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関連審決 無効2002-35131
関連ワード 頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  寄せ集め /  同意 /  設定登録 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 283号 審決取消請求事件
原告 有限会社ユニット商事
訴訟代理人弁護士 山田基司,井坂光明
被告 有限会社ナラ工業
訴訟代理人弁護士 山本光太郎
訴訟復代理人弁護士 北村克己
訴訟代理人弁理士 樋口和博
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2005/02/01
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が無効2002-35131号事件について平成15年5月26日にした審決のうち特許第2918218号の請求項1に係る部分を取り消す。」との判決。
事案の概要
本件は,特許を無効とした審決の取消しを求める事件であり,原告は無効とされた特許の特許権者,被告は無効審判の請求人である。
1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告は,発明の名称を「暗渠形成装置」とする特許第2918218号(請求項の数2。平成7年8月22日に出願,平成11年4月23日に設定登録。甲1。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
(2) 被告は,平成14年4月9日,本件特許について無効審判の請求をしたところ(無効2002-35131号事件として係属),原告は,同年9月20日,明細書の訂正(甲3の1。以下「本件訂正」という。)を請求した。
(3) 特許庁は,平成15年5月26日,「訂正を認める。特許第2918218号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。特許第2918218号の請求項2に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決をし,同年6月5日,その謄本を原告に送達した。
(4) 原告は,上記審決のうち本件特許の請求項1を無効とされた部分について,取消しを求めて提訴した。これが本件である。なお,被告は,上記審決のうち本件特許の請求項2についての審判請求を不成立とされたことを不服として,その取消しを求めて提訴した(平成15年(行ケ)第287号事件として係属し,本件と同時進行した。)。
2 特許請求の範囲の請求項1の記載 (1) 本件訂正請求による訂正前の記載 【請求項1】エンドレスチェンに取り付けられたバケットなどにより形成された掘削機を備える暗渠形成装置において,掘削機の作業進行方向後方位置に配置されているスリット渫えナイフと,このスリット渫えナイフにはその高さ方向の中間部に位置するスリット絞り込み体と,前記掘削機の頂端部作業進行方向後方位置に放擲孔を形成したケーシングとを備え,前記掘削バケットにより形成されたスリットに相当する部分の排出土を掘削機のバケットの反転動作中に前記スリット渫えナイフにより形成されるスリット空間に放擲する共に,形成されるスリット空間の中間位置をスリット絞り込み体により絞り込んでスリットを閉塞するように構成したことを特徴とする暗渠形成装置。
(2) 本件訂正請求による訂正後の記載(下線部分が訂正箇所である。) 【請求項1】エンドレスチェンに取り付けられたバケットなどにより形成された掘削機を備える暗渠形成装置において,掘削機の作業進行方向後方位置に配置されているスリット渫えナイフと,このスリット渫えナイフにはその高さ方向の中間部の進行方向後方 に位置するスリット絞り込み体と,前記掘削機の頂端部作業進行方向後方位置に放擲孔を形成したケーシングとを備え,前記掘削バケットにより形成されたスリットに相当する部分の排出土を掘削機のバケットの反転動作中に前記スリット渫えナイフにより形成されるスリット空間に放擲すると共に,形成されるスリット空間の中間位置をスリット絞り込み体により絞り込んでスリットを閉塞するように構成され,当該 スリット 絞り込み体は,平面板 と2枚の側面板 とで 構成 され,平面板 の,作業進行方向後方 になるにつれ 次第 に幅が狭くなる 台形部分 の両側にそれぞれ 側面板 を配置 することにより ,両側面板 で囲まれる 内部空間 が,作業進行方向前方 の幅が広く,後方 に向かうに 従い次第 にその 幅が狭くなる 構成 となっている ことを特徴とする暗渠形成装置。
3 請求項1に係る発明についての特許に関する審決の理由の要点 審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,本件訂正請求による訂正は,特許法134条2項ただし書きの規定,同条5項で準用する特許法126条2項及び3項の規定に適合するので,本件訂正を認めるとした上,請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。)についての特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであって,特許法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである,というのである。
(1) 訂正について 本件訂正請求による訂正は,特許法134条2項ただし書の規定,同条5項で準用する特許法126条2項及び3項の規定に適合するので,本件訂正を認める。
(2) 無効理由の検討 ア 本件発明1についての特許に関して (ア) 引用例の記載事項 (ア-1) 平成15年2月17日付けで通知した無効理由に引用した,本件特許に係る出願前に頒布された刊行物である,実公昭36-1026号公報(請求人が提出した審判甲2(本訴甲4),以下「引用例1」という。)には,以下の記載がある(判決注:図面は別紙1記載のとおりである。)。
