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関連審決 不服2004-3963
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17行ケ10661特許取消決定取消請求事件 判例 特許
関連ワード 製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  補正要件 /  クレーム /  実施 /  加工 /  構成要件 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  独立特許要件 / 
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事件 平成 19年 (行ケ) 10019号 審決取消請求事件
原告大 岡技研株式会社
訴訟代理人弁理 士高橋克彦
被告特許庁長官 中嶋誠
指定代理人千葉成就
同 菅澤洋二
同 高木彰
同 内山進
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/06/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1特許庁が不服2004−3963号事件について平成18年12月5日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求主文同旨。
第2事案の概要本件は,原告が後記特許出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,特許庁から請求不成立の審決を受けたので,その取消しを求めた事案である。
第3当事者の主張1 請求の原因(1) 特許庁における手続の経緯原告は,平成12年11月10日,名称を「歯車及びその歯車の製造方法」とする発明について特許出願をし(以下「本願」という。特願2000-344183号。請求項の数3。公開特許公報は特開2002-144159号[甲5]),平成15年12月26日付けで明細書の記載を補正した(第1次補正。補正後の発明の名称は「歯車の製造方法」,同じく請求項の数2[甲6])が,平成16年1月22日拒絶査定(甲14)を受けた。
そこで原告は,平成16年2月26日付けで不服の審判請求を行うと共に,平成16年3月22日付けで明細書の記載を補正した(第2次補正。以下「本件補正」という。甲7)が,特許庁は,上記審判請求を不服2004-3963号事件として審理した上,平成18年12月5日,本件補正を却下した上,「本件審判の請求は,成り立たない」との審決(以下「本件審決」ということがある。)を行い,その謄本は平成18年12月19日原告に送達された。
(2) 発明の内容ア第1次補正時(平成15年12月26日)のもの本件補正前で第1次補正時の特許請求の範囲は,請求項1,2から成り,そのうち請求項1の内容は次のとおりである(以下,この発明を「本願発明」という。)。
「【請求項1】側面を切削加工する歯車にあって,歯形における歯筋方向の端縁角部に面取り部を鍛造手段にて形成しておき,歯部全周と切削面との間に前記面取り部が少なくとも一部残されるように切削加工することを特徴とする歯車の製造方法。」イ本件補正時(第2次補正。平成16年3月22日)のもの本件補正後の特許請求の範囲も,請求項1,2から成り,そのうち請求項1の内容は次のとおりである(以下,この発明を「補正発明」という。
下線部が補正により加えた部分)。
「【請求項1】側面の端部を切削加工する歯車にあって,鍛造成形された歯形における歯筋方向の端縁角部に面取り部を鍛造手段にて形成しておき,歯部全周と切削面との間に前記面取り部が少なくとも一部残されるように切削加工することを特徴とする歯車の製造方法。」(3) 審決の内容ア審決の内容は,別紙審決写しのとおりである。その理由の要点は,補正発明及び本願発明は,特開昭62-207527号公報(以下,「刊行物」といい,そこに記載された発明を「刊行物発明」という。甲4)に基づいて容易に発明をすることができたから,特許法29条2項により特許出願の際独立して特許を受けることができない(したがって,本件補正は補正要件を欠く。),というものである。
イなお,審決は,補正発明と刊行物発明の一致点及び相違点を次のとおり認定している。
〈刊行物発明の内容〉「歯車の内外端面を歯切り加工するかさ歯車にあって,鍛造成形された歯形における歯筋方向の端縁角部に面取り部を鍛造手段に形成しておき,前記面取り部が少なくとも一部残されるように切削加工する,かさ歯車の製造方法。」〈一致点〉「切削加工する歯車にあって,鍛造成形された歯形における歯筋方向の端縁角部に面取り部を鍛造手段にて形成しておき,前記面取り部が少なくとも一部残されるように切削加工する歯車の製造方法。」〈相違点〉補正発明は,歯部全周と切削面との間に面取り部が少なくとも一部残されるように,側面の端部を切削加工するものであるが,刊行物発明は,面取り部が少なくとも一部残されるように,かさ歯車の歯部の内外端面を切削加工するものである点。
(4) 審決の取消事由しかしながら,本件補正を不適法として却下し本願発明に進歩性なしとした審決の認定判断には,次のとおり誤りがあるから,違法として取り消されるべきである。
ア 取消事由1(本件補正却下における刊行物発明認定の誤り)(ア)審決は,刊行物発明において「『面取り』は,『歯形の内・外端面部』に形成されるが,第1図をも参照すると,『歯筋方向の端縁角部』に形成されることと同義である。」と認定している(3頁下15行〜14行)。
しかし,刊行物発明の「面取り」は補正発明の「面取り部」とは,次のとおり全く異なるものであるから,審決の上記認定は刊行物発明の認定を誤ったものである。
a刊行物(甲4)の「発明の詳細な説明」の[問題点を解決するための手段]の欄(1頁(2)欄)には,次の記載がある。
「…本発明ではまず型鍛造によりブランクに歯形を形成するが,その歯形は最終歯形寸法に対して片側0.1〜0.5mmの間で均一的なとり代を付加した寸法とし(すなわち歯厚を0.2〜1mmだけ大きくする。),さらに歯形の内・外端面部に0.5〜2mmの面取り(角形面取りでも丸形面取りでもよい)を付与した歯形を有する中間製品とし,次にその中間製品を各種歯切盤により,歯切り加工することにより0.1〜0.5mmのとり代を削り落とし,歯形精度を向上せしめるものである。以下さらに本発明を説明すると,ビレットを鍛造することにより,材料を塑性変形させ,実質的に歯形を形成させることにより材料歩留りを向上させることが可能である。鍛造は熱間でも冷間でもよくまた両者の組合せでもよい。…また歯部の内・外端面部に0.5〜2mmの面取りを施す理由は,歯切り加工後有害なバリを発生させないためであり,とり代歯厚等に応じてとり代より大きい面取りとすべきで,面取りが0.5mm以下ではバリが内・外端側に突出する危険性があり,2mm以上では歯厚との関係で大き過ぎる。」b刊行物発明は,上記aの記載及び刊行物の第1図及び第2図から明らかなように,鍛造により厚肉の大きめの歯部の中間製品を作成し,中間製品の歯面を各種歯切盤により,歯切り加工することによって,該歯面の0.1〜0.5mmのとり代を削り落として歯面が切削面の薄肉の歯部の最終製品とするものである。面取りが無いと中間製品の歯面の歯切り加工により,バリが内・外端側に突出する危険性があるので,歯切り加工を行う歯面の内・外端部のみに0.5〜2mmの面取りが鍛造により予め形成されるものであり,歯切り加工が行われない歯部の頂部および底部には,面取りが形成されていない(甲8の1〜3参照)。刊行物発明は,バリが歯車の内外周部より突出していると,歯車同士当たったときに,打痕がついたり,バリが落ちて歯車に付着するとともに,歯車製造及び変速機の組み付けの作業を行う作業者がバリにより怪我をする恐れがあるので,このような問題を解消する観点から,歯車の内外周部からバリが突出しないようにしたものと推測される。
cこれに対して,補正発明は,歯部と切削面である側面とは異なった部位である,鍛造成形された歯形における歯筋方向の端縁角部に面取り部を鍛造手段にて形成するもので,歯部全周と切削面との間に介在形成されているものである(甲9の2〜5参照)。
