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関連審決 無効2004-80001
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  技術常識 /  翻訳文 /  実質的に同一 /  クレーム /  出願経過 /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  禁反言 /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10264号 審決取消請求事件
原告X
訴訟代理人弁護士・弁理士小林幸夫,村西大作
訴訟代理人弁理士河野誠
被告株式会社スーパーマックスUSA
訴訟代理人弁護士工藤勇治
訴訟代理人弁理士小林英一
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/07/19
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1原告の求めた裁判「特許庁が無効2004-80001号事件について平成18年5月2日にした審決を取り消す。」との判決。
第2事案の概要本件は,特許を無効とした審決の取消しを求める事案であり,原告は無効とされた特許の特許権者,被告は無効審判の請求人である。
1特許庁における手続の経緯(1)原告は,発明の名称を「流体イオン化装置」とする特許第3235990号(平成10年9月8日特許出願,平成13年9月28日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である(甲1)。
(2)被告は,平成16年4月2日,本件特許について無効審判の請求をした(無効2004-80001号事件として係属)。
(3)特許庁は,平成18年5月2日,「特許第3235990号の請求項1ないし6に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,同月12日,その謄本を原告に送達した。
2発明の要旨審決が対象としたのは,本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された発明であり(なお請求項の数は6個である。),その発明の要旨は,以下のとおりである(審決に従い,各構成要件に分説して,(A-1)から(A-13)までの符号を付した。)。
【請求項1】(A-1):左右両側面が互いに異なる磁極を形成するブロック状又はプレート状の磁石(16)と,(A-2):該磁石(16)の相対向する左右の両側面に該両側面を覆うように装着され,上記磁石(16)の上端面(16d)側に磁束密度を集中させる一対のコンセトレータ(17)から構成され,(A-3):上記両コンセントレータ(17)の上端面(17b)を,上記磁石(16)の左右幅より大きい直径の流体の流通用のパイプ(2)を収容して当接させるように,磁石(16)の上端面(16d)に向かって内側に傾斜する谷状の傾斜面に形成し,(A-4):該谷状の当接面(17b),(17b)間に磁束を集中させて磁束密度を高めると共に磁力線(a)の方向が上記パイプ(2)の軸心(c)と交差するように磁界を形成せしめ,(A-5):コンセントレータ(17)のパイプ(2)への当接面側端部の前後を切欠き状に窪ませて当該端部を凸状に形成し,(A-6):コンセントレータ(17)の端部の磁束密度を集中させ,(A-7):且つ突起物等を有するパイプ(2)への取り付けを容易にした(A-8):流体イオン化装置。
【請求項2】(A-9):対向する両コンセントレータ(17)の当接面が円弧状の面をなすように凹状に形成された(A-8):請求項1の流体イオン化装置。
【請求項3】(A-10):コンセントレータ(17)と磁石(16)とが一体化したユニット(15)を,該ユニット(15)の下端側から挿入し,一体的に固定するケース(18)を設けた(A-8):請求項1又は2の流体イオン化装置。
【請求項4】(A-11):ケース(18)の相対向する側面にフランジを突設せしめ,該フランジにケース(18)側とパイプ(2)とを締着固定せしめる結束帯(3)を位置決め収容する収容部を形成せしめた(A-8):請求項3の流体イオン化装置。
【請求項5】(A-12):ケース(18)の底面側にケース(18)側とパイプ(2)とを締着固定せしめる結束帯(3)を挿通せしめる挿通部を形成せしめた(A-8):請求項3の流体イオン化装置。
【請求項6】(A-13):挿通部がユニット(15)の下端面と,ケース(18)の底面(18c)との間に形成される間隙(21)からなる(A-8):請求項5の流体イオン化装置。
3審決の理由の要点審決は,請求項1ないし3に係る発明(以下,請求項の番号に対応させて「本件発明1」などという。請求項4ないし6に係る発明についても同様である。)は,下記@の刊行物に記載された発明(以下「引用発明」という。)に基づいて,本件発明4ないし6は,下記Aの刊行物の記載を参酌することにより,引用発明に基づいて,いずれも当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明1ないし6に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法123条1項2号に該当して,無効とすべきものである,とした。
@ 1993年(平成5年)12月14日特許に係る米国特許第5269915号公報(審判甲3,本訴甲3の1,2(ただし,甲3の2は翻訳文である。)。以下「甲3刊行物」という。)A 同日特許に係る米国特許第5269916号公報(審判甲4,本訴甲4の1,2(ただし,甲4の2は翻訳文である。)。以下「甲4刊行物」という。)審決の理由中,甲3刊行物及び甲4刊行物の記載事項の認定,引用発明の認定,本件発明1と引用発明との対比及び本件発明1についての判断,本件発明2ないし6についての判断の部分は,以下のとおりである(段落に付した番号又は符号を変更した部分及び本判決が指定した略称に改めた部分がある。)。
(1) 甲3刊行物及び甲4刊行物の記載事項の認定ア甲3刊行物甲3刊行物には次のような記載がある。
(ア-1)「鉄製パイプ(P)の内側に磁束を生ぜしめる磁気源とコンデンサーは相対向する大きな面をもつ矩形の磁石(M)と磁石を挟持する一対の磁極片(NとS)からなる。磁極片は各々,磁石の下部をパイプに隣接して延伸する足(NfとSf)をもつ。磁極片と足によって,磁石からの磁束は,パイプに適用される前に集中される。」(アブストラクト欄第1〜8行,訳文抄録欄第1〜4行)と記載されている。
(ア-2)「磁石Mは左面が一つの極,即ちN極,右側が対極,即ちS極」(第5欄第2〜4行,訳文第6頁21行)と記載され,さらにFIG1には直方体の磁石Mが図示されている。
(イ-1)「磁石Mの左面,即ちN極に密着しているのは磁気的に飽和した鋼製コンセントレータ,即ち磁極片Nであり,磁石Mの右面,即ちS極に密着しているのは磁気的に飽和した鋼製コンセントレータ,即ち磁極片Sである」(第5欄第5〜9行,訳文第6頁第23〜25行)と記載され,さらにFIG1には一対のコンセントレータが磁石Mの両側面を覆う状態が図示されている。
(イ-2)「磁極と磁石を風雨からさらに保護するために非磁性のカバーと被覆を用いてもよい」(第5欄第46〜48行,訳文第7頁第13〜14行)と記載されている。
(ウ-1)FIG2には,コンセントレータ(N,S)の下端面(Na,Sa)がパイプに当接した状態が図示されており,FIG1によれば,その下端面Na,Saは内側に傾斜している。
(ウ-2)「当接面NaとSaは半径5cm,弧長さ2cmでパイプPに密着して当接して」(第6欄第12〜14行,訳文第7頁第30〜31行)と記載されている。
