審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成17ネ10125補償金請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成18ワ18196補償金請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17ワ11007不当利得返還等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成16ワ11060職務発明の対価請求事件 | 判例 | 特許 |
平成10ワ16832補償金請求事件 平成12ワ5572補償金請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 特許を受ける権利 / 承継 / 発明者 / 職務発明 / 業務範囲 / 発明行為 / 現在または過去の職務(現在又は過去の職務) / 相当の対価(相当な対価) / 外国の特許 / 自然法則 / 反復(反復可能性) / 反復実施 / 技術的思想 / 創作性(創作) / 製造方法 / 共同発明 / アクセス / 出願公開 / 試行錯誤 / 先行技術 / 優先権 / 国内優先権 / 共有 / 着想 / 警告 / ライセンス / 登録実用新案 / 登録意匠 / 意匠権 / 存続期間 / 特許料(維持年金) / 均等 / 実施 / 先使用権(先使用) / 交換 / 構成要件 / 業として / 算定方法 / 販売数量(販売数) / 実施料 / 共同発明者 / 実施権 / 通常実施権 / 実施許諾(実施の許諾) / 設定登録 / 対価 / クロスライセンス / 拒絶理由通知 / 請求の範囲 / 拡張 / 変更 / |
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事件 |
平成
17年
(ワ)
2997号
特許権譲渡対価請求事件
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東京都世田谷区<以下略> 原告X 同 訴訟代理人弁護 士木下洋平東京都港区<以下略> 被告株式会社東芝 同 訴訟代理人弁護 士竹田稔 同 川田篤 同 補佐人弁理 士小栗久典 同 玉城健 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2007/06/27 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1被告は,原告に対し,金207万1574円及びこれに対する平成17年2月24日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。 2原告のその余の請求を棄却する。 3訴訟費用は,これを20分し,その19を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求被告は,原告に対し,金5000万円及びこれに対する平成17年2月24日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要2本件は,「光電面及びその形成方法」についての特許権(日本特許権,米国特許権,ヨーロッパ(ドイツ,イギリス,フランス)特許権,中国特許権及び韓国特許権)に係る発明について,被告の元従業員である原告が,同発明は,被告在職中に単独で行った職務発明であり,原告は,特許を受ける権利を被告に承継させたとして,特許法35条3項(米国特許権,ヨーロッパ特許権,中国特許権及び韓国特許権については,同項の類推適用)に基づいて,その相当の対価として,既払金(7万8000円)を除いた金額の内金5000万円(日本特許について4288万5000円,米国特許について234万円,ドイツ特許及びイギリス特許について各16万5000円,フランス特許について15万5000円,中国特許及び韓国特許について各214万5000円)及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成17年2月24日から支払済みに至るまで年5分の割合による遅延損害金の支払を,一部請求として求めたのに対し,被告が,原告は,上記発明の単独発明者ではなく,被告の従業員であった他の者との共同発明であり,共同発明者における原告の貢献割合はごくわずかであることのほか,相当の対価を算定するに当たって考慮すべきその他の事情を踏まえて相当の対価の額を算定すると,被告は,原告に対し,既に相当の対価を支払済みであると主張して,争っている事案である。 1前提となる事実等(争いがない事実以外は証拠を末尾に記載する。)□当事者ア原告は,昭和43年3月に,中央大学大学院工学研究科電気工学専攻を修了後,同年4月1日に被告に入社し,以下のような異動を経て,平成7年9月30日に被告を退職した(甲9)。 昭和43年4月1日被告入社中央研究所開発部電子管グループ昭和49年1月1日電子事業部光電変換管技術部イメージ管技術グループ3昭和49年4月1日堀川町工場電子製造部特殊電子管課昭和51年3月1日堀川町工場電子製造部電子製造技術グループ主務昭和51年4月1日電子事業部光電変換管技術部イメージ管技術課主務昭和55年4月1日電子事業部電子技術研究所(以下「電子技研」という。)電子管開発部グループ主査昭和58年4月1日電子事業部医用電子管技術部イメージ管技術課課長昭和60年4月1日堀川町工場固体デバイス製造部固体デバイス製造技術グループ課長昭和62年4月1日堀川町工場部品技術部部品技術グループ課長平成元年4月1日堀川町工場部品技術部部長平成2年4月1日電子事業本部液晶プロセス技術グループ主幹平成4年6月1日アメリカ合衆国EET社駐在技術コンサルタント(平成5年7月30日まで)平成7年9月30日退職イ被告は,電気機械器具等の製造・販売を主たる業務とする株式会社である。 なお,被告は,従前,線イメージ管(以下「線」ともいう。)X XI.I.の製造及び販売を行っていたが,平成15年10月1日付けで,線イメXージ管の製造及び販売を含む電子管事業を,会社分割(新設分割,以下「本件会社分割」という。)により分社した。これ以降,本件会社分割によって設立された東芝電子管デバイス株式会社(以下「東芝電子管デバイス」という。)が,同事業を行い,被告は,線イメージ管自体の製造及Xび販売をしていない(乙27)。 4□被告の特許権ア日本国特許権被告は,線イメージ管に関する,以下の特許権を有している(以下X「本件日本特許権」といい,その特許を「本件日本特許」という。また,特許請求の範囲請求項1記載の発明を「本件発明1」といい,同請求項2記載の発明を「本件発明2」といい,両発明を総称して「本件発明」という。)。 発 明 の 名 称光電面及びその形成方法特許番号第2695820号優 先 年 月 日昭和62年(1987年)3月18日出 願 年 月 日昭和63年(1988年)3月17日登 録 年 月 日平成9年(1997年)9月12日特許請求の範囲請求項1:多数の間隙若しくは空孔のある表面を有する多結晶部材の一つ又は複数の組合せからなる基体上にアルカリ金属酸化物層を介在させて形成される,半金属,マンガン又は銀及び一種又は複数種のアルカリ金属を主成分としかつ該半金属,マンガン又は銀及び一種又は複数種のアルカリ金属が化学量論的な,又はこれに近い組成比をなす光電面。 請求項2:多数の間隙のある若しくは多孔性の表面を有する多結晶部材の一つ又は複数の組合せからなる基体上に半金属,マンガン又は銀及び一種又は複数種のアルカリ金属を主成分とする光電面を形成する方法において,該基体上にアルカリ金属酸化物層を形成し,該アルカリ金属酸化物層上に前記半金属,マンガン又は銀及び一種又は複数種5のアルカリ金属が化学量論的な,又はこれに近い組成比をなす光電面を形成する光電面の形成方法。 イ外国特許権被告は,本件日本特許権と発明内容をほぼ同じくする,以下の外国各特許権(以下「本件各外国特許権」といい,その特許を「本件各外国特許」という。それぞれの外国特許権については,「本件米国特許権」などという。また,本件日本特許権又は本件日本特許と併せて「本件各特許権」又は「本件各特許」という。)を有していたが,いずれも,特許料未納等により消滅した。 (ア)米国特許権(甲3,乙85)発 明 の 名 称光電面及びその形成方法特許番号第4950952号優 先 年 月 日1987年3月18日出 願 年 月 日1989年9月15日登 録 年 月 日1990年8月21日遅くとも,平成10年(1998年)8月21日には消滅した。 (イ)ヨーロッパ特許権(甲4,乙86〜88,弁論の全趣旨)発 明 の 名 称光電面及びその形成方法特許番号0283020B1優 先 年 月 日1987年3月18日出 願 年 月 日1988年3月17日登 録 年 月 日1991年6月5日指定国ドイツ,フランス,イギリスドイツを指定国とするものについては,平成9年12月2日に消滅した。フランスを指定国とするものについては,同年3月31日に消滅した。そして,イギリスを指定国とするものについては,同月176日に消滅した。 (ウ)中国特許権(甲5,乙90)発 明 の 名 称光電面及びその製造方法特許番号88101430.3優 先 年 月 日1987年3月18日出 願 年 月 日1988年3月18日登 録 年 月 日1993年6月20日平成9年3月18日に消滅した。 (エ)韓国特許権(甲6,乙89)発 明 の 名 称光電面及びその形成方法特許番号0043004号優 先 年 月 日1987年3月18日出 願 年 月 日1988年3月18日登 録 年 月 日1991年7月16日平成9年3月29日に消滅した。 □本件各特許権の明細書等における発明者の記載本件各特許権の明細書等には,原告が単独の発明者として記載されている(甲2〜6)。 □従業員の発明に関する被告の定め被告は,従業員の発明に関し,従業員発明考案取扱規程を定めている。原告が,本件各特許についての特許を受ける権利を被告に承継させた当時は,昭和56年8月1日に改訂された従業員発明考案取扱規程(以下「被告規程」という。)が適用されていた(弁論の全趣旨)。 被告規程には,以下の規定がある(乙66の1)。 (定義)第2条…7□この規程で「発明等」とは,発明,考案および意匠の創作の総称をいう。 □この規程で「特許等」とは,特許,登録実用新案および登録意匠の総称をいう。 □この規程で「特許権等」とは,特許権,実用新案権および意匠権の総称をいう。 □この規程で「出願権」とは,発明等について特許等を受ける権利をいう。 □この規程で「職務発明」とは,従業員のした発明等のうち,その内容が会社の業務範囲に属し,かつその発明等をするに至った行為が,会社におけるその従業員の現在または過去の職務に属する発明等をいう。 □……(権利の承継)第4条職務発明をした従業員は,その出願権を会社に承継させなければならない。ただし,会社が承継する必要がないと認めたときは,この限りでない。 …(補償の種類)第7条会社は,従業員から発明等を承継したときは,この規程または別に定める基準により次の補償を行なうものとする。 □譲渡補償。出願時または出願しないとした時および特許または実用新案については登録時に行なう補償。 □実績補償。特許権等について,これ等を社内において実施(登録前の実施を含む)したときに行なう補償。 8□ライセンス補償。出願権または特許権等について,第三者に実施権を許諾し,実施料収入を得たとき(特許法および実用新案法の公開制度による補償金,損害賠償金を得たときを含む),または第三者の所有に係る出願権若しくは特許権等の実施につき,実施料を支払うべき場合(特許法および実用新案法の公開制度による補償金,損害賠償金を支払うべき場合を含む)に,その支払に替えて会社の所有に係る出願権若しくは特許権等を実施許諾したときであって,その許諾が,会社の実施料支払を免がれるに不可欠の条件にあるとみられるとき(クロスライセンス契約という。)に行なう補償。 (譲渡補償)第8条譲渡補償は次により行なう。但し出願時および登録時に行なう補償は,それぞれ一つの発明等として,最初に行なう補償1回限りとする。 @特許または実用新案@)出願するもの,出願1件について3,000円(出願補償)…C)特許権の登録のあったとき,登録1件について5,000円(登録保証)…(実績補償)第9条実績補償は次により行なう。 @特許および実用新案についての補償は,権利消滅前の実施について登録後各年毎に次により行なう。登録前の実施については,登録後最初に行う補償に含め行なうものとする。 ************************************************************************************************************94級25,000円5級10,000円6級6,000円…(ライセンス補償)第10条ライセンス補償は次により行なう。……(外国への出願権等)第18条この規程において,「出願権」および「特許権等」には,外国に対する(外国における)ものも含むものとする。 □特許を受ける権利の承継及び対価の支払義務本件発明は,被告の従業者による職務発明であり,本件各特許の特許を受ける権利は,被告規程4条1項に基づいて,被告に承継された。 したがって,被告は,本件各特許を受ける権利の承継の対価として,本件日本特許の特許を受ける権利について,特許法35条3項に基づき,本件各外国特許の特許を受ける権利について,特許法35条3項を類推して(最高裁平成16年( )第781号同18年10月17日第三小法廷判決・民集6受0巻8号2853頁参照),相当の対価を支払う義務がある。 なお,被告は,本件会社分割後も,上記対価支払義務を負うこととされている。 □被告の原告に対する補償金の支払被告は,本件日本特許に係る発明について,原告に対し,本件日本特許出願時に3000円,同登録時に5000円,平成16年10月25日に,平成9年度(年度は,4月から翌年3月まで。以下同じ。)から平成15年度までの実績補償金として7万円(各年度1万円で7年分)をそれぞれ支払った(甲8,乙66の1)。 10□被告による本件発明の実施被告は,昭和58年ころ,線イメージ管に用いる光電面について,ヨウX化セシウム()蛍光体の柱状多結晶上に透明導電膜を形成した後にアルCsIカリ金属をドープし,次いで酸素を導入し,その後,アンチモン()なSbどの半金属及びアルカリ金属を蒸着して形成する方法を用いて製造することを開始した。被告は,その後も,本件会社分割まで,同製造方法を用いた光電面の製造・販売を行った(乙81)。この製造方法は,本件発明2に係る製造方法であり,これによって製造された光電面は,アルカリ金属酸化物層が形成された,本件発明1に係る光電面である。したがって,被告は,本件発明を実施していた(弁論の全趣旨)。 2争点□本件発明の発明者(争点1)□特許法35条3項の相当の対価の額ア本件発明による独占の利益(争点2-1)イ被告の貢献度(争点2-2)ウ共同発明者間の貢献割合(争点2-3)エ相当の対価の額(争点2-4)3争点についての当事者の主張□争点1(本件発明の発明者)について(原告の主張)原告は,以下のとおり,本件発明の単独発明者であり,被告の従業員であったAは,実験補助者として本件発明に関与したにすぎない。 ア原告の発明行為(ア)原告は,入社直後に配属された中央研究所に在籍していた当時から,光電面に係る技術の研究開発に携わり,イメージ管課への異動後は,@(ヨウ化セシウム)入力蛍光面を用いた線イメージ管の光電面に,CsI X11酸化物を使った酸化物を下地として使って光電面感度を上げ,AさAlらに,透明導電膜下地を持つ大幅な光電面感度の上昇を実現した,In O23バイアルカリ光電面の線イメージ管を実用化してきた。また,これXらを社内レポート等として,多数報告した。 (イ)原告は,その後,公知の酸素増感光電面についての検証を行い,この手法に実用化の道がないと判断し,その後,従来から一貫して行ってきた下地膜の方向に研究を進めた。 すなわち,当時被告で製造していた光電面は,セシウムアンチモン()モノアルカリ光電面であったが,この感度を向上させる方法Cs Sb3として既によく知られていた酸素増感法は,寿命が短いという問題があった。原告は,改めてこの方法の可能性を探ることが有用であると感じ,検証を行うこととした。そして,その検証のための実験について,種々の改良を行い,周到な準備を行った。その改良は,酸素導入機構の案出,実験管(管,発光光に対して透過性のよい紫外線透過ガラスUVを出力部に持ったもの)の試作,他のアルカリ金属材料の発注などである。 酸素導入機構には,****を設けるという原告の新しいアイディアが盛り込まれている。これにより,酸素の導入を簡便にするという実用上の大きな長所が得られた。管の試作は,光電面の分光特性をよりUV正確に測定する上で重要であった。の発光光には,寄りの光CsI/NaUVが含まれており,この光に十分な感度を持つことが,測定を正確に行う際に有効であるからであった。