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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19ネ10008職務発明対価支払等請求控訴事件 判例 特許
平成16ワ11060職務発明の対価請求事件 判例 特許
平成14ワ20521特許権持分移転登録手続等請求事件 判例 特許
平成15ワ23981補償金請求事件 判例 特許
平成17ワ4556職務発明譲渡対価請求事件 判例 特許
関連ワード 特許を受ける権利 /  承継 /  発明者 /  職務発明 /  無償の通常実施権 /  相当の対価(相当な対価) /  外国の特許 /  準拠法 /  黙示の合意 /  有用性 /  方法の発明 /  製造方法 /  共同研究 /  共同開発 /  物質発明 /  技術的範囲 /  出願公開 /  同一の発明 /  試行錯誤 /  発明の詳細な説明 /  化学構造 /  補償金請求権 /  優先権 /  国内優先権 /  ライセンス /  商標権 /  薬事法 /  後発医薬品 /  存続期間 /  特許出願日 /  製造承認 /  特許発明 /  実施 /  加工 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  損害額 /  算定方法 /  損害額推定(損害額の推定) /  実施料 /  実施権 /  通常実施権 /  実施許諾(実施の許諾) /  設定登録 /  対価 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 17年 (ワ) 12576号 職務発明対価支払等請求事件
東京都町田市<以下省略>
原告A
同訴訟代理人弁護士星野隆宏
同 金子文子
同 栗原務
同 三浦修
同 木下真由美 東京都港区<以下省略>
被告三菱化学株式会社
同訴訟代理人弁護士飯田秀郷
同 栗宇一樹
同 早稲本和徳
同 七字賢彦
同 鈴木英之
同 隈部泰正
同 大友良浩
同 戸谷由布子
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2006/12/27
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1被告は,原告に対し,1200万円及びこれに対する平成17年7月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の主位的請求を棄却する。
3訴訟費用は,これを15分し,その1を被告の,その余を原告の各負担と- 2 -する。
4この判決の第1項は,仮に執行することができる。
事実及び理由
全容
第1請求1主位的請求被告は 原告に対し 2億5000万円及びこれに対する平成17年7月2日(訴 ,,状送達日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2予備的請求被告は,原告に対し,N -アリールスルホニル-L-アルギニンアミド類の製2造方法(特願平9-207508号,特開平10-101649号公報)の特許出願につき,特許の出願人たる地位を原告に移転する手続をせよ。
第2事案の概要本件は,原告が,使用者である被告に対し,主位的に,職務発明を被告に譲渡, 。 したことにつき 特許法35条3項(平成16年法律第79号による改正前のもの以下,同じ。)所定の相当の対価の支払(一部請求)を,予備的に,内規による本件発明の返還又は錯誤による譲渡の無効を理由として,当該職務発明につき我が国でされた特許出願の出願人の地位の移転手続を求めた事案である。
1前提事実( )当事者1ア被告ら(ア)被告被告は,医薬品等の製造,加工並びに販売等を目的とする株式会社である。
被告は,平成6年10月,商号を三菱化成工業株式会社から現在のものに変更した。
(イ)三菱ウェルファーマ, 「」 平成11年4月 ティーティーファーマ株式会社(以下 ティーティーファーマという。)が,東京田辺製薬株式会社(以下「東京田辺製薬」という。)の100%子会社として設立された。
同年9月30日,ティーティーファーマに対し,被告は医薬事業を,東京田辺製薬は食品添加物事業を除く営業全部をそれぞれ譲渡した。
ティーティーファーマは 翌10月1日 社名を三菱東京製薬株式会社(以下 三 ,, 「菱東京製薬」という。)に変更した。
ウェルファイド株式会社は,平成13年10月,三菱東京製薬を吸収合併し,その後,三菱ウェルファーマ株式会社(以下「三菱ウェルファーマ」という。)に商号変更した(以下 「三菱ウェルファーマ」というとき,平成11年9月30日 ,以降のティーティーファーマ又は三菱東京製薬を意味することがある。)。
(以上,争いのない事実)イ原告(ア)被告時代原告は,昭和40年から平成9年9月まで,被告に雇用され,医薬研究所長,医薬事業本部製品計画部長,企画部長及び開発部長,医薬カンパニー研究開発部門長等を歴任した。
(イ)三菱東京製薬時代原告は,被告を退職後,東京田辺製薬に入社し,取締役,常務取締役兼研究開発本部長を歴任し,平成11年10月,三菱東京製薬に移籍し,同社の常務取締役,会社顧問を歴任し,平成13年9月,同社を退職した。
(以上,争いのない事実,甲17)( )従業員の発明に関する勤務規則の定め2ア従業員の発明に関し,昭和55年当時に適用された被告の「発明等取扱規則」及び「職務発明に対する補償金の基準」(乙2の1)の内容は,別紙1のとおりである。
イ平成6年10月1日から実施された被告の「職務発明取扱規則」及び「職務発明に対する補償金の基準」(乙2の2)の内容は,別紙2のとおりであり,●(省略)●は,上記とほぼ同趣旨の定めをおいている。
ウ平成9年4月1日に改訂された被告の「職務発明取扱規則」及び「職務発明に対する補償金の基準」(乙2の3)の内容は,別紙3のとおりであり,●(省略)●旨定めている(以下,被告において定められた以上の規則等を「被告取扱規則」という。)。
エさらに,平成13年11月21日に施行された被告の「特許報奨取扱い規則」(甲5の1)の内容は,別紙4のとおりである。
(以上,争いのない事実)( )アルガトロバン関連6発明3ア後記本件発明に関連する発明として,次の発明がある(以下,これらの発明を「アルガトロバン関連6発明」という。)。各発明の権利化の経過は,別紙5「アルガトロバン関連特許権利化経過一覧表」記載のとおりである。
@物質特許1特許番号第1382377号(乙3。以下「物質特許1」という。)発明の名称‐アリールスルホニル‐‐アルギニンアミド類及びその塩類N L2発明者原告及びB(以下「B教授」という。)ほか5名出願日昭和54年7月13日登録日昭和62年6月9日満了日平成11年7月13日延長満了日平成16年7月13日A物質特許2特許番号第1556978号(乙4。以下「物質特許2」という。)発明の名称‐アリールスルホニル‐‐アルギニンアミド類及び薬剤としN L2て許容され得るその塩発明者原告及びB教授ほか5名出願日昭和54年8月30日(優先権主張(米国)1978年8月31日)登録日平成2年5月16日満了日平成11年8月30日延長満了日平成16年8月30日B用途特許特許番号第1616950号(乙14。以下「用途特許」という。)発明の名称‐アリールスルホニル‐‐アルギニンアミドまたはその塩類N L2を有効成分とする抗血液凝固剤発明者原告及びB教授ほか5名出願日昭和54年12月25日登録日平成3年1月28日満了日平成11年12月25日C中間体製法特許(以下「中間体製法特許1」という。)特許番号第1426955号出願日昭和55年1月24日登録日昭和63年2月25日満了日平成12年1月24日D中間体製法特許(以下「中間体製法特許2」という。)特許番号第1714773号出願日昭和58年3月31日登録日平成4年11月27日満了日平成15年3月31日E中間体製法特許(以下「中間体製法特許3」という。)特許番号第1359695号出願日昭和51年12月14日登録日昭和62年1月30日満了日平成8年12月14日(争いのない事実)イ大河内記念技術賞原告は,平成4年3月 「選択的抗トロンビン剤の薬物設計とアルガトロバンの ,開発」に関する技術に対して,次の4名と共に,大河内記念技術賞を受賞した。
B教授血栓止血研究神戸プロジェクト代表医学博士C被告医薬研究所長医学博士D神戸大学神戸医療技術短期大学部衛生技術学科助教授医学博士E被告医薬研究所部長研究員工学博士(争いのない事実)( )本件発明4ア発明原告は,昭和55年,N -アリールスルホニル-L-アルギニンアミド類の製2造方法(以下「本件発明」という。)を職務上発明した。
本件発明は,抗血栓薬などの医薬の成分として有用なアルガトロバンを工業的な規模で効率的に製造する方法等に関する発明であり,物質発明や用途発明ではない。
(争いのない事実)イ譲渡被告は,そのころ,原告から,本件発明時の被告取扱規則(乙2の1)5条に基づき,本件発明に関する我が国及び外国における特許を受ける権利承継した。
(争いのない事実)ウ特許出願被告は,本件発明につき,次のとおり,原告を発明者として特許出願をした。
(ア)日本特許出願日平成9年8月1日出願番号特願平9-207508号優先権主張特願平8-208087号(平成8年8月7日)出願公開平成10年4月21日(特開平10-101649号公報)審査請求平成16年7月21日現在審査係属中(甲2)(イ)米国特許番号第5,925,760号特許出願日平成9年8月4日優先権主張特願平8-208087号(日本平成8年8月7日)特許日平成11年7月20日(甲3)(ウ)欧州特許庁特許番号08234301EPB特許出願日平成9年8月4日優先権主張特願平8-208087号(日本平成8年8月7日)特許日平成13年10月24日(甲4)(争いのない事実)( )実施品の販売等5ア製造承認等被告は,昭和61年12月24日,本件発明の製造法に基づく-アリールスN2ルホニル-L-アルギニンアミド類またはその塩類を有効成分とする抗血液凝固剤(薬品名: アルガトロバン ,商品名: ノバスタン注」)を慢性動脈閉塞症を 「」「適応として薬事法に基づく製造承認申請をし,平成2年1月23日,厚生大臣の承認を受けて,同年6月から市場販売を開始し,平成8年4月16日に脳血栓症急性期の効能追加の承認を受けた。
イ被告の自社実施による売上げ被告は,平成2年6月から平成11年9月まで,本件発明を自ら実施して「ノバスタン注」及びアルガトロバン原薬を製造,販売した。この間の被告の売上げは,別紙12「被告主張対価算定表」の「被告の自己実施分について」の「売上高」欄記載のとおり,合計314億2140万円である。
ウ三菱ウェルファーマに対する実施権付与による実施料収入(ア)本件実施許諾契約被告は,医薬事業を譲渡した平成11年9月30日,ティーティーファーマに対し,別紙6のとおり,本件発明,アルガトロバン関連6発明の特許,データ,ノウ・ハウ,商標権等を含む医薬に係る知的財産についての独占的実施権を許諾し,その対価として,●(省略)●の支払を受ける旨の実施許諾契約(以下「本件実施許諾契約」という。)を締結した。
(乙11,弁論の全趣旨)(イ)売上高等a国内におけるノバスタン及びアルガトロバン原薬販売分( )三菱ウェルファーマ販売分a一三菱ウェルファーマは,国内において,アルガトロバン原薬を製造し,それを製剤化した「ノバスタン注」を販売している。
二被告が上記販売分について三菱ウェルファーマから得た平成11年度(ただし,10月から)ないし平成17年度の実施料収入は,別紙7「実施料収入一覧表」@記載のとおりである。
( )第一製薬販売分b一三菱ウェルファーマは,第一製薬に対し,アルガトロバン原薬を販売し。,,「」。 ている なお 第一製薬は それを製剤化した スロンノン注 を販売している二被告が上記販売分について三菱ウェルファーマから得た平成11年度(ただし,10月から)ないし平成17年度の実施料収入は,別紙7「実施料収入一覧表」A記載のとおりである。
三上記実施料収入に対応する正味販売高は,別紙11「原告主張対価算定表」の【三菱ウェルファーマに対する実施許諾 〈国内 「総売上高」(内原薬) 】〉欄に記載のとおりである。
(以上,争いのない事実,乙13の1〜26,弁論の全趣旨)b米国における販売分( )三菱ウェルファーマは,テキサス・バイオテクノロジー社(現エンサイaシブ・ファーマシューティカルズ社)に対し,アルガトロバンの米国・カナダにおける独占的な使用・販売権をライセンスし,同社は,スミスクライン・ビーチャム社(現グラクソスミスクライン社)に対し,同使用・販売権をサブライセンスしている。平成12年6月30日,テキサス・バイオテクノロジー社は,FDA(米国食品医薬品局)から,アルガトロバンにつき新薬承認を取得した。
( )三菱ウェルファーマは,平成12年7月から,グラクソスミスクラインb社に対し,日本国内で製造したアルガトロバン原薬を輸出している。
被告が上記販売分について三菱ウェルファーマから得た平成12年度(ただし,7月から)ないし平成17年度の実施料収入は,別紙7「実施料収入一覧表」B記載のとおりである。
( )上記実施料収入に対応する正味販売高は,別紙11「原告主張対価算定c表」の【三菱ウェルファーマに対する実施許諾 〈海外 「総売上高」(内アメリ 】〉カ)欄に記載のとおりである。
(以上,争いのない事実,乙13の1〜26,弁論の全趣旨)c欧州における販売分( )三菱ファーマヨーロッパは,三菱ウェルファーマの子会社であるが,平a成15年6月,更にその子会社として三菱ファーマドイツが設立された。
三菱ファーマドイツは,平成17年6月,ドイツにおけるアルガトロバンの販売承認を取得し,同年7月15日にドイツにおける販売を開始した。
( )三菱ウェルファーマは,三菱ファーマヨーロッパに対し,日本国内で製b造したアルガトロバン原薬を輸出している。
被告が上記販売分について三菱ウェルファーマから得た平成17年度の実施料収入は,別紙7「実施料収入一覧表」C記載のとおりである。
( )上記実施料収入に対応する正味販売高は,別紙11「原告主張対価算定c表 の 三菱ウェルファーマに対する実施許諾海外総売上高 (内ドイツ) 」 【 】〈〉「」欄に記載のとおりである。
(以上,争いのない事実,乙13の1〜26,弁論の全趣旨)dノバスタンの海外販売分( )三菱ウェルファーマは,平成14年以降,中国等において 「ノバスタa ,ン注」を販売している。
( )被告が上記販売分について三菱ウェルファーマから得た平成14年度なbいし平成17年度の実施料収入は,別紙7「実施料収入一覧表」D記載のとおりである。
( )上記実施料収入に対応する正味販売高は,別紙11「原告主張対価算定c表」の【三菱ウェルファーマに対する実施許諾 〈海外 「総売上高」(内ノバス 】〉タン)欄に記載のとおりである。