(エ)「磁束線Gはすべて水流の方向Fに対して完全に垂直である」(第7欄第4〜5行,訳文第8頁第26行)と記載されている。
(オ)「図2において,図1の磁性源とコンデンサーはパイプに装着されて示されていて,非常に密度の高い磁場が磁石MのN極nから流れている」(第5欄第52〜54行,訳文第7頁第16〜17行)と記載されている。
(カ-1)「この装置は,全ての鉄製及び非鉄製のパイプのための自蔵のイオン化装置を提供する。それは,それらのパイプのなかの流体および溶解・懸濁した固体をイオン化して」(第4欄第14〜18行,訳文第5頁第22〜23行)と記載されている。
(カ-2)「本発明の開示の範囲内で多くの応用と変形がなされうる。例えば種々の材料や種々の形状の異なる形式の永久磁石または電磁石が使用できる。その部品は前述とは異なった形状にしてもよい。磁石と磁極片は,正方形の代わりに長く,矩形にしてもよい。」(第8欄第34〜40行,訳文第10頁第16〜20行)「(キ-1)一対の対向する平面状の大きな面および該大きな面の中間に延伸し該大きな面に垂直な平面状の小さな面をもつ磁石を含む磁気源,該大きな面の一つがS極でもう一方の該大きな面がN極であるように装着され(charged)た該磁石,(キ-2)磁極片の各々は一対の対向する平面状の大きな面をもち,その一つは内側の大きな面で他方は外側の大きな面で,該内側の大きな面の面積は該磁石の大きな面の面積に等しく,該外側の大きな面の面積は該磁石の該大きな面の各々より大きい,一対の磁極片を含むコンデンサー,該磁石の対向する両側に,該磁極片が該磁石を挟持し,各磁極片の該内側の大きな面は該磁石の大きな面の全体と接触してかつ完全に覆い,かつ,各磁極片の該外側の大きな面は該磁石から反対側を向くように配置された該磁極片,(キ-3)該磁極片は,互いの方向に延伸しかつ実質的に同一平面上にある2つのそれぞれ統合された足をもち,各々の足は該磁石に対して遠位と近位の面をもち,各々の足は対向する足の端部から離れた端部をもつ,そのような,各磁極片の該内側の大きな面に対し垂直に延伸した統合された(integral)足をもつ各磁極片,所定の凸曲率をもつパイプの外表面と密着して当接する所定の凹曲率をもつ各足の該遠位面,該磁石の該小さな面と接触している各足の該近位面,からなり,(キ-4)これにより,該パイプ内のスケール,腐食及び藻類蓄積(build)を減ずるように,該磁石と磁極片が,各足の遠位面は該パイプに接触し,該磁極片は該パイプの円周に間隔をおいて並んだ状態でパイプ上に位置するときに,該磁石と磁極片は,該パイプ内の流体の流れ方向と垂直の方向に磁束線を該パイプ内に生ぜしめ,該パイプの内側を流れるいかなる流体も該磁束線を切って,該パイプを該流体に対して陰に荷電し,該流体及び該流体中のいかなる溶解並びに懸濁した固体をイオン化する望ましい電流を該流体のなかに生ぜしめる,(キ-5)パイプの中を流れる流体をイオン化し,またそのような流体の中の溶解し懸濁した固体をイオン化する,パイプを保護するための磁気源とコンデンサー。」(第8欄のクレーム1,訳文第10頁第27行〜第11頁第19行)イ甲4刊行物甲4刊行物には次のような記載がある。
(ク)「磁気パイプ保護装置は,容器で覆うこともできる。本パイプ保護装置にひもを付けて,あるいはほかの方法で非鉄のパイプに固定して,パイプを保護することができる。」(第5欄第36〜39行,訳文第9頁第32〜33行)と記載されている。
(2) 引用発明の認定甲3刊行物の記載事項を本件発明1の記載ぶりに則って整理すると,「(B-1):面の一つがS極でもう一方の面がN極である一対の対向する平面状の大きな面をもち該大きな面の中間に延伸し該大きな面に垂直な平面状の小さな面をもつ磁石を含む磁気源と,(B-2):該磁石の対向する両側に,磁極片が磁石を狭持し,各磁極片の該内側の大きな面は磁石の大きな面の全体と接触してかつ完全に覆い,かつ,各磁極片の外側の大きな面は磁石から反対側を向くように配置された一対の磁極片を含むコンデンサーとから構成され,(B-3):一対の磁極片を含むコンデンサーは,互いの方向に延伸しかつ実質的に同一平面上にある2つのそれぞれ統合された(integral)足をもち,各々の足は磁石に対して遠位と近位の面をもち,所定の凸曲率をもつパイプの外表面と密着して当接する所定の凹曲率をもつ各足の該遠位で所定の凸曲率をもつパイプの外表面と密着して当接させ,(B-4):各足の遠位面は該パイプに接触し,該磁極片は該パイプの円周に間隔をおいて並んだ状態でパイプ上に位置するときに,該磁石と磁極片は,該パイプ内の流体の流れ方向と垂直の方向に磁束線を該パイプ内に生ぜしめ,(B-5):パイプの中を流れる流体をイオン化し,またそのような流体の中の溶解し懸濁した固体をイオン化する,パイプを保護するための磁気源とコンデンサー」(引用発明)が記載されているといえる。(ここで,引用発明については,特定事項を(B-1)から(B-5)までに分説して記載することとする。)(3) 本件発明1と引用発明との対比引用発明の(B-1)の「面の一つがS極でもう一方の面がN極であるように装着された該磁石」は磁石の左右両側面が互いに異なる磁極を形成するものであり,(B-1)の「一対の対向する平面状の大きな面をもち該大きな面の中間に延伸し該大きな面に垂直な平面状の小さな面」を有する形状はブロック状又はプレート状の形状を含んでいるから,引用発明の(B-1)の特定事項は,本件発明1の(A-1)の特定事項の「左右両側面が互いに異なる磁極を形成するブロック状又はプレート状の磁石(16)」に相当する。
引用発明の(B-2)の「一対の磁極片を含むコンデンサー」は,記載事項(イ-1)からしてコンセントレータであり,記載事項(ア)に「磁極片と足によって,磁石からの磁束は,パイプに適用される前に集中される」とあり,記載事項(オ)に「図2において,図1の磁性源とコンデンサーはパイプに装着されて示されていて,非常に密度の高い磁場が磁石MのN極nから流れている」とあることからして谷状の当接面間に磁束を集中させるものであり,記載事項(キ-2)からして磁石の相対向する左右の両側面に該両側面を覆うように装着されているものであるから,引用発明の(B-2)の特定事項は,本件発明1の特定事項の(A-2)の「該磁石(16)の相対向する左右の両側面に該両側面を覆うように装着され,上記磁石(16)の上端面(16d)側に磁束密度を集中させる一対のコンセトレータ(17)」に相当する。
引用発明の(B-3)の「一対の磁極片を含むコンデンサー」は,記載事項(イ-1)からしてコンセントレータであり,「所定の凸曲率をもつパイプの外表面と密着して当接する所定の凹曲率をもつ各足の該遠位面」を有し流体の流通用のパイプを収容して当接させるものであるから,引用発明の(B-3)の特定事項は,本件発明1の特定事項の(A-3)の「上記両コンセントレータ(17)の上端面(17b)を,上記磁石(16)の左右幅より大きい直径の流体の流通用のパイプ(2)を収容して当接させるように,磁石(16)の上端面(16d)に向かって内側に傾斜する谷状の傾斜面に形成し,」に相当する。
引用発明の(B-4)の「該磁石と磁極片」は,記載事項(ア)に「磁極片と足によって,磁石からの磁束は,パイプに適用される前に集中される」とあり,記載事項(オ)に「図2において,図1の磁性源とコンデンサーはパイプに装着されて示されていて,非常に密度の高い磁場が磁石MのN極nから流れている」とあることからして,引用発明は谷状の当接面間に磁束を集中させるものであり,そして,引用発明の(B-4)の「該磁石と磁極片」は,該パイプ内の流体の流れ方向と垂直の方向に磁束線を該パイプ内に生ぜしめるものであるから,引用発明の(B-4)の特定事項は,本件発明1の特定事項の(A-4)の「該谷状の当接面(17b),(17b)間に磁束を集中させて磁束密度を高めると共に磁力線(a)の方向が上記パイプ(2)の軸心(c)と交差するように磁界を形成せしめ,」に相当する。