この発想は,原告によるものであり,Aの氏名が筆頭に示された社内報告書に述べられている分光感度の特性は,このような実験管を試作したことによって測定されたものである。 原告は,これらの準備を経た実験を,Aに指示をして行っていたが,十分な効果を得るところまではいかないと判断した。Aは,こうした状12況にあっても,依然として従来の酸素増感に固執していたため,原告は,Aを叱責したが,その折,アルカリ金属と酸素の反応による下地膜の形成を思い付き,酸素導入の工程を最初に行うように指示したものである。 原告は,この結果に基づき,次々と実験の指示を行った。 なお,原告が,本件発明に係る実験や,その前後の実験等が行われていた期間に作成していたメモ(甲9添付資料7ないし42,46及び47。以下「本件メモ」といい,それぞれのメモについて,添付資料番号を付して,「本件メモ7」などという。)には,「酸素増感」という言葉が記載されているのみで,「下地膜」という言葉は出てこないのであるが,これは,材料として新たに酸素を用いて増感されたこと,他方,「下地膜」というと,入力蛍光面工程で行われる従前の下地膜が想起されることから,下地膜という言葉を用いなかったためである。 (ウ)このように,原告が,酸素導入のタイミングを変えることを思い付いてAに指示をしたのは,昭和57年6月29日の午前中であり,電子技研内で,原告もAも立ったままで,話をしている際であった。 原告は,これ以降,この実験管の名称を「シリーズ」とし,少OUPしずつ,本件発明の光電面の条件を詰めていった。当初のは,OUP-1上記のようなきっかけで生まれ,原告の文書による明確な指示で生まれたものではない。しかし,測定できないほどに低感度の光電面が形成されるに至った最初の実験管試作において,何か増感のきっかけが得られたという報告を得て,原告は,次の試作管からこの経過記録を残しておくことを考えて,本件メモのうち,シリーズに関するメモを作成OUPした。 このメモは,光電面形成の実験を進めるに当たり,どのような実験管を用い,どのような形成条件で行うかについて記載したものである。原告は,このメモを,Aに見せ,Aはこれらに従って実験を行った。上記13メモには,実験方法のみならず,その結果についての記載も残されている。 (エ)原告は,次に,酸素による増感作用はどの材料に影響を与えた結果であるのか,すなわち,アンチモン()に対する結果か,アルカリSb金属に対する結果かを見極める必要を感じ,この観点からとOUP-2を作成した。OUP-3は,酸素がアンチモン()に最も反応しやすいように,アンOUP-2 Sbチモンの蒸着を酸素の雰囲気の中で行った。他方,は,アルカリOUP-3金属の導入後に酸素を入れた(アルカリ金属は蒸気圧が高く,管内に長く残留する性質があるため,同時に導入する必要性はない。)。 OUP-3 OUP-2(オ)の実験を指示するメモは残されていないが,これは,とが,いずれも,酸素の作用がアンチモンに対するものか,アOUP-3ルカリ金属に対するものかを見極める実験であり,は,のOUP-3OUP-2場合と,酸素を作用させる対象をアンチモンからアルカリ金属に変えるだけの違いしかなく,この点の指示は口頭で行うことが可能であったからである。 そして,原告は,及びの実験の意義を重視していたのOUP-2OUP-3で,「に続く実験」と題する本件メモ29(昭和57年7月1OUP-2,33日付け)に,詳細な記録を残している。すなわち,当該メモには,酸素増感直前,酸素増感直後,直前の測定データ(これらについchip-offてAに記入をさせている。)のほか,2日後の測定データを記入しているが,これは,学術用語にも述べられる本来の酸素増感の振る舞いである,光電面形成直後から光電面感度が徐々に伸張する(真空の中だけで存在する結晶構造が,光電面形成終了後の徐冷時に,その欠陥の修復が行われて完成していき,化学量論比に近くなる。)ことが見られるかを確認し,実験によって得られた光電面が素性がよいものであるか否かを14見極めるためであった。 これらの検討を経て,原告は,感度の上昇は,酸素がアルカリ金属に作用することにあると結論付けた。そして,さらに,最適化,分光感度への酸素の影響の仕方等の検討のため,これ以降のシリーズの実OUP験を進めていった。 (カ)上記(イ)のとおり,原告がAに対する指示を行ったことが,本件発明のきっかけとなったが,本件メモの中にも,原告が同指示を行ったことを裏付ける記載がされている。すなわち,シリーズの実験の前にOUPSb行 っ て い た , ア ン チ モ ン を 光 電 面 形 成 前 に 蒸 着 さ せ る 「法」による実験(シリーズ)の過程で,増感効果等Pre-evaporationSBOを企図して,光電面形成の直前に酸素を導入する実験を提案している(本件メモ20には,「次回の」として「・と増感を考えTrialwashingて,導入(面作り直前)」と記載されている。)。このような発想O2があったからこそ,原告は,上記(イ)のような指示をすることとなったのである。 (キ)本件発明の内容が示されている技術報告書(報告番号WT-51)(乙7)(以下「本件技術報告書@」という。)は,Aが記載したものであるが,これは,原告が草稿を仕上げてAに交付し,Aがそれを基に手書きしたものである。 原告は,マルチアルカリ光電面の形成に関する実験等についての報告をする際,Aに報告書を作成させることを考えて,昭和56年1月22日付けの「報告書の纏める方向()」(本件メモ46)を作成しT211て,Aに示したが,Aは報告書を作成できなかった。その経験があったので,本件については,報告書記載予定について,簡単に記載したメモを作成し(本件メモ47の「予定」),原告が草稿自体を作成Reportsしたのである。また,本件技術報告書@には,表紙に,製造課で製造さ15れた光電面の感度に関するデータが記載されているが,これは,Aの意向によって,後から追加で記載されたものである。本文には,対応するデータの記載がないが,Aが作成しているのであれば,本文にも当該データが記載されているはずであり,本文に記載がないことは,本文を原告が記載したことを示している。 イ出願等の手続における原告の主体的役割(ア)被告内での特許出願までの手続は,以下のとおりに行われる。 まず,発案者は,その発案が公知であるか否かについて,書籍や論文で公知例を調べ,公知ではない場合には,特許の提案書を作成し,被告への譲渡書とともに上長に提出する。上長が内容を確認した上で,承認できる場合には,その旨の押印をして特許担当者に回付する。特許担当者は,内容や特許性等をチェックし,発案者にも内容の確認を行わせた上で,発案者の了解を得て,出願手続がとられることになる。 本件発明の場合も,上記と同様の手続が行われた。 本件発明に係る技術は,他社が使用したとしてもその立証が困難であることから,当初,出願が見送られた。しかし,その後,原告は,外国で類似の技術の検討がされていることを発見し,出願申請に踏み切ったものである。原告は,特許の社内提案書を,手書きで作成した。 原告は,当時被告の特許担当であったB主務と何回か打合せを行い,また,類似特許や文献などを用意し,拒絶理由通知などへの反論もまとめ,B主務に提出した。 (イ)また,原告は,本件発明の技術の革新性に自信を持っていたため,国 際 学 会 に 発 表 し て , プ ラ イ オ リ テ ィ を 得 て お こ う と 考 え,「 」を作成し,ロンドンの学会で発Photocathodes on Polycrystalline CsI/Na表した。 ウAの役割16(ア)他方,Aの行ったことは,原告からの指示を忠実に実行に移すことであった。Aの作業は,いかなる速度でディスペンサーに電流を流し,アルカリ金属をどのように導入するかを判断し,その後,線イメージX管を排気装置から切り取る(ガラス管のガスバーナーによる切取りで,通称,チップオフという。)というものであったが,これらは,今では自動化装置で行うことが可能な作業になっているものである。 (イ)Aの,電子技研に所属する前の立場や技術的な活動からも,主体的な発明がされた経緯はない。 Aの氏名が筆頭に掲げられている種々の報告書も,そこに用いられている概念,表現,用語など,原告でしか用いることのできない記述があり,原告が草稿をまとめたものである。 (被告の反論)ア発明者の意義発明者とは,自然法則を利用した技術的思想の創作者をいう。より具体的には,現実に当該発明の創作に加担し,当業者が実施できる程度の技術的知見を得ることを要し,研究業務の一般的管理指導に当たる者,単に技術的な補助者はもとより,単なる基本的な課題とアイデアのみを提供したにすぎない者は,発明者ということはできない。 したがって,共同発明者といえるためには,単なる技術的問題点の指摘や着想に止まることなく,現実に当該発明の創作に加担することが必要であるとともに,発明完成への寄与の程度に従い,各自の貢献度・寄与率を認定判断すべきものである。 イ出願経緯本件各特許は,発明者を原告とし,出願人を被告として特許出願されたものである。 しかしながら,本件発明は,後記ウからキまでのとおり,Aが創作した17被告の職務に関する発明であり,上司の立場にあった原告は,せいぜい,共同発明者とかろうじて言える余地がある程度の関与があったにすぎない。 本件各特許の発明者が原告のみとなっているのは,本件日本特許の出願前に,Aと原告を共同発明者とした複数の特許出願について,社内事情により最終的に出願の放棄がされた一方,これらの出願の基となった提案とは別に,原告が,Aに無断で自己を単独の発明者とした提案書を作成して被告に提出しており,被告が発明者の記載の誤りに気付くことのないまま,当該提案に基づく出願を進め,最終的に本件各特許権が成立するに至ったためである。 ウAによる発明行為( )本件発明完成当時の被告線イメージ管事業の状況アXX本件発明は,昭和57年にされたものであるが,この当時,被告の線イメージ管は,競業他社のものと比較して何ら遜色のない性能を保っていた。このことは,本件発明がされる前の昭和57年1月9日付けで原告自身が作成した開発研究題目計画説明書(乙1)において,「[他社]・・・線は総合性能として最良のものは当社のものであるが,XI.I.各要素性能としては他社に秀れたものがある。」としていることからも明らかである。 もっとも,本件発明がされた前後の時期に,線イメージ管の更なるX性能向上が顧客より求められていたのは事実であり,被告を含めた各社は,線イメージ管の各種技術要素についての研究開発を進めていた。 X( )電子技研イこのような線イメージ管に関する技術開発のうち,基礎的な要素X技術や評価技術の開発等,中長期的な観点からの技術開発の一部を当時担当したのが,被告の電子事業部の下部組織として昭和55年4月1日に設立された電子技研である。電子技研は,電子事業部下の各事業部門18(実際の製品の製造,販売を行っている部門)の技術部により行われている技術開発のうち,中長期的な観点で行われている基礎技術開発等の一部を分担することを目的に作られた研究所であり,当初は,電子管関係を研究する電子管開発部グループ,表面波フィルターや液晶,太陽電池等を研究する固体デバイス開発部グループ,金属・セラミックス等の材料系を研究する材料プロセス開発部グループに分かれていた。 そして,電子管開発部グループは,更にブラウン管等を担当する画像電子管担当,線イメージ管や線管等を担当する医用電子管担当,XX工業用加熱に用いる送信管やマグネトロン管等を担当する電力管担当,半導体レーザ等を担当する光デバイス担当に分かれており,技術部と比較して研究者数等のリソースが限られていた医用電子管担当は,イメージ管に関するごく一部の技術について開発を行った。なお,電子管の研究については,結局,事業部門の技術部においてすべて行うのが妥当であるということになり,電子管開発部グループは昭和58年に解散となった。 原告は,電子技研の設立に合わせて電子技研電子管開発部グループの主査となり,医用電子管担当における高変換効率線グループの研XI.I.究開発の管理職として,研究開発計画の策定,予算の確保,進捗状況の管理等を行った。また,Aも同時に電子技研に異動し,イメージ管光電面技長として高変換効率線グループにて研究開発を行った。このXI.I.関係は,昭和58年3月31日に原告が異動するまで続いた。 高変換効率線グループにおいては,昭和55年の電子技研発足XI.I.の当初から,高解像度,高コントラストの線イメージ管を実現すべXく,各要素の性能を高めることが研究テーマとなっており,原告がテーXマ責任者とされた。研究項目は,光電面,入力蛍光面,出力蛍光面,線イメージ管の特性解明の4項目に細分化されていた。原告は,テーマ19責任者としての立場から,すべての研究項目に関与することとなったのに対し,Aは,特に光電面の研究開発の担当者となった。 ( )Aの経歴ウAは,昭和18年4月に被告入社以来,昭和63年10月31日に定年退職するまで,一貫して電子管の光電面の製造・研究に携わってきた技能者である。 Aが,被告堀川町工場電子管製造部特殊電子管課に在籍していた当時,被告では,線イメージ管の光電面を,基体となるヨウ化セシウムX()蛍光体上に,セシウム()その他のアルカリ金属及びアンチCsI Csモン()を蒸着させることで形成していた。また,当時から,光電Sb面形成後に酸素を作用させ(酸化させ)感度を向上させる酸素増感法という手法も知られていた。そこで,Aは,電子管開発部グループに異動する前から,光電面の感度を向上させる方法として,光電面に用いるアルカリ金属に何を用いるのか,また,酸素をどのように作用させればよいかという点について関心を持ち続け,研究を進めていた。 ところで,光電面は,それ自体が雰囲気に非常に敏感であり,また,非常に薄い膜であるため,その真の姿を分析で明らかにすることが極めて困難なものである。すなわち,@光電面の分析を行うには,光電面が形成された雰囲気(電子管内)から取り出し,分析器にセッティングしなければならないところ,これをたとえ真空中で行っても,管内とは異なる雰囲気にさらされるため光電面は大幅な性能劣化を引き起こし,本来観察したい状態を保持し得ないこと,A一般的には,分析を行う際に光電面を大気にさらすのを避けるのは難しいため,大気暴露により全く機能しなくなった光電面の分析しか通常は行えないこと,B光電面の厚みが数ナノメートルから十数ナノメートルしかないために,TEM(透過電子顕微鏡)を用いても十分な解析が行えないのに加えて,線イメX20ージ管の光電面は凹凸の激しい蛍光体上に形成されており,平坦なCsI面上の分析と比較して格段に分析条件が悪いこと等の事情による。 そのため,当時から,光電面の製造や開発は理屈や理論どおりにいくようなものではなく,実際に光電面を製造する過程で得た経験や勘というものが重要な意味を持っていた。しかも,当時,線イメージ管の光X電面の製造工程は自動化が今ほど進んでおらず,技術者がイメージ管一個一個について,製造工程の進み具合を確認,調整して光電面を作り上げていくものであった。Aは,光電面の製造現場で培った長年の経験と勘とともに,優れた製造技術を有していた人物であった。 また,Aは,同人と共に仕事をした他の技術者から,光電面の技術分野において優れた技術開発能力を有し,アイディアを出し合って開発に参加していたとの評価を得ている。 ( )高変換効率線グループにおける研究テーマエXI.I.高変換効率線グループにおいては,原告がテーマ責任者とされ,XI.I.Aは,光電面の研究開発の担当者となった。 K昭和55年5月時点における研究テーマとして原告が決めたのは,NaCs KRb(カリウム),(ナトリウム),の3種類,あるいは, ,(ルビジウム),の3種類のアルカリ金属を用いたマルチアルカリCs光電面の形成に関してであり,本件発明に関する技術である酸素増感法関係はテーマとして取り上げられなかった。Aは,不本意ながらも当初はテーマに沿った実験を行っていたが,やがて,従来より関心を持っていた酸素増感の手法に関する実験を自己の判断で行うようになった。原告は当初,研究計画から外れたことをするAをとがめたこともあったが,やがて,Aの実験により,酸素を作用させることで線イメージ管のX光電面の特性を改良できる可能性があることが分かってきたために,昭和56年度下期には,Aが酸素増感を研究テーマにすることを正式に認21めた。このことは,昭和57年1月9日付けの開発研究題目計画説明書(乙1)の研究項目の欄の「酸素増感光電面」のスケジュールが56年度下期の途中から実線になっており,同説明書の3頁目にある開発研究実行計画書に「(新世代線5.酸素増感光電面(A)下のXI.I. 56/に続き,実験管で増感に関する要点を押さえ,実用管に適用する可F.S.能性を探る。」とあることからうかがえる。 ( )電子技研におけるAによる研究オaAによる本件技術報告書@(乙7)記載の実験(以下「本件実験@」という。)