関連審決 | 無効2005-80024 訂正2005-39165 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成17行ケ10462審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 進歩性(29条2項) / 同一技術分野(同一の技術分野) / 容易に発明 / 周知技術 / 発明の詳細な説明 / 置き換え / 置換 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 設定登録 / 請求の範囲 / 変更 / 訂正明細書 / 補助参加 / |
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元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
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事件 |
平成
18年
(行ケ)
10408号
審決取消請求事件
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原告安 藤建設株式会社 訴訟代理人弁護士影山光太郎 同 石橋武征 同弁理士植田茂樹 訴訟復代理人弁護士小川基幸 被告特 許庁長 官肥塚雅博 指定代理人柴田和雄 同 岡田孝博 同 高木彰 同 大場義則 被告補助参加 人Z1 被告補助参加 人Z2 被告補助参加人ら訴訟代理人弁理士 葛西泰二 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2007/07/30 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1原告の請求を棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求特許庁が訂正2005-39165号事件について平成18年7月25日にした審決を取り消す。 第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯(1)原告は,発明の名称を「管渠の布設方法」とする特許第2879021号(平成8年9月27日出願,平成11年1月22日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許の特許権者である。 (2)本件特許については,平成17年1月25日,本件特許を無効とすることを求めて審判の請求があり,無効2005-80024号事件として特許庁に係属した。その審理の過程において,原告は,平成17年4月15日,本件特許に係る明細書(以下「本件明細書」という。)を訂正する請求をした。特許庁は,審理の結果,平成17年6月27日,「訂正を認める。特許第2879021号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,その謄本は平成17年7月7日に原告に送達された。 原告は,この審決を不服として,同年8月5日,上記審決の取消訴訟を提起し,同訴訟は当庁において係属している(当庁平成17年(行ケ)第10612号)。 (3)原告は,平成17年9月22日,本件明細書の訂正(以下この訂正を「本件訂正」といい,本件訂正後の明細書及び図面を「本件訂正明細書」という。)を求める審判を請求した。特許庁は,これを訂正2005-39165号事件として審理した結果,平成18年7月25日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は平成18年8月10日原告に送達された。 2本件訂正の内容本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである(下線部は,本件訂正に係る箇所である。)。 【請求項1】「地盤掘削により形成された山留め空間内に単位管体を搬入し,該単位管体を基礎コンクリート上に敷設されたレールに沿って横引き装置で所定の連結位置まで移動させ,該位置で各単位管体同士を順次連結して一体とした管渠を構築するようにした管渠の布設方法において,前記レールの側面に設けられたガイド部材に囲まれた前記レール上面に,球状体をレールの長さ方向及び幅方向に多数,転動可能に敷き詰めてなる摩擦低減手段を設け,該多数の球状体上に前記単位管体を載置し,この状態で該単位管体の横引き動作を行い,前記球状体の転動動作に伴い前記単位管体を前記連結位置まで移動させ,該位置で各単位管体同士を順次連結して一体化させるにあたり,単位管体の底面に設けたグラウト孔より単位管体底面と基礎コンクリートとの間に,グラウト材を,レール上面の多数の球状体の間を通過させるようにして充填し,単位管体底部とレールと多数の球状体と基礎コンクリートとをグラウト材によって一体化させる,ことを特徴とする管渠の布設方法。」