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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成14ネ2776特許権侵害差止等,特許権侵害差止請求控訴事件 判例 特許
関連ワード 製造方法 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  公知技術 /  技術的範囲 /  発明の詳細な説明 /  着想 /  援用権(援用) /  権利の濫用(権利濫用) /  出願経過 /  参酌 /  技術的意義 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  不法行為(民法709条) /  同意 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  釈明 / 
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事件 平成 16年 (ネ) 281号 特許権侵害差止等請求控訴事件

控訴人(1審原告) 日本ケーブル・システム株式会社
同訴訟代理人弁護士 畑郁夫
同 平野惠稔
同 浅田和之
同補佐人弁理士 朝日奈 宗太
同 佐木啓二
同 八島耕司
被控訴人(1審被告) 株式会社城南製作所
同訴訟代理人弁護士 内田修
同 内田敏彦
同補佐人弁理士 後藤文夫
裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 2005/01/27
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 主位的控訴の趣旨 (1) 原判決を取り消す。
追加
2予備的控訴の趣旨(1)原判決を取り消す。
(2)被控訴人は、原判決別紙イ号物件目録記載の物件を製造し、販売してはならない。
(3)被控訴人は、前項の物件の完成品及び仕掛品を廃棄せよ。
(4)被控訴人は、控訴人に対し、2300万円及びこれに対する平成14年8月8日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5)訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
(以下、控訴人を「原告」といい、被控訴人を「被告」という。)第2事案の概要1事案の要旨本件は、「コントロールケーブル」の発明について特許権を有する原告が、
被告による原判決別紙イ号物件目録記載の物件(自動車のウィンドレギュレータアッシー〈車輌の窓開閉装置〉。以下「イ号物件」という。)の製造販売が同特許権を侵害するとして、被告に対し、同特許権に基づき、イ号物件の製造販売の差止めと廃棄を請求するとともに、民法709条、特許法102条2項に基づく損害賠償を内金請求した事案である。
原審裁判所は、上記特許に無効理由が存在することは明らかであり、上記特許権に基づく原告の請求は、いずれも権利の濫用として許されないとして棄却し、
これに対し、原告が本件控訴を提起した。
2前提事実(証拠等を掲記した事実以外は争いがない。)(1)原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許請求の範囲請求項1記載の発明を「本件発明」、本件特許出願に係る明細書を「本件明細書」という。)を有している。
ア特許番号第3105507号イ発明の名称コントロールケーブルウ出願年月日平成元年2月13日(特願平1-34294号)エ登録年月日平成12年9月1日オ特許請求の範囲原判決別紙特許公報(以下「本件公報」という。)該当欄請求項1記載のとおり。
(2)本件発明の構成要件を分説すれば、次のとおりである。
A導管または内索の少なくとも一方の表面に亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が設けられているコントロールケーブルであって、
B前記亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が1〜10重量%のアルミニウムを含み、残部が亜鉛であるCコントロールケーブル。
(3)被告は、イ号物件を製造し販売している。
イ号物件は、原判決別紙イ号物件目録1記載のコントロールケーブル(以下「被告コントロールケーブル」という。)を含むところ、コントロールケーブル部分の具体的構成については、同目録下線部の限度で当事者間に争いがある。
(4)本件特許出願(平成元年2月13日)当時の明細書に記載の「特許請求の範囲」は、本判決別紙「出願当時の特許請求の範囲」に記載のとおり請求項1ないし8からなっていたが、特許庁審査官は、平成10年3月13日付けで、拒絶引例として、特開昭57-116924号公開特許公報(公開日昭和57年7月21日、発明の名称「インナーワイヤー」〈乙2。以下「刊行物1」又は「乙2公報」ともいう。〉)及び特開昭62-44563号公開特許公報(公開日昭和62年2月26日、発明の名称「亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼線の製造方法」〈乙3。
以下「刊行物2」又は「乙3公報」ともいう。〉)等を引用の上、8個の請求項すべてについて拒絶理由がある旨通知した。そこで、原告は、平成10年6月1日付け意見書(乙5)を提出したが、本件特許出願は、同年12月10日付けで拒絶査定を受けた。そのため、原告は、平成11年2月2日、拒絶査定不服審判請求をし(審判平11-1425号事件)、同年3月2日付け手続補正書(乙7)を提出して「特許請求の範囲」を本件公報該当欄請求項1ないし5に補正する等した。これにより、平成12年7月11日、「原査定を取り消す。本願の発明は特許すべきものとする。」との審決がされ、本件特許がされた。
(甲2、乙1〜8、12、弁論の全趣旨)(5)原告は、本件控訴提起(平成15年12月26日)後である平成16年3月11日付けで、特許庁長官に対し、本件特許権の特許請求の範囲を、本判決別紙「訂正後の特許請求の範囲」に記載の請求項1ないし3からなるものに訂正等する訂正審判請求をした(訂正2004-39051号事件)が、同年7月23日付けで、上記訂正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「訂正発明」という。)は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとして、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がされた(甲29、34。ただし、本件控訴提起の日は記録上明らかな事実である。)。そこで、原告は、東京高等裁判所に上記審決に対する取消請求訴訟を提起した(同裁判所平成16年(行ケ)第392号。弁論の全趣旨)。
3争点(1)差戻しの必要性(2)構成要件A「導管または内索の少なくとも一方の表面に亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が設けられている」の充足性(3)構成要件B「前記亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が1〜10重量%のアルミニウムを含み」の充足性等(4)明白な無効理由その1-進歩性欠如(乙2と乙3の組合せ)(5)明白な無効理由その2-進歩性欠如(乙25の1・2と乙26の組合せ)(6)明白な無効理由その3-進歩性欠如(乙25の1・2と乙3の組合せ)(7)原告の損害4争点に関する当事者の主張ゴシック体(編注:表示上斜体で置き換えた。)で記載した箇所以外は、原判決の事実及び理由中「第2事案の概要」の「(争点)」の記載とほぼ同旨である。
(1)差戻しの必要性【原告の主張】原判決は、原告主張の請求原因(被告が原告の本件特許権を侵害しているという事実)について一切判断することなく、本件発明は従来技術に照らし進歩性が欠如しており、本件特許には明らかな無効理由があるから、原告の本件特許権に基づく権利行使は権利の濫用であって許されないとして、原告の請求をいずれも棄却した。確かに、被告は、原審における弁論の当初の段階で権利濫用の主張をしたが、その際、原審裁判所から無効審判請求をするか否かについて釈明を求められたのに対し、無効審判請求はしない旨回答した。そのため、原審におけるその後の審理は、専ら被告コントロールケーブルが本件発明の技術的範囲に属するか否か(特に、構成要件B「前記亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が1〜10重量%のアルミニウムを含み」の技術的意義)についてされ、原告は、被告が展開する構成要件非該当論に反論してきた。
このように原審における審理が進む中で、被告の権利濫用の主張は、準備書面に記載されてはいたものの、弁論に際して言及されることもなく、問題とされることのないままであった。しかるに、原審裁判所は、意外にも被告の仮定抗弁を先取りした判決をした。これは、原告にとって不意打ち以外の何ものでもない。したがって、本件控訴に理由があると認められる場合は、審級の利益等に配慮し、民事訴訟法308条1項を適用して、本件を原審裁判所に差し戻すことを求める。
【被告の主張】原審における弁論の当初において、被告が無効審判請求はしない旨を述べたことは認める。しかし、特許庁に対する無効審判請求と特許権侵害訴訟における明白な無効原因の主張(権利濫用の抗弁)とは連動して行わなければならないものではない。被告は、無効審判請求をするまでもなく、特許権侵害訴訟における権利濫用の抗弁のみで十分であるとの判断の下に、本件において後記(4)ないし(6)の【被告の主張】のとおり権利濫用の抗弁を主張した。原告は、原審において、これに対する反論及び被告の再反論に対する再々反論を行っているから、その上でされた原判決は、原告にとって決して不意打ちとはいえない。