dしたがって,歯部のうち頂部及び底部を除く歯切り加工を行う歯面の内・外端部のみに形成される刊行物発明における「面取り」と,歯部全周と切削面との間に介在形成されている補正発明における「面取り部」とは,全く異なったものである。
(イ)審決は,前記(3)イのとおり,刊行物発明について,「歯部の内外端面を歯切り加工するかさ歯車にあって,」と認定している(3頁下8行)。
しかし,刊行物(甲4)には,上記(ア)aのとおり,「…本発明ではまず型鍛造によりブランクに歯形を形成するが,その歯形は最終歯形寸法に対して片側0.1〜0.5mmの間で均一的なとり代を付加した寸法とし(すなわち歯厚を0.2〜1mmだけ大きくする。),さらに歯形の内・外端面部に0.5〜2mmの面取り(角形面取りでも丸形面取りでもよい)を付与した歯形を有する中間製品とし,次にその中間製品を各種歯切盤により,歯切り加工することにより0.1〜0.5mmのとり代を削り落とし,歯形精度を向上せしめるものである。」との記載はあるが,「歯部の内外端面を歯切り加工する」との具体的な記載は見当たらない。したがって,刊行物発明においては,歯切り加工されるのは歯部の歯面であって,歯部の内外端面ではないから,審決の上記認定は,刊行物発明の認定を誤ったものである。
(ウ)なお,被告は,審決の「歯部の内外端面」は,原告がいう「歯車の歯面」と同じ面を意味すると主張するが,刊行物(甲4)においては,「特許請求の範囲」に「歯部の内・外径端面部に0.5〜2mmの面取りを付与した歯形」との記載があり,「発明の詳細な説明」の[従来の技術]に「歯部の内外端面に歯切りによるバリが発生し,バリ取り加工を要するという問題点があった。」(1頁(2)欄8行〜10行)との記載があり,[問題点を解決するための手段]に,「歯形の内・外端面部に0.5〜2mmの面取り…を付与した歯形を有する中間製品とし,」(1頁(2)欄20行〜2頁(3)欄2行),「歯部の内・外端面部に0.5〜2mmの面取りを施す理由は,歯切り加工後有害なバリを発生させないためであり,」(2頁(3)欄16行〜18行),「面取りが0.5mm以下ではバリが内・外端側に突出する危険性があり,」(2頁(3)欄20行〜2頁(4)欄1行)との記載があり,[実施例]に「(加工代は片側0.3mm)加工後の外観を観察すると,歯形の内外径端面に有害なバリはなく,」(2頁(4)欄13行〜14行)との記載があるから,「歯部の内外端面」とは「歯部の内・外径端面部」を意味するのであり,「歯車の歯面」と同じ面を意味するとの解釈が生まれる余地はない。しかも,この被告の主張は,審決の「『面取り』は,『歯形の内・外端面部』に形成されるが,第1図をも参照すると,『歯筋方向の端縁角部』に形成されることと同義である。」との認定(3頁22行〜23行)と矛盾することになる。なぜなら,審決において「歯部の内外端面」を「歯車の歯面」と同じ面を意味すると認定しているのであれば,「歯形の内・外端面部」は「歯筋方向の端縁角部」と同義であるとあえていう必要はないからである。
イ 取消事由2(補正発明と刊行物発明との一致点の認定の誤り)(ア)審決は,刊行物発明の「歯切り加工」は「切削加工」に含まれる旨の認定をしている(3頁下2行〜1行)。
しかし,刊行物発明における「歯切り加工」は,上記アのとおり,鍛造により厚肉の大きめの歯部の中間製品を作成し,中間製品の歯面を各種歯切盤により,歯切り加工することによって歯面のとり代を削り落として歯面が切削面の薄肉の歯部の最終製品とするものであり,中間製品の歯面のとり代を削り落とすために行われるものであるので,歯切り加工されるのは,歯部の歯面であって,歯部の内外端面ではない。
これに対し,補正発明においては,本願明細書(甲5)の段落【0002】に記載されているように,鍛造により形成された歯車は,少なくとも加圧面側に余肉が張り出す(甲9の1,2,5参照)ため,切削加工するのは,面取り部を介して歯部全周に対向する側面の端部であり,結果として歯面は鍛造成形面のままである。
したがって,刊行物発明における「歯切り加工」は,中間製品の歯面のとり代を削り落とすために歯部の歯面に対して行われるものであるのに対して,補正発明における「切削加工」は,加圧面側に張り出した余肉部分を切除すべく側面の端部を加工するものであり,加工対象,加工部位及び加工後の歯面の状態において,両者は全く異なるものであるから,審決における上記「歯切り加工」の認定は誤りである。
(イ)審決は,上記(ア)の認定に続いて,前記(3)イのとおり,補正発明と刊行物発明との一致点を認定している(4頁1行〜4行)。
しかし,上記(ア)のとおり,刊行物発明においては,鍛造歯面のとり代を削り落とすために歯面を歯切り加工するものであり,その結果中間製品における鍛造成形された歯面は最終製品においては切削面となるのに対して,補正発明においては,側面側に張り出した余肉部分を切除するために鍛造成形される歯部とは異なる部分である「側面の端部」を切削加工するものであり,鍛造成形された歯部すなわち歯面はそのままである。
しかも,刊行物発明においては,中間製品における歯部の内外端面との間に介在させる面取り部とともに鍛造成形された歯部を歯切り加工することにより最終製品とするので,鍛造面の歯部の内外端面と歯切り加工された歯部との間に面取り部が介在するのに対して,補正発明においては,鍛造成形された歯部と切削する側面端部との間に面取り部が介在するものであり,面取り部を挟む両部分の位置関係が全く逆の関係になる。
したがって,刊行物発明と補正発明との上記一致点の認定は,これらの相違点を無視して,無理矢理抽出したものであり,技術的根拠の無い,誤ったものである。
ウ 取消事由3(補正発明と刊行物発明との相違点の認定の誤り)(ア)審決は,前記(3)イのとおり,刊行物発明が「かさ歯車の歯部の内外端面を切削加工するものである点」を,補正発明と刊行物発明との相違点と認定している(4頁5行〜9行)。
しかし,上記アのとおり,刊行物発明においては,鍛造により厚肉の大きめの歯部の中間製品を作成し,中間製品の歯面を各種歯切盤により,歯切り加工することによって歯面のとり代を削り落として歯面が切削面の薄肉の歯部の最終製品とするものであり,切削加工するのは歯面であるにもかかわらず,「かさ歯車の歯部の内外端面を切削加工するものである点」が相違点であるとの審決の上記認定は,刊行物発明の認定の誤りに基づく誤ったものである。
(イ)審決は,「鍛造と切削によって歯車を製造するにあたって,鍛造により成型する面,切削により成型する面を,それぞれどの面とするかは,設計的事項である。」と認定している(4頁12行〜13行)。
しかし,本願明細書(甲5)の段落【0002】には,「鍛造により形成された歯車には,少なくとも加圧面側に余肉が張り出すため,その余肉部分を切除すべく側面に切削加工が施される。切削加工が施されることによって歯面には切削面の延長上にバリが発生するので,そのバリが発生した角部を仕上げるべく面取りされることが多いが,その面取りも切除により行なわれていた。」,段落【0003】には,「…而も側面の切削によって生じたバリを除去するための面取りを切削により行うと,その面取りによって新たなバリが発生することがある。バリの発生は歩留りに大きく影響するし,バリの発生した不良品を選り分ける工程も必要であった。」,段落【0005】には,「…チャンファ4a…の反対側に余肉5が張り出している,」,段落【0008】には,「…この傾斜面18と傾斜面に続く歯車部の側面に沿って,余肉5′を面取り部16の際まで切削加工によって一気に削り取る」との記載がある。このように,補正発明においては,歯部の鍛造成形の結果歯車の側面の端部に生じた余肉を削り取るため側面の端部を必然的に切削するものであるから,任意な設計事項とはいえないものである。
また,刊行物(甲4)には,上記の歯部の鍛造成形の結果歯部に余肉が生ずるとの具体的な記載が無いのであるから,補正発明のように鍛造成形の結果生ずる歯部の余肉を除去するために切削加工を行う必要性が無いのであり,余肉を除去するための切削加工を前提にした面取りも設ける必要が無いのであって,歯面の歯切り加工によるバリが歯部の内外端面に突出するのを回避するために歯部の内・外端面部に面取りを設けるのであり,これも任意な設計事項とはいえない。
したがって,審決の上記認定は誤っている。
