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関連審決 不服2002-10391
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18行ケ10278審決取消請求事件 判例 特許
平成18行ケ10420審決取消請求事件 判例 特許
平成18行ケ10325審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10332審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10429審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 新規性 /  進歩性(29条2項) /  技術的範囲 /  技術常識 /  明確性 /  発明の詳細な説明 /  化学構造 /  発明が明確 /  発明が不明確 /  パリ条約 /  優先権 /  共有 /  参酌 /  技術的意義 /  置換 /  特許発明 /  拒絶査定 /  拒絶審決 /  請求の範囲 /  国際出願 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10208号 審決取消請求事件
原告ザプロクターアンドギャンブルカンパニー
訴訟代理人弁護士吉武賢次,宮嶋学,高田泰彦
同弁理士中村行孝,紺野昭男,横田修孝
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理人天野宏樹,柳和子,徳永英男,田中敬視
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/06/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2002-10391号事件について平成17年12月13日にした審決を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「カラーセーフブリーチ増強剤,それを用いた組成物および洗濯方法」とする発明につき,平成9年8月28日(パリ条約による優先権主張1996年8月29日,アメリカ合衆国)を国際出願日として特許を出願(以下「本願」という。)し,平成13年2月20日付け手続補正書による補正をしたが,平成14年2月26日付けで拒絶査定がされたため,同年6月10日,審判を請求した。
特許庁は,上記審判請求を不服2002-10391号事件として審理し,その過程で平成14年6月20日付けで手続補正がされたが,平成17年12月13日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,平成18年1月4日,審決の謄本が原告に送達された。
2特許請求の範囲平成13年2月20日付け手続補正書及び平成14年6月20日付け手続補正書による補正後の本願の請求項1(請求項の数は全部で21項である。以下「本件請求項1」という。なお,補正後の明細書を「本願明細書」という。)は,次のとおりである。
【請求項1】ペルオキシゲン供給源と,下記式を有するブリーチ増強剤:(上記式中R 〜R は水素,あるいはアリール,ヘテロ環式環,アルキルおよ13びシクロアルキル基からなる群より選択される非置換または置換基である;R およびR は共通環の一部を形成している;Tは以下である:1 2上記式中xは0または1である;Jは,存在するとき,‐CR R ‐,‐C1112R R CR R ‐および‐CR R CR R CR R ‐からなる群より選択さ11121314 111213141516れる;R 〜R はH,直鎖または分岐C ‐C 置換または非置換アルキル,ア716118ルキレン,オキシアルキレン,アリール,置換アリール,置換アリールカルボニル基およびアミド基からなる群より選択される;但し,R 〜R のうち少く78910 7とも1つはHまたはメチルでなければならず,R もR もHでないとき,R〜R のうち1つはHでなければならない;Zはxが1であるときJxに,お8よびxが0であるときC に共有結合されていて,Zは‐CO,‐SOお b 2 3- -よび‐OSOからなる群より選択され,aは1であり,但しxが0であると 3-きR 〜Rの少なくとも1つがHではなく,そしてただしxが1であるとき710R 〜Rの少なくとも1つが存在するときHではない)716を含んでなる,漂白組成物。
(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」という。)3審決の理由別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件請求項1の記載は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしておらず,本願は特許を受けることができないとするものである。
