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関連審決 異議2002-71955
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  周知技術 /  参酌 /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  取消決定 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 570号 特許取消決定取消請求事件
原告 東芝テック株式会社
訴訟代理人弁理士 鈴江武彦
同 河野哲
同 中村誠
同 峰隆司
同 幸長保次郎
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 石川好文
同 田中秀夫
同 小曳満昭
同 涌井幸一
同 川向和実
同 宮下正之
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2005/01/19
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が異議2002-71955号事件について平成15年10月23日にした決定中「特許第3255559号の請求項1に係る特許を取り消す。」との部分を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「椅子式エアーマッサージ機」とする特許第3255559号の特許(平成7年6月28日出願,平成13年11月30日設定登録。以下「本件特許」という。請求項の数は2である。)の特許権者である。
平成14年8月9日,本件特許の請求項1について特許異議の申立てがなされ,特許庁は,これを異議2002-71955号事件として審理した。原告は,審理の過程で,平成15年5月23日,請求項1の特許請求の範囲の文言の訂正を含む訂正を請求した(以下,この請求に係る訂正を「本件訂正」といい,本件訂正による訂正後の明細書を「本件明細書」という。)。特許庁は,審理の結果,平成15年10月23日,本件訂正を認めた上で,「特許第3255559号の請求項1に係る特許を取り消す。」との決定をし,同年11月17日,その謄本を原告に送達した。
2 本件訂正による訂正後の請求項1の特許請求の範囲 「座部を有する椅子本体と, 前記座部に上下方向に回動可能に設けた脚載置台と, 前記座部と前記脚載置台の少なくともいずれかに配設されたマッサージ用袋体と, 前記脚載置台の裏側に配設されこの脚載置台を上下方向に回動させる駆動用袋体と, エアー分配器を介して前記マッサージ用袋体および前記駆動用袋体にエアーを供給するエアー供給装置と, このエアー供給装置および前記エアー分配器を制御する制御手段とを具備し, 前記制御手段で制御される前記エアー分配器によって,前記駆動用袋体を膨縮させて前記脚載置台を上下方向に回動させ,この駆動用袋体の膨張状態を前記脚載置台が所望の高さ位置に保持されるように維持した状態で前記マッサージ用袋体が膨縮されることを特徴とする椅子式エアーマッサージ機」 (以下「本件発明」という。) 3 決定の理由 別紙決定書の写しのとおりである。要するに,本件発明は,特開平7-124214号公報(以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下,決定と同じく「引用発明1」という。)並びに特公平3-15910号公報(以下「刊行物2」という。),特開平7-39571号公報(以下「刊行物3」という。),実公平6-14595号公報(以下「刊行物4」という。)及び特開平2-267035号公報(以下「刊行物5」という。)に記載された事項に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものであるとするものである。
