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関連審決 不服2004-13739
関連ワード 有用性 /  製造方法 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  周知技術 /  上位概念 /  技術常識 /  援用権(援用) /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  業として /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  減縮 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10766号 審決取消請求事件
原告株式会社星野産商
訴訟代理人弁理士宇佐見忠男
被告特許庁長官肥塚雅博
指定代理人唐木以知良,宮川哲伸,山口由木,森山啓
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/07/19
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1原告の求めた裁判「特許庁が不服2004-13739号事件につき平成17年9月5日付でした審決を取り消す 」との判決。。
第2事案の概要本件は,原告が,下記1(1)の特許出願(以下「本件特許出願」という )につい。
てされた拒絶査定に対して,同1(2)のとおり不服審判請求等をしたところ,特許庁は上記審判請求は成り立たないとしたため,原告が,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(甲1,2,9,10)(1)本件特許出願出願人:原告発明の名称: アスファルト混合物」 「出願日:平成13年11月14日出願番号:特願2001-348443号(2)拒絶査定及び不服審判請求等の手続手続補正日:平成16年4月21日拒絶査定日:平成16年5月24日手続補正日:平成16年7月1日(以下「本件補正」という )。
審判請求日:平成16年7月1日(不服2004-13739号)審決日:平成17年9月5日審決の結論: 本件審判の請求は成り立たない 」 「 。
審決謄本送達日:平成17年9月28日2本件特許出願に係る発明の要旨審決は,本件補正に係る発明(以下,審決と同様に「補正発明」という )につ。
いて,同発明は特許法29条2項により特許出願の際独立して特許を受けることができるものに当たらないとして本件補正を却下する決定をした(なお,原告はこの補正却下決定については争っていない )上で,平成16年4月21日付け手続補 。
正書の「 特許請求の範囲 【請求項1 」に記載された下記の発明(以下「本願発 【】】明」という )について補正却下決定の理由を援用して前項(2)の審決をしたもので 。
ある。そこで,理解の便のため,補正発明に係る請求項1も併せて掲げておく。
(1)本願発明「急冷改質処理された硬質電気炉酸化スラグ粒状物である硬質骨材にアスファルトを添加したことを特徴とする舗装用アスファルト混合物」(2)補正発明「急冷改質処理され比重が3.3〜4.1の範囲にある硬質電気炉酸化スラグ粒状物である硬質骨材にアスファルトを添加したことを特徴とする滑り抵抗性舗装用アスファルト混合物」3審決の理由の要旨審決は,本願発明は下記@ないしBの引用文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとしたものであり,審決の理由は以下のとおりである(審決は,本件補正却下決定の理由を援用しているので,同決定の理由部分を含めて以下に掲記する。なお,審決中,略称並びに章の番号及び記号については,本 。)判決で指定するものに改めた部分がある。
引用文献@「アスファルト舗装要綱 (9版,社団法人日本道路協会,平成7年6月20日 」発行,p.60〜63,p.89〜99。以下「引用文献1」という )。
A「特開2001-305277号公報 (以下「引用文献2」という ) 」 。
B「特開平10-15523号公報 (以下「引用文献3」という ) 」 。
「(1)手続の経緯本願は,平成13年11月14日の出願であって,平成16年5月24日付で拒絶査定がなされ,これに対し,同年7月1日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同日付で本件補正がなされたものである。
(2)本件補正却下の決定[補正却下の決定の結論]本件補正を却下する。
[理由]ア補正発明本件補正により,特許請求の範囲減縮を目的として請求項1は,「急冷改質処理され比重が3.3〜4.1の範囲にある硬質電気炉酸化スラグ粒状物である硬質骨材にアスファルトを添加したことを特徴とする滑り抵抗性舗装用アスファルト混合物」と補正された。
そこで,補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。
