関連審決 | 異議2003-72136 訂正2005-39029 |
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関連ワード | 発明者 / 創作性(創作) / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 引用発明の認定 / 一致点の認定 / 周知技術 / 慣用技術 / 技術常識 / 化学構造 / 特許出願日 / 置換 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 構成要件 / 設定登録 / 訂正審判 / 請求の範囲 / 減縮 / 独立特許要件 / 訂正明細書 / 取消決定 / |
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事件 |
平成
17年
(行ケ)
10615号
審決取消請求事件
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原告フェリック株式会社 訴訟代理人弁理士中西次郎,前直美 被告特許庁長官中嶋誠 指定代理 人一ノ瀬覚,松縄正登,高木彰,森山啓 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2007/07/03 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1原告の求めた裁判「特許庁が訂正2005-39029号事件について平成17年6月28日にした審決を取り消す 」との判決。。 第2事案の概要本件は,後記本件特許の特許権者である原告が,訂正審判の請求をしたところ,請求は成り立たないとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。 1特許庁における手続の経緯( )本件特許(甲第16号証)1特許権者:フェリック株式会社(原告)発明の名称: 多孔質袋体,これを用いた発熱体,脱酸素体,脱臭体,追熟体, 「乾燥材,除湿材及び匂い袋」特許出願日:平成8年12月25日(特願平8-356952号)設定登録日:平成14年12月13日特許番号:特許第3380701号( )本件手続2本件特許につき,特許異議の申立てがされ(異議2003-72136号 ,特)許庁は,平成16年10月12日 「特許第3380701号の請求項1ないし1 ,8に係る特許を取り消す 」との決定をした。本件訂正審判請求は,上記取消決定 。 の取消訴訟(知的財産高等裁判所平成17年(行ケ)第10353号)の係属中にされたものである。 審判請求日:平成17年2月23日(訂正2005-39029号)審決日:平成17年6月28日審決の結論: 本件審判の請求は,成り立たない 」 「 。 審決謄本送達日:平成17年7月8日2特許請求の範囲の記載請求項の数は,訂正審判請求前のもの,訂正審判請求に係るものとも18個である。 ( )訂正審判請求前のもの1「 請求項1】 多孔質膜及び補強用通気層を具備する2層以上の多孔質基材とヒー 【トシール層を有する1層以上の被覆材とを,前記多孔質膜及びヒートシール層が接するように重ね合わせ,その周縁部を前記ヒートシール層でヒートシールしてなる多孔質の袋体において,前記多孔質膜が,無機質充填剤を含有する延伸多孔質膜で,,, , あり 前記多孔質基材が 50〜10 000g/m ・24hrの透湿度を有し2前記ヒートシール層が,活性点の性質が均一なシングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンで形成されていることを特徴とする多孔質袋体。 【請求項2】 多孔質膜がポリオレフィン系樹脂で形成されている請求項1に記載の多孔質袋体。 【請求項3】 ポリオレフィン系樹脂がポリエチレンである請求項2に記載の多孔質袋体。 【請求項4】 補強用通気層が織布,不織布,紙,又はパンチングフィルム・シートである請求項1〜3のいずれか1項に記載の多孔質袋体。 【請求項5】 シングルサイト触媒がメタロセン触媒である請求項1〜4のいずれか1項に記載の多孔質袋体。 【請求項6】 ヒートシール層がメタロセン触媒によって重合又はα-オレフィンと共重合されたポリエチレンで形成されている請求項1〜5のいずれか1項に記載の多孔質袋体。 【請求項7】 被覆材がヒートシール層と補強層とを具備する2層以上からなる請求項1〜6のいずれか1項に記載の多孔質袋体。 【請求項8】 補強層が織布,不織布,紙,パンチングフィルム・シート又は非通気性のフィルムもしくはシートである請求項7に記載の多孔質袋体。 【請求項9】 シングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンのMFR(メルトフローレート)が0.5g/10分以上で20g/10分未満である請求項1〜8のいずれか1項に記載の多孔質袋体。 【請求項10】 シングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンの密度が0.95g/cm 以下である請求項1〜9のいずれか1項に記載の多孔3質袋体。 【請求項11】 シングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンのDSC融点が125℃以下である請求項1〜10のいずれか1項に記載の多孔質袋体。 【請求項12】 請求項1〜11のいずれか1項に記載された多孔質袋体内に空気中の酸素と反応して発熱する発熱組成物が封入されていることを特徴とする発熱体。 【請求項13】 請求項1〜11のいずれか1項に記載された多孔質袋体内に空気中の酸素と反応する脱酸素剤が封入されていることを特徴とする脱酸素体。 【請求項14】 請求項1〜11のいずれか1項に記載された多孔質袋体内に悪臭物質を吸収する脱臭剤が封入されていることを特徴とする脱臭体。 【請求項15】 請求項1〜11のいずれか1項に記載された多孔質袋体内に空気中の酸素と反応してエチレンガスを発生する追熟組成物が封入されていることを特徴とする追熟体。 【請求項16】 請求項1〜11のいずれか1項に記載された多孔質袋体内に湿気を吸収する乾燥剤が封入されていることを特徴とする乾燥材。 【請求項17】 請求項1〜11のいずれか1項に記載された多孔質袋体内に空気中の水分を吸収する吸湿剤が封入されていることを特徴とする除湿材。 【請求項18】 請求項1〜11のいずれか1項に記載された多孔質袋体内に蒸散性の香料が封入されていることを特徴とする匂い袋 」。 (。,「」 ( )訂正審判請求書添付の訂正明細書 甲第15号証 以下 単に 訂正明細書2という )の特許請求の範囲の請求項1(下線部が訂正箇所である。請求項2〜1 。 8は,訂正審判請求前に同じ )。 「 請求項1】 多孔質膜及び補強用通気層を具備する2層以上の多孔質基材とヒー 【トシール層を有する1層以上の被覆材とを,前記多孔質膜及びヒートシール層が接するように重ね合わせ,その周縁部を前記ヒートシール層でヒートシールしてなる多孔質の袋体において,前記多孔質膜が,無機質充填剤を含有する延伸多孔質膜で,,, , あり 前記多孔質基材が 50〜10 000g/m ・24hrの透湿度を有し2前記ヒートシール層が,活性点の性質が均一なシングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンで形成されている非通気性のフィルムないしシートであることを特徴とする多孔質袋体 」。 3審決の理由の要点審決は,本件訂正審判に係る訂正(以下「本件訂正」という )につき,特許請。 求の範囲の減縮を目的としたものに該当するが,訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1記載の発明(以下「訂正発明」という )は,下記刊行物1〜5(以下「引 。 用刊行物1」〜「引用刊行物5」といい,引用刊行物1に記載された発明を「引用発明」という )の記載及び周知の技術手段に基づいて,当業者が容易に発明をす 。 ることができたものであるから,特許法29条2項により,特許出願の際,独立して特許を受けることができるものではなく,本件訂正審判請求は,同法126条5項の規定に適合しない,とした。 刊行物1実公平6-42999号公報(甲第1号証)刊行物2特開平8-157611号公報(平成8年6月18日公開,甲第2号証)(,) 刊行物3特開平7-232418号公報 平成7年9月5日公開 甲第3号証刊行物4特開平7-314624号公報(平成7年12月5日公開,甲第4号証)刊行物5平成8年2月1日株式会社工業調査会発行の雑誌「プラスチックス」「」() 2月号掲載の上原弓人ほか1名による ポリエチレン と題する論文 甲第5号証審決の理由中,引用刊行物1の記載事項の認定,訂正発明と引用発明との対比及び判断に係る部分は,以下のとおりである。 ( )引用刊行物1の記載事項の認定1「上記刊行物1・・・には,以下の事項が記載されている。 a 『空気の存在下で発熱しうる発熱体収納用の袋体であって,該袋体が表裏両シートを重 .ね合わせ,その縁部をヒートシールして形成されて成り,該表裏両シートのうち少なくとも一方が微細孔を有する多孔質体で形成されており,且つ上記袋体にはその一部に通気孔を設けたことを特徴とする多孔質袋体(実用新案登録請求の範囲の請求項1) 。』