関連審決 | 不服2004-6891 |
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関連ワード | 反復(反復可能性) / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 相違点の認定 / 周知技術 / 29条の2(拡大された先願の地位) / 均等 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
18年
(行ケ)
10527号
審決取消請求事件
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原告X 被告特許庁長官 肥塚雅博 指定代理人深澤幹朗 同 小谷一郎 同 岩瀬昌治 同 高木彰 同 大場義則 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2007/08/08 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1原告の請求を棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が不服2004-6891号事件について平成18年10月24日にした審決を取り消す。 |
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争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,平成5年12月6日,発明の名称を「揚液装置」とする発明につき特許出願(特願平5-339698号。以下「本件出願」という。)をしたが,特許庁が平成16年1月29日に本件出願につき拒絶査定をしたので,これを不服として審判請求をした。 特許庁は,上記請求を不服2004-6891号事件として審理した結果,平成18年10月24日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同年11月15日,原告に送達された。 2 特許請求の範囲の記載本件出願の願書に添付した明細書(以下,願書に添付した図面を含めて「本件明細書」という。)記載の特許請求の範囲の請求項1は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。 「【請求項1】タンク(1)内に液体部(2)と減圧された気体部(3)とを形成し一端がタンク(1)外より液体部(2)に連通する降液管(5)を設け,その降液管(5)の他方を垂直方向にタンク(1)内の液面(4)以下に延設し,その液面(4)以下の降液管(5)の延設部に水車(6)排液口(7)を設け,その排液口(7)が浸漬する貯液槽(8)を設けその液面は大気中に開放されている。その貯液槽(8)より吸液管(9)間欠的に液体を送入する揚液ポンプ(10)揚液管(11)を通じて液体を循環させてパスカルの法則とフックの法則と重力の相互作用を利用してエネルギーを発生させる揚液装置。」(なお,本件明細書(甲1)記載の請求項1の「巡環させて」は「循環させて」の誤記であることは当事者間に争いがない。本請求項において,「巡環」を「循環」との意味に理解することに相当性を欠く点は見出せないので,請求項1の記載は上記の意義を有するとの前提に立って,以下判断することとする。)3 審決の内容審決の内容は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,特開昭61-200399号公報(以下「引用文献」という。甲2)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び本件出願前の周知の技術(特開平1-224478号公報(甲3),特開平2-19662号公報(甲4))に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないというものである。 審決は,本願発明と引用発明との間には,次のとおりの一致点及び相違点があると認定した。 (一致点)タンク内に液体部と減圧された気体部とを形成し一端がタンク外より液体部に連通する降液管を設け,その降液管の他方を垂直方向にタンク内の液体部の液面以下に延設し,その液面以下の降液管の延設部に水車を設けている。貯液槽より間欠的に液体を送入する揚液のためのポンプ揚液管を通じて液体を移動させてパスカルの法則とフックの法則と重力の相互作用を利用してエネルギーを発生させる揚液装置。 (相違点)本願発明においては,「降液管(5)」の「排液口(7)が浸漬する貯液槽(8)を設けその液面は大気中に開放されている。貯液槽(8)より吸液管(9)間欠的に液体を送入する揚液ポンプ(10)揚液管(11)を通じて液体を循環させて」いるのに対して,引用発明においては,「導管16」の吸込口が浸漬する「液体14」を設けその液面は大気中に開放されている。液体14より導管16間欠的に液体を送入する真空ポンプ18を通じて液体を移動させている点。 |
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当事者の主張
