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関連審決 不服2003-2330
関連ワード 反復(反復可能性) /  新規性 /  アクセス /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  相違点の判断 /  周知技術 /  公知技術 /  上位概念 /  優先権 /  実質的に同一 /  優先日 /  加工 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10381号 審決取消請求事件
原告X
訴訟代理人弁理士奈良武
被告特許庁長官肥塚雅博
指定代理人島崎純一,番場得造,國田正久,小池正彦,森山啓
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/07/12
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1原告の求めた裁判「特許庁が平成18年7月5日付けでした不服2003-2330号事件についての審決を取り消す。」との判決第2事案の概要本件は,原告が,その出願に係る特許についての拒絶査定に対する不服審判請求を成り立たないとした審決の取消しを求めた事案である。
1特許庁における手続の経緯(甲6,7,甲12〜15,甲25)(1)出願手続出願人:X(原告)発明の名称:体の動かし方を指導するための方法(平成15年3月17日付け手続補正後の名称は「体の動かし方を指導するための装置」)出願日:平成6年8月3日出願番号:特願平6-201396号優先権主張:1993年(平成5年)8月10日(米国)(2)本件手続拒絶査定日:平成14年12月26日(甲12)審判請求日:平成15年2月13日(不服2003-2330号)(甲13)手続補正日:平成17年3月22日(甲25)審決日:平成18年7月5日審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」審決謄本送達日:平成18年7月25日2本願発明の要旨本件特許出願に係る発明は,平成17年3月22日付け手続補正書(甲25)による補正後の特許請求の範囲の請求項1〜3に記載されたものであり,その要旨は,次のとおりであるものと認められる(以下,請求項の番号に従って,「本願発明1」などといい,本願発明1〜3を併せて「本願発明」という。)。
「【請求項1】実質的に同一場所から指導者と被指導者の行うスポーツ,演技又は行為等の動作をビデオ画像に撮像し,記録する撮像記録手段と,上記画像を同一画面上で画像を重ね合わせることなく,モニター・ディスプレイ上に2画面として並置して再生する再生手段とを備え,前記撮像記録手段は,ビデオカメラと,該カメラに結合され,各々が画像を操作するためのコントローラを有する少なくとも1組のビデオ・テープレコーダとを備え,前記再生手段は,前記1組のビデオ・テープレコーダの出力を受け,2つのビデオ信号処理ボード,1つの制御用ボードを有し,種々の信号処理を行うパーソナル・コンピュータと,該パーソナル・コンピュータに接続され,ここで処理された画像を表示するモニター・ディスプレイと,前記パーソナル・コンピュータに接続され,これを制御するためのキーボードと同様の作動を行うタッチペン・ボードと,前記パーソナル・コンピュータに接続され,前記モニター・ディスプレイの編集済みのビデオ画像を記録する他のビデオ・テープレコーダとを備え,前記モニター・ディスプレイ上の2画面に対しては,指導者又は被指導者の何れか一方の画像を動画像として一方の画面に表示し,他方の画像を静止画像として他方の画面に表示するか,または双方の画像を動画像として2画面に表示するか,あるいは静止画像として2画面に表示する手段を有することを特徴とする,体の動かし方を指導するための装置。
【請求項2】上記請求項1に記載のビデオ・ディスプレイにあって,該ビデオ・ディスプレイ上にスポーツ,演技又は行為等の動画を再現するに際し,前記タッチペン・ボードを用いて,前記ビデオ・ディスプレイの画面上に観察者が画像を見る時の基準となる線又は格子状の線を重ねて表示し,そのスポーツ,演技又は行為等の動きの程度を理解せしめるようにしたことを特徴とする,体の動かし方を指導するための装置。
【請求項3】上記請求項1に記載のビデオ・ディスプレイにあって,該ビデオ・ディスプレイ上にスポーツ,演技又は行為等の動画を1コマづつの静止画像とし,前記タッチペン・ボードを用いて,前記ビデオ・ディスプレイの画面上にそのコマを特徴付けている体の基本線をなぞり,次々と順次のコマの静止画像において体の基本線をなぞり,最後にスポーツ,演技又は行為等の画像を消去し,動画の代わりに体の基本線のみを1画面上に表示し,その変化を観察者に理解せしめるようにしたことを特徴とする,体の動かし方を指導するための装置。」3審決の理由の要旨審決の理由は以下のとおりであるが,その内容は,要するに,本願発明1は,実願昭57-90970号(実開昭58-192670号)のマイクロフィルム(甲1。以下「引用例」といい,引用例に記載された発明を「引用発明」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法29条2項により特許を受けることができず,そうであれば,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件特許出願は拒絶を免れないというものである。なお,略称等について本判決で指定するものに改めた部分がある。
(1)引用例「当審における,平成17年1月13日付けで通知した拒絶の理由に引用した本願の優先権主張の日(以下,「優先日」という。)前に頒布された実願昭57-90970号(実開昭58-192670号)のマイクロフィルム(引用例)には,本願発明1に関連する事項として,以下の事項が図示と共に記載されている。
