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関連審決 審判1998-35303
関連ワード 頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  周知技術 /  上位概念 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  着想 /  模倣 /  援用権(援用) /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  構成要件 /  設定登録 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  変更 /  独立特許要件 /  訂正明細書 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 132号 審決取消請求事件
原告 株式会社セガ(旧商号) 株式会社セガ・エンタープライゼス
訴訟代理人弁護士 近藤恵嗣
同 梅澤健
同 弁理士 江原望
同 中村訓
被告 コナミ株式会社
訴訟代理人弁護士 大場正成
同 尾崎英男
同 嶋末和秀
同 飯塚暁夫
同 弁理士 園田敏雄
同 犬飼宏
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/12/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が平成10年審判第35303号事件について平成15年2月26日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯等 (1) 原告は,発明の名称を「ゲーム装置」とする特許第2694689号発明(昭和62年10月6日にした特許出願〔特願昭62-252011号,以下「本件親出願」という。〕の一部を分割して平成8年4月18日に新たな特許出願とした特願平8-97035号出願〔以下「本件出願」という。〕に係るもの,平成9年9月12日設定登録。以下,この特許を「本件特許」という。)の特許権者である。
(2) 被告は,平成10年7月8日,本件特許につき無効審判の請求をし,同請求は,審判平成10年第35303号事件(以下「本件審判事件」という。)として特許庁に係属したところ,原告は,同年10月13日,本件出願の願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載等の訂正(以下,「本件訂正」という。)を請求した。特許庁は,本件審判事件につき審理した上,平成12年5月31日,本件訂正は,実質上特許請求の範囲変更しているものと認められるから,本件訂正は認められないとした上で,本件特許を無効とする旨の審決(乙3,以下「第1次審決」という。)をした。
そこで,原告が,第1次審決の取消しを求める訴え(当庁平成12年(行ケ)第275号)を提起したところ,平成14年2月27日,実質上特許請求の範囲変更しているとして本件訂正を認めなかった第1次審決の判断は誤りというべきであるとして,第1次審決を取り消す旨の判決(乙4,以下「前訴判決」という。)が言い渡され,前訴判決は確定した。
(3) これを受けて,特許庁は,本件審判事件について更に審理した上,平成15年2月26日,「特許第2694689号発明の特許を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年3月10日,原告に送達された。
2 設定登録時の明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本件特許発明」という。)の要旨 複数の模型体が走行経路を規制されることなく移動可能に載置される環状の模型体走行面と, 環状の模型体走行面の周縁に沿って配置され遊戯者が投票等の操作を行うための操作パネルを有する複数のサテライトと, 模型体走行面の下方に配置され,模型体走行面に載置された模型体と磁力により結合し,模型体のそれぞれを走行経路を規制されることなく個別に誘導するように(注,「誘導すように」とあるのは誤記と認める。)構成された走行駆動機構と, 模型体が順番を競って走行しレース展開を行うように走行駆動機構を制御する走行制御手段と, サテライトを制御するサテライト制御手段と, を有することを特徴とするゲーム装置。
3 本件訂正に係る明細書(以下,願書に添付した図面と併せて,「訂正明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「訂正発明」という。)の要旨(なお,訂正部分を下線で示す。) 複数の模型体が走行経路を規制されることなく移動可能に載置される環状の模型体走行面と, 環状の模型体走行面の周縁に沿って配置され遊戯者が投票等の操作を行うための操作パネルを有する複数のサテライトと, 模型体走行面の下方に配置され,模型体走行面に載置された模型体と磁力により結合し,模型体のそれぞれを走行経路を規制されることなく個別に誘導するように(注,「誘導すように」とあるのは誤記と認める。)構成された走行駆動機構と, 模型体が順番を競って走行しレース展開を行うように走行駆動機構を制御する走行制御手段と, サテライトを制御するサテライト制御手段と, コンピュータシステムと, を有し , 前記 コンピュータシステム は,模型体 が順番 を競って 走行 する 様子 を模倣 させるための レース 展開 を決定 し, 前記走行駆動機構 は,対応 する 模型体 を磁力 を介して 誘導 しそれぞれ 走行経路を変更 して 移動可能 に模型体走行面 の下方 に配置 された 複数 の走行体 を含み, 前記走行制御手段 は,前記 コンピュータシステム の制御 の下に,前記決定 された レース 展開 に基づき 前記走行駆動機構 を制御 して 前記複数 の走行体 の走行 を制御し,これによって 到着順位 の予測 がつかないように 複数 の模型体 の走行 を誘導し, 前記 サテライト 制御手段 は,前記 コンピュータシステム の制御 の下に,前記サテライト のモニター にレース 情報 を表示 し,操作 パネル からの 投票及 びレース 結果に応じた 配当 を行うように 構成 されてなる ことを特徴とするゲーム装置。
4 本件審決の理由 本件審決は,別添審決謄本写しのとおり,@訂正発明は,実願昭56-8254号(実開昭57-123191号)のマイクロフィルム(審決における「刊行物7」,本訴甲9,以下「刊行物7」という。)及び特公昭52-38781号公報(審決における「刊行物4」,本訴甲6,以下「刊行物4」という。)に記載された発明,並びに米国特許第2188619号明細書(審決における「刊行物1」,本訴甲3,以下「刊行物1」という。)及び特開昭60-153509号公報(審決における「刊行物6」,本訴甲8,以下「刊行物6」という。)に記載された周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により,独立して特許を受けることができないものであるから,本件訂正請求は,平成6年法律第116条による改正前の特許法134条5項で準用する同法126条3項の規定に適合しないとした上,A本件特許発明は,訂正発明と同様,刊行物7及び4に記載された発明並びに刊行物1及び6に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ,また,刊行物4,7及び実公昭55-46222号公報(審判における「刊行物3」,本訴甲5,以下「刊行物3」という。)に記載された発明,並びに刊行物1及び6に記載された周知技術を適用して,当業者が容易に発明をすることができたものとも認められるから,本件特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであるとした。
