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関連審決 異議2003-70513
関連ワード 方法の発明 /  進歩性(29条2項) /  一致点の認定 /  慣用技術 /  公知技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  着想 /  警告 /  援用権(援用) /  特許出願日 /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  交換 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  取消決定 / 
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事件 平成 16年 (行ケ) 46号 特許取消決定取消請求事件
原告 有限会社日本エンジニアリング
訴訟代理人弁理士 和気操
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 江頭信彦,小川謙,井上信一,高橋泰史,大橋信彦,井出英一郎
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2005/01/13
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が異議2003-70513号事件について平成15年12月17日にした決定を取り消す。」との判決。
事案の概要
本件は,後記本件発明の特許権者である原告が,特許異議の申立てを受けた特許庁により本件特許を取り消す旨の決定を受けたため,同決定の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯 (1) 本件特許 特許権者:有限会社日本エンジニアリング(原告) 発明の名称:「人体モデル作製方法及びその人体モデルを記録した読み取り可能な記録媒体」 特許出願日:平成12年4月19日(特願2000-117952号) 設定登録日:平成14年6月14日 特許番号:第3317690号 (2) 本件手続 特許異議事件番号:異議2003-70513号 訂正請求日:平成15年7月1日(本件訂正) 異議の決定日:平成15年12月17日 決定の結論:「訂正を認める。特許第3317690号の請求項1ないし5に係る特許を取り消す。」 決定謄本送達日:平成16年1月12日(原告に対し) 2 本件発明の要旨(本件訂正後のもの。以下,請求項番号に対応して,それぞれの発明を「本件発明1」などという。) 【請求項1】三次元仮想空間で表示される人体モデルの作製方法であって,前記人体モデルは剛直部分と,この剛直部分の少なくとも一端部を回転自在に連結する関節部分とからなるCADデータとして組み立てられ,現実人体が動作できない動作領域に前記人体モデルの関節部分が回転するときは警告を発生させることを特徴とする人体モデルの作製方法。
【請求項2】前記三次元仮想空間が三次元CAD画面であることを特徴とする請求項1記載の人体モデルの作製方法。
【請求項3】前記人体モデルは,日本工業規格L4004及びL4005制定の基礎となる人体計測データを基準として作製することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の人体モデルの作製方法。
【請求項4】前記人体モデルは,現実人体が認識する感覚の大小を三次元仮想空間内の所定領域の大小として表示する手段又は所定出力の大小として出力する手段を有することを特徴とする請求項1,請求項2又は請求項3記載の人体モデルの作製方法。
【請求項5】三次元仮想空間で表示される人体モデルを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体であって,前記人体モデルは剛直部分と,この剛直部分の少なくとも一端部を回転自在に連結する関節部分とからなるCADデータとして組み立てられ,現実人体が動作できない動作領域に前記人体モデルの関節部分が回転するときは警告を発生させることを特徴とする人体モデルを記録した読み取り可能な記録媒体。
3 決定の理由の要点 (1) 決定は,本件訂正請求を適法であるとして認めた。
(2) 決定は,刊行物1ないし5として次のものを挙げた。
刊行物1:特開平10-116351号公報(本訴甲4。この刊行物に記載された発明を「刊行物1発明」という。) 刊行物2:「Simulating Humans;Computer Graphics Animation and Control」(NORMAN I. BADLER, CARY B. PHILLIPS, BONNIE LYNNWEBBER共著,1993年OXFORD UNIVERSITY PRESS発行)11,15,28,65-66,74-75頁(本訴甲5) 刊行物3:日経コンピュータグラフィックス誌1997年11月号202-209頁(本訴甲6) 刊行物4:「Transom Jack TM User's Guide Version1.1」(Transom Technologies,Inc.発行)96-97頁(本訴甲7) 刊行物5:トリガー誌1998年6月号62-63頁(本訴甲8) (3) 決定は,本件発明1と刊行物1発明との一致点を次のとおり認定した。
「刊行物1発明は,モデル化された人物像の運動像(アニメーション)をコンピュータグラフィックスにより生成するものであるから,この点において,本件発明1の『三次元仮想空間で表示される人体モデルの作製方法』に相当するものということができる。
刊行物1発明は,人間の構造を,剛体棒を関節で連結して構成した両肩と両腕を含む多関節構造体でモデル化し,各肩関節に連結された腕を,その連結部を通る拘束平面内で回動可能としているから,この点において,本件発明1の「人体モデルは剛直部分と,この剛直部分の少なくとも一端部を回転自在に連結する関節部分とから組み立てられ,」に相当するものということができる。
したがって,本件発明1と刊行物1発明とは,『三次元仮想空間で表示される人体モデルの作製方法であって,前記人体モデルは剛直部分と,この剛直部分の少なくとも一端部を回転自在に連結する関節部分とから組み立てられることを特徴とする人体モデルの作製方法。』の点で一致する。」 (4) 決定は,本件発明1と刊行物1発明の相違点を次のとおり認定した。
「相違点(a):人体モデルの剛直部分と関節部分が,本件発明1のものはCADデータの形式のものであるのに対して,刊行物1発明においては,特に明記されてはいないが,コンピュータグラフィックスに好適のデータ形式と解される点。
相違点(b):本件発明1のものは,現実人体が動作できない動作領域に前記人体モデルの関節部分が回転するときは警告を発生させるようにしているのに対して,刊行物1発明においては,そのようにはしておらず,…可動範囲内で回転するすなわち現実人体が動作できない動作領域には関節部分などは回転しないようにしていると解される点。」 (5) 決定は,上記相違点について,次のとおり判断した。
(a) 「相違点(a)について検討すると,刊行物1発明は,モデル化された人物像の三次元イメージをコンピュータグラフィックス(CG)で作成・表示するものであるが,モデル化された人物像の三次元イメージをコンピュータを利用して作成・表示するようにして,シミュレーションや製品設計に利用するようにすることがCAD技術として周知化しており(ちなみに,CG技術もシミュレーションに応用されることも少なくない。),CG技術とCAD技術には,表示装置に表示させる技術部分等には差異がない部分があり,最初は一方だけを意図して開発された技術においても,そのままあるいは簡単な技術事項の変更を加えることにより他方に利用できる技術も少なくなく,そのような技術については,技術分野自体が一元化してきている。(このことは,例えば刊行物3の表題「CAD,CGで活躍し始めたバーチャル・ヒューマン」等からも窺える。) ところで,刊行物2には,CADシステムに利用される三次元仮想環境内の人体モデルを,関節にて結合されたセグメントにて構成される多関節フィギュアで構築し,ボディの姿勢を変えることができるようになっているが,関節が限界を超えて許容できない領域に動かされるような指令を受けても,セグメントはその限界を超えて動くことはないが指令する回転ホイールの許容されない領域は赤くなることが開示されている。