Aは,従来,光電面の形成完了後に行われていた酸素増感を,光電面形成を行う前の段階で行うという手法,具体的には,がドープNaされた上にとをわずかに蒸着させた段階で一定量の酸素をCsIKCs炉に導入して作用させ,その後,更に,及びを蒸着させて光KCsSb電面を形成する工程を考え出し,当該工程を用いることで,光電面の感度の向上のみならず,光電面の耐電圧の向上,長寿命化を図ることが可能となることを発見した。この実験の内容及び結果をまとめたのが本件技術報告書@である。 本件技術報告書@3頁において,「入力面は下表の通り現在ルーチン化されている入力面を用いた」とあり,その下の表の第1行目に「入力面|基板|/」とあり,/の欄の2行目にAlCsINaCsINa「・・・基板蒸着」とあることからも明らかなように,本件実験NaI@においては,(アルミ)基板上に蒸着した,ドープの蛍Al NaCsI光体を基体とし,その上に光電面が形成されたものである。 そして,光電面は,とを蛍光体上に蒸着させた後に,酸KCsCsI素を導入し,その後,を蒸着させ,次いで,を蒸着させ,次にSb Kを蒸着させ,光電流がピークに達したのを見つつ,更にの蒸着Cs Sb22との蒸着を交互に3回繰り返すことで形成されている。Cs本件実験@は,Aの考案に係るものであり,実験自体もAがほとんど単独で実行したものである。原告は,本件実験@が行われた当時,Aの直属の上司であった関係上,本件実験@について,週に1回程度のミーティングを行い,実験の内容や結果を確認し,時には,実験の方法についての助言を行っていた。しかしながら,実験方法の考案から実験結果の考察に至るまで,すべてAが主体となって行っており,原告は,実験内容に影響を与えるような実質的な指示や助言は行っていない。 本件技術報告書@は,Aと原告との連名になっているが,これは,実験の過程において,上司である原告が打合せを比較的頻繁に行った等の事情にかんがみ,共同報告者として名前を載せておくことが適当であるとの配慮をAが働かせたからである。この報告書は,Aが筆頭者とされており,さらに,Aの手書きのものであり,その内容がAによるものであることは明らかである。原告は,特記事項欄に「この方法は感度で世界のトップレベルを大きく越え,が長いことの他,life耐電圧特性も向上されることが示された。この結果現製品で問題視されてきた感度の低迷や感度(結果として輝度)の低下による問題lifeも解決し得るとともに,線生来の問題点である耐電圧特性向上XI.I.に明るい見通しが得られたといえる。」と記載しているにすぎない。 bAによる昭和58年12月5日付け報告番号TT-64の技術報告書(以下「本件技術報告書A」という。乙8)記載の実験(以下「本件実験A」という。)Aは,本件実験@の結果に基づき,さらに,独自で考案した実験方法を続け,本件実験@で開発した新たな酸素増感法の適切な実施条件を詰めるとともに,光電面の更なる感度向上,製造工程の短縮化の可23能性を探った。 本件実験AもAの考案に係るものであり,実験自体もAがほとんど単独で実行した。原告からは,実験内容に影響を与えるような実質的な指示や助言を受けていない。 そして,本件実験Aについて,昭和58年12月5日に,本件技術報告書@と同様の理由で,原告を次席報告者とした本件技術報告書Aが作成された。Aが筆頭者でAが手書きしたものである点は,本件技術報告書@と同様である。原告は,特記事項欄に,「本手法は前報告の改良であり,増感のメカニズム解明に一歩踏み込んだ実験結果が得られ,かつ,従来上に形成された光電面の欠点とされた低感度性,CsI短寿命等の克服に有効な方法と考えられる。本報告の内容により,技術的な骨子はほとんど固まった。」と記載しているにすぎない。 ( )本件発明と本件実験@との対比カa本件発明1□本件発明1を分説すると,以下のとおりとなる。 A多数の間隙若しくは空孔のある表面を有する多結晶部材の一つ又は複数の組合せからなる基体上にアルカリ金属酸化物層を介在させて形成される,B半金属,マンガン又は銀及び一種又は複数種のアルカリ金-1属を主成分としかつ該半金属,マンガン又は銀及び一種又は複数種のアルカリ-2金属が化学量論的な,又はこれに近い組成比をなすC光電面。 □蒸着により形成されたドープの蛍光体は,柱状多結晶とNaCsIなっており,構成要件Aでいうこところの「多数の間隙若しくは空孔のある表面を有する多結晶部材からなる基体」に該当することに24なる。 他方,本件実験@においては,前記(オ)aのとおり,アルミ基板上に蒸着されたドープの蛍光体上に光電面が形成されていNaCsIる。したがって,本件実験@で用いられたドープの蛍光体NaCsIは,構成要件Aの「基体」に該当する。 また,本件実験@においては,光電面を蛍光体上に形成するCsI工程の前に,とが当該蛍光体上に蒸着され,次いで,酸素がKCs線イメージ管内に導入される工程が置かれている。したがって,Xこれらの工程により,蛍光体上には,との酸化物の層がCsIKCs形成されることになる。ともアルカリ金属の一種であるから,KCs結局,本件実験@では,蛍光体の基体上にアルカリ金属酸化物CsI層が形成され,その上に光電面が形成されることになる。 よって,本件実験@は,本件発明1の構成要件Aを充足している。 □は本件発明1の構成要件Bの「半金属」に該当する。前記Sb -1(オ)aのとおり,本件実験@においては,の蒸着↑の蒸着↑SbKの蒸着↑の蒸着との蒸着を交互に3回繰り返す,というCsSbCs工程により光電面が形成されている。とはアルカリ金属であKCsるから,結局,本件実験@において,光電面は半金属と2種のSbアルカリ金属(と)を主成分としていることになる。KCsしたがって,本件実験@は,本件発明1の構成要件Bを充足-1している。 □本件発明1の構成要件Bの「化学量論的な,又はこれに近い-2組成比をなす」とは,半金属とアルカリ金属の原子価数から求められる理論上の両者の組成割合か,アルカリ金属が半金属に対する理論上の組成比から0.1〜10倍の範囲内に収まっていることを意味すると解される。 25これを本件実験@でみると,光電面を構成する半金属とアルSbカリ金属及びの組成比についての明示的な記載は存在しない。CsKしかしながら,本件日本特許権の明細書(以下「本件明細書」という。)において,「光電面は,その感度を高くするためには,多くの文献に示されているように,その組成比をその構成元素の原子価で決まる化学論的な組成比又はこれに近似するものにしなければならない。」とあるように,光電面の性能を上げようとすれば,必然的に半金属とアルカリ金属の組成比が化学量論的な組成比に近くなるということは,当業者にとっては以前より周知であり,A自身,当然のこととして,本件実験@を行う以前より認識していたことである。このことは,Aが発明者の1人となっている,発明の名称を「光電面の製造方法」とする特公昭50-1868号の特許公告公報(乙9)において,「このようにセシウムを始め他のアルカリ金属の蒸気発生量制御は極めて困難であるにも拘らず,マルチアルカリ光電面及びバイアルカリ光電面ではアンチモンとアルカリ金属が化学量論的に一定の比率の場合光電感度が優れたものになるといわれている。」と記載されていることからも理解される。 また,本件明細書では,本件発明1の実施例に関し,「この後,酸化カリウム層の形成された基体を(50〜200)℃に保持しながら,光電面の形成を行なう。光電面の形成は他の文献その他に行なわれているものと基本的な差異はない。この光電面は酸化カリウム層上にを及びをそれぞれ作成させ,さらに光電流がピSbKCsークに達した後,,を交互に被着させ光電面を形成する。」SbCs(5欄21〜26行)と記載されているように,本件発明1において,アルカリ金属酸化物層を基体上に設けた後の光電面の形成は従来の方法によるのであるから,結局,本件発明1において,光電面26の半金属とアルカリ金属の組成比が「化学量論的な又はこれに近い組成比をなす」のは,アルカリ金属酸化物層を基体上に設けることで何ら工夫する必要なく達成される結果にすぎないことは明らかである。しかも,前記光電面の形成工程は,本件実験@で用いられた光電面の形成工程と同一である。 したがって,本件実験@においても,より高性能の光電面の開発を目的として実験が行われていた以上,光電面の半金属とアルカリ金属の組成比を「化学量論的な又はこれに近い組成比」とすることは,Aを含め,当業者であれば当然考えたことであるし,本件実験@において,基体上にアルカリ金属酸化物層が設けられ,かつ,本件発明1の実施例と同じ光電面の形成工程が用いられていた以上,本件実験@において,現実にそのような組成比が実現されていたことも明らかであるから,本件実験@は,構成要件Bを充足する。 -2□本件発明1の構成要件Cは,構成要件AないしBを充足する-2光電面ということであるところ,前記のとおり,本件実験@における光電面も本件発明1の構成要件AないしBを充足するもので-2あるから,結局,構成要件Cも充足する。 b本件発明2□本件発明2を分説すると,以下のとおりとなる。 D多数の間隙のある若しくは多孔性の表面を有する多結晶部材の一つ又は複数の組合せからなる基体上に半金属,マンガン又は銀及び一種又は複数種のアルカリ金属を主成分とする光電面を形成する方法において,E該基体上にアルカリ金属酸化物層を形成し,F該アルカリ金属酸化物層上に前記半金属,マンガン又は銀及び一種又は複数種のアルカリ金属が化学量論的な,又はこれに27近い組成比をなす光電面を形成するG光電面の形成方法。 □本件実験@で用いたドープの蛍光体は,構成要件DのNaCsI「多数の間隙のある若しくは多孔性の表面を有する多結晶部材の一つからなる基体」に該当し,本件実験@で当該蛍光体上に形成CsIされたと2種のアルカリ金属(と)からなる光電面は,構Sb KCs成要件Dにおける「半金属,マンガン又は銀及び一種又は複数種のアルカリ金属を主成分とする光電面」に該当する。 したがって,構成要件Dを充足する。 □本件実験@においては,蛍光体の基体上にアルカリ金属酸化CsI物層が形成されているので,本件発明2の構成要件Eを充足する。 □前記a□と同様の理由により,本件実験@は,構成要件Fを充足する。 □本件発明の構成要件Gは,構成要件DないしFを充足する光電面の形成方法であるところ,前記のとおり,本件実験@における光電面の形成方法も本件発明2の構成要件DないしFを充足するものであるから,結局,構成要件Gも充足する。 ( )小括キ以上から,本件発明は,被告の従業者であるAがその知見に基づき技術的思想として創作したものであり,原告は,Aが本件発明を完成する過程において,上司としてAを管理・監督し,実験の方法についての助言・指導を行っていたにすぎない。したがって,本件発明は,Aの単独発明とすら解し得るものであり,原告は,かろうじて本件発明の共同発明者とみなし得る程度の寄与しかしていないものである。 エ原告が主張するメモについて( )原告は,甲9添付資料の多くの手書きのメモをAに指示書として渡ア28し,Aはこれに従って実験を行ったにすぎない旨主張するが,上記のとおり,Aは,光電面の研究開発について極めて優秀な能力を有する技術者であり,原告のみが実験の進め方を細かくメモを渡して指示をしていたということには信憑性がない。Aも,このようなメモを含め,原告から実験の進め方等を指示した書面を受け取っていたことはない。 Aは,実験を進めるに際し,上司の原告と適宜打合せを行っていた。 その打合せでは,Aは,それまでに行った実験の内容と結果を原告に説明するとともに,その結果についての考えや,次に行おうとしている実験についても説明していた。その際,原告は,社内で用いられていたメモ用紙等にAの説明等を詳細にメモしていた。 甲9添付資料のメモには,実験方法のみではなくその結果や今後の課題まで記載されていることから見ても,これらのメモは,原告がAとの打合せの際に作成していた手控え用のものであるというべきである。 ( )しかも,上記のメモの記載からも,Aが原告からの指示を受けずにイ実験を進めていたことがうかがえる。 すなわち,昭和57年7月13日付けの本件メモ29では,時系列で見ると,はじめて,アルカリ金属ドープ後でアンチモン()の蒸着Sb前に酸素を導入するという工程について記載されているが,これは,結果の項目に記載されており,既に実験が終わった後に作成されたものであることがわかる。ところが,このという番号を付した実験管OUP-3での実験については,その計画を記載したメモが存在しないのであって,の実験については,事前の打合せによってAから情報を取得するOUP-3機会がなかったからであると考えざるを得ない。 また,の実験についても,本件メモ28に記載されている予定OUP-2のとおりには実施されていない。同メモでは,の実験において,OUP-2工程後の酸素増感は行わない旨記載されており,酸素増感直前の光電面29は存在しないはずであるところ,この実験結果が記載されている本件メモ29では,酸素増感直前及び酸素増感直後の両方における測定結果が示されているからである。 以上のとおりであるから,甲9添付資料の本件メモから見ても,Aが原告からの指示を受けてその指示どおりに実験を行っていたということはない。 ( )さらに,原告は,Aを叱責した際に,光電面形成の前に酸素を入れウることを口頭で言い,これが本件発明のきっかけになった旨主張するが,Aは,このような会話を行っていない。 しかも,原告の主張によれば,Aは,酸素を入れるタイミングを変えることを言われたその日に,具体的な実験方法を原告と相談することもなく,同助言に従い,光電面形成前に酸素を入れる実験を行ったことになるところ,Aのこのような対応は,原告が主張する,指示どおりに実験を行う作業者にすぎないとのAの位置付けと矛盾するものである。 ( )また,原告は,効果に限度がある酸素増感にこだわったAを叱責し,エその折りに,アルカリ金属と酸素の反応による下地膜の形成を思い付いた旨主張するが,原告が作成したとするメモには,酸素増感という言葉が出てくるのみで,下地膜という言葉は出てこない。Aが作成した本件技術報告書@(乙7)においても,下地膜という言葉は出てきていない。 オ本件発明の着想Aは,本件発明の発端について,酸素増感法の実験をして,酸素を入れるタイミングを変えている中で,従前,アルカリ金属のドープが終わった段階で管に亀裂が生じて空気が管内に入ってしまった際に,その後通常の工程を経て形成した光電面の感度が大幅に向上したことがあり,その出来事を思い出し,シミの問題の懸念があったものの試してみたところうまくいったことである旨説明している。 30原告は,酸素を入れるタイミングを変えた最初の実験で光電面感度が著しく低下したが,増感のきっかけが得られたとの報告を受けて,その後の実験を行った旨主張しており,この増感のきっかけを得たのが原告以外,すなわち,Aであったことを認めており,そして,このことは,Aが述べている上記の経緯と符合するものである。 カ移管説明書(乙55)におけるAの貢献度の評価原告及びAが所属していた電子技研の電子管開発部医用電子管グループでは,昭和58年2月16日付けで,「線イメージインテンシファイアX用酸素増感()バイアルカリ光電面移管説明書」と題する文書K-Cs(乙55)が作成されているが,技術開発に関与した者として挙げられている原告とAの貢献度は,Aが原告の4倍に評価されている。 キ本件発明は,の実験遂行時点で完成していたことOUP-3原告は,上記のの実験後の原告の努力により,本件発明が完成OUP-3した旨の主張をもしているが,同実験が遂行された時点で,技術の具体的な構成が開示され,かつ,一定の感度向上の効果が認められている(最終的にも効果は感度の約20パーセントの向上であった。)のであり,同実験遂行時点で,本件発明は完成していたというべきである。 □争点2-1(特許法35条3項の相当の対価の額-本件発明による独占の利益)について(原告の主張)ア独占の利益の算定方法平成16年法律第79号による改正前の特許法35条4項(以下,「改正前特許法35条4項」という。)に規定する「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」とは,使用者等が発明を実施する権利を独占することができたことによる利益であり,被告が本件発明を第三者に実施させて実施料を取得した場合を想定して算定するのが相当である。 31被告は,超過売上高を考える算定方式に従い,「@(被告線の売XI.I.上高)×A(被告技術に基づく超過実施割合)×B(被告技術の第三者への仮想実施料率)×C(被告技術中の本件各特許の寄与度)×D(A及び原告を合計した発明者貢献度)×E(本件発明に関するAと原告間の原告貢献割合)」という計算式を提示している。 しかしながら,被告主張のように,売上総額のうちに,「特許による独占による部分」があり,それが算出できるのであれば,それは自己実施による売上なのであるから,それによって使用者が得る利益は,売上から原価・経費を控除することによって計算されるはずである。ところが,被告は,そのように利益を計算することなく,第三者への仮想実施料率を乗じており,首尾一貫性がない。結局,第三者に実施許諾した場合を想定して,どの程度の売上があったであろうかを推測するほかないのであり,このような場合,第三者は,被告の売上高の2分の1ないし全部を売り上げることができたものと考えるのが相当である。 