件発明1の「第1多関節駆動部に回転力を与える第1の駆動軸」及び「第2多関節駆動部に回転力を与える第2の駆動軸」にそれぞれ相当するものと認められ,甲2の搬送装置は,「前記第1の多関節駆動部の回動中心となる第1の固定軸を有し,かつ前記第1の多関節駆動部に回転力を与える第1の駆動軸を有する駆動部と,前記第2の多関節駆動部の回動中心となる第2の固定軸を有し,かつ前記第2の多関節駆動部に回転力を与える第2の駆動軸を有する駆動部と」の構成を備えているといえるから,上記構成を備えている点で本件発明1と甲2発明とが一致するとした本件審決の認定に誤りはない。
イこれに対し,原告は,本件発明1(請求項1)の「前記駆動制御手段(14)が行う制御には,第1の搬送部(15)又は第2の搬送部(16)を伸縮するために共通駆動部(13)を回動させる制御と,この共通駆動部(13)を回動させる制御中,第2の搬送部(16)又は第1の搬送部(15)が共通駆動部(13)上に取り込まれた状態であるようにする制御とが含まれる」との構成は,「この共通駆動部(13)を回動させる制御中」という要素によって,一方の搬送部が搬送動作を行っているときの他方の搬送部の動作を特定しているところに技術的意義があるにもかかわらず,「この共通駆動部(13)を回動させる制御中」という構成(要素)を無視し,「前記駆動制御手段が行う制御には,第1の搬送部又は第2の搬送部を伸縮するために駆動部を回動させる制御と,第1の搬送部又は第2の搬送部が駆動部上に取り込まれた状態であるようにする制御とが含まれる」点で,本件発明1と甲2発明とが一致するとした本件審決の認定は誤りであると主張する。
しかし,本件審決は,上記の点を一致点と認定した上で,請求項1の「この共通駆動部(13)を回動させる制御中」との構成については,相違点2において「駆動制御手段が行う制御には,本件発明1では,第1の搬送部又は第2の搬送部を伸縮するために共通駆動部を回動させる制御と,この共通駆動部を回動させる制御中,第2の搬送部又は第1の搬送部が共通駆動部上に取り込まれた状態であるようにする制御とが含まれるのに対し,甲2発明では一方の搬送部を伸縮するために駆動部を回動させる制御と,他方の搬送部が駆動部上に取り込まれた状態であるようにする制御との間に関連がない点。」で相違することを認定し,その相違点の容易想到性の検討をしていることに照らすならば,請求項1の「この共通駆動部(13)を回動させる制御中」との構成を無視したものとはいえないから,この点についての原告の上記主張は失当である。
ウ以上のとおり,本件審決の一致点の認定の誤りをいう原告の主張は,理由がない。
(2) 相違点1及び2についての容易想到性について原告は,本件審決がした甲3の記載事項の認定に誤りがあること,甲2の搬送装置について,甲3の記載事項に従って,第1アーム7と第4アーム22を一体化した場合には,2つのアーム部51と52は,それぞれ,独立して動作することができなくなるのであるから,第1アーム7と第4アーム22を一体化する構成を採用することは,甲2発明の目的に反する構成として阻害事由があり,また,仮に,それが阻害事由とまでいえないとしても,少なくとも,第1アーム7と第4アーム22を一体化する構成を採用することにつき何らの動機付けがないことに照らすならば,甲2発明に,甲3記載の技術を適用して,相違点1に係る本件発明1の構成(多関節駆動部と固定軸とを支持する駆動部を,「第1の多関節駆動部及び第1の固定軸と,第2の多関節駆動部及び第2の固定軸とについて共通の部材」とする構成)を採用することが容易に想到し得たとした本件審決の判断は誤りであり,さらに,甲2発明について第1及び第2の駆動部を一体化した共通駆動部とした場合,相違点2に係る本件発明1の構成(「一方の搬送部を伸縮するために共通駆動部を回動させる制御中に,他方の搬送部を共通駆動部上に取り込まれた状態であるようにする制御を行うこと」)は,「第1及び第2の駆動部を一体化した共通の駆動部とすることに伴う,当然の結果」であるとした本件審決の判断も誤りであると主張する。