原告主張の本件審決取消事由
本件審決は,訂正発明と刊行物7に記載された発明(以下「刊行物7発明」という。)との相違点を看過し(取消事由1),さらに,訂正発明と刊行物7発明との相違点Aに関する判断を誤った(取消事由2)結果,訂正発明は,特許法29条2項の規定により独立して特許を受けることができないとの誤った判断に至ったものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点の看過) (1) 本件審決は,訂正発明と刊行物7発明との一致点として,「競争体が順番を競って走行しレース展開を行うように走行を制御する走行制御手段・・・を有し,・・・前記走行制御手段は,前記コンピュータシステムの制御の下に,前記決定されたレース展開に基づき走行を制御し,これによって到着順位の予測がつかないように複数の競争体の走行を誘導し」(審決謄本18頁「6(1)対比」の項)との点を認定したが,両者の相違点を看過したものであって,誤りである。
(2) 刊行物7発明においては,記憶された複数のレース展開から無作為に選出されたレース展開がカラーブラウン管にカラー動画像として表示されるものであって,現実に「競争体」が走行するという事実は存在せず,したがって,走行を制御することもなければ,走行を誘導することもない。一方,訂正発明においては,本件審決が相違点A及びBとして認定した構成を採用することによって,模型体がレース展開を行うように現実に走行するものである。
このように,訂正発明では競争体が現実に走行するが,刊行物7発明ではレース展開が画像をもって表示されるにすぎないとの点は,訂正発明と刊行物7発明との根本的な相違点というべきである。しかしながら,本件審決は,この相違点を看過し,上記のとおり,刊行物7発明においても競争体が走行することを前提として,競争体の走行を制御し,走行を誘導する走行制御手段が存在することを一致点として認定したものであって,この誤りが本件審決の結論に影響を及ぼすものであることは明らかである。
(3) 被告は,本件審決は,画像と模型との違いはあっても,競争体の動きがコンピュータで決定されたレース展開のとおり走行する点に一致点を見いだしたものであり,相違点の看過も,一致点の認定の誤りもない旨主張する。
しかしながら,画像を制御することと,模型体を制御することとの間には,実質的な相違が存する。すなわち,刊行物7発明では,レース展開は,各競走馬の画面上の位置の変化で表現しているから,レース展開を決定するデータを用いて,各競走馬を表す画像を画面上に次々と表示するだけでレース展開の表現は完了する。これに対し,訂正発明では,レース展開を模型体の現実の運動で表現することになるから,模型体をレース展開によって決定された目標位置に誘導することが必要であり,そうした誘導を可能にするには,時々刻々の模型体の位置を検出し,レース展開によって決定された目標位置との差を求めて,その差をなくす方向に模型体を駆動することが必要となる。すなわち,訂正発明においては,「複数の模型体の走行を(個別に)誘導する」構成が必要となるのである。本件審決がこの点を看過したものであることは明らかである。
2 取消事由2(相違点Aに関する判断の誤り) (1) 本件審決は,訂正発明と引用発明7との相違点Aとして認定した,「前者の『複数の模型体が走行経路を規制されることなく移動可能に載置される環状の模型体走行面』の構成が,後者は,『複数の画像体が,実際の競馬場でレースを行っているかの如き移動可能な映像のトラック』であり,また,前者の走行駆動機構に関する次のa,bの構成,及び前者の走行制御手段に関する次のc,dの構成が,後者には無い点。
a『模型体走行面の下方に配置され,模型体走行面に載置された模型体と磁力により結合し,模型体のそれぞれを走行経路を規制されることなく個別に誘導するように構成された走行駆動機構』 b『前記走行駆動機構は,対応する模型体を磁力を介して誘導しそれぞれ走行経路を変更して移動可能に模型体走行面の下方に配置された複数の走行体を含み』 c『走行駆動機構を制御する走行制御手段』 d『前記走行制御手段は,前記コンピュータシステムの制御の下に,前記決定されたレース展開に基づき前記走行駆動機構を制御して前記複数の走行体の走行を制御し』」(審決謄本19頁「A」の項)との点について,「後者(注,刊行物7発明)に刊行物4に記載された発明,及び刊行物1,刊行物6に記載された2つの周知技術を適用したものは,この相違点における上記a〜dの構成要件を備えるものとなることは明らかである」(同20頁第4段落)と判断したが,誤りである。
(2) そもそも,訂正発明は,訂正明細書(甲11添付)記載の「従来例の如く各移動模型がスタートからゴールまで常に一定のコースを移動するものでは上記の如き実際のレースとはかけ離れたものとなり臨場感がうすれ,興味も半減したものとならざるを得ない」(段落【0008】)との解決課題を,機械式の遊戯装置において解決したものであると位置付けることができる。一方,刊行物7発明も,同じく従来の機械式競走遊戯装置における臨場感の欠如を解決課題とするものの,その解決手段は,レース展開をカラーブラウン管に画像として表示することである。すなわち,刊行物7発明は,臨場感あるレース展開を機械式の遊戯装置で表現することには限界があることを当然の前提として,機械式ではない遊戯装置を考案したものであると位置付けることができる。
これに対し,刊行物4(甲6)記載の発明(以下「刊行物4発明」という。)は,競争する模型が一定のコース上を走行するように制御されている典型的な機械式の装置である。上記のとおり,刊行物7発明は,機械式の遊戯装置では,走行経路が規制されてしまうために臨場感が乏しくなり,臨場感あるレース展開を機械式の遊戯装置で表現することには限界があることを当然の前提として,機械装置ではない遊戯装置を考案したものであるから,刊行物4発明のような機械式の装置を,刊行物7発明のカラーブラウン管等の表示装置に代えて採用するという動機付けは全く存在しないのみならず,着想阻害事由があるというべきである。刊行物7のようなコンピュータ・ゲームにおける表現手段は,画面であって,その画面の表現における自由度は,模型に比べると格段に高いから,少なくとも二次元的な自由度を有するレース展開を表現する手段として,当業者が,自由度の高い画面の代わりに自由度の低い刊行物4のような機械式の装置を採用することを考えるはずはない。