被告は,超過実施割合の算定に当たり,被告のシェア,仮想シェア,世界シェア,技術の比重といった独自の要素を持ち込んでいるが,この要素を用いることについての合理的説明は全くない。とりわけ,技術の比重として,全体の5分の1であるとしているが,線イメージ管は,一般の家X電製品や一般消費者向けの商品とは異なり,技術比重が極めて高いのであって,被告が掲げる,組織,資本,労働といった要素の比重は極めて低いというべきである。 イ被告による線イメージ管の売上高X(ア)本件発明の公開から本件各特許権の存続期間終了までの売上高職務発明の承継に係る対価の算定における独占の利益は,少なくとも,当該発明の公開の時点から認められるべきものであるから,係る公開がされた日本,ヨーロッパ,中国及び韓国については,その時点から(日32本について平成元年から,ヨーロッパ,中国及び韓国について昭和63年から)の売上高が追加されるべきである。 また,本件各特許権の登録があった時点からの売上高については,それぞれの消滅又は存続期間終了までの期間の売上高を独占の利益算定の基礎とすべきである。 以上をまとめた売上高の一覧は,別表1「線イメージ管推定売上高X(公開〜消滅・終了)」のとおりであり,それぞれの合計額は,日本について3922億9000万円,米国について70億0500万円,ドイツについて24億3700万円,イギリスについて24億3200万円,フランスについて24億3000万円,中国について2033億3800万円,韓国について68億5200万円である。 なお,原告は,従前,後記(イ)の内容の売上高を主張し,被告もそれを認めるに至っていたものであるが,職務発明の承継に係る対価の算定は,あらゆる具体的事情を総合考慮して定められるものであり,原告の主張の追加及び拡張は,被告による客観的な証拠の提出を促す目的であって,時機に後れた攻撃防御方法となるものではない。 (イ)原告の当初の主張に係る売上高原告は,予備的に,別表2「線イメージ管推定売上高」の売上高をX主張する。同表記載のとおり,それぞれの合計額は,日本について220億円,米国について12億円,ドイツ及びイギリスについて各8500万円,フランスについて8000万円,中国及び韓国について各11億円である。 ウ仮想実施料収入高被告が,本件発明を実施せず第三者に実施させて実施料を取得した場合を想定すると,少なくとも,第三者は,被告の売上高の2分の1の売上を得るものと推定される。 33そして,仮想実施料率は,本件発明の重要性にかんがみ,10パーセントとすべきである。 エ本件発明の売上に寄与する割合本件発明は,線イメージ管の全体に関するものではなく,その一部でXある光電面の改良に関するものであるが,以下に示す,本件発明の重要性によれば,本件発明が線イメージ管の売上に寄与する割合は,少なくXとも50パーセントと考えられる。 (ア)本件発明により,光電面感度が向上し,輝度が向上した。 (イ)本件発明による光電面は,感度の劣化がほとんどなく,製品の不良率が30ないし50パーセント改善された。 (ウ)本件発明による光電面形成では,入力蛍光面である蛍光体柱状CsI多結晶の表面をアルカリ金属酸化物層が覆い,結晶内部にアルカリCsI金属が拡散することを防ぐことができるため,アルカリ金属導入量を制御することができ,余分なアルカリ金属の導入によりもたらされる耐電圧性能の低下を回避することができる。 (エ)本件発明による光電面の形成は,特別な設備,材料を必要とせず,感度のばらつきによる不安定要素がなくなったので,製造工数の短縮も可能となるというメリットがもたらされた。 (オ)光電面は,線イメージ管の入力面の一部ではあるが,その形成は,X線イメージ管製造の最終工程で行われるため,製品の歩留まりを決定Xすることとなる。 (被告の反論)ア独占の利益の算定方法本件発明により被告が得た,いわゆる独占の利益は,被告が,本件特許を含め,線イメージ管に関する自己の特許やノウハウ(以下,本件発明Xも含め,「被告線技術」と総称する。)を他社に一切ライセンスしXI.I.34ていないから,被告の本件発明の実施中,本件発明について被告が有する法定の通常実施権に基づく実施を超える部分について相当な実施料率を乗じて得られるべき実施料を算出し,これをもって,独占の利益と見るのが妥当である。 そして,□本件発明が線イメージ管の一構成要素である光電面に関Xするものである一方,本件発明の実施に係る線イメージ管を製造するXに当たって,被告は本件発明のほかにも,被告線技術を使用しなけXI.I.ればならず,本件発明だけでは線イメージ管の製造の役に立たないこXと,□したがって,仮に第三者がこれから線イメージ管事業に参入すXるために,被告から線イメージ管に関する技術についてライセンスをX受けようとすれば,本件特許権だけのライセンスを受けることはあり得ず,被告線技術すべてについてライセンスを受けるであろうこと,を考XI.I.慮すれば,独占の利益の算定は,@被告線イメージ管の売上高のうち,XA被告線技術に関し被告が有することになる法定通常実施権に基づXI.I.く実施を超える部分(以下「超過実施分」という。)を算定し,B当該超過実施分に被告線技術を第三者にライセンスすると仮想した場合のXI.I.実施料率を乗じ,その上で,C被告線技術中に占める本件発明の寄XI.I.与度を乗じるという方法で行うのが妥当である。これを計算式で示せば,以下のとおりとなる。 (売上高中の独占の利益)=@(被告線イメージ管の売上高)X×A(被告線技術に基づく超過実施割合)XI.I.×B(被告線技術の第三者への仮想実施料率)XI.I.×C(被告線技術中の本件発明の寄与度)XI.I.イ被告線イメージ管の売上高(@)X(ア)売上高35本件発明との関係で問題となる被告の線イメージ管の売上高は,X別表2「線イメージ管推定売上高」のとおりであることを認める。X(イ)原告の主張について原告は,上記(原告の主張)イ(ア)のとおり,被告の線イメージ管Xの売上高について,主位的に,別表1のとおりであると主張するが,これは,当初主張していた,別表2の売上高の範囲を拡張するものであるところ,同主張は,まず,訴えの変更によるべきである。 また,同主張は,同主張をするのに何らの障害がなかったにもかかわらず,本件訴えの提起から2年が経過した後に唐突になされたものであり,明らかに時機に後れた攻撃防御方法であって,却下されるべきである。 とりわけ,原告は,例えば,本件米国特許権及び本件ヨーロッパ特許権が登録され,かつ,消滅した時期を認識して,当初,別表2に基づいて主張をしているにもかかわらず,終結間近になって,突然,特許権が消滅した後の米国及びヨーロッパにおける売上高までをも含める旨の主張をしてきているのであり,このような信義にも反する請求の拡張が認められてよいはずがない。しかも,別表1記載の数値は,別表2記載の数値とは1桁も異なる極めて非常識な数値である。 なお,一般に,特許出願から特許登録までの期間は,補償金支払請求権という条件付きの極めて微弱な権利しか存在しない。しかも,同請求権は「警告」を要件としているところ,本件各特許権の出願について,被告が,競業他社に対し,警告をした事実もない。したがって,本件各特許権の出願から登録までの期間において,相当の対価の基礎となるような,独占の利益を得た事実はない。 ウ被告線技術に基づく超過実施割合(A)XI.I.(ア)被告の世界シェアに基づく主位的主張36a平成2年から平成16年までの間の,被告の線イメージ管の全X世界における市場シェアは,平均して約30パーセントと推定される。 線イメージ管市場における被告の主な競業他社としては,タレスX社,フィリップス社,ジーメンス社,株式会社島津製作所(以下「島津製作所」という。),浜松ホトニクス株式会社(以下「浜松ホトニクス社」という。)の5社が存在する。仮に,被告を含むこれら6社があらゆる面(規模,資金力,技術力,人的資源,ブランド,営業力)において全く同一であり,全く同時に線イメージ管事業を開X始し,6社の間に全く運不運が存在しなかったとするならば,6社は均等の市場シェアを有し,それぞれ平均して17パーセント程度のシェアを獲得すると想定できる。 そうすると,被告が有する市場シェア13パーセント分,すなわち,被告の線イメージ管の売上の約43パーセント(=/)が,X 1330規模,資金力,技術力,人的資源,ブランド,営業力,運といった諸要素がこの分野における平均的な企業よりも勝っていたために獲得できた分(以下「超過シェア」という。)ということになる。 b上記の超過シェアを獲得するに当たっては,被告の技術力だけでなく,以下のとおり,被告の規模,資金力,人的資源,ブランド,営業力という諸要素も大きな影響があったことは明らかである。 @電子管の研究開発と事業化及び電子管の一種である線イメーXジ管の研究開発と事業化につき,我が国で最も早くから取り組んだ企業であり,先行者の一人として市場シェアを獲得しやすい地位にあった。 A我が国を代表する大企業として,一流の大学(大学院)から継続的に人材を多数採用しており,充実した社内教育制度とも相まって,優秀な人材を常に多数有していた。 37B日本有数の大企業として,十分な資金力を有していた。 C総合電機メーカーとして,線イメージ管を使用する医用機器をX開発・販売する医用機器事業部やグループ会社をも有し,常時,これらの事業部やグループ会社と連携を取りながら適切な製品の研究開発を行うことができた。 D医用機器事業部や関係会社の有する医療機関への販売チャネルを利用することができた。 E「東芝」という著名なブランドを使って製品の販売ができた。 F競業他社の製品と被告の製品との間に特に性能差がなかった。 そして,規模,資金力,技術力,人的資源,ブランド,営業力というものは,組織(規模,人的資源等),資本(資金力),技術(技術力),労働(ブランド,営業力)という企業活動の4つの要素にくくり直すことができるから,結局,上述の超過シェア中,被告の技術力による分は,全体の4分の1程度とみるのが適当といえる。 cしたがって,被告技術に基づく超過実施割合は,被告の線イメXージ管の売上の約10.8パーセント(13/30×1/4)ということになる。 dなお,被告の国内売上高についても,被告の世界シェアを用いたのは,@国内市場でも,伝統的に医療機器分野の技術力において定評があり,世界的に競争力が強い海外の競業他社(タレス,フィリップス,ジーメンス)の影響力にさらされていること,A被告の線イメーXジ管に関する日本国内の売上の多くは,被告の医療機器に関する事業部への社内的な売上であり,同事業部が製造する医療機器システムに組み込まれ,更に海外に輸出されるものが3割程度あることなどから,主要各社等分の仮想シェアを採用するとともに,その仮想シェアとの比較がより正確に行える,という理由に基づく。 38(イ)被告の国内シェアに基づく予備的主張被告は,上記(ア)のとおり,被告の世界シェアに基づく主張を主位的に行うものであるが,日本の特許を受ける権利については,予備的に,被告の国内シェアに基づく主張を行う。 a被告の線イメージ管の国内シェアは,他社の売上高が明らかでXはないため,販売本数ベースでみると,平成12年から平成16年までの間,平均して61.8パーセントとなる。ただし,その販売本数には,被告の医療機器に関する事業部(平成15年10月1日以降は,会社分割により,東芝メディカル株式会社に吸収分割され,東芝メディカルシステムズ株式会社とされた。)への社内販売(分割後はグループ会社間の販売)が,国内販売分のうちの約60パーセント含まれており,そのうち約30パーセントが医療機器システムに組み込まれて輸出されている。そうすると,被告の国内販売数のうち約18パーセントは,狭義の国内シェアとはいい難い。これに対し,競業他社の販売数は,被告の国内の営業網などを利用して,国内の病院などへの納入状況などから推計したものであり,基本的に国内において使用される線イメージ管に関する数値である。したがって,この点を考X慮して,被告の国内シェアを補正すべきであり,その場合には,以下の式のとおり,57.0パーセントとなる。 (被告の国内シェアの補正値)={-(×)}/61.861.80.18{-(×)}=(-)/(-)=/10061.80.1861.811.110011.150.788.957.0=そして,上記(ア)aのとおり,線イメージ管市場における競業他X社5社と被告とのシェアが,自由競争下において拮抗するものと仮想した場合のシェアを算定し,上記国内シェアとの差をもって,超過シェアを算定することになるが,日本国内において自由競争が行われた39としても,競業他社5社のうち,外国系3社(フランスのタレス社,オランダのフィリップス社,ドイツのジーメンス社)は,海外からの線イメージ管の運送費,日本の子会社への社員の派遣費,言語的なX障壁などの不利な要素があるので,被告及び国内系2社のシェアが外国系3社のシェアの2倍になるものと想定し,以下のとおり計算すると,被告の自由競争下の仮想国内シェアは,22.2パーセントとなる。そして,このシェアと,実際のシェアとの差異が超過シェアとなる。 223329(被告の仮想国内シェア)=/{ × (社)+ (社)}=/=パーセント22.2b被告の超過シェアを獲得するに当たっての,技術力の割合については,上記(ア)bと同様の検討をすることになるが,国内シェアを用いる場合には,被告の日本国内における「暖簾」,すなわち,被告の国内における伝統に基づくブランド力や営業力など自由競争以外の要素を無視することができない。 被告は,日本国内において,線イメージ管を初めとする線関X X連の医療機器の事業分野について,パイオニアとしての強いブランド力を有している。例えば,線イメージ管に不可欠な線発生装置X Xである線管は,被告が大正4年に日本国内において初めて製造しXたものであり,線診断装置についても被告が昭和7年に日本国内でX最初に製造している。線イメージ管についても,被告が昭和41年Xに日本国内で初めて量産を開始している。このように,被告の線X関連の医療機器の事業分野における著名性は,古くから確立しており,それにより確立したブランド力の大きさは,同じような技術力を有する競業他社の追随を許さないものがある。 また,被告は,線関連の医療機器,それ以外の医療機器などにおX40いても,日本国内において強い営業力及びブランド力を有している。 すなわち,線イメージ管の販売が開始された昭和41年より以前かXら確立していた被告の営業力及びブランド力により,被告の医用機器に関する事業部は,既に国内のトップメーカーとしての地位を築いており,被告が製造販売した線診断装置のほぼ全量について,被告Xの電子管に関する事業部が製造する線イメージ管が用いられてきXた。このようなことから,被告の電子管に関する事業については,国内最大の顧客である被告の医療機器に関する事業部への大量供給が当初から約束されていた。被告が線イメージ管事業について大きなX国内シェアを獲得した理由は,このような被告の医療機器に関する事業が先行して存在していたことによるところが大きい。 さらに,被告が,総合電機企業として日本を代表する企業であることは,顕著な事実である。このような被告のブランド力は,競業他社のブランド力をはるかに上回るものである。 このような被告の日本国内における強力な営業力及びブランド力にかんがみれば,@組織(規模,人的資源など),A資本(資金力),B技術(技術力),及び,C労働(ブランド,営業力)の各要素を等分なものとみることはフェアとはいえず,「労働(ブランド,営業力)」を他の要素の2倍程度にはみるべきである。したがって,上記4要素のうち「技術」の占める比重は,「労働」を他の2倍とみると,以下の式のとおり,20.0パーセントとなる。 (技術の比重)=/( +++ )=/=パーセン111121520.0トcしたがって,被告技術に基づく超過実施割合は,以下のとおり,被告の線イメージ管の売上の約12.2パーセントとなる。 X(被告技術に基づく超過実施割合)={(補正後の被告国内シェ41アパーセント)-(被告仮想シェアパーセント)}÷(補57.0 22.2正後の被告国内シェアパーセント)×{ (=技術)/ (=全57.015要素)}=パーセント12.2エ被告線技術の第三者への仮想実施料率(B)及び被告線技XI.I. XI.I.術中の本件特許の寄与度(C)( )被告技術を第三者へライセンスするとした場合,線イメージ管とアXいう製品分野が,平成2年以降,新たな撮像デバイスの出現等により市場が縮小傾向にあることにかんがみれば,相手がライセンスを受けると考えられる実施料率は5パーセント程度と考えられる。 ( )被告線技術には,別表3「被告主張線イメージ管に関するイXI.I. X技術一覧」のとおり,線イメージ管の主要構成要素である@)入力窓,XA)入力面(入力基板,入力膜(蛍光体),透明導電膜及び光電CsI面),B)出力面,C)電子レンズ(内部電極),D)真空容器,E)管容器,F)磁気補正部品,G)高圧電源,H)ゲッター,イオンポンプに関する100を超える特許及びノウハウが含まれる。 