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関連審決 無効2005-80283
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18行ケ10203審決取消請求事件 判例 特許
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平成19行ケ10007審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 確実性 /  有用性 /  方法の発明 /  共同研究 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明特定事項 /  相違点の認定 /  相違点の判断 /  慣用技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  着想 /  特許出願日 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  加工 /  交換 /  構成要件 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10368号 審決取消請求事件
原告株式会社ケミテック
訴訟代理人弁理士廣江武典,武川隆宣,西尾務,神谷英昭
被告オルガノ株式会社
訴訟代理人弁護士永島孝明,安國忠彦,明石幸二郎
訴訟代理人弁理士中尾俊輔,伊藤高英,磯田志郎
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/08/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が無効2005−80283号事件について平成18年7月4日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1原告の求めた裁判主文と同旨の判決第2事案の概要本件は,被告の有する下記1(1)の特許(以下「本件特許」という )に係る請求。
項6及び10を除いたその余の各請求項(以下,各請求項に係る発明を請求項番号「」,「」。, に対応させて 本件発明1 などといい 全体について 本件発明 という なお請求項は全11項である )について,原告が,同1(2)のとおり,無効審判請求を 。
したところ,特許庁は 「本件審判の請求は成り立たない 」との審決をしたため, , 。
その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)出願手続特許権者:被告発明の名称:フォトレジスト現像廃液の再生処理方法及び装置出願日:平成10年1月5日(特願平10-10025号)設定登録日:平成17年4月28日特許登録番号:第3671644号(2)無効審判手続審判請求日:平成17年9月28日(無効2005-80283号)審決日:平成18年7月4日審決の結論: 本件審判の請求は,成り立たない 」 「 。
原告に対する審決謄本送達日:平成18年7月14日2本件発明の要旨(甲15)本件発明の要旨は,本件特許出願に係る明細書(以下「本件明細書」という )。
の特許請求の範囲の請求項1〜5,7〜9及び11に記載された次のとおりのものと認められる。
「 請求項1】フォトレジスト及びテトラアルキルアンモニウムイオンを主とし 【て含有するフォトレジスト現像廃液を処理するに当たって,ナノフィルトレーション膜(NF膜)によりフォトレジスト現像廃液又はフォトレジスト現像廃液に由来する処理液を膜分離処理し,フォトレジスト等の不純物を主として含む濃縮液とテトラアルキルアンモニウムイオンを主として含む透過液を得る膜分離工程(A)を少なくとも含むことを特徴とするフォトレジスト現像廃液の再生処理方法。
【請求項2】前記膜分離工程(A)を多段に行うことを特徴とする請求項1に記載のフォトレジスト現像廃液の再生処理方法。
【請求項3】前記のフォトレジスト現像廃液に由来する処理液が,前記現像廃液に対して,逆浸透膜処理,蒸発,電気透析及び電解の少なくとも一つの濃縮方法で処理する濃縮処理工程(a ,クロマト分離法によりテトラアルキルアンモニウムイ )オン画分を得るクロマト分離工程(b ,中和を行い,不溶性となった分のフォト )レジストを固液分離により除去する中和+固液分離工程(c ,および,イオン交)換体と接触させて或る程度の不純物を吸着除去するイオン交換処理工程(d)から選ばれる少なくとも一つの前処理工程を行って得られる処理液であることを特徴とする請求項1又は2に記載のフォトレジスト現像廃液の再生処理方法。
【請求項4】前記現像廃液又は前記のフォトレジスト現像廃液に由来する処理液のpHを,前記工程(A)を行うに際して9.5〜12の範囲内に調整することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のフォトレジスト現像廃液再生処理方法。
【請求項5】前記工程(A)の後に,前記透過液又は前記濃縮液に対して,好ましくは前記透過液に対して,イオン交換樹脂と接触させて不純物を除去するイオン交換処理工程(B ,逆浸透膜処理及び蒸発の少なくとも一つの濃縮方法で濃縮する )濃縮工程(C ,電気透析及び電解の少なくとも一つの方法でテトラアルキルアン )モニウムイオンを濃縮する濃縮精製工程(D ,および,クロマト分離によりテト )ラアルキルアンモニウムイオン画分を得るクロマト分離工程(E)から選ばれる少なくとも一つの工程を行うことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のフォトレジスト現像廃液の再生処理方法。
【請求項7】前記工程(d)に用いるイオン交換体及び/又は前記工程(B)に用いるイオン交換樹脂が,陰イオン交換樹脂及び/又は水素イオン形(H形)及びテトラアルキルアンモニウムイオン形(TAA形)の少なくとも一方の陽イオン交換樹脂であることを特徴とする請求項3から6のいずれかに記載のフォトレジスト現像廃液の再生処理方法。
【請求項8】システムの末端又はその近辺に膜処理装置を配設し,再生現像液としての水酸化テトラアルキルアンモニウムの溶液から微粒子を除去することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のフォトレジスト現像廃液の再生処理方法。
【請求項9】フォトレジスト及びテトラアルキルアンモニウムイオンを主として含有するフォトレジスト現像廃液又はフォトレジスト現像廃液に由来する処理液を膜分離処理し,フォトレジスト等の不純物を主として含む濃縮液とテトラアルキルアンモニウムイオンを主として含む透過液を得るためのNF膜を備えたナノフィルターを包含することを特徴とするフォトレジスト現像廃液の再生処理装置。
【請求項11】蒸発又は逆浸透膜処理装置,前記装置によりフォトレジスト現像廃液又はフォトレジスト現像廃液に由来する処理液を濃縮して得られる濃縮液をフォトレジスト現像廃液に由来する処理液として膜分離処理するNF膜を備えたナノフィルター,および,前記ナノフィルターから得られる透過液をイオン交換樹脂により処理するイオン交換処理装置を含み,好ましくは更に末端又はその近辺に膜処理装置を含むことを特徴とする請求項9に記載のフォトレジスト現像廃液の再生処理装置 」。
ただし,請求項7及び8が引用する請求項6の記載は次のとおりである。
「 請求項6】前記工程(D)における電気透析及び/又は電解を行うに際して, 【前記工程(A)を経て得られる前記濃縮液を脱塩される液(被脱塩液)として,また,前記工程(A)を経て得られる前記透過液をテトラアルキルアンモニウムイオンの濃縮用液(回収用液)として用いることを特徴とする請求項5に記載のフォトレジスト現像廃液の再生処理方法 」。
3審決の要旨原告(無効審判請求人)が,本件発明は,下記@ないしCの刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許を無効とするべきであると主張したのに対し,審決は,下記@及びAの特許公報をそれぞれ主引例として,いずれも本件発明1及び9について検討し,両発明の相違点に係る構成は当業者が容易に発明することができたとはいえないから本件発明1を引用する本件発明2ないし5及び同7,8並びに本件発明9を引用する本件発明11についても当業者が容易に発明することができたとはいえないとし,本件特許を無効とすることはできないとした。審決の理由は以下のとおりである。なお,審決中の甲第1号証ないし4号証は本訴のものと共通であり 証拠番号については 甲 ,「1」などと略称する。また,章の記号及び番号について,本判決で指定したものに改めた部分がある。
@特開平8-281295号公報(甲1)A特開平5-106074号公報(甲2)B松本幹治監修 「ユーザーのための実用膜分離技術 ,日刊工業新聞社,199 , 」6年4月30日,5及び6頁(甲3)C大谷敏郎外著 「多彩な用途に対応するナノ分離膜の新展開「化学装置 , , 」,」株式会社工業調査会,1995年9月1日,37巻9号46〜50頁(甲4)「(1) 当審の判断アその1(甲1に記載の発明との対比)(ア) 本件発明1甲1にはフォトレジスト含有廃液の処理方法に関する事項が記載されており,その具体的構成につき検討する。
甲1には ・・・フォトレジスト成分含有廃液を限外濾過膜により濾過してレジスト成分濃 ,縮廃液を取り出すフォトレジスト含有廃液の処理方法が記載され,そして ・・・その処理方,法の具体例として 「フォトレジスト含有廃液は,限外濾過膜を通じて濾過を行い,フォトレ ,ジスト成分のみ通過させずに濃縮液として残し,現像液の主成分であるアルカリ水溶液は限外濾過膜を自由に透過する」ことが記載され,また,そのフォトレジスト含有廃液としては ・,・・ フォトレジストと有機アルカリ現像液を含んだ現像廃液」を対象とすることが示される 「ものである。この場合 「現像液の主成分であるアルカリ水溶液」における「現像液」の態様 ,には 「有機アルカリ現像液」が含まれることは明らかなことである。 ,以上のことから,甲第1号証には 「限外濾過膜により,フォトレジストと有機アルカリ現 ,像液とを含んだ現像廃液を濾過して,フォトレジスト成分濃縮廃液と,有機アルカリ現像液の主成分であるアルカリ水溶液を含有する透過液を取り出す,フォトレジストと有機アルカリ現像液とを含んだ現像廃液の処理方法」に関する発明(以下,必要に応じて 「甲1発明」とい,う)が記載されているということができる。
そこで,本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明では,限外濾過膜により現像廃液を濾過して上記フォトレジスト成分濃縮廃液と上記アルカリ水溶液を含有する透過液とを取り出しているのであるから,その現像廃液を膜により膜分離処理するものであるということができるものであり,また,同様な理由により,当該フォトレジスト成分濃縮廃液と当該透過液を得るところの膜分離工程を具備するということができる。
この場合,甲1発明の「フォトレジスト」及び「現像廃液」は本件発明1の「フォトレジスト」及び「フォトレジスト現像廃液」にそれぞれ相当し,甲1発明の「フォトレジスト成分濃縮廃液」及び「透過液」は本件発明1の「フォトレジストを主として含む濃縮液」及び「透過液」にそれぞれ相当する。
よって,両者は,「フォトレジストを主として含有するフォトレジスト現像廃液を処理するに当たって,膜によりフォトレジスト現像廃液を膜分離処理し,フォトレジストを主として含む濃縮液と透過液を得る膜分離工程(A)を少なくとも含む,フォトレジスト現像廃液の処理方法」である点で一致し,以下の点で相違する。
【相違点1】フォトレジスト現像廃液が,本件発明1では 「テトラアルキルアンモニウムイ ,オンを主として含有する」というのに対して,甲1発明では,その現像廃液には有機アルカリ現像液が含まれるものの,当該イオンを含むことまでは明示されず,当該特定事項を具備しない点【相違点2】膜が,本件発明1では 「ナノフィルトレーション膜(NF膜 」であるとするの , )に対して,甲1発明では限外濾過膜を用いるものであって当該特定事項を具備しない点【相違点3】濃縮液が,本件発明1では,フォトレジスト「等の不純物」を主として含むとするのに対して,甲1発明では,フォトレジスト成分濃縮廃液にフォトレジスト以外の不純物を含有することまでが示されず,当該特定事項を具備しない点【相違点4】透過液が,本件発明1では 「テトラアルキルアンモニウムイオンを主として含 ,む」とするのに対して,甲1発明ではその透過液には有機アルカリ現像液の主成分であるアルカリ水溶液を含有するものの,当該イオンを含むことまでは明示されず,当該特定事項を具備しない点【相違点5】処理方法が,本件発明1では 「再生」処理方法であるのに対して,甲第1号証 ,発明ではその特定事項を具備しない点以下,上記相違点に係る特定事項が容易に想到できるか否かにつき検討する。
【相違点1及び4について】甲1発明では,フォトレジストと有機アルカリ現像液とを含んだ現像廃液を処理するものであるところ,当該現像分野において有機アルカリ現像液として水酸化テトラメチルアンモニウムを主成分とする現像液は当分野において典型的なもの(例えば,甲第2号証の段落0009等を参照)となっており,このことからすれば,甲1発明における現像廃液の有機アルカリ現像液が水酸化テトラメチルアンモニウムを主成分とする現像液である態様を含み得るものである。そうであれば,この態様においては,その現像廃液には,水酸化テトラメチルアンモニウム由来の水酸化テトラメチルアンモニウムイオン,すなわち,テトラアルキルアンモニウムイオンが主要成分の一つとして含有されることになるものである。
また,上記の態様の場合において,甲1発明における現像廃液にはフォトレジストと水酸化テトラメチルアンモニウムを主成分とする有機アルカリ現像液が含まれるところ,甲1発明では,限外濾過膜によりフォトレジストがフォトレジスト成分濃縮廃液として分離され,かつ,有機アルカリ現像液の主成分であるアルカリ水溶液を含有する透過液が取り出されるのであるから,その透過液においては,水酸化テトラメチルアンモニウム由来のテトラアルキルアンモニウムイオンを主として含むようになることは当然のことである。
このように,甲1発明では,その一態様においては,その現像廃液にテトラアルキルアンモニウムイオンを主として含有し,また,その透過液にテトラアルキルアンモニウムイオンを主として含有し得るものである。
そうであれば,これらの点が,両者の実質上の相違点とはなり得ないものである。
【相違点2について】本件請求項1の記載によれば,本件発明1において,膜としての「ナノフィルトレーション膜(NF膜(これ以降,必要に応じて 「NF膜」という)は,フォトレジスト及びテトラ )」 ,アルキルアンモニウムイオンを主として含有するフォトレジスト現像廃液から,フォトレジスト等の不純物を主として含む濃縮液とテトラアルキルアンモニウムイオンを主として含む透過液とを膜分離するために採択されるものである。
