関連審決 | 不服2004-9951 |
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関連ワード | 特許を受ける権利 / 29条1項3号 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 共有 / 技術的意義 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 持分譲渡(持分の譲渡) / 拒絶査定不服審判 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
17年
(行ケ)
10498号
審決取消請求事件
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原告 X1 原告 飛島建設株式会社 原告 X2 上記3名訴訟代理人弁理士 中島淳 同 加藤和詳 同 西元勝一 同 福田浩志 被告 特許庁長官中嶋誠 指定代理人 安藤勝治 同 高橋祐介 同 高木彰 同 小林和男 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2006/01/30 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告らの請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が不服2004-9951号事件について平成17年4月11日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
本件は,後記特許の出願人等である原告らが,特許庁から拒絶査定を受けたので,これを不服として拒絶査定不服審判請求をしたところ,同請求は成り立たないとの審決を受けたことから,その取消しを求めた事案である。 |
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当事者の主張
1 請求の原因 (1) 特許庁における手続の経緯 原告X1,同飛島建設株式会社及び訴外Aは,平成9年4月8日,名称を「振動制御機構」とする発明につき共同で特許出願をした(甲2。以下「本願」という。)。その後,平成12年4月24日と平成15年2月4日に特許を受ける権利の持分譲渡が行われ,本願の特許を受ける権利は,原告ら(3名)の共有となった(甲6,7)。 本願に対する特許庁の審査の中で原告らは,平成16年1月23日,特許請求の範囲等の補正(甲9)をしたが,特許庁は本願につき拒絶査定をするに至ったので,原告らは,拒絶査定不服審判請求をした。 特許庁は,同請求を不服2004-9951号事件として審理し,その係属中の平成16年6月14日原告らは,請求項1の特許請求の範囲の補正等を内容とする手続補正(甲3。以下「本件補正」という。)をしたが,特許庁は,平成17年4月11日,本件補正を却下した上,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その審決謄本は平成17年4月26日原告らに送達された。 (2) 発明の内容 ア 本願の出願時の請求項は1ないし13から成り,その平成16年1月23日付けの補正後の内容は,下記のとおりである(甲2,9)。 記 「【請求項1】構造物に作用する外力によって相対変形する第1構材と第2構材に取付けられ,構造物の振動を抑える振動制御機構において,前記第1構材に一端が回転可能に取付けられた第1アームと,前記第2構材に一端が回転可能に取付けられた第2アームと,前記第1アームと前記第2アームとの軸線或いはこれらの軸線の延長線が交わる角度が鋭角となるように,それぞれの自由端を回転可能に連結し円弧運動 する エネルギー低減吸収手段と,を有することを特徴とする振動制御機構。」(以下,この請求項1に係る発明を「本願発明」という。なお,下線部は上記補正部分である。)。 【請求項2】ないし【請求項13】は省略。 イ また,平成16年6月14日付け本件補正後の請求項1の内容は,下記のとおりである(甲3。以下,この請求項1に係る発明を「補正発明」という。なお,下線部は補正部分である。)。【請求項2】ないし【請求項13】は,前記アと同じ。 