ア 甲3の記載事項(ア) 甲3には,次のとおりの記載がある。
a「(発明が解決しようとする問題点)・・・本発明は,真空チャンバー内でウエハ処理中に,次のウエハをローダ-,アンローダ-室内の真空状態中で待機させることで一連のウエハ処理工程に要する時間を短くすることのできるウエハ搬送装置を提供することを目的とする。」(1頁右欄14行〜2頁左上欄9行)b「(問題点を解決するための手段)上記問題点を解決するために本発明は,リンク機構によって複数のウエハを直線軌道に沿って別個に搬送するウエハ搬送装置において,リンク機構の先端部に設けられた少なくとも2個のウエハ保持部と,リンク機構の回転中心部を外部から回転駆動させる駆動軸と,上記駆動軸の回転駆動によって上記少なくとも2個のウエハ保持部が異なる2方向から互いに干渉することなく所定の直線軌道に沿って移動させるリンク機構とを有することを特徴とするウエハ搬送装置を提供する。」(2頁左上欄11行〜右上欄1行),「(作用)上記のように構成された本発明の装置を用いれば,ウエハ処理工程中におけるウエハの搬送時間を大幅に短縮することが可能となる。」(2頁右上欄2行〜5行)c「第1図および第2図は,本発明一実施例ウエハ搬送装置の構成を示す図で,(12)は駆動モータで,この回転駆動は駆動モータ(12)に連結された駆動軸(13)に伝達され,この駆動軸(13)の先端には第1のアーム部材(14)が取付けられ,駆動軸(13)の回転に応じて旋回するようにリンク機構に構成されている。また,(15)は駆動モータで,この回転駆動は,駆動モータ(15)の駆動軸(16)に取付けられた回転プーリ(17)から,上記駆動軸(13)と同軸に取付けられた駆動軸(18)の下端に取付けられた回転プーリ(19)にベルト(20)によって伝達される。また,駆動軸(18)の上端には第2のアーム部材(21)が取付けられ,駆動軸(18)の回転に応じて旋回するようにリンク機構に構成されている。また,駆動軸(13),(18)に同軸に固定プーリ(22)が支持板(23)に固定されている。また上記第1のアーム部材(14)の一端には回転プーリ(24)が回転自在に支持されており,上記固定プーリ(22)とワイヤベルト(25)によって回転を伝達するように連結されている。回転プーリ(24)の回転軸(26)には第3のアーム部材(27)の一端が取付けられ,この第3のアーム部材(27)の他端には,ウエハ保持部(28)が形成されている。一方,上記第2のアーム部材(21)の一端には回転プーリ(29)が回転自在に支持されており,上記固定プーリ(22)とワイヤベルト(30)によって回転を伝達するように連結されている。回転プーリ(29)の回転軸(31)には第4のアーム部材(32)の一端が取付けられ,この第4のアーム部材(32)の他端には,ウェハ保持部(33)が形成されている。」(2頁右上欄9行〜左下欄16行)d「次に上記構成のウエハ搬送装置を用いた実施例を第3図に基づいて説明する。・・・まず(a)図のように,真空処理室(34)内ではウエハ(W )を処理中で,真空状態下のローダ-,アンローダー室(317)内には第3のアーム部材(27)と処理済のウエハ(W )を載置した第4 2のアーム部材(32)が待機しており,大気圧下のウエハキャリア(35)上には未処理のウエハ(W )が待機している。その後(b)図のように3ローダー・アンローダー室(37)内を大気圧下と同じ状態にした後シャッター(38)が開き第4のアーム部材(32)が処理済ウエハ(W )をウエ2ハキャリア(36)に移載し,その後(c)図のように第3のアーム部材(27)が未処理ウエハ(W )を保持した後(d)図のようにローダ-・3アンローダー室(37)内に戻り,その後シャッター(38)が閉じてローダ-・アンローダー室(37)内は真空に引かれる。