a「この考案は・・・自動跳上バケツト装置のような動力溝掘機に連結されてその溝掘機によつて掘られた溝をその高さの中間で閉塞すると共に溝掘機のバケツト装置の下方軸に設けられた穿孔刃・・・によつて穿孔された土中の穿孔を仕上げるものである。」(1頁左欄6〜12行) b「この装置は主杆1,主杆1の周を回動する仕上円板回動管2及び仕上円板回動管2の周を回動することができる閉塞具回動管3から成る。主杆1は上端に溝掘機との連結具の取付座4をそなえている。仕上円板回動管2は上端に回動用のレバー2’及び固定用の止め具2”を備え,主杆1に対し固定されるようにされ,下端に仕上円板5及びその上方のさらえ板6を取付け,これらは溝掘機(第2図において鎖線で示す)によつて掘られた溝A及び穿孔刃による穿孔Bを仕上げ削りする。
仕上円板回動管2の回動によって仕上円板5を溝に対し並列にすることができる。
なお仕上円板回動管2の下端には溝掘機との連結具7を回動できるように取付ける。閉塞具回動管3は上端に回動用のレバー3’及び固定用の止め具3”を備え,前記さらえ板6の上方に対向する閉塞具8,8を取付ける。閉塞具8,8は各々の横の長さが大体掘られる溝の幅で(第2図における横幅),大体溝の幅の2倍の間隔をもつている(第1図における間隔)。この間隔によつて溝の側壁に空道Cを形成するよう掘り削り,溝Aを閉塞する(第3図参照)。即ち閉塞された溝が形成され,暗渠排水のための土管,被覆材等を要しない。閉塞具回動管3の回動によつて閉塞具8,8を溝に対し並列にすることができる。・・・従つてこの装置を溝掘機の後方に連結具によつて取付けて牽引すれば穿孔Bと溝Aとを仕上円板5とさらえ板6とによつて土砂を後方に残すことなくならえ,」(1頁左欄15行〜右欄12行) c「溝掘機によつて溝A更に穿孔刃によつて穿孔Bが形成されるが,そのままでは土砂の崩壊したものを溝内に残し,地下水の排水を不完全にするおそれがあるが,この考案によれば溝A及び穿孔Bを完全にさらえることによつて土砂の残留をなくし,閉塞具8,8の通過による空道Cの形成で閉塞した溝に完全な溝A及び穿孔Bを形成し,土管被覆材等の必要のない暗渠排水・・・ができる。」(1頁右欄15行〜24行) 以上の記載及び第1図〜第3図からみて,引用例1には,次の発明が記載されているものと認めることができる。
「自動跳上バケツト装置のような動力溝掘機と土中穿孔仕上装置を連結した暗渠形成装置において,溝掘機の作業進行方向後方位置に配置されている主杆1及び仕上円板5,さらえ板6を取付けた仕上円板回動管2と,仕上円板回動管2には閉塞具回動管3を介して閉塞具8,8とを備え,形成される溝Aの中間位置を閉塞具8,8の通過による空道Cの形成で閉塞するようにされた暗渠形成装置。」 (ア-2) 同無効理由に引用した,本件特許に係る出願前に頒布された刊行物である,実公昭44-29476号公報(請求人が提出した審判甲5(本訴甲5),以下「引用例2」という。)には,第1図〜第3図とともに,以下の記載がある。
d「本考案は自動跳上バケツト装置・・・等による溝掘機において」(1欄21〜23行) e「自動跳上バケツト2を有する溝掘機の放出土砂を導く上部カバー3の中間において調節板4を蝶番5で取付け,調節板4にカバー3の外部で操作できる押え6を固定し,調節板4を傾斜して支持する押え6の止金7及び調節板4を水平に支持する押え6の止金7’をそれぞれ上部カバー3に設け,上記カバー3の下方及び後方にそれぞれ土砂受カバー8及び後部側壁9に設ける」(1欄27〜34行) f「エンジンより駆動された駆動軸1の回転により自動跳上バケツト2が駆動され,土砂が放出される。調節板4の押え6が止金7に固定される時は上部カバー3にそう土砂は直後に排出されず,土砂受カバー8を通つて溝の一側に放出されるが,掘削を開始して土管等10を埋設し始める場合,調節板4の押え6を止金7’で固定すると,土砂は自動的に掘削られた溝の中へ落下する。」(2欄12〜19行) (ア-3) 同無効理由に引用した,本件特許に係る出願前に頒布された刊行物である,実願昭53-137890号(実開昭55-54476号)のマイクロフィルム(本訴甲6,以下「引用例3」という。)には,地中埋設装置について,以下の記載がある。
g「図中1は埋設装置で,前部に掘削用プラウ2が設けられ,後部に覆土用V型プラウ3が設けられており,この掘削用プラウ2と覆土用V型プラウ3とが一体としてけん引車等に引かれて移動し得る構成とされている。」(明細書3頁1〜5行) h「埋設装置1は,地16内に埋設溝17を順次掘削し,埋設物18を順次埋設せしめるものであり,次にその作用を説明する。まずけん引車等で上記埋設装置1をけん引すると,掘削用プラウ2により地16は掘り起こされ埋設溝17が形成される。こうして掘られた埋設溝17は掘削用プラウ2と所定間隔をおいてけん引されている覆土用V型プラウ3により,埋設溝17の両側に盛られた土砂が落とされ,埋設溝17は元の状態に埋めもどされてゆく。」(同5頁7〜16行) そして,第1図には,平面板と2枚の側面板とで構成され,平面板の作業進行方向後方になるにつれ次第に幅が狭くなる台形部分の両側にそれぞれ側面板を配置することにより,両側面板で囲まれる内部空間が,作業進行方向前方の幅が広く,後方に向かうに従い次第にその幅が狭くなっている覆工用プラウ3が図示されている。
(イ) 対比・判断 (イ-1) 本件発明1と引用例1記載の発明とを対比すると,引用例1記載の発明の「自動跳上バケツト装置のような動力溝掘機」は,エンドレスチェンに取り付けられたバケットなどにより形成され,バケットにより溝を掘削する掘削機であることは,当業者に明らかであるから,本件発明1の「エンドレスチェンに取り付けられたバケットなどにより形成された掘削機」に相当する。また,引用例1記載の発明の「主杆1及び仕上円板5,さらえ板6を取付けた仕上円板回動管2」は,バケットにより掘削された溝を,仕上円板5とさらえ板6により渫うものであって,仕上円板5,さらえ板6を取付けた仕上円板回動管2が主杆1に支持され主杆1と一体となって機能するものであるから,本件発明1の「スリット渫えナイフ」に相当する。