引用発明の(B-5)の「パイプの中を流れる流体をイオン化する磁気源とコンデンサー」は「パイプの中を流れる流体をイオン化」するものであるから,引用発明の(B-5)の特定事項は,本件発明1の特定事項の(A-8)の「流体イオン化装置」に相当する。
以上のとおりでありから,両者は,「(A-1)左右両側面が互いに異なる磁極を形成するブロック状又はプレート状の磁石(16)と,(A-2)該磁石(16)の相対向する左右の両側面に該両側面を覆うように装着され,上記磁石(16)の上端面(16d)側に磁束密度を集中させる一対のコンセトレータ(17)から構成され,(A-3)上記両コンセントレータ(17)の上端面(17b)を,上記磁石(16)の左右幅より大きい直径の流体の流通用のパイプ(2)を収容して当接させるように,磁石(16)の上端面(16d)に向かって内側に傾斜する谷状の傾斜面に形成し,(A-4)該谷状の当接面(17b),(17b)間に磁束を集中させて磁束密度を高めると共に磁力線(a)の方向が上記パイプ(2)の軸心(c)と交差するように磁界を形成せしめた,(A-8)流体イオン化装置。」である点で一致し,本件発明1では,(A-5)コンセントレータ(17)のパイプ(2)への当接面側端部の前後を切欠き状に窪ませて当該端部を凸状に形成しているのに対して,引用発明ではこの点についてなにも記載されていない点(相違点1),本件発明1では,(A-6)コンセントレータ(17)の端部の磁束密度を集中させるのに対して,引用発明ではこの点について明確に分節して記載されていない点(相違点2),本件発明1では,(A-7)且つ突起物を有するパイプ(2)への取り付けを容易にしているのに対して,引用発明ではこの点についてなにも記載されていない点(相違点3),で相違している。
(4) 本件発明1についての判断ア相違点についての判断まず,相違点1について検討する。
引用発明は,記載事項(カ-2)からして,そもそも,その装置について発明の開示の範囲内で多くの応用と変形がなされうるものであり,そして,種々の形状の異なる形式の永久磁石または電磁石が使用でき,その部品の形状を異なったものとしてもよく,磁石と磁極片の形状を異なったものとしてもよいものであるから,磁石と磁極片の形状を装置の取り付け条件に応じてその形状を適宜に設計できることが示唆されているものである。
そして,また,記載事項(ア-1)からして流体が流れるパイプに取り付けるものであって,通常はパイプ面に直接に取り付けられる形状に設計されているものである。そして,また,流体が流れるパイプのパイプ面の態様としては,パイプ外周面に管と管との継ぎ手部を有するものがあることは通常のことであり,このような管と管との継ぎ手部には軸心方向に並んで形成されるナット等の突起物が設けられていることも通常のことである。
してみると,引用発明は,その使用の態様として,管と管との継ぎ手部位で軸心方向に並んで形成されるナット等の突起物が設けられており,装置がそのままの形状では取り付けが困難な設置部位に流体イオン化装置を設置するという技術課題を有しているものである。
そうすると,係る自明の技術課題を認識し,また,その装置の磁石と磁極片の形状を必要に応じて異なった形状にしてよいことを認識する当業者にとって,その技術課題に対応すべく,流体イオン化装置を流体が流れるパイプへ取り付けるのを妨げる軸心方向に並んで形成されるナット等の突起物を避けて流体イオン化装置を流体が流れるパイプに取り付けられるように,流体イオン化装置のコンセントレータ(17)のパイプ(2)への当接面側端部の前後を切欠き状に窪ませて当該端部を凸状に形成し,該部位に流体イオン化装置を取り付けられるように装置の磁石と磁極片の形状を異なった形状にすることは,容易に想到しえることであると認められる。
なお,この点についてさらにいえば,本件発明1では,流体イオン化装置のコンセントレータ(17)のパイプ(2)への当接面側端部の前後を切欠き状にするに際して,後述する「流体イオン化装置によりパイプ内に発生する磁気の測定実験報告」のAタイプのような凸部の幅に等しい縦幅の図1〜図3の1実施形態の(A-5)の要件を含まないタイプの流体イオン化装置としないで,流体イオン化装置のコンセントレータ(17)のパイプ(2)への当接面側端部の前後を切欠き状に窪ませて当該端部を凸状に形成した流体イオン化装置としているが,前者より後者のほうが磁石とコンセントレータの容積が大きくとれ,したがって,後者のほうが磁力密度が大きくなることが自明であることに鑑みれば,前者でなく後者を採用することは当業者が適宜になしえたものと認められるから,この点について検討してみても,上記の容易性についての判断が左右されるものではない。
次に,相違点2について検討する。
まずもって,(A-6)の特定事項であるコンセントレータ(17)の端部の磁束密度を集中させるということは,本件発明1の(A-2)の特定事項の構成が果たす機能を特定事項として記載したものである。他方,引用発明は(A-2)の特定事項に相当する(B-2)の特定事項を有しており,引用発明が,(B-2)の特定事項を有していることにより,(B-2)の特定事項の構成が果たす機能として本件コンセントレータに相当するコンデンサの端部の磁束密度を集中させるものであることは明らかである。
してみると,(B-2)の特定事項を有する引用発明に接した当業者が,引用発明に(A-6)コンセントレータ(17)の端部の磁束密度を集中させるという特定事項を附加することは,当業者が適宜になしえる程度の事項にすぎない。
また,(A-6)の特定事項であるコンセントレータ(17)の端部の磁束密度を集中させるということは,本件発明1の(A-5)の特定事項であるコンセントレータ(17)のパイプ(2)への当接面側端部の前後を切欠き状に窪ませて当該端部を凸状に形成するという構成が果たす機能を特定事項として記載したものであるともいえるものであって,相違点1の構成が満たされれば当然に達成されるものである。そして,相違点1の構成が当業者に容易に想到しえるものであることは上記したとおりである。
してみると,この点からしても,引用発明に(A-6)コンセントレータ(17)の端部の磁束密度を集中させるという特定事項を附加することは,相違点1の構成を容易に想到できる当業者にとっては,適宜になしえる程度の事項にすぎないものである。
次に,相違点3について検討する。
(A-7)の特定事項である突起物を有するパイプ(2)への取り付けを容易にすることは,相違点1の(A-5)の特定事項であるコンセントレータ(17)のパイプ(2)への当接面側端部の前後を切欠き状に窪ませて当該端部を凸状に形成するという構成が果たす機能であり,相違点1の構成が満たされれば当然に達成されるものである。そして,相違点1の構成が当業者に容易に想到しえるものであることは上記したとおりである。
してみると,引用発明に(A-7)且つ突起物を有するパイプ(2)への取り付けを容易にするという特定事項を附加することは,相違点1の構成を容易に想到できる当業者にとっては,適宜になしえる程度の事項にすぎないものである。
したがって,本件発明1の構成は,引用発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものである。
イ本件発明1の効果についての判断(ア) 本件明細書中に記載されている(A-5)の要件に基づく効果についての検討本件明細書中には(A-5)の要件を含むタイプの発明と(A-5)の要件を含まないタイプの発明が記載されており,両者の発明の効果を比較することにより(A-5)の要件に基づく効果がどのようなものなのかを検討することとする。
まず,本件明細書の記載事項を摘示する。