これに対して,甲1発明では,その現像廃液の処理において,限外濾過膜を用いて,フォトレジスト成分濃縮廃液と,有機アルカリ現像液の主成分であるアルカリ水溶液を含有する透過液を分離しており,そして ・・・その現像廃液と膜分離した透過液にはテトラアルキルアン ,モニウムイオンが主要成分として含まれるものであるとしても,甲1発明では,限外濾過膜による膜分離技術につき示されるに過ぎず,NF膜を用いた膜分離技術につき教示するものは何もない。
また,NF膜とは,分画分子量が200(又は100)〜1000であって,被処理物の阻止性能に影響を及ぼす電荷を持ち,塩化ナトリウムの阻止率が90%以下の物性を有するもの・・・であって,そのNF膜の被処理物の透過性能ないしは阻止性能は,NF膜に存在する電荷によっても影響されるものである。そうであれば,テトラアルキルアンモニウムイオンに属するテトラメチルアンモニウムイオンの分子量がNF膜の分画分子量200〜1000よりも小さい約91であるとしても,テトラメチルアンモニウムイオンは電荷を保有していることからその透過に際して当然のこととしてNF膜の電荷からの影響を受けることとなり,これにより,テトラメチルアンモニウムイオンがNF膜を透過できるとは容易には予測できないこととなる。更に,テトラメチルアンモニウムイオンよりも分子量の大きい他のテトラアルキルアンモニウムイオンについても同様に電荷の影響を受けることから,そのテトラアルキルアンモニウムイオンのNF膜に対する透過性が予測できず,少なくとも,それがNF膜を透過可能であることを容易に予測することなどできるものではない。
このように,NF膜がテトラアルキルアンモニウムイオンを透過させることが容易に予測できないのであるから,甲1発明において,仮に,その限外濾過膜をNF膜に置き換えることを着想したとしても,本件発明1のように,フォトレジスト等の不純物を主として含む濃縮液とテトラアルキルアンモニウムイオンを主として含む透過液とを膜分離することを容易に想到することはできない。
したがって,甲1発明において,その膜を,限外濾過膜からNF膜に置き換える動機付けが存在せず,本件発明1の特定事項を具備するようにすることは当業者といえども容易に想到できるものではない。
次に,当該特定事項につき甲2〜4の記載を順次みる。
甲2には ・・・ 水酸化テトラアルキルアンモニウム及びノボラック樹脂を主要成分として ,「含有する現像液廃液を,二酸化炭素等で中和処理した後に,限外ろ過膜を使用して精密ろ過を行い(ないしは,分離ろ過膜によってろ過し ,ノボラック樹脂などからなる不溶解性有機物 )の沈澱物を除去した後,中和現像液廃液を電気分解することにより純度の高い水酸化テトラアルキルアンモニウム水溶液を得る水酸化テトラアルキルアンモニウムの再生方法」に関する事項が示されるが,当該相違点につき示唆するものは何もない。
甲3では 「分離膜の種類を適用範囲」と題する図1.4において,分離膜手段として,そ ,の分離対象物が微細な順に,逆浸透膜(RO ,NF膜,限外ろ過膜(UF ,精密ろ過膜(M ) )F)と記載され,そのNF膜の分離対象物がしょ糖,卵アルブミン,ヘモグロビン領域であること,NF膜と限外ろ過膜との分離対象範囲が一部重複することが示され,更には,前記(1)ウ(ア)により「化学プロセスなどにおいては,いかに最適な分離・精製法を選定するかが,競争力を生む重要なポイントとなる」ことが示される。
しかし,甲3においては,テトラアルキルアンモニウムイオンがNF膜を透過することについて教示するものは何もない。
したがって,NF膜がテトラアルキルアンモニウムイオンを透過させることが予測できないのであるから,甲3のNF膜と限外ろ過膜の分離対象範囲が一部重複するとの記載を基に,甲1発明において,仮に,その限外濾過膜をNF膜に置き換えることを着想したとしても,甲1発明ないしは本件発明1のように,フォトレジスト等の不純物を主として含む濃縮液とテトラアルキルアンモニウムイオンを主として含む透過液とを膜分離することを容易に想到することができない。
してみれば,甲1発明に甲3に記載のものを併せてみても,その限外濾過膜をNF膜に置き換え本件発明1のようにする動機付けがない。
甲4では,NF膜は,その前記(1)エ(ア)によれば,従来のRO(逆浸透)法とUF(限外濾過)法との中間に位置する新たな分離技術に関するものであること,前記(1)エ(イ)によれば,低圧型のRO膜(逆浸透膜)であることと共に,前記(1)エ(ウ)によれば,NF膜は「操作圧力が15kg・cm-2以下,分画分子量が200から1,000で,塩化ナトリウムの阻止率が90%以下の膜」と定義したうえで,NF膜はより分画分子量の小さいUF膜といえることが示される。
そして,テトラアルキルアンモニウムイオンの一種であるテトラメチルアンモニウムイオンの分子量は,NF膜の分画分子量よりも小さな約91であるということができる。
しかし,甲4では ・・・ NF膜の特徴の一つは,電荷を持っていることで,このことが低 ,「い圧力で高い塩類阻止性能が得られたり,分画分子量が数百の膜でも塩類がある程度阻止される大きな原因と考えられている」と記載され,NF膜は電荷を持つため被処理物の透過性は分画分子量のみでは予測できないことが示される。
また,甲4においては,アミノ酸,糖類,排水・下水,食品等の膜分離にNF膜を用いた例が記載されるものの,それらの記載においても,NF膜がテトラアルキルアンモニウムイオンを透過性につき示されるものはない。
このように,甲4の記載からは,テトラアルキルアンモニウムイオンがNF膜を透過することについて教示されるものはない。
したがって,NF膜がテトラアルキルアンモニウムイオンを透過させることが予測できないのであるから,甲3及び4の記載を基に,甲1発明において,仮に,その限外濾過膜をNF膜に置き換えることを着想したとしても,甲1発明ないしは本件発明1のように,フォトレジスト等の不純物を主として含む濃縮液とテトラアルキルアンモニウムイオンを主として含む透過液とを膜分離することを容易に想到することができない。
してみれば,甲1発明に甲2〜4に記載のものを併せてみても,その限外濾過膜をNF膜に置き換え本件発明1のようにする動機付けがない。
そして,本件明細書の記載(特に,段落0020,段落0075の実施例1の表1,段落0088)によれば,本件発明1は,膜として「ナノフィルトレーション膜(NF膜 」を採択)することにより,その余の特定事項と相俟って,当該フォトレジスト現像廃液からフォトレジストを主として含む濃縮液と,テトラアルキルアンモニウムイオンを主として含む透過液とを有効に膜分離することができるものであり,更には,透過液中へのFe,Alの金属成分やシリカ等の不純物の混入を抑制できることから,テトラアルキルアンモニウムイオンを主として含む透過液の純度を簡単に高くすることができ,当該透過液から水酸化テトラアルキルアンモニウム又はそのイオンを含有する現像液を再生するときの不純物除去負荷を軽減できる等,甲1〜4に記載の発明からは容易に予測することができない有用な効果を奏するものである。
以上のとおり,甲1発明に,甲2〜4に記載される事項を併せてみても,甲1発明において相違点2に関する特定事項を具備するようにすることが当業者が容易に想到することができない。
【相違点3及び5について】本件請求項1の記載及び本件明細書の発明の詳細な説明の記載(特に段落0020,段落0075の実施例1の表1,段落0088)によれば,本件発明1は,その再生方法において,膜分離処理によって得た濃縮液がフォトレジストだけでなくフォトレジスト等の不純物を主として含むとの特定事項を具備することにより,その余の特定事項と相俟って,テトラアルキルアンモニウムイオンを主として含む透過液の純度を簡単に高くすることができ,当該透過液から水酸化テトラアルキルアンモニウム又はそのイオンを含有する現像液を再生するときの不純物除去負荷を軽減できるというものである。
これに対して,甲1発明は ・・・現像廃液の処理コストを低減することを発明の目的とす ,るものであって,現像廃液に含まれるフォトレジストを取り出して固形化するに過ぎないものであり,そこでは,現像廃液の再生につき示唆するものはなく,更には,フォトレジストだけでなくフォトレジスト等の不純物を主として含むフォトレジスト成分濃縮廃液を得て,テトラアルキルアンモニウムイオンを主として含む透過液の純度を高くすることにつき教示するものは何もない。
したがって,甲1発明において,上記相違点3及び5に係る特定事項を具備するようにすることは当業者の容易に想到できるものではない。
次いで,当該相違点につき,甲第2〜4号証の記載を順次みる。
甲2には ・・・ 水酸化テトラアルキルアンモニウム及びノボラック樹脂を主要成分として ,「含有する現像液廃液を,二酸化炭素等で中和処理した後に,限外ろ過膜を使用して精密ろ過を行い(ないしは,分離ろ過膜によってろ過し ,ノボラック樹脂などからなる不溶解性有機物 )の沈澱物を除去した後,中和現像液廃液を電気分解することにより純度の高い水酸化テトラアルキルアンモニウム水溶液を得る水酸化テトラアルキルアンモニウムの再生方法」に関する事項が記載され,このように,そこでは現像廃液の再生方法に関する事項が示されるものの,そこでの処理は,予め現像廃液を二酸化炭素等で中和処理してフォトレジストの沈殿物を得なければならないという特殊な処理を経ることを前提としており,また,そこでの膜分離処理は沈殿物を濾過するであるから固体の濾過物を得ているに過ぎないものであって,透過液(中和現像液廃液)の外に濃縮液を得るものではない。一方,甲1発明は,現像廃液を前処理することなく直接膜分離をなし,且つ,透過液の外に濃縮液(フォトレジスト成分濃縮廃液)を得るものである。
そうであれば,甲2に記載のかかる再生技術を甲1発明のものに適用しようとすること自体が直ちに想到できるものではないし,また,適用したとしても,甲1発明が,上記相違点3及び4の特定事項を具備することにはならない。
甲3及び4には,分離膜の種類と適用範囲,NF膜の開発経緯,NF膜の特徴,NF膜の応用例等につき示されるものの,現像廃液の再生につき教示されるものはない。
したがって,甲2〜4の記載を併せてみても,甲1発明において,フォトレジスト「等の不純物」を主として含むフォトレジスト濃縮廃液を得ることとなし,かつ,その処理方法を再生処理方法とすることが当業者の容易に想到できるものではない。
以上のとおり,上記相違点2,3及び5に係る特定事項を当業者が容易に導き出すことはできない。
また,本件発明1における,膜分離処理が「フォトレジスト現像液に由来する処理液」を対象とする態様の場合においても,上記したことと同じことがいえる。
したがって,本件発明1は,甲1〜4に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。
(イ) 本件発明2〜5,7及び8本件発明2〜5,7及び8は,本件発明1の特定事項を直接又は間接的に全て引用するものである。
したがって,本件発明1について前記した理由と同じ理由により,本件発明2〜5,7及び8は甲第1〜4号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。
(ウ) 本件発明9甲1には ・・・フォトレジスト成分含有廃液を限外濾過膜により濾過してレジスト成分濃 ,縮廃液を取り出すフォトレジスト含有廃液の処理方法が記載され,そして ・・・その処理方,法の具体例として 「フォトレジスト含有廃液は,限外濾過膜を通じて濾過を行い,フォトレ ,ジスト成分のみ通過させずに濃縮液として残し,現像液の主成分であるアルカリ水溶液は限外濾過膜を自由に透過する」ことが記載され,また,そのフォトレジスト含有廃液としては ・,・・ フォトレジストと有機アルカリ現像液を含んだ現像廃液」を対象とすることが示される 「ものである。この場合 「現像液の主成分であるアルカリ水溶液」における「現像液」の態様 ,には 「有機アルカリ現像液」が含まれることは明らかなことである。 ,そして,上記の処理方法は,通常,装置により実施されるものである。
以上のことから,甲1には 「限外濾過膜により,フォトレジストと有機アルカリ現像液と ,を含んだ現像廃液を濾過して,フォトレジスト成分濃縮廃液と,有機アルカリ現像液の主成分であるアルカリ水溶液を含有する透過液を取り出す,フォトレジストと有機アルカリ現像液とを含んだ現像廃液の処理装置」に関する発明(以下,必要に応じて「甲1’発明」という)が記載されているということができる。
そこで,本件発明9と甲1’発明とを対比する。
甲1’発明では,限外濾過膜により現像廃液を濾過して上記フォトレジスト成分濃縮廃液と上記アルカリ水溶液を含有する透過液を取り出しているのであるから,その現像廃液を膜分離処理するものであるということができるものであり,また,同様な理由により,当該フォトレジスト成分濃縮廃液と当該透過液を得るための膜を備えたフィルターを具備するということができる。
この場合,甲1’発明の「フォトレジスト」及び「現像廃液」は本件発明9の「フォトレジスト」及び「フォトレジスト現像廃液」にそれぞれ相当し,甲1’発明の「フォトレジスト成分濃縮廃液 及び 透過液 は本件発明9の フォトレジストを主として含む濃縮液 及び 透 」「」「 」「過液」にそれぞれ相当する。
よって,両者は,「フォトレジストを主として含有するフォトレジスト現像廃液を膜分離処理し,フォトレジストを主として含む濃縮液と透過液を得るための膜を備えたフィルターを包含する,フォトレジスト現像廃液の処理装置」である点で一致し,以下の点で相違する。
【相違点1 】フォトレジスト現像廃液が,本件発明9では 「テトラアルキルアンモニウムイ ’ ,オンを主として含有する」というのに対して,甲1’発明では,その現像廃液には有機アルカリ現像液が含まれるものの,当該イオンを含むことまでは明示されず,当該特定事項を具備しない点【相違点2 】膜を備えたフィルターが,本件発明9では 「NF膜を備えたナノフィルター」 ’ ,であるとするのに対して,甲1’発明では限外濾過膜を用いるものであって当該特定事項を具備しない点【相違点3 】濃縮液が,本件発明9では,フォトレジスト「等の不純物」を主として含むと ’いうのに対して,甲1’発明では,フォトレジスト成分濃縮廃液にフォトレジスト以外の不純物を含有することまでが示されず,当該特定事項を具備しない点【相違点4 】透過液が,本件発明9では 「テトラアルキルアンモニウムイオンを主として含 ’ ,む」というのに対して,甲1’発明ではその透過液には有機アルカリ現像液の主成分であるアルカリ水溶液を含有するものの,当該イオンを含むことまでは明示されず,当該特定事項を具備しない点【相違点5 】処理装置が,本件発明9では 「再生」処理装置であるのに対して,甲第1’発 ’ ,明ではその特定事項を具備しない点以下,上記相違点に係る特定事項が容易に想到できるか否かにつき検討する。