ところで,本件発明1の「スリット絞り込み体」及び「スリット空間の中間位置をスリット絞り込み体により絞り込んでスリットを閉塞する」については,本件明細書に,「【0011】・・・ナイフ31の中間位置に配置してあるスリット空間Sを両側から締めつける締め付け体32により掘削形成したスリット空間Sを閉塞するものである。」,「【0012】すなわち,前記ナイフ31は土の中に形成された掘削空間であるスリット状の空間を形成すると共に,この空間を浚うに適した薄い縦長の形状をしたもので,このナイフ31にはスリット絞り込み体32が取り付けられている。このスリット絞り込み体32はナイフ31が土の中に位置する部分の中間部位置にあって,背面視上門形をしていて,かつ平面視上作業進行方向後方になるにつれ幅が狭くなっている変形台形をしており,平面板32Aの両傍にこれと直角に曲げられている側面板32Bにより形成されている。平面板31Aが機能上ほぼ台形をしている関係から,側面板32B,32Bで囲まれる空間は作業進行方向後ろに向かうにつれて次第に狭いものになっている。」,「【0016】・・・前記スリット空間Sの中間部,一例として,一般的な泥炭地にあっては地表面から地下に70センチくらいの深さのところにあるスリット絞り込み体32がトラクタ10の移動に伴い,スリット空間Sの両側から泥炭土を締めつけて前記スリット空間Sを閉塞状態にする。」,「【0017】すなわち,トラクタ10が本発明による暗渠形成装置20が移動するとき,スリット絞り込み体32があり,このスリット絞り込み体32を形成する側面板32B,32Bに挟まれる空間が作業進行後方に向かうに幅が狭くなっているので,スリット空間Sは両側から絞り込まれて閉塞され,前記放擲された土が形成する蓋Hの直下部分,言い換えると,スリット絞り込み体32により絞り込まれた部分の上側は放擲された土により閉塞され,外部からの土の侵入を防いでいる暗渠が形成される(図7B)。」,「【0018】これにより,絞り込まれた部分から下にはスリット空間の一部と,スリット浚えナイフ31の空間形成板33の通過空間による暗渠が形成される。・・・」との記載がある。
これらの記載によれば,「スリット空間の中間位置をスリット絞り込み体により絞り込んでスリットを閉塞する」とは,暗渠形成装置20の移動に伴い,スリット絞り込み体32の側面板32B,32Bにより切り取られたスリット空間Sの両側の土を,側面板32B,32Bに沿って移動させ,側面板32B,32Bに挟まれる空間が作業進行後方に向かうにしたがって幅が狭くなっていることにより,その両側の土を,スリット空間に導き,その土によりスリット空間を両側から絞り込み閉塞することと解される。
一方,引用例1記載の発明の「閉塞具8,8」は,「各々の横の長さが大体掘られる溝の幅で(第2図における横幅),大体溝の幅の2倍の間隔をもつている(第1図における間隔)。」,「この間隔によつて溝の側壁に空道Cを形成するよう掘り削り,溝Aを閉塞する(第3図参照)。」(上記記載b参照。)との記載によれば,溝Aの両側壁を掘り削り,その掘り削られた土を溝A上に移動させて溝Aを閉塞している,言い換えれば,土により溝Aを絞り込み閉塞していると解されるから,引用例1記載の発明の「閉塞具8,8」は,本件発明1の「スリット絞り込み体」に相当するということができる。また,第2図を参照すると,該「閉塞具8,8」は,主杆1とその周りに取り付けられた仕上円板回動管2の高さ方向の中間部に位置している。さらに,引用例1の上記記載bによれば,「閉塞具8,8」は,溝の側壁に空道Cを形成するよう掘り削るための側面板を両側に有し,その両側面板間の幅は作業進行方向前方では大体溝の幅の2倍であると解される。そして,第3図に示されているように掘り削られた土で溝Aを閉塞するため,掘り削られた土を溝上に移動させることができるように,両側面板間の幅が作業進行方向後方に向かうに従って狭くなるように配置されているものと解されるから,引用例1記載の発明も,「スリット絞り込み体」は,両側面板で囲まれる内部空間が,作業進行方向前方の幅が広く,後方に向かうに従いその幅が狭くなっているということができる。
したがって,本件発明1と引用例1記載の発明とは, 「エンドレスチェンに取り付けられたバケットなどにより形成された掘削機を備える暗渠形成装置において,掘削機の作業進行方向後方位置に配置されているスリット渫えナイフと,このスリット渫えナイフにはその高さ方向の中間部に位置するスリット絞り込み体とを備え,形成されるスリット空間の中間位置をスリット絞り込み体により絞り込んでスリットを閉塞するように構成され,当該スリット絞り込み体は,両側面板で囲まれる内部空間が,作業進行方向前方の幅が広く,後方に向かうに従いその幅が狭くなる構成となっている暗渠形成装置。」である点で一致し,以下の点で相違する。
相違点1 本件発明1は,前記掘削機の頂端部作業進行方向後方位置に放擲孔を形成したケーシングを備え,前記掘削バケットにより形成されたスリットに相当する部分の排出土を掘削機のバケットの反転動作中に前記スリット渫えナイフにより形成されるスリット空間に放擲するのに対し,引用例1記載の発明は,そのような事項を有しているのか否か不明である。
相違点2 本件発明1では,スリット絞り込み体が,スリット渫えナイフの進行方向後方に位置しているのに対し,引用例1記載の発明では,スリット絞り込み体が,スリット渫えナイフの進行方向後方に位置しているとの言及がない。
相違点3 本件発明1では,スリット絞り込み体は,平面板と2枚の側面板とで構成され,平面板の,作業進行方向後方になるにつれ次第に幅が狭くなる台形部分の両側にそれぞれ側面板を配置することにより,両側面板で囲まれる内部空間が,作業進行方向前方の幅が広く,後方に向かうに従い次第にその幅が狭くなる構成となっているのに対し,引用例1記載の発明では,スリット絞り込み体は,両側面板で囲まれる内部空間が,作業進行方向前方の幅が広く,後方に向かうに従いその幅が狭くなるものの,その具体的な構成が不明である。
(イ-2) そこで,上記相違点について検討する。
相違点1について 引用例2には,暗渠形成装置において,自動跳上バケツト2(本件発明1の「掘削バケット」に相当する。)を有する溝掘機の頂端部作業進行方向後方位置に後部側壁9(同「放擲孔」に相当する。)を設けた上部カバー3(本件発明1の「ケーシング」に相当する。)を備え,バケットの反転動作中に掘削した土砂を後部側壁9から溝の中へ落下させることが記載されている。そして,暗渠形成装置に,掘削により排出した土を落下させ掘削したスリット(溝)を土で充填する手段を設けることは,当該技術分野において周知の技術的事項(例えば,実公昭47-3943号公報(請求人が提出した審判甲6,本訴甲7の2),米国特許第4871281号明細書(同審判甲7,本訴甲7の3の1),上記引用例2参照。)であることを考慮すると,スリット空間の中間位置を絞り込んでスリットを閉塞するスリット絞り込み体を有する引用例1記載の発明に,スリット空間の閉塞された中間位置より上方の部分を掘削により排出した土で充填するために,引用例2に記載の技術的事項を適用し,相違点1における本件発明1の事項とすることは,その適用を阻害する技術的理由もないことから,当業者であれば容易になし得たことといえる。
