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関連審決 異議2003-729772
訂正2005-39196
関連ワード 進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  周知技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  翻訳文 /  優先権 /  参酌 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  交換 /  設定登録 /  請求の範囲 /  訂正明細書 /  訂正要件 /  国際公開 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10407号 審決取消請求事件
原告アプライドマテリアルズ インコーポレイテッド
訴訟代理人弁理士小橋正明
被告特許庁長官肥塚雅博
指定代理人中島昭浩,前田幸雄,森川元嗣,大場義則
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/07/25
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が訂正2005-39196号事件について平成18年5月2日にした審決を取り消す。
第2当事者間に争いがない事実1特許庁における手続の経緯( )原告は,発明の名称を「化学的機械的研磨用の多層の止め輪を有するキャ1リア・ヘッド」とする特許第3431599号(平成11年5月7日出願〔以下「本件出願」という。〕,優先権主張1998年〔平成10年〕6月3日・米国,平成15年5月23日設定登録〔以下「本件特許」という。〕)の特許権者である。
( )本件特許については特許異議の申立てがされ,異議2003-729772号事件として係属し,平成17年2月28日付けで訂正請求がされたところ,特許庁は,上記事件を審理した結果,平成17年5月17日,「訂正を認める。特許第3431599号の請求項1,4〜25に係る発明についての特許を取り消す。同請求項2〜3に係る発明についての特許を維持する。」との決定をし,その謄本は,同年6月8日,原告に送達された。
原告は,平成17年10月6日,上記決定のうち,「特許第3431599号の請求項1,4〜25に係る発明についての特許を取り消す。」との部分の取消しを求めて,知的財産高等裁判所に対し訴えを提起し(当庁平成17年(行ケ)第10721号として係属),同年10月27日,特許庁に対し,特許第3431599号の請求項1の訂正(以下「本件訂正」という。)を求める審判請求をした。
特許庁は,これを訂正2005-39196号事件として審理し,平成18年5月2日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月12日,原告に送達された。
2発明の要旨( )本件出願の願書に添付した明細書(甲15,以下「本件特許明細書」とい1う。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本件発明」という。)の要旨【請求項1】 化学的機械的研磨のためのキャリア・ヘッドの止め輪であって,研磨の間にポリシング・パッドと接触し,第一の材料で作られている,底部表面を有する下部の部分と,前記第一の材料より剛性である第二の材料で作られている,上部の部分と,を有する,ボルトによってキャリア・ヘッドのベースの外縁に固定されるようになっている全体として環状の止め輪。
( )本件訂正後の明細書(甲5,以下「訂正明細書」という。)の特許請求の2範囲の請求項1に記載された発明(以下「訂正発明1」という。)の要旨(下線部は訂正部分)。
【請求項1】化学的機械的研磨のために,ハウジング,ベース,ローディングチャンバを有するキャリア・ヘッドにおいて,前記ハウジングと前記ベースの間に前記ローディングチャンバが配置され,ポリシング・パッドに対する前記ベースの垂直位置を制御する前記ローディングチャンバ内の圧力はポンプにより制御される,前記キャリア・ヘッドの止め輪であって,第一の材料で作られており且つ研磨の間にポリシング・パッドと接触する底部表面を有する下部の部分と,前記第一の材料より剛性である第二の材料で作られている,上部の部分と,を有し,前記上部の部分は,ボルトによってキャリア・ヘッドの前記ベースの外縁に固定されるようになっており且つ前記下部の部分は,被研磨物の周縁部と接触して前記被研磨物を前記キャリア・ヘッドの底部に画定されている被研磨物収容陥凹部に維持する,全体として環状の止め輪。
3審決の理由( )審決は,別紙審決のとおり,本件訂正は新規事項を追加するものであり,1特許法126条3項の規定に適合しないとし,また,訂正発明1は,国際公開96/36459号(甲1,以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「刊行物1記載の発明」という。),国際公開97/20660号(甲2,以下「刊行物2」という。)に記載された事項,周知の事項及び慣用手段に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同法29条2項の規定により特許を受けることができず,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,本件訂正は同法126条5項の規定に適合しないとした。
( )審決が認定した刊行物1記載の発明の要旨2「化学的機械的研磨のために,ショルダ260,上部プレート274,断面視でショルダと上部プレートと可撓性リング272とで囲まれる空間を有するツーリングヘッド202において,前記ショルダと前記上部プレートの間に前記空間が配置され,ショルダ260は,ショルダ260とプラテン266(判決注:「上部プレート274」の誤記と認められる。)との間で機能する圧縮バネ270が固定される円形のノッチ268を備え,ウエハ200と研磨パッド206との間の力は圧縮バネ270によって制御される,前記ツーリングヘッド202の,摩耗リング291を備える保定リング282であって,プラスチック材料を含み且つ研磨の間に研磨パッド206と接触する底部表面を有する摩耗リング291と,前記保定リング282のうち摩耗リング291より上部の部分と,を有し,前記保定リング282のうち摩耗リング291より上部の部分は,保定リング可撓性部材284によって,可動性を有するように上部プレート274に取り付けられ,前記保定リング282の正確な垂直位置は,ツーリングヘッドの周縁に沿って間隔を開けられたいくつかのサーボ操作されるネジ288およびセンサ290によって制御される保定リング282。」( )審決が認定した訂正発明1と刊行物1記載の発明の一致点及び相違点は,3それぞれ次のとおりである。
ア一致点「化学的機械的研磨のために,ハウジング,ベース,ハウジングとベースの間に配置される空間を有するキャリア・ヘッドにおいて,前記ハウジングと前記ベースの間に前記空間が配置される,前記キャリア・ヘッドの止め輪であって,第一の材料で作られており且つ研磨の間にポリシング・パッドと接触する底部表面を有する下部の部分と,上部の部分と,を有し,下部の部分は,被研磨物の周縁部と接触して被研磨物をキャリア・ヘッドの底部に画定されている被研磨物収容陥凹部に維持する,全体として環状の止め輪」イ相違点(ア)相違点1「前者(判決注:訂正発明1)は,ハウジングとベースの間に配置される空間がローディングチャンバであって,ポリシング・パッドに対するベースの垂直位置を制御するローディングチャンバ内の圧力がポンプにより制御されるのに対して,後者(判決注:刊行物1記載の発明)は,ハウジングとベースとの間で機能する圧縮バネ270により,被研磨物と研磨パッド206との間の力が制御される点。」(イ)相違点2「前者は,上部の部分が『第一の材料より剛性である第二の材料で作られている』のに対して,後者は,上部の部分の材料を特定していない点。」(ウ)相違点3「前者は,止め輪の 上部の部分は,ボルトによってキャリア・ヘッドの前記ベ『ースの外縁に固定されるようになっている のに対して,後者は,止め輪の上部の 』部分は,ベースである上部プレート274に固定されるのではなく, 保定リング 『可撓性部材284によって,可動性を有するようにベースである上部プレート274に取り付けられ,その正確な垂直位置は,ツーリングヘッドの周縁に沿って間隔を開けられたいくつかのサーボ操作されるネジ288およびセンサ290によって制御される 点。」』第3原告主張の審決取消事由審決は,本件訂正について,新規事項についての判断を誤り(取消事由1),また,刊行物1記載の発明の認定を誤り(取消事由2),相違点1ないし3についての認定判断を誤り(取消事由3ないし5),本件訂正が許されないとしたものであり,違法であるから,取り消されるべきである。
1取消事由1(新規事項についての判断の誤り)( )審決は,「化学的機械的研磨の対象物として『被研磨物』が『基板』及び1『ウエーハ』以外のものを表さないことが自明であるとも認められない」(4頁第1段落)として,本件訂正のうち,「且つ前記下部の部分は,被研磨物の周縁部と接触して前記被研磨物を前記キャリア・ヘッドの底部に画定されている被研磨物収容陥凹部に維持する,」という事項を追加すること(以下「訂正事項d」という。)が本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものでないと判断したが,誤りである。
化学的機械的研磨は,半導体の微細化のための平坦化技術として実用化されたものであり,化学的機械的研磨の対象物としての「被研磨物」は,「基板」及び「ウエハ(シリコンウエハを含む)」以外のものを表さないことは自明である。
このことは,本件特許明細書の段落【0002】,【0005】において,「基板」及びその一例として「ウエハ」及び「シリコン(半導体)」が記載されていること,特許庁ウェブサイトにおける「4-4-1CMP((注)化学的機械的研磨)装置」の説明(甲8)において,化学的機械的研磨の対象物としての被研磨物として,「基板」,「半導体(シリコン)」及び「ウエハ」のみが記載されていること,「半導体平坦化CMP技術(超LSI製造のキープロセス)」(甲9)に,化学的機械的研磨の被研磨物として,「基板」,「ウエハ」及び「半導体」のみが記載されていること,化学的機械的研磨の技術に係る公開特許公報(特開平9-155733号公報〔甲10〕,特開平9-323255号公報〔甲11〕,特開平10-34522号公報〔甲12〕,特開平10-34524号公報〔甲13〕,特開平10-125637号公報〔甲14〕)において,化学的機械的研磨の被研磨物として,「基板」,「半導体」,「ウエハ」のみが記載されていることからも明らかである。そして,「基板」,「半導体」又は「ウエハ」が,いずれも同じ実体のものであることは,当業者に自明である。
