関連審決 | 不服2004-6526 |
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関連ワード | 発明者 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 相違点の認定 / 周知技術 / 優先権 / 置換 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 拒絶査定不服審判 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
18年
(行ケ)
10419号
審決取消請求事件
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原告プレシジョン・システム・サ イエンス株式会社 同訴訟代理人弁護士鈴木和夫 同訴訟代理人弁理士土橋皓 同 柳田敬一 被告特 許庁長 官肥塚雅博 同 指定代理 人樋口宗彦 同 森川元嗣 同 大場義則 同 高橋泰史 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2007/08/08 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1原告の請求を棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求特許庁が不服2004-6526号事件について平成18年8月1日にした審決を取り消す。 第2事案の概要1特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「液体の吸引判別方法およびこの方法により駆動制御される分注装置」とする発明につき,平成8年4月9日(優先権主張平成7年4月11日),特許を出願し(請求項の数は22である。),平成15年9月22日付け手続補正書を提出し,特許請求の範囲の記載を補正した(第1次補正。なお請求項21及び22を削除した。)。しかし,原告は,平成16年2月24日付けの拒絶査定を受けたので,同年4月1日,拒絶査定不服審判請求を行うと共に,同年4月30日付け手続補正書を提出して特許請求の範囲の記載を補正した(第2次補正。以下この補正を「本件補正」という。)。 特許庁は,この審判請求を不服2004-6526号事件として審理し,平成18年8月1日,本件補正を却下した上で,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月21日,審決の謄本が原告に送達された。 2発明の内容(1)第1次補正時のもの本件補正前で第1次補正時の特許請求の範囲は,請求項1ないし20からなり,そのうち請求項1の内容は次のとおりである(以下この発明を「本願発明」という。)。 記【請求項1】液体の吸引を行うノズルの下端部に装着されたディスポーザブルチップの先端を,容器内に収容された液体に対して下降させる際に前記ディスポーザブルチップの先端開口部付近に光を照射し,先端開口部付近の液体から得られる反射光のうち該先端開口部に入光した光の変動状態を,前記ディスポーザブルチップで画成された空間部を通り,該空間部に面する前記ノズルの下端を経由して受光することで,液体の吸引判別を行うことを特徴とする液体の吸引判別方法。 (2)本件補正時のもの本件補正後の特許請求の範囲は,請求項1ないし20からなり,そのうち請求項1の内容は次のとおりである(以下この発明を「本願補正発明」といい,本願発明と併せて「本件各発明」という。なお,波線部が本件補正により補正された部分である。)。 記【請求項1】液体の吸引を行うノズルの下端部に装着されたディスポーザブルチップの先端を,容器内に収容された液体に対して下降させる際に前記ディスポーザブルチップの先端開口部付近に,該ディスポーザブルチップで画成された空間部に面する前記ノズルの下面および該空間部を通り光を照射し,先端開口部付近の液体から得られる反射光のうち該先端開口部に入光した光の変動状態を,前記空間部を通り,該空間部に面する前記ノズルの下面を経由して受光することで,液体の吸引判別を行うことを特徴とする液体の吸引判別方法。 3審決の内容別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願補正発明は,特開平4-204136号公報(甲1,以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び周知技術(甲2,3)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたから,特許出願の際独立して特許を受けることができず,本件補正は却下すべきであり,また,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当事者が容易に発明をすることができたから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,とするものである。 審決は,上記結論を導くに当たり,引用発明の内容並びに本件各発明と引用発明との一致点及び相違点を次のとおり認定した。 (1)引用発明の内容引用発明は,刊行物1の実施例2記載の発明であり,その内容は「架台6及びピペットチップ取付け筒部4に対してディスポーザブルタイプのピペットチップ3を着脱自在に組み付け,ピペットチップ取付け筒部4が架台6に固定される上部の柱状部222とこの柱状部222の下端周縁から円環状に下方に延在された円環部221を有する光伝送体22を介して固定されていて,この円環部221の筒内にピペットチップ取付け筒部4と,投光手段を形成する発光素子が固定され,円環部221の下端面がピペットチップ取付け筒部4に組み付けられるピペットチップ3の上端面と対向し,ピペットチップ下端面で反射した光が筒殻状のピペットチップの内部を伝搬して上端に至り,これに対向している光伝送体22の円環部221に入り更に光伝送体の柱状部222を通って該柱状部の上端面に対向するように架台6の上部で固定されているフォトダイオードに受光され,ピペットチップ取付け筒部4には,プランジャーポンプへ連通されている貫通孔41が設けられている液定量読み出し装置。」である。 (2)一致点ア本願補正発明との一致点液体の吸引を行うノズルの下端部に装着されたディスポーザブルチップの先端を,容器内に収容された液体に対して下降させる際に前記ディスポーザブルチップの先端開口部付近に,該ディスポーザブルチップで画成された空間部に面する前記ノズルの下面および該空間部を通り光を照射し,先端開口部付近の液体から得られる反射光の光の変動状態を受光することで,液体の吸引判別を行う液体の吸引判別方法。 イ本願発明との一致点液体の吸引を行うノズルの下端部に装着されたディスポーザブルチップの先端を,容器内に収容された液体に対して下降させる際に前記ディスポーザブルチップの先端開口部付近に光を照射し,先端開口部付近の液体から得られる反射光の光の変動状態を受光することで,液体の吸引判別を行う液体の吸引判別方法。 (3)相違点ア本願補正発明との相違点本願補正発明においては,ディスポーザブルチップの「先端開口部付近の液体から得られる反射光のうち該先端開口部に入光した光の変動状態を,前記空間部を通り,該空間部に面する前記ノズルの下面を経由して」受光しているのに対し,引用発明においては,ピペットチップ下端面で反射した光を,光透過性の筒殻状のピペットチップの内部及び光伝送体を介して受光している点。 イ本願発明との相違点本願発明においては,ディスポーザブルチップの「先端開口部付近の液体から得られる反射光のうち該先端開口部に入光した光の変動状態を,前記ディスポーザブルチップで画成された空間部を通り,該空間部に面する前記ノズルの下端を経由して」受光しているのに対し,引用発明においては,ピペットチップ下端面で反射した光を,光透過性の筒殻状のピペットチップの内部及び光伝送体を介して受光している点。 第3原告主張の取消事由1取消事由1(本願補正発明に関する誤り)審決は,以下のとおり,@引用発明がピペットチップの下端面からの反射光を受光しこれを検知して,液体の吸引判別方法として用いる発明であるにもかかわらず,「先端開口部付近の液体から得られる反射光の光の変動状態を受光することで,液体の吸引判別を行う液体の吸引判別方法」であるとして,本願補正発明と一致するとの誤った認定をし,A引用発明の受光経路に関する「筒殻状のピペットチップの内部」は「ピペットチップの肉厚部」を指すにもかかわらず,「ディスポーザブルチップで画成された内部の空間」を含む意味であるとの誤った認定をし,Bこれらの誤った認定を前提として,引用発明における「ピペットチップ下端面で反射した光を受光して液面検出を行うこと」に代えて,「液面で反射した光を直接受光して液面検出を行うようにし,その際,液面への投光・受光の双方をディスポーザブルチップで画成された内部の空間を利用して行うようにする」ことは,当業者が容易に想到できるとの誤った判断をした。 (1)引用発明は,先端開口部付近の液体から得られる反射光の光の変動状態を受光して検知しているかについて引用発明は,専ら,ピペットチップの下端面からの反射光を受光しこれを検知して液体の吸引判別方法として用いるものである。確かに,刊行物1には「液面からの反射光も影響するので反射光強度は一層強くなる。」との記載があるが,同記載は,液面からの反射光が影響してディスポーザブルチップ下端面からの反射光の発光強度が強くなる場合があることを説明した記載である。刊行物1には,液面からの反射光を直接受光する手段・方法についても,またその反射光を積極的に利用しその変動状態を受光することによる液体の吸引判別方法についても記載がないから,引用発明は「先端開口部付近の液体から得られる反射光の光の変動状態を受光することで,液体の吸引判別を行う液体の吸引判別方法」であるとはいえない。 (2)引用発明の「筒殻状のピペットチップの内部」の意味についてア刊行物1には「ピペットチップ下端面で反射した光は,筒殻状のこのピペットチップの内部を伝播して上端に至り」との記載があることに照らすと,引用発明の受光経路に関する「筒殻状のピペットチップの内部」とは「ピペットチップの肉厚部」を指すものと理解するのが自然である。 イ引用発明の受光経路として「ディスポーザブルチップで画成された内部の空間」を採用した場合には,ピペットチップが接液すると,液がピペットチップ下端の開口をふさぐため,液面からの反射光は他に散乱することなく「内部の空間」内で強く発光し,「内部の空間」内を経路として強く受光されることになる。そのため,ピペットチップ下端面からの反射光が急減する一方で,液面からの反射光が強く発光されるため,ピペットチップ下端面からの反射光の「発光強度の急減」を検出することができず,これを利用した液体の吸引判別ができなくなる。したがって,引用発明の「筒殻状のピペットチップの内部」について,「ディスポーザブルチップで画成された内部の空間」を含むものと理解するのは誤りである。 (3)本願補正発明の容易想到性についてア本願補正発明は,外部環境と遮断された空間内における近接物質が,例えば気体から液体へと変わるその一瞬の光の変動があたかもフラッシュ状に変動する瞬間を捉えることで各種検知作業を行うことを特徴とするものであり(以下これを「原告主張の基本原理」という。),そのためにディスポーザブルチップで画成された内部の空間を発光経路及び受光経路として用いるという方法によって液体の吸引判別を行うものである。 他方,引用発明は,ピペットチップが接液するとピペットチップ下端面からの発光強度が急減することを検知する液体の吸引判別方法であり,引用発明を本願補正発明と同様の上記方法に置換すると,引用発明が採用した「発光強度の急減」という液体の吸引判別方法を用いることができない。 しかるに,刊行物1には,引用発明から本願補正発明への置換に必要となる原告主張の基本原理とそのための方法に関する知見の開示はされていない。 イ本願補正発明には,以下のとおり顕著な効果を奏する。 (ア)本願補正発明は,接液前後におけるコントラストの強い液面からの反射光の受光により明瞭な液面検知を可能にする。その際,チップの先細りの内部空間に向かって照射した光は,照射部には反射されてこない性質を有している。これにより,液面からの反射光以外の外乱を排除した上で液面からの反射光の検出を実現している。 このような急激な反射光の増大現象は,本願補正発明の構成によってのみ測定ができる。 (イ)本願補正発明は,チップの軸方向に沿った発光及び受光の経路をチップで画成した内部の空間内に設けることで,発光部及び受光部を含めたピペットチップの構造をよりコンパクトに形成することができ,それによって種々の形状をもつ容器へのピペットチップの挿入を可能とし,容器の形状に制限を受けずに収容した液面の検知を可能にする。また,チップ素材を透明に限定することなく選択の幅を増加させるとともに,受光時におけるチップ外部の光の影響を低減させることができる。 (ウ)引用発明では,チップの下端に水滴など液体が付着していると,チップ下端面からの反射光が極端に低下し検知が困難になることが予測されるが,本願補正発明ではそのような問題は生じない。また,引用発明においてチップの外部で受光する場合(甲1,第1図参照)には,周囲の光量,特に隣接する装置から生ずる光の影響を受け誤差を生ずる可能性があるが,本願補正発明ではそのような問題は生じない。 ウしたがって,引用発明において,ピペットチップ下端面で反射した光を受光して液面検出を行うことに代えて,液面で反射した光を直接受光して液面検出を行うようにし,その際,液面への投光・受光の双方をディスポーザブルチップで画成された内部の空間を利用して行うようにすることは,当業者が容易に想到できるものではないし,設計変更にすぎないともいえない。 2取消事由2(本願発明に関する誤り)前記1と同様の理由から,本願発明と引用発明との相違点に関する審決の判断は誤りであり,取り消されるべきである。 第4被告の反論審決の認定判断は正当であって,審決を取り消すべき理由はない。 1取消事由1(本願補正発明に関する誤り)に対して(1)引用発明は,先端開口部付近の液体から得られる反射光の光の変動状態を受光して検知しているかについてア引用発明は,ディスポーザブルチップ下端面からの反射光を受光し,その受け光強度を検出情報として液体の吸引判別を行うものではあるが,同時にディスポーザブルチップの先端開口部付近の液面からの反射光を受光し,その反射光の影響による受光強度の変化に関する情報も付加して吸引判別に利用している。そして,そのような受光強度の変化が「先端開口部付近の液体から得られる反射光の光の変動状態」であることは当業者にとって明らかであるから,引用発明をディスポーザブルチップ下端面からの反射光の受光強度のみを検出情報として液体の吸引判別を行うものであるとする原告の主張は失当である。 イ原告は,刊行物1の「液面からの反射光が反射光強度の測定値に影響する」旨の記載は,液面からの反射光の一部がディスポーザブルチップの接近に応じてディスポーザブルチップ下端面からの反射光の発光強度が強くなる場合を記載したにすぎないと主張する。 原告の上記主張は,液面からの反射光の一部がディスポーザブルチップ下端面に上から当たった光の反射光の発光強度が強くなるとの認識に基づくものである。しかし,このような現象は,ディスポーザブルチップに光の照射によって反射率が変化するような特殊な素材を使用しない限り,起こり得ない現象である。そして,刊行物1には,ディスポーザブルチップにそのような特殊な素材を用いる旨の記載はないから,原告の上記主張は理由がない。 また,前記下端面に下から当たった光が該下端面に透過したものは,下端面の反射光ではなく透過光であり,該透過光が前記下端面に上から当たった光の反射光と合波すれば,受光される光量は増大するが,このような増大はもとより,反射光の発光強度が強化したことによるのではなく,前記反射光に透過光が加わったことによるものであるというべきである。 (2)引用発明の「筒殻状のピペットチップ内」の意味について刊行物1における「筒殻状のピペットチップ内」には,本願補正発明における「空間部」に相当する筒殻状のピペットチップによって画成された内部の空間が含まれることは明らかである。原告の主張は,刊行物1における投受光経路とピペットチップ内外との関係に関する記載のうち,反射光がピペットチップの内部を伝播する旨の記載のみを取り上げてピペットチップの「内部」がその肉厚部のみを意味すると解するものであり失当である。 (3)本願補正発明の容易想到性についてア本願補正発明の構成は,「液体から得られる反射光のうち該先端開口部に入光した光の変動状態を・・・受光することで,液体の吸引判別を行う」というものであり,上記「変動状態」は,原告が主張するような「チップ内部で急激に反射光が増大する」という変動状態のみに限定されるものではない。よって,刊行物1に,検出対象とする液面反射光の変動状態として原告主張の基本原理に相当するものが記載されていないことをもって,審決の判断を誤りとする原告の主張は失当である。 イ原告主張に係る本願補正発明の効果は顕著なものとはいえない。 原告が主張する各効果は,本願明細書の記載ないし本願補正発明の構成に基づかないものであるか,引用発明及び周知技術と格別に相違する効果とはいえないものである。 ウ仮に,引用発明が,原告が主張するとおり「先端開口部付近の液体から得られる反射光の光の変動状態を受光することで,液体の吸引判別を行う」ものではないとしても,スポット型反射式センサを用いた液体表面での反射光量測定値の変動状態に基づいてピペットチップの吸引判別を行うことが周知技術であり,該周知技術において,該反射式センサが液面レベルを検出する位置とピペットチップが液面に浸漬する位置とをできるだけ一致させるべきことが周知の課題であること,引用発明においても投光・受光のうちの一方である投光の光の経路がピぺットチップの内部空間に設定されていることから,引用発明において,前記周知技術であるスポット型反射式センサをピペットチップの内部に収納して,投光・受光の光の経路を共にピペットチップの内部空間に設定する程度のことは,当業者であれば容易に想起することが可能である。そして,引用発明に前記周知技術を適用することで導かれる構成は,本願補正発明の「空間部を通り,該空間部に面する前記ノズルの下面を経由して受光する」という構成とも一致する。 よって,上記相違点も,引用発明及び周知技術から,当業者が容易に想到し得た事項であり,それによる効果も当業者が予測できる範囲内のものである。 2取消事由2(本願発明に関する誤り)に対して前記1と同様の理由から,原告主張の取消事由は理由がない。 第5当裁判所の判断当裁判所は,本件審決の一致点の認定に誤りがあるものの,相違点の認定及び容易想到性の判断には誤りがなく,上記認定の誤りは審決の結論に影響を及ぼすものではないから,原告の主張に係る取消事由1及び取消事由2はいずれも理由がないと判断する。その理由を以下に述べる。 1取消事由1(本願補正発明に関する誤り)について(1)本願当初明細書(甲4)及び手続補正書(甲6)の記載本願当初明細書(甲4)及び平成16年4月30日付け手続補正書(甲6)には,以下の記載がある。 ア本願補正発明【請求項1】液体の吸引を行うノズルの下端部に装着されたディスポーザブルチップの先端を,容器内に収容された液体に対して下降させる際に前記ディスポーザブルチップの先端開口部付近に,該ディスポーザブルチップで画成された空間部に面する前記ノズルの下面および該空間部を通り光を照射し,先端開口部付近の液体から得られる反射光のうち該先端開口部に入光した光の変動状態を,前記空間部を通り,該空間部に面する前記ノズルの下面を経由して受光することで,液体の吸引判別を行うことを特徴とする液体の吸引判別方法。 イ【0007】【発明が解決しようとする課題】「しかしながら,このような光照射ファイバと受光ファイバとをノズルの外側に並設し,液面からの反射光を受光ファイバで捕えて,その液面を検知する従来の光を利用した液面検知手段にあっては,ノズルと共にこれらのファイバを液体容器に平行に挿入しなければならず,該ファイバが液体容器の壁面に付着した液体と接触してクロスコンタミネーションが発生する,という虞れを否定できない,という問題を有していると共に,受光ファイバで捕えられる光量が非常に微弱であり,この微弱な光量で液面を正確に検知することが非常に難しいと共に,装置の振動等によって液面が微細に波打つことによって,反射光の受光タイミングがずれたり受光できない場合も発生する等,その制御が非常に微妙で難しい,という問題を有していた。」ウ【0008】「この発明は,かかる現状に鑑み創案されたものであって,その目的とするところは,光を利用した液面検知等の液体の吸引判別方法において,受光部をノズルの内側に配設することで,ノズル側から分注チップ等のディスポーザブルチップや洗浄方式のチップ先端開口部の光の変動状態を,あたかもトンネルの一方から他方の開口部を見る,といった環境下で検知することで,液面の波立ち等の影響を受けることなく極めて高感度で液面検知や異物の混入或は色が異なる液体の境界面を検知することができる全く新規な液体の吸引判別方法およびこの方法により駆動制御される分注装置を提供しようとするものである。即ち,この発明の基本的な原理は,外部環境と遮断された空間内における近接物質が,例えば,気体から液体へ,といった具合に変わるその一瞬の光の変動があたかもフラッシュ状に変動する瞬間を捉えることで,上記各種検知作業を行うことを特徴とするものである。」エ【0031】「この後,上記ディスポーザブルチップ8がある位置まで下降し,上記光照射体11からディスポーザブルチップ8の先端開口部8aを出て液面WLに照射され光が,該液面WLで反射して再びディスポーザブルチップ8の先端開口部8aからディスポーザブルチップ8内に入光されると,外部環境と遮断されたディスポーザブルチップ8内における光量が瞬間的に多くなるため,この瞬間の光量を検知し,この検知された光量を指定値と比較し或は所定値として認識する。