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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成13ネ4146特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
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関連ワード 改良発明 /  製造方法 /  新規性 /  インターネット /  進歩性(29条2項) /  周知技術 /  先願主義 /  技術的範囲 /  特許の有効性 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  国内優先権 /  実質的に同一 /  警告 /  消尽 /  権利の濫用(権利濫用) /  特許出願日 /  参酌 /  技術的意義 /  発明の要旨認定 /  不存在 /  特許発明 /  実施 /  社会通念 /  効用を終えた /  交換 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  不法行為(民法709条) /  発明の範囲 /  請求の範囲 /  変更 /  釈明 / 
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事件 平成 16年 (ネ) 1563号 特許権差止請求権不存在確認等請求控訴事件
控訴人(原告) 株式会社大東貿易
控訴人(原告) 有限会社ハマ・コーポレーション
控訴人(原告) 株式会社フィールテック
控訴人(原告)ら訴訟代理人弁護士 安田有三,井口博
被控訴人(被告) 富士写真フイルム株式会社
訴訟代理人弁護士 熊倉禎男,吉田和彦,渡辺光,相良由里子,補佐人弁理士 井野砂里,北村博
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2005/01/25
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
控訴人らの求めた裁判
1 原判決を取り消す。
2 控訴人株式会社大東貿易及び控訴人有限会社ハマ・コーポレーションと被控訴人との間において,控訴人株式会社大東貿易及び控訴人有限会社ハマ・コーポレーションによる原判決別紙「原告製品目録」記載の製品の輸入又は販売につき,被控訴人が第1875901号特許権に基づく差止請求権を有しないことを確認する。
3 被控訴人は,控訴人らの取引先に対して,前項記載の製品が前項記載の特許権を侵害する旨を告知し,又は流布してはならない。
4 被控訴人は,控訴人株式会社大東貿易に対し,800万円及びこれに対する平成15年7月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被控訴人は,控訴人有限会社ハマ・コーポレーションに対し,800万円及びこれに対する平成15年7月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 被控訴人は,控訴人株式会社フィールテックに対し,800万円及びこれに対する平成15年7月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本判決においては,原判決と同様の意味において,「原告製品」,「本件特許権」,「本件発明」,「本件特許明細書」,「構成要件F」,「構成要件E」,「第3実施例」,「優先出願B」,「優先出願B明細書」,「本件実用新案権」,「本件考案」,「本件実用新案公報」との略称を用いる。
1 本件は,控訴人株式会社フィールテックが製造し,控訴人株式会社大東貿易が我が国に輸入し,控訴人有限会社ハマ・コーポレーションが我が国の発売元として販売する原告製品に関し,控訴人株式会社大東貿易及び控訴人有限会社ハマ・コーポレーションが,原告製品の輸入・販売について,被控訴人が特許権侵害を理由とする差止請求権を有しないことの確認を求めたほか,控訴人らによる原告製品の製造・輸入・販売が特許権侵害に当たるとして取引業者に警告を行った被控訴人の行為が競争関係にある控訴人らに対する営業誹謗行為であり,不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為に該当するとして,控訴人らが被控訴人に対し,同法3条に基づき同行為の差止めを求め,さらに同法4条又は民法709条に基づき損害賠償(遅延損害金を含む。)の請求をした事案である。
原判決は,本件特許権に特許法39条3項に違反するという無効事由はなく,また,本件特許権に新規性,進歩性を欠くという無効事由もないなどと判示し,上記控訴人らの請求はいずれも理由がないとして,控訴人らの請求をすべて棄却した。
本件における前提となる事実関係並びに争点及び当事者の主張は,次のとおり,当審における主張を付加するほか,原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」のとおりであるから,これを引用する。
2 当審における控訴人らの主張の要点 (1) 原判決の認定判断に関する主張の要点(控訴理由) (a) 原判決の認定判断の誤り (a-1) 本件特許明細書(甲1)の第3実施例に支持された発明は,本件発明(本件特許明細書の請求項1)のうちに含まれている。
上記第3実施例は,本件特許出願(昭和62年8月14日出願)より前の昭和62年1月19日出願の本件実用新案公報(甲3)に記載された実施例と同一である。それゆえ,本件発明と本件考案とは,実質的に同一である。
したがって,本件特許は,特許法39条3項に違反し,無効である。
