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関連審決 不服2001-19812
関連ワード 発明者 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  周知技術 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  援用権(援用) /  優先日 /  参酌 /  均等 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  請求の範囲 /  変更 /  国際出願 / 
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事件 平成 16年 (行ケ) 27号 審決取消請求事件
原告 リトンシステムズ,インコーポレーテッ ド
訴訟代理人弁理士 岡部正夫
同 加藤伸晃
同 朝日伸光
同 三山勝巳
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 荒巻慎哉
同 瀧廣往
同 高橋泰史
同 伊藤三男
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2005/01/31
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2001-19812号事件について平成15年9月5日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「高効率磁気シールド」とする発明につき,1997年(平成9年)6月26日を国際出願日とする国際特許出願による特許出願(特願平10-508806号,優先権主張1996年〔平成8年〕7月26日〔以下「本件優先日」という。〕・アメリカ合衆国)をしたが,平成13年7月25日に拒絶の査定を受けたので,同年11月5日,これに対する不服の審判の請求をした上,同年12月4日,本件特許出願の願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載等の補正(以下「本件補正」という。)をした。
特許庁は,上記請求を不服2001-19812号事件として審理した結果,平成15年9月5日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月22日,原告に送達された。
2 本件特許出願の願書に添付した明細書の特許請求の範囲の【請求項1】記載の発明の要旨 (1) 本件補正前のもの(平成13年5月11日付け手続補正に係るもの,以下「本願発明」という。) 光ジャイロスコープアセンブリであって,光電子磁気エネルギーを伝導することが可能であるクローズドパスを限定すると共に,該パスに囲まれた内側開口部を含む本体部分と,該本体部分を完全に囲む容器とを含み,該容器は,該本体部分を支持すると共に,高い比透磁率 (μ/μ0) を有する強磁性体材料からなるスプールと,該内側開口部内に延在する高い比透磁率 (μ/μ0) を有する強磁性体材料からなる部材と,該スプールと該部材と共に該本体部分の磁気遮蔽容器を形成するように配置されると共に,高い比透磁率 (μ/μ0) を有する強磁性体材料からなるカバーとを含む光ジャイロスコープアセンブリ。
(2) 本件補正に係るもの(以下「本願補正発明」といい,本件補正に係る明細書を,願書に添付した図面と併せて「本件明細書」という。なお,補正部分を下線で示す。) 光ジャイロスコープアセンブリであって,光電子磁気エネルギーを伝導することが可能であるクローズドパスを限定すると共に,該パスに囲まれた内側開口部を含む本体部分と,該本体部分を完全に囲む容器とを含み,該容器は,該本体部分を支持すると共に,高い比透磁率 (μ/μ0) を有する強磁性体材料からなるスプールと,該内側開口部内に延在する高い比透磁率 (μ/μ0) を有する強磁性体材料からなる部材と,該スプールと該部材と共に該本体部分の磁気遮蔽容器を形成するように配置されると共に,高い比透磁率 (μ/μ0) を有する強磁性体材料からなるカバーとを含み,該光 ジャイロスコープアセンブリ は,さらに ,該容器 の周囲に配置 されると 共に,高い比透磁率 を有する 強磁性体材料 からなる 外側 ケースと,該容器 と該外側 ケース との 間に配置 されると 共に,低透磁率材料 からなる スペーサ とを 含む光ジャイロスコープアセンブリ。
3 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願補正発明は,特開昭63-214615号公報(甲5,以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができず,本件補正は,特許法17条の2第5項で準用する同法126条4項(注,平成15年法律第47号による改正前の規定を指す。)の規定に違反するものであるとして,同法159条において準用する同法53条1項の規定に基づき本件補正を却下した上,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
原告主張の審決取消事由
