関連ワード | 確実性 / 進歩性(29条2項) / 同一技術分野(同一の技術分野) / 容易に発明 / 寄せ集め / 周知技術 / 技術的範囲 / 発明の詳細な説明 / 参酌 / 容易に想到(容易想到性) / 特許発明 / 実施 / 構成要件 / 業として / 差止請求(差止) / 侵害 / 損害額 / 不法行為(民法709条) / 請求の範囲 / 変更 / 合理的な理由 / |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|
事件 |
平成
17年
(ワ)
22016号
特許権侵害差止等請求事件
|
---|---|
東京都渋谷区 原告日本航空電子工業株式会社 訴訟代理人弁護 士竹内澄夫 同 得丸大輔 補佐人弁理 士堀明彦東京都品川区 被告ヒ ロセ電機株式会社 訴訟代理人弁護 士田中伸一郎 同 吉田和彦 同 竹内麻子 同 高石秀樹 同 佐竹勝一 同弁理士須田洋之 同 補佐人弁理 士今城俊夫 同 西島孝喜 同 市川英彦 |
|
裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2007/08/29 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1原告の請求をいずれも棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
---|---|
全容
2 第1請求1被告は,別紙物件目録1及び同2記載の物件の製造,販売,販売の申出又は販売のための展示をしてはならない。 2被告は,原告に対して,金11億8000万円及びこれに対する平成17年11月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,ケーブル用コネクタに関する特許権を有する原告が,被告に対して,被告の製造,販売するケーブル用コネクタが上記特許権に係る発明の技術的範囲に属するとして,特許法100条に基づき,その製造,販売等の差止めを,民法709条,特許法102条2項に基づき,損害賠償(11億8000万円及びこれに対する本訴状送達日の翌日である平成17年11月1日から支払済みに至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)を,それぞれ求めている事案である。 1争いのない事実等(争いのない事実以外は,証拠を末尾に記載する。)( )原告の特許権1原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,特許請求の範囲請求項1の発明を「本件発明1」と,同請求項4の発明を「本件発明2」といい,本件発明1と本件発明2を併せて「本件発明」という。)を有している。 特 許 番 号第3295808号発明の名称ケーブル用コネクタ出願年月日平成11年10月6日登録年月日平成14年4月12日特許請求の範囲別紙特許公報の該当欄「請求項1」及び「請求項4」記載のとおり(以下,同公報掲載の明細書を「本件明細書」といい,図面を「本件図面」という。また,本件図面のうち,個々の図面を指すと 3 きは,その番号を付して,「本件図1」,「本件図2」などという。)( )構成要件の分説2ア本件発明1を構成要件に分説すると,次のとおりとなる。 A一面および反対面を持つケーブルを受けるためのケーブル用コネクタであって,BB1前記一面に対向する接点部と前記反対面に対向する係合枢支部とを持つコンタクトと,B2前記コンタクトを予め定められた方向に挿入し保持するハウジングと,B3前記係合枢支部に係合するカム部を持ち,前記ケーブルを前記接点部に圧接させるためのアクチュエータとを有するケーブル用コネクタにおいて,C前記コンタクトは,第1および第2接点部と第1および第2係合枢支部とを持つ第1および第2コンタクトから成り,D前記カム部は,前記第1および第2係合枢支部に係合する第1および第2カム部から成り,E該第1カム部は,前記ケーブルの反対面を押し付ける第1カム押付面と,前記第1コンタクトの第1係合枢支部と係合する係合カム面とを有し,F前記アクチュエータは,前記第1カム押付面と前記係合カム面とで周回するように,前記第1係合カム面に隣接する貫通穴を備え,それにより,前記第1コンタクトの第1係合枢支部によって回転可能に支持され,G前記第2カム部は,前記ケーブルの反対面を押し付ける第2カム押付部と,前記第2コンタクトの第2係合枢支部と受容し係合する係合カム部とを備えることを特徴とするケーブル用コネクタ。 4 イ本件発明2を構成要件に分説すると,次のとおりとなる。 A一面および反対面を持つケーブルを受けるためのケーブル用コネクタであって,BB1前記一面に対向する接点部と前記反対面に対向する係合枢支部とを持つコンタクトと,B2前記コンタクトを予め定められた方向に挿入し保持するハウジングと,B3前記係合枢支部に係合するカム部を持ち,前記ケーブルを前記接点部に圧接させるためのアクチュエータとを有するケーブル用コネクタにおいて,C前記コンタクトは,第1および第2接点部と第1および第2係合枢支部とを持つ第1および第2コンタクトから成り,D前記カム部は,前記第1および第2係合枢支部に係合する第1および第2カム部から成り,E該第1カム部は,前記ケーブルの反対面を押し付ける第1カム押付面と,前記第1コンタクトの第1係合枢支部と係合する係合カム面とを有し,F前記アクチュエータは,前記第1カム押付面と前記係合カム面とで周回するように,前記第1係合カム面に隣接する貫通穴を備え,それにより,前記第1コンタクトの第1係合枢支部によって回転可能に支持され,G前記第2カム部は,前記ケーブルの反対面を押し付ける第2カム押付部と,前記第2コンタクトの第2係合枢支部と受容し係合する係合カム部とを備えることを特徴とするケーブル用コネクタにおいて,HH1前記係合カム部は,前記第2係合枢支部と受容し係合する係合カムノッチであるため,前記第2カム押付部は,縮小した押付部として形成され, 5 H2それにより,前記アクチュエータが閉じた状態のときには,前記第2枢支部は,前記係合カムノッチに隣接している前記縮小した押付部の近傍部分に当接することにより,前記第2コンタクトは前記アクチュエータを係止することを特徴とするケーブル用コネクタ。 ( )被告の行為3被告は,業として,別紙物件目録1記載の製品(以下「被告製品1」という。)及び別紙物件目録2記載の製品(以下「被告製品2」といい,被告製品1と被告製品2を併せて「被告製品」という。)を製造,販売している。 ( )被告製品の構成4ア被告製品1被告製品1の構成を分説すると次のとおりとなる。なお,以下において,部位2は,別紙物件目録1添付の図イ2のうちの青色で着色した部分であり,面2aは,同目録添付の図イ3,7のうちの茶色で着色した部分であり,面2bは,同目録添付の図イ3,7のうちの青色で着色した部分である。 a一面および反対面を持つケーブルを受けるためのケーブル用コネクタであって,bb1ケーブルの一面に対向する接点部(1b,6b)とケーブルの反対面に対向する部位(1a,6a)とを持つコンタクト(1,6)と,b2コンタクト(1,6)を後方から前方に挿入し保持するハウジング5と,b3コンタクト(1,6)のケーブルの反対面に対向する部位(1a,6a)が受け入れられ接することができ,閉じたときにケーブルの反対面を押し付ける平坦な側面,および底面を含む下方部 6 分を持ち,ケーブルを接点部に圧接させるためのアクチュエータ4と,を有するケーブル用コネクタにおいて,cコンタクトは,ケーブルの一面に対向する接点部1bとケーブルの反対面に対向する部位1aとを持つ第1コンタクト1およびケーブルの一面に対向する接点部6bとケーブルの反対面に対向する部位6aとを持つ第2コンタクト6から成り,dアクチュエータ4の平坦な側面と底面とを含む下方部分は,第1コンタクト1のケーブルの反対面に対向する部位1aが受け入れられ接することができ,ケーブルの反対面を押し付ける部位2および第2コンタクト6のケーブルの反対面に対向する部位6aが受け入れられ接することができる部分7aとケーブルの反対面を押し付ける部位7bとを含む部位7から成り,e部位2は,ケーブルの反対面を押し付ける面2bと,第1コンタクト1のケーブルの反対面に対向する部位1aが受け入れられ,接することができる面2aとを有し,fアクチュエータ4は,面2bと面2aとで周回する(まわる)ように,面2aに隣接する貫通穴を備え,それにより,第1コンタクト1のケーブルの反対面に対向する部位1aによって回転可能に支持され,g部位7は,ケーブルの反対面を押し付ける部位7bと,第2コンタクト6のケーブルの反対面に対向する部位6aが中に受け入れられ接することができる部分7aとを備えることを特徴とするケーブル用コネクタ。 