関連審決 | 不服2004-22049 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 引用発明の認定 / 一致点の認定 / 実施 / 混同 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
19年
(行ケ)
10064号
審決取消請求事件
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原告 X 被告特許庁長官 肥塚雅博 指定代理 人町田隆志 同 溝渕良一 同 村本佳史 同 高木彰 同 内山進 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2007/08/30 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1原告の請求を棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求特許庁が不服2004-22049号事件について平成18年12月26日にした審決を取り消す。 第2事案の概要本件は,原告が後記特許の出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,その取消しを求めた事案である。 第3当事者の主張1請求の原因(1)特許庁における手続の経緯原告は,平成11年8月24日,名称を「車両の自動ブレーキ装置の作動装置」とする発明につき特許出願(特願平11-236293号。以下「本願」という。甲10)をし,その間,特許請求の範囲の変更等を内容とする補正を,平成12年8月24日付け(甲6 ・平成13年1月15日付け )(甲7 ・平成13年8月20日付け(甲8 ・平成15年3月25日付け ) )(甲9 ・平成16年2月9日付け(甲17)で,それぞれ行ったが,特許 )庁は,平成16年9月16日付けで上記出願に対する拒絶査定(甲13)をするとともに,平成16年9月28日付けで上記平成16年2月9日付け補正を却下する決定(甲14)をした。 そこで原告は,上記拒絶査定に対する不服の審判請求(なお,その後,平成16年11月22日付け<甲4>及び平成17年1月14日付け<甲5>で審判請求書の補正をした )をしたので,特許庁は,この請求を不服20 。 04-22049号事件として審理し,その中で原告は,平成16年11月22日付けで特許請求の範囲等を変更する補正(以下「本件補正」という。 甲3)をしたが,特許庁は,平成18年12月26日,平成16年11月22日付けの本件補正を却下するとした上 「本件審判の請求は,成り立たな ,い 」との審決をし,その謄本は平成19年1月24日原告に送達された。 。 (2)発明の内容本件補正後の特許請求の範囲は,請求項1〜5から成るが,このうち請求項1に係る発明の内容は下記のとおりである(以下「本願補正発明」という。 請求項2〜5は別添審決記載のとおり 。)記【請求項1】 電磁波からなる信号(T2)を発信する発信装置(4)を設けた走行路(2)を走行する車両(8)に適用される車両の自動ブレーキ装置の作動装置であつて,少なくとも1つのホイールブレーキ(53,53 )にブレーキを掛ける ’ことができると共に,自動ブレーキ装置(6)の作動中にアンチロック制御装置の作動を行なうことができる自動ブレーキ装置(6)と,電磁波からなる信号(T2)を受信して制御信号(T3)を出力する受信装置(7)とを車両(8)に有し,車両(8)に目標となる走行速度を与えて車両(8)の安全性を向上させるために,受信装置(7)の制御信号(T3)に基づいて車両(8)に設定する基準値(t)に基づいて,車両(8)の自動ブレーキ装置(6)を作動させ,かつ,基準値(t)が車両(8)の目標となる速度を示し,車両(8)の速度が目標となる速度よりも小さいときは自動ブレーキ装置(6)を作動させず,車両(8)の速度が目標となる速度よりも大きいときは基準値(t)と車両(8)の走行速度とを比較しながら自動ブレーキ装置(6)を作動させ,目標となる速度になつたなら自動ブレーキ装置(6)の制御を終了させることができることを特徴とする車両の自動ブレーキ装置の作動装置。 (3)審決の内容ア審決の内容は,別添審決写しのとおりであり,その理由の要点は下記@・Aのとおりである。 記@本願補正発明は,特開昭63-215435号公報に記載された発明(以下,この文献を「引用例1」といい,この発明を「引用発明」という。甲1 )及び特開平7-69188号公報(以下「引用例2」とい 。 う )に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたから,特許 。 法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができず,したがって本件補正は却下すべきものである。 A本件補正の直前の補正である平成16年2月9日付け補正(甲17)も前記のとおり平成16年9月28日付けで却下されている(甲14)ので,原告からの特許出願は平成15年3月25日付け補正(甲9)後のものであるところ,その請求項1に係る発明(省略)も,引用例1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができた。 イなお,審決が認定した引用発明の内容,本願補正発明との一致点と相違点は,次のとおりである。 (ア)引用発明の内容「電磁波からなる信号を発信する発信装置(1)を設けた走行路(3)を走行する車両(15)に適用される車両の自動ブレーキ装置の作動装置であつて,少なくとも1つのホイールブレーキにブレーキを掛けることができると共に,自動ブレーキ装置と,電磁波からなる信号を受信して制御信号を出力する受信装置(2)とを車両(15)に有し,車両(15)に目標となる走行速度を与えて車両(15)の安全性を向上させるために,受信装置(2)の制御信号に基づいて車両(15)に設定する基準値(G)に基づいて,車両(15)の自動ブレーキ装置を作動させ,かつ,基準値(G)が車両(15)の目標となる速度を示し,車両(15)の速度が目標となる速度よりも小さいときは自動ブレーキ装置を作動させず,車両(15)の速度が目標となる速度よりも大きいときは基準値(G)と車両(15)の走行速度(V)とを比較しながら自動ブレーキ装置を作動させ,目標となる速度になつたなら自動ブレーキ装置の制御を終了させることができることを特徴とする車両の自動ブレーキ装置の作動装置 」。 (イ)一致点「電磁波からなる信号を発信する発信装置を設けた走行路を走行する車両に適用される車両の自動ブレーキ装置の作動装置であつて,少なくとも1つのホイールブレーキにブレーキを掛けることができると共に,自動ブレーキ装置と,電磁波からなる信号を受信して制御信号を出力する受信装置とを車両に有し,車両に目標となる走行速度を与えて車両の安全性を向上させるために,受信装置の制御信号に基づいて車両に設定する基準値に基づいて,車両の自動ブレーキ装置を作動させ,かつ,基準値が車両の目標となる速度を示し,車両の速度が目標となる速度よりも小さいときは自動ブレーキ装置を作動させず,車両の速度が目標となる速度よりも大きいときは基準値と車両の走行速度とを比較しながら自動ブレーキ装置を作動させ,目標となる速度になつたなら自動ブレーキ装置の制御を終了させることができることを特徴とする車両の自動ブレーキ装置の作動装置 」である点。。 (ウ)相違点自動ブレーキに関して,本願補正発明が 「自動ブレーキ装置の作動 ,中にアンチロック制御装置の作動を行なうことができる」のに対して,引用発明は 「かかる構成を有しているか否か不明」である点。 ,(4)審決の取消事由しかしながら,審決には,以下に述べるとおりの誤りがあり,その誤りは審決の結論に影響を及ぼすから,本件補正が許されないとした審決は違法として取り消されるべきである。 ア引用発明の認定の誤り(ア)@審決は,引用例(甲1)には「…受信装置(2)の制御信号に基づいて車両(15)に設定する基準値(G)に基づいて,車両(15)の自動ブレーキ装置を作動させ,かつ,基準値(G)が車両(15)の目標となる速度を示し,…車両(15)の速度が目標となる速度よりも大きいときは基準値(G)と車両(15)の走行速度(V)とを比較しながら自動ブレーキ装置を作動させ…ることができることを特徴とする車両の自動ブレーキ装置の作動装置(5頁7行〜15行)なる発明が記載されていると 。」するが,誤りである。 Aすなわち,引用例(甲1)には 「危険な状況の発生が予想される ,道路側に設けられ道路の状況に応じた最高速度を設定し,搬送波を設定最高速度Gによって変調して車速コントローラ信号を発生し,この車速コントローラ信号を減速の必要な狭い領域に電波によって送信する路側送信器1と,自動車の中に搭載されており車速コントローラ信号を受信し復調して設定最高速度Gを求め,現在の車速VがGより高い場合は…ブレーキをかけるようにした車載受信器2とより構成される事を特徴とする自動安全運転装置(特許請求の範囲(1)「この 。」),領域5を走り抜けると,信号がアンテナ4に入らなくなる。このため,減速作用が消える。ドライバのアクセル操作,ブレーキ操作どおりに走行できるようになる(4頁左上欄5行〜8行)との記載がある。 。」これらによれば,引用発明は,走行路で設定した最高速度を車両側で復調して求め,車両で速度情報(最高速度)と実際の走行速度とを比較し,自動ブレーキを作動させるものであって,走行路の路側送信器1からの電波を車両が受信し続けることで,ブレーキが正常に作動するものであるから,電波を車両が受信しなくなった後にも自動ブレーキ装置を正常に作動させ続けることについて教えるところは見当たらず,最高速度を示す信号を車両に設定,つまり車両に定め維持するものではない。 なお,たとえ「設定する」が「設け定める」という程度の概念であるとしても 「定める」とは「ゆるぎなく維持されるような状態を固 ,定する (広辞苑第五版)という意味であるところ,引用発明におけ 」る速度制御信号(G)は車両に設け定める状態にはない。引用例に,「設定する」ことを示唆する記載もない。 Bまた,引用例(甲1)には 「…車載受信器2に於て,車速コント ,ロール信号から,速度制御信号Gを得る(3頁左下欄5行〜6 。」), , 行「制御回路18は,…GとVとを同じ速度単位とする。この後GとVとを比較して,… (3頁左下欄17行〜19行)という記載 」がある。そうすると,このように頻繁に得る車速制御信号G(設定最高速度G)を用いて次々に「G(速度制御信号)とV(自動車の速度)とを比較」するときには,ゆるぎなく維持されるような状態を固定する車速制御信号G(設定最高速度G)が存在せず,比較手段に基準値(設定最高速度G)を設定するとまではいえない。 Cこのように,引用発明では,基準値と車両の走行速度とを比較することのみが記載され,これとは別途に,受信装置の制御信号に基づいて車両に設定する基準値が,区別して記載されていないものである。 (イ)審決は,引用例(甲1)には 「…目標となる速度になったなら自 ,動ブレーキ装置の制御を終了させることができることを特徴とする車両の自動ブレーキ装置の作動装置(5頁13行〜15行)との発明 。」