被控訴人は,優先出願B(昭和61年10月17日出願)による優先権の主張をするが,第3実施例に支持された発明は,優先出願B明細書(乙3)には記載されていないから,第3実施例に支持された発明については,本件発明に優先出願Bによる優先権の効果はない。よって,出願日は,昭和62年8月14日になるので,上記のとおり,本件特許が特許法39条3項に違反し,無効であることに変わりはない。
(a-2) 本件発明の構成要件Fは,優先出願B明細書(乙3)には記載されていない。
構成要件Fは,「前記シャッタ手段が操作された後に,前記未露光フィルムをパトローネ内に巻き込み可能としていること」というものである。
この要件の技術的意義は,「シャッタ手段が操作されたことにより巻上げノブのロックが解除され,同ノブの回動操作が許容されるようになる」ことをいう。この技術的意義は,発明の要件としての解釈である。
構成要件Fに関する実施部分は,本件特許明細書の第18欄2〜9行に記載されている。
原判決は,優先出願B明細書及び同図面においては,本件発明の構成要件Fが記載されていると認められると判示する。しかし,原判決は,出願当時巻上げノブがロックされる構成が周知であること,並びに,このことを前提とするとノブを回動操作すると露光済みフィルムがパトローネに巻き込まれること及びフィルム1コマ分の長さが検出されるとロックされることが明らかであるというにすぎない。構成要件Fに関する上記技術的意義を達成する手段が優先出願B明細書及び同図面に記載されているとは認定していない。
優先出願B明細書及び同図面からは,シャッタ手段が操作された後,巻上げノブのロックが解除されることは,記載はないし,図面からも判断できない。優先出願B明細書及び同図面には,巻上げノブとシャッタ手段の位置が記載されているにすぎず,構成要件Fが記載されているとはいえない。
仮に,抽象的に記載されているとしても,構成要件Fの技術手段が不明であり,優先出願Bの時点では発明未完成であり,この点からも本件発明の構成要件Fは,優先出願B明細書及び同図面には記載されていない。
本件発明の構成要件F以外の要件が優先出願B明細書及び同図面に記載されているとしても,本件発明の一部についての優先権は認められないので,すべての構成要件からなる一体とした本件発明は,優先出願B明細書及び同図面に記載されていない。
(a-3) 原判決は,国内優先制度の法律解釈を誤っている。
原判決の解釈のうち,22頁15〜21行の部分は,正確でない。
原判決22頁22〜26行の「上記のような国内優先権主張制度の趣旨にかんがみると,ある発明について国内優先権主張に基づく特許出願が認められるためには,当該発明の明細書の特許請求の範囲に記載された技術事項が,当該優先権主張の基礎とされた先の出願に添付された明細書又は図面の中に,すべて記載されていることが必要というべきである。」との解釈は,誤っている。
原判決28頁18〜22行の「本件発明についての優先権主張が認められるかどうかは,先に述べたとおり,本件発明の構成要件(特許請求の範囲に記載されたもの)が,先の出願に添付された明細書又は図面に記載されているかどうかによって判断すべきものであるから,本件特許明細書に記載されている実施例がどのようなものであるかは,優先権主張が認められるかどうかに関係ないことである。」との解釈は,誤っている。
国内優先制度は,先願明細書記載事項を特許明細書及び図面に記載して優先権主張をした特許出願の場合,その特許発明に含まれる先願発明の部分は,先願時に出願されたものとみなし,特許明細書及び図面に含まれる先願発明の部分は,先願時に特許明細書及び図面に記載されたものとみなすのである。優先権主張の効果は,上記にとどまる。先願主義の原則からみて当然である。国内優先制度にあっても,先願主義の原則が維持されているからこそ,優先権主張を伴う特許出願に当たり,実施例の追加,改良発明,追加発明など新規事項を加えた特許出願が許容されるのである。また,このために採用された制度である。そして,出願人からみても,特許出願に当たり新規事項を追加しても,優先権の主張が否定されることはなく,上記先願発明につき,先願主義の原則が担保されているから,安んじて上記のような追加ができるのである。
原判決は,国内優先制度に矛盾し,先願主義をも否定するものであって,誤りである。
原判決のいうように,「本件特許明細書に記載されている実施例がどのようなものであるかは,優先権主張が認められるかどうかに関係ないことである。」ならば,どのような実施例を加えても,同実施例に支持された包括的特許発明の特許要件の基準時が,先願発明の出願時となり,先願主義からみて誤りである。
原判決は,優先権主張が認められるかどうかと,優先権の効果の範囲を区別していないため,不可解な解釈となっている。
(b) 原判決の判断遺脱 被控訴人が主張する優先権主張の効果を認めるためには,「本件発明に優先出願Bに係る発明が含まれていること」,及び「第3実施例に支持された発明が優先出願B明細書及び同図面に記載されていること」により,第3実施例に支持された発明を含む本件発明の出願日が優先出願Bの出願時となることを判断し,肯定する必要がある。しかし,原判決は,上記の点を判断することなく,被控訴人主張の優先権主張の効果を認めた違法がある。また,被控訴人は,上記の要件を主張していないので,被控訴人の優先権主張の効果をいう被控訴人の主張自体が前提を欠き,失当である。
(2) 当審における新たな主張 (a) 実質的不侵害 仮に,本件特許が有効であるとしても,控訴人らは,本件特許権を侵害していない。原告製品は,本件考案の実施例に一致し,また,本件発明の第3実施例に該当する。したがって,原告製品は,本件考案の技術的範囲及び本件発明の技術的範囲にそれぞれ属する。したがって,形式的には,原告製品は,本件特許権を侵害している。しかし,以下の理由から,実質的にみて,原告製品は,本件特許権を侵害していない。