この場合,シリンダ1が液体を吸引しながら下降させたほうが,反射光をより確実なタイミングでキャッチすることができる。」(2)刊行物1(甲1)の記載刊行物1(甲1)には,以下の記載がある。 ア「1.下端の液吸引・吐出用の開口及びこの開口から吸引した液の保持用中空をもった筒殻状に設けられ,かつ光透過性または半透過性の材質から形成されているピペットチップと,このピペットチップの上部が着脱可能に組付けられるチップ着脱部を有すると共に,この組付けられたピペットチップの上記中空内部に液吸引,吐出の気体圧力を作用する手段が接続されているピペット装置本体と,このピペット装置本体の下方に配置された容器内の液面高さを検出するための液面検出手段と,上記ピペット装置本体又は容器をこれらが上下に離間した状態からピペットチップ下端が容器内の液に一定長浸漬するまでこれらを相対的に接近移動させる上下駆動制御手段と,上記液面検出手段の検出情報に基づきピペット装置本体と容器の接近移動の終点位置を算出して上記上下駆動制御手段に該終点位置の信号を出力する演算手段とを備え,上記液面検出手段は,上記ピペットチップ下端面に光を照射する投光手段と,該ピペットチップ下端面からの反射光を受光する受光手段とを有していて,その受光強度を上記検出情報とするものであることを特徴とする液定量取出し装置。」(特許請求の範囲請求項1)イ「本発明は,以上のような従来技術が提案されていながら未だ解決できない種々の問題点を解消して,液面高さを精度よく検出することにより高精度な液定量取出しを実現できる新規な液定量取出し装置の提供を目的としてなされたものである。 また本発明の別の目的は,生体試料等の試料自体が微量である測定対象につき,液面レベルの検出と液吸引の作業工程を分離することなく,これらの作業を同時工程で行なうことでより迅速な作業を実現できる新規な液定量取出し装置を提供することにある。 また本発明の更に別の目的は,ピペットチッブをディスポーザブルタイプとすることのみで,試料間での汚染防止を好適に実現できる液定量取出し装置を提供することにある。 本発明において,以上のような所期の目的を実現できる装置を提供するに至ったのは次のような知見に基づくものである。 すなわち,液定量取出しの作業と,この作業の前提となる液面高さの検出の作業とを総合的に勘案すると,液面検出作業ではないが,液面検出の作業に液定量取出しの作業において,ピペットが当然液に接触している。 この接液という事象のみをとらえてみると,上記電極を用いた液面検出装置や,用途は異なるが光を用いた接触型液面検出装置において,物体が液に接触している点では共通する。 本発明者はこのことに着目し,ピペットという液吸引のための道具であって,従来液面検出のための道具としては使用されていなっかた(原文のまま)ピペットを,液面検出装置を構成する一部材として共用することを検討した。 その結果,一定の工夫により,ピペットを液面検出装置の構成に利用することができ,しかもこれによって,部材の削減が実現できるだけでなく,高精度な液面高さの検出,ひいては高精度な液定量取出しの実現という目的や,液面検出と液定量取出しの工程の一元化による迅速な処理の実現という目的を達成でき,更には,ピペットにディスポーザブルタイプのチップを採用すれば,異なる試料間での汚染防止を容易に実現できる点で,例えば生体試料等の微量な液の定量取出しという用途に極めて有益な装置を構成できることを確認したのである。」(発明が解決しようとする課題)ウ「ピペットチップの材質は,不透明体のような光を遮断するものでなければ,光透過性のものから比較的光透過性の低い半透過性のものであっても用いることができ,具体的には,ポリプロピレン,ポリスチレン,アクリル,ポリメタクリレート,ポリエチレン,ポリ1-メチル-4-ペンテン等の光透過性の高いものが特に好ましく採用される。…このような形状,材質から成るピペットチップを有するピペット装置において,ピペットチップの下端面に向かって投光した光の反射光を受光手段により検出すると,ピペットチップが非接液状態では上記下端面において光が強く反射(例えば全反射)され,このため受光手段で検出される反射強度は大きな値を示す。しかしピペットチップが接液するとこの下端面における境界条件が変化して屈折率の差が小さくなり,上記反射光強度は急減する。代表的な例では,ピペットチップの材質と液の屈折率が略同等であれば,非接液状態において全反射されていた光の殆どが接液により液中に透過することになって,反射光強度は一定レベルの値から急減する。 本発明の装置はまさにこのような原理を,微量な液定量取出しのための装置において,ピペットを利用して構成させたことを特徴としている。」(6頁左上欄16行〜6頁左下欄7行)エ「また,液面高さの検出のために行われるピペットチップ下端面に対する投光,受光の経路は,筒殻状のピペットチップ内外の何れを利用してもよいし,特に好ましい態様としては,ピペットチップの筒殻を光伝送体として利用する方式を推奨できる。すなわち,光透過性の良好な材質を用いたピペットチップにおいて,反射光(または投光)がピペットチップの筒殻を光伝送体として伝送されるようにして用いれば,光の拡散等の影響を低減できて光源光の強度を軽減できるという利点のある他,光伝送体であるピペットチップの上端面に対して受光センサ(または光源)を配置できるため,ピペットチップ周囲の機械的な構成に空間的な余裕を持たせることができるからである。」(7頁左上欄9行〜右上欄3行)オ「実施例1(中略)以上の構成をなす液定量取出し装置の動作につき説明すると,装置はまず第1図(イ)の状態で待機される。