a【0012】【発明の実施の形態】図1〜図3は本発明の1実施形態を示し,図1(a),(b)は磁石を内装した流体イオン化装置1を水道管等の流体流通用パイプ2の外周に装着し,紐等を含む結束帯である,いわゆるインシュロックタイ3で固定したものを示しており,これによりパイプ2内の水流Sが磁界内を通過することにより水の活性化を行い,パイプ2内のスケール付着,腐食及び藻類の発生を防止するものである。
【0013】上記流体イオン化装置1は図2,図3に示されるように対向する両側面6a,6bが互いに異なる磁極をなすブロック状の磁石6,該磁石6における対向する両側面6a,6bに装着されて磁束密度を集中させる一対のコンセントレータ7,磁石6とコンセントレータ7とが一体化されたユニット5を保持するケース8等により構成され,該ユニット5とケース8とが一体的に固定された構造となっている。
【0014】本実施形態において磁石6は外形が10×51×55(mm)で51mmを高さ方向とする略直方体をなすネオジム合金製のものであり,幅広の対向する両側面が上記左右側面6a,6bをなすとともに,該左右側面6a,6bが互いに異なる磁極(S極又はN極)をなし,該左右両側面6a,6bの磁束密度が略2200ガウス程度,上端面6c及び下端面6bの磁束密度が略4000ガウス程度に設定されたものとなっている。
b【0017】そして該当接面(上端面)7bとパイプ2との当接状態において左右の当接面7b間の磁力線aの方向がパイプ2の軸線cと略直交するように磁界が形成せしめられている。また左右の当接面7bは連続して単一の円弧状面をなすように凹状に形成されており,さらに当接面7bにおける外側端は面取りされている。
c【0018】これによりコンセントレータ7の当接面7b間に磁束が集中せしめられ,該当接面7b間における磁束密度が,磁石6単体の上端面6cの磁束密度(4000ガウス)に比較して略3.5倍程度の概ね14000ガウスに集中されて高められている。特に当接面が凹状にパイプ2の外周に沿うため,磁束密度の集中効果がより高められているd【0031】一方図4〜図6は本発明の他の実施形態を示し,図4(a),(b)は上記実施形態同様に磁石6を内装した流体イオン化装置1を水道管等の流体流通用パイプ2の回りに装着し,結束帯(インシュロック3)で固定したものを示しており,これによりパイプ2内の水流sが磁界内を通過することにより水の活性化を行い,パイプ2内のスケール付着,腐食及び藻類の発生を防止するものである。
【0032】上記流体イオン化装置1は図4〜図6に示されるようにプレート状の磁石16,該磁石16を左右側面16b,16cから狭持して後述するように磁束密度を高めるコンセントレータ17,磁石16とコンセントレータ17とが一体化したユニット15を保持するケース18等により構成されており,ユニット15と磁石16とが一体化的に固定された構造となっている。
【0033】本実施形態において磁石16は外形が10×24.5×27(mm)で24.5mmを高さ方向とする略直方体の上方前後をそれぞれ7.5×6.5×10mm(7.5が高さ方向)切り欠いた側面視で凸形状をなすネオジム合金製のものであり,突出部16aを上方として,幅広の対向する両側面が上記左右側面16b,16cをなすとともに互いに異なる磁極(S極又はN極)をなし,該左右両側面の磁束密度が略2500ガウス程度,上端面16d(突出部16cの上端面)の磁束密度が略3500ガウス程度に設定されたものとなっている。
【0034】一方上記コンセントレータ17は,磁性材により形成せしめられ,上記磁石16の左右各側面16b,16cに磁力により着脱自在に装着されているが,磁石16の左右側面16b,16cは各1つのコンセントレータ17によって覆われており,該コンセントレータ17も磁石16同様側面視で凸形状(側面視で磁石16と同形状)をなしている。
e【0038】また左右の当接面17bは連続して単一の円弧状面をなすように凹状に形成されており,さらに当接面7bにおける外側端は面取りされている。これによりコンセントレータ17の当接面17b間に磁束が集中せしめられ,該当接面17b間における磁束密度が,磁石16単体の上端面16dの磁束密度(3500ガウス)に比較して略3.3倍程度の概ね11500ガウスに集中されて高められている。
f【0044】これにより上記構造の流体イオン化装置1も前述の実施形態同様にパイプ2内の清浄,スケール等の除去を行うことができるが,本実施形態の場合突出部16a(当接面17a)の前後幅L1がユニット15の底面15a側(反当接面側)の前後幅L2に比較して狭められている{(L2-L1)/2分前後幅が狭められている}ため,前後面側に発生する磁界が弱められ,当接面17b間に磁束がより集中させられ,当接面17b間の磁束密度の集中が比較的強く行われ,磁石16のサイズが小さい場合であっても,比較的高い効果を得ることができる。
g【0045】このため流体イオン化装置1をさらに小型化することができるが,特にケース18にフランジ等を設ける必要がないため,流体イオン化装置1から突起が突出することが無く,流体イオン化装置1の取り付け場所の自由度がより高くなるが,特にコンセントレータ17の前後が切欠き状に窪ませられているため,ねじ等が取り付けの妨げになることが無く,突起物等が邪魔にならず,狭い場所にあるパイプや種々のパイプ等に流体イオン化装置1をさらに容易に取り付けることができる。なお上記挿通部をケース18の底面18cの外面側に突出させたバンド通し(図示せず)等により形成せしめても良い。
h【0048】【発明の効果】以上のように構成される本発明の構造によれば,ブロック状又はプレート状の磁石の相対向する両側面にコンセントレータを取り付け,対向するコンセントレータの互いの近接端面を流体の流通用のパイプの外周面に沿った凹状の面間に磁束を集中せしめると共に磁力線の方向が上記パイプの軸心と交差するように磁界を形成せしめることで,凹状の面間の磁束密度を高められ,強力な磁界が形成される。これによってより効果が高い流体イオン化装置を形成せしめることができる。
【0049】このため流体イオン化装置を構成するにあたり,磁石の磁束密度を必要以上に大きくする必要がないことから,磁石自身を必要以上に大きくする必要がなく,さらに1つの磁石で足りるため,流体イオン化装置を簡単に構成することができるとともに,小型化することができ,さらに製造コストが低くなり,コストダウンを図ることができるという効果がある。
【0050】特に上端面における前後方向の磁石及びコンセントレータの幅を,下端面側に対して短く形成し,コンセントレータのパイプへの当接面側端部の前後を切欠き状に窪ませて当該端部を凸状に形成することにより,当接面間の磁力線に略直交する方向の磁界形成が減少せしめられ,磁石のサイズや磁力に対する磁束の収束効果が比較的高くなり,流体イオン化装置をより小型化することができ,取り付けに対する自由度がより高くなり,突起物等を有するパイプ2への取り付けを容易にするという利点もある。
以上の本件明細書に記載された摘示事項に基づいて検討する。
記載事項aからして,図1〜図3のタイプの実施形態は,(A-5)の要件を含まないタイプの発明である。
他方,載事項dからして,図4〜図6のタイプの本件発明の実施形態は,(A-5)の要件を含むタイプの発明である。
そこで,両者のタイプの発明の磁束密度の集中効果について検討する。
記載事項bからして,(A-5)の要件を含まないタイプの発明は,左右の当接面7bは連続して単一の円弧状面をなすように凹状に形成されており,さらに当接面7bにおける外側端は面取りされていることにより磁束密度が集中するものと認められ,その効果は,記載事項cからして,磁石6単体の上端面6cの磁束密度(4000ガウス)に比較して当接面7b間における磁束密度を概ね14000ガウスに集中し略3.5倍程度に高めるものである。