これらの中でも,入力窓,入力面,出力面,内部電極(電子レンズ)が,画像に与える影響等からみて特に重要な構成要素ということができる。 したがって,上記9個の構成要素に関する被告技術のうち,入力窓,入力面,出力面,内部電極(電子レンズ)の各構成要素がそれぞれ全体の5分の1の価値を持ち,残りの構成要素が合わせて5分の1の価値を占めると解するのが妥当である。 ( )そして,線イメージ管の画像特性に関し,入力面の構成部分であウXる入力膜(蛍光体)が解像度,量子変換効率,輝度に影響を与えるCsIものであるのに対し,同じく入力面の構成部分である光電面は主に輝度にしか影響を与えない。しかも,輝度に関しては,光電面のみならず,42入力窓,入力膜(蛍光体),内部電極(電子レンズ),出力面も影CsI響を与えるものであり,光電面が画像特性に与える影響は限られたものである。 これらのことを考慮すれば,被告技術の入力面関係の技術中において,光電面関係の技術(下地層となる透明導電膜関係の技術も含む。)全体の占める価値は,入力膜関係の技術全体の占める価値よりは低いと見るべきであり,光電面関係の技術(同上)の価値の占める割合を3分の1,入力膜関係の技術の占める割合を3分の2とみるのが相当である。 ( )そして,光電面関係の技術(同上)には,別表3「被告主張線イエXメージ管に関する技術一覧」のとおり,少なくとも20の被告の特許,ノウハウがあるところ,本件発明はその1つにすぎず,多めに見ても,光電面関係の技術の中で5分の1ないし10分の1の価値があるにすぎない。 ( )以上を総合すると,被告線技術の第三者への仮想実施料率はオXI.I.5パーセントであり,被告線技術中の本件特許の寄与度は,以下XI.I.のとおり,75分の1ないし150分の1となる。 1/5×1/3×(1/10〜1/5)=1/150〜1/75□争点2-2(特許法35条3項の相当の対価の額-被告の貢献度)について(原告の主張)職務発明の承継に係る相当の対価の算定をする場合,独占の利益から,発明についての使用者等の貢献度を控除することになる。本件発明がされるに至った経緯やその後の経緯等からすれば,本件において,相当の対価を検討する上での被告の貢献度は,60パーセントというべきである。 (被告の反論)ア本件日本特許権について43本件発明に関する使用者の貢献度は,以下のとおり,99パーセントを下るものではないから,A及び原告を合計した発明者貢献度は,1パーセントを超えるものではない。 (ア)被告における技術的蓄積被告においては,電子管(気密外囲器の中で電子又はイオンが真空又はガスの中を運動することによって電気伝導を生じる電子装置)について,大正4年ころからの研究開発の歴史を持ち,また,電子管のうちの光電変換管(光電効果を応用した電子管)についても,我が国随一といえる研究開発の歴史を有している。さらに,線イメージ管については,X昭和29年に研究開発に着手し,昭和41年から本格生産を開始している。昭和52年には,柱状結晶構造技術を採用した線イメージ管CsI Xの製品化に成功している。 このように,電子管及び線イメージ管の分野において,被告にはX本件発明が行われるまでに極めて長い技術開発の歴史があり,被告における技術的蓄積の水準は,我が国でも最高レベルの水準にあった。被告において電子管,線イメージ管の研究開発に従事する者は,これらのX技術・ノウハウにアクセスし得る立場にあった。 (イ)被告がA及び原告を技術者として育て上げたことaAは,高等小学校卒業後に被告に入社して以来,特殊管課,マツダ研究所管球技術部特殊管開発課,堀川町工場電子管製造部特殊電子管課,同工場電子製造部特殊電子管課,同イメージ管課に勤務し,さらに,本件発明時には電子技研に勤務し,一貫して本件発明に関係する分野(各種光電変換管に用いられる光電面)の職務に就いてきたものであり,Aの線イメージ管に関する技術的知識及び技術的なものXの考え方は,業務の中で先輩,上司の指導教育の下に培われたものである。 44また,Aの職務経歴及び本件発明当時の役職(光電面技長)から見ても,本件発明のような線イメージ管の光電面に関する改良技術Xの提案をすることは,当然に期待されていたものといえる。 Xb原告も,入社以来,本件発明に関係する分野(電子管,とりわけ線イメージ管)の職務に就いてきたのであり,原告の線イメージX管に関する技術的知識は,業務の中で先輩,上司の指導教育の下に培われたものである。しかも,被告における電子管,線イメージ管のX研究開発には,長い歴史があり,技術的蓄積の水準は我が国最高レベルであった。原告は,被告に勤務することで,最高の技術蓄積に触れ,知識を得ることができたものである。 また,原告の職務経歴から見ても,本件発明のような線イメーXジ管の光電面に関する改良技術の提案をすることは,当然に期待されていたものといえる。 (ウ)発明の課題の設定,研究テーマの設定に関する原告及びAの関与等原告及びAが,電子技研で線イメージ管に関する研究開発に従事Xすることになったのは,組織改変に伴う被告の通常の業務ローテーションに従っただけであり,原告やAの積極的意思の結果,上長等の反対を押し切って異動が行われたというようなものではない。 研究テーマについても,原告が当初掲げたマルチアルカリ光電面に関するものにせよ,Aが掲げた酸素増感にせよ,いずれも,光電面の性能向上のための製造工程の改良というテーマであり,被告において光電面の製造開発に携わるものには所与のテーマである。 (エ)本件発明が被告における技術的発展を基礎とすること本件発明は,柱状結晶構造が入力面の蛍光体に採用された線イCsI Xメージ管を前提として,上に形成される光電面の性能を改善するための発明であり,被告が,柱状結晶構造を入力面蛍光体に用いることCsI45を可能とする技術を有していたからこそ生まれ得た発明である。 しかも,本件発明については,柱状結晶の頂部を平坦化し,柱状CsI結晶間の隙間を埋める構造とした上で光電面を形成することによって光電面を形成しやすくする,といった代替技術も存在する。 (オ)被告が提供した研究環境X電子技研の電子管開発部医用電子管グループのうち,高変換効率線イメージ管の研究テーマだけでも,開発研究費として,昭和56年度下期850万円,昭和57年度上期2500万円,昭和57年度下期3000万円,昭和58年度上期3200万円が割り当てられ,また,設備投資額として,昭和57年度上期2700万円,昭和57年度下期1300万円,昭和58年度上期4200万円が割り当てられていた。つまり,昭和56年10月から昭和58年9月だけを見ても,1億7750万円の費用を投資することが計画されている。これは,当該研究開発により開発予定の技術を用いた線イメージ管の売上高Xが,製品化1年後には年間720万円,成熟期の昭和57年度からは年間2880万円ほどしか見込まれていないことから比較して,大きな投資といえる。 つまり,被告は,仮に研究成果が出ても,製品への応用後,5,6年は研究開発投資を回収できないことを覚悟しつつ,また,投資が失敗に終わるリスクを抱えつつも,多額の研究開発投資を行ったのである。 さらに,本件技術報告書@,Aに記載されているような実験をするためには,実際の線イメージ管を製作するのと同様の工程を経て実X験管を作成した上で,感度やコントラスト等の特性を見てプロセスの成否を検証しなければならない。 このため,1回の実験を行うに当たっては,被告の実際の製品製造46ラインの設備を利用する必要があり,実験管を1本仕上げるのに必要な材料費,人件費は,原告も認めるとおり,70万円程度に相当する。 本件技術報告書@では13本の実験管,本件技術報告書Aでは9本の実験管の特性調査結果が報告されているが,これらの実験管を作成するだけでも,約1500万円の費用が費やされた。 また,電子技研では,光電面の形成に必要な排気装置,測定装置,実験装置の試作に必要な材料など,研究開発に必要な設備が用意されているか,又は,他部門等から必要な設備を借用して実験を遂行できる環境にあった。さらに,試験管を管球に仕上げる場合,できあがった管球の性能を測定する場合など,必要に応じて製造部門や技術部門の人員から協力を得られる環境にあった。 製品製造設備について見ても,線イメージ管の製造ラインにおいてXは,部品の洗浄から始まり,製品の完成に至るまでに30種類以上の装置が必要であり,これらの装置の費用だけで約1億9000万円となる。それに加えて,これらの装置を設置し稼働させるための工場のインフラも当然必要であり,このインフラ関係の費用は約39億5000万円を下らない。 (カ)発明の性質本件発明の基礎となった実験は,結果が確実に予想されるようなものではないから,その方法を思い付いたというだけで発明は成立せず,様々な種類のプロセスについて試行錯誤を繰り返し,何本も管球を試作して初めてその効果が確認され,発明として完成するものである。 したがって,本件発明は,その性質上,相当の時間,資金,機材,人材をつぎ込まなければなし得なかったものであり,発明者の着想のみで成立するようなものではない。 (キ)発明から出願,出願から登録までの被告の注力47本件発明に関しては,先行する出願も含めると7件の国内出願,8件の外国出願を行っており,その出願費用及び権利維持費用は500万円程度になるが,これらはすべて被告が負担している。 (ク)発明の実用化に当たっての被告の貢献本件技術報告書@及びAにおいて,本件発明に関係する手法が報告されたが,この手法を実用化する(現実の製品に適用する)ためには更なる改良が必要であった。 実用化に当たっては,当初から,@すべての排気装置に改造を要する,A酸素導入工程分,従来の工程から工数が増える,B光電面形成時間が長くなる,C個々の排気装置,管種ごとに酸素作用圧力の設定を要するという問題が報告されていた(乙55)。 これらについては,被告による改良技術の積み重ね(乙61,62,63など)によって,初めて現実的に適用可能なプロセスが確立されたのである。 (ケ)事業的成功に当たっての被告の貢献被告の線イメージ管は,高輝度,高コントラスト,高解像度とXいった機能を実現するために,様々な独自技術が用いられているのであり,本件発明は,これらの技術的改良の積み重ねのうち非常に低い割合を占めるにすぎない。 また,線イメージ管は,性能面での差がほとんどなく,技術的性能Xによって差別化することは難しい製品となっている。そして,電球のような消耗品であるため,他社のものとの性能的な互換性が必要とされる場合もある。価格面でも各社とも大きな差異はない。その結果,営業・サービス面の努力が他社との差別化という上で重要になり,被告は,この点の努力によって顧客の信頼を得てきたものである。 イ本件各外国特許権について48本件各外国特許権の特許を受ける権利についての使用者貢献度を判断するに当たり,以下の各事情を考慮すべきであり,使用者の貢献度は更に高くなり,発明者貢献度が,日本の特許を受ける権利の場合の2,3割にとどまる程度,すなわち,発明者貢献度は,全体の0.2ないし0.3パーセントとみるべきである。 (ア)外国特許出願に対応する能力発明者である従業者が,外国出願手続をすることは,日本国特許庁へ出願手続をする場合と比べて,その能力及び知識という面のみを見ても,はるかに困難である。 言語的な能力及び外国特許法についての基本的な知識に加え,外国特許については,審査手続において,日本国のみに出願する際の比ではない多数の先行技術が引用されることもあり,適正な補正等を行っていく必要があり,また,米国においては,審査手続において意図的に先行技術を開示しなかったと認定された場合には,権利行使が認められなくなるという制裁が課される。このために,外国特許の出願の場合には,専門的な能力が必要とされる。 (イ)外国特許出願をし,維持するための費用上記(ア)のような対応をするためには,数百万円から数千万円の高額の費用がかかるものである。 (ウ)外国特許権の行使の能力外国特許権を行使するためにも,高額な費用がかかり,また,十分な排他力と交渉力を持つためには,特許群として有している必要があり,従業者が,排他力を維持することができるだけの陣容を有する特許群を維持していくことはおよそ困難である。 (エ)外国において市場を獲得し,製品を販売することの困難性外国において市場を獲得するには,言語,法制度及び商慣習の違い,49人材の確保の問題などがあり,輸送費等の競争上の不利益もあって,従業者個人が海外市場を開拓することは一般的に困難である。 □争点2-3(特許法35条3項の相当の対価の額-共同発明者間の貢献割合)について(原告の主張)原告は,上記□(原告の主張)のとおり,本件発明の単独発明者であり,被告の従業員であったAは,実験補助者として本件発明に関与したにすぎない。 したがって,本件発明についての発明者間の貢献度は,原告が100パーセントである。 (被告の反論)Aと原告間における原告の貢献割合は,上記□(被告の反論)の事実経過からすれば,5パーセントを超えるものではない。 □争点2-4(特許法35条3項の相当の対価の額-相当の対価の額)について(原告の主張)ア主位的請求別表1「線イメージ管推定売上高(公開〜消滅・終了)」の売上高にX基づいて,本件発明の承継に係る相当の対価を上記に従って計算すると,以下のとおりとなる。 (ア)本件日本特許権本件日本特許権が公開された平成元年から,本件日本特許権の存続期間が満了する平成20年までの日本における線イメージ管の総売上X高は,3922億9000万円であるから,本件発明の実施による独占の利益(第三者に実施させて実施料を取得した場合の利益)は,少なくとも,被告の売上高の2分の1である1961億4500万円に,仮定50実施料率10パーセントを乗じた196億1450万円となる。 そして,本件発明の売上に寄与する割合は,少なくとも50パーセント,被告の貢献度は60パーセント,原告の単独発明であるから,以下のとおり,39億2290万円が相当の対価となる。なお,本件日本特許権に係る補償金等として,原告は,7万8000円の支払を受けているので,残額は39億2282万2000円となる。 億万円××( -)=億万円19614500.510.6392290(イ)本件各外国特許権本件各外国特許権について,公開又は登録された時点から権利消滅時点までにおける線イメージ管の外国における総売上高は,2244X億9400万円であるから,上記(ア)と同様に計算すると,以下のとおり,22億4494万円が相当の対価となる。 0.50.10.510.62244942244億9400万円××××( -)=億万円原告は,上記の合計額61億6776万2000円の一部として,5000万円の支払を求める。 イ予備的請求別表2「線イメージ管推定売上高」の売上高に基づいて,本件発明のX承継に係る相当の対価を上記に従って計算すると,以下のとおりとなる。 (ア)本件日本特許権本件日本特許権が登録された平成2年から平成16年までの,日本における線イメージ管の総売上高は,220億円であるから,本件発X明の実施による独占の利益(第三者に実施させて実施料を取得した場合の利益)は,少なくとも,被告の売上高の2分の1である110億円に,仮定実施料率10パーセントを乗じた11億円となる。 そして,本件発明の売上に寄与する割合は,少なくとも50パーセン51ト,被告の貢献度は60パーセント,原告の単独発明であるから,以下のとおり,2億2000万円が相当の対価となる。そして,既払の7万8000円を控除した,2億1992万2000円が残額となる。 億円××( -)=億万円110.510.622000(イ)本件各外国特許権本件各外国特許権について,登録された時点から権利消滅時点までにおける線イメージ管の外国における各売上高は,米国12億円,ドXイツ8500万円,イギリス8500万円,フランス8000万円,中国11億円,韓国11億円となる。 そして上記(ア)と同様に計算すると,以下のとおり,米国特許について1200万円,ドイツ特許について85万円,イギリス特許について85万円,フランス特許について80万円,中国特許について1100万円,韓国特許について1100万円がそれぞれ相当の対価となる。 (米国特許)億円××××( -)=万円120.50.10.510.61200(ドイツ特許)万円××××( -)=万円85000.50.10.510.685(イギリス特許)万円××××( -)=万円85000.50.10.510.685(フランス特許)万円××××( -)=万円80000.50.10.510.680(中国特許)億円××××( -)=万円110.50.10.510.61100(韓国特許)億円××××( -)=万円110.50.10.510.61100(ウ)小括原告は,上記(ア),(イ)の金額のうち,日本特許について4288万5000円,米国特許について234万円,ドイツ特許について16万5000円,イギリス特許について16万5000円,フランス特許について15万5000円,中国特許について214万5000円,韓国特許について214万5000円,合計5000万円を相当の対価の一部として請求するものである。 