イ引用刊行物拒絶査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された刊行物である 「アスファルト,舗装要綱 ,9版,社団法人日本道路協会,平成7年6月20日発行,p.60〜63,p. 」89〜99(引用文献1)には ・・・3)鉄鋼スラグの品質は ・・・砕石の値を準用する。 ,「( ,また,粒度についても砕石の粒度に準ずる・・・・・・7)アスファルト混合物に用いる 」,「(鉄鋼スラグは,主に製鋼スラグを素材とし,加熱アスファルト混合物に用いる骨材として製造したものである・・・10)製鋼スラグのうち電気炉スラグは ・・・・・・ 4-5 。」,「( ,」,「基層および表層用加熱アスファルト混合物の配合設計」において ・・・ 4-5-2配合 ,「設計の手順」の項・・・に「8)製鋼スラグなど比重の大きな骨材を用いた混合物は,通常の天然骨材を用いた混合物に比べて,アスファルト量が1%程度少なくなる・・・ 9)アス 。」,「ファルト混合物に用いる製鋼スラグの規格は「3-5-5鉄鋼スラグ」に示すが ・・・試,験の詳細については 「舗装試験法便覧」を参照する 」と記載されており,ここで記載されて , 。
いるアスファルト混合物は,当然,舗装用アスファルト混合物であるから,これらの記載を参照すると,引用文献1には 「比重の大きな製鋼スラグである電気炉スラグ粒状物を用いる骨 ,材にアスファルトを添加した舗装用アスファルト混合物」という発明が記載されていると認めることができる。
同,特開2001-305277号公報(引用文献2)には ・・・ 電気炉酸化スラグ骨材 ,「は大重量であるから構造体に放射線遮蔽性を付与し,かつ制振,遮音性を与える・・・ ま。」,「た該溶解物から細骨材を製造するには,通常該溶解物を高速回転する羽根付きドラムに注入し,該溶解物を該羽根付きドラムによって破砕粒状化し,粒状化した該溶融物を水ミスト雰囲気中で急冷処理する方法が採られる。該羽根付きドラムは複数個配置して複数段の破砕粒状化を行なってもよい。このようにして得られる細骨材は通常5 mm 以下の粒径を有し,粒径2.5 mm以下のものは略球状であり,表面に微細な凹凸を有する優れた形状のもので・・・・・・」,「更に本発明ではコンクリート躯体や外壁材,内壁材等の構造体の表面に電気炉酸化スラグ骨材を混合した樹脂材料および/または瀝青質を被覆してもよい ・・・瀝青質としては,スト 。
レートアスファルト,ブロンアスファルト,タール,ピッチ等が使用され・・・実施例,」,「〔1 (細骨材の製造)4.5トンの電気炉酸化スラグ(1)を図1に示す電気溶解炉(2)に 〕投入し,更に鉄スクラップとして1.5トンの銑ダライを加えてランス管(4)から酸素を吹精しつつ加熱溶解し,得られた溶解物(1A)を図2に示すように取鍋(5)からシューター(6)に移し,該シューター(6)から高速回転する羽根付きドラム(7,8)に注入する。
該溶解物(1A)は該羽根付きドラム(7,8)によって細破砕されて粒状化し,該溶解物(1A)の粒化物(1B)は急冷チャンバー(9)内にスプレー装置(10)からスプレーされる水ミストによって急冷される。そしてこのようにして得られた細骨材(11)は備蓄容器(12)内に備蓄される。該細骨材(11)は略球状であり平均粒径が1.2 mm である。該細骨材の主要な鉱物組成はウスタイトおよびマグネタイトであり,不安定な鉱物が含まず,耐久性がありかつ耐蝕性もある・・・ 該細骨材(11)の物理的性質の1例を表2に示 。」,「す,表2に「表乾比重4.32」と,特に図2とともに記載されている。 。」また,査定時に周知例として提示された,特開平10-15523号公報(引用文献3)には,重量骨材に関し ・・・従来の技術】従来,細骨材として川砂,ケイ砂,砕砂等の天然 ,「【資源が用いられて来たが,上記天然資源の確保が次第に困難となり,それに代えて電気炉酸化スラグ粒化物を細骨材として使用することが検討されている。上記電気炉酸化スラグ粒化物は不安定な遊離石灰,遊離マグネシア,あるいは鉱物を含まず,耐久性および耐蝕性を有し,また重量が大であるから製品に制振遮音性を与える 【発明が解決しようとする課題】最近,制 。
振性,遮音性,放射線シールド性,透磁性等を有するコンクリート製品,プラスチック製品,ゴム製品,粘土製品等が脚光を浴びており,更に大重量高比重の骨材に対するニーズが高まっている 【課題を解決するための手段】本発明は上記課題を解決するための手段として,電気 。
炉酸化スラグに高比重元素およびまたは高比重元素化合物を添加溶解し,冷却化そして粒化した重量骨材を提供するものである。本発明において使用する高比重元素とは比重が7以上の元素であり,このような元素としては,Fe,Co,Cu,Zn,Pb等が例示され,該高比重元素の化合物としては上記元素の酸化物,水酸化物,塩化物等が例示される。望ましい高比重元素またはその化合物としては鉄,銅,鉄スクラップ,鉄酸化物,鉛ドロス等がある・・。」,・ また該溶解物から細骨材を製造するには,通常該溶解物を高速回転する羽根付きドラムに 「注入し,該溶解物を該羽根付きドラムによって破砕粒状化し,粒状化した該溶融物を水ミスト雰囲気中で急冷処理する方法が採られる。該羽根付きドラムは複数個配置して複数段の破砕粒状化を行なってもよい。このようにして得られる細骨材は通常5 mm 以下の粒径を有し,粒径2.5 mm 以下のものは略球状であり,表面に微細な凹凸を有する優れた形状のもので・・・〔実施例〕4.5トンの電気炉酸化スラグ(1)を図1に示す電気溶解炉(2)に投入し,更に鉄スクラップとして1.5トンの銑ダライを加えてランス管(4)から酸素を吹精しつつ加熱溶解し,得られた溶解物(1A)を図2に示すように取鍋(5)からシューター(6)に移し,該シューター(6)から高速回転する羽根付きドラム(7,8)に注入する。