b 『多孔質体が不織布に多孔質シートをラミネートして形成されたものである実用新案登 .録請求の範囲第1項ないし第4項のいずれかに記載の多孔質袋体(実用新案登録請求の範囲 。』の請求項6)c 『本考案に用いられる表裏のシートとしては,その縁部をヒートシールによって接合し .うる袋体を形成しうるものであればその素材が特に限定されるものではなく,又,無延伸シートや一軸延伸シート,更に二軸延伸シートのいずれのものも用いることができる(2頁右欄。』24〜28行).『 , d本考案においては ・・・( )表シートを通気性微細孔を有する多孔質体で形成する一方,2裏シートを通気性の無いシートで形成しても・・・よいのである(2頁右欄33〜39行) 。』e 『上記多孔質体には,所望により,充填剤が配合されたものが含まれるが,かかる充填 .剤としては炭酸カルシウム,タルク,クレー,カオリン,シリカ・・・等が挙げられる(3。』頁左欄27〜32行)f 『本考案の好ましい実施態様としては,多孔質体が不織布に多孔質シートをラミネート .して形成されたものであり,これによって,多孔質体の強度,つまり,これによって形成される表シートや裏シートの強度を著しく向上させ得るのである(4頁左欄1〜5行) 。』.『 , ,, gかかるホットメルト系接着シートとしては エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂 ・・・ポリエチレン系ホットメルト樹脂・・・で形成された接着シートが挙げられる(4頁左欄1。』8〜29行)h 『本考案において好ましい実施態様としては,表シートと裏シートを重ね合わせ (この . ,場合,この表裏両シートのうち少なくとも一方が上記多孔質体で形成されている ,その縁部)がヒートシールされる・・・ものである(4頁右欄4〜9行) 。』i 『表裏両シート(( )としては ・・・第5図に示すように,線状低密度ポリエチレ .),,23ン樹脂製多孔質シート()を単独に用いてもよいのである(5頁右欄25〜30行) 10 。』4004600g/m24hr j.第6表と第7表には,表シートあるいは裏シートの透湿度が,〜・2であることが開示されている。 そうすると,引用発明には,下記の事項が記載されているものと認められる。 『多孔質シートに不織布をラミネートして形成された2層以上の多孔質体(表シート)とヒートシール層を有する1層以上の裏シートとを,前記多孔質シート及びヒートシール層が接するように重ね合わせ,その周縁部を前記ヒートシール層でヒートシールしてなる多孔質の袋体において,前記多孔質シートが,無機質充填剤を含有する多孔質シートであり,前記多孔質シートが,400〜4600g/m ・24hrの透湿度を有し,前記ヒートシール層が,重合又2は共重合されたポリエチレンで形成されているシートである多孔質袋体」。』( )訂正発明と引用発明との対比2「訂正発明と引用発明とは,いずれも,多孔質袋体である点で同じである。引用発明の『多孔』『』『()』『』 ,『』 質シート不織布多孔質体 表シート裏シート は それぞれ訂正発明の 多孔質膜『補強用通気層 『多孔質基材 『被覆材』に相当する。 』』そこで,訂正発明と引用発明とを対比すると,両者は,『多孔質膜及び補強用通気層を具備する2層以上の多孔質基材とヒートシール層を有する1層以上の被覆材とを,前記多孔質膜及びヒートシール層が接するように重ね合わせ,その周縁部を前記ヒートシール層でヒートシールしてなる多孔質の袋体において,前記多孔質膜が,無機質充填剤を含有する延伸多孔質膜であり,前記多孔質基材が,〜・の透湿5010,000g/m24hr2度を有し,前記ヒートシール層が,重合又は共重合されたポリエチレンで形成されているフィルムないしシートであることを特徴とする多孔質袋体 』。 の点で一致するが,(A)訂正発明のヒートシール層が,非通気性のフィルムないしシートであるのに対し,, , 引用発明のヒートシール層が 非通気性のフィルムないしシートであるか否か明らかでない点(B)訂正発明のヒートシール層が 『活性点の性質が均一なシングルサイト触媒によっ ,て重合又は共重合されたポリエチレンで形成されている』のに対し,引用発明のヒートシール層は,線状低密度ポリエチレン樹脂で形成されている点,の二点において,互いに相違する 」。 ( )審決の判断3ア相違点Aについて(省略)イ相違点Bについて「一般に,ヒートシール層がシングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンで形成されたフィルム同士をシールして,包装用袋を形成することは,本件出願前周知の事項(上記訂正拒絶理由に引用された刊行物2〜5参照)として知られている。 訂正発明は,袋体の周縁部をヒートシールする際の当該シール部の破断や裂け更に貫通孔の発生を防止するために,ヒートシール層が,活性点の性質が均一なシングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンで形成されたものであるが,袋体のヒートシール層としてシングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンを用いることが本願出願前周知である以上,引用発明の多孔質袋体の線状低密度ポリエチレン樹脂の代わりに,シングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンを用いることは,当業者が容易になし得た程度であるものといえる。また,訂正発明の『ヒートシールきわのエッジ切れの解消』という作用効果も,引用発明におけるヒートシール部に比べ,格別のものがあるとはいえない。 ウ審決の「まとめ」「以上のとおりであるから,訂正発明は,引用刊行物1〜5の記載,及び周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第条第2項の規定29により,特許出願の際独立して特許をうけることができるものではない 」。 第3審決取消事由の要点審決は,訂正発明につき,独立特許要件の有無を判断するに当たり,引用刊行物, , 1の記載事項の認定を誤って 訂正発明と引用発明との一致点の認定及び相違点ABの認定を誤り(取消事由1 ,また,相違点Bについての判断を誤り(取消事由 )2 ,さらに,訂正発明の顕著な効果を看過した(取消事由3)ことにより,訂正 )発明が,引用刊行物1〜5の記載及び周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの誤った結論に至ったものであるから,取り消されるべきである。 1取消事由1(一致点及び相違点A,Bの認定の誤り)( )審決は,引用発明を「多孔質シートに不織布をラミネートして形成された21() , 層以上の多孔質体 表シート とヒートシール層を有する1層以上の裏シートとを前記多孔質シート及びヒートシール層が接するように重ね合わせ,その周縁部を前記ヒートシール層でヒートシールしてなる多孔質の袋体において,前記多孔質シートが,無機質充填剤を含有する多孔質シートであり,前記多孔質シートが,400〜4600g/m ・24hrの透湿度を有し,前記ヒートシール層が,重合又は2。」, 共重合されたポリエチレンで形成されているシートである多孔質袋体と認定しこの認定を基礎として,訂正発明と引用発明との一致点及び相違点A,Bの認定に及んだ。 しかしながら,引用発明は,それ自体が具体的に引用刊行物1に記載されているものではなく,引用刊行物1に,各構成要件において,使用し得る可能性があるとして記載されたものの中から,訂正発明に最も近いものを選択して,恣意的に組み合わせたものである。このような引用発明の認定方法は,選択をして組み合せる際に,既に訂正発明に依拠しているのであり,後知恵的な行為であるから,許されるべきではない。 したがって,審決の引用発明の認定は誤りというべきであり,この認定に基づいた一致点及び相違点A,Bの認定も誤りである。 ( )のみならず,審決は,相違点Bの認定において 「引用発明のヒートシール2 ,層は,線状低密度ポリエチレン樹脂で形成されている」と認定し,他方,相違点Aの認定においては 「引用発明のヒートシール層が,非通気性のフィルムないしシ ,ートであるか否か明らかでない」と認定した。 しかしながら,引用刊行物1には 「線状低密度ポリエチレン樹脂」は 「多孔質 , ,シート」を構成する樹脂としてのみ記載されているのであるから(3頁左欄の延伸率の式の下1〜16行,同頁右欄下から18〜4行,5頁右欄11〜30行等 ,)相違点Bにおいて認定したように,引用発明のヒートシール層が「線状低密度ポリエチレン樹脂 製であるとすれば それは通気性があるから 相違点Aにおいて 引 」,,「用発明のヒートシール層が,非通気性のフィルムないしシートであるか否か明らかでない と認定するのは誤りであり 逆に 相違点Aにおいて認定したように引 」 ,, ,「用発明のヒートシール層が,非通気性のフィルムないしシートであるか否か明らかでない」のであれば,相違点Bにおいて,引用発明のヒートシール層については,「材質不明である」としか認定することができない。引用刊行物1には,通気性のないシートに関しては 「本考案においては ・・・( )表シートを通気性微細孔を ,,2有する多孔質体で形成する一方,裏シートを通気性の無いシートで形成しても・・。」