審決は,本願補正発明と引用発明との相違点を看過した(取消事由1)上,相違点1に関する判断を誤った(取消事由2,3)結果,本願補正発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとの誤った結論に至ったものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点の看過) (1) 審決は,本願補正発明と引用発明との一致点として,「光ジャイロスコープアセンブリであって,光電子磁気エネルギーを伝導することが可能であるクローズドパスを限定すると共に,該パスに囲まれた内側開口部を含む本体部分と,該本体部分を完全に囲む容器とを含み,該容器が高い比透磁率 (μ/μ0) を有する強磁性体材料からなる部分を含む光ジャイロスコープアセンブリ」(審決謄本8頁下から第2段落)を認定した。
(2) しかしながら,本願補正発明と引用発明とは,本願補正発明の「容器」が,「本体部分を完全に囲む」(磁気シールド)容器であり,かつ,高い比透磁率を有する強磁性体材料から成るものであるのに対し,引用発明の磁気シールドは,フランジ(10a)の部分で開放されており,本体部分を完全に囲むものではない点において相違する。審決は,この点を看過し,上記のとおり,「本体部分を完全に囲む容器」を含むとの点を,本願補正発明と引用発明との一致点として認定したものであって,誤りである。
2 取消事由2(相違点1に関する判断の誤り@) (1) 審決は,本願補正発明と引用発明との相違点1として認定した,「本願補正発明の『容器』は,高い比透磁率 (μ/μ0) を有する強磁性体材料からなる部分が, ・本体部分を支持するスプールと, ・内側開口部内に延在する部材と, ・該スプールと該部材と共に本体部分の磁気遮蔽容器を形成するように配置されるカバー であるのに対して,引用発明の『磁気シールド(13),(14)』の高い比透磁率 (μ/μ0) を有する強磁性体材料からなる部分が,上記のようなスプール,部材,カバーを含むことは,引用例には明記されていない点」(審決謄本8頁最終段落〜9頁第1段落,以下「相違点1」という。)について,「一般に『スプール』とは,巻き付けられた細長い線状体や帯状体を保持するものを意味するが,本願明細書(注,本件明細書)の全記載を見ても本願補正発明の『スプール』が特別な意味を持つものであるとの記載はないので,本願補正発明における『スプール』は,本体部分を支持するという一般的な意味のスプールであると解するのが相当である」(同頁第3段落)とした上,「引用発明の磁気シールド(13),(14)は,断面コ字状のものを上下から合わせて・・・光伝搬路(3)を覆うものである。特に,断面コ字状の下側の磁気シールド(14)の底辺部分は,他の部材を介しているので間接的ではあるが,整列巻きに巻回された光ファイバを含む光伝搬路(3)を下から支持しているということができ,また,引用例の図面の記載からみて明らかに,巻き付けられた細長い線状体(光ファイバ)を保持するものということができるから,本願補正発明の『スプール』に該当する」(同頁第4段落)と判断したが,誤りである。
(2) 本願補正発明のスプールは,本件明細書の発明の詳細な説明(甲4添付)に,「スプール12,12’は,中央穴20,20’が備えられた基部18,18’を含む」(5頁第2段落),「コイルを収容するスプールは,1個の実質的に平坦な取付用フランジと中央ハブを含む。・・・コイルは,取付用フランジの平面を横断して取り付けられ・・・」(同頁最終段落)と記載されているとおり,中央の基部に結合された端部の光ファイバコイル取付用フランジから成るものであり,光ファイバコイル(14)を機械的に支持しているものである。
これに対し,引用発明の磁気シールド(13,14)は,支持部材(11)に結合されておらず,その磁気シールドの底辺部分(14)は光ファイバ光伝播路(3)を機械的に支持しているものでないから,本願補正発明の強磁性体スプールに相当するものではなく,むしろ,引用発明の磁気シールド(13,14)は,本願補正発明の「強磁性体材料からなる外側ケース」に該当するものである。
他方,引用発明の非磁性体の第2円筒体(5)の底辺部分こそが本願補正発明のスプールに対応付けられるべきものであるが,当該円筒体は,非磁性体であって,本願補正発明のスプールのように強磁性体ではない。
すなわち,本願補正発明の光ジャイロスコープアセンブリは,スプール,部材及びカバーから成り,光ファイバコイル本体部分を完全に囲む「容器」と,当該容器の周囲に配置される「外側ケース」とから構成されるところ,その「容器」と「外側ケース」とは,構成上,引用発明における「第1の円筒体(4)」と「第2の円筒体(5)」とにそれぞれ相当するものであるから,本願補正発明と引用発明との相違点は,正しくは,スプール,部材及びカバーから成る「容器」の材料が,本願補正発明では強磁性体であるのに対し,引用発明では非磁性体である点と認定されるべきであったのである。
(3) 一般に,「スプール(spool)」とは,「(糸などを巻く)巻き枠」のことであり(甲6),本願補正発明のスプールも,本体部分であるコイル(14)を支持する構造体(12)である。確かに,本件明細書の特許請求の範囲(甲3添付)において,スプールという語の意味は格別定義されていないが,そうであるからといって,このような一般的な語義から認識されるべき構成を逸脱してもよいということにはならない。