(ウ)審決は,「また,歯車に対し,切削加工を行う以上,ばりの可能性があることは,技術常識であって,歯車である以上,ばりが動力伝達部である歯部の内外端面に生じることが望ましくないことは明らかである。」と認定している(4頁14行〜16行)。
しかし,この認定は,上記アのとおり,刊行物発明が歯部の内外端面を歯切り加工するという誤った認定を前提にしたものであるので,それだけをとっても採用することができないものである。
刊行物発明は,歯面を歯切り加工するものであるため,面取り部の歯面側の部位が削り取られ面取り部の内外端面側の部位が残り,残っている面取り部の歯面側の部位にはバリが発生する(甲8の1〜3参照)。
そして,刊行物発明においては,「面取りが0.5mm以下ではバリが内・外端側に突出する危険性があり」(甲4の2頁(3)欄20行〜2頁(4)欄1行)との記載から明らかなように,歯部の歯切り加工によるバリが歯車の内外周部より突出することを回避するために,面取りは0.5mm以上2mm以上に設定されているのであって,残っている面取り部の噛み合い面である歯面側の部位にはバリが発生していても問題視していない。
これに対して,補正発明においては,歯部の鍛造成形により側面端部に発生した余肉を取り除くために「側面の端部」を切削加工することを必須の前提としているので,面取り部の側面側の部位が削り取られ面取り部の歯面側の部位がそのまま残る。そのため,歯部の歯面,頂部,底部に対応する面取り部の残っている部分の側面側の端部にはバリが発生する可能性がある(甲9の1,3参照)が,噛み合い面である歯面(歯部)の歯筋方向の端縁である面取り部の歯面側の端部(歯面との境界部)にはバリが発生しない。
以上のとおり,刊行物発明と補正発明は,バリの発生許容位置についての技術的認識において全く異なる。
したがって,審決の上記認定は誤っている。
(エ)審決は,「さらに,動力伝達部である歯部の内外端面を切削加工を行うことなく,鍛造のみで行うことは,上記文献中に『かさ歯車の歯形成形法(1)』として示されるごとく周知であるから,歯部の内外端面に対し,切削加工が必須というものではない。」と認定している(4頁17行〜20行)。
しかし,この認定は,上記アのとおり,刊行物発明が歯部の内外端面を歯切り加工を行うという誤った認定を前提にしたものであるので,それだけをとっても採用することができないものである。
しかも,刊行物発明において,動力伝達部の中心は互いに噛み合う歯面であるのに,審決は,互いに噛み合うことがない歯部の内外端面が動力伝達部であると認定するものであるから,それ自体技術的な根拠の無いものである。
さらに,刊行物(甲4)には,「かさ歯車の歯形成形法@」として,かさ歯車を鍛造で成形することが行われているとの従来技術に関する記載はあるが,「@の方法では十分な歯形精度を得る為の型製作費が高価,型寿命が短かい」との問題点があるとされている(甲4の1頁(2)欄4行〜6行)。そして,刊行物発明は,高い歯形精度が要求されない製作費が安い型を用いて,一定のとり代を付加した寸法の中間製品を製作し,歯切り盤により歯切り加工を行って0.1ないし0.5mmのとり代を削り落とし歯形精度を高めて最終製品を製作するものであるから,刊行物発明においては,最終製品としての歯形精度を得るためには歯切り加工(切削加工)が必須といわざるを得ない。
したがって,審決の上記認定は誤っている。
エ 取消事由4(補正発明の進歩性判断の誤り)(ア)審決は,「したがって,ばりが生じる可能性のある切削加工を,歯部の内外端面ではなく,側面の端部とし,その結果,歯部全周と切削面との間に面取り部が少なくとも一部残されるようにすることに,格別の困難性は認められない。」と認定している(4頁21行〜23行)。
しかし,刊行物発明においては,上記アのとおり,切削加工としての歯切り加工を行うのは歯部の内外端面ではなく歯面であるので,このような刊行物発明の誤った認定を前提とした進歩性の判断は,それ自体具体的妥当性に欠けるものである。
また,刊行物発明においては,上記アのとおり,歯部の頂部を挟む両歯面の半径方向の端部に面取り部を形成するものであるが,頂部及び底部には面取り部が形成されていないのであるから,歯部の円周方向に断続的に面取り部が形成されているにすぎず,補正発明のように歯部の全周に面取り部が形成されているとはいえない。
さらに,刊行物発明においては,歯面を歯切り加工するものであるため,面取り部の歯面側の部位が削り取られ面取り部の内外端面側の部位が残るのに対して,補正発明においては,歯部の鍛造成形により側面端部に発生した余肉を取り除くために「側面の端部」を切削加工するものであるので,面取り部の側面側の部位が削り取られ面取り部の歯面側の部位がそのまま残るため,両者は切削加工の後に残る一部の面取り部の部位が異なるとともに,それに伴い,刊行物発明においては,噛み合い面である歯面(歯部)の歯筋方向の端縁である面取り部の歯面側の端部にバリが発生するのに対して,補正発明においては,面取り部の側面側の端部にバリが発生することがあるが,噛み合い面である歯面(歯部)の歯筋方向の端縁である面取り部の歯面側の端部にはバリが発生しないのであり,バリの発生部位において両者は異なる。
以上から明らかなように,面取り部の歯面側の端部にバリが発生しないようにするために歯部全周と切削面との間の歯面側に面取り部が少なくとも一部残されるようにすることは,格別の困難性があるものといわざるを得ない。
(イ)審決は,「また,これによってもたらされる効果も,当業者が予測できる程度のものであって格別のものではない。」と認定している(4頁24行〜25行)。
しかし,補正発明は,面取り部の歯面側の端部(境界部)にバリが発生しないようにして,バリなし鍛造歯車の製造を可能にするという新規な課題及び作用効果を実現するものであり,面取り部の歯面側の端部にバリが発生することを許容する刊行物発明に基づき当業者が予測できる程度のものということができず,補正発明の効果は,格別のものである。
(ウ)以上のとおり,補正発明は,当業者が容易に発明をすることができるものではなく,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるから,補正発明の進歩性を否定した審決の判断には誤りがある。
オ 取消事由5(手続違背)(ア) 拒絶理由通知本願に対して出された平成15年10月23日付けの拒絶理由通知(以下,「本件拒絶理由通知」という。甲11)の内容は,4件の引用文献(甲1〜4)を引用し,特許法29条2項により特許を受けることができないというものであり,備考として,単に「引用例には歯車の製造方法が記載されている。」とのみ記載されていた。
「特許請求の範囲」に「発明の名称」以外の構成要件が記載されていないのであれば,これを適式な拒絶理由通知ということができるが,「特許請求の範囲」に記載された発明の各構成要件がどの引用文献のどの部分に記載されているのか具体的に記載されていないのであるから,本件拒絶理由通知は,適式で有効な拒絶理由通知とはいえないものである。特許・実用新案審査基準(甲12)第\部第2節4.2によれば,「拒絶理由通知には,拒絶の理由を,出願人がその趣旨を明確に理解できるように具体的に指摘しなければならない。」とされているから,本件拒絶理由通知は,この審査基準に反するものである。このような状況においては,本願の出願人に意見を述べる機会が適正に与えられたとはいえないのであり,出願人は,示されていない審査官の判断を推測して対応せざるを得なくなった。このことは,出願人に過度な負担を強いただけでなく,適式な拒絶理由が通知された出願人に比べて著しく不公平であり,推測の結果,示されていない審査官の判断より厳しい判断を推測したとすると,拒絶理由回避のために過度の補正をすることになり,発明保護の特許法の基本精神にも反することになる。
(イ) 拒絶査定本願に対して出された平成16年1月22日付けの拒絶査定(甲14)の内容は,拒絶理由通知書に記載した理由によって拒絶すべきものであるというものであり,備考として,「先に示した引用例記載のものも,端縁角部に面取り部を設けた後側面を切削して面取り部の一部を残しているから,出願人の主張は採用できない。」と記載されていた。拒絶査定は,拒絶理由通知よりは審査官が問題にしている本願クレームの構成が記載されたため,わずかに明確になったが,どの引用文献のどの部分に記載されているのか,一致点,相違点及び進歩性否定の根拠は相変わらず不明であり,適式で有効な拒絶査定とはいえないものである。