(,), ・よいのである2頁右欄33〜39行 審決の摘記d との記載しか存在せずその材質は記載されていないから,ヒートシール層が非通気性である可能性がある以上,その材質を,相違点Bの認定のように「線状低密度ポリエチレン樹脂」製と特定することはできないはずである。 したがって,相違点Aにおける引用発明の認定と,相違点Bにおける引用発明の認定は両立せず,審決は,引用刊行物1に記載されていないものを引用発明として認定した誤りがある。 2取消事由2(相違点Bについての判断の誤り)( )ヒートシール層とは,一般にヒートシールの際に最初に熱溶融して,層間の1封緘に寄与する層のことをいう。訂正発明において,ヒートシール時に直接接する面は多孔質基材の多孔質膜と被覆材の「ヒートシール層」であるが,被覆材の「ヒートシール層」がヒートシール層として作用することにより,アンカーが形成されるのであり,多孔質膜はヒートシール時に最初に溶融するヒートシール層としては作用しない。訂正発明の特許請求の範囲が,被覆材の側にのみ「ヒートシール層」の語を用いており 「ヒートシール層でヒートシールしてなる・・・袋体」と規定 ,するのは,そのような趣旨である。 そして,訂正発明の袋体のヒートシール部は,ヒートシール時に被覆材の「ヒートシール層」が溶融し,溶融樹脂が多孔質膜の孔を通して,補強用通気層(例えば不織布)側に浸透した後凝固してアンカーを形成するものであって,このようにして,訂正発明の袋体のヒートシール部においては,ヒートシール層と多孔質膜との,,, 樹脂間及び多孔質膜と不織布との樹脂間に結合が生じ ヒートシール層 多孔質膜不織布の三層が一体となって,きわめて大きなシール強度を実現することが可能となるものであり,その結果として,ヒートシールきわのエッジ切れを抑制することができるものである。 被告は,原告の上記主張につき 「ヒートシール」という通常の技術用語を,特 ,,, , 別の意味で用いるのであれば 明細書中に その定義を明らかにすべきであるとか,, 。 明細書中に 当該技術事項に係る構成 効果を記載することを要する等と主張する,,「」 , しかしながら 原告はヒートシール の語を被告と同様の意味で用いており特別の意味で用いているのではない。ただし,引用刊行物1及び引用刊行物2〜5, , に記載されたものは 同一の熱可塑性フィルム同士のヒートシールであるのに対し訂正発明においては,ヒートシールされる熱可塑性フィルムが同一のものではないから,先に溶融しヒートシールの形成に大きく寄与するものを「ヒートシール層」と呼称しているのであって,この場合に,ヒートシールの際 「ヒートシール層」,が先に溶融することは,技術常識によって導き出される事柄である。 また,訂正明細書には 「当該溶融樹脂(ヒートシール層の溶融樹脂)が多孔質膜 ,の溶融箇所から不織布等の布中に滲透して広義のアンカー効果を発現し(段落,」【「ヒートシールきわで溶融樹脂が不織布等の布によく滲透して硬化し一0039 】),体化している (段落【)等の記載があり,訂正発明において,ヒートシール 」】0042層でヒートシールすることにより,アンカーが形成されることは,訂正明細書に記載されている。さらに,訂正発明における作用効果を奏するための技術事項は,圧, ,(【】 【】) 力 ヒートシール温度等の条件を含め 具体的な実施例 段落〜00800097に例示されており,当業者は,これらの記載及び技術常識に基づいて,適宜選択した具体的な材料,構成に最適な条件を決定することが可能である。 したがって,被告の上記主張は失当である。 , , , ( )審決は 相違点Bについての判断において 引用刊行物2〜5を引用した上2「一般に,ヒートシール層がシングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンで形成されたフィルム同士をシールして,包装用袋を形成することは,本件出願前周知の事項」と認定した上 「袋体のヒートシール層としてシングルサ ,イト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンを用いることが本願出願前周知である以上,引用発明の多孔質袋体の線状低密度ポリエチレン樹脂の代わりに,シングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンを用いることは,当業者が容易になし得た程度であるもの」と判断した。 すなわち,審決は,引用刊行物2〜5の記載及び技術常識に基づいて,シングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンは,従来の線状低密度ポリエチレンその他の材料に比べ,低温シール性やヒートシール強度に優れることが公知であり,当業者であれば,ヒートシール強度,ヒートシールきわのエッジ切れを改善するため,当然に線状低密度ポリエチレンの代わりにシングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンを用いるであろうとの立場に立ち,結果として進歩性を否定したものと考えられる。 しかしながら,引用刊行物2〜5に記載された袋体は,シングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンの層を含む層構成が全く同一であるフィルムをヒートシールしたものであり,そのヒートシール部は,両側が同様に溶融し,。,,, アンカー形成を伴わないものである これに対し 訂正発明は 上記( )のとおり1シングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンから成るヒートシールが最初に溶融するものであって,アンカーが形成されるものである。したがって,両者は,ヒートシール部の構成,シール機構が明らかに異なるものであり,また,引用刊行物2〜5には,シングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンと多孔質膜とをシールした場合に,どのような特徴が示されるのかという点につき,記載も示唆もない。このように構成の相違があるにもかかわらず,引用刊行物2〜5記載の発明を,シングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンと多孔質膜とをシールする訂正発明に,そのまま適用することは,論理の飛躍である。 さらに,引用刊行物2〜5には,シングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンを用いてヒートシールした場合の特徴として,例えば,線状低密度ポリエチレンに比べ,低温シール性が改善されるとの記載はあるが,シングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンを用いることにより,ヒートシール強度が必ず向上するとの明確な記載は存在しない。また,ヒートシールきわのエッジ切れは,多孔質膜の側で生ずるものであるから,多孔質膜と張り合わせる材料について,低温シール性や引張強度,引裂強度,夾雑物シール性等の物性に優れたものを用いればよいというわけでもない。本件特許出願前に知られていた,シ「」 , ングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンの 優れた物性 はいずれもシングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレン同士のヒートシールについての物性,又はシングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンからなるフィルム自体についての物性であり,したがって,シングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンが,引用刊行物2〜5に記載されたような,低温シール性,引張強度,引裂強度等の物性において優れていることが公知であったとしても,これをヒートシール層として用いれば,ヒートシールする相手側(多孔質膜)に生ずる「ヒートシールきわのエッジ切れ」の問題が低減されることは,当業者といえども,容易には予測し得なかったものである。 したがって,活性点の性質が均一なシングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンを,多孔質膜とヒートシールする際のヒートシール層として使用することは,当業者が容易に想到し得たものではない。 ( )のみならず,以下のとおり,引用刊行物1に引用刊行物2〜5を組み合わせ3ても,訂正発明を得ることはできない。 ア引用刊行物1には,多孔質体として,@不織布と多孔質シートをエチレン-酢酸共重合樹脂等のエチレン系ホットメルト多孔質シートにより接着させた3層構造(例えば,第2図 ,A不織布とホットメルト樹脂からなる2層構造(第4図) )及びB多孔質シート単体そのもの(第5図)が開示されている。 上記@の多孔質体を訂正発明の多孔質基材として使用した場合,不織布と多孔質シートとの間に介在するホットメルト樹脂が,融点が最も低く,かつ,多孔質シートよりも外側にあるから,ヒートシール時にはより高温に加熱されることになる。 