a.「第1の信号を送出する映像信号再生装置と,第2の信号を送出するビデオカメラと,前記第1および第2の信号が入力され,これらの信号に映像特殊効果を付加する映像特殊効果装置と,前記映像特殊効果装置から出力される第3の信号を入力し画面上に表示するテレビジョンと,前記第3の信号を記録する映像信号記録再生装置とからなることを特徴とするビデオ教習装置。」(実用新案登録請求の範囲)b.「本考案は,ビデオカメラ・ビデオテープレコーダ(VTR)・・・などのビデオ機器を用いた教習装置に係り,とくに,教材用の映像をモニターテレビジョン(TV)画面の一方の画像,例えば画面の右半分の画像とし,教習者が映し出された映像をTV画面の他方の画像,例えば画面の左半分の画像とするビデオ教習装置を提供することを目的とするものである。」(1頁14行〜2頁1行)c.「映像特殊効果装置6は,映像信号に多種類の特殊効果を付加する装置であり,ビデオカメラ4とVDP5とにそれぞれ接続され,ビデオカメラ4およびVDP5から出力される映像信号が印加されるものである。ここでは,もっぱら特殊効果を説明するのに,ワイプ(WIPE)効果を用いることにする。ワイプ効果とは,TV画面上に2種類の映像を同時に映し出す効果である。」(5頁16行〜6頁4行)d.「映像特殊効果装置6は,このワイプ効果のほかに次の5つの特殊効果を映像信号に付加することができる。・・・ビデオカメラやVTRの映像上に文字や図形を挿入する・・・白黒ビデオカメラで撮影したテロップカードがカラータイトルになり,文字やバックの色を自在に変えられる・・・前の画面がしだいに消えてゆき,その画面内からつぎの画面がしだいにあらわれてくる・・・映像が徐々にあらわれたり,徐々に消えたりする・・・2種類の映像を別のテロップカメラで撮影した図形(ハート型,ひし型など)で組み合わせ合成する・・・映像特殊効果装置6がもつこのような効果を用いることにより,ビデオカメラ4からの映像とVDP5からの映像とを教習装置に適した映像にすることができるのである。」(6頁末行〜8頁5行)e.「7はモニターテレビジョン(TV)であり,スイッチ10を介して映像特殊効果装置6と接続され,特殊効果が付加された映像を映し出すものである。8はVTRであり,映像特殊効果装置6と接続され,さらに,スイッチ10を介してTV7と接続される。こうすることによって,特殊効果が付加された映像を録画・再生してTV7の画面に映し出すのである。9はリモートコントロール・スイッチである。このスイッチ9は,3部分9A〜9Cから構成されている。第1のスイッチ部分9Aはビデオカメラ4と接続されている。第2のスイッチ部分9Bは,PLAY・STOP・RVS・STILの4つのボタンを有し,VDP5と接続されている。第3のスイッチ部分9Cは,PLAY・FF・STOP・RWDの4つのボタンを有し,VTR8と接続されている。スイッチ10は,映像特殊効果装置6あるいはVTR8のいずれかの映像信号を選択して,TV7に映像を供給するものである。」(8頁6行〜9頁8行)f.「所定の位置にセットされているビデオカメラ4で,ゴルフのスウィングをしている自分を撮る。このときに,所望する画角の映像になるように,TV7の画面を見ながらスイッチ9AのZOOMボタンを押して調整する。ビデオカメラ4から出力される映像信号Aは,映像特殊効果装置6に供給され・・・映像信号AはTV画面の右半分に映し出される。VDP5は,電源を入れ,ゴルフの試合が入っているビデオディスクを装着した後,スイッチ9BのPLAYボタンを押せば,映像信号Bが映像特殊効果装置6に供給される。そして,映像信号BはTV画面の左半分に映し出される。スウィングしている自分の姿が映像Aで,プロのプレーヤのスウィングしている姿が映像Bであれば,前記したVDP5が持つ6つの機能を利用することにより,プロのプレーヤーのフォームの画を自在のモーションで見ながら自分のフォームをその画に合わせれば,・・・映像Bの動きを止めたりして,繰り返し,繰り返し,映像Bに自分のフォームを合わせるようにする」(9頁11行〜10頁16行)g.「自分のフォームを研究するため,プロのゴルフプレーヤなど他人のフォームと自分のフォームとを比較して見ることができ,教材用の画と教習者が映し出された画とをTV画面で同時に見ることができる」(12頁末行〜13頁4行)」上記記載fにおける「自分のフォームの画」とは,上記記載gからみて,「教習者のフォームの画」といえ,また,記載fにおける「映像A」及び「映像B」は,それぞれ,「教習者のフォームの画」及び「プロプレーヤのフォームの画」といえるから,以上の記載を含む上記引用例には,以下の発明(引用発明)が記載されている。
「プロのプレーヤのフォームの画を記録したビデオディスクが装着される,スイッチ9Bにより操作されるVDP5と,スイッチ9Aの操作によりプロのプレーヤのフォームの画に合わせるように調整して教習者のフォームの画を撮像できるビデオカメラ4と,VDP5から送出するプロのプレーヤのフォームの画の信号およびビデオカメラ4から送出する教習者のフォームの画の信号が入力され,これらの信号に映像特殊効果を付加する映像特殊効果装置6と,前記映像特殊効果装置6から出力される信号を入力し画面上に表示するTV7と,前記映像特殊効果装置6と接続され特殊効果が付加された映像を録画・再生するVTR8とを備え,前記TV7の画面に対して,教習者のフォームの画を動画像としてTV7の画面の右半分に映し出し,プロのプレーヤのフォームの画を静止画像としてTV7の画面の左半分に映し出すビデオ教習装置。」」(2)対比・判断「本願発明1と上記引用発明とを対比する。
ア.上記記載fのフォームを合わせた教習者のフォームの画(映像A)とプロのプレーヤのフォームの画(映像B)は,実質的に同一場所から撮像したビデオ画像ということができる。
というのは,ビデオ画像上で二人のフォームが合っているということは,それぞれのビデオカメラの撮像倍率が同じである場合,それぞれのビデオカメラが,それぞれの被撮像者に対して同じ距離で同じ方向におかれていることすなわち実質的に同一場所から撮像しているといえるからである。