原告製品は,本件考案の実施品である。本件考案は,平成14年1月19日に消滅している。したがって,控訴人らが原告製品を製造しても,本件考案の権利侵害にはならない。
権利の消滅した本件考案の実施品である原告製品が,本件考案と同一の第3実施例に支持された発明を含む本件発明の技術的範囲に属するとしても,原告製品に対しては,本件権利は,平成14年1月19日以降消尽している。本件考案の実施は,第3実施例に支持された発明の再製ではない。
(b) 消尽 最高裁平成9年7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号2299頁が国内・国際消尽について判示したところに照らせば,被控訴人が製造した製品に実施されているとされる本件特許権などの諸権利は,その目的を達したものとして消尽し,もはやそれらの効力は,控訴人らによる原告製品の販売等の行為には及ばないものというべきである。
被控訴人のレンズ付きフィルムユニットに関する東京地裁平成12年8月31日判決及びコニカフィルムが申し立てた同種事案の仮処分申請事件に関する東京地裁平成12年6月6日決定が挙げる根拠は,以下のとおり,控訴人らによる原告製品の輸入,販売には当たらないものである。すなわち,被控訴人が製造したレンズ付きフィルムユニット(以下「被控訴人製品」という。)から撮影済みのフィルムを取り出しただけでは,社会通念上も製品として何ら効用は失っていない。次に,被控訴人製品のフィルムの入れ替えと裏カバーの再装着は,消耗品の交換であり,当初の製品と同一性があるから,その譲渡に対し,被控訴人は権利行使できないと解すべきである。また,被控訴人製品は,再利用を容易にするような設計を施しており(甲15),そもそも本件発明の「再利用できないようにされた」との構成要件を満たしておらず,再利用に困難な設計となっていない。なお,被控訴人製品には,フィルム以外は返還しないことの注意書があるが,一方的にこのような注意書をしたとしても,消費者は,被控訴人の広報,宣伝効果として,フィルムを抜き取った後は,再利用されると認識しており,上記注意書をもって再譲渡を禁じられたとまではいえない。
アメリカ合衆国の連邦巡回区控訴裁判所は,米国内で販売された被控訴人製品の使用済みのものを回収し,米国外で新しいフィルムとフィルム容器を挿入し,フィルムカウンタをリセットし,ケースを再度シールして米国内に輸入された事案につき,これらの行為は,許される修理であると認定した。本件においても参照されるべきである。
(c) 権利濫用 今日,循環型経済社会の構築が急務となっており,平成12年の循環型社会形成推進基本法が制定され,資源有効利用促進法,廃棄物処理法の改正が行われた。経済産業省の産業構造審議会廃棄物処理・再資源化部会は,平成2年12月に「産業構造審議会ガイドライン」を作成し,その後改訂を重ねて,リサイクル推進の指針を提供している。平成13年7月12日には,上記産業構造審議会の廃棄物・リサイクル小委員会において,品目別廃棄物処理・リサイクルガイドラインの改定が行われ,レンズ付きフィルムも対象品目に追加された。
被控訴人は,独自のリサイクルシステムを稼働しているとしながら,実態としては,販売店からの回収を怠り,いわゆるリサイクル率は70%程度であるという。
しかし,回収率は,これよりも相当低いのではないかと思われる。また,リユース(回収した製品の再利用)は更に減少していると考えられる。
控訴人らが消費者によって現像所に持ち込まれた被控訴人製品を修理した上で販売している行為は,資源の再利用及び廃棄物の減少化という観点から社会的に評価されるものである。
被控訴人は,自らはリユースの努力を怠りながら,控訴人らによる製品のリユース実施に対して特許権等の権利の行使を主張することは,権利の濫用として許されない。
3 当審における被控訴人の主張の要点 (1) 原判決の認定判断に関する控訴人らの主張に対して (a) 原判決の認定判断の誤りに対して 原判決の認定判断に何ら誤りはない。
控訴人らの主張は,優先権主張を伴う特許出願に係る発明は,特許請求の範囲の中の1つの項の中に,構成要件として先願発明を含み,かつ,先願発明に新規事項が加えられた包括的な発明であって,構成要件の一部についてのみ優先権を主張することができる,との誤解に基づくものである。
本件発明における第3実施例が本件特許出願の段階で新たに加えられた記載であることについては,被控訴人も争うものではない。しかし,本件発明には,第3実施例によってのみ支持される発明,すなわち,発明の詳細な説明における第3実施例に係る発明の構成に欠くことができない事項のみからなる構成を採用することによって初めて達成されるような構成は存在しない。
仮に,本件発明が,優先出願Bの当初明細書等に記載された発明に新規の技術を加入した改良発明や追加的発明であって,優先出願Bの当初明細書等に記載されていない技術を構成要件とする発明であるのに,優先出願Bの当初明細書等に基づいて優先権を主張できるとすれば,優先権制度の趣旨に反する。しかし,本件特許出願は,外国出願をする上で,複数の出願を1つにまとめる必要性が存在したために,国内優先権主張制度を利用したものであって,本件発明(請求項1に係る発明)は,優先権主張に係る優先出願Bの当初明細書等に全て記載されているのであって,いわゆる「改良発明」でも「追加的発明」でもない。原判決も,本件発明が優先出願Bの当初明細書等に全て記載されていることを認定したからこそ,優先権主張を認めたのであり,一般的に「改良発明」や「追加的発明」の場合にまで,優先権主張が認められると判示したわけではない。控訴人らの主張は,本件発明が優先出願Bに係る発明の改良発明としての第3実施例に支持される発明である,という誤解に基づくものである。