この点について,被告は,実願昭49-14153号(実開昭50-104785号)のマイクロフィルム(審決における「刊行物2」,本訴甲4,以下「刊行物2」という。)及び刊行物3(甲5)を挙げて,機械式の装置であっても走行経路を規制されないものも存在した旨主張する。しかしながら,刊行物2の装置は実質的に走行経路が規制されているし,刊行物3の装置は遊戯者がロッドを操作して模型を移動させるという原始的なものであるから,いずれも刊行物7発明と結び付くようなものではなく,それらが公知であったとしても,刊行物7発明と刊行物4発明とを結び付けることに対する上記着想阻害事由を克服して,さらに動機付けとなるようなものではない。
以上によれば,本件審決の上記判断は,刊行物7発明に刊行物4発明の機械式の構成を適用することが容易であるとする点において,明らかに誤りというべきである。
(3) 仮に,刊行物7発明に刊行物4発明の構成を適用したとしても,刊行物4発明では,模型体の駆動装置が模型体ごとに独立ではないから,走行経路を規制されないレース展開を実現することはできない。
本件審決は,この点について,刊行物4発明に,刊行物1(甲3)記載の周知技術を容易に適用し得るとするが,刊行物1のものも,模型体の駆動装置は模型ごとに独立してはいるものの,駆動装置自体が一定の軌道に沿って走行するものであるから,走行経路を規制されない走行は実現不可能である。
そこで,本件審決は,さらに刊行物6(甲8)記載の周知技術を容易に適用し得るとするが,刊行物6記載の技術は,生産工場等において製品や資材を搬送する無人搬送車に関するものであって,競争ゲームとは何の関係もないものである。上記のとおり,機械式の競争ゲーム装置では,模型の走行経路が規制されてしまうことが技術常識であったのであるから,工場内において,無人搬送車の走行経路が規制されていないからといって,機械式の競争ゲーム装置において走行経路が規制されていない構成を採用することが自明であるということはできない。
また,訂正発明の模型体は,「個別に誘導」されるものであるが,同時に,「模型体の走行」は「レース展開に基づき」行われるものであるから,複数の模型体に対し時間とともに変化する座標が与えられるのであって,その座標は,模型体ごとにバラバラに与えられるものではなく,相互に関連付けられている。これに対して,刊行物6記載の技術は,時間の要素もないし,他の搬送車との関係も規定されておらず,目に見える機械的な軌道に代えてコンピュータによって与えられた目に見えない軌道に沿って搬送車が移動するだけのものである。したがって,刊行物6記載の技術が周知ないし公知であったとしても,刊行物7発明と刊行物4発明とを結び付けることはできないというべきである。
以上によれば,刊行物7発明に,刊行物4発明,刊行物1及び刊行物6記載の周知技術を適用することによって,相違点Aに係る訂正発明の構成を容易に想到し得るとした本件審決の判断は誤りである。
(4) 本件審決は,刊行物7発明における画面という表現手段に代えて,模型体をレース展開の表現手段として利用するという着想が容易であったことの根拠として,「刊行物4に記載されたゲーム盤は,実際にある競技に似せて,作られたゲームであって,ゲームの形態をできる限り実際の競技に近い形に再現することは,当業者であれば,当然に考えることである」(審決謄本19頁下から第2段落)と説示し,被告もこれを援用する。しかしながら,本件審決の上記説示は,観戦型ゲームにおいて,模型による迫真性と,レース展開がリアルであることによる迫真性とがトレードオフの関係にあり,機械式の模型による表現(刊行物4)とテレビ画面による表現(刊行物7)とが相対立するものとして存在していたという技術発展の歴史的経緯を無視するものであって,失当である。
上記のとおり,本件審決及び被告は,ゲームである以上,当該ゲームの形態をできる限り実際の競技に近い形に再現しようとすることは当然であるとの前提に立つ。確かに,ゲーム装置である以上,現実にできるだけ近付けようとすることが当然の要求であるというのは一面の真実であり,また,コンピュータ・ゲームも,車両の無人運転も,磁石で模型体を移動させることも,個別には知られていたから,訂正発明を実現する個別の手段はバラバラな形では存在していた。しかしながら,にもかかわらず,後記(5)に示すとおり,原告以外の当業者において,長い間,訂正発明と同じような発明がされなかったのは,臨場感あふれるゲーム装置を作るという目標に向かって個々の要素を組み合わせるという点が困難であったからである。すなわち,訂正発明は組合せの着想に価値があるのであって,個々の手段を具体化した点に価値があるのではないのである。
したがって,本件審決及び被告が挙げる上記の点は,訂正発明の容易想到性を根拠付けるものではない。
(5) 本件出願の出願日とみなされる本件親出願の出願日(昭和62年10月6日,以下「本件出願日」という。)当時の当業者の技術水準を見ると,証拠(甲13〜44)によれば,本件出願日が昭和62年であるのに対し,被告を含む同業他社は,平成5年になっても,固定トラック方式を前提とする改良技術の特許出願を行っている。製品については,原告がフリートラック方式の製品を平成元年に発売しているのに対し,被告のフリートラック方式の製品は平成7年に発売されたにすぎない。また,被告を含む同業他社がフリートラック方式の改良技術を特許出願し始めたのは,平成6年であり,出願が増えるのは平成7年からである。以上によれば,本件出願日当時,原告以外の同業他社は,機械式ゲーム装置は固定トラック方式に限られるとの固定観念にとらわれていたことが明らかである。すなわち,被告を含む同業他社は,本件親出願が公開され,原告製品が登場した平成元年以降になって,フリートラック方式の優位性に気付き,あわててフリートラック方式の製品開発を開始し,その成果が出始めたのが平成6〜7年ころなのである。
なお,ここで,「フリートラック方式」とは,「模型体のそれぞれを走行経路を規制されることなく個別に誘導するように構成された走行駆動機構」を有するもの,すなわち,ラジコンの模型自動車を操縦する場合のように,任意の位置を経由して移動可能であるものを意味する。
これに対し,被告は,特開平2-65883号公報(甲16,以下「甲16公報」という。),特開平2-65884号公報(甲17,以下「甲17公報」という。),特開平2-65885号公報(甲18,以下「甲18公報」という。),特開平2-63489号公報(甲19,以下「甲16公報」という。)及び特開平2-65882号公報(甲20,以下「甲20公報」という。)に記載された競争ゲーム装置は,固定トラック方式ではない旨主張する。しかしながら,例えば,甲19公報に係るゲーム装置は,コース間にもコイルが設けられており,コース間のコイルを通電することにより移動模型の向きを変え,現在のコースとは異なるコースに誘導することができるものではあるが,移動模型が走行し得る経路はコイル列によって形成されたコースによって限定されているから,原告主張のフリートラック方式には該当しない。このように,甲16公報〜甲20公報に係るゲーム装置は,いずれも,競争体模型の走行面に隠されたところに,ガイドライン,コイル列又はガイドレールによって規定されたコースが存在し,このコースに沿って競争体模型が移動することを基本としており,走行経路を規制されていない走行体を用いるという発想はないから,いずれもフリートラック方式には該当しない。
