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関連審決 不服2001-10853
関連ワード 自然法則 /  技術的思想 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  周知技術 /  発明を特定する事項 /  参酌 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 540号 審決取消請求事件
原告A
同訴訟代理人弁理士 菅原正倫
被告 特許庁長官小川洋
同指定代理人 須原宏光
同 小林信雄
同 小曳満昭
同 涌井幸一
同 宮下正之
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2005/01/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2001-10853号事件について平成15年10月27日にした審決を取り消す。
事案の概要及び争いのない事実
本件は,後記本願発明の出願人である原告が,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたところ,特許庁が,審判請求不成立の審決をしたことから,原告が同審決の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯(甲1,2及び5) 原告は,平成11年8月13日に名称を「個性診断情報提供システム,携帯型個性診断情報提供システム及び記憶媒体」とする発明につき特許出願(平成11年特許願第229158号)をしたところ,平成13年5月22日付で拒絶査定がなされた。原告は,同年6月26日付で不服審判の請求をし,同請求は不服2001-10853号事件として特許庁に係属した。
特許庁は,同事件について審理したうえ,平成15年10月27日付で「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年11月6日,原告に送達された。
2 本件出願の請求項1に係る発明の要旨 平成12年12月18日付けの手続補正書によって補正された明細書(甲5,以下「本願明細書」という。)及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1の記載により特定される下記のとおりのものである(以下,この発明を「本願発明」という。)。
記 【請求項1】 個性診断内容の特定に必要な情報であって,生年月日を含む各診断対象者に固有の診断参照情報を設定する診断参照情報設定手段と, 得るべき個性診断結果が,予め定められた数の基本個性類型と,その基本個性類型をさらに細分化する副個性類型とを含む階層形式により複数の個性類型に分類されており,診断対象者の基本個性類型と副個性類型とを,いずれも前記生年月日の情報に基づいて決定する個性類型決定手段と, 個々の基本個性類型を印象づける複数の基本個性イメージキーワードから,決定された基本個性類型に対応するものを選択する基本個性イメージキーワード選択手段と, 決定された基本個性類型に対応する基本個性診断情報と,同じく決定された副個性類型に対応する副個性診断情報とを作成する個性診断情報作成手段と, 作成された基本個性診断情報と副個性診断情報とを,選択された基本個性イメージキーワードと互いに関連付けた形にて出力する個性診断情報出力手段と, を備え 前記個性類型決定手段は,同じ12種の基本個性類型を表す分類データの組B(I),B(M),B(Y)を個別に用意し,これをカレンダ情報の年,月,日の時系列的配列のそれぞれに同一配列順序にて当てはめるとともに,同一診断対象者の個性を互いに異なる観点から捉えたものとして把握される複数の個性因子として, 生年月日の「日」の情報に対応する分類データB(I)に基づいて,診断対象者の「本質」を表す個性因子を決定し, 生年月日の「月」の情報に対応する分類データB(M)に基づいて,診断対象者の「表面」を表す個性因子を決定し, さらに,生年月日の「年」の情報に対応する分類データB(Y)に基づいて,診断対象者の「意思」を表す個性因子を決定し, また,前記「本質」を表す基本個性類型についてのみ,これをさらに細分化する副個性類型が決定されることを特徴とする個性診断情報提供システム。
3 引用刊行物等 (1) 本件審決で引用された刊行物は次の2点であり,以下,本判決においても「引用例1」のように引用する。
引用例1 ビッグコミックスピリッツ編集部(編)「人間まるわかりの動物占い」(1999年6月1日初版発行 小学館)(甲9) 引用例2 伊藤泰苑「泰山全集 四柱推命学の要譯」(昭和45年10月20日発行 京都書院)(甲10) (2) 本件審決では,周知の技術手段を示すものとして以下の参照文献があげられており,以下,本判決においても「周知例1」のように引用する。
周知例1 特開平7-323146号公報(甲11) 周知例2 特開昭59-24362号公報(甲12) 4 本件審決の理由の要旨 本件審決の理由は次のとおりである。
(1)ア 引用例1には,動物占いについて,図面と共に次の事項が記載されている(以下,(a)ないし(e)の記載事項をそれぞれ「引用例記載事項(a)」のようにいう。)。
(a)「『動物占い』は、現在も進化中。この本でも81ページから紹介していますが、誰の中にも5種類の動物キャラクターが共存しています。「本質」「表面」「意思決定」「希望」「隠れキャラ」(くわしくは本文をご覧ください)の5種類。
一面的には計れない複雑な人間を占うには、あらゆる側面から見つめなければ判断できないという考えから出てきた分類です。
でも、研究すればするほど、新しい顔が出てきます。同じ動物キャラクターでも「おとなしいたぬき」と「貫禄のあるたぬき」、「陽気な子守熊(コアラ)」と「頑張り屋の子守熊(コアラ)」など、複数の種類がいるのです。「本質」だけでも、120通りにも分かれてしまいます。」(21頁2行〜12行) (b)「『動物占い』は、生年月日だけで占えますが、出てくる結果は一面的なものではありません。
「年」「月」「日」を十干十二支(じっかんじゅうにし)の「十干」と「十二支」によるさまざまな組み合わせで分類。そして、新たにオリジナルな組み合わせ方を加えて、コンピュータで綿密に割り出したところ、ひとりの人の中には、5種類のキャラクターが存在することがわかりました。」(82頁16行〜83頁6行) (c)「○4つの星と12のキャラクター 太陽、地球、満月、新月の性格形成に関わる影響が、わかっていただけたと思います。