【相違点1’及び4’について】上記・・・の相違点1及び4についての箇所で記載したとおり,甲1’発明では,現像廃液にテトラアルキルアンモニウムイオンを主として含有し,また,その透過液にテトラアルキルアンモニウムイオンを主として含有するとの態様を含み得るものである。
そうであれば,これらの点が,両者の実質上の相違点とはなり得ないものである。
【相違点2’について】本件請求項9の記載によれば,本件発明9において,その再生処理装置が「NF膜を備えたナノフィルター」を包含するとの特定事項は,フォトレジスト及びテトラアルキルアンモニウムイオンを主として含有するフォトレジスト現像廃液から,フォトレジスト等の不純物を主として含む濃縮液とテトラアルキルアンモニウムイオンを主として含む透過液を膜分離するために採択されるものである。
これに対して ・・・相違点2についての箇所で記載したとおり,甲1’発明では,限外濾 ,過膜による膜分離技術につき示されるに過ぎず,NF膜を用いた膜分離技術につき教示するものは何もないものである。
また ・・・の相違点2についての箇所で記載したとおり,NF膜がテトラアルキルアンモ ,ニウムイオンを透過させることが容易に予測できないのであるから,甲1’発明において,仮に,その限外濾過膜(分離ろ過膜)をNF膜を備えたナノフィルターに置き換えることを着想したとしても,本件発明9のように,フォトレジスト等の不純物を主として含む濃縮液とテトラアルキルアンモニウムイオンを主として含む透過液を膜分離することを容易に想到することができない。
したがって,甲1’発明において,その膜を,限外濾過膜(分離ろ過膜)からNF膜を備えたナノフィルターに置き換える動機付けが存在せず,本件発明9の特定事項を具備するようにすることは当業者といえども容易に想到できるものではない。
次に,甲2〜4の記載をみても ・・・相違点2についての箇所で記載したとおり,テトラ ,アルキルアンモニウムイオンがNF膜を透過することについて教示するものは何もない。
そして,本件明細書の記載(特に,段落0020,段落0075の実施例1の表1,段落0),,「 」 088 によれば 本件発明9において その再生処理装置が NF膜を備えたナノフィルターを包含するとの特定事項を具備することにより,その余の特定事項と相俟って,当該フォトレジスト現像廃液からフォトレジストを主として含む濃縮液と,テトラアルキルアンモニウムイオンを主として含む透過液とを有効に膜分離することができるものであり,更には,透過液中へのFe,Alの金属成分やシリカ等の不純物の混入を抑制できることから,テトラアルキルアンモニウムイオンを主として含む透過液の純度を簡単に高くすることができ,当該透過液から水酸化テトラアルキルアンモニウム又はそのイオンを含有する現像液を再生するときの不純物除去負荷を軽減できる等,甲1〜4に記載の発明からは容易に予測することができない有用な効果を奏するものである。
以上のとおり,甲1’発明に,甲2〜4に記載される事項を併せてみても,甲1’発明において相違点2’に関する特定事項を具備するようにすることが当業者が容易に想到することができない。
【相違点3’及び5’について】本件請求項1の記載及び本件明細書の発明の詳細な説明の記載(特に段落0020,段落0075の実施例1の表1,段落0088)によれば,本件発明9は,その再生方法において,膜分離処理によって得た濃縮液がフォトレジストだけでなくフォトレジスト等の不純物を主として含むとの特定事項を具備することにより,その余の特定事項と相俟って,テトラアルキルアンモニウムイオンを主として含む透過液の純度を簡単に高くすることができ,当該透過液から水酸化テトラアルキルアンモニウム又はそのイオンを含有する現像液を再生するときの不純物除去負荷を軽減できるというものである。
これに対して ・・・相違点3及び5についての箇所で記載した理由と同じ理由により,甲 ,2〜4の記載を併せてみても,甲1’発明において,フォトレジスト「等の不純物」を主として含むフォトレジスト濃縮廃液を得て,その処理方法を再生処理方法とすることが当業者の容易に想到できるものではない。
以上のとおり,上記相違点2 ,3’及び5’に係る特定事項が当業者が容易に導き出すこ ’とはできない。
また,本件発明9における,膜分離処理が「フォトレジスト現像液に由来する処理液」を対象とする態様の場合においても,上記したことと同じことがいえる。
したがって,本件発明9は,甲1〜4に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。
(エ) 本件発明11本件発明11は,本件発明9の特定事項を全て引用するものである。
したがって,本件発明9について前記した理由と同じ理由により,本件発明11は甲第1〜4号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。
イその2(甲2に記載の発明との対比)(ア) 本件発明1甲2には水酸化テトラアルキルアンモニウムの再生方法に関する事項が記載されており,その具体的構成につき検討する。
甲2には ・・・ ポジ型レジストの現像液として使用された水酸化テトラアルキルアンモニ ,「ウムを含有する現像液の廃液(必要に応じて 「現像液廃液」という)を,二酸化炭素等で中 ,和処理した後に,限外ろ過膜を使用して精密ろ過を行い(ないしは,分離ろ過膜によってろ過し ,ノボラック樹脂などからなる不溶解性有機物の沈澱物を除去した後,中和現像液廃液を )電気分解することにより純度の高い水酸化テトラアルキルアンモニウム水溶液を得る水酸化テトラアルキルアンモニウムの再生方法」が記載されており,かつ,その現像液の廃液には ・,・・水酸化テトラアルキルアンモニウムを主要成分として含む外に,ノボラック樹脂も主成分として含有するものである。
よって,甲2には 「水酸化テトラアルキルアンモニウム及びノボラック樹脂を主要成分と ,して含有する現像液廃液を,二酸化炭素等で中和処理した後に,限外ろ過膜を使用して精密ろ過を行い(ないしは,分離ろ過膜によってろ過し ,ノボラック樹脂などからなる不溶解性有 )機物の沈澱物を除去した後 (ろ過済みの)中和現像液廃液を電気分解することにより純度の ,高い水酸化テトラアルキルアンモニウム水溶液を得る水酸化テトラアルキルアンモニウムの再生方法」に関する発明(以下,必要に応じて 「甲2発明」という)が記載されているという ,ことができる。
そこで,本件発明1と甲2発明とを対比する。
先ず,甲2発明では,現像液廃液から水酸化テトラアルキルアンモニウムを再生するものであるから,現像液廃液の再生処理方法に関するものであるということができる。
次いで,甲2発明では,限外ろ過膜(ないしは分離ろ過膜)により現像液廃液をろ過して上, , 記ノボラック樹脂などからなる沈殿物を除去し 中和した現像液廃液を得ているのであるから現像液廃液を膜により膜分離処理するものであるということができるものであり,また,同様な理由により (ろ過済みの)中和現像液廃液を得る膜分離工程を具備するということができ ,る。
,「()」 ,() そして 甲2発明におけるろ過済みの 中和現像液廃液 は 限外ろ過膜分離ろ過膜を透過したものであるから,本件発明1の「透過液」に相当し,また,その中和現像液廃液からはろ過によってノボラック樹脂が除去されているのであるから,当該中和現像液廃液には,テトラアルキルアンモニウムイオンが主として含まれるのは当然のことである。
この場合,甲2発明の「ノボラック樹脂」及び「現像液廃液」は本件発明1の「フォトレジスト」及び「フォトレジスト現像廃液」にそれぞれ相当する。
よって,両者は,「フォトレジスト及びテトラアルキルアンモニウムイオンを主として含有するフォトレジスト現像廃液を処理するに当たって,膜によりフォトレジスト現像廃液を膜分離処理し,テトラ(), アルキルアンモニウムイオンを主として含む透過液を得る膜分離工程 A を少なくとも含むフォトレジスト現像廃液の再生処理方法」である点で一致し,以下の点で相違する。
【相違点イ】膜が,本件発明1では 「ナノフィルトレーション膜(NF膜 」であるのに対し , )て,甲2発明では,限外ろ過膜(分離ろ過膜)を用いており,当該特定事項を具備しない点【相違点ロ】膜分離工程において透過液と共に得られるものが,本件発明1では 「フォトレ,ジスト等の不純物を主として含む濃縮液」であるのに対して,甲2発明において得られるものは,ノボラック樹脂などからなる不溶解性有機物の沈澱物からなるろ過物であり,当該特定事項を具備しない点以下,上記相違点に係る特定事項が容易に想到できるか否かにつき検討する。
【相違点イについて】本件請求項1の記載によれば,本件発明1において,膜としての「ナノフィルトレーション膜(NF膜 」は,フォトレジスト及びテトラアルキルアンモニウムイオンを主として含有す )るフォトレジスト現像廃液から,フォトレジスト等の不純物を主として含む濃縮液とテトラアルキルアンモニウムイオンを主として含む透過液を膜分離するために採択されるものである。
これに対して,甲2発明では,その現像液廃液の処理において,限外ろ過膜を使用して精密ろ過するものであり,ないしは,分離ろ過膜によりろ過するに止まり,NF膜を用いた膜分離技術につき教示するものは何もない。
また ・・・NF膜がテトラアルキルアンモニウムイオンを透過させることが容易に予測で ,きないのであるから,甲2発明において,仮に,その限外濾過膜(ないしは分離ろ過膜)をNF膜に置き換えることを着想したとしても,本件発明1のように,フォトレジスト等の不純物を主として含む濃縮液とテトラアルキルアンモニウムイオンを主として含む透過液とを膜分離することを容易に想到できるものではない。
したがって,甲2発明において,その膜を,限外濾過膜(ないしは分離ろ過膜)からNF膜に置き換える動機付けが存在せず,本件発明1の特定事項を具備するようにすることは当業者といえども容易に想到できるものではない。
次に,当該特定事項につきその他の甲号各証の記載を順次みる。
甲1には ・・・ 限外濾過膜により,フォトレジストと有機アルカリ現像液とを含んだ現像 ,「廃液を濾過して,フォトレジスト成分濃縮廃液と,有機アルカリ現像液の主成分であるアルカリ水溶液を含有する透過液を取り出す,フォトレジストと有機アルカリ現像液とを含んだ現像廃液の処理方法」に関する事項が記載されているものの,当該相違点につき示唆するものは何もない。
甲3及び4には ・・・テトラアルキルアンモニウムイオンがNF膜を透過することについ ,て教示するものは何もない。
したがって,NF膜がテトラアルキルアンモニウムイオンを透過させることが予測できないのであるから,甲3及び4の記載を基に,甲2発明において,仮に,その限外濾過膜(ないしは分離ろ過膜)をNF膜に置き換えることを着想したとしても,本件発明1のように,フォトレジスト等の不純物を主として含む濃縮液とテトラアルキルアンモニウムイオンを主として含む透過液とを膜分離することを容易に想到することはできない。
してみれば,甲2発明に甲1,3及び4に記載のものを併せてみても,その限外濾過膜をNF膜に置き換える動機付けがない。
そして ・・・本件発明1は,膜として「ナノフィルトレーション膜(NF膜 」を採択する , )ことにより,当該フォトレジスト現像廃液からフォトレジストを主として含む濃縮液と,テトラアルキルアンモニウムイオンを主として含む透過液とを有効に膜分離することができるものであり,更には,透過液中へのFe,Alの金属成分やシリカ等の不純物の混入を抑制できることから,テトラアルキルアンモニウムイオンを主として含む透過液の純度を簡単に高くすることができ,当該透過液から水酸化テトラアルキルアンモニウム又はそのイオンを含有する現像液を再生するときの不純物除去負荷を軽減できる等,甲1〜4に記載の発明からは容易に予測することができない有用な効果を奏するものである。
以上のとおり,甲2発明に,甲1,3及び4に記載される事項を併せてみても,甲2発明において相違点イに関する特定事項を具備するようにすることが当業者が容易に想到することができない。
また,本件発明1における,膜分離処理が「フォトレジスト現像液に由来する処理液」を対象とする態様の場合においても,上記したことと同じことがいえる。
したがって,他の相違点につき検討するまでもなく,本件発明1は,甲1〜4に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。
(イ) 本件発明2〜5,7及び8本件発明2〜5,7及び8は,本件発明1の特定事項を直接又は間接的に全て引用するものである。
したがって,本件発明1について前記した理由と同じ理由により,本件発明2〜5,7及び8は甲1〜4に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。
(ウ) 本件発明9甲2には ・・・ ポジ型レジストの現像液として使用された水酸化テトラアルキルアンモニ ,「ウムを含有する現像液の廃液(必要に応じて 「現像液廃液」という)を,二酸化炭素等で中 ,和処理した後に,限外ろ過膜を使用して精密ろ過を行い(ないしは,分離ろ過膜によってろ過し ,ノボラック樹脂などからなる不溶解性有機物の沈澱物を除去した後,中和現像液廃液を )電気分解することにより純度の高い水酸化テトラアルキルアンモニウム水溶液を得る水酸化テトラアルキルアンモニウムの再生方法」が記載されており,かつ,その現像液の廃液には ・,・・水酸化テトラアルキルアンモニウムを主要成分として含む外に,ノボラック樹脂も主成分として含有するものである。
そして,上記の処理又は再生方法は,通常,装置により実施されるものである。
よって,甲2には 「水酸化テトラアルキルアンモニウム及びノボラック樹脂を主要成分と ,して含有する現像液廃液を,二酸化炭素等で中和処理した後に,限外ろ過膜を使用して精密ろ過を行い(ないしは,分離ろ過膜によってろ過し ,ノボラック樹脂などからなる不溶解性有 )機物の沈澱物を除去した後,中和現像液廃液を電気分解することにより純度の高い水酸化テトラアルキルアンモニウム水溶液を得る水酸化テトラアルキルアンモニウムの再生装置」に関す(,,「’」) 。 る発明 以下必要に応じて甲2 発明 というが記載されているということができるそこで,本件発明9と甲2’発明とを対比する。
先ず,甲2’発明では,現像液廃液から水酸化テトラアルキルアンモニウムを再生するものであるから,現像液廃液の再生処理装置に関するものであるということができる。
次いで,甲2’発明では,限外ろ過膜(ないしは分離ろ過膜)により現像液廃液をろ過して上記ノボラック樹脂などからなる沈殿物を除去し,中和現像液廃液を得ているのであるから,現像液廃液を膜分離処理するものであるということができるものであり,また,同様な理由により,中和現像液廃液を得るための膜を備えたフィルターを具備するということができる。