イ.引用発明における「教習者」は,本願発明1の「被指導者」に相当しており,また,引用発明の「プロのプレーヤ」と本願発明1の「指導者」とは,被指導者(教習者)が合わせるべき動作を行う者(以下,「模範演技者」という。)として共通している。
ウ.引用発明の「ビデオカメラ4」と「VDP5」は,各々が画像を操作するためのコントローラを有する(記載e参照)から,本願発明1の「ビデオカメラと,該カメラに結合され,各々が画像を操作するためのコントローラを有する少なくとも1組のビデオ・テープレコーダ」とは,各々が画像を操作するためのコントローラを有する少なくとも1組のビデオ画像信号の出力装置として共通している。
エ.引用発明の「映像特殊効果装置6」は,本願発明1の「パーソナル・コンピュータ」とは,種々の信号処理を行う装置として共通している。
オ.引用発明の「TV7の画面」,「VTR8」及び「ビデオ教習装置」は,それぞれ,本願発明1の「モニター・ディスプレイ」,「他のビデオ・テープレコーダ」及び「体の動かし方を指導するための装置」に相当している。
カ.引用発明の「映像特殊効果装置6と接続され特殊効果が付加された映像を録画・再生するVTR8」は,「種々の信号処理を行う装置に接続されモニター・ディスプレイの編集済みのビデオ画像を記録する他のビデオ・テープレコーダ」ということができる。
キ.引用発明の「TV7の画面」の「右半分」と「左半分」のそれぞれは,別個の映像を表示できる(記載b,f参照)から,そのとき「TV7の画面」はモニター・ディスプレイ上の2画面であるということができる。
以上のことから,両者の一致点と相違点は以下のとおりである。
[一致点]「模範演技者と被指導者の動作を実質的に同一場所から撮像した画像を出力する,各々が画像を操作するためのコントローラを有する少なくとも1組のビデオ画像信号の出力装置と,前記1組のビデオ画像信号の出力装置の出力を受け,種々の信号処理を行う装置と,前記種々の信号処理を行う装置に接続され,ここで処理された画像を表示するモニター・ディスプレイと,前記種々の信号処理を行う装置に接続され,前記モニター・ディスプレイの編集済みのビデオ画像を記録する他のビデオ・テープレコーダとを備え,前記モニター・ディスプレイ上の2画面に対しては,模範演技者又は被指導者の何れか一方の画像を動画像として一方の画面に表示し,他方の画像を静止画像として他方の画面に表示する手段を有する体の動かし方を指導するための装置。」[相違点]A.模範演技者が,本願発明1では,指導者自身であるのに対して,引用発明では,プロのプレーヤである点,B.1組のビデオ画像信号の出力装置が,本願発明1では,ビデオ画像に撮像し,記録する撮像記録手段としての,ビデオカメラと,該カメラに結合され,各々が画像を操作するためのコントローラを有する少なくとも1組のビデオ・テープレコーダであるのに対して,引用発明では,「ビデオカメラ4」と「VDP5」である点,C.本願発明1では,種々の信号処理を行う装置が,2つのビデオ信号処理ボード,1つの制御用ボードを有し,種々の信号処理を行うパーソナル・コンピュータであると共に,該パーソナル・コンピュータに,これを制御するためのキーボードと同様の作動を行うタッチペン・ボードが接続されているのに対して,引用発明では,種々の信号処理を行う装置(映像特殊効果装置6)の具体的構成が定かでない点。
[相違点の判断]相違点Aについて,一般に,スポーツ,演技又は行為等の体の動かし方を指導するに当たって,指導者自身が模範演技者となることは普通のことであるから,引用発明において,相違点Aのように,模範演技者として指導者自身を選択することは,当業者が容易に想起できることである。
相違点Bについて,スポーツ,演技又は行為等の動作をビデオ画像に撮像し,記録する撮像記録手段として,ビデオカメラと,該カメラに結合され,画像を操作するためのコントローラを有するビデオ・テープレコーダは,本願の優先日当時,例えば,一般家庭でも,旅行,運動会,入学式,卒業式等でよく使われているように,周知であり,また,引用発明において,模範演技者を相違点Aのように指導者自身とすれば,プロのプレーヤと違って指導者は身近で撮影も容易であるから,引用発明の「VDP5」に替えて,ビデオカメラと,該カメラに結合され,画像を操作するためのコントローラを有するビデオ・テープレコーダを使用することは普通に考えることであり,結局,相違点Bのように,その「ビデオカメラ4」と「VDP5」に替えて,ビデオカメラと,該カメラに結合され,各々が画像を操作するためのコントローラを有する1組のビデオ・テープレコーダを使用することは,当業者が容易に想起できることであり,その作用効果も格別なものでない。
相違点Cについて,ビデオ画像の信号をコンピュータに入力して画像の合成等の種々の信号処理を行うことは,本願の優先日以前から周知である。
例えば,特開平2-71773号公報の「(49)は第1の撮影装置(41),第2の撮影装置(42)の出力映像信号をディジタル変換してパーソナル・コンピュータ(46)に取り込むためのA/Dコンバータ・・・ゴルファ-のスイング・モーションを撮影する第1の撮影装置(41)からの映像信号と第2の撮影装置(42)から出力された映像信号はA/Dコンバータ(49)でディジタル変換され図示しない制御部でタイミングを調整された上で映像信号合成処理により合成され,ゴルファーのスイング・モーションの時間的推移を表す一連の合成映像としてデイスプレイ・モニタ(45)上に表示される。合成のタイミングは永久磁石を埋め込んだゴルフ・クラブをスイング中に磁気センサで検出してボールのインパクトの瞬間をとらえている。体重配分測定装置(43)はスイング中にゴルファ-の両足にかかる体重の配分の変化を片足づつ測定し,電気信号に変換して映像信号とスーパー・インポーズして棒グラフとしてデイスプレイ・モニタ(45)上に表示する。