これに対して,記載事項eからして,(A-5)の要件を含むタイプの発明は,左右の当接面7bは連続して単一の円弧状面をなすように凹状に形成されており,さらに当接面7bにおける外側端は面取りされ,さらに,(A-5)の構成とすることにより磁束密度が集中するものと認められ,その効果は,記載事項eからして,磁石16単体の上端面16cの磁束密度(3500ガウス)に比較して当接面17b間における磁束密度を概ね11500ガウスに集中し略3.3倍程度に高めるものである。
すなわち,(A-5)の要件を含まないタイプの発明においては略3.5倍に磁束密度が集中されるのに対し,(A-5)の要件を含むタイプの発明においては略3.3倍に磁束密度が集中されることが記載されている。
してみると,(A-5)の要件を附加することにより磁束密度の集中が高められるとはいえず,むしろ,(A-5)の要件を附加することにより磁束密度の集中が低くなっていることがうかがえる。
そうすると,(A-5)の要件に基づき格別の磁束密度の集中効果が奏されるとすることはできない。
なお,記載事項eと記載事項hの【0050】には「当接面間の磁力線に略直交する方向の磁界形成が減少せしめられ,磁石のサイズや磁力に対する磁束の収束効果が比較的高くなり,流体イオン化装置をより小型化することができ,」と記載されており,(A-5)の要件に基づき磁束密度の集中効果が奏される旨が記載されているが,(A-5)の要件に基づけば当接面間の磁力線に略直交する方向で磁石とコンセントレータの幅が減少することになるのであるから,確かに「当接面間の磁力線に略直交する方向の磁界形成が減少せしめられる」とまではいえるが,上記したように,「(A-5)の要件を附加することにより磁束密度の集中が高められるとはいえず,むしろ,(A-5)の要件を附加することにより磁束密度の集中が低くなっていることがうかがえる」のであるから,「磁石のサイズや磁力に対する磁束の収束効果が比較的高くなる」とは到底いえず,したがって,「流体イオン化装置をより小型化することができる」ということもいえないものである。
したがって,係る記載を根拠に(A-5)の要件に基づき磁束密度の集中効果が奏されるとすることもできない。
次に,記載事項gと記載事項hの【0050】によれば,(A-5)の要件を附加することにより「ねじ等が取り付けの妨げになることが無く,突起物等が邪魔にならず,狭い場所にあるパイプや種々のパイプ等に流体イオン化装置1をさらに容易に取り付けることができ,取り付けに対する自由度がより高くなり,突起物等を有するパイプ2への取り付けを容易にする」という効果が奏されることが認められるが,上端面における前後方向の磁石及びコンセントレータの幅を,下端面側に対して短く形成し,コンセントレータのパイプへの当接面側端部の前後を切欠き状に窪ませて当該端部を凸状に形成すれば,本件発明1の装置の設置に必要な取り付けスペースはより狭い幅ですむことは自明であるから,かかる効果は,(A-5)の要件を附加することにより本件発明1に当然に生じてくる効果にすぎない。
以上のとおり,本件明細書の記載を検討してみても,本件発明1が(A-5)の要件を附加することにより格別顕著な効果を奏しているとすることはできない。
(イ)河野特許事務所作成の2005年(平成17年)6月1日付け「流体イオン化装置によりパイプ内に発生する磁気の測定実験報告」と題する実験報告書(審判乙4,本訴甲5)に記載されている(A-5)の要件に基づく効果についての検討・・・・・その内容についてみるに,その「3.3流体イオン化装置」の項には,A,B,Cの3つの流体イオン化装置が記載されており,Cタイプとして,図1〜図3の1実施形態の(A-5)の要件を含まないタイプの流体イオン化装置の例が記載されており,Bタイプとして,図4〜図6の1実施形態の(A-5)の要件を含むタイプの流体イオン化装置の例が記載されており,Aタイプとして,Bタイプの凸部の幅に等しい縦幅の図1〜図3の1実施形態の(A-5)の要件を含まないタイプの流体イオン化装置の例が記載されている。
そして,その「実験方法」の項には,各流体イオン化装置の凹部に塩ビパイプ(t=3mm)を密着させ,磁束密度計のプローブを塩ビパイプ内に挿入し,最大の磁束密度(ガウス数)を各4回測定する旨が記載されている。
そして,その「実験結果」の項には,Cタイプのものでは,1回:1937ガウス,2回:1968ガウス,3回:1977ガウス,4回:2010ガウスであったことが記載され,Bタイプのものでは,1回:1791ガウス,2回:1789ガウス,3回:1786ガウス,4回:1796ガウスであったことが記載され,Aタイプのものでは,1回:1347ガウス,2回:1395ガウス,3回:1380ガウス,4回:1476ガウスであったことが記載されている。
上記した事項について検討する。
4回おこなった実験のいずれの結果においても,CタイプのものはBタイプのものより,4桁レベルの測定値での比較で,3桁のレベルでの差違である100ガウス以上の違いで磁束密度が高くなっており,したがって,この実験結果からすると,(A-5)要件を附加したBタイプのものは(A-5)要件を附加しないCタイプものより明らかに磁束密度が低いものと認められる。
そうすると,(A-5)要件を附加することによって,むしろ,磁束密度は低下しているのであるから,上記の実験結果から(A-5)要件を附加することにより磁束の収束効果が比較的高くなり磁束密度の集中が比較的強く行われるという効果を導きだすことはできない。
そして,この点は,Bタイプの凸部の幅に等しい縦幅の図1〜図3の1実施形態の(A-5)の要件を含まないタイプの流体イオン化装置の例であるAタイプの結果を参酌してみても変わるものではない。
また,被請求人は上記の実験結果について,Aタイプの4回目の実験結果の1476ガウスとAタイプの4回の実験結果の平均値1399.5を根拠として実験誤差を+5.5%とし,その約2倍のマージンをとるとして+10%の誤差があるとの前提をおいて,縷々主張を述べているが,そもそも,Aタイプのものは(A-5)要件を附加することにより磁束の収束効果が比較的高くなり磁束密度の集中が比較的強く行われるという効果を導きだすことができるかどうかの比較の対象となるものではなく,また,Aタイプの4回目の実験結果の1476ガウスは他の3回の実験値と比べて極端に大きな数値であり,このような不自然な実験結果をそのまま採用すること自体にわかに是認できることではなく,また,実験結果の誤差の2倍のマージンとするのも不自然であってその根拠も不明であるので,被請求人のこの点の主張は採用することができない。
また,4回おこなった実験のいずれの結果においても,BタイプのものはAタイプのものより,4桁レベルの測定値での比較で,3桁のレベルでの差違である300〜400ガウス以上の違いで磁束密度が高くなっており,したがって,この実験結果からすると,(A-5)要件を附加したBタイプのものは,Bタイプの凸部の幅に等しい縦幅の図1〜図3の1実施形態の(A-5)の要件を含まないAタイプものより,明らかに磁束密度が高いものと認められる。
そうすると,被請求人が口頭審理陳述要領書において主張するとおり,BタイプのものとAタイプのものを比較すると,凸状端部の切り残し部を有するBタイプのものは,単純にコンセントレータを薄くしたAタイプのものに比し,コンセントレータと切り残し部分の磁石との接触面積が大きい分だけ磁力の確保ができるという効果が奏されていることが認められる。しかしながら,係る効果はAタイプのものは切り残し部分がなく,したがって,コンセントレータと磁石との接触面積が小さく磁石そのものの体積が小さく,磁石そのものの磁力が小さいのに対して,Bタイプのものほうが切り残し部分があり,したがって,コンセントレータと磁石との接触面積が大きく磁石そのものの体積が大きく,磁石そのものの磁力が大きいことからして当然に奏されるものであることは自明であるから,この点の効果も,(A-5)の要件を附加することにより本件発明1に当然に生じてくる効果にすぎない。