(当該請求項1記載の発明を,以下,「本件訂正発明」という。)。 3審決の理由別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件訂正発明は,特開平7-259169号公報(甲1。以下「刊行物1」といい,刊行物1記載の発明を「引用発明1」という。)及び実願昭60-131436号(実開昭和62-44999)のマイクロフィルム(甲2。以下「刊行物2」といい,刊行物2記載の発明を「引用発明2」という。)の記載並びに特開平8-98476号公報(甲3。以下「刊行物3」といい,刊行物3記載の発明を「引用発明3」という。)等に示される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないから,本件訂正は許されないというものである。 審決は,上記結論を導くに当たり,引用発明1の内容並びに本件訂正発明と引用発明1との一致点及び相違点を次のとおり認定した。 (1)引用発明1の内容土留壁3を設けた溝1内に,一定の場所からコンクリートブロック2を荷卸しし,該コンクリートブロック2を当該溝1内の基礎コンクリート20の上面両側に埋め込んだ一対のガイド部材21に沿って牽引装置で他のコンクリートブロック2が置かれた据え付け位置Bまで移動させ,該位置Bで各コンクリートブロック同士を順次隣接させるようにしたカルバート,水路ブロック等のコンクリートブロック構造物のためのコンクリートブロックの敷設方法。 (2)一致点地盤掘削により形成された山留め空間内に単位管体を搬入し,該単位管体を基礎コンクリート上に敷設されたガイド手段に沿って横引き装置で所定の据え付け位置まで移動させ,該位置で各単位管体同士を順次隣接させて管渠を構築するようにした管渠の布設方法である点。 (3)相違点ア基礎コンクリート上に敷設されたガイド手段及びその移動態様に関して,本件訂正発明では,「レール」を採用するとともに,「前記レールの側面に設けられたガイド部材に囲まれた前記レール上面に,球状体をレールの長さ方向及び幅方向に多数,転動可能に敷き詰めてなる摩擦低減手段を設け,該多数の球状体上に前記単位管体を載置し,この状態で該単位管体の横引き動作を行い,前記球状体の転動動作に伴い前記単位管体を前記連結位置まで移動させ」るものであるのに対して,引用発明1では,このようなレールや摩擦低減手段を用いて移動させるものではない点(以下「相違点1」という。)。 イ順次隣接させた各単位管体同士の据え付け態様に関して,本件訂正発明では,「各単位管体同士を順次連結して一体と」するとともに,該連結位置で「各単位管体同士を順次連結して一体化させるにあたり,単位管体の底面に設けたグラウト孔より単位管体底面と基礎コンクリートとの間に,グラウト材を,レール上面の多数の球状体の間を通過させるようにして充填し,単位管体底部とレールと多数の球状体と基礎コンクリートとをグラウト材によって一体化させる」ものであるのに対して,引用発明1では,このような連結やグラウト孔を用いて一体とするかが明らかでない点(以下「相違点2」という。)。 第3原告主張の取消事由の要点審決は,相違点1及び相違点2についていずれも当業者が容易に行うことができたか否かの判断を誤ったものであるところ,これらの誤りがいずれも結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである。 1取消事由1(相違点1の判断の誤り)審決は,「本件訂正発明は,引用発明1のガイド手段とその移動態様を,引用発明2の多数の鋼球に変更し,その変更の際,多数の鋼球の配置態様として従来周知のものを単に選択したもので,当業者が容易に想到し得たものである。」と判断したが誤りである。 (1)本件訂正発明の「球状体」の意味本件訂正発明の「球状体」は単位管体の移動(搬入位置から連結位置までの移動)と設置(単位管体を順次連結して設置)に関する部材で,次の機能を有する。 ア移動に際しての機能@長さ方向及び幅方向へのころがりによる摩擦の低減Aわだちを生じにくくした荷重の分散イ設置に際しての機能B設置位置での単位管体のレベル調整C設置位置での単位管体の幅方向調整D経路屈曲部での単位管体の設置の施工性の向上E骨材となる(強度補強)。 (2)引用発明2の「鋼球」の意味引用発明2の「鋼球」は,@大重量物を支え,しかもつなぎ連結される複数のレールの後方端から取り出され,前方端に押し込まれて循環使用されるもので,必然的に大径で一列に配置され,A幅方向では移動が規制され,長さ方向への転動のみが許容されることで,側方にずれることなく重量物を長手方向へ安定して移動させることができ,B大重量物を搬送後は,大重量物の設置位置から除去されるので,大重量物の設置に寄与するものではない。 (3)引用発明3の「球体」の意味引用発明3の「球体」は,@特定位置や移動経路の一部に配置され,配置位置での位置調整を行うにすぎず,長い経路の全体に配置されて経路全体での摩擦低減を意図したものではなく,A摩擦低減作用を果たした後,配置位置から必然的に除去され,移動対象物の設置に寄与するものではない。 (4)本件訂正発明の「球状体」と引用発明2の「鋼球」との対比ア引用発明2の「鋼球」は,移動に際しての機能のみを有し,本件訂正発明の「球状体」のように設置に際しての機能を有しない。 イ移動に際しての機能について対比しても,引用発明2は,わだちを生じさせるという欠点がある。 (5)引用発明1への引用発明2の適用について引用発明1の移動の構成を引用発明2のレールと鋼球に置き換え可能であるとしても,引用発明2は設置に際しての機能を何ら開示するものではなく,特に,本件訂正発明の球状体の持つ設置位置での幅方向調整,経路屈曲部での設置の際の利点,骨材としての強度補強という機能については,引用発明2はもとより引用発明1においても課題として触れられておらず,よって引用発明1に引用発明2の「多数の鋼球」を適用しても,上記本件訂正発明の球状体の持つ機能を得ることができない。 (6)引用発明2の「鋼球」の配置態様を引用発明3の「球体」に変更することの可否ア引用発明1には,本件訂正発明の球状体が持つ設置に際しての機能について示唆がなく,また,引用発明2の「多数の鋼球」を引用発明3の球体に変更する必然性を生じさせる構成が記載されていない。 イ引用発明2は,一列に配置された大径の鋼球でなければ所期の目的が達成できないもので,大径の鋼球に代えてレールの幅方向にも転動可能に配置された多数の球体によっても支持させるという考え方は存在しないので,引用発明3の多数の球体では,実施ができなくなる。 よって,引用発明1,2には,引用発明2の「多数の鋼球」を引用発明3の多数の球体に変更する理由は存在しない。 ウ引用発明2の鋼球を引用発明3の球体に変更して引用発明2を引用発明1に適用し得るとしても,引用発明3の球体は,移動対象物の設置に供されて移動対象物と一緒にそのまま設置位置に残留されるものではないから,本件訂正発明の球状体が設置に際しての機能のすべてをそのまま生じさせ,又は予測させるものではない。 2取消事由2(相違点2の判断の誤り)審決は,「相違点2に係る本件訂正発明の構成は,引用例1(判決注:刊行物1)に,周知の連結手段と引用例1に示されたグラウト孔の構成を採用することにより,当業者が容易に想到し得たものである。」と判断したが,誤りである。 (1)グラウト材充填の意味グラウト材は,@ブロック底部下方に生じた隙間を埋めること,Aブロックの荷重を支えることのために充填される。 充填とは,欠けているところなどに物を詰めて塞ぐことであり,充填したからといって必ずしも一体化が行われるわけではない。一体化するためには,それに必要な条件を具備したグラウト材をそれにふさわしい態様で充填しなければならない。引用発明1では,間隙部を塞ぐに足るグラウト材であれば足りる。 (2)本件訂正発明におけるグラウト材充填本件訂正発明のグラウト材は,内部にレールと球状体を埋入させた状態で,単位管体の側壁外側まで回り込むことによって(図5(b)参照),単位管体底面と基礎コンクリートとレールと球状体とを一体化させている。そして,本件訂正発明におけるグラウト材の充填は,隙間部分を単に塞ぐために行われるのではなく,単位管体と基礎コンクリートとレールと球状体とを一体化させるために行われる。こうしたグラウト材の充填は,刊行物1には何ら開示も示唆もされていない。 第4被告の反論1取消事由1に対し(1)原告は,摩擦低減手段が幅方向へ転動可能であることが刊行物1にも刊行物2にも記載されていないから,本件訂正発明の球状体の持つ機能をこれらにより得ることができないと主張するが,刊行物2には,「運搬途中で,カーブ区間がある場合でも,運搬物の下部を鋼球で支持しているため,容易に運搬物の方向修正が可能である。」という記載がある。 そうすると,刊行物2に記載された実施例も,幅方向への転動を期待したものといえるし,幅方向に転動可能であることは,回転方向に規制がない球状体の性質により得られるものであり,幅方向に配置された球状体の数とは本質的に無関係である。 (2)原告は,引用発明1に引用発明2及び周知技術を適用しても,設置位置でのレベル調整という本件訂正発明の球状体の持つ機能を得ることができないと主張するが,これらを適用して本件訂正発明と同様にレベル調整を行わないようにするものが容易に得られるし,そもそも球状体が単位管体の設置位置でのレベル調整という技術的意味を有するという主張は本件訂正明細書に基づくものではない。 2取消事由2に対し(1)本件訂正発明において「一体化」の意味することはグラウト材を充填することと同義である。そして,刊行物1には,「グラウト材を注入して充填する。」との記載があるから,審決が引用発明1に「単位管体底部と基礎コンクリートとをグラウト材によって一体化させる」点に相当するものが開示されているとした点に誤りはない。 (2)本件訂正明細書の請求項1には,グラウト材の性状について何ら記載がなく,本件訂正発明がセメントモルタル等の従来より知られたグラウト材の性状と異なる特殊な性状のグラウト材を用いたものということができない。 よって,本件訂正発明におけるグラウト材と引用発明1におけるグラウト材に実質的な差異はない。 (3)杭の施工方法において,作業のために用いた部材を残留させることは,周知技術であり,残留させることを選択した場合の効果も当業者が予測し得ることであるから,審決が残留させることとするのはかえって自然な選択であるとした点に誤りはない。 第5被告補助参加人らの反論1取消事由1に対し(1)引用発明2の「鋼球」の意味ア本件訂正発明の球状体も引用発明2の鋼球も,レールの長手方向への移動を前提とする点で技術思想的に共通であり,幅方向への移動を理由に相互に置換できないとする理由には当たらない。 本件訂正発明の球状体は,構造上はわずかであれば幅方向への移動は可能であるが,この程度の幅方向への移動の可能性については,引用発明2の鋼球の構造にあっても同様である。 イ原告は,本件訂正発明の「球状体」には設置に際しての機能と移動に際しての機能があるところ,引用発明2の「鋼球」には設置に際しての機能がないと主張するが,設置に際しての機能は本件訂正明細書に記載がないし,仮にそれが本件訂正発明に含まれるとしても,引用発明2の「鋼球」は移動のみならず設置に寄与するものである。 (2)引用発明3の開示内容について引用発明3の球体は,重量物の下に多数敷き詰めることにより重量物の移動方向転換に要する力を低減しようとする周知技術を開示しているものにすぎない。 2取消事由2に対し(1)引用発明1の記載内容引用発明1も本件訂正発明も移動してきたコンクリートブロックの底板の下方に生じた隙間をグラウト材で充填するものである。したがって,グラウト材については引用発明1と本件訂正発明とにおいて何ら差異はない。 (2)本件訂正発明の球状体の骨材としての効果について本件訂正発明の球状体はレール上に集中しており,グラウト材の骨材として好ましくないから,球状体をすべて取り除いてグラウト材を充填することが好ましい。しかし,実際的には球状体の除去は容易でないため,これを残した状態でグラウト材を充填しているものにすぎないものであるから,積極的に球状体を骨材として残すと主張する原告の主張は誤りである。 第6当裁判所の判断1取消事由1(相違点1の判断の誤り)について(1)引用発明2の内容ア刊行物2(甲2)には,次の各記載がある。 「大型重量物の本体下部の長手方向両側に取付けられ,下面が平滑なレール面となっている一対の上部レールと,上面が平滑なレール面となっており,かつ坑内に上記上部レールと対向して敷設された一対の下部レールと,両側の上下レール間に転動自在に介在された多数の鋼球とからなり,上下レールには鋼球が上下レールの間から側方にはずれないようにするストッパが両側に設けられていることを特徴とする大型重量物の坑内移動装置」(実用新案登録請求の範囲)「〔考案の目的〕本考案は従来の技術にかかる問題に鑑み案出されたもので,既設坑内の大型重量物の移動において,移動時のけん引抵抗の軽減および,重量物の移動方向修正を容易した大型重量物の坑内移動装置を提供することを目的とする。」(4頁1行〜6行)「〔考案の効果〕以上要するに本考案によれば,次のような優れた効果を発揮する。 (1)多数の鋼球を使用しているので,鋼球1ヶ当りの荷重が小さく,従って運搬時のけん引抵抗が小さく,容易にけん引可能で,小規模なウィンチでまかなえ経済的である。 (2)運搬途中で,カーブ区間がある場合でも,運搬物の下部を鋼球で支持しているため,容易に運搬物の方向修正が可能である。 (3)多数の鋼球で荷重を分散させるため,重い運搬物も移動可能である。」