1 原告主張の取消事由審決には,以下のとおり,本願発明と引用発明の一致点の認定の誤り(取消事由1),相違点の看過(取消事由2),相違点についての容易想到性の判断の誤り(取消事由3)がある。 (1) 取消事由1(一致点の認定の誤り)ア 引用発明について(ア)引用発明は,以下のとおり,「パスカルの法則とフックの法則と重力の相互作用を利用してエネルギーを発生させ」ていない。 @パスカルの法則を利用していないこと引用発明は,真空ポンプの排出口が大気圧であり,また,バルブ24,31を開くと大気圧が上から押し入ってくるので,大気圧の圧力エネルギーを利用できない。 引用発明は,タンク内を真空(水柱-10メートルに相当)にしても水柱は7メートル位しか上昇しないので,大気圧を利用しているとはいえず,パスカルの法則を適用できない。 引用発明は,大気圧を利用してエネルギーを得ることはできないので,真空ポンプの動力を減少させていない。 A液体を間欠的に圧送(送入)することができないこと引用発明は,ポンプの始動停止を繰り返さなければ,液体を間欠的に送入することができず,ポンプを作動させながら液体を間欠的に(液体を圧送するピストンポンプのように)圧送(送入)することもできない。 Bフックの法則を利用していないこと引用発明は,真空ポンプの作動中には,タンク内の圧力は減少し,空気は膨張している状態にあり,圧縮は起こらず,フックの法則の作用効果がない。 一方,真空ポンプが停止した後に「バルブ24,31」を開くと,大気圧に開放されたタンク内の圧力が増加するだけで圧力変動(圧縮・膨張)を繰り返さないので,液面の上下動もありえず,フックの法則は利用できない。 仮に真空ポンプが停止した後に圧力変動が起こるとしても,真空ポンプの動力を減少させるとの作用効果は奏さない。 C重力を利用していないこと引用発明は,上部タンクを大気圧に開放して初めて液体が落下し,液体の落下は上部タンク内の空気の圧力の低下の作用効果を奏するものではないので,重力を利用しているとはいえない。 Dエネルギー効率が極めて悪いこと圧力は,位置エネルギーと運動エネルギーの等価で変換されるので(ベルヌーイの定理),引用発明は,エネルギー効率が極めて悪い。 (イ)引用文献には,パスカルの法則・フックの法則・重力の相互作用に関する記載が一切ない。 イ 本願発明についてこれに対し,本願発明では,揚液ポンプは,一方に大気圧を,他の一方に減圧された「空気室」を配することによって大気圧の圧力エネルギーを取り込むことができるようにした上で,ポンプを作動させながら間欠的に(1秒間隔位の時間内に,ピストンポンプのように)液体を圧送するものであり,圧送時(揚液時)にあっては,上部タンクの水面でタンク内の空気圧を押し上げるので,その時にパスカルの法則・フックの法則が働いて,「空気室」(タンク内の気体部)の空気の圧縮(収縮)が起こって応力が発生し,圧送の休止期にあっては,降水菅の中の水柱が自然落下(重力の作用で)するので「空気室」の空気は膨脹する。 このように本願発明では,ポンプを作動させながら間欠的に液体を圧送することにより,空気室の空気の圧縮・膨脹のサイクルを繰り返してエネルギーを発生させ,「パスカルの法則とフックの法則と重力の相互作用を利用してエネルギーを発生させ」ている。 ウ 一致点の認定の誤り以上のとおり,引用発明は,「パスカルの法則とフックの法則と重力の相互作用を利用してエネルギーを発生させる揚液装置」ではなく,本願発明と別個の発明であるから,審決の一致点の認定は誤りである。 (2) 取消事由2(相違点の看過)本願発明と引用発明には,以下の相違点があるにもかかわらず,審決はこれらを看過した。 ア本願発明では,揚液ポンプで直接液体を圧送(送入)し,空気を減圧する真空ポンプは存在せず,空気を減圧するのに動力(エネルギー)を必要としないのに対し,引用発明では,真空ポンプで空気を媒体として液体を吸引(送入)し,真空ポンプで吸引しなければ空気を減圧することができず,減圧するのに動力(エネルギー)を必要とする。 イ本願発明は,大気圧を利用してエネルギーを得て,揚液ポンプ自体の動力を減少させることができるのに対し,引用発明は,大気圧を利用してエネルギーを得ることはできず,真空ポンプの動力を減少させることはできない。 ウ本願発明は,ポンプを作動させながら液体を間欠的に送入(圧送)することができるのに対し,引用発明の真空ポンプは,ポンプを停止させなければ,液体を間欠的に送入することができない。 エ本願発明では,液体が循環するのに対し,引用発明では,真空ポンプを1回毎に停止させ,基本的に液体を上の方へ揚げるだけで循環しない。 (3) 取消事由3(相違点についての容易想到性の判断の誤り)審決は,相違点について,「本願発明のように,「タンク」の「液体部」に連通する「降液管」の「排液口が浸漬する貯液槽を設けその液面は大気中に開放されている。その貯液槽より吸液管間欠的に液体を送入する揚液ポンプ揚液管を通じて液体を循環させ」るようにした揚液装置は,原査定で例示した特開平1-224478号公報及び特開平2-19662号公報に記載されているように本件出願の出願前周知の技術手段である。」(審決書5頁16行〜21行),「そして,引用文献記載の発明に上記本件出願の出願前周知の技術手段を適用することにより,本願発明を得る程度のことは,本願発明の属する技術の分野における通常の知識を持つ者が容易に想到することができたものと認められる。」(同5頁22行〜25行)と判断している。 