以上のとおり,本件明細書の記載を検討してみても,本件発明1が(A-5)の要件を附加することにより格別顕著な効果を奏しているとすることはできない。
以上のとおりであり,本件発明1は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(5) 本件発明2についての判断本件発明2は,本件発明1において,(A-9):対向する両コンセントレータ(17)の当接面が円弧状の面をなすように凹状に形成されたと限定した発明である。
しかし,甲3刊行物の記載事項(ウ-2)に「当接面NaとSaは半径5cm,弧長さ2cmでパイプPに密着して当接して」と記載されており,該記載がパイプに密着する当接面が円弧状であることを意味していることは明らかであるから,甲3刊行物には(A-9):対向する両コンセントレータ(17)の当接面が円弧状の面をなすように凹状に形成することが記載されている。
したがって,本件発明2は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(6) 本件発明3について本件発明3は,本件発明1又は本件発明2において,(A-10):コンセントレータ(17)と磁石(16)とが一体化したユニット(15)を,該ユニット(15)の下端側から挿入し,一体的に固定するケース(18)を設けたと限定した発明である。
しかし,甲3刊行物の記載事項(イ-2)に「磁極と磁石を風雨からさらに保護するために非磁性のカバーと被覆を用いてもよい」と記載されているのであるから,コンセントレータ(17)と磁石(16)とが一体化したユニット(15)に設ける保護カバーとして係るケースを採用することは適宜になしえることである。
したがって,本件発明3は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(7) 本件発明4について本件発明4は,本件発明3において,(A-11):ケース(18)の相対向する側面にフランジを突設せしめ,該フランジにケース(18)側とパイプ(2)とを締着固定せしめる結束帯(3)を位置決め収容する収容部を形成せしめたと限定した発明である。
しかし,甲3刊行物と同様な発明についてのものである甲4刊行物の記載事項(ク-1)に「磁気パイプ保護装置は,容器で覆うこともできる。本パイプ保護装置にひもを付けて,あるいはほかの方法で非鉄のパイプに固定して,パイプを保護することができる。」と記載され,該記載によりケース(18)側とパイプ(2)とを締着固定せしめる結束帯(3)の存在が示唆されているのであるから,ケース(18)側とパイプ(2)とを締着固定せしめる態様の1つとして,ケース(18)の相対向する側面にフランジを突設せしめ,該フランジにケース(18)側とパイプ(2)とを締着固定せしめる結束帯(3)を位置決め収容する収容部を形成せしめる態様を採用することは適宜になしえることである。
したがって,本件発明4は,甲4刊行物の上記記載を参酌することにより,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(8) 本件発明5について本件発明5は,本件発明3において,(A-12):ケース(18)の底面側にケース(18)側とパイプ(2)とを締着固定せしめる結束帯(3)を挿通せしめる挿通部を形成せしめたと限定した発明である。
しかし,甲3刊行物と同様な発明についてのものである甲4刊行物の記載事項(ク-1)に「磁気パイプ保護装置は,容器で覆うこともできる。本パイプ保護装置にひもを付けて,あるいはほかの方法で非鉄のパイプに固定して,パイプを保護することができる。」と記載され,該記載によりケース(18)側とパイプ(2)とを締着固定せしめる結束帯(3)の存在が示唆されているのであるから,ケース(18)側とパイプ(2)とを締着固定せしめる態様の1つとして,コンセントレータ(17)と磁石(16)とが一体化したユニット(15)を,該ユニット(15)の下端側から挿入し,一体的に固定するケース(18)に,ケース(18)側とパイプ(2)とを締着固定せしめる結束帯(3)を設ける態様としてケース(18)の底面側にケース(18)側とパイプ(2)とを締着固定せしめる結束帯(3)を挿通せしめる挿通部を形成せしめる態様を採用することは適宜になしえることである。
したがって,本件発明5は,甲4刊行物の上記記載を参酌することにより,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(9) 本件発明6について本件発明6は,本件発明5において,(A-13):挿通部がユニット(15)の下端面と,ケース(18)の底面(18c)との間に形成される間隙(21)からなると限定した発明である。
しかし,挿通部がユニット(15)の下端面と,ケース(18)の底面(18c)との間に形成される間隙(21)である態様であることは明らかである。
したがって,本件発明6は,甲4刊行物の上記記載を参酌することにより,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(10) 審決の「むすび」以上のとおりであるから,本件発明1ないし6は,引用発明に基いて又は甲4刊行物を参酌することにより引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明1ないし6に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。
第3当事者の主張の要点1原告主張の審決取消事由の要点(1)取消事由1(本件発明1に係る相違点1(以下,本件発明1に係る相違点1ないし3をそれぞれ「相違点1」などという。)についての判断の誤り)審決は,相違点1について,何らの引用例も合理的理由も示さず,引用発明から容易想到である旨判断したが,以下のとおり,誤りである。
ア審決は,「引用発明は,その使用の態様として,管と管との継ぎ手部位で軸心方向に並んで形成されるナット等の突起物が設けられており,装置がそのままの形状では取り付けが困難な設置部位に流体イオン化装置を設置するという技術課題を有しているものである。」と判断しているが,甲3刊行物には,引用発明を広い用途に利用することができる旨記載されている一方で,取付けの難易についての記載又は示唆は一切ないのであるから,甲3刊行物から上記技術課題は導かれない。
イ仮に,甲3刊行物から上記技術課題が導かれるとしても,その場合に,当業者は,装置の設置を可能とするため,単に装置の幅を短くすることを容易に想到できるにとどまり,本件発明1のように,凸形に切り欠くことまで容易に想到し得るとはいえない。
この点につき,審決は,後記Aタイプの装置のように「凸部の幅に等しい縦幅」とした装置よりも,「コンセントレータ(17)のパイプ(2)への当接面側端部の前後を切欠き状に窪ませて当該端部を凸状に形成した」装置の方が,「磁石とコンセントレータの容積が大きくとれ,したがって,後者のほうが磁力密度が大きくなることが自明であることに鑑みれば,前者でなく後者を採用することは当業者が適宜になしえたものと認められる」としたが,この判断が誤りであることは,後記(2)のとおりである。
(2)取消事由2(本件発明1の効果についての判断の誤り)審決は,本件発明1の効果に関する本件明細書(甲2)の記載に関して,「(A-5)の要件を含まないタイプの発明においては略3.5倍に磁束密度が集中されるのに対し,(A-5)の要件を含むタイプの発明においては略3.3倍に磁束密度が集中されることが記載されている。してみると,(A-5)の要件を附加することにより磁束密度の集中が高められるとはいえず,むしろ,(A-5)の要件を附加することにより磁束密度の集中が低くなっていることがうかがえる。そうすると,(A-5)の要件に基づき格別の磁束密度の集中効果が奏されるとすることはできない。」と判断した。