相違点2について 引用例1には,スリット絞り込み体(閉塞具8,8)が,スリット渫えナイフ(主杆1及び仕上円板5,さらえ板6を取付けた仕上円板回動管2)の進行方向後方に位置しているとの記載はないが,第2図をみると,閉塞具8,8は,仕上円板回動管2の側方及び後方に位置しており,引用例1記載のスリット絞り込み体(閉塞具8,8)も,その一部がスリット渫えナイフの後方に位置しているものであり,スリット絞り込み体を,単に,スリット渫えナイフ後方に位置させることは,当業者が必要に応じ適宜なし得た事項にすぎない。
相違点3について 引用例3には,平面板と2枚の側面板とで構成され,平面板の作業進行方向後方になるにつれ次第に幅が狭くなる台形部分の両側にそれぞれ側面板を配置することにより,両側面板で囲まれる内部空間が,作業進行方向前方の幅が広く,後方に向かうに従い次第にその幅が狭くなっている覆土用V型プラウ3が記載されている。
そして,引用例3記載の「覆土用V型プラウ3」と本件発明1の「スリット絞り込み体」は,共に,掘削された土を中央に寄せるために用いられるものであるから,引用例1記載の発明におけるスリット絞り込み体(閉塞具8,8)に,引用例3記載の「平面板と2枚の側面板とで構成され,平面板の作業進行方向後方になるにつれ次第に幅が狭くなる台形部分の両側にそれぞれ側面板を配置することにより,両側面板で囲まれる内部空間が,作業進行方向前方の幅が広く,後方に向かうに従い次第にその幅が狭くなっている」との技術的事項を適用することに格別の困難性はなく,相違点3における本件発明1の事項とすることは,当業者が容易になし得たことである。
したがって,本件発明1は,引用例1〜3記載の発明及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
(ウ) 平成15年3月28日付けの意見書における被請求人の主張に対して 上記「(イ) 対比・判断」の(イ-1)における「引用例1の上記記載bによれば,『閉塞具8,8』は,溝の側壁に空道Cを形成するよう堀り削るための側面板を両側に有し,その両側面板間の幅は作業進行方向前方では大体溝の幅の2倍であると解される。そして,第3図に示されているように掘り削られた土で溝Aを閉塞するため,掘り削られた土を溝上に移動させることができるように,両側面板間の幅が作業進行方向後方に向かうに従って狭くなるように配置されているものと解されるから,引用例1記載の発明も,『スリット絞り込み体』は,両側面板で囲まれる内部空間が,作業進行方向前方の幅が広く,後方に向かうに従いその幅が狭くなっているということができる。」との認定,解釈に関し,被請求人は,同意見書において,「引用例1における『閉塞具8,8』は,第1図,第2図を参照してもその構成が明確でない上,『主杆1』の作業進行方向後方ではなく両側に設けられており,そのような『閉塞具8,8』によりなぜ第3図に記載されたような『空洞C』が形成され,『主杆1』が存在するにもかかわらず,『溝A』が形成されるのか,全く不明です。」(2頁21〜25行),「引用例1記載の発明の構成を示す第1図及び第2図をいかに解釈しても,当該装置によって第3図の状態(効果)が実現できないことは理論的に明らかである以上,第3図は根拠のない希望的効果が記載されているにすぎません。たとえば,引用例1の第3図の状態は,何らかのタイミングで本書面添付の参考図5におけるP部の土がQ部に移動しない限り得られるはずがないものですが,引用例1の第1図及び第2図から得られる構成を採用する限り,P部の土がQ部に移動するはずがありません。」(3頁1〜8行),「引用例1には,側面板に関する記載は,その第1図において逆三角形に見える部分が記載されているという以外は,全く無いのであります。第1図において逆三角形に見える部分に関する説明は引用例1には一切なく,引用例1における閉塞具8,8の説明の記載は直角に折り曲げられた外枠の部分に関するものだけです。このような状況において,引用例1の他の記載からは実現不可能な(構成とは無関係な)効果が記載されている第3図の記載から遡って,引用例1には,『両側面板間の幅が作業進行方向後方に向かうに従って狭くなるように配置されている』という記載があるとすることはできず,また引用例1記載の発明を,第3図のような効果が得られる装置として解釈することもできない」(3頁11〜21行)と主張している。
しかしながら,引用例1には,「閉塞具8,8は各々の横の長さが大体掘られる溝の幅で(第2図における横幅),大体溝の幅の2倍の間隔をもつている(第1図における間隔)。この間隔によつて溝の側壁に空道Cを形成するよう掘り削り,溝Aを閉塞する(第3図参照)。即ち閉塞された溝が形成され,」(上記記載b参照。以下,この記載を「記載b-1」という。)との記載,「図面の略解 第1,2図はこの考案による装置の正面図及び側面図である,第3図は,閉塞された仕上穿孔を示す断面図である。」(1頁左欄1〜4行)との記載がある。そして,第1図に,閉塞具8,8の直角に折り曲げられた外枠の部分及び逆三角形の部分が図示され,第2図に,閉塞具8,8の側面の面板が図示され,さらに,上記記載b-1を参照すると,第3図に,大体溝の幅の2倍の間隔(第1図における間隔)をもつている閉塞具8,8により掘り削られて溝の側壁に形成された空道Cと,掘り削られた両側の側壁の土が溝上に寄せられて移動し,溝Aを閉塞した状態が図示されている。
第1図〜第3図には,正確でない図示も見受けられるが,上記記載b-1,図面の略解の記載,第1図〜第3図の図示を総合的かつ合理的に解釈すると,閉塞具8,8は,溝の側壁に空道Cを形成するよう掘り削るための側面板を両側に有し,その両側面板間の幅は作業進行方向前方では大体溝の幅の2倍であると解され,そして,第3図に示されているように掘り削られた土で溝Aを閉塞するため,掘り削られた土を溝上に移動させることができるように,両側面板間の幅が作業進行方向後方に向かうに従って狭くなるように配置されているものと解され,引用例1記載の発明も,「スリット絞り込み体(閉塞具8,8)」は,両側面板で囲まれる内部空間が,作業進行方向前方の幅が広く,後方に向かうに従いその幅が狭くなっているということができる。