が記載されていると認定するが,誤りである。 すなわち,引用例(甲1)には 「こうして減速すると,車輪速セン ,サ20の検出速度Vが下ってゆく。この間,運転者がアクセルを踏み込んでも加速されない。やがてV=Gとなる。ここでつりあった後は,この速さで通信可能領域5を走り抜ける事になる(3頁右下欄20。」行〜4頁左上欄4行)との記載があるから,引用発明では,車両がV=Gとなると,目標となる速さ(G)を維持するように制御されながら通信可能領域を走り抜けるものであって,通信可能領域5においては車両の走行速度をV=Gとする速度制御が継続され,自動ブレーキ装置の制御を終了させて次の制御に移行させることができない。つまり,たとえV=Gになったとしても,ブレーキの作動が終了するのみであり,GとVとの比較は継続され,自動ブレーキ装置の制御すなわち自動ブレーキの作動に係る一切の操作を終了させることは予定していない。 イ一致点の認定の誤り(ア)本願補正発明は,車両(8)に目標となる速度を示す基準値(t)を設定,すなわち定め,維持し,この基準値(t)に基づいて車両(8)の自動ブレーキ装置(6)を作動させるので,発信装置(4)からの電磁波を車両が受信し続けなくても,ブレーキを自動的かつ正常に作動させ,車両(8)に目標となる走行速度が正常に与えられる。 このため,走行路側等の発信装置(4)と通信可能な領域でのみ自動ブレーキ装置が作動できることを前提にして通信可能な領域を確保する必要がなく,通信可能な領域の広さが問題になり難い。また,車両(8)側から見れば,受信装置(7)の制御信号(T3)に基づき車両(8)に設定する基準値(t)に基づいて,車両(8)の自動ブレーキ装置(6)を作動させるので,発信装置(4)からの電磁波を車両の受信装置(7)が一度受信すれば,車両(8)において基準値(t)に基づく自動ブレーキ装置の作動を自由に得ることが可能である。すなわち,制御信号の受信と,自動ブレーキ装置の作動とを分離することが可能であり,通信可能な領域を通過した後でも,制御信号(T3)に基づく自動ブレーキ装置の作動を開始させることが不可能ではない。 したがって,本願補正発明は,車両(8)に設定する基準値(t)と,基準値(t)と車両(8)の走行速度との比較とが明確に区別され,両者が「かつ」で結ばれ同時に成り立つものであるのに対し,引用例(甲1)においては,上記ア(ア)に記載したように基準値と車両の走行速度とを比較することのみが記載され,これとは別途に,受信装置の制御信号に基づいて車両に設定する基準値が,区別して記載されていない。そうすると,このような両者を,前記(3)イ(イ)の点において一致するとした審決は誤りである。 (イ)本願補正発明は,目標となる速度になったなら自動ブレーキ装置を終了させることができるから,例えば通信可能領域にある場合であっても,自動ブレーキ装置の制御,すなわち自動ブレーキの作動に係る一切の操作を終了させて次の制御に移行させることが可能であり,更なる車両の安全性の向上に資することができる。 したがって,このような本願補正発明と,上記ア(イ)に記載したとおり,通信可能領域5においては車両の走行速度をV=Gとする速度制御が継続され,自動ブレーキ装置の制御を終了させて次の制御に移行させることができない引用発明とを,前記(3)イ(イ)の点において一致するとした審決は誤りである。 ウ相違点の看過(ア)上記イ(ア)のとおり,本願補正発明と引用発明とは相違点を有しているところ,審決は,本願補正発明の車両(8)に設定する基準値と,基準値(t)と車両の走行速度を比較することとを混同し,かかる相違点を看過したものである。 (イ)また,上記イ(イ)のとおり,本願補正発明の「…目標となる速度になったなら自動ブレーキ装置(6)の制御を終了させることができることを特徴とする車両の自動ブレーキ装置の作動装置 」という点は,本願補 。 正発明と引用発明との相違点であるところ,審決は,かかる相違点をも看過したものである。 2請求原因に対する認否請求原因(1)〜(3)の各事実は認めるが,同(4)は争う。 3被告の反論審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。 (1)引用発明の認定の誤りの主張に対し引用例(甲1)の記載によれば,引用発明には,受信装置(2)の制御信号に基づいて車両(15)に設定する基準値(G)に基づいて,車両(15)の自動ブレーキ装置を作動させ,かつ,基準値(G)が車両(15)の目標となる速度を示し,車両(15)の速度が目標となる速度よりも小さい時は自動ブレーキ装置を作動させず,車両の速度が目標となる速度よりも大きい時は基準値(G)と車両(15)の走行速度(V)を比較しながら自動ブレーキ装置を作動させる,という技術的事項や,目標となる速度になったなら自動ブレーキ装置の制御を終了させることができることを特徴とする車両の自動ブレーキ装置の作動装置,という技術的事項が開示されていることは明らかである。 (2)一致点の認定の誤りの主張に対しア原告は,本願補正発明の「車両(8)に設定する基準値(t 」に特徴)があるとして,受信装置(7)の制御信号(T3)に基づいて車両(8)に設定する基準値(t)に基づいて,車両(8)の自動ブレーキ装置(6)を作動させるので,発信装置(4)からの電磁波を車両の受信装置(7)が一度受信すれば,車両(8)において基準値(t)に基づく自動ブレーキ装置の作動を自由に得ることが可能であり,つまり,制御信号(T3)の受信と自動ブレーキ装置の作動とを分離することが可能である,通信可能な領域を通過した後でも,制御信号(T3)に基づく自動ブレーキ装置の作動を開始させることが不可能ではない,通信障害も問題になり難くなる,これにより,期待する自動ブレーキ装置の作動を得,車両(8)に目標となる走行速度を正常に与えることが可能になり,車両の安全性が向上する,と主張する。 