(略) 食品の成分表示をジッと見つめている人がいたら、こじかの人だと思ってまず間違いありません。」(32頁1行〜79頁16行) (d)「84ページの図を見てもらえばわかるように、おおもとの「本質」のキャラクターをサポートする4つのキャラクターがいるのです。一般に<外づら>といわれるような「表面」のキャラクター、何か考えている時にサポートする「意思決定」のキャラクター、こういう人や姿になりたいと願ったり、空想したりする「希望」の姿を表すキャラクター。
そのほかに、ピンチの時や人生の転機に、思いがけずヒョッと顔を出し、普段からは想像できないような行動や考え方をさせる「隠れキャラ」がいます。」(83頁8行〜16行) (e)「このように、ひとりの人間の性格は、複数の要素が微妙にからみ合って形づくられているのです。」(87頁3行〜4行) (f)「かといって、基本の5種類をすべて知らなければ、性格がわからないということでは決してありません。その人の性格の大部分を占める「本質」をよ〜く知ることが、まず一番。
4つの星の影響と12の動物キャラクターの徹底分析を読んでみると、あなたやあなたのまわりの人たちに当てはまる特徴をたくさん見つけることができたはずです。
(略) この本では「本質」だけをとりあげていますが、ほかのキャラクターの性質を見てみると、自分にもあるな、と思える特徴が必ず見つかるはずです。」(87頁6行〜88頁1行) (g)「あなたの動物キャラは何?動物キャラ早見表&0歳から70歳までを網羅した濃縮版早見表 まずは、あなたやまわりの人のキャラを見つけてみて!早見表の見方は簡単。
(略) 3 表2より、その数字にある「動物」を見る。 →45は子守熊(コアラ)」(161頁1行〜172頁8行) イ 上記各記載から,引用例1には,以下の発明が記載されていると認められる。
「得るべき動物占いによる性格診断結果が、予め定められた数の基本の第1分類と、その基本の第1分類をさらに細分化する第2分類とを含む階層形式により複数の分類に類型化されており、動物占い対象者の基本の第1分類と第2分類とを、いずれも前記生年月日の情報に基づいて決定する分類決定ステップと、
個々の基本の第1分類を印象づける複数の動物キャラクター名称から、決定された基本の第1分類に対応するものを選択する動物キャラクター名称選択ステップと、
決定された分類に対応する性格診断コメント情報を検索する性格診断情報検索ステップと、
を備え、
前記分類決定ステップは、同一の対象者の性格を互いに異なる性格要素から捉えたものとして、「本質」、「表面」、「意思決定」を含む各性格要素についての基本の第1分類と第2分類とを決定し、「本質」の第1分類については、12種の基本の第1分類を表す動物キャラクターデータを用意し、これをカレンダ情報の年、
月、日の時系列的配列のそれぞれに当てはめて決定される 動物占いによる性格診断方法。」 (2) 本願発明と引用例1に記載された発明との一致点は次のとおりである。
(注:A1ないしA5の符号は,後記第3に摘示する原告の主張と対照する際の便宜のために本判決において付したものである。) 「(A1) 得るべき個性診断結果が,予め定められた数の基本個性類型と,その基本個性類型をさらに細分化する副個性類型とを含む階層形式により複数の個性類型に分類されており,診断対象者の基本個性類型と副個性類型とを,いずれも生年月日の情報に基づいて決定し, (A2) 個々の基本個性類型を印象づける複数の基本個性イメージキーワードから,決定された基本個性類型に対応するものを選択し, 決定された基本個性類型に対応する基本個性診断情報を作成し, (A3) 前記個性類型の決定は,「本質」の個性因子については,12種の基本個性類型を表す分類データを用意し,これをカレンダ情報の年,月,日の時系列的配列のそれぞれに当てはめるとともに,同一診断対象者の個性を互いに異なる観点から捉えたものとして把握される複数の個性因子として, 診断対象者の「本質」を表す個性因子を決定し, 診断対象者の「表面」を表す個性因子を決定し, 診断対象者の「意思」を表す個性因子を決定し, (A4) また,「本質」を表す基本個性類型については,これをさらに細分化する副個性類型が決定される, (A5) 個性診断手法。」 (3) 本願発明と引用例1に記載された発明との相違点は次のとおりである。
ア 相違点(1) 本願発明は,コンピュータ上等で実現する個性診断情報提供システムであり,診断参照情報設定手段,個性類型決定手段,基本個性イメージキーワード選択手段,個性診断情報作成手段,個性診断情報出力手段などを備えているのに対して,引用例1に記載された発明は,動物占いによる性格診断方法であり,上記の各具体的手段は備えていない点。
イ 相違点(2) 本願発明では,個性診断情報として,決定された基本個性類型に対応する基本個性診断情報と,同じく決定された副個性類型に対応する副個性診断情報とを有し,それらを個性診断情報作成手段で作成しているのに対して,引用例1に記載された発明では,決定された分類に対応する性格診断コメント情報を性格診断情報検索ステップにおいて検索しており,第2分類毎に異なる性格診断コメント情報を有するかどうかについては明らかでない点。
ウ 相違点(3) 本願発明では,同じ12種の基本個性類型を表す分類データの組B(I),B(M),B(Y)を個別に用意し,これをカレンダ情報の年,月,日の時系列的配列のそれぞれに同一配列順序にて当てはめるとともに,同一診断対象者の複数の個性因子として,生年月日の「日」の情報に対応する分類データB(I)に基づいて,診断対象者の「本質」を表す個性因子を決定し,生年月日の「月」の情報に対応する分類データB(M)に基づいて,診断対象者の「表面」を表す個性因子を決定し,さらに,生年月日の「年」の情報に対応する分類データB(Y)に基づいて,診断対象者の「意思」を表す個性因子を決定しているのに対して,引用例1に記載された発明では,「本質」の第1分類については,12種の基本の第1分類を表す動物キャラクターデータを用意し,これをカレンダ情報の年,月,日の時系列的配列のそれぞれに当てはめて決定されることが記載されているにとどまり,対象者の生年月日の情報からどのような計算により,「本質」,「表面」,「意思決定」の各性格要素についての基本の第1分類と第2分類が決定されるのか,については特に記載されていない点。