記 「【請求項1】構造物に作用する外力によって相対変形する第1構材と第2構材に取付けられ,構造物の振動を抑える振動制御機構において,前記第1構材に一端が回転可能に取付けられた第1アームと,前記第2構材に一端が回転可能に取付けられ前記第1アーム の長さと 異なる 第2アームと,前記第1アームと前記第2アームとの軸線或いはこれらの軸線の延長線が交わる角度が鋭角となるように,それぞれの自由端を回転可能に連結し円弧運動するエネルギー低減吸収手段と,を有することを特徴とする振動制御機構。」 (3) 審決の内容 ア 審決の内容は,別紙のとおりである。 その理由の要旨は,補正発明は,下記の刊行物(特許公報)(以下「引用例」という。)記載の発明(以下「引用発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもので,特許法29条2項により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,本件補正は許されないとしてこれを却下した上,本件補正前の本願発明は,引用発明と同一であるから,特許法29条1項3号により特許を受けることができない等としたものである。 記 ・特開平8-218682号公報(甲4) イ なお,審決は,引用例から次のとおりの引用発明を認定し,補正発明と引用発明を対比して,次のような一致点と相違点があるとした。 (引用発明の内容) 構造物20に作用する外力によって相対変形する基礎11と基礎梁12とに取付けられ,構造物の振動を抑える免震ダンパー1において,基礎11に一端が回転可能に取付けられた第一の板体2,3と,基礎梁12に一端が回転可能に取付けられ前記第一の板体2,3の長さと同一ないしほぼ同一の第二の板体4と,第一の板体2,3と第二の板体4との軸線が交わる角度が鋭角となるように,それぞれの自由端を回転可能に連結する連結手段とを有し,この連結手段は,シャフト8を備える基底板8aと各板体2〜4の基端部に圧縮面圧を調整自在に加えることにより構造物の振動を減衰させる油圧シリンダー7を備える押さえ部材9とで構成された連結手段であり,シャフト8は,基礎11と基礎梁12とが相対変形するとき円弧運動する,免震ダンパー1。 (補正発明と引用発明の一致点) 構造物に作用する外力によって相対変形する第1構材と第2構材に取付けられ,構造物の振動を抑える振動制御機構において,前記第1構材に一端が回転可能に取付けられた第1アームと,前記第2構材に一端が回転可能に取付けられた第2アームと,前記第1アームと前記第2アームとの軸線が交わる角度が鋭角となるように,それぞれの自由端を回転可能に連結し円弧運動するエネルギー低減吸収手段と,を有する,振動制御機構。 (補正発明と引用発明の相違点) 補正発明は,第2アームが第1アームとは長さが異なるものであるのに対し,引用発明は,両アームの長さが同一あるいはほぼ同一である点。 (4) 審決の取消事由 ア 引用発明の内容,補正発明と引用発明の一致点と相違点が,いずれも審決認定のとおりであることは認める。 イ しかしながら,以下に述べるとおり,補正発明が引用発明から容易に想到することができたものではないから,本件補正は適法であり,これを却下した本件審決は誤りであるから,同審決は違法として取消しを免れない。 (ア) 審決は,相違点に係る補正発明の構成について格別の技術的意義や作用効果が認められず,設計的事項にすぎないとした根拠として,引用発明の「免震ダンパー」の連結部は,「特定の方向に移動する場合に直動(直線運動)するが,補正発明のように両アームの長さを異ならせた場合においても,特定の方向に移動する場合にその連結部が直動することは明らかであり,「(補正発明において)連結部材は必ず円弧運動をする。」という請求人の上記主張は誤りであり,理由がない。」(7頁4行〜8行)としている。 @ しかし,審決では,補正発明において,「特定の方向に移動する場合にその連結部が直動することは明らかであ」るとする「特定の方向」が具体的にどの方向か全く説明されていない点で不当である。 また,そもそも補正発明は,第1構材と第2構材がどのような方向に相対変形しても,エネルギー低減吸収手段を円弧運動させるために第1アームと第2アームの長さを異なるものとしたものであり,幾何学上,「特定の方向」など存在しないように構成されている。 甲5の図2に示すように,アームMの長さが同じ二等辺三角形の場合(B0を頂点とし,B0・A0・A0の三点で構成。引用発明に相当する。),アームMと構造物の連結部各A0をつなぐ直線L1(A0・A0を結んだ線)を等分して直交する直線L2がアーム同士の連結部B0と交わる。すなわち,連結部B0の直交成分となる直線L2が幾何学上存在するため,引用発明の免震ダンパーには直動する要素が存在する。 