関連審決 | 不服2004-5685 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 同一技術分野(同一の技術分野) / 容易に発明 / 相違点の判断 / 周知技術 / 発明の詳細な説明 / 優先日 / 参酌 / 技術的意義 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 加工 / 業として / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 拡張 / 変更 / |
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事件 |
平成
18年
(行ケ)
10173号
審決取消請求事件
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原告スマートテクノロジーズインコーポレイテッド 訴訟代理人弁理士生沼コ二,青山仁,石橋亮一 被告特許庁長官肥塚雅博 指定代理人竹井文雄,大野克人,和田志郎,小池正彦,森山啓 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2007/07/19 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は,原告の負担とする。 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1原告の求めた裁判「特許庁が不服2004-5685号事件について平成17年12月5日にした審決を取り消す。」との判決。 第2事案の概要本判決においては,書証等を引用する場合を含め,公用文の用字用語例等に従って表記を変えた部分があり,「位置合わせ」との用語は「位置あわせ」に統一して表記した。 本件は,原告がした後記特許出願(以下「本願」という。)に対し拒絶査定があったため,これを不服として審判請求をしたが,同請求は成り立たないとの審決がされたため,その取消しを求める事案である。 1特許庁における手続の経緯(1)本願(甲2の1)出願人:原告発明の名称:「対話型表示システム」出願番号:特願平4-283243出願日:平成4年10月21日(優先日:1991年(平成3年)10月21日,カナダ,米国)手続補正日:平成14年7月9日(甲2の2)(2)審判請求手続等拒絶査定日:平成15年12月16日付け審判請求日:平成16年3月22日(不服2004-5685号)手続補正日:平成16年4月21日(以下「本件補正」という。甲2の3)審決日:平成17年12月5日審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」審決謄本送達日:平成17年12月20日2発明の要旨審決が対象とした本件補正後の請求項11(甲2の3)の記載は,次のとおりである(以下,この請求項に係る発明を「本願発明」という。)。 「【請求項11】大スクリーン対話型表示装置であって,大スクリーン表示面に結合され,前記大スクリーン表示面に印可されている圧力に応答して,前記圧力が印可されている前記大スクリーン表示面上の位置に対応する制御信号を生成するように構成された機構と,コンピュータにインストール可能であり,複数のプログラムの同時動作を支援するように構成されたアプリケーションプログラムと相互作用するコードを有し,前記制御信号に応答して,前記大スクリーン表示面に表示されたコンピュータ生成画像を前記制御信号に応答して変化させるアプリケーションプログラム動作を実行するドライバと,前記コンピュータにインストール可能であり,前記コンピュータに,ユーザ入力に応答して,位置あわせマーカを含む複数の位置あわせ画像を前記大スクリーン表示面上の前記コンピュータ生成画像の枠内に表示させ,前記コンピュータに,前記位置あわせマーカに対応する位置において前記大スクリーン表示面に印可されている圧力を示す受信制御信号に対応し,前記大スクリーン表示面の平面に対する前記表示された画像の90度からのずれを補正するために,前記機構によって生成された制御信号を較正するために用いられ,前記圧力が印可されている前記大スクリーン表示面上の前記位置に前記表示された画像を位置あわせするために用いられる画像表示座標情報を保存させるように構成されたコードを有する大スクリーン対話型表示装置。」3審決の要点審決は,本願発明は,後記引用例発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。 (1)特開平3-15935号公報(以下「引用例」という。本訴甲1)に記載された発明(以下「引用例発明」という。)「大スクリーン表示面に結合され,前記大スクリーン表示面に印可されている圧力に応答して,前記圧力が印可されている前記大スクリーン表示面上の座標値情報を生成するように構成された機構と,パソコンで実行可能であり,システムの設定時に,情報表示範囲を示す枠を大型デイジタイザの表示スクリーンに表示し,表示された枠の四隅の角がポインティングされたことによる座標値情報から表示位置座標系と入力位置座標系の関係を示すアフィン変換式の定数を算出し,座標値情報をアフィン変換するためのDSPの設定を行うプログラムを有する電子発表システム。」