hh1上記ケーブル用コネクタにおいて,部分7aは,第2コンタクト6のケーブルの反対面に対向する部位6aが中に受け入れられ,接することができる切欠部分であるため,部位7bは,ケーブルの反対面を押し付ける縮小した部分として形成され, 7 h2それにより,アクチュエータ4が閉じた状態のときには,第2コンタクト6のケーブルの反対面に対向する部位6aは,部分7aに隣接している部位7bの近傍部分に当接することにより,第2コンタクト6はアクチュエータ4を係止していることを特徴とするケーブル用コネクタ。 イ被告製品2被告製品2の構成を分説すると次のとおりとなる。なお,以下において,部位2は,別紙物件目録2添付の図ロ2のうちの青色で着色した部分であり,面2aは,同目録添付の図ロ3,7のうちの茶色で着色した部分であり,面2bは,同目録添付の図ロ3,7のうちの青色で着色した部分である。 a一面および反対面を持つケーブルを受けるためのケーブル用コネクタであって,bb1ケーブルの一面に対向する接点部(1b,6b)とケーブルの反対面に対向する部位(1a,6a)とを持つコンタクト(1,6)と,b2第1コンタクト1を前方から後方に,第2コンタクト6を後方から前方に挿入し保持するハウジング5と,b3コンタクト(1,6)のケーブルの反対面に対向する部位(1a,6a)が受け入れられ接することができ,閉じたときにケーブルの反対面を押し付ける平坦な側面,および底面を含む下方部分を持ち,ケーブルを接点部に圧接させるためのアクチュエータ4と,を有するケーブル用コネクタにおいて,cコンタクトは,ケーブルの一面に対向する接点部1bとケーブルの反対面に対向する部位1aとを持つ第1コンタクト1およびケーブルの一 8 面に対向する接点部6bとケーブルの反対面に対向する部位6aとを持つ第2コンタクト6から成り,dアクチュエータ4の平坦な側面と底面とを含む下方部分は,第1コンタクト1のケーブルの反対面に対向する部位1aが受け入れられ接することができ,ケーブルの反対面を押し付ける部位2および第2コンタクト6のケーブルの反対面に対向する部位6aが受け入れられ接することができる部分7aとケーブルの反対面を押し付ける部位7bとを含む部位7から成り,e部位2は,ケーブルの反対面を押し付ける面2bと,第1コンタクト1のケーブルの反対面に対向する部位1aが受け入れられ,接することができる面2aとを有し,fアクチュエータ4は,面2bと面2aとで周回する(まわる)ように,面2aに隣接する貫通穴を備え,それにより,第1コンタクト1のケーブルの反対面に対向する部位1aによって回転可能に支持され,g部位7は,ケーブルの反対面を押し付ける部位7bと,第2コンタクト6のケーブルの反対面に対向する部位6aが中に受け入れられ接することができる部分7aとを備えることを特徴とするケーブル用コネクタ。 hh1上記ケーブル用コネクタにおいて,部分7aは,第2コンタクト6のケーブルの反対面に対向する部位6aが中に受け入れられ,接することができる切欠部分であるため,部位7bは,ケーブルの反対面を押し付ける縮小した部分として形成され,h2それにより,アクチュエータ4が閉じた状態のときには,第2コンタクト6のケーブルの反対面に対向する部位6aは,部分7aに隣接している部位7bの近傍部分に当接することにより,第2コンタクト6はアクチュエータ4を係止していることを特徴とするケーブル用コネクタ。 9 ( )本件発明と被告製品との対比5被告製品1は,本件発明の構成要件A,B1,B2,B3を充足する。 被告製品2は,本件発明の構成要件A,B1,B3を充足する。 ( )被告製品のうち,別紙「被告図面@」ないし「被告図面I」中の青色と6赤色で囲まれた各部分は,アクチュエータを閉じた状態において,ケーブルに接触しない。なお,別紙「被告図面@」ないし「被告図面I」は,被告製品を図面化したものである。 また,被告製品のうち,物件目録1及び2の各「2b」は,アクチュエータが閉じた状態で,ケーブルに接触する。 □本件特許に対する無効審判請求被告は,平成18年5月11日,本件特許について,後記3□(被告の主張)と同様の無効理由を主張して,特許無効審判(以下「本件無効審判」という。)を請求した(乙12の1)。原告は,同年10月23日,本件特許について,後記3□(原告の主張)ウの訂正を含む訂正を請求した(甲12の2,以下「本件訂正請求」という。)。本件無効審判においては,平成19年3月30日,本件訂正請求に係る訂正を認め,無効審判の請求は成り立たない旨の審決がされた(甲14)。 2争点( )被告製品は,「第1カム押付面」,「第1カム部」を有するか(本件発1明の構成要件D,E,Fの充足性)( )被告製品2は,「コンタクトを予め定められた方向に挿入し」という構2成を有するか(本件発明の構成要件B2の充足性)( )被告製品は,「第2係合枢支部」を有するか(本件発明の構成要件Cの3充足性)( )被告製品は,「第2カム部」を有するか(本件発明の構成要件D及びG4の充足性) 10 ( )被告製品は,本件発明2の構成要件Hを充足するか 5( )本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものか 6ア進歩性の欠如イ特許法36条4項違反ウ特許法36条6項2号違反( )損害額73争点に対する当事者の主張( )被告製品は,「第1カム押付面」,「第1カム部」を有するか(本件発1明の構成要件D,E,Fの充足性)(争点( ))について 1(原告の主張)ア本件発明の構成要件D,E,Fの「第1カム押付面」,「第1カム部」の意味について本件発明の「カム部」の横方向の範囲は,「アクチュエータ」を横方向に見て,「アクチュエータ」の端から端までである。そして,「カム部」の縦方向の範囲は,開いた状態の「アクチュエータ」を断面から見て,アクチュエータの底面から「係合カム部」までである。 「カム部」のうち,「第1カム部」は,「第1コンタクト」に対応する部分であり,「第1カム押付面」は,「アクチュエータ」の底面から「係合カム部」までである。本件図面で「第1カム部」に相当する部分は,別紙参考図17及び23の青色で着色した部分であり,「第1カム押付面」に相当する部分は,別紙参考図16及び22の青色で着色した部分である。 なお,「第2カム部」は,「カム部」のうち「第1カム部」でない部分であり,本件図面で「第2カム部」に相当する部分は,別紙参考図14及び20の緑色に着色した部分である。第1カム部と第2カム部とは,それぞれ独立した部位ではなく,第1コンタクトに対応するカム部を第1カム部と,第2コンタクトに対応するカム部を第2カム部と称しているにすぎ 11 ず,第1カム部と第2カム部との境は,第1係合枢支部に係合する係合カム面と第2係合枢支部に受容し係合する係合カム部との中間位置である。 理由は以下のとおりである。 (ア)本件明細書の特許請求の範囲請求項1には,「前記係合枢支部に係合するカム部を持ち,前記ケーブルを前記接点部に圧接させるためのアクチュエータ」との記載があり,同記載からすれば,カム部はアクチュエータの一部である。 (イ)本件発明の構成要件Fの「前記アクチュエータは,前記第1カム押付面と前記係合カム面とで周回するように,前記第1係合カム面に隣接する貫通穴を備え」とは,次のとおりの意味である。 すなわち,係合カム面は第1コンタクト20の第1係合枢支部23と係合し,第1カム押付平面はケーブルからの反作用として押し付けられて,アクチュエータ40は第1係合枢支部23とケーブルとにより挟まれた状態となる。その状態で,第1係合枢支部23と係合する係合カム面と,ケーブルにより反作用を受ける第1カム押付面とで,アクチュエータが「周回」すなわち「まわる」ことができるように,前記第1係合カム面に隣接する貫通穴を備えるという意味である。そして,構成要件Fの「それにより」とは,「貫通穴を備えていることにより」を意味すると解すべきである。 本件明細書の段落【0027】の記載も,以上のように理解すべきである。 (ウ)「第1カム押付面」を被告の主張するように,第1カム部の面を構成するものであって,アクチュエータが閉状態のときにケーブルを第1接点部に押し付ける部分であると解すると,本件発明の第1実施の形態例において,アクチュエータが閉じた状態になっても,「第1カム押付面」はケーブルと接触せず,ケーブルを押し付けることはできないから, 12 「第1カム押付面」を被告の主張のように解することはできない。被告が「第1カム部」と主張する部分は,第1カム部の全部を指すのではなく,第1カム部の一部である係合カム半周面を有する部分である。 (エ)本件明細書の段落【0014】には,「第1コンタクトは,第1カム部を第1係合枢支部で包み込むように作用する」と記載されているところ,被告は,原告の主張に係る「第1カム押付面」は,第1係合枢支部に包み込まれていないから,原告の同主張は失当である旨主張する。 しかし,上記の段落【0014】の記載は,「作用」の欄にあり,そのために,「作用する」と明記しており,また,包み込んで作用すると記載しているのではなく,「包み込むように作用する」と記載しているのであるから,この記載は発明の構成を定めるものではない。 本件明細書の【課題を解決するための手段】の欄には,第1コンタクトの第1係合枢支部が係合するのは,第1カム部が有する「係合カム面」であるという構成,アクチュエータの貫通穴はその「係合カム面」に隣接して備えられるという構成,アクチュエータは第1コンタクトの第1係合枢支部により回転可能に支持されているという構成が明記されているところ,この構成で,アクチュエータが回転可能となるため,第1コンタクトの第1係合枢支部が貫通穴に配され(段落【0014】),その貫通穴に隣接した第1カム部の「係合カム面」と係合し,そして包み込むように作用するのである。この「係合カム面」は第1カム部が有しているのであるから,「このようにして,アクチュエータの貫通穴において,第1コンタクトは,第1カム部を第1係合枢支部で包み込むように作用する。」との表現をとり,アクチュエータが回転可能となるために発明の各構成がどのように作用するかを簡潔に示しているのである。 そもそも,第1カム部は,第1カム押付面と,係合カム面とを有するのであるから,被告主張のように第1カム部が第1係合枢支部で包み込 13 まれる形状であるとするならば,第1カム押付面も第1係合枢支部で包み込まれることになり,第1カム押付面はケーブルの反対面を押し付けることができなくなる。 したがって,被告の上記主張は理由がない。 (オ)第1実施の形態例として記載されている本件図1及び本件図4並びに第2実施例の形態例として記載されている本件図15及び本件図21においては,「第1カム部」を示す符号41の引き出し線は,円弧状ないし楕円状の柱状部位から出ているが,これは,「第1カム部」の一部が第1コンタクトに隠れているので,「第1カム部」の見えている代表的な部分から引き出し線を引いただけのことである。 イ対比(ア)被告製品のアクチュエータ4の部位2(別紙物件目録1及び2添付の図イ2,図イ6,図イ7’,図ロ2,図ロ6,図ロ7’のうちの青色で着色された部分)に含まれる,アクチュエータ4の平坦な側面の一部である面(アクチュエータの平坦な側面のうちの青色で着色された面の部分。図イ7,図ロ3,図ロ7,図ロ7’の2b)と底面の一部とが,アクチュエータ4の回転に従って,ケーブルの反対面に接しながら,これを押し付けることから,部位2はカム動作を行う。したがって,被告製品の部位2が本件発明の「第1カム部」に相当する。 被告製品の面2bは,上記のとおり,第1カム部に相当する部位2の一部であり,アクチュエータ4が閉じた状態になるとケーブルの反対面を押し付けるから,本件発明の「第1カム押付面」に相当する。 (イ)a被告製品のうち,第1コンタクト1のケーブルの反対面に対向する部位1aは,本件発明の「第1係合枢支部」に相当し,第2コンタクト6のケーブルの反対面に対向する部位6aは,本件発明の「第2係合枢支部」に相当する。 14 そして,部位2は,部位1aが受け容れられ接することができ,ケーブルの反対面を押し付けるものであるから,本件発明の「第1係合枢支部に係合する第1カム部」に相当し,部位7は,部位6aが受け容れられ接することができ,ケーブルの反対面を押し付ける部位7bを含むものであるから,本件発明の「第2係合枢支部に係合する第2カム部」に相当する。 したがって,被告製品は本件発明の構成要件Dを充足する。 b被告製品のうち部位2(第1カム部)の,第1コンタクト1のケーブルの反対面に対向する部位1a(第1係合枢支部)が受け容れられ,接することができる面2aは,本件発明の「第1係合枢支部と係合する係合カム面」に相当する。 そして,被告製品の面2b(第1カム押付面)は,上記のとおり,部位2(第1カム部)の一部であるから,被告製品は,本件発明の構成要件Eを充足する。 c被告製品の面2a(係合カム面)は,部位1a(第1係合枢支部)により押し付けられ,面2b(第1カム押付面)はケーブルからの反作用を受け,アクチュエータ4は部位1a(第1係合枢支部)とケーブルにより挟まれた状態になり,面2a(係合カム面)と面2b(第1カム押付面)とで,アクチュエータが周回することができるように,面2a(係合カム面)に隣接して貫通穴3が備えられている。 したがって,貫通穴3は,本件発明の「アクチュエータが第1カム押付面と係合カム面とで周回するように,係合カム面に隣接する貫通穴」に相当する。そして,この貫通穴3を備えることにより,アクチュエータ4は第1係合枢支部によって回転可能に支持される。 したがって,被告製品は,本件発明の構成要件Fを充足する。 (被告の主張) 15 ア本件発明の構成要件D,E,Fの「第1カム押付面」,「第1カム部」の意味について本件発明の「第1カム部」に相当する部分を,本件図面で説明すれば,本件図1では,第1コンタクト20の第1係合枢支部23の下に表示されているところの断面が一部切り取られた円弧状の柱状部位であり,本件図15では,第1コンタクト200の第1係合枢支部230の下に表示されているところの断面が楕円状の柱状部位である。そして,本件発明の「第1カム押付面」は,上記の「第1カム部」の面を構成するものであって,アクチュエータが閉状態のときに,ケーブルを第1接点部に押し付ける部分である。すなわち,本件発明は,第1カム押付面と係合カム面とが第1カム部の周面を構成し,第1カム押付面がケーブルの反対面を押し付け,「係合カム面」が第1係合枢支部と係合するという構造を有している。 理由は以下のとおりである。 (ア)本件明細書の特許請求の範囲請求項1には,「前記アクチュエータは,前記第1カム押付面と前記係合カム面とで周回するように,前記第1係合カム面に隣接する貫通穴を備え,それにより,前記第1コンタクトの第1係合枢支部によって回転可能に支持され」と記載されており,同記載から,本件発明においては,「貫通穴」があることでなされるアクチュエータの周回が,「第1カム部」の「第1カム押付面」と「係合カム面」でなされ,第1コンタクトの第1係合枢支部によって回転可能に支持されていること,すなわち,アクチュエータの周回は,第1コンタクトの第1係合枢支部を回転の支点として,第1カム部の第1カム押付面と係合カム面で行われることが分かる。そして,このような周回運動は,第1カム部がアクチュエータの先端部で貫通穴により柱状となっており,その周面が第1カム押付面と係合カム面で形成されていることによってこそ可能である。 16 (イ)本件発明において,「第1カム部」を有し,同部が「ケーブルの反対面を押し付ける第1カム押付面」を有することを構成要件Eとして必須の構成要素としている理由は,発明の対象となるケーブル用コネクタにおいては,各「第1コンタクト」ごとに設けられるアクチュエータの各「第1カム部」の「第1カム押付面」が,「第1コンタクト」の「第1接点部」に接触するケーブル(その下面には各コンタクトに対応して1本ずつ配線が印刷されている。)をアクチュエータの閉状態においてその真上から押し付けることにより,各コンタクトの接点部とケーブルの各配線との各々の接触の安定性・確実性を確保するためと考えられる。 コネクタの高さは約1.0,ケーブルの厚さは約0.2と極めmm mmて小さいため,各接点部とケーブルの配線との電気的接触は非常に微細であり,かつ,確実な確保が要求されるところであり,本件発明においては,この点が重視され,構成要件Eが規定されることになったのである。本件明細書の段落【0014】は,正にこのことを説明しているのである。 