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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20行ケ10065審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10358審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 技術的思想 /  方法の発明 /  製造方法 /  新規性 /  進歩性(29条2項) /  一致点の認定 /  29条の2(拡大された先願の地位) /  技術常識 /  先行技術 /  発明が明確 /  クレーム /  援用権(援用) /  技術的意義 /  実施 /  設定登録 /  訂正審判 /  新規事項追加(新規事項の追加) /  請求の範囲 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10347号 審決取消請求事件
原告ダ イワ精工株式会社
訴訟代理人弁理士鈴江武彦
同 河野哲
同 中村誠
同 幸長保 次郎
被告株 式会社シマノ
訴訟代理人弁護士岩坪哲
同 速見禎祥
訴訟代理人弁理士小林茂雄
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/06/05
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が無効2004-35154号事件について平成18年6月15日にした審決中「特許第3104838号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする 」との部分を取り消す。 。
第2事案の概要原告は,請求項1ないし3から成る後記特許の特許権者であるが,被告において上記特許の請求項1ないし3につき無効審判請求をしたところ,特許庁が平成18年6月15日付けで,請求項1に係る発明についての特許を無効とする旨の審決をしたことから,原告が上記審決のうち無効審決部分(請求項1)の取消しを求めた事案である。
なお原告は,本件訴え提起後の平成18年10月23日付けで,さらに上記請求項1等の内容に関する訂正審判請求を行い,現在特許庁に係属中である(訂正2006-39177号 。)第3当事者の主張1請求の原因 特許庁等における手続の経緯ア原告は,平成6年11月16日,名称を「中通し釣竿の製造方法」とする発明について特許出願をし,その特許は平成8年6月4日に特開平8-140532号として公開され(請求項の数3,甲5 ,その後平成12)年2月4日付けで原告から請求項1について補正がなされ(甲12。以下「本件補正」という)た上,平成12年9月1日,特許庁から特許第3104838号として設定登録を受けた(請求項1〜3。甲30。以下「本件特許」という 。)これに対し被告から,本件特許の請求項1ないし3につき特許無効審判請求がなされたので,特許庁はこれを無効2004-35154号事件として審理し,その中で原告は平成16年6月7日付けで訂正請求(甲22。
第1次訂正)をしていたところ,特許庁は平成17年2月1日 「訂正を,認める。特許第3104838号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。特許第3104838号の請求項2ないし3に係る発明についての審判請求は,成り立たない 」旨の審決(甲12,乙1。第1次審 。
決)をした。
イこれに対し原告から,請求項1を無効とする旨の部分につき,審決取消訴訟が提起され,東京高裁(平成17年(行ケ)第97号)及び同高裁から回付を受けた当庁(平成17年(行ケ)第10267号)で審理したところ,原告から平成17年6月13日付けで本件特許につき訂正審判請求(甲31。第2次訂正)がされた(以下「本件訂正」という。甲31)ことから,当庁は平成17年7月15日,特許法181条2項により,上記審決部分を取り消す決定をした。
ウそこで,特許庁は,上記無効2004-35154号事件につきさらに審理し,その中で原告は本件訂正請求を維持したことから,特許庁は,平成18年6月15日 「訂正を認める。特許第3104838号の請求項 ,1に係る発明についての特許を無効とする 」旨の審決をし,その謄本は 。
平成18年6月27日原告に送達された。
 発明の内容ア本件特許の特許請求の範囲は,出願時より請求項1〜3から成るところ,その請求項1の発明内容の変遷は,下記のとおりである。
イ本件補正時(平成12年2月4日付け。甲6)及び登録時(平成12年9月1日。甲30)のもの。下線部は補正部分。
「 請求項1】 樹脂をマトリックスとして強化繊維によって強化形成さ 【れた竿管内に釣糸を挿通させる中通し釣竿の製造方法であって,マンドレルに厚さの厚い巻回部材を,該巻回部材側縁間に釣糸ガイド部材を沿わせる隙間を有するように巻回し,前記隙間を厚さの薄い柔軟部材によって覆い(該薄い柔軟部材の側面同士が接触する状態に密巻きする方法を除く ,)該薄い柔軟部材の上から前記隙間に沿って釣糸ガイド部材を配設し,その上に前記樹脂を含浸又は混合した繊維強化プリプレグを巻回し,加圧,加熱して形成し,その後,前記マンドレルを引き抜き,前記厚い巻回部材と薄い柔軟部材を除去することを特徴とする中通し釣竿の製造方法 」。
ウ第1次訂正時(平成16年6月7日付け。甲22。下線部は訂正部分)のもの「 請求項1】 樹脂をマトリックスとして強化繊維によって強化形成さ 【れた竿管内に釣糸を挿通させる中通し釣竿の製造方法であって,マンドレルに厚さの厚い巻回部材を,該巻回部材側縁間に釣糸ガイド部材を沿わせる隙間を有するように巻回し,前記隙間を厚さの薄い柔軟部材によって覆い(該薄い柔軟部材の側面同士が接触する状態に密巻きする方法を除く ,)該薄い柔軟部材の上から前記隙間に沿って釣糸ガイド部材を配設し,その上に前記樹脂を含浸又は混合した繊維強化プリプレグを巻回し,加圧,加熱して形成し,その後,前記マンドレルを引き抜き,前記厚い巻回部材と薄い柔軟部材を除去する中通し釣竿の製造方法であって,釣糸ガイド部材周りに流入する樹脂によって囲まれた釣糸ガイド部材の断面形状を,前記薄い柔軟部材の存在によって竿管の半径方向に突出する表面を滑らかに形成することを特徴とする中通し釣竿の製造方法 」。
エ本件訂正〔第2次訂正〕時(平成17年6月13日付け。甲31。以下「訂正発明」という。下線部は訂正部分 )のもの。
「 請求項1】 樹脂をマトリックスとして強化繊維によって強化形成さ 【れた竿管内に釣糸を挿通させる中通し釣竿の製造方法であって,マンドレルに厚さの厚い巻回部材を,該巻回部材側縁間に釣糸ガイド部材を沿わせる隙間を有するように巻回し,前記隙間を厚さの薄い柔軟部材によって覆い(該薄い柔軟部材の側面同士が接触する状態に密巻きする方法を除く ,且つ,上記巻回部材の表面全 )体に亘って覆い,該薄い柔軟部材の上から前記隙間に沿って釣糸ガイド部材を配設し,その上に前記樹脂を含浸又は混合した繊維強化プリプレグを巻回し,加圧,加熱して形成し,その後,前記マンドレルを引き抜き,前記厚い巻回部材と薄い柔軟部材を除去する中通し釣竿の製造方法であって,釣糸ガイド部材周りに流入する樹脂によって囲まれた釣糸ガイド部材の断面形状を,前記薄い柔軟部材の存在によって竿管の半径方向に突出する表面を滑らかに形成することを特徴とする中通し釣竿の製造方法 」。