例えば,A0がA1へ移動したとき,B0は直線L2の上をB1へ直動し,A0が-A1,-A2へ移動したとき,B0は直線L2の上を-B1,-B2へ直動する。また,注目すべき点は,B0と,-B1,-B2との各間隔は,A0と,-A1,-A2との各間隔よりも,それぞれ小さいことである。これは,A0の相対変位量よりB0の移動量が小さく,構造物の変位量がB0で増幅されず,B0での減衰力が小さいことを示すものである。 一方,甲5の図1に示すように,アームの長さが異なる不等辺三角形の場合(B0を頂点とし,B0・A0・A0の三点で構成。補正発明に相当する。),アームN1,N2と構造物の連結部各A0をつなぐ直線L1(A0・A0を結んだ線)を等分して直交する直線L2がアーム同士の連結部B0と交わらない。すなわち,連結部B0の直交成分となる直線L2が幾何学上存在しないため,補正発明の振動制御機構には直動する要素が存在しない。 例えば,A0がA1,A2,A3へ移動したとき,連結部B0は円弧Sを描いてB1,B2,B3へ移動する。また,A0が-A1,-A2,-A3,-A4へ移動したとき連結部B0は円弧Sを描いて-B1,-B2,-B3,-B4へ移動する。そして,注目すべき点は,A0と,-A1,-A2,-A3,-A4との各間隔が,B0と,-B1,-B2,-B3,-B4との各間隔よりも,それぞれ大きいことである。これは,A0の相対変位量よりB0の移動量が大く,構造物の変位量がB0で増幅され,B0での減衰力が大きいことを示すものである。 A また,本願の【図5】(甲2。X軸方向に上部構造体と下部構造体が相対変位した場合を示したもの),右側のユニット12Bと左側のユニット12Bの連結シャフト28は,トグルの特性上変位の大きさは異なるが円弧運動をしている(2点鎖線が変位する前で,実線が変位した後を示している。)。さらに,上側のユニット12Aと下側のユニット12Aの連結シャフト28は,トグル機構の特性上変位の大きさは異なるがいずれも円弧運動をしている。 このように,補正発明は,幾何学上,直動する要素がないため,X軸方向から地震力が入力されても,左右対称,上下対称に方向を変えて配置された全てのユニットの連結シャフト28が円弧運動する。換言すれば,どの方向から地震力が入力されても,ユニットの連結シャフト28が円弧運動することを示しており,審決にいう「特定の方向」など存在しない。 (イ) 次に,審決は,「補正発明が,該連結部が両アームの長さを異ならせたことにより「第1アームと第2アームの連結部に設けられたエネルギー低減吸収手段を幾何学的に大きく円弧運動させ」るものであるとしても,当該「円弧運動」自体は,減衰力を何ら生じさせるものではないから,「(補正発明は)エネルギー低減吸収手段を幾何学的に大きく円弧運動させ,常に減衰力を発揮する」ものであるという請求人の主張には,理由がない。」(7頁12行〜17行)としている。 しかし,地球上で物が移動すれば,何らかの抵抗,摩擦が生じるのは自明なことであり,連結部B0を常に大きく円弧運動させることは,取りも直さず,常に減衰力を発揮させることであり,「円弧運動自体は,減衰力を何ら生じさせるものではない」との審決の上記判断は不当である。 (ウ) したがって,審決が,相違点に係る補正発明の構成について格別の技術的意義や作用効果が認められず,設計的事項にすぎず,当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものと判断したのは誤りである。 2 請求原因に対する認否 請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,同(4)は争う。 3 被告の反論 (1) 原告ら主張の取消事由イ(ア)に対し (ア) 審決が相違点に係る補正発明の構成が設計的事項にすぎないと判断した根拠は,補正発明において建物の揺れを減衰する機能を果たすのは,両アームの連結部のエネルギー低減吸収手段であり,その構成は何ら具体的に限定されたものではなく,補正発明と引用発明とは何ら差異がないこと,補正発明が「第1アームと第2アームの連結部に設けられたエネルギー低減吸収手段を幾何学的に大きく円弧運動させ」るものであるとしても,当該「円弧運動」自体は,減衰力を何ら生じさせるものではないことによるものであり,原告らが主張するように,補正発明において「特定の方向に移動する場合にその連結部が直動する」ことを根拠としたものではない。 (イ) 甲5の図2は,等長である両アームM,Mは,各A0点において,地面と共に揺れる基礎体と,該基礎体の上に免震装置などを介して載置された構造物の下部と,にそれぞれ回動可能に固定され(以下「固定点」という。)ており,これを空中の不動点(原点)から見た状態を示した図である。 そして,上記図2は,地震が発生したとき,各固定点は,A0→A1→A0→-A1→-A2→-A1→A0→・・・などと(あるいは,その逆に)移動すること,すなわち,左側のアームが基礎体に固定したアームとすると,基礎体の固定点が左方向にA0からA1に移動するとき,同時に構造物の下部の右側のアームの固定点は基礎体とは逆に右方向にA0からA1に移動し,各移動距離が左右同一であることを示している。 しかし,現実的には,基礎体(地盤)とその上の構造物の下部とが,同じタイミングで互いに逆方向に同一の振幅(移動距離)で移動するなどということは,極めて稀なことであるから,結局,一対のアームM,Mの長さが同じ場合でも,その連結点が直動することは,極めて稀なことである。 一方,補正発明のように「第1アームと第2アームの長さが異なるもの」であっても,その連結部が直動し得るものであり,引用発明の「免震ダンパー」には直動する要素が存在するのに対し,補正発明の振動制御機構が直動する要素が存在しないとの原告の主張は,誤りである。 また仮に現実的に直動することが極めて稀であることを捉えて,補正発明に直動する要素が存在しないというのであれば,引用発明も同様に直動する要素が存在しないこととなる。 (2) 原告ら主張の取消事由イ(イ)に対し 補正発明において,円弧運動するのは「第1アームと第2アームの連結部」であり,この「連結部」が,例えば,本願の明細書及び【図23】〜【図25】,【図32】〜【図36】等に記載された実施例(甲2)のように,制振機構が組み込まれる構造物の他の部材・部位等と物理的に接していないもの,すなわち,「連結部」が宙に浮いた形態のものにおいては,「連結部」に「何らかの抵抗,摩擦」を生じさせるものをエネルギー低減吸収手段以外に想定することはできないし,当業者にとって「連結部」を「大きく円弧運動させる」ことと「常に減衰力を発揮させる」ことの間に,技術的関連のないことが明らかである。 したがって,審決が「「第1アームと第2アームの連結部に設けられたエネルギー低減吸収手段を幾何学的に大きく円弧運動させる」ものであるとしても,当該「円弧運動」自体は,減衰力を何ら生じさせるものではない」とした点に誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。 2 補正発明は引用発明から容易想到とした判断の誤りの有無(請求原因(4)) (1) 引用発明の内容,補正発明と引用発明の一致点と相違点が,いずれも審決認定のとおりであることは,当事者間に争いがない。 (2) 原告らは,審決が,「補正発明が,第1アームと第2アームの長さを異なるものとした点に,格別の技術的意義や作用効果は認められず,アームの回転量やアームの配置,納まり等を考慮して当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。」(6頁9行〜11行)と判断したのは誤りである旨主張する。 ア 補正発明に係る【請求項1】には,前述のように「前記第1アームと前記第2アームとの軸線或いはこれらの軸線の延長線が交わる角度が鋭角となるように,それぞれの自由端を回転可能に連結し円弧運動するエネルギー低減吸収手段」との記載があるが,上記「エネルギー低減吸収手段」の具体的な構成については,格別特定する記載はない。 イ 本願の明細書(甲2)には,「発明の効果」として,「本発明は上記構成としたので,簡単な機構で,構造物の大きさに左右されずに効率良く配置でき,また,変形の増幅倍率を顕著に増大させることができ,さらに,種々の減衰装置が使用することができ,大地震時にも制振効果を発揮することができる。」(段落【0099】)との記載がある。 しかし,相違点に係る補正発明の構成である「第1アームと長さの異なる第2アーム」としたことに基づく作用,効果については,本願の明細書(甲2。 ただし,平成16年1月23日付け手続補正書(甲9)により一部変更後のもの。)はもとより,平成16年6月14日付け手続補正書(甲3)中にも,具体的に説明したり,示唆する記載を見い出すことはできない。 ウ(ア) 次に,本願の明細書(甲2)には,次のような記載がある。 @「図2及び図4に示すように,制振装置10は,第1アーム22を備えている。