実施例が加えられたとしても,優先権主張を伴う特許出願に係る発明は,必ずしも「同実施例に支持された包括的な発明」となるとは限らない。実施例を加えても,優先権主張を伴う特許出願に係る発明が,同実施例のみに支持された発明でない限り,優先権主張の可否に影響を及ぼさないとしても,何ら先願主義に反するものではない。
(b) 原判決の判断遺脱に対して 本件発明が第3実施例によってのみ支持される発明であれば,それが優先出願Bの当初明細書等に記載されているか否かは,必ず判断されなければならない。しかし,既に主張したところによれば,本件発明はそのようなものではないのであるから,控訴人ら主張の点を被控訴人が主張せず,原判決が判断しなかったとしても何ら違法ではない。
(2) 控訴人らの当審における新たな主張に対して (a) 実質的不侵害の主張に対して 控訴人らは,「消尽」との単語を使用しているものの,権利消滅後の本件実用新案権を実施しているにすぎないという原審における控訴人らの主張と同義である。
本件特許権が有効である以上,控訴人らの主張は失当である。
(b) 控訴人らの消尽及び権利濫用の主張に対して 控訴人らの消尽及び権利濫用の主張は,故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御方法であり,却下することを求める。
本件控訴審の第1回口頭弁論期日において,控訴理由書に記載されている上記2(2)(a)における「消尽」の主張について,裁判所から釈明があり,控訴人らは,この「消尽」とは,1つの権利が消えると実質的に同じ権利範囲の他の権利も消えるというような意味であって,上記2(2)(b)に記載されたいわゆる「消尽」の意味とは異なることが確認された。その上で,裁判所は,次回期日を指定し,当該期日において,結審予定であるとされた。その後,次回期日は,控訴人ら代理人の都合で延期された。しかし,控訴人らは,延期後の結審予定の第2回口頭弁論期日直前になって,上記2(2)(b)(c)の消尽及び権利濫用の主張を記載した第3準備書面を提出した。
そもそも,本件訴訟は,控訴人らが原告となって提起した訴訟であり,上記の時期になって上記主張をする新たな事情が生じたわけではない。本件審理過程において,いつでも主張立証することが可能であったのであり,上記時期における抗弁の主張に合理的理由は存在しない。そして,控訴人らのこれらの主張は,これまでの主張立証と全く重複しない新たな争点であり,主張立証に更なる時間を要するものであり,訴訟の完結を遅延させることとなるものであることは明白である。主張の内容及び提出経過にかんがみても,審理終結を引き伸ばすために急遽された主張であるというべきである。
当裁判所の判断
当裁判所も,控訴人らの本訴請求はいずれも理由がないから,これらを棄却すべきものと判断する。その理由は,以下のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」(ただし,22頁4行から23頁6行まで,及び28頁14行から25行までの各部分を除く。)のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決の認定判断の誤りをいう主張について (1) 本件においては,原告製品が本件発明の技術的範囲に属し,形式的には,原告製品が本件特許権を侵害しているとの限度では,控訴人ら自身が認めるところであり,争いがない。
そこで,本件発明を含む本件特許出願日が平成62年8月14日,本件考案の実用新案登録出願日が平成62年1月19日であることから,被控訴人が,平成5年法律第26号による改正前の特許法42条の2に基づき,本件発明(甲1の特許請求の範囲第1項に記載された発明)について,優先出願Bを「先の出願」として優先権を主張し,本件発明(のうち,いわば全体)が「先の出願(優先出願B)の願書に最初に添付した明細書又は図面(乙3)に記載された発明」として,優先権主張の効果を有し,本件発明の出願が「先の出願」(優先出願B)の時である昭和61年10月17日にされたものとみなされるか否かが,本件発明についての特許の有効性に関する争点となる。
そこで,被控訴人が主張する優先権主張の効果が認められるか否かを判断するには,本件発明の要旨を認定した上で,これと優先出願Bの願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明との関係を検討する必要がある。
(2) 本件発明の要旨認定 (2-1) 発明の要旨認定は,特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであり,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎないものというべきである(最高裁平成3年3月8日第一小法廷判決・民集45巻3号123頁)。
そこで,本件発明についての特許請求の範囲第1項の記載をみるに,次のとおりである(甲1。なお,括弧内のアルファベットは,原判決において構成要件を分説する際に付された符号である。)。