(2)構成要件A「導管または内索の少なくとも一方の表面に亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が設けられている」の充足性【原告の主張】ア本件発明(請求項1)の技術的範囲は、特許請求の範囲に基づいて定められるべきである(特許法70条1項)。そして、本件明細書の記載上、金属と非金属の組合せを排除する記載や、かかる組合せを排除するような出願経過は一切存在しない。
この点に関する被告コントロールケーブルの構成は、原判決別紙イ号物件目録1aのとおりであり、被告コントロールケーブルは、本件発明の構成要件Aを充足する。これに反する被告の主張は否認する。
イ前記構成要件Aの「導管または内索の少なくとも一方の表面に亜鉛―アルミニウム合金メッキ層が設けられているコントロールケーブルにあって、」にいう「導管の…表面」とは、導管の内面、すなわち「導管が内索と接触する面」をいうことは、本件発明の課題が、導管と内索とが互いに接触する面の滑り性(耐食性も)を向上させることにあること(本件公報3欄45行〜47行)からしても明らかである。
また、「導管または内索の少なくとも一方の表面に亜鉛―アルミニウム合金メッキ層が設けられている」との文言によれば、亜鉛―アルミニウム合金メッキ層が設けられている導管又は内索と対向する他方の内索又は導管の材質は金属に限定されていないことが明らかである。この点については、本件特許出願当時、既に市場にはコントロールケーブルの導管としては、導管の内索と接触する表面に金属メッキが施された導管と合成樹脂が使用されている導管がいずれも一般的に流通しており、しかも、スティックスリップは、物と物を摺り合わせたときに生じる「きしみ」現象を指すもので、金属間のみで問題となるものではないところ、本件明細書の発明の詳細な説明中には、「導管としてはたとえば第1図に示すようなアウタスプリング(3)を有する導管(2)が用いられるが、かかるものに限定されるものではない。」と記載されていること(本件公報5欄45行〜47行)、本件明細書には、金属と非金属(合成樹脂)の組合せを排除するような記載がなく、そのような出願経過もないことからも裏付けられる。
したがって、被告コントロールケーブルのように、導管の内索と接触する表面に合成樹脂を使用し、対向する内索に亜鉛―アルミニウム合金メッキ層を使用している構成であっても、当然、上記「導管または内索の少なくとも一方の表面に亜鉛―アルミニウム合金メッキ層が設けられているコントロールケーブル…」との文言で表わされる範囲に包摂される。
【被告の主張】ア本件発明の主要な目的・効果は、内索に施した金属メッキと同種の金属メッキを、導管のアウタスプリングに施してなるコントロールケーブルに特有に見られるアウターケーシングと内索間で生じる「金属凝着」による滑りの悪さ、いわゆる「きしみ」現象(スティックスリップ)を防止することにある。このような本件発明の主な目的・効果に照らすと、本件発明の構成要件Aにいう「導管または内索の少なくとも一方」とは、「該一方の導管又は内索と対向する他方の内索又は導管の表面は、メッキなしの鋼それ自体が露出しているか、又は鋼の表面に設けた何らかの金属(合金を含む。)メッキ層が露出している」ことを暗黙の技術的前提とする概念というべきである。
被告コントロールケーブルは、「導管または内索」の一方であるインナーケーブル(9)の表面に亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が設けられているものの、上記インナーケーブル(9)と対向するアウターケーシング(10、11)の表面は、原判決別紙イ号物件目録1aのとおり、合成樹脂製のライナー(15)になっており、「一方の導管又は内索と対向する他方の内索又は導管の表面は、メッキなしの鋼それ自体が露出しているか、又は鋼の表面に設けた何らかの金属(合金を含む。)メッキ層が露出している」ことを欠く。したがって、被告コントロールケーブルは、上記構成要件を充足しない。
イ本件明細書の発明の詳細な説明中の[発明が解決しようとする課題](本件公報3欄34行〜47行)、[作用および実施例](同4欄34行〜46行、9欄24行〜40行、10欄25行〜35行)及び[発明の効果](同11欄末行〜12欄33行)についての記載によると、本件発明の主要な解決課題(目的)かつ効果である「スティックスリップを生じない」ことや、「滑り性にすぐれる」ことは、内索に施した金属メッキと同種の金属メッキを、導管のアウタスプリングに施してなるコントロールケーブルに特有に見られる導管・内索の表面相互間の「金属同士の凝着やかじり」(同10欄27行)による滑りの悪さ、いわゆる「きしみ」現象(スティックスリップ)を防止することであることは明らかである。
また、原告は、本件特許の出願審査過程において、特許庁審査官が発した平成10年3月13日付け拒絶理由通知書(乙4)に対して、同年6月1日付けで意見書(乙5)を提出し、同意見書の中で、本件発明が、従来のコントロールケーブルにおける「同種の金属メッキを施した導管と内索を組み合わせると両者間で凝着が起こり、スティックスリップが発生して、操作フィーリングが悪化する」という欠点にかんがみてなされたものであり、「スティックスリップを生じない」という効果は「導管内索に亜鉛―アルミニウム合金メッキが設けられている」場合における「格別顕著な効果」であることを強調していた。このことから、「スティックスリップを生じない」という効果は、「導管内索に亜鉛―アルミニウム合金メッキが設けられている」という構成を前提とした効果であることは歴然としている。
(3)構成要件B「前記亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が1〜10重量%のアルミニウムを含み」の充足性等【原告の主張】ア本件発明の解決課題はコントロールケーブル表面の滑り性、耐食性の向上にあるから、構成要件Bにいうアルミニウムの重量割合も、そのような作用効果を奏するもの(極論すれば、仮にメッキ層内部にアルミニウム10重量%を超える部分がたまたまあったとしても、本件発明の作用効果には全く影響しない。)として、コントロールケーブルの全体において判断すべきものである。
そして、本件明細書に「前記メッキ層中の組成は一般的にメッキ浴の組成がそのままあらわれるので、メッキ浴の組成を調整することにより調整しうる。」(本件公報5欄10行〜12行)と記載されているとおり、製造者が亜鉛-アルミニウム合金メッキ層のアルミニウム含有量を管理するには、メッキ浴の濃度を管理するほかないから、このような重量割合の管理の実情にかんがみると、1〜10重量%のアルミニウム及び残部亜鉛を標準組成とするメッキ浴において溶融メッキを行ったのであれば、上記構成要件を充足するというべきである。
イ被告コントロールケーブルにおける亜鉛-アルミニウムメッキ浴における重量割合は、アルミニウムが約5重量%であり、残部が亜鉛であるから、上記構成要件を充足する。
仮に被告主張の伸線加工によりメッキ層の半分近くが削れ、そのすべてが亜鉛だったとしても、被告の自認するメッキ浴の重量割合(Alが5.1〜5.2重量%であり、残部がZn)を前提とする限り、アルミニウムの重量割合が10重量%を超えることはない(溶融Zn-Al合金メッキ浴における含有割合がZn:Al=95:5であれば、伸線の過程でメッキ層が半分近く削れ、そのすべてがZnであったとしても、含有割合はZn:Al=45:5となるにすぎない。)。実際上も、川鉄テクノリサーチ株式会社の分析試験結果報告書(甲11、12)によれば、被告コントロールケーブルのインナーケーブル表面の亜鉛-アルミニウム合金メッキ層のアルミニウム重量割合は7.23〜8.13重量%であり、被告に原材料を納入する日本フレックス工業株式会社製造のコントロールケーブルの上記アルミニウム重量割合も7.91〜8.00重量%であるから、やはり被告コントロールケーブルは上記構成要件を充足する。
被告主張の伸線加工について反論すれば、伸線加工の前後を比較しても、川鉄テクノリサーチ株式会社の分析試験結果報告書(甲13、14)によれば、そのアルミニウム重量割合にほとんど差はなかった。また、被告主張の腐食のメカニズムについて反論すれば、亜鉛-アルミニウム合金メッキ層に関する局部電池の一般論をいうにすぎず、本体部分の耐食性に直結した問題ではなく、実際の被告コントロールケーブルにおいても、腐食電池を原因として使用上問題となるような腐食が発生することも立証されていないから、失当である。
【被告の主張】ア原告主張のように、亜鉛-アルミニウムメッキ層のアルミニウム含有割合が全体的にみて10重量%以内であったとしても、同メッキ層の一部にアルミニウム含有割合が10重量%を超える部分があれば、局部電池(腐食電池)の作用により、孔食や粒界腐食等の腐食が本体部分にまで進行する(本件公報の第8図、第9図の「赤錆発生時間」参照)ことになり、本件発明の主要な作用効果である耐食性を奏しないことになる。本件明細書が本件発明の効果の主要なものとして耐食性を掲げ、メッキ層中におけるアルミニウム含有割合が10重量%を超えると耐食性が悪くなるとして、特許請求の範囲に記載したアルミニウム含有割合の上限値につき臨界的意義を述べている以上、その上限値を超える場合には、上記構成要件を充足しないというべきである。