ところで,甲16公報〜甲20公報に係る発明は,昭和63年4月,原告が,フリートラック方式を体現した原告製品を発表した(甲45)後,同業他社によって特許出願されたものであるが,その出願時点では,本件親出願は公開されていなかったから,本件親出願に係る技術の内容は知られていなかった。そして,このような状況において出願された甲16公報〜甲20公報に係る発明に,上記のとおり,走行経路を規制されていない走行体を用いるという発想は全く見られないことは,原告製品を知った後でさえも,当業者は,機械式ゲーム装置は固定トラック方式に限られるとの上記固定観念から逃れなかったことを示すものであり,まして,本件出願日当時,当業者がフリートラックの発想を持ち得なかったことは明らかである。
(6) なお,訂正発明は,遊戯者の操作によらずに走行する模型体が行うレースの結果を予想して賭けを行うゲーム(以下「観戦型ゲーム」という。)であるのに対し,刊行物3(甲5)は,自らが模型体を操ってレースを行うゲーム(以下「参加型ゲーム」という。)に関するものである。したがって,刊行物3のような参加型ゲームにおいて走行経路を規制されていないものが知られていたからといって,機械式の観戦型ゲームにおいて走行経路を規制されていないものを着想することは必ずしも容易なことではない。
本件審決は,本件特許発明進歩性判断に当たっては刊行物3を引用しているにもかかわらず,訂正発明の独立特許要件を検討するに当たっては刊行物3を引用していないが,これは,観戦型ゲームと参加型ゲームとの上記のような差を,本件審決も暗黙のうちに認めていたことを示すものである。
被告の反論
本件審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(相違点の看過)について (1) 原告は,訂正発明では競争体が現実に走行するが,刊行物7発明ではレース展開が画像をもって表示されるにすぎないとの点は,訂正発明と刊行物7発明との根本的な相違点であるのに,本件審決は,これを看過し,一致点の認定を誤った旨主張する。
しかしながら,平成14年7月17日付け訂正拒絶理由通知書(乙7)に明記されている(17頁最終段落)とおり,本件審決は,「画像体」及び「模型体」を「競争体」という語で表現した上で,訂正発明と刊行物7発明との一致点を認定したものであり,要するに,画像と模型との違いはあっても,競争体の動きがコンピュータで決定されたレース展開のとおり走行する点に一致点を見いだしているのである。その上で,本件審決は,相違点Aとして,「前者の『複数の模型体が走行経路を規制されることなく移動可能に載置される環状の模型体走行面』の構成が,後者は,『複数の画像体が,実際の競馬場でレースを行っているかの如き移動可能な映像のトラック』であり」(審決謄本19頁「A」の項,下線付加)と認定しているから,訂正発明においては競争体が模型体であり,刊行物7発明においては競争体が画像体であるという相違点を看過してはいない。したがって,本件審決には,原告主張に係る相違点の看過も,一致点の認定の誤りもない。
(2) さらに,原告は,画像を制御することと,模型体を制御することとの間には,実質的な相違が存するとして,訂正発明の「複数の模型体の走行を(個別に)誘導する」構成について言及し,本件審決はその点を看過している旨主張する。しかしながら,本件審決は,相違点Aとして,訂正発明の「複数の模型体の走行を(個別に)誘導する」構成に相当する事項が,刊行物7(甲9)に記載されていないことを明確に認定している(審決謄本19頁「A」の項のa〜d)から,原告の上記主張は失当である。
2 取消事由2(相違点Aに関する判断の誤り)について (1) 本件審決が認定するとおり,刊行物7(甲9)には,「画像体ではあるが実際の競馬場でレースを行っているかの如きレース展開,即ち,走行経路を規制されることがなくレースを行う点」(審決謄本20頁第3段落)が記載されている。また,「この種のゲーム装置において,画像体によりレースを行うものが周知であるのと同様,模型体によりレースを行うものも・・・周知である」(同19頁下から第2段落)という技術水準の下,「ゲームの形態をできる限り実際の競技に近い形に再現することは,当業者であれば,当然に考えること」(同)であるから,当業者は,模型体によりレースを行うものについても,刊行物7発明における画像体によりレースを行うものと同様,実際の競馬場でレースを行っているかのようなレース展開,すなわち,走行経路を規制されることがなくレースを行うよう構成してみようという発想に,当然に到達するものである。そして,そのようにする場合,刊行物7発明における画像体の(画像上)の走行は,メイン中央処理装置,すなわち,コンピュータシステムによって制御されているものであるから,模型体の走行制御をコンピュータシステムによる制御によって行うことは当然である。
ところで,刊行物4発明のゲーム装置における,自動車模型,走行路面板,駆動手段を有する循環手段,及び制御回路は,それぞれ,訂正発明における模型体,模型体走行面,走行駆動機構,及び走行制御手段に対応するところ,一定の循環経路に沿って模型体を走行させてレースを行うゲーム装置において,個々にモータを備えている電気駆動車で模型体を個々に誘導することは,従来周知であり(例えば,刊行物1〔甲3〕など),さらに,モータを有し自由に移動可能な無人車をコンピュータ制御によって駆動並びに走行制御することも従来周知である(例えば,刊行物6〔甲8〕など)。そうすると,刊行物7発明の画像表示によるゲーム装置を,刊行物4(甲6)に記載されているゲーム盤のようなハード装置に置き換えるに際し,刊行物4における模型体4を磁力を介して誘導する循環手段として,刊行物1のゲーム装置における電気駆動車,すなわち模型体を個々に誘導する電気駆動車を採用し,この電気駆動車の走行制御をするについて,モータを有し自由に走行可能な無人車をコンピュータ制御によって駆動し誘導する周知の制御技術(例えば,刊行物6)を採用することは,当業者にとって技術的に格別困難なことではなく,容易に想到し得たことである。
以上によれば,「訂正発明は,刊行物7,4に記載されている発明(注,刊行物7発明,刊行物4発明),及び刊行物1,6に記載されている周知技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものである」(審決謄本20頁下から第3段落)とした本件審決の判断に誤りはない。
(2) これに対し,原告は,刊行物4発明のような機械式の装置を,刊行物7発明のカラーブラウン管等の表示装置に代えて採用するという動機付けは全く存在しないのみならず,着想阻害事由があった旨主張する。