この判断において,「(A-5)の要件を含まないタイプの発明」とは,本件明細書の図1〜図3に示された本件発明1の実施形態であり,河野特許事務所作成の2005年(平成17年)6月1日付け「流体イオン化装置によりパイプ内に発生する磁気の測定実験報告」と題する実験報告書(審判乙4,本訴甲5。以下「甲5実験報告書」という。)記載のCタイプの装置を意味し(以下「Cタイプの装置」という。),また,「(A-5)の要件を含むタイプの発明」とは,本件明細書の図4〜6に示された本件発明1の実施形態であって,甲5実験報告書記載のBタイプの装置を意味する(以下「Bタイプの装置」という。)ものであるが,Bタイプの装置は,Cタイプの装置の取付けができない状況下において,コンセントレータ(17)側端部をすべて削ったもの(甲5実験報告書記載のAタイプの装置。以下「Aタイプの装置」という。)と比べ,格別の磁束密度の集中の効果が生ずるものである。すなわち,Bタイプの装置の効果は,Aタイプの装置の効果と比較されるべきであって,審決の上記判断のように,Bタイプの装置を,取付けが不可能であるCタイプの装置と対比することは,全く無意味であり,審決は,比較の対象を誤ったものである。
甲5実験報告書記載の実験結果によれば,パイプ内の磁気の強度(磁束密度)は,Aタイプの装置を使用した場合よりBタイプ又はCタイプの装置を使用した場合の方が大きく,Aタイプ又はBタイプの装置しか取り付けることができない設備においては,Aタイプの装置よりBタイプの装置を使用した方が磁束密度を集中させることができるという,引用発明にはない独自の格別な作用効果を奏することが明らかである。
(3)取消事由3(本件発明2ないし6に係る進歩性判断の誤り)本件発明2ないし6に係る進歩性についての審決の判断は,いずれも本件発明1に進歩性が認められないことを前提とするものであるところ,本件発明1に進歩性が認められないとした審決の判断が誤りであることは,上記(1),(2)のとおりであるから,本件発明2ないし6についての判断も,同様に誤りである。
2被告の反論の要点(1)取消事由1(相違点1についての判断の誤り)に対しア甲3刊行物には,「(引用発明の流体イオン化装置は),流体が流れるパイプに取り付けるものであって,通常はパイプ面に直接取り付けられる形状に設計されているものである。」,「本発明の開示の範囲内で多くの応用と変形がなされうる。例えば,種々の材料や種々の形状の異なる形式の永久磁石または電磁石が使用できる。その部品は前述とは異なった形状にしてもよい。磁石と磁極片は,正方形の代わりに長く,(底面や断面を)矩形にしてもよい。」などの記載がある。
また,一般に,流体を輸送するパイプは,一直線ではなく,上下左右に曲折,迂回し,その直径も大小に変更され,かつ,パイプには,流量計,バルブ,フランジ等の各種器具が設置されている。特に,住宅やビルなどの密集地帯にあっては,この傾向が強く,流体イオン化装置をパイプに設置する場合に,取付け困難な部位に設置しなければならないことが頻繁に起こっている。
審決は,甲3刊行物における上記記載内容及びその示唆する内容に加え,パイプラインにおける付属器具の取付け形態に関する現状認識を正確に行った上で,取付けが困難な設置部位に流体イオン化装置を設置しなければならないという甲3刊行物に内在する技術課題を導出し,「引用発明は,その使用の態様として,管と管との継ぎ手部位で軸心方向に並んで形成されるナット等の突起物が設けられており,装置がそのままの形状では取り付けが困難な設置部位に流体イオン化装置を設置するという技術課題を有しているものである。」と判断したものであって,この判断に誤りはない。
イ甲4刊行物には,「コネクター24の上隅は,鋼材とスペースの節約のために,大きな傾斜21となっている。」との記載があるところ,ここでいう「スペースの節約」とは,「周囲の障害物との干渉を避ける」との意味である。また,甲4刊行物において例示されている切欠きは,本件発明1におけるのと異なり,パイプの軸心に対して直角方向となっているが,この差異は,流体イオン化装置の取付け部位周辺の環境条件から自ずと決まってくるものであって,切欠きの方向,形状の選択などは,設計変更の域を出ないものである。さらに,甲4刊行物には,「コンセントレータ11および電極片15の遠端は,パイプと接触する部位であるが,長くて狭い端面にすることができ,あるいはこれらの切り込みの半径を特定のパイプのサイズに正確に調節することができる。」などの記載があり,これは,コンセントレータのパイプと接触する部位を,パイプの形状,付属器具の取付け状況に応じて調節することを示唆するものである。
また,現場における配管工事においては,取付け部位周囲の障害物との干渉を避けるため,取付け機器又は周辺機器の一部に切欠きを設けることは,従来から一般的に行われてきたことである。
加えて,本件特許出願前から日本に輸入されていた甲4刊行物に係る米国特許を商品化した装置(審判甲12,本訴乙12)においては,本件発明1と同様,コンセントレータの先端にパイプの軸心方向の切欠きが存在する。
これらの事情によれば,引用発明に基づき,流体イオン化装置に凸形に形成した切欠きを設けることは,当業者が容易に想到し得ることである。
(2)取消事由2(本件発明1の効果についての判断の誤り)に対しア原告は,磁束密度の集中効果に関し,Bタイプの装置をAタイプの装置と比較すべきである旨主張するが,原告は,本件明細書及び審査時の拒絶理由通知に対する意見書において,当接面側端部の前後をすべて削ったAタイプの装置との対比について一切主張していなかったのであるから,原告の当該主張は,出願経過禁反言の原則に反し,許されないものである。
イ甲5実験報告書記載の実験結果につき,データ処理上の統計学に則る平均値の有意差検定を行うと,磁気の強さは,Aタイプの装置,Bタイプの装置,Cタイプの装置の順に大きくなっていくとの結果が得られるところ,これは,磁石の磁気強度(磁束密度)は磁石の容積に比例するという物理学の理論と全く同じであるから,本件発明1における(A-5)の要件がもたらす効果は,磁気の強さ(磁束密度)の面からは不利であるが,切欠きを設ければ,流体イオン化装置の取付け部位周辺に障害物があるときには障害物との干渉がなくなるという,取付け上の効果のみにあると解するのが相当である。なお,原告が主張する,切欠き後に残ったコンセントレータの側端部からの磁力によって生じる磁束密度の集中効果は,乙12からも明らかなように,引用発明の効果であって,本件発明1の効果ではない。
(3)取消事由3(本件発明2ないし6に係る進歩性判断の誤り)に対し原告の主張は争う。
第4当裁判所の判断1取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について(1)原告は,甲3刊行物には,引用発明を広い用途に利用することができる旨記載されている一方で,取付けの難易についての記載又は示唆は一切ないのであるから,甲3刊行物から,装置がそのままの形状では取付けが困難な設置部位に流体イオン化装置を設置するという技術課題は導かれない旨主張する。
ア引用発明が,審決が認定したとおり,「(B-1):面の一つがS極でもう一方の面がN極である一対の対向する平面状の大きな面をもち該大きな面の中間に延伸し該大きな面に垂直な平面状の小さな面をもつ磁石を含む磁気源と,(B-2):該磁石の対向する両側に,磁極片が磁石を狭持し,各磁極片の該内側の大きな面は磁石の大きな面の全体と接触してかつ完全に覆い,かつ,各磁極片の外側の大きな面は磁石から反対側を向くように配置された一対の磁極片を含むコンデンサーとから構成され,(B-3):一対の磁極片を含むコンデンサーは,互いの方向に延伸しかつ実質的に同一平面上にある2つのそれぞれ統合された(integral)足をもち,各々の足は磁石に対して遠位と近位の面をもち,所定の凸曲率をもつパイプの外表面と密着して当接する所定の凹曲率をもつ各足の該遠位で所定の凸曲率をもつパイプの外表面と密着して当接させ,(B-4):各足の遠位面は該パイプに接触し,該磁極片は該パイプの円周に間隔をおいて並んだ状態でパイプ上に位置するときに,該磁石と磁極片は,該パイプ内の流体の流れ方向と垂直の方向に磁束線を該パイプ内に生ぜしめ,(B-5):パイプの中を流れる流体をイオン化し,またそのような流体の中の溶解し懸濁した固体をイオン化する,パイプを保護するための磁気源とコンデンサー」の要件を有する装置であることは,当事者間に争いがない。