この点について,被告は,特公昭59-53317号公報(乙1,以下「乙1公報」という。)に,化学的機械的研磨の対象物としての「被研磨物」として「機械部品」が含まれることが記載されている旨主張するが,そこに記載されている「機械部品」は,基板上に形成した非晶質酸化アルミニウム層を化学的機械的研磨装置により完全に研磨した結果得られる最終製品であって,化学的機械的研磨の対象物としての被研磨物ではない。同公報における化学的機械的研磨の対象物としての被研磨物は基板であるから,同公報は,化学的機械的研磨の対象物としての「被研磨物」は「基板」であることを示す。
( )審決は,訂正要件dを含む本件訂正が特許法126条3項の規定に適合し2ないと判断するに当たり,「『被研磨物』には,『基板』及び『ウエーハ』以外の化学的機械的研磨の対象物を含み得ると解される。そうすると,化学的機械的研磨の対象物を『被研磨物』とすることは,本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものではない。したがって,訂正事項dを含む本件訂正は,特許法第126条第3項の規定に適合しない。」(4頁第1段落)としたが,このような判断の手法は違法である。
訂正の内容が新規事項を含むものであるか否かの判断は,その訂正の内容が「当初明細書等に記載した事項」の範囲を超える内容を含むものであるか否かによってされるべきであり,その場合の「当初明細書等に記載した事項」とは,@「当初明細書等に明示的に記載された事項」だけではなく,A「当初明細書等の記載から自明な事項」を含むものであって,その場合に,訂正された事項が,「当初明細書等の記載から自明な事項」であるといえるためには,当初明細書等に明示的な記載がなくとも,これに接した当業者であれば,出願当時の技術常識に照らして,その意味であることが明らかであり,その事項がそこに記載されているのと同然であると理解される事項でなければならない。
審決は,「被研磨物」には,「基板」及び「ウエハ」以外の化学的機械的研磨の対象物を含み得ると解されるとするが,そのような対象物として具体的にどのようなものが存在するかを指摘しない。仮に,化学的機械的研磨の「被研磨物」として「基板」及び「ウエハ」以外の対象物が存在したとしても,上記のとおり,訂正の内容が新規事項を含むものであるか否かの判断に当たっては,新たな対象物が当初明細書等に記載されていると同然であるか否かの判断を行う必要があるにもかかわらず,審決は,明示的に記載されている対象物以外の新たな対象物がどのようなものであるかを具体的に指摘しないので,新たな対象物が当初明細書等に記載されているのと同然であるか否かの判断を行うことができない。このような判断手法は,原告の反論の機会を失わせるものであり,違法である。
2取消事由2(刊行物1記載の発明の認定の誤り)( )審決は,刊行物1の図9ないし図11にかんがみて刊行物1記載の発明を 1認定するとした。
刊行物1の図9の実施態様は,研磨装置に使用することが可能なツーリングヘッド202の構成として,プラテン266の下面から突出して保定リップ273が設けられ,保定リップ273はプラテン266に対して可動性を有さず,不動的である。これに対し,図10ないし図12の実施態様は,研磨装置に使用することが可能なツーリングヘッド202の構成として,磨耗リング291を具備する保定リング282が上部プレート274に対して可動的に設けられており,ウエハ200と磨耗リング291との間の高さの関係Hを制御することが可能である。この点において,図9の実施態様と図10〜図12の実施態様は構造が全く異なるものである。
審決が認定した刊行物1記載の発明は,「保定リング282」を包含するものであり,上部の部分が保定リング可撓性部材284によって可動性を有するように上部プレート274に取り付けられる構成となっているから,図9の実施態様が包含されるものではない。しかし,審決は,互いに排他的な構造を有する不動性の保定リップ273と可動性の保定リング282の存在にもかかわらず,特段の理由もなく,刊行物1記載の発明について,排他的な構造を相互に有する図9ないし図11にかんがみて認定するとしているものであり,その認定には誤りがある。図9の不動性の保定リップ273を含む構成については「刊行物1記載の発明1」とし,図10,図11の可動性の保定リング282を含む構成については「刊行物1記載の発明2」とすべきである。
この点について,被告は,重複する構成について,図9に係る記載をもって,図10の構成を明らかにしたものである旨主張しているが,刊行物1記載の発明においては,「磨耗リング291を備える保定リング282」のみが記載されているにすぎず,図9と図10,図11に共通の重複する構成が記載されているものではない。
( )審決は,刊行物1記載の発明の保定リング282に係る構成について,2「前記保定リング282のうち磨耗リング291より上部の部分と,を有し,前記保定リング282のうち磨耗リング291より上部の部分は,保定リング可撓性部材284によって,可動性を有するように上部プレート274に取り付けられ」(8頁第2段落)と認定した。
ここで,審決が,「保定リング282」とせず,「保定リング282のうち磨耗リング291より上部の部分」と定義したのは,刊行物1の図10ないし図12のとおり,摩耗リング291は,その上部が保定リング282の底面の一部内に部分的に埋め込まれ,厳密には,保定リング282は,磨耗リング291より「上部の部分」と「上部でない部分」とを有することによる。
ここで,保定リング282の「上部の部分」と「上部でない部分」とは,両者とも保定リング282の一部にすぎないものであり,それぞれ,異なる材料からなるものであることを示唆する記載もなく,同一の材料から構成されていることが示唆されているといえるから,保定リング282を「上部の部分」と「上部でない部分」とに分断する基準が不明である。
そして,保定リング282は,「上部の部分」と「上部でない部分」とを有しているので,保定リング282全体としては,磨耗リング291に対して「上部の部分」ということはできない。審決の「刊行物1記載の発明」の認定は,「保定リング282のうち磨耗リング291より上部の部分」とは具体的に保定リング282のうちのどの部分のことを指しているのか説明せず,さらに,保定リング282の「上部でない部分」については全く無視しており,そのことについての何らの説明もない点において失当である。
3取消事由3(相違点1についての認定判断の誤り)( )審決は,相違点1の容易想到性判断に当たり,「相違点1に係る,訂正発1明1の上記構成及び刊行物1記載の発明の上記構成とは,ベースに印加される下方への圧力を制御する点で同等のものということができる。」(12頁第1段落)と認定判断したが,誤りである。
( )訂正発明1におけるローディングチャンバ108と,刊行物1における圧 2縮バネ270とは技術的意義が全く異なり,その目的,構成及び作用効果も全く異なる。
訂正発明1におけるローディングチャンバは,単に,「ベースに印加される負荷すなわち下方への圧力」を制御するものではなく,ポリシング・パッド32に対するベース104の「垂直位置を制御」して,止め輪110をポリシング・パッド32に負荷を加えるように下向きに押すこと,すなわち,止め輪110をポリシング・パッド32と接触させるように垂直位置を制御するとともに,ポリシング・パッド32との間に所定の接触圧(負荷)を与えるように下向きに押すものである。訂正明細書の段落【0010】,【0020】,【0033】,【0034】の記載を参照すれば,訂正発明1が,ベースの垂直位置の制御により,ポリシング・パッドと非接触の状態にあった止め輪を,ポリシング・パッドと接触させること,ベース104の垂直位置を制御することをもって,止め輪110をポリシング・パッド32に負荷を加えるように下向きに押すものであることは,当業者にとって明らかである。
したがって,訂正発明1においては,比較的大型のキャリア・ヘッド全体を垂直方向に移動させることなく,ローディングチャンバ内の圧力を制御することによって,ベースを垂直に移動させ,止め輪の底部表面をポリシング・パッドと接触させることが可能である。
また,訂正発明1においては,ベースの垂直位置が制御されて,止め輪の底部表面がポリシング・パッドと接触したとしても,基板が必然的にポリシング・パッドと接触することになるものではなく,訂正明細書及び図2に示されている実施例においては,ブラダー144又はチャンバ190内の圧力を別のポンプで制御することにより基板10を保持する可撓膜118を下方向へ移動させて基板10をポリシング・パッド32に対して押し付けることが可能であり,止め輪110の垂直位置は基板10の垂直位置とは別個に制御することが可能である。
一方,刊行物1記載の発明は,刊行物1の図2及び図9に図示されるように,ポスト204がZ方向,すなわち,垂直方向に位置変化することにより,それに接続されているツーリングヘッド202も同期してZ方向に位置を変化させ,その結果,ツーリングヘッド202に保持されているウエハ200が研磨パッド206と接触し,このようにしてウエハ200が研磨パッド206と接触したとき,圧縮バネ270がショルダ260とプラテン266との間で圧縮され,Z方向への力であるウエハへの圧力が変化し得ることを確実にするものである。すなわち,圧縮バネ270自体がツーリングヘッド202のZ方向の位置を制御するためにツーリングヘッドをZ方向に移動させるのではなく,ポスト204のZ方向への移動によりツーリングヘッド202がZ方向へ移動されて,ウエハ200が研磨パッド206と接触状態となったとき,圧縮バネ270がポスト204によって加えられるZ方向への力であるウエハへの圧力が変化し得ることを確実にする。
したがって,刊行物1記載の発明においては,圧縮バネ270は,あくまでも受動的機能を有するにすぎないものであって,ショルダ260がZ方向に移動しない状態において,プラテン266のみをZ方向に位置制御することが可能なものではなく,また,ウエハ200と無関係に止め輪の底部表面を研磨パッドと接触させることが可能なものではない。
( )被告は,原告の上記( )の主張が特許請求の範囲の記載に基づかない旨主張3 2する。
しかし,訂正発明1の特許請求の範囲には,止め輪が上部の部分と下部の部分とを有しており,上部の部分は「ボルトによってキャリア・ヘッドの前記ベースの外縁に固定される」こと,下部の部分は「研磨の間にポリシング・パッドと接触する底部表面を有する」ことが記載されている。したがって,止め輪はベースに固定されていることが記載されていて,ローディングチャンバ内の圧力を制御してポリシング・パッドに対するベースの垂直位置を制御するということは,ポリシング・パッドに対する止め輪の垂直位置を制御することを意味することが明らかである。更に,止め輪の底部表面は研磨の間にポリシング・パッドと接触することが記載されているので,ベースの垂直位置の制御によって,研磨の間,止め輪の底部表面がポリシング・パッドと接触させるものである。そして,止め輪は交換部品であり使用により消耗するものであるから,非研磨の間に,止め輪をポリシング・パッドと接触させたままとすることは当業者の常識に反することであり,その底部表面が研磨の間にポリシング・パッドと接触するということは,非研磨の間にはポリシング・パッドと非接触であることを意味していることが明らかである。