すなわち,ピペット装置は,図示しないピペットチップ着脱装置によりピペットチップ取付け筒部4にピペットチップ3が組付けられ,その状態で上方の待機位置で静止される(第1図(イ)参照)。この状態で下方の液取出し位置に所定の試料容器1が適宜のコンベア装置等によって移入停止される。 次に,上下動機構11によって架台6の下動が開始され,また発光源5のパルス点灯が開始される。そしてこの発光源5の点灯により発光された下方に向かう光の一部はピペットチップ3内部を伝搬し,下端面で反射される。この反射された反射光はピペットチップ3の下端よりも図示の如く斜め上方に対向するように配置されている光フアイバー9(原文のまま)通ってフォトダイオード10に受光され,検出回路8で一定の強度の受光が検出される。 上記ピペットの下動が進むと,液面からの反射光も上記フォトダイオード10に入るようになるため,検出回路8の受光強度は緩慢に増大する。 そして,更に下動が進みピペットチップ3下端がサンプル液に接液すると,該ピペットチップ下端がその直前に接していた空気と接液したサンプル液の屈折率の違いから,屈折率の差が減少し,反射条件が急変する。すなわち,ピペットチップ下端面での反射が実質的に消失し,上記フォトダイオード10で受光される反射光強度が殆ど零となる。 したがって,この受光する反射強度の急減により,ピペットチップ3が接液したことが容易に検出できる。」(8頁右下欄14行〜9頁右上欄7行)カ「第2図は,上記のようにしてピペット装置を降下させた場合に,検出回路8で検出される反射光強度の変化を実際に測定し,その結果を経時的にプロットしたものであり,この図により,液面接触時点で反射光強度が急減していることが明瞭に理解できる。 第3図(イ)〜(ニ)は,ピペットチップ3の下端における光の反射がどのように変化するかを説明する模式的な図であり,その図(イ)は,ピペットチップ内部に投光された光のうちの一部がチップ下端面において反射されることを示しており,他は光はチップ空洞内を通過する。このチップ内に入った光のうち下端面に達した光の反射に応じた強度が,検出回路8により検出される。 第3図(ロ)は,ピペットチップ3内に溶液が吸引された状態(例えば希釈液をサンプル液の吸引前に吸引しておくことがある)におけるピペットチップ下端での反射の状態を模式的に示した図である。この場合には,溶液内を通った光が溶液端面においても反射され,特に溶液が照射光を吸収,散乱しにくい場合,第3図(イ)よりも反射光強度はより強くなる。 第3図(ハ)は,第3図(ロ)のピペットチップ3が液面に接近した場合の反射光強度の模式的な状態を示した図であり,チップ下端面及溶液面での反射光に加えて,液面からの反射光も影響するので反射光強度は一層強くなる。 第3図(ニ)は,ピペットチップ3がサンプル液に接液した場合の反射光の状態を模式的に示したものであり,この接液によりピペットチップとこれに接する外部の媒体との屈折率の差が減少するので,反射光は急減する。」(9頁左下欄9行〜10頁左上欄1行)キ実施例2(引用発明)「第5図に示される本実施例は,実施例1に比べて液面検出装置を形成する受光手段の構成が異なっている点が大きな特徴である。 すなわち,本実施例2において,ピペット装置本体を構成している架台6及びピペットチップ取付け用筒部4に対して,ディスポーザブルタイプのピペットチップ3を着脱自在に組み付ける構成は,基本的には実施例1と同じであるが,本例におけるピペットチップ取付け用筒部4は,架台6に対して下記の光伝送体22を介して固定されている点で異なっている。 すなわち,本例の上記光伝送体22は,架台6に固定される上部の柱状部221と,この柱状部221の下端周縁から円環状に下方に延在された円環部222とを有するように設けられていて,この円環部222の筒内に上記ピペットチップ取付け用筒部4と,投光手段を形成する発光素子(LED)が固定されており,また上記円環部222の下端面が,ピペットチップ取付け用筒部4に組み付けられるピペットチップ3の上端面と対向するようになっている。なお223は光伝送体22のカバー,41はピペットチップ取付け用筒部4の貫通穴である。 また受光手段の受光素子であるフォトダイオード10は,光伝送体22の柱状部222の上端面に対向するように架台6の上部において固定されている。なおその他の構成は実施例1と略同様であるので,必要な部分の符号のみを示して他は省略した。 以上のような構成のピペット装置においては,ピペットチップ下端面で反射した光は,筒殻状のこのピペットチップの内部を伝搬して上端に至り,これに対向している光伝送体22の円環部221に入る。そしてこの光は更に光伝送体の柱状部222を通ってフォトダイオード10に受光される。 そしてこのような構成により,ピペットチップの下端面全面において反射した光が,上記の経路をたどることでフォトダイオード10に受光されることとなるため,円環状の下端面で反射した光の一部のみを受光している場合(例えばピペットチップの円環状上端の一部にフォトダイオードを直接対向させたような場合)に比べ,反射光の利用率が極めて高くなる。 したがって,より明確に反射光強度の急変を検出することが可能となり,あるいは同程度の検出精度を確保するためには光源光の強度を弱くすることができるという利点がある。」(10頁左下欄7行〜11頁左上欄下から6行)(3)特開昭63-15121号公報(甲2)の記載上記公報(甲2)には次の記載がある。 