イ被告コントロールケーブルのインナーケーブルの原料である硬鋼線(亜鉛メッキ後に亜鉛-アルミニウムメッキを施したもの)のメッキ層断面は、三菱マテリアル株式会社関西分析センターの依頼試料測定報告書(乙9)のとおり、アルミニウム成分は亜鉛系メッキ層の中では不均一に分布している。そして、被告コントロールケーブルのインナーケーブルは、この硬鋼線に伸線加工を施して得られた細線を複数本撚り合わせて製造されるものであり、伸線加工とは、伸線ダイスに母線(太線)の先端を臨ませ、該ダイスを通過する際の抵抗に打ち勝って線を引き抜くことにより線の断面積を減少させて線長を引き延ばすものである(乙10の図参照)。この伸線加工により得られた細線のメッキ層は、ダイス通過時の高抵抗摩擦によりメッキ層の表面側が荒々しく削られるため、伸線加工後の細線の表面に残存するメッキ層の厚みは決して一様ではない。細線の長手方向(軸方向)部位ごとに細線表面の残存メッキ層の厚みは異なるほか、表面部の削られ具合は中心軸との関係においても正確な軸対称ではないため、細線の円周方向部位が相違することによっても残存メッキ層の厚みに相違を生じる。東邦亜鉛株式会社の分析報告書(乙15)によれば、確かに、被告コントロールケーブルにおける亜鉛-アルミニウムメッキ浴の重量割合はアルミニウム約5.1〜5.2重量%、残部亜鉛ではあるが、上記のような伸線加工の結果、インナーケーブル(9)表面の亜鉛-アルミニウム合金メッキ層のアルミニウム重量割合は、長手方向部位及び円周方向部位ごとに異なり、
1重量%未満の所もあれば、10重量%を超える所もあるから、上記構成要件を充足しない。仮に被告コントロールケーブルが上記構成要件を充足するとすれば、10重量%を超える所もある被告コントロールケーブルは、本件発明の主要な作用効果である耐食性を奏しない(作用効果不奏)というべきである。
(4)明白な無効理由その1-進歩性欠如【被告の主張】本件特許には次のような無効理由が存在することが明らかであるから、本件特許権に基づく請求は権利の濫用として許されない。すなわち、
ア本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物1(乙2公報:公開日昭和57年7月21日、発明の名称「インナーワイヤー」)によれば、(従来品には)インナーワイヤーとして使用する際に滑り性が悪いばかりでなく、耐腐食性が特に悪い欠点があることから、原材料の鋼線に亜鉛と錫を二重に鍍金した構成が記載されている。
イ本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物2(乙3公報:公開日昭和62年2月26日、発明の名称「亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼線の製造方法」)によれば、亜鉛メッキよりも耐食性に優れるメッキとして、亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が記載されており、特にその実施例には、Zn-Al合金浴中のAl濃度を、線径3.2oの場合に5%、線径4.0oの場合に10%とする旨が記載されている。
ウしたがって、刊行物1の発明には耐腐食性が課題の一つとして記載されているのであるから、刊行物2に記載された「亜鉛メッキよりも耐腐食性に優れている亜鉛-アルミニウムメッキ層」を刊行物1記載の構成におけるメッキ層として設けることに何らの阻害要因はなく、当業者であれば、刊行物1、2の発明に基づき本件発明を容易に想到し得たというべきである。
原告主張のように、「滑り性」がコントロールケーブルにおける重要な性能であるとしても、それは、刊行物1や本件明細書の従来の技術の項に引用されている実公昭54-25500号実用新案公報(乙25の1・2)によれば、当業者にとっては周知の事柄であったから、刊行物1、2を組み合わせるにつき阻害要因となるものではない。したがって、本件発明は進歩性を有しないというべきである。
【原告の主張】アコントロールケーブルの技術分野においては、より小さな力でインナーケーブルを操作できること、すなわち、「滑り性」に優れていることが重要な評価基準となっている。この「滑り性」は、コントロールケーブル特有の特性であり、
他の一般的なワイヤでは考慮されない特性である。しかるところ、刊行物1及び刊行物2のいずれにも、亜鉛-アルミニウム合金のメッキ層がコントロールケーブルにおける「滑り性」を向上させることにつき、何らの記載も示唆もないのであるから、亜鉛-アルミニウム合金の組み合わせによるメッキ層がコントロールケーブルにおける「滑り性」を向上させるという本件発明に進歩性があることは明らかである。
進歩性の判断に当たっては、技術分野の同一性ないしは関連性が要求されるべきところ、コントロールケーブルのインナーワイヤーは、鋼線を撚り合わせたものである点で一般的なワイヤと共通するが、用途及び要求される特性において、全く異なり、力の伝達手段としてワイヤを用いるという意味において、コントロールケーブルは極めて特殊な技術分野である。
文献を見ても、財団法人日本規格協会(以下「日本規格協会」という。)発行の「JISハンドブック鉄鋼U(2001年版)」(甲16)によれば、コントロールケーブルのインナーワイヤーの用途に近い操作用ワイヤロープにさえ、「滑り性」に関する評価項目が一切出てこない。機械工学又は工業材料の代表的な書籍を見ても、産業図書株式会社発行の「改訂機械工学大意」(甲17)にはそもそもコントロールケーブルに関する記載がない。日本規格協会発行の「JIS工業用語大辞典(第3版)」(甲18)には、医療器具に関するコントロールケーブルシステムの名称はあるが、自動車のウィンドレギュレータの場合に技術上不可欠な「滑り性」が要求されていない。自動車向けコントロールケーブルに関する記載は、日本規格協会発行の「JISハンドブック自動車部品(2001年)」(甲19)においてわずかに見られるにとどまる。
このように、コントロールケーブルのインナーワイヤーは、一般的なワイヤ(元来引っ張り荷重に耐える部材であり、主に要求される特性は「引っ張り強度」である。)とは、用途及び要求される特性において全く異なる特殊な技術分野にあるから、一般のワイヤに関するものであり、その課題を(「滑り性」とは無関係の)不メッキ部分の発生防止やメッキ高付着量の確保とする刊行物2をコントロールケーブルにおけるインナーワイヤーに関する刊行物1に組み合わせることは決して容易ではない。
ウしたがって、本件発明は進歩性を有するというべきである。
(5)明白な無効理由その2-進歩性欠如【被告の主張】本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である実公昭54-25500号実用新案公報(乙25の1)の補正(乙25の2。発行日昭和57年4月17日)の発明に、同じく本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開昭62-4859号公開特許公報(乙26。公開日昭和62年1月10日)の発明を組み合わせることによって、当業者であれば、容易に本件発明に想到し得たものというべきである。
したがって、この点でも、本件特許には無効理由が存在することが明らかであるから、本件特許権に基づく請求は権利の濫用として許されない。
【原告の主張】被告の前記主張は争う。
(6)明白な無効理由その3-進歩性欠如【被告の主張】本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である実公昭54-25500号実用新案公報(乙25の1)の補正(乙25の2。発行日昭和57年4月17日)の発明に、同じく本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物2(乙3)の発明を組み合わせることによって、当業者であれば、容易に本件発明に想到し得たものというべきである。
したがって、この点でも、本件特許には無効理由が存在することが明らかであるから、本件特許権に基づく請求は権利の濫用として許されない。
【原告の主張】被告の前記主張は争う。
(7)原告の損害【原告の主張】イ号物件の販売により得た被告の利益は、原判決別紙損害一覧表記載のとおりである(原告は、このうち2300万円を請求する。)。
【被告の主張】原告の前記主張事実は否認する。
第3当裁判所の判断1当裁判所も、原告の請求はいずれも理由がないものと判断する。
その理由は、以下のとおりである(ただし、2ないし4のうちゴシック体(編注:表示上斜体で置き換えた。)で記載した箇所以外は、原判決理由中の説示とほぼ同旨である。)。
2争点(1)(差戻しの必要性)について(1)原告は、原審裁判所が被告の仮定抗弁(権利濫用の抗弁)を先取りして、
原告にとって不意打ちの判決をしたと主張して、本件控訴に理由があると認められる場合は、審級の利益等に配慮し、民事訴訟法308条1項を適用して、本件を原審裁判所に差し戻すことを求めている。
(2)記録によれば、@原告は、平成14年7月30日に本件訴訟を提起し、原審裁判所は、同年9月9日の第1回口頭弁論期日以降、侵害論について審理し、損害論の審理に入らないまま、平成15年10月15日の第10回口頭弁論期日に弁論を終結したこと、Aその間、原告・被告双方は、被告コントロールケーブルが本件発明の技術的範囲に属するか否か(争点(2)、(3))について、争点(3)の構成要件B「前記亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が1〜10重量%のアルミニウムを含み」の技術的意義を中心に主張、立証をしたこと、Bその一方で、被告が、平成14年10月24日の第2回口頭弁論期日に陳述した同月18日付け被告第1準備書面において、明らかな特許無効原因に基づく権利濫用の抗弁を主張したことから、原告・被告双方は、本件特許に明白な無効理由があるか否か(争点(4)ないし(6))についての主張(原告の反論・再々反論、被告の再反論・補充主張・追加主張)及び立証をしたこと、C被告は、上記第2回口頭弁論期日に、無効審判請求の予定はない旨陳述し、実際にも本件特許の無効審判請求をしていないことが認められる(記録上明らかな事実)。