52(被告の反論)ア上記□(被告の反論)アのとおり,独占の利益の算定は,@被告線Xイメージ管の売上高のうち,A超過実施分を算定し,B当該超過実施分に被告線技術を仮に第三者にライセンスすると仮想した場合の実施料XI.I.率を乗じ,その上で,C被告線技術中に占める本件特許の寄与度をXI.I.乗じるという方法で行うのが妥当であり,これを計算式で示せば,以下のとおりとなる。 (売上高中の独占の利益)=@(被告線イメージ管の売上高)X×A(被告線技術に基づく超過実施割合)XI.I.×B(被告線技術の第三者への仮想実施料率)XI.I.×C(被告線技術中の本件発明の寄与度)XI.I.そして,上記□(被告の反論)ウ及びエのとおり,上記Aは,主位的主張では10.8パーセント,予備的主張では11.3パーセントであり,上記Bは5パーセント,上記Cは75分の1ないし150分の1である。 このようにして算出した独占の利益から,被告の貢献度(日本特許の場合は99パーセント,外国特許の場合は99.7ないし99.8パーセント)を控除し,共同発明者間の原告の貢献度(5パーセント)を乗じた金額が,相当の対価の額となる。 イ本件日本特許について,上記の計算式によって計算した結果は,以下のとおりであり,主位的主張,予備的主張のいずれによっても,補償金の支払(7万8000円)によって,既に支払済みである。 (主位的主張)以下の計算式のとおり,369円ないし792円となる。 億円×××(〜)××=円円2200.1080.051/1501/750.010.05396~792(予備的主張)53以下の計算式のとおり,414円ないし828円となる。 億円×××(〜)××=円円2200.1130.051/1501/750.010.05414~828(円未満切り捨て。以下同じ。)ウ本件各外国特許についての原告主張は争う。 第4争点に対する当裁判所の判断1争点1(本件発明の発明者)について□事実認定上記前提となる事実等,証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件発明までの経緯及びその後の状況について,以下の事実が認められる。 ア原告及びAの被告における経歴(ア)原告原告は,昭和43年3月に中央大学大学院工学研究科電気工学専攻を修了後,同年4月1日に被告に入社し,以下のような部署での勤務を経て,平成7年9月30日に退職した(甲9)。 昭和43年4月1日被告入社中央研究所開発部電子管グループ昭和49年1月1日電子事業部光電変換管技術部イメージ管技術グループ昭和49年4月1日堀川町工場電子製造部特殊電子管課昭和51年3月1日堀川町工場電子製造部電子製造技術グループ主務昭和51年4月1日電子事業部光電変換管技術部イメージ管技術課主務昭和55年4月1日電子事業部電子技研電子管開発部グループ主査昭和58年4月1日電子事業部医用電子管技術部イメージ管技54術課課長昭和60年4月1日堀川町工場固体デバイス製造部固体デバイス製造技術グループ課長昭和62年4月1日堀川町工場部品技術部部品技術グループ課長平成元年4月1日堀川町工場部品技術部部長平成2年4月1日電子事業本部液晶プロセス技術グループ主幹平成4年6月1日アメリカ合衆国EET社駐在技術コンサルタント(平成5年7月30日まで)平成7年9月30日退職原告は,中央研究所に在籍していた昭和45年ころから,光電面に関する研究を行うようになり,電子事業部に異動となった昭和49年以降は,線イメージ管の品質,技術問題の解決に向けた研究に従事した。 Xまた,バイアルカリ光電面(カリウムとセシウムの2つのアルカリ金属と,アンチモンから構成されているもの。)の形成や,酸化インジウムの薄膜を用いる透明導電膜の開発などに従事した(甲9)。 (イ)AAは,戦前の高等小学校を卒業後,昭和18年4月に被告に入社し,以下のような部署での勤務を経て,昭和63年10月31日に退職した(乙3)。 昭和18年4月3日被告入社昭和22年6月1日特殊管課昭和25年6月16日マツダ研究所管球技術部特殊管開発課昭和34年10月1日堀川町工場電子管製造部特殊電子管課昭和38年5月16日同班長55昭和46年9月1日同組長昭和49年10月1日堀川町工場電子製造部特殊電子管課組長昭和50年7月堀川町工場電子製造部イメージ管課イメージ管光電面製造技長昭和55年4月1日電子事業部電子技研電子管開発部グループイメージ管光電面技長昭和58年4月1日電子事業部電子技研材料プロセス開発部グループイメージ管光電面技長昭和58年9月1日要素部品事業部撮像管技術部グループ光電面技長昭和61年10月1日電子事業本部要素部品事業部医用電子管技術部グループ(開発担当)昭和62年4月1日電子事業本部要素部品事業部医用電子管技術部グループ(開発担当)堀川町工場駐在昭和62年10月1日堀川町工場駐在解除昭和63年10月31日定年解用Aは,上記のとおり,昭和34年10月1日から昭和55年3月31日まで,電子管の製造を担当する部署に在籍し,線イメージ管の製造Xラインの監督を行っていたが,光電面の性能向上や製造工程の改良についても関心を持ち,研究を行っていた(乙3)。 イ電子技研における原告及びAによる研究開発線イメージ管の技術分野においては,昭和55年ころ,更なる性能向X上が求められていたところ,被告においても,線イメージ管の各種技術X要素についての研究開発を進めており,基礎的な要素技術や評価技術の開発など,中長期的な観点からの技術開発の一部を担当させるために,同年564月1日,電子事業部の下部組織として,電子技研を設立した(弁論の全趣旨)。 原告及びAは,設立と同時に電子技研に異動となり,電子管開発部グループにおいて,高変換効率線グループとして,線イメージ管に係XI.I.Xる研究開発を担当することとなった。原告は,線イメージ管に関する研X究開発のグループの責任者となり(開発テーマを策定する責任者でもあった。),Aは,線イメージ管の中で,光電面に関する開発を担当するこXととなった(甲9,乙2,3)。原告とAとは,週に1回程度,実験の内容や結果を報告したり,意見交換をするミーティングを行っていた(甲9,乙3)。 原告及びAの所属したグループでは,当初の開発テーマとして,医用電子管技術部の意向を受け,マルチアルカリ光電面の開発が選択され,同開発が進められた。同開発の成果は,昭和58年2月に医用電子管技術部に移管されたが,昭和56年9月ころから,マルチアルカリ光電面開発の移管後の開発計画策定が進められ,原告は,同月26日付けの「56/下新高感度光電面実験計画」と題する本件メモ7において,「増感」とO2記載するなどして,光電面に酸素を作用させて感度を向上させる酸素増感法をテーマに選択することを検討していた。そして,同年11月4日に,酸素増感法を実験する際に必要となる酸素導入量の定量化を実現するための酸素導入機構(原告は,*********と命名している。)を考案したり(本件メモ8),実験管を用いた実験を行うなどして,準備を進めた(甲9)。 ウ酸素増感光電面の実験原告は,上記イの実験管を用いた酸素増感法の実験等を踏まえ,昭和56年12月15日付けで「酸素増感実験計画」と題するメモ(本件メモ9)を作成して,バイアルカリ光電面についての酸素増感法の実験を行っ57ていく旨の明確な方針を有するに至り,被告に対し,昭和57年1月9日付けの「開発研究題目計画説明書」(乙1)を提出して,昭和56年度下半期の途中から,酸素増感光電面の実験が進められていること,実用管に適用する可能性を探っていく計画であることなどを報告した(乙1)。 Aは,従前から,酸素増感法について関心を抱いていたこともあり,マルチアルカリ光電面の開発と並行して,酸素増感を試してみるなどしていたが,上記のとおり,実験管を用いた酸素増感光電面の実験を進めることとなったため,原告とのミーティングにおいても,同実験についての打合せなどを行うようになった。原告においても,実験の進め方をまとめたメモ(本件メモ14)を作成したり,酸素導入機構の改良なども行った(本件メモ15)。 原告は,昭和57年2月3日付けの「“酸素増感”実験計画」と題するメモ(本件メモ11)において,酸素増感の実験を行うに当たっては,酸素をどのように,どの段階で入れるべきかということに考慮すべきである旨を記載して,酸素導入のタイミングについての関心を示している。また,酸素増感光電面について寿命が短いことが指摘されており,この観点での検討を記載した同年5月19日付けの「酸素増感」(本件メモ1life test6)でも,「最終工程をで終らせる場合と,後,を反応させてOOCs2 2(これを繰り返えすこともある)終らせる場合とがある。後者は寿命が長いかもしれない。」と記載している(甲9)。 エプリエバポレーションの実験Sb原告及びAは,新しい試みとして,昭和57年6月ころから,同年11月ころまで,「プリエバポレーション法」による光電面形成工程におSbける問題点の解決を探る実験(シリーズ)を行った(本件メモ19SBOないし27)(甲9)。 オシリーズの実験OUP58昭和57年6月末ころから,光電面形成前に酸素を導入する方法の実験が行われるようになり,原告は,これを,それまで行っていた酸素増感光電面と区別して,「シリーズ」と名付けた。そして,原告とAとのOUP打合せや意見交換を踏まえて,Aにより,酸素がどの材料に作用したのか,酸素を作用させる条件等の最適化などを見極める実験が進められた(本件メモ28〜42)。 シリーズは,酸素を入れるタイミングを変えた実験において,光OUP電面感度が著しく低下したが,増感のきっかけが得られたという経験を踏まえて始められたものである(甲9,乙53)。 シリーズの実験は,シリーズなどと同様に,実験が行われたOUPSBOOUP-2 OUP-1順番に番号が付けられて,「」などとして示されているが,に関する本件メモは残されていない(甲9)。 OUP-2Sb昭和57年6月30日付けの本件メモ28では,について,「の第1回蒸着を雰囲気中で行うことを試みる。但し,この場合,工程O2後の導入(増感)は行わない。」と記載されていたが,同年7月13O2日付けの本件メモ29では,の結果として,酸素増感直後とともに,OUP-2酸素増感直前の感度の測定結果が示され,光電面が形成された後に酸素が導入されたこと,すなわち,工程後の酸素導入がされたことが記載されており,について,予定どおりに実験が行われなかったことが示されOUP-2ている(甲9)。 そして,本件メモ29では,について,増感が十分でなかったこOUP-2とが記載され,については,「導入が↑↑↑」と記OUP-3OKCsOSb2 2載され,アルカリ金属のドープ後に酸素が導入され,その後にアンチモンが導入されて光電面が形成されることが示され,さらに,光電面形成直後と比較して,その2日後にわずかに感度が上昇したことが示されている(甲9)。 59次いで,同月22日付けの本件メモ31では,について,光電面OUP-5形成が,「------(-)3回」という方法KCsOSbKCsSbCs2で行われたことが記載され,考察として,「圧力により更に増感のOup2SbO Olife可能性あり」,「前のの光電面表面への影響(表面による2 2短)は上記面作り上の所見により,少なくする効果があるかもしれない」と記載されている(甲9)。 カ本件技術報告書@(乙7)原告とAは,シリーズの実験によって得られた成果等をまとめたOUP技術報告書を作成し,昭和57年12月21日に被告に提出した(本件技術報告書@,乙7)。 本件技術報告書@の表書き部分(特記事項を除く。)及び本文は,Aが記入したものであり,表書きの特記事項欄のみを,原告が記載した。表書きの報告者欄には,Aが筆頭に記載され,原告の氏名はAの氏名の下に記載されている(乙7)。 本件技術報告書@では,従前,光電面形成完了後に行っていた酸素導入を,光電面形成を行う前の段階,すなわち,アルカリ金属ドープ終了時点で行う,という製造方法により,感度と耐電圧性が向上し,寿命の改善も図られたことが報告されている。 ここに記載されている本件実験@は,当時ルーチン化されている入力面である,基板と蛍光体に,とのバイアルカリ光電面を設けAlCsI/NaKCsるものであり,具体的な光電面の形成は,アルカリ金属(及び)ドKCsープ後に酸素を導入し,その後に蒸着, ,の順に導入し,その後,SbKCs蒸着及び導入を3回繰り返す方法によるものである。SbCs上記の蛍光体は,柱状多結晶となっており,本件発明の「多数CsI/Naの間隙若しくは空孔のある表面を有する多結晶部材の一つ又は複数の組み合わせ」に該当し(甲2,3欄20〜26行),基板は,「基体」にAl60該当する。そして,アルカリ金属ドープ後の酸素導入により,「基体上にアルカリ金属酸化物層」が形成されると解され,さらに,「半金属」であるの蒸着,「アルカリ金属」である及びの導入,そして,蒸Sb KCsSb着及び導入の繰返しにより,「半金属,マンガン又は銀及び一種又はCs複数種のアルカリ金属を主成分とする光電面」が形成されると解される。 また,特公昭50-1868号公報(乙9)により,化学量論的な,又はこれに近い組成比にすることにより,感度のよい光電面が得られることが知られており,「半金属,マンガン又は銀及び一種又は複数種のアルカリ金属が化学量論的な,又はこれに近い組成比」をとることは,当業者が当然に採用する態様であると解される。 そうすると,本件実験@は,本件発明を示しているということができる。 キ本件技術報告書A(乙8)本件技術報告書Aは,昭和58年12月5日に報告された,A及び原告による技術報告書であり,本件実験@で行った新たな酸素増感法の適切な実施条件を詰めるとともに,光電面の更なる感度向上,製造工程の短縮化の可能性を探るものであった。 ク事業部への移管本件発明の内容を含む,酸素増感バイアルカリ光電面及びその製造方法に関する研究開発の成果は,昭和58年2月,被告の医用電子管技術部に移管された(乙55)。 ケ出願経緯本件発明に関しては,以下のとおり,第1から第7まで7回の出願が行われた。 (ア)第1の出願第1の出願は,発明の名称を「コウデンメンオヨビソノケイセイホウホウ」(光電面及びその形成方法)とし,原告及びAを共同発61明者とする昭和60年9月9日付けの社内提案(提案番号,74A859009なお,乙10には,提案番号として「」と記載されているが,74A8590091末尾の「 」は被告内部のデータ管理上の枝番であり,提案番号はそれ1を除いた番号である。以下同じ。)に基づいて,同年12月27日になされたものである(特願昭60-295964号。乙10)。この出願は,その後,出願公開前に放棄されている。 この出願に係る発明は,がドープされた蛍光体等を基体とし,NaCsISbKCsその上にアルカリ金属酸化物を設け,さらに,等の半金属とや等のアルカリ金属とからなる光電面を形成するというものであり(乙11),化学両論的な組成比への言及を除いて,本件発明とほぼ同一のものである。 (イ)第2,第3の出願第2の出願は,発明の名称を「コウデンメンオヨビソノケイセイホウホウ」(光電面及びその形成方法)とし,原告及びAを共同発明者とする昭和60年11月19日付けの社内提案(提案番号)に基づいて,昭和61年1月29日になされたものである74A85Y011(特願昭61-15889号。乙12)。 また,第3の出願は,発明の名称を「デンシカンオヨビソノセイゾウホウホウ」(電子管及びその製造方法)とし,原告及びAを共同発明者とする昭和60年11月19日付けの社内提案(提案番号)に基づいて,昭和61年1月24日になされたものである74A85Y012(特願昭61-12230号。乙13)。 これらの出願も,出願公開前に放棄されているが,その内容は,第1の出願と同様,本件発明とほぼ同一のものである(乙14)。 (ウ)第4の出願第4の出願は,発明の名称を「ガスドウニュウホウホウオヨビ62ソノソウチ」(ガス導入方法及びその装置)とし,原告及びAを共同発明者とする昭和61年1月17日付けの社内提案(提案番号)に基づいて,同年4月14日になされたものである(特願74A861011昭61-84364号。乙15)。 これについても,出願公開前に放棄されている(弁論の全趣旨)。 (エ)第5の出願第5の出願は,発明の名称を「コウデンメンオヨビソノケイセイホウホウ」(光電面及びその形成方法)とし,原告のみを発明者とする昭和61年1月20日付けの社内提案(提案番号)に基74A861012づいて,同年3月31日になされたものである(特願昭61-70873号。乙16)。 これについても,出願公開前に放棄されている(弁論の全趣旨)。 (オ)第6の出願第6の出願は,発明の名称を「光電面およびその形成方法」とし,原告のみを発明者とする昭和61年5月30日付けの社内提案(提案番号)に基づいて,昭和62年3月18日になされたものである74A865031(特願昭62-61070号。乙17)。 これについては,第7の出願に当たって,国内優先権主張の基礎とされたので,取り下げられたものとみなされた。 (カ)第7の出願第7の出願は,本件日本特許権に係る出願であり,発明の名称を「光電面及びその形成方法」として,原告のみを発明者とする昭和63年3月7日付けの社内提案(提案番号)に基づいて,同月17日74A883019になされたものである(乙18)。 