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関連審決 無効2005-80257
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  発明の詳細な説明 /  分割出願 /  参酌 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  訂正明細書 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10258号 審決取消請求事件
原告小橋工業株式会社
訴訟代理人弁理士小橋信淳,小橋立昌
被告株式会社ササキコーポレーション
訴訟代理人弁護士安原正之,佐藤治隆,小林郁夫,鷹見雅和
訴訟代理人弁理士安原正義
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/07/11
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が無効2005-80257号事件について平成18年4月21日にした審決を取り消す。
第2当事者間に争いがない事実1特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「農作業機の折り畳み方法及び農作業機」とする特許第3699460号の発明(平成9年4月25日に出願した発明の一部につき,平成15年9月18日分割出願をし〔以下「本件特許」という。〕,平成17年7月15日設定登録を受けた。)の特許権者である(甲15)。
被告は,同年8月29日,本件特許を無効とすることについて審判の請求をした(無効2005-80257号事件として係属)。原告は,同年11月11日,本件出願の願書に添付した明細書の請求項1,3及び発明の詳細な説明等について訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)をした(甲18)。特許庁は,本件無効審判請求について審理した結果,平成18年4月21日,「訂正を認める。特許第3699460号の請求項1〜3に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,同年5月2日,その謄本を原告に送達した。
2訂正後の明細書(甲15,甲18添付の全文訂正明細書。以下「本件訂正明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1ないし3に係る発明の要旨【請求項1】トラクタの後部に3点リンクヒッチ機構を介して農作業機の長さ方向中央部分を昇降可能に装着し,上記トラクタから農作業機の中央部分に動力を伝達すると共に,上記中央部分に対し,該中央部分から左右両側に延出している作業機部分を,それぞれ中央部分側に折り畳み可能とした農作業機において,上記農作業機は,該農作業機の本体フレームに支持されたシールドカバーの後端部に上端部が上下方向に回動自在に枢着されて砕土・代掻きされた土を受けるエプロンを背面側に備え,上記農作業機を中央部分と左右の作業機部分とに3分割し,上記中央部分は伝動ケースを設けてサイドドライブ形式とし,該中央部分から上記左右の作業機部分への動力を上記左右の作業機部分の折り畳み操作によって切断可能にし,該中央部分の左右の端部と左右の作業機部分の内端部とをそれぞれ回転支点によりほぼ180°回転可能に連結し,上記中央部分に対し上記左右の作業機部分を作業状態に展開した位置からほぼ180°回転させて中央部分側に折り畳み上記中央部分の背面と上記左右の作業機械部分の背面とを重ね合わせるようにすることで,上記中央部分のエプロンと上記左右の作業機部分のエプロンとが対面するように折り畳み可能としたことを特徴とする農作業機の折り畳み方法。
【請求項2】上記中央部分に対し上記左右の作業機部分を,作業状態に展開した位置からほぼ180°回転させて折り畳む際の上記中央部分と上記左右の作業機部分の対向端部が対向・離間する伝動軸にクラッチを設け,上記作業機部分の折り畳み操作により上記中央部分側から上記作業機部分への動力を切断することを特徴とする請求項1記載の農作業機の折り畳み方法。
【請求項3】トラクタの後部に3点リンクヒッチ機構を介して農作業機の長さ方向中央部分が昇降可能に装着され,上記トラクタから農作業機の中央部分に動力を伝達すると共に,上記中央部分に対し,該中央部分から左右両側に延出している作業機部分を,それぞれ中央部分側に折り畳み可能とし,上記中央部分と左右の作業機部分とに3分割した農作業機において,該農作業機の本体フレームに支持されたシールドカバーの後端部に上端部が上下方向に回動自在に枢着されて作業時に砕土・代掻きされた土を受けるエプロンを背面側に備え,上記中央部分は伝動ケースを設けてサイドドライブ形式とし,該中央部分から上記左右の作業機部分への動力を上記左右の作業機部分の折り畳み操作によって切断可能にし,該中央部分の左右の端部と左右の作業機部分の内端部とをそれぞれ回転支点によりほぼ180°回転可能に連結し,上記中央部分に対し上記左右の作業機部分を作業状態に展開した位置からほぼ180°回転させて中央部分側に折り畳み上記中央部分の背面と上記左右の作業機械部分の背面とを重ね合わせるようにした状態で,上記中央部分のエプロンと左右の作業機部分のエプロンとが対面するように折り畳み可能としたことを特徴とする農作業機。
(以下,請求項1ないし3に係る発明を,順に「本件発明1」ないし「本件発明3」という。)3審決の理由( ) 審決は,別添審決記載のとおり,本件発明1ないし3は,いずれも,特許法129条2項の規定に違反してされたものであるから,同法123条1項2号に該当し,無効とすべきであるとした。
( ) 審決の認定判断の要点2ア引用例(10頁18行目〜11頁11行目)特公昭57-1号公報(審判及び本訴の甲4。以下「刊行物2」という。)には,次の技術が記載されている。