なお,閉塞具8,8は,大体溝の幅の2倍の間隔(第1図における間隔)をもち,仕上円板回動管2の側方及び後方に位置し(第2図参照。),空道Cを形成するように堀り削られる両側の側壁の厚みは,溝の幅の約半分である(第3図参照。)ことから,堀り削られた両側の側壁の土は,仕上円板回動管2に妨げられることなく,両側面板で囲まれる内部空間内を後方へ移動可能であると考えられる。
したがって,被請求人の主張は採用できない。
イ 本件発明2についての特許に関して (省略) (3) むすび 以上のとおりであるから,本件発明1についての特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,特許法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである。
原告主張の審決取消事由の要点
1 取消事由1(引用例1を「引用発明」とすることの誤り) (1) 審決は,引用例1(甲4)を引用発明とし,これを本件発明1と対比したが,誤りである。
(2) 引用例1記載の閉塞具8,8については,第1図及び第2図の記載が不明確であって,閉塞具8,8の形状を特定することができない上,第1図及び第2図の記載に基づいて構成することが可能ないかなる形状を採用したとしても,第3図に記載されているような空道Cを形成することはできないし,また,第3図に記載されているように土を寄せて溝Aを閉塞することもできない。しかも,第3図に記載された効果を奏することができる装置は,第1図及び第2図に記載された形状では実現することができないのであって,第3図の記載から第1図及び第2図に記載された閉塞具8,8の形状を推測することもできないから,第1図及び第2図に記載された構成と第3図に記載された作用効果との間には齟齬があり,当業者にとって何が正しい記載であるかが不明である。
そして,引用例1の装置において,閉塞具8,8は主杆1(閉塞具回動管3)の両側面に取り付けられるので,閉塞具8,8により土を中心に向かって寄せようとしても,主杆1(仕上円板回動管2)に妨げられてそのような効果を得ることができない。
(3) したがって,このような引用例1を引用発明とすること自体が,そもそも誤りである。
2 取消事由2(一致点の認定の誤り) (1) 審決は,本件発明1と引用例1との一致点について,「スリット絞り込み体は,両側面板で囲まれる内部空間が,作業進行方向前方の幅が広く,後方に向かうに従いその幅が狭くなる構成となっている」点が一致すると認定したが,誤りである。
(2) 審決は,一致点の認定に先立ち,引用例1記載の閉塞具8,8について,「そして,第3図に示されているように掘り削られた土で溝Aを閉塞するため,掘り削られた土を溝上に移動させることができるように,両側面板間の幅が作業進行方向後方に向かうに従って狭くなるように配置されている」と認定したが,引用例1の第1図及び第2図において,「土が中心部に寄る」という作用効果を実現するためには,「側面板間の幅が狭くなる」という構成をとる必要はなく,第1図及び第2図の記載から推測することができる多数の他の構成によったとしても,土が中心部に寄るという作用,効果を実現することができるから,「土が中心部に寄る」という作用,効果の記載のみから,「両側面板間の幅が作業進行方向後方に向かうに従って狭くなるように配置されている」という構成を導くことはできない(なお,ここでは主杆1による干渉は無視している。)。
審決は,本件発明1の内容を見て,その影響を受け,出願より後の技術水準に属する知識に基づいて,引用例1記載の閉塞具8,8について,上記のように認定したのであって,引用例1のみを見る者には,「両側面板で囲まれる内部空間が,作業進行方向前方の幅が広く,後方に向かうに従いその幅が狭くなる構成」について,何の動機付けも与えられていないから,引用例1記載の閉塞具8,8がそのような構成であると考えることはできない。
(3) したがって,審決が,引用例1記載の閉塞具8,8について,「両側面板間の幅が作業進行方向後方に向かうに従って狭くなるように配置されている」と認定したのは誤りであり,これを前提とした一致点の認定には,誤りがある。
3 取消事由3(相違点1の判断の誤り) (1) 審決は,「スリット空間の中間位置を絞り込んでスリットを閉塞するスリット絞り込み体を有する引用例1記載の発明に,スリット空間の閉塞された中間位置より上方の部分を掘削により排出した土で充填するために,引用例2に記載の技術的事項を適用し,相違点1における本件発明1の事項とすることは,その適用を阻害する技術的理由もないことから,当業者であれば容易になし得たことといえる。」と判断したが,誤りである。
(2) 放擲土により溝を埋め戻すためには,スリット絞り込み体により絞り込まれた部分は,上に被せられた土を支える強度を有する必要がある。ところが,引用例1記載の閉塞具8,8は,「大体溝の幅の2倍の間隔を持っている(第1図における間隔)」から,削り取られる(寄せられる)土の幅の合計は,溝の幅と同じであり,溝の左右から,溝の幅の2分の1ずつの幅を削り取り,これらが中央で接することとなる(第3図)。したがって,何らかの方法で第3図に記載されたような「土が中心部に寄る」という効果が実現できたとしても,中央に存する部分は側面と接している抵抗で支えられているのみであり,この上に放擲土を被せた場合に,これを支えることができるようなものでないことは明らかである。
また,審決が「掘削により排出した土を落下させ掘削したスリット(溝)を土で充填する手段を設けることは,当該技術分野において周知の技術的事項である」として例示する公報等は,いずれも有材暗渠の形成装置に関する発明であって,溝の底に土管,ケーブル線等を埋設することにより,暗渠(地中の排水路)を形成するものであるから,溝の閉塞部の強度は問題にならないものであるが,引用例1は,無材暗渠に関するものであって,溝の閉塞部の上に放擲土を被せた場合には,これを支えることができないものである。