(ウ) 前置報告本件審判手続における平成18年8月10日付けの審尋(甲15の1)に添付されていた平成16年5月20日付けの審査官による前置報告書(甲15の2)には,「先に示した特開平8-105515号公報には,鍛造成形された歯車の歯部端部に段部を形成して切削によるバリを収納することが記載されているから,請求項1に係る発明は特開平8-105515号公報記載のものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ,独立して特許を受けることができない。」と記載されていた。「段部」が面取り部に相当するかどうかは大いに疑問のあるところであるが,ここで初めて引用文献が特定され,拒絶の根拠となった構成が明らかになった。
本願の出願人は,前置報告により拒絶の根拠となった引用文献が特定され,拒絶の根拠となった構成が明らかになったので,特開平8-105515号公報(甲1)に記載された発明に対して補正発明が相違点を有すること,補正発明が特許性を有することを記載した回答書(甲16)を,平成18年10月23日付けで提出した。
(エ) 本件審決本件審決は,前置報告書では引用されていなかった甲4を引用して,本願の出願人に予め意見を述べる機会を与えることなく補正発明は独立特許要件を満たしていないとの審決をしたものであるから,適式で有効な審決とはいえないものである。本件審決は,特許法159条2項で準用する同法50条に違反するものである。
カ 取消事由6(意見書等の記載の看過)上記オのとおり,本願においては,審査及び審判の段階においては,本願の構成と各引用文献との構成との対応関係(一致点,相違点),進歩性が無いとする審査官の判断が具体的に示されなかったことから,本願の出願人は,示されていない審査官の判断を推測せざるを得ない状況に置かれ,推測に基づく漠然とした状態で拒絶に対応をすることを強制されたため,審査官の判断が具体的に示された出願人に比べて著しく不公平な状況において,拒絶理由通知に対して意見書を提出し,拒絶査定に対して審判を請求して審判理由の補充を行わざるを得なかった。
ところが,審判官は,次のとおり,このような出願人の本件拒絶理由通知に対する平成15年12月26日付けの意見書(以下「本件意見書」という。甲17)の記載及び本件審判手続における平成16年3月22日付けの審判理由の補正書(以下「本件審判理由補正書」という。甲18)の記載を看過して,本件審決をしたから,審決は違法である。
(ア) 本件意見書の記載の看過本件意見書(甲17)において,本願の出願人は,「引用文献4の技術は,傘歯車の大まかな歯形を歯切りして精度を出す際に発生するバリをなくす技術でありますし,実施例に示された傘歯車は頭部が陥没したタイプであるため,(平)歯車の側面に該当する部分が存在しないことから,歯車の側面切削をすることは想定されておらず,そのような側面切削を想定できない歯車では,側面切削で発生するバリをなくそうとすることが思い付くはずはありません。」と主張した(1頁下13行〜9行)。
したがって,審判官が,本件意見書の上記主張を看過していなければ,上記アの刊行物発明の認定の誤りは回避できたのであり,また,審判官が,本件意見書の上記主張を看過していないのであれば,審決において,本件意見書の上記主張に対する何らかの見解が述べられてしかるべきであるところ,何ら言及されていないのであるから,本件意見書の上記主張の看過があったものといわざるを得ない。
(イ) 本件審判理由補正書の記載の看過本件審判理由補正書(甲18)において,本願の出願人は,「引用文献4に記載された発明においては,まず型鍛造によりブランクに歯形を形成するが,その歯形は最終歯形寸法に対して片側0.1〜0.5mmの間で均一的なとり代を付加した寸法とし,さらに歯形の内・外端面部に0.5〜2mmの面取り(角形面取りでも丸形面取りでもよい)を付与した歯形を有する中間製品とし,次にその中間製品を各種歯切盤により,歯切り加工することにより0.1〜0.5mmのとり代を削り落とし,歯形精度を向上せしめるものであるのに対して,本願第1発明が,鍛造成形された歯形における歯筋方向の端縁角部に面取り部を鍛造手段にて形成しておき,歯部全周と切削面との間に前記面取り部が少なくとも一部残されるよう側面の端部を切削加工することにより,歯部の端部にバリが発生しないようにするものであり,切削部位,歯部が切削面か鍛造面か,面取り部に対するバリの発生部位および歯部の端部にバリが発生するかどうかにおいて,両者は全く異なるものである。」と主張した(6頁下4行〜7頁7行)。
したがって,審判官が,本件審判理由補正書の上記主張を看過していなければ,上記アの刊行物発明の認定の誤りは回避できたのであり,また審判官が本件審判理由補正書の上記主張を看過していないのであれば,審決において,本件審判理由補正書の上記主張に対する何らかの見解が述べられてしかるべきであるところ,何ら言及していないのであるから,本件審判理由補正書の上記主張の看過があったものと言わざるを得ない。
キ 取消事由7(本願発明の進歩性判断における刊行物発明認定の誤り)審決は,前記(3)イのとおり,刊行物発明の内容を認定している。
しかし,上記アで述べたように,刊行物発明について「歯部の内外端面を歯切り加工する」との認定は,歯切り加工されるのは歯部の歯面であって,歯部の内外端面ではないから,審決における刊行物発明の上記認定は,刊行物発明の認定を誤ったものである。
ク 取消事由8(本願発明の進歩性判断における対比・検討の誤り)審決は,上記カのとおり刊行物発明の認定を誤っており,この誤った刊行物発明の認定を前提として,本願発明と刊行物発明との進歩性判断を行ったものであるから,進歩性の判断に誤りがある。
また,本願発明は,側面を切削加工する歯車にあって,歯形における歯筋方向の端縁角部に面取り部を鍛造手段にて形成しておき,歯部全周と切削面との間に前記面取り部が少なくとも一部残されるように切削加工するものである。本願発明は,噛み合い面に最も近い面取り部の歯面側の端部(境界部)にバリが発生しないようにして,バリなし歯車の製造を可能にするという新規な課題及び作用効果を実現するものであるので,噛み合い面に最も近い面取り部の歯面側の端部(境界部)にバリが発生することを許容する刊行物発明に基づき,当業者が容易に発明をすることができるものではない。
以上のとおり,本願発明は,刊行物発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたとする審決の判断には誤りがある。
2 請求原因に対する認否請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。
3被告の反論(1) 取消事由1に対しア審決では,歯切り加工される面,すなわち刊行物(甲4)の第1図の右下に示される歯の斜視図における一点鎖線により削られる面について,歯の「内外端を結ぶ面」であることから,「歯部の内外端面」と称したものである。このことは,審決では「動力伝達部である歯部の内外端面」と記載されていること(4頁15行),刊行物の記載上他に歯切り加工される面が存在しないことからも,明らかである。
したがって,審決の「歯部の内外端面」は,原告がいう「歯車の歯面」と同じ面を意味するのであって,用語の選択の問題にすぎないから,審決に誤りはない。
イ 審決における刊行物発明の認定について,念のため説明する。
歯車の製造においては,素材を鍛造して中間製品とし,中間製品の歯部を切削加工することが周知である(乙1[會田俊夫監修「円筒歯車の製作」株式会社大河出版(昭和51年9月25日改訂分冊版発行)1頁〜3頁]の2頁,図4.3(a)の「鍛造材からの場合」,乙2[會田俊夫監修「かさ歯車とウォームギア」株式会社大河出版(昭和54年2月26日初版1刷発行)72頁〜74頁]。以下「歯部切削法」という。)。