4 決定が認定した,引用発明1の内容,本件発明との一致点・相違点 (1) 引用発明1の内容 「座部11と背もたれ部14とを有するマッサージ椅子10と,下肢マッサージ器20と,前記下肢マッサージ器20に配設された空気袋23a,23bと,首マッサージ部50の可動板60を駆動する空気袋64と,分配切換器43を介して前記空気袋23a,23bおよび前記空気袋64に空気を供給するエアコンプレッサ41と,このエアコンプレッサ41および前記分配切換器43を制御する制御回路44とを具備し,前記制御回路44で制御される前記分配切換器43によって,前記空気袋23a,23bおよび前記空気袋64が膨張・収縮されるエアマッサージ装置。」(決定書5頁) (2) 本件発明と引用発明1との一致点 「座部を有する椅子本体と,脚載置台と,前記座部と前記脚載置台の少なくともいずれかに配設されたマッサージ用袋体と,駆動用袋体と,エアー分配器を介して前記マッサージ用袋体および前記駆動用袋体にエアーを供給するエアー供給装置と,このエアー供給装置および前記エアー分配器を制御する制御手段とを具備し,前記制御手段で制御される前記エアー分配器によって,前記マッサージ用袋体が膨縮される椅子式エアーマッサージ機」(同8頁)である点。
(3) 本件発明と引用発明1との相違点 「[相違点1] 本件発明は,脚載置台が「座部に上下方向に回動可能に設けた」ものであり,駆動用袋体が「脚載置台の裏側に配設されこの脚載置台を上下方向に回動させる」ものであるのに対し,引用発明1は,脚載置台が座部の前側に単に配置されたものであり,駆動用袋体は首マッサージ部の可動板を駆動するものである点。
[相違点2] 本件発明は,「駆動用袋体を膨縮させて脚載置台を上下方向に回動させ,この駆動用袋体の膨縮状態を前記脚載置台が所望の高さ位置に保持されるように維持した状態で」マッサージ用袋体が膨縮されるのに対し,引用発明1は,かかる関係を有していない点。」 (以下,それぞれ「相違点1」,「相違点2」という。)
原告の主張
1 取消事由1(引用発明1の認定の誤り,本件発明との一致点の認定の誤り・相違点の看過) (1) 決定は,引用発明1の空気袋64を,本件発明における駆動用袋体と捉えることができる,としている。しかし,以下に述べるとおり,この空気袋64は,マッサージ用袋体と認識されるべきものであって,駆動用袋体ではない。
引用発明1は,使用者の首部が空気袋55a,55b間に位置した状態で,空気袋55a,55bに空気を供給して膨張させることにより掴み揉みを行い,その空気袋55a,55bを膨張させた状態のまま空気袋64を膨張させて,空気袋55a,55bを引込溝に引き込むことにより引き揉みを行うという,人手による挟み揉みのような,一連のマッサージ動作を実現している。空気袋64は,このような一連の挟み揉みマッサージ動作のためのものであるから,本件発明の駆動用袋体とは異なるマッサージ用袋体と捉えるべきものである。
また,引用発明1が駆動用袋体を備えていない以上,それが,「エアー分配器を介して前記マッサージ用袋体および前記駆動用袋体にエアーを供給するエアー供給装置」(以下「構成要件E」という。)を備えているとする一致点の認定も,誤っている。
以上のとおり,決定は,引用発明1の認定を誤った結果,一致点の認定を誤り,相違点を看過している。
(2) 被告が主張するように,一致点の認定を,ある程度抽象的に行うことが許されるとしても,適切なレベルでなされなけれはならないことは当然である。
前記のとおり,引用発明1の空気袋64はマッサージ用のものであり,本件発明の駆動用袋体はマッサージ機能に直接関与しないものである。これらを,「駆動用」という抽象度で捉えることは適切でない。
2 取消事由2(進歩性の判断の誤り) (1) 刊行物1ないし5のどれにも,構成要件Eは開示されておらず(前記のとおり,引用発明1が駆動用袋体を備えているという認定は誤っている。),ましてや,「このエアー供給装置および前記エアー分配器を制御する制御手段とを具備し」(以下「構成要件F」という。)の「制御手段」によって,「この駆動用袋体の膨張状態を前記脚載置台が所望の高さ位置に保持されるように維持した状態で前記マッサージ用袋体が膨縮されること」(以下「構成要件H」という。)については何ら開示されていない。
したがって,引用発明1並びに刊行物2ないし5に基づき,本件発明を容易に推考できるとした決定の判断は,誤っている。
(2) 刊行物4及び5に開示されているのは,車両用シートに関するものであって,マッサージ装置とは技術分野が異なる。駆動用袋体を用いることが車両用シートの分野での周知技術であったとしても,それを,技術分野が異なる引用発明1に採用することは容易に推考できない。
仮に採用することができたとしても,マッサージ用袋体と駆動用袋体という異なる種類の袋体を,共通の空気供給装置及び分配器によって制御して,快適なマッサージを得るという,本件発明の特徴的な構成・効果に至ることはできない。