また,被告は,訂正発明1のローディングチャンバと刊行物1の圧縮バネは,ベースに印加される下方への圧力を制御するという機能の点で共通する旨主張する。
しかし,刊行物1記載の発明においては,圧縮バネによって制御される対象は,ウエハ(被研磨物)と研磨パッド(ポリシング・パッド)との間の力であり,ウエハと研磨パッドとが接触している状態においてのみ力の制御が可能である。一方,訂正発明1においては,ローディングチャンバ内の圧力は,ポリシング・パッドに対するベースの垂直位置を制御するものであり,止め輪のポリシング・パッドに対する垂直位置を制御するものであるから,ローディングチャンバによって制御される対象は,止め輪とポリシング・パッドとの間の位置関係及び力(接触状態とされた場合)であり,刊行物1記載の発明と訂正発明1とは,ベースに印加される下方への圧力を制御する上で,機能及び制御対象において著しく異なっている。
4取消事由4(相違点2についての認定判断の誤り)( )審決は,「刊行物1記載の発明における『保定リング282』のうち摩耗1リング291より上部の部分は『摩耗リング291』を支持するものであるから,支持される『摩耗リング291』より高剛性の材料を採用することは当業者が適宜選択し得る事項にすぎない。しかも,『保定リング282』が『ウエハへの横方向の力に抵抗する』ためのものであることを考慮すれば,より外力に抗することのできるより高剛性の材料を可能であるなら選択すべきところ,『摩耗リング291』がプラスチック材料からなるのであれば,『保定リング282』のうち摩耗リング291より上部の部分を該プラスチック材料よりも高剛性の材料で作り,もって『保定リング282』をより高剛性のものとすることは,当業者であれば容易に想到し得ることである。したがって,刊行物1記載の発明における止め輪の『上部の部分』を,『下部の部分』を構成する『第一の材料』より剛性である『第二の材料』で作ることは,当業者が容易になし得ることである。」(13頁最終段落〜14頁第2段落)と判断したが,誤りである。
( )訂正発明1は,ボルト締めによる止め輪の「変形」や基板と当接すること2による止め輪の「偏向」に起因する止め輪自体の端部効果助長原因に関する技術課題を解決するものである。このような技術課題は,訂正発明1に独特のものであり,訂正発明1の出願前に認識されていなかった。すなわち,訂正発明1の出願前において,止め輪が,基板を所定位置に維持する機能のみならず,端部効果を減少させる機能を併せ持つことは認識されていたが,止め輪がボルト締めにより「変形」したり,基板との当接により「偏向」したりして,かえって,端部効果を助長する原因となることがあるとの技術課題は認識されていなかった。訂正発明1は,止め輪を使用しているにもかかわらず,端部効果が再発しているため,鋭意研究した結果,止め輪自体に起因する端部効果助長原因が存在することを突き止め,この原因を除去するためにされたものである。
このような訂正発明1の独特の技術課題は,刊行物1に記載されていないし,示唆もされていない。刊行物1においては,図10〜図12に示されるように,磨耗リング291と保定リング282とからなり,たまたま,訂正発明1の上部の部分と下部の部分とを有する止め輪の構造に類似する,2層構造のリングが示されているにすぎない。また,刊行物1は,磨耗リング291は,研磨パッドによる研磨に耐える高い耐研磨性及びゆがみに耐える良好な寸法安定性の両方を備えたプラスチック材料からなることを記載するが,保定リング282の材料を一切記載しないし,示唆もせず,保定リング282を形成する材料が磨耗リング291を形成する材料より剛性であることを記載するものでも,示唆するものでもない。更に,保定リング282は,保定リング可撓性部材284によって,「可動性」を有するように上部プレート274に取り付けられるものであって,刊行物1は,保定リング282を上部プレート274に固定することを記載するものでも示唆するものでもなく,保定リング282をボルトなどにより,上部プレート274に固定して「不動性」のものとしたのではそのような長所は得られないこととなるから,保定リング282を「不動性」のものとすることは保定リング282の所与の目的に反することとなり不合理であり,刊行物1の磨耗リング291が訂正発明1の止め輪の下部の部分に対応し,保定リング282が訂正発明1の止め輪の上部の部分に対応するということはできない。
( )審決は,上記( )のとおり,「『保定リング282』のうち摩耗リング23191より上部の部分は『摩耗リング291』を支持するものであるから,支持される『摩耗リング291』より高剛性の材料を採用することは当業者が適宜選択し得る事項にすぎない。」としたが,失当である。支持するものと支持されるものとがある場合に,支持するものの方が支持されるものより高剛性のものでなければならない必然性はない。
そして,刊行物1において,磨耗リング291については,高い耐摩耗性及びゆがみに耐える良好な寸法安定性の両方を備えたプラスチック材料として特記しているのに対し,保定リング282については,材料について何ら記載していないのであるから,かえって,支持される磨耗リング291の方が支持する保定リング282よりも高剛性の材料であることが要望されているといえる。また,保定リング282は可動性であることが必要とされているところ,一般的には,高剛性の場合には高重量であることが当業者にとって技術常識である(甲18,19)から,例えば,金属などの高剛性の材料で保定リング282を製造した場合,保定リング282の重量が大きくなり,可動性に悪影響を与える可能性があり,特に,保定リング282の「上部の部分」はかなり寸法が大きいものであり,それを金属で構成した場合には保定リング282の重量は相当程度の大きさとなり,高重量の保定リング282を支持するために可撓性部材284(円形鉄バンド)の厚さを大きく設定することが必要となって,可撓性部材284の可動性が悪化することとなるから,保定リング282の材料を磨耗リング291よりも高剛性の材料とすることは,むしろ否定されている。
更に,従来技術においては,止め輪はその全体がプラスチックから形成されており,ベースなどにボルト締めにより固定されていたものであるから,保定リング282が磨耗リング291と同等又はそれ以下の剛性のプラスチック材料から形成することに支障はない。
被告は,保定リング282の正確な垂直位置は,ネジ288及びセンサ290によって制御されていて,保定リング282の垂直位置を正確に制御するため,「上部の部分」を,ネジ288との間で力が加わっても,その部分で変形が生じることのない剛性の高い材料とすべきことは明らかである旨主張するが,保定リング282の「上部の部分」とネジ288とが直接に接触しているとの前提に誤りがある。
( )審決は,上記( )のとおり,「『保定リング282』が『ウエハへの横方41向の力に抵抗する』ためのものであることを考慮すれば,より外力に抗することのできる,より高剛性の材料を可能であるなら選択すべきところ,『摩耗リング291』がプラスチック材料からなるのであれば,『保定リング282』のうち摩耗リング291より上部の部分を該プラスチック材料よりも高剛性の材料で作り,もって『保定リング282』をより高剛性のものとすることは,当業者であれば容易に想到し得る」とするが,失当である。
ウエハ200の横方向の力は,直接的には,磨耗リング291に作用し,磨耗リング291は,ウエハ200から直接的に横方向の力を受けるばかりか,研磨パッド206に押し付けられているので,研磨パッド206からも直接的に力を受ける。
一方,保定リング282は,磨耗リング291を介して間接的にその横方向の力を受けるにすぎず,研磨パッド206から直接的に力を受けることはない。
したがって,ウエハの横方向の力に抵抗するためには,保定リング282より,磨耗リング291の方が,一層高剛性の材料であることが必要である。更に,保定リング282は,可撓性部材284に支持され,可動性を有しているので,ウエハからの横方向の力は保定リング282において分散され,かつ,可撓性部材284によって吸収される傾向となり,その点からも,保定リング282を磨耗リング291より高剛性の材料とすることの可能性は低い。加えて,刊行物1の図11のとおり,保定リング282は,磨耗リング291と比較してその横方向の幅が大きく設定されている。これは,保定リング282は磨耗リング291と比較して剛性の低い材料から形成されているので,横方向寸法を大きくして保定リング282の剛性を高めているものである。
5取消事由5(相違点3についての認定判断の誤り)( )審決は,相違点3の容易想到性判断に当たり,「後者(判決注:刊行物21に記載の事項)の『主研磨ヘッド部材40』は,『止め輪』が固定される部材である点に限り前者(判決注:訂正発明1)の『ベース』と共通するものである。」(14頁第4段落)としたが,誤りである。
駆動シャフトに接続され,回転及び横方向運動が駆動制御されるという機能の同一性から,訂正発明1のハウジング102は,刊行物2の主研磨ヘッド部材40に対応する。そして,刊行物2の主研磨ヘッド部材40に設けられている真空マニホールド42は,訂正発明1のローディングチャンバ108に対応するが,刊行物2に記載された事項においては,真空マニホールド42内の圧力によって基板50を吸引又は離脱させていて,訂正発明1のベースに対応する部材は存在しない。
この点について,被告は,刊行物2においては,訂正発明1におけるハウジングに相当する部分とベースに相当する部分とが一体となって主研磨ヘッド部材40を構成している旨主張するが,まず,訂正発明1において別々の要素として記載されているハウジングとベースとを一体とすることの必然性について何らの説明をしていない恣意的なものであり,更に,ハウジングとベースとが一体となって主研磨ヘッド部材40を構成するとしても,主研磨ヘッド部材40のどの部分がハウジングに相当し,かつ,どの部分がベースに相当するかが明らかではない。また,被告の主張のように,主研磨ヘッド部材40はハウジングとベースとが一体となったものであるとした場合,訂正発明1において明記されているローディングチャンバ内の圧力によるベースの垂直位置制御という要件が欠如することとなり,不合理である。
( )審決は,「刊行物1記載の発明は,上部部分を含めた止め輪全体が,ベー2スに相当する上部プレートに対して可動性を有するものであって,当該上部プレートに固定されていないが,止め輪をベースに対して可動性を有することを要しない場合(上述刊行物1記載の図9参照)も存在することは明らかである。そうすると,刊行物1記載の発明も刊行物2に記載の事項も,共に,化学的機械的研磨という同一の技術分野に属するものであることを考慮すれば,刊行物1記載の発明における止め輪の上部の部分をベースに保持させる方式を,止め輪をベースに対して可動性を有することを要しないものとし,キャリア・ヘッドのベースの外縁にボルトで固定するとの事項を適用し,相違点3に係る構成を訂正発明1のそれとすることは,刊行物2に記載の事項及び慣用手段から当業者が容易になし得ることである。」(14頁第5段落〜第6段落)と認定判断したが,誤りである。