引用発明の磁気シールドの底辺部分(14)は,専ら,その内部の光伝搬路(3)を包むようにして磁気シールドしている薄い板にすぎないものであり,それが上記のような「スプール」の一般的な語義から認識される構成を逸脱していることは明らかである。
3 取消事由3(相違点1に関する判断の誤りA) (1) 審決は,相違点1について,「仮に,本願補正発明の『スプール』が,本体部分を間接的に支持するものを含まない,すなわち,直接的に支持するものに限定されると解釈した場合・・・についても,以下に予備的に検討する」(審決謄本10頁下から第2段落)とした上,「引用発明において,地球磁場変動に伴う位相誤差低減効果のみを達成しようとした場合に,光伝搬路(3)と磁気シールド(13),(14)との間に介在する,二重壁構造体,断熱材(6),(7),第2の蓋体(8),(9),断熱材(12)を排除し,磁気シールド効果をもつもので光伝搬路(3)を直接支持すればいいことは明らかであるから,引用発明において,磁気シールドで光伝搬路(3)を直接的に支持するようにすること,あるいは,光伝搬路(3)を直接支持する部材を磁気シールド効果を持つ物質で形成することにより,『本体部分を支持すると共に,高い比透磁率 (μ/μ0) を有する強磁性体材料からなるスプール』を得ることは,当業者であれば容易にできる程度の設計変更にすぎない」(同11頁第3段落)から,「仮に,本願補正発明の『スプール』が本体部分を直接的に支持するものに限定されるとしても,そのようなスプールとすることは,当業者にとって格別困難なことではない」(同頁第4段落)と判断したが,本願補正発明の格別な作用効果を看過したものであって,誤りである。
(2) 本願補正発明は,本件明細書の発明の詳細な説明(甲4添付)に,「光ファイバコイルは,強磁性体からなるコイル適合容器内に密接に入れられる。・・・コイルのための容器は,コイル支持用スプール自体とそれに固定されるカバーとからなる。スプールとカバーは共に高透磁率材料から形成され,カバーは光ファイバコイルの回りに配置され,スプールに取り付けられる。よって,適合容器はコイルまたはパスと同様の形状になっている。したがって,環状の従来のコイルのための,スプールを含む容器は,中空の環と同様の形状になっている」(2頁最終段落〜3頁第1段落)と記載されているとおり,完全に閉じた磁気回路の包囲体というシールド構造を有し,これにより,「しっかりとパッケージされシールドされた光パスが作り出され,容易に製造され得る」(同頁第4段落),「シールド効率が改善され」(同)るという格別な作用効果を奏するものである。
本件明細書の発明の詳細な説明(甲4添付)に記載されるとおり,慣性航法システムに使用されるファイバジャイロスコープの許容磁気感度は,0.001〜0.0001deg/hr/gaussの範囲である(1頁最終段落)のに対し,従来技術による磁気シールドの効果は,本外部磁界強度を約1/100〜1/300にする程度であり(2頁第2段落),必ずしも十分ではなかった。
これに対し,本願補正発明の作用効果,すなわち,磁気シールド効果の具体的数値について,本願補正発明の発明者の一人であるAの2004年(平成16年)7月14日付け宣誓供述書(甲7,以下「甲7宣誓供述書」という。)によれば,本願補正発明から外部ケースを除き,強磁性材料のスプール及びカバーとした構成においても,従来技術に比して3倍以上の磁気シールド効果が得られ,更に外部ケースを用いた場合(本願補正発明の構成)では,従来技術に比して25倍以上の磁気シールド効果が得られる,としている。この磁気シールド効果は,慣性航法システムに使用されるファイバジャイロスコープの上記許容磁気感度の範囲にかなうものであって,格別な作用効果であるということができる。
なお,引用発明の磁気シールド(13,14)は,スプールに該当する第1と第2の蓋体(8,9)と第1〜第3の円筒体(4,5,10)の2重構造体の外側を包囲する薄い板であり,しかもフランジ(10a)部で開放されているものであって,磁気シールドが包囲体として完全に閉じた磁気回路を構成してはいないものである。さらに,スペーサを介して強磁性体の外側ケースで2重にシールドするものでもない。したがって,引用発明により,本願補正発明の格別なシールド効果を期待することはできない。
(3) 審決は,引用発明において,地球磁場変動に伴う位相誤差低減効果,すなわち磁気シールド効果のみを達成しようとした場合に,光入射端間の温度差低減効果に係る2重構造体部分を排除し磁気シールドで光伝搬路(3)を直接的に支持するようにして,本願補正発明のような構成にすることは,当業者であれば容易にできる程度の設計変更にすぎないとしている。
しかしながら,引用発明は,光伝搬路(光ファイバコイル)を支持する構造部分,すなわちスプールを温度差低減効果のために2重構造にしたというものであるから,仮に,温度差低減効果を考えないこととしても,光ファイバコイルを支持する構造部分自体を排除して,磁気シールド(13,14)によって,光伝搬路(3)を直接支持するということにはならない。むしろ,引用発明において,光伝搬路(3)を支持している構造部分(4,5,8,9,10)を強磁性体材料に変更することによって本願補正発明に至るということができ,確かに,そのように変更すれば,完全に閉じた磁気回路をなす強磁性材料で光伝搬路(光ファイバコイル)を密接に包囲するシールドが可能となるものであるが,上記変更によって,上記格別の磁気シールド効果を達成し得るということが,本件優先日当時,当業者に自明であったと認めるべき根拠はない。