しかしながら,まず,刊行物7発明は,臨場感あるレース展開を機械式の遊戯装置で表現することには限界があることを当然の前提として,機械式ではない遊戯装置を考案したものであるとする原告の立論の前提自体が誤りである。刊行物7(甲9)において従来技術として言及されている機械式の装置に臨場感がないというだけのことにすぎず,機械式であれば,すべてそうであるということはできないし,また,その結果,画像表示しか解決手段がないということにもならない。機械式のゲームであっても,必ずしも模型が決まった軌道上を走行しなければならないというものではないのである(必要ならば,刊行物2〔甲4〕,刊行物3〔甲5〕を参照。)。
むしろ,刊行物7発明は,コンピュータシステムによる制御を導入したコンピュータ・ゲームであって,コンピュータを用いて迫真性に富んだ臨場感あるレース展開を実現しているという点で,訂正発明と軌を一にするものというべきである。
(3) また,原告は,刊行物6記載の技術が,生産工場等において製品や資材を搬送する無人搬送車に関するものであって,競争ゲームとは何の関係もないものであるなどとして,刊行物6記載の技術を競争ゲーム装置に適用することができないかのように主張する。しかしながら,訂正発明における走行駆動機構も,刊行物6に記載されている搬送車も,いずれも,走行経路をレール等で機械的に規制されずに自在に走行する走行体であり,その無軌道走行はコンピュータによる制御手段で遠隔制御されるものであり,走行体の走行制御技術としては格別相違するものではない。したがって,刊行物6に記載されている搬送車に対する走行制御技術は,競争ゲーム装置における走行体の走行制御に適用可能なものである。
さらに,原告は,訂正発明の模型体の走行は,「レース展開に基づき」行われるものであって,相互に関連付けられているのに対し,刊行物6記載の技術は,時間の要素も,他の搬送車との関係も規定されていない旨主張する。しかしながら,原告主張の点は,それぞれの搬送車について異なる個別制御をあらかじめ用意し,同時に並列して発進させればよいことであり,刊行物6記載の技術を適用できない理由はない。
(4) 原告は,本件審決は,観戦型ゲームにおいて,模型による迫真性と,レース展開がリアルであることによる迫真性とがトレードオフの関係にあり,機械式の模型による表現(刊行物4)とテレビ画面による表現(刊行物7)とが相対立するものとして存在していたという技術発展の歴史的経緯を無視するものである旨主張する。しかしながら,原告主張の「歴史的経緯」は,何ら立証されていない。
(5) 原告は,本件出願日当時,原告以外の当業者が機械式ゲーム装置は固定トラック方式に限られるとの固定観念にとらわれていたことが明らかであると主張している。しかし,原告が固定トラック方式に分類している甲16公報〜甲20公報記載の競争ゲーム装置の発明は,いずれも,走行経路を規制されない方式の競争ゲーム装置に関するものであるから,原告の上記主張は失当である。
また,原告は,被告がフリートラック方式の競争ゲーム装置を発売し始めたのが平成7年であること等を,本件出願日当時,当業者が上記固定観念にとらわれていたことを推認させる根拠の一つとして挙げる。しかしながら,こうした原告の主張は,発明の困難性と商業化の困難性とは全く異なるものであることを看過した議論であって,失当である。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点の看過)について (1) 本件審決は,訂正発明と刊行物7発明との一致点として,「競争体が順番を競って走行しレース展開を行うように走行を制御する走行制御手段・・・を有し,・・・前記走行制御手段は,前記コンピュータシステムの制御の下に,前記決定されたレース展開に基づき走行を制御し,これによって到着順位の予測がつかないように複数の競争体の走行を誘導し」(審決謄本18頁「6(1)対比」の項)との点を認定した。
これに対し,原告は,訂正発明では競争体が現実に走行するが,刊行物7発明ではレース展開が画像をもって表示されるにすぎないとの点は,訂正発明と刊行物7発明との根本的な相違点というべきであるのに,本件審決は,この相違点を看過し,上記のとおり,刊行物7発明においても競争体が走行することを前提として,競争体の走行を制御し,走行を誘導する走行制御手段が存在することを一致点として認定したものであって,この誤りが本件審決の結論に影響を及ぼすものであることは明らかである旨主張する。
(2) そこで検討すると,まず,刊行物7(甲9)に,「複数の出走馬のカラー画像(以下,「画像体」という。)が,実際の競馬場でレースを行っているかの如き移動可能な映像のトラックと, 複数の画像体のトラックにおけるレースを映すメイン表示装置の設けられたメインユニット1の前方に配置され,遊戯者が投票等の操作を行うための操作パネル12を有する複数のテーブルユニット10と, 画像体により出走馬が順番を競って走行しレース展開を行うように制御する走行制御手段と, テーブルユニット10を制御するサブ中央処理装置3と,メイン中央処理装置2と, を有し, 前記メイン中央処理装置2は,出走馬が順番を競って走行する様子を模倣させるための128種類のレース展開を決定し, 前記走行制御手段は,前記メイン中央処理装置2の制御の下に,前記決定されたレース展開に基づき前記画像体を制御して前記複数の出走馬の走行を制御し,これによって到着順位の予測がつかないように複数の出走馬の走行を誘導し, 前記サブ中央処理装置3は,前記メイン中央処理装置2の制御の下に,前記テーブルユニット10の操作パネル12にレース情報を表示し,操作パネル12からの投票及びレース結果に応じた配当を行うように構成されてなる,競馬等の競走遊戯装置」(審決謄本16頁「オ」の項,以下「刊行物7発明の規定内容」)の発明が記載されていることにつき,当事者間に争いはない。
(3) 確かに,原告が主張するとおり,刊行物7発明では,レース展開が画像をもって表示されるにすぎず,現実に何らかの物体が走行することはないから,刊行物7発明の規定内容にいう「走行制御手段」について,これを文字どおり,物理的に「走行」を制御するものであると解すると,理解に困難が生じる。同様に,刊行物7発明の規定内容にいう「画像体により出走馬が順番を競って走行しレース展開を行うように制御する走行制御手段」及び「前記走行制御手段は・・・前記画像体を制御して前記複数の出走馬の走行を制御し,これによって到着順位の予測がつかないように複数の出走馬の走行を誘導し」についても,刊行物7発明では,現実に,出走馬が「走行」したり,「レース展開を行」ったり,「走行を誘導」されたりすることはないから,これらを文字どおり物理的に解すると,理解が困難となる。
しかしながら,刊行物7発明の規定内容においては,上記のとおり,「画像体により・・・制御する走行制御手段」,「前記走行制御手段は・・・前記画像体を制御して・・・走行を制御し・・・走行を誘導し」とされているから,そこでいう「走行制御手段」が,物理的に出走馬の「走行」を制御するものではなく,飽くまで,出走馬の描かれた「画像体」を制御することにより,出走馬が「走行」しているかのような外観を制御する手段の意味であることは明らかというべきであり,また,そのように解することによって初めて,当事者間に争いのない刊行物7発明の規定内容を合理的に理解することができるものである。