また,刊行物3には,バーチャル・ヒューマンを製造ラインの設計に利用することが説明されており,その説明内容は,CADといえるものである。
したがって,刊行物1のものをCADとして利用するようにすべく,人体モデルの剛直部分(刊行物2の「セグメント」に相当する。)と関節部分その他を,本件発明1のもののようにCADデータの形式のものとすることは,当業者が容易に推考できる程度のものと認められる。」 (b) 「相違点(b)については,そもそも本件発明1において,現実人体が動作できない動作領域に前記人体モデルの関節部分が回転できるようにすること自体,CAD用としてどのような技術的意味があるのか明らかでない(特許権者は,特許異議意見書でそのようにしなければ三次元CADとしての役割が成立しないと説明しているが,どのような役割かあるいはそのようにする必要性については示しておらず明らかでない。)が,刊行物2に開示の発明において,回転されるセグメントをその限界を越えて動くことはないようにしているのは,現実人体が動作できない動作領域に前記人体モデルの関節部分が回転できるようになっていれば,現実人体が動作できない動作領域に前記人体モデルの関節部分が回転することがありそのような状態は通常は現実には生じないものであるからそのような状態とならないようにする(刊行物1に記載の「境界条件(可動範囲)」も同様のことを意図したものと考えられる。)とともに,オペレータがそのような操作をしているときは回転ホイールの許容されない領域を赤くすることが記載されており,この赤くすることは警告の意味を持つことは明らかである。
したがって,現実人体が動作できない動作領域に前記人体モデルの関節部分が回転するような状態とならないような配慮をする前段階のものにおいては,現実人体が動作できない動作領域に前記人体モデルの関節部分が回転することがあるから,そのときは警告を発生させるようにする,すなわち,相違点(b)について本件発明1のようにすることは,当業者が適宜想到できるものと認められる。」 (c) 「したがって,本件発明1は,当業者が刊行物1ないし3に記載の発明に基づいて容易になし得たものと認められる。
(6) 決定は,本件発明2について,次のとおり認定判断した。
「本件請求項2で付加限定している点は,三次元仮想空間が三次元CAD画面上に形成されることを意味していると解されるが,三次元仮想空間を三次元CAD画面上に形成するようにしてCADを実行することは慣用技術にすぎないから,本件発明2も,当業者が刊行物1ないし3に記載の発明に基づいて容易になし得たものと認められる。」 (7) 決定は,本件発明3について,次のとおり認定判断した。
「本件請求項3で付加限定している点は,日本国内で本件発明1を実施することが前提のものであるから,人体モデルもできるだけ多くの日本人の体格に近いものとするために既存の日本人の人体計測データを利用するようにしたものと認められるが,刊行物3に人体モデル(マネキン)を実際の人の身長体重などの計測データを基準にして作成することが,刊行物5には人間生活光学研究センタがデータベース化している日本人の体形の情報を人体モデリングのソフトに取り込むことが示されているように,既存の日本人の人体計測データを利用するようにすることは当業者がまず最初に考える程度のものであるから,人体モデルを日本工業規格L4004及びL4005制定の基礎となる人体計測データを基準として作製するようにした本件発明3は,当業者が刊行物1ないし3及び5に記載の発明に基づいて容易になし得たものと認められる。」 (8) 決定は,本件発明4について,次のとおり認定判断した。
「本件請求項4で付加限定している点は,発明の詳細な説明の【0016】や【0018】さらに図面の記載を参酌すると,例えば視界角度θ及び距離Wを設定することができ,距離Wは視力値に応じてそれに比例するように表示するようにするものであるが,刊行物4には,視界角度θ及び距離Wを設定して,それを表示媒体上で可視化させることが記載されており,その技術内容は,本件請求項4で付加限定している点と格別異ならないものと認められる。したがって,本件発明4も,当業者が刊行物1ないし5に記載の発明に基づいて容易になし得たものと認められる。」 (9) 決定は,本件発明5について,次のとおり認定判断した。
「本件発明5は,実質的には,本件発明1をそのまま実行するためのプログラムを記録した記録媒体に係るものであり,プログラム内容に本件発明1以上のものは何らないから,本件発明5は,本件発明1と同様に,当業者が刊行物1ないし3に記載の発明に基づいて容易になし得たものと認められる。」 (10) 決定は,特許権者(原告)の主張に対し,次のとおり説示した。
「特許権者は,特許異議意見書において,CADにより生成されるモデルとCGにより生成されるモデルとは異なり,刊行物1ないし刊行物5に開示の技術はCGにより作成されるものであるから,CADにより生成されるモデルである本件各請求項に記載された発明は,これらの刊行物に記載の事項から容易に推考できるものでない旨主張している。
しかしながら,一般的にいって,表示されるものに関しては,CADでは物体の形状とそれらの相互位置関係を正確にすることが優先されるのに対して,CGでは物体をできるだけリアルに見栄えするようにすることが優先されるという違いがあるが,それらのことは必ずしも背反的なものではなく,特許権者が主張するようにCADにより生成されるモデルとCGにより生成されるモデルとに異なる点があるからといって,直ちにそれらの一方のモデルの生成技術は他のモデルの生成技術へ適用できないものということにはならず,技術内容によって他方への互換性(汎用性)があるものもあればないものもあるということができる。そこで,刊行物1をみると,明細書には(x,y,z)の三次元座標系で位置を示すことも説明されており,これは,CADにおける表示に利用できる可能性のある技術であることは明らかである。
特許権者は,『CADデータ』という用語を請求項に加えることにより,本件各請求項に係る発明が,CADに係るものであることを間接的に限定しているが,『CADデータ』については,本件明細書及び図面にはその具体的なデータ形式等については何ら示されておらず,単にCADとして利用するものであるからそのデータはCADに利用できる形式のものすなわち『CADデータ』としておく必要があるという当然のことを限定している程度のものと認められ,本件発明1ないし5が,刊行物1ないし刊行物5に明記も示唆もされていないCAD特有の課題を設定してそれを解決しているとも認められないから,特許権者の主張は採用できない。」
原告の主張(決定取消事由)の要点
1 取消事由1(本件発明1と刊行物1発明との一致点の認定の誤り) (1) 決定は,「刊行物1発明は,モデル化された人物像の運動像(アニメーション)をコンピュータグラフィックスにより生成するものであるから,この点において,本件発明1の『三次元仮想空間で表示される人体モデルの作製方法』に相当するものということができる。」と認定したが,誤りである。