スイング特性測定装置(44)はボールが打撃されると発光素子の光線がボールにより遮られることを利用して,ボールの動きに対応したパルス上の検出信号を得て,この検出信号によりボールの飛び出し角度やボールの飛び出し速度をパーソナル・コンピユータ(46)により演算して求めることができる。」(1頁右下欄末行〜2頁右上欄12行)及び,特開平4-86958号公報の「コンピュータが介在するものとしては,次のようなものがある。4.予め作成した理想的なスウィングパターンをコンピュータに入力しておき,実際に撮像した対象(練習)フォームの画像を基準位置で合わせた後,グラフィック画面にスーパーインボーズ表示する。5.ビデオテープに格納した一連の動作を各コマ単位で静止画像表示し,各コマの画像における動作上の特徴点をマニュアルで画面入力し,各コマ画像の特徴点群を時系列に連結し,各特徴点列の軌跡をCRT上にグラフィック表示する。」(2頁右上欄8〜19行)の各記載にみられるとおりである。
そうすると,引用発明において,種々の信号処理を行う装置として,パーソナル・コンピュータを使用することは,当業者が格別困難性無く想到し得ることであり,その際に,当該パーソナル・コンピュータが2つのビデオ信号処理ボード,1つの制御用ボードを有するようになすことも,当業者が,使用するパーソナル・コンピュータの性能を勘案して必要に応じて適宜なす事にすぎない。また,コンピュータを制御するための装置として,キーボードと同様の作動を行うタッチペン・ボードは,例えば,特開平3-75911号公報,特開平3-263217号公報にみられるように周知であるから,これを上記パーソナル・コンピュータに接続するようにすることも,当業者が想到容易である。
ゆえに,引用発明において,相違点Cにかかる構成を備えることは当業者が想到容易であり,その作用効果も格別なものでない。
以上のとおりであるから,本願発明1は,引用例に記載された発明及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」第3当事者の主張の要点1原告主張の審決取消事由(1)取消事由1(本願発明1と引用発明との一致点及び相違点の認定の誤り)アパーソナル・コンピュータについて審決は,本願発明1と引用発明との対比において,「引用発明の「映像特殊効果装置6」は,本願発明1の「パーソナル・コンピュータ」とは,種々の信号処理を行う装置として共通している。」と認定した上,本願発明1と引用発明とが,「前記1組のビデオ画像信号の出力装置の出力を受け,種々の信号処理を行う装置・・・を備え」る点で一致すると認定した。
しかしながら,本願発明1の「パーソナル・コンピュータ」と引用発明の「映像特殊効果装置6」とは,種々の信号処理を行う装置として共通ではない。
本願発明1のパーソナル・コンピュータにはオリジナルプログラムが内包され,このパーソナル・コンピュータに映像を取り込んで独自の2画面を表示し,またタッチペンキーボード上に本件発明による特殊な記号を配置し,このタッチペンキーボードの所望の記号をタッチペンによりタッチし,この記号による信号の命令で,それぞれの2画面に独自の映像の動きを与えたり,また画像を加工して片方をズーム,もう一方を普通の画像にして動かしたり,一方をスローに動かしたりすることができる。また,撮影している画像をそのままスルーにして直接表示することもできる。
他方,引用発明の「画像特殊効果装置6」はこのような操作が行えないものであり,本願発明1の「パーソナル・コンピュータ」とは相違する。
したがって,引用発明の「映像特殊効果装置6」と,本願発明1の「パーソナル・コンピュータ」とが,種々の信号処理を行う装置として共通しているとの認定を前提とした,上記一致点の認定は誤りである。
イ画面についてまた,審決は,本願発明1と引用発明との対比において,双方の「画面」に関し,「引用発明の「TV7の画面」の「右半分」と「左半分」のそれぞれは,別個の映像を表示できる・・・から,そのとき「TV7の画面」はモニター・ディスプレイ上の2画面であるということができる。」と認定し,本願発明1と引用発明とが,「前記モニター・ディスプレイ上の2画面に対しては,模範演技者又は被指導者の何れか一方の画像を動画像として一方の画面に表示し,他方の画像を静止画像として他方の画面に表示する手段を有する」点で一致するとした。
しかしながら,実際には,引用発明は,編集機能のワイプ効果を使っているだけなので,左右の2画面が独立した画面ではなく,それぞれの画面を独立して操作する機能を持つものではない。これに対し,本願発明1では,2画面は,それぞれ独立して,それぞれに書き込みや編集ができるものである。審決の対比は,この点を全く無視しており,その一致点及び相違点の認定は誤りというべきである。
(2)取消事由2(相違点Cについての判断の誤り)審決は,相違点Cについての判断において,特開平2-71773号公報(甲2。以下「甲2文献」という。)及び特開平4-86958号公報(甲3。以下「甲3文献」という。)の各記載を引用して,「ビデオ画像の信号をコンピュータに入力して画像の合成等の種々の信号処理を行うことは,本願の優先日以前から周知である。」と認定し,また,特開平3-75911号公報(甲4。以下「甲4文献」という。)及び特開平3-263217号公報(甲5。以下「甲5文献」という。)を引用して,「コンピュータを制御するための装置として,キーボードと同様の作動を行うタッチペン・ボード」が周知であると認定した上,このような認定に基づいて,「引用発明において,相違点Cにかかる構成を備えることは当業者が想到容易であり,その作用効果も格別なものでない。」と判断した。
しかしながら,甲2及び甲3文献に記載されたものや,甲4及び甲5文献に記載されたものは,以下のとおり,いずれも本願発明1とは異なるものである。本願発明1では,ビデオ画像の信号をコンピュータに入力して画像の合成等の種々の信号処理を行う場合に,タッチペン・ボードによる本願発明1独自の画像加工表示技術を使用して2画面を自由自在に加工表示し得るものであるところ,このような技術は,本願発明1の優先日前に周知のものではない。