まず,前記2のとおり,審決における「刊行物1記載の発明」においては,刊行物1の図9の不動性の保定リップの構成は排除されており,図10,図11の可動性の保定リングの構成のみを含むものである。審決は,「止め輪をベースに対して可動性を有することを要しない場合(上述刊行物1記載の図9参照)」を検討しているが,審決の「刊行物1記載の発明」の定義においては,図9に示された構成は排除されているから,審決でいう「止め輪をベースに対して可動性を有することを要しない場合(上述刊行物1記載の図9参照)」とは,「刊行物1記載の発明」に包含されるものではなく,「刊行物1記載の発明」とは別の発明である。
そして,以下のとおり,刊行物1記載の発明に,刊行物1の図9の構成及び刊行物2に記載の事項を適用することには,阻害要因がある。
刊行物1記載の発明は,刊行物1の図10,図11の構成に対応しており,磨耗リング291を具備する保定リング282は,可撓性部材284によって上部プレート274に対して可動的に設けられている。一方,刊行物1の図9の構成では,プラテン266の下面に突出して保定リップ273がプラテン266に固定して不動的に設けられている。刊行物2における保持リング52は,プラスチック(デルリン)から構成されていて,主研磨ヘッド部材40の下部エッジを取り囲んでその底部にネジで取り付けられ,主研磨ヘッド部材の外縁にネジにより固定されている。
ここで,磨耗リング291を具備する保定リング282が可撓性部材284によって上部プレート274に対して可動的に設けられている技術的意義について,刊行物1には,「ウエハ200と磨耗リング291との垂直方向への差である高さの関係Hも示されている。研磨の間,高さの関係Hは,材料の均一な除去を確実にするための重要なパラメータである。この関係における小さな変動も,均一性に対して有意な影響を与え得る。」(翻訳文の27頁19行目〜22行目),「ウエハ200と保定リング282との高さの関係Hの調節ができるため,ウエハ200と磨耗リング291との間にかけられる力の分布の制御が有利に可能になる。」(翻訳文の28頁4行目〜5行目),「保定リングの位置を正確に制御し続けることによって,本発明は,より均一な除去率および表面仕上げを得るために,ウエハに対する圧力の分布の微妙な調整を可能にするという長所を提供する。」(翻訳文の29頁4行目〜6行目)との記載があり,これらによれば,図10,図11に示された刊行物1記載の発明において,保定リング282が可動性を有するように上部プレート274に取り付けられていることは,絶対的に必要な条件である。そして,刊行物1の図9及び刊行物2に記載の事項を刊行物1記載の発明(図10,図11)に適用して,保定リング282を上部プレート274の外縁部に固定して取り付けると,高さの関係Hを調節することが不可能となって,より均一な除去率及び表面仕上げを得るという所期の目的を達成することは不可能となるものである。
したがって,保定リング282を上部プレート274の外縁部に固定させるということは,図10,図11に示された刊行物1記載の発明において,保定リング282を上部プレート274に対して可動的に設けることにより得られる本来の目的を達成することが不可能なこととなるものであるから,刊行物1記載の発明に刊行物1の図9及び刊行物2に記載の事項を適用することは困難である。
( )被告は,刊行物1記載の発明の主たる目的は,ウエハと研磨媒体との間の3速度を一定に保つ機構によっても達成できるものであり,リングの高さを調節可能とするという構成は目的を達成する一手段にすぎず,必須なものでない旨主張するが,ウエハと研磨媒体との間の速度を一定に保つ機構とは,刊行物1の図2〜図8に示されている発明に対応するものであって,審決が認定した刊行物1記載の発明とは別のものである。刊行物1記載の発明は,リングの高さを調節可能とする構成を必要としており,調節可能な保定リングによって高さ関係Hを調節することによって,より均一な除去率及び表面仕上げを得ることを主たる目的とするものであることは明らかである。
また,審決は,「保定リップ又は保定リングを設ける主たる目的は,ウエハの端部と接触し,ウエハへの横方向の力に抵抗して,ウエハをプラテン又は上部プレートの中心位置に保つことであり,保定リングの垂直位置を制御することによりウエハに対する圧力の分布の微妙な調整を行うことは付加的な目的であると解するのが妥当である。」(15頁第2段落)とするが,保定リップ又は保定リングがウエハをプラテン等の中心位置に維持することは,刊行物1の出願時において当業者に周知の課題であり,同課題が,刊行物1記載の発明の主たる目的ということはできない。
第4被告の反論1取消事由1(新規事項についての判断の誤り)に対して原告は,化学的機械的研磨の対象物としての「被研磨物」が,「基板」,「ウエハ」及び「半導体(シリコン)」に限られる旨主張するが,原告がその主張の根拠として掲げる文献は,化学的機械的研磨の対象物としての「被研磨物」が,「基板」,「ウエハ」及び「半導体(シリコン)」である場合を例示したものであり,「被研磨物」として,「基板」,「ウエハ」及び「半導体(シリコン)」以外のものを含み得ないとする根拠に直ちになり得るものではない。
乙1公報の2欄1行目〜25行目には,化学的機械的研磨の対象物としての「被研磨物」として,「機械部品」が含まれることが記載されていることからも,「化学的機械的研磨の対象物として『被研磨物』が『基板』及び『ウェーハ』以外のものを表さないことが自明であるとも認められない。」(審決4頁第1段落)との審決の認定判断に誤りはない。
そして,本件特許明細書に,化学的機械的研磨の対象物として記載されている,「基板」,「ウエハ」又は「シリコン」は,集積回路製造に係るものであるから,「機械部品」を含まないことは自明である。
2取消事由2(刊行物1記載の発明の認定の誤り)に対して( )原告は,審決が,刊行物1記載の発明を排他的な構造を相互に有する図91ないし図11にかんがみて認定するとしているとして,その認定が誤りである旨主張するが,失当である。
審決が,刊行物1記載の発明において,図9を含めて認定しているのは,実施例として刊行物1に記載されている図10,図11の実施態様において,他の実施例である図9と重複する構成が図10において記載が省略されていることから,図9に係る記載を挙げて,図10の構成を明らかにしたものである。
また,刊行物1の記載によれば,ツーリングヘッドには,保定リップ又は保定リングのいずれか一方が具備されていれば足り,両者のいずれを採用するかは当業者が適宜選択し得る事項にすぎないので,両者のうち,保定リングを有するものとして刊行物1記載の発明を認定したことに誤りはない。
( )審決は,刊行物1記載の発明について,「前記保定リング282のうち磨2耗リング291より上部の部分と,を有し,前記保定リング282のうち磨耗リング291より上部の部分は,保定リング可撓性部材284によって,可動性を有するように上部プレート274に取り付けられ」と認定したところ,原告は,摩耗リング291は,その上部部分が保定リング282の底面の一部内に部分的に埋め込まれ,厳密には,保定リング282は,磨耗リング291より「上部の部分」と「上部でない部分」とを有するものであるとして,保定リング282を「上部の部分」と「上部でない部分」とに分断する基準が不明である旨等を主張する。
しかし,刊行物1の記載に照らすと,「磨耗リング291」は,「保定リング282」に含まれるものと解するのが相当であり,「保定リング282」は,「磨耗リング291」と「保定リング282のうち摩耗リング291より上部の部分」とから構成されるものである。原告が主張する「保定リング282のうち摩耗リング291より上部の部分」についての解釈は誤りであり,この解釈に基づく主張にも理由がない。
3取消事由3(相違点1についての認定判断の誤り)に対して( )原告は,訂正発明1においては,比較的大型のキャリア・ヘッド全体を垂1直方向に移動させることなく,ローディングチャンバ内の圧力を制御することによって,ベースを垂直に移動させ,止め輪の底部表面をポリシング・パッドと接触させることが可能となる旨主張するが,失当である。
訂正発明1に係る特許請求の範囲には,ローデングチャンバ内の圧力を制御して「ポリシング・パッドに対する前記ベースの垂直位置を制御する」と記載されているだけであり,ベースの垂直位置の制御によって,ポリシング・パッドと非接触の状態にあった止め輪をポリシング・パッドと接触させることについては,何ら記載されておらず,原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づくものではない。
また,仮に,本件特許明細書を参酌したとしても,本件特許明細書には,ベースの垂直位置の制御によりポリシング・パッドと非接触の状態にあった止め輪をポリシング・パッドと接触させることは,何ら記載されていない。
そして,訂正発明1において,ローディングチャンバの圧力が制御されることは,ベースに印加される負荷すなわち下方への圧力を制御することを含むものである。
一方,刊行物1記載の発明における「ハウジングとベースとの間で機能する圧縮バネ270」は,Z方向におけるハウジングの位置変化によってベースに下方への力を印加して,それにより被研磨物とポリシング・パッドとの間に力を作用させるものである。
したがって,訂正発明1のローディングチャンバと刊行物1の圧縮バネは,ベースに対し下方への押圧力を与える点,すなわちベースに印加される下方への圧力を制御するという機能の点で共通するから,審決における「相違点1に係る,訂正発明1の上記構成及び刊行物1(甲1)記載の発明の上記構成とは,ベースに印加される下方への圧力を制御する点で同等のものということができる」(12頁第1段落)とした判断に誤りはない。
なお,訂正発明1において,ベースの垂直位置を制御することが,止め輪の垂直位置を制御することを示唆するものであるとしても,刊行物1記載の発明においては,ポリシング・パッド(弾性パッド298)は,Z方向への力で圧縮可能であることから,ローディングチャンバ内の圧力をポンプで制御することによりベースに印加される下方への圧力の制御を行うようにした場合,ポリシング・パッドと接触した止め輪とベースとは,ネジ288を介して一体的に移動する。そうすると,刊行物1記載の発明に周知技術を適用することによって,「ポリシング・パッドに対する前記ベースの垂直位置を制御する前記ローディングチャンバ内の圧力はポンプにより制御される」こととなれば,ポリシング・パッドに対する止め輪の垂直位置も制御されることとなる。
したがって,訂正発明1と,刊行物1記載の発明に周知技術を適用したものとは,「ポリシング・パッドに対する止め輪の垂直位置を制御するローディングチャンバ内の圧力はポンプにより制御される」点においても差異はない。