「トラクタ機体後方に三点リンク機構を介して装着され,トラクタ機体側のPTO軸から伝達される動力により駆動される主ロータリ耕耘装置1を備えると共に,主ロータリ耕耘装置1の横方向外方に延長ロ一タリ耕耘装置15を回転自在に設けたロータリ耕耘装置であって,主ロータリ耕耘装置1は,その中央上部に配置されたギヤーケース2と,該ギヤーケース2の両側に装着された一対のサポートアーム3,4と,サポートアーム3の横方向外端に垂設されたチェーンケース5と,サポートアーム4の横方向外端に垂設されたサイドフレーム6と,チエーンケ-ス5及びサイドフレーム6の下端部間に軸受ケース7,8,端部軸9,10等を介して回転自在に支架された爪軸11と,この爪軸11に植設された多数の耕耘爪12と,ロータリカバー13等を備えて成り,その爪軸11は,上記トラクタ機体側のPTO軸から,自在接手軸,ギヤーケース2内のベベルギヤー機構,サポートアーム3内の駆動軸,チエーンケース5内のチェーン伝動機構を介して伝達されるように構成し,延長ロータリ耕耘装置15は,主ロータリ耕耘装置1のサポートアーム4の略延長上に位置するサポートアーム16と,主ロータリ耕耘装置1のサイドフレーム6と略同長さでかつ前記サポートアーム16の両端から下方に設けられた左右一対のサイドフレーム17,18と,主ロ-タリ耕耘装置1の爪軸11の延長上で該サイドフレーム17,18の下端部間に支持されかつ前記爪軸11に対して連動係脱自在とされた爪軸20と,該爪軸20の上方を覆うロータリカバー23とを備えると共に,延長ロータリ耕耘装置15の延長サイドフレーム17の上端を,主ロータリ耕耘装置1に対して,下方の延長位置と主ロータリ耕耘装置15上方の収納位置とに位置するように前後方向の枢支軸24によりほぼ180°上下回転自在に枢支し,収納位置にある延長ロータリ耕耘装置15を枢支軸24廻りに回動させ,主ロータリ耕耘装置1の横方向外方の延長位置にセットした時,延長ロータリ耕耘装置15側の耕耘軸27のスプライン雄部30が,主ロータリ耕耘装置1側の端部軸10のスプライン雄部14に外嵌して,爪軸11,傾斜爪軸19及び延長爪軸20が一体に連結されるように構成したロータリ耕耘装置において,道路走行等の運搬に際しては,延長ロータリ耕耘装置15を枢支軸24廻りに回動させて主ロータリ耕耘装置1の上方の収納位置に位置させるようにした延長ロータリ耕耘装置の収納方法。」(以下「引用発明」という。)イ本件発明1と引用発明との対比(16頁最終段落〜17頁第3段落)(ア) 一致点「トラクタの後部に3点リンクヒッチ機構を介して農作業機の長さ方向中央部分を昇降可能に装着し,上記トラクタから農作業機の中央部分に動力を伝達すると共に,上記中央部分に対し,該中央部分から延出している作業機部分を,中央部分側に折り畳み可能とした農作業機において,上記中央部分は伝動ケースを設けてサイドドライブ形式とし,該中央部分から上記作業機部分への動力を上記作業機部分の折り畳み操作によって切断可能にし,該中央部分の端部と作業機部分の内端部とを回転支点によりほぼ180°回転可能に連結し,上記中央部分に対し上記作業機部分を作業状態に展開した位置からほぼ180°回転させて中央部分側に折り畳み可能とした農作業機の折り畳み方法。」(イ) 相違点a「作業機部分を中央部分側に折り畳み可能とした農作業機の形態に関して,本件発明1は,『農作業機を中央部分と左右の作業機部分とに3分割し,』中央部分から延出している作業機部分が『中央部分から左右両側に延出している』ものであるのに対して,引用発明は,そのような3分割の構成としていない点。」(以下「相違点1」という。)b「本件発明1が『農作業機は,該農作業機の本体フレームに支持されたシールドカバーの後端部に上端部が上下方向に回動自在に枢着されて砕土・代掻きされた土を受けるエプロンを背面側に備え』るのに対して,引用発明は,ロータリカバー13等を備えるものの,そのようなエプロンを備えているかが明らかでない点。」(以下「相違点2」という。)c「作業機部分を中央部分側に折り畳み可能とした回動態様に関して,本件発明1が『中央部分に対し上記左右の作業機部分を作業状態に展開した位置からほぼ180°回転させて中央部分側に折り畳み上記中央部分の背面と上記左右の作業機械部分の背面とを重ね合わせるようにした状態で,上記中央部分のエプロンと左右の作業機部分のエプロンとが対面するように折り畳み可能とした』ものであるのに対して,引用発明が『延長ロータリ耕耘装置15を枢支軸24廻りに回動させて主ロータリ耕耘装置1の上方の収納位置に位置させるようにした』ものである点。」(以下「相違点3」という。)ウ相違点1ないし3についての判断(17頁第5段落〜19頁第4段落)(ア) 「(相違点1について)・・・相違点1に係る本件発明1の構成は,引用発明における作業機部分を中央部分側に折り畳み可能とした農作業機の形態を,従来より周知の3分割式の折り畳み形態とすることにより,当業者が容易に想到し得たものといえる。」(イ) 「(相違点2について)・・・相違点2に係る本件発明1の構成は,引用発明におけるロータリカバー13等を備えた構成として,従来より周知の技術を採用することにより,当業者が容易に想到し得たものといえる。」(ウ) 「(相違点3について)・・・本件発明1における『上記中央部分の背面と上記左右の作業機械部分の背面とを重ね合わせるようにした状態で,上記中央部分のエプロンと左右の作業機部分のエプロンとが対面するように折り畳み可能とした』点の技術的意義につき,訂正明細書の記載を参酌する。訂正明細書には,【発明の効果】につき,その段落【0009】に『また,上記農作業機は,砕土・代掻きされた土を受けるエプロンを背面側に備え,上記中央部分に対し作業機部分を作業状態に展開した位置からほぼ180°回転させて中央部分側に折り畳むと,上記中央部分のエプロンと左右の作業機部分のエプロンとが対面する状態になるので,農作業機を折り畳んだときに,機体の前後バランスが悪くなることがなく,また,後方へのオーバーハングが大きくなることがなくて,凹凸のある場所を走行したり,機体を旋回させたりするときに不安定になることがない。また,農作業機を折り畳んだときの作業機の機高が高くならずにトラクタからの後方視界が良好であり,安全に操縦することができる。』との記載が,また,発明の実施例につき,段落【0013】に『中央部分4の左右の端部と左右の作業機部分5L,5Rの内端部とをそれぞれ回転軸(回転支点)6,6によりほぼ180°回転可能に連結し,上記中央部分4におけるエプロン16の背面4aと左右の作業機部分5L,5Rにおけるエプロンの背面5La,5Raとを重ね合わせ(対面させ)るようにして折り畳み可能としている。』との記載があるとともに,図面の図2,図3及び図6には,『回転軸(回転支点)6,6』を,これら図面おいて右下がりの傾斜配置とした態様が示されている。また,本件発明の具体的な実施例として,上記の記載以外のものは何ら示されていない。そして,上記『回転軸(回転支点)6,6』を,このような右下がりの傾斜配置としない場合を想定すると,例えば水平軸とした場合には折り畳んだときの作業機の機高が高くなることになり,また,垂直軸とした場合には後方へのオーバーハングが大きくなることになり,いずれも上記段落【0009】に記載の本件発明の効果を奏することができないことが明らかである。そうすると,本件発明1の上記した点の技術的意義は,本件発明1における『中央部分の左右の端部と左右の作業機部分の内端部とをそれぞれ回転支点によりほぼ180°回転可能に連結し』たところの『回転支点』の軸方向を,上述の右下がりの傾斜配置として,中央部分と左右の作業機械部分とを折り畳み可能としたこと,いいかえれば,農作業機の後方に向けて下がるような傾斜配置として,中央部分と左右の作業機械部分とを折り畳み可能としたことを意味したものと解することができる。・・・一方,例えば,刊行物7,8等にも示されるように,左右の作業機部分を中央部分側に対して折り畳み可能とした農作業機において,折り畳んだ左右両側部分の前部がトラクタのキャビンの後部に干渉(接触)することがないようにする等の目的で,その折り畳み可能とする回転軸の軸方向を農作業機の後方に向けて下がるような傾斜配置としたものは,従来より周知の配置態様であったということができる。