このように,「第1カム押付面」は,ケーブルを真上から第1接点部に押し付ける部材であるから,第1接点部の真上に位置する上記柱状部位がこれに当たる。 (ウ)「第1カム部」は,「カム」である以上,回転軸からの距離が一定でない周辺を有することにより,回転しながらその周辺で他の部材に種々の運動を与える必要があり,回転によりケーブルに対して第1接点部に押し付けるように作用するものである。 (エ)第1実施の形態例として記載されている本件図1及び本件図4においては,「第1カム部」を示す符号41の引き出し線は,上記の円弧状の柱状部位から出ている。また,第2実施例の形態例として記載されている本件図15及び本件図21においても,「第1カム部」を示す符号 17 41の引き出し線は,上記の楕円状の柱状部位から出ている。 この点,原告は,符号41の引き出し線は,図面上見えている代表的な部分に引いたにすぎないと主張するが,本件図4においては,むしろ,原告が「第1カム部」と主張するアクチュエータの側面が正面に,柱状部材よりも目立つように表示されているから,原告の上記主張は理由がない。 (オ)原告は,第1実施の形態例を図示する本件図1及び本件図4では,アクチュエータが閉状態になっても,被告が「第1カム押付面」と主張する部分は,ケーブルに接触せず,ケーブルを押し付けることはできないから,「第1カム押付面」の意味についての被告の主張は誤りである旨の主張をする。 確かに,本件図1及び本件図4では,アクチュエータが閉状態になっても,「第1カム押付面」はケーブルに接触しないが,本件図1及び本件図4は,本件発明を実施するものではないというだけのことであり,原告の上記主張は失当である。 (カ)以下のとおり,原告が「第1カム押付面」と主張する部分を「第1カム押付面」と解することはできない。 a本件明細書の段落【0014】には,「第1コンタクトは,第1カム部を第1係合枢支部で包み込むように作用する」と記載されており,第1カム部は第1係合枢支部で包み込まれるべき形状のものであることが示されているところ,原告が「第1カム押付面」と主張する部分は,第1コンタクトに包み込まれる形状ではない。 b原告が「第1カム押付面」と主張する部分は,係合カム面とで周回することはできず,何らアクチュエータの周回に関わるものではないから,原告の同主張は,上記(ア)で検討した特許請求の範囲の記載に反する。 18 c原告が「第1カム押付面」と主張する部分は,「物の外郭を成す,角だっていない広がり」を意味する「面」の語義に反する。 d原告の主張によれば,第1カム部はアクチュエータの一部を含み,第2カム部はアクチュエータのうちの一部であるということであるが,アクチュエータのうちの第1カム部と第2カム部との境界をいかなる基準によって設定したのかについての原告の主張には,合理的な理由がない。 イ対比被告製品のアクチュエータのうち,第1コンタクトに対応した部位を観念するとすれば,別紙被告図面@ないしIにおいて青色で着色された部分(以下「第1コンタクト対応部分」という。)のみであるところ,この部分は,第1コンタクトと係合はしているが,「ケーブルの反対面を押し付ける第1カム押付面」を有しないから,本件発明の「第1カム部」に相当しない。 したがって,被告製品は,本件発明の「第1カム押付面」及び「第1カム部」を有しないから,構成要件D,E,Fを充足しない。 ( )被告製品2は,「コンタクトを予め定められた方向に挿入し」という構2成を有するか(本件発明の構成要件B2の充足性)(争点( ))について 2(原告の主張)ア「コンタクトを予め定められた方向に挿入し」の意味コンタクトを異なった位置から挿入する場合も,不合理な挿入の仕方をしない限り,「コンタクトを予め定められた方向に挿入し」ということができる。 イ対比被告製品2のハウジング5は,第1コンタクト1については前方から後方に,第2コンタクト6については後方から前方にという予め定められた 19 方向に挿入し保持している。 したがって,被告製品2は構成要件B2を充足する。 (被告の主張)ア「コンタクトを予め定められた方向に挿入し」の意味本件発明の構成要件B2の「予め定められた方向」には,コンタクトが複数の異なった位置から挿入される場合は含まれないと解される。 イ対比被告製品2は,隣り合う2種類のコンタクトがそれぞれ前方と後方という別の位置から交互にハウジングに挿入されるものであるから,構成要件B2を充足しない。 ( )被告製品は,「第2係合枢支部」を有するか(本件発明の構成要件Cの3充足性)(争点( ))について 3(原告の主張)ア「第2係合枢支部」の意味本件明細書の特許請求の範囲請求項1の「前記アクチュエータは,・・・前記第1コンタクトの第1係合枢支部によって回転可能に支持され」との記載のとおり,本件発明において,アクチュエータを回転可能に支持しているのは,第1係合枢支部であって,第2係合枢支部ではない。 本件発明において,第2係合枢支部は,アクチュエータ自体を回転可能に支持するのではなく,回転する第2カム押付部と係合しながら,第2カム押付部を支持するものである。 イ対比被告製品のコンタクトは,ケーブルの一面に対向する接点部1bとケーブルの反対面に対向する部位1aとを持つ第1コンタクト1と,ケーブルの一面に対向する接点部6bとケーブルの反対面に対向する部位6aとを持つ第2コンタクト6とからなるところ,接点部1bは「第1接点部」に 20 相当し,接点部6bは「第2接点部」に相当する。 また,第1コンタクトのケーブルの反対面に対向する部位1aは,1「第1係合枢支部」に相当する。 そして,アクチュエータの回転が進むと,7bは,第2コンタクト6のケーブルの反対面に対向する部位6aに係合しながら,アクチュエータの回転とともに回転していく。つまり,6aは,回転する7bと係合しながら,7bを支持しているから,「第2係合枢支部」に相当する。 したがって,被告製品は,いずれも構成要件を充足する。 C(被告の主張)ア「第2係合枢支部」の意味「枢支」とは,その字義より,「凹部と凸部で回動可能に支持する」ものと解され,本件発明の「第2係合枢支部」とは,「アクチュエータを,凹部と凸部で回動可能に支持する部材」を意味すると解される。 イ対比原告は,被告製品のうちの符号6aで表示される部位をもって「第2係合枢支部」に該当すると主張するが,この部位は,何らアクチュエータの回動運動を支持する働きをしていないから,「第2係合枢支部」に当たらない。 したがって,被告製品は,構成要件Cを充足しない。 ( )被告製品は,「第2カム部」を有するか(本件発明の構成要件D及びG4の充足性)(争点( ))について 4(原告の主張)ア「第2カム部」の意味本件発明の第2係合枢支部は,第1係合枢支部と異なり,アクチュエータを回転可能に支持していないが,アクチュエータは一体的なものであるから,アクチュエータが回転すると,第2カム部も第1カム部とともにア 21 クチュエータの一部として回転する。そして,本件発明の第2カム押付部は,アクチュエータの回転の中心を中心に弧を描くように回転する。 イ対比被告製品は,7bがアクチュエータの回転の中心を中心に弧を描くように回転し,回転の途中に,6aと係合し,ケーブルの反対面と接するから,被告製品の7は,本件発明の「第2カム部」に相当する。また,前記( )3で主張したとおり,被告製品の6aは,本件発明の「第2係合枢支部」に相当する。 そして,被告製品のアクチュエータ4の部位7に含まれる部位7bは,アクチュエータ4が閉じた状態になると,ケーブルの反対面を押し付ける。 また,アクチュエータ4の部分7aは,2方向,つまり,平坦な側面とは反対側の方向及び底面の方向に開放する略L形状を呈するように抉られた切欠部分となっている。第2コンタクト6のケーブルの反対面に対向する部位6aは,部分7aの中に受け入れられ,部分7aを画定する表面に接することができる。以上のことから,第2カム部である部位7のケーブルの反対面を押し付ける部位7bは,「ケーブルの反対面を押し付ける第2カム押付部」に相当し,7aは「第2コンタクトの第2係合枢支部と受容し係合する係合カム部」に相当する。 したがって,被告製品は,いずれも構成要件D及びを充足する(構G成要件Dのうち,「第1カム部」を充足することは,前記( )で主張した 1とおりである。)。 (被告の主張)ア「第2カム部」の意味「カム」とは「回転軸から距離が一定でない周辺を有し,回転しながらその周辺で他の部材に種々の運動を与える装置」(乙2の2)であるところ,構成要件Gの記載によれば,「第2カム部」は,「第2コンタクトの 22 第2係合枢支部と受容し,係合する係合カム部」を備える。 