この第1アーム22の一端は,下部構造体18に固定された取付ブロック24から立設された軸体26に回転可能に連結されている。また,第1アーム22は,下部構造体18と平行に張り出しており,自由端部は連結シャフト28へ回転可能に連結されている。」(段落【0035】),「この連結シャフト28には,下部構造体18と平行に張り出した第2アーム30の自由端部が回転可能に連結され,そして,第1アーム22の軸線と第2アーム30の軸線が描く交角が鋭角となるように設定され,第1アーム22と第2アーム30とでトグル機構を構成している。また,第2アーム30の一端は,上部構造体16に固定された取付ブロック32から垂下された軸体34に回転可能に連結されている。」(段落【0036】),「一方,連結シャフト28の下方には,ホルダー36が設けられており,コロ38が回転可能に保持されている。このコロ38は,下部構造体18の上を摺動して下部構造体18との間に摩擦力を発生させる。」(段落【0037】)。 A「ここで,地震等によって建物20が揺れ,図5に示すように,上部構造体16が下部構造体18に対してX軸の負方向へ相対的にδ1水平変形したとする。このとき,ユニット12Bでは,第1アーム22と第2アーム30の自由端を回転可能に連結した連結シャフト28が,X軸に対して対称形を保持しながら軸体26を中心に円弧運動を行い,その移動量は,右側のユニット12Bで振動方向と反対側へδ2,左側のユニット12Bで振動方向と反対側へδ3(δ2<δ3)に増幅され,上部構造体16の水平変形量δ1より大きくなる。この増幅倍率は,第1アーム22の軸線と第2アーム30の軸線との交角θを鋭角とすることで一層大きくなる。」(段落【0040】,「このように,軸体34の小さな変位が連結シャフト28の大きな変位に増幅され,小さい変位×大きな力=大きな変位×小さな力という関係が成立する。そして,連結シャフト28に取付けられたコロ38(図4参照)と下部構造体18との間に発生する摩擦力によって,上部構造体16と下部構造体18の振動が減衰され,中小の地震や風による建物20の小さな振動でも効果的に制振される。」(段落【0041】)。 B【図23】〜【図26】記載の制振装置86の説明として,「第7形態では,1つの架構の中に4組の制振装置86を組合わせて制振装置ユニット88を構成しており,平面的に見ると,第1アーム90の軸線が中央部で交差する形状をしている。第1アーム90の一端は,それぞれ1つの取付ブラケット92に軸体94で回転可能に連結されている。また,取付ブラケット92は,大梁96の内側に設けられた小梁98の交差部に固定されている。」(段落【0074】),「一方,第1アーム90は,下部構造体100と平行に張り出しており,自由端部は回転摩擦型ダンパー102に連結されている。回転摩擦型ダンパー102には,下部構造体100と平行に張り出した第2アーム104の自由端部が連結され,且つ,第1アーム90の軸線と第2アーム104の軸線が描く交角が鋭角となるように設定されている。そして,第1アーム90と第2アーム104とで,トグル機構を構成している。また,第2アーム104の一端は,取付ブラケット108に軸体110で回転可能に連結されており,取付ブラケット108は上部構造体106に固定されている。」(段落【0075】),「上記の構成の制振装置ユニット88では,建物112が揺れ,上部構造体106が下部構造体100に対してX軸或いはY軸方向へ相対的に水平変形しても,回転摩擦型ダンパー102は,X軸或いはY軸に対して対称形を保持しながら軸体94を中心に円弧運動を行い,変形量を増幅して回転エネルギーとして吸収し,建物112の振動を抑制する。」(段落【0076】)。 (イ) 上記記載によれば,本願の明細書(甲2)の制振装置10における振動制御機構は,下部構造体18から立設された軸体26に一端が回転可能に連結された第1アーム22の自由端と,上部構造体16から垂下された軸体34に一端が回転可能に連結された第2アーム30の自由端とが,連結シャフト28により回転可能に連結され,連結シャフト28の下方に,下部構造体18の上を摺動して下部構造体18との間に摩擦力を発生させるコロ38が配設されるものであること,制振装置10は,地震等によって建物20が揺れ,上部構造体16が下部構造体18に対して相対的に水平変形する場合,連結シャフト28が,第1アーム22の一端を下部構造体18に回転可能に連結する軸体26を中心として,第1アームの長さを半径とする円弧運動を行うことにより,連結シャフト28の下方に配設されたコロ38と下部構造体18との間に発生する摩擦力を利用して,上部構造体16と下部構造体18の振動が減衰されるようにしたものであること,第1アーム22の軸線と第2アーム30の軸線との交角θを鋭角とすることで,軸体26を中心に円弧運動を行う連結シャフト28の移動量δ2,δ3を,上部構造体16の水平変形量δ1より大きくしたことにより,中小の地震や風による建物20の小さな振動でも効果的に制振されるようにしたことが認められる。