しかし,本願補正発明が「受信装置(7)の制御信号(T3)に基づいて車両(8)に設定する基準値(t)に基づいて,車両(8)の自動ブレーキ装置(6)を作動させ」なる構成を有するからといって,電磁波を車両の受信装置(7)が一度受信すれば,車両(8)において基準値(t)に基づく自動ブレーキ装置の作動を自由に得ることが可能であるとか,通信可能な領域を通過した後でも,制御信号(T3)に基づく自動ブレーキ装置の作動を開始させることが不可能ではないとかの効果を主張することは,特許請求の範囲の記載に基づかない効果の主張である。 また,本願補正発明がかかる構成を有することによってかかる効果を奏するのであれば,同様の構成を有する引用発明も同様の効果を奏することになる。 また,その効果の内容に関しても,一度信号を受信したならば,通信可能な領域を通過した後でも自動ブレーキの作動を開始させることが可能であるなどと,一旦信号を受信すればその後の平常走行中でも自動ブレーキが作動することを窺わせるなど,前提を欠いた作用効果の主張であるから現実的な内容であるとするには多々疑問が残る。 引用発明は「具体的な信号処理を課題とした発明」ではないかもしれないが,それは本願補正発明にも言えることであって,特許請求の範囲に広範な概念を記載しておき,その奏する作用効果については言外の前提を付すことにより種々考えられる中から特定のものを選び出して,それを特許請求の範囲に係る本願補正発明の特有の効果であるが如く主張することは,特許請求の範囲の記載に基づかない効果の主張として許されるべきではない。 イ原告は,本願補正発明によれば 「目標となる速度になつたなら自動ブ ,レーキ装置の制御を終了させることができる」から,例えば通信可能領域にある場合であっても,自動ブレーキ装置の制御を終了させて次の制御に移行することが可能であり,更なる車両の安全性の向上に資することができる,という効果を奏する,車両(8)に設定する基準値(t)と車両(8)の走行速度とを比較することにより,制御領域が通信可能領域に一致していない本願補正発明では,通信可能領域を通過後に自動ブレーキ装置の制御及びその制御の終了を行うことも可能である,と主張するが,この主張は特許請求の範囲の記載に基づかない効果の主張である。 また,本願補正発明がかかる構成を有することによってかかる効果を奏するのであれば,同様の構成を有する引用発明も同様の効果を奏することが可能になる。 そして,その効果の内容に関しても 「通信可能領域にある場合であっ ,ても,自動ブレーキ装置の制御を終了させて次の制御に移行することが可能であり,更なる車両の安全性の向上に資することができる」などと,自動ブレーキ装置の制御が終了するとの概念が,あたかも自動ブレーキの作動を終了するとの概念を排除するかの如く匂わせているが,これも現実的な内容であるとするには多々疑問が残る。 この原告の主張も,特許請求の範囲の記載で広範な概念を主張しておき,その奏する効果については種々考えられる中から特定のものを選び出して,それをあたかも特許請求の範囲に係る本願補正発明の特有の効果であるが如く主張するものであるから,これも特許請求の範囲の記載に基づかない効果の主張として許されない。 (3)相違点の看過の主張に対し上記(2)ア,イに照らし,審決に相違点の看過はない。 第4当裁判所の判断1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯 ,(2)(発明の内容 ,(3)(審決 ))の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。 2本願補正発明について(1)本願補正発明の内容は,第3,1,(2)記載のとおりであるところ,本願補正明細書(甲10,6〜9,3)には,以下の記載がある。 ア発明の属する技術分野本発明は,車両の自動ブレーキ装置の作動装置,詳しくは,車両の自動ブレーキ装置を作動させ,車両にブレーキ力を生じさせる装置に関するものである (甲7,段落【0001 ) 。】イ従来の技術及びその課題近時,運転者の意思(ブレーキペダルの踏込み)とは無関係に,車両に自動的にブレーキを掛ける自動ブレーキ装置が提案されている。…(甲7,段落【0002 )】…車両の走行路には,トンネルが存在している。トンネル内において火災が発生した場合には,トンネル内が高温になると共に,一酸化炭素ガス,その他の有毒ガスが発生している。このため,…車両がトンネル内に進入することを強制的に抑制させることが望まれる (甲7,段落【000 。 3 )】本発明は,車両に自動的にブレーキを掛け,車両の安全性を向上させることを目的としてなされたものである (甲7,段落【0004 ) 。】