(3) 乙第1号証の車両用シートの拘束用空気袋と疲労緩和用空気袋は,前者が身体を拘束して一定の時間が経過した場合などに,後者を動作させて乗員の疲労を軽減する,というものであって,両者は関連して動作するものであり,本件発明のように,マッサージ用袋体と駆動用袋体を無関係に動作させる,というものではない。
乙第2号証では,すべての空気袋が同じ機能(乗員の姿勢変更のサポート)を有するものであり,異なる機能を持つ袋体を開示していないし,一方の膨縮状態とは無関係に他方の袋体の膨張状態を維持するというものでもない。
(4) 本件発明は,座部に対して上下方向に回動可能な脚載置台を無段階に位置決めできるものであり,使用者は,自己の所望する高さ位置に正確かつ容易に脚載置台を位置決めできる。また,駆動用袋体の膨縮とマッサージ用袋体の膨縮に,エアー供給装置を共用するものであるから,構成が簡単で組み立てが容易であり,故障の発生も少ないという効果をも奏することができる。
被告の主張
1 取消事由1(引用発明1の認定の誤り,本件発明との一致点・相違点の認定の誤り)に対して (1) 進歩性が問題となる場合における一致点の認定は,相違点の認定のための前提作業であり,それが正しく行える範囲で,共通する部分を抽象化して一致点と認定することは許されるし,また,どの程度の抽象度で一致点の認定を行うかも,適宜なし得るところである。
「駆動」とは,「動力を与えて動かす」という意味であり(広辞苑参照),「駆動」という言葉自体に,「脚載置台を所望の高さ位置に保持する」といった意味があるわけではない。
引用発明1の空気袋64が,マッサージ用袋体であるとしても,これと,本件発明の駆動用袋体とは,いずれも,「使用者に直接押圧力を加えるものではなく,他の装置構成部材に動力を与えてそれを動かすもの」という点で共通している。決定は,この点を一致点と捉えた上で,「駆動用袋体」という言葉をもって表現したものであり,何ら誤りはない。そして,引用発明1の空気袋64が,脚載置台を駆動し所望の高さ位置に保持する機能を有していない点は,相違点1及び2で抽出している。
(2) 引用発明1は駆動用袋体を備えているものであり,したがって,構成要件Eも備えている,といえる。
決定の一致点の認定に誤りはなく,相違点の看過もない。
2 取消事由2(進歩性判断の誤り)に対して (1) 制御手段によって,「駆動用袋体の膨張状態を維持した状態で前記マッサージ用袋体が膨縮されること」が,刊行物1ないし5に開示されていないことは,原告が主張するとおりである。
しかし,決定は,そのことが,刊行物1ないし5に開示されていると認定しているものではなく,刊行物2及び3に開示されている周知技術と,刊行物4及び5に開示されている周知技術から容易に推考できる構成であるとしているのである。
この点は,決定の論理構成とは異なるものの,次のように説明することもできる。つまり,引用発明1は,下肢マッサージ器20(脚載置台)を備えるものであり,それに,刊行物2及び3記載の周知技術を適用して,脚載置台を上下方向に回動させること及びそれを所望の高さ位置に保持するようにすることは当業者が容易に推考できることであり,さらに,そのための機構として,刊行物4及び5(これらと刊行物1とは,脚載置台付き椅子という共通の技術分野に関するものである。)記載の,上下方向に回動させるようにした脚載置台の裏側に駆動用袋体を配設し,それに空気を供給して膨縮させる機構を採用しつつ,その空気供給の制御を,引用発明1がもともと備えている制御回路44に行わせることは,当業者にとって容易に推考できることなのである。
(2) 互いに異なるタイミングで膨縮させられるべき複数の空気袋の一部のものが,膨張状態や収縮状態を維持させられるべきものである場合に,共通の空気供給装置及び分配器で制御を行うことは,周知技術である(乙第1号証及び第2号証)。また,装置の簡略化(すなわち共通化)は,あらゆる装置において望まれることである。
以上からも,共通の空気供給装置及び分配器によって制御するという構成は,当業者が当然に採用する構成である,といえる。