しかし,審決の判断には,以下のとおり誤りがある。 ア 周知技術の認定の誤り審決が周知例として挙げる特開平1-224478号公報(甲3)及び特開平2-19662号公報(甲4)に係る各発明の出願人は,いずれも原告であり,上記各発明と本願発明とは出願人が同一人であるから,特許法29条の2ただし書が適用され,甲3及び甲4は周知例としての適格を欠く。したがって,甲3及び甲4記載の技術手段は,本件出願前に周知の技術手段であるとはいえない。 イ 容易想到性の判断の誤り(ア)本願発明は,前記(1)及び(2)のとおり引用発明とは全くメカニズムが異なる別個の発明であって,引用発明が備えず,かつ,本件出願前に周知ではなかった「大気圧の圧力エネルギーを回転運動に変換してエネルギーを取り出す」という技術手段を備えている。 そして,本願発明の「大気圧の圧力エネルギーを回転運動に変換してエネルギーを取り出す」という技術分野は,本件出願当時,存在しなかった。 (イ)以上のとおり,審決の周知技術の認定に誤りがあること,本願発明の「大気圧の圧力エネルギーを回転運動に変換してエネルギーを取り出す」という技術分野は本件出願当時存在しなかったことなどに照らすならば,当業者において本願発明を容易に想到することはできなかったものであるから,これが容易想到であるとした審決の判断は誤りである。 2 被告の反論(1) 取消事由1及び2に対しア引用発明は,本願発明と同様に「パスカルの法則とフックの法則と重力の相互作用を利用してエネルギーを発生させる揚液装置」であるとした審決の認定に誤りはない。 (ア) 引用発明における「パスカルの法則」の利用「パスカルの法則」(「パスカルの原理」)とは,「密閉された容器内で静止した流体の一部に圧力が加えられると,その圧力は強さを変えることなく流体のすべての点に伝えられること。」をいう。引用発明において,「水14」の表面に作用する大気圧が,「水14」,「導管16」内の水及び「タンク12」内の「液体21」のすべての点に伝えられている以上,引用発明もパスカルの原理を利用している。 (イ) 引用発明における「フックの法則」の利用「フックの法則」とは,「物体に力を加えて変形を起こすとき,弾性限度内においては,変形の大きさは加えた力に比例すること。」をいう。引用発明において,「真空ポンプ18」の作動時に「タンク12」内の「液体21」の上方に残る空気が圧縮され,「タンク12」内の「液体21」の上方が「空気室」を形成し,そこが「空気ばね」となって,変形を起こしている以上,引用発明もフックの法則を利用している。 (ウ) 引用発明における「重力」の利用引用発明は,「タンク12」内の「液体21」を,「排出管20」,「バルブ装置24」及び「導管30」を介して落下させており,この液体の落下は,重力の作用で起こるから,引用発明においても重力を利用している。 (エ) 相互作用の利用によるエネルギーの発生上記(ア)ないし(ウ)に加えて,@引用発明では,「真空ポンプ18」を運転することによって「水14」内の水を「タンク12」内へ汲み揚げている以上,「真空ポンプ18」は「揚液のためのポンプ」であること,A引用発明においては,「真空ポンプ18」を運転したり,停止したりして「タンク12」の「液体12」の上方の空気を間欠的に排出することができ,当然に「タンク12」内に液体を間欠的に送入することができること,B引用発明においては,「真空ポンプ18」が停止した後に,「バルブ24,31」を開くと,「タンク12」内の圧力は大気圧より低い圧力から大気圧まで上昇し,その後に「真空ポンプ18」を作動させると,「タンク12」内の圧力は大気圧より小さくなって「タンク12」内に水が汲み揚げられる結果,「タンク12」内の「液体21」の水位は当然に上昇し,それに伴い,「タンク12」内に残る空気が圧縮され,これを繰り返すことにより,「タンク12」内の圧力は変動を繰り返し,その際に,「タンク12」内の液面は上下動すること,C引用発明において,「バルブ24,31」を開くと,大気圧が上から押し入ってくる」ということは,大気圧を利用していることに他ならないこと,D引用発明において,「水14」の表面に大気圧を作用させて,「導管16」及び「タンク12」内に水を汲み揚げている以上,「真空ポンプ18」の動力を減少することができること,E引用発明も,大気圧を利用して,最終的には「ローヘッドタービン」を作動させることにより,エネルギーを発生させることができることに照らすならば,引用文献に,パスカルの法則・フックの法則・重力の相互作用について明記されていなくとも,引用文献に接した当業者であれば,引用発明がパスカルの法則・フックの法則・重力の相互作用を利用してエネルギ-を発生させていることを理解できる。 イ以上のとおり,引用発明は,本願発明と同様に「パスカルの法則とフックの法則と重力の相互作用を利用してエネルギーを発生させる揚液装置」であって,審決がした本願発明と引用発明の一致点の認定に誤りはなく,原告主張の相違点の看過もない。 (2) 取消事由3に対し相違点に係る本願発明の構成(「タンク」の「液体部」に連通する「降液管」の「排液口が浸漬する貯液槽を設けその液面は大気中に開放されている。その貯液槽より吸液管間欠的に液体を送入する揚液ポンプ揚液管を通じて液体を循環させる」ようにした揚液装置)は,本件出願前に周知であり,審決の周知技術の認定に誤りはない。