(1-1) 刊行物1の段落【0001】に「運動像の生成方法」との表現があるように,CGは,モデル化された人物像の運動像(アニメーション)を生成する方法である。運動像の生成であるからアニメーションであり,アニメーションは,二次元の剛体棒を連続して映すことにより三次元の運動像を動画にするための方法である。
すなわち,「運動像の生成方法」は運動像がいかに動いて見えるかを数学的言語・物理学システムによって理論付ける方法である。
(1-2) 本件発明1は,本件明細書(以下,本件訂正後の明細書をいう。甲3)の段落【0005】に「人体モデルとは頭部,胴体部,手足部とを備えた集合体,及び,その集合体を構成する部分体を含めた意味である。」と記載されているように,三次元仮想空間における人体モデルそのものの作製方法であり,関節部分で回転可能であるが,運動像でなく静止像の作製方法である。数学的システムによって人物像の運動像(アニメーション)を生成する刊行物1記載の生成方法ではない。
(2) 決定は,「刊行物1に開示の発明は,人間の構造を,剛体棒を関節で連結して構成した両肩と両腕を含む多関節構造体でモデル化し,各肩関節に連結された腕を,その連結部を通る拘束平面内で回動可能としているから,この点において,本件発明1の『人体モデルは剛直部分と,この剛直部分の少なくとも一端部を回転自在に連結する関節部分とから組み立てられ,』に相当するものということができる。したがって,本件発明1と刊行物1発明とは,『三次元仮想空間で表示される人体モデルの作製方法であって,前記人体モデルは剛直部分と,この剛直部分の少なくとも一端部を回転自在に連結する関節部分とから組み立てられることを特徴とする人体モデルの作製方法。』の点で一致する」と認定したが,誤りである。その理由は,以下のとおりである。
(2-1) 「剛体棒」と「剛直部分」との比較 決定は,刊行物1発明の「剛体棒」と本件発明1の「剛直部分」とが一致すると認定している。
しかし,刊行物1の請求項1に「複数の剛体棒で構成される多関節構造体」と記載されているように,刊行物1発明の「剛体棒」は,多関節構造体を構成する要素の「棒」である。そして,刊行物1発明の人体は,この要素の「棒」から組み立てられる多関節構造体の運動のモデル化した運動像を生成する方法である。刊行物1の段落【0008】の記載(第1文及び第2文)によれば,「剛体棒」自身は,運動像を生成するための線分である。線分であるからこそ,剛体棒11の中心0を座標系(x,y,z)の基準位置(x0,y 0,z 0)とすることができるのである。太さのある剛体棒11であれば,中心0を定めることができない。仮に太さのある剛体棒としても,この剛体棒は,多関節構造体を構成する「棒」そのものである。
一方,本件発明1の「剛直部分」は,「部分」とあるように,「棒」ではなく,人体の一部を表した部分そのものである。例えば,図1及びその説明である本件明細書の段落【0010】に「剛直部分は,頭部1,胴部8,…で表示され,」と記載されているように,人体の各部分そのものを形状化したものである。
さらに,本件発明の図1〜図3のほか,本件明細書の段落【0011】に「三次元で表される剛直部分の大きさは,日本工業規格L4004及びL4005制定の基礎となる人体計測データを基準として作製する。」と記載されている。この人体計測データは,線分や点ではなく,胴回り,身長,体重などのデータである(甲11)。また,段落【0015】においては,「体重を付加することができる」と記載されている。これらの事実は,本件発明の人体モデルが空洞ではなく,中味が詰まっていることを示すもので,体積と比重の積が重量になることから考えれば,体積にあたる人体モデルは,当然中身の詰まったいわゆるソリッドモデルであり,その「剛直部分」がソリッドモデル化された剛体であることがわかる。
このように,本件発明1の「剛直部分」は,三次元空間内でソリッドモデル化された太さも厚みも重さもある剛直な部分である。
(2-2) 「関節」と「関節部分」との比較 刊行物1の段落【0008】の記載(第3文以後)によれば,剛体棒11の一端は,関節となる座標(xS,y S,z S)で上腕121と連結されている。座標(x S,y S,z S)は点であり,刊行物1の「関節で連結」とは,剛体棒同士が実体のない数学上の点で連結されていることを表している。
一方,本件発明の図1〜図3のほか,本件明細書の段落【0012】の記載によれば,本件発明1の「関節部分」は,「剛直部分」の一端に埋め込まれたピン23aと23bとにより上下左右任意の方向に回転することがわかる。このように,本件発明1の「関節部分」は,数学上の点であって連結されている点ではなく,三次元空間内でソリッドモデル化された人体モデルの関節部分である。
(2-3) 「剛体棒」及び「関節」の組合せと,「剛直部分」及び「関節部分」の組合せとの比較 「剛直部分」及び「関節部分」の組合せからなる本件発明1に係る人体モデルは,三次元空間内でソリッドモデル化された人体モデルであるので表裏がある。また,同一座標系で記述されているので,関節部分を介して回転自在に回動できる。
しかし,刊行物1発明の「剛体棒」は,多関節構造体を構成するので,その「剛体棒」に仮に太さがあったとしても棒そのものに表裏は存在しない。また,「剛体棒」は,関節を介して回動するが,その範囲は拘束面内だけである(刊行物1の段落【0009】第1文)。これは,「運動像の生成方法」,すなわちCGが内包する問題である(同【0024】第2文)。
このように,「剛直部分」が「関節部分」で回転自在に回動できる本件発明1と,「剛体棒」が「関節」を介して拘束面でのみ回動できる刊行物1発明のモデル化された人物像の運動像とは,「関節と関節部分」/「剛体棒と剛直部分」の持つ意味が明らかに異なる。このことは,「剛体棒」と「剛直部分」とが同一でなく,「関節」と「関節部分」とが同一でないことによる。
2 取消事由2(本件発明1と刊行物1発明の相違点(a)についての判断の誤り) (1) 決定は,「刊行物1のものをCADとして利用するようにすべく,人体モデルの剛直部分(刊行物2の「セグメント」に相当する。)と関節部分その他を,本件発明1のもののようにCADデータの形式のものとすることは,当業者が容易に推考できる程度のものと認められる。」と判断したが,誤りである。
CGの座標系であるローカル座標系とCADの座標系であるワールド座標系とは相互変換が困難である。このため,絶対座標系であるワールド座標(CAD)のコンピュータ画面にローカル座標(CG)で作製された人体モデルを取り込むことは,ワールド座標のどの点に取り込むかということが不定となり,ビジュアル的には認識できないという現象が起こる。したがって,上記相違点における「刊行物1のものをCADデータの形式のものとすることは,当業者が容易に推考できる程度のものと認められる。」との判断は誤りである。
(2) 決定は,「技術分野自体が一元化してきている。(このことは,例えば刊行物3の表題「CAD,CGで活躍し始めたバーチャル・ヒューマン」等からも窺える。)」と説示したが,誤りである。
刊行物3の記載(206頁,最左欄4行〜中欄2行)は,CADとCGとを橋渡しするための戦略的協力関係を結んだということであり,CADとCGとの技術分野自体が一元化してきているのではなく,一元化を図ろうと試みたのであり,「技術分野自体が一元化してきている」ことの証拠ではない。また,本件出願後の文献である甲12の「4.考察及び課題 前述の結果から,現状のソフトウェアだけでは,CGとCADの相互運用は困難であることがわかった。」との記載にあるように,「技術分野自体が一元化してきている。」との認定は誤りである。
むしろ,CPUやメモリの大容量化・高速化に伴い,ソフトウェアでCADとCGとを橋渡しするのではなく,本来大容量が必要であったCADのみでCAD画面上のシミュレーション化が進む傾向にあり,CGは,CG本来のエンタティメントの分野に特化していく傾向にあり,分化する傾向にある。