被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告の取消事由の主張はいずれも理由がない。
1 取消事由1(相違点の看過)について (1) 本願補正発明は,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載からみて,本願補正発明における「本体部分を完全に囲む容器」は,高い比透磁率 (μ/μ0) を有する強磁性体材料からなるスプール,部材,カバーを「含む」ものであって,それらのみから構成されると限定されているものではない。すなわち,本願補正発明の「本体部分を完全に囲む容器」は,「高い比透磁率 (μ/μ0) を有する強磁性体材料からなる部分」のみではなく,「低い比透磁率を有する非強磁性体材料からなる部分」を含むことが許容されるものである。
そして,引用発明の磁気シールド(13,14)の開放部分には,フランジ(10a)が挟まっていて,空間が閉じられているので,磁気シールド(13,14)は,フランジ(10a)と協働して,本体部分を完全に囲んでいるということができる。そうすると,引用発明の磁気シールド(13,14)とフランジ(10a)とが,本願補正発明の「本体部分を完全に囲む容器」に該当することになるから,審決には,原告主張に係る相違点の看過はない。
(2) また,通常,光ファイバコイルを囲む容器は,容器の内部と外部とを接続する入力端の光ファイバを通すための開口を設ける必要があるため,容器を,文字どおり完全に閉じた空間とすることは物理的に不可能であり,このことは,引用例(甲5)の第1図においても,光入射端(1,2)が磁気シールド(13,14)等を貫通して外部に導出されている状態が示されていることからも明らかである。
そうすると,本願補正発明における「本体部分を完全に囲む容器」という構成は,文字どおり,容器のみによって「完全に」本体部分を囲むことを意味しているわけではなく,容器の間隙を通る部材と容器自体の両方によって「完全に」本体部分を囲むものを包含しているものというべきである。
2 取消事由2(相違点1に関する判断の誤り@)について (1) 原告は,本件明細書の発明の詳細な説明(甲4添付)の記載を根拠に,本願補正発明のスプールは,中央の基部に結合された端部の光ファイバコイル取付用フランジから成るものであり,光ファイバコイル(14)を機械的に支持しているものである旨主張する。
しかしながら,特許請求の範囲の記載においては,スプールに関し,「該本体部分を支持すると共に,高い比透磁率 (μ/μ0) を有する強磁性体材料からなるスプール」と記載されているのみであり,原告の引用する本件明細書の記載は,一実施例に関するものにすぎない。特許請求の範囲の記載によれば,本願補正発明のスプールは,「中央の基部に結合された端部の光ファイバコイル取付用フランジから成るもの」に限定されるわけではなく,スプールがどの部材にどのように取り付けられているか,また,スプール自体がどのような構造を有するかは,特許請求の範囲には何ら記載されていないというべきである。
同様に,特許請求の範囲の記載によれば,本願補正発明のスプールは「本体部分を支持する」ものであれば足り,「本体部分を支持する」方法が,原告のいう「機械的」なものであるか否かは,本願補正発明とは何ら関係がない事項である。
そして,引用発明の磁気シールドの底部(14)は,回転角速度検出部(20)の一構成要素として光伝搬路(3)を支持するものであり,かつ,高透磁率,低保磁力でなる物質で形成されるものであるから,本願補正発明のスプールとの間に実質的な相違はないというべきであり,引用発明の磁気シールド(13,14)が「スプール」を含むものであるとした審決の判断に誤りはない。
(2) 原告は,「スプール(spool)」の一般的な語義について主張するが,特許請求の範囲の記載においては,「スプール」について「該本体部分を支持すると共に,高い比透磁率(μ/μ0)を有する強磁性体材料からなるスプール」と記載されているのみであって,スプールがコイル(本体部分)を巻き付けるものであるとは記載されていないし,また,本件明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載(甲4添付)を見ても,そこで示された本願補正発明の実施例において,コイルを巻き付ける対象は,管状壁(22,22’)であって,スプール(12,12’)とはされていない。
したがって,上記発明の詳細な説明等を参酌すれば,本願補正発明における「スプール」とは,「(糸などを巻く)巻き枠」(甲6)とは異なるものであり,むしろ,コイル(本体部分)を下側から保持するものといった程度の意味で用いられていると解するのが自然であるから,引用発明の磁気シールド14の底部は,本願補正発明における「スプール」の構成を逸脱するものではない。
3 取消事由3(相違点1に関する判断の誤りA)について (1) 引用例(甲5)によれば,引用発明においては,第1,第2の円筒体及び蓋体等から成る多層構造は,光入射端間の温度差低減効果を担うものと認められる(4頁右上欄最終段落〜左下欄第3段落)から,引用発明において,地球磁場変動に伴う位相誤差低減効果のみを達成しようとした場合に,光伝搬路(3)と磁気シールド(13),(14)との間に介在する,二重壁構造体,断熱材(6),(7),第2の蓋体(8),(9),断熱材(12)を排除し,磁気シールド効果を持つもので,光伝搬路(3)を直接支持するようにすること,あるいは,光伝搬路(3)を直接支持する部材を磁気シールド効果を持つ物質で形成することにより,「本体部分を(直接)支持すると共に,高い比透磁率 (μ/μ0) を有する強磁性体材料からなるスプール」を得ることができることは明らかであり,当業者が容易に行い得る程度の設計変更にすぎないというべきである。