(3) 原告の主張する効果は,いずれも,刊行物1ないし5に開示されているものか,これらを組み合せた構成が当然有する効果に過ぎず,進歩性を基礎付けるものではない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(引用発明1の認定の誤り,本件発明との一致点の認定の誤り・相違点の看過)について (1) 本件発明の「駆動用袋体」は,特許請求の範囲の記載にあるとおり,脚載置台の裏側に配置され,膨縮させられることにより脚載置台を回動させるものであり,これにより,使用者が自己のマッサージに最も適した位置に脚載置台を位置決めできるようにするものであって(別紙1参照),人体のマッサージに直接関与するものではない。
(2) これに対し,引用発明1の空気袋は,刊行物1の次の記載から,人体に接触するものではないものの,人体に対する押圧作用を制御し,マッサージに直接関与するものであると認めることができる。
「【0029】・・・首マッサージを選択する。この操作により,分配切換器43が制御されてホース45に圧縮空気が供給されて図6に示すように空気袋55a,55bが膨張されていく。
【0030】この空気袋55a,55bは,凹部52の相対向する側面52a,52bが壁となることにより,首のツボの天柱が挟み込まれて掴み揉みする状態となる。
【0031】そして,空気袋55a,55bが充分に膨張されると,ホース45への圧縮空気の供給が停止される。そして,ホース46に圧縮空気が供給されて空気袋64,64が膨張されていく。空気袋64,64の膨張により,可動板60がスプリングに抗して後方へ移動していく。可動板60の後方への移動により,図7に示すように,空気袋55a,55bは首を挟みながら引込溝54に引込まれていく。
【0032】この引き込みにより,空気袋55a,55bは首のツボの天柱を引き揉みマッサージしていくことになる。」(甲第3号証3頁4欄) 「【0034】これら動作が繰り返し行われることにより,首部が掴み揉みと引き揉みによりマッサージされていくこととなり,人手によるような充分な挟み揉み効果を得ることができる。」(同号証3頁4欄〜4頁5欄)(別紙2参照) (3) 以上からは,本件発明の駆動用袋体と引用発明1の空気袋64とは,前者が人体のマッサージに直接関与しないのに対し,後者は関与するという点で異なると認められる。
また,本件発明に係る請求項1においては,「前記座部と前記脚載置台の少なくともいずれかに配設されたマッサージ用袋体」及び「前記脚載置台の裏側に配設されこの脚載置台を上下方向に回動させる駆動用袋体」のように,「マッサージ用袋体」と「脚載置台を上下方向に回動させる駆動用袋体」とを対比した記載がなされている。
これらからは,本件発明の「駆動用袋体」の技術的意味内容は,@「駆動用袋体」が「駆動手段」としての機能しかもたないものであり(マッサージ機能に直接関与しない),A「脚載置台を上下方向に回動させる駆動用袋体」なる一連のものとして把握すべきものである,といえる。この点で,決定が,一致点の認定において,本件発明の駆動用袋体と引用発明1の空気袋64とを,共に「駆動用袋体」との言葉で表現したことは,適切さにやや欠けるものであった,という余地はある。
しかし,(2)で摘示した記載から明らかなとおり,引用発明1の空気袋64は,可動板60,さらには空気袋55a,55bという,他の部材を駆動するものでもあり,この点に着目して,「駆動用袋体」と表現することが誤りとまではいえない。
また,相違点1及び2において,本件発明における「駆動用袋体」が脚載置台の上下方向への回動を行うものであるのに対して,引用発明1における「駆動用袋体」では「首マッサージ部の可動板を駆動するもの」である点で相違することが摘示され,引用発明1の空気袋64が,マッサージに直接関与するものであること,脚載置台の上下方向への回動を行わないものであることも抽出されており,両者の機能が異なることについては,相違点として適切に認定されているのである。
したがって,この点に関する決定の引用発明1の認定及び一致点の認定に誤りはなく,相違点を看過した誤りがあるとも認められない。
(4) また,刊行物1の実施例において,空気袋64,首部のマッサージ機能を担当する空気袋55a,55bと下肢マッサージ機能を担当する空気袋23a,23bの全てに対するエアー供給が,唯一の分配切換器43から行われていることは明らかである(甲第3号証3頁4欄〜4頁5欄,図5)。したがって,引用発明1は,構成要件Eを備えている,といえる。
(5) 以上のとおりであるから,取消事由1には理由がない。