そうすると,このような多孔質体と,シングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンのヒートシール層を有する被覆材とを組み合わせてヒートシールすると,ホットメルト樹脂が最初に溶融し,溶融したホットメルト樹脂層の存在によってヒートシール層樹脂によるアンカー形成が阻害されるので,3層が一体となって強固なシール強度(アンカー効果)を発現することはできない。また,Aの多孔質体を,訂正発明の多孔質基材として使用する場合にも,一方のホットメルト樹脂が他方の不織布と結合してアンカーを形成することはできず,Bの多孔質体においては,アンカーを形成する対象となる層が存在しない。 したがって,引用刊行物1に記載された多孔質シートに,引用刊行物2〜5に記載されたシングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンを組み合わせても,訂正発明におけるヒートシール層の効果を奏することはできず,ヒートシールきわのエッジ切れの防止又は減少という効果を得られるものではない。 イ加えて,上記のとおり,引用刊行物2〜5に記載された袋体は,シングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンの層を含む層構成が全く同一であるフィルムをヒートシールするものであり,層構成が全く同一であるフィルムをヒートシールするという点では,引用刊行物1記載のものも変わらない。 そうすると,引用刊行物1に引用刊行物2〜5を組み合わせても 「同一層構成,」 。, のもの同士をヒートシールすること 以外を想到することはできない これに対し訂正発明において,ヒートシール層に用いるシングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンは,ヒートシール時に最も早く溶融するものであり,多孔質膜はこのシングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンとは異なるものである。そして,訂正発明は,このような構成によって,初めてヒートシール時のアンカー効果が創出され,その結果,ヒートシールきわのエッジ切れの問題を解決することができたものである。 すなわち,訂正発明は,引用刊行物1及び引用刊行物2〜5のいずれにも記載されていない構成を採用したものであり,これらの引用刊行物をどのように組み合わせても,訂正発明の構成を想到することはできない。 3取消事由3(効果の顕著性の看過)審決は 「訂正発明の『ヒートシールきわのエッジ切れの解消』という作用効果 ,も,引用発明におけるヒートシール部に比べ,格別のものがあるとはいえない 」。 と認定したが,以下のとおり誤りである。 すなわち,上記1の( )のとおり,引用刊行物1に記載された発明の被覆材(裏2シート)のヒートシール層は,線状低密度ポリエチレン樹脂製の多孔質シートであるか,又は材質不明の非通気性シートである。他方,引用刊行物1に記載された発() , 明の多孔質シート 表シート が線状低密度ポリエチレン樹脂製であるとした場合裏シートのヒートシール層が線状低密度ポリエチレン樹脂製の多孔質シートであれば,同材質のヒートシール層同士がヒートシールされるものとなり,裏シートのヒートシール層が材質不明の非通気性シートであれば,訂正明細書において従来技術として記載されている袋体と同じものである(段落【。 0007 】)したがって,引用刊行物1に記載された発明は,@訂正明細書において従来技術として記載された袋体,Aヒートシール層が同材質のもの同士である袋体のいずれかとなる。 しかるところ,@は,まさに,ヒートシールきわのエッジ切れが問題となるものであり,訂正発明は,エッジ切れの発生を防止又は軽減して,この問題を解決したものであるから,訂正発明の効果が顕著であることは明らかである。 また,Aは,同材質のもの同士をヒートシールした場合,両側が同等に溶融することになるから,訂正発明で形成されたようなアンカーが形成されず,訂正発明のようなアンカー効果が得られないことは明白である。 したがって,訂正発明に特有の効果は,引用刊行物1にも,引用刊行物2〜5にも記載又は示唆されているものではない。 第4被告の反論の要点1取消事由1(一致点及び相違点A,Bの認定の誤り)に対し( )原告は,審決の認定に係る引用発明について,引用発明は,それ自体が具体1的に引用刊行物1に記載されているものではなく,引用刊行物1に,各構成要件において,使用し得る可能性があるとして記載されたものの中から,訂正発明に最も近いものを選択して,恣意的に組み合わせたものであり,このような認定方法は,選択をして組み合せる際に,既に訂正発明に依拠する後知恵的な行為であるから,許されるべきではないと主張する。 しかしながら,刊行物に記載された発明とは,刊行物に記載された個々の構成,及びそれら各構成自体の目的,効果の記載から,当業者が把握することが可能である発明をすべて含むものであり,審決の認定に係る発明が,直接的な表現として刊行物に記載されていないとしても,そのゆえに,それが刊行物に記載された発明でないとすることはできない。 , , , ,, しかるところ 引用刊行物1の審決の摘記事項a b d fに係る記載により当業者であれば 「多孔質シートに不織布をラミネートして形成された2層以上の ,多孔質体(表シート 」を把握することが可能であり,また,引用刊行物1に,多 ),() 孔質シートに係る技術事項として記載された摘記事項e 及び多孔質体 表シートに係る技術事項として記載された摘記事項j(第6,第7表)からは 「多孔質シ,ートが,無機質充填剤を含有する多孔質シートであり,上記多孔質シートが400〜4600g/u・24hrの透湿度を有すること」を把握することができ,ヒー, 。, トシールにより表裏シートを接合することは 摘記事項hから把握される そしてヒートシールを行う以上,ヒートシール可能な層があり,シートがヒートシール可能な材質であれば,その材質の層から成る1層構造として,そうでない場合には,シートの接合面側にヒートシールが可能な層を有する多層構造のシートとして構成されることは,当業者にとって自明であるから,当業者は 「ヒートシール層を有 ,する1層以上の裏シート」を把握することができ,さらに,摘記事項a〜dの記載及び図面を総合すると,引用刊行物1から「多孔質シート及びヒートシール層が接するように重ね合わせ,その周縁部を上記ヒートシール層でヒートシールして成る多孔質の袋体」が把握可能である。 ,,, , また 以上のとおり 引用刊行物1には ヒートシールが記載されているところ当業者であれば,ヒートシール層を把握するに当たり,その機能のみならず,当該機能を奏する周知の材質を具体的に想起して発明を把握することが通常である。そして,多孔質袋体における裏シートのヒートシール層の材質として,重合又は共重合されたポリエチレンを用いることは周知であり,引用刊行物1に接した当業者であれば,ヒートシール層に使用する材質として重合又は共重合されたポリエチレンを想起するから 「上記ヒートシール層として,重合又は共重合されたポリエチレ ,ンで形成されているシート」が把握される。さらに,多孔質袋体において,多孔質シートに不織布をラミネートした場合,不織布側を外面とすることは周知技術であり,ヒートシールする面にあえて不織布を用いることは,特段の事情がない限り,考え難いから,多孔質体(表シート)は,不織布側を外側にすることを想起するのが通常であり,したがって,引用刊行物1から,多孔質シート及びヒートシール層が接するように重ね合わせることを把握可能である。 そうすると,審決が,引用刊行物1の記載から,引用発明を認定することができるとしたことに誤りはない。 ( )また,原告は,審決が,訂正発明と引用発明との相違点Bとして 「訂正発2 ,明のヒートシール層が 『活性点の性質が均一なシングルサイト触媒によって重合 ,又は共重合されたポリエチレンで形成されている』のに対し,引用発明のヒートシール層は,線状低密度ポリエチレン樹脂で形成されている点」と認定し,他方,相違点Aとして 「訂正発明のヒートシール層が,非通気性のフィルムないしシート ,であるのに対し,引用発明のヒートシール層が,非通気性のフィルムないしシートであるか否か明らかでない点」と認定したことが,いずれも引用発明に係る部分の認定において誤りであると主張する。 しかしながら,まず,引用刊行物1の審決の摘記事項dに係る記載から,引用発明の「ヒートシール層を有する1層以上の裏シート」全体としては,通気性のないシートで形成することを把握することが可能であるが,ヒートシール層自体は,通気性があるシートであるか否かが定まらないから,審決の相違点Aの認定に何ら誤りはない。 次に,審決がした引用発明の認定に誤りがないことは上記( )のとおりであり,1引用発明は 「ヒートシール層が,重合又は共重合されたポリエチレンで形成され ,ているシートである」から,相違点Bの認定においては 「引用発明のヒートシー ,ル層は,重合又は共重合されたポリエチレンである点」とすべきものであるが,引用刊行物1には,ヒートシール層の素材として「線状低密度ポリエチレン樹脂」を用いることが記載されている(審決の摘記事項i)ので,相違点Bについての判断をするに当たって 「線状低密度ポリエチレン樹脂」を用いるとの例示があること ,により,シングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンの採用が阻害されるか否かを検討していることを明らかにするため 「線状低密度ポリエチ ,レン樹脂の例示がなされている」との記載をすべきところ 「線状低密度ポリエチ ,レン樹脂で形成されている」と誤記したものである。 