(9頁5行〜下から5行)イ上記各記載によれば,刊行物2には,大型重量物の下部とレールとの間に,レールに設けたストッパーにより側方に外れないようにした多数の鋼球を介在させ,大型重量物の移動時の牽引抵抗を軽減させるとともに移動方向修正を容易にする技術が開示されているものと認められる。 (2)周知技術についてア刊行物3(甲3)には,次の各記載がある。 「基礎体に設置された固定子用ベース上に載置される立軸回転電機の固定子を上記ベースに対して移動する固定子センタリング用移動装置において,上記基礎体に載置され,上記固定子を上記固定子用ベースから浮かせるように支持するジャッキと,上記基礎体と上記ジャッキとの間と上記ジャッキと上記固定子との間との少なくとも一方の間に介在され,上記固定子のセンタリングのために上記固定子を上記基礎体に対して移動させる時の摩擦力を低減させる摩擦低減体とを具備することを特徴とする固定子センタリング用移動装置。」(【特許請求の範囲】【請求項1】)「上記摩擦低減体は,上記基礎体と上記ジャッキとの間に介在されると共に,上記基礎体に載置された枠付き箱と上記枠付き箱内に収容された複数の鋼球とから構成されることを特徴とする請求項1に記載の固定子センタリング用移動装置。」(【請求項3】)「ジャッキが固定子を固定子用ベースから浮かせるように支持した状態で,固定子にセンタリング用の外力を加える。固定子と基礎体の間には摩擦低減体が存在するため,固定子は比較的小さな外力によって移動する。」(段落【0011】【作用】)イ特開昭60-209413号公報(甲4)には,次の各記載がある。 「基礎板と,この基礎板内部に多数収納された鋼球と,この鋼球を介して回動自在に配置された台枠とを備え,上記台枠上に塔載された被移送体を所定角度旋回させるよう構成して成る旋回移送装置。」(特許請求の範囲請求項1)「この発明は変圧器などの重量物を移動させるに際し,特に狭い場所で急角度に方向転換する場合に用いられる旋回移送装置に関するものである。」(発明の詳細な説明〔発明の技術分野〕)「上記のようにこの発明による旋回移送装置は,鋼球のころがり摩擦を利用したもので,装置の占有面積が小さくてすみ,かつ作業性が改善される。」(〔発明の効果〕)ウ以上によれば,重量物の下面を多数の鋼球を介して支持し,センタリング,旋回等の移動を小さな力で行えるようにすること,及び多数の鋼球を前後左右方向に転動可能に並べて重量物を支持することは周知のものであったと認められる。 (3)相違点1の容易想到性について前記第2,3(1)のとおり,引用発明1は,大型重量物であるコンクリートブロックを牽引装置で移動させるものである(引用発明1の内容は,原告も認めている。)。そして,前記(1)認定のとおり,引用発明2は,大型重量物の下部とレールとの間に,レールに設けたストッパーにより側方に外れないようにした多数の鋼球を介在させ,大型重量物の移動時の牽引抵抗を軽減させるものであって,同一の技術分野に属するものであるから,これを引用発明1に適用することは,当業者が容易になし得る程度のことということができる。 そして,上記刊行物2が開示する技術は,大型重量物の移動時の牽引抵抗を軽減させるとともに移動方向修正を容易にするものであるから,これを引用発明1に適用する際,大型重量物の下面を,前後左右方向に多数並べた転動可能な鋼球を介して支持し,センタリング,旋回等の移動を小さな力で行えるようにする上記周知技術の構成を採ることは,当業者が設計上適宜なし得るものというべきである。 そうすると,相違点1に係る本件訂正発明の「レールの側面に設けられたガイド部材に囲まれた前記レール上面に,球状体をレールの長さ方向及び幅方向に多数,転動可能に敷き詰めてなる摩擦低減手段を設け,該多数の球状体上に単位管体を載置し,この状態で該単位管体の横引き動作を行い,前記球状体の転動動作に伴い前記単位管体を前記連結位置まで移動させ」る構成とすることは,当業者が容易になし得たものである。 上記によれば,相違点1について容易想到と判断した審決の判断に誤りはない。 (4)原告の主張に対してア原告は,本件訂正発明の「球状体」は単位管体の移動と設置に寄与する部材として,移動に際しての機能と設置に際しての機能があるところ,引用発明にはこれらの機能が開示されていない旨主張するが,このうち後者の機能及びかかる機能を生じさせる構成については,本件訂正明細書の特許請求の範囲にも発明の詳細な説明にも何ら記載がなく,本件訂正発明の要旨及び本件訂正明細書の記載に基づかない主張であり失当である。よって,「球状体」に設置に際しての機能があることを前提とする原告の上記主張もまた,失当である。 