2 取消事由2(進歩性の判断の誤り)について (1) 原告は,刊行物1ないし5のいずれにも,本件発明の構成要件E「エアー分配器を介して前記マッサージ用袋体および前記駆動用袋体にエアーを供給するエアー供給装置」が開示されているとはいえないし,ましてや,構成要件Fの「制御手段」によって,構成要件Hの「この駆動用袋体の膨張状態を前記脚載置台が所望の高さ位置に保持されるように維持した状態で前記マッサージ用袋体が膨縮されること」については何ら開示されておらず,引用発明1並びに刊行物2ないし5に基づいて本件発明を容易に推考することはできない,と主張する。
しかし,刊行物1には「駆動用袋体」が開示されており,それに対するエアー供給が,マッサージ機能を担当する空気袋に対するものと共通するエアー供給装置及び分配切換器により行われるものであり,構成要件Eが刊行物1に開示されているといえることは,前記のとおりである。
そこで,相違点1及び2に係る構成,すなわち,@脚載置台の裏側に配設された駆動用袋体(マッサージに直接関与しないもの。以下同じ。)を膨縮させることにより,脚載置台を上下方向に回動可能とする構成(相違点1に係る構成),A共通のエアー供給装置及び分配器によって制御して,脚載置台が所望の高さ位置に保持されるように駆動用袋体の膨張状態を維持した状態で,マッサージ用袋体を膨縮させる構成(相違点2に係る構成)の容易推考性について検討する。
(2) 「駆動用袋体により脚載置台を上下方向に回動可能とすること」について ア 刊行物2には,「・・・本発明は,少なくとも背部に施療手段を備えている椅子の座部に,上面が足載面とされている足載台を連結したマツサージ機であつて,椅子に対して足載台を回動自在且つ任意角度で固定自在とする第1の連結部材と・・・」(甲第4号証2頁3欄),「・・・固定板材43とガイド部材4との連結部には,ガイド部材4を任意角度で固定できるようにするためのブレーキ機構5を設けてある。」(同号証3頁5欄)との記載がある(別紙3参照)。
刊行物3には,「【0017】この実施例においては,オットマン3及び背もたれ1は図7に示されるようなリフトユニット40にて動作させられるようになっている。リフトユニット40はウォームホイール41が収納配置されたケーシング42より筒体43を突設して主体が構成されており,筒体43内には主軸44が回転自在に内装されている。・・・ 【0018】しかして,モータ45が回転されてウォームギア46が回転駆動させられるとウォームホイール41が回転駆動し,ウォームホイール41の回転に伴って主軸44が回転駆動し,主軸44の回転によって送りナット48が主軸44の長手方向に移動し,筒状体50と共にブラケット51が筒体43より突出したり,筒体43内に収納されたりするものであり,このブラケット51の移動によってオットマン3の出し入れまたは背もたれ1が起倒させられるようになっている。」(甲第5号証4頁5欄)との記載がある(別紙4及び5参照)。
これらの記載からは,刊行物2及び3には,「脚載置台を所望の高さ位置に保持した状態でマッサージを受けられるように,脚載置台を上下方向に回動させる」技術が開示されている,と認められる。
これらの技術は,「足載台に楽な姿勢で足を載せることができる」(甲第4号証2頁3欄),「足載台の上面の傾斜角度を使用者は体格や好みに応じたものとすることができ,」(同号証4頁8欄),「短時間で良好なマッサージ姿勢を選択することができる。」(甲第5号証2頁2欄),という効果を持つものであるから,これを同じく椅子式エアーマッサージ機である引用発明1に適用することは,当業者が当然なすことである。
イ 刊行物4には,「【請求項1】上下動および前後動が自動操作可能なサイサポート部を備えた車輌用シートにおいて,該サイサポート部は座部内に前後動可能に配された押出し部の前端に設けられて座部前方に前後進可能に備えられ,サイサポート部のサイサポート板とサイサポート部底面とにわたり,サイサポート板を上下動せしめる伸縮体を配設すると共に,上記押出部はその後端と座部後壁とにわたり上記押出部を前後動せしめる伸縮体を配設し,前記各伸縮体がエアー供給装置と連絡した複数のエアーバック体を重ね合わせると共に,これらを連通状に接合して構成され,かつ夫々別個に作動することを特徴とする車輌用シート。