そして,当業者であれば,引用発明に,上記周知の揚液装置の技術手段を適用して,本願発明を容易に想到することができたから,これと同旨の審決の容易想到性の判断に誤りはない。 (3) 予備的主張仮に,原告が主張するとおり審決認定の引用発明及び周知技術に基づいて当業者が本願発明を容易に想到することができたものではないとしても,審決が周知事項の例示として挙げた甲3,4に記載されている事項(ただし,審決において周知事項として挙げた技術とは異なる。)を引用例として,これに審決認定の引用文献(甲2)記載の発明を適用することにより,当業者が本願発明を容易に想到することができたものであるから,審決の結論に誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1及び2(一致点の認定の誤り及び相違点の看過)について原告は,審決には,引用発明を「パスカルの法則とフックの法則と重力の相互作用を利用してエネルギーを発生させる揚液装置」であるとした認定に誤りがあるので,本願発明と引用発明との一致点及び相違点の認定を誤ったと主張する。 しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。 (1) 本願発明について本願発明の特許請求の範囲(請求項1)及び本件明細書(甲1)によれば,本件発明における「パスカルの法則とフックの法則と重力の相互作用を利用してエネルギーを発生させる揚液装置」は,次のような機序で作動することが記載されていると認められる。すなわち,アまず,揚液装置内に液体(水)を充満させる。ただし,タンク(1)内は満杯とせずに,タンク(1)内に液体部(2)と気体部(3)とを形成させる。なお,貯液槽(8)の液面(4´)は大気中に開放されている。 イ次に,降液管バルブ(5´)を開放してタンク(1)内の水を自然落下させ,タンク(1)内の気体部(3)の圧力を低下させて大気圧以下の一定の負圧にすると同時に,揚液ポンプ(10)を間欠的に作動させて貯液槽(8)の水をタンク(1)内に送入する。一方,自然落下した水は貯液槽(8)に溜りそこから揚液ポンプ(10),揚液管(11)を通りタンク(1)に入り降液管(5),水車(6),貯液槽(8)と循環する。 ウ上記イのように水を循環させる間において,「大気圧以下の負圧に減圧された気体部(3)」は「空気室」として機能し,揚水ポンプ(10)によって送り込まれた水は「空気室」の圧力を増加させ,「空気室」を圧縮(収縮)させてエネルギーを吸い上げ,降液管(5)の水柱の重さによる自然落下の流量によって「空気室」の圧力を減少させ,「空気室」を膨張させてエネルギーを放出する。このような「空気室」の圧力変動(圧縮,膨脹)による弾性力によりタンク(1)内の水面(液面(4))を上下動させ,貯液槽(8)の液面(4´)に作用する大気圧と共に,パスカルの法則により,揚水ポンプ(10)の送水時に揚水ポンプの動力を減少させる。揚水ポンプの休止期(吸込期)には逆止弁である降液管バルブ(5´)によってエネルギーの逆流を防止するため,揚水ポンプ(10)の動力は損失しない。揚水ポンプ(10)の送水量と降液管(5)の落下流量を一定にすると「空気室」の圧力は一定の範囲内で微少の圧力変動を繰り返す。 そして,降水管(5)を自然落下した水柱のうち,「空気室」を膨脹させてその圧力を低下させた水柱分を差し引いた残りの水柱分が降水管(5)下部の水車(6)発電機を回転させてエネルギーを外部に取り出すことができる。 以上のとおり,本願発明における「パスカルの法則とフックの法則と重力の相互作用を利用してエネルギーを発生させる」との意義は,上記ウのように,「空気室」(タンク(1)内の気体部(3))の圧力変動による弾性力及び水柱(タンク(1)内の液体部の水)の自然落下の相互作用を利用して,エネルギーを発生させることをいうものと理解される。 (2) 引用発明についてア 引用文献(甲2)の記載引用文献には,次のような記載がある。 (ア)「1,発明の分野本発明は,液体を第一レベルからより高い第二レベルに汲み揚げる装置,とりわけ,汲み揚げられる液体の表面に大気の圧力を利用する装置に関する。」(1頁右下欄5行〜9行)(イ)「2,従来技術液体を第一の低いレベルから第二のより高いレベルに汲み揚げるための数多くの電動ポンプが考案されてきている。 これらの従来技術は通常大量の電気エネルギーを消費する。電気エネルギーの消費を少なくするために,汲み揚げられる液体の表面に作用する大気の圧力を利用する,例えば通常の水リフトポンプのような,さまざまの装置が考案されてきた。通常の水リフトポンプは10〜15フィート(3,048m-4,572m)以上高いところへ揚水する能力はない。通常の電気力によるポンプの揚水能力と大気による水リフトポンプの低エネルギー消費を組み合せることのできるポンプは従来存在しない。」(1頁右下欄10行〜2頁左上欄3行)(ウ)「3,実施例・・・図面を詳細に見ると,符号10は液体を大気の圧力を利用して低いレベルから高いレベルに揚水する装置の全体を示している。第1図に見られるように,気密の真空充填タンク12(本明細書においてはVFTと呼称する)は水のごとき液体14の上方に配置されている。導管16は水14の中から上方へ延び,タンク12の低い部分内で開いている。示された方向においてのみ流れを許容するチェックバルブ17は,導管16の一部で,これはVFT12のすぐ下に位置する。