次に(e)図のように,シャッター(39)が開き真空処理室(34)内から処理を終了したウエハ(W )を第4のアーム部材(32)によって搬出し,さらに(f)図1のようにそれに代り未処理ウエハ(W )を第3のアーム部材(27)が真空 3処理室(34)内に搬入し,搬入を終えると再び(a)図の状態にもどる。」(3頁左上欄4行〜右上欄8行)e「また他の実施例として,上記ウエハ保持部(28),(33)を全く同期させて直線軌道に沿って動かす場合には,第4図および第5図に示すような構造にしてもよい。つまり,(40)は駆動モータで,この回転駆動は駆動モ一タ(40)に連結された駆動軸(41)に伝達され,この駆動軸(41)の先端には第1のアーム部材(42)が取付けられ,駆動軸(41)の回転に応じて旋回するようにされている。また,駆動軸(41)に同軸に固定プーリ(43)が支持板(44)に固定されている。また,上記第1のアーム部材(42)の両端には回転プーリ(45),(46)が回転自在に支持されており,上記固定プーリ(43)とワイヤベルト(47),(48)によって回転を伝達するように連結されている。上記回転プーリ(45),(46)の回転軸(49),(50)には第2および第3のアーム部材(51),(52)の一端が取付けられ,この第2および第3のアーム部材(51),(52)の他端にはウエハ保持部(53),(54)が形成されている。ここで,ウェハ保持部(53),(54)を直線軌道に沿って動かすための条件は,上記第1の実施例で述べた条件と同じである。」(3頁右上欄13行〜左下欄11行)f「また,他の実施例として,上記ウエハ保持部(28),(33)はどちらか一方だけを動かすことも可能である。」(3頁左下欄12行〜13行)g「〔発明の効果〕本発明によれば,真空チャンバー内でウエハ処理中に,次のウエハをローダ-・アンローダ-室内の真空状態中で待機させることで一連のウエハ処理工程に要する時間を短縮することができる。また,ウエハ保持部は所定の方向に直線運動するように構成されているので,ウエハ保持部の移動範囲を最少にすることができ,それによりウエハ処理装置を小型化することも可能となる。さらに,本発明の装置はその構造が簡単であり,従って発埃源も少なくなるため,ウエハ処理工程中の使用にも適する。」(3頁右下欄3行〜14行)(イ)上記(ア)の記載及び図面(甲3)を総合すれば,甲3には,以下の技術が開示されている。
a@甲3には,第1図ないし第3図に記載の搬送装置の実施例として,第1のアーム部材(14)と,第3のアーム部材(27)と,第3のアーム部材に設けられたウエハ保持部(28)からなる「第1の部材」と,第2のアーム部材(21)と,第4のアーム部材(32)と,第4のアーム部材に設けられたウエハ保持部(33)からなる「第2の部材」と,駆動モータ(12)及び駆動モータ(15)とを備え,第1のアーム部材(14)が駆動モータ(12)に連結された駆動軸(13)の回転に応じて旋回するようにリンク機構に構成され,第2のアーム部材(21)が駆動モータ(15)に連結された駆動軸(18)の回転に応じて旋回するようにリンク機構に構成され,駆動モータ(12)又は駆動モータ(15)を駆動することにより,「第1の部材」及び「第2の部材」を個別に直線軌道に沿って移動させるように構成されたウエハ搬送装置が記載されており(上記(ア)c,d),上記搬送装置は,本件審決にいう「左右のウエハ保持部を用いて,同一方向において,一方のウエハ保持部に載置されたウエハを搬送先に移動して,それを他方のウエハ保持部を用いて搬送先のウエハと交換する運動を行う」こと(審決書17頁12行〜14行)ができること,また,A甲3には,第4図及び第5図に記載の搬送装置の実施例として,ウエハ保持部(53)を備えた第2のアーム部材(51)と,ウエハ保持部(54)を備えた第3のアーム部材(52)とを,回転プーリ(45),(46)の回転軸(49),(50)を介して両端に取り付けた第1のアーム部材(42)を設け,第1のアーム部材(42)が駆動モ一タ(40)に連結された駆動軸(41)の回転に応じて旋回するように構成され,駆動モ一タ(40)を駆動することにより,ウエハ保持部(53),(54)を全く同期させて直線軌道に沿って動かすようにして,ウエハ保持部(53),(54)が互いに反対方向で対称の動作をするように構成されたウエハ搬送装置が記載されており(上記(ア)e),上記搬送装置は,本件審決にいう「左右のアーム部材とそれらの回転軸とを共通の第1のアーム部材を設け」たもの(審決書17頁15行〜16行)であることが示されている。