 審決の内容ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。
その要点は,本件訂正は適法であるが,@訂正発明は,その出願の日前の出願であってその後に公開された(出願日 平成6年8月10日,公開日 平成8年2月27日)特願平6-187986号(特開平8-51894号)の願書に最初に添付された明細書又は図面(甲4。以下「先願明細書」といい,これに記載された発明を「先願発明」という )と同一で。
あるから,平成6年改正前の特許法(以下「旧特許法」という )29条
の2第1項により特許を受けることができない,また,A平成12年2月4日付けでなされた本件補正は,当初明細書又は図面に記載されておらず,且つ,自明のことともいえないから,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものではなく,旧特許法17条の2第2項で準用する同17条2項に違反する等というものである。
イなお審決は,上記@の判断に当たり,先願発明の内容並びに訂正発明との一致点及び相違点を次のとおり認定した。
<先願発明の内容>「樹脂と強化繊維とからなる竿素材の内周面を,凹凸面に形成してある中通し竿の製造方法であって,(イ)芯金1に離型材としてのワックス2を塗布し,(ロ)この上から離型用のポリエステルテープ3をそのテープ3の側面同士が接触する状態に密巻きし,(ハ)凹凸形成用のテープ4を芯金軸芯方向に所定間隔を持って巻回し,(ニ)更に,凹凸形成用テープ4の上より,離型用のポリエステルテープ5をそのテープ5の側面同士が接触する状態に密巻きし,(ホ)周方向に配した炭素繊維に樹脂を含浸させたシート状プリプレグをテープ状に細断し,そのテープ7Aを側面同士が接触する状態に密巻きして,最内層を形成し,(ヘ)前後端の膨出嵌合部を形成するプリプレグパターン7aを巻回し,(ト)炭素繊維を軸芯方向に配したプリプレグテープ7Bを,その側面同士が接触する状態になるように密巻きして,第2層を形成し,さらに,周方向に炭素繊維を配したプリプレグテープ7Cと軸芯方向に炭素繊維を配したプリプレグテープ7Dを巻回して第3層及び第4層を形成して4層構造の竿素材7を形成し,(チ)竿素材7の外周面に保形用テープとしてのポリエステルテープ8を巻回して竿素材7を焼成し,(リ)焼成後ポリエステルテープ8を剥離し,離型用テープ3,5とともに凹凸形成用テープ4を取り外し,内周面に螺旋状の凹凸面9A,9Bを有する竿素材7を形成する中通し竿の製造方法」<一致点>「樹脂をマトリックスとして強化繊維によって強化形成された竿管内に釣糸を挿通させる中通し釣竿の製造方法であって,マンドレルに厚さの厚い巻回部材を,該巻回部材側縁間に釣糸ガイド部材を沿わせる隙間を有するように巻回し,前記隙間を厚さの薄い柔軟部材によって覆い,且つ,上記巻回部材の表面全体に亘って覆い,該薄い柔軟部材の上から釣糸ガイド部材を構成する素材を配設し,その上に前記樹脂を含浸又は混合した繊維強化プリプレグを巻回し,加圧,加熱して形成し,その後,前記マンドレルを引き抜き,前記厚い巻回部材と薄い柔軟部材を除去する中通し釣竿の製造方法」<相違点(A)>厚さの厚い巻回部材間の隙間を厚さの薄い柔軟部材によって覆う構成が,訂正発明では 「隙間を厚さの薄い柔軟部材によって覆い(該薄い ,柔軟部材の側面同士が接触する状態に密巻きする方法を除く 」である)のに対し,先願発明では,薄い柔軟部材の側面同士が接触する状態に密巻きされたものである点。
<相違点(B)>釣糸ガイド部材を構成する素材を配設するのに,訂正発明では 「前,記隙間に沿って釣糸ガイド部材を配設し」ているのに対し,先願発明では,周方向に配した炭素繊維に樹脂を含浸させたシート状プリプレグをテープ状に細断し,そのテープ7Aを側面同士が接触する状態に密巻きしている点。
<相違点(C)>前記薄い柔軟部材の存在によって,訂正発明では,釣糸ガイド部材周りに流入する樹脂によって囲まれた釣糸ガイド部材の断面形状を,竿管の半径方向に突出する表面を滑らかに形成するのに対し,先願発明では,不明である点。
 審決の取消事由しかしながら,審決は,訂正発明と先願発明との一致点の認定を誤り(取消事由1 ,相違点についての判断を誤り(取消事由2〜4 ,作用効 ) )果についての判断を誤り(取消事由5 ,旧特許法17条2項の要件の充 )足性の判断を誤った(取消事由6)ものであるから,違法として取り消されるべきである。
ア取消事由1(一致点の認定の誤り) 「柔軟部材」につき審決は 「…先願明細書の発明の「テープ5」が請求項1に係る発明 ,の「薄い柔軟部材」に対応している(10頁18行〜19行)とす 。」るが,誤りである。
すなわち,先願発明では,テープ5は離型の為に設けられているが,離型という機能を発揮するためにテープ5の厚さが凹凸形成用テープ4の厚さとの関係で意義を持つことはない。そこで,先願明細書に添付された図面を検討すると,図4の断面図には「凹凸形成用テープ4」よりも明らかに厚い「テープ5」が明示されている。そうすると,先願明細書には「凹凸形成用テープ4より厚さの厚いテープ5が開示されている」ということはできたとしても 「凹凸形成用テープ4より ,厚さの薄いテープ5が開示されている」ということはできない。
 「巻回部材」につき上記 に関連して,審決が「凹凸形成用テープ4」を「厚さが厚い」と認定した一致点の判断も,誤りがあることになる。
 「釣糸ガイド部材」につき審決は 「…請求項1に係る発明の「薄い柔軟部材の上から隙間に沿 ,って釣糸ガイド部材を配設」することと先願明細書の発明の「 ホ)周(方向に配した炭素繊維に樹脂を含浸させたシート状プリプレグをテープ状に細断し,そのテープ7Aを側面同士が接触する状態に密巻きして,最内層を形成」することとは,薄い柔軟部材の上から釣糸ガイド部材を構成する素材を配設することで共通する(10頁20行〜2。」5行)とするが,誤りである。
すなわち,訂正発明では,文言上明らかなように,焼成前に「釣糸ガイド部材」を配設している。これに対し,先願発明では 「テープ7,A (審決のいう「釣糸ガイド部材を構成する素材 )を配設している 」 」が,この素材自体は他のプリプレグテープ7B,7C,7Dとともに4層構造の竿素材7を形成するものである。すなわち,この素材は,焼成前は竿素材であるが,焼成の工程の後に,結果として釣糸ガイド部材を構成しているものである。したがって,訂正発明が製造方法の発明であり,製造工程の相違を対比しなければならないことを理解すれば,訂正発明の「釣糸ガイド部材」と先願発明の「テープ7A」とを一致点で括ることは誤りである。審決は単に結果物として釣糸ガイド部材が得られることをもってその製造工程も共通であるかのごとき判断をしており,その判断手法に根本的な誤りがある。