(以上,争いのない事実,乙13の1〜26,弁論の全趣旨)2争点( )特許法35条3項相当の対価の額1( )予備的請求の当否23争点に関する当事者の主張( )争点1(相当の対価の額)について1(原告の主張)ア被告が受けるべき利益(ア)被告の自社実施期間の独占的利益a独占的割合の算定( )算定方法a一職務発明を自己実施した場合において「相当の対価」算定の基礎となる「使用者等が受けるべき利益」は,職務発明の有する排他的独占力として他者を排除したことにより使用者等が得るべき利益(以下「独占的利益」という。)をいう 「独占的利益」を算定するためには,使用者等が得るべき売上げのうち,通常 。
実施権により得られる売上げを超える「独占的割合 ,すなわち使用者等が職務発 」明の有する排他的独占力として当該職務発明に関する市場において他の市場参入者を排斥することのできた割合を算定しなければならない。
「独占的割合」は,職務発明により市場を占有している割合(以下「職務発明による市場占有率」という。)のうち,使用者の有する通常実施権の行使の結果として得られる売上額の市場における割合(以下 通常実施による売上占有率 という ) 「 」。
を超えて当該職務発明が市場において他の市場参入者を排斥した市場占有率の割合を求めることにより算出することができる。
二「通常実施による売上占有率」は,何ら独占的排他力を有しない状態において職務発明実施した場合の売上額の市場占有率をいうから,当該職務発明に関する市場におけるすべての市場参入者が当該職務発明実施していることを前提とした平均的売上占有率であるというべきである。そして,各市場参入者の市場占有率は,各市場参入者の市場競争力は同等であるものとした平均的市場占有率(1÷市場参入者数)により算定されるべきである。
したがって 「独占的割合」は,以下の算定式により算出される。 ,独占的割合(%)=[職務発明による市場占有率-(1÷発明者を含む市場参入者数)×100]÷職務発明による市場占有率( )算定b一本件において,後発医薬品メーカー3社が平成12年7月以降アルガトロバンを含有する医薬品の発売を開始したが,その販売に係るアルガトロバンが旧製造方法によるとしても,本件発明によるアルガトロバンの市場占有率は99%以上である。
二アルガトロバン市場には,被告及び第一製薬,後発医薬品メーカー3社及び発明者である原告の合計6者の市場参入者がいたことになる。
三よって,本件発明の独占的割合は,83.1%となる。
[99%-(1÷6)×100]÷99%=83.1%b独占的利益の算定( )算定方法a一利益率算定方式職務発明による利益率を算定することができる場合は,これを独占的売上げに乗じることによって,使用者が受けるべき「独占的利益」を算出すべきである。
そして,使用者と従業者との利害関係の調整を図るという特許法35条の趣旨にかんがみれば,職務発明を自己実施したことにより「使用者等が受けるべき利益」の算出に当たって考慮すべき利益率は,あくまでも当該職務発明との関係において個別・具体的に生じる諸経費等を考慮した「個別的利益率 ,すなわち「粗」利益率」でなければならない。
これに対し 「純利益率」を乗じる方法は,特許法35条1項が使用者の事業に ,対する一般的な設備投資費用や事業リスクの回収のために通常実施権を付与していることや,同条4項が「使用者等が貢献した程度」を考慮すべきものとしてい, ,。 ることからすると 使用者の貢献度を重複して考慮する結果となり 妥当でない二仮想実施料率算定方式職務発明による利益率を算定することが困難な場合には,仮想実施料率を乗じることにより「独占的利益」を算出せざるを得ない。
ただし,実施料率は,当該発明を実施する際の原材料費等の製造コストや製品の販売コスト等は被許諾者が負担することを前提に設定されているから,独占的利益に対する「使用者等の貢献した程度」として考慮すべき事情は,実施料率を決定する際に考慮しなかった事情に限られる。
( )本件における被告の独占的利益b一利益率算定方式によった場合(一)本件発明に関する個別的な粗利益率は,94.8%である。
(二)すなわち,本件発明によるアルガトロバン原薬により製造された薬品「ノバスタン注」は, 管20中アルガトロバン10が含有されており,1mlmg薬価4149円であるから 「ノバスタン注」の年間平均売上高34億円に対応す ,るアルガトロバンの製造量は,年8.2である。
kgmg mg10× (売上34億円÷薬価4149円) ≒ 8,194,755(三)本件発明によりアルガトロバンを製造した場合の収率は,66.5%である。
アルガトロバン1を製造するための費用は,原料化合物合計106万892kg8円,人件費は33万6000円(日当1万2000円×4人×7日),合計140万4928円であり,上記アルガトロバン8.2の製造コストは1152万kg0410円である。
また,注射薬についての原薬からの製剤化コストがアンプル本につき2001円程度であるから,上記アルガトロバン8.2の製剤化コストは合計1億64 kg00万円となる。
200円 ×(8.2÷ 10)=1億6400万円kgmg(四)以上より,年間平均売上34億円に対応する製造コスト及び製剤化コストは,合計1億7552万0410円となる。
, . (五)したがって 本件発明のアルガトロバン売上げに対する利益率は948%である。
〔(34億円-1億7552万0410円)÷34億円〕×100=94.8%(六)そうすると,被告が本件発明の自社実施により得た上記314億2140万円の売上げのうち,被告が受けた独占的利益は,次のとおり,247億6006万3200円となる。
314億2140万円×83.1%×94.8%=247億6006万3200円(七)被告は,被告の事業全体における売上高営業利益率である3.75%を主張するが,使用者等に職務発明に関する通常実施権が認められている趣旨を何ら考慮しないものであり,被告の貢献度として重畳的な評価を行い,その負担を原告に転嫁しようとするものであり,著しく不当である。
二仮想実施料率算定方式によった場合(一)仮に仮想実施料率を乗じることにより「独占的利益」を算出すると,本件発明に関する実施料率は,後記イ(ウ)のとおり,本件発明が客観的に極めて高い価値を有するものであることにかんがみれば,50%程度と考えるのが相当である。
(二)そうすると,本件発明の自社実施により得た上記314億2140万円の売上げのうち,被告が受けた独占的利益は,次のとおり,130億5559万1700円となる。
314億2140万円×83.1%×50%=130億5559万1700円(イ)実施許諾した場合に受けるべき利益a実施料率( )使用者と発明者との利害の調整による衡平を図るという特許法35条のa趣旨からすると,使用者が実施許諾した場合の相当の対価は,使用者が現実に得た額を基準とするのではなく,使用者が独占的利益として得るはずである利益を合理的に判断し,これを基準に算定するべきである。
( )被告が実施許諾契約をした場合における実施料率は,通常20%を下るbことはなく,本件発明は,医薬としてのアルガトロバンを製造することができる唯一の製造方法であり,独占的割合が83.1%と排他力が極めて高く,粗利益率が94.8%と著しく高いことからすれば,極めて価値のある発明であることは明らかであり,本件発明の実施料率は50%が相当である。
( )被告は 三菱ウェルファーマの株式の61 2%を有する連結親会社(平c , .成17年3月31日現在)であり,連結子会社の利益を図るため,本件発明の価値に比して著しく低廉な実施料率で本件実施許諾契約を締結している。低廉な実施料率の設定による利益の放棄を原告に転嫁することはできない。
仮に親子会社間における実施許諾であることを考慮に入れたとしても,本件発明の実施料率は20%を下ることはないというべきである。
b三菱ウェルファーマの売上高( )国内における売上高a一国内におけるノバスタン販売分(一)平成11年度三菱ウェルファーマの平成11年10月から平成12年3月までの「ノバスタン注」の国内での売上高は,20億5078万円である(乙13の1及び2)。
(二)平成12年度ないし平成17年度平成12年度ないし平成17年度における同売上高は,次のとおりである(決算に関する開示資料-甲6,31)。
平成12年度43億円(甲6の1)平成13年度39億円(甲6の1)平成14年度33億円(甲6の2)平成15年度40億6100万円(甲31の1)平成16年度37億8600万円(甲31の2)平成17年度38億7000万円(甲31の3)(三)平成18年度平成18年度における同売上高は,39億1200万円である。
すなわち,平成18年4月から同年6月までの「ノバスタン注」の売上高が9億7800万円であるから(甲31の3),年間売上高はその4倍である。
(四)将来分平成11年10月から平成18年6月までの売上高合計は262億4578万円となり,年間平均売上高は38億8826万3704円となる(262億4578万円÷6年9か月)。
将来における売上げに関し,画期的新薬であるアルガトロバンに代替する新薬が発明される可能性は少なく,アルガトロバン市場は安定していることからすれば,上記年間平均売上高に対する売上逓減率は,多くとも次のとおりであると考えられる。
平成19年度及び平成20年度において0,平成21年度ないし平成23年度において10%減,平成24年度ないし平成26年度において15%減,平成27年度ないし平成29年度において20%減(五)まとめよって,平成11年10月から本件発明に関する特許期間が満了する平成29「」 年7月までの17年10か月の間における三菱ウェルファーマの ノバスタン注の売上高は,別紙11「原告主張対価算定表」の【三菱ウェルファーマに対する実施許諾 〈国内 「総売上高」(内ノバスタン)欄に記載のとおり,合計646 】〉億2778万4101円となる。
二国内におけるアルガトロバン原薬販売分(一)年間平均売上高三菱ウェルファーマの第一製薬に対するアルガトロバン原薬の平成11年度(ただし,10月から)から平成17年度までの売上高は,前提事実( )ウ(イ)a( )三5bのとおり,合計33億8509万7000円であるから,年間平均売上高は,5億0149万5852円となる(正しくは,6年6か月で割るべきであり,5億2078万4153円である。)。
(二)将来分上記年間平均売上高に対する売上逓減率は,多くとも次のとおりであると考えられる。
平成18年度ないし平成20年度において0,平成21年度ないし平成23年度において10%減,平成24年度ないし平成26年度において15%減,平成27年度ないし平成29年度において20%減(三)まとめよって,平成11年10月から平成29年7月までの17年10か月の間における三菱ウェルファーマの第一製薬に対するアルガトロバン原薬の売上高は,別「」 【 】〈〉 紙11 原告主張対価算定表 の 三菱ウェルファーマに対する実施許諾国内「総売上高」(内原薬)欄に記載のとおり,合計84億5856万3369円となる。
( )米国における販売分b一将来分平成18年4月以降の売上額については,米国におけるアルガトロバン市場の規模が少なくとも日米の人口比を考慮すると134億6800万円と考えられることや,米国でのアルガトロバンの販売を開始してからアルガトロバンの売上げが伸びてきていることなどからすれば,今後も売上げは伸びると考えられる。
そこで,今後の売上額の増減は,次のとおりであると考えられる。
平成18年度ないし平成20年度はそれぞれ14億円,平成21年度ないし平成23年度はそれぞれ15億円,平成24年度ないし平成26年度はそれぞれ13億5000万円(15億円×90%),平成27年度ないし平成29年度はそれぞれ12億7500万円(15億円×85%),二まとめ以上より,平成12年7月から平成29年7月までの間における三菱ウェルファーマのグラクソスミスクライン社に対するアルガトロバン原薬の売上高は,別「」 【 】〈〉 紙11 原告主張対価算定表 の 三菱ウェルファーマに対する実施許諾海外「総売上高」(内アメリカ)欄に記載のとおり,総額176億6949万5000円となる。
三ロイヤリティ収入仮に前記( )一(二)及び(三)の中にエンサイシブ・ファーマシューティカルズ社a等からのライセンス料収入が含まれ,それを国内における販売分として考慮しない場合は,米国における販売分として考慮すべきである。
( )欧州における販売分c一将来分-欧州三菱ファーマヨーロッパは,遅くとも平成19年度には,ドイツに加え,オーストリア,デンマーク,スウェーデン,ノルウェー,オランダ及びアイスランドにおいても,アルガトロバンに関する売上げを得ることができる。
三菱ファーマヨーロッパは,その他の国においても,現地子会社等のグループ会社を利用して,随時アルガトロバンの販売を開始する予定であり,欧州におけるアルガトロバン市場は,今後著しく拡大する。
そして,欧州におけるアルガトロバン市場は,米国の市場規模134億2280万円の1.26倍程度である170億円程度であると考えられることから,三菱ウェルファーマのアルガトロバン原薬の売上高も,米国に対する売上高の1.26倍程度になるものと考えられる。
そこで,ドイツにおける今後の売上額の増減は,次のとおりであると考えられる。
平成18年度は5000万円,平成19年度は1億円,平成20年度は2億円,平成21年度及び平成22年度はそれぞれ2億5000万円,平成23年度ないし平成27年度はそれぞれ2億7000万円,平成28年度及び平成29年度はそれぞれ2億4300万円(2億7000万円×90%)また,欧州のその余の国における今後の売上額の増減は,次のとおりであると考えられる。
平成19年度及び平成20年度はそれぞれ3億円,平成21年度は6億円,平成22年度は12億円,平成23年度及び平成24年度はそれぞれ15億円,平成25年度ないし平成29年度はそれぞれ16億2000万円二まとめ以上より,平成17年から平成29年7月までの間における三菱ウェルファーマの三菱ファーマヨーロッパに対するアルガトロバン原薬の売上高は,別紙11「原告主張対価算定表」の【三菱ウェルファーマに対する実施許諾 〈海外 「総】〉売上高」(内ドイツ)及び(内その他欧州)欄に記載のとおり,合計149億8810万円となる。
( )ノバスタンの海外販売分d一将来分今後の売上額の増減は,次のとおりであると考えられる。
平成18年度及び平成19年度はそれぞれ5500万円,平成20年度及び平成21年度はそれぞれ6000万円,平成22年度及び平成23年度はそれぞれ6500万円,平成24年度ないし平成26年度はそれぞれ5850万円(6500万円×90%),平成27年度ないし平成29年度はそれぞれ5525万円(6500万円×85%)二まとめ以上より,平成14年から平成29年7月までの間における三菱ウェルファーマの中国等における「ノバスタン注」の売上高は,別紙11「原告主張対価算定表」の【三菱ウェルファーマに対する実施許諾 〈海外 「総売上高」(内ノバ 】〉スタン)欄に記載のとおり,総額8億5893万2667円となる。
c実施許諾により被告が受けるべき独占的利益( )前記bのとおり,三菱ウェルファーマのアルガトロバンに関する売上額aは,国内及び海外分を合計して1066億0287万5138円となる。