したがって,「第2カム部」は,「第2係合枢支部」を受容し,係合するとともに,回転軸から一定でない面を有し,それにより回転しながら周辺で他の部材に種々の運動を与える構成であることを要する。 イ対比原告は,被告製品のうち符号7で示される部位をもって「第2カム部」に該当すると主張するが,符号7で示される部位が同6aで示される部位と接触するのは,同7bの部位が同6aとケーブルに挟まれたときだけであり,したがって,同部を回転軸として回転しておらず,受容,係合もしていない。また,回転により6aで示される部位又はケーブルに何らの運動をも与えるものではない。さらに,7bの部位が,6aとケーブルに挟まれる動きは,直線的で回転とはいえない。 したがって,符号7の部位は,「第2カム部」に該当するということはできず,被告製品は,構成要件及びGを充足しない。 D( )被告製品は,本件発明2の構成要件Hを充足するか(争点( ))につい 5 5て(原告の主張)ア被告製品の部分7aは,2方向に開放する略L形状を呈するように抉られた切欠部分である。第2コンタクト6のケーブルの反対面に対向する部位6aは,本件発明の「第2係合枢支部」に相当するところ,部位7aの中に受け容れられ,アクチュエータ4が回転するときに部分7aを画定する表面に接することができる。以上のことから,部位7aは,本件発明2の「第2係合枢支部と受容し係合する係合カムノッチ」に相当し,ケーブルの反対面を押し付ける縮小した部分として形成される部位7bは,ケーブルの反対面を押し付ける「縮小した押付部」に相当する。 したがって,被告製品は本件発明2の構成要件H1を充足する。 23 イ被告製品のコネクタにおいて,アクチュエータ4が閉じた状態のときは,6a(第2係合枢支部)は,部分7a(係合カムノッチ)に隣接しているケーブルの反対面を押し付ける縮小した部分7b(縮小した押付部)の近傍部分に当接することにより,第2コンタクト6は前記アクチュエータ4を係止している。 したがって,被告製品は,本件発明2の構成要件H2を充足する。 (被告の主張)否認する。 ( )本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものか(争点( ))に6 6ついて(被告の主張)ア進歩性が欠如すること(ア)特開平9-82427号公報(乙5。以下「公知文献1」といい,公知文献1に記載された発明を「公知発明1」という。)に基づく進歩性欠如a本件発明と公知発明1との一致点及び相違点(a)一致点@一面及び反対面を持つケーブルを受けるためのケーブル用コネクタである点A前記一面に対向する接点部と前記反対面に対向する係合枢支部とを持つコンタクトを有し,前記コンタクトは,第1及び第2接点部と第1及び第2係合枢支部とを持つ第1及び第2コンタクトからなる点B前記コンタクトを予め定められた方向に挿入し保持するハウジングを有する点C前記係合枢支部に係合するカム部を持ち,前記ケーブルを前記 24 接点部に圧接させるためのアクチュエータとを有する点D前記カム部は,前記第1及び第2係合枢支部に係合する第1及び第2カム部からなり,前記第2カム部は,前記ケーブルの反対面を押し付ける第2カム押付部と,前記第2コンタクトの第2係合枢支部と受容し係合する係合カム部とを備える点E前記係合カム部は,前記第2係合枢支部と受容し係合する係合カムノッチであるため,前記第2カム押付部は,縮小した押付部として形成され,それにより,前記アクチュエータが閉じた状態のときには,前記第2枢支部は,前記係合カムノッチに隣接している前記縮小した押付部の近傍部分に当接することにより,前記第2コンタクトは前記アクチュエータを係止する点F技術課題の一つは,「狭ピッチ化」である点(b)相違点本件発明は,「前記アクチュエータは,前記第1カム押付面と前記係合カム面とで周回するように,前記第1係合カム面に隣接する貫通穴を備え,それにより,前記第1コンタクトの第1係合枢支部によって回転可能に支持され」る構成を備えているのに対し,公知発明1はこれを備えていない点b相違点についての検討(a)特開平11-54218号公報(乙6。以下「公知文献2」という。)に記載された発明(以下「公知発明2」という。)においては,加圧部材6には所定位置に向けた回動に伴い次第に回動案内部4を受け入れて行くスリット状の受入溝8が形成されているところ,上記の「加圧部材6」は本件発明の「アクチュエータ」に,「回動案内部4」は本件発明の「係合枢支部」に,「スリット状の受入溝8」は「貫通穴」に相当する。 25 (b)被告が,本件特許の出願日以前から製造販売していたケーブル用コネクタの「FH18シリーズ」(乙7。以下「FH18シリーズ」という。)のパンフレット(乙7の1)の「図A」や,納入仕様書等(乙8)の5枚目の図面からすれば,「FH18シリーズ」が「貫通穴」を備えていたことが分かる。 (c)原告が本件特許の出願日以前から製造販売していたケーブル用コネクタである「FF01シリーズ」(乙9。以下「FF01シリーズ」という。)は,原告が発行している技報(乙10)の27頁の「図4」にあるとおり,アクチュエータが「貫通穴」を備えていた。 (d)以上より,公知発明1における「アクチュエータ」に,公知文献2,「FH18シリーズ」及び「FF01シリーズ」において開示されている「貫通穴」を設けることにより,本件発明の「アクチュエータは,前記第1カム押付面と前記係合カム面とで周回するように,前記第1係合カム面に隣接する貫通穴を備え,それにより,前記第1コンタクトの第1係合枢支部によって回転可能に支持され」る構成を実現することができる。 そして,公知発明1と,公知発明2,「FH18シリーズ」及び「FF01シリーズ」は,ケーブル用コネクタという同一の技術分野に属している。また,公知発明1は,本件発明と同様に「狭ピッチ化」を技術課題の一つとして掲げているものであるから,更なる「狭ピッチ化」を実現するために,又は「コネクタの薄型化」を図るという普遍的な技術課題を実現するために,公知発明2等の周知技術に基づいて,「アクチュエータ」に「貫通穴」を設けることは自然な発想であり,少なくとも,両発明を組み合わせることについては,何らの阻害事由も存しない。 26 c原告は,公知発明1には,本件発明の第1カム部に対応する部分がない旨主張する。 しかし,公知文献1の段落【0024】には,第1コンタクトに弾性支持片を設ける形態が,変更例として,具体的に記載されているから,原告の上記主張は失当である。 dしたがって,本件発明は,公知発明1等に基づいて,当業者が容易に想到し得たものであるから,進歩性を欠如する。 (イ)被告が本件特許の出願日以前から製造販売していた「FH18シリーズ」に基づく進歩性欠如a「FH18シリーズ」は,「第2係合枢支部」,「第2カム部」を除いて,本件発明1の構成要件をすべて備えていた。 そして,「FH18シリーズ」のパンフレット(乙7の1)の「図@」の構成を,「第2係合枢支部」,「第2カム部」を有する構成とすることは設計事項である。例えば,公知文献1に記載の一般的なコンタクトに変更する等である。なお,本件特許出願時において,ZIF端子のみで構成されるコネクタは周知であったものであり,コネクタ端子にNon-ZIF端子,ZIF端子,又は両端子を混合して用いることは設計事項にすぎない。 したがって,本件発明1は,「FH18シリーズ」に基づいて,当業者が容易に想到し得たものであるから,進歩性を欠如する。 b「FH18シリーズ」のパンフレット(乙7の1)の「図@」を見る限り,同シリーズにおける第2カム部は「カムノッチ(切欠)」ではなく,この点において,「FH18シリーズ」と本件発明2とは相違する。 しかし,第2カム部を「カムノッチ(切欠)」とする構成は,公知文献1に開示されているところ,「FH18シリーズ」と公知発明1 27 は同一の技術分野に属しており,当業者にとって両発明を組み合わせて本件発明2に想到することは容易であり,少なくとも,両発明を組み合わせることについては,何らの阻害事由も存しない。 したがって,本件発明2も進歩性を欠如する。 イ特許法36条4項に違反すること本件明細書中の発明の詳細な説明欄を参照しても,本件発明の「第1カム部」及び「第1カム押付面」の具体的構成は不明であるし,これらが図面中のどの部位を意味するかを読み取ることはできない。 