(3) したがって,放擲土を被せた場合に,これを支えることができない引用例1記載の発明に,有材暗渠の形成装置に関する発明におけるスリット(溝)を土で充填する手段を適用することは,当業者にとって容易ではない。
4 取消事由4(相違点2の判断の誤り) (1) 審決は,「引用例1記載のスリット絞り込み体(閉塞具8,8)も,その一部がスリット渫えナイフの後方に位置しているものであり,スリット絞り込み体を,単に,スリット渫えナイフ後方に位置させることは,当業者が必要に応じ適宜なし得た事項にすぎない。」と判断したが,誤りである。
(2) 本件発明1は,一体の装置であるスリット絞り込み体それ自体(全体)が,スリット渫えナイフの「進行方向後方に位置している」(側方には位置していない)というものであり,その一部が若干後ろにはみ出しているというような場合を想定していないことは,本件明細書及び図面の記載から明らかである。
これに対し,引用例1は,第2図において,閉塞具8,8の奥行きが仕上円板回動管2の直径よりも若干大きいために,その一部が仕上円板回動管2の後方にはみ出しているが,このことのみを捉えて,「一部がスリット渫えナイフの後方に位置している」と認定するべきではない。閉塞具8,8は,前方にも同じだけはみ出しているのであり,しかも,はみ出している幅が極めて小さい(さらに,閉塞具8,8が取り付けられているのは閉塞具回動管3であり,そこからはみ出している幅はわずかである。)のであるから,閉塞具8,8は,閉塞具回動管3の「側面」に位置していると解するのが妥当であり,「その一部がスリット渫えナイフの後方に位置している」とはいえない。
そして,引用例1記載の閉塞具8,8は,形状を規定された2つの部品からなるものであって,そのまま後方に移動することは不可能である。
(3) したがって,引用例1記載の閉塞具8,8を,主杆1及び仕上円板5,さらえ板6を取付けた仕上円板回動管2の後方に位置させることは,当業者が適宜なし得た事項にあるとはいえない。
5 取消事由5(相違点3に関する判断の誤り) (1) 審決は,「引用例3(判決注:甲6)記載の「覆土用V型プラウ3」と本件発明1の「スリット絞り込み体」は,共に,掘削された土を中央に寄せるために用いられるものである」として,「引用例1記載の発明におけるスリット絞り込み体(閉塞具8,8)に,引用例3記載の・・技術的事項を適用することに格別の困難性はなく,相違点3における本件発明1の事項とすることは,当業者が容易になし得たことである。」と判断したが,誤りである。
(2) 引用例3記載の覆土用V型プラウは,本件発明1において排出土をスリット空間に放擲して埋め戻す機構が行っているのと同様の作業を行うためのものにすぎず,「溝を閉塞する」という技術思想はないから,本件発明1のスリット絞り込み体の目的,作用及び効果(地中で土を絞り込んで溝を閉塞するという目的,作用及び効果)とは全く異なる。それにもかかわらず,引用例3記載の覆土用V型プラウ3と本件発明1のスリット絞り込み体につき,曖昧,かつ,抽象的な表現を用いて,「共に掘削された土を中央に寄せるために用いられる」とまとめることは,技術解釈の表現として極めて不適切である。
(3) 本件発明1の閉塞具8,8は,閉塞具回動管3の両側に別々に取り付けられるものである。これに対し引用例3記載の覆土用V型プラウは,そもそも主杆(スリット渫えナイフ)に取り付けられるものではないし(引用例3の装置にはスリット渫えナイフに相当する部分はない。),2つの部品から構成されるものでもなく,引用例1記載の閉塞具8,8のような縦型の装置でもなく,側面板が三角でもない。引用例1の第1図及び第2図と,引用例3の第1図とを実際に比較すれば明らかなように,形状において,両者に類似する点は存しないから,構成上,両者が単純に入れ換えられるようなものでないことは明らかである。
(4) したがって,引用例1記載の発明におけるスリット絞り込み体(閉塞具8,8)に,引用例3記載の技術的事項を適用することは,不可能又は困難である。
当裁判所の判断
1 取消事由1(引用例1を「引用発明」とすることの誤り)について (1) 引用例1(甲4)には,次の記載がある。
「この考案は・・・自動跳上バケツト装置のような動力溝掘機に連結されてその溝掘機によつて掘られた溝をその高さの中間で閉塞すると共に溝掘機のバケツト装置の下方軸に設けられた穿孔刃・・・によつて穿孔された土中の穿孔を仕上げるものである。」(1頁左欄6ないし12行) 「この装置は主杆1,主杆1の周を回動する仕上円板回動管2及び仕上円板回動管2の周を回動することができる閉塞具回動管3から成る。主杆1は上端に溝掘機との連結具の取付座4を備えている。仕上円板回動管2は上端に回動用のレバー2’及び固定用の止め具2”を備え,主杆1に対し固定されるようにされ,下端に仕上円板5及びその上方のさらえ板6を取付け,これらは溝掘機(第2図において鎖線で示す)によつて掘られた溝A及び穿孔刃による穿孔Bを仕上げ削りする。仕上円板回動管2の回動によって仕上円板5を溝に対し並列にすることができる。なお仕上円板回動管2の下端には溝掘機との連結具7を回動できるように取付ける。
閉塞具回動管3は上端に回動用のレバー3’及び固定用の止め具3”を備え,前記さらえ板6の上方に対向する閉塞具8,8を取付ける。閉塞具8,8は各々の横の長さが大体掘られる溝の幅で(第2図における横幅),大体溝の幅の2倍の間隔をもつている(第1図における間隔)。この間隔によつて溝の側壁に空道Cを形成するよう掘り削り,溝Aを閉塞する(第3図参照)。即ち閉塞された溝が形成され,暗渠排水のための土管,被覆材等を要しない。閉塞具回動管3の回動によつて閉塞具8,8を溝に対し並列にすることができる。・・・従つてこの装置を溝掘機の後方に連結具によつて取付けて牽引すれば穿孔Bと溝Aとを仕上円板5とさらえ板6とによつて土砂を後方に残すことなくならえ・・・ることができる。」(1頁左欄15行ないし右欄14行) 「溝掘機によつて溝A更に穿孔刃によつて穿孔Bが形成されるが,そのままでは土砂の崩壊したものを溝内に残し,地下水の排水を不完全にするおそれがあるが,この考案によれば溝A及び穿孔Bを完全にさらえることによつて土砂の残留をなくし,閉塞具8,8の通過による空道Cの形成で閉塞した溝に完全な溝A及び穿孔Bを形成し,土管被覆材等の必要のない暗渠排水・・・ができる。」(1頁右欄15行ないし24行) (2) 以上の記載によれば,引用例1の土中穿孔仕上装置は,土中において,別紙1の第2図の左方向に進行し,その際,閉塞具8,8が,「溝の側壁に空道Cを形成するように掘り削り」,削り取った土を溝の中央方向に寄せ集めて溝Aを閉塞するのであるが,削り取った土で溝Aを閉塞するのであるから,土はできるだけ滑らかに後方に(図2の右方向)排出されるようにしなければならず,また,土は溝の中央方向に向けて両側から圧縮を受けるようにしなければならない。そうであれば,上記のような作用を果たすことができる閉塞具8,8の形状は,別紙2記載のように,両側面板で囲まれる内部空間が,作業進行方向前方の幅が広く,後方に向かうに従いその幅が狭くなっているというものであると認められる。