( )原告は,訂正発明1の止め輪110の垂直位置は,基板10の垂直方向と2は別々に制御することが可能である旨主張するが,これは,訂正明細書の図2に示されている実施例に係る機能を主張しているものであるところ,その機能を達成するための構成であるブラダ144及び別のチャンバ190等は,訂正発明1の構成に含まれていないから,特許請求の範囲の記載に基づかない主張であって,失当である。
4取消事由4(相違点2についての認定判断の誤り)に対して( )原告は,支持するものと支持されるものとがある場合に,支持するものの1方が支持されるものより高剛性のものでなければならないという必然性は存在せず,刊行物1が「上部の部分」の材料を記載していないこと,上部の部分を金属とすると重量が高くなることなどを挙げて,相違点2についての審決の判断が誤りである旨主張する。
しかし,刊行物1において,「上部の部分」の材料について何ら記載されていないことが,支持される摩耗リング291の方が支持する「上部の部分」よりも高剛性の材料であることが要望されている理由となる具体的な主張はなく,必ずしも,摩耗リング291の方が支持する「上部の部分」よりも高剛性の材料であることが要望されているとすることはできない。また,原告は,高剛性の材料として金属を例示して,「上部の部分」の重量が高くなることを主張するが,「剛性」と「重量」は異なる物性であり,高剛性であるからといって,必ずしも高重量であるとはいえない。「上部の部分」を金属で構成したとしても,保定リング282の移動量はウエハの研磨量に応じたわずかなものであり,移動速度もウエハの研磨量に応じた遅々たるものであり,ネジ288が保定リング282の自重を支えているものでないことは明らかであって,ネジ288の駆動に「上部の部分」の自重は直接影響するものではないことから,「上部の部分」の重量がその可動性に悪影響を与えるとまではいえない。
そして,止め輪を,摩耗リング291と「上部の部分」に分けた時に,「上部の部分」が摩耗リング291以下の剛性のプラスチック材料から形成することに支障がないとする原告の主張に具体的な理由はない。止め輪としてプラスチック材料を使用するのは,ウエハに汚染などの悪影響を及ぼさない材料を選択することによるのであり,ウエハ及びポリシング・パッドと接触していない「上部の部分」の材料について,プラスチック材料以外の材料を選択することの阻害要因はない。刊行物1の図9と図10とを比較すると,図9では,プラテン266に対して直接ウエハ200を保持しており,ウエハ200と隣接する保定リップ273もプラテン266に直接設けられているのに対し,図10では,ウエハ200を保持するプラテンは可撓性プラテン277として,上部プレート274から突出した態様となっている。単に,保定リップを可撓性プラテン277の突出した厚さに対応させるには,保定リップを厚くする必要があるが,その場合,突出していない場合と同じ負荷がかかっても,より大きな変位,変形が生じることは,当業者であれば技術常識として容易に理解できることである。そして,ウエハ及びポリシング・パッドと接触する部分は,保定リップの下部の一部分となることから,ウエハ及びポリシング・パッドと接触する部分を所望の性能のプラスチック部材とすれば足りること,所望の性能が必要な部分にのみ特定の材料を用い,それ以外の部分に剛性の高い材料を用いることにより,全体として剛性を向上させることが周知の事項であることを勘案すれば,2つの部材からなる,保定リング282において,突出していない場合と同じ負荷がかかってもより大きな変位,変形が生じることを防ぐために,「上部の部分」の材料として,摩耗リング291の材料より高剛性の材料を選択することは,当業者であれば困難なく想到し得る事項である。
( )原告は,ウエハ200の横方向の力は直接的には磨耗リング291に作用2するものであり,保定リング282は磨耗リング291を介して間接的にその横方向の力を受けるにすぎないこと,保定リング282は磨耗リング291と比較してその横方向の幅が大きく設定されていて,これは,保定リング282は磨耗リング291と比較して剛性の低い材料から形成されているので,横方向寸法を大きくして保定リング282の剛性を高めていることを挙げて,上部の部分の剛性をより高くすることに当業者が容易に想到できたとの審決の判断を争う。
しかし,ウエハ200の横方向の力は摩耗リング291に直接作用するものの,その力は「上部の部分」にも伝達されることから,保定リング282全体としては,ウエハ200の横方向の力へ抵抗するためには,「上部の部分」の剛性が高ければ高いほど望ましいことは明らかであり,保定リング282の剛性を高いものとすることは,当業者であれば,容易に想到し得る事項である。また,材料を特定のものとすることを要しない「上部の部分」の剛性が必要であれば,高剛性の材料で構成するとともに横方向寸法も大きくした方がさらに剛性が高まることは明らかである。
さらに,保定リング282の正確な垂直位置は,ネジ288及びセンサ290によって制御されているといえるのであるから,保定リング282の「上部の部分」の剛性が低いために「上部の部分」とネジ288との接触部分で「上部の部分」の変形が生じると,保定リング282の垂直位置を正確に制御できなくなる。そうすると,「上部の部分」を,ネジ288との間で力が加わっても変形が生じることのない剛性の高い材料とすべきことは明らかである。
5取消事由5(相違点3についての認定判断の誤り)に対して( )原告は,刊行物2の主研磨ヘッド部材40を,訂正発明1のベースと共通1するとした審決の認定は誤りであるとし,刊行物2の主研磨ヘッド部材40は訂正発明1のハウジング102に対応すると主張する。
しかし,訂正明細書の特許請求の範囲には,発明の構成として「駆動シャフト」は記載されておらず,回転及び横方向運動が駆動制御されるという作用的記載もない。原告は,特許請求の範囲の記載に基づかない機能が同一であることのみをもって,刊行物2の主研磨ヘッド部材40が訂正発明1のハウジング102に対応するとの根拠としているもので,失当である。また,原告は,刊行物2の真空マニホールド42が,訂正発明1のローディングチャンバ108に対応するとするが,訂正発明1のローディングチャンバ108は,特許請求の範囲に「ポリシング・パッドに対する前記ベースの垂直位置を制御する前記ローディングチャンバ内の圧力はポンプにより制御される,」と記載されていることから,ベースに作用するものである。原告は,刊行物2には,ベースに対応する部材は存在していないと主張するが,そうすると機能の点からは,刊行物2記載の真空マニホールド42が,訂正発明1のローディングチャンバ108に対応しているとすることはできないこととなり,原告の主張は,矛盾を生じるものであり,失当である。
( )原告は,図10,図11に示された刊行物1記載の発明は,調節可能な保2定リングによって高さ関係Hを調節することによって,より均一な除去率及び表面仕上げを得ることが主たる目的である旨主張するが,刊行物1記載の発明において,主たる目的は,ウエハと研磨媒体との間の速度を一定に保つ機構によっても達成できるものであり,リングの高さを調節可能とする構成は目的を達成する一手段にすぎず,必須のものではない。
第5当裁判所の判断1取消事由1(新規事項についての判断の誤り)について( )審決が,「訂正事項dのうち,化学的機械的研磨の対象物を『被研磨物』1とすることについて検討するに,本件特許明細書には『被研磨物』という語は記載されておらず,化学的機械的研磨の対象物としての『基板』又は『ウェーハ』が記載されているのみである。また,化学的機械的研磨の対象物として『被研磨物』が『基板』及び『ウェーハ』以外のものを表さないことが自明であるとも認められない。そして,『被研磨物』には,『基板』及び「ウェーハ」以外の化学的機械的研磨の対象物を含み得ると解される。そうすると,化学的機械的研磨の対象物を『被研磨物』とすることは,本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものではない。したがって,訂正事項dを含む本件訂正は,特許法第126条第3項の規定に適合しない。」(3頁最終段落〜4頁第1段落)としたのに対し,原告は,その認定判断を争う。
( )本件発明の特許請求の範囲は,「化学的機械的研磨のためのキャリア・ヘ2ッドの止め輪であって,研磨の間にポリシング・パッドと接触し,第一の材料で作られている,底部表面を有する下部の部分と,前記第一の材料より剛性である第二の材料で作られている,上部の部分と,を有する,ボルトによってキャリア・ヘッドのベースの外縁に固定されるようになっている全体として環状の止め輪。」というものであり,本件発明の「止め輪」は,「化学的機械的研磨のためのキャリア・ヘッド」の止め輪である。ここで,化学的機械的研磨を含む研磨においては,研磨の対象物,すなわち,「被研磨物」の存在を前提とすることは明らかであるから,本件発明は,「化学的機械的研磨」の対象物,すなわち,「被研磨物」の存在を前提としていることは,本件特許明細書の本件発明の特許請求の範囲の記載に照らしても,当業者にとり,明らかであると認められる。他方,本件発明の特許請求の範囲の記載において,その「被研磨物」の種類が限定されているものではないことも明らかである。
そうすると,「且つ前記下部の部分は,被研磨物の周縁部と接触して前記被研磨物を前記キャリア・ヘッドの底部に画定されている被研磨物収容陥凹部に維持する,」という事項を追加する訂正事項dにより,化学的機械的研磨の対象物を「被研磨物」と規定することは,当業者にとり,本件特許明細書に記載されているのと同然と認められる事項を規定するものにすぎず,本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであると認められるのであるから,訂正事項dについても,特許法126条3項の規定に適合するものであり,これを否定した審決の認定判断は,その点において誤りがある。
しかしながら,審決は,本件訂正を前提として,訂正発明1について,特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの要件を検討し,訂正発明1は当業者が容易に想到することができたものであるから,本件訂正は許されないとしているところ,後記2ないし5のとおり,審決のその認定判断に誤りはないから,原告主張の取消事由1について審決の誤りは,審決の結論に影響するものではない。
( )したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。
32取消事由2(刊行物1記載の発明の認定の誤り)について( )審決が,刊行物1には,「化学的機械的研磨のために,ショルダ260,1上部プレート274,断面視でショルダと上部プレートと可撓性リング272とで囲まれる空間を有するツーリングヘッド202において,前記ショルダと前記上部プレートの間に前記空間が配置され,ショルダ260は,ショルダ260とプラテン266との間で機能する圧縮バネ270が固定される円形のノッチ268を備え,ウエハ200と研磨パッド206との間の力は圧縮バネ270によって制御される,前記ツーリングヘッド202の,摩耗リング291を備える保定リング282であって,プラスチック材料を含み且つ研磨の間に研磨パッド206と接触する底部表面を有する摩耗リング291と,前記保定リング282のうち摩耗リング291より上部の部分と,を有し,前記保定リング282のうち摩耗リング291より上部の部分は,保定リング可撓性部材284によって,可動性を有するように上部プレート274に取り付けられ,前記保定リング282の正確な垂直位置は,ツーリングヘッドの周縁に沿って間隔を開けられたいくつかのサーボ操作されるネジ288およびセンサ290によって制御される保定リング282。」(8頁第3段落)との刊行物1記載の発明が記載されていると認定したのに対し,原告は,その認定が誤りである旨主張する。