エ 相違点(4) 本願発明では,「本質」を表す基本個性類型についてのみ,これをさらに細分化する副個性類型が決定されるのに対して,引用例1に記載された発明では,同一の対象者の性格を「本質」,「表面」,「意思決定」を含む各性格要素について基本の第1分類と第2分類とを決定しており,「本質」についてのみ第2分類まで決定する構成ではない点。 (4) 相違点についての判断 ア 相違点(1)について 占い又は診断の対象者に固有の生年月日情報等を入力手段から入力し,データの検索,演算により占い・診断処理を実行し,占い・診断結果を出力手段から出力する電子計算機を用いた各種占い・診断システムは周知の技術手段であり(周知例1及び2参照),この周知の技術手段を引用例1に記載された発明の動物占いによる性格診断方法を実行するように適用し,本願発明のように,生年月日を含む各診断対象者に固有の情報を設定する手段,個性類型決定手段,基本個性イメージキーワード選択手段,個性診断情報作成手段,作成された個性診断情報を選択された基本個性イメージキーワードと互いに関連付けた形にて出力する個性診断情報出力手段,などを備えた動物占いによる個性診断情報提供システムとすることは,当業者であれば容易に推考できたものである。
よって,上記相違点(1)は格別のものではない。
イ 相違点(2)について 引用例2に記載された発明において,対象者の性格診断結果を分類する十干と十二支は階層形式の分類であるが,引用例2に記載された発明のように,性格診断結果を分類する階層形式の分類のそれぞれに対応させたコメントを備えた性格診断方法は周知である。そして,この周知の方法に基づき,引用例1に記載された発明の性格診断コメント情報を,第1分類それぞれに対応したものと,第2分類それぞれに対応したものとして検索できるように備えることは当業者であれば容易に推考できたものである。
よって,上記相違点(2)は格別のものではない。
ウ 相違点(3)について 引用例1に記載された発明では,同一の対象者の性格を「本質」,「表面」,「意思決定」を含む各性格要素について,対象者の生年月日情報に基づき基本の第1分類を決定しているが,生年月日情報中のどのデータを使用して各性格要素に対応する第1分類を決定しているか特に記載されていない。一方,生年月日情報中のどのデータを使用して,どのような計算処理を行って各性格要素に対応する第1分類を決定するかは,当業者が各自の経験,考えに基づいて人為的に取り決める事項であり,自然法則に従った技術的な根拠に基づき決定される事項ではない。してみると,本願発明のように,同一診断対象者の複数の個性因子として,生年月日の「日」の情報に対応する分類データB(I)に基づいて,診断対象者の「本質」を表す個性因子を決定し,生年月日の「月」の情報に対応する分類データB(M)に基づいて,診断対象者の「表面」を表す個性因子を決定し,さらに,生年月日の「年」の情報に対応する分類データB(Y)に基づいて,診断対象者の「意思」を表す個性因子を決定することは,生年月日の情報中のデータと「本質」,「表面」,「意思」の対応関係が明確になっているものの,結局は,「本質」,「表面」,「意思」それぞれの基本個性類型の決定を人為的な取り決めに基づいて行っていることにほかならない。したがって,引用例1に記載された発明の生年月日の情報中のデータと「本質」,「表面」,「意思」の対応関係について必要に応じた取り決めを適宜行うことにより,本願発明のように「本質」,「表面」,「意思」を表す個性因子を決定することは,当業者であれば容易に推考できたものである。
そして,その際,同じ12種の基本個性類型を表す分類データの組を個別に用意し,これをカレンダ情報の年,月,日の時系列的配列のそれぞれに同一配列順序にて当てはめるようにすることも当業者であれば適宜なし得た程度のものである。
よって,上記相違点(3)は格別のものではない。
エ 相違点(4)について 引用例1に記載された発明では,「本質」,「表面」,「意思決定」の各性格要素について扱いを異ならせずに基本の第1分類と第2分類とを決定しているが,動物占いによる性格診断において,「本質」,「表面」,「意思決定」を表す基本個性類型のうちどの基本個性類型についてさらに細分化する副個性類型を決定するかは,必要に応じて適宜実行される程度の事項であるから,引用例1に記載された発明に基づいて,本願発明のように「本質」を表す第1分類についてのみ,これをさらに細分化する第2分類が決定されるようにすることは当業者であれば容易に推考できたものである。
よって,上記相違点(4)は格別のものではない。
オ そして,本願発明の作用効果も,引用例1,2に記載された発明及び周知の技術手段の効果から当業者が予測できる範囲内のものである。
(5) したがって,本願発明は,引用例1,2に記載された発明及び周知の技術手段に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
原告主張の取消事由
本件審決は,一致点についての認定を誤るとともに(取消事由1,2),相違点についての判断を誤ったものであり(取消事由3ないし6),その誤りが本件審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,本件審決は違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点のうち要件A1についての認定の誤り) 本件審決の一致点の認定(前記第2の4(2))のうち,A1の部分を一致点としたことは,以下のとおり誤りである。
(1) 引用例1の開示内容に従って生年月日により決定できるのは基本個性類型(12分類)だけであり,細分化された副個性類型に関しては,数例の類型呼称(「おとなしいたぬき」,「貫禄のあるたぬき」等)が開示されているに過ぎない(引用例記載事項(a))。類型呼称はあくまで決定の結果(そうでなければ単なる願望)であって,類型をどのように決定するかの具体的な開示がない以上,「副個性類型を決定する」方法が引用例1に開示されていると認定することは明らかに失当である。
(2) 引用例1には,副個性類型を基本個性類型と同じ生年月日を用いて決定する具体的な方法が開示されていないので,副個性類型を伴なった,より体系化された診断結果の出力も不可能である。
2 取消事由2(一致点のうち要件A3についての認定の誤り) 本件審決の一致点の認定のうち,A3の部分を一致点としたことは,以下のとおり誤りである。