「(A)予め未露光フイルムを内蔵し,このフイルムに対してシャッタ手段を操作することにより,露光付与機構を通して露光を付与するようにし,(B)撮影後にフイルムを取り出したのちは再使用できないようにされたレンズ付きフイルムユニットにおいて,(C)前記ユニット内のフイルム露光枠の一方側に未露光フイルムロールが配置され,フイルム露光枠の反対側に回転可能な巻芯を内部に有するパトローネが配置されており,(D)未露光フイルムの一端と巻芯が予め固定されていること,(E)前記パトローネ内に回転可能に支承された巻芯には,ユニットのフイルム巻取り操作手段を連結させ,(F)前記シャッタ手段が操作された後に,前記未露光フイルムをパトローネ内に巻き込み可能としていること,(G)前記未露光フイルムロールは,該ユニットの製造工程で前記パトローネ内に収納された状態から引き出されて形成されており,(H)該フイルムロールの中心部が中空状態で,未露光フイルムロール収納部に装填されている(I)ことを特徴とするレンズ付きフイルムユニット」 上記の特許請求の範囲の記載を検討すると,その記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情は見当たらない。
(2-2) 控訴人らは,前記のとおり,本件の第3実施例に支持された発明は,優先出願B明細書には記載されていないから,第3実施例に支持された発明については,本件発明に優先出願Bによる優先権の効果はない,と主張する。また,控訴人らは,本件発明の構成要件Fの技術的意義は,「シャッタ手段が操作されたことにより巻上げノブのロックが解除され,同ノブの回動操作が許容されるようになる」ことをいうものと解釈すべきであって(この実施部分は,本件特許明細書の第18欄2〜9行(第3実施例部分)に記載されている。),構成要件Fは,優先出願B明細書には記載されていない,と主張する。
これらの主張は,そもそも,本件発明の要旨認定の問題に係わるものであり,したがって,本件発明の要旨認定において第3実施例はどのような意味をもつのか,また,構成要件Fはどのように解釈されるべきかが検討されなければならない。なお,控訴人らの主張する構成要件Fの解釈は,第3実施例の記載中に根拠を有するものであることから,上記2つの問題は,密接に関連している。
(a) 本件発明の構成要件Fは,上記のとおり,「前記シャッタ手段が操作された後に,前記未露光フイルムをパトローネ内に巻き込み可能としていること」というものである。そして,本件発明におけるフイルムの巻込みないし巻取りについては,このほかに,構成要件Eとして,「前記パトローネ内に回転可能に支承された巻芯には,ユニットのフイルム巻取り操作手段を連結させ」ということが記載されている。
検討するに,これらの記載が意味するところは,一義的に明確であって,その技術的意義が本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を参照しなければ理解することができないとか,一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情は見当たらない。
したがって,本件発明におけるフイルムの巻込み,巻取りないし巻上げについては,上記構成要件E及びFに記載された程度の特定によって構成されているのであって,それ以上に,具体的にどのような構成の装置により,どのようなメカニズムでフィルムを的確に巻き込み,巻き取りないし巻き上げるかなどという手段等に関する構成については,特段の限定はないものと解すべきである(後記(b)の周知技術の点も参照。なお,上記構成であることによって発明が未完成であるとは認められない。)。
換言すれば,本件特許明細書の発明の詳細な説明欄における第3実施例の記載によって,構成要件Fを控訴人らが主張するように解釈したり,本件発明の要旨を第3実施例記載のものによって認定することは,要旨認定の在り方として相当でないというべきである。
(b) 本件特許明細書の発明の詳細な説明欄における第3実施例がどのような機能,効果を発揮するものであるかを含め,第3実施例の位置付けをみておく。
第3実施例の特徴としては,フィルムの巻込み,巻取りないし巻上げ手段等に関する詳細な構成とそのメカニズムが記載されている点がある。しかしながら,乙6ないし15(枝番号を含む)によれば,優先出願Bの出願日以前から,フィルムの巻込み,巻取りないし巻上げ手段等に関する構成については種々の周知技術が存在し,第3実施例によって示された機能や効果は,上記証拠によって認められる周知技術によって達成される機能,効果と比べて格別のものであるとは認められない。
本件発明は,当然に上記のような周知技術を踏まえているものと解され,その上で,構成要件Fは,上記のように「…フイルムをパトローネ内に巻き込み可能としている」とのみ記載し,具体的にどのような構成の装置により,どのようなメカニズムでフィルムを的確に巻き込み,巻き取りないし巻き上げるかなどという手段等に関する構成については,特段の限定はしなかったものと解するのが相当である。
そうすると,第3実施例は,上記のように認定される本件発明の要旨の範囲内で,フィルムの巻込み,巻取りないし巻上げ手段等に関して具体的な1態様を示したものにすぎないのであり,上記の要旨認定を変更すべきようなものではないというべきである(上記判示したところによれば,本件発明は,第1実施例により十分に裏付けられているものと認められ,仮に,第3実施例の記載がなくても,その裏付けに欠けるところはない。)。
(c) 念のため,本件発明についての課題,目的,効果に照らしてみても,上記のような本件発明の要旨認定は,相当であるというべきである。
本件特許明細書(甲1)には,次のように記載されている。