bしかし,甲3には,本件審決にいう「左右のウエハ保持部を用いて,同一方向において,一方のウエハ保持部に載置されたウエハを搬送先に移動して,それを他方のウエハ保持部を用いて搬送先のウエハと交換する運動を行う搬送装置において,左右のアーム部材とそれらの回転軸とを共通の第1のアーム部材に設けること」(審決書17頁12行〜16行)の技術的事項が開示されていると認めることはできない。
確かに,「また,他の実施例として,上記ウエハ保持部(28),(33)はどちらか一方だけを動かすことも可能である。」(上記(ア)f)との記載によれば,「左右のアーム部材とそれらの回転軸とを共通の第1のアーム部材を設け」た第4図及び第5図に記載の搬送装置において,左右のウエハ保持部は「どちらか一方だけを動かすことも可能である」ことを一応示唆するものといえる。しかし,甲3には,単に上記の記載がされているだけであって,「左右のアーム部材とそれらの回転軸とを共通の第1のアーム部材を設け」た搬送装置において,「どちらか一方だけを動かす」ための構成及び手段について何ら具体的な記載や示唆はない。また,甲3の他の記載事項部分を参酌しても,上記搬送装置において「どちらか一方だけを動かす」ことを実現することが自明であるともいえない。
(ウ)したがって,本件審決が,甲3に,「左右のウエハ保持部を用いて,同一方向において,一方のウエハ保持部に載置されたウエハを搬送先に移動して,それを他方のウエハ保持部を用いて搬送先のウエハと交換する運動を行う搬送装置において,左右のアーム部材とそれらの回転軸とを共通の第1のアーム部材に設けること」の技術的事項が記載されていると認定した点には誤りがある。
容易想到性の判断について本件審決は,(a)相違点1についての容易想到性について,「一対の搬送部を用いて,同一方向において,一対の搬送部の一方に載置された被搬送物を搬送先に移動して,それを他方の搬送部を用いて搬送先の被搬送物と交換する運動を行うことは,甲第1号証や甲第3号証に例示されるように,従来周知の技術である。甲第2号証記載の発明も,一対の搬送部を有するものであるから,前記運動を行う目的に使用することは,当業者が容易に想到し得るものである。」(審決書17頁6行〜11行),「甲第3号証には,左右のウエハ保持部を用いて,同一方向において,一方のウエハ保持部に載置されたウエハを搬送先に移動して,それを他方のウエハ保持部を用いて搬送先のウエハと交換する運動を行う搬送装置において,左右のアーム部材とそれらの回転軸とを共通の第1のアーム部材に設けることが記載されている。」(同17頁12行〜16行),「甲第3号証には,第1の多関節駆動部及び第1の固定軸と,第2の多関節駆動部及び第2の固定軸とを共通駆動部に載置することが記載されていると認められる。」(同17頁23行〜25行),「甲第3号証記載の事項は,甲第2号証記載の発明と同じく,多関節搬送装置に係るから,前者の技術を後者に適用して,相違点1に係る構成を本件発明1のものとすることは,当業者であれば容易になし得る。」(同17頁26行〜28行),(b)相違点2についての容易想到性について,「甲第2号証記載の発明では・・・左右の搬送部を用いて,同一方向において,一方の搬送部に載置された被搬送物を搬送先に移動して,それを他方の搬送部を用いて搬送先の被搬送物と交換する運動を行う場合,一方の搬送部を伸縮するために一方の駆動部を回動させている間,他方の搬送部を他方の駆動部上に取り込まれた状態としておくことは,甲第2号証記載の発明の使用法として,当業者が容易に選択し得るものである。甲第2号証記載の発明をこのような使用法に適用するにあたり,駆動部を甲第3号証記載の事項のように第1及び第2の駆動部を一体化した共通駆動部とした場合,一方の搬送部を伸縮するために共通駆動部を回動させる制御中に,他方の搬送部を共通駆動部上に取り込まれた状態であるようにする制御を行うことは,第1及び第2の駆動部を一体化した共通の駆動部とすることに伴う,当然の結果というべきである。」(同17頁30行〜18頁7行)と判断した。