ア画像合成等の信号処理について甲2文献の「動作診断装置」は,複数個のアナログ画像をA/D変換してタイミング調整を行うことにより,一つの画面に合成された診断画面を表示するもので,本願発明1とは異なる。甲2文献記載の技術では2画面をそれぞれ独立に操作することもできない。
甲3文献は,複数のマーカを対象物につけ複数の方向から撮影し,対象物の挙動を連続したフレームで一定期間撮影してこのフレームから2次元特徴座標を抽出し,この座標に標準の3次元格子状モデルを用いて3次元空間座標に変換するものである。これに対し,本願発明1は,対象物にマーカ等を付けることなく,画面上に直接キーボードペンでタッチすることで,好みの色や線や円,文字が入力できるものであり,両者は異なる。甲3文献記載の技術では,2画面をそれぞれ独立に操作することもできない。
イタッチペン・ボードについて甲4文献に記載されたものは,コンピュータの画面上に線画を詳細に引くために,マウスをペン型マウスに改良したものであり,このペン型マウスは,直接コンピュータの画面上に線画を引くものではないから,本願発明のタッチペン・ボードとは異なるものである。また,甲5文献に記載されたものは,単なるボード上の装置であり,本願発明のタッチペン・ボードとは全く異なるものである。
(3)取消事由3(手続違背)審決は,本願発明1の進歩性の有無のみを判断し,本願発明2及び3の新規性進歩性についての判断を全くせずに,本件特許出願を拒絶すべきものとした。
しかしながら,本願発明2及び3は,本願発明1の「再生手段」の構成をより具体的に特定したものであり,特に,相違点Cに係る進歩性判断において重要なものである。そして,本願発明1〜3に係る特許請求の範囲の請求項1〜3は,平成17年1月13日付け拒絶理由通知(甲23)に対応するため,同年3月22日付け手続補正書により補正されたものであって,その際,増加させた請求項に対応する審判手数料の納付も行っている。
そうすると,本願発明2及び3の新規性及び進歩性についての審理判断をしないで,本件特許出願を拒絶すべきものとすることは,出願人である原告に対し,多大な不利益を与える不当なものである。
したがって,審判体は,特許法159条2項で準用する同条50条により,再度請求項1についてのみの拒絶理由通知をすべきところ,これをしなかった手続違背がある。
2被告の反論(1)取消事由1(本願発明1と引用発明との一致点及び相違点の認定の誤り)に対しアパーソナル・コンピュータについて原告は,本願発明1の「パーソナル・コンピュータ」が,独自の2画面を表示し,タッチペンキーボードの記号による信号の命令で,それぞれの2画面に独自の映像の動きを与えたり,また画像を加工して片方をズーム,もう一方を普通の画像にして動かしたり,一方をスローに動かしたり,撮影している画像をそのままスルーにして直接表示することができるのに対し,引用発明の「映像特殊効果装置6」はこのような操作が行えないものであるから,本願発明1の「パーソナル・コンピュータ」とは相違する旨主張する。
しかしながら,まず,本願発明1の「パーソナル・コンピュータ」の機能についての上記主張は,本願発明1の要旨に基づくものではないから,それ自体失当である。
また,審決は,引用発明の「映像特殊効果装置6」が本願発明1の「パーソナル・コンピュータ」に相当するとしたわけではなく,「種々の信号処理を行う装置として共通である」と認定したに止まるものであり,「種々の信号処理を行う装置が本願発明1では「パーソナル・コンピュータ」であって,引用発明ではその具体的構成が定かでない点」を相違点Cとして認定しているのであるから,引用発明の「映像特殊効果装置6」が本願発明1の「パーソナル・コンピュータ」と相違しているとしても,そのゆえに「種々の信号処理を行う装置として共通である」との認定が誤りとなるものではない。
そして,審決が認定した引用例の記載事項a,c〜fによれば,引用発明の「特殊映像効果装置6」が,映像信号に多種類の特殊効果を付加する装置であることは明らかであり,「種々の信号処理を行う装置」ということができるものであるから,審決の上記認定に誤りはない。
イ画面について原告は,引用発明は,左右2画面が独立した画面ではなく,それぞれの画面を独立して操作する機能を持つものではないのに対し,本願発明1は,2画面はそれぞれ独立してそれぞれに書き込みや編集ができるものであるのに,審決の対比は,この点を無視した誤りがあると主張する。
しかしながら,まず,本願発明1が,2画面にそれぞれ書き込みや編集ができるとの主張は,本願発明1の要旨に基づくものではないから,それ自体失当である。
また,審決が認定した引用例の記載事項b,fによれば,引用発明は,それぞれの画面を独立して操作することができることは明らかであるから,原告の上記主張は誤りであって,審決の認定に誤りはない。
(2)取消事由2(相違点Cについての判断の誤り)に対しア画像合成等の信号処理について原告は,甲2及び甲3文献に記載されたものが,本願発明1と異なる旨主張するが,審決は,「ビデオ画像の信号をコンピュータに入力して画像の合成等の種々の信号処理を行うことが本願の優先日以前から周知である」例として甲2及び甲3文献を挙げたのであり,甲2及び甲3文献には,ビデオ画像の信号をコンピュータに入力して画像の合成等の種々の信号処理を行うことがそれぞれ記載されているから,この点の審決の認定に誤りはない。
イタッチペン・ボードについて本願発明1の「タッチペン・ボード」については,「これ(コンピュータ)を制御するためのキーボードと同様の作動を行うタッチペン・ボード」と規定されているだけである。
そして,審決が周知例として示した甲4及び甲5文献には,コンピュータを制御するための装置としての,キーボードと同様の作動を行うタッチペン・ボードがそれぞれ記載されているから,この点を周知であるとした審決の認定に誤りはない。