ア「液吸引吐出用の下端ノズルを有するピペットと,このピペットを下動させて下端ノズルを液中に浸漬させるピペット下動制御機構と,液面に対し下動接近しながら液面に対して光を投射,液面からの反射光を検出する感知器とを備え,ピペットの下動停止点該感知器の検出情報により決定する構成とした液定量取出し装置であって,前記感知器には,下方一定長の離間位置を焦点とした光収束性光学素子を有するスポット型反射式センサを用い,その入力反射光の最大光強度点を前記ピペット下動停止点の決定情報としたことを特徴とする液定量取出し装置。」(特許請求の範囲)イ「かかる構成の感知器によれば,液面の傾斜,液のニゴリ等に関係することなく,入力反射光の最大光強度点は液面が焦点位置に至ったときに現われるから,これによってピペット下動の停止点を決めるようにすれば,ピペット下端ノズルの液中への浸漬深さを厳密に管理することが可能となるのである。」(2頁右下欄第3段落)。 (4)原告の主張に対する判断上記の記載を前提にして,原告の主張について順に判断する。 ア原告は,引用発明では,ピペットチップの下端面からの反射光を受光しこれを検知して,液体の吸引判別方法として用いる発明であるにもかかわらず,審決が「先端開口部付近の液体から得られる反射光の光の変動状態を受光することで,液体の吸引判別を行う液体の吸引判別方法」である点で本願補正発明と一致すると認定した点には誤りがあると主張する。 この点を検討する。 (ア)引用発明は,実施例1記載の発明と同様,ピペットの下動が進むと液面からの反射光もフォトダイオード10は受光し,検出回路8の受光強度は緩慢に増大するが,ピペットチップ3下端がサンプル液に接液すると受光強度が急減することにより,ピペットチップ3が接液したことを検出するものと解される。すなわち,引用発明の受光手段は,液面からの反射光も受光するものであるが,接液前後のピペットチップ下端面での反射光の受光強度が大きく変化することを利用して液面高さを検出するものである。そうすると,引用発明が,液面高さを検出する点において液体の吸引判別を行うものであるとしても,先端開口部付近の液体から得られる反射光の光の変動状態を受光することで,液体の吸引判別を行うものとは言い難いものである。 (イ)したがって,引用発明をもって本願補正発明と「先端開口部付近の液体から得られる反射光の光の変動状態を受光することで,液体の吸引判別を行う」点で一致するとした審決の認定には誤りがある。 イ原告は,引用発明の受光経路に関する「筒殻状のピペットチップの内部」は「ピペットチップの肉厚部」を指すにもかかわらず,審決が「ディスポーザブルチップで画成された内部の空間」を含む意味であるとした点には誤りがあると主張する。 この点を検討する。 (ア)前記(2)で認定したとおり,刊行物1には「また,…投光,受光の経路は,筒殻状のピペットチップ内外の何れを利用してもよいし,特に好ましい態様としては,ピペットチップの筒殻を光伝送体として利用する方式を推奨できる。すなわち,…反射光(または投光)がピペットチップの筒殻を光伝送体として伝送されるようにして用いれば,…光伝送体であるピペットチップの上端面に対して受光センサ(または光源)を配置できる…」と記載されており,投光の場合のみならず受光の場合も筒殻状のピベットチップ内を利用し得ることが記載されている。そして,刊行物1において,投光の経路としてピペットチップ内(ピペットチップの空洞内)を利用したものが実施例として具体的に記載されている以上,上記記載は,受光の経路についても,ピペットチップの空洞内を利用することをいうものと解される。したがって,「筒殻状のピペットチップ内」とは「ピペットチップの空洞内」を意味すると解するのが相当である。 (イ)これに対し,原告は,刊行物1の「ピペットチップ下端面で反射した光は,筒殻状のこのピペットチップの内部を伝播して上端に至り」との記載があることを根拠として,「筒殻状のピペットチップの内部」とは「ピペットチップの肉厚部」を意味すべきであると主張する。 しかし,刊行物1の上記「ピペットチップの内部」の記載が,前後の文脈からみて,「ピペットチップの肉厚部」を指すとしても,その記載部分のみをもって,受光経路としての「筒殻状のピペットチップ内」の意義を「ディスポーザブルチップで画成された内部の空間」を除外すると理解する根拠とはなり得ないというべきであるから,上記記載をもって前記アの認定判断を左右するものではない。 (ウ)原告は,引用発明の受光経路を内部の空間とすると,発光強度の急減を利用して液体の吸引判別をすることができなくなるので,「筒殻状のピペットチップの内部」には「ディスポーザブルチップで画成された内部の空間」を含むと理解すべきでないと主張する。 しかし,前記(2)で認定したとおり,引用発明において,ピペットチップとして光透過性のものないし半透過性のものが採用されるところ,その接液の前後において,ピペットチップ下端の開口部への反射光量やピペットチップ内での反射光の伝搬作用に著しい変化が生じるものとは考え難く,その接液の際に液がピペットチップ下端の開口部を塞ぐとしても,そのことにより接液の前と比較して液面からの反射光は他に散乱することなく内部の空間内で強く発光し,内部の空間内を経路として強く受光されるという作用が生じるものとは認められないから,原告の上記主張はその前提を欠き失当である。 ウ容易想到性の誤りに対する判断(ア)以上検討したとおり,本件審決にはその一致点の認定に誤りがある。 