第1から第5までの出願が公開前に放棄されたのは,被告内での検討において,特許権の設定登録の過程における技術の公開を避け,当該技術を63高度のノウハウとして保持することとされたためであった。しかし,昭和62年4月ころの検討において,線イメージ管を外国に輸出していくにX当たり,輸出先の国において,先発明の事実や先使用権を立証することが困難であると予想されることから,外国出願を行うこととし,第6の出願の見直しをした上で,新たな国内出願を行い(第7の出願),それを基に外国の出願を行うこと,新たな国内出願を行った後に第6の出願を取り下げることが方針決定され(乙25),その結果,第7の出願である本件日本特許権に係る出願が行われ,さらに,本件各外国特許権に係る出願が行われた(甲2〜6)。 コAへの電話原告は,本件訴訟を提起する直前の平成17年初めに,Aに電話で連絡をして,本件訴訟を提起する旨をAに伝えた(乙3)。 □検討以上の事実に基づき,本件発明の発明者について検討する。 ア発明者の意義発明者とは,自然法則を利用した技術的思想の創作に関与した者であり,部下の研究者に対して一般的管理をした者,一般的な助言・指導を与えた者(単なる管理者),研究者の指示に従い,単にデータをとりまとめた者又は実験を行った者(単なる補助者),発明者に資金を提供したり,設備利用の便宜を与えることにより,発明の完成を援助した者又は委託した者(単なる後援者・委託者)等は発明者ではない。そして,発明は,その技術内容が,当該の技術分野における通常の知識を有する者,すなわち,当業者が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されたときに,完成したということができるから(最高裁昭和49年()第107号同52年10月13日第一行ツ小法廷判決民集31巻6号805頁参照),発明者は,当業者が実施でき64る程度の具体性,客観性をもった技術的思想の創作に関与していることが必要であると解される。 イ光電面形成前に酸素を導入することの着想(ア)本件発明は,上記□カのとおり,従前,光電面形成後に行っていた酸素導入を,光電面形成前に行うという方法を採用したところにその本質があるということができる。そして,上記□ウないしオのとおり,酸素増感法によって,光電面感度を高めつつ短寿命の欠点も克服することを目標として実験が続けられる中で,光電面形成前に酸素導入を試みたことが,本件発明の端緒となっているものと解されるところである。 (イ)そこで,上記のタイミングで酸素導入を試みることについて,原告又はAが,単独で,光電面形成前に酸素を導入することを,具体的な予測等を踏まえて実験等を行う以前にかなりの確証を持って着想していたといえるかについて検討すると,原告又はAのいずれも,具体的な予測等を踏まえて,これに基づいて実験の指示又は実施を行ったものとは認められず,本件発明に至る事前の着想を得たとまでは認められないというべきである。 (ウ)原告は,この点,酸素増感法について条件を種々変えるなどにより実験を続けていたが,十分な効果を得るところまではいかないと判断したのに,Aが,従来の酸素増感法に固執していたので,昭和57年6月29日に,Aを叱責し,その折,アルカリ金属と酸素の反応による下地膜の形成を思い付き,酸素導入の工程を最初に行うように指示を行ったと主張し,その際,原告が,Aに対し,「酸素を入れるのは,(光電面形成の)後ばかりではない,前に入れる事をやってみたらどうだ。」と言った旨述べている(甲9)。 しかしながら,従来の方法に固執するAを叱責し,その際に,アルカリ金属と酸素の反応による下地膜の形成を思い付いて,酸素導入を光電65面形成前に行うよう指示したとの原告の上記主張は,それ自体唐突な印象を否定できないし,原告は,上記□イないしエのとおり,研究開発テーマを計画し,具体的な研究についても,一連の実験にシリーズ名を付したり,経過をメモに残すなどして,研究開発を秩序立てて進めていたことが認められるのであるから,上記□エのとおりシリーズの実SBO験を行っていた最中である,上記の昭和57年6月29日に,Aを叱責することを契機に新たな実験を開始するに至るとは考え難いところである。そして,上記□イのとおり,原告とAとは,定期的にミーティングを行うなどして,意見交換をしながら実験を進めていたところ,原告作成に係る本件メモには,Aが担当していた実験の結果のみならず,今後の予定も記載されている(本件メモ19ないし30など)から,これは,Aによる作業の進捗状況に並行して作成されていたと認められ,また,本件メモには,原告考案に係る酸素導入機構の名称の発音記号が示されていたり(本件メモ10),原告の筆跡とは異なる筆跡で測定数値が記入されている(本件メモ29の「酸素増感直前」,「酸素増感直後」,「直前」の欄の数値)から,これがAに示されることもあったchip-offと認められる。したがって,原告が,Aを叱責するまでして,新たな実験を開始するのであれば,事前に,実験の方向性等を記載したメモ,あるいは,直後に新たな実験に関する可能性を記載したメモ等が作成されているのが自然であり,このようなメモも残されていない状況で,原告が主張する上記経緯があったと認めることは困難である。 確かに,もともと,原告は,上記□ウのとおり,酸素の導入時期について関心を持っていたと認められ(本件メモ11),条件を変更して実験を進める試行錯誤の中で,酸素導入のタイミングを変えることについて,Aと意見交換がされた可能性はあり得るところである。しかしながら,上記のとおり,アルカリ金属と酸素の反応による下地膜の形成と66いったことまで事前に具体的に想到して,実験を行う指示を行ったと認めることはできないのであって,単に,酸素導入のタイミングを前にずらすことや,上記原告がAに言ったと述べる内容では,具体的な予測等を踏まえて,本件発明に至る事前の着想を提供したということはできない。 (エ)他方,Aにおいても,上記同様に,単独で本件発明に至る事前の着想を得たとまで認めることはできないというべきである。 被告は,Aが原告から実験について具体的な指示を受けたことはなく,実験の予定手順と実施された手順とが異なることを示す本件メモ28及び29からも,本件メモ自体が,Aの報告を受けた原告が作成した自己使用目的の手控えにすぎない旨主張し,また,Aが酸素を導入するタイミングを変えている中で,従前,アルカリ金属ドープ後に管に亀裂が生じて空気が管内に入ってしまい,シミが生じたものの,光電面感度自体は大幅に向上したという出来事を思い出し,光電面形成前に酸素を導入することを試してみて,増感のきっかけを得たことから,本件発明に至った旨主張する。 しかしながら,上記(ウ)における検討によれば,本件メモに関して被告が指摘する上記の記載によって,本件メモが,原告のみが利用する手控えにすぎなかったと認めることはできない。また,被告が指摘する,Aが体験した従前の出来事とは,結局,シミが生じて,光電面形成は失敗に終わったというものであるから,この点の改善を検討することなく,単に,その状況を再現するだけの実験を行うとは考え難いものである。 そして,上記□イないしエの経緯からすれば,Aは,基本的には原告が策定する計画に沿って実験を継続していたことが認められるのであり,その方向性が定められていない状況で,単独で突然上記実験を行うことも不自然である。 67(オ)結局,上記(ウ)においても示したとおり,原告とAとは,実験を進めていく上で,本件メモに記載された情報を共有しながら,意見交換を行っていたと認められ,本件メモ11や本件メモ16などから,酸素導入の適切なタイミングを探るという関心を共に持っていたということができるのであって,その状況の下での試行錯誤の一環として,光電面形成前に酸素を導入する実験が行われたと認めるのが相当である。 したがって,本件発明は,原告又はAのいずれかが,具体的な予測等を踏まえて,単独で事前の着想を提供したということではなく,試行錯誤の経過の中から顕出された良好な態様が具体化されたものとみるのが相当であるというべきである。 ウ本件発明の完成光電面形成前に酸素を導入するシリーズの実験については,上記OUP□オのとおり,最適条件を模索して続けられるのであるが,の実験OUP-5が行われた昭和57年7月22日ころにおいて,本件発明としては完成したと認めるのが相当である。すなわち,の実験の結果が確認されたOUP-3同月13日ころには,酸素導入のタイミングについて,本件発明と同内容が示されている(本件メモ29)ものの,光電面の形成は,微妙な反応によって,所期の効果が得られたり,得られなかったりすることが指摘されており(乙41,44,46),上記アのとおり,一定の反復性を得ることによって,発明としての具体性や客観性を持つに至ると解されることからすれば,この時点で,発明として完成していたとは認め難い。他方,本件発明について,導入酸素の圧力などの限定はされておらず,最適化条件を詰める実験を終えるまで発明が完成しないというのも相当ではない。上記のの実験の結果によれば,酸素導入のタイミングとその後の光OUP-5電面形成についての順序が明確に示され,また,増感の効果や短寿命の問題解消も指摘されているのであり(本件メモ31),確実に効果を特定し,68当業者が反復して実施できる程度の方法を示しているということができるから,この時点で,発明としての具体性,客観性を有するに至ったと認められる。 エ完成に至るまでの原告及びAの関与シリーズは,上記イ及びウのとおり,原告及びAの試行錯誤の経OUP過の中から顕出された良好な態様を契機として始められた実験であるが,Aは,最初の実験で感度が著しく低下しながらも,増感のきっかけを得た旨の報告を行って,試行錯誤の結果の選択を適切に示唆する一方,原告においても,同報告を受け,増感の可能性を見出し,従前の方法との比較実験(本件メモ29に示されている及びの実験)によって酸OUP-2OUP-3素の作用の効果を確認し,的確な方向性を選択したものであって,このような経緯によれば,本件発明の完成には,原告及びAの双方が相応に関与していると認めるのが相当である。 オ小括そうすると,本件発明は,原告及びAの共同発明であると認められる。 2争点2-1(特許法35条3項の相当の対価の額-本件発明による独占の利益)について原告は,本件各特許権のうち最も出願年月日の早い本件日本特許権の出願日である昭和62年3月17日よりも前に,本件各特許の特許を受ける権利を被告に承継させているので,本件日本特許の特許を受ける権利については,当該承継時点で被告に対する相当の対価の請求権を取得したものであり(特許法35条3項),相当の対価の額を定めるに当たっては,改正前特許法35条4項が適用される(平成16年法律第79号附則2条1項)。 また,原告は,本件各外国特許についても,被告にこれを承継させたことによる相当の対価の請求権を取得したものと解され(特許法35条3項の類推適用),相当の対価の額を定めるに当たっても,本件日本特許の特許を受ける権69利の承継の場合と同様,改正前特許法35条4項を類推適用すべきであると解される(最高裁平成16年( )第781号同18年10月17日第三小法廷判受決・民集60巻8号2853頁参照)。 □独占の利益の算定方法改正前特許法35条4項に規定する「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」とは,使用者等が当該職務発明に係る特許権について通常実施権を有する(同条1項)ことから,使用者等が実際に受ける利益の額から通常実施権を実施することにより得られる利益の額を控除した額,すなわち,使用者等が発明を実施する権利を独占することによる利益の額と解すべきである(外国の特許を受ける権利の承継による相当の対価の請求についても,改正前特許法35条4項が類推適用される以上,同様に解すべきものといえる。)。 本件において,被告は,本件発明を,第三者に実施許諾をしたことはなく,上記第2,1□のとおり,自らこれを実施していたものである。 原告は,この場合,被告が本件発明を第三者に実施させて実施料を取得した場合を想定して算定するのが相当であり,第三者に実施させた場合の当該第三者の売上は,被告の売上の2分の1ないし同額であると主張し,他方,被告は,線イメージ管に関する実際の市場シェアと,シェア獲得のためのX条件が同一であると仮定した競業他社との関係で被告が占めることになるシェアとの差が,超過シェアであり,これを基に,独占の利益を算定すべきである旨主張する。 本件では,本件発明を第三者に実施させて実施料を取得した場合を想定した際に,当該第三者が取得し得る売上の算出に当たって考慮すべき要素や,市場全体の規模等の事情について,何ら証拠がなく,原告が主張するような,被告の半額又は同額の売上を第三者が得ることを推認させるような事情も認められないから,原告が主張する方法は,その算定方法の当否はおくとして70も,これによって独占の利益を算定することは困難というべきである。 被告は,被告の市場シェアを算定し,それに基づいて被告の超過シェアを算定する上記の方法を主張しているところ,被告の主張に係る市場シェアについては,被告における線イメージ管の製造本数及び競業他社の納入推X定本数から被告の国内シェアを推測し,被告社内の調査に基づいて被告の国外シェアを推測した被告従業員の報告書(乙81)があることから,これに基づいて,独占の利益を検討することが,本件においては相当な算定方法というべきである。 そうすると,独占の利益は,被告の売上高に,上記によって計算した超過シェアを乗じて超過部分の売上高を算定し,それに利益率を乗じて超過利益を算定した上で,売上高が線イメージ管に関するものであることから,Xさらに,線イメージ管の売上に対する本件発明の寄与割合を乗じて算定すXることとなる。 以下,順に検討する。 □線イメージ管の売上高X原告は,主位的主張として,別表1「線イメージ管推定売上高(公開〜X消滅・終了)」記載の金額が,被告による線イメージ管の売上高であるX旨主張する。 しかしながら,原告は,訴状において,売上高につき,別表2「線イメXージ管推定売上高」とほぼ同じ内容の金額(中国,韓国の売上高だけが異なる。)を主張していたところ,平成18年4月10日の本件弁論準備手続期日において,当初,同金額を争っていた被告が,相当の対価の額の算定に関する具体的な反論を主張するとともに,同金額を認める旨の主張を行い(同年4月7日付けの被告準備書面□),同金額が争いのないものとなった。そして,同年9月8日の本件弁論準備手続期日のころから,相当の対価の額を主に審理する段階に入り,原告及び被告それぞれの主張,立証がされていた71が,原告は,売上高に関する特段の補充主張をしないままに推移し,相当の対価の額に関する審理がほぼ終結した平成19年2月21日の本件弁論準備手続期日において,相当の対価の額の算定の基礎とすべき売上高に,本件各特許の出願公開時から設定登録時までの間の売上高を追加し,本件日本特許権の存続期間満了までの将来分を含む売上高を追加するとともに,各年度の売上高をそれぞれ10倍以上の金額に引き上げた主張をするに至ったものである(同年1月23日付けの原告第10準備書面)。 このような経緯に照らすと,別表1記載の金額を被告の線イメージ管Xの売上高であるとする原告の上記主張は,自らが訴状において主張し,いったん争いのないものとなっていた事実について,争いがないものとされてから10か月以上が経過し,しかも,相当の対価の額の審理に入ってから5か月程度経過した後の,審理の終結間近になって,突然新たになされたものであるといわざるを得ず,時機に後れた攻撃防御方法として,却下されるべきものである。 したがって,被告による線イメージ管の売上高は,上記訴状におけるX売上高を,中国,韓国特許権の消滅に応じて原告が減額修正した別表2記載のとおりであり,日本について220億円,米国について12億円,ドイツ及びイギリスについて各8500万円,フランスについて8000万円,中国及び韓国について各11億円となる(なお,別表2記載の日本についての売上高は,本件会社分割後の東芝電子管デバイスによる売上も含まれているが,この売上も含めた金額を基礎として,相当の対価の額の算定をすることについては,争いがない。)。 □超過売上高(本件日本特許権)本件日本特許の特許を受ける権利の承継に係る相当の対価の額の算定の基礎とすべき売上高は,上記□のとおり,別表2に従って,平成9年度から平72成16年度についての売上高を見ることになるが,その間の超過売上高については,上記□のとおり,実際の市場シェアを基に算定した超過シェアの割合を,売上高に乗じて算定すべきこととなる。 そこで,この間の,線イメージ管の製造本数に係る被告の国内シェアをX見ると,平成12年から平成16年までの,被告の国内シェアは,約61.8パーセントであり,そのうちの60パーセントが,被告の医療機器に関する事業部への社内販売(本件会社分割後は東芝メディカルシステムズ株式会社へのグループ会社間の販売)であり,さらに,そのうちの,30パーセントが,医療機器システムに組み込まれて輸出されている(乙81)から,被告の販売数の18パーセント(×)は,国内シェアとはいえないこと0.60.361.8になり,全体からすれば,約57.0パーセントが国内シェアとなる(-(×)/-(×))。 