(2)本願発明と引用例発明との対比ア一致点「大スクリーン対話型表示装置であって,大スクリーン表示面に結合され,前記大スクリーン表示面に印可されている圧力に応答して,前記圧力が印可されている前記大スクリーン表示面上の位置に対応する制御信号を生成するように構成された機構と,コンピュータにインストール可能であり,前記機構によって生成された制御信号を較正するために用いられるコードを有する大スクリーン対話型表示装置。」イ相違点「[相違点1]「本願発明の大スクリーン対話型表示装置は,「コンピュータにインストール可能であり,複数のプログラムの同時動作を支援するように構成されたアプリケーションプログラムと相互作用するコードを有し,前記制御信号に応答して,前記大スクリーン表示面に表示されたコンピュータ生成画像を前記制御信号に応答して変化させるアプリケーションプログラム動作を実行するドライバ」を有するのに対して,引用例発明は,そのようなドライバを有することは記載されていない点。」[相違点2]「前記機構によって生成された制御信号を較正するために用いられるコード」として本願発明は,「前記コンピュータに,ユーザ入力に応答して,位置あわせマーカを含む複数の位置あわせ画像を前記大スクリーン表示面上の前記コンピュータ生成画像の枠内に表示させ,前記コンピュータに,前記位置あわせマーカに対応する位置において前記大スクリーン表示面に印可されている圧力を示す受信制御信号に対応し,前記大スクリーン表示面の平面に対する前記表示された画像の90度からのずれを補正するために,前記機構によって生成された制御信号を較正するために用いられ,前記圧力が印可されている前記大スクリーン表示面上の前記位置に前記表示された画像を位置あわせするために用いられる画像表示座標情報を保存させるように構成されたコード」を有するのに対して,引用例発明は,「情報表示範囲を示す枠を大型デイジタイザの表示スクリーンに表示し,表示された枠の四隅の角がポインティングされたことによる座標値情報から表示位置座標系と入力位置座標系の関係を示すアフィン変換式の定数を算出し,座標値情報をアフィン変換するためのDSPの設定を行うコード」を有するものである点。 この相違点2は,以下の相違点に分けられる。 [相違点2-1]位置あわせ画像の表示が,本願発明はユーザ入力に応答してなされるのに対して,引用例発明はシステムの設定時になされる点。 [相違点2-2]位置あわせ画像として,本願発明は,位置あわせマーカを含む複数の画像を用いており,大スクリーン表示面上のコンピュータ生成画像の枠内に表示されるものであるのに対して,引用例発明は,情報表示範囲を示す枠を用いており,大型デイジタイザの表示スクリーンに表示されるものである点。 [相違点2-3]本願発明のコードが受信する制御信号は,位置あわせマーカに対応する位置において大スクリーン表示面に印可されている圧力を示すものであるのに対し,引用例発明のコードが受信する制御信号は,表示された枠の四隅の角がポインティングされたことによる座標値情報である点。 [相違点2-4]機構によって生成された制御信号を較正する目的が,本願発明は,大スクリーン表示面の平面に対する表示された画像の90度からのずれを補正するためであるのに対して,引用例発明は明確ではない点。 [相違点2-5]本願発明は,「前記圧力が印可されている前記大スクリーン表示面上の前記位置に前記表示された画像を位置あわせするために用いられる画像表示座標情報を保存させる」ものであるのに対して,引用例発明は,位置あわせするために用いられる座標値情報を保存することは記載されていない点。」(3)相違点の判断「[相違点1]についてデイジタイザのような周辺装置をコンピュータに接続する場合に,コンピュータに周辺装置を制御するためのドライバをインストールすること,また,ドライバは周辺装置からの信号を処理してアプリケーションプログラムと相互作用させることは本願出願時における周知技術である。また,コンピュータが複数のプログラムを同時に動作できるように構成することも本願出願時における周知技術である。 また,コンピュータ生成画像をデイジタイザからの制御信号に応答させて変化させるようなアプリケーションプログラムは,例えば描画ソフトウェアのように普通のものであるから,上記の周知技術と組み合わせて,相違点1に係る構成とすることに格別の困難性は認められない。 [相違点2-1]について位置あわせ画像の表示をシステムの設定時に行うか,ユーザ入力に応答して行うかは当業者が必要に応じて適宜決定すべき設計事項にすぎない。 [相違点2-2,2-3]について引用例発明は,情報表示範囲を示す枠を表示して,その四隅をポインティングするものであるが,枠の四隅をポインティングすることに代えて,枠の四隅に対応する位置にそれぞれ位置あわせマーカを表示して,位置あわせマーカの位置に圧力を印可するようにすることに格別の困難性は認められない。また,位置あわせマーカを含む画像をコンピュータ生成画像の枠内とすることは当然であり,位置あわせマーカを含む画像を複数にすることは設計事項にすぎない。 したがって,相違点2-2,2-3に係る構成とすることは当業者が容易に想到し得たものである。 [相違点2-4]について引用例発明は,表示位置座標系と入力位置座標系とのずれを補正するために座標系の変換を行うように制御信号を較正するものであり,大スクリーン表示面の平面に対する表示された画像の90度からのずれが生じた場合に,表示位置座標系と入力位置座標系とのずれが発生することは当然であるから,大スクリーン表示面の平面に対する表示された画像の90度からのずれを補正するために,機構によって生成された制御信号を較正することは当業者が容易に想到し得たものである。 [相違点2-5]について引用例発明において,位置あわせするために用いられる座標値情報は,表示位置座標系と入力位置座標系の関係を示す変換式の定数を算出するために用いられるわけであるから,位置あわせするために用いられる座標値情報を保存することは自明の事項である。 そして,本願発明の作用効果も,引用例発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。」(4)結論「以上のとおり,本願発明は,引用例発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。」第3審決取消事由の要点審決は,相違点2-4,相違点2-1及び相違点2-5の各判断を誤った結果,本願発明が特許法29条2項により特許を受けることができないと判断したものであるから,取り消されるべきである。 1取消事由1(相違点2-4の判断の誤り)本願発明は,大スクリーン表示面の平面に対する投影画像の90度からのずれによるひずみを補正して,タッチセンサ式スクリーンのタッチセンサ座標出力を,対応するコンピュータ表示座標に整合するように調整し,ユーザーが表示されたアイコンをタッチすると,たとえ,最初はタッチセンサ座標出力がアイコンのコンピュータ表示座標と整合していなくとも,タッチセンサ座標は,処理される前に調整,整合され,ユーザーのタッチに応答して適切な対話型オペレーションが行われるものである。 他方,引用例発明は,大型のデイジタイザである電子ボードに,オーバヘッドプロジェクタ(OHP)によりグラフ等の画面情報を投射するに際し,情報入力手段と位置情報入力手役の位置関係の設定を容易に正確に行えるようにした,情報を入力する部位と出力する部位が重合している情報入出力制御装置に関するものである。 引用例発明において,発表者710(第7図)が,システムの設定時に大型デイジタイザ707の表面に表示された情報表示範囲を示す枠の四隅の角をポインティングすると,このポインティングによって得られる座標値情報から,情報表示装置と位置情報入力装置の座標を一対一に対応付ける関係情報(アフィン変換式の定数)が算出され,この関係情報を用いて,情報加工装置613(第6図,情報加工手段)であるパソコン拡張筺体704内のDSP801の処理内容が設定される(第9図)。そして,ある点の書き込み表示機能の実行時に,発表者710が位置情報入力装置602である大型デイジタイザ707上で情報表示範囲603内の一点をポインティングすると,その点が,OHP714により大型デイジタイザ707の表面の発表者710のポインティングしたところに写し出される。これにより,情報を入出力する情報入出力手段の情報を入力する部位と出力する部位が重合することになる。 上記のとおり,引用例発明においては,得られた位置座標情報を加工するためにアフィン変換を使用しているが,アフィン変換は,直線の平行性を維持するものであるから,大型デイジタイザの表面に対して,投射画像が90度の角度からずれた場合のひずみを補正できず,画像の両側が平行なものにおいて,ひずみを補正することができるだけである。したがって,ひずんだ画像が例えば台形の場合には,アフィン変換は台形を四角形や正方形に変形できないので,そのひずみを補正することはできない。 本願発明と引用例発明を対比すると,本願発明においては,大スクリーン表示面の平面に対する投影画像の90度からのずれによるひずみを補正するので,ユーザーが表示されたアイコンをタッチすると,最初はタッチセンサ座標出力がアイコンのコンピュータ表示座標と整合していなくとも,タッチセンサ座標は,処理される前に調整,整合され,ユーザーのタッチに応答して適切な対話型オペレーションが行われる。これに対し,引用例発明においては,補正に当たりアフィン変換を用いているため,大スクリーン表示面の平面に対する表示された画像の90度からのずれによる台形ひずみを補正できず,大スクリーン表示面の平面に対する画像の90度からのずれが生じて台形が生じた場合にも,その台形画像はそのまま補正されずに残る。 以上のとおり,相違点2-4に係る本願発明の構成は,引用例発明の構成によっては補正できない台形ひずみを補正するものであり,それによりユーザーのタッチに応答して適切な対話型オペレーションを行うことが可能になるという作用効果は,引用例発明からは予測し得ないものである。また,引用例には,台形ひずみを補正することについて記載がなく,これを示唆する記載もない。したがって,本願発明の相違点2-4に係る構成は,当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 2取消事由2(相違点2-1及び相違点2-5の判断の誤り)本願発明に係る相違点2-1及び相違点2-5の構成の本来的な意義は,相違点2-1で挙げられた「ユーザ入力」と,相違点2-5で挙げられた「画像表示座標情報の保存」との技術的な結合にある。つまり,本願発明は,位置あわせで得られた画像表示座標情報を保存しておき,使用開始に際してユーザ入力があれば再び位置あわせの画像表示座標情報を取得する処理を実行するものである。