イまた,甲3刊行物には,「この装置は,全ての鉄製および非鉄性のパイプのための自蔵のイオン化装置を提供する。」(翻訳文5頁22,23行)との記載がある。
ウ上記アの事実及びイの記載によれば,引用発明は,流体が流れるパイプに直接取り付けられる流体イオン化装置であって,すべての種類のパイプが取付けの対象となっているものといえる。
そして,一般に,流体が流れるパイプの外表面において,管と管の継ぎ手部位にナット等の突起物が設けられたり,流量計,バルブ等の各種器具が設置されたりすることはごく通常のことであり,したがって,引用発明に係る流体イオン化装置をパイプに取り付ける場合に,パイプの突起物や各種器具などが取付けの障害となることも,同様にごく通常のことであるといえるから,甲3刊行物に装置の取付けの難易に関する記載がないことを斟酌してもなお,上記突起物等の存在により取付けが困難となる事態が生じることは,引用発明に当然に内在する技術課題であると認めるのが相当である。
そうすると,引用発明がそのような技術課題を有しているとした審決の判断に誤りはなく,原告の上記主張は,採用することができない。
(2)原告は,仮に甲3刊行物から上記技術課題が導かれるとしても,当業者は,装置の設置を可能とするため,単に装置の幅を短くすることを容易に想到できるにとどまり,本件発明1のように凸形に切り欠くことまで容易に想到し得るとはいえないと主張する。
しかしながら,甲3刊行物には,「本発明の開示の範囲内で他の多くの応用と変形がなされうる。例えば種々の材料や種々の形状の異なる形式の永久磁石または電磁石が使用できる。その部品は前述とは異なった形状にしてもよい。磁石と磁極片は,正方形の代わりに長く,矩形にしてもよい。」(翻訳文10頁16ないし20行)との記載があるところ,上記(1)の技術課題を認識した当業者にとって,流体イオン化装置がパイプの突起物等と干渉することを避けるため,当該装置の形状を変更することは,当然の工夫であるというべきである。
他方,本件発明1及び引用発明は,いずれも磁石及びコンセントレータによって磁気を発生させ,磁束密度を高める装置を有する流体イオン化装置であるところ,磁石とコンセントレータの容積が大きいほど,その磁気的作用の程度が大きくなることは技術常識の範囲ということができる。
そうすると,引用発明に係る流体イオン化装置がパイプの突起物等と干渉することを避けるため,当該装置の形状を変更する場合に,その変更の態様として,コンセントレータの側端部をすべて除去し,流体の流れる方向の幅を短くするか,本件発明1のようにコンセントレータがパイプと当接する面の側端部を凸形に切り欠くかは,当該装置とパイプの突起物等との干渉の態様や程度と,当該装置に係るコンセントレータの容積,ひいて磁気的作用の及ぶ範囲や強さ等とを勘案しながら,当業者が適宜選択することができる程度のものであると認めることができる。
したがって,引用発明について,上記(1)の技術課題に対応すべく,コンセントレータがパイプと当接する面の側端部を凸形に切り欠く形状とすることが容易に想到し得ることであるとした審決の判断に誤りはなく,原告の上記主張は,採用することができない。
(3)以上のとおりであって,原告主張の取消事由1は,理由がない。
2取消事由2(本件発明1の効果についての判断の誤り)について(1)原告は,(A-5)の要件に基づく磁束密度の集中効果に関する審決の判断に対し,(A-5)の要件を含むタイプの本件発明1(Bタイプの装置)は,当該要件を含まないタイプの装置(Cタイプの装置)のパイプへの取付けができない状況下において,コンセントレータの側端部をすべて削ったもの,すなわちAタイプの装置と比較するのが相当であり,審決は比較の対象を誤った旨主張する。
確かに,審決は,一方で,甲5実験報告書記載の実験に関し,Bタイプの装置とCタイプの装置とを比較した場合には,「(A-5)要件を付加することによって,むしろ,磁束密度は低下しているのであるから,上記の実験結果から(A-5)要件を付加することにより磁束の収束効果が比較的高くなり磁束密度の集中が比較的強く行われるという効果を導き出すことはできない。」と判断している。しかしながら,審決は,他方で,同実験に関し,Bタイプの装置とAタイプの装置とを比較した検討も行っており,「Bタイプのものは,単純にコンセントレータを薄くしたAタイプのものに比し,コンセントレータと切り残し部分の磁石との接触面積が大きい分だけ磁力の確保ができるという効果が奏されていることが認められる。しかしながら,かかる効果はAタイプのものは切り残し部分がなく,したがって,コンセントレータと磁石の接触面積が小さく磁石そのものの体積が小さく,磁石そのものの磁力が小さいのに対して,Bタイプのもののほうが切り残し部分があり,したがって,コンセントレータと磁石との接触面積が大きく磁石そのものの体積が大きく,磁石そのものの磁力が大きいことからして当然に奏されるものであることは自明であるから,この点の効果も,(A-5)の要件を付加することにより本件発明1に当然に生じてくる効果にすぎない。」とも判断しているのであるから,審決が,Bタイプの装置とCタイプの装置の比較のみによって,本件発明1の効果についての結論を導いているということはできず,したがって,審決が比較の対象を誤っているとの原告の上記主張は,採用することができない。
(2)そして,原告は,甲5実験報告書記載の実験中,Aタイプ及びBタイプの装置を比較した結果により,Aタイプ又はBタイプの装置しか取り付けることができない設備においては,Aタイプの装置よりBタイプの装置を使用した方が磁束密度を集中させることができるという,引用発明にはない独自の格別な作用効果を奏することが明らかである旨主張するが,上記1(2)のとおり,磁石とコンセントレータの容積が大きいほどその磁気的作用の程度が大きくなることは技術常識の範囲ということができ,したがって,切欠き後にコンセントレータの側端部の一部が残る本件発明1(Bタイプの装置)と,コンセントレータの側端部をすべて削ったもの(Aタイプの装置)とを比較した場合に,前者が高い磁束密度の集中効果を有することは自明のことにすぎず,これを格別顕著な効果であると認めることはできないのであるから,原告が上記のとおり主張する効果が,(A-5)の要件を付加することにより本件発明1に当然に生じてくる効果にすぎないとした審決の判断に誤りはなく,原告の上記主張は,採用することができない。
(3)以上のとおりであって,原告主張の取消事由2は,理由がない。
3取消事由3(本件発明2ないし6に係る進歩性判断の誤り)について原告は,本件発明1に係る進歩性についての審決の判断が誤りであることを前提として,本件発明2ないし6に係る進歩性についての審決の判断も誤りである旨主張するが,上記1,2によれば,本件発明1に係る進歩性についての審決の判断に誤りがあるということはできないから,原告の主張は,その前提を欠くものとして失当であるといわざるを得ず,これを採用することはできない。
したがって,原告主張の取消事由3は,理由がない。
第5結論よって,原告の主張する審決取消事由は,いずれも理由がないから,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 石原直樹
裁判官 古閑裕二
裁判官 浅井憲