該溶解物(1A)は該羽根付きドラム(7,8)によって細破砕されて粒状化し,該溶解物(1A)の粒化物(1B)は急冷チャンバー(9)内にスプレー装置(10)からスプレーされる水ミストによって急冷される。そしてこのようにして得られた重量細骨材(11)は備蓄容器(12)内に備蓄される。該重量細骨材(11)は略球状であり平均粒径が1.2 mm である。該重量細骨材の主要な鉱物組成はウスタイトおよびマグネタイトであり,不安定な鉱物が含まれないから耐久性がありかつ耐蝕性もある・・・ 該重量細骨材(11)の物理的性質を表2 。」,「に示す,表2に「表乾比重4.32」と,特に図2とともに記載されている。 。」ウ対比補正発明と引用文献1記載の発明とを比較すると,引用文献1記載の発明の「比重の大きな製鋼スラグである電気炉スラグ粒状物」と,補正発明の「急冷改質処理され比重が3.3〜4., , 1の範囲にある硬質電気炉酸化スラグ粒状物」とは 「比重の大きな電気炉スラグ粒状物」で共通しているから,両者は 「比重の大きな電気炉スラグ粒状物である骨材にアスファルトを ,添加した舗装用アスファルト混合物」の点で一致し,以下の点で相違している。
相違点1:アスファルトに添加する骨材である比重の大きな電気炉スラグ粒状物が,補正発明では,急冷改質処理され比重が3.3〜4.1の範囲にある硬質電気炉酸化スラグ粒状物であるのに対して,引用文献1記載の発明では,比重の大きな製鋼スラグである電気炉スラグ粒状物である点。
相違点2:舗装用アスファルト混合物が,補正発明では,滑り抵抗性を有するのに対して,引用文献1記載の発明では,そのような限定はされていない点。
エ判断相違点1について検討する。
引用文献2をみると,引用文献2には,アスファルトに添加する細骨材として,補正発明の硬質電気炉酸化スラグ粒状物と同様に,急冷処理された,従って当然硬質の電気炉酸化スラグ粒状物である硬質骨材が記載されており,また,引用文献3にも,添加する相手にアスファルトは例示されてされてはいないが,同様に,急冷処理された硬質電気炉酸化スラグ粒状物である硬質骨材が記載されている。ただし,いずれの硬質骨材も例示されている比重は4.32である。ここで,本願の明細書をみると,補正発明の比重について,段落【0006】に「該電気炉酸化スラグ粒状物(8)は比重が3.3〜4.1であって重量が大であり,これを用いたアスファルト混合物は重量効果によって優れた制振性を有し,かつ遮音性,吸音性にも優れる,段落【0008】に「電気炉酸化スラグには,比重を高めるために所望なれば高比重金 。」属粉末や高比重金属酸化物が添加されてもよい,段落【0010】に「このようにして得ら 。」れる電気炉酸化スラグの粒状物(8)は・・・,高比重金属粉末や高比重金属酸化物が添加されていない場合,比重は3.3〜4.1の範囲にあり 」と記載されており,一方,上記引用 ,文献2,3に記載されている硬質骨材は,いずれも,電気炉酸化スラグに鉄スクラップを加えて,より大きな4.32という比重にしているが,鉄スクラップが添加されていない場合の比重は,補正発明と同様な範囲にあると解される。さらに必要なら,補正発明や引用文献2,3に記載されている硬質骨材と同様に,急冷処理された硬質電気炉酸化スラグ粒状物であり,アスファルトに添加する細骨材である,比重3.3〜3.8の硬質電気炉酸化スラグ粒状物が,特開2000-178470号公報【0013【0018 ,特開2000-178380 】,】号公報【0012【0013】に記載されており,参照されたい。 】,そして,引用文献1記載の発明のアスファルトに添加する骨材として,引用文献2,3に記載されている硬質骨材を採用することは,当業者が容易に想到しうる程度のことにすぎない。
次に,相違点2について検討する。
本願の明細書をみると,補正発明の滑り抵抗性について,段落【0005】に「本発明の電気炉酸化スラグ粒状物(8)はスラグ成分のマトリクス内に鉱物相が分散した構造を有しているが,急冷改質処理を行うと ・・・水砕スラグの場合は表面に鉱物相が突出して微細な凹凸 ,が形成され,また粉砕スラグの場合にはスラグ成分のマトリクスと鉱物相との境界で破断するためにやはり表面に微細な凹凸が形成され,良好な滑り抵抗性をアスファルト混合物に付与する 」と記載されている。一方,引用文献2,3に記載されている硬質骨材も,同様に,急冷 。
処理され,表面に微細な凹凸を有するから,上記相違点1について検討したように,該硬質骨材を引用文献1記載の発明のアスファルトに添加する骨材として採用して舗装用アスファルト混合物とすれば,当然,良好な滑り抵抗性を舗装用アスファルト混合物に付与することになる。
したがって,補正発明は,引用文献1〜3記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
オむすび以上のとおり,本件補正は,特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
(3)本願発明について本件補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1〜3に係る発明は,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。