このような技術的事項を含む本願発明においては,システム設定時に位置あわせ用の座標取得が必要であれば設定作業を行い,位置あわせ用の座標を取り直す必要がなければ設定作業を行なわなくてもよいという利点がある。相違点2-1及び相違点2-5を個別に見て判断することは,その本来的な意義とその作用効果を無視するものである。 他方,引用例発明の表示装置においては,システム設定時に位置あわせの設定作業が行われるため,前回使用時から移動せず,スクリーンとプロジェクタの位置関係が変化していなかったとしても,電源をオンしたときシステム設定として位置あわせ設定作業を行わざるを得ない。つまり,引用例発明による表示装置は,位置関係が変更されたか否かにかかわらず,システム設定時に煩雑な位置あわせの設定作業を行わせるものであり,利便性面で好ましくないという問題があった。現に,引用例の記載によれば,設定作業として4箇所をポインティングするという面倒な作業を行うことになっている。 このように,本願発明の相違点2-1及び相違点2-5を組み合わせた構成によれば,使用者は,最後に保存した座標情報を選択することもできるので,従前使用した座標情報を使うことで煩雑かつ無駄な設定作業を省くことができるのに対し,引用例には,ユーザ入力により選択を可能とする事項の必要性あるいは優位性について記載も示唆もされておらず,システム設定時に,位置あわせの設定作業をし直すか,前回のままでよいかをユーザ選択とするという課題認識は存在しない。 審決は,相違点2-1について,「システムの設定時に行うか,ユーザ入力に応答して行うかは当業者が必要に応じて適宜決定すべき設計事項にすぎない」と判断しているが,これは,ユーザ入力により容易に位置あわせを開始できるという一面だけを見た判断であり,本願発明の技術的意義を十分に考慮したものとはいえない。 また,審決は,相違点2-5について,「位置あわせするために用いられる座標値情報は,表示位置座標系と入力位置座標系の関係を示す変換式の定数を算出するために用いられるわけであるから,位置あわせするために用いられる座標値情報を保存することは自明の事項である」と判断しているが,この判断における「保存」は,演算に用いる数値をいったん保存するのは当然という程度の認識に立つものであり,相違点2-5についての判断も,本願発明の技術的意義を十分に考慮したものとはいえない。 したがって,相違点2-1と相違点2-5を個別的に取り上げて行った審決の判断は,本願発明の本来的な技術的意義を無視するものであり,誤りである。 以上のとおり,相違点2-1及び相違点2-5に係る本願発明の構成の技術的意義について何ら判断することなく,これらを設計事項又は自明事項とした審決の判断は誤りである。 第4被告の反論の骨子1取消事由1(相違点2-4の判断の誤り)に対して原告の用いている「台形ひずみ」という用語は,本願発明の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明において用いられたものではない。本願発明は,圧力が印可された位置と表示された画像との位置あわせをするために制御信号を較正するものであり,この位置あわせが必要となる原因として,「前記大スクリーン表示面の平面に対する前記表示された画像の90度からのずれ」があると理解されるべきものである。したがって,本願発明に係る請求項11の記載からは,本願発明が「大スクリーン表示面の平面に対する表示された画像の90度からのずれによる台形ひずみ」を補正するものであると解することはできない。 原告は,アフィン変換は台形ひずみを補正することができないと主張するが,アフィン変換とは,座標変換の一種であり,画像処理等に広く用いられているものであって,アフィン変換を用いることにより台形が長方形に変換されることは,乙1及び2に記載されているとおり,当業者に周知の事項である。 また,引用例発明も本願発明と同様に「ユーザのタッチに応答して適切な対話型オペレーションが行われるようにできる」ものであるから,本願発明の効果が引用例発明から予測し得ないとの原告主張は失当である。 したがって,相違点2-4についての審決の判断に誤りはない。 2取消事由2(相違点2-1及び相違点2-5の判断の誤り)に対して本願発明の位置あわせ画像の表示がユーザ入力に応答してされること(相違点2-1に係る構成)及び画像を位置あわせするために用いられる画像表示座標情報を保存させること(相違点2-5に係る構成)が,原告の主張するように,位置あわせで得られた画像表示座標情報を保存しておき,使用開始に際してユーザ入力があれば再び位置あわせの画像表示座標情報を取得する処理を実行するものであると解釈すべき根拠はない。本願発明に係る請求項11には「画像表示座標情報を保存させる」と記載されているだけであり,保存された画像表示座標情報をどのように用いるのか,また,いつまで保存しておくのかについては何も記載されていない。 相違点2-1について,位置あわせ画像の表示をユーザ入力に応答して行うことは設計事項にすぎず,相違点2-5について,位置あわせするために用いられる画像表示座標情報を保存させることは自明の事項であって,審決の判断に誤りはない。 なお,審決は,相違点2-1ないし相違点2-5を単に個別に見て判断したものでなく,各相違点を総合的に判断し,本願発明は当業者が容易に発明をすることができたと結論付けたものである。 