したがって,引用例1の技術内容は明確であって,審決が,これを引用発明としたことに誤りはない。
(3) 原告は,第1図及び第2図に記載された構成と第3図に記載された作用効果との間には齟齬があり,当業者にとって何が正しい記載であるかが不明であると主張する。確かに,第1図に記載された閉塞具8,8の内側の三角形部分については,第2図には隠れ線としても記載されていないから,図面自体からは,閉塞具8,8がどのような形状をしているのかを理解することができないし,また,第1図及び第2図に記載された閉塞具8,8が,第3図に記載されているとおりに土を寄せることができるとは考えられず,引用例1の図面,特に第3図には,不明確あるいは不正確な点があるといわざるを得ない。しかし,明細書の記載に基づいて図面を考察するならば,閉塞具8,8は,その内側の三角形部分が,土を削り取って溝の側壁に空道Cを形成し,かつ,削り取った土を溝の中央方向に押しつけて溝を閉塞するものであって,第1図及び第2図は,別紙2記載のような形状の三角形部分を有する閉塞具8,8を表し,また,第3図は,三角形部分に押しのけられた土が溝の中央に寄せられ,溝を閉塞する様子を全体として表すものであると認められるから,引用例1に接した当業者がその技術内容を理解することができないということはできない。したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
また,原告は,引用例1の装置において,閉塞具8,8は主杆1(閉塞具回動管3)の両側面に取り付けられるので,閉塞具8,8により土を中心に向かって寄せようとしても,主杆1(仕上円板回動管2)に妨げられてそのような効果を得ることができないとも主張する。しかし,引用例1記載の閉塞具8,8の形状は,別紙2記載のように,両側面板で囲まれる内部空間が,作業進行方向前方の幅が広く,後方に向かうに従いその幅が狭くなっているというものであって,進行方向先端部で削り取られた土は後方に向けて徐々に中央方向に寄せられ,主杆1(仕上円板回動管2)を避けて溝を閉塞するように構成されている。確かに,削り取られる土の量によっては主杆1(仕上円板回動管2)との干渉が生じることがあり得るものの,閉塞具8,8の幅は,溝の幅の約2倍であり,三角形部分の大きさを併せ考えると,主杆1(仕上円板回動管2)に妨げられる土の量はそれほど大量になるものではないから,主杆1(仕上円板回動管2)との干渉は格別問題にならないということができる。したがって,主杆1(仕上円板回動管2)に妨げられて土を寄せることができないとはいえないから,原告の上記主張は,採用の限りでない。
(4) 以上のとおりであって,取消事由1は,理由がない。
2 取消事由2(一致点の認定の誤り)について (1) 引用例1記載の閉塞具8,8の形状は,別紙2記載のように,両側面板で囲まれる内部空間が,作業進行方向前方の幅が広く,後方に向かうに従いその幅が狭くなっているというものであるから,審決が,本件発明1と引用例1との一致点について,「スリット絞り込み体は,両側面板で囲まれる内部空間が,作業進行方向前方の幅が広く,後方に向かうに従いその幅が狭くなる構成となっている」点が一致すると認定したことに,誤りはない。
(2) 原告は,第3図に「土が中心部に寄る」という効果が記載されているとしても,この記載のみから,引用例1記載の閉塞具8,8の「両側面板間の幅が作業進行方向後方に向かうに従って狭くなるように配置されている」という構成を導くことはできず,引用例1のみを見る者には,上記のような構成について,何の動機付けも与えられていないから,引用例1記載の閉塞具8,8がそのような構成であると考えることはできないと主張する。しかし,上記1に判示したところから明らかなように,引用例1記載の閉塞具8,8の「両側面板間の幅が作業進行方向後方に向かうに従って狭くなるように配置されている」という構成は,明細書の記載と図面を併せて考察することによって看取されるのであるから,引用例1の記載自体からこれを理解することができないという原告の主張は,採用することができない。
(3) 以上のとおりであって,取消事由2は,理由がない。
3 取消事由3(相違点1の判断の誤り)について (1) 原告は,第3図に記載されたような「土が中心部に寄る」という効果が実現できたとしても,中央に存する部分は側面と接している抵抗で支えられているのみであり,この上に放擲土を被せた場合に,これを支えることができるようなものではないと主張する。前述したように,引用例1の第3図は不正確な点があり,これに記載されているとおり土を寄せることは考えられないものの,別紙2記載のような閉塞具8,8の三角形部分で囲まれた空間の形状を考えれば,三角板で削られた土は下の方では広く,上の方では狭くなるのであって,削られた土が第3図に記載されたように溝と同じ幅になることはない。したがって,本件発明1も,引用例1も,閉塞具によって中央に寄せられた土は,溝よりも広い幅で溝を覆っているのであり,かつ,閉塞部の強度に格別の差があるとは認められない。原告の上記主張は,採用することができない。
また,原告は,審決が周知の技術的事項であるとして例示する公報等は,いずれも有材暗渠の形成装置に関する発明であって,溝の閉塞部の強度は問題にならないのに対し,引用例1は,無材暗渠に関するものであるから,溝の閉塞部の上に放擲土を被せた場合には,これを支えることができないと主張する。しかし,審決の例示する公報等が有材暗渠の形成装置に関する発明であるとしても,暗渠形成装置に,掘削により排出した土を落下させ掘削したスリット(溝)を土で充填する手段を設けることにおいて,形成する暗渠が有材暗渠であるか,無材暗渠であるかによって格別に異なる点があるとは考え難い上,このような周知の技術的事項が,引用例1の発明に引用例2に記載の技術的事項を適用することを阻害するわけではないから,原告の主張は,採用することができない。