してみると,相違点3に係る本件発明1の構成は,引用発明に上記相違点1で説示したところの3分割の構成を採用する際に,その折り畳み可能とする回転軸の配置態様として,従来より周知の配置態様を用いることにより,当業者が容易に想到し得たものといわざるを得ない。」エ本件発明2と引用発明との対比(20頁第3段落〜第4段落)(ア) 一致点上記イ(ア)に同じ。
(イ) 相違点上記イ(イ)aないしcのほか,次の相違点で相違する。
「本件発明2が『上記中央部分に対し上記左右の作業機部分を,作業状態に展開した位置からほぼ180°回転させて折り畳む際の上記中央部分と上記左右の作業機部分の対向端部が対向・離間する伝動軸にクラッチを設け,上記作業機部分の折り畳み操作により上記中央部分側から上記作業機部分への動力を切断する』ものであるのに対して,引用発明は,中央部分から作業機部分への動力を作業機部分の折り畳み操作によって切断可能にしているものの,そのような構成を備えているかが明らかでない点。」(以下「相違点4」という。)オ相違点についての判断(20頁下から第2段落〜21頁第3段落)「(相違点1〜3について)本件発明1を引用する部分の相違点1〜3については,上記(判決注:上記ウ(ア)〜(ウ))・・・で説示したとおりである。」「(相違点4について)・・・左右の作業機部分を中央部分側に対して折り畳み可能とし,中央部分から作業機部分への動力を作業機部分の折り畳み操作によって切断可能にしている農作業機において,左右の作業機部分と中央部分との対向端部が対向・離間する伝動軸にクラッチを設けることは,従来より周知の技術であったといえる。してみると,相違点4に係る本件発明2の構成は,引用発明に上記周知の技術を採用することにより,当業者が容易に想到し得たものといえる。そして,本件発明2が奏する作用効果も,引用発明並びに従来より周知の技術から当業者が予測し得る範囲のものであって,格別なものということができない。」カ本件発明3と引用発明との対比(21頁第4段落)(ア) 一致点「農作業機の折り畳み方法」を「農作業機」と言い換えるほかは,上記イ(ア)に同じ。
(イ) 相違点上記イ(イ)aないしcに同じ。
オ相違点についての判断(21頁第5段落〜第7段落)「(相違点1〜3について)・・・相違点1〜3については,上記(判決注:上記ウ(ア)〜(ウ))・・・で説示したとおりである。そして,本件発明3が奏する作用効果も,引用発明並びに従来より周知の技術から当業者が予測し得る範囲のものであって,格別なものということができない。以上のことから,本件発明1〜3は,引用発明並びに従来より周知の技術に基いて当業者が容易に発明できたものである。」第3原告主張の審決取消事由審決は,本件発明1ないし3について,相違点3についての判断を誤り(取消事由1ないし3),その結果,本件発明1ないし3がいずれも進歩性を欠くとの誤った結論を導いたものであって,違法であるから,取り消されるべきである。
1取消事由1(本件発明1の相違点3についての認定判断の誤り)( ) 相違点3に係る本件発明1の要旨認定の誤り1ア審決は,相違点3についての検討において,本件発明1の「上記中央部分の背面と上記左右の作業機械部分の背面とを重ね合わせるようにした状態で,上記中央部分のエプロンと左右の作業機部分のエプロンとが対面するように折り畳み可能とした」との構成(以下「本件折り畳み構成」という。)の技術的意義につき,本件訂正明細書参酌して,「本件発明1における『中央部分の左右の端部と左右の作業機部分の内端部とをそれぞれ回転支点によりほぼ180°回転可能に連結し』たところの『回転支点』の軸方向を,上述の右下がりの傾斜配置として,中央部分と左右の作業機械部分とを折り畳み可能としたこと,いいかえれば,農作業機の後方に向けて下がるような傾斜配置として,中央部分と左右の作業機械部分とを折り畳み可能としたことを意味したものと解することができる。」(19頁7行目〜13行目)と認定した。
上記認定において,上述の「回転支点」の軸方向を,右下がりの傾斜配置とすること,あるいは農作業機の後方に向けて下がるように傾斜配置とすることが,農作業機の折り畳み時に,左右の作業機部分を,中央の作業機部分の「背面側」に折り畳む際の必要条件であることは認めるが,本件折り畳み構成の技術的意義を,単に,「上述の右下がりの傾斜配置として,中央部分と左右の作業機械部分とを折り畳み可能としたこと,いいかえれば,農作業機の後方に向けて下がるような傾斜配置として,中央部分と左右の作業機械部分とを折り畳み可能としたこと」を意味するものと認定した点で誤っている。
イ作業機の中央部分と左右の作業機部【参考図】分のエプロン同士が互いに「対面する」形態とは,具体的にいうと,本件折り畳み構成において,左右の作業機部分が,作業機の中央部分の左右端部に備える回転支点を中心にほぼ180°回転して作業機の中央部分の背面側に折り返すように反転し,作業機の中央部分を下側にして折り返され,原告の平成18年7月11日付け準備書面( )添付の【参考図】の斜線領域で示し1た背面側の空いたスペースに位置させた状態で互いに平行になるように折り畳まれるものである。このように折り畳まれると,農作業機の背面側の空いたスペースを利用することになり,例えば,引用発明のように機体の上方に折り畳まれるものに比べて低い位置で,左右の作業機部分と作業機の中央部分とを横向きに平行する状態に折り畳むという顕著な作用効果を奏することができる。このことは,本件訂正明細書発明の詳細な説明の【発明の効果】欄に,「農作業機を折り畳んだときに,機体の前後バランスが悪くなることがなく,また,後方へのオーバハングが大きくなることがなくて,凹凸のある場所を走行したり,機体を旋回させたりするときに不安定になることがない。また,農作業機を折り畳んだときの作業機の機高が高くならずにトラクタからの後方視界が良好であり,安全に操縦することができる。」(段落【0009】)と記載されているとおりである。しかも,その折り畳み動作は,農作業機の背面側領域(上記【参考図】の斜線領域)において行われるから,中央部分の上方個所に存在する「変速ギャボックス」や,前方個所に存在する「トラクタへの連結部」等の部材が折り畳み動作に干渉する不都合がなくなって,左右の作業機部分を,中央の作業機部分の背面側において横向きにほぼ180°回転させるコンパクトな農作業機の折り畳み方法を提供することができる効果も併せて得られるのである。