しかし,本件審決の判断には,以下のとおり誤りがある。
(ア)まず,前記ア(イ)bのとおり,甲3には,本件審決にいう「左右のウエハ保持部を用いて,同一方向において,一方のウエハ保持部に載置されたウエハを搬送先に移動して,それを他方のウエハ保持部を用いて搬送先のウエハと交換する運動を行う搬送装置において,左右のアーム部材とそれらの回転軸とを共通の第1のアーム部材に設けること」の技術的事項が記載されていると認めることはできない。したがって,相違点1に係る本件発明1の構成の容易想到性の判断に際し,甲2発明に,上記技術的事項を適用した点において,本件審決には誤りがある。
(イ)次に,前記ア(イ)aのとおり,甲3には,第4図及び第5図に記載の搬送装置の実施例として,「左右のアーム部材とそれらの回転軸とを共通の第1のアーム部材を設け」たものが記載されており,本件審決にいう「第1の多関節駆動部及び第1の固定軸と,第2の多関節駆動部及び第2の固定軸とを共通駆動部に載置すること」についての技術事項が示されているものと認められる。
しかし,甲3の第4図及び第5図に記載の搬送装置は,共通駆動部に相当する第1のアーム部材(42)の両端に,ウエハ保持部(53)を備えた第2のアーム部材(51)と,ウエハ保持部(54)を備えた第3のアーム部材(52)を取り付け,第1のアーム部材(42)を旋回させる駆動モ一タ(40)を駆動することにより,ウエハ保持部(53),(54)を完全に同期させて直線軌道に沿って動かすようにして,ウエハ保持部(53),(54)が互いに反対方向で対称の動作をするように構成されたものであり,ウエハ保持部(53),(54)は上記以外の個別の動作をせず,本件審決にいう「同一方向において,一対の搬送部の一方に載置された被搬送物を搬送先に移動して,それを他方の搬送部を用いて搬送先の被搬送物と交換する運動を行うこと」を可能とする構成は,そもそも採用していない。
これに対し,甲2記載の搬送装置は,ウエハの移載を迅速に行うことを目的として,移載用のアーム部2本及びモータ4つを備え,複数の歯車を組み合わせたり,歯車にモータを固定するなどの構成を採用することにより,モータの一つのみの駆動により,各アーム部(アーム部51,アーム部52)が個々に伸縮(半径(R)方向)又は旋回(回転(θ)方向)の動作をできるようにしたものである。
したがって,甲2の搬送装置に,甲3の第4図及び第5図に記載の搬送装置の技術を適用する動機付けは存在しないというべきであり,また,甲2の搬送装置に,甲3の第4図及び第5図に記載の搬送装置の技術を適用したとしても,本件発明1のように一対の搬送部のどちらか一方のみを伸縮する動作をすることはできない。
(ウ)さらに,前記ア(ア)fのとおり,甲3には,「また,他の実施例として,上記ウエハ保持部(28),(33)はどちらか一方だけを動かすことも可能である。」との記載がある。しかし,同記載部分については,前記ア(イ)bのとおり,「どちらか一方だけを動かす」ための構成及び手段について何ら具体的な記載や示唆がなく,また,上記の甲2と甲3の発明相互における目的,構成の相違に照らすならば,甲2及び甲3に接した当業者が,甲2の搬送装置において,甲3記載の「第1の多関節駆動部及び第1の固定軸と,第2の多関節駆動部及び第2の固定軸とを共通駆動部に載置すること」の技術的思想を適用して共通駆動部(相違点1に係る本件発明1の構成)を設け,かつ,「第1の搬送部又は第2の搬送部を伸縮するために共通駆動部を回動させる制御と,この共通駆動部を回動させる制御中,第2の搬送部又は第1の搬送部が共通駆動部上に取り込まれた状態であるようにする制御」(相違点2に係る本件発明1の構成)を行うための構成を採用することが容易であったということはできない。