しかしながら,審決の相違点Bに係る判断は,線状低密度ポリエチレン樹脂が記載されていることをもって,相違点Bが容易と判断するものではなく,ヒートシールが,シングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンで形成されたフィルム同士により行われることが周知であることをもって,その採用が容易であることを判断しており,この場合に,線状低密度ポリエチレン樹脂がそれを阻害するものではないので,引用刊行物1に,線状低密度ポリエチレン樹脂を用いるとの例示があっても,審決の相違点Bについての判断には,何ら誤りはない。 2取消事由2(相違点Bについての判断の誤り)に対し( )原告は,訂正発明につき,多孔質膜はヒートシール時に最初に溶融するヒー1トシール層としては作用しないとか,ヒートシール部は,ヒートシール時に被覆材の「ヒートシール層」が溶融し,溶融樹脂が多孔質膜の孔を通して,補強用通気層(例えば不織布)側に浸透した後凝固してアンカーを形成するものである等と主張する。 しかしながら 「ヒートシール」は,通常の技術用語であり,その語義は,平成 ,「」() 6年10月20日株式会社工業調査会発行の プラスチック大辞典乙第1号証に 「」につき 「熱可塑性フィルムどうしを重ねて加熱し,軽い圧力を加 ,,heat sealえ接触部を溶融させて密封すること。内面にポリオレフィンをラミネートした包装用袋の密封やフィルム包装に多用されている 」と記載されているとおりである。 。 そして,このような通常の技術用語を,原告の主張に係るような,特別の意味で用いるのであれば,明細書中に,その定義を明らかにすべきであるが,訂正明細書には 「ヒートシール」につき,特別の意味に解すべき定義がされているわけでは ,ない。 また 「ヒートシール」につき,原告の主張に係るように,ヒートシール時に直 ,接接する面の一方である多孔質膜が,ヒートシール層としては作用しないとか,ヒートシール時に被覆材の「ヒートシール層」が溶融し,溶融樹脂が多孔質膜の孔を通して,補強用通気層(不織布)側に浸透した後凝固してアンカーを形成するなどの特別な技術的事項が存在するものとすれば,明細書中に,当該技術事項に係る構成,効果を記載することを要するものというべきである。すなわち,上記技術事項についていえば 「ヒートシール層」の溶融樹脂を,多孔質膜の孔を通すための技 ,(「」, , 術事項多孔質膜 の孔は 明細書に記載される程度の通気能力を得る孔であり必ずしも液体を通す孔として記載されてはいない )や 「ヒートシール層」を溶融 。,した時点で 「多孔質膜」が溶融していないことを担保するための技術的事項(例 ,えば 「ヒートシール層「多孔質膜」それぞれの溶融温度の関係)が開示されて ,」,いることを要するが,訂正明細書には,これらの記載は存在しない。 したがって,原告の上記主張は,明細書の記載に基づかないものとして失当であり,訂正明細書記載の「ヒートシール」は通常の意味におけるヒートシールであるというべきである。 ( )原告は,活性点の性質が均一なシングルサイト触媒によって重合又は共重合2されたポリエチレンを,多孔質膜とヒートシールする際のヒートシール層として使用することは,当業者が容易に想到し得たものではないと主張するところ,当該主張は,要するに,シングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンをヒートシールに用いることは,引用刊行物2〜5に記載されているが 「ヒート,シールきわのエッジ切れ」という課題自体や,その課題の解決の可能性を示唆する記載はなく,当業者といえども,この課題の解決のために,シングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンを 多孔質膜とヒートシールする際の ヒ , 「ートシール層」として使用することは容易に想到し得ないというものである。 しかしながら,シングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンを用いたヒートシール層は,低温ヒートシール性,ヒートシール強度,夾雑物ヒートシール性等の各種ヒートシール特性に優れているので,従来の重合又は共重合されたポリエチレンを用いたヒートシール層に代えて,これを用いることが,本件特許出願前に周知の事項であることは,本件審決が,引用刊行物を例示して認定したとおりである。 そして,このように周知のヒートシール素材を,ヒートシール層の具体的な素材, , についての選択に加えることは 通常行われる設計上の選択範囲というべきであり各種ヒートシール特性に優れた素材が周知であれば,その適用を試みることは,当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。 したがって,引用刊行物1及び引用刊行物2〜5に 「ヒートシールきわのエッ ,ジ切れ」について直接的に言及した文言がなくとも,より優れたヒートシールを得るという通常の設計課題に基いて,引用発明の重合又は共重合されたポリエチレンからなるヒートシール層に代えて,シングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンを,ヒートシール層として用いることは,当業者が容易に想到し得たものというべきである。 そして,引用刊行物1は,引用発明の実施態様の一つとして,線状低密度ポリエチレン樹脂を例示しているが,線状低密度ポリエチレン樹脂は,ポリエチレン系樹脂に属するものであり,フィルム強度,ホットタック性,夾雑物シール性等のヒートシール特性に優れるものの一つであることから,引用刊行物1において,線状低, , 密度ポリエチレン樹脂を例示していることが 袋体のヒートシール層の材質としてポリエチレン系樹脂を用いる場合においても,よりヒートシール性に優れたものを用いることを示唆しているということがいえても,ポリエチレン系樹脂におけるヒートシール性の向上に係る周知技術を,引用発明のポリエチレン樹脂層に適用することを妨げる特段の事情とはなり得ない。 したがって,審決の相違点Bについての判断は,線状低密度ポリエチレン樹脂の例示をふまえても何らの誤りはない。 なお,原告は,引用刊行物2〜5に記載された袋体は,シングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンの層を含む層構成が全く同一であるフィルムをヒートシールしたもので,ヒートシール部は,両側が同様に溶融し,アンカー形成を伴わないものであるのに対し,引用発明は,シングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンから成るヒートシールが最初に溶融するものであって,アンカーが形成されるものであるから,両者は,ヒートシール部の構成,シ,「」 ール機構が明らかに異なるものであるとも主張するが このような アンカー形成に関する主張が,明細書の記載に基づかないものであることは,上記( )のとおり1である。 ( )原告は,引用刊行物1には,多孔質体として,@不織布と多孔質シートをエ3チレン-酢酸共重合樹脂等のエチレン系ホットメルト多孔質シートにより接着させた3層構造 例えば 第2図A不織布とホットメルト樹脂からなる2層構造 第 (,), (4図)及びB多孔質シート単体そのもの(第5図)が開示されているとして,引用発明の実施態様を,この3通りに限定した上,これらの実施態様では,アンカー形成ができないから,引用刊行物1に引用刊行物2〜5を組み合わせても,訂正発明を得ることはできないと主張する。 しかしながら,このような「アンカー形成」に関する主張が,明細書の記載に基づかないものであることは,上記( )のとおりである。のみならず,審決が認定し1た引用発明は上記のとおりであって,原告が主張するような特定実施例に関するものを引用発明と認定したものではなく,原告の主張は,その前提において失当である。 3取消事由3(効果の顕著性の看過)に対し原告は,引用刊行物1に記載された発明につき,@訂正明細書において従来技術として記載された袋体,Aヒートシール層が同材質のもの同士である袋体のいずれかとなるとした上,訂正発明は,@の従来技術で問題となるヒートシールきわのエッジ切れの問題を解決したものであり,また,Aは,訂正発明のようなアンカー効果が得られないから,訂正発明に特有の効果は,引用刊行物1にも,引用刊行物2〜5にも記載又は示唆されているものではないと主張する。 しかしながら 「アンカー効果」に関する主張が,明細書の記載に基づかないも ,のであることは,上記( )のとおりである 「エッジ切れ」に関して,訂正発明が,1 。 引用発明に,ヒートシール性を向上させる周知の技術を採用することにより予測される以上の,格別優れた効果を奏するとする論拠は何ら認められない。 