「〔発明が解決しようとする問題点〕パトローネは,未露光のフィルムを遮光状態で収納しているから,レンズ付きフィルムユニットの本体部に組み込む作業は容易に行うことができるが,レンズ付きフィルムユニットの使用後には,撮影済みのフィルムがパトローネから引き出された状態となっており,これを本体部から取り出す作業は暗室で行わなくてはならない。このような暗室作業は,大量の現像処理を考慮したときには非常に煩わしいものになる。また,パトローネから引き出された状態の露光済みフィルムを再びパトローネ内に巻き戻すようにすれば,明室でのフィルム取り出し作業が可能になるが,レンズ付きフィルムユニットにフィルム巻き戻し機構を設けなくてはならず,コストアップを招くことになる。さらに,現像所では回収されたレンズ付きフィルムユニットの全てについて巻き戻し作業が必要になり,明室での作業が可能になるとはいえ,作業効率の点からはあまり好ましいものではない。本発明は,以上のような背景に鑑みてなされたもので,レンズ付きフィルムユニットのコストアップを招くことなく,その本体部から明室で簡単に撮影済みフィルムを取り出すことができるようにしたレンズ付きフィルムユニット,及びその製造方法を提供することを目的とする。」 「〔発明の効果〕本発明のレンズ付きフィルムユニットによれば,撮影用開口の一方の側にフィルムロールを収容し,さらに前記開口の他方の側にはフィルムロールの一端が固定された巻芯を有する遮光性のフィルム容器が配設されている。そして,撮影のたびごとにフィルムはフィルム容器に収納されてゆくから,撮影が済み現像所の回収されたレンズ付きフィルムユニットを明室で分解しても,撮影済みのフィルムを不用意に外光に曝してしまうというような事故は確実に防止され,現像処理作業を複雑化させずに済むようになる。また,本件レンズ付きフィルムユニットは,ユニットの製造過程においてパトローネから未露光のフィルムを引き出して,巻取り軸なしで丸めた状態,又は巻取り軸に巻き付けた状態で未露光フィルムロール収納部に収納しているから,未露光フィルムをパトローネから引き出すための機構をユニット本体に設備することが不要となり,レンズ付きフィルムユニットのコストを大幅に安くし,かつ,体裁も良くすることができる。また,撮影者は,通常のカメラ操作と同じように,撮影後に巻上げノブを回すだけでよいから操作が簡単で,誤操作を招くことがない。すなわち,プレワインドカメラのように,撮影前に未露光フィルムの引出し操作を行うようにした場合に,不慣れな撮影者がこれをせずに巻上げノブをまわすと,フィルムリーダーがパトローネ内に巻き込まれてしまうことになる。このような場合に,レンズ付きフィルムユニットは,カメラのように背蓋を開いてフィルム装填を行うことができないため,1度も撮影を行わないのに,レンズ付きフィルムユニットが撮影不能となってしまうが,本発明では製造工程でパトローネから未露光フィルムを引き出しているから,このような致命的な問題が発生しない。…」 以上の記載によれば,本件発明の課題解決の核心は,レンズ付きフィルムユニットにおいて,製造段階でパトローネから未露光のフィルムをあらかじめ引き出して,中空のフィルムロールとし,これを本体に装填するという点にあるものと認められる。そして,上記のように,第3実施例に記載されたフィルムの巻込み,巻取りないし巻上げ手段等に関する点は,本件特許明細書の課題とされてはおらず,本件発明の効果についての記載にも,第3実施例の上記手段等によるものは,反映されていない。
(3) 本件発明と優先出願Bの願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明との関係 上記(2)の本件発明の要旨認定を踏まえて,優先出願Bの願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明との関係を検討する。
(a) この点については,前記引用に係る原判決の判示部分(原判決の23頁7行から28頁13行までの部分)のとおりである。
結局,本件発明の技術的事項は,全て優先出願Bの願書に最初に添付した明細書又は図面に記載されている。前記平成5年改正前の特許法42条の2第2項の記載に即していうならば,「本件発明のうち,『優先権の主張の基礎とされた先の出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明』」とは,本件発明(の全体)そのものであるということになる(証拠〔甲1,6,7,乙3〕及び弁論の全趣旨によれば,本件特許出願は,外国出願をするために,既に出願されていた1つの実用新案登録出願及び3つの特許出願を優先権主張の基礎として,9個の請求項を有する1つの特許出願にまとめたものであることが認められるのであり,本件発明が,優先出願に係る発明の範囲内であり,改良や追加された発明を含まないとしても,不自然ではない。また,上記特許法42条の2が,このような形態の国内優先制度の利用を否定するものとも解されない。)。
(b) 控訴人らは,前記のとおり,本件特許明細書に記載された第3実施例に支持された発明が優先出願B明細書には記載されていないこと,及び,本件発明の構成要件Fは,優先出願B明細書には記載されていないことを主張する。
第3実施例の点については,既に要旨認定に関して判示したことに加え,優先出願B明細書の記載も前判示の周知技術を踏まえた上でなされていることは明らかであることなどに照らせば,第3実施例の記載をもって,本件発明が優先出願B明細書に記載された発明の範囲を超えているとはいえない。
構成要件Fの点については,既に要旨認定に関して判示したところに加え,上記原判決の引用部分に照らせば,控訴人らの主張が採用し得ないことは,明らかである。
(4) 以上によれば,本件発明は,「優先出願Bの願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明」であるといえるので(換言すれば,「本件発明のうち,『優先権の主張の基礎とされた優先出願Bの願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明』」とは,本件発明(の全体)そのものであるといえるので),平成5年改正前の特許法42条の2第2項に基づき,優先出願Bの出願時である昭和61年10月17日に出願されたものとみなされるのであるから,本件考案の実用新案登録出願が存在したからといって,本件特許が特許法39条3項に違反し,無効であることにはならない。