他方,本件審決は,本願補正発明と引用発明とは,「本願補正発明においては,ディスポーザブルチップの『先端開口部付近の液体から得られる反射光のうち該先端開口部に入光した光の変動状態を,前記空間部を通り,該空間部に面する前記ノズルの下面を経由して』受光しているのに対し,引用発明においては,ピペットチップ下端面で反射した光を,光透過性の筒殻状のピペットチップの内部及び光伝送体を介して受光している点」において相違点があると認定した上で,相違点についての本願補正発明の容易想到性を判断している。したがって,審決の認定した相違点についての本願補正発明の容易想到性の判断に誤りがない限り,上記一致点の認定の誤りは審決の結論に影響することはないというべきであるので,続いて,容易相当性の有無について検討する。 (イ)前記(2)で認定した刊行物1の記載によると,刊行物1には,受光経路をピペットチップ内として,ピペットチップ内において受光する技術思想が開示されているものというべきであって,投光,受光の経路として,筒殻状のピペットチップの筒殻自体,又はピペットチップ内外のいずれも利用できることが示されているものと理解するのが自然である。 また,前記(3)で認定したとおり,液定量取出し装置において液吸引吐出用の下端ノズルを有するピペットを下動させる際,光センサにより液面までの空間部を介して液面に投光及び受光して液面からの反射光の強度変化により液面高さを検出する方法は,本願出願前に周知であったものと認められる。 以上の事項を前提にすると,引用発明では,受光手段が液面からの反射光も受光するものであるところ,液面高さを検出する情報として,接液前後のチップ下端面での反射光の受光強度の変化を検出する方法に代えて,液面からの反射光の強度変化を検出する上記周知技術の方法を採用することは,当業者が容易になし得たものというべきであり,その際に,ピペットチップ内を通ってピペットチップ取付け部を経由する反射光を受光することも,当業者が適宜設計的になし得る程度のことといえる。そうすると,ピペットチップ先端開口部の液体から得られる反射光のうち,先端開口部に入光した光の変動状態を,ピペットチップ内を通りピペットチップ取付け部を経由して受光すること,すなわち,「ディスポーザブルチップの先端開口部付近の液体から得られる反射光のうち該先端開口部に入光した光の変動状態を,ディスポーザブルチップで画成された空間部を通り,該空間部に面する前記ノズルの下面を経由して受光する」ことは,当業者が容易になし得たものというべきである。 (ウ)これに対し,原告は,原告主張の基本原理については刊行物1には記載がないから,引用発明から本願補正発明を容易に想到することはできないと主張し,前記1で認定したとおり本願明細書にも原告主張の基本原理に相当する記載が存在する(本願明細書【0008】,【0031】)。 しかし,本願補正発明に係る特許請求の範囲請求項1によると,「光の変動状態を・・・受光することで,液体の吸引判別を行う」と記載されているにすぎず,そこでいう「光の変動状態」の具体的内容については特定されていないから,本願補正発明の構成からは「光の変動状態」について原告主張の基本原理に基づくものと限定して解釈することはできない。そして,原告主張の基本原理についても,液面に近づくにつれて受光量が増大することは想定し得るものの,ディスポーザブルチップが外部環境と遮断される前後で,ディスポーザブルチップ内での反射光の伝搬作用に著しい変化が生じるものとは考えにくい。ディスポーザブルチップが外部環境と遮断されると光があたかもフラッシュ状に変動するという原告主張の基本原理が,いかなる構成,作用に基づくものであるかについては,本願明細書(甲4)に何ら開示がない。 なお,原告は,原告主張の基本原理を立証するために甲7及び甲8(甲7の結果をビデオテープに収めたもの)を提出するが,甲7の実験は,LEDに指向性を増すための円筒状のフードを取り付け(甲7,3/5頁4行),チップ先端開口部にCCDカメラのピントを合わせた(同7行)装置を用いるものであるところ,かかる装置を備えるものは,本願明細書において発明の実施の形態として記載されていない上に,甲7は,上記装置を用いた場合にピントの合うチップ先端開口部に液面が到達するとチップ先端部の画像濃度が急増することを示す(甲7,1/5頁の表)にとどまり,投光手段,受光手段の構成はもとより,「光の変動状態」の具体的な内容について何ら特定されない本願補正発明が,原告主張の基本原理に基づくものであるとの根拠も見いだし得ない。 (エ)また,原告は,本願補正発明には引用発明にない顕著な効果が存するので,引用発明から本願補正発明を容易に想到し得ないと主張する。 しかし,上記効果については,本願補正発明の特許請求の範囲にも本願明細書に記載がなく,本願補正発明及び本願明細書の記載に基づく効果ということはできないか,又は,本願補正発明特有の効果とは認められないものであるから,原告の上記主張は採用できない。 2取消事由2(本願発明に関する誤り)について本願発明についても,その内容からして本願補正発明について前記1で認定判断したことが妥当するので,同様に原告主張の取消事由を採用することができない。 3結論以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由には理由がない。 原告はその他縷々主張するが,いずれも理由がなく,審決を取り消すべきその他の誤りも認められない。 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 飯村敏明 |
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裁判官 | 三村量一 |
裁判官 | 上田洋幸 |