ウまた,本件折り畳み構成中の「上記中央部分のエプロンと上記左右の作業機部分のエプロンとが対面するように」との構成を得るためには,作業機の中央部分に対して左右の作業機部分が折り畳まれた状態において,作業機の中央部分のエプロンと左右の作業機部分のエプロンとが折り畳みの回転軸(回転支点)に対して軸対称になる必要があり,また,左右の作業機部分のエプロンは,作業機の中央部分の背面側に折り畳まれる際,砕土・代掻ロ-タの上方を覆うシールドカバーとの位置関係が保持されていることが構造上の要件となる。
エこのように,本件折り畳み構成が,本件訂正明細書記載の作用効果を奏することが可能となるような作業機の中央部分と左右の作業機部分の背面同士を「重ね合わせの状態」にし,かつ,作業機の中央部分のエプロンと左右の作業機部分のエプロン同士を互いに「対面する形態」に具体化するには,@「回転支点」が配置されている位置,A「回転支点」の軸の傾斜方向,B「回転支点」の軸の傾斜角度等を総合的に設定する必要があり,その結果,農作業機の中央部分の背面と左右の作業機部分の背面とを農作業機の背面側空間で平行に重ね合わせるようにすることで,中央部分のエプロンと左右の作業機部分のエプロンとが対面するように折り畳みをするのである。
オ審決は,上記Aの要件として挙げた「回転支点」の軸の傾斜方向のみに着目したが,上記@,Bの要件,及び,左右の作業機部分のエプロンの位置関係保持に関する要件を考慮しなかったために,本件折り畳み構成の技術的意義を誤ったものである。
( ) 引用発明と周知技術の組合せの困難性2ア審決は,「例えば,刊行物7,8(判決注:刊行物7は本訴甲9〔特開平8-205614号公報,〕,刊行物8は本訴甲10〔特開平8-205615号公報〕)等にも示されるように,左右の作業機部分を中央部分側に対して折り畳み可能とした農作業機において,折り畳んだ左右両側部分の前部がトラクタのキャビンの後部に干渉(接触)することがないようにする等の目的で,その折り畳み可能とする回転軸の軸方向を農作業機の後方に向けて下がるような傾斜配置としたものは,従来より周知の配置態様であったということができる。してみると,相違点3に係る本件発明1の構成は,引用発明に上記相違点1で説示したところの3分割の構成を採用する際に,その折り畳み可能とする回転軸の配置態様として,従来より周知の配置態様を用いることにより,当業者が容易に想到し得たものといわざるを得ない。」(19頁17行目〜26行目)と判断したが,誤りである。
イ特開平8-205614号公報(甲9,審決の刊行物7,以下「甲9刊行物」という。)及び特開平8-205615号公報(甲10,審決の刊行物8,以下「甲10刊行物」という。)に,「左右の作業機部分を中央部分側に対して折り畳み可能とした農作業機において,折り畳んだ左右両側部分の前部がトラクタのキャビンの後部に干渉(接触)することがないようにする等の目的で,その折り畳み可能とする回転軸の軸方向を農作業機の後方に向けて下がるような傾斜配置とした」との事実が記載されていることは認める。
ところで,甲9刊行物及び甲10刊行物に記載された農作業機は,左右の作業機部分を,中央部分に並列配置した2本の作業部枢支軸により90度回転して,左右の作業機部分を中央部分の後方斜め上方に向けて「縦方向」に並列するように折り畳む形式のものであるところ,左右の作業機部分を中央部分の後方斜め上方に折り畳むようにしているのは,作業機を大きく持ち上げた場合でも,折り畳んだ左右両側部分の前部がトラクタのキャビンの後部に干渉(接触)することがないようにという目的によるものである。一方,引用発明は,作業機部分が上下方向に折り畳まれるので,農作業機を大きく持ち上げる場合においても,折り畳んだ作業機部分の前部がトラクタのキャビンの後部に干渉(接触)するという不都合が生じないから,回転軸(作業部枢支軸)の軸方向を,農作業機の後方に向けて下がるような傾斜配置とする必然性がない。
また,前者では,左右の作業機部分を中央部分の後方斜め上方に向けて「縦方向」に「二つ折れの形態」に折り畳む形式のものであるのに対し,引用発明においては,折り畳む作業機部分を横方向に折り畳む形式であって,両者は,折り畳みの形式が全く異なるから,審決が「従来より周知」とされる前者の配置態様を,後者である引用発明の配置態様に適用する必然性はない。
したがって,引用発明に「従来より周知の配置態様」を適用することが当業者にとって容易に想到し得たものとはいえないから,審決の上記判断は,誤りである。
( ) 顕著な作用効果の看過3審決は,「本件発明1が奏する作用効果も,引用発明並びに従来より周知の技術から当業者が予測し得る範囲のものであって,格別なものということができない。」(19頁下から第2段落)と判断したが,誤りである。
本件折り畳み構成のように折り畳まれると,農作業機の背面側の空いたスペースを利用することで,例えば,引用発明のように機体の上方に折り畳まれるものに比べて低い位置で,左右の作業機部分と中央の作業機部分とが横向きに平行する状態に折り畳まれる。その結果,本件訂正明細書発明の詳細な説明の【発明の効果】欄に,「農作業機を折り畳んだときに,機体の前後バランスが悪くなることがなく,また,後方へのオーバハングが大きくなることがなくて,凹凸のある場所を走行したり,機体を旋回させたりするときに不安定になることがない。また,農作業機を折り畳んだときの作業機の機高が高くならずにトラクタからの後方視界が良好であり,安全に操縦することができる。」(段落【0009】)と記載されているとおり,本件発明1の農作業機は,折り畳んだ際の後方へのオーバハングが大きくなることがなく,折り畳んだ際の作業機の機高が高くならないことから,トラクタからの後方視界が良好になるという顕著な作用効果が得られる。しかも,その折り畳み動作は,農作業機の背面側領域(前記【参考図】の斜線領域)において行われるから,中央部分の上方個所に存在する「変速ギャボックス」や,前方個所に存在する「トラクタへの連結部」等の部材が折り畳み動作に干渉する不都合がなくなって,左右の作業機部分を,中央の作業機部分の背面側において横向きにほぼ180°回転させるコンパクトな農作業機の折り畳み方法を提供することができる効果も併せ得られるのである。