(2) したがって,原告の主張は採用することができず,相違点1に係る審決の判断に誤りがあるということはできないから,取消事由3は,理由がない。
4 取消事由4(相違点2の判断の誤り)について (1) 閉塞具8,8の形状は,別紙2記載のように,両側面板で囲まれる内部空間が,作業進行方向前方の幅が広く,後方に向かうに従いその幅が狭くなっているというものであって,削り取った土を進行方向後方で中央部に寄せることを考えれば,スリット絞り込み体は,閉塞具回動管の後方側において幅が狭くなっていなければならない。そうであれば,審決が,「引用例1記載のスリット絞り込み体(閉塞具8,8)も,その一部がスリット渫えナイフの後方に位置している」と認定し,これを前提に,「スリット絞り込み体を,単に,スリット渫えナイフ後方に位置させることは,当業者が必要に応じ適宜なし得た事項にすぎない。」と判断したことに誤りはない。
(2) 原告は,閉塞具8,8は,閉塞具回動管3の「側面」に位置していると解するのが妥当であり,「その一部がスリット渫えナイフの後方に位置している」とはいえないし,形状を規定された2つの部品からなるものであるから,そのまま後方に移動することは不可能である旨主張するが,前記(1)に判示したとおりであって,審決の認定に誤りはないから,原告の上記主張は,採用することができない。
(3) 以上のとおりであって,取消事由4は,理由がない。
5 取消事由5(相違点3に関する判断の誤り)について (1) 引用例3記載の「覆土用V型プラウ3」は,平面板と2枚の側面板とで構成され,平面板の作業進行方向後方になるにつれ次第に幅が狭くなる台形部分の両側にそれぞれ側面板を配置することにより,両側面板で囲まれる内部空間が,作業進行方向前方の幅が広く,後方に向かうに従い次第にその幅が狭くなっているというものである(引用例3の第1図から明らかであり,原告も明らかに争わない。)。
そして,引用例3には,「けん引車等で上記埋設装置1をけん引すると,掘削用プラウ2により地16は掘り起こされ埋設溝17が形成される。こうして掘られた埋設溝17は掘削用プラウ2と所定間隔をおいてけん引されている覆土用V型プラウ3により,埋設溝17の両側に盛られた土砂が落とされ,埋設溝17は元の状態に埋め戻されてゆく。」(5頁10行ないし16行)と記載されているところ,この記載によれば,引用例3記載の「覆土用V型プラウ3」は,前記の構成を採用して,これにより,掘削された土を進行方向後方において中央に寄せて掘削された溝を閉塞するという作用効果を奏するものであると認められる。
そうすると,引用例3記載の覆土用V型プラウの備える形状は,本件発明1の「スリット絞り込み体」の形状と同等であり,また,両者は,掘削された土を進行方向後方において中央に寄せて掘削された溝を閉塞するという共通の作用効果を奏するものである。そして,引用例3記載の覆土用V型プラウの備える形状は,引用例1記載の閉塞具8,8の形状とは異なるものであるが,両者は,両側面板で囲まれる内部空間が,作業進行方向前方の幅が広く,後方に向かうに従いその幅が狭くなっているという構成を共通にし,これにより,掘削された土を進行方向後方において中央に寄せて掘削された溝を閉塞するという共通の作用効果を奏するものであるから,引用例1記載の閉塞具8,8に,引用例3記載の覆土用V型プラウに係る技術的事項を適用することに格別の困難はないと考えられる。なお,引用例3記載の覆土用V型プラウは地表で使用されるのに対し,本件発明1の「スリット絞り込み体」は地中で使用されるものであるが,上記のとおり,両者は,掘削された土を進行方向後方において中央に寄せて掘削された溝を閉塞するという共通の作用効果を奏するものであるから,このことを併せ考えれば,地表で使用される引用例3の覆土用V型プラウの形状を,地中で使用する本件発明の「スリット絞り込み体」の形状として採用することに,格別の困難もない。
そうであれば,引用例1記載の閉塞具8,8に,引用例3記載の覆土用V型プラウに係る技術的事項を適用して,相違点3における本件発明1の事項とすることは,当業者が容易になし得たことであると認められるから,相違点3に係る審決の判断に誤りはない。
(2) 原告は,引用例3記載の覆土用V型プラウには,「溝を閉塞する」という技術思想はないから,本件発明1のスリット絞り込み体の目的,作用及び効果とは全く異なるから,両者につき,「共に掘削された土を中央に寄せるために用いられる」とまとめることは,技術解釈の表現として極めて不適切であると主張する。しかし,引用例3記載の「覆土用V型プラウ3」は,前記(1)のとおり,掘削された土を進行方向後方において中央に寄せて掘削された溝を閉塞するという作用効果を奏するものであって,「溝を閉塞する」という技術思想を有しているから,審決が「共に掘削された土を中央に寄せるために用いられる」とまとめたことは,相当であるといわなければならない。原告の上記主張は,採用することができない。
また,原告は,引用例1記載の閉塞具8,8と引用例3記載の覆土用V型プラウとは,形状において,類似する点はないから,構成上,両者が単純に入れ換えられるようなものでないと主張する。しかし,前記(1)のとおり,両者は,形状を異にするものではあるが,両側面板で囲まれる内部空間が,作業進行方向前方の幅が広く,後方に向かうに従いその幅が狭くなっているという構成を共通にし,これにより,掘削された土を進行方向後方において中央に寄せて掘削された溝を閉塞するという共通の作用効果を奏するものであるから,そうであれば,引用例1記載の閉塞具8,8に,引用例3記載の覆土用V型プラウに係る技術的事項を適用することに格別の困難はないと考えられるのである。したがって,原告の上記主張も,採用の限りでない。
(3) 以上のとおりであって,取消事由5は,理由がない。
結論
したがって,原告主張の審決取消事由は,すべて理由がないから,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 塩月秀平
裁判官 野輝久