タンク12と水14の間の垂直距離は装置10が達成すべき利用目的により変更することができるが,実用上の限界は20〜25フィート(6,096m-7,62m)である。周囲温度及び圧力条件を含めた様々な要素が高さを決定し更にトリチェリの原理により制約が生ずる。20〜25フィート(6,096m-7,62m)の範囲は適当な容積のVFTとその排出量を可能にする。更に単に部分的な真空あるいは極端に低い空気圧力が必要とされる。ロータリータイプあるいはリングタイプの真空ポンプ18がタンク12の頂部に備えつけられ,これはタンク12の内部と連通する。排出管20がVFT12の底部から下方へ延びている。自動的に作動するバルブ装置24は排出管20に取付けられ,それの作動は以下に詳しく記述される。」(2頁左上欄7行〜右上欄20行)(エ)「導管30はバルブ24から下の方向へ延び以下の如き使用に供される。 (1)ローヘッドタービンにより電気を発生させるため。・・・更に,この装置はVFT12の頂部に連結する急速開放圧力均等化バルブ31を含む。水位調節器32,例えばフロートのようなものが・・・操作に使用される。自動連続調節器36は,バルブ17を含む前述の様々なバルブを作動させ,あるいは作動を停止させるために使用する。」(2頁左下欄1行〜19行)(オ)「作動にあたって,自動連続調節器36が作動される。最初の始動はVFT12がからであって,バルブ24及び17が閉じ,バルブ31が閉じた状態において説明する。真空ポンプ18が始動しバルブ17が開き,あるいはもしVFTの中から空気を吸い込むチェックバルブ11が自動的に開いた場合は,VFT12の中の圧力が低下し導管16の中の水14が上方へ向ってタンク12の中へ吸い込まれる。 VFT12の中の水位が上昇するにつれて,VFT内に残る空気の圧縮があり,真空ポンプ18の効率を増大させる。圧縮動作により真空ポンプは多量の空気を除去することができる。自動水位調節器32はタンク12内に配置され,真空ポンプ18と電気的に連結している。 水位調節器32はタンク12内の液体21が所定のレベルに下降すると真空ポンプ18を始動し,液体21が規定されたレベルに上昇すると真空ポンプ18を停止させる。VFT12の充填中はバルブ24は閉じられる。必要な水位に達し,ポンプ18が停止すると,同時に自動連続調節器36がバルブ24及び31を開き(バルブ17は閉じたまま),VFTから液体が排出される。その所要時間は充填する所要時間と同じかそれより短いことが望ましい。・・・一旦水が排出されると,バルブ24及び31は閉じ,真空ポンプ18が始動し,バルブ17が開き,行程が反復される。この装置の利点は大気の圧力のエネルギーに加えて真空ポンプ18の利点を採用し,大量の水を揚水空気により上昇させる経済的なシステムを提供するところにある。」(2頁左下欄20行〜3頁左上欄12行)イ 引用発明の内容上記アの認定事実及び図面(甲1)によれば,引用文献記載の揚液装置は,以下のとおりの機序によって作動することが記載されていると認められる。すなわち,(ア)まず,最初の始動は真空充填タンク12(VFT12)が「から」であって,バルブ24,17及び31が閉じた状態である。すなわち,VFT12を気密(密封状態)にする。なお,VFT12に連通する導管16(バルブ17はその一部)の下方の吸い込み口が浸漬する液体14(水14)の液面は,大気中に開放されている。 (イ)次に,真空ポンプ18が始動(VFT12内の空気の除去による減圧を開始)し,VFT12の中の圧力が低下(膨脹)し,かつ,バルブ17が開くと,水14の液面に大気圧が作用することにより導管16の中の水が上方へ向ってVFT12の中へ吸い込まれる(この吸い込まれた水が液体21である。)。VFT12の中の水位が上昇することにより,VFT12内に残る空気は圧縮される。この圧縮動作により真空ポンプは空気の容積を減少させることができる。 (ウ)VFT12内の液体21の水位が規定されたレベルに上昇すると,真空ポンプ18が停止し,それと同時にバルブ24及び31を開くと,VFT12から排出された液体21がバルブ24を経て導管30から下方に流れ落ち,ローヘッドタービンを駆動させ電気を発生させること等に利用される。この時バルブ17は閉じたままであるので,液体21の排出によりVFT12内の水位は低下する。VFT12の中の圧力はバルブ24及び31が開かれて大気が入り込み上昇する。 (エ)液体21が排出されタンク12内の水位が所定以下になると,バルブ24及び31は閉じ,バルブ17が開かれ,真空ポンプ18が始動し,上記A以下の動作が反復される。 (3) 本願発明と引用発明との一致点ア前記(1)及び(2)の認定事実を総合すれば,引用文献記載の揚液装置の「タンク12」,「液体21」,「排出管20」,「液体21の液面」,「ローヘッドタービン」,「液体14」及び「導管16」が,本願発明の「タンク(1)」,「液体部(2)」,「降液管(5)」,「液面(4)」,「水車(6)」,「貯液槽(8)」及び「揚液管(11)」にそれぞれ相当するものと認められる。 そして,前記(2)の認定事実によれば,引用文献記載の揚液装置の真空ポンプ18が始動し,VFT12の中へ液体14(水14)の水が吸い込まれると,VFT12内には,吸い込まれた水(液体21)の液体部とその上部に残る空気の気体部を形成し,その気体部は減圧されているから,引用文献記載の揚液装置においても,「タンク内に液体部と減圧された気体部とを形成」することが認められる。 