そして,甲2’発明における「中和現像液廃液」は,限外ろ過膜(分離ろ過膜)を透過して取り出されるものであるから,本件発明9の「透過液」に相当し,また,その中和現像液廃液, , からはろ過によってノボラック樹脂が除去されているのであるから 当該中和現像液廃液にはテトラアルキルアンモニウムイオンが主として含まれるのは当然のことである。
この場合,甲2’発明の「ノボラック樹脂」及び「現像液廃液」は本件発明1の「フォトレジスト」及び「フォトレジスト現像廃液」にそれぞれ相当する。
よって,両者は,「フォトレジスト及びテトラアルキルアンモニウムイオンを主として含有するフォトレジスト現像廃液を膜分離処理し,テトラアルキルアンモニウムイオンを主として含む透過液を得るための膜を備えたフィルターを包含する,フォトレジスト現像廃液の再生処理装置」である点で一致し,以下の点で相違する。
【相違点イ 】膜を備えたフィルターが,本件発明9では 「NF膜を備えたナノフィルター」 ’ ,であるのに対して,甲2’発明では,限外ろ過膜(分離ろ過膜)を用いており,当該特定事項を具備しない点【相違点ロ 】膜を備えたフィルターが,本件発明9では 「フォトレジスト等の不純物を主と ’ ,して含む濃縮液をうるための」ものであるのに対して,甲2’発明において得られるものは,ノボラック樹脂などからなる不溶解性有機物の沈澱物からなるろ過物であり,当該特定事項を具備しない点以下,上記相違点につき検討する。
【相違点イ’について】本件請求項9の記載によれば,本件発明9において,その再生処理装置が「NF膜を備えたナノフィルター」を包含するとの特定事項は,フォトレジスト及びテトラアルキルアンモニウムイオンを主として含有するフォトレジスト現像廃液から,フォトレジスト等の不純物を主として含む濃縮液とテトラアルキルアンモニウムイオンを主として含む透過液を膜分離するために採択されるものである。
これに対して,甲2’発明では,現像液廃液の処理において,限外ろ過膜を使用して精密ろ過するものであり,ないしは,分離ろ過膜によりろ過するに止まり,NF膜を用いた膜分離技術につき教示するものは何もない。
また ・・・NF膜がテトラアルキルアンモニウムイオンを透過させることが容易に予測で ,きないのであるから,甲2’発明において,仮に,その限外濾過膜(分離ろ過膜)をNF膜を備えたナノフィルターに置き換えることを着想したとしても,本件発明9のように,フォトレジスト等の不純物を主として含む濃縮液とテトラアルキルアンモニウムイオンを主として含む透過液とを膜分離することを容易に想到することはできない。
したがって,甲2’発明において,その膜を,限外濾過膜(分離ろ過膜)からNF膜を備えたナノフィルターに置き換える動機付けが存在せず,本件発明9の特定事項を具備するようにすることは当業者といえども容易に想到できるものではない。
次に,甲1,3及び4の記載をみても ・・・テトラアルキルアンモニウムイオンがNF膜 ,を透過することについて教示するものは何もない。
そして,本件明細書の記載(特に,段落0020,段落0075の実施例1の表1,段落0),,「 」 088 によれば 本件発明9において その再生処理装置が NF膜を備えたナノフィルターを包含することにより,その余の特定事項と相俟って,当該フォトレジスト現像廃液からフォトレジストを主として含む濃縮液と,テトラアルキルアンモニウムイオンを主として含む透過液とを有効に膜分離することができるものであり,更には,透過液中へのFe,Alの金属成分やシリカ等の不純物の混入を抑制できることから,テトラアルキルアンモニウムイオンを主として含む透過液の純度を簡単に高くすることができ,当該透過液から水酸化テトラアルキルアンモニウム又はそのイオンを含有する現像液を再生するときの不純物除去負荷を軽減できる等,甲1〜4に記載の発明からは容易に予測することができない有用な効果を奏するものである。
以上のとおり,甲2’発明に,甲1,3及び4に記載される事項を併せてみても,甲2’発明において相違点イ’に関する特定事項を具備するようにすることが当業者が容易に想到することができない。
また,本件発明9における,膜分離処理が「フォトレジスト現像液に由来する処理液」を対象とする態様の場合においても,上記したことと同じことがいえる。
したがって,他の相違点につき検討するまでもなく,本件発明9は,甲1〜4に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。
(エ) 本件発明11本件発明11は,本件発明9の特定事項を全て引用するものである。
したがって,本件発明9について前記した理由と同じ理由により,本件発明11は甲1〜4に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。
ウ請求人の主張について(ア)請求人は 「本件の請求項1,9に係る特許発明では,そのようなフォトレジスト現像 ,廃液を単にNF膜を用いて膜処理すれば 「フォトレジスト等の不純物を主として含む濃縮液 ,とテトラアルキルアンモニウムイオンを主として含む透過液を得る」としており,本件特許出願時の当該技術分野の技術常識に照らしても,また今日の技術常識に照らしても,そのような効果を奏するとは到底考えられるものではない・・・と主張するので,以下に検討する。 。」まず 本件請求項1では・・・ナノフィルトレーション膜 NF膜 により・・・ フォ ,,「 (),トレジスト等の不純物を主として含む濃縮液とテトラアルキルアンモニウムイオンを主として含む透過液を得る膜分離工程(A)を少なくとも含む・・・」と記載され,このように,本件発明1は,単に,NF膜を具備するものではなく,NF膜により上記濃縮液と上記透過液を得る工程をその特定事項として具備することが示されるのである。
また,本件請求項9では 「・・・フォトレジスト等の不純物を主として含む濃縮液とテト ,ラアルキルアンモニウムイオンを主として含む透過液を得るためのNF膜を備えたナノフィルターを包含する・・・ と記載され このように 本件発明9は 単にNF膜を備えたナノフィ 」,,,ルターを具備するものではなく,上記濃縮液と上記透過液を得るためのNF膜を具備するものである。
そうであれば,特殊な条件により,NF膜でフォトレジスト現像液を上記の如く濃縮液と透過液に膜分離できない態様が仮に存在したとしても,それは当然のこととして除外されるものである。
したがって,請求人の上記主張は合理的でない。
更に,本件発明においてNF膜を用いることにより奏するところの効果を重ねて説明すると以下のとおりである。
本件明細書の実施例1の表1等の記載,同段落0020の記載をはじめ,乙6の表1〜5の記載において,各種NF膜を用いた場合,種々の条件において,フォトレジストを主として含む濃縮液とテトラアルキルアンモニウムイオンを主として含む透過液を得ることができることが示されるものである。
更に,上記各表においては,Fe3+,Al3+,Ca2+,イオン状シリカがNF膜を透過して透過液中に混入することが抑制されるものである。
なお,この場合,現像廃液中においては,イオン半径が0.102nmであるNa+に比べて,イオン半径が小さいところの,Fe3+(0.0645nm ,Al3+(0.0535 )nm)及びCa2+(0.100nm)の方が,総じて,NF膜に対する透過性が抑制されるものであり,この点においてもNF膜の特異性が示される。
(イ)請求人は 「本件特許発明の構成(ア)及び(エ)を示す甲2に記載の再生方法におい ,て 甲4に示された周知慣用技術 すなわち本件発明の構成 イ であるナノフィルトレーショ , , ()ン膜(NF膜)を用いて 「濃縮液」と「透過液」を得ることで再生処理する,という技術を ,適用することに何ら困難性はないと考えられ・・・と,甲2に記載の発明において甲4に示 ,」されたNF膜を用いることが困難でない旨主張するので以下に検討する。
甲2発明において,その限外ろ過膜(分離ろ過膜)をNF膜とすることが容易に想到できない・・・。
更に付言すると以下のとおりとなる。
甲2発明においては,中和後の現像液中のノボラック樹脂などからなる不溶解性有機物の沈澱物を限外ろ過膜等により除去分離するものである。
一方,NF膜の適用範囲につき,甲3・・・を見ると ・・・NF膜は,しょ糖,卵アルブ ,ミン,ヘモグロビンという溶質ないしコロイドを対象とするものであり,また,甲第4号証をみると,NF膜の応用例としては,かん水の脱塩,上水原水中の有害物質の除去,排水・下水処理,食品及び農業が挙げられているが,いずれの応用例においても,分離の対象は沈殿物ないしは粒子ではなく,塩類や着色物質等の溶質であり,更に,乙4には,NTR-7410,NTR-7450,NTR-7250,NTR-729HF,NTR-769SRで示されるNF膜(本件明細書段落0010参照)についての主な用途として,アミノ酸,糖類の濃縮・精製,医療品バルクの濃縮・精製,半導体超純水システム,河川水,かん水などの脱塩,下水の高度処理などの脱塩,パルプなどの廃水処理,有価物の脱塩処理が記載されており,その用途からみて明らかなように,分離の対象は沈殿物ないしは粒子ではないものである。
このように,NF膜は分子,イオン等の微細な処理物の分離に用いられるものであって,嵩高である沈殿物や粒子などの固形物の膜分離には通常用いられないものである。
更に,NF膜は固形物の分離に用いられている精密濾過膜や限外ろ過膜に比べてその分画分子量が相対的に小さいことから,膜を透過させるために被透過液に加える圧力が相対的に高くなり,エネルギー的に不利になることが想定され,したがって,NF膜を,精密濾過膜や限外ろ過膜に替えてそのような固形物の分離に実際に用いようとは当業者であれば試みないものである。
そうであれば,甲2発明において,沈澱物を除去分離する分離膜として用いられている限外ろ過膜等を,NF膜に置き換えることは当業者であれば,想到できないものである。
したがって,請求人の上記主張は失当という外はない。
(ウ)請求人は 「参考資料6から,被請求人がNF膜の顕著な効果として挙げている膜性能 ,は,NF膜特有のものとは言い難く,UF膜においてもその分画分子量の小なるものはNF膜と同じような特性を示すことが明らかである・・・と主張するので,参考資料6をみても本 。」件発明の奏する効果が有用でないとはいえないことを以下に説明する。
請求人の提出した参考資料6においては,分離膜として,NTR-7410(NF膜)とDESAL-GH/G-10〔請求人はUF膜(限外濾過膜)であると主張〕につき,現像廃液,,「」 の膜分離試験を行った結果が記載されており 請求人の主張は そこでの 分析結果のまとめの表(参考資料6の第3頁目上段)において, 「TMA-OH(水酸化テトラメチルアンモニウム)の除去率とPR(レジスト)の除去率が,DESAL-GH/G-10膜で,それぞれ,7.6%及び70.2%であり,NTR-7410膜で,それぞれ,1.2%及び17.8%である」とのことに基づくものである。
しかし,参考資料6の試験では,被請求人の提出して乙第6号証の同種の実験報告の場合とは異なり,各種の圧力,温度の濾過条件下で試験が実施されたものではなく,しかも,その試験では,現像廃液を30cc透過毎に追い添えする,追い添え時に透過を停止するなど,特別な通液条件で試験がなされているものである。
そして,現像廃液中のフォトレジストの分子量は,甲1の前記(A-3)によれば一般的に5000〜10000程度である一方,NF膜の分画分子量の上限が1000であって,当該NF膜が当該フォトレジストを大部分透過することなど想定できるものではないところ,参考資料6の上記試験結果は,NTR-7410のレジストの除去率が17.8%(すなわち,透過率が82.2%)であるというものであり,通常の条件下の膜分離では想定することができない特異なものとなっている。
そうであれば,参考資料6における試験結果からはNF膜につきフォトレジストとTMA+(テトラメチルアンモニウムイオン)とが良好に分離できなかったとしても,それは,特定の,, , , 試験条件下で 偶々 そのような結果が得られたということに過ぎず その試験結果のみから本件発明の奏する効果が有用でないとまではいえない。
この外,参考資料6の考察(第3頁目上段)をみると,DESAL-GH/G-10のものは同NTR-7410に比べ,その現像廃液の膜分離に約10倍もの時間を費やすものであるから,DESAL-GH/G-10のものよりも,NF膜であるNTR-7410のほうが工業的に有用であるといえる。
したがって,本件発明が有用な効果を奏さないといえるものではない。
(2) まとめ以上のとおり,本件請求項1〜5,7〜9及び11に係る発明についての特許は,請求人の主張する理由によっては,無効とすることができない 」。
第3審決取消事由の要点1取消事由1(進歩性の判断における誤り)膜分離の技術分野において,被分離物質を分離する際,いかなる分離法,分離膜を選定するかについては,対象とする被分離物質に対して様々な分離膜,分離プロセスを適用して試してみるというのが,当該分野の当業者の常識である。
審決は,被分離物質の分離膜に対する透過可能性の予測の可否を検討し,その検討結果のみに基づいて本件発明の容易想到性の判断を行っており,かかる判断方法は当該分野の上記の現実を無視した判断であり,その誤りは明白である。
2取消事由2(相違点2についての判断の誤り)審決が 「テトラメチルアンモニウムイオンが,膜の透過に際してNF膜の荷電 ,効果の影響を受けることにより,テトラメチルアンモニウムイオンがNF膜を透過できるとは容易には予測できない」とした判断は 「NF膜は,分子量130程度 ,の(+)電荷(窒素原子由来)を有する有機物を透過する(甲4の図1)との事 。」実を看過してされたものであり,上記の透過を予測することに何ら困難性はない。
本件特許明細書の段落番号0012に記載されたテトラアルキルアンモニウムイオンの分画分子量は約91〜147であり,NF膜の分画分子量は200〜1000である。またこれらのイオンはいずれも窒素原子由来の(+)の電荷を保有しているので,NF膜のふるい効果及び荷電効果により,膜を透過することは容易に予測できるのであり,むしろ,透過できないことの予測が困難なのである。したがって 「透過することの予測ができない」ことを前提とした判断は誤りである。 ,一方,フォトレジスト現像廃液中に含まれるフォトレジストの分子量は5000〜10000程度であり(甲1の段落【0009,テトラアルキルアンモニウム 】)と結合することから明らかなように,その電荷は(-)である。NF膜のふるい効果及び荷電効果により,現像廃液中のフォトレジストが阻止されることは容易に予測できる。
また,NF膜と限外濾過膜の適用範囲は一部重複する(甲3の図1.4)ので,甲1発明における限外濾過膜に替えて,NF膜を適用する動機付けは充分にあり,甲1発明に甲3に記載のものを併せてみたとき,本件発明1は当業者が容易に想到できたものといえるのである。