他方,訂正発明においては,現実に「模型体」が走行することを前提として,「模型体が順番を競って走行しレース展開を行うように走行駆動機構を制御する走行制御手段」及び「前記走行制御手段は,前記コンピュータシステムの制御の下に,前記決定されたレース展開に基づき前記走行駆動機構を制御して前記複数の走行体の走行を制御し,これによって到着順位の予測がつかないように複数の模型体の走行を誘導」するとの構成を有しているから,そこでいう「走行制御手段」とは,文字どおり,物理的に模型体の「走行」を制御するものであると解されるが,模型体の物理的な「走行」を制御することによって,模型体が「走行」する外観が制御されるものにほかならない。そうすると,訂正発明の「走行制御手段」と刊行物7発明の「走行制御手段」とは,前者は模型体が現実に走行することを前提とするものであるのに対し,後者はレース展開が画像をもって表示されるにすぎず,現実に何らかの物体が走行することはないという点において相違するものの,「模型体」ないし「(画像上の)出走馬」の「走行」に係る外観を制御するものであるという点において一致するということができる。
そして,本件審決は,一致点の認定に当たり,「模型体」及び「(画像上の)出走馬」の上位概念として,外観上の走行を行う観念上の存在である「競争体」という概念を用いたものであると理解されるが,そのこと自体を誤りということはできないから,結局,訂正発明の要旨(上記第2の3)と刊行物7発明の規定内容とを対比すれば,訂正発明と刊行物7発明との一致点として,本件審決が認定したとおり,「競争体が順番を競って走行しレース展開を行うように走行を制御する走行制御手段・・・を有し,・・・前記走行制御手段は,前記コンピュータシステムの制御の下に,前記決定されたレース展開に基づき走行を制御し,これによって到着順位の予測がつかないように複数の競争体の走行を誘導し」との点を認定することができるというべきである。
(4) これに対し,原告は,上記のとおり,本件審決は,刊行物7発明においても競争体が走行することを前提として,競争体の走行を制御し,走行を誘導する走行制御手段が存在することを一致点として認定したものである旨主張するが,本件審決の一致点の認定の趣旨は,上記判示のとおりであると解されるから,原告の主張は,本件審決を正解しないものであって,採用の限りではない。
また,原告は,画像を制御することと,模型体を制御することとの間には,実質的な相違が存するとして,訂正発明の「複数の模型体の走行を(個別に)誘導する」構成について言及し,本件審決はその点を看過している旨主張する。しかしながら,本件審決は,訂正発明と刊行物7発明との相違点A(審決謄本19頁「A」の項)において,原告主張の「複数の模型体の走行を(個別に)誘導する」構成の点につき,訂正発明の「模型体走行面の下方に配置され,模型体走行面に載置された模型体と磁力により結合し,模型体のそれぞれを走行経路を規制されることなく個別に誘導するように構成された走行駆動機構」(同頁「A」の「a」の項),「走行駆動機構を制御する走行制御手段」(同「c」の項)及び「前記走行制御手段は,前記コンピュータシステムの制御の下に,前記決定されたレース展開に基づき前記走行駆動機構を制御して前記複数の走行体の走行を制御し」(同「d」の項)との構成が,いずれも刊行物7発明にはない旨正しく認定した上,その点に対する判断を加えているから,原告主張に係る相違点の看過は認められない。
(5) 以上のとおり,本件審決には,原告主張の相違点の看過も,一致点の認定の誤りもないから,原告の取消事由1の主張は理由がない。
2 取消事由2(相違点Aに関する判断の誤り)について (1) 本件審決は,訂正発明と引用発明7との相違点Aとして認定した,「前者の『複数の模型体が走行経路を規制されることなく移動可能に載置される環状の模型体走行面』の構成が,後者は,『複数の画像体が,実際の競馬場でレースを行っているかの如き移動可能な映像のトラック』であり,また,前者の走行駆動機構に関する次のa,bの構成,及び前者の走行制御手段に関する次のc,dの構成が,後者には無い点。
a『模型体走行面の下方に配置され,模型体走行面に載置された模型体と磁力により結合し,模型体のそれぞれを走行経路を規制されることなく個別に誘導するように構成された走行駆動機構』 b『前記走行駆動機構は,対応する模型体を磁力を介して誘導しそれぞれ走行経路を変更して移動可能に模型体走行面の下方に配置された複数の走行体を含み』 c『走行駆動機構を制御する走行制御手段』 d『前記走行制御手段は,前記コンピュータシステムの制御の下に,前記決定されたレース展開に基づき前記走行駆動機構を制御して前記複数の走行体の走行を制御し』」(審決謄本19頁「A」の項)との点について,「後者(注,刊行物7発明)に刊行物4に記載された発明,及び刊行物1,刊行物6に記載された2つの周知技術を適用したものは,この相違点における上記a〜dの構成要件を備えるものとなることは明らかである」(同20頁第4段落)と判断した。
これに対し,原告は,本件審決の上記相違点(A)に関する判断は誤りである旨主張するので,以下,検討する。
(2) まず,刊行物4(甲6)に,「複数の自動車模型4が,一定の循環軌跡に沿って移動可能に載置される環状のトラックを画いた走行路面板2と, 環状のトラックを画いた走行路面板2の周縁に沿って配置された複数のサテライトと, 走行路面板2の下方に配置され,走行路面板2に載置された自動車模型4と移動片21の磁石32と磁力により結合し,自動車模型4のそれぞれを案内手段によって設定された一定の循環軌跡に沿って個別に誘導するように構成された駆動手段を有する循環手段と, 自動車模型4が順番を競って走行しレース展開を行うように駆動手段及び循環手段を制御する制御回路と, を有する, 競走遊戯装置」(審決謄本12頁「キ」の項)が記載されていることは,当事者間に争いがないから,これを訂正発明の要旨(上記第2の3)と対比すれば,本件審決が認定するとおり,「刊行物4に記載されたゲーム盤は・・・走行路面板2の下方に配置され,走行路面板2に載置された自動車模型4と移動片21の磁石32と磁力により結合し,自動車模型4のそれぞれを案内手段によって設定された一定の循環軌跡に沿って個別に誘導するように構成された駆動手段を有する循環手段と,自動車模型4が順番を競って走行しレース展開を行うように駆動手段及び循環手段を制御する制御回路と,を有するものであり,刊行物4の自動車模型,走行路面板,案内手段によって設定された一定の循環軌跡に沿って個別に誘導するように構成された駆動手段を有する循環手段,及び制御回路が,それぞれ前者(注,訂正発明)の模型体,模型体走行面,走行駆動機構,及び走行制御手段に対応している」(同19頁最終段落〜20頁第1段落)ということができる。
ここで,競馬等の競争を模擬したゲームにおいて,現実のレースにおけるレース展開をゲーム上に再現することが一つの目標となるとともに,ゲーム装置である以上,現実にできるだけ近付けようとする要請が存在することは当然のことというべきであり,他方,ゲーム装置に模型を使用すると,模型による迫真性が生じることは,原告の自認するとおりである。そうすると,現実のレースにおけるレース展開をゲーム上に再現するという当然の要請と,模型の有する迫真性をゲーム装置に求める要請とに基づいて,刊行物7発明のレース展開を再現する手段として,刊行物4記載の自動車模型(模型体),走行路面板(模型体走行面),循環手段(走行駆動機構)及び制御回路(走行制御手段)を採用することは,当業者が容易に想到し得る程度のことというべきである。