したがって,相違点2-1及び相違点2-5についての審決の判断に誤りはない。 第5当裁判所の判断1取消事由1(相違点2-4の判断の誤り)について(1)本願発明に係る請求項11の「前記大スクリーン表示面の平面に対する前記表示された画像の90度からのずれを補正する」ことの意義について,原告は,上記「画像の90度からのずれ」がもたらす「台形ひずみを補正する」ことを意味すると主張するのに対し,被告は,特許請求の範囲には「90度からのずれ」と記載されているにすぎないのであるから,上記記載が「台形ひずみを補正すること」であると解することはできないと主張する。 そこで,以下,この点について検討する。 ア本願発明に係る請求項11中の「前記大スクリーン表示面の平面に対する前記表示された画像の90度からのずれ」との記載については,原告と被告間に上記のような技術的理解の相違があることからも明らかなように,本願発明に係る請求項11の上記記載部分から,これが台形ひずみを意味するものか否か一義的に明らかであるということはできないものといわざるを得ない。 イそこで,以下,本願発明に係る請求項11中の前記記載箇所の意義を確定するため,本件補正後の本願に係る明細書(以下,甲2の2,2の3により補正された甲2の1を「本願明細書」という。)の記載を参酌することとする。 まず,同明細書中の,大スクリーンに投影された画像のゆがみの補正に関する記述についてみると,以下の各記載が存在する。 「【0014】以下にさらに詳細に説明するように,本発明の一面は,投写された画像がタッチセンサ式スクリーン1の表面に対して正確に90゜(すなわち,垂直)になり得ないことを補償するために行われる,パーソナルコンピュータ5への入力信号の台形補正または調整用のソフトウェアアルゴリズムの動作である。90゜からの偏差は画像の歪(すなわち,画像の伸長および圧縮)をもたらすため,台形補正アルゴリズムは,投写された画像に生じるそのような歪を補正するために,動作に先だってオーバーヘッドプロジェクター7をタッチセンサ式スクリーン1に向けるときに実行される。 【0046】図12は,接触ボード整合手順を示すが,この手順は,接触感知スクリーン1上のイメージがコンピュータ5のディスプレー上に現れるイメージと一致することを確実にする。 この整合手順の目的は,接触感知スクリーン上に投影されるイメージの位置を決定することと,イメージ投影問題に対する補償を要求する補正を決定することである。投影器7と接触感知スクリーン1(図1)との間の整合の失敗に基づくどたばた劇は,この手順に付随する初歩的の問題である。接触感知スクリーン上のイメージの回転とそれに関連する事項などの他の問題は,またこの補正手順によって克服される。 【0090】もし主アプリケーションソフトウェアにより生の座標が要求されないときは(1802),位置情報にキーストーンコレクションが適用される(1805)。上述の如く,キーストーンコレクションはイメージプロジェクタ7とタッチセンジティブスクリーンとの間の不完全な垂直調整に基因する台形イメージからの位置情報が補償される処理手順である。この補償手順はタッチセンジティブスクリーン1から受ける位置情報を利用しX軸に沿う座標データを,主アプリケーションソフトウェアに対し,もし投影イメージが長方形であったならばとったであろう位置にあるように訂正する。」上記記載のとおり,本願明細書には,「投写された画像がタッチセンサ式スクリーン1の表面に対して正確に90゜(すなわち,垂直)になり得ないこと」に基因して画像スクリーン上に投写された画像にゆがみが生じることが記載され,その投写された画像としては台形のものが記載されている。 ウ本願前における本願発明と同一の技術分野の状況は次のとおりである。 「液晶ライトバルブを用いた画像投影機の台形歪補正回路」と称する発明に関する甲4(特開平3-80780号公報)には,「画像投影機の投影光学系の光軸とスクリーンの中心位置の法線とが一致するような状態で画像投影機が設置された場合には,スクリーン上に投影された画像に台形歪を生じさせるようなことは起こらない・・・。画像投影機を床上に設置したり,あるいは天吊り設置にしたりすると,スクリーンに投影された画像に台形歪が生じることが問題になる。」(2頁左上欄14〜右上欄9行)との記載がある。 この記載によれば,プロジェクタを通じて画像をスクリーンに投影すると,投影機の投影光学系の光軸とスクリーンの位置関係により,投影された画像に台形ひずみ(「キーストーン歪」とも呼ばれる。)が生じることは,よく知られた事項であったと認められる。 エ以上によれば,本願前における前項に認定した技術状況を踏まえ,前記イに認定した本願明細書中の「台形補正アルゴリズム」,「投影器7と接触感知スクリーン1(図1)との間の整合の失敗に基づくどたばた劇」及び「キーストーンコレクション」の文言によれば,本願発明に係る請求項11の「前記大スクリーン表示面の平面に対する前記表示された画像の90度からのずれ」とは,大スクリーンに投影されたコンピュータ生成画像に生じる台形ひずみを意味するものと認めるのが相当である。 (2)次に,引用例発明について,検討する。 ア引用例には,第2の実施例について,以下の記載が存在する。 「以上の構成により,システムの設定時には前記判定用情報発生手段604はパソコン712上で第9図に示すプログラムを実行することでパソコン拡張筺体704内のVRAM809に情報表示範囲を示す枠を描画する。