( )刊行物1には,以下の記載がある。
2ア「技術分野本発明は,集積回路などのチップがそこから作られるタイプの半導体ウエハの研磨に関する。詳細には,化学的,機械的処理(CMP)において,半導体ウエハを,ツーリングヘッドで固定し,制御された化学的に活性な環境の下で研磨材料と接触させることによって研磨する。」(翻訳文〔特表平11-505181号公報〕の10頁4行目〜8行目)イ「例えば,入手可能な多くのCMP機器において,ウエハの端部付近において材料の除去率が高いことがわかっている。(研磨媒体に対してウエハを固定する)プラテンの形状,およびプラテンと(ウエハをプラテンの中心に保つ)保定リングとの関係は,最終的なウエハの平坦性に決定的に重大である。」(同13頁25行目〜28行目)ウ「ウエハは,円形プラテンおよびプラテンの外端部の周りに周縁的に方向付けられた保定リングを備えるツーリングヘッドによって研磨パッドと接触して配置場所に固定される。ウエハの面と研磨面との係合によって生じるウエハへの横方向の力に抵抗するために,保定リングが取り付けられて配置される。」(同15頁15行目〜18行目)エ「本発明の好ましい実施態様によれば,ウエハと研磨パッドとの間の力は,(図9に図示される)ツーリングヘッド202に位置する圧縮バネによって制御される。ツーリングヘッドは,コンピュータによる制御下で,Z方向に移動可能であるため,使用者は,スラリー()または切除流体の分布および切除効率を改善すslurryるために,ウエハと研磨パッドとの間にかけられる力を自由にプログラムすることができる。例えば,研磨の間にかけられる力を変化させることによって研磨結果を改善する場合もあり得る。」(同18頁22行目〜28行目)オ「図9は,本発明の1つの実施態様によるツーリングヘッド202の横断面図である。図示されるように,ポスト204は,ショルダ260に接続されて,Z方向への動作および力を提供する。ショルダ260は中実の円筒部材であり,中心に,ガイドボール264とかみ合う円筒形のガイドボールソケット262を有する。
ガイドボール264は,ボルトなどによってプラテン266にしっかりと留められている。図示するように,ウエハ200は,プラテン266の下面と接触している。
保定リップ273は,プラテン266の下面で突出しており,ウエハの端部と接触することによってウエハをプラテンの中心に保っている。ガイドボール264およびガイドボールソケット262は,プラテン266およびショルダ260のXおよびY方向への正確な位置づけを提供する。好ましくは,ガイドボール264は,ガイドボールソケット262にきっちりと固定され,XおよびY方向への移動は約0.0002インチを下回る。ショルダ260はまた,その中に,ショルダ260とプラテン266との間で機能する圧縮バネ270が固定される円形のノッチ()notch268を備える。好ましい実施態様において,バネ270は,円形のベルビル()バネを積み重ねたものを含む。バネ270は,プラテン266をウエBellvilleハおよびテーブルに対して偏らせ,Z方向への力,従ってウエハの圧力が変化し得ることを確実にする。従って,ショルダ260およびポスト204の位置をZ方向に変化させることによって,ウエハ200と研磨パッドとの間の圧力が正確に制御され得る。」(同24頁9行目〜26行目)カ「図10は,本発明の他の実施態様によるツーリングヘッドの断面図である。
ウエハ200がツーリングヘッド202によって固定されて示されている。ウエハ200の裏面は,可撓性プラテン277とウエハ200との間でバネとして機能し,Z方向への力で圧縮可能な,好ましくは弾性材料を含む弾性パッド298と接触している。可撓性プラテン277は,厚い壁部276および薄い面部279を含む。
プラテン277は,好ましくは,鉄のような金属材料からなる。プラテン277の壁部は,上部プレート274に取り付けられ,プラテン277の壁部および面部,ならびに上部プレート274によってキャビティ278が規定されている。ダイアフラムとして機能するプラテン277の面部に正または負の圧力をかけるために,キャビティ278は気体または液体を充填され得る。キャビティ278から気体または液体を供給および排出するために,ポート280が設けられる。好ましい実施態様によれば,キャビティ278内の圧力がプログラム可能かつ正確に制御され得るように,コンピュータによって制御される電気圧力レギュレータ281が設けられる。キャビティ278内の流体または気体の量を制御することによって,プラテン277の面を,凹凸形状にたわますことができ,研磨の間ウエハ200の形状を有利に変化させ得る。図11は,ウエハの端部付近の領域を示す,図10を参照しながら説明した実施態様によるツーリングヘッドの部分断面図である。図示されるように,ウエハ200は,ウエハ200の円周を囲む,磨耗リング291を備える保定リング282によって位置に固定されている。保定リング282およびプラスチック磨耗リング291は,曲線の反った外端部を有し,これにより,研磨の間,研磨パッドの平坦化が補助され,ウエハからのより均一な材料の除去をもたらす。
好ましくは,磨耗リング291は,研磨パッドによる研磨に耐える高い耐研磨性,および歪みに耐える良好な寸法安定性の両方を備えたプラスチック材料を含む。保定リング282は,保定リング可撓性部材284によって,可動性を有するように上部プレート274に取り付けられる。保定リング可撓性部284は,平坦な円形鉄バンドからなり,上部プレート274に留められるクランプリング275(図10に図示)によって上部プレート274に留められる。可撓性部材284は,保定リング282が,ウエハ200の面と実質的に直交する垂直方向に移動することを可能にする。保定リング282の正確な垂直位置は,ツーリングヘッドの周縁に沿って間隔を開けられたいくつかのサーボ操作されるネジ288およびセンサ290によって制御される。センサ290は,上部プレート274に対する保定リング282の垂直の高さを測定し,好ましくは,コンピュータコントローラに情報を送達する。コンピュータもまた,操作の間,保定リング282の垂直位置をセットするサーボ操作されるネジ288を制御する。保定リング282の垂直位置が調節可能である一方で,ネジ288および可撓性部材284は,リングを配置位置に固く固定する・・・」 (同25頁11行目〜26頁18行目)( )原告は,刊行物1の図9ないし図11が互いに排他的な構成を示すもので3あるにもかかわらず,審決が,刊行物1記載の発明を,図9ないし図11にかんがみて認定するとした誤りがある旨主張する。
ア刊行物1において,図9は,一つの実施態様を示すものであり,「保定リップ273は,プラテン266の下面で突出しており,ウエハの端部と接触することによってウエハをプラテンの中心に保っている。」(上記( )オ)の記載及び図92によれば,保定リップ273は,プラテン266に固着されていて,可動性はない。
それに対し,図10は,図9とは異なる一つの実施態様を示すものであり,「保定リング282は,保定リング可撓性部材284によって,可動性を有するように上部プレート274に取り付けられる。保定リング可撓性部284は,平坦な円形鉄バンドからなり,上部プレート274に留められるクランプリング275(図10に図示)によって上部プレート274に留められる。可撓性部材284は,保定リング282が,ウエハ200の面と実質的に直交する垂直方向に移動することを可能にする。保定リング282の正確な垂直位置は,ツーリングヘッドの周縁に沿って間隔を開けられたいくつかのサーボ操作されるネジ288およびセンサ290によって制御される。」(同カ)との記載及び図10によれば,保定リング282は,可撓性部材284により,上部プレート274に取り付けられ,垂直方向に可動であり,その点において,図9で示された実施態様と,図10及び図10で示された態様の具体的断面図である図11で示された実施態様とは異なるものである。
イ審決は,刊行物1記載の発明として,「摩耗リング291を備える保定リング282」を有する発明を認定しているのであるから,刊行物1の図10及び図11に示された実施態様の発明を刊行物1記載の発明として認定したと認められる。
他方,図10には,ショルダ260内部に圧縮バネ270を備える構成が示されているところ,図10については,同構成についての詳細な説明はない(前記( )2カ参照)。しかし,図面を参酌すれば,図10で示された上記構成は,図9で示されている,ショルダ内部に圧縮バネ270を備える構成と同じであると認められ,図9については,同構成についての説明があり(同オ),図10の実施態様においても,ショルダ内部の圧縮バネ270に係る構成は,図9の実施態様と同様であると認められる。したがって,審決は,図10で示された実施態様の発明について,ショルダ内部の圧縮バネ270に係る構成については,図9及びその説明である前記( )オを参酌して,図10,図11に示されている実施態様の発明において,2「ショルダ260は,ショルダ260とプラテン266との間で機能する圧縮バネ270が固定される円形のノッチ268を備え,ウエハ200と研磨パッド206との間の力は圧縮バネ270によって制御される」等の構成を備えるものとして,刊行物1記載の発明を認定したものであり,その認定に誤りはない。
そして,その他,上記( )の記載に照らし,審決の刊行物1記載の発明の認定に2誤りはない。
ウ原告は,図9に示された実施態様と図10,図11に示された実施態様が排他的な関係にあるとして,図9ないし図11にかんがみて刊行物1記載の発明を認定するとした審決に誤りがある旨主張するのであるが,上記のとおり,審決は,図10,図11に示された実施態様の発明を刊行物1記載の発明として認定し,ただ,図10,図11に示された実施態様において,ショルダ内部の圧縮バネ270に係る構成等については,図9に示された実施態様と共通すると認められることから,その点について,図9及びその説明を参酌したにすぎないものであって,原告の主張は,審決を正解しないもので,失当である。
( )原告は,審決が,刊行物1記載の発明について,保定リング282に関し4て,「前記保定リング282のうち磨耗リング291より上部の部分と,を有し,前記保定リング282のうち磨耗リング291より上部の部分は,保定リング可撓性部材284によって,可動性を有するように上部プレート274に取り付けられ」として,保定リング282を「上部の部分」と「上部でない部分」とを有すると認定したのに対し,審決の認定が誤りである旨主張する。