ウ課題を解決するための手段…請求項1に係る発明は,電磁波からなる信号(T2)を発信する発信装置(4)を設けた走行路(2)を走行する車両(8)に適用される車両の自動ブレーキ装置の作動装置であつて,少なくとも1つのホイールブレーキ(53,53 )にブレーキを掛ける ’ことができると共に,自動ブレーキ装置(6)の作動中にアンチロック制御装置の作動を行なうことができる自動ブレーキ装置(6)と,電磁波からなる信号(T2)を受信して制御信号(T3)を出力する受信装置(7)とを車両(8)に有し,車両(8)に目標となる走行速度を与えて車両(8)の安全性を向上させるために,受信装置(7)の制御信号(T3)に基づいて車両(8)に設定する基準値(t)に基づいて,車両(8)の自動ブレーキ装置(6)を作動させ,かつ,基準値(t)が車両(8)の目標となる速度を示し,車両(8)の速度が目標となる速度よりも小さいときは自動ブレーキ装置(6)を作動させず,車両(8)の速度が目標となる速度よりも大きいときは基準値(t)と車両(8)の走行速度とを比較しながら自動ブレーキ装置(6)を作動させ,目標となる速度になつたなら自動ブレーキ装置(6)の制御を終了させることができることを特徴とする車両の自動ブレーキ装置の作動装置である。…(甲3,段落【0005 )】エ発明の実施の形態マイクロコンピュータ80は,比較手段82と,車両8の所定の走行速度に対応する基準値tを設定する基準値設定手段83と,作動信号発生手段84としての機能を有する。比較手段82によって車速信号T4と基準値tとを比較し,その比較結果に基づいて車速信号T4が基準値tよりも小さくなるまで,つまり車速が測定値未満になるまで,作動信号発生手段84から作動信号T13,T23及びT33を出力する。基準値tは,目標となる低い車両速度に対応する値であり,通常は速度零に対応する値である。…(甲7,段落【0016 )】ホイールブレーキ53によって得られるブレーキ力は,…車速信号T4が基準値tよりも小さくなるまで得られる。すなわち,受信装置7から出力される制御信号T3が発生することによりスタートし,車速検出手段81から出力される車速信号T4が読み込まれる(ステップ(1。また,))基準値設定手段83の基準値tが読み込まれる(ステップ(2。次に,))比較手段82において,基準値tと車速信号T4が比較される(ステップ(3。車速信号T4が基準値tよりも小さいときは,マイクロコンピ ))ュータ80による制御が終了するので,自動ブレーキ装置6は作動しない。 車速信号T4が基準値tを越えるときはステップ(4)に移行して作動信号T13,T23及びT33を出力し,ステップ(1)に戻る。ステップ(1)〜(4)を繰り返すうちに車速信号T4が基準値t以下に小さくなるので,作動信号T13,T23及びT33が出力されなくなり,自動ブレーキ装置6の制御が終了する。基準値tが速度零に対応する値であれば,車両8が停止するまで作動信号T13,T23及びT33が出力され,自動ブレーキ装置6が作動する (甲8,段落【0022 ) 。】オ発明の効果…本発明に係る車両の自動ブレーキ装置の作動装置によれば,車両に自動的にブレーキが掛かる。その結果,車両の安全性が向上する (甲7,。 段落【0027 )】(2)上記(1)ア〜オの記載によれば,本願補正発明は,運転者の意思(ブレーキペダルの踏込み)とは無関係に,車両に自動的にブレーキを掛ける自動ブレーキ装置に関し,車両に自動的にブレーキを掛け,車両の安全性を向上させることを技術的課題とし,その解決手段として,上記(1)ウに記載した構成を採用することにより,車両に自動的にブレーキが掛かり,車両の安全性を向上させる効果を奏するようにさせたものと認められる。 そうすると,本願補正発明は,発信装置(4)からの電磁波を車両の受信装置(7)が一度受信すれば,その後発信装置(4)からの電磁波の受信がなくても基準値tを維持してその基準値に基づく自動ブレーキ装置の作動を行う構成のものも含まれるとはいえるが,これに限られるものとはいえない。 すなわち,本願補正発明の特許請求の範囲の記載を見ても,基準値tが受信の有無にかかわらず車両において維持されることや,これを前提として車速との比較がなされる構成に限定されることについての記載はなく,本願補正明細書(甲10,6〜9,3)においても,本願補正発明がかかる構成に限定されることを裏付けるに足りる記載は見当たらないのであって,そうである以上,かかる構成はあくまで実施の一態様として把握されるに止まるものというほかない。 (3)また,自動ブレーキ装置の制御の終了については,本願補正発明の特許請求の範囲(甲3参照)には 「…目標となる速度になったなら自動ブレー ,キ装置(6)の制御を終了させることができることを特徴とする車両の自動ブレーキ装置の作動装置 」と記載されているに止まるものであり,単に自動 。 ブレーキ装置の制御を終了させる,という抽象的な記載しかなされていない。 そうすると,本願補正発明においては,車速信号(T4)が目標となる速度の基準値(t)と一致したときに自動ブレーキ装置の制御が終了すればよいのであり,その後も基準値(t)と車両(8)の走行速度との比較を継続して行い車両の速度が増速し車両信号(T4)が目標となる速度の基準値(t)よりも大きくなったときは,再度,基準値(t)と車両(8)の走行速度とを比較しながら自動ブレーキ装置(6)を作動させるというような,車両の速度が目標となる速度よりも大きくなるという増速の場合に備える構成も含まれるものというほかない。 3引用発明の内容(1)一方,引用発明が記載された引用例(甲1)には,以下の記載がある。 ア特許請求の範囲危険な状況の発生が予想される道路側に設けられ道路の状況に応じた最高速度を設定し,搬送波を設定最高速度Gによって変調して車速コントローラ信号を発生し,この車速コントローラ信号を減速の必要な狭い領域に電波によって送信する路側送信器1と,自動車の中に搭載されており車速コントローラ信号を受信し復調して設定最高速度Gを求め,現在の車速VがGより高い場合はスロットルバルブを閉方向に変位させ,ブレーキをかけるようにした車載受信器2とより構成される事を特徴とする自動安全運転装置 (請求項(1))。 