したがって,本件発明1は,その顕著な作用効果によっても,進歩性を具備しているものである。
2取消事由2(本件発明2の相違点3についての認定判断の誤り)審決は,本件発明2と引用発明とが,前記第2の3( )エのとおり,相違点1な2いし4において相違すると認定した上,相違点3についての容易想到性の認定判断は,本件発明1における相違点3の場合と同じである旨判断した。
しかし,本件発明1における相違点3の認定判断が誤りであることは,上記のとおりである。
3取消事由3(本件発明3の相違点3についての認定判断の誤り)審決は,本件発明3と引用発明とが,前記第2の3( )カのとおり,相違点1な2いし3において相違すると認定した上,相違点3についての容易想到性の認定判断は,本件発明1における相違点3の場合と同じである旨判断した。
しかし,本件発明1における相違点3の認定判断が誤りであることは,上記のとおりである。
第4被告の反論審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1取消事由1(本件発明1の相違点3についての認定判断の誤り)について( ) 相違点3に係る本件発明1の要旨認定の誤りについて1ア原告は,本件折り畳み構成における折り畳み動作が,農作業機の背面側領域(前記【参考図】の斜線領域)において行われる旨主張する。
しかし,「農作業機の背面側空間」という概念は,本件訂正明細書に記載されておらず,図面にも図示がされていないから,原告の上記主張は,失当である。
イ原告は,本件折り畳み構成中の「上記中央部分のエプロンと上記左右の作業機部分のエプロンとが対面するように」との構成を得るためには,作業機の中央部分に対して左右の作業機部分が折り畳まれた状態において,作業機の中央部分のエプロンと左右の作業機部分のエプロンとが折り畳みの回転軸(回転支点)に対して軸対称になる必要があり,また,左右の作業機部分のエプロンは,作業機の中央部分の背面側に折り畳まれる際,砕土・代掻ロ-タの上方を覆うシールドカバーとの位置関係が保持されていることが構造上の要件となる旨主張する。
しかし,本件訂正明細書において,エプロン同士が「対面する形態」にするための,「左右の作業機部分のエプロンの位置が折り畳みの前後で保持」する手段についての記載はないから,原告の上記主張は,失当である。
ウ原告は,本件折り畳み構成が,本件訂正明細書記載の作用効果を奏することが可能となるような作業機の中央部分と左右の作業機部分の背面同士を「重ね合わせの状態」にし,かつ,作業機の中央部分のエプロンと左右の作業機部分のエプロン同士を互いに「対面する形態」に具体化するには,@「回転支点」が配置されている位置,A「回転支点」の軸の傾斜方向,B「回転支点」の軸の傾斜角度等を総合的に設定する必要があり,その結果,農作業機の中央部分の背面と左右の作業機部分の背面とを農作業機の背面側空間で平行に重ね合わせるようにすることで,中央部分のエプロンと左右の作業機部分のエプロンとが対面するように折り畳みをする旨主張する。
しかし,原告主張の上記@ないしBの事項を考慮することについて,本件訂正明細書,図面に何らの記載もないから,原告の上記主張は,失当である。
( ) 引用発明と周知技術の組合せの困難性について2原告は,甲9刊行物及び甲10刊行物に記載された農作業機と引用発明とでは,折り畳みの形式が全く異なるから,審決が「従来より周知」とされる前者の配置態様を,後者である引用発明の配置態様に適用する必然性はない旨主張する。
しかし,甲9刊行物及び甲10刊行物に記載された農作業機のように「二つ折れ」であろうが,引用発明のように「三つ折れ」であろうが,折れ畳まれることに違いはなく,両者を組み合わせることを妨げる事情とはなり得ない。
( ) 顕著な作用効果の看過について3原告の主張は争う。
2取消事由2(本件発明2の相違点3についての認定判断の誤り)について原告の主張は争う。
3取消事由3(本件発明3の相違点3についての認定判断の誤り)について原告の主張は争う。
第5当裁判所の判断1取消事由1(本件発明1の相違点3についての認定判断の誤り)について( ) 相違点3に係る本件発明1の要旨認定の誤りについて1ア審決は,本件折り畳み構成の技術的意義について,「本件発明1における『中央部分の左右の端部と左右の作業機部分の内端部とをそれぞれ回転支点によりほぼ180°回転可能に連結し』たところの『回転支点』の軸方向を,上述の右下がりの傾斜配置として,中央部分と左右の作業機械部分とを折り畳み可能としたこと,いいかえれば,農作業機の後方に向けて下がるような傾斜配置として,中央部分と左右の作業機械部分とを折り畳み可能としたことを意味したものと解することができる。」(19頁7行目〜13行目)と認定したのに対し,原告は,これを争うので,検討する。
イ「背面」とは,通常の語義に従えば,「@うしろ側。後方に向いた面。Aうしろを向くこと。うしろむき。」(広辞苑第五版),「後ろの方。後ろの側」(大辞林第三版)といった意味を有するものとされているが,それ自体では,必ずしも明確とはいえないので,特許請求の範囲中で,どのような文脈において使用されているのかについてみることにする。
本件発明1の特許請求の範囲には,「トラクタの後部に3点リンクヒッチ機構を介して農作業機の長さ方向中央部分を昇降可能に装着し,上記トラクタから農作業機の中央部分に動力を伝達すると共に,上記中央部分に対し,該中央部分から左右両側に延出している作業機部分を,それぞれ中央部分側に折り畳み可能とした農作業機において,上記農作業機は,該農作業機の本体フレームに支持されたシールドカバーの後端部に上端部が上下方向に回動自在に枢着されて砕土・代掻きされた土を受けるエプロンを背面側に備え,」との記載がある。
上記の記載によれば,「農作業機」は,トラクタの後部に,「長さ方向中央部分を昇降可能に装着」されており,農作業機の背面側には,「砕土・代掻きされた土を受けるエプロン」が備えられているというのであるから,農作業機の「背面」とは,トラクタとは反対側に位置して後方に向いた面を意味するものと認められ,それ以上に「背面」の意味を限定するような記載は見当たらない。
なお,本件訂正明細書(甲18添付)の発明の詳細な説明をみても,「中央部分」,「作業機部分」の方向性に関する記載はなく,同明細書(甲15)の図面をみると,【図3】には,代掻ハローを折り畳んだ状態の概略側面図が,【図6】には,代掻ハローを折り畳んだ状態の側面図が,【図7】には,代掻ハローの部分平面図が示されており,本件発明1の実施例として,農作業機の「中央部分」と「作業機部分」との回転軸が傾斜して設置されていて,両者が斜め上方に重ね合わせられているものが図示されているのみである。