730億8634万7471円+335億1652万7667円=1066億0287万5138円( )そして,前記aのとおり,被告の三菱ウェルファーマに対する実施料率bは20%を下らないから,被告が得るべき実施料は,合計213億2057万5028円となる。
1066億0287万5138円×20%≒213億2057万5028円イ本件発明の寄与度(ア)利益率算定方式の場合一独占的利益には,使用者による特許申請手続,職務発明の事業化,市場において使用者が有する競争力など,使用者による貢献に基づいて得られた割合も含まれているが,このうち,使用者が行った投下資本や事業リスクの負担は,使用者に認められている法定通常実施権の行使を通じて回収されるべきものである。
したがって,独占的利益に対する使用者の貢献度については,職務発明がされた後の使用者の貢献度のみを考慮すべきである。
二本件において,被告が得た独占的利益に対する本件発明の貢献度は,後記(ウ)ないし(オ)の事情を考慮すると,少なくとも50%を下回ることはない。
(イ)仮想実施料率算定方式の場合a仮想実施料率算定方式による場合であっても,前記ア(ア)b( )二のとおaり,実施料率の決定に当たり考慮されている事情についてここで改めて評価することは,重複評価に当たるから,アルガトロバンの販売等に関する費用その他の被告の貢献を重複評価しないようにしなければならない。
b本件において,後記(ウ)ないし(オ)の事情を考慮すると,本件発明の寄与度が50%を下ることはあり得ないというべきである。
(ウ)本件発明の排他力a( )本件発明は,医薬として適した高純度のアルガトロバンを工場生産可a能な程度に安価に製造することを可能とした唯一の製造方法である。
( )すなわち,本件発明による製造方法の概略は,別紙8の1「アルガトロbバンの製造方法」右側に記載のとおりでる。
( )アルガトロバンを製造する他の方法として,物質特許1及び用途特許のc明細書において開示されている製造方法(以下「旧製造方法」という。)がある。
,「 」 旧製造方法による製造方法の概略は 別紙8の1 アルガトロバンの製造方法左側に記載のとおりである。
( )「 」dA Short Synthesis of Argatroban: A Potent Selective Thrombin Inhibitor()(乙7)の製法は,旧 Bioorganic & Medicinal ChemistryLetters 11 20011989-1992製造方法そのものである。
( )まず,アルガトロバンを製造するには,化合物( )を合成しなければなe 6らない。
化合物( )を合成する方法としては,工程B(本件発明)又は工程H(旧製造方法)6以外に考えられない。
( )また,仮に旧製造方法又は本件発明以外の製造方法で,化合物( )を合f 6成することができたとしても,アルガトロバンを製造するには,工程C及びDを経なければならない。
本件発明は,工程C及び工程Dに関する製造方法も特許請求の範囲に含んでいる(請求項8,9)。
よって,本件発明を侵害しないでアルガトロバンを合成することは不可能である。
, ,, ( )なお 物質特許2の明細書(乙4)に開示されている製造方法は (2Rg4R)体を含んではいるが4つの光学異性体混合体化合物についてのものであり,アルガトロバンの製造方法ではない。
( )旧製造方法は,アルガトロバンを含む多種類の抗トロンビン剤を効率良hく製造するのに適したものとして少量のサンプルを合成するための研究探索段階における製造方法であり,次の問題点があるため,医薬として適応する高純度のアルガトロバンを工場生産可能な程度に製造することは不可能であった。
@旧製造方法で合成される中間体(化合物(),()及び())及び最終的に合101213成されたアルガトロバンは,いずれも非結晶体であり,注射剤として加工することが不可能である。
A非結晶体の物質は,蒸留法や再結晶法による精製を行うことが不可能であるため,シリカゲル・クロマトグラフィーによる精製を行わなければならないことから 精製することが非常に困難であり 医薬として適応する高純度(99%以上) , ,のアルガトロバンを製造することは不可能である。
B旧製造方法では,精製を繰り返し行っても,多くの製造工程を経るごとに含有される不純物が多くなり,収量が減少する。
C製造コストが本件発明の2〜3倍かかる。
( )本件発明は,医薬として製造承認を取得するために発明されたものであiり,次の点に大きな特徴があり,この特徴部分により旧製造方法の欠陥や問題点を克服し,純度99%以上という医薬として適した高純度のアルガトロバンを工場生産可能な程度に安価に製造することを可能とした。
@猛毒であるホスゲン及びtert-ブタノールから製造される高価なBoc化剤を使用してBoc基の着脱を行わない製造方法である点,A製造過程において,中間体の‐(3‐メチル‐8‐キノリンスルホニル)‐N2‐ニトロ‐‐アルギニン(化合物( ))が結晶化する点, NL3GB化合物( )に化合物( )を縮合反応させる際に,従来縮合剤として使用される 34ことが全く想定されていなかったオキシ塩化リン(化合物( ))を使用した点 5( )後発医薬品は,次の点から,本件発明により製造されたものと考えるべ jきである。
●(省略)●D後発医薬品は,本件発明の出願公開後に製造承認申請をしている。
( )後記被告の主張( )(未登録による権利の弱さ)は争う。
kk「使用者等が受けるべき利益の額」とは,特許を受ける権利承継し,発明の実施を排他的に独占することによって受ける利益の額であり,発明の権利化の有無にかかわらず,被告は独占的利益を得ている。本件発明がいまだ権利化されていないのは,被告が審査請求をしないで放置していたためである。また,本件発明は,平成10年4月21日に出願公開され,日本においても特許権が成立することは確実であり,特許法に基づく実質的排他力を有している。
(エ)物質特許等との関係a物質特許1,2及び用途特許は,本件発明と一体となって初めて実質的な独占的排他力を有するものであるから,本件発明は,アルガトロバンに関する物質特許1,2及び用途特許との関係においても100%の独占的排他力を有している。すなわち,医薬にとって製造方法は,単なる手段ではなく,含有される不純物の組成を決める重要なものであり,医薬の価値を左右するものである。本件発明は,純度99%以上という高純度のアルガトロバンを安定的に製造することを可能とするものであり,被告の製造するアルガトロバンは,本件発明によって製造されるからこそ医薬としての価値を保っているものである。
bまた,物質特許1,2の存続期間満了後は,本件発明のみでアルガトロバンによる利益を独占することができるから,100%の独占的排他力を有している。
c後記被告の主張(エ)c(文献等に基づく寄与割合の主張)は否認する。
(オ)米国特許等の貢献a本件発明についての米国特許は,米国市場における後発品メーカーの参入を困難にし,三菱ウェルファーマが米国に原薬を輸出するなどして利益を得ることを可能にしている。
かかる利益に対する被告の実施料収入も,本件発明の米国特許権に基づく独占的利益である。
b欧州においても,本件発明についての欧州特許は,欧州市場における後発品メーカーの参入を困難にし,三菱ウェルファーマが欧州に原薬を輸出するなどして利益を得ることを可能にしているから,米国の場合と同様に考えるべきである。
(カ)薬事法上の再審査期間後記被告の主張(カ)のうち,aは否認する。bのうち,( )は認め,( )は否認すabる。cのうち,( )は認め,( )は否認する。 ab後発医薬品メーカーが再審査期間内に製造承認申請をしないのは,承認申請のための資料を準備することが不可能であるからではなく,製造承認を得ても特許の実施権の許諾を受けなければ製造することができないからであって,再審査期間制度による事実上の独占的排他力が生じているものではない。
(キ)会社資本等の寄与後記被告の主張(キ)は否認する。
会社が事業を行うに当たり支出すべき設備,費用等の一般的な費用は,法定通常実施権の行使による利益の中から回収すべきである。
また,人(従業員)に関しても,企業体として事業活動を行う以上,職務発明とは関係なく従業員は存在し,賃金等は発生するのであるから,これを相当の対価の算定における会社側の寄与度として考慮することは妥当でない。しかも,賃金等の経費については,法定通常実施権の行使による利益を算定する際に考慮されているはずの事項であり,独占的利益に対する寄与度の検討において再度これを考慮することは,重複評価以外の何ものでもない。
(ク)DCF法後記被告の主張(ク)は否認する。
被告が主張するDCF法は,職務発明の有していた客観的価値が顕在化したことにより利益が現実に発生しているにもかかわらず,そのような利益を権利承継時においては実現するかどうか不明の不確実な事実であったとして 「予期される,べきであった利益」に修正しようとするものであり,何ら合理性を有しない。
ウ被告の貢献度(ア)貢献割合(イ)の諸事実によれば,本件発明に対する原告の貢献度は70%を下回ることはなく,被告の貢献度30%を超えることはない。
(イ)諸事実a創造的研究( )本件発明は,原告の知識及び経験に基づく独創的な発想及び論理的仮説aを検証することによって得られたものである。
すなわち,原告の仮説を検証するに当たり,被告による人的・物的貢献があったことは当然であるが,検証過程における作業(開発研究)は,およそ新薬の発明においては必要な定型的な作業であり,本件発明との関係において検証過程における貢献は代替可能性のあるものである。これに対し,原告による上記発想及び論理的仮説の設定は,原告のみなし得るものである。
( )後記被告の主張(イ)a( )(開発経過)のうち,一は明らかに争わず,二はb b認める。
( )後記被告の主張(イ)a( )(被告の貢献)は否認する。
c c原告は,旧製造方法の問題点を認識し,多種類の抗トロンビン剤を同一方法により製造することを目的として開発された旧製造方法とは全く異なるアプローチにより,本件発明を完成したものである。
( )後記被告の主張(イ)a( )(原告の待遇)のうち,退任時の慰労金についてd d特別加給(正規の慰労金の1割相当額)を受けたことは否認し,その余は明らかに争わない。
b特許出願手続, ,, 本件発明に関する特許出願は 原告が被告を退社する直前に 原告が強く勧め原告が明細書の起案等の実務を自ら行った。
審査請求も,原告が被告に対し再三にわたり催促した結果,審査請求期間満了の1,2週間前に行われたものである。
c事業化についての貢献( )本件発明の事業化についても,原告は,本件発明を確立した後,その有a用性を確認するため,自ら反応釜を調達し,中規模製造をし,本件発明の有用性を自ら実証した。
( )被告が,原告の中規模製造の実証結果を受けて,さらに大規模製造したb場合の検証等を行ったとしても,それは,原告による中規模製造の結果に依拠して行ったものであり,この点に関する被告の貢献度も格別大きなものとはいえない。
d被告の競争力等( )本件発明がされた当時,被告の医薬事業はいまだ揺籃期にあったものでaあり,市場における競争力は他の製薬会社に劣るものであった。
( )しかも,被告は,アルガトロバンの製品化のため,昭和55年9月,第b一製薬との共同研究でアルガトロバンの臨床実験を開始し,それ以降の開発費を折半とし,開発リスクを半減させた。
eアルガトロバン創薬についての貢献, 。, アルガトロバンの創薬自体についても 原告の貢献度は極めて高い すなわち原告は,当初B教授の提案により行われていた非拮抗阻害剤としての抗トロンビン剤の合成研究を,拮抗阻害剤である抗トロンビン剤の研究に方針転換し,アルギニンをリード化合物として選定した。そして,抗トロンビン剤の基本構造を設定し,その検証により高活性体を得たが,強い毒性が発現したことから高活性を保持したまま毒性のみを低減化する探求に入り,これに成功した。
次に,血中濃度が高くなると痙攣波が発現することが判明したが,これについても,原告が被告の研究中止の決定に反対し,3か月の猶予期間内に化学構造を微妙に変換させることですべての課題を克服した。
そして,抗トロンビン剤活性の本体が(2R,4R)体であることを突き止め,最終的に最高の活性値を持ち,安全性に優れ,酵素選択性の高い酵素拮抗阻害剤であるアルガトロバンの発明に成功した。
エ算定基準日(ア)a相当の対価の算定基準日は,相当の対価が現実に支払われる日を基準とすべきであり,本件においては,口頭弁論終結日を基準とすべきである。
b仮にaが認められないとしても,被告取扱規則に定められた登録時補償金が支払われていないのに,当該取扱規則に規定された補償金額に不足する額についての「相当の対価」の支払請求権の支払時期が到来したと解することはできないから,本件発明の「相当の対価」を請求した本件訴訟の提起日が算定基準日となる。
(イ)後記被告の主張(イ)b(補償金の支払)は否認する。
オ結論(ア)以上より,本件発明の「相当の対価」は,別紙11「原告主張対価算定表」記載のとおり,161億2589万1912円となり,将来分につき中間利息を控除し,過去分について遅延損害金を付加すると,総額199億1399万9638円となる。
(イ)仮に,自社実施による独占的利益の算定に当たり仮想実施料率を乗じた場合であっても 「相当の対価」は,120億3165万8355円となり,将来 ,分につき中間利息を控除し,過去分について遅延損害金を付加すると,総額136億1292万0067円となる。
(ウ)さらに,前提事実( )エのとおり,現在の被告における別紙4の特許報奨2取扱い規則においては,職務発明による5年間の営業利益が40億円以上のものについて報奨金2億5000万円を支給するという取扱いがされている。
原告が発明したアルガトロバンは,被告が自ら製造・販売していた平成2年6月から平成11年9月までの約9年間で約317億円の売上げを計上し,5年間分の売上げは約176億円である。これは,現在の被告会社における上記報奨制度における40億円という基準の4倍を超えるものであり,被告としては本件発明を最大限に評価してしかるべきである。
(エ)原告は,このうち2億5000万円を請求する。
(被告の主張)ア被告が受けるべき利益(ア)被告の自社実施期間の独占的利益a独占的割合の算定( )原告の主張ア(ア)a( )(算定方法)のうち,一は認め,二は否認する。
aa市場参入者の市場競争力は同等であると仮定して算定する方法は,実態に反する。
( )同( )(算定)のうち,後発医薬品メーカー3社が平成12年7月以降アbb,。 ルガトロバンを含有する医薬品の発売を開始したことは認め その余は否認する被告は,本件発明及びアルガトロバン関連6発明すべてに法定通常実施権を有しており,アルガトロバンの物質特許の存続期間満了後における後発医薬品の市場占有率が10%程度であることにかんがみると,独占的割合は,せいぜい市場の1割程度である。