審決は,上記結論を導くに当たり,本件請求項1のR 〜Rの選択肢につ716いて,「ここで,上記式中の記号R 〜Rについて検討すると,前記記号の716説明においてはR 〜Rの選択肢に『アルキレン,オキシアルキレン』とい716う二価の基が含まれているのに対して,上記記号Tを表す式及び記号Jを表す式中においてはR 〜Rはいずれも1つの炭素原子との結合のみを有する一716価の基として記載されており,R 〜Rが二価の基であった場合にその基の716他端が何に結合してどのような化学構造を有する化合物を形成するかは理解できない。そして,請求項1の他の箇所にもR 〜Rが二価の基であった場合716にその基の他端が何に結合してどのような化学構造を有する化合物を形成するかは記載されていないし,明細書の他の箇所の記載によってもそれが明らかになっているものとは認められない。」と判断した。
第3審決取消事由の要点審決は,特許法36条6項2号の解釈・適用を誤り(取消事由1),本件請求項1の記載の明確性についての判断を誤った(取消事由2)ものであるところ,これらの誤りがいずれも結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである。
1取消事由1(特許法36条6項2号の解釈・適用の誤り)(1)特許法36条6項2号の解釈特許請求の範囲の記載は,特許権の権利範囲がこれによって確定されるという機能を果たす点において重要な意義を有するものであるから,その記載は正確でなければならず,一の請求項から必ず発明が把握されることが必要である。特許法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載の上記機能を担保する上での中心となる規定であり,特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨を規定したものである。したがって,同号は,特許権の権利範囲を明確にすることを趣旨とする規定であり,当業者が当該特許権の権利範囲内か否かを判断することができないような特許請求の範囲の記載を排除することを趣旨とする規定であると解される。すなわち,化学構造明確性が問題となる特許の場合には,権利範囲が明確になる限度で化学構造が特許請求の範囲に示されていれば,当該特許請求の範囲の記載は同規定に適合すると考えるべきであるから,これを超えて,特許請求の範囲の記載上,権利範囲が明確であるにもかかわらず,更に化学構造自体の明確性がなければ同規定に適合しないとするのは,特許法36条6項2号の解釈を誤ったものというべきである。
これと本件請求項1のR 〜Rの選択肢についてみると,1価,2価に716かかわらず,列挙された置換基を有しない場合には,権利範囲外であることは明らかであり,列挙された置換基を有する場合には,他の要件を充足する限りで,権利範囲内であることは明らかであり,本件請求項1の記載は,権利範囲が明確になる限度で化学構造が示されており,特許法36条6項2号の規定に適合している。
以上のとおり,審決は,本件請求項1の記載上,権利範囲が明確であるにもかかわらず,更に化学構造自体の明確性がなければ同規定に適合しないと特許法36条6項2号の解釈・適用を誤った違法がある。
(2)本願の特許請求の範囲の他の記載との関係ア本件請求項1には,「置換アリール」との記載があり,「置換」部分には,何の限定もなく,どのような原子がいくつ結合しても構わない記載となっている。審決が特許法36条6項2号の解釈上,化学構造自体の明確性が必要であるとの考え方に立っているのであれば,上記の「置換アリール」との記載についても不明確であると指摘するはずであるが,そのように指摘していない。このような矛盾が生じている点からも,特許法36条6項2号に関する審決の解釈は誤りである。なお,他の出願においても「置換アリール」との文言は不明確とされないのが通例である。
イ本件請求項1には,上記のほか「置換アリールカルボニル」との記載があり,同請求項2には「置換フェニル」との記載がある。これらの「置換」部分には,何の限定もなく,どのような原子がいくつ結合しても構わない記載となっている。これらの記載についても審決の解釈によれば化学構造明確性を欠いているはずであるのに,その旨の指摘を欠く矛盾を生じている点からも,本件審決の解釈の誤りは明らかである。
(3)他の特許との関係他の特許では,1本の結合手を有する基として記載された「アルキレン基」又は「オキシアルキレン基」との記載につき不明確として拒絶されてはいない。これに対し,本件では,1本の結合手を有する基として記載された「アルキレン基」及び「オキシアルキレン基」の記載について化学構造が不明確であることを理由に拒絶審決が下されており,法の下の平等に反する。