「 請求項1】急冷改質処理された硬質電気炉酸化スラグ粒状物である硬質骨材にアスファル 【トを添加したことを特徴とする舗装用アスファルト混合物【請求項2【請求項3 (記載を省略・・・ 】,】)」ア引用刊行物(。 原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物の記載事項は,前記・・・ の)とおりであるイ対比・判断本願発明は ・・・補正発明を特定するために必要な事項である限定事項を削除したもので ,あって,本願発明を特定するために必要な事項を全て含み,さらに他の限定事項を付加したものに相当する補正発明が ・・・・引用文献記載の発明および周知技術に基づいて,当業者が ,容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用文献1〜3記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
ウむすび以上のとおり,本願発明は,引用文献1〜3記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は,拒絶されるべきものである 」。
第3当事者の主張1審決取消事由の要点(1)取消事由1(本願発明と引用文献1記載の発明との一致点及び相違点の認定の誤り)審決は引用文献1(甲3)の「電気炉スラグ粒状物」と本願発明の硬質電気炉酸化スラグ粒状物とは共通しているとする。
しかし,上記認定判断は誤りである。すなわち 「電気炉酸化スラグ利用研究準 ,備委員会報告書 (甲6)に記載されるとおり,電気炉スラグには酸化スラグと還 」元スラグとがあり,電気炉製鋼にあっては,酸化精錬過程とそれに続く還元精錬過程とがあり,酸化精錬過程において発生するスラグが酸化スラグであり,還元精錬過程において発生するスラグが還元スラグである。そして酸化スラグと還元スラグの割合は平均すると約6:4である。そして酸化スラグは還元スラグと異なり遊離石灰が少ない。
従来,酸化スラグと還元スラグとは分離することなく利用されている。引用文献1には「鉄鋼スラグのうち電気炉スラグは,転炉スラグに比べて遊離石灰が少なく膨張性が小さい。したがって,電気炉スラグは3か月以上エージングを行い水浸膨張比が0.6%以下であれば,施工実績などを参考にして使用するとよい 」との。
記載があり 「鉄鋼スラグの特性と有用性 (甲7)の製鋼スラグの項の記載からす , 」ると,電気炉スラグを3か月以上エージングを行なう目的は,電気炉スラグの主として還元スラグに由来する遊離石灰を空気及び水と反応させて実用上問題のないところまで膨張を抑制することにあることがわかるから,引用文献1で電気炉スラグと称しているのは,酸化スラグと還元スラグの両者を含む概念である。
引用文献1の電気炉スラグは,エージングを行なったとしても,引用文献1記載のようにアスファルト用骨材としては使用出来るものの,コンクリート骨材としては不適であるが,本願発明の酸化スラグは,遊離石灰がほとんど含まれないので,エージングの必要はなく,そのままコンクリート用骨材として使用できる。
したがって,引用文献1に記載された電気炉スラグは本願発明の電気炉酸化スラグと共通しているという審決の認定は誤りであり,この相違は,相違点3として,「引用文献1記載の発明の電気炉スラグは還元スラグを4割程度含むのに対して本願発明の電気炉酸化スラグは還元スラグを実質的に含まない点」を入れるべきである。
(2)取消事由2(相違点1についての判断の誤り)引用文献2の発明に使用する電気炉酸化スラグ粒状物が,本願発明において使用する電気炉スラグ粒状物と同様なものであることは認める。しかし,引用文献2にあっては,上記電気炉酸化スラグ粒状物が表面に微細な凹凸を有することは記載されているものの,上記電気炉酸化スラグ粒状物は透磁性材料あるいは放射線遮蔽材料として使用されており,滑り抵抗性舗装用アスファルトの硬質骨材として使用され得ることについての開示は全くされていない。
上記電気炉酸化スラグ粒状物がアスファルトに良好な滑り抵抗性を付与するのは,単に表面に微細な凹凸を有するばかりでなく,スラグ成分のマトリクスでもモース硬度6程度,鉱物相はモース硬度が8程度のエメリーに匹敵する高硬度であり,高い耐摩耗性と破砕抵抗性を有し,水砕スラグ,粉砕スラグ共に粒状物表面(破断面)に硬質な鉱物相が突出(露出)して「いが形状」を形成していることにある。
引用文献2には,前記のとおり,電気炉酸化スラグ粒状物は表面に微細な凹凸を有することは開示されてはいるものの,滑り抵抗性にとって重要な上記特性についての記載は皆無であり,電気炉酸化スラグ粒状物がアスファルトに対して良好な滑り抵抗性を付与することを示唆または暗示する記載は全く存在しない。
引用文献3の発明に使用する電気炉酸化スラグ粒状物が,本願発明において使用する電気炉酸化スラグ粒状物と同様なものであることは認める。しかし,引用文献3にあっては,電気炉酸化スラグはコンクリート,プラスチック,ゴム,粘土等に制振性,遮音性,放射線シールド性,透磁性を付与するための重量骨材として使用されており,滑り抵抗性舗装用アスファルトの硬質骨材として使用され得ることについては全く開示がされておらず,上記用途に対して望ましい特性,即ち高硬度,高耐摩耗性,高破砕抵抗性,そして表面に硬質な鉱物相が突出(露出)している「いが形状」を該電気炉酸化スラグが有していることを示唆または暗示する記載は全く存在しない。