(3)前記の原審における審理経過に、特許に無効理由が存在することが明らかであるときは、その特許権に基づく差止め、損害賠償等の請求は、訂正審判の請求がされているなど特段の事情がない限り、権利の濫用に当たり許されないとされている(最高裁判所平成12年4月11日第三小法廷判決・民集54巻4号1368頁参照)ところ、前記前提事実(5)のとおり、原告が本件特許権の訂正審判請求をしたのは本件控訴提起後であって、原審当時、訂正審判請求はされていなかったこと、訴訟経済の見地から、請求原因よりも仮定抗弁についての判断を先行させた判決がされることも間々あることに照らすと、原判決が原告にとって不意打ちの判決であるとまでは認め難い。
そして、当審において、原告・被告双方が、本件特許に明白な無効理由があるか否かについて、原判決を踏まえて争点(4)を中心に主張、立証をするとともに、技術的範囲の属否のうち構成要件Aの充足性(争点(2))についても主張、立証をしたことは記録上明らかであり、また、原告の請求をいずれも棄却した原判決が結論において相当であることは、後記のとおりである。
したがって、本件の原審裁判所への差戻しをいう原告の前記主張は採用することができない。
3争点(2)(構成要件Aの充足性)について(1)原告は、「本件発明(請求項1)の技術的範囲は、特許請求の範囲に基づいて定められるべきである(特許法70条1項)。そして、本件明細書の記載上、
金属と非金属の組合せを排除する記載や、かかる組合せを排除するような出願経過は一切存在しない。この点に関する被告コントロールケーブルの構成は、原判決別紙イ号物件目録1aのとおりであり、被告コントロールケーブルは、本件発明の構成要件Aを充足する。」と主張する。
(2)そして、本件特許権の特許請求の範囲請求項1記載の文言、すなわち本件発明の構成要件Aの「導管または内索の少なくとも一方の表面に亜鉛―アルミニウム合金メッキ層が設けられているコントロールケーブルであって」との文言を文理解釈すると、同構成要件には、亜鉛―アルミニウム合金メッキ層が設けられている導管又は内索と対向する他方の内索又は導管の表面(導管については内面。以下同じ。)の材質は金属に限定されず、他方の導管又は内索の表面に金属をメッキしていないコントロールケーブルや、他方の導管又は内索の表面が合成樹脂で被覆されているコントロールケーブルも含まれているとの解釈が成り立つ余地がある。
(3)しかしながら、以下のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明の記載、本件特許の出願経過及び本件特許出願当時の公知技術参酌して、前記請求項1の文言を解釈すると、本件発明の構成要件Aにいう「導管または内索の少なくとも一方」とは、「該一方の導管又は内索と対向する他方の内索又は導管の表面は、メッキなしの鋼それ自体が露出しているか、又は鋼の表面に設けた何らかの金属(合金を含む。)メッキ層が露出している」ことを意味する、すなわち、本件発明のコントロールケーブルは、導管の内面及び内索の材質がいずれも金属(合金を含む。)であるもの(金属〈合金を含む。〉同士の組合せに係るもの)に限定されると解するのが相当である。
ア本件明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある(甲2。以下の括弧内の記載は、本件明細書の発明の詳細な説明の該当部分を指す。以下同じ。)。
@[産業上の利用分野]「本発明はコントロールケーブルに関する。さらに詳しくは、耐食性および滑り性がすぐれたコントロールケーブルに関する。」(本件公報3欄4行〜6行)A[従来の技術]「コントロールケーブルの導管は一般的には鋼線を断面矩形状に圧延し、巻線したいわゆるアウタスプリングから構成される。また内索は複数本の素線を撚り合わせて形成する。かかるコントロールケーブルの使用中に導管から外部に露出した内索の部分に、たとえば雨水などが付着したばあいには、内索に錆を生ずることがある。さらに内索を構成しているストランドや素線の間隙に雨水などが侵入し、いわゆる毛管現象により導管内に雨水が溜り、アウタスプリングに錆を生じさせることがある。そこで導管を構成するアウタスプリングや内索の素線に、亜鉛メッキや錫メッキなどの防錆処理をした鋼線が使用されている。たとえば鋼線に亜鉛メッキや錫メッキを施した後に、その鋼線を圧延し、巻線してアウタスプリングを形成し、さらにその表面上にコートを形成した導管を用いたコントロールケーブルが知られている。また素線に亜鉛メッキ層を設け、撚り合わせて形成した内索、
あるいはその上に錫メッキ層を電気メッキで設けた内索(実公昭54-25500号公報参照)を用いたコントロールケーブルが提案されている。他方、一般の鋼線としては、亜鉛-アルミニウム合金メッキを施して防錆性能を高めたもの(特開昭62-4859号公報参照)が知られており、亜鉛メッキ鋼線を撚り合わせた鋼撚線についてはJIS-G3537で詳細に規定されている。」(本件公報3欄8行〜32行)B[発明が解決しようとする課題]「前記コントロールケーブルは、何らメッキが施されていないものと比較すれば確かに耐食性は向上しているが、比較的短期間で腐食が発生することがあるので、耐食性が不充分である。さらに同種の金属メッキを施した導管と内索を組み合わせると両者間で凝着が起こり、スティックスリップ、すなわちきしみが発生して操作フィーリングが悪化する。また前記亜鉛メッキを施した鋼線を圧延し、
巻線して形成したアウタスプリングと、素線に亜鉛メッキ層を設けて撚り合わせ、
さらに錫メッキを施した内索との組み合わせでもスティックスリップを生ずる。本発明は前記従来品よりもさらに一層耐食性がすぐれ、しかも滑り性がすぐれたコントロールケーブルを提供することを目的としている。」(本件公報3欄34行〜47行)C[作用および実施例](ア)「本発明のコントロールケーブルにおいては、導管または内索の一方に亜鉛-アルミニウム合金メッキを施しているので、他方に他の金属メッキを施したばあいでも従来の亜鉛メッキなどに比してすぐれた滑り性をもたらすが、同種の金属メッキを用いるばあいにとくにすぐれた特徴がある。すなわち従来の亜鉛メッキなどの同種の金属メッキを施した導管と内索を組み合わせると、一般的には両者間の固着力が生じ、スティックスリップを生じるのであるが、本発明のコントロールケーブルでは前記共晶組織のために、同種の金属メッキを用いてもおどろくべきことにスティックスリップを生じないのである。そのためメッキ工程を統合しうるなど、製造上有利になる。」(本件公報4欄34行〜46行)(イ)「第1表からわかるように、亜鉛-アルミニウム合金メッキを施した導管を用いたコントロールケーブル(実施例3、4)は比較例1〜4のコントロールケーブルよりも高い荷重効率をもっている。また亜鉛-アルミニウム合金メッキを施した内索を用いたコントロールケーブル(実施例1、2)のうち実施例1は比較例1と同等の荷重効率をもち、実施例2は比較例2、4よりも高い荷重効率をもっていることがわかる。また従来のコントロールケーブルでは内索と導管に同種の金属をメッキしたばあいは66.0%(比較例1)、67.8%(比較例4)とかなり低い値になっている。しかるに実施例5のコントロールケーブルではおどろくべきことに同種の金属をメッキしているにもかかわらず71.8%と、従来の同種メッキはもちろんのこと、異種金属のメッキをした比較例2〜3のばあいに比してもすぐれた荷重効率を示している。」(本件公報9欄24行〜40行)(ウ)「前記の傾向はスティックスリップの大きさについてとくに顕著である。すなわち同種金属のばあい(比較例1、4)では金属同士の擬着やかじりが生じやすく、比較例1は20sもの大きいスティックスリップが生じている。しかるに実施例5のコントロールケーブルでは同種金属であるにもかかわらず、スティックスリップの値が0となっている。なお本発明のコントロールケーブルでは相手に異種のメッキ材料を用いたばあい(実施例1〜4)でもスティックスリップが0となっており、比較例1〜4に比してすぐれたすべり特性がえられることがわかる。」(本件公報10欄25行〜35行)D[発明の効果]「本発明のコントロールケーブルは、耐食性にすぐれた亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が内索または導管に設けられている。そのためたとえば雨水が付着するような環境の下で使用したばあいであっても従来品よりも長時間腐食に耐えうるものである。しかもかかる亜鉛-アルミニウム合金メッキ層は滑り性にすぐれたものであり、しかも内索および導管に同種の金属をメッキしたばあいであっても、金属同士のかじりがなく、スティックスリップを生じない。」(本件公報11欄末行〜12欄33行)イ前記前提事実(4)及び証拠(乙4、5)によれば、本件特許の出願過程において、特許庁審査官が発した平成10年3月13日付け拒絶理由通知書(乙4)に対して、原告は、同年6月1日付け意見書(乙5)を提出し、同意見書の中で、