鍛造で形成された歯部を切削加工することが周知であることを踏まえると,刊行物記載のものは,「歯部の内外端面(原告のいう歯面)の切削に伴い,必然的に生じるバリの影響を,歯筋方向の端縁角部に形成した面取り部によって吸収すること」に特徴があることは明らかである。審決に,「そして,『面取り』は,『有害なバリを発生させないため』に行うものである。」と記載されている(3頁下13行〜12行)ように,審決では,このような刊行物記載のものの特徴を踏まえ,一つの技術思想として,刊行物発明を認定したものである。
(2) 取消事由2に対しア原告は,前提となる刊行物発明の認定が誤りであると主張するが,上記(1)のとおり,審決の認定に誤りはない。
イ審決で「歯切り加工」が「切削加工」に含まれるとした点については,切削加工する面との関係を含めて「含まれる」としたものではなく,単に「加工形態」として「含まれる」としたものであるから,審決の認定に誤りはない。
ウ歯車の製造においては,素材を鍛造して中間製品とし,鍛造で生じた余肉部(「バリ」と称する場合もある)を切削加工することも,また周知である(乙3[特開平6-335827号公報]の段落【0002】〜【0003】及び図2,乙4[社団法人日本機械学会著「機械工学便覧」丸善株式会社(1990年5月31日新版4刷発行)B2-100頁]の右欄「.型鍛造」,乙5[特開平7-236937号公報]の段落【000 C3】及び図6,乙6[特開平7-112234号公報]の段落【0009】及び図5,乙7[特開平9-1277号公報]の段落【0008】及び図3。以下「端部切削法」という。)。そして,余肉部除去のための切削加工により,必然的にバリが生じることとなる。
したがって,補正発明においては,「歯部の側面の切削に伴い,必然的に生じるバリの影響を,歯部全周と切削面との間に形成した面取り部によって吸収すること」が,「発明の本質的部分」であることは明らかである。
ところで,刊行物発明において,「面取り部」を挟んで隣接する面は両側にあるが,いずれの面を切削したとしても,バリが「面取り部」すなわち「面取りされた空間内」に存在する以上,「面取り部」によって,バリの影響が吸収され,歯車の作動に影響がないことは明らかである。
審決は,切削加工する面が,面取り部を挟んで隣接する両面のいずれの面であるかにかかわらず,「切削加工によって生じるバリの影響を,面取り部によって吸収する」という基本的技術思想が,補正発明と刊行物発明とで一致していることを認定したものであるから,審決に誤りはない。
(3) 取消事由3に対しア原告は,前提となる刊行物発明の認定が誤りであると主張するが,上記(1)のとおり,審決の認定に誤りはない。
イ原告は,鍛造と切削によって歯車を製造するに当たって,鍛造により成型する面,切削により成型する面を,それぞれどの面とするかは,任意設計的事項ではない,補正発明と刊行物発明では,バリの発生位置が異なる,と主張するが,これらの点については,後記(4)のとおり,審決に誤りはない。
ウ歯車の製造においては,歯切り加工を要する上記(1)の歯部切削法,歯切り加工を要しない上記(2)の端部切削法のいずれも周知であり,必要に応じて選択されている。
また,刊行物発明においても,刊行物(甲4)の1頁(2)欄4行〜5行に「十分な歯形精度を得る為の型」と記載されているように,高精度の型を用いることにより,歯切り加工が不要となる場合もある。
したがって,「歯部の内外端面(原告のいう歯面)」に切削加工が必須というものではないとした審決の認定に誤りはない。
(4) 取消事由4に対しア原告は,前提となる刊行物発明の認定が誤りであると主張するが,上記(1)のとおり,審決の認定に誤りはない。
イ歯車の製造においては,歯部を切削する歯部切削法,歯部は鍛造のままである端部切削法が周知であるのみならず,鍛造のみによるものも周知(乙8[特開平11-300447号公報]の段落【0003】,乙9[特開平5-123815号公報]の「要約」)であり,切削のみによるものも周知(乙1の2頁,図4.3(a)の「棒材からの場合」)である。
そして,乙1の1頁に「円筒歯車の製作工程は,歯車の大きさ,形状,材質,熱処理,歯面の最終仕上方法,要求される精度,製作個数などにより考慮される」,乙2の72頁に「かさ歯車の製作工程は…使用目的および製作数量などによって異なってくる。…すべての工程において,それぞれに適した方法が選ばれる」とあるように,製造方法が適宜選択されるものである。
したがって,歯車の製造において,補正発明のように,歯面には切削加工を行わず,端面に切削を行うものとすることに,困難性は認められないから,「鍛造により成型する面,切削により成型する面を,それぞれどの面とするかは設計的事項である」とする審決に誤りはない。
また,補正発明が刊行物発明とバリの発生部位が違うことは,端面を切削面としたことに伴い当然生じる差違にすぎず,それによる効果についても,「バリの影響を『面取り部』によって吸収し,動力伝達に影響を与えない」という点で,刊行物発明と差違はないから,格別なものではない。
(5) 取消事由5に対し甲4に対し,本件意見書(甲17),本件審判理由補正書(甲18)で,意見を述べる機会が与えられており,原告は,「切削部位,歯部が切削面か鍛造面か,面取り部に対するバリの発生部位および歯部の端部にバリが発生するかどうかにおいて,両者は全く異なるものである。」(甲18の7頁28行〜30行)と,本件訴訟における主張と同様の主張を行っている。したがって,手続に違法性はない。
(6) 取消事由6に対し審決では「鍛造と切削によって歯車を成型するにあたって,鍛造により成型する面,切削により成型する面を,それぞれどの面とするかは設計的事項である。」として言及している(4頁12行〜13行)から,本件意見書の主張を看過したものではない。
原告は,本件審判理由補正書における主張を看過した結果,刊行物発明の認定を誤ったと主張するが,上記(1)のとおり,刊行物発明の認定を誤っていない。
(7) 取消事由7,8に対し前記取消事由1ないし4で反論したことに付加することはない。
第4 当裁判所の判断1当裁判所は,原告主張の取消事由1ないし4は後記の限度で理由があり,取消事由5,6は理由がないから,審決が本件補正を却下するとした部分は違法であると判断する。その理由は以下に説示するとおりである。
2請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
3取消事由1(本件補正却下における刊行物発明認定の誤り)について(1) 刊行物(甲4)には,次の記載がある。
ア 従来の技術「一方かさ歯車の歯形成形法として@熱間型鍛造後冷間型鍛造工程を加える鍛造方法,A歯切盤を用いた切削加工法等の方法が行われているが,@の方法では十分な歯形精度を得る為の型製作費が高価,型寿命が短かい,またAの方法では,切削加工量が多く,荒歯切り,仕上げ等の工程があり,歯形成形に長時間を要し,また歯部の内外端面に歯切りによるバリが発生し,バリ取り加工を要するという問題点があった。」(1頁(2)欄1行〜10行)イ 発明が解決しようとする問題「本発明は高精度の歯車をより簡単な工程で製造する方法を提供するものである。」(1頁(2)欄12行〜13行)ウ 問題点を解決するための手段「上記のような問題点を解決するため,本発明ではまず型鍛造によりブランクに歯形を形成するが,その歯形は最終歯形寸法に対して片側0.1〜0.5mmの間で均一的なとり代を付加した寸法とし(すなわち歯厚を0.2〜1mmだけ大きくする。),さらに歯形の内・外端面部に0.5〜2mmの面取り(角形面取りでも丸形面取りでもよい)を付与した歯形を有する中間製品とし,次にその中間製品を各種歯切盤により,歯切り加工することにより0.1〜0.5mmのとり代を削り落とし,歯形精度を向上せしめるものである。以下さらに本発明を説明すると,ビレットを鍛造することにより,材料を塑性変形させ,実質的に歯形を形成させることにより材料歩留りを向上させることが可能である。鍛造は熱間でも冷間でもよくまた両者の組合せでもよい。…また歯部の内・外端面部に0.5〜2mmの面取りを施す理由は,歯切り加工後有害なバリを発生させないためであり,とり代歯厚等に応じてとり代より大きい面取りとすべきで,面取りが0.5mm以下ではバリが内・外端側に突出する危険性があり,2mm以上では歯厚との関係で大き過ぎる。歯切り加工は,通常,歯切カッターによるがとり代が0.1〜0.5mmと少ないため加工能率もよく工具の損耗も少い。また以上説明した工程(歯形成形)以外の切削加工工程熱処理,および切削加工等の工程を適宜経てかさ歯車が完成されることはいうまでもない。」(1頁(2)欄下6行〜2頁(4)欄7行)(2)上記(1)の記載によると,刊行物発明は,かさ歯車において,型鍛造によりブランクに歯形を形成するに際して,歯形を最終歯形寸法に対して片側0.1〜0.5mmの間で均一的なとり代を付加した寸法とし(すなわち歯厚を0.2〜1mmだけ大きくし),歯形の内・外端面部に0.5〜2mmの面取りを形成し,その後,歯切り加工することにより0.1〜0.5mmのとり代を削り落として,歯形を成形する,かさ歯車の製造方法であると認められる。そして,刊行物発明においては,このようにして歯形を成形することによって,とり代を削り落とした際に発生するバリが内・外端側に突出することがないという効果が得られるものと認められる。