そうすると,上部構造体16と下部構造体18の振動減衰をもたらす円弧運動とは,軸体26を中心とするコロ38の下部構造体18に対する円弧運動(すなわち連結シャフト28の下部構造体18に対する円弧運動)であり,振動減衰に影響する移動量は,連結シャフト28の移動量δ2,δ3の大小によるものと認められる。 そして,本願の明細書(甲2)の制振装置86は,下部構造体100を構成する小梁98の交差部に固定された取付ブラケット92,上部構造体106に固定された取付ブラケット108に,第1アーム90の一端,第2アーム104の一端がそれぞれ連結され,第1アーム90の自由端,第2アーム104の自由端が回転摩擦型ダンパー102に連結されてなるものであること,ダンパー102は「回転摩擦型」とされていることから,建物112が揺れ,上部構造体106が下部構造体100に対して相対的に水平変形する場合,第1アーム90と第2アーム104とが相対的に回転し,その際回転摩擦型ダンパー102に生じる回転摩擦を利用して,建物112の振動抑制を図るものであることが認められる。そうすると,補正発明の実施形態である制振装置86は,2本のアームの相対的な回転によって生じる摩擦力を利用して,振動の減衰を図るものであることが認められ,回転摩擦型ダンパー102の「円弧運動」それ自体により常に摩擦力が発生し,減衰力が生じうるものではないというべきである。 エ(ア) 一方,引用例(甲4)には,次のような記載がある。 @「本発明は・・・その目的は,構造物に作用する地震等の外力の強度や入力方向が不確定な場合や,構造物がねじれ振動を起こす場合でも,構造物の振動を充分に減衰することができる免震ダンパーを提供することにある。」(段落【0006】)。 A「本発明は前記目的に鑑みてなされたものであって,その要旨は,二枚の第一の板体と,この二枚の第一の板体に挟まれて圧接され,且つこの第一の板体に対して相対的に回転運動可能な第二の板体とをそれぞれの基端部で結合し,前記第一および第二の板体のうち一方の板体の他端部を基礎に,他方の板体の他端部を構造物に結合した免震ダンパーにおいて,前記第一および第二の板体の基端部に圧縮面圧を調整自在に加える油圧シリンダーを備えてなる免震ダンパーにある。」(段落【0007】)。 B「本発明の免震ダンパーの複数個を基礎並びに構造物に結合して設置した免震システムでは,地震等の力が建物に加わると,構造物の揺れによって積層ゴムが剪断方向に変形を起し,地震力を低減させるべく働く。これによって前記構造物と基礎との間には相対的なずれ運動が生じる。このずれ運動によって構造物には地震力が作用する。この地震力を両方向の変位センサー(加速度,速度および長さを検知可能なセンサー)で検知して,この検知したデータを電算機で計算して油圧供給装置に制御信号を送る。この制御信号に応じて油圧供給装置は,適宜,所定の免震ダンパーの油圧シリンダーに油を圧送する。かように油を圧送された免震ダンパーでは,油圧シリンダーが,第一及び第二の板体の基端部に圧縮面圧を加わえるため,これら板体間の摩擦力が強化される。したがって,構造物と基礎を通して免震ダンパーに伝えられた揺れにより,第一及び第二の板体が相対的に回転しようとしても,強化された摩擦力によって,この回転エネルギーを充分に吸収し,これによって地震による構造物の揺れを減衰する。」(段落【0008】)。 (イ) 上記記載によれば,引用例(甲4)記載の「免震ダンパー」は,第一及び第二の板体が相対的に回転しようとする際に生じる摩擦力によって,この回転エネルギーを吸収し,これによって地震による構造物の揺れを減衰するものと認められる。そうすると,引用発明及び補正発明は,いずれも,2本のアームの相対的な回転によって生じる摩擦力を利用して,振動の減衰を図ろうとするものであり,振動抑制の作用ないしエネルギー低減吸収手段を同じくするものであることが認められる。 