(2) 原告は,本願補正発明は格別な作用効果を有する旨主張するが,本願補正発明の効果は,地磁気などの磁気の影響を遮蔽するために囲いを2重構造とし,2重構造の外側ケースと内側ケースの間に低透磁率材料からなるスペーサを配置するという周知技術から,当業者が容易に予測できる程度の効果にすぎないというべきである。また,そもそも,原告の主張は,その前提として,本願補正発明が,「完全に閉じた磁気回路の包囲体」というシールド構造を有するものであるとする点において,上記1のとおり,特許請求の範囲の記載に基づかないものである。
さらに,原告は,本願補正発明が格別な作用効果を有する根拠として,甲7宣誓供述書を援用するが,甲7宣誓供述書に記載されている効果は,供述者が認識している従来技術と対比した場合の効果にすぎず,本願補正発明と引用発明との相違点に基づく効果をいうものではないから,失当というほかはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点の看過)について (1) 審決は,本願補正発明と引用発明との一致点として,「光ジャイロスコープアセンブリであって,光電子磁気エネルギーを伝導することが可能であるクローズドパスを限定すると共に,該パスに囲まれた内側開口部を含む本体部分と,該本体部分を完全に囲む容器とを含み,該容器が高い比透磁率 (μ/μ0) を有する強磁性体材料からなる部分を含む光ジャイロスコープアセンブリ」(審決謄本8頁下から第2段落)を認定した。
これに対し,原告は,本願補正発明と引用発明とは,本願補正発明の「容器」が,「本体部分を完全に囲む」(磁気シールド)容器であり,かつ,高い比透磁率を有する強磁性体材料から成るものであるのに対し,引用発明の磁気シールドは,フランジ(10a)の部分で開放されており,本体部分を完全に囲むものではない点において相違するにもかかわらず,審決は,この点を看過したものであって,誤りである旨主張する。
(2) そこで検討すると,本願補正発明の要旨は,上記第2の2(2)のとおり,「光ジャイロスコープアセンブリであって,光電子磁気エネルギーを伝導することが可能であるクローズドパスを限定すると共に,該パスに囲まれた内側開口部を含む本体部分と,該本体部分を完全に囲む容器とを含み,該容器は,該本体部分を支持すると共に,高い比透磁率 (μ/μ0) を有する強磁性体材料からなるスプールと,該内側開口部内に延在する高い比透磁率 (μ/μ0) を有する強磁性体材料からなる部材と,該スプールと該部材と共に該本体部分の磁気遮蔽容器を形成するように配置されると共に,高い比透磁率 (μ/μ0) を有する強磁性体材料からなるカバーとを含み,該光ジャイロスコープアセンブリは,さらに,該容器の周囲に配置されると共に,高い比透磁率を有する強磁性体材料からなる外側ケースと,該容器と該外側ケースとの間に配置されると共に,低透磁率材料からなるスペーサとを含む光ジャイロスコープアセンブリ。」というものであり,そこでは,「容器」については,@「本体部分を完全に囲む」ものであること,A「本体部分を支持すると共に,高い比透磁率 (μ/μ0) を有する強磁性体材料からなるスプールと,該内側開口部内に延在する高い比透磁率 (μ/μ0) を有する強磁性体材料からなる部材と,該スプールと該部材と共に該本体部分の磁気遮蔽容器を形成するように配置されると共に,高い比透磁率 (μ/μ0) を有する強磁性体材料からなるカバーとを含」むものであることの2点が規定されていることが認められる。
原告の上記主張は,本願補正発明の「容器」は,その全体が高い比透磁率を有する強磁性体材料で構成されるものであることを前提とすることが明らかであるが,上記Aの要件は,当該「容器」を構成する「スプール」,「部材」及び「カバー」がいずれも「高い比透磁率 (μ/μ0) を有する強磁性体材料からなる」ものであることを規定するものの,「・・・スプールと,・・・部材と,・・・カバーとを含み」(下線付加)と規定するものであって,当該容器が,上記「スプール」,「部材」及び「カバー」のみで構成されるとしているわけではない。そうすると,本願補正発明の「容器」は,上記「スプール」,「部材」及び「カバー」以外に,高い比透磁率を有する強磁性体材料で構成されるものでない他の部材を補助的に用いることを許容していると解するほかはないから,原告の上記主張は,その前提において失当であるというほかない。
そして,引用発明においては,引用例(甲5)の第1図から明らかなとおり,高い比透磁率を有する強磁性体材料で構成される磁気シールド(13,14)は,フランジ(10a)部分の部材と協働して,本体部分,すなわち光伝搬路(3)を「完全に囲む」ものであると認めることができるから,審決の上記一致点の認定に誤りはなく,相違点の看過をいう原告の取消事由1の主張は理由がない。