イ制御回路36は,道路状況に応じて,これを報知するための信号を発する。パラメータは発振周波数である。周波数Gを,道路状況に応じて変化させる。これは連続変数とする事もできるし,ディスクリートな値G0,G1,G2,…とする事もできる。 …変調回路34は制御回路36の信号Gにより,搬送波の周波数を変化させる。つまり周波数変調(FM)を行なう。 変調回路34…で(F+G)又は(F-G)の信号を作る事ができる。 どちらを用いてもよい。ここでは簡単のため(F+G)と略記する。 増幅器38でこの信号を増幅しアンテナ40から,電波として空中へ発信する。 この信号を,ここでは車速コントローラ信号という (2頁右下欄4行。 〜3頁左上欄6行)ウ車載受信器の側の動作を第2図によって説明する。 自動車15のアンテナ4によって (F+G)の電波を捕える。 ,アンテナ4は指向性のあるアンテナで,車両前方よりやや左側の方向へその受信方向が設定されている。 車速コントロール信号は,超短波又は極超短波であるから,これを復調するため,まず増幅器6で増幅した後,周波数変換する。 このために,発信器10で局部発振Qを得る。これを混合器8に入れて車速コントロール信号(F+G)と混合する。 混合によって(F+G±Q)の波形が得られる。 これをバンドパスフィルタ12に入れて,低い方の周波数の信号(F+G-Q)のみを得る。 FM復調に先だって,周波数変換するのは,通常よくなされる事である。 この後FM復調する。…まず,パルス変換器14によって,正弦波であるものを矩形波に変換する。…矩形パルスにしたものをパルスカウンタ16で計数する。単位時間内のパルス数によって,信号周波数を求める事ができる。 単位時間ごとにパルスカウンタ16はリセットされる。…単位時間が経過して,パルスカウント数Nが分る。これは前記の(F+G-Q)の周波数に比例する (F-Q)は定数である (F-Q)に比 。 。 例する数をNから引くことによりGが求まる。 このようにして,車載受信器に於て,車速コントロール信号から,速度制御信号Gを得る。 いっぽう,自動車には車輪の回転速さをモニタするために車輪速センサ20が設けられている。車輪速センサ20から,現在の自動車の走行速度Vを得る。 速度制御信号Gは,最高速度をある値に制限する,というような信号である。つまり,最大値という形で速度が与えられる。この速度と,車輪速センサ20の測定した速度とは,一定の乗数をかける事によって,同一の速度単位に合わせる事ができる。 制御回路18は,このような乗算を行ない,GとVとを同じ速度単位とする。この後,GとVとを比較して,V≦Gであれば,車速を変更しない。 つまり,ブレーキやエンジンなどになんらの作用を及ぼさないようにする。 しかし,V>Gである時は違う。この地域に於ける最高速度Gよりも,自動車の速度Vが速いのである。この場合は,制御回路18が減速動作を自動的に開始する (3頁左上欄10行〜右下欄5行) 。 エまずブレーキ制御系へ減速信号を送る。つまりブレーキを作動し,直接に制動を行なう。 さらに,スロットルバルブ制御系28へ減速信号を送る。スロットルバルブを閉じる方向へ変位させ,エンジンの出力を減少させる。…こうして減速すると,車輪速センサ20の検出速度Vが下ってゆく。この間,運転者がアクセルを踏み込んでも加速されない。やがてV=Gとなる。ここでつりあった後は,この速さで通信可能領域5を走り抜ける事になる。 この領域5を走り抜けると,信号がアンテナ4に入らなくなる。このため,減速作用が消える。ドライバのアクセル操作,ブレーキ操作どおりに走行できるようになる (3頁右下欄7行〜4頁左上欄8行) 。 (2)以上の(1)ア〜エによれば,引用発明は,自動車のアンテナ4により,(F+G)の電波である車速コントロール信号を受信し,その信号を増幅器6,混合器8,バンドパスフィルタ12,パルス変換器14,パルスカウンタ16を介して,速度制御信号Gを得るものであり,これによって,車速を所定値以下に制御するものである。 そうすると,前記2の説示も併せ考慮すれば,引用発明の「車速コントロール信号「速度制御信号G」は,それぞれ,本願補正発明の「制御信号 」,(T3「車両(8)に設定する基準値(t 」に相当するものと認めら )」, )れる。さらに,引用発明においては,車輪速センサ20により検出した自動車の走行速度Vを求め,その走行速度Vと上記速度制御信号Gとを比較して,VG,すなわち自動車の速度が速度制御信号Gと同じかそれよりも遅い場≦合であれば,車速を変更せず,ブレーキやエンジンなどに何らの作用を及ぼさないようにする一方,V>G,すなわち自動車の速度が速度制御信号Gよりも速い場合であれば,制御回路18が減速動作を自動的に開始するのであるから,かかる引用発明は,本願補正発明の「車両(8)に目標となる走行速度を与えて車両(8)の安全性を向上させるために,受信装置(7)の制御信号(T3)に基づいて車両(8)に設定する基準値(t)に基づいて,車両(8)の自動ブレーキ装置(6)を作動させ,かつ,基準値(t)が車両(8)の目標となる速度を示し,車両(8)の速度が目標となる速度よりも小さいときは自動ブレーキ装置(6)を作動させず,車両(8)の速度が目標となる速度よりも大きいときは基準値(t)と車両(8)の走行速度とを比較しながら自動ブレーキ装置(6)を作動させ,目標となる速度になつたなら自動ブレーキ装置(6)の制御を終了させる」ことに相当する制御を行っているものと認められる。 4原告の主張に対する判断以上の2,3を前提に,原告主張の取消事由について以下判断する。 (1)引用発明の認定の誤りの主張についてア原告は,引用例(甲1)には 「危険な状況の発生が予想される道路側 ,に設けられ道路の状況に応じた最高速度を設定し,搬送波を設定最高速度Gによって変調して車速コントローラ信号を発生し,この車速コントローラ信号を減速の必要な狭い領域に電波によって送信する路側送信器1と,自動車の中に搭載されており車速コントローラ信号を受信し復調して設定最高速度Gを求め,現在の車速VがGより高い場合は…ブレーキをかけるようにした車載受信器2とより構成される事を特徴とする自動安全運転装置(特許請求の範囲(1)「この領域5を走り抜けると,信号がアンテ 。」),ナ4に入らなくなる。このため,減速作用が消える。ドライバのアクセル操作,ブレーキ操作どおりに走行できるようになる(4頁左上欄5行〜。」8行)との記載がある,これらによれば,引用発明においては,電波を車両が受信しなくなった後にも自動ブレーキ装置を正常に作動させ続けることについて教えるところは見当たらず,最高速度を示す信号を車両に設定,つまり車両に定め維持するものではない,たとえ「設定する」が「設け定める」という程度の概念であるとしても 「定める」とは「ゆるぎなく維 ,持されるような状態を固定する (広辞苑第五版)という意味であるとこ 」ろ,引用発明における速度制御信号(G)は車両に設け定める状態にはない,引用例(甲1)に 「設定する」ことを示唆する記載もない,と主張 ,する。 しかし,前記3(2)に説示したとおり,前記3(1)ア〜エの記載によれば,引用発明は,自動車のアンテナ4により (F+G)の電波である車速コ ,ントロール信号を受信し,その信号を増幅器6,混合器8,バンドパスフィルタ12,パルス変換器14,パルスカウンタ16を介して,速度制御信号Gを得て,これによって,車速を所定値以下に制御するものであるというのであるから,たとえ「定める」が「ゆるぎなく維持されるような状態を固定する (広辞苑第五版)という意味であったとしても,上記のよ 」うな速度制御信号Gを,受信装置の制御信号に基づいて自動車に「設定」されるものということは技術的な見地から十分可能であるというべきである。原告が指摘する引用例(甲1)中の上記各記載も,かかる判断を左右するものではない。 以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。 イ原告は,引用例(甲1)には 「…車載受信器2に於て,車速コントロ ,ール信号から,速度制御信号Gを得る(3頁左下欄5行〜6行「制 。」 ),御回路18は,…GとVとを同じ速度単位とする。この後,GとVとを比較して,… (3頁左下欄17行〜19行)という記載があるから,この 」ように頻繁に得る車速制御信号G(設定最高速度G)を用いて次々に「G(速度制御信号)とV(自動車の速度)とを比較」するときには,ゆるぎなく維持されるような状態を固定する車速制御信号G(設定最高速度G)が存在せず,比較手段に基準値(設定最高速度G)を設定するとまではいえない,引用発明では,基準値と車両の走行速度とを比較することのみが記載され,これとは別途に,受信装置の制御信号に基づいて車両に設定する基準値が区別して記載されていない,と主張する。 しかし,前記3(2)に説示したとおり,上記3(1)ア〜エの記載によれば,引用発明は,自動車のアンテナ4により (F+G)の電波である車速コ ,ントロール信号を受信し,その信号を増幅器6,混合器8,バンドパスフィルタ12,パルス変換器14,パルスカウンタ16を介して,速度制御信号Gを得て,これによって,車速を所定値以下に制御するものであるというのであるから,たとえ引用発明において頻繁に得る車速制御信号G(設定最高速度G)を用いて次々に「G(速度制御信号)とV(自動車の速度)とを比較」するときがあり得るとしても,上記のような速度制御信号Gを,受信装置の制御信号に基づいて自動車に「設定」されるものということは技術的な見地から十分可能であるというべきである。このことは,引用発明において受信装置の制御信号に基づいて自動車に設定する基準値が走行速度との比較の点と区別して記載されているかどうかによって左右されるものではない。 以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。 ウ原告は,審決は,引用例(甲1)には 「…目標となる速度になったな ,ら自動ブレーキ装置の制御を終了させることを特徴とする車両の自動ブレーキ装置の作動装置 」との発明が記載されていると認定するが,誤りで 。 ある,引用例(甲1)には 「こうして減速すると,車輪速センサ20の ,検出速度Vが下ってゆく。この間,運転者がアクセルを踏み込んでも加速されない。やがてV=Gとなる。ここでつりあった後は,この速さで通信可能領域を走り抜ける事になる(3頁右下欄20行〜4頁左上欄4 。」行)との記載があるから,引用発明では,車両がV=Gとなると,目標となる速さ(G)を維持するように制御されながら通信可能領域を走り抜けるものであって,通信可能領域5においては車両の走行速度をV=Gとする速度制御が継続され,自動ブレーキ装置の制御を終了させて次の制御に移行させることができない,たとえV=Gになったとしても,ブレーキの作動が終了するのみであり,GとVとの比較は継続され,自動ブレーキ装置の制御すなわち自動ブレーキの作動に係る一切の操作を終了させることは予定していない,と主張する。 