「本願発明のコントロールケーブルは、『鋼線を断面矩形状に圧延し、巻線したアウタスプリングから構成される導管と、複数本の素線を撚り合わせて形成した内索とからなり、当該導管のアウタスプリングや内索の素線に亜鉛メッキや錫メッキが施されてなる』従来のコントロールケーブルにおける『耐食性が不充分』および『同種の金属メッキを施した導管と内索を組み合わせると両者間で凝着が起こり、
スティックスリップが発生して、操作フィーリングが悪化する』という欠点に鑑みてなされたものであり、特許請求の範囲の記載(請求項1参照)から明らかなように、『(A)導管または内索の少なくとも一方の表面に(B)亜鉛―アルミニウム合金メッキ層が設けられている』ことを構成上の特徴としておるのであります。
本願発明のコントロールケーブルは、かかる構成上の特徴により『耐食性および滑り性に優れ』、かつ『導管および内索に亜鉛―アルミニウム合金メッキ層が設けられていても、スティックスリップを生じない』という格別顕著な効果を奏するのであります。」として、「スティックスリップを生じない」という効果は「導管内索に亜鉛―アルミニウム合金メッキ層が設けられている」場合の効果であることを強調していたことが認められる。
ウ特許出願公告昭37―4803号特許公報(公告日昭和37年6月16日、発明の名称「プッシュ・プル・ケーブル」〈甲32〉)、社団法人自動車技術会の自動車規格「JASOF903-75自動車用コントロールケーブル」(制定昭和43年、改訂昭和50年〈甲30〉)及び同「JASOT001-76二輪自動車用コントロールケーブル」(制定昭和47年、改訂昭和51年〈甲31〉)によれば、本件特許出願前から、アウターケーシング(導管)の材料に合成樹脂が使われており、インナーケーブル(内索)と対向する面(内面)を合成樹脂にしたアウターケーシング(導管)を用いたコントロールケーブルは、本件特許出願前から公知であったことが認められる。
また、上記公報には、「経験の示す処によれば、樹脂のプラスチック管はケーブルが伝達し得る力を軽減することなくまたいっぱいの荷重のもとにあってのケーブルの使用寿命あるいはその効率(即ち入力に対する出力の割合)を減少することなく、プッシュ・プル囲匣の内方成分として利用されることができる。実際にこのような管にあってはある場合にはケーブルの使用寿命とその効率とは増大され、また潤滑油なしに作働されなければならないケーブルにあって作働の静しゅくと平滑とは実質的に改善される。」と記載されており(同公報1頁右欄下から2行〜2頁左欄9行)、アウターケーシング(導管)の内面と、潤滑油なしに作働されなければならないケーブル(インナーケーブル:内索)との「作働の静しゅく」及び「作働の平滑」、すなわち本件発明にいう「滑り性」が問題となっていたことも本件特許出願前から公知であったことが認められる。
さらに、日本規格協会発行の「摩擦のおはなし」(昭和60年3月1日第1版第1刷発行〈甲27〉)によれば、スティックスリップ、すなわちスティック‐スリップ(「付着‐滑り」ともいう。)現象は、金属同士の間でのみ問題となるのではなく、金属(鋼)と合成樹脂の組合せによっても問題となることが本件特許出願前から公知であったことが認められる。
エ前記のとおり、内面を合成樹脂にした導管(アウターケーシング)を用いたコントロールケーブルは本件特許出願前から公知であり、スティックスリップは、金属同士の間でのみ問題となるものではないことも本件特許出願前から公知であったにもかかわらず、本件明細書の発明の詳細な説明中には、これらのことについて何らの記載がないばかりか、同[作用および実施例]に記載された実施例及び比較例も、いずれも金属同士の組合せに係るものであって、金属と非金属(合成樹脂を含む。)との組合せに係るものは全く掲げられていないことが認められる(甲2)。このことと本件特許の前記出願経過を前提にして、本件明細書の発明の詳細な説明中の前記[産業上の利用分野]、[従来の技術]、[発明が解決しようとする課題]、[作用および実施例]及び[発明の効果]についての記載を読むと、本件発明の解決課題及び作用効果のうち「耐食性にすぐれる」ことは、亜鉛-アルミニウム合金メッキ自体が従来の亜鉛メッキ等の金属メッキよりも耐食性が高いことにあるのに対し、「滑り性にすぐれる」ことや、「スティックスリップを生じない」ことは、導管又は内索の一方の表面に亜鉛-アルミニウム合金メッキを施すことによって、他方の表面にも金属メッキ(特に同種の金属メッキ)を施した場合に見られる導管・内索の表面相互間の「金属同士の凝着やかじり」による滑りの悪さ、いわゆる「きしみ」現象(スティックスリップ)を防止することにあることは明らかである。
オ以上によれば、本件発明の構成要件Aにいう「導管または内索の少なくとも一方」とは、「該一方の導管又は内索と対向する他方の内索又は導管の表面は、メッキなしの鋼それ自体が露出しているか、又は鋼の表面に設けた何らかの金属(合金を含む。)メッキ層が露出している」ことを意味するものであって、本件発明のコントロールケーブルは、導管の内面及び内索の材質がいずれも金属(合金を含む。)であるもの、すなわち金属(合金を含む。)同士の組合せに係るものに限定されると解するのが相当である。
(4)ところが、被告コントロールケーブルは、「導管または内索」の一方であるインナーケーブル(9)の表面に亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が設けられているものの、上記インナーケーブル(9)と対向するアウターケーシング(10、
11)の表面(導管の内面)は、原判決別紙イ号物件目録1aのとおり、合成樹脂製のライナー(15)になっているから、本件発明の構成要件A(導管の内面及び内索の材質がいずれも金属〈合金を含む。〉であること、すなわち金属〈合金を含む。〉同士の組合せに係るものであること)を充足せず、本件発明の技術的範囲に属さない。
したがって、原告の前記主張は採用することができない。
(5)そうすると、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないが、前記のとおり、本件発明の構成要件Aの「導管または内索の少なくとも一方の表面に亜鉛―アルミニウム合金メッキ層が設けられているコントロールケーブルであって」の文言を文理解釈すると、同構成要件には、亜鉛―アルミニウム合金メッキ層が設けられている導管又は内索と対向する他方の内索又は導管の表面(導管については内面。以下同じ。)の材質は金属に限定されず、他方の導管又は内索の表面に金属をメッキしていないコントロールケーブルや、他方の導管又は内索の表面が合成樹脂で被覆されているコントロールケーブルも含まれているとの解釈が成り立つ余地があるので、念のために、上記解釈を前提にして、争点(4)についても判断する。
4争点(4)(明白な無効理由その1-進歩性欠如)について(1)本件発明の要旨は、本件特許権の特許請求の範囲請求項1記載のとおり、
「導管または内索の少なくとも一方の表面に亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が設けられているコントロールケーブルであって、前記亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が1〜10重量%のアルミニウムを含み、残部が亜鉛であるコントロールケーブル」である。
本件明細書中には、本件発明について、次のとおりの説明がある(甲2)。
ア産業上の利用分野本件発明は、耐食性及び滑り性が優れたコントロールケーブルに関するものである。
イ従来技術一般に、コントロールケーブルの導管は、鋼線を断面矩形状に圧延し、
巻線したいわゆるアウタスプリングから構成され、内索は複数本の素線を撚り合わせて形成される。かかるコントロールケーブルの使用中に導管から外部に露出した内索の部分に、例えば雨水などが付着した場合には、内索に錆を生ずることがある。さらに、内索を構成しているストランドや素線の間隙に雨水などが侵入し、いわゆる毛管現象により導管内に雨水が溜り、アウタスプリングに錆を生じさせることがある。そこで、従来、導管を構成するアウタスプリングや内索の素線に、亜鉛メッキや錫メッキなどの防錆処理をした鋼線が使用されており、例えば、鋼線に亜鉛メッキや錫メッキを施した後に、その鋼線を圧延し、巻線してアウタスプリングを形成し、さらにその表面上にコートを形成した導管を用いたコントロールケーブルが知られていた。また、素線に亜鉛メッキ層を設け、撚り合わせて形成した内索、あるいは、その上に錫メッキ層を電気メッキで設けた内索(実公昭54-25500号公報〈乙25の1〉)を用いたコントロールケーブルが提案されていた。他方、一般の鋼線としては、亜鉛-アルミニウム合金メッキを施して防錆性能を高めたもの(特開昭62-4859号公報〈乙26〉)が知られており、亜鉛メッキ鋼線を撚り合わせた鋼撚線についてはJIS-G3537(日本規格協会発行の「JISハンドブック鉄鋼(1985年版)」〈乙27〉)で詳細に規定されていた。
ウ解決しようとする課題・課題を解決するための手段前記コントロールケーブルは、何らメッキが施されていないものと比較すれば確かに耐食性は向上しているが、比較的短期間で腐食が発生することがあるので、耐食性が不充分である。さらに、同種の金属メッキを施した導管と内索を組み合わせると両者間で凝着が起こり、スティックスリップ、すなわちきしみが発生して操作フィーリングが悪化する。また、前記亜鉛メッキを施した鋼線を圧延し、
巻線して形成したアウタスプリングと、素線に亜鉛メッキ層を設けて撚り合わせ、
さらに錫メッキを施した内索との組み合わせでもスティックスリップを生ずる。そこで、本件発明は、前記従来品よりも更に一層耐食性が優れ、しかも滑り性が優れたコントロールケーブルを提供することを目的として、本件発明の構成要件所定の構成を備えることとしたものである。