ア刊行物1には,「図11は,ウエハの端部付近の領域を示す,図10を参照しながら説明した実施態様によるツーリングヘッドの部分断面図である。図示されるように,ウエハ200は,ウエハ200の円周を囲む,磨耗リング291を備える保定リング282によって位置に固定されている。」(前記( )カ)等の「摩耗2リング291を備える保定リング282」との記載がある。これは,刊行物1の原文では,「 」と記載されているものであretention ring282, which includes wear ring291り,保定リング282は,摩耗リング291を含むものを指していると解釈することが可能である。審決は,同解釈に基づき,保定リング282は,摩耗リング291を含むものであるとし,そのような保定リング282のうち,摩耗リング291を含まない部分であり,図11において,摩耗リング291の上部に位置し,引出線282が付された左下がりのハッチングが施された部分を保定リング282の「上部の部分」とし,また,摩耗リング291を保定リング282の「上部でない部分」としたものと認められる。刊行物1の上記記載に照らし,審決の認定に誤りがあるとはいえず,また,その「上部の部分」と「上部でない部分」が不明確であるとは認められない。
イ原告は,摩耗リング291は,その上部が保定リング282の底面に部分的に埋め込まれ,厳密には,保定リング282は,磨耗リング291より「上部の部分」と「上部でない部分」とを有するとして,「上部の部分」と「上部でない部分」が不明確であることなどを主張するが,原告の上記主張は,保定リング282が摩耗リング291を含まないものであることを前提とするものであるところ,同前提は,審決の認定解釈と異なるものであって,審決と異なる認定解釈により,保定リング282の「上部の部分」と「上部でない部分」をとらえて非難するものであって,保定リング全体としては,刊行物1の図10,図11に示された位置関係からも,磨耗リング291を保定リングの上部でない部分とし,磨耗リング291を含まない部分を保定リングの上部の部分と認めることができるのであることからも,原告の主張は失当である。
( ) したがって,原告主張の取消事由2は理由がない。
53取消事由3(相違点1についての認定判断の誤り)について( )審決は,訂正発明1と引用刊行物1記載の発明の相違点1として,「前者1(訂正発明1)は,ハウジングとベースの間に配置される空間がローディングチャンバであって,ポリシング・パッドに対するベースの垂直位置を制御するローディングチャンバ内の圧力がポンプにより制御されるのに対して,後者(刊行物1記載の発明)は,ハウジングとベースとの間で機能する圧縮バネ270により,被研磨物と研磨パッド206との間の力が制御される点。」を認定し,「相違点1に係る,訂正発明1の上記構成及び刊行物1記載の発明の上記構成とは,ベースに印加される下方への圧力を制御する点で同等のものということができる。」(12頁第1段落)としたのに対し,原告は,訂正発明1におけるローディングチャンバ108と,刊行物1における圧縮バネ270とは技術的意義が全く異なり,目的,構成及び作用効果も全く異なるとして,これらを同等のものとした審決の認定判断が誤りである旨主張する。
( )訂正発明1のローディングチャンバに係る構成について,訂正発明1の特2許請求の範囲には,ローデングチャンバ内の圧力を制御して「ポリシング・パッドに対する前記ベースの垂直位置を制御する」と記載されており,ローディングチャンバ内の圧力の制御により,ベースの垂直位置を制御するとの構成が記載されていて,「ポリシング・パッドに対するベースの垂直位置を制御」するとは,発明の性質及びベース,ポリシング・パッドの位置関係等に照らしても,ベースに加えられる下方への圧力を制御するものであると認められる。
しかし,特許請求の範囲において,上記のとおり認められることを超えて,ローディングチャンバ内の圧力の制御により,キャリア・ヘッド全体を垂直方向に移動させることなく,ポリシング・パッドと非接触の状態にあった止め輪のポリシング・パッドへの接触を可能とする構成について,明記されていないことは明らかである。
そして,訂正明細書発明の詳細な説明には,ローディングチャンバに関し,「ローディング・チャンバ108は,負荷すなわち下方への圧力をベース104に加えるように,ハウジング102とベース104の間に配置されている。ポリシング・パッド32に対するベース104の垂直の位置も,ローディング・チャンバ108により制御される。」(段落【0022】),「第二のポンプ(図示せず)は,ローディング・チャンバ内の圧力とベース104に印加される負荷を制御するために,ローディング・チャンバ108に流体的に接続されることができる。」(段落【0028】),「流体がローディング・チャンバ108に送り込まれ,ベース104が下向きに押されると,止め輪110も,ポリシング・パッド32に負荷を加えるように下向きに押される。」(段落【0033】)との記載がある。これらによっても,訂正発明1のローディングチャンバは,その内部の流体圧を制御し,その下方への圧力を制御する構成によって,ベース4に加えられる負荷,ひいては,ポリシング・パッドに加えられる負荷を制御する機能を有するものであることが認められる。しかし,訂正明細書発明の詳細な説明においても,ローディングチャンバ内の圧力の制御により,ポリシング・パッドと非接触の状態にあった止め輪をポリシング・パッドと接触させることが記載されているものではないし,止め輪のポリシング・パッドへの接触が,キャリア・ヘッドの移動と無関係にされることなどの構成が記載されているものではない。
そうすると,訂正発明1においては,止め輪のポリシング・パッドへの接触がどのような構成により可能となるものかについては,特定がされていないと認めるのが相当である。
( )一方,刊行物1記載の発明における「ハウジングとベースとの間で機能す3る圧縮バネ270」は,被研磨物とポリシング・パッドとの間の力が制御されるためのものであり,Z方向におけるハウジングの位置変化によってベースに下方への力を印加し,それにより,被研磨物とポリシング・パッドとの間に力を作用させるものである。
したがって,訂正発明1のローディングチャンバと,刊行物1の圧縮バネとは,前者が内部の圧力を制御しているのに対し,後者がショルダ260及びポスト204の位置をZ方向に変化させている点において差異はあるものの,ベースに対し下方への押圧力を与える点,すなわちベースに印加される下方への圧力を制御するという機能の点で共通するから,審決における「相違点1に係る,訂正発明1の上記構成及び刊行物1(甲1)記載の発明の上記構成とは,ベースに印加される下方への圧力を制御する点で同等のものということができる。」(12頁第1段落)との認定判断に誤りはない。
( )原告は,ローディングチャンバ内の圧力を制御してポリシング・パッドに4対するベースの垂直位置を制御するということは,ポリシング・パッドに対する止め輪の垂直位置を制御することを意味し,研磨の間,止め輪の底部表面がポリシング・パッドと接触するところ,止め輪は交換部品であり使用により消耗するものであるから,非研磨の間,止め輪をポリシング・パッドと接触させたままとすることは当業者の常識に反することであり,底部表面が,研磨の間にポリシング・パッドと接触するということは,非研磨の間にはポリシング・パッドと非接触であることを意味していることが明らかであるとして,訂正発明1においては,比較的大型のキャリア・ヘッド全体を垂直方向に移動させることなく,ローディングチャンバ内の圧力を制御することによって,ベースを垂直に移動させ,止め輪の底部表面をポリシング・パッドと接触させることが可能となる旨主張する。
しかし,非研磨の間には止め輪がポリシング・パッドと非接触であるとしても,キャリアヘッド全体を垂直方向に移動させることにより,止め輪をポリシング・パッドに接触させることができることは明らかなところ,上記( )のとおり,訂正発明21においては,特許請求の範囲の記載には,止め輪のポリシング・パッドへの接触がどのような構成により可能となるのかについての特定はないというほかなく,また,訂正明細書発明の詳細な説明においても,ローディングチャンバ内の圧力の制御によって,ポリシング・パッドと非接触の状態にあった止め輪をポリシング・パッドと接触させることが記載されていないのであるから,原告が上記において指摘する事実が前記( )の判断を左右するものとは認められない。
3また,原告は,訂正発明1においては,ベースの垂直位置が制御されて,止め輪の底部表面がポリシング・パッドと接触したとしても,基板が必然的にポリシング・パッドと接触することになるものではなく,止め輪110の垂直位置は基板10の垂直位置とは別々に制御することが可能である旨主張する。
しかし,その主張の根拠とする,ブラダー144又はチャンバ190内の圧力を別のポンプで制御することにより基板10を保持する可撓膜118を下方向へ移動させて基板10をポリシング・パッド32に対して押し付けることが可能であるとの構成は,訂正発明1の特許請求の範囲の記載に照らしても,訂正発明1の構成であるとは認められないものであり,原告の主張は,前提を欠くもので,失当である。
その他,原告の主張は,上記( )のとおり,訂正明細書の記載を参酌しても,採用2することができないものである。
( )したがって,原告主張の取消事由3は理由がない。 54取消事由4(相違点2についての認定判断の誤り)について( )審決が,「刊行物1記載の発明における止め輪の『上部の部分』を,『下1部の部分』を構成する『第一の材料』より剛性である『第二の材料』で作ることは,当業者が容易になし得ることである。」(14頁第2段落)としたのに対し,原告は,その判断を争う。
( )刊行物1には,保定リングに関し,前記2( )ウのとおり,「ウエハは,2 2円形プラテンおよびプラテンの外端部の周りに周縁的に方向付けられた保定リングを備えるツーリングヘッドによって研磨パッドと接触して配置場所に固定される。
ウエハの面と研磨面との係合によって生じるウエハへの横方向の力に抵抗するために,保定リングが取り付けられて配置される。」との記載がある。
これにより,刊行物1記載の発明において,保定リングの配置の目的は,ウエハの面と係合面によって生じるウエハの横方向の力に抵抗するというものであることが認められる。そして,横方向の力に抵抗するという保定リングの目的に照らせば,保定リングが必要な剛性を備えるものとすることは,当業者が設計上,当然に考慮する事項である。
ここで,刊行物1記載の発明の保定リングについてみると,刊行物1の図10等の記載のとおり,保定リングは,保定リングの下部,すなわち摩耗リングにおいて,研磨パッドと接し,保定リングのうち摩耗リングより上部の部分は,保定リング可撓性部材によって,可動性を有するように上部プレートに取り付けられているものである。そして,刊行物1には,保定リングの材質,剛性等について,「好ましくは,磨耗リング291は,研磨パッドによる研磨に耐える高い耐研磨性,および歪みに耐える良好な寸法安定性の両方を備えたプラスチック材料を含む。」(前記2( )カ)との保定リングの下部である磨耗リング291に関する記載はあるが,他2に記載はない。