(1) 引用例1の開示内容に従って生年月日により決定できる個性因子は「本質」1種類だけであり,他の個性因子に関しては呼称(「表面」「意思」「希望」「かくれキャラ」)が開示されているに過ぎない。個性因子の呼称はあくまで決定の結果(そうでなければ単なる願望)であって,どのように決定するかの開示がない以上,「本質」以外の複数の個性因子を決定する方法が引用例1に開示されているとすることは明らかに失当である。
引用例記載事項(f)にあるとおり,引用例1に取り上げられているのは「本質」のみであり,同事項(b)の,「「年」「月」「日」を十干十二支の「十干」と「十二支」によるさまざまな組合せで分類。そして,オリジナルな組み合わせ方を加えて,コンピュータで綿密に割り出したところ,ひとりの人の中には,5種類のキャラクターが存在することがわかりました」との記載からして,「本質」以外の個性因子(「表面」及び「意思」)は,その「オリジナルな組み合わせ方」を加えなければ決定され得ないことが明らかである。しかし,引用例1においてはその「オリジナルな組み合わせ方」は秘匿されていて,具体的な決定方法については何ら開示されていない。
(2) 本件審決は,引用例1記載の発明に関して,引用例記載事項(b)からみて,動物占いによる性格診断は対象者の生年月日の情報に基づいて行われるものである,と認定しているが,第2分類が生年月日の情報に基づいて決定されるとの記載は,引用例1には一切見られない。したがって,この点でも,本件審決には引用例1の記載内容について明白な認定の誤りがある。
(3) また,本件審決では,基本個性類型を表す12分類データに,カレンダ情報の年,月,日の時系列的配列のそれぞれを当てはめて,年,月,日のそれぞれから,「意思」「表面」及び「本質」の3つの個性因子を独立に決定する方法が,あたかも引用例1に開示ないし示唆されているかのごとく結論付けている。しかし,引用例1には「本質」の基本個性類型の決定方法しか開示されておらず,引用例1は,本質以外の個性類型である「意思」及び「表面」を決定する具体的方法を開示するものではない。
引用例1には,「本質」以外の個性因子を決定する具体的方法を欠く。また,生日に個性類型の一定周期の配列を対応させるだけでは,個性因子の診断結果も規則性に縛られやすくなる。しかし,本願発明は,要件A3に係る構成を採用することにより,12分類データ(12動物名)の配列パターンを,生日の配列と対応させるだけでなく(本件出願の願書に添付された図面中の図5。以下同図面中の各図を「図5」のようにいう。),生年や生月と別途対応させたテーブル(図15)をも用意して,生年及び生月を生日とは独立した個性類型決定用のパラメータとして取り扱うことにより,3つの個性因子(本質,表面,意思)を互いに独立に決定することができるものである。
3 取消事由3(相違点(1)についての判断の誤り) 本件審決は,本願発明は診断参照情報設定手段,個性類型決定手段,基本個性イメージキーワード選択手段,個性診断情報作成手段,個性診断情報出力手段などを備えているのに対し,引用例1ではこれらをすべて備えていないという点(相違点(1))につき,本願発明の相違点(1)に係る構成は,引用例1に周知の技術手段(周知例1及び2)を適用すれば容易に推考できたものとしている。
しかしながら,これらの周知例は本願発明の上記各手段を備えるものではないから,これらを引用例1と組み合わせて判断することはできず,また仮にこれらと引用例1を組み合わせたところで本願発明を容易に推考できたとはいえない。
したがって,相違点(1)についての本件審決の判断は誤りである。
4 取消事由4(相違点(2)についての判断の誤り) (1) 引用例2はコンピュータを使用するものでは全くないから,この引用例2をもって本願発明を容易に推考できたとすることも根拠がない。
(2) 引用例2に開示されているのは,個性とは無関係な十干と十二支とのそれぞれに個別のコメントを持たせている構成に過ぎず,基本個性類型とそれを細分化する副個性類型との存在を示唆するものではない。他方,引用例1においては,副個性類型の決定結果が数例の類型呼称として開示されいるに過ぎず,該副個性類型の具体的決定方法について何らの示唆もない。したがって,引用例1の開示内容からは副個性類型を決定すること自体が不可能であるから,基本個性類型と副個性類型との関係についての開示を欠く引用例2の内容を組み合わせてみても,副個性類型に対応したコメントを検索することはできないし,まして基本個性類型とは別に副個性類型に対応したコメントを出力する,といったような処理を行なうこともできない。
(3) したがって,相違点(2)についての本件審決の判断は誤りである。
5 取消事由5(相違点(3)についての判断の誤り) (1) 本件審決は,生年月日情報中のどのデータを使用して,どのような計算処理を行って各性格要素に対応する第1分類を決定するかは,当業者が各自の経験,考えに基づいて人為的に取り決める事項であり,自然法則に従った技術的な根拠に基づき決定される事項ではないとして,本願発明の相違点(3)に係る構成を容易に推考が可能なものとしているが,どのような計算処理を行って各性格要素に対応する第1分類を決定するかは,人為的取り決めではなく,本願発明の有機的結合手段の結合で達成される重要な技術的思想の一部である。
(2) 本願発明の相違点(3)に係る構成のポイントは,基本個性類型をなす12分類データ(12動物名)の配列パターンを,図5のごとく生日の配列と対応させるだけでなく,図15のごとく,生年や生月と12分類データとを別途個別に対応させたテーブルをも用意し,生年及び生月を生日とは独立した個性類型決定用のパラメータとして,本質以外の2つの個性因子(表面,意思)を互いに独立に決定する点にある。この構成によると,3つの個性因子は,単純な規則性に縛られることなく予測困難な形で出現する。その結果,個性診断結果の意外性やバラエティーを大幅に増加させることができる。
これに対し,引用例1には,そもそも「本質」以外の複数の個性因子を決定する具体的な方法が何一つ開示されていない。引用例1では,巻末の早見表において生年月日を時系列的に直列に配置し,ここに12分類データをいわば周期的に当てはめたに過ぎないから,生年及び生月は生日に対して一種の従属変数となり,これを用いた個性因子の決定結果には,公約数的あるいは公倍数的な規則性を生ずることになる。その結果,この個性診断に慣れてしまった利用者には,診断結果に対するある程度の予測がついてしまうことになる。
本願発明の上記作用及び効果は,上記のように年,月及び日を独立変数として,個別に12分類データと対応させることにより,数学的に初めて実現可能となるものであり,人為的な取り決めには該当しない。また,引用例1に,年,月及び日を用いて複数の個性因子を決定する方法が開示されていない以上,12分類データを独立に年,月及び日の時系列的配列に当てはめる思想を当業者が想到できるはずもない。