第4当裁判所の判断1取消事由1(本願発明1と引用発明との一致点及び相違点の認定の誤り)について(1)パーソナル・コンピュータについて審決は,「引用発明の「映像特殊効果装置6」と,本願発明1の「パーソナル・コンピュータ」とは,種々の信号処理を行う装置として共通している。」と認定した上,本願発明1と引用発明とが,「前記1組のビデオ画像信号の出力装置の出力を受け,種々の信号処理を行う装置・・・を備え」る点で一致すると認定したところ,これに対し,原告は,本願発明1の「パーソナル・コンピュータ」が,独自の2画面を表示し,タッチペンキーボードの記号による信号の命令で,それぞれの2画面に独自の映像の動きを与えたり,また画像を加工して片方をズーム,もう一方を普通の画像にして動かしたり,一方をスローに動かしたり,撮影している画像をそのままスルーにして直接表示することができるのに対し,引用発明の「画像特殊効果装置6」はこのような操作が行えないものであるから,本願発明1の「パーソナル・コンピュータ」とは相違する旨主張する。
しかしながら,審決は,引用発明の「映像特殊効果装置6」が,本願発明1の「パーソナル・コンピュータ」に相当すると認定したものではなく,それらを上位概念で把握した「種々の信号処理を行う装置」として共通すると認定した上,本願発明1と引用発明とが,「種々の信号処理を行う装置」を備えるという限度で一致するとし,他方,「本願発明1の「種々の信号処理を行う装置」が,2つのビデオ信号処理ボード,1つの制御用ボードを有し,種々の信号処理を行うパーソナル・コンピュータであるとともに,当該パーソナル・コンピュータに,これを制御するためのキーボードと同様の作動を行うタッチペン・ボードが接続されているのに対して,引用発明は,「種々の信号処理を行う装置」の具体的構成が定かでない点」を相違点Cとして認定したものである。
そして,本願発明1の「パーソナル・コンピュータ」が「種々の信号処理を行う装置」であることは明白であり,また,引用例の「第1および第2の信号が入力され,これらの信号に映像特殊効果を付加する映像特殊効果装置」(実用新案登録請求の範囲,審決の摘記事項a),「映像特殊効果装置6は,映像信号に多種類の特殊効果を付加する装置であり,・・・ここでは,もっぱら特殊効果を説明するのに,ワイプ(WIPE)効果を用いることにする。ワイプ効果とは,TV画面上に2種類の映像を同時に映し出す効果である。」(5頁16行〜6頁4行,審決の摘記事項c),「映像特殊効果装置6は,このワイプ効果のほかに,次の5つの特殊効果を映像信号に付加することができる。@スーパーインポーズ(・・・ビデオカメラやVTRの映像上に文字や図形を挿入すること)Aテロップカメラコントロール(・・・白黒ビデオカメラで撮影したテロップカードがカラータイトルになり,文字やバックの色を自在にかえられること)Bオーバーラップ・ディゾルブ(・・・前の画面がしだいに消えてゆき,その画面内からつぎの画面がしだいにあらわれてくる画面転換法)Cフェードイン,フェードアウト(・・・映像が徐々にあらわれたり,徐々に消えたりすること)Dキーイング(・・・2種類の映像を別のテロップカメラで撮影した図形(ハート型,ひし型など)で組み合せ合成すること)」(6頁末行〜8頁1行),「所定の位置にセットされているビデオカメラ4で,ゴルフのスウィングをしている自分を撮る。このときに,所望する画角の映像になるように,TV7の画面を見ながらスイッチ9AのZOOMボタンを押して調整する。ビデオカメラ4から出力される映像信号Aは,映像特殊効果装置6に供給され・・・映像信号AはTV画面の右半分に映し出される。VDP5は,電源を入れ,ゴルフの試合が入っているビデオディスクを装着した後,スイッチ9BのPLAYボタンを押せば,映像信号Bが映像特殊効果装置6に供給される。そして,映像信号BはTV画面の左半分に映し出される。」(9頁11行〜10頁5行,審決の摘記事項f)等の記載によれば,引用発明の「特殊映像効果装置6」は,映像信号にワイプ効果を始め,多種類の特殊効果を付加する装置であることが認められ,そうであれば,審決が,これを「種々の信号処理を行う装置」として把握したことにも誤りはない。
原告の上記主張は,審決を正解しないでされたものであって,これを採用することはできない。
なお,本願発明1の要旨は,2画面に表示する画像の処理として,「指導者又は被指導者の何れか一方の画像を動画像として一方の画面に表示し,他方の画像を静止画像として他方の画面に表示する」こと,「双方の画像を動画像として2画面に表示する」こと,又は「静止画像として2画面に表示する」ことを選択的に規定するが,片方をズーム,もう一方を普通の画像にして動かすこと,一方をスローに動かすこと,撮影している画像をそのままスルーにして直接表示することを規定するものではないから,原告の上記主張のうち,本願発明1がこれらの画像処理を行い得ることを前提としてされた部分は,発明の要旨に基づかないものであって,この点においても失当といわざるを得ない。
(2)画面について原告は,引用発明につき,編集機能のワイプ効果を使っているだけなので,左右2画面が独立した画面ではなく,それぞれの画面を独立して操作する機能を持つものではないのに対し,本願発明1は,2画面はそれぞれ独立して,それぞれに書き込みや編集ができるものであり,審決の対比は,この点を無視した誤りがあると主張する。
しかしながら,上記のとおり,本願発明1の要旨は,2画面に表示する画像の処理として,「指導者又は被指導者の何れか一方の画像を動画像として一方の画面に表示し,他方の画像を静止画像として他方の画面に表示する」こと,「双方の画像を動画像として2画面に表示する」こと,又は「静止画像として2画面に表示する」ことを選択的に規定するのみであるから,原告の上記主張に係る「書き込みや編集」がこれらの画像処理以外を意味するのであれば,発明の要旨に基づかないものとして,主張自体失当である。