2 取消事由2(相違点1に関する判断の誤り@)について (1) 審決は,本願補正発明と引用発明との相違点1について,「一般に『スプール』とは,巻き付けられた細長い線状体や帯状体を保持するものを意味するが,本願明細書(注,本件明細書)の全記載を見ても本願補正発明の『スプール』が特別な意味を持つものであるとの記載はないので,本願補正発明における「スプール」は,本体部分を支持するという一般的な意味のスプールであると解するのが相当である」(審決謄本9頁第3段落)とした上,「引用発明の磁気シールド(13),(14)は,断面コ字状のものを上下から合わせて・・・光伝搬路(3)を覆うものである。特に,断面コ字状の下側の磁気シールド(14)の底辺部分は,他の部材を介しているので間接的ではあるが,整列巻きに巻回された光ファイバを含む光伝搬路(3)を下から支持しているということができ,また,引用例の図面の記載からみて明らかに,巻き付けられた細長い線状体(光ファイバ)を保持するものということができるから,本願補正発明の『スプール』に該当する」(同頁第4段落)と判断した。
これに対し,原告は,本願補正発明の「スプール」は,中央の基部に結合された端部の光ファイバコイル取付用フランジから成るものであり,光ファイバコイルを機械的に支持しているものであるとした上,引用発明の磁気シールド(13,14)は,支持部材(11)に結合されておらず,その磁気シールドの底辺部分(14)は光伝搬路(3)を機械的に支持しているものでないから,本願補正発明の「スプール」に相当するものではない旨主張する。
(2) 本件明細書の特許請求の範囲の記載(甲3添付,上記第2の2(2)に同じ。)によれば,本願補正発明の「スプール」については,@「本体部分を支持する」ものであること,A「高い比透磁率 (μ/μ0) を有する強磁性体材料からなる」ものであること,Bカバー及び部材とともに「本体部分の磁気遮蔽容器を形成するように配置される」ものであること,の3点が規定されるものの,そのほか,スプールの具体的な構造等については何ら規定されていないものと認めることができる。
ところで,原告は,上記のとおり,本願補正発明の「スプール」の構造について,「中央の基部に結合された端部の光ファイバコイル取付用フランジから成るもの」である旨主張し,その根拠として,本件明細書の発明の詳細な説明(甲4添付)に,「スプール12,12’は,中央穴20,20’が備えられた基部18,18’を含む」(5頁第2段落),「コイルを収容するスプールは,1個の実質的に平坦な取付用フランジと中央ハブを含む。・・・コイルは,取付用フランジの平面を横断して取り付けられ・・・」(同頁最終段落)との記載があることを挙げる。しかしながら,特許出願に係る発明の要旨の認定は,その意義が一義的に明らかにできない等の発明の詳細な説明参酌することが許される特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載のみに基づいてされるべきである(最高裁平成3年3月8日第二小法廷判決・民集45巻3号123頁)ところ,本件明細書の特許請求の範囲における上記@〜Bの記載については,上記特段の事情を認めるに足りない上,原告が援用する発明の詳細な説明(甲4添付)の上記記載自体,「模範的な実施例の説明」(3頁下から第2段落)であって,「本発明はその特別な実施例に関して説明されたが,本発明の精神と範囲を逸脱することなく種々の変更や修正がその中で行われ得る」(6頁最終段落)とされるものにすぎないから,当該記載を根拠とする原告の主張は,採用することができない。
また,原告は,「スプール(spool)」という語の一般的な語義が,「(糸などを巻く)巻き枠」であること(甲6)をも,その主張の根拠に挙げる。しかしながら,本願補正発明の「スプール」が,上記一般的な語義に沿うべきものであるとしても,そのことから,スプールの具体的な構造が,「中央の基部に結合された端部の光ファイバコイル取付用フランジから成るもの」に限定されるということにはならないから,結局,この点に関する原告の主張は採用の限りではないというべきである。
(3) さらに,原告は,上記のとおり,本願補正発明の「スプール」は,本体部分を機械的に支持するものに限られる旨主張する。
確かに,この点については,引用発明の磁気シールドの底部(14)のように,中間に何層もの構造を介して,本願補正発明の本体部分に相当する光伝搬路(3)を間接的に下から支えるにすぎないものが,本願補正発明のスプールに相当するということができるか否か,「スプール(spool)」という語の上記一般的な語義に照らし,いささか疑問の余地がないわけではない。
しかしながら,審決は,「本願の図面に記載された『スプール』は,本体部分を直接的に支持するものであり,仮に,本願補正発明の『スプール』が,本体部分を間接的に支持するものを含まない,すなわち,直接的に支持するものに限定されると解釈した場合・・・についても,以下に予備的に検討する」(審決謄本10頁下から第2段落)とした上で,本願補正発明のスプールが本体部分を直接的に支持するものに限定されるとした場合について判断している(同頁最終段落〜11頁第4段落)から,仮に,審決のそこでの判断に誤りがなければ,「スプール」の意義に関する原告の上記主張の当否は,審決の結論に影響を及ぼさないことが明らかである。
そこで,以下,進んで,原告主張の取消事由3について検討する。