b独占的利益の算定( )同ア(ア)b( )(算定方法)のうち,一(利益率算定方式)は否認する。
aa被告の利益率は,売上げから諸経費を控除して算定すべきである。この諸経費, , 中には アルガトロバンを売り上げるための直接的な原価や販売経費だけでなく。 医薬関連事業を成立させるための莫大な開発費も原価として算入する必要があるこのような開発経費のうちからアルガトロバンの原価に算入すべきものを特定して算出することは不可能である。
被告が医薬事業を行ってきた営業年度における売上高に対する営業利益の占める割合である営業利益率は,医薬関連事業における売上げと経費との関係を総合的に表しているものということができるから,これをアルガトロバンの売上高に乗じることにより,開発経費等を含む諸々の経費をアルガトロバンの売上げに応じて振り分けて控除することができると考えられる。
同( )二(仮想実施料率算定方式)は否認する。
a( )同( )(本件における被告の独占的利益)のうち,一(利益率算定方式によ bbった場合)は否認する。
被告が医薬事業を行ってきた長年にわたる営業年度の営業利益率は平均3.75%であるから,この数値を採用すべきである。
同( )二(仮想実施料率算定方式によった場合)は否認する。
b(イ)実施許諾した場合の独占的利益a実施料率( )同( )は認める。
aa( )同( )は否認する。bb被告において医薬品の特許権の実施許諾契約において20%もの実施料率を定,, , めたことはなく 非臨床 臨床データ等を含めて実施許諾をした場合であっても実施料率は10%程度にすぎない。
医薬品においては,製造承認を得るために必要なデータ等の使用許諾に高い経済的価値が置かれる。したがって,実施許諾契約において非臨床,臨床データ等の使用許諾をも内容とする場合であれば,実施料率を10%程度と定めても経済的合理性があるが,特許権のみの実施許諾契約を対象とする場合には,3〜5%程度であることが通常である。
アルガトロバンに関する事業価値の大部分は,医薬事業の営業譲渡により別途承継されていることから(前提事実( )ア(イ)及び( )ウ( )),本件実施許諾契約で15 アは,実質的に特許権及び商標権のみが対象であり,そこで定められている実施料率及び支払期間は妥当である。
( )同( )のうち,被告は,三菱ウェルファーマの株式の61.2%を有すcc,。 る連結親会社(平成17年3月31日現在)であることは認め その余は否認する本件実施許諾契約で定められた実施料率及び支払期間は,双方の企業の経営者, , が経済原則に従って判断し決定したものであるから 十分尊重されるべきであり被告と三菱ウェルファーマとの間に資本関係があることを理由として,実施料率等が不合理であると断ずることは許されない。
b三菱ウェルファーマの売上高( )国内における売上高a一国内におけるノバスタン販売分同b( )一のうち,(一)(平成11年度)は認める。
a同(二)(平成12年度ないし平成17年度)は否認する。
被告主張の額(乙13)は,本件実施許諾契約(乙11)に従い算出されたものである。これに対し,決算に関する開示資料(甲6,31)に基づく売上高は,本件実施許諾契約の1条,4条で規定される「正味販売高」とは異なり,差し引かれるべき値引額等●(省略)●や,三菱ウェルファーマがテキサス・バイオテクノロジー社(現エンサイシブ・ファーマシューティカルズ社)及びグラクソ・スミス・クライン社に対し,アルガトロバンの米国・カナダにおける独占的な使用・販売権をライセンスしていることに基づくロイヤリティ収入が含まれている。例えば,平成17年度で約8億円のロイヤリティ収入があり,甲31の3の平成17年度の売上高38億7000万円から約8億円のロイヤリティ収入を差し引き,10%程度の値引きをすると,乙13に基づく平成17年度の正味販売高にほぼ近い額となる。ただし,両社に対しては,アルガトロバン原薬の製造権も,本件発明の米国特許権もライセンスしていないため,上記ロイヤリティ収入は,本件実施許諾契約上,実施料の算出の対象とはならない。
同(三)(平成18年度)のうち,平成18年4月から同年6月までの「ノバスタン注」の売上高が9億7800万円であることは認め,その余は否認する。
同(四)(将来分)は否認する。
アルガトロバンは,慢性動脈閉塞症ではアルロプロスタジルやアルロプロスタジルファデクスと競合しており,脳血栓症急性期ではオザグレルナトリウムと競合している。また,アルガトロバンは,点滴静注剤であるが,現在は,むしろザイメラガトランのように経口投与(内服)で効果のある経口抗トロンビン薬でなければ大きな製品価値が生まれない時代に変遷している。そのため,アルガトロバンの三菱ウェルファーマにおける医薬品の売上順位は,14番目にすぎない。
同(五)(まとめ)は否認する。
二国内におけるアルガトロバン原薬販売分同b( )二のうち,(一)(年間平均売上高)は否認する。
a同(二)(将来分)は否認する。
同(三)(まとめ)は否認する。
( )米国における販売分b一同b( )一(将来分)は否認する。 b二同二(まとめ)は否認する。
三同三(ロイヤリティ収入)は否認する。
( )欧州における販売分売上高c一同( )一(将来分-欧州)は否認する。 c欧州で医薬品を販売するためには,各国ごとに販売承認を取得しなければならないが,現在アルガトロバンが承認取得可能な適応症は患者数も限られており,各国で販売承認を取得しても実際に販売を開始するか否かは未定であり,発売を開始しても撤退する可能性もないとはいえない。したがって,ドイツの資料だけでは,今後の欧州におけるアルガトロバンに関する売上高を予測することは不可能であり,安定期に入ったと断ずることはできない。
二同二(まとめ)は否認する。
( )ノバスタンの海外販売分d一同( )一(将来分)は否認する。 d二同二(まとめ)は否認する。
cまとめ同cは否認する。
イ本件発明の寄与度(ア)利益率算定方式の場合同イ(ア)は否認する。
(イ)仮想実施料率算定方式の場合同(イ)は否認する。
(ウ)本件発明の排他力a( )同(ウ)aのうち,( )(唯一の製造方法)は否認する。
aa( )同( )(本件発明の製造方法)は認める。 bb( )同( )(旧製造方法)は認める。cc( )同( )(乙7の製造方法)は認める。 dd( )同( )(化合物( ))は否認する。 ee6( )同( )(工程C及びD)は否認する。 ff本件発明の特許請求の範囲の請求項8及び9は,いずれも「請求項7に記載の方法(注:別紙8の1の工程A及びBを含む方法)により得られた1-〔N -ニトGロ-N -(3-(水素原子又は低級アルキル)-8-キノリンスルホニル)-L-ア2ルギニル〕-4-メチル-2-ピペリジンカルボン酸低級アルキルエステル」を用いることを構成要件としている。これに対して,旧製造方法では,別紙8の1の工程A及びBを行わずに化合物( )を得ているのであるから,請求項8及び9に6記載の範囲の構成要件のすべてを充足しない。したがって,旧製造方法は,請求項8及び9の技術的範囲に属することにはならない。
( )同( )(物質特許2)は認める。
gg( )同( )(旧製造方法の問題点)は否認する。 hh( )同( )(本件発明の特徴)のうち,オキシ塩化リンは従来縮合剤として使用 iiされることが全く想定されていなかったことは否認し,その余は認める。
( )同( )(後発医薬品)は否認する。
jj●(省略)●原告は,Boc化剤を使用することや旧製造方法による中間体化合物がすべて非結晶体であることを前提に,旧製造方法の採算性について主張するが,前提自体が旧製造方法を開示している特許公報(甲1の2)の明細書の記載と矛盾しており,合理的根拠に基づかない主張であり,独自の推論にすぎない。
( )本件発明は,いまだ日本国内において権利化されておらず,本件発明にk排他力はない。したがって,本件発明に寄与が認められるとしても極めて弱いものである。
(エ)物質特許等との関係a同(エ)は否認する。
b医薬事業における排他力は,医薬としての価値から生じ,医薬としての価値の大部分は,医薬品としての薬効,薬理にある。製法特許によって物質特許と同様の排他力を得るためには,すべての製法について特許権を取得し,他の事業者が特定の製造方法実施していることを立証する必要があるが,これらのことは極めて困難である。したがって,本件においても,アルガトロバン事業の排他力は,物資特許1,2や用途特許から生じている。
, , 。 物質特許1 2の特許等の存続期間満了後も 本件発明の寄与度は変化しない, ,, c仮に 本件発明に排他力が存在するとしても カテゴリー別の重要度は基本物質1.0とした場合,製剤0.3,用途0.5,製造方法0.3と考えるべきである(乙19(室伏良信「製品寿命を延ばす特許」日経バイオサイエンス2003年8月号154頁),20(秋元浩「職務発明発明者に対する弊社の実績補償制度についての考え方」)参照)。
本件発明及びアルガトロバン関連6発明(前提事実( ))につき,3件の中間体と3製法の寄与割合を各4分の1と考えると,本件発明の寄与割合は,次のとおり,4%程度となる。
(0.3/(1.0+0.5+0.3)×1/4=1/6×1/4=1/24=0.04166(オ)米国特許等の貢献同(オ)は否認する。
(カ)薬事法上の再審査期間a薬事法上,新薬の製造販売の承認を受けた者は,再審査期間内に再審査を受けなければならず(薬事法14条の4),再審査期間内に後発医薬品メーカーが新薬と同一性を有すると認められる医薬品を承認申請しようとする場合には,新薬と同等又はそれ以上の資料を添付して申請を行わなければならないため(乙8),後発医薬品メーカーが再審査期間内に同一医薬品について承認を受けることは,事実上不可能である。
このように,新薬を開発した先発医薬品メーカーは,特許権の有無とは関係なく,薬事法上の再審査期間制度によって事実上の独占状態を享受することになる, ,, から 再審査期間内のアルガトロバン事業の独占権は これに基づくものであり特許の独占力に基づくものではない。
, , b( )被告は 平成2年1月23日にアルガトロバンの製造承認を得ておりa平成8年1月22日までが再審査期間となる。
( )したがって,この期間内の特許権の独占力が寄与した割合はない。
bc( )さらに,被告は,平成8年4月16日に効能追加の承認を得ており, a効能追加分については平成12年4月15日までが再審査期間となる。
( )したがって,この再審査期間中の効能追加分の売上に対する特許権の独b占力は存在しない。効能追加後のアルガトロバンの売上げについては,従来の効能部分と効能追加部分とは約50%ずつであるから,この期間の特許権の独占力が寄与した割合は,2分の1である。
(キ)会社資本等の寄与被告の利益は,会社資本(設備,費用),人(従業員),特許権が相まって生まれるものであり,被告のアルガトロバン関連の利益に対するすべてのアルガトロバン関連特許発明全体の寄与割合は,多くとも3分の1にすぎない。
(ク)DCF法「相当の対価」を算定する基準となる時期は,後記エのとおり,権利承継時で,「」 「 」 あるから相当の対価 を算定する上で考慮すべき 使用者等の受けるべき利益とは,現実に使用者が受け取った実施料等の利益額そのものではなく,これら現実に使用者が受け取った実施料等の利益額を参考として,権利の承継時に立ち返って「受けるべき利益」として再評価すべきである。なぜならば,現実に使用者が受け取った利益も権利承継時から見れば将来に発生する事実関係であり,権利承継時においては実現するかどうか不明の不確実な事実であり,そのことを正当に評価反映しなければ,使用者は研究開発の不成功リスク,事業化の失敗リスク等の各種リスクだけを負担させられることになってしまい,使用者と従業者の利益の均衡を図った特許法35条の趣旨を没却することにつながるからである。
その方法の1つとして,ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)の考え方がある。この考え方によれば,現実に受け取った実施料に対して各種リスク要素を考慮して割り引き 本来は発明譲渡時点で予期されるべきであった 受 , 「けるべき利益」に修正して算定することになる(乙16 。)ウ被告の貢献度(ア)貢献割合原告の主張(ア)は否認する。
(イ)諸事実a創造的研究( )認否a同(イ)a( )は否認する。 a原告は,創薬プロセスを創造的研究と開発研究に分けた上,創造的研究の重要性を強調するが,創造的研究と開発研究はいずれも重要であり,化合物合成のみが創造的研究として重要なのではない。
(b)開発経過一新薬の研究開発には膨大な費用と期間を必要とするが,その成功確率は極めて低く,リスクが高い。また,競合企業によって特許が先取りされてしまうリスクも存在する。
新薬の研究開始から承認取得は,別紙10の2「新薬開発のプロセスと期間」記載のとおり,様々なステップから構成され,それらのステップに応じた業務内容が決められており,研究開発や上市,さらには上市後の対応までも含めて,極めて多彩な専門家が関わっている。
開発された新薬を事業化するためには,それを商業化するに必要な補完的な技術の開発,導入投資,及び生産と販売体制の確立などのための投資が必要であるが,こうした投資が収益をもたらすかどうかも大きなリスクが存在する。
二アルガトロバン開発の経緯の概略は,別紙10の1「アルガトロバン開発の概要と製造法の開発の概要」記載のとおりであり,昭和47年の研究開始から平成2年の最初の製造承認を取得するまで,約18年を要している。
( )被告の貢献c一被告は,医薬開発の初期段階においては,アルガトロバンという創薬ターゲットの選択,合成展開の糸口,試験管内試験と動物試験による化合物評価と最適化についてB教授の指導的役割を仰ぎながら開発を行い,本件発明が完成された以降は,本件発明を工業的に実施可能なプロセスとするための開発努力をし。,,,, た このように 本件発明は 被告による研究費の拠出 研究環境や要員の提供化学会社として保有する化合物合成技術のノウ・ハウの蓄積等の被告が日常的に果たしている貢献の中で,生まれたものである。
二本件発明は,アルガトロバンの物質特許1,2及び用途特許の明細書に開示されたアルガトロバンの製造方法を基に発想されたものであり,しかも,この従来技術は,被告が基礎技術として取得していたものである。本件発明は,これに依拠した上で,更に研究を進めたものである。
三本件発明は,縮合剤として「酸ハライド法,混合酸無水物法,活性エステル法,又は縮合剤を用いる方法など ・・・利用可能な方法ならばいかなるもの ,を採用してもよい 」(甲2【0018】)と例示しており,縮合剤としてオキシ塩 。
化リン以外にも多数の化合物を例示している。また,オキシ塩化リンを縮合剤として用いることは,既に公知の事実であり(乙15),画期的なものではない。
四また,原告が本件発明を完成するに至るまでには,被告の当時の生物化,。 学研究所医薬室の合成グループによる多大な貢献があったことは 明らかであるしかも,このような合成グループによる研究は,被告の生物化学事業部,総合研究所研究管理室,技術研究所分析物性室,同研究所技術室の協力や貢献なくしてはなし得なかったことも明らかである。