すなわち,引用文献2,3には電気炉酸化スラグ粒状物が本願発明の用途に適するものであることについての示唆または暗示が皆無であり,また引用文献1のアスファルトに添加する骨材である電気炉スラグも,本願発明の電気炉酸化スラグと共通するものではないので,引用文献1記載のアスファルトに添加する骨材として,引用文献2,3に記載されている硬質骨材を採用することは,当業者にとって容易に想到し得る程度のこととはいえない。
(3)取消事由3(相違点2についての判断の誤り)引用文献2,3には電気炉酸化スラグ粒状物が本願発明の用途に適するものであることについての示唆または暗示が皆無であるから,引用文献2,3記載の骨材をアスファルトに添加した場合に良好な滑り抵抗性を付与することは,当業者にとって予期することはできない。
2被告の反論(1)取消事由1(本願発明と引用文献1記載の発明との一致点及び相違点の認定に誤り)について鋼製スラグは,転炉スラグと電気炉スラグに大別され,さらに電気炉スラグは酸化スラグと還元スラグに分けられることから,電気炉スラグは酸化スラグの上位概念である。
審決においては 「引用文献1記載の発明の『比重の大きな製鋼スラグである電 ,気炉スラグ粒状物』と,本願発明の『急冷改質処理され比重が3.3〜4.1の範囲にある硬質電気炉酸化スラグ粒状物』とは 『比重の大きな電気炉スラグ粒状 ,物』で,共通している (審決4頁15〜18行)と述べているように,引用文献 」1記載の「電気炉スラグ」と本願発明の「電気炉酸化スラグ」とを,両者の上位概念である「電気炉スラグ」の点で共通しているとしただけである。
審決の上記個所は,原告が主張するように引用文献記載の「電気炉スラグ」は本願発明の「電気炉酸化スラグ」と共通しているとしたわけではないから,原告の主張は失当である。
(2)取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について本件特許出願前に公知である甲6に「電気炉スラグは酸化スラグと還元スラグに分けられる ・・・これらのうちの電気炉酸化スラグについては製鋼法の改善がな 。
され,上記の遊離石灰などの含有量が少なくなり,コンクリート用骨材として活用できる可能性が増してきた。しかし ・・・電気炉還元スラグについては,遊離石 ,灰などが多量に含まれ,依然としてコンクリート用骨材として利用することは困難である(12頁2〜10行)と記載され,甲8において,コンクリート用スラグ 。」骨材に関して 「3.5還元スラグの混入防止・・・還元スラグが電気炉酸化ス ,ラグ骨材中に混入した場合,コンクリート品質に重大な影響を与える。したがって,・・・”電気炉酸化スラグ骨材の全製造工程において,還元スラグが混入しない対策が講じられた工場で製造されたものに限定する ”ことを規定した(21頁2 。。」1〜25行)と記載されているように,土木建築分野で用いられる骨材として電気炉スラグを採用する場合に,遊離石灰などが多量に含まれる電気炉還元スラグが不適であることは,当業者にとって自明な事項である。
したがって,引用文献1記載の電気炉スラグとして,遊離石灰などが多量に含まれる電気炉還元スラグを避けて,遊離石灰などの含有量が少ない電気炉酸化スラグを用いるのが望ましいことは,当業者にとって明らかである。
また,審決では特に引用していないものの,引用文献1(甲3)には「4-5・・・アスファルト混合物の配合設計」の「4-5-1概説」の項において,安定性,耐久性,滑り抵抗性,耐流動性及び耐摩耗性に優れた混合物となるような対策を取ること(89頁)が記載されているように,アスファルト混合物において,良好な滑り抵抗性等を付与することは,当業者にとって自明の課題であるから,骨材として,更に良好な滑り抵抗性等のあるものを適宜選択して採用しようとすることは,当業者であれば当然考慮すべきことである。そして,本願発明と同一技術分野に属する引用文献2,3に記載されている「表面に微細な凹凸を有する (両引用文献」とも段落【0007】参照)電気炉酸化スラグの骨材が,良好な滑り抵抗性を備えていることは自明である。したがって,電気炉スラグを骨材とした引用文献1記載の発明において,更に良好な滑り抵抗性を得るために,引用文献2,3に記載されているような「表面に微細な凹凸を有する」電気炉酸化スラグを採用してみようとすることは,当業者であれば容易に想到しうる程度のことにすぎない。
ちなみに,本件補正に係る手続補正書における明細書の記載によると,本願発明は,骨材を電気炉酸化スラグとすることにより,良好な滑り抵抗を付与すること(段落【0005 )のみならず,強固に結着,制振性,遮音性,及び,吸音性に 】も優れるアスファルト混合物を得ること(段落【0006 )も,発明の作用効果 】とするものであることが認められる。一方,引用文献1には 「4-5基層およ,び表層用加熱アスファルト混合物の配合設計」の項において,耐久性に優れ,すべり抵抗性に優れ,耐摩耗性などの対策を取ること(89頁)と記載されており,また,骨材を急冷処理された電気炉酸化スラグとすることにより,引用文献2には,耐久性,制振性,及び,遮音性を有すること(段落【0005 )が,引用文献3】】, には,耐久性,耐摩耗性,制振性,遮音性を付与すること(段落【0010 )がそれぞれ作用効果として記載されている。そうすると,各引用文献には,耐久性,耐摩耗性を向上するという共通の技術的事項が記載されているといえるから,引用文献1記載の骨材(電気炉スラグ)として,引用文献2,3記載の電気炉酸化スラグを採用してみようとすることも,当業者であれば容易に思い付くことである。