3 取消事由3(相違点1に関する判断の誤りA)について (1) 審決は,本願補正発明のスプールが本体部分を直接的に支持するものに限定されるとした場合の判断として,相違点1について,「引用発明において,地球磁場変動に伴う位相誤差低減効果のみを達成しようとした場合に,光伝搬路(3)と磁気シールド(13),(14)との間に介在する,二重壁構造体,断熱材(6),(7),第2の蓋体(8),(9),断熱材(12)を排除し,磁気シールド効果をもつもので光伝搬路(3)を直接支持すればいいことは明らかであるから,引用発明において,磁気シールドで光伝搬路(3)を直接的に支持するようにすること,あるいは,光伝搬路(3)を直接支持する部材を磁気シールド効果を持つ物質で形成することにより,『本体部分を支持すると共に,高い比透磁率 (μ/μ0) を有する強磁性体材料からなるスプール』を得ることは,当業者であれば容易にできる程度の設計変更にすぎない」(審決謄本11頁第3段落)から,「仮に,本願補正発明の『スプール』が本体部分を直接的に支持するものに限定されるとしても,そのようなスプールとすることは,当業者にとって格別困難なことではない」(同頁第4段落)と判断した。
これに対し,原告は,審決の上記判断は,本願補正発明の格別な作用効果を看過したものであって,誤りである旨主張する。
(2) そこで検討すると,引用例(甲5)には,@〔発明が解決しようとする問題点〕の欄に,「以上のような回転角速度検出部を持つ従来の光ファイバジャイロでは,光伝搬路(101)の外壁が外気にさらされているため,時計回り(反時計回り)光入射端(1)と反時計回り(時計回り)光入射端(2)の間に温度差が発生し易く,かつ,この温度差に変動が生じ易い状況であった。このため,ドリフトスタビリティの良好な光ファイバジャイロが得難かった。さらに・・・地球磁場により2本の光ビーム間にSagnac効果による位相差以外の位相差が生じる。このとき回転角速度検出部の回転角速度入力軸が地球磁場の方向から偏移することにより,前記の位相差が変化しドリフトとなる。従来の回転角速度検出部では,地球磁場の遮蔽がなされていないためドリフトスタビリティの良好な光ファイバジャイロが得難いなどの問題点があった。この発明は,上記のような問題点を解消するためになされたもので,光伝搬路の時計回り光入射端と反時計回り光入射端の温度差を低減し,さらに地球磁場変動に伴う位相誤差を低減し,ドリフトスタビリティの良好な光ファイバジャイロを得ることを目的とする」(3頁右上欄第1段落〜左下欄第2段落),A〔問題点を解決するための手段〕の欄に,「この発明に係る光ファイバジャイロは,光伝搬路をその時計回り光入射端と反時計回り光入射端の温度差を極小にするような二重壁構造体および地球磁場を遮蔽するための磁気シールドで覆った,回転角速度検出部を備えている」(同頁左下欄下から第2段落),B〔作用〕の欄に,「この発明においては,回転角速度検出部の外部で発生する任意の温度変動が,光伝搬路を覆う二重壁構造体を通して光伝搬路に達する際に,光伝搬路の外周部に対して時間的に対称な温度分布を形成するように伝達される。さらに,回転角速度検出部を覆う磁気シールドが,回転角速度検出部の外部の磁場変動を遮蔽する」(同頁左下欄最終段落〜右下欄第2段落),C〔実施例〕の欄に,「第1,第2の蓋体(8),(9)および第3の円筒体(10)はいずれも第1,第2の円筒体(4),(5)と同一の物質で形成され,第1,第2の円筒体(4),(5)とともに二重壁構造体(21)を形成している」(4頁左上欄下から第2段落),「第1,第2の蓋体(8),(9)の外周面は,断熱材(12)を介在して第1,第2の磁気シールド(13),(14)で覆われている。この磁気シールド(13),(14)は断面コ字状のものを上下から合わせたもので,高透磁率,低保磁力でなる物質,たとえばパーマロイで形成されており,互いの外周接合部は第4の円筒体(15)で結合されている。」(4頁右上欄第2段落),「次に動作について説明する。回転角速度検出部(20)の外部の温度変動は,以下の経路で光伝搬路(3)に達する。たとえば,支持部材(11)で発生した熱は第1,第2の蓋体(8),(9)を伝達し,突条(4a)を介して第1,第2の円筒体(4),(5)へと拡散される。この際,第1,第2の円筒体(4),(5)へと拡散される熱は,突条(4a)を中心として,ジャイロ回転軸(22)に垂直な径方向の図中左方向と図中右方向へと伝達されるが,第1,第2の円筒体(4),(5)の左右方向の熱抵抗値および熱容量が等しいため,左右方向に均等均等に伝達されることになる。したがって,光伝搬路(3)の時計回り光入射端(1)と,反時計回り光入射端(2)との間に生じる温度差は極小となる。・・・外壁から直接光伝搬路(3)へと達する矢印(a)で示す経路の熱抵抗値に比べ,フランジ(10a)から突条(4a)を介して光伝搬路(3)へと達する矢印(b)の経路の熱抵抗値の方が無視できるほど小さいため,通常,後者の経路で熱伝達が行われる。したがって,光伝搬路(3)の上下,左右壁に対し,時間的に対称な温度分布が形成されることになり,さらに磁気シールドで地球磁場が遮蔽されるのでジャイロとしてドリフトスタビリティの非常に良好な状態で動作させることができる」(4頁左下欄最終段落〜5頁左上欄第1段落),D〔発明の効果〕の欄に,「以上のように,この発明によれば,回転角速度検出部の光伝搬回路を二重壁構造体で覆うことにより,光伝搬路の時計回り光入射端と反時計回り光入射端との間の温度差を極小にすることができ,また,光伝搬路を磁気シールドで覆い地球磁場を遮蔽することにより,磁場変動に伴う位相誤差を低減することができる。よってジャイロ特性であるドリフトスタビリティを向上することができる効果がある」(5頁左上欄第2段落)と記載されている。