(エ)これに対し被告は,本件発明1と技術分野,作用,機能において共通している甲2と甲3の技術文献があった場合に,当業者が,本件審決が認定した周知技術(「一対の搬送部を用いて,同一方向において,一対の搬送部の一方に載置された被搬送物を搬送先に移動して,それを他方の搬送部を用いて搬送先の被搬送物と交換する運動を行うこと」)を適用して,この周知技術の運動を行うことを目的として,甲2の別部材のアームを,甲3の一体となった共通駆動部に置換して本件発明1を想到することに格別困難な事情はないと主張する。
しかし,前記(イ)及び(ウ)で説示したとことに照らすならば,上記周知技術を勘案しても,甲2の別部材のアームを,甲3の一体となった共通駆動部に置換して本件発明1を想到することは容易ではないといえるから,被告の上記主張は採用することができない。
(3) 小括以上のとおり,相違点1及び2について本件発明1の構成が容易想到であるとした審決の判断には誤りがある。したがって,原告主張の取消事由1は理由がある。
2取消事由2(本件発明2ないし4,6ないし10の容易想到性の判断の誤り)について前記1のとおり,本件発明1(請求項1)が容易想到であるとした本件審決の判断は誤りであるから,請求項1を引用する請求項2ないし4,6ないし10に係る本件発明2ないし4,6ないし10が容易想到であるとした本件審決の判断も誤りである。
したがって,原告主張の取消事由2アは理由がある。
3取消事由3(本件発明6に関する明細書の記載不備の判断の誤り)について(1)原告は,本件審決が,「共通駆動部が「く」の字型に屈曲されたアーム状を構成することの技術的意義は,・・・当業者が理解しうる程度に記載されているということはできない」として,本件発明6が特許法旧36条4項に規定する要件を満たさないと判断したのは誤りであると主張する。
ア本件発明6(請求項6)は,「前記共通駆動部(13)の回転軸を概略垂線とする平面において,該共通駆動部(13)が「く」の字型に屈曲されたアーム状を構成することを特徴する請求項1記載の多関節搬送装置。」というものである。
ところで,本件明細書(甲8の2)の発明の詳細な説明には,@「さらに,本発明の第2の実施例によれば,図9に示すように,「く」の字型に屈曲された共通駆動屈曲アーム33が採用される。このため,共通駆動屈曲アーム33上に両フォーク35及び36を取り込んだ状態において,従来例のような収納角度γを設けることなく,両フォーク35及び36を重なった状態に揃えることが可能となる。このことで,被搬送物30を同一方向に伸縮させることが可能となる。」(段落【0074】),「これにより,第1の実施例に比べて,各フォーク35及び36の伸縮方向を切り換える旋回時間が無用となり,被搬送物30の入れ替え時間の短縮化を図ることが可能となる。」(段落【0075】),B「・・・また,本発明の他の装置によれば,共通駆動部が「く」の字型に屈曲されたアーム状に構成される。このため,共通駆動部上に第1,第2の搬送部を取り込んだ状態において,両搬送部を揃えることが可能となる。このことで,従来例に比べて装置の旋回半径を小さくすること,及び,被搬送物を同一方向に伸縮させることが可能となる。また,両搬送部の切り換え旋回時間が無用となり,被搬送物の入れ替え時間の短縮化を図ることが可能となる。」(段落【0109】)との記載がある。