したがって,引用文献1記載のアスファルトに添加する骨材として,引用文献2,3に記載されている硬質骨材を採用することが,当業者にとって容易に想到しうる程度のこととはいえないとした原告の主張は,失当である。
(3)取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について引用文献2及び引用文献3には,電気炉酸化スラグ粒状物が記載されているものの,滑り抵抗性を与えることは記載されていない。
しかし,引用文献1にも記載されているように,アスファルト混合物において良好な滑り抵抗性を付与することは,当業者にとって自明の課題であり,また,本願発明と同一技術分野に属する引用文献2,3に記載されている「表面に微細な凹凸を有する」電気炉酸化スラグの骨材が良好な滑り抵抗性を備えていることも自明である。したがって,引用文献1記載の発明に引用文献2,3に記載されているような骨材を採用すれば,結果的に,舗装用アスファルトに良好な滑り抵抗性を付与できることも当業者が予測しえたことといえる。
原告は 「上記電気炉酸化スラグ粒状物がアスファルトに良好な滑り抵抗性を付 ,与するのは,単に表面に微細な凹凸を有するばかりでなく,スラグ成分のマトリクスでもモース硬度6程度,鉱物相はモース硬度が8程度のエメリーに匹敵する高硬度であり,高い耐摩耗性と破砕抵抗性を有し,水砕スラグ,粉砕スラグ共に粒状物表面(破断面)に硬質な鉱物相が突出(露出)して「いが形状」を形成していることにある 」と主張するが,舗装用アスファルト混合物として耐摩耗性,破砕抵抗 。
性が要求されることは周知であり,また,本願発明は「急冷改質処理された硬質電気炉酸化スラグ」と限定されるに止まるのであるから,引用文献2,3の急冷処理された電気炉酸化スラグと相違しているとはいえない。
したがって,良好な滑り抵抗性を付与することが当業者にとって予期せざる効果である旨の原告の上記主張は失当である。
第4当裁判所の判断1取消事由1について原告は,審決は,引用文献1の「電気炉スラグ粒状物」と本願発明の「硬質電気炉酸化スラグ粒状物」とが共通していると認定判断したのは誤りであり,この結果,審決は一致点を誤認したと主張する。
そこで,検討するに,審決は,本願発明と引用文献1記載の発明を対比し,両者は 「比重の大きな電気炉スラグ粒状物である骨材にアスファルトを添加した舗装 ,用アスファルト混合物」の点で一致すると認定判断していることは,審決の「(2)ウ対比」の箇所の説示から明らかである。
(1)引用文献1記載の発明ア引用文献1(甲3)には次の記載がある。
(ア) 「鉄鋼スラグは,鉄鋼の製造過程で生産されるスラグを破砕したもので,…高炉スラグと,鋼の製造過程で生成される製鋼スラグに分けられる。また,…製鋼スラグは鋼の製造方法の違いによって,転炉スラグと電気炉スラグに分けられる(61頁(1)の項) 。」(イ) 「アスファルト混合物に用いる鉄鋼スラグは,主に製鋼スラグを素材とし,加熱アスファルト混合物に用いる骨材として製造したものである(62頁(7)。」の項)(ウ) 「製鋼スラグのうち電気炉スラグは,転炉スラグに比べて遊離石灰が少なく膨張性が小さい。したがって,電気炉スラグは3か月以上エージングを行い水浸膨張比が0.6%以下であれば,施工実績などを参考にして使用するとよい(62。」頁(10)の項)(エ) 「8)製鋼スラグなど比重の大きな骨材を用いた混合物は,通常の天然骨材を用いた混合物に比べて,アスファルト量が1%程度少なくなる。…9)アスファルト混合物に用いる製鋼スラグの規格は「3-5-5鉄鋼スラグ」に示すが,製鋼スラグの水浸膨張性については,マーシャル安定度試験用供試体を作製し,60℃の温水中に72時間浸し,大きなひびわれや供試体の崩壊の有無を観察することで大まかな判断をすることができる。試験の詳細については 「舗装試験法便覧」,を参照する(94頁8 ,9)項) 。」)イ以上によると,引用文献1には,@鉄鋼スラグは高炉スラグと製鋼スラグに分類され,さらに,製鋼スラグは鋼の製造方法の違いにより転炉スラグと電気炉スラグに分類されること,Aアスファルト混合物に用いる鉄鋼スラグは,主に比重の大きな製鋼スラグを素材として骨材に製造したものであること,B製鋼スラグとしては,遊離石灰がより少なく膨張性がより小さいことから,転炉スラグよりも電気炉スラグを使用することが好ましいことが記載されていると認められる。
以上によれば,引用文献1には 「比重の大きな電気炉スラグ粒状物である骨材 ,にアスファルトを添加した舗装用アスファルト混合物」の発明(以下「引用発明」という )が記載されているものと認められる。 。
(2)本願発明と引用発明の対比そこで本願発明についてみると,その請求項1は「急冷改質処理された硬質電気炉酸化スラグ粒状物である硬質骨材にアスファルトを添加したことを特徴とする舗装用アスファルト混合物」であるところ,電気炉酸化スラグは電気炉スラグの一種であり(甲6「電気炉酸化スラグ利用研究準備委員会報告書」平成11年10月20日,12頁2〜3行 ,審決はこれを上位概念である電気炉スラグとして把握し )た上,前記のとおり一致点の認定判断を行ったものであるから,その認定判断に誤りはないものというべきである。
原告は,引用発明に係る電気炉スラグ中には還元スラグが4割程度含まれるものであるのに対して本願発明に係る電気炉酸化スラグは還元スラグを実質的に含まないから,両発明の対比においては,この点が相違点として認定されるべきところ,審決はこれを看過していると主張する。