 「巻回部材側縁間に釣糸ガイド部材を沿わせる」につきまた,審決は 「…該巻回部材側縁間に釣糸ガイド部材を沿わせる隙 ,間を有するように巻回し,… (10頁下7行〜下6行)の点も一致点 」であるとするが,誤りである。すなわち,先願発明では,凹凸形成用テープ4の上から厚さの厚い離型用テープ5を巻いているので,既にその時点でテープ4側縁間にテープ7Aを沿わせる隙間を有していない。
イ取消事由2(相違点(A)の判断の誤り) まず,上記ア  に記載した理由により,相違点(A)は実質的な構成の差異である。
 審決は,先願発明に関し「…テープ5は凹凸形成用テープ4及びその隙間を被覆していれば,離型用テープの側面同士が接触する状態に密巻きしたものでなくてもその作用を奏することは明らかである(12。」頁20行〜22行)として,先願明細書には,離型用テープ5として側面同士を接触する状態に密巻きしたものでないが凹凸形成用テープ4及びその隙間を被覆するものが示されている旨説示する。
しかし,先願明細書にはそのようなことは全く示されていない。まして 「離型用テープの側面同士が接触する状態に密巻きしたものではな ,い場合に,それが凹凸形成用テープ4及びその隙間を被覆すること」は全く記載も示唆もない。
この点,原告が,離型用ポリエステルテープ5を,その側面同士が凹凸形成用テープの間隔(隙間)の位置で接触する状態に密巻きした試料1,その側面同士が間隔の位置で重なるように巻回した試料2,その側面同士が凹凸形成用テープの位置で接触(間隔の位置で接触しない)試料3を製造して実験した(甲53)ところ,試料1は凸部が形成されるものの樹脂に角部が形成され,試料2は樹脂自体が流出せず凸部が形成されず,試料3は釣糸ガイドとしての機能を有する高さの凸部が形成されなかった。
また,上記の「その作用」について,それが先願発明の作用(焼成後に凹凸形成用テープを剥がし易い)であるのか,訂正発明の作用(釣糸ガイド部材の表面が滑らか)であるのか正確には理解できないが,そのいずれであったとしても,いずれも先願明細書に記載されておらず,示唆もされていない。
 また審決は 「本件無効審判事件の被請求人である特許権者は,先願 ,明細書の発明のようにテープ5の側面同士が接触する状態になるように密巻きする場合,必ずしも隙間を覆うことにはならない旨主張しているが,テープ5により密巻きすると必ず隙間の部分にテープ5の側面同士が位置してしまうというものではないし,隙間の部分にテープ5の側面同士が位置することでうまく密巻きできない状況が想定されるのであれば,予めそれを回避するようにテープ5を密巻きすればよいだけのことであるから,被請求人の主張は採用できない(12頁下13行〜下 。」7行)とする。
しかし,審決は,訂正発明が「テープ5の側面同士が接触する状態になるように密巻きする場合」を除いていることを無視している。また,「隙間の部分にテープ5の側面同士が位置することでうまく密巻きできない状況が想定される」とのことは先願明細書に一切記載されていない。
離型を目的として離型用テープを側面同士が接触する状態に密巻きするには,隙間の幅やピッチにかかわらず,そのテープの幅,ピッチなどは任意に選択できるのであるから 「隙間の部分にテープ5の側面同士が ,位置することでうまく密巻きできない状況が想定される」ということもないし 「予めそれを回避するようにテープ5を密巻きする」との設計 ,思想も生じ得ないものである。
そもそも,訂正発明のような目的並びに作用効果を持たない「テープ5」に対し,当業者が密巻き以外の巻き方で被覆する設計を考える必然性も必要性もないから,設計上の微差に過ぎないとする審決の判断は,誤りであるといわざるを得ない。
ウ取消事由3(相違点(B)の判断の誤り) 先願明細書には,テープ7Aを離型用テープ5の上から側面同士が接触する状態に密巻きすることが記載されているが,焼成前に 「厚さの,厚い巻回部材の側縁によって形成されている隙間に沿わせて釣糸ガイド部材を配設すること」が記載されていない。実際にも,凹凸形成用テープ4の上から巻かれる離型用テープ5は厚さが厚いので,テープ4に隙間が形成されていても,焼成前には,テープ7Aをここに沿わせることはできない。
 審決は 「…テープ7Aは,焼成後,竿の内周面に凸面9Bを形成し ,釣糸ガイドとしても作用するものであるから,凹凸形成用テープ4間の隙間に巻回されたテープ7Aは,薄い柔軟部材の上から前記隙間に沿って配設した,釣糸ガイド部材形成用のテープということができる 」。
(12頁下1行〜13頁3行)とする。
しかし,訂正発明は製造方法の発明であり,かつ,相違点(B)は,焼成前の工程に関するものであるから,訂正発明における焼成前の工程と先願発明の焼成前の工程とを対比することなく,訂正発明における焼成前の工程と先願発明の焼成後の物(中通し竿)の構成とを対比するのは誤りであるし,また,テープ7Aが間隔にも巻回されていることをもって,即,隙間に「沿って」配設されているとする点も誤りである。そして,先願明細書には,テープ7Aを焼成前に,隙間に沿って配設することは一切記載されていない。
 また審決は 「…先願明細書には 「凹凸形成用テープ4を所定間隔 ,,をおいて巻回するとともに,その間隔内に表面高さを揃えてプリプレグテープ7Gを巻回し」…と,薄い柔軟部材の上からではないが,凹凸形成用テープ4の間隔内にプリプレグテープ7Gを巻回することが記載されている。そうすると,先願明細書の発明において,釣糸ガイド部材形成用のテープを凹凸形成テープ4の間隔に沿って巻回することは当業者が適宜できる設計上の微差に過ぎない(13頁4行〜11行)とす 。」る。
しかし,先願明細書のこの実施例は,薄い柔軟部材を介在していないのであるから 「隙間に釣糸ガイド部材を沿わせて配設することによっ ,て,該隙間に押し込められた薄い柔軟部材を存在させる」という訂正発明の技術的思想が全くない。しかも,離型用のテープ5を介在させれば,凹凸形成用テープ4と表面高さをそろえて隙間内にプリプレグテープ7Gを巻回することができなくなり,この実施例記載の発明の目的を達成することができなくなるのであるから,薄い柔軟部材を存在させるという発想はこの点からも全くない。
エ取消事由4(相違点(C)の判断の誤り)審決は 「先願明細書の発明は,凹凸形成用テープ4間の隙間を薄い柔 ,軟部材(テープ5)で覆っており,…釣糸ガイド部材周りに流入する樹脂によって囲まれた釣糸ガイド部材の断面形状が,竿管の半径方向に突出する表面を滑らかに形成する作用を奏することは明らかである… (13頁」13行〜18行)とする。
しかし,先願発明は,薄い柔軟部材が隙間を覆っているわけでも,厚さの厚い巻回部材の側縁によって形成された隙間に該薄い柔軟部材の上から釣糸ガイド部材を沿わせて配設しているわけでも,該隙間に押し込められた薄い柔軟部材が存在しているわけでもない。
そして,先願発明では,凹凸形成用テープ4上に巻回されたテープ7Aが,焼成後,竿の内周面に凸面9Bを形成するとしても,その凸面9Bの表面を滑らかにすることについて全く手当していないし,手当する意図もないのであるから,先願発明もまた,釣糸ガイド部材周りに流入する樹脂によって囲まれた釣糸ガイド部材の断面形状が竿管の半径方向に突出する表面を滑らかに形成する作用を奏するとの上記説示は根拠のないものである。