オ 以上のアないしエによれば,審決が,「補正発明が,第1アームと第2アームの長さを異なるものとした点」(相違点に係る構成)について,格別な技術的意義や作用効果は認められず,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が適宜なし得る設計的事項にすぎず,引用発明に基づいて容易に発明をすることができたと判断したことに誤りはないというべきである。 (3)ア これに対し原告らは,甲5の図1,2を例にとって,2本のアームの長さが同じ場合(図2。引用発明の場合)と異なる場合(図1。補正発明の場合)とでは,連結部の円弧運動の態様・直動要素の有無,連結部の移動量の大小等が相違する旨主張する。 (ア) 甲5の図1,2は,いずれも,2本のアームと構造物の連結部A0,A0を結ぶ直線L1と,直線L1を等分して直交する直線L2の交点(以下「基準点」という。)を座標原点とし,直線L1上においてそれぞれのアームと構造物の連結部が,基準点に対して等しい量だけ接近ないし離間するとした場合に,アーム同士の連結部B0が,基準点に対してどのように移動するのかを示したものである。 そして,2本のアームの長さが等しい場合(アームM,M)を示す図2には,アーム同士の連結部B0がB1,あるいは-B1,-B2へと直線L2上を移動する様子が示され,2本のアームの長さが異なる場合(アームN1,N2)を示す図1には,アーム同士の連結部B0がB1,B2,B3へ,あるいは-B1,-B2,-B3,-B4へと曲線S上を移動する様子が示されている(なお,曲線Sは,放物線に一見類似した曲線であり,円弧であると認めることはできない。)。 甲5の図1,2において,構造物が建物である場合を想定すると,地震時には,地面,建物の下部構造体及び上部構造体のいずれもが相対的に変位し得るものであるから,上記基準点は,地面,下部構造体,上部構造体とのいずれの関係においても固定的に定まるものではなく,いわば中空の1点を仮定的に定めたものであって,アーム同士の連結部B0が移動する直線L2又は曲線Sは,仮定的に基準点に対する連結部B0の移動の軌跡を示すものということができる。 そして,前記(2)ウ(イ)に説示したとおり,本願の明細書(甲2)の制振装置10において,上部構造体16と下部構造体18の振動減衰に影響する移動量δ2,δ3は,軸体26を中心として円弧運動する連結シャフト28の下部構造体18に対する移動量であるから,これを甲5に当てはめると,下部構造体側に取り付けられるアームの一端A0を中心として円弧運動する連結部B0の下部構造体に対する移動量に相当するものであることが認められ,2本のアームの長さが異なる場合(図1)及び同じ場合(図2)のいずれにおいても,アーム同士の連結部B0は,下部構造体側に取り付けられるアームの一端A0を中心として円弧運動するものと認められ,この点に差異はない。 (イ) また,原告が甲5の図1,2に基づいて主張する連結部B0の移動は,下部構造体に対する移動を意味するものではなく,仮定的に定めた基準点に対する移動を意味するもので,円弧運動ともいえないものであるから,第1アーム,第2アームの移動と振動減衰との関係においては,2本のアームの長さの異同による連結部B0の円弧運動の態様・直動要素の有無,あるいは移動量の大小を論じることに格別の意味を見い出すことはできない。 そして,前記(2)アのとおり,補正発明は,「エネルギー低減吸収手段」自体の具体的な構成について格別特定するものではないので,補正発明においても,上記円弧運動の態様・直動要素の有無,移動量の大小を論じることに格別の意味を見い出すことはできない。 したがって,原告らの前記主張は,採用することができない。 イ なお,原告らは,審決が,補正発明において,「特定の方向」が具体的にどの方向か説明することなく,「特定の方向に移動する場合にその連結部が直動することは明らかであ」ると判断したのは不当である旨主張する。 しかし,先に説示したとおり,2本のアームの長さの異同による連結部の円弧運動の態様・直動要素の有無等を論じることに格別の意味を見い出すことができない以上,審決の上記判断の当否が,審決の結論に影響を及ぼすものではない。 (4) したがって,原告ら主張の審決の取消事由は理由がない。 3 結論 以上によれば,原告らの本訴請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 中野哲弘 |
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裁判官 | 大鷹一郎 |
裁判官 | 長谷川浩二 |