また,甲4の49頁右欄の表2には,NF膜の金属成分に対する透過率が示されており,それらの透過率は水分の透過率を1としたとき,1価の陽イオンであるKやNaの場合,0.25,0.15であるが,2価の陽イオンであるCaやMgの, . , ., 。, 場合 0 2 0 05と その透過率は大きく低下している これらの記載からNF膜の金属成分に対する透過率(阻止性能)は,価数の増加に伴って低下していく(大きくなる)と予想される。一方,甲6の第4-3-6頁の表2には,本件発明1において用いられているNF膜(NTR-7250)のSiO2(シリカ)に対する阻止率が40%であることが示されている。そうすると 「…透過液中への,Fe,Alの金属成分やシリカ等の不純物の混入を抑制できること…当該透過液から水酸化テトラアルキルアンモニウム又はそのイオンを含有する現像液を再生するときの不純物除去負荷を軽減できる等,…容易に予測することができない有用な効果を奏する… (審決16頁3〜9行)との判断は誤りであり,前記効果を奏する 」ことは容易に予測できるから,相違点2の判断が誤っていることは明らかである。
3取消事由3(相違点3及び5についての判断の誤り)相違点5は,本件発明1が「再生」処理であるのに対し,甲1発明ではその特定事項を具備しない点である。しかし甲1発明には「一層の無公害化と生物処理等の廃液処理工程が削減でき,コスト低減が図れる 」との記載がある 「一層の無公害 。。
化」を目的とする以上,甲1発明において廃液として捨てるものを,再生利用すれば良いことは,通常人でも容易に想到するところであるから,甲1発明に接した当事者が相違点5に係る特定事項を具備するようにすることに何らの阻害要因はない。まして,甲2には「同様な廃液の再生方法」についての記載があることからすれば,甲1発明のものに適用すること自体直ちに想到できるのである。
また,相違点3は,本件発明1がフォトレジスト「等の不純物」を主として含むとするのに対して,甲1発明ではフォトレジスト以外の不純物を含有することまでが示されていない点である。しかし,NF膜を使用すればシリカは少なくとも40%阻止される(甲6)のであるから,仮に元の現像廃液にシリカがふくまれていた場合に,甲1発明にNF膜を適用するだけで,フォトレジストとシリカを含む濃縮液が当然に得られるのである。
したがって,上記相違点3および5に係る特定事項は,当業者が容易に導き出すことができるから,審決の判断は誤りである。
4取消事由4(本件発明2〜5,7及び8に関する判断の誤り-甲1発明との対比)本件発明2〜5,7及び8は,本件発明1の特定事項を直接又は間接にすべて引用するものである。したがって,本件発明1と同じ理由により,これらの発明と甲1発明との対比に関する審決の判断は誤りである。
5取消事由5(相違点2 ,3’及び5’についての判断の誤り) ’前記取消事由2(相違点2についての判断の誤り)と取消事由3(相違点3及び5についての判断の誤り)と同趣旨により,審決の判断は誤りである。
なお,本件発明9(装置の発明)は本件発明1(方法の発明)を具現化した装置に関するものであると言えるが,両発明の特定事項には実質的相違がない。
6取消事由6(本件発明11に関する判断の誤り-甲1発明との対比)本件発明11は,本件発明9の特定事項をすべて引用するものである。したがって,取消事由5と同様の理由により,審決の判断は誤りである。
7取消事由7(相違点イについての判断の誤り)相違点イは,本件発明1ではNF膜を使用しているのに対し,甲2発明では限外濾過膜を用いている点である。しかし,この相違点の判断についても,取消事由2(相違点2についての判断の誤り)で述べたのと同様の誤りがある。
8取消事由8(本件発明2〜5,7及び8に関する判断の誤り-甲2発明との対比)本件発明2〜5,7及び8は,本件発明1の特定事項を直接又は間接にすべて引用するものであり,したがって,本件発明1と同じ理由により,これらの発明と甲2発明との対比に関する審決の判断は誤りである。
9取消事由9(相違点イ’についての判断の誤り)取消事由7(相違点イについての判断の誤り)と同様である。
10取消事由10(本件発明11に関する判断の誤り-甲2発明との対比)本件発明11は,本件発明9の特定事項をすべて引用するものであり,したがって,取消事由9と同様の理由により,審決の判断は誤りである。
11「請求人の主張について」との判断部分について審決は,請求人(原告)の「本件の請求項1,9に係る特許発明では,そのようなフォトレジスト現像廃液を単にNF膜を用いて膜処理すれば 『フォトレジスト,等の不純物を主として含む濃縮液とテトラアルキルアンモニウムイオンを主として含む透過液を得る』としており,本件特許出願時の当該技術分野の技術常識に照らしても,また今日の技術常識に照らしても,そのような効果を奏するとは到底考えられるものではない 」との主張に対して「本件発明1は,単に,NF膜を具備す 。
るものではなく,NF膜により上記濃縮液と上記透過液を得る工程をその特定事項として具備」し 「また ・・・本件発明9は,単にNF膜を備えたナノフィルター ,,を具備するものではなく,上記濃縮液と上記透過液を得るためのNF膜を具備するものである。そうであれば,特殊な条件により,NF膜でフォトレジスト現像液を上記の如く濃縮液と透過液に膜分離できない態様が仮に存在したとしても,それは当然のこととして除外されるものである 」と判断している。。
しかし 「NF膜」といっても甲4の47頁の表1に示すように,さまざまな種 ,,()「」 , 類のものがあり- に荷電している NF膜 を使用すれば本件発明のとおりテトラメチルアンモニウムイオンが透過することが予測されるものの (+)に荷,電している「NF膜」を使用した場合には,テトラメチルアンモニウムイオンが透過しないことが予測される。
すなわち,請求人(原告)は 「現在の請求項記載の発明特定事項には,特殊な ,条件の場合を除外して考えればよいのではなく,殆ど当然に除外される場合をも含んでいるため,発明を明確に把握することができず,効果に疑問が生じる」旨を主張しているのである。
また,請求人(原告)は 「甲3や甲4には,NF膜について@分離膜として特 ,殊なものではないこと,Aその分離適用範囲には限外濾過膜と一部重なりがあること,Bまた膜の荷電と分離対象の荷電状態を利用して同じ大きさの分子でも分離が可能であること,CNF膜の各種応用例が記載されているが,固形物の膜分離には不向きであるといった記載は何処にもないこと」などからすれば,NF膜を甲1発明や甲2発明に記載の限外濾過膜に替えて実際に用いようとすることは,当業者ならば容易になし得る程度のことであると主張しているのである。
さらに,審決は「NF膜につきフォトレジストとTMA+(テトラメチルアンモニウムイオン)とが良好に分離できなかったとしても,それは,特定の試験条件下で,偶々,そのような結果が得られたということに過ぎ」ない旨認定している。
しかし,請求人(原告)は「請求項記載の発明特定事項には分離条件などが規定されていないのであるから,どのような条件下で行っても,良好に分離できて当然なのではないか」と主張しているのである。
したがって 審決が 請求人の主張について として判断した内容は 請求人 原 ,「」,(告)の主張を正しく理解した上での判断とは到底考えられない。
第4被告の主張の要点1取消事由1(進歩性の判断における誤り)について(1)原告は,審決の判断が「当該分野の当業者の常識に反する「当該分野の現」,実をまったく無視した判断である」等と非難する。
しかし,原告こそが技術常識の認定を誤っているのであり,取消事由1は,その前提を誤るものであって明らかに失当である。
(2)原告が依拠する甲3には 「同一被分離物質を分離する場合に競合する分離 ,プロセスがあり,化学プロセスなどにおいては,いかに最適な分離・精製法を選定するかが,競争力を生む重要なポイントとなる 」と記載されている(6頁2〜4 。
行 。ここで,競合する分離プロセスとは,被分離物質を分離できるプロセスであ )るから,分離膜を用いたプロセスであれば,その前提として,分離膜に対する被分離物質の透過可能性が予め検討されていることは自明である。したがって,原告の「被分離物質の分離膜に対する透過可能性の予測などはしない」という主張は甲3の記載に反する。
さらに,甲3の上記記載から,最適な分離・精製法の選定が,競争力を生む重要なポイントとなるのであるから,最適な分離膜の選定が商業的に重要な発見であることは明らかである。膜であればいずれの種類のものでも容易に取捨選択できる旨の原告の主張は全く根拠がない。
, , 甲3によれば 被分離物質を分離できる複数のプロセスを適用することによって最適な分離法,分離膜の選定を行うことが開示されているところ,本件特許出願当時,NF膜によって,テトラアルキルアンモニウムイオンとフォトレジストとを分離できることは,いかなる証拠にも開示されていなかったので,そもそもNF膜による膜分離工程は,テトラアルキルアンモニウムイオンとフォトレジストとを分離できるプロセスとして認識されていなかったのである。さらに,NF膜に対するテトラアルキルアンモニウムイオン及びフォトレジストの透過可能性が予測できなかったのであるから,当業者がNF膜による膜分離工程を適用する動機付けが存在しないことは明らかである。したがって,審決が進歩性を判断するに際し,テトラアルキルアンモニウムイオンのNF膜に対する透過可能性を検討したのは正当である。
(3)以上のとおり,取消事由1に理由がないことは明らかである。また,後述するとおり,審決は,本件特許出願当時の当業者に認識されていたNF膜の特性を考慮した上で,NF膜の透過可能性を判断したものであり,正当である。
2取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について(1)原告は,審決の「テトラメチルアンモニウムイオンが,膜の透過に際してNF膜の荷電効果の影響を受けることにより,テトラメチルアンモニウムイオンがNF膜を透過できるとは容易には予測できない」との判断は 「 +)に荷電したテト ,(ラメチルアンモニウムイオンは,本件発明において用いられている(-)に荷電したNF膜を透過する」という周知の事実を看過してされたものであり,予測することに何ら困難性はないと主張し,その根拠として 「テトラアルキルアンモニウム ,イオンの分子量は91〜147であり,NF膜の分画分子量は200〜1000である。またこれらのイオンはいずれも(+)の電荷を保有しているので,NF膜のふるい効果及び荷電効果により膜を透過することは容易に予想できる」と述べる。
(2)まず,原告の提出した甲1ないし13には,テトラアルキルアンモニウムイオン及びNF膜の双方を記載したものは存在せず,テトラアルキルアンモニウムイオンがNF膜を透過することも記載されていない。つまり,本件特許出願前において,テトラアルキルアンモニウムイオンがNF膜を透過することは周知の事実ではなかったばかりかそもそも知られていなかったのである。換言すれば,原告の主張は,テトラアルキルアンモニウムイオンがNF膜を透過することを初めて開示した本件発明に基づく後知恵であり,それ自体失当である。
(3)次に,甲4には,NF膜について次のように記載されている。
「NF膜の特徴の一つは,荷電を持っていることで,このことが低い圧力で高い塩類阻止性能が得られたり,分画分子量が数百の膜でも塩類がある程度阻止される大きな原因と考えられている。また,膜の荷電と分子の荷電状態を利用して,同じような大きさの分子でも分離が可能である(47頁右欄5〜10行) 。」さらに,本件特許出願日(1998年1月5日)前の1996年3月6日に発表された「河田一郎著 『NF膜による浄水処理 ,ニューメンブレンテクノロジーシ ,』ンポジウム’96日本膜学会及び社団法人日本能率協会,1996年3月6日」(。),,, 甲6 審決における乙5 の表2には NF膜によって 分子量58のNaCl, , , 分子量94のMgCl2 分子量120のMgSO4 分子量80のNH4NO3分子量60のSiO2,分子量46のエチルアルコール,分子量60のイソプロピルアルコール,分子量180のグルコース,分子量342のショ糖が阻止されることが示されている。
このように,NF膜は,分画分子量よりも小さい塩類も阻止することができ,また同程度の分子であっても分離可能なものであるから,ふるい効果によって孔径よりも小さいものを通過させる単純な限外ろ過膜とは異なるのであり,テトラアルキルアンモニウムイオンの分子量がNF膜の分画分子量よりも小さいからといって当然に透過するものとは予想できないのである。
(4)また,原告は,甲4及び日東電工株式会社のメンブレン事業部が頒布したNTR-7450HG,NTR-7410HGの商品カタログ5頁の第6図(甲8)にNF膜が正荷電を持つアミノ酸を透過することが記載されていることについて,テトラアルキルアンモニウムイオンは正荷電を持つので,NF膜を透過することが予測されると主張する。
しかし,上述したとおり,NF膜は,塩類を阻止する膜であるから,塩類を構成する正荷電を持つ陽イオンを阻止するのである。甲4の表2(49頁)には,牛乳中のミネラルの透過率として,NF膜のカリウム(K)及びナトリウム(Na)の透過率が0.5,0.25,0.15であり,カルシウム(Ca)及びマグネシウム(Mg)の透過率が0.2,0.05,0.03であることが示されている。カリウム(K)及びナトリウム(Na)は溶液中では一価の正荷電を持つカリウムイオン(K+)及びナトリウムイオン(Na+)の状態で,カルシウム(Ca)及びマグネシウム(Mg)は二価の正荷電を持つカルシウムイオン(Ca2+)及びマグネシウムイオン(Mg2+)の状態で存在しており,透過率は,逆から読めば阻止率(1-透過率)を表わすものであるから,NF膜によって,K+及びNa+は. , ., ., . , 0 5 0 75 0 85の阻止率で除去され Ca2+及びMg2+は0 80.95,0.97の阻止率で除去されている。
したがって,NF膜は,テトラアルキルアンモニウムイオンよりも更に小さい正荷電を持つ金属イオンを阻止するものであるから,テトラアルキルアンモニウムイオンが正荷電を持つことを理由として透過可能性を予測する原告の主張には全く理由がない。
さらに,テトラアルキルアンモニウムは,分子内にアミノ基(-NH2)とカルボキシル基(-COOH)とを有する両性電解質のアミノ酸ではないことは明らかであるから,正荷電を持つアミノ酸がNF膜を透過することを理由として,テトラアルキルアンモニウムの透過可能性を予測する原告の主張は論理が飛躍している。
(5)加えて,原告は,甲4の上記表2(49頁)について 「NF膜の金属成分,に対する透過率 阻止性能 は正荷電の 価数の増加に伴って低下していく阻 () ,[] ([止性能が]大きくなる)と予想される 」と主張する。原告のこの主張によれば, 。