オ取消事由5(作用効果の相違の判断の誤り) 訂正発明は,焼成前の工程において,隙間(厚さの厚い巻回部材の側縁によって形成された隙間)を厚さの薄い柔軟部材によって覆い,該薄い柔軟部材の上からこの隙間に釣糸ガイド部材を沿わせる工程をとることにより,焼成時に,釣糸ガイド部材の周りに流入する樹脂に角部が生じることを防止して滑らかに形成することができ,その結果,得られた中通し釣竿は釣糸を滑らかに案内することができる効果を奏する。
これに対し,先願発明は,焼成前の工程において,凹凸形成用テープ4の上から離型用テープ5を側面同士が接触する状態に密巻きするが,テープ4の側縁によって形成された隙間を覆っているわけではない。また,テープ7Aは側面同士が接触する状態に密巻きするが,隙間に釣糸ガイド部材を沿わせて配設しているわけではない。
したがって,先願発明では 「焼成時に,釣糸ガイド部材の周りに流 ,入する樹脂に角部が生じることを防止して滑らかに形成することができ,その結果,得られた中通し釣竿は釣糸を滑らかに案内することができる」という訂正発明の効果を奏することはできない。このように,訂正発明と先願発明とは相違点に係る構成によって両発明の奏する作用効果が顕著に相違し,ここに訂正発明の発明力が認められるものである。
 また,訂正発明は,焼成前に 「隙間を厚さの薄い柔軟部材で覆い, ,その上から隙間に沿って釣糸ガイド部材を配置する」工程を備えることにより,焼成時において,釣糸ガイド部材の周りに流入する樹脂に角部が生じるのを防止して滑らかに形成することができるという中通し竿の製造方法の発明である。これに対し,先願発明は,先願明細書の段落【0009】の記載からも明らかなとおり,焼成時に凹凸形成用テープの間隔内に竿素材が入り込んで竿素材の内面に凹凸面が形成される方法であり,焼成前は凹凸形成用テープの間隔内に竿素材が入り込む方法ではない。
カ取消事由6(旧特許法17条2項の要件の充足性についての判断の誤り) 審決は 「…審査基準は,当初明細書又は図面に 「除く」べき特定 , ,の構成が記載されており,その特定の構成を「除く」ことにより新規性が満たされるような場合を意図していると思料されるから,被請求人の主張は採用できない(15頁11行〜14行)とする。 。」 ところで,除くクレームに関する審査基準は下記のとおりである。
記「除くクレーム」とは,請求項に係る発明に包含される一部の事項のみを当該請求項に記載した事項から除外することを明示した請求項をいう。
補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで,補正により当初明細書等に記載した事項を除外する「除くクレーム」は,除外した後の「除くクレーム」が当初明細書等に記載した事項の範囲内のものである場合には,許される。
なお,次の(@),(A)の「除くクレーム」とする補正は,例外的に,当初明細書等に記載した事項の範囲内でするものと取扱う。
(@)請求項に係る発明が,先行技術と重なるために新規性等(第29条第1項第3号,第29条の2又は第39条)を失う恐れがある場合に,補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで,当該重なりのみを除く補正。
(A)請求項に係る発明が 「ヒト」を包含しているために,特許法第29条柱書 ,の要件を満たさない,あるいは,同法第32条に規定する不特許事由に該当する場合において 「ヒト」が除かれれば当該拒絶の理由が解消される場合に, ,補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで,当該「ヒト」のみを除く補正。
(説明)上記(@)における「除くクレーム」とは,補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで,特許法第29条第1項第3号,第29条の2又は第39条に係る先行技術として頒布刊行物又は先願の明細書等に記載された事項(記載されたに等しい事項を含む)のみを当該請求項に記載した事項から除外することを明示した請求項をいう。
(注1)「除くクレーム」とすることにより特許を受けることができるのは,先行技術技術的思想としては顕著に異なり本来進歩性を有する発明であるが,たまたま先行技術と重複するような場合である。そうでない場合は 「除,くクレーム」とすることによって進歩性欠如の拒絶の理由が解消されることはほとんどないと考えられる。
(注2)「除く」部分が請求項に係る発明の大きな部分を占めたり,多数にわたる場合には,一の請求項から一の発明が明確に把握できないことがあるので,留意が必要である 」。
 しかるに,訂正発明の「 該薄い柔軟部材の側面同士が接触する状態 (に密巻きする方法を除く 」は,本件補正前の請求項に記載した事項の )記載表現を残したままで,旧特許法29条の2に係る先行技術として先願の明細書等に記載された事項(記載されたに等しい事項を含む)のみを当該請求項に記載した事項から除外することを明示した請求項であり,先行技術技術的思想としては顕著に異なり本来進歩性を有する発明であるが,たまたま先行技術と重複するような場合である。
したがって,本件補正は,旧特許法17条2項の要件を充足しているものであり,審決の判断は,審査基準から逸脱した誤ったものである。
 なお審決は 「…本件平成12年2月4日付の手続補正における「隙 ,間を厚さの薄い柔軟部材によって覆い(該薄い柔軟部材の側面同士が接触する状態に密巻きする方法を除く 」は,当初明細書又は図面に記載 )されておらず,且つ,自明のことともいえない… (15頁15行〜1」8行)とする。
しかし,当業者の一般的な技術常識として,テープの覆い方には重ねて巻くか,側面同士が接触する状態に密巻きするか,間をおいて(粗に)巻くかのいずれかであり,このことは当業者に自明であるから,訂正発明の「隙間を厚さの薄い柔軟部材によって覆い(該薄い柔軟部材の側面同士が接触する状態に密巻きする方法を除く 」は,当業者にとっ)て自明な巻回方法である。
2請求原因に対する認否請求原因 〜  の各事実は認めるが,同  は争う。
3被告の反論審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
 取消事由1(一致点の認定の誤り)に対しア原告は,先願明細書(甲4)の図4の断面図には凹凸形成用テープ4より厚い「テープ5」が記載されているから「薄い柔軟部材」が開示されているとの一致点認定は誤りであると主張する。
しかし,先願明細書の「凹凸形成用のテープ4」は,基材が布である(6欄8行〜9行)であるのに対し,凹凸形成用テープ4の上から密巻きされる離型用テープ5はポリエステルテープである(6欄13行〜15行 。そして 「基材が布のテープ」が「ポリエステルテープ」よりも厚 ),さが厚く且つ布よりポリエステルの方が柔軟であることは自明である。すなわち,釣竿製造方法の技術分野で用いられる「ポリエステルテープ」の厚みはせいぜい40μm程度であることが技術常識であるから 「凸面9,Bの高さH=0.4〜0.6o (6欄46行〜47行)を形成する40 」0〜600μm程度の厚みの凹凸用テープと比して,ポリエステルテープ(先願明細書の「テープ5 )が「薄い柔軟部材」に相当するものである 」ことは,技術常識に裏付けられた自明事項である。先願明細書の【図4】は,作図上「テープ5」をハッチングで強調するために厚く表現したものと解釈するのが妥当である。