他方,刊行物1(甲3)には,レーシングゲームに関し,「ほかの目的は,個々のオペレータの制御を受ける,モーターを備えている複数の電気駆動車(car)を有する電気的レーストラックを提供することであり,前記電気駆動車はまた,レーシング目標体をトラック上で前記駆動車で吸引し,これを移動する自動制御された電磁石を有する」(訳文1頁第4段落)と記載されているところ,刊行物1が,本件出願日の約47年前(1940年1月30日)に頒布されたものであることからすれば,刊行物1記載の上記技術事項は,本件出願日当時,周知であったと認められる。さらに,刊行物6(甲8)に,「(技術分野)本発明は経路の変更や停止位置の指定が容易な無人車の誘導システムに関するものである」(1頁右欄第1段落)と記載されていることからすれば,刊行物6の頒布時(昭和60年8月13日)には,既に,無人車の誘導システムが技術分野として存在していたと認められるから,「モーターを有し自由に移動可能な無人車のコンピュータ制御による駆動並びに誘導する」(審決謄本20頁第3段落)との技術は,本件出願日当時,周知であったと認められる。
そうすると,刊行物7発明においては,画像体によるものではあるが,実際の競馬場でレースを行っているようなレース展開,すなわち,走行経路を規制されないレースを行う点が記載されているから,刊行物7発明の画像表示によるゲーム装置を,刊行物4発明の自動車模型(模型体)によるゲーム装置に置き換えて,走行経路を規制されないレースを行うようにするに際し,模型体を個別に誘導する駆動手段として刊行物1記載のような周知の「電気駆動車」に係る技術事項を採用し,その誘導制御に刊行物6記載のような周知の「無人車誘導システム」に係る技術事項を適用する程度のことは,当業者が必要に応じて適宜行い得ることというべきである。
(3) これに対し,原告は,刊行物7発明は,臨場感あるレース展開を機械式の遊戯装置で表現することには限界があることを当然の前提として,機械装置ではない遊戯装置を考案したものであるから,刊行物4発明のような機械式の装置を,刊行物7発明のカラーブラウン管等の表示装置に代えて採用するという動機付けは全く存在しないのみならず,着想阻害事由がある旨主張する。
しかしながら,従来の機械式の遊技装置が,「機械的に馬模型を動かすようになっていたゝめ,故障が多く,また臨場感に乏し」い(刊行物7〔甲9〕の明細書2頁第2段落)ことを前提に,画像によってレース展開を表示することとしたものであるとしても,刊行物7発明から,本件審決が認定した上記一致点に係る構成,すなわち,コンピュータ制御により,実際の競馬場でレースを行っているような走行経路を規制されないレースを行うゲーム装置に関する技術的事項を把握し得ること自体は否定されない。そして,前示のとおり,競馬等の競争を模擬したゲームにおいて,現実のレースにおけるレース展開をゲーム上に再現することが一つの目標となるとともに,ゲーム装置である以上,現実にできるだけ近付けようとする要請が存在することは当然のことというべきであり,また,原告が自認するとおり,ゲーム装置に模型を使用すると,模型による迫真性が生じることも明らかであるから,それらの要請に基づき,当業者が,刊行物7発明に示された実際の競馬場でレースを行っているような走行経路を規制されないレースを行うゲーム装置を,刊行物4発明に示されるような模型によって実現することを想起することは,むしろ当然のことというべきである。
この点に関し,原告は,観戦型ゲームにおいて,模型による迫真性と,レース展開がリアルであることによる迫真性とがトレードオフの関係にあり,機械式の模型による表現(刊行物4)とテレビ画面による表現(刊行物7)とが相対立するものとして存在していたという技術発展の歴史的経緯がある旨主張する。しかしながら,本件全証拠によっても,原告主張に係る技術発展の歴史的経緯を認めるに足りないばかりでなく,模型による迫真性と,レース展開がリアルであることによる迫真性とがトレードオフの関係にあるとの原告主張を前提としたとしても,当業者が,ゲーム装置の開発に当たり,それを理由にどちらか一方のみに特化しなければならないとする理由はなく,むしろ,従来のゲーム装置よりも面白いものを実現するために,従来のゲーム装置の発想にとらわれることなく,できる限り両者の利点を具備した,より迫真性の強いゲーム装置を開発したいとの発想に至ることが自然であるとも考えられるから,この点に関する原告の主張は,上記の判断を覆すに足りないというべきである。
(4) また,原告は,刊行物6記載の技術は,生産工場等において製品や資材を搬送する無人搬送車に関するものであって,競争ゲームとは何の関係もないものであるところ,機械式の競争ゲーム装置では,模型の走行経路が規制されてしまうことが技術常識であったのであるから,工場内において,無人搬送車の走行経路が規制されていないからといって,機械式の競争ゲーム装置において走行経路が規制されていない構成を採用することが自明であるということはできない旨主張する。
しかしながら,本件出願日当時,仮に,機械式ゲーム装置において,原告主張のとおり,「模型体のそれぞれを走行経路を規制されることなく個別に誘導するように構成された走行駆動機構」を有する「フリートラック方式」のものが知られていなかったとしても,前示のとおり,ゲーム装置である以上,現実にできるだけ近付けようとする要請が存在することは当然のことというべきであるから,機械式の競争ゲーム装置において,原告主張に係る「フリートラック方式」とすることは,当業者が容易に想到し得ることであったというほかはない。そして,刊行物1に記載の電動駆動車と刊行物6に記載の無人搬送車とは,モーターで駆動される走行体であるという点で一致するものであり,また,刊行物6に示されている無人車の誘導制御に係る技術は,その用途が限定されるものではなく,当業者においてゲーム装置の技術分野に利用することができることは明らかであるから,他に特段の事情を認めるに足りない本件において,刊行物1記載のような周知の電動駆動車にの走行制御について,刊行物6記載のような周知技術を適用することに格別の困難性は認められないというべきである。
なお,原告は,訂正発明の模型体の走行は,「レース展開に基づき」行われるものであって,相互に関連付けられているのに対し,刊行物6記載の技術は,時間の要素もないし,他の搬送車との関係も規定されておらず,目に見える機械的な軌道に代えてコンピュータによって与えられた目に見えない軌道に沿って搬送車が移動するだけであるとも主張する。しかしながら,この点は,単に,刊行物6記載の技術の適用に当たって,「レース展開に基づく」ような制御を行えば足りることは明らかであるであるから,当該技術の適用可能性ないし容易性を左右するものではない。
(5) さらに,原告は,本件出願日当時における当業者の技術水準を示す証拠(甲13〜44)によれば,本件出願日当時,原告以外の同業他社は,機械式ゲーム装置は固定トラック方式に限られるとの固定観念にとらわれていたことが明らかである旨主張する。