そうすると,本願発明と引用発明とは,「タンク内に液体部と減圧された気体部とを形成し一端がタンク外より液体部に連通する降液管を設け,その降液管の他方を垂直方向にタンク内の液体部の液面以下に延設し,その液面以下の降液管の延設部に水車を設けている。貯液槽より間欠的に液体を送入する揚液のためのポンプ揚液管を通じて液体を移動させ・・・る揚液装置。」である点で一致するものと解される。 イ引用発明は,以下のとおり,「パスカルの法則とフックの法則と重力の相互作用を利用してエネルギーを発生させ」ているものと認められる。 パスカルの原理は,「密閉した静止流体は,その一部に受けた圧力を,増減なくすべての部分に伝達するというもの」(広辞苑第5版2139頁)である。ところで,前記(2)イのとおり,引用文献記載の揚水装置では,VFT12(タンク12),導管16内の水及び空気は,密閉された空間内にあることから,パスカルの原理における静水流体であるといえる。そして,VFT12の圧力の低下によって導管16内の水14が上方に吸い上げられ,導管16内の一部に受けた圧力は他の導管のすべての部分に伝わることから,引用発明は,パスカルの原理を利用していると解される。 フックの法則は,「物体の歪はある範囲(比例限界)内で応力に比例するというもの」(広辞苑第5版2343頁)である。ところで,前記(2)イのとおり,引用文献記載の揚水装置では,「真空ポンプ18」の作動時において,「VFT12内の空気は,液体21の水位の上昇とともに「空気室」の容積の変動及び圧力変動が生じ,これにより応力が発生しているといえるから,引用発明は,フックの法則を広い意味において「利用」していると解して差し支えない。 重力は,「地球上の物体に下向きに働いて重さの原因になる力。地球との間に働く万有引力と,地球自転による遠心力との合力」(広辞苑第5版1270頁)である。ところで,前記(2)イのとおり,引用文献記載の揚水装置では,バルブ24,31を開くことにより,タンク12(VFT12)内から,重力の作用により,排出された水の下方に流れ落ちるので,引用発明が重力を利用していると解される。 そして,引用文献記載の揚液装置においては,パスカルの原理の利用・フックの法則の利用・重力を利用し,タンク12(VFT12)から排出された液体21がバルブ24を経て導管30から下方に流れ落ち,ローヘッドタービンを駆動させ電気(電気エネルギー)を発生させているので,引用発明は,「パスカルの法則とフックの法則と重力の相互作用を利用してエネルギーを発生させ」ているものと解される。 ウ以上によれば,引用発明においても,VFT12内に残された空気が「空気室」として機能し,その圧力変動による弾性力及びVFT12内から排出される水が下方へ流れ落ちることによる相互作用を利用していることに照らすならば,引用発明においても,本願発明における「パスカルの法則とフックの法則と重力の相互作用を利用してエネルギーを発生させる」構成を有しているものと解される。 以上によれば,審決がした本願発明と引用発明の一致点の認定に誤りはない。 (4) 原告の主張に対する判断ア原告は,引用発明においては,大気圧の圧力エネルギーを利用できず,真空ポンプの動力を減少させることはできないと主張する。 しかし,原告の主張は,以下のとおり採用することができない。 (ア)前記のとおり,引用文献には,「・・・本発明は,・・・汲み揚げられる液体の表面に大気の圧力を利用する装置に関する。」(前記(2)ア(ア)),「3,実施例・・・符号10は液体を大気の圧力を利用して低いレベルから高いレベルに揚水する装置の全体を示している。 ・・・タンク12と水14の間の垂直距離は・・・実用上の限界は20〜25フィート(6,096m-7,62m)である。周囲温度及び圧力条件を含めた様々な要素が高さを決定し更にトリチェリの原理により制約が生ずる。20〜25フィート(6,096m-7,62m)の範囲は適当な容積のVFTとその排出量を可能にする。更に単に部分的な真空あるいは極端に低い空気圧力が必要とされる。」(同(ウ)),「・・・この装置の利点は大気の圧力のエネルギーに加えて真空ポンプ18の利点を採用し,大量の水を揚水空気により上昇させる・・・」(同(オ))との記載がある。 上記記載と引用文献の揚水装置の作動機序(前記(2)イ)に照らすならば,引用文献の揚水装置は,真空ポンプの作用と共に大気圧の圧力を利用して液体の揚水を行い,大気圧の圧力エネルギーをも利用することにより真空ポンプの動力を減少させていることは明らかである。 そして,引用文献の揚水装置では,真空ポンプが停止すると同時に「バルブ24,31」を開放させ,これによりタンク内に大気を取り込むが,このことが大気圧の圧力エネルギーを利用することを不可能とする根拠となるものとはいえない。 (イ)なお,「トリチェリの原理」により,理論的には,大気圧と平衡する水柱を約10メートル(水銀柱約760ミリメートル)とすることができるが,引用文献の揚水装置では,「周囲温度や圧力条件を含めた様々な要素」により大気圧と平衡する水柱が減少することを考慮し,タンク12と水14の間の垂直距離(水柱の高さの最大値に相当)を実用可能な6.096m-7.62mの範囲にしたものと理解することができる。