五したがって,原告の本件発明に対する貢献度は,5%を上回ることはない。
( )原告の待遇d原告は,昭和35年大学卒の同期入社68名の中でも,トップクラスでの昇進をしている。
, 「」,, すなわち 被告における管理職の中で一番最高位は 参与 であるが 原告は同期入社68名中で最初に参与に就任した25名の中の1人であり,さらに,理事役(旧三菱化成時代の職位であり 役員待遇である その後の 理事 となる ) ,。「」。
又は役員に就任したものは,参与になった者の2割弱にすぎないが,原告は,理事役に就任している。
しかも,原告は,理事退任時の慰労金についても,正規の慰労金の1割相当額の特別加給を受けており,このような特別加給を受けた者は,同時期退任理事では原告及び他の1名だけである。
b特許出願手続同bは明らかに争わない。
c事業化についての貢献同cのうち,( )は明らかに争わず,( )は否認する。
abd被告の競争力等( )同d( )(揺籃期)は明らかに争わない。
aa( )同d( )(第一製薬)は認める。bb当時,医薬事業に乗り出したばかりの被告が単独で事業化を遂行することは困難であったため,第一製薬と共同開発を進めることで事業化を推進させたものであり,このようなビジネスモデルの構築という被告の貢献なしにアルガトロバンを事業化することは,不可能であった。
eアルガトロバン創薬についての貢献( )同eは明らかに争わない。
a( )原告が主張する貢献は,本件発明ではない別発明についてのものにすぎ bない。
( )また,製薬事業において開発状況や企業の収益状況により開発中止の決c定をすることや,これに対して研究者が研究の継続を要求することは,珍しいことではなく,むしろ,当時はまだ医薬事業に乗り出したばかりでありアルガトロ, バンの研究を継続することは被告にとって大きなリスクであったにもかかわらず研究者の声に耳を傾けて研究を継続できる環境を提供したことは,被告の貢献として認識されるべきである。
エ算定基準日(ア)同エ(ア)は否認する。
特許法が相当の対価の算定基準となる時期を特許を受ける権利承継した時においていることは,明らかである。
被告取扱規則(前提事実(2)ア)によると,職務発明の発明完成時に当該職務発明が被告に自動的に承継されるから,この時が算定基準時となる。
(イ)a仮に,相当の対価の算定基準時に補償金の支払が関係するとしても,前提事実( )のとおり,平成9年4月1日に改訂された「職務発明取扱規則」及2び「職務発明に対する補償金の基準」(乙2の3)は,●(省略)●オ結論(ア)同オは否認する。
(イ)本件発明に対する相当の対価は,別紙12「被告主張対価算定表」記載のとおり,54万5477円(自己実施分2万2117円,実施料分52万3360円)である。
すなわち,自社実施期間の相当の対価は,以下の計算式により求めることができ,別紙12「被告主張対価算定表」のとおり,合計2万2117円となる。
自社実施期間の売上げ×営業利益率(3.75%)×再審査期間の特許権の独占力(従来の効能の再審査期間中は0%,同期間経過後の効能追加分の再審査期間中は50%)×特許権の利益に寄与する割合(3分の1)×特許権の独占権に基づく利益に占める割合(10%)×本件発明の他の発明に対する寄与割合(4%)×原告の貢献度(5%)実施許諾期間(平成11年10月〜平成17年6月まで)の相当の対価は,以下の計算式により求めることができ,別紙12「被告主張対価算定表」のとおり,合計52万3360円となる。
ロイヤリティ●(省略)●×本件発明の寄与割合(4%)×原告の貢献度(5%), (ウ)現在の被告における別紙4の特許報奨取扱い規則を参考にするとしてもその「特許選定基準」は 「営業利益基準」の算定対象期間において,有効に登 ,録され維持されている特許であって申請時においても登録されていなければならないが,本件発明はいまだ権利化されていない。
●(省略)●( )争点2(予備的請求の当否)について2(原告の主張)ア被告取扱規則による権利の返還(ア)被告においては,前提事実( )アのとおり,従業員から譲渡された職務発2明に関し,被告にとって価値のないものであると判断した場合には,発明者たる従業員に対して,当該職務発明の返還を希望するかどうかにつき意思を確認する旨の通知書を送付し,書面による意思確認をした上で,譲り受けた職務発明に関する権利を発明者たる従業員に返還するという取扱いがされている。
(イ)本訴提起前において,原告が被告と職務発明対価の支払についての話合いを行った際,被告は,アルガトロバンの後発医薬品が多く製造されている現実を理由に,本件発明はさしたる価値がないとの見解を表明し,本件発明の価値を全く認めていなかった。
(ウ)本件訴訟においても,被告が本件発明の価値を認めず,また,裁判所によっても本件発明が無価値のものであると判断されるならば,被告は,その内規に従い,原告に対し,本件発明に関するすべての権利を返還すべきである。
イ錯誤無効(ア)原告は,本件発明の価値に関して錯誤があり,本件発明の譲渡は無効である。
(イ)まず,被告の発明等取扱規則5条(別紙1)は,職務発明に関する特許を受ける権利の当然承継を定めたものではなく,従業員と被告との間において譲渡に関する合意をすることを予定している。
(ウ)原告は,本件発明により原告が排他的にアルガトロバンの製造をすることができ,アルガトロバンに関する物質特許と併せて多大な利益を生む価値のあるものであるとして,本件発明が高く評価されると考えたからこそ,被告に対して本件発明に関する特許を受ける権利を譲渡したものであり,被告が本件発明を高く評価していないことを認識していたならば,本件発明を被告に譲渡することはなく,本件発明を高く評価し,有効活用する製薬会社に本件発明を譲渡したと考えられる。
(エ)本訴提起前において,原告が被告と職務発明対価の支払についての話合いを行った際,被告は,アルガトロバンの後発医薬品が多く製造されている現実を理由に,本件発明はさしたる価値がないとの見解を表明し,本件発明の価値を全く認めていなかった。
本件訴訟においても,被告が本件発明の価値を認めず,また,裁判所によっても本件発明が無価値のものであると判断されるならば,本件発明に対する評価につき,原告の認識と現実との間には著しい違いがある。
(被告の主張)ア被告取扱規則による権利の返還(ア)原告の主張(ア)は認める。
権利の返還をするかどうかの第一次的な判断権は被告にあるから,原告の主張は,主張自体失当である。
(イ)同(イ)及び(ウ)は否認する。
イ錯誤無効(ア)原告の主張(ア)は否認する。
(イ)同(イ)は否認する。
本件発明に関する特許を受ける権利は,本件発明の発明時の被告取扱規則に基づき当然に承継されたものである。
(ウ)同(ウ)は不知。
(エ)同(エ)は否認する。
第3当裁判所の判断1事実認定各項に掲げた証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる(一部は,当事者間に争いがないか(明らかに争わない事実を含む。),前提となる事実として認定済みである。)。
( )本件発明について1ア本件発明の内容,出願手続(ア)原告は,昭和55年,N -アリールスルホニル-L-アルギニンアミド2類(薬品名「アルガトロバン」)の製造方法(本件発明)を職務上発明した。
本件発明は,抗血栓薬などの医薬の成分として有用なアルガトロバンを工業的な規模で効率的に製造する方法等に関する発明であり,物質発明や用途発明ではない。
(前提事実( )ア)4(イ)被告は,そのころ,原告から,本件発明時の被告取扱規則(乙2の1)5条に基づき,本件発明に関する我が国及び外国における特許を受ける権利承継した。
(前提事実( )イ)4(ウ)被告は,本件発明をノウ・ハウとして秘匿していたが,平成9年8月1日,我が国において,国内優先権を主張して特許出願をした。同出願は,平成10年4月21日に出願公開され,平成16年7月21日に審査請求され,現在審査中である。
,,,, , また 被告は 本件発明につき 同時期に 米国及び欧州でも特許出願を行いいずれも特許として成立している。
これらの特許出願は,原告が被告を退社する直前に,強く勧めたため行われたものであり,明細書の起案等は,原告自らが行った。また,我が国における審査, , 請求についても 既に退職していた原告が被告に対し再三にわたり催促した結果審査請求期間満了の1,2週間前に行われた。
(争いのない事実,前提事実( )ウ,弁論の全趣旨)4(エ)我が国における特許出願における特許請求の範囲は,別紙9の公開特許公報(甲2)の【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項9】記載のとおりである。
また,その発明の詳細な説明には,以下の記載がある。
「 0003】従来,このような-アリールスルホニル-L-アルギニンアミ 【N2ド類の製造方法としては,特公平1-35000号公報(注:物質特許2乙4)第2〜3頁及び特公平2-31055号公報(注:用途特許甲1の2,乙14)第3頁に示された下記スキームの方法(注: 旧製造方法」)が知られている・・ 「・ 」。
2「【】【 】, 0009発明が解決しようとする課題 本発明の課題は 工業的な規模で N-アリールスルホニル-L-アルギニンアミド類を効率的に製造する方法を提供することにある。また,本発明の別の課題は,-アリールスルホニル-L-アN2ルギニンアミド類を効率よく製造するために有用な中間体化合物を提供することにある 」。
「 0010 【課題を解決するための手段】本発明者らは,上記公報に記載され 【】た製造方法よりもさらに効率的な-アリールスルホニル-L-アルギニンアミN2ド類の製造方法を鋭意探索するうち,グアニジノ基をニトロ基で保護したL-アルギニンとキノリンスルホニルハライドとを最初に縮合させた後に,ピペリジン-2-カルボン酸誘導体とα-アミノ基とをある種の化合物の存在下に反応させることにより,極めて効率的に各反応を進行させることができ,工程を簡略化できるとともに通算収率を大幅に改善できることを見いだした 」。
「 0025 【発明の効果】本発明の方法に従えば,工業的な規模で-アリー 【】N2ルスルホニル-L-アルギニンアミド類を効率的に製造することが可能である。
また,本発明により提供された-(3-(水素原子又は低級アルキル)-8-キ N2ノリンスルホニル)-N -ニトロ-L-アルギニンは,医薬の有効成分として有G用な-アリールスルホニル-L-アルギニンアミド類を効率よく製造するためN2の製造中間体として有用である 」。
(甲2)イ本件発明の価値(ア)旧製造方法との相違点a旧製造方法及び本件発明の製造方法の概略は,別紙8の1「アルガトロバンの製造方法」のとおりである。
製造方法と本件発明は,化合物( )のカルボキシル基(-COOH),アミノ基1(-NH )に,それぞれ化合物( ),化合物( )を縮合させて,アルガトロバン合成2 42に必要な化合物( )を提供する方法である点で一致する。 6しかし,本件発明では,化合物( )に直接化合物( )を縮合させて,中間体化合 12物である化合物( )を生成してから化合物( )を縮合させ,化合物( )を生成するの 3 46に対し,旧製造方法では,化合物( )のアミノ基をベンジルオキシカルボニル基又 1はtert-ブトキシカルボニル基(Boc基)等の保護基で保護してから,化合物( )を縮合させ,塩酸で保護基を外し,化合物( )を縮合させて化合物( )を生成4 26する点に違いがある。
b旧製造方法は,3つの異種アミノ酸から構成されたペプチド型の化合物であるアルガトロバンを,従来から確立されたペプチド合成法に則って製造する方法である。ペプチド合成法は,アミノ酸のカルボキシル基の側から対応するアミノ酸を逐次1個ずつ結合させる方法であり,その際,アミノ酸の自己分子間縮合反応を阻止するため,保護基でアミノ酸のアミノ基を保護し,次工程の反応に供するために保護基を外すといった保護基の着脱を行う必要がある。
そのため,旧製造方法には,@保護基による保護と脱離のために本件発明よりも2工程多くなり,煩雑である上,収量を落とす点,ABoc化剤は高額であるため,製造に費用がかかる点,また,B中間体化合物はいずれも結晶化しないため,高純度の物を得るためには,シリカゲル・クロマトグラフィーなどによる精製工程が必須となり,コストと時間がかかる点に問題があった。
G旧製造方法は,多種類の抗トロンビン剤を合成するために(2R,4R)-(N-ニトロ-L-アルギニル)-4-メチル-2-ピペリジンカルボン酸エチルエステル(化合物())を合成することを目的として開発されたものであり,多種類の13抗トロンビン剤の少量のサンプルを製造するのには適したものであったが,特定の抗トロンビン剤のみを製造する方法として適したものではなかった。
cこれに対し,本件発明は,@ニトロアルギニンの分子間での縮合反応により2量体となってしまうことを防ぐためにBoc基等による保護を行う必要がなく,製造工程が2工程短縮した点,A中間体化合物(N -(3-メチル-8-キ2ノリンスルホニル)-N -ニトロ-L-アルギニン)(化合物( ))が結晶体としてG3,, , 得られるため 精製が容易であり 純度の高い化合物を合成することができる点B特に,縮合剤としてオキシ塩化リン()を使用した場合,嵩高く,立体障POCl 3害性の高い化合物同士を効率良く円滑に縮合させることを可能にしている点に特徴がある。
本件発明は,旧製造方法の欠陥・問題点を解決し,医薬として使用できる純度の高い(99%以上)アルガトロバンを大量,安価に製造することができる製造方法である点で,価値が相当程度高い発明である。
本件発明は,ペプチド合成法に則ったものではなく,ペプチド合成法とは別の観点により構築された製法である。
(争いのない事実,甲17,22,25〜27,弁論の全趣旨)(イ)a原告は,医薬として使用できる純度の高いアルガトロバンを大量,安価に製造することができる製造方法は本件発明以外にあり得ず,後発医薬品も本件発明により製造されている旨主張し,その根拠として,@後発医薬品とアルガトロバンの融点が一致すること,A後発医薬品の不純物の組成は本件発明による場合と同一であると考えられること,B旧製造方法では,中間体化合物は結晶化しないこと,CBoc化剤の使用や精製に製造コストがかかりすぎ,アルガトロバンと同等以下の薬価では販売できるはずがないこと等を指摘する(甲9〜12,17,26,27)。
しかし,●(省略)●純度の高いアルガトロバンを大量,安価に製造する方法は本件発明以外にあり得ないとまで認めることはできない。
ただ,本件発明以外に,医薬として使用できる純度の高いアルガトロバンを大量,安価に製造することができる製造方法が公開されていないことも事実であるから,本件発明の存在が他の後発医薬品メーカーの市場参入を思い止まらせ,旧製造方法又はそれに近い製造方法を採用している既参入後発医薬品メーカーに規模の拡大を思い止まらせる効果を有していることは,容易に認められるところである。