イまた原告は,製造工程の観点から訂正発明の「釣糸ガイド部材」と先願発明の「テープ7A」を一致点で括ることはできず,審決が「釣糸ガイド部材を構成する素材を配設」する構成で訂正発明と先願発明が一致するとした認定は誤りであると主張する。
しかし,先願明細書の図4には,凹凸形成用テープ4の側縁によって形成されている隙間に沿わせてプリプレグテープ7Aを配設されている状態が明示されている。図4は,図2(ニ)の工程の断面図であるから,最終形態(焼成後の状態)を示したものではなくプリプレグテープ7A,7B,7C,7Dを密巻きした焼成前の状態を示しているものであり,プリプレグは凹凸形成用テープ4の基材である布に比して遥かに柔軟性を有し且つ厚さが薄いという技術的事項からも裏付けられるものである。そして,隙間に嵌入した部分とは,中通し釣竿における「釣糸ガイド部材」にほかならない。さらに,先願明細書(甲4)には 「…周方向に配した炭素繊維 ,に樹脂を含浸させたシート状のプリプレグをテープ状に細断し,そのテープ7Aを側面同士が接触する状態に密巻きして,最内層を形成する。…」(6欄22行〜25行)ことが記載されているから,その結果 「テープ,7A」が「テープ4の側縁間の隙間の中」に嵌入するように巻回されることは自明である。
 取消事由2(相違点(A)の判断の誤り)に対しア原告は,審決は先願発明において離型用テープ5の厚さが凹凸形成用テープ4の厚さより厚い点を誤解している旨主張するが,上記 アに述べたとおり,失当である。
イまた原告は,先願明細書には「側面同士が接触する状態を密巻きする方法」を除いた実施態様も,その場合に,離型の作用ないし釣糸ガイド部材の表面円滑性の作用効果があるなどとは記載も示唆もされていないと主張する。
しかし,先願明細書(甲4)の請求項5は,薄い柔軟部材の側面同士が接触する状態に密巻きする方法を除いておらず 「薄い柔軟部材の側面同 ,士が接触する状態に密巻きする方法を除かない中通し釣竿の製造方法」が開示されている。したがって,該方法を「除く」クレームとしたことによって訂正発明と先願発明との間に実質的差異が生じたという原告の主張は,そもそも先願発明の開示と相容れない誤ったものである。
なお,審決が指摘する「その作用」とは 「 テープ5』は,凹凸形成 ,『用テープ4の剥離を容易にするためのもの」であるとの審決の説示(12頁18〜22行)から自ずと明らかである。そして,先願発明の離型用テープ5が凹凸形成用テープ4及びその隙間を被覆していれば,側面同士の接触の有無に関わらず当該作用を奏することは明らかであるから,側面同士を接触させるかどうかという程度のことは設計上の微差にすぎない。
 取消事由3(相違点(B)の判断の誤り)に対しア原告は,先願発明のテープ7Aが「焼成前に,隙間に沿って配設する」ものではないと主張する。
しかし 「釣糸ガイド部材」を焼成前に厚い巻回部材の隙間に配設する ,ことに格別の技術的意義が存在するのであればともかく,プリプレグテープを離形用テープが巻かれた凹凸成形用テープの上に巻いた場合に,プリプレグテープが加熱によって著しく粘度を低下し,マンドレルに巻かれた部材の形状(凹凸形状)に沿って釣糸ガイド部材となることは周知であって,両方法の間に格段の技術的意義の相違は存在しない。
イまた原告は,相違点(B)で示された構成により,訂正発明では釣糸ガイド部材の周りに樹脂の角部が生ずることを防止して釣糸ガイド部材を滑らかに形成するのに対し,先願発明では訂正発明の構成を備えていないので,そのような作用を発揮することができないと主張する。
しかし,先願明細書(甲4)には 「…請求項4の構成において,…前 ,記凹凸形成用テープと竿素材との間に,離型用テープを巻回することによって,焼成後に剥がす際により容易に行うことができ,凹凸面が所期通りにでき,糸の摺動抵抗の増加を来すことはない (4欄14行〜19行 , 」)「このように竿素材9の内周面に凹凸面9A,9Bを形成することによって,凹凸面9A,9Bを形成しないものに比べて,糸の繰り出し時の摺接抵抗を略1/2近くの0.3〜0.7gに低減できる (6欄末行〜7欄」3行)とのように,訂正発明と全く同一の効果を奏することが記載されているから,原告の上記主張は失当である。
ウまた原告は,相違点Bの判断において審決が援用した「プリプレグテープ7G」に係る実施例について 「薄い柔軟部材を介在していない」とか ,「離型用テープ5…を介在させれば,凹凸用テープ4と表面高さをそろえて隙間内にプリプレグテープ7Gを巻回することができなく」なるなどと主張する。しかし,プリプレグテープ7Gの実施態様と離型用テープ5の実施態様が同一文献中に開示されている以上,訂正発明は先願発明と同一であることに変わりはない 「別実施例」という記載上の形式事項のみに 。
より,訂正発明の特定事項の全てが先願明細書に開示されている事実が左右されることはない。
 取消事由4(相違点(C)の判断の誤り)に対し上記 イで述べたとおり,釣糸ガイド部材の断面形状を滑らかに形成して釣糸の摺動抵抗を減らす技術思想は,先願明細書にズバリ開示されたものであるから,先願発明では凸面9Bの表面を滑らかにすることについて全く手当していないし手当する意図もない等の原告の主張は失当である。
 取消事由5(作用効果の相違の判断の誤り)に対し上記 イで述べたとおり,釣糸ガイド部材の断面形状を滑らかに形成して釣糸の摺動抵抗を減らす技術思想は,先願明細書にズバリ開示されたものである。
なお原告は,先願明細書の段落【0009】の記載からも明らかなとおり,焼成前は凹凸形成用のテープの間隔内に竿素材が入り込むものではないと主張する。しかし,凹凸形成用テープに対し離型用テープ(ポリエステルテープ)が柔軟且つ薄い素材である技術常識,及び,先願明細書(甲4)の図4(焼成前の巻回状態の断面図)の開示に照らせば,プリプレグテープ7Aの隙間に対向する部分が隙間に嵌入していることは明らかであって,上記の段落【0009】の「請求項4における発明の目的は,…焼成時にこの凹凸形成用のテープの間隔内に竿素材が入り込み,…」との記載は加熱により粘度が低下したプリプレグが隙間の端から端まで回りこむ(焼成前は回り込まない)趣旨の記載と解釈すれば十分であり,先願明細書と上記の段落【0009】の記述との間に矛盾は存在しない。
 取消事由6(旧特許法17条2項の要件の充足性についての判断の誤り)に対し本件補正は,当初明細書に記載された事項の範囲内による補正ではなく新規事項追加補正である。
すなわち,旧特許法17条2項は 「……明細書又は図面について補正を ,するときは,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならない」と定めている。したがって,当初明細書に明記されていない事項を「クレームから除く」と記載する補正が「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」における補正に該当すると解する余地は存在しない。