しかるところ,引用例の「VDP5は次のような6機能を有している。@頭出し(ビデオディスク上の所望の場所のスタート番地を探し出すこと)A静止画(スチール,連続して1枚の画を見ることができること)B駒落し(スローモーション,画面の進み方を遅くして,ゆっくり動かし細かく分解して見ることができること)C早送り(クイック,スローモーションの反対で,早い動きを見ることができること)D逆送り(バックモーション,画面の動きを反対モーションにすること)Eランダムアクセス(上記の@〜Dの機能を自由に組み合わせて操作させる機能であり,スポーツなど同じ動きを繰り返し見たい場合に便利なものである。例えば,繰り返し操作(ほとんど切れ目なく同じ部分を反復して見ること),あるいは,飛び越し操作(見たいプログラムをいくつか選択して記憶させておけば,その順番で自動的に再生が行われ,その順番が前後しても指示どおりの順序で見ること)を行うことができる。)」(4頁12行〜5頁12行),「まず,所定の位置にセットされているビデオカメラ4で,ゴルフのスウィングをしている自分を撮る。このときに,所望する画角の映像になるように,TV7の画面を見ながらスイッチ9AのZOOMボタンを押して調整する。ビデオカメラ4から出力される映像信号Aは,映像特殊効果装置6に供給される。ここで,水平ワイプ効果が選択されていると,第3図(A)に示されるように,映像信号AはTV画面の右半分に映し出される。VDP5は,電源を入れ,ゴルフの試合がはいっているビデオディスクを装着した後,スイッチ9BのPLAYボタンを押せば,映像信号Bが映像特殊効果装置6に供給される。そして,映像信号BはTV画面の左半分に映し出される。スウィングしている自分の姿が映像Aで,プロのプレーヤのスウィングしている姿が映像Bであれば,前記したVDP5がもつ6つの機能を利用することにより,プロのプレーヤーのフォームの画を自在のモーションで見ながら自分のフォームをその画に合わせれば,フォームを直すことができる。例えば,スイッチ9BのRVSボタンを押すことにより,TV画面上の映像Bの動きをバックモーションにしたり,あるいはSTILボタンを押して,映像Bの動きを止めたりして,繰り返し,繰り返し,映像Bに自分のフォームを合わせるようにすると,フォームを直すことができるのである。」(9頁11行〜10頁17行)との各記載によれば,引用発明は,TV7の画面の右半分に,スイングしている自分の姿の映像Aが映し出され,TV7の画面の左半分に,映像Aとは独立に,プロのプレーヤがスイングしている姿の映像Bが映し出され,ボタン9Bの操作により,画面上で,映像Aとは独立に,映像Bの動きをバックモーションにしたり,止めたりすることができるものであることが認められる。
そうすると,引用発明は,2画面のそれぞれを独立して操作する機能を持つものであり,2画面に表示する画像の処理として,少なくとも「被指導者の画像を動画像として一方の画面に表示し,他方(指導者)の画像を静止画像として他方の画面に表示する」ことができるものであるから,原告の上記主張に係る「書き込みや編集」が,本願発明1の要旨に基づく,選択的に規定された「指導者又は被指導者の何れか一方の画像を動画像として一方の画面に表示し,他方の画像を静止画像として他方の画面に表示する」こと,「双方の画像を動画像として2画面に表示する」こと,又は「静止画像として2画面に表示する」ことを意味するものとしても,引用発明が,その機能を持たないとする主張は誤りである。
(3)したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。
2取消事由2(相違点Cについての判断の誤り)について(1)原告は,相違点Cについての審決の判断に対し,甲2及び甲3文献に記載されたものや,甲4及び甲5文献に記載されたものが,本願発明1とは異なるものであるとか,本願発明1では,ビデオ画像の信号をコンピュータに入力して画像の合成等の種々の信号処理を行う場合に,タッチペン・ボードによる本願発明1独自の画像加工表示技術を使用して2画面を自由自在に加工表示し得るものであり,このような技術は,本願発明1の優先日前に周知のものではないと主張する。
しかしながら,審決の認定した相違点Cは,「本願発明1では,種々の信号処理を行う装置が,2つのビデオ信号処理ボード,1つの制御用ボードを有し,種々の信号処理を行うパーソナル・コンピュータであると共に,該パーソナル・コンピュータに,これを制御するためのキーボードと同様の作動を行うタッチペン・ボードが接続されているのに対して,引用発明では,種々の信号処理を行う装置(映像特殊効果装置6)の具体的構成が定かでない点」であり,そうすると,進歩性判断の手法としては,引用発明の「種々の信号処理を行う装置(映像特殊効果装置6)」に,他の公知技術又は周知技術等を適用して,本願発明1の「種々の信号処理を行う装置」に係る「2つのビデオ信号処理ボード,1つの制御用ボードを有し,種々の信号処理を行うパーソナル・コンピュータであると共に,該パーソナル・コンピュータに,これを制御するためのキーボードと同様の作動を行うタッチペン・ボードが接続されている」構成を想到することが容易であるか否かを判断することになるところ,審決は,甲2及び甲3文献に基づき,「ビデオ画像の信号をコンピュータに入力して画像の合成等の種々の信号処理を行うこと」が周知技術であることを認定して,引用発明の「種々の信号処理を行う装置」に,かかる周知技術を適用し,パーソナル・コンピュータを使用するものとすることが容易であること,その際に,当該パーソナル・コンピュータが,2つのビデオ信号処理ボード,1つの制御用ボードを有するようにすることも,当業者が適宜決定し得る事項であると判断し,また,甲4及び甲5文献に基づき,コンピュータを制御するための装置として,キーボードと同様の作動を行うタッチペン・ボードが周知技術であることを認定し,上記のように,引用発明に適用すべきパーソナル・コンピュータにこれを接続することが容易であると判断したものである。