b原告は,アルガトロバンを製造するには,アルガトロバンの中間体化合物である化合物( )を合成しなければならず,また,工程C及びDを含むから,本6件発明を侵害せずにアルガトロバンを製造することはできない旨主張する。
しかしながら,請求項8及び9は,工程C及びDに付される化合物は「請求項7に記載の方法により得られた」ものに限定しているから,本件発明の特徴である請求項1ないし7に記載された工程A及びBを経ないで製造された化合物を工程C及びDに付した場合,請求項8及び9を充足しない。また,旧製造方法は,工程A及びBを行わずに化合物( )を生成しているものである(別紙8の1,2)。
6よって,原告の上記主張は理由がない。
ウ本件発明の経緯(ア)原告の経歴原告は,大学の理学部で有機合成化学を専攻し,博士課程を修了後,昭和40年4月,被告(当時の商号は,三菱化成工業株式会社)に入社し,中央研究所において,必須アミノ酸L-リジンに関する研究に従事していた。
昭和47年3月,原告は,被告の中央研究所医薬室に移籍し,新たに立ち上げられた合成班のグループリーダーに任命され,創薬研究に従事し,塩酸ビフェメラン(商品名: アルナート 「セレポート」甲1の1),アルガトロバン(商品名: 「」「ノバスタン「スロンノン」甲1の2,乙3,4,14),塩酸サルポグレラー 」,ル(商品名: アンプラーグ」甲1の3及び4)の新薬の発明やこれらの製造方法及 「び関連物質の発明等に関与した。
, ,,, 平成2年4月 本社医薬事業本部に異動になり 製品計画部長 医薬企画部長医薬開発部長を兼任又は歴任し,その後,平成4年6月に同社理事役,平成8年10月に医薬カンパニー医薬研究開発部門長を歴任し,平成9年9月に同社を退職した。
その後,東京田辺製薬の取締役に就任し,平成10年6月,同社常務取締役研究本部長を歴任し 平成11年10月 三菱東京製薬(三菱ウェルファーマの前身) ,,に移籍し,常務取締役,同社顧問を歴任し,平成13年9月に同社を退職した。
(争いのない事実,甲17)(イ)開発の経過a新薬開発のプロセス新薬の研究開始から承認取得は,別紙10の2「新薬開発のプロセスと期間」記載のとおり,様々なステップから構成され,それらのステップに応じた業務内容が決められており,研究開発や上市,さらには上市後の対応までも含めて,極めて多彩な専門家が関わっている。平成10年版厚生白書によれば,1つの新薬の開発には10年〜18年を要し,150〜200億円を要するとされている。
日本製薬工業協会の2005年のパンフレット(乙5)によれば 「多くの新薬の候,補化合物を合成しても新薬の成功確率は,12,324分の1」であり 「1成分,当たりの研究開発費は,日本の調査データによると500億円にのぼ」り,臨床試験に到達したものでも,最終的に製造承認がされる確率は,11〜13%である(弁論の全趣旨)。平成14年の総務省「化学技術研究調査報告」によれば,研究費の対売上高比率は全産業が3.06%であるのに対し,医薬品産業は8.91%である(乙5)。
新薬の開発は,糸口となる化合物から出発して構造展開を行い,薬効と安全性の両面から最適な化合物を選び出す手順を採る。その糸口となる化合物を見つけ出すことは,当時はロボットを使って短期間に数十万から百数十万の化合物をスクリーニングできるハイスループットスクリーニング技術はなかったから,困難なことであり,出発物質について何らかの知見を有していることは,研究のスピードにおいて,大きな意味を持っていた。
, ,, 新薬の探索研究は 合成研究者が単独で実施できるものではなく 薬理研究者薬物動態研究者,安全性研究者との協力体制が必要である。実際の研究活動では正確かつ安定した評価結果を得るための測定系を作成することは無論のこと,より人疾患に近い試験系を組み立てる能力も要求される。
(乙5,弁論の全趣旨)bアルガトロバンの発明( )被告は,昭和45年に生命科学分野に進出することを決め,基礎科学のa研究を担う三菱化成生命科学研究所を設立し,同時に医薬事業を担う中央研究所を設置した。
被告は,昭和46年から神戸大学と共同研究を始め,昭和47年に神戸大学医学部生理学教室教授で血液を中心にした生理学を専門とするB教授の提案で,抗トロンビン剤の研究を開始し,原告をリーダーとする合成班が設置された。
被告は,当初B教授の提案により行われていた非拮抗阻害剤としての抗トロンビン剤の合成研究を,原告の提案により,拮抗阻害剤である抗トロンビン剤の研究に方針転換し,アルギニンをリード化合物として選定した。そして,原告は,自らの有機化学における知識,知見及び長年の経験によって培われた合成技術をもって,アルガトロバンの薬物設計の過程,具体的にはトロンビンが基質である, , フィブリノーゲンを認識する部位として @アルギニンのグアニジノ基の陽電荷AアルギニンのN端側の芳香環結合部位,BアルギニンのC端側の疎水性結合部, 位の3点から成る三脚構造体(トリポリット)に当てはまるであろう化合物構造を当該構造体が嵌るフィブリノーゲンの立体構造も想定しながら数多くの化合物の合成を行い,薬理活性は高いが毒性の低いものを光学異性体の点も考慮して設計した。さらに,被告は,痙攣の副作用を引き起こすことが判明した際,抗トロンビン剤の研究を中止しようとしたが,原告は,被告を説得して3か月の中止猶予, 。 期間を得て 当該期間内に痙攣波の発現しない化合物へと構造変換を成し遂げたその後,原告の合成班は更に研究を進め,昭和53年8月,抗トロンビン剤活性の立体異性体が(2R,4R)体であることを突き止め,805番目の合成化合物として,高い活性値を持ち,安全性に優れ,酵素選択性の高い酵素拮抗阻害剤であるアルガトロバンの合成に成功した。
(争いのない事実,甲17,弁論の全趣旨)( )原告は,平成4年3月 「選択的抗トロンビン剤の薬物設計とアルガトb ,ロバンの開発」に関する技術に対して,B教授ら4名と共に,大河内記念技術賞を受賞した。
大河内賞受賞候補者推薦書(乙1の1)の推薦理由には 「この研究の中で,Aが ,, , 薬物設計を統括すると共に化学合成を担当し Bは本研究のアイディアを提供しD,Eがトロンビン阻害活性など生理活性評価を担当し,構造活性相関を推進した。そして,低分子トロンビン阻害剤が血栓症治療薬として種々の優れた特長を持つことを見いだし,医薬としての有用性も明らかにした。Cは,研究開発の推進と調整の責任者として本研究を担当した 」と記載されている。 。
また,B教授編著の書籍「世界を動かす日本の薬」(乙21)の第V部「抗トロンビン剤開発物語」の第1章「合成抗トロンビン剤」は,原告が執筆しており,その冒頭には,B教授による「本書の企画は合成抗トロンビン剤の明らかな『抗トロンビン作用』を見出した時に遡る。第V部第1章は 「合成抗トロンビン剤」 ,とし,その執筆者は合成化学のリーダーAに議論の余地なく落ち着いた。Aは日進月歩のトロンビンを巡る分子生物学的な研究成果を知悉しつつ,それに妨げられることなく,一歩また一歩と自由闊達に化学合成の道を進み,800回を越す試行錯誤の後,遂にはアルガトロバンに到達したのである 」との記載がある。。
(前提事実( )イ,乙1の1,21)3( )上記に認定の事実によれば,アルガトロバンの合成における原告の貢献 cには多大なものがあったが,原告の力だけでアルガトロバンが得られたものでは, , なく B教授による疾患領域の選択と創薬ターゲットの設定が重要な意義を有しDらによる生理活性評価も重要な意義を有していたものである。
原告は,創薬プロセスを創造的研究と開発研究に分けた上,創造的研究の重要性を強調するが,そのような主張は,B教授及びDらの貢献との比較において,原告の貢献をやや過大に評価しているものといわざるを得ない。
c本件発明( )アルガトロバンを発明した当時の旧製造方法には前記イ(ア)bの問題点aがあったことから,原告をリーダーとする合成班は,アルガトロバン完成後,直ちにこれらの問題点を克服し,医薬品としてのアルガトロバンを大量,安価に工,,。 場生産できる製造方法の開発に取り組み 昭和55年中に 本件発明を完成した本件発明についても,原告の有する有機化学における知識,知見及び長年の経験によって培われた合成技術が大きく寄与した。
本件発明の事業化についても,原告は,本件発明がされた後,その有用性を確認するため,自ら反応釜を調達し,中規模製造をし,本件発明の有用性を自ら実証した。
(争いのない事実,甲17,27,弁論の全趣旨)( )被告は,縮合剤としてオキシ塩化リンを採用したことにつき,原告と同bじ合成班にいた研究者,特にFの貢献があった旨主張する(乙22)。この点については,本件発明は原告だけを発明者として特許出願されているし(前提事実( )4ウ),原告本人尋問及びFの証人尋問を行わないまま,被告主張のとおり認定することはできない。
しかしながら,証拠(乙15-赤堀四郎ら編「タンパク質化学1」(昭和44年初版発行)519頁以下)及び弁論の全趣旨によれば,オキシ塩化リンは,ペプチド合成に利用される例は少なかったが,縮合剤として古くから一般的に知られており,ラセミ化も起こしにくいとされていたことが認められるから,本件発明において縮合剤としてオキシ塩化リンを採用したことには,従来技術として契機となる知見があったものと認定せざるを得ない。
( )また,製造方法の発明である本件発明は,既に判明している化合物の化c学構造から遡って,工業的に有利な製造方法を発明するというものであり,原告主張が創造的と主張する化学合成による新薬の創造との比較において,困難さは低いものと認定せざるを得ない。
エ研究の成果(ア)被告は,アルガトロバンの製品化のため,昭和55年9月,第一製薬と, , の共同研究でアルガトロバンの臨床実験を開始し それ以降の開発費を折半とし開発リスクを半減させた。
(イ)被告は,昭和61年12月24日,本件発明の製造法に基づく-アリN2ールスルホニル-L-アルギニンアミドまたはその塩類を有効成分とする抗血液凝固剤(薬品名: アルガトロバン ,商品名: ノバスタン注」)を慢性動脈閉塞 「」「症を適応として薬事法14条に基づく製造承認申請をし,平成2年1月23日,厚生大臣の承認を受けて,同年6月から市場販売を開始した。平成8年4月16日,被告は,同医薬につき,脳血栓症急性期の効能追加の承認を受けた。
(ウ)アルガトロバンは,被告が医薬事業を開始したばかりの揺籃期に製造承認を得た製品である上,世界初の抗トロンビン薬として上市した製品であり,被告において重要な位置付けにある薬剤である。
しかし,アルガトロバンは,慢性動脈閉塞症ではアルロプロスタジルやアルロプロスタジルファデクスと競合しており,脳血栓症急性期ではオザグレルナトリウムと競合している。また,アルガトロバンは,点滴静注剤であるが,現在は,むしろザイメラガトランのように経口投与で効果のある経口抗トロンビン薬でなければ大きな製品価値が生まれない時代に変遷している。そのため,アルガトロバンの三菱ウェルファーマにおける医薬品の売上順位は,14番目にすぎない。
平成12年7月以降,後発医薬品メーカー3社から,順次後発医薬品が発売されたが,後発医薬品のアルガトロバン市場において占める割合は,物質特許1,2の存続期間が満了した後も,10%以下である。
(争いのない事実,前提事実( )ア及びウ,弁論の全趣旨)5( )被告取扱規則,補償金の支払2ア被告の職務発明取扱規則及び「職務発明に対する補償金の基準」(平成6年10月1日施行。乙2の2)は,●(省略)●,平成9年4月1日に改訂された「職務発明取扱規則」及び「職務発明に対する補償金の基準」(乙2の3)は,●(省略)●, 。 本件発明の優先権主張の基礎となる特許出願は 平成8年8月7日に行われた(前提事実( )及び( )ウ)24イ被告は,原告に対し,平成8年中に,別紙2の被告取扱規則(乙2の2)に基づき,●(省略)●(弁論の全趣旨)( )実施状況3ア被告の自社実施による売上げ被告は,平成2年6月から平成11年9月まで,本件発明を自ら実施してノバスタン注及びアルガトロバン原薬を製造,販売した。この間の被告の売上げは,別紙12「被告主張対価算定表」の「被告の自己実施分について」の「売上高」欄記載のとおり,合計314億2140万円である。
(前提事実( )イ)5イ第三者の実施状況(ア)本件実施許諾契約a本件実施許諾契約における実施料率平成11年9月30日,ティーティーファーマ(三菱ウェルファーマの前身)に対し,被告は医薬事業を,東京田辺製薬は食品添加物事業を除く営業全部をそれぞれ譲渡した。同日,被告は,ティーティーファーマとの間で,同社に対し,別紙6のとおり,本件発明,アルガトロバン関連6発明の特許,データ,ノウ・ハウ,商標権等を含む医薬に係る知的財産についての独占的実施権を許諾し,その対価として,●(省略)●の支払を受ける旨の本件実施許諾契約を締結した。
(前提事実( )ア(ア)及び( )ウ(ア))15ティーティーファーマに対しては,上記のように被告が医薬事業を営業譲渡しているため,アルガトロバンにつき薬事法製造承認を受けた地位等は,営業譲渡により同社に承継され,本件実施許諾契約の対象となっているものは,実質的に特許権及び商標権のみであると認められる。
b被告の実施料率原告は,被告は20%以下の実施料率で実施許諾契約を締結したことはない旨主張するが,これを裏付けるに足りる証拠はない。被告は,非臨床,臨床データ等を含めて実施許諾をした場合であっても,実施料率は10%程度にすぎず,特許権に関する実施許諾契約における実施料率は3〜5%程度であるとの限度でのみ,原告の主張を認めている。
c他社の実施料率社団法人発明協会発行の実施料率〔第5版〕は,平成10年度までの実例を調,, , 査したものであるが 同調査によると 医薬品その他の化学製品の分野において実施料率の平成4年度から平成10年度における平均値は,ペイメント条件(以下「」。.,., イニシャル という )有りが6 7% イニシャル無しで7 1%であること実施料率8%以上の契約137件のうち,114件が医薬品であり,そのうち,8〜10%のものが60件,11〜20%のものが35件,21〜30%のものが9件,31〜50%のものが10件(うち2件は50%)であった。
(甲16)(イ)実施料収入a国内におけるノバスタン及びアルガトロバン原薬販売分( )三菱ウェルファーマ販売分a一三菱ウェルファーマは,国内において,アルガトロバン原薬を製造し,それを製剤化した「ノバスタン注」を販売している。
二被告が上記販売分について三菱ウェルファーマから得た平成11年度(ただし,10月から)ないし平成17年度の実施料収入は,別紙7「実施料収入一覧表」@記載のとおりである。