エ作用効果本件発明のコントロールケーブルは、耐食性に優れた亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が内索又は導管に設けられているため、例えば、雨水が付着するような環境の下で使用した場合であっても、従来品よりも長時間腐食に耐え得る。しかも、かかる亜鉛-アルミニウム合金メッキ層は滑り性に優れたものであり、内索及び導管に同種の金属をメッキした場合であっても、金属同士のかじりがなく、スティックスリップを生じないという作用効果を奏する。
(2)他方、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物1(乙2公報:公開日昭和57年7月21日、発明の名称「インナーワイヤー」)に記載された従来技術は、その明細書によれば、次の内容を有するものである(以下の括弧内の記載は、同明細書の発明の詳細な説明の該当部分を指す。)。
ア「本件発明は、細線を撚り合わせて鋼索を構成するインナーワイヤーに関するもの」である(乙2公報1頁左下欄10行〜11行)。「従来から製作されているインナーワイヤー等は、材料の鋼線を焼加工から伸線加工し、所望の本数を撚り合わせて、斯る后に錫鍍金を施したもの、又は材料鋼線に亜鉛層を設けた后に伸線されたものを、所望の本数撚り合わせてワイヤー単体としたものに、錫の電気鍍金を施したものが知られている。」(乙2公報1頁左下欄下から4行〜右下欄3行)イ「しかるに上記従来品は、耐腐食性、耐摩耗性及び滑り性に多くの欠点があった。即ち、従来品の前者は、伸線加工を施したものに錫鍍金を施して所望の本数を撚り合わせたものであるから、錫鍍金の表面に鍍金による多数の凹凸及びピンホールが生じて、インナーワイヤーとして使用する際には滑り性が悪いばかりでなく、耐腐食性が特に悪い欠点がある。更に従来品の后者は、伸線して所望の細線を撚り合わしてワイヤー単体を構成したものに錫の鍍金を施しているので、撚り合わした細線全体が錫層で囲繞されているので、耐腐食性にはそれなりの効果があるが、鍍金の際の凹凸及びピンホールによって、ワイヤーがアウター管の中で滑りが悪くなるとともに、伸線された細線1本1本の全周を囲繞するように鍍金されないので、錫鍍金されていない部分はピンホールからの水分の含侵によって腐食が早まる恐れがある。」(乙2公報1頁右下欄4行〜2頁左上欄3行)ウそこで、刊行物1の発明は、製作容易かつ滑り性、耐摩耗性、耐腐食性に優れた効果を発揮するものを提供することを目的として(乙2公報1頁左下欄11行〜14行)、その特許請求の範囲所定の構成を備えることとしたものである。
「従来品は耐腐食性に大きな欠陥があったばかりでなく耐摩耗性においても欠点があったが、本発明はそれらを悉く解消し」(乙2公報2頁左下欄8行〜10行)、
「耐摩耗性、耐腐食性、滑り性、防錆性に優れた効果を発揮するインナーワイヤーを提供すること」ができる(乙2公報2頁右下欄2行〜4行)。
(3)ア本件発明にいう「コントロールケーブル」と刊行物1にいう「インナーワイヤー」との関係につき検討すると、前記(1)及び(2)について判示した各明細書の記載内容のほか、本件特許出願手続の経過を見ても、平成10年3月13日付け拒絶理由通知書(乙4。刊行物1をその根拠の一つとしている。)、原告の同年6月1日付け意見書(乙5)、同年12月10日付け拒絶査定(乙6)、原告の平成11年3月2日付け手続補正書(乙7)及び原告の同年5月17日付け審判請求理由補充書(乙8)という特許出願手続の過程で、原告自身も「コントロールケーブル」と「インナーワイヤー」とが無関係なものであるとは主張していないこと、刊行物1の発明も、本件発明と同様に、滑り性や耐腐食性の向上を技術課題とすることに照らせば、本件発明の「コントロールケーブル」の内索が刊行物1の「インナーワイヤー」に相当するものと解される。
イしたがって、技術内容がコントロールケーブルに関するものである点では本件発明と刊行物1の従来技術とは一致しており、本件発明のコントロールケーブルの内索と刊行物1のインナーワイヤー従来技術とを対比すれば、両者は次の点で相違する。すなわち、刊行物1のインナーワイヤー従来技術が、そのメッキ層が錫鍍金を施したもの又は亜鉛層を設けた後に錫鍍金を施したものである(本件明細書の発明の詳細な説明中の[従来の技術]に記載されている「内索の素線に(中略)錫メッキなどの防錆処理をした鋼線」や、「素線に亜鉛メッキ層を設け、撚り合わせて形成した内索、あるいはその上に錫メッキ層を電気メッキで設けた内索(実公昭54-25500号公報参照)」と同様のものである。)のに対し、本件発明は、コントロールケーブルの内索(インナーワイヤー)のメッキ層が1〜10重量%のアルミニウムを含み、残部が亜鉛である亜鉛-アルミニウム合金メッキ層である(構成要件A、B)点で相違する。
ウそこで、前記相違点について検討すると、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物2(乙3公報:公開日昭和62年2月26日、発明の名称「亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼線の製造方法」)の発明の詳細な説明中には、
次の記載があることが認められる(以下の括弧内の記載は、同明細書の発明の詳細な説明の該当部分を指す。ただし、同明細書の記載にかかわらず、促音はすべて「っ」又は「ッ」と表記する。以下同じ。)。
@(従来の技術)「近年、亜鉛めっきよりも耐食性に優れ、且つアルミニウムめっきよりも加工性に優れた鉄鋼製品への溶融めっきとして、アルミニウム添加量約3%以上の亜鉛-アルミニウム合金浴にて亜鉛-アルミニウム合金めっきを行なう方法が開発され、一部実用化されているのは、周知の通りである。」(乙3公報1頁右下欄12行〜17行。なお、日刊工業新聞社発行の「ワイヤロープハンドブック」〈乙16〉には、亜鉛にアルミニウムを添加すると、耐食性改善等の利点があり、
鋼線への溶融めっきへの応用として、1970年後半に日本や欧州で開発されたZn-5%Al系合金めっきなどがある旨の上記と合致する記載があるほか、本件明細書の発明の詳細な説明[従来の技術]にも、「亜鉛-アルミニウム合金メッキを施して防錆性能を高めたもの(特開昭62-4859号公報参照)が知られており」とあり〈本件公報3欄28行〜30行〉、本件特許出願当時の原告自身の認識とも合致する。)「亜鉛-アルミニウム合金めっきは、同一厚さであれば亜鉛めっきより耐食性がはるかに優れていることは種々の文献によって明らかである」(乙3公報2頁左下欄8行〜10行)A(発明が解決しようとする問題点)「本発明方法は溶融亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼線を製造するに当り、(中略)耐食性に優れ、且つ、美麗な表面肌を有し、更に加工性に優れた亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼線を提供せんとするものである。」(乙3公報2頁右下欄6行〜12行)B(問題点を解決するための手段)「本発明方法に於いては、溶融亜鉛浴槽と高濃度のアルミニウムを添加した溶融亜鉛-アルミニウム合金浴槽を夫々別個に設置し、被めっき鋼線は従来の亜鉛めっき鋼線と全く同一のフラックス処理-乾燥工程を経た後、最初に溶融亜鉛浴に入り亜鉛めっきされる、次いで直ちに高濃度のアルミニウムを添加した溶融溶融亜鉛-アルミニウム合金浴に装入され亜鉛-アルミニウム合金めっきされた後、該合金浴より垂直に引上げられる。」(乙3公報2頁右下欄下から7行〜3頁左上欄2行)「以下に本発明方法について実施例を図面に従って詳述する。
図面は本発明亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼線の製造工程の一例である。従来の溶融亜鉛めっきと全く同じフラックスにて処理され、乾燥工程を経た鋼線1は先ず溶融亜鉛浴槽2内の溶融亜鉛浴3に装入され、亜鉛めっきされる。溶融亜鉛浴3には合金層の発達を抑制するため、0.1〜0.2%のアルミニウムが添加されている。(中略)亜鉛めっきされた鋼線1は次いで浴槽4内の高濃度のアルミニウムを添加した溶融亜鉛-アルミニウム合金浴5に装入され、亜鉛-アルミニウム合金めっきが行なわれる。」(乙3公報3頁左上欄下から4行〜同頁右上欄12行)C(実施例)「表に本発明方法によって製造された亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼線の製造条件及び性能の一例を示す。」(乙3公報4頁左下欄1〜3行)(同表の「Zn-Al合金浴中のAl濃度(%)」欄記載の数値)線径3.2oの実施例の場合5%線径4.0oの実施例の場合10%D(発明の効果)「以上の如く、本発明方法は、従来の溶融亜鉛めっきと全く同一のフラックスを使用して十分な付着量と美麗な表面肌を有する耐食性に優れた亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼線がその機械的性質を損なうことなしに得られ、画期的な方法と云える。」(乙3公報4頁左下欄下から4行〜同頁右下欄2行)エ前記ウ@ないしDを総合すれば、刊行物2には、亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼線が従来の亜鉛めっきよりも耐食性等に優れていることや、そのアルミニウム含有割合としても(同合金浴中のAl濃度から判断して)5%又は10%の場合が含まれていることが記載されているということができる。したがって、刊行物1に開示された亜鉛等のメッキ層を有するインナーワイヤー従来技術に刊行物2の亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼線の技術を組み合わせることが可能であれば、本件発明の構成及びそれに伴う効果が得られることは明らかである。