したがって,本件発明は,特許法36条4項(平成14年法律第24号による改正前のもの)の無効理由を有する。 ウ特許法36条6項2号に違反すること本件発明1は,@アクチュエータの外れを防止するための構成が不明である点,Aアクチュエータの貫通穴に係る構成が不明である点,Bアクチュエータの第2カム部に係る構成が不明である点において,本件発明2は,@係合カム部について「第2係合枢支部と受容し係合する」という記載の意図する構成が不明である点,A「縮小した押付部」という記載の意図する構成が不明である点,B「前記第2枢支部」がこれより前に記載されていない点において,それぞれ,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。 (原告の主張)ア進歩性欠如の主張に対して(ア)公知文献1に基づく主張に対してa本件発明と公知発明1とは,@本件発明が2種類のカム部を有しているのに対し,公知発明1は1種類のカム部しか有していない点,A本件発明では,アクチュエータが,貫通穴を備え,それにより第1コンタクトの第1係合枢支部により回転可能に支持されているのに対し, 28 公知発明1は,係止部18aと第2コンタクト17の弾性支持片17e(第2係合枢支部)の先端が嵌合することにより,レバー部18(アクチュエータ)が弾性支持片17e(第2係合枢支部)の先端を中心として回動自在に支持されている点,B本件発明の係合カム部は,第2係合枢支部と受容し係合しているが,公知発明1では,係止部18aが弾性支持片の先端に嵌合することにより,その先端を中心として回動自在に支持されていない点,C公知発明1は,「係合カムノッチ」を有しない点において相違する。 b(a)公知発明2は,加圧部材6(アクチュエータ)がカム部を有し,このカム部に接触子2(コンタクト)が係合してはいるが,この接触子2は1種類であり,したがって,この接触子2と係合するカム部も1種類のみである。また,「FH18シリーズ」は,公知発明2の接触子2のほかに,Non-ZIF端子のコンタクトを有しているが,このNon-ZIF端子のコンタクトは,ロックレバー(アクチュエータ)と係合しておらず,したがって,2種類のカム部を有していない。また,「FF01シリーズ」のカム部は,1種類のみである。 このように,公知発明1,公知発明2,「FH18シリーズ」及び「FF01シリーズ」のいずれも,1種類のカム部を有するのみであり,これらをどのように寄せ集めても,2種類のコンタクトに対応する2種類のカムにはならない。 (b)公知発明1,公知発明2,「FH18シリーズ」及び「FF01シリーズ」のいずれにも,本件発明の第2カム部の係合カム部と第2コンタクトの第2係合枢支部はなく,また,その開示も示唆もない。 (c)公知発明1は,係止部と第2のコンタクトの弾性支持片17e 29 の先端が嵌合することにより,レバー部(アクチュエータ)が弾性支持片の先端を中心として回動自在に支持されているのであるから,更に第1コンタクトに弾性支持片(係合枢支部)を設け,重ねてレバー部を回動自在にする必要はない。 また,公知発明1に公知発明2,「FH18シリーズ」の接触子(ZIF端子)や「FF01シリーズ」のコンタクトを組み込んでも,本件発明の技術課題の一つである「狭ピッチ化」を図ることはできない。 (d)公知発明2,「FH18シリーズ」には,「貫通穴」がない。 (e)以上より,公知発明1,公知発明2,「FH18シリーズ」及び「FF01シリーズ」を寄せ集めても,前記相違点に係る構成とすることを容易に想到することはできない。 c公知文献1の段落【0024】の記載について公知文献1の段落【0024】には,「第1,第2のコンタクトの双方に弾性支持片を設け,双方のコンタクトを同様の形状としてもよい。」との記載があるが,同記載のとおり,同様の形状の第1コンタクトと第2コンタクトを配置すると,弾性支持片が邪魔になって,ケーブルを前方向からも,後方向からもハウジングに挿入できず,コネクタとして機能しない。したがって,公知文献1の段落【0024】の記載はあるが,公知文献1は,第1コンタクト及び第2コンタクトの双方に弾性支持片を設け,双方が同様の形状を持つコンタクトを開示してはいないのである。 dしたがって,本件発明は,公知発明1に基づき当業者が容易に発明し得たものではなく,この点に関する被告の主張は理由がない。 (イ)「FH18シリーズ」に基づく主張に対して「FH18シリーズ」のコネクタには,ZIF端子とNon-ZIF 30 端子とがあるが,Non-ZIF端子は,FPC挿入時にクリック感があり,ロック完了までの,FPCとコネクタのパターンズレを防止することができるものである。したがって,Non-ZIF端子に代えて,ZIF端子とすることは,上記特徴が失われることになるところ,上記特徴を失わせてまでも,ZIF端子を「FH18シリーズ」に適用する必要性について,公知文献2や「FH18シリーズ」のパンフレットには何らの開示も示唆もない。 また,「FH18シリーズ」には,第2カム部自体が存在しないのであるから,「FH18シリーズ」に公知発明1を寄せ集めることすらできない。しかも,公知文献1は,第2カム部を「カムノッチ」とする構成など開示していないのであるから,「FH18シリーズ」に「第2カム部」,「第2カム部が備える係合カム部」を仮に想定しても,その想定した「係合カム部」を「カムノッチ」とすることはできない。 したがって,本件発明は,「FH18シリーズ」に基づき当業者が容易に想到し得たものではなく,この点に関する被告の主張は理由がない。 イ特許法36条4項に違反する旨の主張について本件図1,2,4ないし8,15ないし25に示すように,アクチュエータは断面で見て回転の中心から距離が一定でない周辺をもち,アクチュエータが開いた状態から閉じた状態に回転すると,その周辺がケーブルを押し付けており,当業者にはアクチュエータの下方部がカム部となっていることは明らかである。また,カム部は,第1及び第2係合枢支部に係合する第1及び第2カム部からなると本件明細書に記載されているから,カム部のうち第1係合枢支部に係合するカム部分を第1カム部とすることも何ら不明なことはない。第1カム押付面については,カム部は,アクチュエータが閉じた状態でカム動作によりケーブルの反対面を押し付けるのであるから,カム部のうち第1係合枢支部に係合する部分の第1カム部も, 31 アクチュエータが閉じた状態でカム動作によりケーブルの反対面を押し付けるのは当然のことであり,第1カム部のケーブルの反対面を押し付ける面を第1カム押付面といっているのである。 したがって,「第1カム部」及び「第1カム押付面」の具体的構成は明らかであり,特許法36条4項に違反する旨の被告の主張は理由がない。 ウ特許法36条6項2号に違反する旨の主張に対して原告は,上記1□のとおり,本件無効審判において,本件明細書の特許請求の範囲請求項1及び請求項4についての訂正を含む本件訂正請求を行い,これにより本件発明の構成は明確となった。そして,本件無効審判の審決において,本件訂正請求に係る訂正が認められた。 したがって,特許法36条6項2号に違反する旨の被告の主張は理由がない。 ( )損害額(争点( ))について77(原告の主張)本件特許の登録日から平成17年6月末までの間の被告製品1の売上高は,少なくとも12億円であり,同期間の被告製品2の売上高は,少なくとも25億円である。 そして,被告製品の利益率は32パーセントであるから,上記期間における被告製品の製造,販売により被告が得た利益額は,少なくとも11億8000万円である。 したがって,被告製品の製造,販売によって,上記期間に原告が被った損害額は,特許法102条2項を適用して,11億8000万円となる。 (被告の主張)否認する。 第3当裁判所の判断1被告製品は,「第1カム押付面」,「第1カム部」を有するか(本件発明の 32 構成要件D,E,Fの充足性)(争点( ))について 1( )本件発明における「第1カム押付面」,「第1カム部」の意味について 1ア本件明細書,本件図面の記載(ア)本件明細書には,以下のとおりの記載がある(甲2)。 a段落【0014】「第1コンタクトの第1係合枢支部は,アクチュエータの貫通穴に配される。ケーブルの一面すなわち下面は,第1コンタクトの第1接点部に対向して接触する。一方,ケーブルの反対面すなわち上面は,アクチュエータの貫通穴に隣接する第1カム部の第1カム押付面によって押し付けられる。