(3) 被告は,「CADに利用するために,いったんCGのデータ形式で作成してこれをCADのデータ形式に変えるのではなく,データを最初からCADに好適なデータ形式として作成するようにすることも当業者が自ずと想到する程度のことである。」と反論する。
しかし,被告は,従来,「データを最初からCADに好適なデータ形式として作成するようにすることも当業者が自ずと想到する程度のことである。」との主張を全くしていない。この理由によるのであれば,原告に答弁をする機会を与えずになされた取消決定であり,手続上の違法がある。
「CGのデータ形式で作成してこれをCADのデータ形式に変えることは容易である」というのが決定の理由であり,原告は,この判断が誤りであることを示すために,座標系を用いて説明したものである。
仮に,被告の主張を前提としても,決定の判断は誤りである。
本件発明1の特許を取り消すために挙げられた資料は,全てCGに関する技術である。本件出願時において,CADデータとして人体モデルを作製する技術がなかった。刊行物3は,本件出願時において,CADメーカとCGメーカとが協力しなければ,CGをCADに適用できる可能性がなかったことを示すものである。CADデータとして人体モデルがなかったためである。その後,CPUやメモリーなどの著しい発達により,CADデータそのままで,従来CGで行っていたシミュレーションができるようになり,軽いデータが魅力であったCGデータも,変換効率や変換後の作業などを考えると,実数値を持っているCADデータの利便性には及ばなくなり,逆にCGと統合する必要はなくなった。本件発明1は,このような背景のもとに生まれたもので,ハードウェアの発展に伴い初めてなされた発明であり,当業者が自ずと想到する程度のことではない。
(4) 被告の援用する乙3(特開平6-342459号公報)は,「イメージを形成する」との記載からわかるように,単にCADシステムで表示することを目的にしている二次元画像の操作及び表示であって,形状モデリングでもなければ作製方法の開示でもない。乙3の段落【0017】の記載にあるように,オブジェクトを作製しないのであるから,本件発明1の人体モデルというオブジェクトの作製方法とは反する発明であることも明らかであり,「形状を操作することができるCAD方法を提供する」ということからも本件発明1とは違う。乙3の請求項1の記載にあるように,表示方法と操作方法に対する発明であって,その対象である人体モデルそのものが三次元CADで作製されるとの記載はない。単に人体のイメージ像をCADシステムで表示するだけの発明であり,「CAD方法」なる文言は,本件発明1とは意味も内容も違う。乙3で使用されている「CAD」の意味は,本件発明1のCADであるコンピュータ設計支援,すなわちComputer Aided Designの頭文字をとったものではなく ,コンピュータ支援診断(Computer Aided Diagnosis)の意味である。
被告の援用する乙5(「ロボットモデルに基づく人間動作の三次元動画像追跡」電子情報通信学会論文誌D-U Vol.J79-D-U No1.pp.71-83,1996年1月)において,SOLVER(ソルバ)とは,与えられた制約条件下で最適な答えを探し出す機能のことである。この場合の制約条件とは,常微分積分において中身が詰まっているという条件を指しているだけで,解析のため中身が存在すると仮定されたものにすぎない。それもCADによってソリッド化されたものではなく,単なる電子マネキンである。実際に,乙5は,CGアニメーションによる動作を再現している。仮に,乙5のモデルがCADであったとしても,基本動作が写真である以上,CADモデルも写真同様二次元画像として生成し直しているから,素材のソリッドモデルを使用してはいない。乙5のモデルは,データベースである以上擬似訪問者にはならない。
3 取消事由3(本件発明1と刊行物1発明の相違点(b)についての判断の誤り) (1) 決定は,「現実人体が動作できない動作領域に前記人体モデルの関節部分が回転するような状態とならないような配慮をする前段階のものにおいては,現実人体が動作できない動作領域に前記人体モデルの関節部分が回転することがあるから,そのときは警告を発生させるようにする,すなわち,相違点(b)について本件発明1のようにすることは,当業者が適宜想到できるものと認められる。」と判断したが,誤りである。
(2) 本件発明1は,三次元仮想空間における人体モデルの作製方法であり,ソリッドモデルであるから,三次元仮想空間において特別のプログラミングもソフトも必要としないばかりか,CGに必須とされる固有の設定条件も必要としない。このため,例えば,人体モデルのピンで結合される関節部分はCAD画面上で任意に回転できるようになる。その結果,現実の人体の限界をこえて動くことがCAD画面上で生じる。特別のプログラミングもソフトも必要としないで,人体モデルのすべての関節について任意の回転が発生する。そのために警告手段を必要とする。これは,CGに必須とされる固有の設定条件の代わりに人体モデルの形状として表したものである。
すなわち,この警告は特別なプログラミングをすることなく,人体モデルのすべての関節について発生させることができる。また,年齢,性別,体型の違いによって異なる警告をあらかじめプログラミングすることなく発生させることができる。
これは,三次元CAD空間で起こった疑似訪問者の現象をリアルタイムで伝えることを意味し,このような効果は,当業者であっても適宜想到する程度のものではない。 (3) 三次元CAD空間から実空間への情報交換手段,すなわち言語や聴覚,視覚が存在しない以上,いずれかの方法を用いて実空間にいる我々にその様子を三次元CAD空間から伝達しなければならない。その伝達手段が「警告」であり,三次元CAD空間へ訪問したモデルの生の声を形状化したものである。
刊行物2及び3に記載の人体モデルは,あらかじめ実空間において実空間のルールに則りソフトウェア上でプログラミングされた要素によってまさに警告(関節が赤色になる)を発するものであって,その警告は,三次元CAD空間へ疑似訪問した人体モデルのものではなく,あらかじめプログラミングされた要素によるものであって,三次元CAD空間との関連はない。すなわち,刊行物2及び3に記載の人体モデルは,三次元CAD空間への疑似訪問者しか得ることができない本件発明1に係る人体モデルが発信する警告を発信することはできない。刊行物2及び3に記載の人体モデルは,プログラミングされた要素以外は,警告を発生することはなく,また特別のソフトウェアがないと三次元CAD空間へ訪問することができない。
(4) 被告は,「CADシステムにおいて,原告の想定している操作をすることにより原告が想定している人体モデルを動かした場合においても解決していない欠点があるということを前提として」と主張するが,誤解である。「原告の想定している操作」ではなく,CAD技術の制限であり,CADにおける三次元仮想空間で実際に発生する事柄を述べたものである。これらは三次元CADを扱う経験者が常に体験することである。
本件発明1は,三次元仮想空間へ訪問できない操作者の代行であり,三次元仮想空間でしか聞こえない若しくは感じない状況を,操作者が実感することができるための作製方法の発明である。逆に,刊行物2の発明は,三次元仮想空間に存在するか否かには関係のない,あらかじめ実世界で異常な状態を想定したデータベースのプログラム化による警報であって,その意味は全く違う。そこには時間軸は存在せず,擬似訪問者がリアルタイムに感じる状況ではない。この相違点は,人体モデルの作製方法に工夫があるからで,刊行物2は,人体モデルの作製方法の発明ではなく,編集方法や生成方法であり,事前に準備したデータベースを必要とするのである。被告は,CADの最終目的をCG同様コンピュータ表示としているが,CADが物を作るツールである以上,表示目的であるとするのは誤りである。