(4)アこれに対し、原告は、刊行物1及び刊行物2のいずれにもコントロールケーブルにおける「滑り性」の向上に関する記載や示唆がない(刊行物2には、内索と導管の滑り性はおろか、鋼線としての滑り性すら一切記載がなく、滑り性を向上する効果を奏するであろうことについても何らの示唆もされていない。)、用途及び要求される特性において、コントロールケーブルのインナーワイヤーと一般のワイヤとが全く異なる技術分野にあり、特殊な技術分野である刊行物1の技術(コントロールケーブルのインナーワイヤー)と一般的な技術分野である刊行物2の技術(一般のワイヤ)とを組み合わせることには阻害要因がある(刊行物2を刊行物1に適用することによって、コントロールケーブルの滑り性改善に効果を奏することは、容易になし得ることではない)旨を主張する。
イしかし、原告の主張する阻害要因の根拠は、その指摘に係る文献にコントロールケーブルに関する記載がないか又は乏しいというにすぎない。むしろ、コントロールケーブルにおけるインナーワイヤーも、一般的なワイヤも、鋼線を撚り合わせたものである点で共通することは、本件明細書の発明の詳細な説明[従来の技術]に「一般の鋼線」に関する言及がある(本件公報3欄28行)ほか、本件訴訟において原告の自認するところでもある。
さらに、本件明細書の発明の詳細な説明[従来の技術]に引用されている実公昭54-25500号実用新案公報(乙25の1・2。以下、同公報を「乙25の1公報」、その補正の掲載を「乙25の2補正掲載」という。)は、考案の名称を「ワイヤロープ」とするものであり、その実用新案登録請求の範囲や考案の詳細な説明を見ても、コントロールケーブルにおける必須の構成要素と解されるアウタケーシング(甲18、19。本件発明では「導管」がこれに相当する。)と常に組み合わせて使用することまでは予定されておらず、かえって同明細書の考案の詳細な説明によれば、ここにいう「ワイヤロープ」とは「針金をよった鋼索」(乙25の1公報1頁左欄30行〜31行)というほどの意味であって、その技術分野をコントロールケーブルにおけるインナーワイヤーの場合に限定するかのような記載は存しない(乙25の2補正掲載において、滑り性につき、アウターケースにロープを通す試験方法に関する記載や図示があるにとどまる。これに対し、その耐久性に関しては、「その表面が錫めっき被膜によって覆われているため、従来のワイヤロープ(亜鉛めっき)よりはるかに耐久性、滑性がよく扱い易くなる」旨が記載されている。)。そして、上記考案の目的も「従来のワイヤロープを改良して耐食性およびハンダ付け性ならびに滑り性などの諸欠点を解消する」(乙25の1公報1頁左欄31行〜33行)ことにあると記載されている。つまり、実公昭54-25500号実用新案公報(乙25の1・2)には、ワイヤロープ自体の発明にあっても滑り性が要求されることや、その用途の一つとしてコントロールケーブルのインナーワイヤーが示唆され、該用途がワイヤロープの特殊な用途でないことが示されているのであるから、ワイヤロープにあっても(「耐食性」とともに)「滑り性」がその重要な解決課題の一つに位置付けられていることは明らかである。
原告は、ワイヤが元来引っ張り荷重に耐える部材である(主に要求される特性は「引っ張り強度」である)旨を主張するが、一般のワイヤにあっても、これを摺動を伴う用途、例えば滑車とともに用いる場合などを想定すれば、その滑り性が技術課題となり得ることは周知の事実であり、一般的なワイヤにおいても滑り性は考慮されているというべきであるから、原告の上記主張は採用の限りではない。
コントロールケーブルのインナーワイヤーと一般のワイヤとの技術課題の異同を、その材質や撚り線の構造から検討しても、本件明細書に記載された実施例1及び実施例3の導管及び内索に用いられる材料は「市販の鋼線(材質:JISG3506SWRH62A)」(日本規格協会発行の「JISハンドブック鉄鋼(1985年版)」(乙27)によれば、硬鋼線材)であるところ、本件明細書の発明の詳細な説明[従来の技術]に掲げられているJISG3537(本件公報3欄31行)も、JISG3506SWRH等を材料とする亜鉛めっき鋼撚り線であり、その構成区分には、本件明細書の内索を構成するストランド(12)(本件公報6欄7行〜8行、第2図、第3図)と同じ「7本撚り」、「19本撚り」の構成が予定されている(乙27の890頁)。加えて、上記文献905〜906頁(乙28)によれば、操作用ワイヤロープも、JISG3506SWRH等を材料とするものであり、その構成区分には、本件公報の第2図及び第3図(本件発明の内索の実施例を示す横断面図、本件公報5欄34行〜35行)と同じ「7×7」、「7×19」の構成が予定されていることも認められる。このように、上記の刊行物において、コントロールケーブルにおけるインナーワイヤーが一般的なワイヤと全く異なる技術分野であり、その技術課題が相違するということをうかがわせるかのような記載は存しない。
したがって、インナーワイヤー(刊行物1)と一般のワイヤ(刊行物2)との技術分野が大きく相違するものとはいえず、かえって「耐食性」及び「滑り性」という重要な技術課題の点で共通するのであるから、当業者にとって両者を組み合わせることに格別の阻害要因はないというべきである。
ウ仮に、本件明細書のように実公昭54-25500号実用新案公報(乙25の1・2)をコントロールケーブルのインナーワイヤーに限定されるかのような趣旨のものと捉えても、刊行物1の技術課題は、「滑り性」の点に限られるわけではなく、前記(2)で判示したとおり、「耐腐食性」にもあり、かつ、「耐腐食性」に欠点がある場合には、「さびによる浸食が早くロープ切断などの事故を起す危険性があった。」(乙25の1公報2欄3行〜4行)のであるから、当業者にとっても、「耐腐食性」は「滑り性」に勝るとも劣らない重要な技術課題であったということができる。しかるところ、前記(3)で判示したとおり、一般のワイヤに関する刊行物2の技術課題には「耐食性」が、本件明細書の発明の詳細な説明[従来の技術]に掲げられた他の文献である特開昭62-4859号公開特許公報(乙26)の発明(発明の名称「耐食性のよい亜鉛合金めっき鋼線」)の技術課題にも、その名称が示すとおり、「耐食性」があったことは明らかである。このように重要な技術課題の一つである「耐腐食性(耐食性)」の観点のみからであっても、当業者にとっては両者の技術を組み合わせることに格別の阻害要因があるともいえないというべきである(本件特許出願手続における平成10年12月10日付け拒絶査定〈乙6〉及び原告申し立てに係る前記訂正審判の審決〈甲34〉も、同様の観点に着目したものである。)。したがって、原告の前記主張は採用することができない。
エもっとも、原告は、「コントロールケーブルは、自動車のウィンドレギュレーター(窓の開閉装置)、アクセル、ブレーキ及びクラッチなどの機構を遠隔操作する際に、手元の操作を遠方の機構に伝えるために利用されるものであり、非常に限られたスペース内に設ける必要があることから、比較的小さな円弧状の導管内(導管の内壁面)で内索を滑らせる(摺動させる)という用い方がされている。
コントロールケーブルの性能においてこのような状況で『滑り性』が確保されること、より向上することは、極めて大きな意味をもつものである。また、コントロールケーブルが上記の用途で使用されることに照らし、力を効率的に伝える(効率良く動く)という意味の滑り性・荷重効率と、力をむらなく伝える(ひっかかりなくなめらかな動きをする)という意味の滑り性・スティックスリップという二つの『滑り性』が問題となる。これに対し、一般のワイヤは、クレーンなどの建設機器、橋梁、ケーブルカー、ロープウェイなどに利用され、専ら引張力を負担するために用いられており、コントロールケーブルのように比較的小さな円弧状の導管内で内索を滑らせるという用い方は全く想定されていない。また、滑車の場合は、滑車自体が回転自在にされているので、ワイヤは、滑車の溝を滑っているのではなく、むしろ滑車の溝を押さえつけて当該滑車を回転させており、そこには、コントロールケーブルの内索と導管の関係のように、強い抵抗が絶えず働く環境もなく、
上記のようなコントロールケーブル特有の『スティックスリップ』が問題となることもない。さらに、実公昭54-25500号実用新案公報(乙25の1・2)には、ワイヤの分野では唯一『滑性』、『滑り性』という言葉が出てくるが、これは、『錫層によりワイヤロープCの表面はハンダ付け性ならびに滑り性が良くなり、従来のワイヤロープよりはるかに扱いやすくなる』(乙25の1公報2欄29行〜31行)とあるように、スティックスリップを全く考慮に入れない単なる扱い易さ、それを測るための荷重効率という意味での『滑り性』を述べたものにすぎない。そして、乙25の2補正掲載で行われている『滑性』の実験は、単なる荷重効率の測定であり、コントロールケーブルの場合であれば当然に行われるべきスティックスリップの測定は行われていない。」と主張する。
しかしながら、そもそも本件発明の実施例(本件明細書中の実施例4のコントロールケーブル)においては、内索に実公昭54-25500号実用新案公報(乙25の1・2)に記載されているワイヤロープで外径が3.5o、構造が7×7のものが用いられている(本件公報7欄16行〜22行)。また、原告が指摘する上記乙25の1公報の記載は、乙25の2補正掲載によって削除され、上記記載を含む同公報2欄27行〜3欄3行は、「さらに、本考案は、亜鉛層を形成した複数本のワイヤ単体Aを撚り合わせてワイヤロープ主体Bを形成し、その外被に錫層3を設けたものであるから、亜鉛と錫の両金属の利点を十分に生かすことになって、