2取消事由2(本件請求項1の記載の明確性判断の誤り)仮に,特許法36条6項2号の解釈について,本件審決と同一の立場に立ったとしても,本件請求項1のアルキレン基,オキシアルキレン基の先にどのような基が結合するかは,本件出願当時の当業者にとっては,技術常識の範囲に属するものであるから,本件請求項1の記載は明確である。すなわち,有機化合物の置換基として,アルキレン基またはオキシアルキレン基が記載されている場合には,当業者であれば,化合物の特性に大きな変化をもたらさないような基が結合する,具体的にはアルキレン基またはオキシアルキレン基の先には,酸素を含むことのある炭化水素系の置換基が結合すると理解するのが本件出願当時の当業者の技術常識であるから,その先の基が記載されていなくても化学構造明確性を満たしている。
第4被告の反論の骨子審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1取消事由1(特許法36条6項2号の解釈・適用の誤り)について(1)特許法36条6項2号の解釈特許請求の範囲は,これに基づいて新規性進歩性等の特許要件の判断がされ,これに基づいて特許発明技術的範囲が定められ,これに基づいて特許権の権利範囲が対世的に確定されるという重要な役割を担うものである。
特許法36条6項2号は,特許請求の範囲が上記の役割において満足に機能するように記載されていることを担保する趣旨の規定であり,特許を受けようとする発明が明確であること,すなわち一の請求項の記載から一の発明を明確に把握できることを求めるものである。
原告は,@1価,2価にかかわらず,本件請求項1に列挙された置換基を有しない場合は,本願発明が特許された場合の権利範囲外であることは明らかである,A1価,2価にかかわらず,本件請求項1に列挙された置換基を有する場合には,他の要件を充足する限りで,本願発明が特許された場合の権利範囲内であることは明らかである,と主張する。確かに,本件請求項1に列挙された置換基を全く有しない化合物を想定した場合は,その化合物が本願発明に包含される余地はないということができる。しかし,本件請求項1に列挙された置換基と同じ置換基を有する化合物を想定しても,それだけで直ちに想定化合物が本願発明に包含されると結論することはできない。原告は,この問題を「他の要件を充足する限りで」と簡単に済ませているが,本願発明に想定化合物が包含されるか否かの判断を下すためには,前提条件として本件請求項1の記載により本願発明の重要な特定事項である化学物質の範囲が一義的に確定していることが求められるのであり,原告の解釈はこの点において特許法36条6項2号の本来の趣旨を逸脱している。
(2)本願の特許請求の範囲の他の記載との関係審決は,発明が不明確である記載として,「アルキレン,オキシアルキレン」との記載を指摘したのであるから,原告が指摘する上記以外の「置換アリール」その他の記載の明確性を論じても,審決の取消事由とならないことは明らかである。
(3)他の特許との関係発明の明確性の判断は,個別の出願について行われるのであり,本願以外の出願又は特許における明確性の判断を論じても,審決の取消事由とならないことは明らかである。
2取消事由2(本件請求項1の記載の明確性判断の誤り)について原告が提出した甲第27〜29号証は,アルキレン基またはオキシアルキレン基に関する技術常識の存在を裏付けるものではないし,また,原告の主張する内容が本件出願当時における技術常識であったともいえない。したがって,本件請求項1のアルキレン基,オキシアルキレン基の先にどのような基が結合するかは,本件出願当時の当業者の技術常識の範囲によって特定されないから,技術常識を考慮しても,本件請求項1の記載が明確であるとはいえない。
第5当裁判所の判断1取消事由1(特許法36条6項2号の解釈の誤り)について(1)特許法36条6項2号の解釈ア原告は,同号の趣旨は,当業者が権利範囲内か否かを判断することができないような特許請求の範囲の記載を排除することにあるから,化学構造明確性が問題となる場合においても,権利範囲が明確になる限度で化学構造が示されていれば,同号の要請を満たしていると考えるべきであり,これを超えて,権利範囲が明確であるにもかかわらず,更に化学構造自体の明確性が満たされなければ同号に適合しないとするのは,特許法36条6項2号の解釈を誤ったものであると主張する。