(3) したがって,相違点(3)に関する本件審決の判断は誤りである。
6 取消事由6(相違点(4)についての判断の誤り) (1) 本件審決は,動物占いによる性格診断において,「本質」,「表面」,「意思決定」を表す基本個性類型のうちどの基本個性類型についてさらに細分化する副個性類型を決定するかは,必要に応じて適宜実行される程度の事項であると判断しているが,本願発明のように「本質」を表す第1分類についてのみ,これをさらに細分化する第2分類が決定されるようにすることは,重要な発明要素であり,これを当業者であれば容易に推考できたものであるとする具体的な根拠は,いずれの引用例にも存在しない。
(2) 引用例1に開示されているとおり(引用例記載事項(f)),被診断者の性格の大部分は「本質」によって占められているのだから,被診断者が最も興味を抱く「本質」についてのみ副個性類型の決定を行なうことで,被診断者の個性診断結果は大幅に具体性を増し,かつ,従属的な「表面」や「意思」については診断結果が簡略化されるから,診断の多面性と重要な部分での詳細性とを両立しつつ,情報量を効果的に削減できる。これに対し,引用例1には,「生年月日に基づいて副個性類型を決定する」方法は開示されておらず,また,「本質以外の2つの個性因子(表面,意思)を互いに独立に決定する」方法も開示されていないから,「本質」についてのみ副個性類型の決定を行なう相違点(4)の思想を当業者が想到できるはずもない。
(3) したがって,本件審決の相違点(4)についての判断は誤りである。
被告の反論の要点
原告の主張はいずれも理由がなく,本件審決の一致点の認定及び相違点についての判断は正当であり,原告の主張する違法事由は存在しない。
1 取消事由1(一致点のうち要件A1の認定の誤り)に対して 要件A1は,「副個性類型」を「生年月日」の情報に基づいて決定することしか規定しておらず,要件A1は,「生年月日」からどのようにして「副個性類型」を決定するかを規定するものではない。「副個性類型」を「生年月日」の情報に基づいて決定するという要件A1は,引用例1に開示されており,本件審決がこの点を一致点としたことに誤りはない。
すなわち,引用例1には,副個性類型をも有する「動物占い」について「生年月日だけで占えます」なる記載があるのであり(引用例記載事項(b)),「副個性類型」も当然に「生年月日」により決定されるものと理解される。
2 取消事由2(一致点のうち要件A3の認定の誤り)に対して (1)ア 原告の主張は,本件審決が「12種の基本個性類型を表す分類データを用意し,これをカレンダ情報の年,月,日の時系列的配列のそれぞれに当てはめて,「本質」「表面」及び「意思」を表す個性因子を決定する」という点を一致点と認定したことは誤りであるというものであるが,本件審決は上記の点の全体を一致点とはしていない。「12種の基本個性類型を表す分類データを用意し,これをカレンダ情報の年,月,日の時系列的配列のそれぞれに当てはめる」点については,本件審決は「本質」の個性因子についてのみ一致するとしているのであり,「本質」以外の個性因子についてまで,この点が一致するとはしていない。
イ 原告の主張を,本件審決の一致点の認定のうち,「診断対象者の「表面」を表す個性因子を決定し,」の点と「診断対象者の「意志」を表す個性因子を決定し,」の点を一致点とした点が誤りである旨の主張と善解しても,原告の主張は失当である。
引用例記載事項(a),(b),(d),(e)及び(f)から明らかなように,「表面」,「意志」の観点についても,個性因子を決定すること自体は引用例1に開示されている。
原告は,引用例1に「本質」以外の観点についての個性因子を決定する具体的方法が記載されていないことをもって,引用例1に「本質」以外の観点についての個性因子を決定することが開示されていないと主張するようであるが,「本質」以外の観点についての個性因子を決定する具体的方法が記載されていないことは,「本質」以外の観点についての個性因子を決定すること自体が開示されていないことを意味しない。
本件審決は,引用例1に「本質」以外の観点についての個性因子を決定する具体的方法が記載されていない点については,相違点(3)で採り上げている。
(2) 上記(1)のとおり,「本質」以外の複数の観点についても個性因子を決定すること自体は引用例1に記載されているところ,仮に,「本質」の個性因子が決まれば他の個性因子も決まってしまうのでは,他の個性因子を決定する意味が無いことは自明であるから,引用例1記載の発明において,「本質」以外の複数の観点についても個性因子を決定するということは,「本質」とそれ以外の観点の個性因子とは独立して決定される(独立した変数に各観点の個性因子(分類)が対応するようにされている。)ことを意味する。
3 取消事由3(相違点(1)についての判断の誤り)に対して (1) 本件審決は,引用例1記載の発明に周知例1及び2記載の発明を組み合わせることにより本願発明の相違点(1)に係る構成が容易に得られると判断しているわけではなく,これらの周知例に示される周知技術を当然に知った上で,引用例1に接した当業者には,相違点(1)の克服が容易であると判断しているものである。
(2) 相違点(1)に係る各手段は,引用例1記載の性格診断方法を相違点(2)〜(4)に係る構成のように改変して「電子計算機を用いたシステム」により実現しようとした場合に当然に必要になる手段であるから,周知例1及び2に示される周知技術(各種占い・診断を,電子計算機を用いたシステムにより実現する技術)を当然に知っている当業者にとって,相違点(1)の克服が容易であったことは明らかであり,相違点(1)についての本件審決の判断に誤りはない。
4 取消事由4(相違点(2)についての判断の誤り)に対して (1) 相違点(2)は,本願発明のシステムが実現している性格診断の「方法」と,引用例1記載の発明の性格診断の「方法」との「方法」上の相違点を抽出したものであり,引用例2がコンピュータを使用するものか否かは,相違点(2)の克服の容易性とは関係がなく,原告の主張は失当である。
(2) 引用例2は,性格診断結果を分類する階層形式の分類のそれぞれに対応させたコメントを備えた性格診断方法が周知であることを示すために引用したものである。そして,引用例2には,「日干」を決定するとともに,十二支を用いて十干を細分化することにより「干支」を決定することが明示されているので,引用例2が,基本個性類型とそれを細分化する副個性類型の存在を示唆するものであることは明らかである。