61.80.1810061.80.18そして,線イメージ管市場において被告と競業する会社としては,タレXス社,フィリップス社,ジーメンス社,島津製作所及び浜松ホトニクス社があり(甲18,乙1,28,30,31などに,競業他社として,タレス社(トムソン社はタレス社の旧商号),フィリップス社,ジーメンス社,浜松ホトニクス社が記載されており,乙32,33,57などによれば,島津製作所も線イメージ管の製造を行っていることが推認される。),被告をX加えた6社が,自由競争下においてほぼ拮抗するシェアを有するとの仮定を覆すべき資料も本件では提出されていないことから,この場合の均分のシェア約16.7パーセントと,上記被告の国内シェア57.0パーセントとの差である,40.3パーセント,すなわち,被告の売上高の70.7パーセント(/)が超過シェアと解すべきこととなる。 0.4030.57なお,被告は,上記超過シェアについて,被告の線イメージ管の全世X界における市場シェア(約30パーセント)を用いるべきである旨主張するが,上記のとおり,被告の国内シェア(約61.8パーセント)が具体的に73推測できる以上,これを用いることは当然であり(ただし,被告の医療機器に関する事業部を経由しての輸出分についてのシェアは,上記のとおり,これを控除する。),この点に関する被告の上記主張は採用できない。 また,被告は,タレス社,フィリップス社,ジーメンス社については,外国企業であることから,日本の国内市場における不利な点が想定され,各社とも,国内の各社の2分の1のシェアにとどまるものである旨主張するが,従前から,被告が作成した資料においても,上記3社が競業他社として摘示されている(乙1)のであって,上記主張を裏付ける他の資料もないことからすれば,これを採用することはできない。 さらに,被告は,被告の超過シェア獲得には,技術力以外に,規模,資金力,人的資源,ブランド,営業力というものが貢献しており,これらの要素は,組織(規模,人的資源等),資本(資金力),技術(技術力),労働(ブランド,営業力)という企業活動の4つの要素にまとめることができ,しかも,国内において,被告の有するブランド力及び営業力の強さからすれば,それらの有する影響力は他の要素の2倍であり,技術力が上記超過シェアに占める割合は5分の1であって,上記超過シェアの5分の1が,技術による超過シェアとなる旨主張する。 しかしながら,上記超過シェアに技術力以外の要素が影響していることは,十分考えられるものの,それぞれの要素が,競業他社との比較においてどのような位置付けにあるのかをうかがわせるような資料はないのであって(被告は,被告のブランド力と営業力を示す資料として,乙82,83を提出するが,これらは,いずれも,被告内部で作成した社史等であり,これらのみで被告主張を認めることは困難である。),そうであれば,人的資源,資金力,ブランド,営業力といった要素について,大きな比重を置くことは相当ではなく,技術力と他の要素とが等しい影響力を持つものとして,全体の2分の1が技術力によるものであると考えるのが相当である。そうすると,上74記70.7パーセントの2分の1である,約35.4パーセントが技術力に基づく超過シェアであると認められる。 そこで,技術力に基づく超過売上高を計算すると,上記□のとおり,対応期間に係る,日本での売上220億円に,上記35.4パーセントを乗じた,77億8800万円となる。 (本件各外国特許権)本件各外国特許の特許を受ける権利の承継に係る相当の対価の額の算定の基礎とすべき売上高は,上記□のとおり,別表2に従うこととなり,その間の超過売上高については,上記□のとおり,市場シェアを基に算定した超過シェアの割合を,売上高に乗じて算定すべきこととなる。 そこで,この間の,線イメージ管の製造本数に係る被告の国外におけるX実際のシェアをみると,約30.0パーセントと推測される(乙81)。 そして,上記同様に,線イメージ管市場における,上記の競業他社と被X告とが,自由競争下におけるシェアが拮抗するものと仮定した場合のシェア約16.7パーセントと,上記被告の国外シェア30.0パーセントとの差である,13.3パーセント,すなわち,被告の売上高の44.3パーセント(/)が超過シェアとなる。 0.1330.300被告は,被告の超過シェア獲得には,技術力以外に,規模,資金力,人的資源,ブランド,営業力というものが貢献しており,これらの要素は,組織(規模,人的資源等),資本(資金力),技術(技術力),労働(ブランド,営業力)という企業活動の4つの要素にまとめることができるから,技術力が上記超過シェアに占める割合は4分の1であり,上記超過シェアの4分の1が,技術による超過シェアとなる旨主張する。 しかしながら,本件日本特許権における上記の検討と同様に,技術力と他の要素とが等しい影響力を持つものとして,全体の2分の1が技術力によるものであると考えるのが相当である。そうすると,上記44.3パーセント75の2分の1である,約22.2パーセントが超過シェアであると認められる。 そこで,技術力に基づく超過売上高を計算すると,上記□のとおり,対応期間に係る,米国での売上12億円,ドイツ及びイギリスでの売上各8500万円,フランスでの売上8000万円,中国及び韓国での売上各11億円に,上記22.2パーセントを乗じた金額となり,米国について2億6640万円,ドイツについて1887万円,イギリスについて1887万円,フランスについて1776万円,中国について2億4420万円,韓国について2億4420万円となる。 □利益率被告は,上記□の金額に仮想実施料率5パーセントを乗じて,超過売上高に占める利益を算定する旨主張するが,上記□で検討したとおり,自己実施に係る被告の独占の利益について,市場シェアから算定する方法をとることとしたものであって,この算定方法による場合,端的に利益率を乗じて,その利益を算定するのが相当であり,その率については,明確な資料はないものの,10パーセントとみるのが相当である。 □線イメージ管の売上に対する本件発明の寄与度X被告は,別表3「被告主張線イメージ管に関する技術一覧」のとおり,X線イメージ管の製造に係る技術は,100を超える特許及びノウハウが含Xまれ,これらのうち,入力窓,入力面,出力面,内部電極(電子レンズ)が重要な構成要素であり,これらの各要素とその他の要素を併せたものが同等の重要性を有するものとみて,重要性において,入力面として全体の5分の1を占め,入力面に関する各技術のうち,光電面に関する技術は,3分の1であり,その中で,本件発明は,5分の1ないし10分の1であるから,結局,線イメージ管全体の売上に対する本件発明の寄与度は,75分の1なXいし150分の1となると主張する。 確かに,被告が主張するとおり,被告の線イメージ管については,別X76表3記載の特許及びノウハウを含んだ技術が用いられていることが認められる(乙27,68)ところ,線イメージ管を構成する技術について,大きXく,入力窓,入力面,出力面,内部電極,その他の要素の,5分野に分けるという,被告が自認する技術的位置付けが直ちに不合理であるということはできないから,これを採用し,入力面に関する技術が,線イメージ管全体Xの5分の1の重要性,すなわち,売上に対する5分の1の寄与度を有していると解するのが相当である。 そして,入力面については,光電面のほか,入力基板,入力膜,透明導電膜などの技術分野があり(乙27,68),透明導電膜の改良が大幅に感度を上昇させた経緯があること(乙68,69)なども認められるところであるが,本件発明がされた当時,電子技研における線イメージ管に関するX研究開発は,主に,光電面に関するものであり(甲9,乙3),本件発明については,上記1□ケのとおり,数次にわたる出願と出願放棄を経ているものの,最終的には日本における特許出願を行って特許権を維持しており,米国,欧州,中国及び韓国においても特許出願をして,一定期間特許権を維持していることなども併せ考慮すれば,本件発明については,入力面に関する技術のうち2分の1の重要性,すなわち,売上に対する2分の1程度の貢献度を有していると解するのが相当である。 そうすると,線イメージ管全体の技術に対する本件発明の寄与度は,1X0分の1とみるのが相当である。 3争点2-2(特許法35条3項の相当の対価の額-被告の貢献度)について□事実認定本件発明の承継に係る相当の対価の額を算定する際に考慮すべき被告の貢献度に関し,以下の事実が認められる。 ア被告における技術的蓄積X X被告は,大正4年に,国内初の線管を開発し,昭和29年には,77線イメージ管の研究開発に着手し,昭和41年にその製造を開始した。そして,昭和49年には,を採用した装置の製造を行っており,昭和5CsI2年には,の針状結晶成長技術を完成させて入力蛍光面に採用し,昭CsI和56年には,アルミを入力窓に用いて高コントラストを実現した12インチ管を商品化するなど,線イメージ管に関する,長い研究開発の歴史Xを有している(乙57,58)。 イ被告による育成原告は,上記1□ア(ア)のとおり,昭和43年4月の入社直後に,中央研究所開発部電子管グループに配属されて,電子管の研究開発に従事し,昭和45年ころからは,光電面の研究を行うようになり,昭和49年には,電子事業部に異動となって,線イメージ管の品質や技術問題の解決に向Xけた研究を行い,さらに,カリウムとセシウムとアンチモンとで構成されている光電面(バイアルカリ光電面)の開発や,酸化インジウムの薄膜を用いる透明導電膜の開発などに従事した(甲9)。そして,昭和55年に,新設された電子技研に異動となって,線イメージ管に関する研究開発をX行った(甲9)。 他方,上記1□オのとおり,原告と共に,本件発明の発明者であると認められるAも,上記1□ア(イ)のとおり,昭和18年の入社時から,一貫して,各種光電変換管に用いられる光電面の製造,研究に携わり,特に,昭和34年から,昭和55年の電子技研異動までの間,線イメージ管のX製造ラインの監督を行う職務に就いていた(乙3)。 ウ研究開発テーマの選定昭和55年4月,上記1□イのとおり,被告電子事業部の下部組織として電子技研が設立されたが,設立の趣旨は,基礎的な要素技術や評価技術の開発など,中長期的な観点からの技術開発の一部を担当させるというものであり,医用電子管の研究開発を担当するグループ内に,「高変換効率78線」グループが設けられ,原告及びAは同部署に配属された(乙XI.I.2)。そこでは,線イメージ管に関する技術の改良について,研究開発Xをすることが求められていた。 エ研究環境電子技研の,原告及びAが所属した,医用電子管担当グループ内の,高変換効率線グループでは,開発研究費として,昭和56年度下期8XI.I.50万円,昭和57年度上期2500万円,同年度下期3000万円,昭和58年度上期3200万円の合計9550万円が,また,研究設備投資額として,昭和57年度上期が2700万円,同年度下期が1300万円,昭和58年度上期が4200万円の合計8200万円が,それぞれ割り当てられ,これらの合計額は1億7750万円となる(乙1)。 オ実用化・事業的成功に当たっての被告の貢献本件発明の内容を含む,酸素増感バイアルカリ光電面及びその製造方法に関する研究開発の成果は,昭和58年2月に,医用電子管技術部に移管されたが,その際,製作上の問題点として,@すべての排気装置に改造を要すること,A酸素導入工程を入れるので,工程が増すこと,B形成時間が,従来の約1.8倍となること,C個々の排気装置,線イメージ管別Xに酸素作用圧力の設定を要することが指摘されていた(乙55)。 その後,被告内において,酸素導入量の最適化(乙61),各種イメージ管への酸素増感法の適用を容易にする(試作管の必要性を低減する)ための,管内酸素圧力を直接測定する方法の開発(乙62),光電面形成時に********************************導入することにより,形成時間短縮と,更なる輝度向上を実現した光電面形成方法の開発(乙63)が行われ,実用可能な技術として確立された。 □検討以上を踏まえて,本件発明において考慮すべき被告の貢献度を検討すると,79被告が,線イメージ管を含む真空管に関する長年にわたる技術の蓄積を背X景にした研究環境を提供したこと,線イメージ管に関する技術者として原X告及びAを育成し,本件発明に係る研究を専門的に行う機会と場所及び設備を提供したこと,成果を実用化し,商業的に成功させるために人的,物的資源を投入したことなどから,これらを総合的に考慮して,本件発明に関する被告の貢献度は,95パーセントを下回ることはないものと認めるのが相当である。 なお,被告は,本件各外国特許の特許を受ける権利については,被告の貢献度は,本件日本特許の特許を受ける権利の場合と比較して,より高く考えられるべきであるとし,その根拠として,外国特許出願に対応する能力,外国特許出願をし,維持するための費用,外国特許権の行使の能力,外国において市場を獲得し,製品を販売することの困難性などの事情を主張する。 しかしながら,上記の各事情は,一般的には首肯し得る点が多いものではある(ただし,諸外国において特許を受ける権利に基づいて特許権を取得すること,及びそれを維持して金銭を負担することなどが,我が国において同様の手続を行う場合より常に困難であって,被告の貢献度をより多く考えるべきであるとは,必ずしもいえないと解される。)が,被告の上記貢献度は,被告が,技術の蓄積を背景にした研究環境を提供したこと,原告とAとを育成し,本件に関する研究を専門的に行う機会と場所及び設備を提供したこと等の事情を,具体的かつ総合的に考慮して認定したものであり,そのような総合考慮において,上記の各事情の内容が具体的に明らかでない状況の下では,本件各外国特許の特許を受ける権利の場合と本件日本特許の特許を受ける権利の場合との間で,被告の貢献度に差異が生じると解することは困難である。 したがって,被告の上記主張を採用することはできない。 4争点2-3(特許法35条3項の相当の対価の額-共同発明者間の貢献割80合)について本件発明について,共同発明者である原告及びAの貢献割合は,上記1□で認定した諸事情によれば,均分と認められ,それぞれ50パーセントの貢献をしたものと解するのが相当である。 5争点2-4(特許法35条3項の相当の対価の額-相当の対価の額)について原告が受けるべき相当の対価の額は,上記2ないし4において検討したとおり,線イメージ管の超過売上高に利益率を乗じ,本件発明の寄与度を乗じて,X独占の利益を算定し,そこから,被告の貢献度を控除し,すなわち,発明者の貢献度を乗じ,共同発明者間の原告の貢献割合を乗じて算定することとなる。 そこで,まず,本件日本特許の特許を受ける権利の承継に係る相当の対価の額を計算すると,以下のとおり,194万7000円となる。 億万円×××( -)×=万円7788000.10.110.950.51947000なお,本件日本特許の特許を受ける権利の承継については,原告は,被告から,上記第2,1□のとおり,7万8000円の支払を受けているので,上記194万7000円から7万8000円を控除した186万9000円が,未払の相当の対価の額となる。 また,本件各外国特許の特許を受ける権利の承継に係る相当の対価の額を計算すると,以下のとおりとなり,その合計は20万2574円となる。 (米国) 億万円×××( -)×=万円266400.10.110.950.566600(ドイツ)万円×××( -)×=円18870.10.110.950.54717(イギリス)万円×××( -)×=円18870.10.110.950.54717(フランス)万円×××( -)×=円17760.10.110.950.54440(中国) 億万円×××( -)×=万円244200.10.110.950.561050(韓国) 億万円×××( -)×=万円244200.10.110.950.561050以上の合計は,207万1574円となる。 81第4結論以上の次第で,原告の請求は,207万1574円(日本特許について,4288万5000円のうち186万9000円,米国特許について,234万円のうち6万6600円,ドイツ特許及びイギリス特許について,それぞれ,16万5000円のうち4717円,フランス特許について15万5000円のうち4440円,中国特許及び韓国特許について,それぞれ,214万5000円のうち6万1050円)及びこれに対する,本訴状送達の日の翌日である平成17年2月24日から支払済みに至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,これを認容し,その余は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 清水節 |
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裁判官 | 山田真紀 |
裁判官 | 佐野信 |