特許請求の範囲の記載は,これに基づいて特許出願に係る発明の新規性進歩性等の特許要件が判断され,これに基づいて特許発明技術的範囲が定められ,これに基づいて特許権の権利範囲が対世的に確定されるなどの特許法の定める種々の機能を持つものである。特許法36条6項2号は,特許請求の範囲がその記載において,特許を受けようとする発明が明確であること,すなわち一の請求項の記載から一の発明を明確に把握することができることを要求しているが,その趣旨は,上記の機能のいずれとも関係するものであり,特許権の権利範囲の明確化のみに限定することはできないと解される。
したがって,特許権の権利範囲が明確である記載であれば,直ちに同号の要件を満たすとする原告の上記主張を採用することはできない。
イ審決が本件請求項1の「R 〜Rの選択肢に『アルキレン,オキシアル716キレン』という二価の基が含まれているのに対して,上記記号Tを表す式及び記号Jを表す式中においてはR 〜Rはいずれも1つの炭素原子との結716合のみを有する一価の基として記載されており,R 〜Rが二価の基であ716った場合にその基の他端が何に結合してどのような化学構造を有する化合物716を形成するかは理解できない。そして,請求項1の他の箇所にもR 〜Rが二価の基であった場合にその基の他端が何に結合してどのような化学構造を有する化合物を形成するかは記載されていないし,明細書の他の箇所の記載によってもそれが明らかになっているものとは認められない。」と判断したのに対して,原告は,本件請求項1において,1価,2価にかかわらず,列挙された置換基を有しない場合には,権利範囲外であることは明らかであり,列挙された置換基を有する場合には,他の要件を充足する限りで,権利範囲内であることは明らかであり,本件請求項1の記載は,権利範囲が明確になる限度で化学構造が示されており,特許法36条6項2号の規定に適合すると主張する。
上記主張からみれば,原告は,特許請求の範囲では,化学構造の一部分のみを特定し,特定されていない部分は任意の基を意味するという形式の記載を許容することを前提にし,このような記載でも特許法36条6項2号の規定に適合すると主張していることになる。
そこで検討するに,一般に,化学物質においては,置換基が異なれば,別の化学物質であり,その性質や活性も異なるのが通常である。また,化学構造からその性質や活性を予測することが困難な場合も多く,例えば,大きさ,極性,官能基の有無や種類において類似する置換基であれば,ある程度の予測可能性があるとしても,置換基の性質が大きく異なれば,その予測は困難である。たとえ一部分に共通する構造を有していも,異なる置換基部分の影響は,実験によらないと判明せず,実験によって初めてそれらの化学物質が共通した作用を有するか否かが確認される。ある共通する構造を有する化学物質群において,可変構造である置換基がいかなる基であっても,その発明の課題を解決するために必要な作用が共通するということを証明するには,種々の性質の異なる置換基を有する化学物質が共通した作用を有することを確認する必要があるところ,実際には,このような確認を行うことは極めて困難である。以上の検討結果からすれば,特許請求の範囲に記載された化学物質が一定の性質を有することを主要な内容とする発明においては,特許請求の範囲化学構造の一部分のみを特定し,特定されていない部分は任意の基を意味するという形式の記載は,特定されていない部分が発明の詳細な説明の記載や技術常識参酌して,当業者が一定の範囲に特定することができるなどの特段の事情がない限り,同じ性質を有しない化学物質や同じ性質を有することが実験等によって確認されていない化学物質までも特許権の権利範囲に含まれてしまう結果となるため,許容されず,結局のところ,特許法36条6項2号の規定に適合するとはいえない。
これを本件についてみると,本願発明は,ある種の化学物質が「低水温で優れた漂白効力」及び「優れたカラーセーフティプロフィール」を有するという性質があることを見い出し,かかる性質を有する化学物質を「ブリーチ増強剤」として配合した「漂白組成物」を提供することを目的としたものである(本願明細書(甲第1号証)2〜6頁)。そのため,本願発明においては,特許請求の範囲に記載された化学物質が上記の性質を有することが主要7な部分を占める。また,本件請求項1においては,結合手が一つであるR〜Rの定義中に,2価の基である「アルキレン,オキシアルキレン」が含16まれているから,選択肢が「アルキレン,オキシアルキレン」であるときには,当然に他端に何らかの基が結合することになる。そして,本願明細書を検討しても,他端に結合する基が任意の基である,すなわち,無限定のいかなる基であっても,本願発明の化学物質が有するとされる「低水温で優れた漂白効力」及び「優れたカラーセーフティプロフィール」を有することを裏付けるに足りる記載はないから,本件請求項1に係るこのような記載を許すと,上記のような作用効果を奏することが明らかではない物質まで含んでしまうことになるから,このような記載をもって,特許法36条6項2号明確性の要件を満たしたものということはできない。