上記記載と図9及び図10(甲7)によれば,本件明細書には,共通駆動部を特定の角度の「く」の字型に屈曲されたアーム状に構成することにより,「共通駆動部上に第1,第2の搬送部を取り込んだ状態において,両搬送部を揃えることが可能となる」の効果を奏することが記載されており,この点において共通駆動部が「く」の字型に屈曲されたアーム状を構成することの技術的意義があるものと認められる。もっとも,本件明細書には,この特定の角度をどのように設定するかについて具体的な記載はないが,当業者であれば,「共通駆動屈曲アーム33上に両フォーク35及び36を取り込んだ状態において,従来例のような収納角度γを設けることなく,両フォーク35及び36を重なった状態に揃える」ことができるように,特定の角度を設定すればよいことを理解することができるものと認められる。
そうすると,本件明細書には,本件発明6について,当業者が「容易に発明実施することができる程度に,その目的及び効果」(特許法旧36条4項)の記載があるものと解される。
イこれに対し被告は,本件明細書に接した当業者において,直線状の共通駆動部を用いても,各回動部の軸間距離や旋回角度の組合せによっては収納角度を設けることなく,占有面積を最小化し得る可能性を排除することができないなどとして,共通駆動部が「く」の字型に屈曲されたアーム状を構成することの技術的意義が,本件明細書に当業者が理解し得る程度に記載されているということはできず,本件発明6は特許法旧36条4項の要件を満たさないと主張する。
しかし,前記ア認定のとおり,共通駆動部が「く」の字型に屈曲されたアーム状を構成することの技術的意義が本件明細書に当業者が理解し得る程度に記載されているものと認められるから,被告の上記主張は採用することができない。
(2)以上によれば,本件発明6について特許法旧36条4項の要件違反があるとした本件審決の判断は誤りである。したがって,原告主張の取消事由3は理由がある。
4 付言本判決により審決が取り消された事件について,今後行われる審判の審理に資するため,確定効の範囲等に関し,以下のとおり補足して述べる。
(1) はじめにア特許が2以上の請求項に係るものであるときには,その無効審判は請求項ごとに請求することができるものとされていること(特許法123条1項柱書)に照らすならば,2以上の請求項に係る特許無効審判の請求に対してされた審決は,各請求項に係る審決部分ごとに取消訴訟の対象となり,各請求項に係る審決部分ごとに形式的に確定する。審決の形式的な確定は,当該審決に対する審決取消訴訟の原告適格を有するすべての者について,出訴期間が経過し,当該審決を争うことができなくなることによって生ずる(特許法178条3項)。そうすると,2以上の請求項に係る特許についての無効審判において,一部の請求項に係る特許について無効とし,残余の請求項に係る特許について審判請求を不成立とする審決がされた場合には,それぞれ原告適格を有する者(審決によって不利益を受けた者)が異なるため,各請求項に係る審決部分ごとに,形式的確定の有無及び確定の日等が異なる場合が生じ得る。無効審判請求を不成立とした審決部分は,請求人側のみが取消訴訟を提起する原告適格を有するのであるから,請求人側に係る出訴期間の経過によって,審決部分もまた形式的に確定することになる。
イ審決の取消しの判決又は決定の確定により,審判手続が再開され,特許法134条の3第1項又は2項の規定により指定された期間内に訂正請求がされ又は同条5項の規定により同期間の末日に訂正請求がされたものとみなされる場合があるが,その場合には,特許法134条の2第4項の規定による先にした訂正の請求のみなし取下げの効果もまた,請求項ごとに生じる(知財高裁平成19年6月20日決定・平成19年(行ケ)第10081号審決取消請求事件,知財高裁平成19年7月23日決定・平成19年(行ケ)第10099号審決取消請求事件参照)。