そうすると,刊行物発明において「面取り」が形成される「歯形の内・外端面部」は,歯部の歯面における内・外端面部を意味するものと解される。
(3)これに対し,補正発明(特許請求の範囲【請求項1】)は,「側面の端部を切削加工する歯車にあって,鍛造成形された歯形における歯筋方向の端縁角部に面取り部を鍛造手段にて形成しておき,歯部全周と切削面との間に前記面取り部が少なくとも一部残されるように切削加工することを特徴とする歯車の製造方法。」というものであり,また,「発明の詳細な説明」(甲5の記載を甲6及び甲7によって補正したもの)には,次の記載がある。
「【発明の属する技術分野】本発明は,側面を切削加工する歯車の製造方法に関する。」(段落【0001】)「【従来の技術】鍛造により形成された歯車には,少なくとも加圧面側に余肉が張り出すため,その余肉部分を切除すべく側面に切削加工が施される。
切削加工が施されることによって歯面には切削面の延長上にバリが発生するので,そのバリが発生した角部を仕上げるべく面取りされることが多いが,その面取りも切削により行なわれていた。」(段落【0002】)「【発明が解決しようとする課題】切削加工は,工具の消耗,切粉の発生,任意形状の形成が難かしく加工時間も長いといった問題を有し,特に面取りは一歯づつ順に加工しなくてはならないので効率が悪く,多大な時間を要する。而も側面の切削によって生じたバリを除去するための面取りを切削により行うと,その面取りによって新たなバリが発生することがある。バリの発生は歩留まりに大きく影響するし,バリの発生した不良品を選り分ける工程も必要であった。」(段落【0003】)「【課題を解決するための手段】本発明は,鍛造により形成された面取り部にはバリがないことに着目し,その鍛造により形成した面取り部を効果的に利用して,側面が切削加工された歯車の歯面にバリを生じさせなくする技術であって,その構成は,側面の端部を切削加工する歯車にあって,鍛造成形された歯形における歯筋方向の端縁角部に面取り部を鍛造手段にて形成しておき,歯部全周と切削面との間に前記面取り部が少なくとも一部残されるよう切削加工することにある。
そしてこの製造方法において,面取り部は歯部全周から連続するように形成し,その終端を,切削面に一致させることが望ましい。」(段落【0004】)「【発明の実施の形態】本発明に係る歯車に関する技術を,アイドラーギヤを例にして図面に基づき説明する。図1は,一次成型品の歯形端部に面取り部を形成するための鍛造装置を示したもので,一次成型品1は,図2の(a)に例示するように,ボス部2の片端側に形成された歯車部3の周囲に,チャンファ4a付きの歯形4を有しており,チャンファ4aは歯形4のボス部2側に形成され,その反対側に余肉5が張り出している。そして中心には軸孔6が形成されている。
鍛造装置は,前記一次成型品1が,ボス部2を上側にして歯車部3をセット可能なように,内周面が,一次成型品1の歯形4に対応した歯形形状に形成されており,その歯形形状における一次成型品1の歯形4に対応した部分の底が,面取り形成面7となっているキャビティ8を備えたダイ9と,そのダイ9を支持するダイプレート10,及び,そのダイプレート10から前記キャビティ8内の中心に突出されたマンドレル11と,そのマンドレル11の周囲に,マンドレル11と同心円上に配置された複数本のエジェクタピン12,12・・によりキャビティ8内に出没可能なノックアウトスリーブ13とからなる下型と,パンチケース14により支持された円筒状のパンチ15とからなる上型とで構成されている。
一次成型品1を,軸孔6にマンドレル11が挿通された状態でキャビティ8内にセットし(図3のa),パンチ15を下降動作すれば,一次成型品1のボス部2がパンチ15の筒状内に遊嵌されると共に,筒状先端面で歯形4を除く歯車部3の上側面が加圧され,歯形4の下側端面が面取り形成面7に押し付けられて,一次成型品1における歯形4の下部側面に面取り部16を有した段差部が形成される(図3のb)。二次成型品17は,ノックアウトスリーブ13によってエジェクタピン12,12・・を介して脱型され,図3の(c)に示すような歯形4の下部側面の段差部に面取り部16を有した二次成型品17が得られる(図2のb)。
この二次成型品17における歯形4’の段差部は,図2の(b)に例示するように,切削すべき側面に対して傾斜が付されており,この傾斜面18と傾斜面に続く歯車部の側面に沿って,余肉5’を面取り部16の際まで切削加工によって一気に削り取る。(図2のc)。
切削加工を終えた製品は,仕上がった歯形の端縁角部にあたる歯部全周と切削面との間に鍛造により形成された面取り部が残っているため,少なくとも歯面にバリが生ずることはない。このように,面取り部が鍛造により形成されているので,品質にばらつきがなく,均一した高精度の製品提供が可能となり,生産性も飛躍的に向上する。
又,実施例は。歯部全周から連続するよう形成された面取り部の終端を,切削面に一致させ,切削後の製品に面取り部を100%残すことができるのようにしているので,バリの発生が少なく,鍛造の効果が有効に生かされるので合理的といえるが,このようなことができるのは,鍛造技術を利用すれば,いかなる形状の面取り部であっても,最終形状に合わせて簡単に形成可能であるからである。しかしながら本発明は,鍛造形成された面取り部を残し,歯面にバリが生じないようにするものであるから,鍛造により形成された面取り部を100%残す必要はなく,少しでも残っていれば同じ効果を得ることができる。
実施例は,チャンファ付き歯形が形成された一次成型品のチャンファ形成側と反対側の端縁角部に面取り部を形成して二次成型品としているが,一次成型品の段階で,面取り部を歯形の形成と同時に形成しても差し支えないし,チャンファを有しない歯車,ヘリカル歯を有する歯車など,歯車の形態は実施例に限定されるものではない。又,上下に面取り形成面を有する型を使用すれば,歯車の両側面に同時に面取り部を形成することができる。さらに,切削すべき側面に対して形成されている傾斜はあえて必要はなく,切削面を直線状とさせることができる。」(段落【0005】〜【0011】)「【発明の効果】本発明によれば,歯部全周と切削面との間に,鍛造手段によって形成された面取り部を少なくとも一部残したので,歯面にバリが生ずることがない。又,面取り部が鍛造により形成されるため,面取り部の形状はいかようにも対応できるし,切削加工に比べて効率がよく,信頼性も高く,バリなし製品を製造するには絶好といえる。特に,歯部全周から連続するよう形成された面取り部の終端を,切削面に一致させることで,面取り部が100%利用されるし,終端部を切削面に倣う面とすれば,その切削面と鍛造面取り部の面とが連続し,バリの発生も最小限となる。」(段落【0012】)(4)上記(3)の記載によると,補正発明は,歯部の鍛造成形により側面端部に発生した余肉を取り除くために「側面の端部」を切削加工する歯車において,「面取り部」を,「歯部全周」(歯部の歯面における内・外端面部のみならず歯部の頂部及び底部をも含む部分)と「側面の端部」の切削面との間に形成するものであって,「面取り部」があるために,噛み合い面である歯面にバリが発生することはないという効果が得られるものであると認められるから,補正発明において「歯筋方向の端縁角部」は「歯部全周の端縁角部」を意味するものと解される。