このようにして,アクチュエータの貫通穴において,第1コンタクトは,第1カム部を第1係合枢支部で包み込むように作用する。」b段落【0023】「図1〜図14を参照して,本発明の第1実施の形態例に係るケーブル用コネクタ9について説明する。」c段落【0025】「このケーブル用コネクタ9は,第1・第2コンタクトを予め定められた方向に挿入し保持するハウジング30と,係合枢支部23,13に係合する第1・第2カム部41,43を持ち,ケーブル50を第1・第2接点部21,11に圧接させるためのアクチュエータ40とを有する。」d段落【0026】「第1カム部41は,ケーブル50の反対面を押し付ける第1カム押付平面と,第1コンタクト20の第1係合枢支部23と係合する係合カム半周面とを有する。」e段落【0027】 33 「アクチュエータ40は,第1カム押付平面と係合カム半周面とで周回するように,第1係合カム半周面に隣接する貫通穴42を備える。 そのため,アクチュエータ40は,第1コンタクト20の第1係合枢支部23によって回転可能に支持されている。」f段落【0031】「次に,図15〜図25を参照して,本発明の第2実施の形態例に係るFPC用コネクタ90を説明する。」g段落【0033】「図15〜図17,図21,及び図22に示されているアクチュエータ400の第1カム部410は,断面がレーストラックの楕円形状を呈する。係合枢支部230は,このような楕円形状の第1カム部410を係合するように形成されている。」h段落【0037】の【図面の簡単な説明】「【図1】本発明の第1実施の形態例に係るFPC用コネクタ9のTX-TX線(図3)に沿って切断した断面図で,アクチュエータ40を開いた状態に回転してから,ケーブル50を挿入したときを示す。 ・・・【図4】図3のFPC用コネクタ9に係り,第1コンタクト20が見える位置でTX-TX線(図3)に沿って切断した断面を持つ一部斜視図で,アクチュエータ40を開いた状態を示す図である。 【図5】図4のアクチュエータ40を閉じた状態を示す図である。 ・・・【図15】本発明の第2実施の形態例に係るFPC用コネクタ90に関して,第1コンタクト200が見える位置で切断した断面図で,アクチュエータ400を開いた状態を示す図である。この解放状態では,ケーブル(FPC)50を挿入してもしなくても同じ図となる。 34 【図16】図15のFPC用コネクタ90にケーブル(FPC)50を挿入しないで,アクチュエータ400を閉じたときの状態を示す断面図である。 【図17】図15のFPC用コネクタ90にケーブル(FPC)50を挿入しアクチュエータ400を閉じたときの状態を示す断面図である。・・・【図21】FPC用コネクタ90の第1コンタクト200が見える位置で切断した断面を持つ一部斜視図で,アクチュエータ400を開いた状態を示す図である。 【図22】図21のアクチュエータ400を閉じた状態を示す図である。」(イ)本件図面は,次のとおり描かれている(甲2)。 a本件図1は,FPC用コネクタ9を,第1コンタクト20の位置で,W-W線(図3)に沿って切断した断面図であり,アクチュエータ40が開いた状態で,ケーブル50が挿入されている。直立したアクチュエータ40の中央部分が貫通穴42となっており,その下の位置に,一部が切り取られたような略円形状の底面の略円柱状の突起物(以下「本件発明突起部分1」という。)があり,第1コンタクト20のうちの第1係合枢支部23が,貫通穴42に配置されて,本件発明突起部分1の側周面に沿って,本件発明突起部分1を包み込むようにして,これに係合している。本件発明突起部分1から,第1カム部を示す符号41の引き出し線が引かれている。 b本件図4は,本件図1をケーブル50が挿入されていない状態で斜め前方上から描いた図であり,直立したアクチュエータ40の側面部分が明瞭に視認できるところ,同図でも,第1カム部を示す符号41の引き出し線は,本件発明突起部分1から引かれている。 35 c本件図5は,本件図4を,アクチュエータ40を閉じた状態で描いた図である。 d本件図15は,FPC用コネクタ90を第1コンタクト200が見える位置で,その側面に沿って切断した断面図であり,アクチュエータ400が開いた状態で,ケーブル50が挿入されている。斜めに起立したアクチュエータ400の中央部分が貫通穴420となっており,その下の位置に,楕円形状の底面の略円柱状の突起物(以下「本件発明突起部分2」という。)があり,第1コンタクト200のうちの第1係合枢支部230が,貫通穴420に配置されて,本件発明突起部分2の側周面に沿って,本件発明突起部分2を包み込むようにして,これに係合している。本件発明突起部分2から,第1カム部を示す符号410の引き出し線が引かれている。 e本件図16は,本件図15を,アクチュエータ400を閉じて,ケーブル50が挿入されていない状態で描いた図である(ただし,符号410の引き出し線は引かれていない。)。 f本件図17は,本件図16にケーブル50が挿入された状態で描いた図である。 g本件図21は,本件図15を,ケーブル50が挿入されていない状態で,斜め前方上から描いたものであり,アクチュエータ400の側面部分が明瞭に視認できるところ,同図でも,第1カム部を示す符号410の引き出し線は,本件発明突起部分2から引かれている。 h本件図22は,本件図21を,アクチュエータ400を閉じた状態で描いた図である。 イ「第1カム押付面」及び「第1カム部」の意味前記争いのない事実等において認定した本件明細書の特許請求の範囲の記載及び前記アで示した本件明細書及び本件図面の記載を前提に,本件発 36 明における「第1カム押付面」,「第1カム部」の意味を検討する。 (ア)前記のとおり,本件明細書の特許請求の範囲には,「前記係合枢支部に係合するカム部を持ち」(構成要件B3),「前記カム部は,前記第1および第2係合枢支部に係合する第1および第2カム部から成り」(構成要件D),「該第1カム部は,前記ケーブルの反対面を押し付ける第1カム押付面と,前記第1コンタクトの第1係合枢支部と係合する係合カム面とを有し」(構成要件E),「前記アクチュエータは,前記第1カム押付面と前記係合カム面とで周回するように,前記第1係合カム面に隣接する貫通穴を備え,それにより,前記第1コンタクトの第1係合枢支部によって回転可能に支持され」(構成要件)と記載されてFいる。これらの記載によれば,本件発明に係るケーブル用コネクタに設けられている第1カム部は,第1係合枢支部に係合する係合カム面とケーブルの反対面を押し付ける第1カム押付面とからなり,アクチュエータが周回運動できるように,係合カム面と第1カム押付面をその周回面とする第1カム部が基軸となり,アクチュエータに設けられた貫通穴に位置する第1係合枢支部と係合し,この第1係合枢支部により回転可能に支持されるという構成を有するとともに,第1カム部の第1カム押付面は,アクチュエータが閉じた状態で,ケーブルを押し付けるものであると認められる。 また,本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0014】には,前記のとおり,「アクチュエータの貫通穴において,第1コンタクトは,第1カム部を第1係合枢支部で包み込むように作用する。」との記載があり,同記載からすれば,第1コンタクトの第1係合枢支部が,貫通穴において,第1カム部を包み込むように作用するというのであるから,第1カム部は,第1コンタクトの第1係合枢支部により包み込まれる柱状の部材でなければならず,第1カム部を,当該部材のみならず,アクチ 37 ュエータの一部の平面も含めて構成される部材と解することは,明らかに不合理といわなければならない。 さらに,段落【0033】には,前記のとおり,「図15〜図17,図21,及び図22に示されているアクチュエータ400の第1カム部410は,断面がレーストラックの楕円形状を呈する。係合枢支部230は,このような楕円形状の第1カム部410を係合するように形成されている。」と記載されているが,この記載は,第1カム部が,上記同様,柱状の部材のみであると解することによって,初めて,合理的に理解することができるものである。 したがって,本件発明における「第1カム部」とは,起立したアクチュエータの中央部分の貫通穴の下に位置し,本件発明突起部分1及び2のように略円柱状の突起物であって,第1コンタクトの第1係合枢支部と係合して周回する部材を意味し,「第1カム押付面」とは,その略円柱状の周回面の一部であって,アクチュエータを閉じた場合に,ケーブルを押し付ける部分を意味すると解するのが相当である。 (イ)これに対し,原告は,「第1カム押付面」は,別紙参考図16及び22の青色で着色した部分であり,「第1カム部」に相当する部分は,別紙参考図17及び23の青色で着色した部分であると主張するので,同主張について,以下検討を加える。 a原告は,上記のように解する理由として,本件明細書の特許請求の範囲請求項1には,「前記係合枢支部に係合するカム部を持ち,前記ケーブルを前記接点部に圧接させるためのアクチュエータ」との記載があり,同記載からすれば,カム部はアクチュエータの一部である旨主張する。 しかしながら,カム部がアクチュエータの一部であるとしても,このことによりカム部の位置が定められるわけではなく,また,前記 38 (ア)の説示とも反するものではないから,上記記載により原告主張が裏付けられるものではない。 b原告は,本件発明における「第1カム部」は,突起状の部材とアクチュエータの一部から構成されるとの解釈に基づいて,「第1カム押付面」の範囲について,アクチュエータが閉じたときにケーブルに接することになるアクチュエータの平面部分(以下「アクチュエータ押付面」という。)のうちの第1コンタクトに対応する部分も含まれると主張する。 しかしながら,原告の上記主張によれば,アクチュエータ押付面の一部を占める第1カム押付面の具体的範囲を定める基準が明確でなく,また,「第1カム押付面」の範囲を原告主張の基準で画することの合理的理由も本件明細書から導き出せないから,本件発明の技術的範囲の外縁も曖昧とならざるを得ない(この点,現に,本件訴訟においても,原告は,当初,「第1カム押付面」及び「第1カム部」の範囲について,明確な主張をしていなかった。)。また,侵害訴訟などにおいて,侵害の有無が問題となる製品の具体的構造によっては,アクチュエータ押付面のうちのどの部分までが「第1カム押付面」に含まれるかによって,本件発明の技術的範囲に含まれるか否かの結論が左右される場合もあり得る(例えば,アクチュエータ押付面を平坦なものとせずに,凹凸を付けて,凸部分でケーブルを押し付けるようにした構成を採用した場合,その凸部の位置によっては,「第1カム押付面」に含まれるか否かが曖昧となり,同構成が本件発明の技術的範囲に含まれるか否かを判断することができない場合が生じ得る。)。そして,本件明細書の特許請求の範囲の記載において,「第1カム部」及び「第1カム押付面」の範囲が上記のとおり不明確であるとすると,特許法36条6項2号に反する余地も生じることとなる(なお,本件 39 訂正請求に係る訂正がされたとしても,「第1カム部」及び「第1カム押付面」の範囲が不明確であることに変わりはない。)。 他方,前記(ア)の説示のように,第1カム押付面と係合カム面とが一体の略円柱状の部材となって第1カム部を構成し,これが第1係合枢支部により回転可能に支持されるとする解釈は,明確かつ合理的である上,前記指摘の本件明細書の記載とも合致するものである。 しかも,本件図面においては,前記アで認定したとおり,第1カム部を示す符号の引き出し線が柱状の部材から出ており,アクチュエータの側面を指示するものでないことが明白である(この点,原告は,「第1カム部」の一部が第1コンタクトに隠れているので,「第1カム部」の見えている代表的な部分から引き出し線を引いただけである旨主張するが,本件図4及び本件図21については,前記アのとおり,アクチュエータのうち,原告の主張に係る「第1カム押付面」に相当する部分が明瞭に視認できるのであるから,上記の説明が当を得ないことは明らかである。)。 以上からすれば,原告の上記主張は採用できない。 c原告は,本件発明の構成要件Fの「前記アクチュエータは,前記第1カム押付面と前記係合カム面とで周回するように,前記第1係合カム面に隣接する貫通穴を備え」との記載の意味について,係合カム面は第1係合枢支部と係合し,第1カム押付面はケーブルからの反作用として押し付けられて,アクチュエータは第1係合枢支部とケーブルとにより挟まれた状態となり,この状態で,第1係合枢支部と係合する係合カム面と,ケーブルにより反作用を受ける第1カム押付面とで,アクチュエータが周回することができるように,第1係合カム面に隣接する貫通穴を備えるという意味であると主張する。 しかしながら,上記主張は,必ずしも明確でない上,「前記第1カ 40 ム押付面と前記係合カム面とで周回するように」との文言と合理的に整合しないことは,前記(ア)及び(イ)bの説示に照らして明らかであるから,これを採用することはできない。 d原告は,「第1カム部」を前記説示のように略円柱状の部材と解し,「第1カム押付面」をその周側面の一部であると解すると,本件発明の第1実施の形態例の図面である本件図1,4及び5においては,アクチュエータが閉じた状態で,「第1カム押付面」はケーブルに接しないから,不合理である旨主張する。 しかしながら,特許発明の技術的範囲は,まず第1に特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない(特許法70条1項)ところ,本件における特許請求の範囲の記載の解釈は,前記(ア)のとおりである上,同解釈は,本件明細書のその他の記載とも合致するものであるから,これが本件図1,4及び5の図示と整合しないとしても,上記解釈が左右されるものではない。 e原告は,本件明細書の段落【0014】の「第1コンタクトは,第1カム部を第1係合枢支部で包み込むように作用する」との記載は,「作用」の欄にあるから,本件発明の構成を定めるものではないなどとして,上記記載を根拠として本件発明の構成を認定することはできない旨主張する。 しかしながら,発明の詳細な説明における記載が作用についてのものであっても,発明の構成の認定のために参酌できることは当然であり,段落【0014】の上記部分は,第1係合枢支部が第1カム部を包み込むように作用する旨明確に記載しているところ,仮に,第1係合枢支部が包み込む部分が第1カム部のうちの係合カム面のみであり,第1カム押付面を包み込むものではないとすると,例えば,「第1コンタクトは,係合カム面を第1係合枢支部で包み込むように作用す 41 る」などと記載して,上記の構成が理解できるような表現となるのが自然であると解されるから,原告の上記主張は理由がない。 f原告は,第1カム部が第1係合枢支部で包み込まれる形状であるとすれば,第1カム押付面も第1係合枢支部で包み込まれることになり,第1カム押付面はケーブルの反対面を押し付けることができなくなると主張する。 しかしながら,例えば,前記アで判示したとおり,本件発明の第2実施の形態例の図面である本件図15,17,21及び22は,第1カム部が第1係合枢支部に包み込まれる形状であり,しかも,第1カム押付面はケーブルの反対面を押し付けていることからも明らかなように,第1カム部が第1係合枢支部で包み込まれる形状であっても,アクチュエータを閉じたときに,第1カム押付面がケーブルを押し付けることのできる形状は十分考えられるから,原告の上記主張は理由がない。 ( )対比2被告製品の構成は,前記争いのない事実等で判示したとおり,別紙物件目録1及び2並びに別紙被告図面@ないしIのとおりであるところ,被告製品のうち本件発明の「第1カム部」に相当する部材として考えられる部分は,別紙被告図面@ないしI中の青色と赤色で囲まれた第1コンタクト対応部分であるが,同部分は,第1コンタクトの係合枢支部(1a)と係合する係合カム面(2a)を有するが,前記争いのない事実で判示したとおり,アクチュエータ(4)を閉じたとき,ケーブルに接しないから,ケーブルを押し付けるものではない。 したがって,被告製品における第1コンタクト対応部分は,本件発明における「第1係合カム面」を有するのみであるから,本件発明の「第1カム部」には当たらない。したがって,被告製品は,本件発明の「第1カム部」 42 及び「第1カム押付面」を有しないことになるから,被告製品は,本件発明の構成要件D,E及びFを充足しない。 2したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がない。 第4結論以上の次第で,原告の請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 清水節 |
---|---|
裁判官 | 山田真紀 |
裁判官 | 佐野信 |