そして,特許無効審判請求の審決について,審判請求を不成立とした請求項に係る審決部分については取消訴訟が提起されず,特許を無効とした請求項に係る審決部分についてのみ取消訴訟が提起され,かつ,所定の期間内に訂正審判請求がされ,特許法181条2項の規定に基づき,特許を無効とした請求項に係る審決部分が取り消された後,再開された審判手続において,特許法134条の2第4項の規定により特許を無効とした請求項に係る先にした訂正の請求は取り下げられたものとみなされる場合がある。これに対して審判請求を不成立とした請求項に係る審決部分は形式的に確定しているので,当該請求項に係る先にした訂正の請求は特許法134条の2第4項の規定により取り下げられたものとみなされることはなく,再開された審判手続において,当該請求項に係る新たな訂正の請求がされているときは,当該請求項に係る特許無効審判請求を不成立とした確定審決が存在することを前提として,いわゆる独立特許要件の有無についても判断すべきことになる(特許法134条の2第5項の規定により読み替えて準用される126条5項)。
(2) 本件手続の経緯ア本件手続の経緯は,前記第2の1のとおりであり,特許庁は,平成17年6月28日,「特許第2580489号の請求項1ないし4,6ないし10に係る発明についての特許を無効とする。特許第2580489号の請求項5に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決(第1次審決)をし,これに対して,原告が,第1次審決中の請求項1ないし4,6ないし10に係る発明についての特許を無効とする部分の取消しを求めて審決取消訴訟を提起し,併せて,本件特許の特許請求の範囲減縮等を目的とする訂正審判請求をした。なお,第1次審決中の審判請求不成立部分について,被告(審判請求人)からの審決取消訴訟の提起はなかった。知的財産高等裁判所(第2部)は,特許法181条2項に基づき,事件を審判官に差し戻すため,第1次審決中の請求項1ないし4,6ないし10に係る発明についての特許を無効とする部分を取り消す旨の決定をした。差戻し後の事件について,所定の期間内に訂正の請求がされなかったため,上記訂正審判請求の請求書に添付された訂正した明細書,特許請求の範囲又は図面を援用した本件訂正の請求がされたものとみなされた。そして,特許庁は,平成18年8月15日,「訂正を認める。特許第2580489号の請求項1ないし4,6ないし10に係る発明についての特許を無効とする。特許第2580489号の請求項5に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決(本件審決はその一部)をした。
イ本件手続について見ると,第1次審決中「特許第2580489号の請求項5に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決部分については,被告(審判請求人)において取消訴訟を提起することなく出訴期間が経過したのであるから,同審決部分は形式的に確定した。しかるに,特許庁は,本件特許の請求項5に係る無効審判請求が形式的に確定していないとの前提に立った上で,当該請求項についても審判手続で審理し,「特許第2580489号の請求項5に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」旨の判断をした。上記審判手続のあり方は,著しく妥当を欠くというべきである。けだし,本件特許の請求項5については,無効審判請求に係る無効理由が存在しないものとする審決部分が確定したことにより,原告は,形式的確定の利益を享受できる地位を得ているのであるから,それにもかかわらず,他の請求項に係る特許を無効とした審決部分について取消訴訟を提起して,当該請求項について有利な結果を得ようとしたことにより,かえって無効審判請求を不成立とする請求項5についてまで,不安定な地位にさらされることになることは著しく不合理だからである。
(3) まとめ本判決により審決が取り消された事件について,今後行われる審判においては,上記の点を踏まえた審理,判断がされるべきである。
5 結論以上のとおり,原告主張の取消事由1,取消事由2ア及び取消事由3は理由があるから,本件審決は取消しを免れない。
よって,原告の本訴請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 大鷹一郎
裁判官 嶋末和秀