NF膜は,正荷電を有するイオンを阻止するものであり,イオンの正の電気量が増加するほど阻止し易いことになる。しかし,かかる主張は,原告の「正電荷「+」を保有するイオンはほとんど阻止されずに透過することは当業者にとって至極当たり前の周知の事実である」という主張を完全に否定するものである。さらに,正の電気量が増加すれば,負荷電を有するNF膜との間の荷電効果も増加するにも拘わらず,NF膜によって阻止し易くなるのであるから,原告の上記主張は,テトラアルキルアンモニウムイオンの正荷電とNF膜の負荷電に基づく荷電効果を理由として「テトラアルキルアンモニウムイオンがNF膜を透過することが予測される」という原告の主張とも矛盾するのである。このように,NF膜の阻止性能は,非常に複雑であり,正荷電の有無によって単純に予測可能となるものではないのである。
この点について,甲6には,以下の記載がある。
「RO膜(逆浸透膜 ,NF膜(ルースRO膜ともいう)による処理方法が従来 )の浄水処理技術では除去が困難な低分子量有機物,農薬,硝酸性窒素等の除去に有効な方法であることを示している(4-3-1頁右欄15〜19行) 。」「 。 NF膜の阻止率は表2に示すように溶質に大きく依存しておりさまざまである例えば,多数の溶質が存在する混合イオン系でのNTR-7250,NTR-7400などの阻止性能は単一溶質系とは異なった複雑な挙動を示し,各イオンの存在比により特定のイオン濃度が供給水より透過水の方が高濃度になるという特異な性能が報告されている。また,NF膜は,一般には無機化合物に比較して有機化合物の阻止率が高いのが特徴となっている。…NF膜は各社からさまざまな性能のものが開発・製品化されているが,その有用性は有機物阻止性能にあると言える(4。」-3-2頁右欄19〜33行)これらの記載によれば,NF膜は,低分子量有機物を阻止し,液中の有機物を除去する有機物阻止性能を有することが本件特許出願前の当業者に知られていた。ま, ,,,, た 甲4及び6の上記記載によれば NF膜の阻止性能は NF膜が 荷電を有し分画分子量よりも小さい塩類も阻止することができ,また同程度の分子であっても分離可能であり,溶質に大きく依存し,しかも多数の溶質が存在する混合イオン系における挙動は複雑なものであるから,当業者にとって阻止性能が未確認の溶質に対するNF膜の阻止性能を予測するのは困難であった。
これに対し,本件発明は,フォトレジスト現像廃液又はフォトレジスト現像廃液に由来する処理液中のフォトレジスト等の不純物を阻止し,テトラアルキルアンモニウムイオンを透過するというNF膜の特性を発見し,かかる特性を利用してされたものである。
すなわち,第一に,テトラアルキルアンモニウムイオンは有機物であり,本件特許出願当時,NF膜の有機物阻止性能が知られていたのであるから,本件特許出願当時の当業者にとって,NF膜がテトラアルキルアンモニウムイオンを透過するという特性は容易に予測できるものではない。したがって,当業者は,NF膜がテトラアルキルアンモニウムイオンを透過することを利用した本件発明を想到することは困難なのである。第二に,フォトレジスト現像廃液又はフォトレジスト現像廃液に由来する処理液中には,少なくともフォトレジスト及びテトラアルキルアンモニウムイオンという2つの溶質が存在し,更に他の溶質も含まれる可能性が高い。本件特許の明細書は,この点について 「現像工程から排出される廃液( フォトレジ , 「スト現像廃液」…)には,通常,溶解したフォトレジストとテトラアルキルアンモニウムイオンが含有されている。…廃液(廃水)は工場によって異なってくるものであり,何が混入してくるか分からず,また,場合によっては他の廃水と混合され, 。」 ることがあり得るので 他種のイオンを対イオンとする塩の形の場合もあり得る( 0003 )と記載しており,本件特許の実施例においても,廃液中にはNa, 【】Fe,Al及びSiO2が含まれているのである。
このように,本件発明は複数の溶質を含有する混合イオン系の処理液を対象とするものであるから,混合イオン系の処理液に対するNF膜の阻止性能を予測することは当業者にとって困難であった。したがって,当業者は,処理液中のフォトレジスト等の不純物を阻止し,テトラアルキルアンモニウムイオンを透過するという特性を利用した本件発明を想到できないのである。
(6)原告は 「甲3には,NF膜と限外ろ過膜との分離対象範囲が一部重複する ,ことが示されている。このことから,甲1発明における限外ろ過膜に代えてNF膜を適用したとき,テトラアルキルアンモニウムイオンがNF膜を透過可能であろう。」。,., ことは容易に予測できると主張する しかしながら 甲3の図1 4においてNF膜と限外ろ過膜とが一部重複するとしても,甲3にはテトラアルキルアンモニウムイオンについて一切記載されておらず,テトラアルキルアンモニウムイオンがNF膜を透過可能であることを示唆するものではない。上記のとおり,NF膜の特, 。 性から NF膜の阻止性能を予測することは当業者にとって困難であったのである(7)また,本件特許出願当時,NF膜は,一般的に逆浸透膜の一種として認識されており,後記のように逆浸透膜によってフォトレジスト現像廃液中のレジストとテトラアルキルアンモニウムイオンとを分離することができなかったことが知られていたので,当業者にとって,NF膜がテトラアルキルアンモニウムイオンを透過することを予測することは困難であった。
NF膜は 「ルーズRO (甲3の図1.4)及び「低圧低阻止率型RO膜 (甲 ,」 」4の46頁右欄30行)と同義であり,ROとは逆浸透(Reverse Osmosis)のことであるから NF膜は 逆浸透膜の一種として認識されていた また 甲4の 低 ,, 。,「塩濃度の地下水や河川水などの淡水化や排水処理,半導体や医療用の超純水の製造にまでRO膜の用途が広がると,それぞれの使用目的にあった膜が必要になった。
中略 このような背景から 最近2種類の新しい膜が開発された 1つは15 kg (), 。
・cm以下の圧力で操作でき,しかも塩化ナトリウムの阻止率が90%以上の低圧-2高阻止率型のRO膜である。もう1つは,塩化ナトリウムの阻止率が90%以下と低いが 15 kg・cm 以下の操作圧力で従来のRO膜よりはるかに高い透過流束 単 , (-2位時間,単位面積当たり,透過する溶液の量)が得られる,低圧低阻止率型(低圧高透過水型ともいう )のRO膜である。このうちの低圧低阻止率型RO膜が,一 。
般的にナノ濾過膜と呼ばれるものである(46頁右欄10〜31行)という記載 。」から,NF膜は,逆浸透(RO)膜の応用分野の拡大に伴って開発されたものであ, 。 り この点からも逆浸透膜の一種であると認識されていたことは明白な事実である甲3の図1.4においても,NF膜の被分離物質の大きさ,孔径の範囲は逆浸透膜の範囲内に位置しているのである。
また,本件特許の明細書には,従来技術として 「逆浸透膜法により濃縮する方 ,法は,アルカリ可溶性のフォトレジストとテトラアルキルアンモニウムイオンが共に濃縮されるため,処理後の廃液は廃棄処分せざるを得ない( 0005 )と。」【】記載されているが,本願出願前から逆浸透膜によってフォトレジスト現像廃液を処理することが行われていた。例えば,特開昭60-118282号公報(乙1)には 「このような処理により,逆浸透膜によるテトラアルキルアンモニウム・ハイ ,ドロオキシドの除去率は高く,99.8%前後を得ることができる。したがって,処理水は殆どテトラアルキルアンモニウム・ハイドロオキシドを含まず,また,原水濃度が高い場合でも,逆浸透膜装置を2段に設けることにより処理水水質は極めて良好にすることができる(2頁左下欄6〜13行)及び「この結果から明らか 。」なように,導電率の除去率は,99.7〜99.8%,TOC除去率は99.9%となり,テトラメチルアンモニウム・ハイドロオキシドは膜によりほとんど排除された(同頁右下欄下から4行〜末行)と記載されている。このように,逆浸透膜 。」によってフォトレジスト現像廃液を処理しても,レジストだけではなくテトラアルキルアンモニウムイオンも逆浸透膜を透過することができないため,フォトレジスト現像廃液中のレジストとテトラアルキルアンモニウムイオンとを分離することができなかったのである。
以上のとおり,当業者は,レジストとテトラアルキルアンモニウムイオンとを分離することができないことが知られていた逆浸透膜の一種であるNF膜において,レジストとテトラアルキルアンモニウムイオンとを分離可能な透過可能性を有することは予想することができなかったのである。
(8)原告は,甲6の4-3-6頁の表2に「SiO2(シリカ)の阻止率が40%であることが示されている」こと及び甲4の49頁右欄の表2に「NF膜の金属成分に対する透過率」が示されていることを根拠として 「NF膜の透過液中への ,Fe,Alの金属成分やシリカ等の不純物の混入を抑制できるという効果は,甲1〜4に記載の発明から予測可能なものである」と主張する。
しかし,甲4及び6に示された透過率又は阻止率は,現像廃液中のものではないので,本件発明の「NF膜によって現像廃液中のFe,Alの金属成分やシリカ等の不純物の混入を抑制できる」という効果を示すものではない。しかも,甲4に示された金属成分は,K,Na,Ca及びMgであり,Fe及びAlについては記載されていない。したがって,甲1〜4には,本件発明の「NF膜によって現像廃液中のFe,Alの金属成分やシリカ等の不純物の混入を抑制できる」という効果は示されておらず,前記のとおり,当業者にとってNF膜の阻止性能を予測するのは困難であったから,本件発明の上記効果は甲1〜4から容易に予測できるものではない。したがって,原告の上記主張には理由がない。
(9)以上詳述したとおり,甲1〜4から,テトラアルキルアンモニウムイオンがNF膜を透過できることは容易に予測できなかったのであり,NF膜により現像廃液を膜分離処理し,フォトレジスト等の不純物を主として含む濃縮液とテトラアルキルアンモニウムイオンを主として含む透過液を得る膜分離工程を採用すること, ,。 は 当業者にとって容易に想到できるものではないから 取消事由2は理由がない3取消事由3(相違点3及び5についての判断の誤り)について(1)原告は,取消事由3として,本件発明1と甲1発明との相違点3である「濃縮液が,本件発明1では,フォトレジスト『等の不純物』を主として含むとするのに対して,甲1発明では,フォトレジスト成分濃縮廃液にフォトレジスト以外の不純物を含有することまでが示されず,当該特定事項を具備しない点」及び相違点5である「処理方法が,本件発明1では 『再生』処理方法であるのに対して,甲1 ,発明ではその特定事項を具備しない点」について 「当業者が容易に導き出すこと ,ができる」ものであると主張する。
(2)まず,原告は,相違点5について,甲1の「一層の無公害化と生物処理等の廃液処理工程が削減でき,コスト低減が図れる(段落【0012 )という記載 。」】における「一層の無公害化」という記載の範疇には当然に「再生」も含まれると主張する。しかし,原告のかかる主張は甲1発明を誤解するものである。
甲1には 「廃液処理コストの低減されたフォトレジスト含有廃液処理方法を提 ,供すること (段落【0005 )を目的として 「フォトレジスト成分含有廃液を 」】,限外濾過膜により濾過してレジスト成分濃縮廃液を取り出し,前記フォトレジスト成分濃縮廃液に熱エネルギーを加えてフォトレジスト成分を重合させ固形化させて処理することを特徴とするフォトレジスト含有廃液の処理方法(請求項1)が記。」載されているが 甲1の図1によれば 限外濾過処理により得られる透過液は中 ,, ,「和・無害化処理を行い廃液する」と記載されている。このように,甲1発明は,廃液の処理コストを低減することを目的とするものであるが,あくまで廃液を廃棄す, , ることを前提として 廃液中の高分子量のフォトレジストを濃縮廃液として回収しその後熱エネルギーでフォトレジストを重合固形化して処理するものであり,透過, ,。 したアルカリ水溶液については 従来と同様の処理が行われ 廃棄されるのであるよって,甲1は,透過液としてテトラアルキルアンモニウムを回収することも,テトラアルキルアンモニウムを再生することも開示していない。
また,甲1における「一層の無公害化」という記載は,甲1の図2に示された従来の「酸溶剤を添加し,中和」し 「生物処理・活性炭吸着等によりBOD・CO ,Dを基準以下にして放流」だけしていた廃液処理方法に対し,透過した廃液中のBOD・CODをより低減したことを意味しているに過ぎないのである。この点,同号証の図1には,透過液について 「中和・無害化処理を行い廃液する」と記載さ ,れており,この無害化処理が,従来の「生物処理・活性炭吸着等」に該当することは明らかであるから,無公害化とは生物処理・活性炭吸着等によるBOD・CODの低減を意味するのである。
(3)さらに,原告は,甲2には同様な廃液の再生方法についての記載があることから,甲1発明のものに適用することを直ちに想到できると主張する。しかし,原告のこの主張は,単に本件審決の判断を否定するだけであり,甲2に記載の再生技術に基づいて甲1において再生処理方法を想到できることについて,何ら具体的な理由付けを行うものではない。
甲2に記載された再生処理方法は,中和処理して析出させた不溶性有機物を限外濾過膜を使用した精密ろ過装置により固液分離した後,電気分解することで再生処理するものであり,限外濾過膜によって高分子量のフォトレジストを濃縮廃液として回収し,その後熱エネルギーでフォトレジストを重合固形化して処理し,透過したアルカリ水溶液については,従来と同様の処理が行なわれ廃棄される甲1発明とは全く異なるものである。よって,甲2に記載の再生技術に基づいて,甲1発明において,従来と同様の処理が行なわれ廃棄される透過液を再生させることは,容易に想到し得るものではないのである。加えて,既述のとおり,テトラアルキルアンモニウムイオンがNF膜を透過することを予測することはできなかったのであるから,仮に甲1の「限外濾過膜」をNF膜に変更したとしても,その透過液を再生して利用することは想到できないのである。したがって,審決の判断は正当である。
(4)なお,原告は,相違点3について,NF膜を使用すればシリカは少なくとも40%阻止される(甲6)のであるから,仮に元の現像廃液にシリカが含まれていた場合に,甲1発明にNF膜を適用するだけで,フォトレジストとシリカを含む濃縮液が当然に得られるのであると主張するが,NF膜を適用することが困難であることは,上述したとおりであるから,原告の上記主張は,前提において成り立たない。さらに,甲6の阻止率は,現像廃液中のものではないので 「当然に得られる,はず」という原告の主張には何ら根拠がない。
(5)以上のとおり,甲1発明において,相違点3及び相違点5に係る構成を想到することは当業者にとって容易に成し得るものではないから,取消事由3は理由がない。
4取消事由4(本件発明2〜5,7及び8に関する判断の誤り-甲1発明との対比)について既述のとおり,原告が本件発明1について主張した取消事由1ないし3はいずれも理由がないから,取消事由4についても同様に理由がない。