したがって,原告の上記主張は失当である。 第5当裁判所の判断1取消事由1(一致点及び相違点A,Bの認定の誤り)について( )原告は,審決が認定した引用発明につき,それ自体が具体的に引用刊行物11に記載されているものではなく,引用刊行物1に,各構成要件において,使用し得る可能性があるとして記載されたものの中から,訂正発明に最も近いものを選択して,恣意的に組み合わせたものであり,このような引用発明の認定方法は,選択をして組み合せる際に,既に訂正発明に依拠した後知恵的な行為であるから,許されないと主張する。 そこで検討するに,特許法29条2項で引用する同条1項3号所定の「刊行物に記載された発明」とは,例えば,特許公報における実施例のように,当該刊行物に具体的なものとして記載された発明のみならず,当業者が,当該刊行物の記載,更には当該記載と特許出願当時の技術常識ないし周知慣用技術とによって,容易に把握することができる発明を含むものと解するのが相当である。なぜなら,同法29条2項で引用する同条1項3号所定の「刊行物に記載された発明」に基づいて,当業者が容易に発明をすることができた発明は,進歩性がないものとして,特許を受けることができないとされているところ,この観点からは,刊行物に具体的なものとして記載された発明と,当該刊行物の記載及び技術常識等によって当業者が容易に把握し得る発明とで,扱いを異にする理由はないからである。 また,本件における引用発明は,訂正発明(進歩性判断の対象となる発明)と対, , 比して一致点及び相違点を抽出するための いわゆる主引例に係る発明であるから上記のような意味で「刊行物に記載された発明」のうち,その構成が訂正発明の構成に最も近い発明を選択することは当然である。すなわち,そのようにして選択された発明であっても,それが上述した意味での「刊行物に記載された発明」に含ま,, , れる以上 それに基づいて 当業者が容易に発明をすることができるような発明は進歩性がないとせざるを得ないことは明らかである。 したがって,原告の上記主張は失当である。 ( )審決は,訂正発明と引用発明との相違点Aとして 「訂正発明のヒートシー2 ,ル層が,非通気性のフィルムないしシートであるのに対し,引用発明のヒートシール層が,非通気性のフィルムないしシートであるか否か明らかでない点」を,同相違点Bとして 「訂正発明のヒートシール層が 『活性点の性質が均一なシングルサ , ,』, イト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンで形成されている のに対し引用発明のヒートシール層は,線状低密度ポリエチレン樹脂で形成されている点」を認定したところ,原告は,相違点Bに係る認定のように,引用発明のヒートシール層が「線状低密度ポリエチレン樹脂」製であるとすれば,相違点Aにおいて「引用発明のヒートシール層が,非通気性のフィルムないしシートであるか否か明らかでない」と認定するのは誤りであり,逆に,相違点Aに係る認定のように 「引用,発明のヒートシール層が,非通気性のフィルムないしシートであるか否か明らかでない のであれば 相違点Bにおいて 引用発明のヒートシール層については材 」,, ,「質不明である」としか認定することができないから,相違点Aにおける引用発明の認定と,相違点Bにおける引用発明の認定は両立せず,審決は,引用刊行物1に記載されていないものを引用発明として認定した誤りがあると主張する。 しかるところ,審決は,引用発明を「多孔質シートに不織布をラミネートして形成された2層以上の多孔質体(表シート)とヒートシール層を有する1層以上の裏シートとを,前記多孔質シート及びヒートシール層が接するように重ね合わせ,その周縁部を前記ヒートシール層でヒートシールしてなる多孔質の袋体において,前記多孔質シートが,無機質充填剤を含有する多孔質シートであり,前記多孔質シー, ,, トが 400〜4600g/u・24hrの透湿度を有し 前記ヒートシール層が重合又は共重合されたポリエチレンで形成されているシートである多孔質袋体 」。 と認定するものであり,この認定に原告主張の誤りがないことは,上記( )のとお1りである。そうすると,審決が認定した引用発明に係る裏シートのヒートシール層は 「重合又は共重合されたポリエチレンで形成されているシート」であるから, ,ヒートシール層の材質に係る相違点Bにおいて 引用発明のヒートシール層は重 , ,「合又は共重合されたポリエチレンで形成されている」旨認定されるべきであり,これを 「線状低密度ポリエチレン樹脂で形成されている」と認定した審決は,たと ,え,引用刊行物1に,裏シートに線状低密度ポリエチレン樹脂製多孔質シートを用いることが記載されていたとしても,自ら認定した引用発明の「重合又は共重合さ」 , れたポリエチレンで形成されているヒートシール層 の構成と整合していない以上誤りといわざるを得ない。 他方,ヒートシール層が,非通気性のフィルム又はシートであるか否かに係る相違点Aに関しては,引用刊行物1に,審決が認定した引用発明のヒートシール層である「重合又は共重合されたポリエチレンで形成されているシート」が,非通気性であるか否かについての記載はなく,また,引用刊行物1に,裏シートを通気性のないシートで形成することが記載されている(審決の摘記事項d)としても,上記「重合又は共重合されたポリエチレンで形成されているシート」が通気性を有さないことを示すものではない。 したがって,審決が,相違点Aにつき,引用発明のヒートシール層が 「非通気,性のフィルムないしシートであるか否か明らかでない」ことを認定したことに誤りはない。 ( )上記のとおり,審決の相違点Bの認定は 「引用発明のヒートシール層が,3 ,線状低密度ポリエチレン樹脂で形成されている」と認定した点において誤りであるが,この誤りが,審決の結論に影響を及ぼすものであるか否かは,後に,取消事由2(相違点Bについての判断の誤り)に関連して判断する。 2取消事由2(相違点Bについての判断の誤り)について( )原告は,訂正発明につき,多孔質膜はヒートシール時に最初に溶融するヒー1トシール層としては作用しないとか,ヒートシール部は,ヒートシール時に被覆材の「ヒートシール層」が溶融し,溶融樹脂が多孔質膜の孔を通して,補強用通気層(不織布)側に浸透した後凝固してアンカーを形成するものである等と主張し,これに対し,被告は,原告の主張は 「ヒートシール」との用語の通常の意味に基づ ,かないものであり,訂正明細書に,その定義に係る記載や,当該技術事項に係る構成,効果の記載がないから,原告の主張は訂正明細書に基づかないものであると主張する。 そこで,まず 「ヒートシール」との用語の意義について検討する。 ,昭和54年6月20日株式会社プラスチックス・エージ発行の「実用プラスチック用語辞典(第2版第6刷 」には 「ヒートシール」の語義として 「ガスまたは ), ,電熱により外部から加熱して行う熱可塑性樹脂フィルムの溶封.これに用いる機械をヒートシーラー()という.フィルム包装に広く用いられている 」とheat sealer .の記載が,また,平成6年10月20日株式会社工業調査会発行の「プラスチック大辞典(初版第1刷(乙第1号証)には 「」の語義として 「ヒートシ )」, ,heat sealール,溶封,熱可塑性フィルムどうしを重ねて加熱し,軽い圧力を加え接触部を溶融させて密封すること。内面にポリオレフィンをラミネートした包装用袋の密封やheat フィルム包装に多用されている。ヒートシール用の機械をヒートシーラー()とよび,多数の機種がある 」との記載があり,さらに,平成10年6月1sealer 。 5日日刊工業新聞社発行の「図解プラスチック用語辞典第2版」には 「ヒート,シール」の語義につき 「熱可塑性プラスチックフィルムの接合によく用いられる ,方法で,主として電解式熱板,こて,ローラなどを,重ね合わせたフィルムの外側にあててフィルムを溶着する.包装用のポリエチレンフィルムの接合に広く用いられている.ヒートシールに用いられる装置をヒートシーラという 」との記載があ.る(なお,上記「図解プラスチック用語辞典第2版」は,本件特許出願のおおむね1年6月後に刊行されたものであるが,一般的な用語辞典という性格に照らし,また 掲載された ヒートシール の語義が 上記 実用プラスチック用語辞典 第 ,「」,「 (2版第6刷「プラスチック大辞典(初版第1刷 」のものとおおむね合致する )」, )ことに照らして,本件特許出願当時における「ヒートシール」の語義を認定する資料となり得るものであると解される。。)これらの記載に照らすと 「ヒートシール」は,通常 「溶着しようとするフィル , ,ムを重ね合わせ,その外側から熱と圧力を加えることにより,重ね合わせたフィルム同士を溶着する,熱可塑性樹脂フィルムの溶着法」を意味する一般的な技術用語であることが認められる。 ところで,特許出願において,一般的な技術用語を,その通常の意味と異なる意味合いで用いる場合には,明細書において,当該用語の定義を行い,その意義を明らかにすることが必要であり,逆に,そのような定義付けに係る記載がない場合に,, 。 