【考案の詳細な説明】 (産業上の利用分野) 本考案は,車輌用シート,詳しくは座部前方に備えられるサイサポート部(ふくらはぎのせ部)を各使用者の体型,好みの体勢等に合わせて調整する自動調整機構を備えた車輌用シートの改良に関する。」(甲第6号証1頁1欄〜2欄),「・・・伸縮体(6)の伸長量に応じて,座部上下動用のサポート板(8)が軸着部(8’)を支点として上方へ持ち上げられ座部(3)のシート面(3’)が膨張し,あるいは,サイサポート板(2b”)が軸着部(2c)を支点として上方へ持ち上げられ最適位置にきたときに操作ボタン(18a)あるいは(18b)を閉弁位置に切換えて空気の供給を停止する。
・・・サイサポート部(2)を前後動せしめるにあっては,前記上下作動時における操作同様,前後動用の操作ボタン(18c)を別操作することにより伸縮体(6)を膨張せしめて押出部(2a)を前進させ,あるいは収縮せしめて後進させ適宜位置でその供給及び排出を停止して最適位置を確保する。」(同号証3頁6欄)との記載がある(別紙6参照)。
刊行物5には,「2.特許請求の範囲 1.座部(1)から前方に突出することによって足の膝の裏側を支える支持部(14)を,座部(1)に面して設けたヒンジ部(9)を中心にして上下方向へ傾動可能に設けたことを特徴とする自動車の座席における足の姿勢補助装置。
2.支持部(14)を空気袋(15)により支持するとともに,空気袋(15)への空気供給量を調節することにより支持部(14)の突出角度(B)を調節可能にしたことを特徴とする請求項1記載の自動車の座席における足の姿勢補助装置。」(甲第7号証1枚目1頁),「・・・本発明は使用時足の膝の裏側を支える自動車の座席用補助装置に係り,特に,オートマチック車の運転者用座席に設けることにより,運転中使わない左足を支えて運転者の姿勢を楽にするための自動車の座席用補助装置に関するものである。」(1頁〜2頁),「・・・座席に補助装置を取付けて使用する場合に,座部1に座った運転者が調節ねじ18を閉めた状態でポンプ16を操作すると,空気袋15に空気が管17を通して供給され,第1図に示すように支持部14は膨らんだ空気袋15に押し上げられて上方へ傾動する。又,この場合,空気袋15へ供給する空気量をポンプ16及び調節ねじ18により加減することによって支持部14を好みの突出角度Bに保つことができる。そして,運転者が座部1に座ると,支持部14により運転者の足を膝の裏側から支えることができる。」(同号証2枚目6頁〜3枚目7頁)との記載がある(別紙7参照)。
以上から,刊行物4及び5には,「車両の座席において,脚載置台の上下方向の位置を変更維持するにおいて,脚載置台の裏側に配設した駆動用袋体の膨縮によりこれを行う」技術思想が開示されている,と認められる。
刊行物4及び5に記載されている発明は,車両用の座席であるものの,「脚載置台付き椅子」であるという点で,引用発明1並びに刊行物2及び3記載の発明と共通する。そして,当業者が,椅子型のマッサージ機をよりよいものにするため,分野が具体的には多少異なるとはいえ,同じく使用者に好みの,あるいは安楽な姿勢を取らせる機能を持つ椅子(車両用シート)に関する技術を参酌することは当然であるから,これら車両用シートに関する技術を,椅子型のマッサージ機に適用することは自然なことである,と認めることができる。このことは,例えば,乙第2号証(特開平4-5916号公報)に,その実施例として,車両用シートに係る技術が開示されており,それは,「・・・座面形状の変更を一旦オーバーシュートさせて変更するようにしたため,乗員に対し疲労軽減のための血行や新陳代謝を促す効果的な刺激を与えると共に,フィーリングに違和感のない疲労軽減のための刺激を与えることができ,疲労軽減をより効果的に行うことができる」(同号証4枚目13頁)ものであり,「なお,この発明のシートは車両以外,例えば船舶,航空機等のシート,一般のシート等にも応用することができる」(同12頁)ものとされていることからも裏づけられるところである。
そして,刊行物4及び5に記載されている脚載置台の構成において意図される機能は,使用者にとって最適な,あるいは安楽な着座姿勢が得られるように脚載置台の上下方向への回動と位置の固定を行うというものであって,これは,引用発明1,あるいは刊行物2及び3記載のマッサージ機にとっても,好ましい技術であることは明らかである(そのような着座姿勢を使用者が取るのを可能にすることは,マッサージをより効果的にするための,最も基本的な要請の一つであることは論を待たない。)。