第4当裁判所の判断1請求原因 (特許庁等における手続の経緯 ,  (発明の内容 ,  (審決 ))の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,審決の違法性の有無に関し,原告主張の取消事由ごとに判断する。
なお,証拠(甲43の2)及び弁論の全趣旨によれば,原告が本訴提起後の平成18年10月23日付けでなしている訂正審判請求(訂正2006-39177号)のうち本件特許の請求項1に係る部分の内容は,次のとおりである。
(下線部は訂正部分)「 請求項1】 樹脂をマトリックスとして強化繊維によって強化形成された 【竿管内に釣糸を挿通させる中通し釣竿の製造方法であって,マンドレルに厚さの厚い巻回部材を,該巻回部材側縁間に釣糸ガイド部材を沿わせる隙間を有するように巻回し,前記隙間を前記巻回部材よりも厚さの薄い柔軟部材によって覆い(該薄い柔軟部材の側面同士が接触する状態に密巻きする方法を除く ,且つ,上記巻回部)材の表面全体に亘って覆い,該薄い柔軟部材の上から厚さの厚い巻回部材の側縁によって形成された隙間に釣糸ガイド部材を沿わせて配設することによって,該隙間に押し込められた薄い柔軟部材が存在しており,その上に前記樹脂を含浸又は混合した繊維強化プリプレグを巻回し,加圧,加熱して形成し,その後,前記マンドレルを引き抜き,前記厚い巻回部材と薄い柔軟部材を除去する中通し釣竿の製造方法であって,釣糸ガイド部材周りに流入する樹脂によって囲まれた釣糸ガイド部材の断面形状を,前記薄い柔軟部材の存在によって竿管の半径方向に突出する表面を滑らかに形成することを特徴とする中通し釣竿の製造方法 」。
2取消事由1(一致点の認定の誤り)について 訂正発明についてア訂正発明の内容は,前記第3,1 エ記載のとおりであるところ,本件明細書(甲30〔特許公報〕を,その後の訂正〔甲22,31〕により改めたもの)には,以下の記載がある。
 産業上の利用分野本発明は,熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂をマトリックスとして強化繊維によって強化形成し,内側面に釣糸ガイド部材を配設した中通し釣竿の製造方法に関する (段落【0001 ) 。】 従来の技術釣糸の滑り性の向上や竿管内面の摩耗損傷防止等の観点から,竿管内面に単一繊維の釣糸案内環状体を一体化させる方法が…開示されている。
即ち,マンドレルの外周面に単一繊維を適数箇所巻き付け,この上からプリプレグを巻回して常法に従って竿管を一体形成する。またマンドレルに段差部を設け,この段差部に釣糸案内環状体を位置決めしてプリプレグを巻回する方法等が開示されている (段落【0002 ) 。】 発明が解決しようとする課題然しながら,釣糸案内環状体は,その内面がマンドレル表面によって規制されているため,外側からプリプレグを巻回すると,該プリプレグは釣糸案内環状体近傍が半径方向外方に凸状になり,その他の部分がマンドレルの表面に沿ってマンドレルに接触する。即ち,プリプレグによる竿管の成形では該竿管内面と釣糸案内環状体の内面とが面一になり,釣糸案内環状体が竿管内面から半径方向内方に突出することができない上,加熱成形時にプリプレグから樹脂がマンドレル表面に流れて釣糸案内環状体が樹脂に埋もれてしまうため,釣糸案内環状体は竿管内面の内方に露出できない (段落【0003 ) 。】また釣糸案内環状体の内面を一部露出することがあってもその周囲に樹脂がバリ状に貼り付いていることが多く,この状態で釣糸を案内するとそのバリ状樹脂によって釣糸が損傷することがあり,安定した釣糸案内機能を発揮できない。マンドレルに位置決めの段差部を設けた場合も,単一繊維の大きさでは同様に樹脂によって埋没する (段落【000。
4 )】こうした問題の他,前述のようにプリプレグは釣糸環状体の近傍で外方向に凸状態になり,繊維が蛇行して竿管の強度が低下するという問題もある (段落【0005 ) 。】依って本発明は,繊維蛇行を防止しつつ釣糸ガイド部材が竿管内表面から安定露出し,釣糸を円滑に案内して挿通抵抗を小さくできる中通し釣竿の製造方法の提供を目的とする (段落【0006 ) 。】 課題を解決するための手段上記目的に鑑みて本発明は,請求項1において,樹脂をマトリックスとして強化繊維によって強化形成された竿管内に釣糸を挿通させる中通し釣竿の製造方法であって,マンドレルに厚さの厚い巻回部材を,該巻回部材側縁間に釣糸ガイド部材を沿わせる隙間を有するように巻回し,前記隙間を厚さの薄い柔軟部材によって覆い(該薄い柔軟部材の側面同士が接触する状態に密巻きする方法を除く ,且つ,上記巻回部材の表 )面全体に亘って覆い,該薄い柔軟部材の上から前記隙間に沿って釣糸ガイド部材を配設し,その上に前記樹脂を含浸又は混合した繊維強化プリプレグを巻回し,加圧,加熱して形成し,その後,前記マンドレルを引き抜き,前記厚い巻回部材と薄い柔軟部材を除去する中通し釣竿の製造方法であって,釣糸ガイド部材周りに流入する樹脂によって囲まれた釣糸ガイド部材の断面形状を,前記薄い柔軟部材の存在によって竿管の半径方向に突出する表面を滑らかに形成することを特徴とする中通し釣竿の製造方法を提供する (段落【0007 ) 。】 作用請求項1では,厚さの厚い巻回部材を,釣糸ガイド部材を沿わせられる隙間を有してマンドレルに巻回させれば,この隙間に沿わせて釣糸ガイド部材を配設し,この上からプリプレグを巻回して成形すれば,竿管内面に釣糸ガイドが突出形成できるが,これでは前記隙間における釣糸ガイド部材にプリプレグの樹脂が流入して硬化すると,釣糸ガイド部材の表面に樹脂による角部を形成することになるため,釣糸が接触すると損傷したり切断されたりする虞がある。そこで,上記隙間を厚さの薄い柔軟部材によって覆い,これを介して釣糸ガイド部材を沿わせれば,釣糸ガイド部材周りに流入する樹脂によって囲まれた釣糸ガイド部材の断面形状は,前記薄い柔軟部材の存在によって竿管の半径方向内方に突出する表面が滑らかに形成され,釣糸を滑らかに案内できる (段落【0。
010】 実施例以下,本発明を添付図面に示す実施例に基づき,更に詳細に説明する。
図1は本発明に係る中通し釣竿の第1製造方法の途中の一過程を示す側面図,図2はその後のプリプレグ等を巻回し,熱硬化処理した作業後の矢視線B-B位置における断面拡大図である。まず,マンドレル10の表面に,皮,シリコン,テフロン,又はゴム等,人工材や天然材から成る厚さの厚い巻回部材20を巻回する (段落【0013 ) 。】ここでは巻回部材20は帯状に細長い形態を成しており,これを図のように,その巻回部材20の側縁間に針金状の釣糸ガイド部材24を沿わせる適切な間隔をおいて螺旋状に巻回し,螺旋状に連続した隙間SPを形成している。この隙間の上を,耐熱性の高いポリエチレンナフタレート(PEN)やポリエチレンテレフタレート(PET)から成る厚さの薄い柔軟部材22で覆う。この実施例では巻回作業が容易となるように厚さの厚い巻回部材20の表面全体に亘って覆っている (段落【0。