上記記載によれば,引用発明は,光伝搬路の時計回り光入射端と反時計回り光入射端の温度差を低減し,さらに,地球磁場変動に伴う位相誤差を低減することによって,ドリフトスタビリティの良好な光ファイバジャイロを得ることを目的とし,その手段として,光伝搬路を,その時計回り光入射端と反時計回り光入射端の温度差を極小にするような二重壁構造体とし,かつ,地球磁場を遮蔽するための磁気シールドで覆う構成としたものであり,具体的には,二重壁構造体を形成する,第1,第2の蓋体(8,9)及び第1,第2の円筒体(4,5)並びに断熱材(6,7,12)の働きによって,光伝搬路(3)の上下,左右壁に対し,時間的に対称な温度分布を形成し,光伝搬路の時計回り光入射端と反時計回り光入射端の温度差を極小にするとともに,他方,光伝搬路(3)を,第1,第2の磁気シールド(13,14)で覆い地球磁場を遮蔽することにより,磁場変動に伴う位相誤差を低減するというものであると認められる。そして,光伝搬路の時計回り光入射端と反時計回り光入射端の温度差を低減する作用効果と,地球磁場変動に伴う位相誤差を低減する作用効果とは,ドリフトスタビリティの良好な光ファイバジャイロを得るという目的を達成する上で,それぞれ独立の役割を果たすものであることは,引用例(甲5)の上記各記載から明らかというべきである。
そうすると,引用発明に接した当業者において,あえて,地球磁場変動に伴う位相誤差を低減する作用効果のみに着目して,光伝搬路の時計回り光入射端と反時計回り光入射端の温度差の点を捨象し,引用発明の構成から上記温度差の低減に関する構成,具体的には,二重壁構造体を形成する,第1,第2の蓋体(8,9)及び第1,第2の円筒体(4,5)並びに断熱材(6,7,12)を省略することは,格別,困難なことではないということができる。そして,そのようにした場合,引用発明において,光伝搬路(3)を直接かつ機械的に支持していた第1,第2の円筒体(4,5)が失われることになるから,残った他の部材を,光伝搬路(3)を直接かつ機械的に支持するように設計し直すこと,例えば,磁気シールド(14)に,第1,第2の円筒体(4,5)の機能を兼用させて,本願補正発明の「本体部分」に相当する「光伝搬路(3)」を直接かつ機械的に支持させるようにすることは,当業者が必要に応じて適宜成し得る設計的な事項であるというほかはない。
なお,原告は,引用発明は,光伝搬路(光ファイバコイル)を支持する構造部分,すなわちスプールを温度差低減効果のために2重構造にしたというものであるから,仮に,温度差低減効果を考えないこととしても,光ファイバコイルを支持する構造部分自体を排除して,磁気シールド(13,14)によって,光伝搬路(3)を直接支持するということにはならない旨主張する。しかしながら,引用発明において,温度差低減の点を考慮しない場合,当該温度差の低減に関する構成を省略することは格別困難なことではなく,かつ,そのようにした場合,磁気シールド(14)に,光伝搬路(3)を直接かつ機械的に支持させるようにすることも設計的な事項にすぎないことは,上記のとおりであり,原告の上記主張は採用の限りではない。
(3) 原告は,本願補正発明は格別な作用効果を有するとし,本件明細書の発明の詳細な説明(甲4添付)の記載(2頁最終段落〜3頁第1段落,同頁第3段落)を根拠に,本願補正発明は,完全に閉じた磁気回路の包囲体というシールド構造を有し,これにより,「しっかりとパッケージされた光パスが作り出され,容易に製造され得る」,「シールド効率が改善され」るという作用効果を奏する旨主張する。
しかしながら,原告の上記主張は,上記1のとおり,本願補正発明が,完全に閉じた磁気回路の包囲体というシールド構造を有するものであることを前提としている点で誤りである上,また,「しっかりとパッケージされた光パスが作り出され,容易に製造され得る」,「シールド効率が改善され」るという程度の作用効果であれば,本願補正発明1の構成が当業者において容易に想到し得るものである以上,その構成自体から容易に予測し得るものであることは明らかである。原告の上記主張は採用することができない。
また,原告は,本願補正発明が格別な作用効果を有する根拠として,甲7宣誓供述書の記載を援用する。しかしながら,甲7宣誓供述書では,比較の対象とされている「従来技術」の構成自体が不明である上,実験条件その他の前提条件も明らかでないから,そこで主張される効果が,そもそも,本願補正発明と引用発明との相違点に係る構成に基づくものであるかどうか自体,明らかでないといわざるを得ず,採用の限りではない。
(4) 以上によれば,「仮に,本願補正発明の『スプール』が本体部分を直接的に支持するものに限定されるとしても,そのようなスプールとすることは,当業者にとって格別困難なことではない」とした審決の判断に誤りはないから,原告の取消事由3の主張は理由がなく,また,そうとすれば,「スプール」の意義に関する原告の取消事由2の主張は,審決の結論に影響を及ぼさないことが明らかであるから,理由がないことに帰する。
4 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 古城春実
裁判官 早田尚貴