前記枠は透写形液晶表示装置701に表示されOHP714により位置情報入力装置602である大型デイジタイザ707の表面に表示される。発表者710は前記大型デイジタイザ707の表面に表示された前記情報表示範囲を示す枠の四隅の角をポインティングする。該ポインティングにより得られる座標値情報と,これが判定用情報を基に入力された情報であるとするところから前記関係情報求出手段607はパソコン712上で第9図に示すプログラムを続行することで表示位置座標系と入力位置座標系の関係を示すアフィン変換式の定数を算出し情報加工装置613であるパソコン拡張筺体704内のDSP801の処理内容を設定する。 前記電子発表システムの一機能である点の書き込み表示機能の実行時にはパソコン712上で第10図に示すプログラムを実行し,発表者710が位置情報入力装置602である大型デイジタイザ707上でポインティングした情報表示範囲603内の一点の座標値情報を読み込みパソコン拡張筺体704内のDSP801でアフィン変換した座標値に対応するVRAM809上のアドレスに点を書き込む。書き込まれた情報は透写型液晶表示装置701に表示し,OHP714により位置情報入力装置602である大型デイジタイザ707の表面の前記発表者710のポインティングしたところに写し出す。」(4頁右下欄8行〜5頁左上欄18行)そして,第7図の大型デイジタイザ707上には,台形の形をした情報表示範囲枠706が図示されている。 イ引用例の以上の記載及び図面によれば,引用例発明においても,OHP714により大型デイジタイザ707に投写された画像に台形ひずみを含むずれが生じることを前提とし,表示位置座標系と入力位置座標系とのずれを補正するために,大型デイジタイザの表面に表示された情報表示範囲を示す枠の四隅の角をポインティングして得られる座標値情報から表示位置座標系と入力位置座標系の関係を示すアフィン変換式の定数を算出し,座標値情報をアフィン変換するためのDSPの処理内容の設定を行うものであると認められる。 ウ引用例のアフィン変換について,原告は,アフィン変換は,直線の平行性を維持するものであるから,大型デイジタイザの表面に対して,投射画像が90度の角度からずれた場合のひずみを補正できないと主張する。 確かに,甲8(「Affine transformations (and cousins)」)には「アフィン変換では,平行線は依然として平行であり,直線は依然として真直ぐである。」(原文1頁下から8行)との記載が,「画像変換回路」と称する発明に関する甲9(特開平3-10380号公報)には「従前技術のアフィン変換アドレス演算回路では・・・,画像の非線形な幾何学的変換を行うことは不可能であった。」(2頁左下欄8〜11行)との記載がある。 しかしながら,他方,「画像歪み補正装置」と称する発明に関する乙1(特開平3-6674号公報)には,「公知のアフィン変換によって撮像画像上での台形領域を矩形状に変換することが行われている。」(2頁右上欄8〜10行)との記載が,「指紋画像入力装置」と称する発明に関する乙2(特開平2-171881号公報)にも「画像上の台形歪みについては,アフィン変換等の公知なる技術により補正可能である」(3頁右下欄下から6〜5行)との記載があり,これらによれば,アフィン変換により台形ひずみを矩形状に補正することが可能であることが開示されるとともに,画像上の台形ひずみをアフィン変換等により補正することは公知の技術であるとされている。 引用例発明においては,アフィン変換の具体的な開示がないため,引用例に記載されたアフィン変換により台形ひずみを他の図形に補正することができるかどうかについては,必ずしも明らかではない。しかしながら,乙1及び2の上記記載や,甲9の「本発明の画像変換回路では,アフィン変換だけでなく画像の非線形な幾何学的変換が行える。」(3頁右上欄3〜5行)との記載などに照らすと,少なくとも,何らかの変換方法により台形ひずみを矩形状に補正することは,本願出願当時の周知の技術であったと認めるのが相当である。 そして,本願発明は,台形ひずみの補正のためにどのような変換を行うかについて,単に「90゜からの偏差は画像の歪(すなわち,画像の伸長および圧縮)をもたらすため,台形補正アルゴリズムは,投写された画像に生じるそのような歪を補正するために,動作に先だってオーバーヘッドプロジェクター7をタッチセンサ式スクリーン1に向けるときに実行される。」(段落【0014】)などと記載されているにすぎないのであり,台形ひずみ補正のための新規技術を提供することを主たる目的とするものではないから,台形ひずみを補正する方法としては乙1,2などに記載された本願出願当時の周知技術を含み得ることは明らかである。 以上のとおり,スクリーン上に投影された画像の台形ひずみを補正することは周知の技術であり,投影された画像に台形ひずみが生じた場合に,それに対応した補正を行うために制御信号を較正するようにすることは,当業者が格別の困難なく適宜行うことのできる設計事項にすぎないというべきである。 エ原告は,相違点2-4に係る本願発明の構成は,台形ひずみを補正することによりユーザーのタッチに応答して適切な対話型オペレーションを行うことを可能にするものであり,このような作用効果は,引用例発明からは予測し得ないものであると主張する。 