なお,他端に結合する基が発明の詳細な説明の記載や技術常識参酌して一定の範囲に特定されるなどの特段の事情があるか否かについては,取消事由2についての判断において述べる。
(2)本願の特許請求の範囲の他の記載との関係原告は,本件請求項1にある「置換アリール」との文言等を取り上げて論ずるが,審決は,特許を受けようとする発明が不明確である記載として,「アルキレン,オキシアルキレン」との記載を指摘したのであるから,これ以外の「置換アリール」その他の文言の明確性は審決の結論を左右しないから,審決の取消事由とならないことは明らかであり,原告の主張は失当である。
(3)他の特許との関係原告は,他の特許における特許請求の範囲の記載についてされた判断を取り上げて論ずるが,特許を受けようとする発明の明確性の判断は,個別の出願について行われるのであり,本願以外の出願又は特許における明確性は,審決の結論を左右しないから,審決の取消事由とならないことは明らかであり,原告の主張は失当である。
2取消事由2(本件請求項1の記載の明確性判断の誤り)について原告は,審決が示した特許法36条6項2号の解釈によったとしても,本件請求項1のアルキレン基,オキシアルキレン基の先にどのような基が結合するかは,本件出願当時の当業者にとっては,技術常識の範囲に属するものであるから,本件請求項1の記載は明確であると主張し,甲第27ないし29号証を提出している。
甲第27号証(特許第3401351号公報)は,医療用材料として有用なγ線耐性を有するポリカーボネート樹脂組成物に関するものであり,ポリカーボネートのγ線照射による物性低下や黄変を防止する添加剤の化学構造の定義中に「ポリ(オキシ炭素数2〜4アルキレン)基」を含んでいる。しかし,同号証記載の発明は医療用材料に係る技術分野に属するもので,本願発明とは技術分野が異なる。また,上記添加剤と,本願発明のブリーチ増強剤とは技術的に何ら関連性はなく,かつ,同号証の「ポリ(オキシ炭素数2〜4アルキレン)基」は,「アルキレン」又は「オキシアルキレン」とは異なる基である。
甲第28号証は,眼科用レンズ材料として使用される親水性含フッ素シロキサンモノマー及びその樹脂に関するものであり,親水性含フッ素シロキサン樹脂のモノマーの化学構造の定義中に「オキシアルキレン基」が含まれている。
しかし,同号証記載の発明は医療用材料に係る技術分野に属するもので,本願発明とは技術分野が異なるし,眼科用レンズ材料の原料となるモノマーとブリーチ増強剤とは技術的に何ら関連性はない。また,同号証の「オキシアルキレン基」は,含フッ素シロキサンモノマーに親水性を付与するためのものであるが,本願発明のR 〜Rの定義には,非極性基と極性基が混在しており,親716水性であることが必須とされる同号証とはその技術的意義が異なる。
したがって,甲第27及び第28号証の各記載は,本願発明のブリーチ増強剤として用いられる化学物質の内容について何ら示唆を与えない。
甲第29号証(特許第3516039号公報)には,記録用インクの配合成分として,「ポリオキシアルキレン基を有する非イオン性界面活性剤」と記載されている。しかし,同号証記載の発明はインクジェット記録用インクに関する技術分野に属するもので,本願発明とは技術分野が異なる。また,同号証記載の発明は,界面活性剤を配合成分とするところ,本願明細書には本願発明のブリーチ増強剤として用いられる化学物質が界面活性剤であるとの記載,特に,R 〜Rの基と界面活性剤としての作用を関連づけた記載がないから,両者716は関連性に乏しい上,上記の「ポリオキシアルキレン基」は「アルキレン」又は「オキシアルキレン」とは異なる基である。
したがって,同号証の記載も,本願発明のブリーチ増強剤として用いられる化学物質の内容について何ら示唆を与えない。
さらに,本件全証拠を検討しても,本願発明において「化合物の特性に大きな変化がもたらされないような基」とはどのような基であるかが当業者の間に技術常識として存在していたとの事実を裏付けるに足りる証拠は見当たらず,本願明細書にもその旨の記載はない。
以上のとおり,本件請求項1のアルキレン基,オキシアルキレン基の他端にどのような基が結合するかは,本件出願当時の当業者にとっては,技術常識の範囲に属するものであるとの原告の主張も採用することはできない。本件請求項1のアルキレン基,オキシアルキレン基の先にどのような基が結合するかは,本件出願当時の当業者の技術常識の範囲によって特定されないから,本件請求項1の記載が明確であるとはいえない。
3結論以上に検討したところによれば,取消事由はいずれも理由がなく,審決を取り消すべきその他の誤りも認めることはできない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 田中信義
裁判官 古閑裕二
裁判官 浅井憲