本件発明1は,人体モデルの動きに応じて部位そのものの作製方法に発明があるから,「警告」は擬似訪問者の声に匹敵するものである。また,人体モデルそのものが発する警告である。このような三次元仮想空間への擬似訪問者が有する警告慣用技術又は公知技術ではない。
4 取消事由4(CAD特有の課題の解決に関する判断の誤り) 本件発明1は,「三次元CADシステムの仮想的な三次元空間内にて,製品設計や生産シミュレーション等の三次元デジタルモックアップの世界を体験するための疑似訪問者として,設計やシミュレーション等を,その三次元空間内で行なう人体モデルとして応用することが困難であった。」(本件明細書段落【0003】)という課題について,CAD画面上へ疑似訪問できる人体モデルの作製を目的とし,このような疑似訪問できる人体モデルが存在しなかったというCAD特有の課題を解決したものである。
本件出願前は,市販のCADソフトウェアで画面上の人間を動かすことができるものがなかった。CAD画面上で人間を動かすという着想が刊行物5に記載されているとしても,それは本件発明1の擬似訪問ではなく,あらかじめ想定したデータベースにより操作されるものである。本件発明1は,CAD画面上へ疑似訪問できる人体モデルの作製を目的とするもので,このような疑似訪問できる人体モデルが存在しなかったという三次元CAD特有の課題を解決したものである。
5 取消事由5(顕著な作用効果の看過) 各刊行物に記載のCG人体の市販価格は,一体600万円である。これは,CG人体が複雑な多数のプログラミングで構成されているためではないかと考えられる。一方,本件発明1に基づく人体モデルは,CADデータとして組み立てられているので,1セット12万円である。1セットは男女別にそれぞれ3種類の体格を有する人体モデルの集合体である。本件発明1は,三次元CADの分野において長年の課題を解決した利用価値の高い発明である。
6 取消事由6(本件発明2ないし5に関する判断の誤り) 本件請求項2ないし4は請求項1の従属項であり,請求項5は,実質的に請求項1に係る発明をそのまま実行するためのプログラムを記録した記録媒体に係るものである。本件発明1(請求項1に係る発明)に特許性があるので,「本件発明2ないし5が特許を受けることができない」との決定の判断は,誤りである。
被告の主張の要点
1 取消事由1(本件発明1と刊行物1発明との一致点の認定の誤り)に対して (1) 刊行物1に開示されている事項は,表示部に運動像にしろ人物像を生成する,すなわち三次元仮想空間に人体をモデル化した像を生成する方法に係るものであり,三次元仮想空間における人体モデルの作製方法ととらえることができる。決定の認定に誤りはない。
(2) 本件明細書には,「剛直部分」と「関節部分」とが何を意味するかについて形状等も特定されるような厳密な定義はなされてはいない。また,これらを表すデータ等の具体的実施例が記載されていないのみならず,そもそも「ソリッドモデル」という用語さえ見当たらないから,本件請求項1における「剛直部分」と「関節部分」とが,それぞれ人体各部の形状を模したソリッドモデル化されたものと回転中心として機能するピンで表されるところの三次元空間内でソリッドモデル化された人体モデルの関節部分だけを意味し,刊行物1に記載の剛体棒と点連結関節その他のものを排除しているとはいえず,原告の主張は,特許請求の範囲の請求項1の記載に基づかない主張というべきである。
2 取消事由2(本件発明1と刊行物1発明の相違点(a)についての判断の誤り)に対して (1) 刊行物1のものは人物像のアニメーションをCGで生成するものであるからそのデータはCG形式のものであろうが,刊行物1の記載からは,三次元仮想空間に表示する人物像が剛体棒と関節で構成されるようにし,関節で剛体棒の角度を変えることにより姿勢が変わった人物像を表示するようにするという基本的な着想も把握でき,このような人物像の構成形式は,CADに利用できることは明らかであって(CADに人物像を取り入れて表示させること自体は,刊行物3にみられるように技術常識化している。),CADに利用するために,いったんCGのデータ形式で作成してこれをCADのデータ形式に変えるのではなく,データを最初からCADに好適なデータ形式として作成するようにすることも当業者が自ずと想到する程度のことである。決定における認定に誤りはない。
取消理由通知書(甲15)には,「データを最初からCADに好適なデータ形式として作成するようにすることも当業者が自ずと想到する程度のことである。」という点を明記していないが,当業者であれば,CAD形式で利用するものをいったんCG形式で作成してこれをCAD形式に変換することは,他の特段の必要性あるいはメリットがあるとき以外は無駄な作業と考えて,そのようにすることを避けるべく,データを最初からCADに好適なデータ形式として作成するようにすることを考えるのが常識的発想であり,取消理由がこのような常識的発想を前提としていることは,取消理由通知書に明記されていなくても,当業者であれば理解できる程度のものであるから,新たに取消理由を付加するものには当たらない。
上記のとおり,決定の理由は,CADとCGとの相互運用をすることを前提としているものではないから,原告が主張するようなCADとCGの相互運用が困難であったか否かの点は,決定の当否とは関係のないことである。
(2) 決定は,「技術分野自体が一元化してきている。」と認定しているが,その直前で「CG技術とCAD技術には,表示装置に表示させる技術部分等には差異がない部分があり,最初は一方だけを意図して開発された技術においても,そのままあるいは簡単な技術事項の変更を加えることにより他方に利用できる技術も少なくなく,そのような技術については,」という条件を付けており,このような条件の場合において,決定には,原告のいう認定の誤りはない。
(3) 特開平6-342459号公報(乙3)には,刊行物5で指摘された使い勝手の悪さを軽減すべく,画面上の人間像を動かす際にその数値をその都度入力するのではなく,あらかじめ多くの数値の組合せを入力しておき,利用の際にはそれを選択するようにして,所望の姿勢となるように改良しているCADデータで構成される人体像を登場させ,シミュレーションなどに利用するCADシステムについての記載がある。仮想的な三次元空間として表示される画面にCADデータとして組み立てられる三次元の仮想的な人体モデルを登場させてCADとして利用できるようにした点に,発明としての進歩性があるとはいえない。
また,「ロボットモデルに基づく人間動作の三次元動画像追跡」電子情報通信学会論文誌D-U Vol.J79-D-U No1.pp.71-83,1996年1月(乙5)は,三次元的動作を行っている人間を動画像により追跡する手法を開示するものであるが,追跡できるようにするための準備段階として,人体の立体形状をあらかじめCADモデルで構成しておくようにすることが説明されている。そして,「3.人体のCADモデル」の項には,人体の立体モデルを,幾何モデラSOLVERによってソリッドモデルとして作成することが説明されている。
3 取消事由3(本件発明1と刊行物1発明の相違点(b)についての判断の誤り)に対して 本件請求項1の記載においては,人体モデルがソリッドモデルであることも,関節部分がピンで連結されたものであることも限定されていないのみならず,警告については表示される画面上の画像で行うことも特定されていないから,原告の主張の前提となるCADシステム自体が,請求項1の記載に基づくものとはいえないものである。
さまざまなシステムにおいて,欠点があるあるいは異常な状態になることは分かっているがそれらを解決できていない場合に,その状態になっていることをオペレーター等に告知して,そのような状態から正常な状態へ回避するような行動あるいは操作をするように促すようにすることは,慣用技術にすぎない。