本件訂正明細書には「従来はボックスカルバート1のレベル及び勾配を調整した後に底面と基礎コンクリートとの間に敷きモルタルが施工されていた。これに対して本発明では図5各図に示したように,ボックスカルバート1の底面に設けられたグラウト孔40を用いたグラウト工を行っている。」(段落【0013】の4行〜7行)との記載があるが,上記記載からは何ら本件訂正発明に関するレベル調整の方法やその要否について窺うことができないから(なお,本件訂正発明は,単位管体(ボックスカルバート)のレベル調整を不要としたものではない。),上記記載をもって本件訂正発明の「球状体」に「設置位置での単位管体のレベル調整」の機能(原告主張の前記第3,1(1)イBの機能)があると解することはできない。 また,本件訂正明細書の特許請求の範囲には「該多数の球状体上に前記単位管体を載置し,この状態で該単位管体の横引き動作を行い,前記球状体の転動動作に伴い前記単位管体を前記連結位置まで移動させ」ることが記載されているにすぎず,設置位置での幅方向調整や屈曲部での設置について何ら記載されていないし,「球状体」が骨材として機能するものと解すべき根拠も見出せないから,上記記載をもってしても本件訂正発明の「球状体」にかかる機能(原告主張の前記第3,1(1)イC〜Eの機能)があるものとは認められない。 そして,仮に本件訂正発明の「球状体」に原告主張の移動に際しての機能(原告主張の前記第3,1(1)ア@,Aの機能)があるとしても,何ら上記容易想到性の判断を左右するものではない。 イ原告は,引用発明2の「鋼球」は必然的に大径で一列に配置されるものであり,レールの幅方向にも転動可能に配置された球状体では循環使用が困難で実施不能であると主張する。 しかし,前記認定の刊行物2の記載からは,鋼球の位置やレールの連結に関する構成,さらには循環使用される必要があるか否かについて限定されていないのであるから,刊行物2で開示されている「鋼球」をことさら原告主張のようなものに限定して解すべき理由は存しないことからすると,原告の上記主張は採用できない。 ウ原告は,引用発明2の「鋼球」は側方にずれることなく重量物を長手方向へ安定して牽引可能とするもので,鋼球のころがりを利用して重量物を移動させるという技術思想が開示されていないと主張する。 しかし,前記認定のとおり,刊行物2には移動方向修正を容易にするという技術が開示されているところ,それはすなわち幅方向にも転動可能であることを前提とするものであるし(刊行物2の第2図を見ると,鋼球とストッパーとの間に間隔があり,鋼球が幅方向にも転動可能な構成が開示されている。),前記認定のレール両側のストッパーの存在もあくまで鋼球が上下レールの間から側方に外れないためのものであり,それが直ちに鋼球を幅方向に転動不能にするものとはいえないから,原告の上記主張は採用できない。 エ原告は,引用発明2の「鋼球」にはレール面にわだちが生じる欠点があると主張するが,前記認定のとおり,刊行物2で開示されている「鋼球」も多数の鋼球を用いるものであり,荷重分散機能を有することは本件訂正発明と同様であって,わだちが生じにくくなる点で本件訂正発明と格別の差異があるとはいえない。原告の上記主張は採用できない。 2取消事由2(相違点2の判断の誤り)について(1)グラウト材の充填についてア本件訂正明細書(甲8)には,次の各記載がある。 「以上に述べたように,連結位置までウインチ等の横引き装置によって移動されたボックスカルバートは,所定の基数ごとに順次,公知の連結方法によりトンネル軸線方向に連結される。・・・この状態では,各ボックスカルバート1はレール10上に摩擦低減手段であるベアリングボール12やローラー16上に載置された状態であり,基礎コンクリート13とボックスカルバート1の底面間には隙間があいたままになっている。」(段落【0012】)「そこで,この隙間部分を閉塞するための次工程としてのグラウト工について説明する。・・・従来はボックスカルバート1のレベル及び勾配を調整した後に底面と基礎コンクリートとの間に敷きモルタルが施工されていた。これに対して本発明では図5各図に示したように,ボックスカルバート1の底面に設けられたグラウト孔40を用いたグラウト工を行っている。このグラウト孔40は図1に示したように,ボックスカルバート1の奥行き(1m)のほぼ中央位置に,幅方向に所定の離れをとって2個設けられている。」(段落【0013】)「グラウト工では図5(a)に示したように,ボックスカルバート1の設置位置でグラウト孔40に接続されたグラウトホース41を介して図示しないポンプから圧送されたグラウト材42を充填する。