三上記実施料収入に対応する正味販売高は,別紙13「裁判所認定対価算」 「」 「」 定表 の 三菱平成11年度ないし平成17年度の 内ノバスタン国内WP欄に記載したとおりである(ただし,百万円以下四捨五入 。)(前提事実( )ウ( )a( ),乙13の1〜26)5a イ( )第一製薬販売分b一三菱ウェルファーマは,第一製薬に対し,アルガトロバン原薬を販売し。,,「」。 ている なお 第一製薬は それを製剤化した スロンノン注 を販売している二被告が上記販売分について三菱ウェルファーマから得た平成11年度(ただし,10月から)ないし平成17年度の実施料収入は,別紙7「実施料収入一覧表」A記載のとおりである。
三上記実施料収入に対応する正味販売高は,別紙11「原告主張対価算定表」の【三菱ウェルファーマに対する実施許諾 〈国内 「総売上高」(内原薬) 】〉欄に記載のとおりである。
(前提事実( )ウ(イ)a( ))5b( )国内におけるノバスタン及びアルガトロバン原薬販売についての売上予 c測平成11年度から平成18年度までの売上げの変動,及び( )エ( )の市場の動 1 ウ向等を考慮し,国内におけるノバスタン及びアルガトロバン原薬の販売額を,平成18年度は年30億円,平成19年度から平成21年度は年25億円,平成22年度から平成24年度までは年20億円,平成25年度から平成29年度までは年15億円と推定する。
( )原告の売上高に関する主張に対する判断d一決算資料との不一致原告は,三菱ウェルファーマの決算資料(甲6,31)によると,同社の国内のノバスタンの売上高は,平成12年度43億円,平成13年度39億円,平成14年度33億円,平成15年度40億円,平成16年度37億円,平成17年度38億円であり,この売上げを基に算定した実施料相当の対価の算定の基礎とすべきである旨主張する。
被告は,被告主張の額(乙13)は,本件実施許諾契約(乙11)に従い算出され, , , たものであるのに対し 決算に関する開示資料(甲6 31)に基づく売上高には@本件実施許諾契約の1条,4条で規定される「正味販売高」(別紙6)とは異なり,差し引かれるべき値引額等●(省略)●が含まれていること,A三菱ウェルファーマがエンサイシブ・ファーマシューティカルズ社等に対し,アルガトロバンの米国・カナダにおける独占的な使用・販売権をライセンスしていることに基づくロイヤリティ収入が含まれていることを主張する。そして,例えば,平成17年度で約8億円のロイヤリティ収入があり,原告が指摘する平成17年度の売上高38億7000万円(甲31の3)から約8億円のロイヤリティ収入を差し引き,●(省略)●値引きをすると,被告主張の正味販売額(乙13)にほぼ近い額となる旨主張している。この説明は数字の違いを整合的に説明しているものであり,三菱ウェルファーマの決算資料(甲6,31)から,被告が本件実施許諾契約に基づいて支払を受けることができる額について虚偽があると認めることはできない。
二ロイヤリティ収入額差し引かれるべき値引額等の●(省略)●とし,かつ,決算資料(甲6,31)の額と被告主張の額(乙13)との差額を考慮すると,三菱ウェルファーマが平成12年度から平成17年度までの間に得たロイヤリティ収入は,平成12年度,平成13年度が0円であり,平成14年度が1億7800万円,平成15年度が8億7800万円,平成16年度が5億8000万円,平成17年度が8億円と推定できる。
b米国における販売分( )三菱ウェルファーマは,テキサス・バイオテクノロジー社(現エンサイaシブ・ファーマシューティカルズ社)に対し,アルガトロバンの米国・カナダにおける独占的な使用・販売権をライセンスし,同社は,スミスクライン・ビーチャム社(現グラクソスミスクライン社)に対し,同使用・販売権をサブライセンスしている。平成12年6月30日,テキサス・バイオテクノロジー社は,FDAから,アルガトロバンにつき新薬承認を取得した。
( )三菱ウェルファーマは,平成12年7月から,グラクソスミスクラインb社に対し,日本国内で製造したアルガトロバン原薬を輸出している。
被告が上記販売分について三菱ウェルファーマから得た実施料収入は,別紙7「実施料収入一覧表」B記載のとおりである。
( )上記実施料収入に対応する正味販売高は,別紙11「原告主張対価算定c表」の【三菱ウェルファーマに対する実施許諾 〈海外 「総売上高」(内アメリ 】〉カ)欄に記載のとおりである。ただし,この額には,エンサイシブ・ファーマシューティカルズ社等からのロイヤリティ収入は含まれていない。
(以上,前提事実( )ウ(イ)b)5( )前記a( )二のとおり,三菱ウェルファーマはエンサイシブ・ファーマ ddシューティカルズ社等から平成14年度が1億7800万円,平成15年度が8億7800万円,平成16年度が5億8000万円,平成17年度が8億円のロイヤリティ収入の支払を受けている。
このロイヤリティの支払終了時期は不明であるが,少なくとも平成18年度は平成17年度と同額の8億円が支払われるものと推定する。
( )平成12年度から平成17年度までの売上げの変動,及び前記( )エ( )e 1 ウの市場の動向等を考慮し,米国における原薬の販売額を,平成18年度はロイヤリティ収入を含め22億円,平成19年度は年14億円,平成20年度から平成23年度までは年15億円,平成24年度から平成29年度までは年12億円と推定する。
c欧州における販売分( )三菱ファーマヨーロッパは,三菱ウェルファーマの子会社であるが,平a成15年6月,更にその子会社として,三菱ファーマドイツが設立された。
三菱ファーマドイツは,平成17年6月,ドイツにおけるアルガトロバンの販売承認を取得し,同年7月15日にドイツにおいて販売を開始した。
( )三菱ウェルファーマは,三菱ファーマヨーロッパに対し,日本国内で製b造したアルガトロバン原薬を輸出している。
被告が上記販売分について三菱ウェルファーマから得た実施料収入は,別紙7「実施料収入一覧表」C記載のとおりである。
( )上記実施料収入に対応する正味販売高は,別紙11「原告主張対価算定c表 の 三菱ウェルファーマに対する実施許諾海外総売上高 (内ドイツ) 」 【 】〈〉「」欄に記載のとおりである。
(以上,前提事実( )ウ(イ)c)5( )平成17年にドイツにおいて販売が開始され,その後,スウェーデン, dオランダ,オーストリア,デンマーク,アイスランド及びノルウェーにおいて販売承認を得ており(甲28,29),欧州市場の開拓はこれからであること,しかし,医薬品の売上げは各国ごとの医療事情により影響を受けるものであって,米国との人口比だけから推測できるものではないこと,及び前記( )エ(ウ)の市場の1動向を考慮して,平成18年度は年5000万円,平成19年度は年1億円,平成20年度は年3億円,平成21年度は年5億円,平成22年度及び平成23年度は年10億円,平成24年度から平成29年度までは年8億円と推定する。
dノバスタンの海外販売分( )三菱ウェルファーマは,平成14年以降,中国等において 「ノバスタa ,ン注」を販売している。
( )被告が上記販売分について三菱ウェルファーマから得た実施料収入は,b別紙7「実施料収入一覧表」D記載のとおりである。
( )上記実施料収入に対応する正味販売高は,別紙11「原告主張対価算定c表」の【三菱ウェルファーマに対する実施許諾 〈海外 「総売上高」(内ノバス 】〉タン)欄に記載のとおりである。
(以上,前提事実( )ウ(イ)d)5( )平成14年度から平成17年度までの売上げの変動,及び前記( )エ( ) d 1 ウの市場の動向,米国及び欧州以外では本件発明につき特許出願をしていないこと等を考慮し,中国等における「ノバスタン注」の販売額を,平成18年度から平成29年度まで年5000万円と推定する。
(前提事実( )ウ(イ),弁論の全趣旨)5( )原告の待遇4原告と同じ昭和35年大学卒の同期入社は68名いる。被告における管理職の中で一番最高位は「参与」であるが,原告は,同期入社68名中で最初に参与に,, , 就任した25名の中の1人であり さらに 理事役(旧三菱化成時代の職位であり役員待遇である。その後の「理事」となる。)又は役員に就任したものは,参与に,,。,, なった者の2割弱にすぎないが 原告は 理事役に就任している また 原告は理事退任時の慰労金について,正規の慰労金の1割相当額の特別加給を受けているが,このような特別加給を受けた者は,同時期退任理事では原告及び他の1名だけである。
(争いのない事実,弁論の全趣旨)2争点1(相当の対価の額)について( )相当の対価の意義1ア「発明により使用者等が受けるべき利益の額」(ア)本件発明について相当の対価を算定する際の考慮要素である特許法35条4項所定の「発明により使用者等が受けるべき利益の額」は,使用者が「受けた利益」そのものではなく 「受けるべき利益」であるから,権利を承継した時に ,客観的に見込まれる利益の額をいうものと解される。
また,職務発明がされた場合,使用者は無償の通常実施権(特許法35条1項)を取得するから,使用者が当該発明に関する権利を承継することによって「受けるべき利益」とは,当該発明を実施して得られる利益ではなく,使用者が従業者から特許を受ける権利承継することにより,当該発明を実施し得る権利を独占することによって受けることが見込まれる利益(独占の利益)をいうものと解される。
(イ)そして,発明により使用者が受けるべき利益を考慮するに当たっては,当該発明の実施又は実施許諾による使用者の利益の有無やその額など権利の承継後の事情についても,その承継の時点において客観的に見込まれる利益の額を認定する資料とすることができるものと解される。
すなわち,使用者が他の企業との間で実施許諾契約を締結し,同契約に基づいて実施料を取得した場合には,その実施料収入は使用者が発明の実施を排他的に独占することによって得た利益に属するということができるから,この実施許諾契約により取得した実施料額を使用者が受けるべき利益の額を算定する際の資料の1つとすることができる。また,使用者が当該発明を自ら実施し,他社に実施許諾していない場合には,競業他社に発明の実施を禁止していることによる通常実施権の行使による売上高を上回る売上額(超過売上高)はいくらか,あるいはその売上げに係る想定実施料収入はどの程度かを使用者が受けるべき利益の額を算定する際の資料の1つとすることができる。
(ウ)さらに,独占の利益が当該発明を含む複数の発明により得られたものと認められる場合には,他の発明との関係での当該発明の寄与度を認定する必要がある。
イ「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度」本件発明について相当の対価を算定する際の考慮要素である特許法35条4項所定の「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度」については,当該発明がされる経緯において発明者が果たした役割を,使用者との関係での貢献度として数値化して認定し,これを上記アの利益に乗じて,職務発明の相当対価の額を算定することになる。
( )「発明により使用者等が受けるべき利益の額」の算定上の問題2ア算定基準時(ア)前記( )ア(ア)のとおり, 特許法35条は,相当の対価の算定基準となる1時期を特許を受ける権利承継した時と規定していると考えられるが,勤務規則等に職務発明対価の支払時期が定められている場合には,特段の事情のない限り,相当対価は当該支払時期を基準として算定された額であることが予定されているものと解される。
(イ)本件では,本件発明の優先権主張の基礎となった発明の特許出願に対する被告取扱規則の定める最終の補償金は平成9年7月末までに支払われているから(前記1( )イ),本件発明について特許出願がされた平成9年8月1日が本件に2おける相当の対価の算定基準時期となる。
, 。 これに反する原告の主張及び被告の主張は いずれも採用することができないイ特許登録前の利益について(ア)被告は,本件発明はいまだ日本国内において権利化されていないから,排他力はなく,本件発明に寄与が認められるとしても極めて弱いものである旨主張する。
(イ)まず,出願公開後の期間については,特許法65条補償金請求権を有するので,特許権の設定登録前に被告が受けた利益を「相当の対価」の算定に当たり考慮すべきことは,当然である。
そして,前提事実( )ウのとおり,本件発明は,米国及び欧州で既に特許されて4いるから,我が国においても特許される可能性が大であり,他の業者もそのように理解するものと認められるところ,後発医薬品であっても製造承認等の取得に相当の費用と時間を要する製薬事業において,後日補償金の支払及び差止めを請求されることを覚悟の上で,アルガトロバンの製造販売に乗り出す業者がいるとは考え難いから,特許成立前であることを理由に,使用者である被告の受けるべき利益を低く認めることはできない。
(ウ)次に,被告取扱規則は,特許を受ける権利承継しても,そもそも特許出願をすることなくノウ・ハウとして秘匿するのか,出願するとして,どの国に特許出願をするのかの選択は被告の裁量に委ねられている(別紙1の6条)。しかも,使用者は,発明がノウ・ハウとして秘匿される間,発明に関する情報を事実上独占してその発明の実施も事実上独占できるものであり,特許を出願した場合と同様の利益を得ることができると考えられる。したがって,被告が特許出願をせずにノウ・ハウとして秘匿した期間についても,被告が受けるべき利益を算定すべきである。
また,ノウ・ハウとして秘匿し又は出願公開前の時期か,出願公開後の時期かにより,被告が受けた利益に程度の差があると解することもできない。
ウ再審査期間内の排他力被告は,再審査期間中は後発企業が先発企業の行った臨床試験結果等を利用して承認申請をすることができず,特許権がなくとも他者が実質的に参入不可能であるから,当該期間中に被告が受けた利益は「使用者が受けるべき利益」に含まれない旨主張する。
しかし,再審査期間中であっても,他者が承認申請に必要な試験を自力で行って資料を揃えて申請することは禁じられていないから,他者の参入を妨げているのは,やはり特許権であると認められる。そして,使用者は,特許出願をすることなくノウ・ハウとして秘匿するか否かの選択権を有し,しかも,使用者は発明がノウ・ハウとして秘匿される間,発明に関する情報及び実施を事実上独占することができることは,上記イ(ウ)に述べたとおりである。したがって,再審査期間「 」 。 中に受けた被告の利益も 使用者が受けるべき利益 に含めて考えるべきであるエ外国の特許を受ける権利の譲渡の対価について(ア)本件において,原告は,被告との雇用関係に基づいて特許法35条1項所定の職務発明に該当する本件発明をし,本件発明完成時に,被告に対し,被告取扱規則に基づき,我が国の特許を受ける権利と共に,米国及び欧州等の外国における本件発明に係る特許を受ける権利を譲渡している(前提事実( )イ)。
4そうすると,外国の特許を受ける権利の譲渡に伴って譲渡人が譲受人に対しその対価を請求できるかどうか,その対価の額はいくらであるかなどの特許を受ける権利の譲渡の対価に関する問題も,雇用契約と密接な関連を有する問題であると解されるので,法例7条1項の規定により,第一次的には当事者の意思に従って定められると解するのが相当である。