したがって,審決は,甲2及び甲3文献に記載されたものや,甲4及び甲5文献に記載されたものが,本願発明1と相違しないと認定したものではなく,また,そのような認定をする必要があったわけでもない。さらに,タッチペン・ボードの特定に係る本願発明1の要旨は,「これ(判決註:パーソナル・コンピュータ)を制御するためのキーボードと同様の作動を行う」とのみ規定するものである(したがって,相違点Cの認定もこれに基づいている。)から,本願発明1では,ビデオ画像の信号をコンピュータに入力して画像の合成等の種々の信号処理を行う場合に,タッチペン・ボードによる本願発明1独自の画像加工表示技術を使用して2画面を自由自在に加工表示し得るものであるとの原告の主張は,それが「キーボードと同様の作動」の範囲を超えるものであるとすれば,発明の要旨に基づかないものとして,主張自体失当であるといわざるを得ない。
(2)画像合成の信号処理について甲2及び甲3文献には,次の各記載がある。
ア甲2文献の記載「(49)は第1の撮影装置(41),第2の撮影装置(42)の出力映像信号をディジタル変換してパーソナル・コンピュータ(46)に取り込むためのA/Dコンバータ,(50)はパーソナル・コンピュータ(46)のプリンタ装置,(51)はビデオ・プリンタ装置である。
以上の構成はゴルファーのスイング・モーションを解析するためのもので,ビデオ映像と電子写真映像からなる合成映像でゴルファーのスイング・モーションの時間的推移を表示するように構成されるものであるが,以下にその動作を説明する。
ゴルファ-のスイング・モーションを撮影する第1の撮影装置(41)からの映像信号と第2の撮影装置(42)から出力された映像信号はA/Dコンバータ(49)でディジタル変換され図示しない制御部でタイミングを調整された上で映像信号合成処理により合成され,ゴルファーのスイング・モーションの時間的推移を表す一連の合成映像としてディスプレイ・モニタ(45)上に表示される。」(1頁右下欄末行〜2頁左上欄下から2行)イ甲3文献の記載「コンピュータが介在するものとしては,次のようなものがある。C.予め作成した理想的なスウィングパターンをコンピュータに入力しておき,実際に撮像した対象(練習)フォームの画像を基準位置で合わせた後,グラフィック画面にスーパーインポーズ表示する。D.ビデオテープに格納した一連の動作を各コマ単位で静止画像表示し,各コマの画像における動作上の特徴点をマニュアルで画面入力し,各コマ画像の特徴点群を時系列に連結し,各特徴点列の軌跡をCRT上にグラフィック表示する。」(2頁右上欄8〜19行)以上の各記載によると,甲2及び甲3文献には,いずれも,「ビデオ画像の信号をコンピュータに入力して画像の合成等の種々の信号処理を行うこと」が開示されているものということができ,そうすると,本件特許出願に係る優先権主張日当時,このことは周知の技術事項であったものと認めることができる。
ウそうすると,「ビデオ画像の信号をコンピュータに入力して画像の合成等の種々の信号処理を行うことは,本願の優先日以前から周知である。」とした審決の認定に誤りはない。
(3)タッチペン・ボードについて本願の優先日以前に周知の甲4及び甲5文献には,次の各記載がある。
ア甲4文献の記載「ペン型の外形を有し,先端のポールの回転方向や移動量を正確に検出することが出来るため,普通の筆記具を使うように,図形や文字をコンピュータへ入力することが可能となる。また,従来のマウスに比べ少ないスペースでコンピュータへの入力が出来,ボールのころがりによる雑音も少なくすることができる。」(3頁右上欄12〜18行)イ甲5文献の記載「7は上記した入出力部2を構成する液晶表示器等からなる表示器であり,8は同じく入出力部2を構成する,例えば抵抗膜方式の透明なデジタイザ(タッチパネル)である。デジタイザ8の上面を上記ペン3でなぞることにより,表示器7になぞられた図形が表示される。また,このデジタイザに対して,適当な文字をなぞって入力すると,前記ROM4の文字認識プログラムに従って,正規の文字パターンに変換されて表示されるものである。」(2頁左下欄16行〜右下欄5行)以上の各記載によると,甲4及び甲5文献には,いずれも,コンピュータ制御をするための装置として「キーボードと同様の動作を行うタッチペン・ボード」が開示されているものということができ,そうすると,本件特許出願に係る優先権主張日当時,このことは周知の技術事項であったものと認めることができる。
ウそうすると,「コンピュータを制御するための装置として,キーボードと同様の動作を行うタッチペン・ボードは,・・・周知である」とした審決の認定に誤りはない。
したがって,原告主張の取消事由2は理由がない。
3取消事由3(手続違背)について原告は,拒絶理由通知に対して請求項1〜3から成る補正をしたにもかかわらず,請求項2及び3について審理をせずに行われた審決は,特許法159条2項で準用する同法50条に違反している旨を述べるが,平成17年1月18日に拒絶理由通知書が発送され,拒絶理由が通知されるとともに,出願人である原告に対して,発送の日から60日の期間を指定して意見書を提出する機会が与えられており(甲23),原告はこれに応じて意見書(甲24)を提出しているのであるから,本件手続は原告が主張する特許法の規定に違反したものではない。また,原告の主張を,その内容に沿って,特許法49条2号違反をいうものであると善解したとしても,同号の文言上,特許出願が複数の発明を含む場合において,そのうちの1つの発明について拒絶理由があるときは,審査官は「その特許出願について拒絶をすべき」ことを定めているから,本願発明1に進歩性が認められないとの判断を前提として,請求項2及び3に記載された本願発明2及び3について審理判断をせずに本件審判の請求を成り立たないとした審決に違法はなく,原告の主張は失当である。
第5結論以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がないから,原告の請求を棄却すべきである。
裁判長裁判官 石原直樹
裁判官 古閑裕二
裁判官 杜下弘記