グラウト材42は高い流動性を有しているため,ボックスカルバート1の底面から流れ出て基礎コンクリート13上を流れるように広がる。グラウト材42はレール10の位置で一旦せき止められるが,さらに充填が進むとレール10上面を越え,ベアリングボール12の間を通り抜けていく。最終的には,図5(b)に示したように,ボックスカルバート1の側壁1bの外側まで充填を行うことができる。このようにグラウト孔40を利用してボックスカルバート1と基礎コンクリート13との間の空間を完全に充填することができる。グラウト材42にはセメントモルタル等の充填材が好適である。 この場合,アルミニウム粉末等の発泡剤を添加して充填効果を高めることも好ましい。充填用のセメントモルタルはコンクリートミキサー車で供給できる。ミキサー車から充填位置まではグラウトポンプ(モルタルポンプ)を用いて容易に圧送すればよい。」(【0014】)。 イ刊行物1(甲1)には,次の記載がある。 「コンクリートブロックの底版にボルト孔及びグラウト孔を設け,該ボルト孔に螺合させた調節ボルトを回転させてコンクリートブロックを所定の据え付け高さに調節した後,グラウト孔からグラウト材を注入して前記底版の下方の隙間に充填することを特徴とする請求項1に記載のコンクリートブロックの敷設方法」(【特許請求の範囲】【請求項3】)(2)判断以上の記載によれば,本件訂正発明は,ボックスカルバート1の底面に設けられたグラウト孔40を用いたグラウト工を行うものであること,グラウト材42は高い流動性を有しているため,レール10上面を越えてベアリングボール12の間を通り抜けていき,ボックスカルバート1と基礎コンクリート13との間の空間を完全に充填することができること,グラウト材42にはセメントモルタル等の充填材が好適であることが認められるものの,それ以上に「単位管体底部とレールと多数の球状体と基礎コンクリートとをグラウト材によって一体化させる」との構成について具体的な説明はない。そうすると,本件訂正発明の「単位管体底部とレールと多数の球状体と基礎コンクリートとをグラウト材によって一体化させる」とは,ボックスカルバート1と基礎コンクリート13との間の空間をできるだけ隙間のないようにセメントモルタル等のグラウト材で充填することを意味するものと解するのが相当である。そして,上記記載によれば,引用発明1において,コンクリートブロックの底版に設けたグラウト孔からグラウト材を注入して底版の下方の隙間に充填することが開示されていると認められる。 そうすると,引用発明1の構成において,グラウト材を充填する際にできるだけ底版の下方に隙間が生じないようにすることは当業者が適宜なし得ることであって,引用発明1において相違点2の構成とすることは当業者が容易になし得たものというべきである。 上記によれば,審決の判断に誤りはない。 (3)原告の主張に対して原告は,本件訂正発明におけるグラウト材の充填は,隙間部分を単に塞ぐために行われるのではなく,単位管体と基礎コンクリートとレールと球状体とを一体化させるために行われるものであり,レールを超え,球状体の間をすり抜けて側壁外側にまで達するよう,粘性や流動性,圧縮強度といった性状及び充填量が決められる性状を持つ特異なグラウト材でなければならないのに対して,引用例1では,単位管体と基礎コンクリートとレールと球状体とを一体化させるグラウト材の充填は開示も示唆もされていない旨主張する。 しかし,上記(2)で検討したとおり,本件訂正発明の「単位管体底部とレールと多数の球状体と基礎コンクリートとをグラウト材によって一体化させる」とは,ボックスカルバート1と基礎コンクリート13との間の空間をできるだけ隙間のないようにセメントモルタル等のグラウト材で充填した結果を意味するにとどまるものと解されるし,グラウト材の性状についてもセメントモルタル等の充填材が適する旨の記載があるにとどまり,特異な性状のグラウト剤を使用することを伺わせる記載がないことからすると,本件訂正発明が,隙間を充填する以上の機能を備えるような,一体化にふさわしい特異なグラウト材を用いるものということはできない。原告の上記主張は採用できない。 3結論以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由にはいずれも理由がない。原告はその他縷々主張するが,いずれも理由がなく,審決を取り消すべきその他の誤りも認められない。 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 三村量一 |
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裁判官 | 嶋末和秀 |
裁判官 | 上田洋幸 |