したがって,引用文献の揚水装置においては,水柱の高さが最大10メートルまで上昇しないとしても大気圧の圧力を利用していないということはできない。 (ウ)以上のとおり,引用発明は真空ポンプの作用と共に大気圧の圧力を利用して液体の揚水を行っており,このように大気圧の圧力とポンプを併用して揚水をしている点で本願発明と引用発明は共通し,大気圧の圧力エネルギーを利用して真空ポンプの動力を減少させているのであるから,引用発明では大気圧の圧力エネルギーを利用することができないとの原告の主張は採用することができない。 イ原告は,引用発明では,ポンプの始動停止を繰り返さなければ,液体を間欠的に送入することができないのに対し,本願発明では,ポンプを作動させながら液体を間欠的に(液体を圧送するピストンポンプのように)圧送(送入)する点において相違すると主張する。 しかし,原告の主張は,以下のとおり採用することができない。 すなわち,本願発明の特許請求の範囲には「間欠」時間の間隔,「送入」の態様を具体的に規定する記載はないから,引用発明の真空ポンプにおいて,ポンプを始動停止させて間欠的に送入する構成を有する以上,「液体を間欠的に送入する」という点で,本願発明の揚液ポンプと引用発明の真空ポンプとの相違はない。 ウ原告は,引用発明では,真空ポンプが作動中は,タンク内の圧力は減少中で,空気は膨張している状態にあり,圧縮は起こらず,真空ポンプが停止した後は,(バルブ24,31が開かれて)大気圧に開放されたタンク内の圧力が増加するだけで圧力変動(圧縮・膨張)を繰り返さないので,液面の上下動もありえず,フックの法則は利用できないなどと主張する。 しかし,原告の主張は,既に(3)イで述べたとおり採用することができない。 すなわち,前記(2)イ認定の引用文献の揚水装置の作動機序に照らすならば,引用発明では,@真空ポンプ18の始動時には,密閉されたVFT12内の空気の除去による減圧を開始するとともに,液体14(水14)の液面に大気圧が作用することにより導管16の中の水が上方へ向ってVFT12の中へ吸い込まれ,その水位が上昇することにより,VFT12内に残る空気は圧縮されること,すなわち,VFT12内の空気(空気室)の減圧及び圧縮が生じること,A真空ポンプ18の停止時には,バルブ24及び31が開かれて大気が入り込みタンク12内の空気(空気室)の圧力は上昇するとともに,VFT12内からの液体21の排出によりVFT12内の水位は低下すること,B上記@の真空ポンプの始動及び上記Aの停止の動作が反復されることが認められる。上記@ないしBによれば,引用発明において,タンク12(VFT12)内の空気(空気室)の圧力変動を繰り返していることが認められる。 したがって,引用発明においても,フックの法則について,広い意味において「利用」していると解して差し支えない。 エ原告は,引用発明では,上部タンクを大気圧に開放して初めて液体が落下し,液体の落下は上部タンク内の空気の圧力の低下の作用効果を奏するものではないので,重力を利用しているとはいえないこと,圧力は,位置エネルギーと運動エネルギーの等価で変換されるので(ベルヌーイの定理),引用発明は,エネルギー効率が極めて悪いことなどを根拠に,引用発明は,「パスカルの法則とフックの法則と重力の相互作用を利用してエネルギーを発生させ」ていないと主張する。 しかし,引用発明でも重力を利用していること(前記(3)イ)は既に判断したとおりであり,また,ベルヌーイの定理から直ちに引用発明のエネルギー効率が極めて悪いということもできないから,原告の上記主張は,その前提を欠き採用することができない。 オ原告は,引用発明では,真空ポンプで空気を媒体として液体を吸引(送入)し,真空ポンプで吸引しなければ空気を減圧することができず,減圧するのに動力(エネルギー)を必要とするのに対し,本願発明では,揚液ポンプで直接液体を圧送(送入)するので,空気を減圧する真空ポンプは存在せず,空気を減圧するのに動力(エネルギー)を必要としない点で相違すると主張する。 しかし,本願発明では「揚液ポンプ」を用いているのに対し,引用発明では「真空ポンプ」を用いていることは,後記のとおり,審決が相違点として認定した上で,容易想到性の判断をしていることに照らすならば,審決に上記相違点の看過があるとの原告の主張は採用することができない。 カ原告は,引用発明は,大気圧を利用してエネルギーを得ることはできず,真空ポンプの動力を減少させることはできない,真空ポンプを停止させない限り,液体を間欠的に送入することができないのに対し,本願発明は,大気圧を利用してエネルギーを得て,揚液ポンプ自体の動力を減少させることができ,ポンプを作動させながら液体を間欠的に送入(圧送)することができる点で相違すると主張する。 しかし,原告の主張は,前記ア及びイで述べたとおりの理由により,採用することができない。 キ原告は,本願発明では,液体が循環するが,引用発明では,真空ポンプを一回毎に停止させ,基本的に液体を上の方へ揚げるだけで循環しない点で相違すると主張する。 しかし,原告主張の相違点は,後記のとおり,審決が相違点として認定しており,審決に上記相違点の看過があるとの原告の主張は採用することができない。 (5) 小括以上のとおり,原告主張の取消事由1及び2は理由がない。 すなわち,本願発明と引用発明とは,『本願発明においては,「降液管(5)」の「排液口(7)が浸漬する貯液槽(8)を設けその液面は大気中に開放されている。