4 取消事由4(CAD特有の課題の解決に関する判断の誤り)に対して 刊行物3(甲6)における「コンピュータ支援プロセス・エンジニアリング用(工場用)」は,コンピュータを利用した工場の効率的な工程等の設計に供するものであるからコンピュータ支援設計(CAD)用といえ,それを表示する画面はコンピュータ支援設計(CAD)画面ということができ,マネキン及びバーチャル・ヒューマンは,本件発明1における三次元仮想空間に表示される人体モデルのことを意味している。そうすると,本件出願前に「CAD画面上へ疑似訪問できる人体モデルは存在しなかった」とはいえない。
また,刊行物5によれば,CADにおいて画面上の人間を動かすことができるソフトウェアが,この刊行物の発行時には公知となっていたことが推測できるとともに,市販のCADソフトウェアで画面上の人間を動かすことができるものがなかったとしても,CAD画面上で人間を動かすという着想自体は,少なくともこの刊行物の発行(頒布)によって公知となっていたといえる。決定の判断に誤りはない。
5 取消事由5(顕著な作用効果の看過)に対して 一般的にいって,商品の販売価格は,様々の要因を考慮して決められるものであるから,必ずしもその商品に使われている技術の進歩性の指標にはならないというべきである。また,性能等を度外視して商品の販売価格の高低を議論しても,その商品に使われている技術がどのように評価されるべきものかという点でみれば,全く意味のないことである。
6 取消事由6(本件発明2ないし5に関する判断の誤り)に対して 本件発明1に特許性がないのであるから,本件発明2ないし5についての決定の判断につき,原告主張の誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明1と刊行物1発明との一致点の認定の誤り)について (1) 取消事由1(1)として原告が主張する点について検討する。
(1-1) 本件明細書(甲3)においては,「三次元仮想空間」に関する記載が各所にみられる(特許請求の範囲請求項1,2,4,5,発明の詳細な説明欄の段落【0002】〜【0006】,【0008】〜【0010】,【0012】,【0016】,【0017】,【0024】〜【0026】)。これらの「三次元仮想空間」に関する記載によれば,本件発明1の「三次元仮想空間」とは,CADのための仮想的な三次元空間を意味するものと認められる。
(1-2) これに対し,刊行物1(甲4)には,次の記載がある(引用部分の下線部は当裁判所が付した。)。
「請求項9に記載の運動像を生成する方法において,上記関節の位置の計算は,三次元空間内の点として座標値,速度及び加速度を計算するステップを含む。」(【請求項13】) 「【発明の属する技術分野】この発明は,多関節構造体でモデル化された人物像の運動像(アニメーション)をコンピュータグラフィックスにより生成する方法,特に関節で接続された剛体棒で構成された多関節構造体によりモデル化された人物の肩と腕の運動像の生成方法,及びその方法を記録した記録媒体,及びその方法を使った運動像生成方法に関する。」(段落【0001】) 「…右肩関節13Rには剛体棒でモデル化された右上腕12 1の一端が回動可能に連結され,その上腕121の他端に剛体棒でモデル化された右下腕12 2が回動可能に連結されている。剛体棒11の一端(すなわち,肩関節13R)の三次元空間 における座標(xs,y s,z s)は,x-z平面への投影とz軸と成す角θ,及び肩幅2Wを与えることにより次式…により一義的に定まる。」(段落【0008】) 「これに対し,従来は人物アニメーション中の各特徴点(例えば目,鼻,つま先,肘,等)の位置を座標(x,y,z)で表し,それらの移動を線形補間又は運動方程式により表すことにより運動像を生成していたが,座標(x,y,z)をパラメータとして使った場合,特徴点の座標から観察者が三次元におけるアニメーションの姿勢を理解するのは容易でない。又,円筒座標や極座標を用いて表す場合でも,角度パラメータの表現が実際の人間の直感的な制御と一致しないため,パラメータの把握が容易でない。すなわち,パラメータがどの様な運動に寄与しているか分かりにくいため,例えば運動像を生成するための人物像の各部の移動境界条件を感覚的に決めることが容易でない。」(段落【0011】) 「…角度計算部24は計算した各剛体棒の角度位置を出力し,表示部7に与え,表示部7は剛体棒により構成された三次元多関節構造体を二次元面に投影して,その投影モデルの運動像を表示する。」(段落【0018】) 「配置モデル化部21は,腕12の構造を剛体による物理振子で近似して腕モデル化するとともに,各種の物理量(上腕及び下腕の長さ,質量,重心位置,最大伸展角度,最大屈曲角度,慣性モーメント等)を決定し,これら腕モデル及び決定した物理量を出力する。関節位置決定部22は配置モデル化部21の剛体による物理振子の支点となる肩関節13Rの位置を計算する。肩関節の位置計算方法は,それが三次元空間 内の点として座標値及び速度,加速度が計算されるものであればどのようなものでもよい。」(段落【0020】) 以上の記載によれば,刊行物1には,三次元の仮想的な空間において,CGにより人物モデルを生成することが開示されている。
(1-3) 決定は,一致点の認定において,「三次元仮想空間で表示される人体モデルの作製方法」と認定しているところ,この認定は,CADにおける「三次元仮想空間で表示される人体モデルの作製方法」と,CGにおける「三次元仮想空間で表示される人体モデルの作製方法」との双方を含む意味で用いているものと解される。そうすると,前記(1-1),(1-2)に判示したところに照らし,決定の認定に誤りがないことは明らかである。なお,決定は,CADデータに係るものか,CGデータに係るものであるかの点については,相違点(a)として認定し,その容易想到性について別途検討している。
(2) 取消事由1(2)として原告が主張する点について検討する。
原告は,本件発明1と刊行物1発明との相違を種々主張するが,その主張するところは,結局,本件発明1がCADデータに係わるものであるのに対し,刊行物1発明がCGのデータに係わるものであることに起因するものである。
しかし,決定は,一致点として,「人体モデルは剛直部分と,この剛直部分の少なくとも一端部を回転自在に連結する関節部分とから組み立てられ」というように認定しているのであって,データ形式に基づく具体的な人体モデルの構成まで一致すると認定した趣旨ではないと解される。そして,決定は,相違点(a)として,「人体モデルの剛直部分と関節部分が,本件発明1のものはCADデータの形式のものであるのに対して,刊行物1発明においては,特に明記されてはいないが,コンピュータグラフィックスに好適のデータ形式と解される点」というように,データ形式の点を相違点として認定し,その容易想到性を判断しているのであるから,一致点の認定誤りをいう原告の上記主張は,採用することができない。
(3) 以上のとおり,原告主張の取消事由1は,理由がない。
2 取消事由2(本件発明1と刊行物1発明の相違点(a)についての判断の誤り)について (1) 原告は,決定が「刊行物1のものをCADとして利用するようにすべく,人体モデルの剛直部分(刊行物2の「セグメント」に相当する。)と関節部分その他を,本件発明1のもののようにCADデータの形式のものとすることは,当業者が容易に推考できる程度のものと認められる。」との判断を誤りであると主張し,「CGの座標系であるローカル座標系とCADの座標系であるワールド座標系とは相互変換が困難である」ことを理由として主張する。
(1-1) 本件明細書(甲3)における「CADデータ」又は「データ」に関する記載としては,次のものがある(引用部分の下線部は当裁判所が付した。)。