5 取消事由5(相違点(3)についての判断の誤り)に対して (1) 前記2(2)のとおり,3つの個性因子を互いに独立に決定する点は相違点ではない。
(2) 相違点(3)は,「本質」とそれ以外の個性因子とを独立して決定する際,どの個性因子を生年月日のどの変数に具体的に対応させるかが引用例1に記載されていない点を相違点として抽出したものであり,この点は,人為的取り決め以外の何ものでもなく,その克服が容易であることは明らかである。
6 取消事由6(相違点(4)の判断の誤り)に対して (1) 引用例1記載の発明において,「本質」以外のものについてまで細分類するか否かは,単に個性診断結果のバリエーションを増減させるだけのことであり,これを省略したからといって,引用例1記載の発明が意味をなさなくなることはない。このことは,引用例1記載の発明の内容から自明である。そして,引用例1記載の発明においても,「本質」が性格を知る上で重要な要素であり(引用例記載事項(f)),一方,重要でない構成を省略することはあらゆる分野でごく普通に行われていることなので,相違点(4)の克服が容易であったことは明らかであり,相違点(4)についての本件審決の判断に誤りはない。
(2) 前述したように,引用例1には,副個性類型を生年月日の情報に基づいて決定することが開示されている。
また,「本質」以外の複数の観点についても個性因子を決定すること自体は引用例1に記載されており,「本質」以外の複数の観点についても個性因子を決定するということは,「本質」とそれ以外の観点の個性因子とは独立して決定されることを意味するから,引用例1には,本質以外の2つの個性因子(表面,意志)を互いに独立に決定する方法が開示されているといえる。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点のうち要件A1についての認定の誤り)について (1) 原告は,「引用例1の開示内容に従って生年月日により決定できるのは基本個性類型だけであり,細分化された副個性類型に関しては,数例の類型呼称が開示されているに過ぎない。類型呼称はあくまで決定の結果であって,どのように決定するかの具体的な開示がない以上,「副個性類型を決定する」方法が引用例1に開示されていると認定することは明らかに失当である。」と主張する。
しかしながら,本件審決は,要件A1において,「診断対象者の基本個性類型と副個性類型とを,いずれも前記生年月日の情報に基づいて決定」するという限りで一致点を認定しているのであり,副個性類型を決定するための具体的な方法に関する構成までも一致点として認定したものではない。原告の上記主張は,本件審決を正解しないものであるといわざるを得ない。
そして,引用例1中の, 「『動物占 い』は,生年月日 だけで 占えます が,出てくる結果は一面的なものではありません。」(82頁16行〜83頁1行,下線部は本判決注) との記載に徴すれば,引用例1に記載された発明では,占いによる性格診断の結果は生年月日のみによって決まるのであるから,かかる性格診断の過程において参酌される第2分類(本願発明の「副個性類型」に相当する。)が,第1分類(本願発明の「基本個性類型」に相当する。)と同様に,生年月日の情報に基づいて決定されることは明らかである。
(2) また,原告は,引用例1には,副個性類型を基本個性類型と同じ生年月日を用いて決定する具体的な方法が開示されていないので,副個性類型を伴なった,より体系化された診断結果の出力も不可能であると主張する。
しかしながら,副個性類型を生年月日を用いて決定するための具体的な方法が,一致点として抽出された要件A1には含まれていないことは前示のとおりである。
(3) 以上のとおりであるから,要件A1を一致点とした本件審決の認定に誤りはなく,この点に関する原告の主張は,採用することができない。
2 取消事由2(一致点のうち要件A3についての認定の誤り)について (1) 原告は,「引用例1の開示内容に従って生年月日により決定できる個性因子は「本質」1種類だけであり,他の個性因子に関しては呼称が開示されているに過ぎない。個性因子の呼称はあくまで決定の結果であって,どのように決定するかの開示がない以上,「本質」以外の複数の個性因子を決定する方法が引用例1に開示されているとすることは明らかに失当である。」と主張する。
しかしながら,「本質」以外の観点である「表面」及び「意思」について,本件審決は,「同一診断対象者の個性を互いに異なる観点から捉えたものとして把握される複数の個性因子として,………診断対象者の「表面」を表す個性因子を決定し,診断対象者の「意思」を表す個性因子を決定し,」という限りにおいて一致点を認定しているのであって,具体的な決定方法まで一致点として認定しているわけではない。そして,「本質」以外の観点について,引用例1に具体的な個性因子の決定方法が記載されていないことは,相違点(3)として抽出している。
原告の上記主張は,本件審決を正解しないものであるといわざるを得ない。
(2) また,原告は,第2分類が生年月日の情報に基づいて決定されるとの記載は,引用例1には一切見られないと主張する。
しかしながら,引用例1に,第2分類(本件発明1の「副個性類型」に相当する。)も生年月日により決まることが開示されていることは,前記1(1)のとおりである。
(3)ア さらに,原告は,本願発明においては,要件A3の構成を採用し,12分類データの配列パターンを,生日の配列と対応させるだけでなく,生年や生月と別途させたテーブルをも用意して,生年及び生月を生日とは独立した個性類型決定用のパラメータとして取り扱うことにより,3つの個性因子を互いに独立に決定することができるのに対し,引用例1には,「本質」以外の個性因子を決定する具体的方法が開示されておらず,引用例1記載の発明においては,3つの個性因子を互いに独立に決定できるか否かが明らかではないとし,本件審決は,本願発明と引用例1記載の発明との間のかかる相違点を看過している旨を主張する。
イ しかしながら,引用例1には次の記載がある。