ウそうすると,上記イのとおり,本件発明1にいう「背面」は,トラクタとは反対側に位置して後方に向いた面を意味する広い概念であって,それ以上の限定はないから,中央部分と左右の作業機械部分とを重ね合わせる方向が「斜め上方」に限定されるものではなく,本件発明1の実施例として,農作業機の「中央部分」と「作業機部分」との回転軸が傾斜して設置されていて,両者が斜め上方に重ね合わせられているものが図示されているとしても,それは,中央部分と左右の作業機械部分とを重ね合わせる方向が「斜め上方」の場合を含むものと解すべきである。
エこの点について,審決は,「上記『回転軸(回転支点)6,6』を,このような右下がりの傾斜配置としない場合を想定すると,例えば水平軸とした場合には折り畳んだときの作業機の機高が高くなることになり,また,垂直軸とした場合には後方へのオーバーハングが大きくなることになり,いずれも上記段落【0009】に記載の本件発明の効果を奏することができないことが明らかである。」と説示している。
本件訂正明細書中の段落【0009】には,「このような構成により・・・農作業機を折り畳んだときに,機体の前後バランスが悪くなることがなく,また,後方へのオーバーハングが大きくなることがなくて,凹凸のある場所を走行したり,機体を旋回させたりするときに不安定になることがない。また,農作業機を折り畳んだときの作業機の機高が高くならずにトラクタからの後方視界が良好であり,安全に操縦することができる。」との記載がある。確かに,作業機の中央部分と左右の作業部分とを重ね合わせるように折り畳めば,機体の前後バランスを良好に保ち,後方へのオーバーハングを抑制し,凹凸のある場所を走行したり機体を旋回させたりするときの安定性を維持するという作用効果を奏することは,容易に理解することができる。しかし,本件発明1の構成は,上記作用効果を奏するための一つの構成を提示するものであって,この構成でなければ,上記作用効果を奏することができないというものではない。
審決は,上記のとおり,段落【0009】に記載された作用効果から本件発明1の構成を限定する解釈をしているが,本件発明1の構成と,段落【0009】に記載された作用効果の関係を誤解したものである。
オ以上によれば,相違点3に係る本件折り畳み構成から,「本件発明1の上記した点の技術的意義は,「本件発明1における『中央部分の左右の端部と左右の作業機部分の内端部とをそれぞれ回転支点によりほぼ180°回転可能に連結し』たところの『回転支点』の軸方向を,上述の右下がりの傾斜配置として,中央部分と左右の作業機械部分とを折り畳み可能としたこと,いいかえれば,農作業機の後方に向けて下がるような傾斜配置として,中央部分と左右の作業機械部分とを折り畳み可能としたことを意味したものと解することができる。」(19頁7行目〜13行目)とした審決の認定判断は,「中央部分」と「作業機部分」とが斜め上方に重ね合わせる構成を含むものにすぎないのに,この構成に限定して解釈することによって,特許請求の範囲に新たな構成を読み込もうとするものであって,誤りというべきである。
カ原告の主張について(ア) 原告は,前記【参考図】を示し,本件折り畳み構成においては,左右の作業機部分は,中央の作業機部分の左右端部に備える回転支点を中心にほぼ180°回転して中央の作業機部分の背面側に折り返すように反転し,中央の作業機部分を下側に,折り返される左右の作業機部分を前記【参考図】の斜線領域で示した背面側の空いたスペースに位置させた状態で互いに平行になるように折り畳まれるものであり,このように折り畳まれると,農作業機の背面側の空いたスペースを利用することで,低い位置で左右の作業機部分と中央の作業機部分とが横向きに平行する状態に折り畳まれる旨主張する。
しかし,前記【参考図】の斜線領域で示した背面側の空いたスペースとか,左右の作業機部分のエプロンの位置が折り畳みの前後で保持されていることとかは,特許請求の範囲及び本件訂正明細書発明の詳細な説明にも記載のない事柄であって,原告の主張は,その前提において既に失当である。
(イ) また,原告は,本件折り畳み構成中の「上記中央部分のエプロンと上記左右の作業機部分のエプロンとが対面するように」という構成を得るためには,作業機の中央部分に対して左右の作業機部分が折り畳まれた状態において,作業機の中央部分のエプロンと左右の作業機部分のエプロンとが折り畳みの回転軸(回転支点)に対して軸対称になる必要があり,また,左右の作業機部分のエプロンは,作業機の中央部分の背面側に折り畳まれる際,砕土・代掻ロ-タの上方を覆うシールドカバーとの位置関係が保持されていることが構造上の要件となる旨主張する。
しかし,左右の作業機部分のエプロンが中央部分の背面側に折り畳まれる前後でシールドカバーとの位置関係が保持されているとの事柄は,本件発明1の特許請求の範囲に記載がないのみならず,本件訂正明細書にも記載のないことである。原告は,おそらく,本件訂正請求に係る図面の【図3】を根拠としているものと思われるが,本件訂正明細書では,この図面に関する何の記載もないのであって,原告が,本件訂正明細書とは無関係に,本訴で【図3】の説明をしているにすぎないものである。
したがって,原告の主張は,上記と同様に,その前提において既に失当である。
(ウ) さらに,原告は,本件折り畳み構成は,@「回転支点」が配置されている位置,A「回転支点」の軸の傾斜方向,B「回転支点」の軸の傾斜角度等を総合的に設定し,その結果,農作業機の中央部分の背面と左右の作業機部分の背面とを農作業機の背面側空間で平行に重ね合わせるようにすることで,中央部分のエプロンと左右の作業機部分のエプロンとが対面するように折り畳みをするというものである旨主張する。
しかし,本件訂正明細書に,@「回転支点」が配置されている位置,A「回転支点」の軸の傾斜方向,B「回転支点」の軸の傾斜角度に関する記載を見いだすことはできないのであって,原告の上記主張は,本件訂正明細書に基づかないものであり,失当である。
キそうすると,審決は,相違点3に係る本件発明1の要旨の認定を誤ったものであるが,本件発明1の特許法29条2項該当性は,相違点3について当業者が容易に想到し得る場合に成立するので(相違点1,2が容易想到であることは当事者間に争いがない。),進んで,引用発明と周知技術の組合せの困難性について判断する。
( ) 引用発明と周知技術の組合せの困難性について2ア上記のとおり,審決は,相違点3に係る本件発明1の要旨の認定を誤っていることから,相違点3を再検討する。