ア しかしながら,原告が援用する証拠からは,単に,本件出願日当時,原告以外の同業他社によって,原告主張のフリートラック方式に係る発明が特許出願されたり,製品化されたりするのに比較的長期間を要したという事実が認定できるにすぎないところ,特許出願や製品化の有無には,発想の困難性以外にも,経済的要因その他多種多様の要因が関係することは明らかであるから,上記事実から直ちに,原告の主張するように,原告以外の同業他社が固定観念にとらわれていたものと推認することは困難である。また,後記のとおり,レース展開を再現する際に,模型の走行態様や動きに自由度を増し,レース展開の自由度を増すことが,ゲームをより面白くし,遊戯者をより楽しませることに寄与することが当業者の技術常識であったと認められ,さらに,本件出願日当時,それを実現するための個々の技術的事項が知られていたことも,原告の自認するとおりであるから,他に特段の事情がない限り,それらを組み合わせて訂正発明のような構成を想到することも容易であったというべきである。しかしながら,そもそも,原告の主張自体,単に「固定観念」にとらわれていたというだけで,いかなる事情ないし理由によって,当業者が訂正発明のような構成を想到することが困難であったのかを合理的に説明し得ていないから,その点からも,原告の主張は採用の限りではない。
イ 原告の主張にかんがみ,本件出願日当時における当業者の技術水準を含め,ゲーム装置における技術の発展の流れについて確認する。
(ア) 実願昭46-31356号(実開昭47-31891号)のマイクロフィルム(甲13,以下「甲13マイクロフィルム」という。)には,競争ゲーム盤の駒の動きに関し,「阻止突起(11)の配置と導板(6)と(6’)との組合せにより,遅れたものが前に出たり,勝ち抜いたものが止って他のものが追越して行く等前途に予想もできぬ勝,敗が展開され一段と興味と興奮とスリルを味わうことができる」(明細書5頁第1段落)と記載され,特開昭53-23739号公報(甲14,以下「甲14公報」という。)には,複数個の走行体を有するレーシングゲーム装置に関し,「このレーシングゲーム装置では,走行体が突然の急速走行すなわちスパートによつて早い速度で前進することができるように形成されている。したがって上記のスパート走行によつて,走行体がトラックを完走する間に数回走行順位が変化することになる」(2頁左下欄第1段落)と記載されており,これらの記載からすれば,本件出願日当時の当業者の認識として,機械式のゲーム装置においても,模型の走行を停止させたり,他の駒を追い越したり,模型の走行態様の自由度を増して,遊戯者に興味と興奮とスリルを味わせることが重要であるとの認識が存在していたものと認められる。
また,模型の動き自体に関しても,甲13マイクロフィルムに,「駒は磁気吸引作用の特性により,前,後又は左,右に小きざみに或いは大きく身体を動かしつつ,前進するので,宛も生きている馬がせり合う如き如実感が味わわれ,興味と魅力に溢れた玩具である」(明細書5頁第2段落)と記載されているとおり,模型の動きの自由度を増して,模型の動きを実物に近付け,遊戯者に興味と魅力を与えることが重要であるとの認識があったものと認められる。
さらに,刊行物4(甲6)には,「競争遊戯装置では・・・前記模型の運動に規則性があるため,興味が著しく損なわれた。本発明はこのような欠点を除去した競争遊技装置の改良に係り・・・その目的とする処は,複数の移動模型の内,どの模型が真先にゴールに到達するのか全く予想がつかずに遊戯者の興味をそそることができる競争遊戯装置を供する点にある」(1頁1欄25行目〜2欄5行目)と記載されており,刊行物4記載の発明は,競争遊技装置の模型の運動に規則性をなくして,模型の運動の自由度を増し,どの模型が先にゴールに到達するのか予測がつかないようにして,遊戯者の興味をそそるようにしたものであると認められる。
以上によれば,本件出願日当時,機械式ゲーム装置において,レース展開を再現する際に,模型の走行態様や動きに自由度を増し,レース展開の自由度を増すことが,ゲームをより面白くし,遊戯者をより楽しませることに寄与することは,当業者の技術常識に属する事項であったということができる。
(イ) 加えて,本件出願日の約7年前である昭和55年に頒布された刊行物3(甲5)には,競馬ゲームに関し,馬の模型が「コースを自由に選択できる」(2頁4欄22行目〜23行目)と記載され,第8図には,馬の模型が任意の位置を経由して自由に移動可能であることが図示されていると認められるから,本件出願日当時,機械式のゲーム装置において,模型体の走行経路が規制されないようにすることは,模型体の走行を再現するに当たって採り得る技術的選択肢の一つにすぎないものであったことは明らかというべきである。
これに対し,原告は,訂正発明に関し,刊行物3記載の技術的事項を参照することができない理由として,訂正発明は観戦型ゲームであるのに対し,刊行物3記載のものは参加型ゲームである,刊行物3記載の装置は,遊戯者がロッドを操作して模型を移動させるという原始的なものである等と主張する。
しかしながら,訂正発明の要旨(上記第2の3)には,遊戯者が模型体を操作することを排除する規定は見当たらず,訂正明細書(甲11)の発明の詳細な説明の欄の記載をみても,訂正発明に係る「ゲーム装置」について,模型体の走行を制御する方法として,遊戯者が操作するものであるか否かについて触れた記載はなく,遊戯者が操作することを排除した観戦型ゲームに限定して解釈すべき根拠は見当たらないから,原告の上記主張のうち,訂正発明が観戦型ゲームであることを理由とする部分は,必ずしも相当とは言い難いものである。また,その点をしばらく措くとしても,レース展開を再現する際に,模型の走行態様や動きに自由度を増し,レース展開の自由度を増すことが,ゲームをより面白くし,遊戯者をより楽しませることに寄与することが当業者の技術常識であったことは上記のとおりであるから,観戦型ゲームであろうと,参加型ゲームであろうと,さらには,原始的なものであろうと,機械式ゲーム装置の分野において,刊行物3記載の,模型体の走行経路が規制されないようにするとの技術的事項を参照することが妨げられる理由はないというべきであり,原告の上記主張は採用の限りではない。
ウ 以上によれば,本件出願日当時の機械式ゲーム装置の技術水準を考慮しても,刊行物7発明に,模型体の走行経路が規制されている刊行物4記載の発明を適用することによって,模型体の走行態様の自由度を増してゲームを面白くするために,模型体の走行経路が規制されないようにしたゲーム装置を発明することは,当業者が容易に想到し得ることであったというべきである。
(6) 以上によれば,本件審決の相違点Aに関する判断に誤りはないというべきであるから,原告の取消事由2の主張は理由がない。
3 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に本件審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 古城春実
裁判官 早田尚貴