は 当該用語は 通常の意味を有するものとして使用されているものと理解されるしかるところ,原告は 「訂正発明において,ヒートシール時に直接接する面は ,多孔質基材の多孔質膜と被覆材の『ヒートシール層』であるが,被覆材の『ヒートシール層』がヒートシール層として作用することにより,アンカーが形成されるのであり,多孔質膜はヒートシール時に最初に溶融するヒートシール層としては作用しない「訂正発明の袋体のヒートシール部は,ヒートシール時に被覆材の『ヒ 。」,ートシール層』が溶融し,溶融樹脂が多孔質膜の孔を通して,補強用通気層(例えば不織布)側に浸透した後凝固してアンカーを形成するものであって,このようにして,訂正発明の袋体のヒートシール部においては,ヒートシール層と多孔質膜との樹脂間及び多孔質膜と不織布との樹脂間に結合が生じ,ヒートシール層,多孔質膜,不織布の三層が一体となって,きわめて大きなシール強度を実現することが可能となる」と主張するものであるが,少なくとも,当該主張における,上記重ね合わせたフィルム同士が融着するだけではなく,その一方(被覆材の「ヒートシール層 )の溶融樹脂が,他方(多孔質基材の多孔質膜)の孔を通り,背後の層をなす 」不織布に浸透,凝固してアンカーを形成するとする点は,上記一般の技術用語である「ヒートシール」の通常の意味には含まれないものであるから,原告の上記主張は 「ヒートシール」との用語を,技術用語としての通常の意味とは異なる意味合 ,いのものとして使用するものというべきである。しかしながら,訂正明細書には,「ヒートシール」との用語がそのような意味合いを有するものと定義付けるような記載は見当たらないから,訂正明細書においては 「ヒートシール」との用語は, ,上記通常の意味を有するものとして使用されているものといわざるを得ず,したが,, ,。 って 原告の上記主張は 訂正明細書の記載に基づかないものとして 失当である原告は,訂正発明の特許請求の範囲が,被覆材の側にのみ「ヒートシール層」の語を用い 「ヒートシール層でヒートシールしてなる・・・袋体」と規定すること ,をもって,原告の上記主張に係る事項を意味するものと主張するが,訂正発明の特許請求の範囲の上記規定が,そのような意味を一義的に示すものとは,到底解することができない。 また,原告は,訂正発明において,ヒートシール層でヒートシールすることにより,アンカーが形成されることは,訂正明細書に記載されている旨主張する。しか, , , しながら 原告が挙示する訂正明細書の記載は 同一段落の前後の記載を含めると「そこで,本発明者らは,前述のように,種々のヒートシール層を介して垂直側のヒートシール実験を鋭意検討したところ,最近発表された活性点の性質が均一なシングルサイト触媒によって重合或いは共重合されたポリエチレンからなる層を用いると,ヒートシールの際,シューターが下に降りて,A面に矢印a方向の力が加わり,多孔質膜と不織布等の布との剥離が発生する前に,前記ヒートシール層が速やかに溶融し,しかもこの溶融樹脂は熱伝導性や流れ性更に不織布等の布との濡れ性が良好であるので,当該溶融樹脂(ヒートシール層の溶融樹脂)が多孔質膜の溶融箇所から不織布等の布中に滲透して広義のアンカー効果を発現し,即ち,不織布等の布に溶融樹脂が良くなじんで不織布等の布との結合が強固になる結果 『ヒートシ,』 。」(【】),「, ールきわのエッジ切れ が防止されるとの知見を得た段落つまり0039ヒートシールきわでエッジ切れが起こらないようにするには,ヒートシールきわで不織布等の布と多孔質膜の剥離が起こらず,多孔質膜が伸びず,部分的にタテ方向。, , の亀裂が小孔に成長しないことである この場合には ヒートシール部を切断して内部を観察すると,ヒートシールきわで溶融樹脂が不織布等の布によく滲透して硬化し一体化していることが容易に認められる。そしてヒートシール部をそれぞれ矢印a・b方向に無理矢理に引張ると,不織布等の布の中で凝集破壊が発生して,不織布等の布と多孔質膜の層間剥離は発生しないとの知見も得た(段落【)。」】0042というものであり ヒートシール層の溶融樹脂は 多孔質膜の 孔 ではなく溶 , ,「」,「融箇所」から不織布等の布中に浸透するとされているのであって,ヒートシール層の溶融樹脂が多孔質膜の孔を通して,不織布側に浸透するとの記載は,訂正明細書中に見当たらない。 したがって,原告の上記主張はいずれも採用することができない。 ( )原告は,審決の「引用発明の多孔質袋体の線状低密度ポリエチレン樹脂の代2わりに,シングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンを用いることは,当業者が容易になし得た程度であるもの」との判断が誤りであるとするところ,その根拠として,まず,引用刊行物2〜5に記載された袋体は,シングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンの層を含む層構成が全く同一であるフィルムをヒートシールしたものであり,そのヒートシール部は,両側が同様に溶融し,アンカー形成を伴わないものであるのに対し,訂正発明は,シングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンから成るヒートシールが最初に溶融し,アンカーが形成されるものであるから,両者は,ヒートシール部の構成,シール機構が異なるものであると主張する。 しかしながら,審決は,訂正発明と引用発明との相違点Bに,引用刊行物2〜5を直接適用して,訂正発明の当該相違点に係る構成が容易想到であると判断したものではなく,引用刊行物2〜5の記載に基づいて,袋体のヒートシール層として,シングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンを用いることが周知の事項であると認定した上,当該周知事実に基づき,引用発明の多孔質袋体にシングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンを用いることが容易であると判断したものであるから,原告の上記主張は審決を正解してされたものということはできない。 のみならず,訂正発明について,ヒートシールによりアンカーを形成するとの主張が,訂正明細書の記載に基づかないものであって,失当であることは,上記( )1のとおりである。 したがって,原告の上記主張を採用することはできない。 また,原告は,本件特許出願前に公知であった,シングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンの「優れた物性」は,ヒートシールについての物性,又はシングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンからなるフィルム自体についての物性であって,これをヒートシール層として用いれば,ヒートシールする相手側(多孔質膜)に生ずる「ヒートシールきわのエッジ切れ」の問題が低減されることは,当業者といえども,容易には予測し得なかった旨主張する。 3しかしながら,引用刊行物2には 「密度が0.860〜0.920g/cm ,であり,重量平均分子量/数平均分子量の値が1.5〜3.5であり,かつ,活性点が単一となるような化学構造の重合触媒を用いて得られたポリエチレン系樹脂からなるヒートシール用フィルム(特許請求の範囲の請求項3「ポリエチレン 。」 ),系樹脂は,エチレンの単独重合物のほか,エチレンおよびこれと共重合可能なコモノマーの共重合体を含む。エチレンと共重合可能なコモノマーはプロピレン,1-ブテン,1-ヘキセン,1-オクテン,4-メチルペンテン-1など,LLDPEを製造するのに汎用されるものでよく,特に限定されない(段落【「 発 。」】),【0025明の効果】本発明によれば,LLDPEのもつ長所(フィルム強度,ホットタック性,夾雑物シール性など)をそのまま生かし,良好な低温シール性,アンチブロッ, , キング性などを有しかつフィッシュアイ発生率が低く その上外観品質を兼ね備えまた機械適性がよく,包装物の形状保持性のすぐれたヒートシール用フィルムを提, , 。」 供することができ それを用いた複合包装材料 複合包装容器を得ることができる(段落【)との記載が,引用刊行物3には 「少なくとも基材フィルム層及び0075 】 ,熱封緘性樹脂層からなる包装材料であって,熱封緘性樹脂層の最内層がシングルサイト触媒を用いて重合したエチレン-αオレフィン共重合体フィルムであることを特徴とする包装材料(特許請求の範囲の請求項1「 発明の効果】上記の結果 。」 ),【より,本発明の効果は明らかである。すなわち,最内層として,シングルサイト触媒を用いて重合したエチレン-αオレフィン共重合体フィルムを使用すると,シール強度は高いため,特に内容物として液体を使用した場合には液漏れが確実に防止できる。また,低温シール性に優れるため,内容物の高速充填が可能であり,生産性が向上する。更に,夾雑物シール性に優れているため,内容物がシール面に付着しても十分なシール強度が得られる(段落【)との記載が,引用刊行物4 。」】0055には 「A層: 熱可塑性樹脂からなる層と,B層: メタロセン系触媒を用いて製 ,造された,下記に示す@〜Bの性状を有するエチレン・α-オレフィン共重合体樹脂からなる層とが積層されてなることを特徴とする共押出フィルム。@ MFRが0.1〜50g/10分A 密度が0.880〜0.935g/cmB 温3度上昇溶離分別によって得られる微分溶出曲線のピークが1つであり,該ピーク温度が20〜85℃であり,該ピーク高さをHとし,該ピークの高さの1/2における幅をWとしたときのH/Wが1以上であり,該ピークの溶出温度以外の温度において溶出するものが実質的に該溶出曲線に存在することがある(特許請求の範囲。」