しかしながら,原告が主張する上記作用効果は,台形ひずみを補正することにより奏するものであるところ,スクリーン上に投影された画像の台形ひずみを補正することが周知であり,それを実現するための制御方法が設計事項にすぎないことは前記説示のとおりであるから,上記作用効果を格別のものとすることはできない。 また,引用例発明は,従来の技術での「位置関係の設定に多くの手間を要する」(2頁左下欄下から2〜1行)との問題を解決するものであり,従来の技術と同様,説明に用いるグラフ等の画面情報を電子ボードに照射した上,当該画面情報に位置的に対応付けて情報の書き込み表示を行うことが可能なことは,明らかである(2頁左下欄5〜7行,4頁左上欄7〜19行及び5頁左上欄6〜18行参照)。したがって,引用例発明も,本願発明と同様に,「ユーザのタッチに応答して適切な対話型オペレーションが行われるようにできる」ものであり,本願発明の上記作用効果は引用例発明から容易に予測し得るものにすぎないというべきである。 オ以上のとおり,相違点2-4に係る本願発明の構成は,引用例発明及び周知技術に基づき,当業者であれば容易に想到し得たものであると認められるから,相違点2-4についての審決の判断が誤りであるということはできない。 2取消事由2(相違点2-1及び相違点2-5の判断の誤り)について(1)相違点2-1,すなわち,「位置あわせ画像の表示が,本願発明はユーザ入力に応答してなされるのに対して,引用例発明はシステムの設定時になされる点。」に関し,引用例には,次の記載がある。 「1.デイジタイザの如き位置情報入力手段の入力部に,プロジェクタの如き情報表示手段から情報を投写して表示する発表システムにおいて,判定用情報発生手段と,該手段から判定用情報が発生している期間に前記位置情報入力手段の入力部に入力される座標位置情報を取り込み,該位置情報入力手段における位置座標系と前記情報表示手段における表示座標系との関係を示す関係情報を求める関係情報求出手段と,該関係情報求出手段により求められた関係情報を保持する保持手段と,該保持手段から関係情報を与えられ入力情報を該関係情報に従って加工して出力情報として出力する情報加工手段と,前記位置情報入力手段に入力される位置情報を取り込み加工を要する入力情報として前記情報加工手段に供給すると共に,前記情報加工手段からの加工済みの出力情報を取り込んで前記情報表示手段に表示情報として供給する情報入出力制御手段と,から成ることを特徴とする情報入出力制御装置。 2.請求項1に記載の情報入出力制御装置において,前記情報入出力制御手段の動作立ち上げ時に前記判定用情報を判定用情報発生手段から発生させることを特徴とする情報入出力制御装置。」(特許請求の範囲)「[作用]前記判定用情報発生手段は必要に応じ判定用情報を発生し,前記関係情報求出手段は前記判定用情報と該判定用情報に対応する位置入力手段上の座標値情報から前記関係情報を求め,前記関係情報保持手段は前記関係情報求出手段で求めた前記関係情報を保持し,前記情報加工手段は前記関係情報保持手段で保持した前記関係情報に従い位置情報入力装置の位置座標系に従い定義された位置入力情報を情報表示装置の表示座標系に対応付ける事が可能となる。」(2頁右下欄19行〜3頁左上欄9行)これらの記載によれば,引用例発明の請求項1に係る判定用情報発生手段は,必要に応じて判定情報を発生させるものであり,情報入出力制御手段の動作立ち上げ時に判定用情報を判定用情報発生手段から発生させることは,請求項1の記載を引用する請求項2において限定した構成であるところからみると,位置あわせ画像の表示をシステムの設定時に行うか,ユーザ入力に応答して行うかは,当業者が必要に応じて適宜決定することができる設計事項であるというべきであり,これと同旨の審決の判断に誤りはない。 (2)次に,相違点2-5,すなわち,「本願発明は,「前記圧力が印可されている前記大スクリーン表示面上の前記位置に前記表示された画像を位置あわせするために用いられる画像表示座標情報を保存させる」ものであるのに対して,引用例発明は,位置あわせするために用いられる座標値情報を保存することは記載されていない点。」につき,原告は,審決が上記相違点に関する判断において「位置あわせするために用いられる座標値情報を保存すること」とする「保存」とは,演算に用いる数値をいったん保存するのは当然という程度の認識に基づくものであり,本願発明の相違点2-5に係る構成の技術的意義を十分に考慮したものとはいえないと主張する。 しかしながら,そもそも,本願発明に係る請求項11においては,「前記コンピュータにインストール可能であり,前記コンピュータに,ユーザ入力に応答して,位置あわせマーカを含む複数の位置あわせ画像を前記大スクリーン表示面上の前記コンピュータ生成画像の枠内に表示させ,前記コンピュータに,前記位置あわせマーカに対応する位置において前記大スクリーン表示面に印可されている圧力を示す受信制御信号に対応し,前記大スクリーン表示面の平面に対する前記表示された画像の90度からのずれを補正するために,前記機構によって生成された制御信号を較正するために用いられ,前記圧力が印可されている前記大スクリーン表示面上の前記位置に前記表示された画像を位置あわせするために用いられる画像表示座標情報を保存させるように構成されたコードを有する」との記載をもって,制御信号を較正し,画像を位置あわせするために用いられる画像表示座標情報を保存することを特定しているにすぎないのであるから,上記記載が演算に用いる数値をいったん保存するという演算の都合上による保存を排除するものではないといわざるを得ない。 