そして,前記認定のとおり,被告取扱規則には,我が国のみでなく外国の特許, を受ける権利の譲渡や補償金の支払に関する定めがあることや本件訴訟において原告と被告は,外国の特許を受ける権利の譲渡を含めた本件発明の対価請求権について我が国の法律が適用されることを前提に訴訟活動をしていることからすると,原告と被告との間には,外国の特許を受ける権利の譲渡の効力につき,その準拠法を我が国の法律とする旨の黙示の合意が存在すると認めることができる。
我が国の特許法は,外国の特許を受ける権利について直接規律するものではないが,職務発明とされる発明については,その基となる雇用関係が同一であり,これに係る各国の特許を受ける権利は,実質的に1個と評価される同一の発明から生じるものであり,当該発明をした従業者から使用者への特許を受ける権利の, , 承継について 両当事者が対等の立場で取引をすることが困難であるという点はその対象が我が国の特許を受ける権利である場合と外国の特許を受ける権利である場合とで何ら異なるものではない。したがって,外国の特許を受ける権利の譲, , 渡に伴う対価請求については 同法3項及び4項の規定を類推適用すべきであり原告は,被告に対し,上記各外国の特許を受ける権利の譲渡についても,同条3項に基づく同条4項の基準に従って定められる相当の対価の支払を請求することができる(最高裁平成18年10月17日第三小法廷判決・裁判所時報1422号)。
(イ)前記1( )イ(イ)aのとおり,本件発明以外に,医薬として使用できる純1度の高いアルガトロバンを大量,安価に製造することができる製造方法が公開されていないため,本件発明の存在が他の後発品メーカーの市場参入を思い止まらせる等の効果を有しているから,本件発明についての米国特許の存在が,米国市場における後発品メーカーの参入を困難にし,三菱ウェルファーマが米国に原薬を輸出して利益を得ることを可能にしていると認められる。したがって,米国における販売に係る被告の実施料収入は,我が国で売買契約がされたものであったとしても,本件発明の我が国における特許を受ける権利及び米国特許権に基づく利益であると考えられる。
同様に,欧州における販売に係る被告の実施料収入は,我が国で売買契約がされたものであったとしても,本件発明の我が国における特許を受ける権利及び欧州特許権に基づく利益であると考えられる。
(ウ)前記1( )イ(イ)b( )のとおり,三菱ウェルファーマはエンサイシブ・フ3dァーマシューティカルズ社等からロイヤリティ収入の支払を受けているところ,このロイヤリティ収入は,アルガトロバンに関して支払われる収入であることに変わりはないから,被告と三菱ウェルファーマとの間の本件実施許諾契約の内容に関わりなく,被告が受けるべき利益の判断において考慮すべきである。
( )「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度」の判断において考3慮すべき事項ア考慮事情「使用者等が貢献した程度」は,原告の職務内容,本件発明がされた経緯だけでなく,本件発明の権利化の経緯,本件発明の事業化の経緯,実施許諾契約等の締結の経緯,原告の待遇等の諸事情を総合的に判断して定められるべきである。
これに反する原告の主張は,採用することができない。
イ他の発明での貢献原告は,アルガトロバンの物質特許1,2及び用途特許等についての原告の貢献を主張する。しかしながら,職務発明対価請求における訴訟物は各発明ごとに別であるから,上記物質特許等についての原告の貢献を本件発明についての貢献度の判断において考慮することはできないといわなければならない。なお,当裁判所も,本件アルガトロバン関連6発明の開発経緯等についての事実認定を行ったが,それは,本件発明を適切に位置付けるために必要であったものである。
( )自社実施期間(平成11年9月まで)における算定4ア超過売上高の算定前記1( )ウ(イ)b( )及び( )アのとおり,アルガトロバンは,大河内記念技術1b3賞を受賞するなど高く評価され,平成2年6月から平成11年9月までの被告の自社実施期間中の売上高は,第一製薬への原薬販売分を含めて,314億2140万円(年平均33億6000万円以上)であること,並びにアルガトロバンの物質特許1,2及び用途特許の存続期間満了後も後発医薬品の市場占有率は10%程度に留まるが,これは,他の医薬品の場合と同様に,被告が第一製薬と共に平成2年6月から平成12年7月に後発医薬品が発売されるまで約10年間市場を独占していた結果,それ以降も先発品メーカーとして市場における優位な地位を保持しているためであると考えられることからすると,上記の売上高のうち,被告が競業他社にアルガトロバン関連6発明及び本件発明の特許又はノウ・ハウとしての秘匿により得ることができた超過売上高は,その4割であると認めるのが相当である。
イ独占的利益の算定(ア)利益率算定方式の場合本件発明についての被告の独占的利益を算定する方法として,@利益率算定方式と,A仮想実施料率算定方式が考えられるが,原告は,利益率算定方式による粗利益率は94.8%であると主張する。
原告が自ら差し引く費用項目以外にも輸送費,販売関係費等が増加するものと考えられるから,原告の試算額をそのまま採用することはできないとしても,製薬産業においては研究開発費の比重が高いことを無視し,法定通常実施権による製造販売を超える部分につき損害額の推定における限界利益の考え方で製造に要する追加費用だけを算定すれば,原告の試算も,1つの試算としてはあり得ないものではない(ただし,後記ウ(イ)のとおり,被告の貢献度において,仮想実施料率算定方式における場合とは異なる被告の貢献度を認定することになる。)。
しかし,原告主張の試算を行うにしても,証拠が不足しており,粗利益率及びその他の差し引かれるべき費用の認定は困難であるから,利益率算定方式によれば,次の仮想実施料率算定方式の場合よりも高い試算額となり得ることを仮想実施料率算定方式による額の修正要素として取り上げるに止めることとする。
(イ)仮想実施料率算定方式の場合a仮想実施料率( )前記1( )イ(ア)で認定した本件実施許諾契約における実施料率,被告のa3他の契約における実施料率及び一般の実施料率からすると,被告と三菱ウェルファーマとの間の本件実施許諾契約で定められたアルガトロバンの製造販売全体についての実施料率が不合理であるということはできない。したがって,本件における仮想実施料率を3%として算定するのが相当である。
( )ここで,実施許諾を開始した平成11年度後半以降の利益の算定に当たbり採用すべき実施料率について判断しておくと,物質特許1,2が存続している平成15年度までは3%,それが期間途中で満了した平成16年度から本件特許の満了する平成29年までは1%として算定するのが相当である。
( )以上に反する原告の主張は,臨床試験を経て製造承認を得た医薬品につcいての実施許諾においては,化合物を合成し,動物での非臨床試験を通過したことにより得られた価値,その後に第1相,第2相,第3相の臨床試験をそれぞれ通過したことにより積み重ねられた価値,現実に審査を経て製造承認に至ったことにより更に積み重ねられた価値があることを十分区別していないものといわざるを得ず,採用することができない。
b成功確率による減額( )前記1( )ウ(イ)aのとおり,1つの新薬の開発には10年〜18年を要a1し,研究費は150〜200億円,対売上高比率でみると全産業の平均値の約3倍を要する上,その成功の確率も1万分の1未満であり,運良く臨床試験に到達したものであっても最終的に製造承認がされる確率は11〜13%であるといわれている。このような創薬事業に特有な事情は 「その発明により使用者等が受け ,るべき利益」の算定に当たっても,当然考慮されるべきであり,本件に現れた諸事情を考慮すれば,成功確率による減額として,上記試算額に90%の減額を行うべきである。
( )なお,本件発明は製造方法の発明であり,最終的に製造承認に至る確率bが低いとの事情が直接当てはまるものではないが,製造方法の対象であるアルガトロバンの価値が低ければ,当然その製造方法に関する本件発明も低く評価され, , る関係にあると認められるから 本件発明が製造方法の発明であることを理由に上記( )の減額をすべきではないと認めることはできない。
a( )被告は 「相当の対価」を算定する上で考慮すべき「使用者等の受ける c ,」, , べき利益 とは 現実に使用者が受け取った実施料等の利益額そのものではなくこれら現実に使用者が受け取った実施料等の利益額を参考として権利の承継時に立ち返って「受けるべき利益」として再評価すべきである,現実に使用者が受け, 取った利益も権利承継時においては実現するかどうか不明の不確実な事実でありそのことを正当に評価反映すべきである旨主張する。その基本的趣旨は採用することができるが,被告の主張する具体的数値は,厳し過ぎるものであり,採用することができない。
c本件発明の寄与度( )前記1( )イ(ア)aのとおり,本件実施許諾契約は,本件発明以外のアルa3ガトロバン関連6発明の特許や商標権等も対象となっていること 前記1( )ウ(イ), 1cのとおり,本件発明は製造方法の発明であり,物質特許等との比較において重要度は下がると認めざるをえないことなどを考慮すると,物質特許1,2が存続していた自社実施期間における本件発明の寄与度を20%と認めるのが相当である。
( )ここで,実施許諾を開始した平成11年度後半以降の利益の算定に当たbり採用すべき本件発明の寄与度について判断しておくと,物質特許1,2につき特許期間が満了していなかった平成15年度までは20%,それ以降は100%であると認めるのが相当である。
d中間利息の控除後記( )ウのとおり,試算に当たっては,平成9年8月を基準として将来分につ5き年5分の割合による中間利息を控除すべきである。
ウ被告の貢献度(ア)実施料算定方式の場合a前記1に認定のとおり,@被告が医薬事業を開始したばかりの揺籃期において,原告の高い能力及び技術が本件発明の完成に大きく貢献していること,A他方,原告は,昭和40年に化学会社である被告に入社して以来,研究の仕事, , に従事し 昭和47年からは合成班のグループリーダーとして創薬研究に従事し本件発明は原告の職務の遂行そのものの過程でされたものであること,B立場の違いにより貢献度の評価が異なるとしても,原告は,被告に蓄積されていた化学会社としての知識及び技術並びに物質特許1,2及び用途特許等を利用し,被告の設備を使用して,被告の研究者等のスタッフの助力を得て,本件発明を完成し, , たものであること C被告は本件発明の権利化にさほど熱心ではなかったところ原告が特許出願を勧め,自ら明細書等の作成を行い,審査請求も,請求期間満了直前に原告が催促して行わせたものであること,D被告の三菱ウェルファーマとの実施許諾契約の締結や,三菱ウェルファーマの米国企業との独占販売契約の締結は,被告や三菱ウェルファーマの経営努力によるところが大きいこと,E原告は,被告において研究開発の要職を歴任し,役員待遇の理事役となり,退職時には正規の慰労金の1割相当額の特別加給を受け,その後も関連会社で常務取締役を務めるなど恵まれた処遇を受けていること等の諸事情を総合すると,被告が貢献した程度を75%と認めるのが相当である。
なお,前記イ(イ)bの成功確率による減額の点を被告の貢献度の中で考慮すべきであるとの考え方もあり得るところであり,その場合の被告の貢献度は97.5%である。
bこの貢献割合は,実施権付与期間における算定においても同様に当てはまるものである。
(イ)利益率算定方式の場合被告は,被告の利益は会社資本(設備,費用),人(従業員),特許権が相まって生まれるものであり,被告のアルガトロバン関連の利益に対するすべてのアルガ。 トロバン関連特許発明全体の寄与割合は多くとも3分の1にすぎない旨主張する事業化は,被告が事業化の危険を負担した上,自らの会社資本(設備,費用)及び人(従業員)を投入して行ったものであるから,それに対応する利益が被告に帰属し,実施料算定方式による場合以上に被告の貢献度を高く認定すべき理由となることは当然であり,被告の上記主張は,基本的に採用することができる。
エまとめ以上によれば,平成11年9月までの自社実施期間における試算額は,仮想実施料率算定方式によった場合,別紙13「裁判所認定対価算定表」の「自社実施分」欄に記載のとおり,約183万円となる。
同期間につき利益率算定方式で試算すれば,より高い試算額となる。
( )実施権付与期間における算定5ア売上高(ア)三菱ウェルファーマの正味販売高は,将来分の推定を含め,前記1( )イ3(イ)のとおりである。
(イ)三菱ウェルファーマがエンサイシブ・ファーマシューティカルズ社等から受け取ったロイヤリティ収入の額及びそれを被告が受けるべき利益の判断において考慮すべきであることは,前記1( )イ(イ)b( )及び2( )エ(ウ)で説示したと3d2おりである。
実施料率,成功確率による減額,本件発明の寄与度前記( )イ(イ)a( ),b及びc( )のとおり,実施料率を平成15年度までは34bb%,平成16年度から平成29年度までは1%,成功確率による減額を90%,本件発明の寄与度を平成15年度までは20%,それ以降は100%と認めるのが相当である。
ウ中間利息の控除試算に当たっては,前記( )アのとおり,本件発明について特許出願がされた平2成9年8月1日が本件における相当の対価の算定基準時期となるから,その時を基準として将来分につき年5分の割合による中間利息を控除すべきである。
エ被告の貢献度前記( )ウ(ア)bのとおり,被告が貢献した程度を75%と認めるのが相当であ4る。
オまとめ以上によれば,平成11年10月から平成29年7月までの実施権付与期間における試算額は,別紙13「裁判所認定対価算定表」の「三菱WP」欄に記載のとおり,約957万円となる。
( )試算のまとめ6ア自社実施期間につき実施料算定方式によった場合,その試算額は約183万円となり,実施権付与期間においては,試算額は約957万円となり,その合計額は約1140万円となる。また,自社実施期間につき利益率算定方式で算定すれば,183万円よりも高い試算額となる。
イ以上の試算額及びその他本件に現れた事情(本件発明の優先権主張の基礎となった発明の特許出願に対する補償金の支払の点を含む。)を考慮すると,本件における相当な対価を1200万円と認めるのが相当である。
よって,被告は,原告に対し,職務発明譲渡の対価1200万円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成17年7月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務がある。
3結論以上によれば,原告の主位的請求は主文第1項の限度で理由があり,その余の主位的請求は理由がないので棄却することとし,仮執行宣言については,相当と認め,これを付することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 市川正巳
裁判官 大竹優子
裁判官 杉浦正樹