の請求項1「 産業上の利用分野】本発明は,基材との接着性に優れ,ヒートシ ),【ール性,耐引裂性,透明性,フィルムの作業性等の性能が良好な共押出フィルムに関するものである(段落【「 発明の効果】このような本発明の共押出フ 。」】),【0001ィルムとすることにより,基材との接着性に優れ,ヒートシール性,耐引裂性,透, 。」(【】) 明性 フィルムの作業性等の性能が良好なものとすることができる段落0078との記載が,引用刊行物5には 「2メタロセンPEの特徴・・・メタロセン ,触媒は活性点が均一であるため,均一なポリエチレン分子が製造可能である。メタロセン触媒によるPEは ・・・従来のPEと比較して以下のような優れた物性を ,有する。・均一なコモノマー組成は固体状態でのタイ分子の生成を促進すると考えられ,高い引張強度,引裂強度および衝撃強度を示す。・ベタツキ成分の少ない低融点材料が得られ,卓越した低温ヒートシール性を示す。また,ベタツキの少ない軟質材料が得られる。・透明性阻害成分を含まないため高い透明性が得られる。・低分子量/低結晶成分を含まないため溶剤抽出成分が少なく,衛生性に優れる。・耐ストレスクラッキング性に優れる (15頁左欄33行〜16頁左欄 」2行)との記載が,それぞれあり,これらの記載によれば,本件特許出願当時,袋体のヒートシール層として,シングルサイト触媒(メタロセン触媒)によって重合又は共重合されたポリエチレンを用いることが周知の事項であるとともに,かかるヒートシール層が,低温ヒートシール性,ヒートシール強度,夾雑物ヒートシール性等の各種物性(ヒートシール特性)において優れていることも,周知の事項であったものと認めることができる。 そして,このように,袋体のヒートシール層の素材であって,各種ヒートシール特性において優れたものが周知であるとすれば,当業者が,引用発明のヒートシール層にこれを適用することは,通常試みる程度のことであって,容易に想到し得たものというべきである。 もっとも,引用刊行物2〜5には,シングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンをヒートシール層として用いた場合に 「ヒートシールきわの ,エッジ切れ」の課題が解決される旨の記載は見当たらず 「ヒートシールきわのエ ,ッジ切れ」の問題が低減されることは,当業者といえども,容易には予測し得なかった旨の原告の主張は,かかる点に基づいてされているものである。 しかしながら,引用発明のヒートシール層として,シングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンを適用すれば,相違点Bに係る訂正発明の構成に到達するのであり,上記のとおり,引用発明のヒートシール層として,シングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンを適用することは,当業者であれば,容易に想到し得るものである。たとえ,これを適用する目的が 「ヒー,トシールきわのエッジ切れ」の課題を解決するためではなく,優れたヒートシール特性を有するヒートシール層を得るとの,通常の設計課題に基づくものであるとしても,原告主張のように,シングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリ,「 」 エチレンをヒートシール層として用いた場合にヒートシールきわのエッジ切れの課題が解決されるのであれば,上記通常の設計課題の解決のため,引用発明のヒートシール層として,シングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチ, 。 レンを適用することにより この課題解決も併せて実現されることは明らかであるしたがって,原告の上記主張を採用することはできない。 ( )原告は,引用刊行物1に記載された発明につき,@訂正明細書において従来3技術として記載された袋体,Aヒートシール層が同材質のもの同士である袋体のいずれかとなるとした上,訂正発明は,@の従来技術で問題となるヒートシールきわのエッジ切れの問題を解決したものであり,また,Aは,訂正発明のようなアンカー効果が得られないから,訂正発明に特有の効果は,引用刊行物1にも,引用刊行物2〜5にも記載又は示唆されているものではないと主張する。 しかしながら,原告が挙示する「引用刊行物1に記載された発明」は,引用刊行物1の第2,第4,第5図等に図示された特定の実施例を指すものであるところ,審決が認定した引用発明はこれと異なるものであり,この引用発明の認定に原告主張の誤りがないことは,上記1の( )のとおりであるから,原告の上記主張は,前1提において誤ったものである。それのみならず,訂正発明について,ヒートシールによりアンカーを形成するとの,アンカー効果を主張することが,訂正明細書の記載に基づかないものであって,失当であることも,上記( )のとおりである。 1また,原告は,引用刊行物2〜5に記載された袋体及び引用刊行物1記載の袋体は,層構成が全く同一であるフィルムをヒートシールするものであるから,引用刊行物1に引用刊行物2〜5を組み合わせても 「同一層構成のもの同士をヒートシ ,ールすること」以外を想到することはできないと主張する。 しかしながら,審決が認定した引用発明は,原告主張の「引用刊行物1記載の袋体」とは異なるものであって,層構成が全く同一であるフィルムをヒートシールするものとはいえず,また,上記のとおり,審決は,訂正発明と引用発明との相違点Bに引用刊行物2〜5を直接適用して,訂正発明の当該相違点に係る構成が容易想到であるとするものではなく,引用刊行物2〜5の記載に基づいて,袋体のヒートシール層としてシングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンを用いることが周知の事項であると認定した上,当該周知事実に基づき,引用発明の多孔質袋体にシングルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンを用いることが容易であるとしたものであるから,引用刊行物2〜5に係る原告の上記主張は審決を正解してされたものということはできない。 したがって,原告の上記主張は,いずれも採用することができない。 ( )審決がした「訂正発明のヒートシール層が 『活性点の性質が均一なシング4 ,ルサイト触媒によって重合又は共重合されたポリエチレンで形成されている』のに対し,引用発明のヒートシール層は,線状低密度ポリエチレン樹脂で形成されている点」との相違点Bの認定のうち 「引用発明のヒートシール層は,線状低密度ポ ,リエチレン樹脂で形成されている」の部分が,正しくは 「引用発明のヒートシー ,ル層は,重合又は共重合されたポリエチレンで形成されている」と認定されるべきであったことは,上記1の( )のとおりである。 2しかしながら,この認定誤りは,要するに,審決が認定した引用発明の構成との整合性を欠くという点にあり,引用刊行物1に 「線状低密度ポリエチレン樹脂で ,形成されたヒートシール層」の記載(審決の摘記事項i)があることも,上記1の( )のとおりである上,相違点Bについての判断において,引用発明のヒートシー2ル層の素材は,周知技術の適用によって 「シングルサイト触媒によって重合又は ,共重合されたポリエチレン に置換される対象となるものであるところ それが 重 」 ,「」,「 」 合又は共重合されたポリエチレン である場合と線状低密度ポリエチレン樹脂である場合とで,上記周知技術の適用に係る容易想到性に相違が生ずると解する根拠も見当たらない。 そうであれば,相違点Bの上記認定誤りは,結局,審決の結論に影響を及ぼさないものというべきである。 3取消事由3(効果の顕著性の看過)について原告は,引用刊行物1に記載された発明につき,@訂正明細書において従来技術として記載された袋体,Aヒートシール層が同材質のもの同士である袋体のいずれかとなるとした上,訂正発明は,@の従来技術で問題となるヒートシールきわのエッジ切れの問題を解決したものであり,また,Aは,訂正発明のようなアンカー効果が得られないから,訂正発明に特有の効果は,引用刊行物1にも,引用刊行物2〜5にも記載又は示唆されているものではないと主張する。 しかしながら,審決が認定した引用発明は,原告主張の「引用刊行物1に記載された発明」とは異なり,層構成が全く同一であるフィルムをヒートシールするものとはいえないから,上記Aであるとすることは,それ自体誤りである。また,原告の主張する「訂正発明に特有の効果」は,ヒートシールによりアンカーを形成するとの 「アンカー効果」に係るものであるところ,その主張が訂正明細書の記載に ,基づかない失当なものであることは,上記2の( )のとおりであるから,原告の上1記主張を採用することはできない。 4結論以上によれば,原告の主張はすべて理由がなく,原告の請求は棄却されるべきである。 |
裁判長裁判官 | 田中信義 |
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裁判官 | 石原直樹 |
裁判官 | 杜下弘記 |