5取消事由5(相違点2 ,3’及び5’についての判断の誤り)について ’既述のとおり,取消事由2及び3はいずれも理由がないから,取消事由5についても同様に理由がない。
6取消事由6(本件発明11に関する判断の誤り-甲1発明との対比)について既述のとおり,本件発明9に係る取消事由5は理由がないから,取消事由6についても同様に理由がない。
7取消事由7(相違点イについての判断の誤り)について既述のとおり,取消事由2は理由がないから,取消事由7についても同様に理由がない。
8取消事由8(本件発明2〜5,7及び8に関する判断の誤り-甲2発明との対比)について既述のとおり,取消事由7は理由がないから,取消事由8についても同様に理由がない。
9取消事由9(相違点イ’についての判断の誤り)について既述のとおり,取消事由7は理由がないから,取消事由9についても同様に理由がない。
10取消事由10(本件発明11に関する判断の誤り-甲2発明との対比)について既述のとおり,本件発明9に係る取消事由9は理由がないから,取消事由10についても理由がない。
11請求人の主張に対する判断について原告は,審決の請求人(原告)の主張に対する判断が,請求人(原告)の主張を正しく理解した上で判断していないと主張するが,以下に述べるとおり,失当である。
(1)原告は 「本件発明1の『NF膜により濃縮液と上記透過液を得る』との特 ,定事項,或いは本件発明9の『濃縮液と上記透過液を得るためのNF膜』との特定事項だけでは,フォトレジストを主として含む濃縮液とテトラアルキルアンモニウムイオンを含む透過液とを膜分離できる効果,さらには透過液中へのFe,Alの金属成分やシリカ等の不純物の混入を抑制できる効果を奏するとは到底考えられない」と主張する。原告の主張は,そもそも進歩性欠如の無効理由における位置づけが不明であるが,この点を措くとしても,単に独自の見解を述べたものに過ぎず,到底取消事由となり得るものではない。
本件発明1及び9は,フォトレジストを主として含む濃縮液とテトラアルキルアンモニウムイオンを主として含む透過液とを膜分離できる効果を奏するものが対象なのであるから そもそも原告の主張は的はずれである また NF膜によって 透 , 。,「過液中へのFe,Alの金属成分やシリカ等の不純物の混入を抑制できる効果を奏するとは到底考えられない」という原告の主張には何らの根拠もない。
この点,本件明細書には,NF膜によってフォトレジストを主として含む濃縮液とテトラアルキルアンモニウムイオンを主として含む透過液とを膜分離できる効果及び透過液中へのFe,Alの金属成分やシリカ等の不純物の混入を抑制できる効果を奏することが具体的に示されている(段落【0075】の表1 。さらに,2)004年12月27日付「実験成績証明書 (乙2)の表1においても,本件特許 」明細書に示された現像廃液とは異なる現像廃液において,NF膜によってフォトレジストを主として含む濃縮液とテトラアルキルアンモニウムイオンを主として含む透過液とを膜分離できる効果及び透過液中へのFe,Alの金属成分やシリカ等の不純物の混入を抑制できる効果が確認されている。
,「」(。) 加えて 2006年4月21日付 実験成績証明書乙3 審決における乙6は,日東電工株式会社製「NTR-7450HG-S2F (NF膜1 ,日東電工 」)株式会社製「NTR-7410HG-S2F (NF膜2)及びダウ・ケミカル社 」製「NF45-2540 (NF膜3)という3種類のNF膜(いずれの膜も本件 」明細書の段落【0010】に記載されている )について,温度又は入口圧力を変 。
化させた時のNF膜による阻止性能等の変化を確認したものである。
乙3からは,具体的に以下の事実が判明する。
乙3の表1ないし表3は,NF膜1による除去率(阻止性能)を示しており,表1は入口圧力10kgf/cm2 液温25℃の条件であり 表2は入口圧力5kg ,,f/cm2,液温25℃の条件であり,表3は入口圧力10kgf/cm2,液温35℃の条件である。これら表1ないし表3から明らかなように,入口圧力を変化,,( ) させても 温度を変化させても TMA-OH 水酸化テトラメチルアンモニウム(., .,.),(. の除去率 8 0% 4 9% 10 0% に比べて レジストの除去率 927%,92.5%,92.9%)は大きく異なっており,NF膜1によってTMA-OHとレジストは分離可能である。また,表1ないし表3のいずれにおいても,NF膜1によってFeやAl等の金属成分の不純物をある程度除去することができることが分かる。
乙3の表4及び表5は,NF膜2による除去率(阻止性能)を示しており,表4は入口圧力5kgf/cm2,液温25℃の条件であり,表5は入口圧力5kgf/cm2,液温35℃の条件である。これら表4及び表5から明らかなように,温,( )(. 度を変化させても TMA-OH 水酸化テトラメチルアンモニウム の除去率 00%)に比べて,レジストの除去率(50.3%,51.7%)は大きく異なっており,NF膜2によってTMA-OHとレジストとは分離可能である。また,表4及び表5のいずれにおいても,NF膜2によってFeやAl等の金属成分の不純物をある程度除去することができることが分かる。
乙3の表6及び表7は,NF膜3による除去率(阻止性能)を示しており,表6は入口圧力9kgf/cm2,液温25℃の条件であり,表7は入口圧力9kgf/cm2,液温35℃の条件である。これら表6及び表7から明らかなように,温,( )(. 度を変化させても TMA-OH 水酸化テトラメチルアンモニウム の除去率 44%,3.5%)に比べて,レジストの除去率(74.0%,69.3%)は大きく異なっており,NF膜3によってTMA-OHとレジストとは分離可能である。
また,表6及び表7のいずれにおいても,NF膜3によってFeやAl等の金属成分の不純物をある程度除去することができることが分かる。
以上のことから,NF膜は,フォトレジスト現像廃液又はフォトレジスト現像廃液に由来する処理液中のフォトレジスト等の不純物を阻止し,テトラアルキルアンモニウムイオンを透過するという特性を有しており,フォトレジスト現像廃液又はフォトレジスト現像廃液に由来する処理液中のFeやAl等の金属成分やシリカ等の不純物をある程度阻止する阻止性能を具備することは明らかである。
さらに,原告の上記主張は 「NF膜でフォトレジストとテトラアルキルアンモ ,ニウムイオンを分離できることが容易に予測できる」という原告主張の「取消事由2」と矛盾するものである。原告は,本件発明の効果について,本件発明による開示によって,NF膜でフォトレジストとテトラアルキルアンモニウムイオンを分離できることが明らかになった後においては効果が奏するとは考えられないとし,NF膜でフォトレジストとテトラアルキルアンモニウムイオンを分離できることが不明であった本件特許出願前においては効果が予測できるとするものであり,論理が破綻していることは明らかである。
本件特許出願前の当業者は,以上に述べたとおり,NF膜が逆浸透膜の一種であることやNF膜の特性から,NF膜でフォトレジストとテトラアルキルアンモニウムイオンを分離できると予測することは困難なのである。他方で,本件特許出願後の本件発明に接した当業者は,本件明細書の記載及び図面にフォトレジストとテトラアルキルアンモニウムイオンを分離できるというNF膜の特性が開示されているので,そのNF膜の特性を利用して,フォトレジストとテトラアルキルアンモニウムイオンを分離可能であることを予測できるのである。
したがって,原告の主張は失当である。
(2)原告は 「どのような試験条件下で行ったところで,本件特許明細書に記載 ,, 」 されているNF膜で膜処理すれば 濃縮液と透過液の分離がなされて当然と言えると主張するが,この主張も,何の論拠もない原告独自の見解に過ぎない。本件特許の明細書 乙2及び3に示されているとおり NF膜で膜処理することにより フォ , , ,トレジスト等の不純物を主として含む濃縮液とテトラアルキルアンモニウムイオンを主として含む透過液を得ることができているのであり,原告の提出した甲14によってかかる効果を否定することはできないのである。
第5当裁判所の判断1審決における本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点の認定並びに本件発明1と甲2発明との一致点及び相違点の認定については,当事者間に争いがない。
審決は,本件発明1と甲1発明との相違点2について 「甲1発明に甲第2〜4 ,号証に記載のものを併せてみても,その限外濾過膜をNF膜に置き換え本件発明1のようにする動機付けがない 」とした上 「甲1発明に,甲第2〜4号証に記載さ 。,れる事項を併せてみても,甲1発明において相違点2に関する特定事項を具備するようにすることが当業者が容易に想到することができない 」と判断した。また, 。
本件発明1と甲2発明との相違点イについても同様に「甲2発明に甲1,3及び4に記載のものを併せてみても,その限外濾過膜をNF膜に置き換える動機付けがない 」とした上 「甲2発明に,甲1,3及び4に記載される事項を併せてみても, 。,甲2発明において相違点イに関する特定事項を具備するように当業者が容易に想到することができない 」と判断した。。
これに対して,原告は,審決の相違点2及び同イについての判断はいずれも誤りであるとし,取消事由2及び7を主張するので,以下,上記取消事由について検討する。
2本件明細書(甲15)には以下の記載がある。
「 従来の技術】半導体デバイス,液晶ディスプレイ,プリント基板等の電子部品 【等を製造するには,ウェハー等の基板上にネガ型又はポジ型のフォトレジストの皮膜を形成し パターンマスクを通して光等を照射し 次いで現像液により不要のフォ , ,トレジストを溶解して現像し,更にエッチング等の処理を行った後,基板上の不溶性のフォトレジスト膜を剥離しなければならない。フォトレジストは,露光部分が可溶性となるポジ型と露光部分が不溶性となるネガ型があり,ポジ型フォトレジストの現像液としてはアルカリ現像液が主流であり,ネガ型フォトレジストの現像液としては有機溶剤系現像液が主流であるが,アルカリ現像液を用いるものもある。
・・・上記アルカリ現像液としては 通常 水酸化テトラアルキルアンモニウム テ ,, (トラアルキルアンモニウムヒドロオキシド)の水溶液が用いられる。従って,かかる現像工程から排出される廃液( フォトレジスト現像廃液」又は「フォトレジス 「トアルカリ現像廃液」と言い,時に「現像廃液」と略称する)には,通常,溶解したフォトレジストとテトラアルキルアンモニウムイオンが含有されている ・・・。
従来,かかるフォトレジスト及びテトラアルキルアンモニウムイオンを含有するフォトレジスト現像廃液を処理する方法には,全量業者引取する方法,蒸発法や逆浸透膜法により濃縮し廃棄処分(焼却又は業者引取)する方法,活性汚泥により生物分解処理し放流する方法がある。また,上記のようにして得た濃縮廃液或いはもともとテトラアルキルアンモニウムイオン濃度の高い濃厚現像廃液については,電気透析法や電解法によりテトラアルキルアンモニウムイオンを好ましくは水酸化物の形(電解法では必然的に水酸化物の形となる)で濃縮回収し,再利用するといった試みがなされている(特開平7-328642号公報,特開平5-17889号公報参照・・・蒸発法や逆浸透膜法により濃縮する方法は,アルカリ可溶性の )。
フォトレジストとテトラアルキルアンモニウムイオンが共に濃縮されるため,処理後の廃液は廃棄処分せざるを得ない。活性汚泥により生物分解処理する方法は,テトラアルキルアンモニウムイオンの生物分解性が悪く,また,他の有機物成分が廃液に混在している場合は,該他の有機物成分を分解する微生物の方の増殖が活発となり,テトラアルキルアンモニウムイオンを分解する微生物の増殖が不活発となるので更にその生物分解性が悪くなるため,低濃度の廃液の場合しか処理できず,大規模な処理施設が必要となる。また,電気透析や電解によりテトラアルキルアンモニウムイオンを好ましくは水酸化物の形で濃縮回収する方法が公害対策や資源の有効活用等の点でベストであるが,高純度とするためにはランニングコストが掛り,また,脱塩廃液として排出される排水の量(容積)が殆ど又は余り減らないという問題がある ・・・ 発明が解決しようとする課題】従って,本発明の目的は,フォ 。【トレジスト及びテトラアルキルアンモニウムイオンを含有する現像廃液の上述のような従来の処理方法の欠点を解消し,ランニングコストを低減でき,処分される排水の量(容積)も減少できるフォトレジスト現像廃液の再生処理方法及び装置を提供することである(段落【0002】〜【0006 ) 。」 】「 発明の効果】本発明のフォトレジスト現像廃液の再生処理方法では,少なくと 【もフォトレジストを含むテトラアルキルアンモニウムイオン含有フォトレジスト現像廃液に対して,ランニングコストが低く且つ操作が容易なNF膜分離処理を行うことによって,フォトレジスト及びその他の不純物をNF濃縮液側に除去し,TAAイオンを主として含むNF透過液の純度を簡単に高くすることができる ・・・。
このNF膜分離処理によって,フォトレジストと共にイオン交換処理でも除去が難しいFeやAl等の金属成分やシリカ等の不純物をかなり除去できるので,イオン交換処理の代わり又はイオン交換処理と組み合わせてNF膜分離処理を有効に用いることができる ・・・半導体デバイス,液晶ディスプレイ,プリント基板等の特 。
に不純物を嫌う電子部品の製造等に用いる現像液としてフォトレジスト現像廃液を再生処理するに当たって,例えば,電気透析及び/又は電解,必要に応じて更にイオン交換処理等の精製処理操作を行う場合は,前もってNF膜分離処理を行うことによりこのような操作に対する不純物(特にフォトレジスト)負荷の軽減を図ることができ,システムのトータルランニングコストを低減することができる ・・・。
また,NF透過液を電気透析装置又は電解装置の濃縮セルに通液し,一方,NF濃縮液を同装置の脱塩セルに通液すれば,脱塩廃液として排出する排水の量を少なくすることができる(段落【0088】〜【0091 ) 。」 】以上の記載によると,本件発明は,フォトレジスト及びテトラアルキルアンモニウムイオンを含有する現像廃液の従来の再生処理方法の問題点を解消し,ランニングコストを低減し,処分される排水の量(容積)を減少させることができる再生処理方法及び装置を提供することを目的として,NF膜による膜分離処理という手段を採用したものであることが認められる。