「前記人体モデルは,日本工業規格L4004及びL4005制定の基礎となる人体計測データ を基準として作製することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の人体モデルの作製方法。」(【請求項3】) 「請求項2に係る発明は,請求項1記載の人体モデルの作製方法において,上記三次元仮想空間が三次元CAD画面であることを特徴とする。特に,人体モデルを三次元CAD画面上でCADデータ として作製することにより,ボルトやナットと同様に寸法的に実物サイズとして人体モデルを把握できる。」(段落【0006】) 「請求項3に係る発明は,請求項1又は請求項2記載の人体モデルの作製方法において,上記人体モデルが日本工業規格L4004及びL4005制定の基礎となる人体計測データを基準として作製することを特徴とする。日本工業規格制定の基礎となる人体計測データを基準とすることにより,この基準をもとに性別,年齢,体型等の相違に応じた人体モデル,あるいは平均人体モデルの作製ができ,また,体重計算が容易にできる。」(段落【0007】) 「…三次元仮想空間で表示される人体モデルデータをフロッピー(登録商標)やMO,CD-ROMなどの記録媒体に記録することにより,三次元CADシステム内での製品試作・モデリングやシミュレーションを実際に肌で感じる雰囲気で,現実の設計者が行なうことができる環境を提供できる。」(段落【0009】) 「三次元で表される剛直部分の大きさは,日本工業規格L4004及びL4005制定の基礎となる人体計測データを基準として作製する。この人体計測データ は,「成人男子の人体計測データ」及び「成人女子の人体計測データ 」として,社団法人人間生活工学研究センターより発行されている。なお,日本工業規格L4004及びL4005は日本人の体型の変化に応じて改定されるが,その改定の基礎となる人体計測データを基準とできる。剛直部分は平均人の場合,人体計測データのそれぞれの平均値を基にあらかじめ作製する。又はこの人体計測データ をメモリー領域に保存しておき,必要に応じて呼び出して剛直部分を作製してもよい。剛直部分の大きさは人体モデル作製時の入力条件により定まる。人体計測データは人体各部の平均をそれぞれメモリー領域に保存しておいてもよく,あるいはA体,AB体,Y体などに対応する各剛直部分として保存しておいてもよい。」(段落【0011】) 「また,三次元CADシステムを利用して人体モデルに体重を付加することができる。全身人体モデルの全領域を選択することにより,CADシステムを利用してその体積を計算する。一方,上述したメモリー領域に保存されている人体計測データを基礎にして,平均となる標準成人男子又は女子を三次元CADシステム上でモデリングを行ない,標準モデリング体の体積を標準体重で除することにより標準比重を算出する。この標準比重を全身人体モデルの体積に乗じて体重を算出する。この体重をメモリー領域に保存する,もしくはその全身人体モデルの属性としてメモリー領域に保存する。必要に応じて三次元CADに表示できる。」(段落【0015】) 「…記憶装置12はCADプログラム及び必要な内部メモリーが格納された内部記憶装置と,フロッピーディスク装置やCD-ROM装置などからなる外部記憶装置とから構成される。人体モデル9の剛直部分を記録した人体計測データファイル17,人体平均データファイル18,感覚データ ファイル19などのデータ ファイルは内部記憶装置に格納されていてもよいし,また外部記憶装置に記録されていてもよい。」(段落【0018】) 「図8において,三次元CAD画面が設計やシミュレーション等の状態に応じて設定される。そのCAD画面に適応する人体モデル9,例えば,性別,身長の大小などが選択され入力される。人体モデル9は全身モデルの場合もあるし,また手首などの部分モデルの場合もある。次に視力や聴力などの人体感覚データが入力される。これらのデータにより,人体計測データ ファイルを基準として各剛直部分が計算され,関節部分で接続されて人体モデル9が算出され三次元CAD図として表示される。」(段落【0019】) 「なお,スパナーやレンチなどの工具類が入っている仮想のバックや箱,ケース付のベルトを人体モデル9に付随させることにより,より現実世界に近いシミュレーション等を行なうことができる。従来のCADデータ では,これらの工具類はそれぞれ別々のファイルに格納されているため,使用するごとにファイルを呼び出しており,シミュレーション等が十分に行なえなかった問題を解消できる。」(段落【0020】) 「…また,日本工業規格制定の基となった人体計測データを基準とするので,年齢別の人体モデル9を作製できる。そのため,介護装置の開発等において介護シミュレーション等を効率的に行なうことができる。」(段落【0022】) 「また,人体モデルは,日本工業規格L4004及びL4005制定の基礎となる人体計測データを基準として作製することを特徴とするので,設計やシミュレーション等を現実の多様な人々に応じて行なうことができる。また,体重計算が容易にできる。」(段落【0025】) (1-2) 上記記載によれば,本件人体モデルは,人体測定データを基礎にして,三次元CAD画面上でCADデータとして作製するものであることは理解し得るものの,「CADデータ」に関する記載は,上記のとおりであり,その具体的なデータ形式についての記載がされていない。
なお,「人体測定データ」とは,社団法人人間生活工学研究センターが平成4年8月から平成6年6月までの約3年間をかけて,我が国の沖縄から北海道までの全地域で人体測定を行った結果をまとめたデータであり,測定者人数は,合計3万4000人にのぼり,178項目にもわたる身体寸法と三次元画像を採取したものであることが認められる(甲11)。すなわち,人体測定データとは,人体を細部にわたるまで詳細に測定したサイズデータ(数値)そのものであるから,「人体計測データ」に関する記載を参酌したとしてもなお,「CADデータ」の具体的なデータ形式について,記載がないというほかない。
以上によれば,本件発明1の「CADデータ」とは,単にCADで通常用いられるデータという程度のものであって,特有のデータ形式を意味するものであると解することはできない。そうすると,「刊行物1のものをCADとして利用するようにすべく,人体モデルの剛直部分(刊行物2の「セグメント」に相当する。)と関節部分その他を,本件発明1のもののようにCADデータの形式のものとすることは,当業者が容易に推考できる程度のものと認められる」とした決定の判断は,是認し得るものである。
原告は,CGのローカル座標系とCADのワールド座標系とは相互変換が困難であると主張し,具体的にその困難性を主張するが,本件明細書の記載に基づくものではないというほかない。
ちなみに,乙3,5においては,本件出願前において,既に,三次元表示する人体モデルをCADによって作成することが開示されていることが認められるのであって,上記の決定の判断が相当であることをうかがわせるものである(原告は,乙3においては,オブジェクトを作製しないのであるから,本件発明1の「人体モデルというオブジェクト」の作製方法とは反する発明であると主張するが,原告が指摘する乙3の段落【0017】において製作しないとされる「オブジェクト」は,現実の世界における物という程度の意味であって,「人体モデル」に相当するものを意味するものではないと解され,原告の主張は当たらない。また,原告は,乙3の「CAD」とはコンピュータ支援診断(Computer Aided Diagnosis)のことであると主張するが,乙6によれば,本件と同じComputer Aided Designのことであることは明らかである。また,原告は,乙5につき,SOLVER(ソルバ)とは,与えられた制約条件下で最適な答えを探し出す機能のことであると主張するが,乙5に記載された「SOLVER」は,システムの名称であることがうかがえ,原告の主張は当たらない。原告は,乙5のものは,仮にCADモデルであったとしても二次元のものであるというが,乙5でも,71頁「あらまし」の記載等に照らせば,モデル自体は三次元CADで作成しているものと考えられる。)。