そうすると,補正発明と刊行物発明は,「面取り」が形成される点において共通するものの,形成される場所が,刊行物発明では歯部の歯面における内・外端面部であるのに対し,補正発明では歯部全周の端縁角部であって,形成される場所が異なるということができる。
(5)審決は,刊行物発明において「『面取り』は,『歯形の内・外端面部』に形成されるが,第1図をも参照すると,『歯筋方向の端縁角部』に形成されることと同義である。」と認定している(3頁下15行〜14行)。
しかし,補正発明と刊行物発明では,上記のとおり「面取り」が形成される場所が異なることからすると,刊行物発明において「面取り」が形成される「歯形の内・外端面部」と,補正発明において「面取り」が形成される「歯筋方向の端縁角部」が同義であるということはできず,審決の上記認定には誤りがある。
(6)また,審決は,刊行物発明について,「歯部の内外端面を歯切り加工するかさ歯車にあって,」と認定している(3頁下8行)。
審決が,刊行物の上記(1)の記載を引用した上,これらの記載に基づいて上記認定をしているところ,刊行物の上記(1)の記載によると,刊行物発明において歯切り加工されるのは,歯部の内外端を結ぶ面であること,審決は「動力伝達部である歯部の内外端面」(4頁17行)と認定していて,「歯部の内外端面」は動力伝達部であると記載していることからすると,審決が上記のとおり認定している「歯部の内外端面」は,歯部の内外端を結ぶ面であると解され,その認定に誤りがあるということはできない。
なお,原告が主張するとおり,刊行物(甲4)には,「特許請求の範囲」に「歯部の内・外径端面部に0.5〜2mmの面取りを付与した歯形」との記載があり,「発明の詳細な説明」の[従来の技術]に「歯部の内外端面に歯切りによるバリが発生し,バリ取り加工を要するという問題があった。」(1頁(2)欄8行〜10行)との記載があり,[問題点を解決するための手段]に,「歯形の内・外端面部に0.5〜2mmの面取り…を付与した歯形を有する中間製品とし,」(1頁(2)欄20行〜2頁(3)欄2行),「歯部の内・外端面部に0.5〜2mmの面取りを施す理由は,歯切り加工後有害なバリを発生させないためであり,」(2頁(3)欄16行〜18行),「面取りが0.5mm以下ではバリが内・外端側に突出する危険性があり,」(2頁(3)欄20行〜2頁(4)欄1行)との記載があり,[実施例]に「(加工代は片側0.3mm)加工後の外観を観察すると,歯形の内外径端面に有害なバリはなく,」(2頁(4)欄13行〜14行)との記載がある。これらの「歯部の内・外径端面部」,「歯部の内外端面」,「歯形の内・外端面部」,「内・外端側」,「歯形の内外径端面」は,面取りを付与する部分又はバリが発生する部分として記載されているから,歯切り加工をする部分とは異なるということができるが,そうであるからといって,審決において「歯部の内外端面」を,それらとは異なる意味に用いることができないということはなく,審決に誤りはないとの上記判断を左右するものではない。
また,原告は,審決の「歯部の内外端面」が歯部の内外端を結ぶ面であるとすると,審決の「『面取り』は,『歯形の内・外端面部』に形成されるが,第1図をも参照すると,『歯筋方向の端縁角部』に形成されることと同義である。」との認定と矛盾することになるとも主張するが,審決のこの認定は「面取り」に関するものであるから,歯切り加工される部位に関する審決の上記認定に誤りがないとの上記判断を左右するものではない。
(7) したがって,取消事由1は,上記(5)の限度で理由がある。
4取消事由2(補正発明と刊行物発明との一致点の認定の誤り)について(1)審決は,「刊行物発明の『歯切り加工』は,補正発明の『切削加工』に含まれる」旨の認定をしている(3頁下2行〜1行)。そして,その上で,「補正発明は,歯部全周と切削面との間に面取り部が少なくとも一部残されるように,側面の端部を切削加工するものであるが,刊行物発明は,面取り部が少なくとも一部残されるように,かさ歯車の歯部の内外端面を切削加工するものである点。 」を,補正発明と刊行物発明の相違点と認定している(4頁5行〜9行)。
刊行物発明における「歯切り加工」は,上記3(2)のとおり,かさ歯車において,型鍛造によりブランクに歯形を形成するに際して,歯形を最終歯形寸法に対して片側0.1〜0.5mmの間で均一的なとり代を付加した寸法とし,その後,歯切り加工をすることにより0.1〜0.5mmのとり代を削り落として,歯形を成形する,というものであって,歯切り加工されるのは,「歯部の歯面」である。
これに対し,補正発明は,上記3(4)のとおり,歯部の鍛造成形により側面端部に発生した余肉を取り除くために「側面の端部」を切削加工するものであるから,刊行物発明の「歯切り加工」と補正発明の「切削加工」は,加工の対象となる面が異なっている。
しかし,刊行物発明の「歯切り加工」も,一般的な意味での「切削加工」に含まれるということができるから,審決の「刊行物発明の『歯切り加工』は,補正発明の『切削加工』に含まれる」旨の認定が誤りであるということはできないし,上記の加工の対象となる面が異なっていることは,審決において相違点として認定されている。
したがって,審決の上記認定に誤りがあるということはできない。
(2)審決は,前記第3の1(3)イのとおり,補正発明と刊行物発明の一致点を,「切削加工する歯車にあって,鍛造成形された歯形における歯筋方向の端縁角部に面取り部を鍛造手段にて形成しておき,前記面取り部が少なくとも一部残されるように切削加工する歯車の製造方法。」と認定しているが,上記(1)のとおり,補正発明と刊行物発明は「切削加工」の点において一致しているから,この点を一致点と認定したことに誤りはないが,補正発明と刊行物発明は,上記3(5)のとおり「歯筋方向の端縁角部」の点において相違しているから,この点を一致点と認定したことにおいて,審決の上記認定には誤りがある。
5取消事由3(補正発明と刊行物発明との相違点の認定の誤り)について(1)審決は,刊行物発明が「かさ歯車の歯部の内外端面を切削加工するものである点」を,補正発明と刊行物発明との相違点と認定している(4頁5行〜9行)。
前記3(6)のとおり,審決において,「歯部の内外端面」は歯部の内外端を結ぶ面であると解されるから,刊行物発明が「かさ歯車の歯部の内外端面を切削加工するものである点」を,補正発明と刊行物発明との相違点と認定していることに誤りはない。
(2)その他,原告は,審決の「相違点の検討」中の判断(4頁12行〜20行について誤りがあると主張するが,これらは,補正発明の進歩性判断にかかわるものであるので,下記の6において検討する。
6取消事由4(補正発明の進歩性判断の誤り)について(1)前記4(1)のとおり,刊行物発明の「歯切り加工」は,「歯部の歯面」を加工するものであるのに対し,補正発明の「切削加工」は,「側面の端部」を切削加工するものであるから,刊行物発明の「歯切り加工」と補正発明の「切削加工」は,加工の対象となる面が異なっている。
また,前記3(4)のとおり,補正発明と刊行物発明は,「面取り」の形成される場所が,刊行物発明では「歯部の歯面における内・外端面部」であるのに対し,補正発明では「歯部全周の端縁角部」であって,形成される場所が異なっている。
そして,補正発明は,前記3(4)のとおり,「面取り」があるために,噛み合い面である歯面にバリが発生することはないという効果があるのに対し,刊行物発明は,前記3(2)のとおり,「面取り」があるために,とり代を削り落とした際に発生するバリが内・外端側に突出することがないという効果があるものであり,面取り部の歯面側の部位にはバリが発生する。
以上のとおり,補正発明は,「側面の端部」を切削加工する場合に,「面取り」を「歯部全周の端縁角部」に形成することによって,噛み合い面である歯面にバリが発生することはないという効果を生じさせるものであるのに対し,刊行物発明は,「歯部の歯面」を歯切り加工する場合に,「面取り」を「歯部の歯面における内・外端面部」に形成することによって,とり代を削り落とした際に発生するバリが内・外端側に突出することがないという効果を生じさせるものであって,面取り部の歯面側の部位にはバリが発生するものであるから,このように構成及び効果において大きな違いがある以上,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が,補正発明を刊行物発明から容易に発明することができたと認めることはできない。