後記のように耐食性、耐久性、滑性及びハンダ付け性などが従来のワイヤロープよりはるかに向上するという顕著な効果を有する。」、「B滑性について本考案のワイヤロープは、使用時における滑性荷重効率においても従来のワイヤロープ(中略)よりはるかに優れている。」等と補正されている。そして、原告が指摘するとおり、本件発明とは技術分野が異なるが故に、刊行物2(乙3公報)のみならず、実公昭54-25500号実用新案公報(乙25の1・2)にも、上記「力をむらなく伝える(ひっかかりなくなめらかな動きをする)という意味の滑り性・スティックスリップ」、すなわち本件発明にいう「スティックスリップ」についての記載がないとしても、前記(1)、(3)のとおり、刊行物2には、本件発明のもう一つの主要な効果である耐食性について、亜鉛―アルミニウム合金めっき層を施した鋼線は亜鉛めっき層を施した鋼線に比して優れた耐食性を示すことが記載されている。
そうすると、刊行物1(乙2公報)に記載の従来技術である亜鉛層又は亜鉛と錫の二重メッキ層を施した母線を伸線してなる多数の素線を撚って製造した内索(インナーワイヤー)の耐食性を向上させるために、刊行物2を参考にする動機付けは十分に存在するものと考えられる。したがって、刊行物2(乙3公報)及び実公昭54-25500号実用新案公報(乙25の1・2)に「滑り性」について記載がないことは、刊行物1と刊行物2を組み合わせることの阻害要因とはならないから、原告の上記主張は、前記認定判断を左右するものではない。
オさらに、原告は、「刊行物1の発明は、従来品には耐腐食性、耐摩耗性及び滑り性に多くの欠点があったところ、これらの欠点を、@原材料の鋼線に亜鉛と錫を二重にメッキすること、A錫メッキした後に伸線すること、B伸線する際には潤滑油を塗布しながら伸線することによって解決しようとするものである。つまり、刊行物1の発明は、二重メッキ、伸線によるメッキの凹凸及びピンホールの除去、並びに伸線の際の潤滑油の塗布によって、耐腐食性及び滑り性を確保しようとするものである。一方、本件発明は、刊行物1の発明とは全く違ったアプローチ(メッキの材質を亜鉛―アルミニウム合金メッキとすること)から、耐食性及び滑り性を向上させようとするものである。すなわち、本件発明においては、@二重メッキする必要もなく(「錫メッキ層」が不要であり)、A伸線によって作用効果を発揮させようとするものでもなく、B潤滑油の塗布がなければ作用効果を発揮しないというものでもない。仮に、刊行物1の内索に施された亜鉛メッキを刊行物2の亜鉛―アルミニウム合金メッキに置き換えることを想定できたとする。しかし、刊行物2は、鋼線において亜鉛メッキより亜鉛―アルミニウム合金メッキの方が耐食性に優れていることを教えているにすぎないから、この場合、着想の結果得られる内索は、亜鉛―アルミニウム合金の単独メッキではなく、@亜鉛―アルミニウム合金メッキの上にさらに錫メッキを施し、さらに、A伸線して、B伸線に際しては潤滑油を使用した内索にすぎない。刊行物1の従来技術は、あくまでも、@亜鉛の上に錫を二重にメッキし、A伸線し、B伸線時に潤滑油を使用することを特徴とするものであり、同等以上の耐食性・滑り性を確保しつつ、錫メッキ、伸線、伸線時の潤滑油使用を省略することは全く想定されることがない。ちなみに、本件明細書中の第1表によれば、亜鉛メッキを施した内索(比較例1)と亜鉛メッキの上に錫メッキを二重に施した内索(比較例3)とでは、前者の荷重効率が66.0%に対して、
後者の方が70.0%と前者の方が荷重効率が劣り、前者のスティックスリップが20sに対して、後者のスティックスリップが1sとスティックスリップにおいても前者は滑り性が劣るのであって、刊行物1の従来技術から錫メッキを省略しようという動機は全く生じようがない。また、一般のワイヤロープに関する乙25の2補正掲載には、亜鉛メッキの上に錫メッキを二重に施したワイヤロープの荷重効率が初期において71.4%(表Vの『本願考案ロープ』の欄)であるのに対して、亜鉛メッキのみのワイヤロープでは荷重効率が65%(表Vの『従来のワイヤロープ』の欄のU欄)又は62.5%(表Vの『従来のワイヤロープ』の欄のW欄)である。それ故、錫メッキを省略するということは、刊行物1と刊行物2を組み合わせても、当業者が思いつくことはあり得なかった事項である。」と主張する。
確かに、本件明細書中の第1表によれば、比較例1(導管及び内索とも亜鉛メッキ)と比較例3(導管が亜鉛メッキ、内索が亜鉛メッキの上に錫メッキを二重に施したもの)とでは、比較例1の荷重効率が66.0%であるのに対して、比較例3のそれは70.0%であって、比較例1の方が荷重効率が劣っており、比較例1のスティックスリップが20sであるのに対して、比較例3のそれは1sであって、スティックスリップ(滑り性)についても比較例1の方が劣っている(本件公報7欄36行〜10欄35行)。
しかしながら、上記第1表によれば、比較例3は、荷重効率(70.0%)において、実施例1(導管が亜鉛メッキ、内索が亜鉛―アルミニウム合金メッキ、66.0%)や実施例3(導管が亜鉛―アルミニウム合金メッキ、内索が亜鉛メッキ、69.7%)より優れているが、スティックスリップは、比較例3が1sであるのに対し、実施例1及び実施例3はいずれも0sであって、その違いはわずかである(前同)。したがって、刊行物1の技術を用いた内索(比較例3)と本件発明の実施例(実施例1、実施例3)との間に、スティックスリップ(滑り性)の効果において、コントロールケーブルとしての実用に格別の差異を与えるほどの効果の差があるとは認め難い。
一方、本件明細書中の第2表によれば、亜鉛メッキを施した内索(比較例1、比較例2)と亜鉛メッキの上に錫メッキを二重に施した内索(比較例3)とでは、比較例1及び比較例2の赤錆発生時間がいずれも72時間であるのに対して、比較例3のそれは160時間であって、比較例1及び比較例2の方が劣っているが、亜鉛―アルミニウム合金メッキを施した内索(実施例5)のそれは240時間であって、比較例3の方が劣っている(本件公報10欄36行〜11欄36行)。すなわち、耐食性の効果において、刊行物1の技術を用いた内索(比較例3)よりも本件発明の実施例(実施例5の内索)の方が優れている。
また、刊行物1の発明においては、耐食性をより確実にするために2種類の金属を二重に鍍金(メッキ)したものと解され、耐食性に優れた合金を用いる場合に、その耐食性に問題が生じなければ、当該合金のうちの1種類だけのメッキ層とすることは、当業者が適宜採用することができるものであって、二重メッキとしないことに格別の創意が必要であるとはいえない。しかも、本件明細書中には、
刊行物1の技術を用いた内索(実施例4、比較例3、比較例4)についての記載はある(本件公報7欄16行〜22行、同欄32行〜11欄36行)ものの、亜鉛アルミニウム合金メッキの上にさらに錫メッキを施したもの等、三重メッキについては何らの記載もない。
そうすると、刊行物1と刊行物2とを組み合わせるに当たり、当業者が錫メッキを省略することを思いつかないとまではいえない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(5)以上によれば、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物1のインナーワイヤー従来技術とその表面に構成要件B所定のメッキ層が設けられたコントロールケーブルの本件発明との相違点は大きなものではなく、この相違点の存在を前提としても、本件発明は、当業者であれば、刊行物1に開示された従来技術に、同じく本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物2の亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼線の技術を組み合わせることによって容易に発明することができたというべきである。したがって、本件特許は特許法29条2項に違反してされたものであり、本件特許には、同法123条1項2号に規定する無効理由が存在することが明らかである。
そうすると、原告の本件特許権に基づく差止め、損害賠償等の請求は、特段の事情がない限り、権利の濫用に当たり許されない(前記最高裁判所平成12年4月11日第三小法廷判決参照)ものというべきところ、前記前提事実(5)のとおり、原告申立てに係る訂正審判について、訂正発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとして、審判請求不成立の審決がされた本件においては、特段の事情があるとは認め難い。
5その他、原審及び当審における当事者提出の各準備書面等に記載の主張に照らし、原審及び当審で提出、援用された全証拠を改めて精査しても、前記認定判断を覆すに足りるものはない。
6結論以上によれば、その余の点(争点(3)、(5)ないし(7))について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。
よって、原告の請求をいずれも棄却した原判決は結論において相当であり、
本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
(当審口頭弁論終結日平成16年10月13日)大阪高等裁判所第8民事部裁判長裁判官竹原俊一裁判官小野洋一裁判官長井浩一(別紙)「出願当時の特許請求の範囲」「訂正後の特許請求の範囲