(1-3) なお,決定の相違点(a)についての上記判断部分の解釈につき,原告と被告とで主張が対立している。すなわち,原告は,決定が「CGのデータ形式で作成してこれをCADのデータ形式に変えることは容易である」と判断したものと主張し,被告は,「データを最初からCADに好適なデータ形式として作成するようにすることも当業者が自ずと想到する程度のことである」と判断したものであると主張する。そして,原告は,上記自らの解釈を前提として,決定の判断が誤りである理由を種々主張している。
本件発明1の「CADデータ」について,前記(1-2)のように解される以上,上記の解釈の争いは,本件結論を左右しないと解されるが,念のため,検討しておく。
確かに,決定の説示は,表現の適切さを欠いて必ずしも明確でなく,原告主張のような解釈をする余地もないではないが,上記判断部分を決定の説示全体の趣旨に照らして解釈すれば,被告の主張するように解釈するのが相当であるというべきである。また,被告も主張するように,当業者であれば,CAD形式で利用するのであれば,わざわざCG形式で作成した上でこれをCAD形式に変換するようなことはせず,最初からCADに好適なデータ形式として作成するのが通常であると考えられることからすれば,被告のように解釈するのが,自然で常識的でもある。
なお,決定の判断をこのように解すべきだとしても,取消理由通知書(甲15)においては,「本件各請求項に係る発明が刊行物1ないし5に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものである」とし,「特許法29条2項の規定により特許を受けることができない」との理由を通知しているのであるから,上記被告の解釈による決定の理由そのものが,取消理由通知書に具体的に記載されていないとしても,手続上の違法があるとまではいえない。
以上のとおりであるから,原告が上記自らの解釈を前提として,決定の判断の誤りをいう主張は,前提を欠くものというべきである。また,上記認定の決定の解釈に立てば,前記(1-2)に判示したところに照らし,決定の判断が是認し得ることは明らかである。
(2) 原告は,決定の「技術分野自体が一元化してきている。」との認定は誤りであり,むしろ,CPUやメモリの大容量化・高速化に伴い,CADのみでCAD画面上のシミュレーション化が進む傾向にあり,CGは,CG本来のエンタティメントの分野に特化していく傾向にあり,分化する傾向にあるなどとも主張する。
しかし,前判示のとおり,本件発明1の「CADデータ」とは,単にCADで通常用いられるデータという程度のものであって,特有のデータ形式を意味するものではないと解されるのであるから,仮に,一般にCADとCGが分化する傾向にあるとしても,本件発明1におけるCADデータの形式を採用する程度のことには,格別な困難性があるとはいえない。原告が主張する点は,相違点(a)についての決定の判断の当否に関する結論を左右し得るものではない。
(3) 以上のとおり,原告主張の取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(本件発明1と刊行物1発明の相違点(b)についての判断の誤り)について (1) 刊行物2及び3(甲5,6)によれば,あらかじめプログラミングされているか否かは別にして,CGの人体モデルでも警告を発生させることが可能であることが認められる。
(2) 「疑似訪問」について検討する。
(2-1) 本件明細書(甲3)には,「疑似訪問」に関し,次の記載がある(引用部分の下線部は当裁判所が付した。)。
「しかしながら,従来の人体モデルは,コンピュータのモニター画面を通じて認識できる三次元形状や色彩をもつモデルとして現実人体に近づけるためのリアリティーを追及して作製されていた。このため,三次元CADシステムの仮想的な三次元空間内にて,製品設計や生産シミュレーション等の三次元デジタルモックアップの世界を体験するための疑似訪問者として,設計やシミュレーション等を,その三次元空間内で行なう人体モデルとして応用することが困難であった。例えば,より現実に近いリアリティーを有している人体モデルであっても,設計やシミュレーション等を仮想的な三次元空間内にて行なう場合に必要とされる人体各部の機能やサイズ等が考慮されておらず,またその機能等が表現できないという問題があった。
したがって,仮想的な三次元空間内にて設計やシミュレーション等を実際に肌で感じる雰囲気で,現実の設計者が行なえないという問題があった。」(段落【0003】) 「本発明の人体モデル9は,三次元空間内にて,製品設計や生産シミュレーション等の三次元デジタルモックアップの世界を体験するための疑似訪問者として利用できる。また,日本工業規格制定の基となった人体計測データを基準とするので,年齢別の人体モデル9を作製できる。そのため,介護装置の開発等において介護シミュレーション等を効率的に行なうことができる。」(段落【0022】) (2-2) 上記記載によれば,本件明細書には,三次元CADにおける「疑似訪問」の構成について,具体的には何も記載されていない。そうすると,原告の主張する「疑似訪問」としての効果は,CGでの人体モデルの警告技術を参酌すれば,三次元CADとしては当然予測される程度のものであって,格別顕著なものではない。
したがって,「現実人体が動作できない動作領域に前記人体モデルの関節部分が回転するような状態とならないような配慮をする前段階のものにおいては,現実人体が動作できない動作領域に前記人体モデルの関節部分が回転することがあるから,そのときは警告を発生させるようにする,すなわち,相違点(b)について本件発明1のようにすることは,当業者が適宜想到できるものと認められる」とした決定の判断に誤りがあるとはいえない。
(3) 以上によれば,決定の相違点(b)についての判断は,是認し得るものであり,原告主張の取消事由3は,理由がない。
4 取消事由4(CAD特有の課題の解決に関する判断の誤り)について 「疑似訪問」としての効果が,三次元CADにおいて当然予測される程度のものであって,格別顕著なものではないことは,前判示のとおりである。
また,発明がある程度の作用効果を奏しても,実用の妨げとなる欠点をも伴うために,当業者としては,あえてこの発明を実施しない場合もあり得るのであって,仮に,本件出願前,市販のCADソフトウェアで画面上の人間を動かすことができるものがなかったからといって,直ちに本件発明1に進歩性があるとはいえない。
原告の主張は,採用することができない。
5 取消事由5(顕著な作用効果の看過)について 商品価格を決定する要素には種々のものが存在し得ることはいうまでもないところであり,ある発明に基づく商品の価格が直ちにその発明の顕著な作用効果となり,発明の進歩性を肯定し得ることになるものとはいえない。仮に,原告の主張するような事実を考慮しても,本件発明1の進歩性を否定した前記判断を覆すべきものとはいえない。
原告の主張は,採用し得ない。
6 取消事由6(本件発明2ないし5に関する判断の誤り)について 原告は,本件発明1の特許性があることを前提に,本件発明2ないし5も特許されるべきであると主張するものであるところ,既に判示したとおり,本件発明1は特許されるべきものではないのであるから,原告主張の取消事由6も理由がない。
7 結論 以上のとおり,原告主張の決定取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塩月秀平
裁判官 田中昌利
裁判官 高野輝久