014 )】上記薄い柔軟部材22の上から離型剤を塗布し,この上から上記螺旋状の隙間SPに沿って釣糸ガイド部材24を巻回する。この釣糸ガイド部材24は,径の大きな炭素繊維やセラミックス繊維,その他,竿管の繊維強化プリプレグと同様な紐状の繊維強化プリプレグや,金属やセラミックスによって強化された紐状の繊維強化プリプレグ等から成る。この上から炭素繊維等の強化繊維に熱硬化性樹脂等を含浸や混合させた繊維強化プリプレグ30を適数回巻回する。この後は,常法に従って加圧しつつ加熱処理して竿管を形成する (段落【0015 ) 。】この加熱後の図1の矢視線B-Bに相当する領域の断面を示す図2を参照すると,加熱成形時に繊維強化プリプレグ30から流れ出た樹脂26が釣糸ガイド部材24の周囲に流れ込み,釣糸ガイド部材24を竿管に一体化させることができると共に,厚さの厚い巻回部材20の側縁20eと20fによって形成された隙間SPに釣糸ガイド部材24を沿わせることによって,該隙間に押し込められた薄い柔軟部材22の存在は,図示の如く,釣糸ガイド部材24の周りに樹脂の角部が生じることを防止して滑らかに形成する。この後,マンドレル10を引き抜き,厚い巻回部材20と薄い柔軟部材22とを除去する。薄い柔軟部材22は部分的に残留していてもよい。こうして釣糸ガイド部材24は竿管の内面に突出するよう固定されて,その表面が滑らかに形成され,釣糸を滑らかに案内することができる (段落【0016 ) 。】上記実施例では,釣糸ガイド部材20は一本の針金状部材から成り,螺旋状に連続して竿管内面に固定しているが,本発明はこれに限らない。
厚い巻回部材20が複数の部材20A,20B ・・・20Hに分割形 ,成され,これら部材の側縁間に適切な隙間を設けるように夫々をマンドレルに巻回して,夫々独立した釣糸ガイド部材を隙間に沿わせてもよい。
従って,竿管に固定された夫々の釣糸ガイド部材形状は環状リング形状等であってもよい。また,釣糸ガイド部材24の竿管内面との固定を強化させるために,例えば,その断面形状を半円形状に形成し,平面側を竿管内面側(沿わせる作業時にマンドレル表面から遠い側)にして沿わせるとよい。更には,こうした釣糸ガイド部材24の配設は釣竿の部分領域でもよく,また全体に亘って設けてもよい。更には他の方式によって形成した釣糸ガイド部材を竿管内に有していてもよい (段落【00。
17 )】 発明の効果以上の説明から明らかなように本発明によれば,竿管の繊維が蛇行することも防止されて釣糸ガイド部材が竿管内表面から安定露出すると共に,釣糸を円滑に案内して釣糸の挿通抵抗を小さくできる中通し釣竿が提供可能になる (段落【0022 ) 。】イ上記アの 〜  を前提に,訂正発明について検討する。
 まず,訂正発明の釣糸ガイド部材を沿わせる対象について見ると,その「…マンドレルに厚さの厚い巻回部材を,該巻回部材側縁間に釣糸ガイド部材を沿わせる隙間を有するように巻回し,… (請求項1)との」文言自体からみて,当該巻回部材は,同巻回部材側縁間に「隙間」を有するように巻回するものであるところ,釣糸ガイド部材は,巻回部材側縁間ではなく,この「隙間」に沿わせるものであると理解するのが自然である。
このことは,本件明細書(甲30)に 「…巻回部材20の側縁間に ,針金状の釣糸ガイド部材24を沿わせる適切な間隔をおいて螺旋状に巻回し,螺旋状に連続した隙間SPを形成している。… (段落【001」4「…厚さの厚い巻回部材を,釣糸ガイド部材を沿わせられる隙間 】),を有してマンドレルに巻回させれば,この隙間に沿わせて釣糸ガイド部材を配設し,… (段落【0010「…厚さの厚い巻回部材20の 」】),側縁20eと20fによって形成された隙間SPに釣糸ガイド部材24を沿わせる… (段落【0016 )と記載されていることからも裏付 」】けられる。
しかるに 「沿う」の通常の語義は 「線条的なもの,または線条的 , ,に移動するものに,近い距離を保って離れずにいる意。長く連なるものから離れずに進んだり続いたりする場合に「沿」を使う(広辞苑第。」五版)というものである。そして,訂正発明の「沿わせる」についても,通常の語義を離れた意味を有すると解すべき理由はないから,釣糸ガイド部材を「隙間」に沿わせるとは,釣糸ガイド部材が,巻回部材側縁間の隙間に対して近い距離を保って離れずにいる状態を意味すると解するのが相当である。
 次に,訂正発明の「厚さの厚い巻回部材「厚さの薄い柔軟部材」 」,(請求項1)との文言について検討する。
aまず,前記第3の1(2)エに記載した訂正発明の内容からすると,「厚さの厚い巻回部材」は,@マンドレルに,その側縁間に釣糸ガイド部材を沿わせる隙間を有するように巻回し,A釣糸ガイド部材を配設した後に除去するものであり,他方 「厚さの薄い柔軟部材」は, ,@前記隙間を覆い(該薄い柔軟部材の側面同士が接触する状態に密巻きする方法を除く ,且つ,上記巻回部材の表面全体に亘って覆い, )Aその上から前記隙間に沿って釣糸ガイド部材を配設し,Bその存在によって,釣糸ガイド部材の断面形状につき,竿管の半径方向に突出する表面を滑らかに形成するものである。
bしかるに,訂正発明の特許請求の範囲には 「厚さの厚い「厚さ,」,の薄い」の意義について,絶対的なものか,相対的なものか,相対的なものであれば何に対して厚い薄いということなのか,については何ら記載がない。
そこで,本件明細書(甲30)の記載を見ると 「…巻回部材20,の側縁間に針金状の釣糸ガイド部材24を沿わせる適切な間隔をおいて螺旋状に巻回し,螺旋状に連続した隙間SPを形成している。…」(段落【0014「…隙間を厚さの薄い柔軟部材によって覆い, 】),これを介して釣糸ガイド部材を沿わせれば,釣糸ガイド部材周りに流入する樹脂によって囲まれた釣糸ガイド部材の断面形状は,前記薄い柔軟部材の存在によって竿管の半径方向内方に突出する表面が滑らかに形成され,釣糸を滑らかに案内できる(段落【0010「… 。」】),薄い柔軟部材22の存在は,図示の如く,釣糸ガイド部材24の周りに樹脂の角部が生じることを防止して滑らかに形成する。… (段落」【0016 )と記載されている。他方,巻回部材20と柔軟部材2 】2との厚さの意義については,絶対的なものか,相対的なものか,相対的なものであれば何に対して厚い薄いということなのかについては何ら記載がない。
cそうすると,巻回部材20(厚さの厚い巻回部材)は,釣糸を案内するための釣糸ガイド部材24の高さ寸法(内側突出寸法)を隙間SPとして確保するための機能を有するものであり,他方,柔軟部材22(厚さの薄い柔軟部材)は,隙間SPに釣糸ガイド部材24を沿わせることによって,釣糸ガイド部材24の周りを滑らかに形成する機能を有するものであると認められるところ,それぞれの厚さの意義について本件明細書(甲30)に具体的記載がない以上,巻回部材20と柔軟部材22は,上記機能を有するものであれば足りると解するのが相当である。
d以上によれば,訂正発明において 「厚さの厚い巻回部材 (巻回 ,」部材20)は,釣糸ガイド部材24の高さ寸法を隙間SPとして確保するに足りる程度に「厚さの厚い」ものであり 「厚さの厚い柔軟部,材 (柔軟部材22)は,その存在により,釣糸ガイド部材の断面形 」状を滑らかに形成する程度に「厚さの薄い」ものであることをそれぞれ意味するものと認められる。