貯液槽(8)より吸液管(9)間欠的に液体を送入する揚液ポンプ(10)揚液管(11)を通じて液体を循環させて」いるのに対して,引用発明においては,「導管16」の吸込口が浸漬する「液体14」を設けその液面は大気中に開放されている,液体14より導管16間欠的に液体を送入する真空ポンプ18を通じて液体を移動させている点。』で相違するとした審決の相違点の認定に誤りはない。 なお,本願発明では「揚液ポンプ(10)揚液管(11)を通じて液体を循環させて」いるのに対して,引用発明では「真空ポンプ18を通じて液体を移動させて」いるとの構成の相違に基づいて,本願発明においては,揚液ポンプ(10)により貯液槽(8)の液体をタンク1に圧送して移動させ,これによりタンク1の空気圧は加圧されて正圧になるのに対して,引用発明においては,真空ポンプ18によりタンク12内の空気を排出して液体14の水を吸引して移動させ,これによりタンク12の空気圧は減圧されて負圧になる点で相違していることも自明である。 2 取消事由3(相違点についての容易想到性の判断の誤り)について(1) 容易想到性の有無について上記の1(5)「小括」で述べた相違点を基礎として,審決に,原告主張に係る容易想到性判断の誤りがあるか否かについて判断する。 審決が認定するとおり(審決書5頁16行〜21行),本件出願の当時,『「タンク」の「液体部」に連通する「降液管」の「排液口が浸漬する貯液槽を設けその液面は大気中に開放されている。その貯液槽より吸液管間欠的に液体を送入する揚液ポンプ揚液管を通じて液体を循環させ」るようにした揚液装置』は周知であったものと認められる(例えば,甲3,4)。この周知の揚液装置において,「揚液ポンプにより貯液槽の液体をタンクに圧送して移動させ,これによりタンクの空気圧は加圧されて正圧となる」ようにする技術手段が用いられていることは自明であるから,このような技術手段もまた周知であったものと認められる。 そして,前記認定のとおり,本願発明と引用発明は,審決認定のとおりの一致点を有し,大気圧の圧力とポンプを併用して液体を揚水している点で共通していることに照らすならば,当業者であれば,引用文献記載の揚液装置に,上記周知の技術手段を適用して,真空ポンプに代えて揚液ポンプを用い,相違点に係る本願発明の構成とすることは,格別困難なく,容易に想到することができたものと認められる。 したがって,審決に容易想到性の判断を誤った違法はない。 (2) 原告の主張に対する判断ア原告は,審決が周知例として挙げる甲3(特開平1-224478号公報),甲4(特開平2-19662号公報)に係る各発明の出願人は,いずれも原告であり,上記各発明と本願発明とは出願人が同一人であるから,特許法29条の2ただし書が適用され,甲3及び甲4は周知例としての適格を欠くので,甲3及び甲4記載の技術手段は,本件出願前に周知の技術手段であるとはいえないと主張する。 しかし,甲3(平成1年9月7日公開)及び甲4(平成2年1月23日公開)は,いずれも本件出願(出願日・平成5年12月6日)の前に公開されており,本件出願は,甲3及び甲4に係る特許出願の「公開後」にされたものであるから,本件において,後願が先願の「公開前」である場合に一定の要件の下に先願の公知を擬制することを規定した特許法29条の2の適用の余地はない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 イ原告は,本願発明は,引用発明とは全くメカニズムが異なる別個の発明であって,引用発明が備えず,かつ,本件出願前に周知ではなかった「大気圧の圧力エネルギーを回転運動に変換してエネルギーを取り出す」という技術手段を備えていることなどに照らすならば,当業者において本願発明を容易に想到することはできなかったと主張する。 しかし,先に認定したとおり,引用発明は,大気圧の圧力とポンプを併用して液体を揚水している点で本願発明と共通し,大気圧をも利用して,ローヘッドタービンを駆動させ電気エネルギーを発生させる発明であることに照らすならば,原告がいう「大気圧の圧力エネルギーを回転運動に変換してエネルギーを取り出す」という技術思想を備えているといえるから,原告の上記主張は採用することができない。 (3) 小括当業者が引用発明に周知の技術手段を適用して本願発明を容易に想到することはできたとした審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由3は理由がない。 3 結論原告主張の取消事由はいずれも理由がない。原告は,他にも審決の認定判断の誤りについて縷々主張するが,いずれも審決を取り消すべき瑕疵に当たらない。 よって,被告の予備的主張について判断するまでもなく,原告の本訴請求は理由がない(なお,審判手続における公正の確保のための特許法の諸規定,とりわけ審決に理由を付することを求めた趣旨等に照らして,本訴においてした被告の予備的主張は,失当であることを付言する。)。以上のとおりであるから,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 飯村敏明 |
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裁判官 | 大鷹一郎 |
裁判官 | 嶋末和秀 |