そうすると,引用発明1において,刊行物2及び3の,椅子型マッサージ装置において脚載置台の上下方向の位置を適宜に設定する機能を採用し,それに際し,刊行物4及び5の,空気袋の膨縮によりこれを行う技術を採用することは,当業者が容易にできることであると認めることができる。むしろ,引用発明1が,マッサージ作用に空気袋,空気給排気装置等を用いていることからは,同じく空気袋等を用いる刊行物4及び5の技術を適用することは,駆動機構を共通化できる(このことは,一般的に製造コストやメンテナンス上有利であるといえる。)という観点から,積極的な動機付けがあるともいえるのである。
(3) 「共通のエアー供給装置及びエアー分配器によって制御して,駆動用袋体の膨張状態を維持した状態でマッサージ用袋体を膨縮させること」について ア 刊行物1には,「【0024】エア給排気装置40は,図5に示すように,圧縮空気を生成するエアコンプレッサ41と,圧縮空気を浄化して貯えるフィルタータンク42と,フィルタタンク内の圧縮空気を所定の空気袋55a,55b,64,23a,23bに供給する分配切換器43と,操作パネル16の操作スイッチ(図示せず)の操作によってエアコンプレッサ41と分配切換器43を制御する制御回路44とを備えている。・・・ 【0026】分配切換器43は,各ホース45〜47に圧縮空気を供給して各空気袋55a,55b,64,23a,23bを膨張させたり,各ホース45〜47を外気と連通させて各空気袋55a,55b,64,23a,23bの排気を行なわせたりするものである。これら圧縮空気の供給や外気との連通などは,例えば複数の電磁切換弁を使用して行う。・・・ 【0031】そして,空気袋55a,55bが充分に膨張されると,ホース45への圧縮空気の供給が停止される。そして,ホース46に圧縮空気が供給されて空気袋64,64が膨張されていく。空気袋64,64の膨張により,可動板60がスプリングに抗して後方へ移動していく。可動板60の後方への移動により,図7に示すように,空気袋55a,55bは首を挟みながら引込溝54に引き込まれていく。
【0032】この引き込みにより,空気袋55a,55bは首のツボの天柱を引き揉みマッサージしていくことになる。・・・ 【0037】空気袋23a,23bが充分に膨張されると,ホース47への圧縮空気の供給が停止されるとともにホース47が外気と連通され,空気袋23a,23bの排気が行われて空気袋23a,23bが収縮していく。
【0038】これら動作が繰り返し行われることにより,ふくらはぎが掴み揉みされてマッサージされていくこととなり・・・ 【0039】上記実施例では,首のマッサージとふくらはぎのマッサージは別々に行うようになっているが,同時に行えるようにしてもよい。・・・」(甲第3号証3頁3欄〜4頁5欄)との記載がある。
イ 以上からは,引用発明1は,もともと,首部及びふくらはぎ部のマッサージを行う複数の空気袋へのエアー供給の制御を,共通のエアー供給制御手段により行うことと,そのうちの一部(55a,55b)の膨張状態を保ちつつ,それとは無関係に他の空気袋(23a,23b)を膨縮させる構成を含むものである。
そうすると,引用発明1において,使用者の体格や好みに適した着座姿勢を保つ機能を実現すべく,脚載置台の上下位置を変更し維持するための空気袋を採用するについて,もともと引用発明1が備えている,複数の空気袋を制御する共通のエアー供給・制御手段を生かして,脚載置台の上下位置を決め,維持する空気袋については一定の膨張状態を保ちつつ,人体のマッサージに直接関与する空気袋は膨縮を繰り返させる構成を採用することは,当業者が容易になし得ることである,ということができる。
したがって,取消事由2も理由がない。
(4) 以上からすれば,本件発明は,引用発明1及び刊行物2ないし5の技術から,当業者が容易に発明をすることができたものである,と認めることができる。
なお,原告の主張する本件発明の効果は,容易に推考できるその構成に当然伴われるものに過ぎず,本件発明の進歩性を基礎付けるものとは認められない。
3 結論 以上のとおり,原告主張の取消事由は,いずれも理由がなく,その他,決定には,これを取り消すべき誤りは認められない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 若林辰繁
裁判官 高瀬順久