引用発明が,前記第2の3( )のとおりであることは,当事者間に争いがないか2ら,引用発明における折り畳み技術は,「延長ロータリ耕耘装置15の延長サイドフレーム17の上端を,主ロータリ耕耘装置1に対して,下方の延長位置と主ロータリ耕耘装置15上方の収納位置とに位置するように前後方向の枢支軸24によりほぼ180°上下回転自在に枢支し,収納位置にある延長ロータリ耕耘装置15を枢支軸24廻りに回動させ・・・るように構成したロータリ耕耘装置において,道路走行等の運搬に際しては,延長ロータリ耕耘装置15を枢支軸24廻りに回動させて主ロータリ耕耘装置1の上方の収納位置に位置させるようにした延長ロータリ耕耘装置の収納方法」というものである。
これを,本件発明1の構成と対比すると,相違点3とされている構成のうち,「中央部分に対し上記左右の作業機部分を作業状態に展開した位置からほぼ180°回転させて中央部分側に折り畳み」の部分は,引用発明においても存在するから,一致点となる。一方,相違点3とされている構成のうち,「上記中央部分の背面と上記左右の作業機械部分の背面とを重ね合わせるようにすることで,上記中央部分のエプロンと左右の作業機部分のエプロンとが対面するように折り畳み可能とした」の部分は,言い換えると,中央部分と左右の作業機械部分との重ね合わせが,本件発明1においては,「背面」であるのに対し,引用発明においては,「上面」である点で相違している。
したがって,本件発明1と引用発明とが実質的に相違するのは,上記のとおり,中央部分と左右の作業機械部分との重ね合わせが「背面」か「上面」かであって,審決が,相違点3について,引用発明が「延長ロータリ耕耘装置15を枢支軸24廻りに回動させて主ロータリ耕耘装置1の上方の収納位置に位置させるようにした」点で相違するとしたのは,上記の意味で理解すべきである。
イそこで,中央部分と左右の作業機械部分との重ね合わがせが「上面」である引用発明から,これが「背面」である本件発明1の構成とすることが容易に想到し得るか否かについて検討する。
(ア) 引用例には,「15は主ロータリ耕耘装置1の横方向外方に設けられた延長ロータリ耕耘装置であって,延長サポートアーム16と,その両端に垂設された一対の延長サイドフレーム17,18と,この両者延長サイドフレーム17,18間に支架された傾斜爪軸19及び延長爪軸20と,これら爪軸19,20に付設された傾斜耕耘爪21及び耕耘爪22と,延長ロータリカバー23とを備え,その延長サイドフレーム17の上端は,第2図及び第3図に示す如く前後方向の枢支軸24によりサイドフレーム6上端に軸支されており,従って延長ロータリ耕耘装置15は,主ロータリ耕耘装置1の横方向外方の延長位置(第1図の実線位置)と,該主ロータリ耕耘装置1の上方の収納位置(第1図の仮想線位置)との間で回動自在であり,」(2頁3欄31行目〜4欄2行目) ,「上記構成において道路走行等の運搬に際しては,延長ロータリ耕耘装置15を枢支軸24廻りに回動させて主ロータリ耕耘装置1上方の収納位置に位置させ,その延長サポートアーム16をサポートアーム4上の固定具35の固縛具37により固縛して固定すれば,延長ロータリ耕耘装置15を主ロータリ耕耘装置1と一体に運搬でき,しかも全体としての横幅は主ロータリ耕耘装置1の横幅内に収めることができるので,規定幅を超えることもなく非常に安全である。」(同欄29行目〜38行目),「圃場の耕耘作業に際しては,収納位置にある延長ロータリ耕耘装置15を枢支軸24廻りに回動させ,主ロータリ耕耘装置1の横方向外方の延長位置にセットした後,両者ロータリ耕耘装置1,15のサイドフレーム6 ,17をボルト25及びナット26により結合して横方向に一体化する。この時,延長ロータリ耕耘装置15側の耕耘軸27のスプライン雄部30が,主ロータリ耕耘装置1側の端部軸10のスプライン雄部14に外嵌して,爪軸11,傾斜爪軸19及び延長爪軸20が一体に連結されるのであり,従って延長時の取扱いが非常に簡便である。」(同欄39行目〜3頁5欄6行目)との記載がある。
上記記載によれば,延長サイドフレーム17の上端は,前後方向の枢支軸24によりサイドフレーム6上端に軸支されており,延長ロータリ耕耘装置15を枢支軸24廻りに回動させて主ロータリ耕耘装置1上方の収納位置に位置させるものであるが,その目的というのは,「延長ロータリ耕耘装置15を主ロータリ耕耘装置1と一体に運搬でき」る,「全体としての横幅は主ロータリ耕耘装置1の横幅内に収めることができるので,規定幅を超えることもなく非常に安全である」,「延長時の取扱いが非常に簡便である」というものであって,それ以上に,中央部分と左右の作業機械部分との重ね合わせが「上面」であることについて格別の技術的意義がある旨の記載を見いだすことができない。
(イ) 甲9刊行物及び甲10刊行物に,「左右の作業機部分を中央部分側に対して折り畳み可能とした農作業機において,折り畳んだ左右両側部分の前部がトラクタのキャビンの後部に干渉(接触)することがないようにする等の目的で,その折り畳み可能とする回転軸の軸方向を農作業機の後方に向けて下がるような傾斜配置とした」との事実が記載されていることは,当事者間に争いがなく,その公開の時期にかんがみると,上記事実は,本件出願当時,周知の技術事項であったものというべきである。
(ウ) 次に,農作業機をトラクタに装着するための「3点リンクヒッチ機構」についてみると,甲9刊行物には,「従来,トラクタの後部に,3点リンク機構を介して農作業機を昇降可能に装着し,トラクタのPTO軸から農作業機の入力軸に対して動力を伝達するようにすると共に,左右方向の長さが長い(全長が3メートル前後ある)代掻ハローのような農作業機が知られている。」との記載があるほか,甲10刊行物にも同様の記載がある。なお,本件訂正明細書発明の詳細な説明の【背景技術】欄には,「従来,トラクタの後部に3点リンクヒッチ機構を介して農作業機の長さ方向中央部分を昇降可能に装着し,上記トラクタから農作業機の中央部分に動力を伝達すると共に,上記中央部分に対し,該中央部分から左右両側に延出している作業機部分を,機体の横方向の長さを短くするためにそれぞれ中央部分側に折り畳み可能とした農作業機が周知である。」(段落【0002】)との記載があることからすれば,3点リンク機構は,本件出願当時,トラクタの後部に農作業機を昇降可能に装着する技術として周知であったものというべきである。
そして,甲9刊行物の「作業部枢支軸13の軸線13aのなす角度Aが,15〜35度後ろ上がりとなるように設定されている。このように角度Aを設定することにより,3点リンクにより代掻ハロー1を最も大きく持ち上げた場合でも,折り畳んだ左右両側部分12の前部がトラクタ2のキャビン2aの後部に干渉(接触)することがない。」(段落【0009】),甲10刊行物中の同様の記載(段落【0009】)によれば,3点リンク機構は,その作業部枢支軸13の軸線13aの角度Aを適宜変更することができるものである。