なお,控訴人らの特許法39条3項違反による無効の主張は,上記のとおり,本件発明と本件考案とが実質的に同一であるとの主張を前提にしているのであるが,控訴人らは,両者が実質的に同一である理由として,本件発明の第3実施例と本件実用新案公報(甲3)に記載された実施例が同一であることを挙げている(本件特許出願及び本件実用新案登録出願はいずれも被控訴人の出願に係るものである。)ところ,仮に,両者の実施例に同一のものがあるとしても,本件発明の特許請求の範囲の記載と本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載とを対比すると,実質的に異なる構成があることが認められるから,本件発明と本件考案とが実質的に同一であるとの控訴人らの主張は理由がなく,この点からも控訴人らの特許法39条3項違反による無効の主張は,採用することができない。
2 原判決の判断遺脱をいう主張について 前判示のとおり,本件において,第3実施例の記載があるからといって,本件発明の要旨となる技術的事項が優先出願B明細書に記載された技術的事項の範囲を超えるものではないのであるから,控訴人らが判断遺脱として主張する点は,判断するまでもない。よって,原判決に判断遺脱の違法はない。
3 当審における控訴人らの新たな主張のうち,実質的不侵害の主張について 控訴人らは,前記第2,2(2)(a)のとおり主張するが,理解し難い主張である。
当審第1回口頭弁論期日において,当裁判所が釈明したところ,本件考案と第3実施例に支持された発明が同一であることを前提に,「本件考案が期限切れで消滅したことによる制約を受けて本件特許権も消滅したことになると解すべきである。」という趣旨の主張がされた(第3回口頭弁論調書参照。なお,控訴人らは,この主張について,理論的根拠を補充するということであったので,当裁判所は,期日を続行したが,補充の主張は遂にされず,控訴人らは,後記のとおり,全く別の新たな主張をするに至ったものである。)。
控訴人らの主張の趣旨を推し量りつつ検討しても,前記のとおり,本件特許に控訴人ら主張の無効事由はないのであるから(控訴人らも,本件特許が有効であると仮定して,上記主張をしている。),本件考案が期限切れで消滅したからといって,本件特許が無効となる理由は見いだせない。控訴人らの上記主張は,採用することができない。
4 当審における控訴人らの新たな主張のうち,「消尽」及び「権利濫用」の主張について 被控訴人は,時機に後れた攻撃防御方法として却下を求めるので,この点について判断する。
(1) 本件記録によって認められる本件訴訟の経緯は,次のとおりである。
原審においては,原判決記載の争点(1),(2)の点,すなわち,本件特許の無効(有効性)が争われた。
当審第1回口頭弁論期日(平成16年6月16日)において,控訴人らが陳述した控訴理由書に前記第2,2(2)(a)のような主張があり,その中で“消尽”との言葉が使用されていたので,当裁判所は,どのような主張かと釈明した。これに対し,控訴人らは,「2つの意味があり,本件考案が期限切れで消滅したこと,もう1つは,本件考案が消滅したことによる制約を受けて本件特許権も消滅したことになると解釈することができる。」と陳述し,さらなる釈明に対し,控訴人らは,「いわゆる「消尽論」を主張するものではない。」との回答をした。当裁判所は,控訴人らが上記2つの意味があるとした主張の理論的根拠を補充するということであったので,期日を続行し,第2回口頭弁論期日を結審予定期日とした。
その後,第2回口頭弁論期日は,控訴人ら代理人の都合で変更され,同年10月18日と指定された。控訴人らは,第3準備書面として,前記第2,2(2)(b)(c)のような「消尽」と「権利濫用」という新たな主張を記載し,同年10月13日午後5時40分に裁判所に対してファクシミリ送信し,翌14日に同準備書面(クリーンコピーによる差換え用)を提出した。
同年11月29日の第3回口頭弁論期日(この期日において結局のところ弁論は終結した。)において,当裁判所の再確認に対し,控訴人らは,上記の経緯を認めた上で,特許権に係る製品が譲渡されたことによって特許権の効力が消えるというような意味の「消尽」については,上記第3準備書面で初めて主張したものであることを認める陳述がされた。
(2) 上記事実関係に照らせば,控訴人らは,上記第3準備書面で主張したような「消尽」の主張については,当審第1回口頭弁論期日において,当裁判所の釈明に対して,「そのような主張をするものではない」旨を陳述したにもかかわらず,その約4か月後で,結審予定期日の4日前に至って,突如として,上記釈明への回答を翻して,第3準備書面において主張をしたものである。
控訴人らは,本訴の原告らであり,適切な準備の下に訴えを提起すべきものであるところ,本訴提起前における被控訴人からの警告に対する控訴人らの回答の通知書において,既に「消尽」の主張をしている上(乙16),「消尽」に関しては,前記のように控訴人らが引用している最高裁判例も存在し,本件と同種事案に関する下級審裁判例も存在し,公刊物やインターネットの最高裁ホームページにおいて公表されていることをも考慮すれば,控訴人らとしては,本訴の当初から「消尽」の主張をすることは極めて容易であったものと認められる。訴訟方針として前記の争点に絞ったことは想像に難くないとしても,当審第1回口頭弁論期日において「消尽」の主張をすることが可能で,かつ,容易であったことに変わりはない。