しかし,審決の上記認定は,本願発明と引用発明を「比重の大きな電気炉スラグ粒状物」である点で共通しているとしたにすぎす,本願発明が採用した「酸化スラグ」の構成については 「本願発明では,急冷改質処理された硬質電気炉酸化スラ ,グ粒状物であるのに対して,引用文献1記載の発明では,比重の大きな製鋼スラグである電気炉スラグ粒状物である点」を相違点1として認定しているのであるから,原告の主張する相違点は,相違点1に包含されているというべきである。
したがって,取消事由1についての原告の主張は失当である。
2取消事由2について引用文献2(甲4。特開2001-305277号公報)及び引用文献3(甲5。
特開平10-15523号公報)のそれぞれに記載された電気炉酸化スラグ粒状物が,本願発明に係る電気炉酸化スラグ粒状物と同一物であることについては,当事者間に争いがないところ,原告は,相違点1に係る本願発明の構成,すなわち,電気炉酸化スラグ粒状物を舗装用アスファルトの骨材として用いることの示唆は引用文献2,3にはないから,審決の相違点1に関する判断は誤りであると主張するので,以下,検討する。
(1)引用文献2の記載引用文献2には,次の記載があることが認められる。
「 作用】…電気炉酸化スラグ骨材は大重量であるから構造体に放射線遮蔽性を 【付与し,かつ制振,遮音性を与える。該電気炉酸化スラグ骨材は,不安定な遊離石灰,遊離マグネシア,あるいは鉱物を含まず,耐蝕性および耐久性を有する。
【発明の実施の形態】本発明を以下に詳細に説明する 〔電気炉酸化スラグ骨材〕 。
本発明の電気炉酸化スラグ(1)骨材を製造するには図1に示すように電気炉酸化スラグ(1)を電気溶解炉(2)に投入し,電極(3)に通電して該スラグ(1)を溶解し,酸素および/または空気を吹込んで該溶解物を冷却固化粉砕する。この場合は該溶解物を鋼板製の皿型容器内に通常20mm厚に注入し,水をスプレーして急冷した後クラッシャーで粉砕すれば粗骨材及び細骨材が製造される。…また該溶解物から細骨材を製造するには,通常該溶解物を高速回転する羽根付きドラムに注入し,該溶解物を羽根付きドラムによって破砕粒状化し,粒状化した該溶融物を水ミスト雰囲気中で急冷処理する方法が採られる。…このようにして得られる細骨材は通常5mm以下の粒径を有し,粒径2.5mm以下のものは略球状であり,表面に微細な凹凸を有する優れた形状のもので粒度分布はJIS-A5005コンクリート用砕砂の規格範囲にある(段落【0005】〜【0007 ) 。」 】「更に本発明ではコンクリート躯体や外壁材,内壁材等の構造体の表面に電気炉酸化スラグ骨材を混合した樹脂材料および/または瀝青質を被覆してもよい。…瀝青質としては,ストレートアスファルト,ブロンアスファルト,タール,ピッチ等が使用され,…瀝青質は二種類以上混合使用されてもよい(段落【0011 ) 。」】(2)本件特許出願時における電気炉酸化スラグの利用技術の進展状況ア「鉄鋼スラグの特性と有用性 (平成8年6月第7版,鐵鋼スラグ協会)と 」題する刊行物(甲7)には次の記載がある。
(ア) 「1.硬質,耐摩耗性道路用(アスコン骨材)近年,スパイクタイヤにaよる粉塵公害が大きな社会問題になっていますが,製鋼スラグが天然骨材に比べて,硬質かつ耐摩耗性に優れていることが認められ,これを骨材に用いたアスコンが各地の摩耗の激しい公道で使用されています(12頁)。」(イ) 「2.水硬性道路用(路盤材)近年,製鋼スラグ路盤材に関する研究がa進み,製鋼スラグ単味であるいは高炉スラグと混合して,路盤材として使われるようになりました。1)製鋼スラグ路盤材について鋼の精錬時に添加された生石灰の大部分は安定した鉱物となりますが,一部は未溶解のままスラグ中に残存します。この遊離石灰(フリーライム)が水と反応して製鋼スラグを膨張崩壊させることがあるため,従来は路盤用として使用されませんでした。現在では,エージング(破砕後,空気及び水と反応させること)によって実用上問題がないところまで膨張を抑制する技術が確立され,エージング後の試験によって安定性を確認すれば路盤用高炉スラグと同等の品質を有するものとして使用できるようになりました(12頁)。」」 , イ「電気炉酸化スラグ利用研究準備委員会報告書 (平成11年10月20日鉄鋼スラグ協会電気炉スラグ特別委員会,普通鋼電炉工業会,日本鉄鋼連盟)と題する刊行物(甲6)には次の記載がある。
(ア)「電気炉製鋼の過程で生成するスラグやダスト等を廃棄物ではなく 「環,境」の側面から価値のある資源として,有効に利用することは,電気炉業として極めて重要な責務である。電気炉製鋼副生物の中で,スラグは量的に最も多く,平成9年度には全国で369万トン生産しており,内約6割の218万トンが酸化スラグで残りが還元スラグである。現在,電気炉スラグは約80%が何らかの形で利用されているものの,残りは埋め立て地などに投棄されている。…従って,スラグ製品の新たな利用分野開拓が強く望まれているところである。スラグ製品として考えられる種々の用途の中で,コンクリート用骨材は,天然資源の枯渇化や自然保護政策による採種制限もあり,これへの利用が可能になれば社会的ニーズにも叶うことになる。従来,製鋼スラグは,遊離石灰を含んでいるため,コンクリート用骨材としては不適とされていた。しかし,製鋼スラグの中でも,電気炉酸化スラグは,電気炉還元スラグや転炉スラグと異なり遊離石灰は少なく,さらに,近年電気炉製鋼設備・操業の変化に伴い,スラグ中の遊離石灰,遊離マグネシアが残りにくい状況になっている。