(エ) 引用発明と上記周知の技術事項,甲9刊行物に記載される技術とは,技術分野及び技術課題を共通にしていることに加え,上記(ア)ないし(ウ)認定の事実をも併せ考えると,引用発明において,中央部分と左右の作業機械部分との重ね合わせを鉛直方向に対して適宜の角度にすること,すなわち,本件発明1にいう「背面」での重ね合わせとすることは,当業者が容易に想到し得ることというべきである。
ウ原告の主張について(ア) 原告は,引用発明は,甲9刊行物や甲10刊行物のように,折り畳んだ作業機部分(延長ロータリ耕耘装置15)が,横方向に折り畳まれ,農作業機を大きく持ち上げる場合でも折り畳んだ作業機部分の前部がトラクタのキャビンの後部に干渉(接触)する不都合がないようにする対策が不要であるから,回転軸(枢支軸24)の軸方向を,農作業機の後方に向けて下がるような傾斜配置とする必然性がない旨主張する。
しかし,前記のとおり,中央部分と左右の作業機械部分との重ね合わせが「上面」であることについて格別の技術的意義があるわけではないのであり,3点リンク機構によって,中央部分と左右の作業機械部分とを適宜の角度で重ね合わせることができるのであるから,農作業機の後方に向けて下がるような傾斜配置としてみようと考えることは,当業者において何の困難もない事柄である。
(イ) また,原告は,引用発明は,折り畳む作業機部分(延長ロータリ耕耘装置15)を前後方向の枢支軸24により横方向に折り畳む形式であるのに対し,本件周知技術は,左右の作業機部分を,中央部分の後方斜め上方に向けて「縦方向」に「二つ折れの形態」に折り畳む形式のものであって,両者は,農作業機として折り畳み形式が全く異なるから,後者の「従来より周知」とされる農作業機の折り畳み可能とする回転軸(作業部枢支軸13)の配置態様を,引用発明の折り畳み可能とする回転軸(枢支軸24)の配置態様に,適用する必然性は全くない旨主張する。
しかし,審決が,相違点1について,「ところで,本件の特許明細書にも従来技術として示されるように,作業機部分を中央部分側に折り畳み可能とした農作業機の形態として,左右の作業機部分を中央部分に対して折り畳むようにした折り畳み形態は,例を示すまでもなく,従来より周知の形態であったといえるし,当該周知の折り畳み形態が農作業機を中央部分と左右の作業機部分とに3分割するものであることも自明な事項であるといえる。してみると,相違点1に係る本件発明1の構成は,引用発明における作業機部分を中央部分側に折り畳み可能とした農作業機の形態を,従来より周知の3分割式の折り畳み形態とすることにより,当業者が容易に想到し得たものといえる。」(争いがない)と判断しているとおり,2分割式の折り畳み形態を3分割式の折り畳み形態とすることに何らの困難もないものである。
(ウ) さらに,原告は,審決は,「回転支点」に関連する上記@,Bの要件,及び,左右の作業機部分のエプロンの位置関係保持に関する要件を考慮しないで,上記Aの要件として挙げた「回転支点」の軸の傾斜方向のみに着目したために,本件折り畳み構成の技術的意義を誤った旨主張する。
しかし,「回転支点」に関連する上記@,Bの要件,及び,左右の作業機部分のエプロンの位置関係保持に関する要件に関する原告の主張が,本件訂正明細書等に基づかない主張であることは前記( )カのとおりであるから,これらを前提とする1上記主張も,誤りである。
( ) 顕著な作用効果の看過について3本件訂正明細書(甲18添付)の発明の詳細な説明の【発明の効果】欄には,「このような構成により,農作業機を中央部分と左右の作業機部分とに3分割し,前記中央部分は伝動ケースを設けてサイドドライブ形式とし,該中央部分から上記左右の作業機部分への動力を上記左右の作業機部分の折り畳み操作によって切断可能にし,該中央部分の左右の端部と左右の作業機部分の内端部とをそれぞれ回転支点によりほぼ180°回転可能に連結し,上記中央部分の背面と左右の作業機部分の背面とを対面させる,また,上記農作業機は,砕土・代掻きされた土を受けるエプロンを背面側に備え,上記中央部分に対し作業機部分を作業状態に展開した位置からほぼ180°回転させて中央部分側に折り畳むと,上記中央部分のエプロンと左右の作業機部分のエプロンとが対面する状態になるので,農作業機を折り畳んだときに,機体の前後バランスが悪くなることがなく,また,後方へのオーバーハングが大きくなることがなくて,凹凸のある場所を走行したり,機体を旋回させたりするときに不安定になることがない。また,農作業機を折り畳んだときの作業機の機高が高くならずにトラクタからの後方視界が良好であり,安全に操縦することができる。」(段落【0009】)との記載がある。
しかし,本件発明1の構成を採用し,中央作業部に対して左右作業部を180°回転させて折り畳むと,中央作業部と左右作業部の短い上下方向の寸法が重なるので,外形が小さくなることは自明であるから,上記効果は,本件発明1の構成とすることによって当然に得られるものであり,しかも,当業者が容易に予想し得る範囲内の効果にすぎないものである。
したがって,上記効果が顕著なものであるとする原告の上記主張は,失当であり,「本件発明1が奏する作用効果も,引用発明並びに従来より周知の技術から当業者が予測し得る範囲のものであって,格別なものということができない。」(19頁27行目〜29行目)とした審決の判断に誤りはない。
2取消事由2(本件発明2の相違点3についての認定判断の誤り)について原告は,本件発明1における相違点3の認定判断が誤りであることは上記のとおりであるから,本件発明2における相違点3の認定判断も同様に誤りである旨主張する。
しかし,本件発明1における相違点3の認定判断に誤りがないことは前記のとおりであるから,同様に,本件発明2における相違点3の認定判断も同様に誤りでない。
なお,相違点4についての審決の認定判断の誤りは,原告の主張するところではない。
3取消事由3(本件発明3の相違点3についての認定判断の誤り)について原告は,本件発明1における相違点3の認定判断が誤りであることは上記のとおりであるから,本件発明3における相違点3の認定判断も同様に誤りである旨主張する。
しかし,本件発明1における相違点3の認定判断に誤りがないことに帰することは前記のとおりであるから,同様に,本件発明3における相違点3の認定判断も同様に誤りでない。
4以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,原告の請求は棄却を免れない。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 宍戸充
裁判官 柴田義明