他方,引用例には,次の記載がある。 「[課題を解決するための手段]上記目的を達成するために,本発明では,情報表示手段の表示状態の判定を行うための単数または複数の判定用情報を発生する判定用情報発生手段と,前記判定用情報と該判定用情報に対応する位置情報入力手段上の座標値情報から前記情報表示手段の表示座標系と前記位置情報入力手段の位置座標系の関係を示す関係情報を求める関係情報求出手段と,前記関係情報を保持する関係情報保持手段と,前記関係情報に従い所定の情報を加工する情報加工手段を備える事としたものである。」(2頁右下欄8〜18行)この記載によれば,引用例発明の関係情報保持手段は,判定用情報と判定用情報に対応する位置情報入力手段上の座標値情報から,情報表示手段の表示座標系と,位置情報入力手段の位置座標系の関係を示し,所定の情報を加工するための関係情報を「保持」する手段を有するものである。そうすると,引用例発明における関係情報の保持は,演算に用いる数値をいったん保存するという演算の都合上の保存ではあるが,制御信号を較正し,画像を位置あわせするために用いられる画像表示座標情報を保存する構成を有していることは明らかである。 したがって,審決が,「引用例発明において,位置あわせするために用いられる座標値情報は,表示位置座標系と入力位置座標系の関係を示す変換式の定数を算出するために用いられるわけであるから,位置あわせするために用いられる座標値情報を保存することは自明の事項である。」とした相違点2-5についての判断に誤りはない。 (3)原告は,相違点2-1と相違点2-5とを個別に見て判断することは,相違点2-1及び相違点2-5に係る本願発明の構成の技術的意義と,その作用効果を無視するものであると主張する。 しかしながら,相違点2-1は,位置あわせ画像の表示がユーザ入力に応答して行われるかどうかについての相違点であり,相違点2-5は,画像を位置あわせするために用いられる座標値情報を保存する構成を備えているかどうかについての相違点であるところ,これらの相違点はそれぞれ異なる技術的事項に係るものであるから,各相違点ごとに個別にその容易想到性を判断することが可能かつ相当であり,両相違点を総合しないと適切な判断ができないとする理由はない。 また,相違点2-1及び相違点2-5を総合して判断したとしても,前記判示のとおり,位置あわせ画像の表示がユーザ入力に応答して行われるようにするかどうかは設計事項にすぎず,また,位置あわせするために用いられる座標値情報を保存することは自明の事項であるから,引用例発明に基づき,ユーザ入力に応答して,位置あわせ画像を表示させるとともに,位置あわせするために用いられる画像表示座標情報を保存させるような構成を備えることは,当業者が容易に想到し得る事項にすぎない。 (4)原告は,本願発明の相違点2-1及び相違点2-5に係る構成を総合すれば,本願発明は,位置あわせで得られた画像表示座標情報を保存しておき,使用開始に際してユーザ入力があれば再び位置あわせの画像表示座標情報を取得する処理を実行することができるという顕著な作用効果を奏するものであると主張する。 しかしながら,本願発明に係る請求項11は,「前記コンピュータに,ユーザ入力に応答して,位置あわせマーカを含む複数の位置あわせ画像を前記大スクリーン表示面上の前記コンピュータ生成画像の枠内に表示させ,・・・前記圧力が印可されている前記大スクリーン表示面上の前記位置に前記表示された画像を位置あわせするために用いられる画像表示座標情報を保存させるように構成されたコードを有する大スクリーン対話型表示装置。」にすぎず,本件補正後の請求項12(甲2の3)に記載されている「ユーザ入力にもとづいて,以前に保存された表示座標情報を選択する」との構成を備えたものではない。したがって,本願発明が,再度の使用の際に以前に保存された画像表示座標情報を選択することを前提とする原告の主張を採用することはできない。 のみならず,原告が主張するように,本願発明が,位置あわせで得られた画像表示座標情報を保存しておき,使用開始に際してユーザ入力があれば再び位置あわせの画像表示座標情報を取得する処理を実行するものであるとしても,前記判示のとおり,ユーザ入力に応答して,位置あわせ画像を表示させる構成と,位置あわせするために用いられる画像表示座標情報を保存させるような構成は,引用例発明に基づいて容易に想到し得たものであるから,これらを組み合わせて,位置あわせするために用いられる画像表示座標情報を保存させた上で,ユーザ入力に応答して,保存された位置あわせの画像表示座標情報を取得する処理を実行する構成とすることは,当業者が容易に工夫し得る事項にすぎないというべきである。 したがって,相違点2-1及び相違点2-5についての審決の判断に誤りがあるということはできない。 3結論以上によれば,審決取消事由はいずれも理由がないので,原告の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 田中信義 |
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裁判官 | 古閑裕二 |
裁判官 | 浅井憲 |