以上のことから,電気炉酸化スラグのコンクリート用骨材としての適性・性能に関する研究を進めつつある。普通鋼電炉工業会および日本鉄鋼連盟特殊鋼電炉会社は,平成6年末から平成7年にかけて,全加盟会社の酸化スラグサンプルについて,コンクリート用骨材としての基礎的物性試験および数種類のサンプルについてのコンクリート試験等を実施した。…これらを通じて,電気炉酸化スラグはコンクリート用骨材として利用できる可能性があり,…優位な骨材であることが立証されてきたが,これがコンクリート用骨材として認知され,使用されるようになるためには,学識経験者を中心とした公式の委員会による利用技術に関する調査研究と施工指針作成が必要である(1頁)。」(イ) 「このように電気炉酸化スラグには転炉スラグとは異なり,スラグ骨材自体及びスラグ骨材使用コンクリートのいずれにおいても,膨張・崩壊させるほどに大量には膨張性物質が含まれておらず,コンクリート用骨材としての耐久性上の問題は軽減している。なお,今後,製鋼法の改善がさらに進み,またスラグの冷却方法(急冷,徐冷など)の工夫によって,スラグの安定性・耐久性はいっそう向上する可能性がある(13頁)。」ウ以上によれば,平成8年6月当時において,製鋼スラグは,天然骨材より硬質,かつ,耐摩耗性に優れている長所を有するものとして,これを骨材として用いたアスコンが,各地の摩耗の激しい公道で使用されていたこと,製鋼スラグに含まれる遊離石灰等が製鋼スラグを膨張崩壊させるという技術的課題については,エージングによって実用上問題がないところまで膨張を抑制する技術が確立されたこと,平成11年10月当時においては,製鋼法の改善により,製鋼スラグのうち,電気炉酸化スラグは,遊離石灰や遊離マグネシウムの含有量が少なくなり,コンクリート用骨材としての利用の可能性が増してきたこと,スラグの冷却方法(急冷,徐冷など)の工夫によって,スラグの安定性・耐久性はいっそう向上する可能性があったことが認められ,製鋼スラグの利用技術の進展状況についてのこのような技術水準は,上記各刊行物の性格からみて,当業者には周知であったものと認められる。
エ以上を踏まえ,以下,相違点1の判断の当否について検討する。
(3)相違点1の容易想到性まず,舗装用アスファルト化合物に求められる品質についてみると,引用文献1には,表層用のアスファルト混合物の配合設計は,所定の品質の材料を用い,安定性と耐久性に優れ,敷きならし,締固めなどの作業性も高い混合物が得られるように行うものであり,すべり抵抗性に優れ,表面仕上げも容易な混合物となるように行われるものであることが記載されているから,これによれば,舗装用アスファルト混合物に求められる品質として,安定性,耐久性,すべり抵抗性等が求められていたことが認められる。
他方,本件特許出願前の平成8年ころには,製鋼スラグ中の遊離石灰等が水と反応して製鋼スラグを膨張崩壊させる欠点の克服が技術的課題として存在していたが,その後平成11年ころには電気炉酸化スラグには遊離石灰等の含有量が少なくなり,膨張崩壊の欠点が克服されつつあったことは前項に説示したとおりである。
製鋼スラグ中に含有される遊離石灰等の存在が前述した舗装用アスファルトに求められる品質と相容れないことは明らかなところであるから,当業者が遊離石灰等を含まない安定性,耐久性,すべり抵抗性に優れた引用文献2に記載された電気炉酸化スラグ粒状物である骨材をアスファルトと混合して使用することを想到することに格別の困難はないというべきである。
(4)以上のとおりであるから,取消事由2についての原告の主張は失当である。
3取消事由3について原告は,引用文献2,3に記載された電気炉酸化スラグ粒状物を,骨材としてアスファルトに添加した場合に,良好な滑り抵抗性を付与することまでは予測することができないと主張する。
しかし,本願発明は,「急冷改質処理された硬質電気炉酸化スラグ」と限定するだけであるから,電気炉酸化スラグ粒状物に関しては,原告が同一物と自認する引用文献2記載の電気炉酸化スラグ粒状物を使用する限り,マトリクスのモース硬度も鉱物相のモース硬度も,「いが形状」も,当然に同一であり,同じ用途に用いる限り,滑り抵抗性,耐摩耗性及び破砕抵抗性のいずれについても同一の効果を奏するものである。
そして,前記2(2)ウのとおり,製鋼スラグが,天然骨材に比べて,硬質かつ耐摩耗性に優れていることが認められ,これを骨材に用いたアスコンが各地の摩耗の激しい公道で使用されていることが技術常識となっている以上,引用発明に引用文献2に記載された電気炉酸化スラグ粒状物を使用すれば,耐摩耗性,破砕抵抗性に優れる舗装用アスファルト混合物となるであろうことは,当業者が十分に予測し得るところであるというべきである。
, また,前記2(1)によると,引用文献2に記載された電気炉酸化スラグ粒状物は表面に微細な凹凸を有し,細骨材として優れた形状のものであるから,これを引用発明に適用した場合には,この微細な凹凸の作用により,すべり抵抗性に優れた舗装用アスファルト混合物となるであろうことも,当業者の予測し得るところである。
したがって,取消事由3についての原告の主張も失当である。
第5結論以上の次第であるから,原告の請求は理由がなく,これを棄却すべきである。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 田中信義
裁判官 石原直樹
裁判官 杜下弘記