被告は,切削加工する面が,面取り部を挟んで隣接する両面のいずれの面であるかにかかわらず,「切削加工によって生じるバリの影響を,面取り部によって吸収する」という基本的技術思想が,補正発明と刊行物発明とで一致していると主張するが,補正発明と刊行物発明とでは,上記のとおり,その構成及び効果が大きく異なるから,被告が主張するような技術思想が一致するということのみで,補正発明を刊行物発明から容易に発明することができたと認めることはできない。
(2)審決は,「鍛造と切削によって歯車を製造するにあたって,鍛造により成型する面,切削により成型する面を,それぞれどの面とするかは,設計的事項である。」と認定している(4頁12行〜13行)。
被告が主張するように,歯車の製造において,素材を鍛造して中間製品とし,中間製品の歯部を切削加工すること,素材を鍛造して中間製品とし,鍛造で生じた余肉部を切削加工することが,それぞれ周知であり,鍛造のみによるものや,切削のみによるものが周知であるとしても,そのことは,歯車の製造において,いろいろな製造方法があるというにとどまり,そのことから,「側面の端部」を切削加工する場合に,「面取り」を「歯部全周の端縁角部」に形成することによって,噛み合い面である歯面にバリが発生することはないという効果を生じさせること(補正発明の構成及び効果)までも,想起することができるものではない。したがって,審決の上記認定についても,そのことから直ちに補正発明の構成及び効果を想起することができたということができるものではない。
(3)審決は,「また,歯車に対し,切削加工を行う以上,ばりの可能性があることは,技術常識であって,歯車である以上,ばりが動力伝達部である歯部の内外端面に生じることが望ましくないことは明らかである。」と認定している(4頁14行〜16行)。
審決が認定しているような技術常識が存するとしても,そのことから直ちに,「側面の端部」を切削加工する場合に,「面取り」を「歯部全周の端縁角部」に形成することによって,噛み合い面である歯面にバリが発生することはないという効果を生じさせること(補正発明の構成及び効果)を想起するということできないし,刊行物発明は,上記(1)のとおり補正発明とは大きく異なるから,刊行物発明から補正発明を想起するということもできない。
(4)審決は,「さらに,動力伝達部である歯部の内外端面を切削加工を行うことなく,鍛造のみで行うことは,上記文献中に『かさ歯車の歯形成形法(1)』として示されるごとく周知であるから,歯部の内外端面に対し,切削加工が必須というものではない。」と認定している(4頁17行〜20行)。
前記3(1)のとおり,刊行物(甲4)には,「かさ歯車の歯形成形法として@熱間型鍛造後冷間型鍛造工程を加える鍛造方法」があるとされていることからすると,審決の上記認定に誤りがあるということはできないが,この認定も,歯車の製造において,いろいろな製造方法があることを示しているにとどまり,そのことから,「側面の端部」を切削加工する場合に,「面取り」を「歯部全周の端縁角部」に形成することによって,噛み合い面である歯面にバリが発生することはないという効果を生じさせること(補正発明の構成及び効果)までも,想起することができるものではない。
(5) 被告は,補正発明が刊行物発明とバリの発生部位が違うことは,端面を切削面としたことに伴い当然生じる差違にすぎず,それによる効果についても,「バリの影響を『面取り部』によって吸収し,動力伝達に影響を与えない」という点で,刊行物発明と差違はないから,格別なものではないと主張するが,上記(1)のとおり,刊行物発明は,補正発明とは,その構成及び効果において大きく異なるから,一審被告の上記主張を採用することはできない。
(6) 以上のとおり,補正発明は当業者が刊行物発明から容易に発明をすることができたものではないから,補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものでないとした審決の判断には誤りがある。
したがって,取消事由4は理由がある。
7 取消事由5(手続違背)について(1)本件においては,以下に述べるとおり,原告は,本件補正の却下の理由とされた刊行物(甲4)について,意見を述べる機会を与えられたものということができる。
ア証拠(甲4,11,14)によると,@特許庁は,本願について,平成15年10月23日付けで拒絶理由通知(本件拒絶理由通知。甲11)をしたこと,Aその内容は,本願の請求項1〜3の発明は,4件の刊行物に記載された発明に基づいて容易に発明することができたから,特許法29条2項により特許を受けることができないというものであり,備考として,「引用例には歯車の製造方法が記載されている。」と記載されていたこと,B刊行物(甲4)は,上記4件の引用刊行物の一つであること,D特許庁は,本願について,平成16年1月22日付けで拒絶査定(甲14)をしたが,その内容は,拒絶理由通知書に記載した理由によって拒絶すべきものであるというものであり,備考として「先に示した引用例記載のものも,端縁角部に面取り部を設けた後側面を切削して面取り部の一部を残しているから,出願人の主張は採用できない。」と記載されていたことが認められる。
イそうすると,刊行物(甲4)は,拒絶理由として通知され,かつ,拒絶査定の理由とされたものであって,それについて原告は意見を述べる機会を与えられていたものである。
証拠(甲17,18)によると,原告は,本件拒絶理由通知に対する平成15年12月26日付けの意見書(本件意見書。甲17)において,「引用文献4(判決注刊行物[甲4])の技術は,傘歯車の大まかな歯形を歯切りして精度を出す際に発生するバリをなくす技術でありますし,実施例に示された傘歯車は頭部が陥没したタイプであるため,(平)歯車の側面に該当する部分が存在しないことから,歯車の側面切削をすることは想定されておらず,そのような側面切削を想定できない歯車では,側面切削で発生するバリをなくそうとすることが思い付くはずはありません。」との主張をし,さらに,本件審判手続における平成16年3月22日付けの審判理由の補正書(本件審判理由補正書。甲18)において,「引用文献4(判決注刊行物[甲4])に記載された発明においては,まず型鍛造によりブランクに歯形を形成するが,その歯形は最終歯形寸法に対して片側0.1〜0.5mmの間で均一的なとり代を付加した寸法とし,さらに歯形の内・外端面部に0.5〜2mmの面取り(角形面取りでも丸形面取りでもよい)を付与した歯形を有する中間製品とし,次にその中間製品を各種歯切盤により,歯切り加工することにより0.1〜0.5mmのとり代を削り落とし,歯形精度を向上せしめるものであるのに対して,本願第1発明(判決注補正発明)が,鍛造成形された歯形における歯筋方向の端縁角部に面取り部を鍛造手段にて形成しておき,歯部全周と切削面との間に前記面取り部が少なくとも一部残されるよう側面の端部を切削加工することにより,歯部の端部にバリが発生しないようにするものであり,切削部位,歯部が切削面か鍛造面か,面取り部に対するバリの発生部位および歯部の端部にバリが発生するかどうかにおいて,両者は全く異なるものである。」と主張しているものと認められる。これらの事実からしても,原告が刊行物(甲4)について意見を述べる機会を与えられていたことは明らかというべきである。
(2) したがって,原告主張の取消事由5は理由がない。
8取消事由6(意見書等の記載の看過)について原告が主張する取消事由6は,審決が,本件意見書及び本件審判理由補正書における原告の主張を採用しなかったことについて不服を述べるものにすぎず,他の取消事由とは別個の取消事由といえるものではないから,理由がない。
9結論以上のとおり,原告主張の取消事由1ないし4は,上記のとおり全部又は一部において理由があり,同5,6はいずれも理由がない。したがって,本件補正を却下してなした審決はその限度で違法であって,取消しを免れない。特許庁は,他の引用例の有無も含めて,改めて審理すべきである。
よって,その余の点(取消事由7,8)について判断するまでもなく,原告の請求は理由があるから,認容することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 森義之
裁判官 澁谷勝海