上記のとおり,刊行物1記載の発明の保定リングの目的に照らせば,保定リングが必要な剛性を備えるものとすることは,当業者が設計上当然に考慮する事項である。そして,保定リングは,上部の部分と下部の部分とからなり,下部の部分は上部の部分に支持されているところ,下部の部分である磨耗リングの材質については,研磨パッド及びウエハと接することからくる制約があると認められるが,上部の部分については,そのような制約がないのであり,保定リング全体として剛性が必要なとき,保定リングの下部の部分を支持する保定リングの上部の材質について,研磨パッドと接することからくる制約に服する保定リングの下部の部分の材質より高い剛性のものとすることは当業者が容易に想到することであると認められる。
( )原告は,訂正発明1は,ボルト締めによる止め輪の「変形」や基板と当接3することによる止め輪の「偏向」に起因する止め輪自体の端部効果助長原因に関する技術課題を解決したものであり,刊行物1には,そのような技術課題が示唆されていない旨主張する。
しかし,刊行物1に,訂正発明1についての原告主張の技術課題が記載されていなかったとしても,刊行物1自体に記載された保定リングの目的に照らし,当業者が,相違点2に係る訂正発明1の構成に容易に想到することができたと認められることは前記( )のとおりである。
2また,原告は,支持するものと支持されるものとがある場合に,支持するものの方が支持されるものより高剛性のものでなければならないという必然性は存在しないこと,刊行物1において,磨耗リング291については,高い耐摩耗性及びゆがみに耐える良好な寸法安定性の両方を備えたプラスチック材料として特記しているのに対し,保定リング282についてはその材料について何ら記載していないこと,金属などの高剛性の材料で保定リング282を製造した場合には,保定リング282の重量が高くなり可動性に悪影響を与える可能性があること,従来技術においては,止め輪はその全体がプラスチックから形成されていたことを挙げ,当業者が,相違点2に係る訂正発明1の構成に想到することが容易でない旨主張する。
しかし,保定リングの上部の部分の剛性を磨耗リングの剛性より高くすることが,直ちに,保定リングの上部の部分を金属とし,その重量を大きくするものであるとは認められず,その他,原告主張の事項は,前記( )に記載したとおり,刊行物1に2記載された保定リングの目的等に照らせば,保定リング全体の剛性を高くするため,保定リングの上部の材質について,下部の部分の材質より高い剛性のものとすることは当業者が容易に想到することであるとの上記判断を左右するものとは認められない。
また,原告は,ウエハ200の横方向の力は直接的には磨耗リング291に作用するものであり,保定リング282は磨耗リング291を介して間接的にその横方向の力を受けるものであること,ウエハからの横方向の力は保定リング282において分散され,かつ,可撓性部材284によって吸収される傾向となり,その点からも,保定リング282の方が磨耗リング291よりも高剛性の材料とすることの可能性は低いこと,図11に図示されているように,保定リング282は磨耗リング291と比較してその横方向の幅が大きく設定されていて,磨耗リング291よりも剛性の低い材料から形成されているので,横方向寸法を大きくして保定リング282の剛性を高めているものであることなどを挙げて,審決の判断を争う。
しかし,ウエハ200の横方向の力は直接的には磨耗リング291に作用するものであるとしても,磨耗リング291を支持している,保定リング282の上部の部分にも当然に力が作用するものであり,原告主張の事項は,保定リングが必要な剛性を備えなければならないとき,材質について制約がない保定リングの上部の部分の材質を,制約がある磨耗リングの材質の剛性よりも高いものとすることに当業者が想到することを阻害するものとは認められない。
( )したがって,原告主張の取消事由4は理由がない。
45取消事由5(相違点3についての認定判断の誤り)について( )審決が,相違点3の容易想到性判断に当たり,「後者(刊行物2に記載の1発明)の『主研磨ヘッド部材40』は,『止め輪』が固定される部材である点に限り前者(訂正発明1)の『ベース』と共通するものである」(14頁第4段落)と認定したのに対し,原告は,刊行物2の主研磨ヘッド部材40に設けられている真空マニホールド42は,訂正発明1のローディングチャンバ108に対応するが,刊行物2に記載された発明は,真空マニホールド42内の圧力によって基板50を吸引又は離脱させており,訂正発明1のベースに対応する部材は存在しないとして,審決の認定が誤りである旨主張する。
相違点3は,「前者(訂正発明1)は,止め輪の『上部の部分は,ボルトによってキャリア・ヘッドの前記ベースの外縁に固定されるようになっている』のに対して,後者(刊行物1記載の発明)は,止め輪の上部の部分は,ベースである上部プレート274に固定されるのではなく,『保定リング可撓性部材284によって,可動性を有するようにベースである上部プレート274に取り付けられ,その正確な垂直位置は,ツーリングヘッドの周縁に沿って間隔を開けられたいくつかのサーボ操作されるネジ288およびセンサ290によって制御される』点。」というものであり,止め輪がどのような方法で固定部材に固定されているかという,止め輪の固定手段に係る構成の相違である。
そして,刊行物2に記載の発明において,研磨対象物を保持し,訂正発明1の「止め輪」に相当するものは,「保持リング52」であり,その「保持リング52」の固定手段に関する構成をみると,「保持リング52」は,「主研磨ヘッド部材40の外縁にねじによって固定されている」(審決9頁第2段落)と認められるのであるから,その固定される部材は,「主研磨ヘッド部材40」であり,固定手段としては,ねじによって固定されていると認められる。したがって,相違点3を検討するに当たり,刊行物2に記載の発明において,訂正発明1の「止め輪」が固定される部材に相当するものは,「主研磨ヘッド部材40」と認められ,刊行物2の「主研磨ヘッド部材40」について,訂正発明1の「止め輪」が固定される部材である「ベース」と,「止め輪」が固定される部材である点で共通するものであるとした審決に誤りはない。
原告は,訂正発明1のハウジング102は,刊行物2記載の主研磨ヘッド部材40に対応し,訂正発明1のベースに対応する部材は存在しない旨主張するが,相違点3は,「止め輪」の固定手段に係る構成の相違であるから,その観点から,刊行物2に記載の発明における「止め輪」が固定される部材が問題となるにもかかわらず,原告の上記主張は,そのような観点でなく,相違点3においては関係しない機能を挙げるなどして,訂正発明1と刊行物2に記載の発明の対応関係を主張するものであり,採用することができない。
( )審決が,「刊行物1記載の発明は,上部部分を含めた止め輪全体が,ベー2スに相当する上部プレートに対して可動性を有するものであって,当該上部プレートに固定されていないが,止め輪をベースに対して可動性を有することを要しない場合(上述刊行物1記載の図9参照)も存在することは明らかである。そうすると,刊行物1記載の発明も刊行物2に記載の事項も,ともに,化学的機械的研磨という同一の技術分野に属するものであることを考慮すれば,刊行物1記載の発明における止め輪の上部の部分をベースに保持させる方式を,止め輪をベースに対して可動性を有することを要しないものとし,キャリア・ヘッドのベースの外縁にボルトで固定するとの事項を適用し,相違点3に係る構成を訂正発明1のそれとすることは,刊行物2に記載の事項及び慣用手段から当業者が容易になし得ることである。」(14頁第5段落)としたのに対し,原告は,その認定判断が誤りである旨主張する。
( )刊行物1記載の発明においては,止め輪の上部の部分である,保定リング3282のうち磨耗リング291より上部の部分は,ベースである上部プレート274に固定されるのではなく,保定リング可撓性部材284によって,可動性を有するようにベースである上部プレート274に取り付けられ,その正確な垂直位置は,ツーリングヘッドの周縁に沿って間隔を開けられたいくつかのサーボ操作されるネジ288およびセンサ290によって制御されるものである。しかし,刊行物1記載の発明と同じ技術分野であり,刊行物1においては,同一発明の異なる実施態様とされている刊行物1の図9に記載されている化学的機械的研磨の発明において(前記2( )オ,カ),保定リップ273は,プラテン266に固着されていて, 2可動性はなく,化学的機械的研磨のための止め輪について,ベースに対して不動の構成とすることがあると認められ,また,刊行物2には,「被研磨物の化学的機械的研磨装置において,研磨パッドと接触する底部表面を有する止め輪が,止め輪が固定される部材の外縁に螺合手段によって固定されている」(審決14頁第5段落)ことが記載されていることも併せ考えると,「刊行物1記載の発明における止め輪の上部の部分をベースに保持させる方式を,止め輪をベースに対して可動性を有することを要しないものとし,キャリア・ヘッドのベースの外縁にボルトで固定するとの事項を適用し,相違点3に係る構成を訂正発明1のそれとすることは,刊行物2に記載の事項及び慣用手段から当業者が容易になし得ることである。」(審決14頁第6段落)とした審決の判断に原告主張の誤りはない。
( )原告は,刊行物1記載の発明に,刊行物1の図9に示された構成及び刊行4物2に記載の事項を適用することには,阻害要因があるとして,刊行物1記載の発明の保定リング282を上部プレート274の外縁部に固定して取り付けた場合には,高さの関係Hを調節することが不可能となり,その結果,より均一な除去率及び表面仕上げを得るという所期の目的を達成することは不可能となるから,当業者は,そのような構成に想到しない旨主張する。
しかし,前記( )のとおり,刊行物1の図9に記載されている発明等が化学的機械3的研磨のための止め輪をベースに対して不動の構成としていることからも明らかなとおり,化学的機械的研磨のための止め輪の発明においては,止め輪をベースに対して可動的なものとする構成は,付加的な作用に係る構成であり,化学的機械的研磨のための止め輪に係る他の各構成と不可分の関係にあるとは認められず,止め輪をベースに対して可動的なものとすることにより,一定の作用効果を奏するとしても,同構成をそれと異なる構成とすることが,性質上,困難であるとは認められない。このことは,刊行物1記載の発明についても同様であって,原告主張の事項が,刊行物1記載の発明に,刊行物2に記載された事項を適用することを阻害し,当業者が相違点3に係る訂正発明1の構成に想到することを困難にするものとは認められない。
( ) したがって,原告主張の取消事由5は理由がない。
56以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がないから,原告の請求は棄却することとする。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 宍戸充
裁判官 柴田義明