3甲2(特開平5-106074号公報)には,名称を「水酸化テトラアルキルアンモニウムの再生方法」とする発明に関し 「本発明はLSI,超LSI等の集 ,積回路の製造工程,液晶表示装置の製造工程等に回路パターン等のフォトリソグラフィーによる微細加工の際に現像剤として使用される,水酸化テトラアルキルアンモニウムの再生方法に関する(段落【0001 【産業上の利用分野「ポジ 。」】】),型レジストの現像液として使用した水酸化テトラメチルアンモニウム等のテトラア, 。 ルキルアンモニウムの水酸化物の水溶液は 従来は単に廃液として処分されていたこの廃液には,フォトレジストの主要な成分であるノボラック樹脂をはじめとする有機物が含まれており,また,テトラアルキルアンモニウム水酸化物には窒素が含まれているために,水質汚染の原因となるためにそのまま投棄することはできず,各種の処理工程を経て処分されていた。また使用量の増加によって処理すべき廃液量も多くなっており,廃液の活用,廃液量の減少が求められていた(段落【00。」10 【発明が解決しようとする課題「特願平2-408052号・・・の方 】 】),法では ・・・廃液中のテトラアルキルアンモニウムを完全に再生利用することは ,できなかった(段落【0011「特願平3-171831号・・・の方法で 。」】),は ・・・COD(Mn)値は,約1000ppmにも達し,現像液として市販さ ,れている高純度水酸化テトラアルキルアンモニウム中の10ppmと比べるとはるかに大きく,用途によっては好ましくないというという問題点を有していた(段。」落【0012】〜【0014 )との記載がある。】甲2の以上の記載によれば,同引用例にはフォトレジスト現像廃液からテトラアルキルアンモニウムイオンを効率的に回収再生するという本件発明1と近似した課題が記載されているということができる。
4本件発明1と甲2発明の相違点イについての審決の認定判断について検討する。
(1)本件特許出願前におけるNF膜に関する技術状況ア甲4(大谷敏郎外著 「多彩な用途に対応するナノ分離膜の新展開「化学 , 」,装置 ,株式会社工業調査会,1995年9月1日)には,NF膜の開発の経緯と 」して 「低塩濃度の地下水や河川水などの淡水化や廃水処理,半導体や医療用の超 ,純水の製造にまでRO膜の用途が広がると,それぞれの使用目的にあった膜が必要になった。特に操作圧力が高いことは,高圧用のポンプや耐圧性の高い配管材が必要なだけではなく,ランニングコストの増加も招くため,操作圧力を下げることがRO膜を導入する際に必要になった。また,膜の用途が広がるにつれ,従来の塩類だけを分離の対象としていたRO膜と高分子物質を分離の対象としていたUF膜の中間の分離特性を持つ膜,分子量で数百程度の物質を分離する膜が望まれるようになった このような背景から 最近2種類の新しい膜が開発された 1つは15kg 。, 。
・cm以下の圧力で操作でき,しかも塩化ナトリウムの阻止率が90%以上の-2低圧高阻止率型のRO膜である。もう1つは,塩化ナトリウムの阻止率が90%以下と低いが,15kg・cm以下の操作圧力で従来のRO膜よりはるかに高い-2透過流束(単位時間,単位膜面積当り,透過する溶液の量)が得られる,低圧低阻止率型(低圧高透過水型ともいう)のRO膜である。このうちの低圧低阻止率型RO膜が,一般的にナノ濾過膜と呼ばれるものである。NF膜は,分子量百から数百程度の物質をきわめて良く阻止し,この点からは,より分画分子量の小さいUF膜といえよう。NF膜のおおまかな定義は 『操作圧力が15kg・cm以下,分 ,-2画分子量が200から1,000で,塩化ナトリウムの阻止率が90%以下の膜』とされる(46頁右欄10行から末行)との記載がある。 。」また,NF膜の特徴について 「NF膜の特徴の一つは,荷電を持っていること ,で,このことが低い圧力で高い塩類阻止性能が得られたり,分画分子量が数百の膜でも塩類がある程度阻止される大きな原因であると考えられている。また,膜の荷電と分子の荷電状態を利用して,同じような大きさの分子でも分離が可能である。
アスパラギン酸,イソロイシン,オルニチンの分子量はそれぞれ133,131,132とほとんど同じであるが,等電点はpH2.8,5.9,9.7と異なっている。アミノ酸は水溶液中で等電点を境に,アルカリ側で負荷電,酸側で正荷電を持つことが知られている。図1に示したようにpHによって上記のアミノ酸の阻止率は大きく異なり,pHによってはアミノ酸同士の分離が可能である(47頁右。」欄5行から48頁左欄3行)との記載がある。
,(), , 以上の記載によると 1995 平成7 年当時 膜分離技術の分野においては従来の塩類だけを分離の対象としていたRO膜,高分子物質を分離の対象としていたUF膜に加え,分子量100から数100程度の物質を分離できる膜が求められていたところ,これに対応するものとして,前記の分離膜(RO膜及びUF膜)の(),(, 中間特性を有するナノ濾過膜 NF膜 が開発され 注目を集めていたこと なお甲4の筆者はNF膜を「操作圧力が15kg・cm以下,分画分子量が200-2から1,000で塩化ナトリウムの阻止率が90%以下の膜」と定義している,。)当時開発されたナノ濾過膜 NF膜 のうち 我が国で入手可能なものとして メー (), ,カー7社から20種類以上が発売されており(甲4の47頁表1。なお,本件明細書中の実施例1で使用されたNF膜である日東電工(株)のNTR-7450も同表中に含まれている,NF膜は,分子量100から数100程度の物質を極めて良 。)く阻止していたこと,NF膜の特徴の1つとして,荷電を持っていることが指摘され,この特徴が物質の阻止性能に大きく影響するものと思われていたこと,また,NF膜の分離特性は,供給液濃度,操作圧力,供給液温度などの操作条件により阻止性能が大きく変化することが指摘されていたことが認められる。
イ甲6( ニューメンブレンテクノロジーシンポジウム’96」1996年日 「本膜学会)には,NF膜の開発の経緯に関して 「・・・このような低レベルの有 ,機物の除去に対して,従来の凝集-沈殿-ろ過による浄水処理技術のみでは対応できなくなる可能性がある ・・・わが国でも1991年度より官民共同研究として 。
,,(), 3ヶ年のMAC21計画がスタートし ・・・そこでは 主にMF膜 精密ろ過膜UF膜(限外ろ過膜)が用いられ,水道原水中の懸濁物の除去が検討され,水道用の凝集-沈殿-ろ過の代替技術として信頼性,経済性の両面で適用可能であることが実証された。しかし,UF膜やMF膜では,低分子量有機化合物である消毒副生成物や有機塩素系化合物及び農薬,硝酸性窒素などの除去は困難である。そこで,1994年度より3ヶ年の第2期研究がニューMAC21としてスタートした。この研究では ・・・最近注目されているNF膜(ナノろ過膜)による浄水処理方法 ,の可能性が検討されている ・・・一般の河川水を各処理方法で処理した場合,各 。
水質項目の基準値を満足するかどうかの概略の評価を表1に示す。特にRO膜(逆浸透膜 ,NF膜(ルースRO膜ともいう)による処理方法が従来の浄水処理技術 )では除去が困難な低分子量有機物,農薬,硝酸性窒素等の除去に有効な方法である。」( )。 ことを示している4-3-1左欄下から13行〜右欄19行 との記載があるまた,NF膜の性能に関して 「NF膜の阻止率は表2に示すように溶質に大きく ,依存しておりさまざまである ・・・また,NF膜は,一般には無機化合物に比較 。
して有機化合物の阻止率が高いのが特徴となっている。各種NF膜の分画分子量を表3に示す。分画分子量は100〜1000と膜の種類によって異なるが,食塩阻止率の高い膜ほど分画分子量は小さい。NF膜は各社からさまざまな性能のものが開発・製品化されているが,その有用性は有機物阻止性能にあるといえる(4-。」),「,, 3-2右欄19行から33行 との記載があるほか国内においては RO膜が浄水処理技術として検討されはじめてまだ日が浅い ・・・一方,浄水用途におけ 。
るNF膜の選定に際し,その要求機能が『有害物質のみを除去し,他の成分は膜を透過する』というものである以上NaClの阻止率のみからはその適用の可否は判断できず,実際の浄水用途への類似の適用事例データが不可欠となる。早急にそのような事例データが蓄積されることが望まれる(4-3-5左欄10行から31 。」行)との記載がある。
,(), , 以上の記載によると 1996 平成8 年当時 浄水処理の技術分野において従来の凝集-沈殿-ろ過に代替する技術として,MF膜(精密ろ過膜)及びUF膜(限外ろ過膜)が開発されていたが,水道原水中の低分子量有機化合物の除去は困, , 難であったため その除去を可能にする分離膜としてNF膜が注目されていたことNF膜には様々な種類があり,NF膜の阻止性能は種類によって異なるため,浄水処理の用途に応じたNF膜を選定するには,各種のNF膜に関する適用事例データが必要となることなどが指摘されていたと認められる。
ウ前記3に説示した本件発明1に近似した課題,すなわち,フォトレジスト現像廃液からテトラアルキルアンモニウムイオンを効率的に回収再生する課題の解決を目的とした甲2発明の課題解決手段についてみると,甲2(特開平5-106074号公報)によれば,甲2発明の構成において,分離濾過膜による濾過は,ノボラック樹脂などからなる不溶解性有機物の沈澱物を除去する目的で,回収対象物である水酸化テトラアルキルアンモニウムとそれ以外の物質との分離を図る一連の工程の中の一工程と位置付けられていること,実施例1においては,中和後の現像廃液を分画分子量15000の限外ろ過膜で精密ろ過していることが認められる。
エ以上のアないしウに説示したところによれば,膜を用いて様々な物質が混在する液体から所定の物質を分離する技術においては,主として塩類を分離対象とするRO膜と高分子物質を分離対象とするUF膜(限外ろ過膜)が主流であったが,平成6〜7年ころからこれらの膜では分離することができなかった低分子量の有機化合物を分離対象としたNF膜が注目を集めるようになり,平成7年ころには我が国で20種類以上のNF膜が入手可能な状況にあったこと,NF膜の特徴の1つとして,電荷を有することが指摘され,この性質がNF膜の濾過性能に大きな影響を及ぼすと考えられていたことなどが認められる。
5前項に認定した本件特許出願前におけるNF膜に関する技術状況を踏まえ,相違点イに関する審決の認定判断を検討する。
前項に認定したところによれば,本件特許出願前の膜分離技術の一般的状況については,従来のRO膜やUF膜では分離することができない分子量100から数100程度の物質を分離することができる膜が求められていたところ,この要求を満たすものとしてNF膜が開発され,メーカー各社から20種類を超える製品が販売されている状況にあり,甲7によると,テトラアルキルアンモニウムイオンに属するテトラメチルアンモニウムイオンの分子量は約91であることが認められるのであるから,テトラアルキルアンモニウムイオンを分離するために,従来の分離膜に代えてNF膜を採用してみようとする程度のことは,当業者にとって極めて普通の着想であるといわなければならない。特にこの点は,NF膜を格別限定することなくNF膜一般を構成要件とする本件発明1においては,要するに,NF膜を分離膜として採用したというに止まるのであるからなおさらである。もっとも,NF膜の特徴の1つとして電荷を有する点が指摘されており,この電荷が分離対象物質の有する電荷との関係で,透過性にいかなる影響を及ぼすかについては,必ずしも十分に解明されておらず,法則性をもってその影響を予測することは困難な状況にあったものであるが,この点は,事前にNF膜の分離効果を確実性をもって予測し難いというにとどまるものであるから,低分子量の物質を膜分離する目的でNF膜を採用してみる程度の企図にとって,障害となるものとまでいうことはできない。
したがって,フォトレジスト廃液中のテトラアルキルアンモニウムイオンをろ過膜を使用して分離しようとする当業者が,従来の膜に替えてNF膜を採用しようとすることは,当時の周知の膜分離に関する技術状況からすると,格別困難なこととはいえないから,審決の相違点イの判断は誤りといわざるを得ない。
6被告は,本件発明1の相違点イに係る構成は当業者が容易に想到し得るものではないと主張する。
被告の多岐にわたる主張の要点は,審決と同様,本件特許出願前,当業者がテトラアルキルアンモニウムイオンのNF膜の透過可能性を予測することは困難であったという点にあり,このような予測可能性がなければNF膜を採用しようと動機付けられることもないとするものである。
そこで検討するに,確かに,本件特許出願前にNF膜がテトラアルキルアンモニウムイオンを透過することを指摘した技術文献がないことは被告の主張するとおりである。しかし,このことから直ちにNF膜を採用しようと動機付けられないといえないことは,前項に説示したところに照らして明らかである。NF膜が有する電荷の影響が分離対象物質の挙動に複雑な影響を及ぼすものであり,テトラアルキルアンモニウムイオンのNF膜の透過可能性について予測することが困難であったとしても,このような事情は,NF膜のテトラアルキルアンモニウムイオンの透過可能性を否定したものではないのであるから,NF膜の持つ低分子量の化合物の分離に極めて有効であるという従来の膜にない一般的特徴を根拠に,優れた透過性能を期待してこれを分離膜として採用してみようとする動機付けの障害となるものではないというべきである。
以上の次第であるから,NF膜をテトラアルキルアンモニウムイオンが透過することの予測が困難であったことを理由とする被告の主張は,採用することができない。
7そうすると,取消事由7に係る原告の主張は理由があり,本件発明1は甲2発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるというべきであるか, ,。 ら 審決はこの点の判断を誤ったものと言わざるを得ず 取消事由7は理由がある8本件発明2〜5,7及び8は,いずれも本件発明1の特定事項のすべてを引用するものであり,当該引用部分については,本件発明1と同様の理由により,甲2発明に基づいて当業者が容易に想到することができたというべきであるし,また,その余の各構成部分について格別の主張もないことからみて,上記各発明は,甲2発明に基づいて当業者が容易に発明することができたというべきであり,取消事由8は理由がある。
9審決は,本件発明9と甲2’発明との相違点について,相違点イと同様の内容の相違点イ’を認定し,甲2’発明に基づいて相違点イ’に関する特定事項を具備するようにすることは当業者が容易に想到することはできないとした。
しかし,相違点イ’についての審決の判断は,取消事由7についての上記説示と同様の理由により誤りであるから,取消事由9は理由がある。
10本件発明11は本件発明9の特定事項をすべて引用するものであり,当該引用部分については,本件発明9と同様の理由により,甲2’発明に基づいて当業者が容易に想到することができたというべきである。また,その余の構成部分について格別の主張もないことからみて,本件発明11は甲2’発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものというべきであり,取消事由10は理由がある。
第6結論以上のとおりであるから,その余の点について検討するまでもなく,審決は取消しを免れない。
裁判長裁判官 田中信義
裁判官 石原直樹
裁判官 杜下弘記
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