「『動物占い』は,現在も進化中。この本でも81ページから紹介していますが,誰の中にも5種類の動物キャラクターが共存しています。「本質」「表面」「意思決定」「希望」「隠れキャラ」(くわしくは本文をご覧ください)の5種類。一面的には測れない複雑な人間を占うには,あらゆる側面から見つめなければ判断できないという考えから出てきた分類です。でも,研究すればするほど,新しい顔が出てきます。同じ動物キャラクターでも「おとなしいたぬき」と「貫禄のあるたぬき」,「陽気な子守熊(コアラ)」と「頑張り屋の子守熊(コアラ)」など,複数の種類がいるのです。「本質」だけでも,120通りにも分かれてしまいます。5種類の基本キャラクターの日々の運勢やリズムやライフスタイルも占いに取り込むと,ざっと概算しただけでも72億通り(!)もの組み合わせになるのです。」(21頁2行〜15行) この記載によれば,具体的な決定方法がどのようなものであるかは別にして,引用例1に記載された発明においても,それぞれの観点について互いに独立に個性因子を決定していると解するのが相当である。
(4) 以上のとおりであるから,要件A3について一致点の認定の誤りをいう原告の主張も,採用することができない。
3 取消事由3(相違点(1)についての判断の誤り)について (1) 原告は,周知例1及び2記載の技術手段が,本願発明の相違点(1)に係る各手段を備えるものではないから,周知の技術手段を引用例1と組み合わせて判断することはできず,また仮にこれらと引用例1を組み合わせたところで本願発明を容易に推考することが可能であるとはいえないと主張するので,検討する。
(2) 周知例1には次の記載がある。
「前記課題を解決するために本発明にあっては,生年月日データを入力する入力手段と,複数の期間データとこれら各期間ごとに対応する星座の図形データとを記憶している図形データ記憶手段と,生年月日データに対応する占い結果データを記憶している占い結果データ記憶手段と,前記入力手段により入力された生年月日データが前記図形データ記憶手段に記憶されている複数の期間データのいずれに属するかを判別し,その判別の結果,属する期間に対応する星座の図形データを前記記憶手段から読み出すとともに,入力された生年月日データに対応する占い結果データを前記占い結果データ記憶手段から読み出す読出手段と,この読出手段により読み出された星座の図形データに基づく星座の図形を連続させて表示あるいは印刷するとともに,読み出された占い結果データに基づく占い結果を表示あるいは印刷する視覚処理手段とを有している。」(段落【0005】) また,周知例2には次の記載がある。
「運勢を占うべく予め設定された占い手順を記憶する手段と,運勢を占うための情報を入力するキー入力手段と,前記占い手順に従って演算を行なう演算手段と,前記演算結果を表示する表示器とを備えることを特徴とする占い装置。」(1頁左下欄5行〜11行) 「本発明は占い装置に関し,その主な目的とするところは,占う本人の生年月日,占いたい日の年月日,愛情または相性を占いたい人の生年月日,ならびに体調,金銭,学業および仕事,相性,外出運などの占う対象を入力することにより,占い学に基づいた複雑な計算を自動的に行なって,運勢を表示するようにした新規な占い装置を提供することを目的とする。」(1頁左下欄13行〜20行) これらの記載によれば,周知例1及び2には,占いの対象者の固有の生年月日情報等を入力手段から入力し,データの検索,演算により占い処理を実行し,占い結果を出力手段から出力する電子計算機を用いた占い装置についての発明が開示されているものと認められる。したがって,これらの周知例は,所望の占いを実行するシステムを構築するために必要な各種の手段を設けるという周知の技術を開示したものということができる。
そうすると,かかる周知の技術を参酌して,引用例1に記載された発明(動物占い)をシステムとして具現化するに際して,本願発明の相違点(1)に係る構成を推考することは,当業者にとって容易になし得ることであると認められる。
(3) したがって,相違点(1)についての本件審決の判断には誤りはなく,原告の主張は採用できない。
4 取消事由4(相違点(2)についての判断の誤り)について (1) 原告は,引用例2はコンピュータを使用するものでは全くないから,この引用例2をもって本願発明を容易に推考できたとすることも根拠がないと主張する。
しかしながら,前記第2の4(3)イのとおり,相違点(2)は,引用例1記載の発明が,第1分類と第2分類とがそれぞれに対応する別個の性格診断コメント情報を有するという意味での階層構造を有しているか否かが明らかでない点を,本願発明との相違点として抽出したものである。したがって,階層形式をとることが容易に推考し得たものであるか否かが相違点(2)についての判断の対象であり,コンピュータを使用するか否かということは全く無関係である。そして,本件審決は,引用例2を,性格診断結果を分類する階層形式の分類のそれぞれに対応させたコメントを備えた性格診断方法が周知であることを示すために引用しているのであり,これは,相違点(2)についての判断の手法として何ら不当なものではない。
(2)ア 原告は,引用例1の開示内容からは副個性類型を決定すること自体が不可能であるから,基本個性類型と副個性類型との関係についての開示を欠く引用例2の内容を組み合わせてみても,副個性類型に対応したコメントを検索することはできないし,まして基本個性類型とは別に副個性類型に対応したコメントを出力する,といったような処理を行なうこともできないと主張する。
イ しかしながら,まず,引用例1に,「動物占いは生年月日だけで占えます」との記載があることから,副個性類型も基本個性類型と同様に生年月日に基づいて決定されることが開示されているといえることは,前記1(1)のとおりである。
ウ また,引用例2には次の記載がある。
「四柱推命学においては「生年,生月,生日,生時」をもって構成いたしますが,その中で生れ日は「我」であり,我の代表が日干であります。すなわち「日干」は我の基本でありますから日干を見て,しかる後に周囲の情勢が我に対してどのような状態となっているかを鑑識致します。故に,日干特有の持味を一応記してみます。」(9頁8行〜12行) 「そこで十干は天と見立てて「気」であり,十二支は「質」であって地になぞらえて地支と申し,干の下に附して「干支」を組合せます。」(12頁4行〜5行) 「前記の生れ日天干は,我の性質の代表的な場所と致しましたが,「生日地支」は我の内部的の場所を見る意味がありますので,左に解説致します。」(12頁10〜11行) これらの記載によれば,生年月日に基づいて「日干」を決定するとともに,十二支を用いて十干を細分化することにより「干支」を決定することが明示されているということができる。したがって,引用例2は,基本個性類型とそれを細分化する副個性類型とからなる階層形式を有し,基本個性類型と副個性類型がいずれも生年月日に基づいて決定される,という本願発明の相違点(2)に係る構成を示唆するものであることが明らかである。