しかし,前記3(1)ウ,エの記載に照らせば,引用発明においては,V>Gのときは,ブレーキ制御系やスロットルバルブ制御系28へ減速信号を送って減速動作を行い,V≦Gのときはかかる動作は行わないというものであるから,V=Gとなって上記減速動作が終わった後も,VとGとの比較を継続して行い車両の速度が増速しV>Gとなったときは,再度,VとGを比較しながら減速動作を行うというような,自動車の速度が目標となる速度よりも大きくなるという増速の場合に備えるものである。そうすると,V=Gとなったときはそれまで送られていたブレーキ制御系やスロットルバルブ制御系28へ減速信号の送信がなくなって減速動作が行われなくなるのであるから,たとえVとGとの比較が継続されその後の増速に備える構成であったとしても,上記の一旦減速動作が行われなくなった状態を捉えて自動ブレーキ装置の制御が終了したものということは技術的な見地からも十分可能であるというべきである。したがって,審決が,引用例(甲1)には「…目標となる速度になったなら自動ブレーキ装置の制御を終了させることを特徴とする車両の自動ブレーキ装置の作動装置 」と。 の発明が記載されていると認定したことに誤りはない。 以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。 (2)一致点の認定の誤りの主張についてア原告は,本願補正発明は,車両(8)に目標となる速度を示す基準値(t)を設定,すなわち定め,維持し,この基準値(t)に基づいて車両(8)の自動ブレーキ装置(6)を作動させるので,発信装置(4)からの電磁波を車両が受信し続けなくても,ブレーキを自動的かつ正常に作動させ,車両(8)に目標となる走行速度が正常に与えられるため,通信可能な領域の広さが問題になり難いし,車両(8)側から見れば,発信装置(4)からの電磁波を車両の受信装置(7)が一度受信すれば,車両(8)において基準値(t)に基づく自動ブレーキ装置の作動を自由に得ることが可能である,したがって,本願補正発明は,車両(8)に設定する基準値(t)と,基準値(t)と車両(8)の走行速度との比較とが明確に区別され,両者が「かつ」で結ばれ同時に成り立つものであるから,このような本願補正発明と引用発明とが前記第3,1,(3)イ(イ)の点において一致するとした審決は誤りである,と主張する。 しかし,前記2(2)の説示に照らせば,原告の上記主張は,本願補正発明の実施の一態様として把握されるに止まる構成を前提とするものであるに過ぎず,本願補正発明の特許請求の範囲の記載を見ても,基準値tが受信の有無にかかわらず車両において維持されることや,これを前提として車速との比較がなされる構成に限定されることについての記載はなく,本願補正明細書(甲10,6〜9,3)においても,本願補正発明がかかる構成に限定されることを裏付けるに足りる記載は見当たらないものである。 そうすると,本願補正発明の特許請求の範囲において原告が指摘する「設定「かつ」という文言や 「設定」と比較との関係を検討しても,上記 」,,のとおり基準値tの持続性やこれを前提とする基準値(t)と車両(8)の走行速度との比較についての具体的な記載がない以上,上記の一般的な文言の意義や用法のみから,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が,本願補正発明の要旨として,基準値tが受信の有無にかかわらず車両において維持されることや,これを前提として車速と比較がなされる構成に限定されることまで理解するということはできない。そして,原告が指摘する記載も含めて本願補正明細書(甲10,6〜9,3)の記載をすべて精査しても,本願補正発明がかかる構成に限定されることを裏付けるに足りる記載は見当たらない。 以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。 イ原告は,本願補正発明は,目標となる速度になったなら自動ブレーキ装置を終了させることができるから,例えば通信可能領域にある場合であっても,自動ブレーキ装置の制御,すなわち自動ブレーキの作動に係る一切の操作を終了させて次の制御に移行させることが可能であり,更なる車両の安全性の向上に資することができるから,このような本願補正発明と引用発明とが前記第3,1,(3)イ(イ)の点において一致するとした審決は誤りである,と主張する。 しかし,たとえ本願補正発明が,通信可能領域にある場合であっても自動ブレーキ装置の制御,すなわち自動ブレーキの作動に係る一切の操作を終了させて次の制御に移行させる構成を含むとしても,本願補正発明の構成は,前記2(3)に説示したとおり,かかる構成に限定されず,目標となる速度になって自動ブレーキ装置の制御を終了させた後もなお目標速度と車両の速度との比較を継続して行い(車両の速度)>(目標となる速度)という車両の増速に備える構成も含まれるというべきであるから,原告の上記主張を採用することはできない。 (3)相違点の看過の主張について原告は,審決が第3,1,(4)イ記載のとおり本願補正発明と引用発明の一致点の認定を誤ったことを主張した上で,これらの点は相違点になると主張するが,上記(2)に説示したとおり,審決の一致点の認定の誤りをいう原告の主張は採用できないものであるから,これを前提とする原告の相違点の看過についての主張もまた理由がないこととなる。 5結語以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がない。 よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 中野哲弘 |
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裁判官 | 今井弘晃 |
裁判官 | 田中孝一 |