また,「権利濫用」の主張も,民法の一般条項に関する主張である上,控訴人らが引用する前掲東京地裁平成12年8月31日判決でも同旨の主張がされたという前例もあるのであって,少なくとも,原判決に対する控訴理由書において主張することは容易であったものというべきである。
上記事情に照らせば,上記各主張は,時機に後れた攻撃防御方法の提出であり,かつ,そのことにつき,控訴人らに少なくとも重大な過失があるものと認められる。
(3) 特許権についての「消尽」があり得ること及びその根拠については,最高裁平成9年7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号2299頁が判示するところであり,具体的にどのような場合に,消尽したとされて特許権の効力を及ぼし得ないことになるのかについては,様々な考え方があるが,これまで,東京地裁平成8年(ワ)第16782号事件・平成12年8月31日判決(最高裁ホームページ),東京地裁平成11年(ヨ)第22179号事件・平成12年6月6日決定(判例時報1712号175頁),東京高裁平成13年(ネ)第959号事件・平成13年11月29日判決(判例時報1779号89頁)などにおいて,判断が示されてきたところである。
本件において,控訴人らが上記「消尽」の主張をすることが許容されるとした場合には,これまで様々な理論構成の見解が公表されていることに照らせば,まずは,両当事者において,本件レンズ付きフィルムユニットに関する特許権の消尽論に関する主張を尽くす必要がある。現に,被控訴人は,平成16年11月26日付けの準備書面(2)(同月29日の第3回口頭弁論期日で陳述された。)において,仮に控訴人らの上記主張が却下されない場合には,まず,本質論を踏まえた主張をする必要性があることを述べており,控訴人ら自身も,第4準備書面において,十分な反論の機会が必要であると述べているところである。
さらに,立証としては,上記当事者の主張がどのように構成されるかにもよるが,上記東京高裁判決に示された判断方法によれば,被控訴人製品であるレンズ付きフィルムユニットが消費者に販売され,消費者によって写真撮影がされた後,現像所に持ち込まれて上記ユニットからフィルムが取り出された後の物に対し,控訴人らが加えた行為について,被控訴人の本件特許の実施品としての上記レンズ付きフィルムユニットの修理行為等の範囲にとどまるものか,本件発明の実施としての新たな生産行為と評価されるべきかが問われることになる。そうすると,厳密な立証責任の分配がどうなるかはともかく,いずれにしても,被控訴人製品であるレンズ付きフィルムユニットについて,その性質,利用形態,流通実態などについて立証する必要があり,また,控訴人らが被控訴人製品に加えた行為を具体的かつ詳細に立証する必要があり,さらに,控訴人らが手を加えた後の製品についてもその形状,性質,利用形態,流通実態等を吟味する必要がある。そして,本件発明の構成,作用効果,技術思想などに照らして,控訴人らの上記行為の有する意義を評価する必要がある(なお,上記東京地裁判決のような判断方法に立つとしても,上記レンズ付きフィルムユニットが効用を終えたか否かにつき,同製品の機能,構造,材質,用途,使用形態,取引の実情等の諸事情を総合考慮して判断されるので,これらの事情について立証する必要がある。)。現に,被控訴人は,準備書面(2)において,仮に控訴人らの上記主張が却下されない場合には,取引の実情を踏まえた具体的な立証を要することを述べており,控訴人ら自身も,第4準備書面において,さらに証拠提出の機会が必要であると述べているところである。なお,被控訴人は,前記東京地裁判決の事案の当事者であるが,被控訴人の準備書面(2)等によれば,上記事案とは,実情などにおいて,変化しているものと推測され,上記訴訟での主張立証をそのまま本件に提出することでは足りないものと認められる。
(4) 「権利濫用」に関する主張立証についても,上記(3)と同様のことがいえる。すなわち,「権利濫用」に関する控訴人らの主張によれば,本件においては,被控訴人による被控訴人製品のリサイクルシステムがどのような状況にあるか,控訴人らの本件行為がリサイクルの関係でどのような意味をもつものであるか,特許制度とリサイクル制度との間で控訴人らの行為はどのように位置付けられ評価されるか(上記「消尽論」における「修理か新たな生産か」というものと実質的に同様の争点となることが予想される。)などについて,主張を要するとともに,主張を裏付けるべく,具体的な事実関係についての立証を要するものというべきである。
(5) 前記の本件における審理の経緯に照らせば,「消尽」及び「権利濫用」に関して必要とされる上記の主張立証は,これらの主張が初めてされた段階までには,全くされておらず,新たに主張立証を開始する必要があることは,明らかである。
そうすると,控訴人らの上記「消尽」の主張及び「権利濫用」の主張を却下することなく許すとすれば,本件訴訟の完結を大幅に遅延させることは明白である。
(6) 以上によれば,控訴人らの上記「消尽」の主張及び「権利濫用」の主張は,故意又は重大な過失により,時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法であって,これにより訴訟の完結を遅延させることとなるものと認められるのであるから,民訴法157条1項により,これらを却下することとする。
5 結論 以上によれば,原判決は相当であり,本件控訴はいずれも理由がないので,これらを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 田中昌利
裁判官 佐藤達文
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