また,引用例2の9頁13行〜11頁8行には,十干に対応するコメントが記載され,また,同12頁13行〜14頁14行には,十二支に対応するコメントが記載されているのであるから,引用例2には,基本個性類型とは別に副個性類型に対応したコメントを出力することも開示されているといえる。
エ しかして,引用例1記載の発明に,引用例2により周知であるところの,性格診断結果を分類する階層形式の分類のそれぞれに対応させたコメントを備えた性格診断方法を適用すれば,「引用例1に記載された発明の性格診断コメント情報を第1分類それぞれに対応したものと,第2分類それぞれに対応したものとして検索できるように備える」もの,すなわち,本願発明の相違点(2)に係る構成となることは明らかである。
(3) そうすると,本願発明の相違点(2)に係る構成を推考することは,当業者にとって容易になし得ることというべきである。この点に関する本件審決の判断には誤りはなく,原告の主張は採用できない。
5 取消事由5(相違点(3)についての判断の誤り)について (1)ア 相違点(3)に関して,原告は,どのような計算処理を行って各個性因子に対応する個性類型を決定するかは,本願発明の有機的結合手段の結合で達成される重要な技術的思想の一部であるから,これを人為的取り決めに過ぎないとした本件審決の判断は誤りであると主張する。
しかしながら,本願発明が,生年月日という情報のみに基づいて個性因子を決定することを要素とするものである以上,例えば,生日に対応した「本質」の個性因子を決定する過程において自然法則が利用されているということができないのは明らかであり,原告の主張は採用できない。
イ なお,本願明細書の段落【0075】,【0077】には,各個性診断対象者について,生年月日を含む診断参照情報により決定される各個性因子に対応する個性診断コメントを選択し,それらの診断結果を蓄積し,その的中の妥当性に応じて評価フィードバックを行うことにより個性診断の精度を高める仕組み(以下「学習機能の付加」という。)が記載されており,この記載からすれば,どのような計算処理を行って各個性因子を決定するかは,単なる「人為的な取り決め」ではないようにも見える。 しかしながら,本願明細書における特許請求の範囲の記載においては,本願明細書の上記引用箇所に記載された学習機能の付加は,本願発明を特定する事項として開示されていないのであるから,上記の学習機能の付加が自然法則を利用したものであるとしても,本願発明が自然法則を利用したものとなるわけではない。
ウ また,本願明細書の段落【0075】にも記載されているとおり,個性分析に関しては,各種の見解や理論が存在し,また,使用するコメント文の内容を,的中の妥当性に応じて取捨選択あるいは更新してゆくことが周知の技術であることは明らかである。したがって,どのような計算処理を行って各個性因子を決定するかということは,仮にその計算の過程において自然法則を利用することがあるとしても,全体としては人為的な取り決めに過ぎないと認められる。そうすると,本願発明のように各個性因子を独立に決定することも,当業者が適宜に選択し得る事項に過ぎないものと認められる。
(2) 原告は,引用例1に,年,月及び日を用いて複数の個性因子を決定する方法が開示されていない以上,12分類データを独立に年,月及び日の時系列的配列に当てはめる思想を当業者が想到できるはずもない,などと主張する。
しかしながら,引用例1に,副個性類型を含む占い結果は生年月日により決まることが開示されていることは前記1(1)のとおりであり,それぞれの個性因子を互いに独立に決定していることが開示されていることも前記2(3)のとおりである。そうすると,「本質」の個性因子について生日を変数として利用するのであれば,他の個性因子である「表面」及び「意思」については生月及び生年を適宜利用することになるのは当然であり,かかる方法を推考することが容易であることも明らかである。そして,各個性因子ごとに,変数(生月または生年)の配列と個性類型の種類とをどのように対応させるかということも,人為的な取り決めに過ぎないのであるから,これは当業者が適宜に選択し得る事項に過ぎない。
(3) そうすると,本願発明の相違点(3)にかかる構成は,当業者が容易に推考することができたものであるというべきである。この点に関する本件審決の判断に誤りはなく,原告の主張は採用できない。
6 取消事由6(相違点(4)についての判断の誤り)について (1) 原告は,本願発明のように「本質」「表面」「意思」の3つのうち「本質」についてのみ,基本個性類型を更に細分化する副個性類型が決定されるようにすることは,重要な発明要素であり,これを当業者であれば容易に推考できたものであるとする具体的な根拠は,いずれの引用例にも存在しないと主張する。
しかしながら,一般に,全体の情報量を考慮して,重要な部分のみを詳細に細分化し,重要性の低い部分については細分化せずに簡略化することは,情報を扱う上での常套手段である。また,被診断者の性格の大部分は「本質」によって占められていることについては,当事者間に争いはない。してみると,本願発明においても「本質」が最も重要な要素であるから,「本質」についてのみ,基本個性類型をさらに細分化する副個性類型が決定されるようにすることは,当業者であれば容易に推考できたことというべきである。
(2) 原告は,引用例1には,「生年月日に基づいて副個性類型を決定する」方法は開示されておらず,また,「本質以外の2つの個性因子(表面,意思)を互いに独立に決定する」方法も開示されていないから,「本質」についてのみ副個性類型の決定を行なう相違点(4)の思想を当業者が想到できるはずもないと主張する。
しかしながら,引用例1に,副個性類型を含む占い結果は生年月日により決まることが開示されていることは前記1(1)のとおりであり,それぞれの個性因子を互いに独立に決定することが開示されていることも前記1(3)のとおりであるから,原告の上記主張はその前提を欠くといわざるを得ない。
(3) したがって,相違点(4)についての本件審決の判断に誤りはなく,原告の主張は採用できない。
7 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に,本件審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 青柳馨
裁判官 上田卓哉
裁判官 沖中康人