 次に,訂正発明の「釣糸ガイド部材」との文言について検討する。
a訂正発明は 「釣糸ガイド部材」について,@「マンドレルに厚さ ,の厚い巻回部材を,該巻回部材側縁間に釣糸ガイド部材を沿わせる隙間を有するように巻回し ,A「該薄い柔軟部材の上から前記隙間に 」沿って釣糸ガイド部材を配設し ,B「釣糸ガイド部材周りに流入す 」る樹脂によって囲まれた釣糸ガイド部材の断面形状を,前記薄い柔軟部材の存在によって竿管の半径方向に突出する表面を滑らかに形成する」と規定している(請求項1 。)このように,訂正発明において 「釣糸ガイド部材」の文言は, ,(1) 製造過程において,マンドレルに巻回される厚さの厚い巻回部材側縁間の隙間に沿わせることが予定され(@ ,前記隙間を覆う厚さ )の薄い柔軟部材の上から前記隙間に沿って配設される対象である(A)というように,最終製品としての釣糸ガイド部材を構成する素材としての意味で用いられている場合があるほか,(2) 最終製品として,その周りに流入する樹脂によって囲まれて,その断面形状が,薄い柔軟部材の存在によって竿管の半径方向に突出する表面が滑らかに形成される(B)というように,最終製品としての釣糸ガイド部材としての意味で用いられる場合もあることが認められる。
bこのことは,本件明細書(甲30)の記載を見ても同様である。すなわち,本件明細書(甲30)においては 「釣糸ガイド部材」との ,文言は,段落【0001【0006【0010【0014】 】,】,】,〜【0017【0022】において用いられているが 「 作用】 】, ,【請求項1では,厚さの厚い巻回部材を,釣糸ガイド部材を沿わせられる隙間を有してマンドレルに巻回させれば,この隙間に沿わせて釣糸ガイド部材を配設し,この上からプリプレグを巻回して成形すれば,竿管内面に釣糸ガイドが突出形成できるが,これでは前記隙間における釣糸ガイド部材にプリプレグの樹脂が流入して硬化すると,釣糸ガイド部材の表面に樹脂による角部を形成することになるため,釣糸が接触すると損傷したり切断されたりする虞がある。そこで,上記隙間を厚さの薄い柔軟部材によって覆い,これを介して釣糸ガイド部材を沿わせれば,釣糸ガイド部材周りに流入する樹脂によって… (段落」【0010 ,下線付加)のように,最終製品としての釣糸ガイド部 】材を構成する素材としての意味で用いられている場合がある一方,「…こうして釣糸ガイド部材24は竿管の内面に突出するよう固定され,その表面が滑らかに形成され,釣糸を滑らかに案内することができる(段落【0016 ,下線付加「…更には,こうした釣糸ガ 。」】),イド部材24の配設は釣竿の部分領域でもよく,また全体に亘って設けてもよい。更には他の方式によって形成した釣糸ガイド部材を竿管内に有していてもよい(段落【0017 ,下線付加)のように, 。」】最終製品としての釣糸ガイド部材としての意味で用いられている場合もあることが認められる。
cさらに,訂正発明の特許請求の範囲を見ても,上記a,bの最終製品としての釣糸ガイド部材を構成する素材について何ら特定がなされておらず,その大きさや形状 「隙間」との関係等も何ら規定されて ,いない。このことは,本件明細書(甲30)の記載を見ても同様である。すなわち,前記ア に記載したとおり,本件明細書(甲30)の段落【0014【0015【0017】の各記載を見ると,上 】,】,記a,bの最終製品としての釣糸ガイド部材を構成する素材としては,針金状,径の大きな炭素繊維やセラミックス繊維,竿管の繊維強化プリプレグと同様な紐状の繊維強化プリプレグ,金属やセラミックスによって強化された紐状の繊維強化プリプレグ等から成ることが記載されているが,これらに限られず,他の方式によって形成したものであってもよいとされている。
d以上のa〜cによれば,訂正発明における「釣糸ガイド部材」は,最終製品としての釣糸ガイド部材を構成する素材としての意味のほか,最終製品としての釣糸ガイド部材としての意味で用いられている場合もあるなど多義的に用いられており,その素材や大きさ,形状等も特定されていないものであることが認められる。
 先願発明ア先願発明の内容は,第3,1 イに記載したとおりであるところ,先願明細書(甲4)には,以下の 〜  のような記載があり,その図4からは,以下の のとおりのものを認めることができる。
 本発明は樹脂と強化繊維とからなる竿素材の内周面を,凹凸面に形成してある中通し竿及びその製造方法に関する ( 産業上の利用分野 , 。【】段落【0001】 上記構成を有する中通し竿として,先に本出願人によって提案したものがあり…,その要旨は,樹脂と強化繊維とからなる竿素材の内周面を,凹凸面に形成したそのものであり,このような構成によって,糸を凸面で受けて竿内面より浮かせて,糸を繰り出す際等における,糸の摺動抵抗を軽減できるのである。…( 従来の技術 ,段落【0002 ) 【】】 …凹凸形成用テープ4の上より,離型用のポリエステルテープ5をそのテープ5の側面同士が接触する状態に密巻きする。これによって,凹凸形成用テープ4の剥離が容易になる。…( 第1実施例 ,段落【0 〔〕014 )】 …凸面9Bの断面形状としては,角形に近いが,台形,三角形等を採用できる。又,角部が先鋭とならないように丸みを持たせたものでもよい。このように竿素材9の内周面に凹凸面9A,9Bを形成することによって,凹凸面9A,9Bを形成しないものに比べて,糸の繰り出し時の摺接抵抗を略1/2近くの0.3〜0.7gに低減できる… (同,。
段落【0015 )】 図4は,竿を焼成する前の状態を示したものであるところ,密巻きされたポリエステルテープ5のうち,テープ4間に形成された所定間隔の隙間に対応する部分が,当該隙間に入り込むように内側に向けて変形し,その結果,ポリエステルテープ5の外表面に凹部が形成されている。そして,テープ7Aの内側突出部分は,軸芯方向に対して,凹凸形成用のテープ4間に形成される隙間(テープ4の側縁間に形成される横長の四角状断面を呈している)と同じ位置に形成され,かつ,上記隙間に対し,テープ4の外表面を結んだ線と,凸面9Bの端面との距離は,図4中で,凹凸形成用のテープ4の厚さ,及び離型用のポリエステルテープ5の厚さよりも短くなっている。
イ以上のア 〜  (先願発明の内容,先願明細書の記載)によれば,先願発明につき,以下のとおりのことが認められる。
 先願発明のテープ7Aの内側突出部分は 「 リ)焼成後ポリエステ ,(ルテープ8を剥離し,離型用テープ3,5とともに凹凸形成用テープ4を取り外」すことにより,竿素材7の内周面に形成される螺旋状の凸面9Bとなるものであるから,焼成前に配設されるものである。
 先願発明の凸面9Bは,糸の繰り出し時の摺接抵抗を低減するものであり,図4のテープ7Aの内側突出部分は,焼成前に配設された,凸面9Bを構成する素材である。
 先願発明のテープ7Aの内側突出部分及び凸面9Bは,凹凸形成用のテープ4間に形成された隙間の中に位置してはいないものの,凹凸形成用のテープ4間に形成された隙間に対して,近い距離を保って離れずにいる状態にある。
 先願発明の凸面9Bの高さ寸法は凹凸形成用テープ4によって規定されるから,先願発明の凹凸形成用テープ4は,凸面9Bの高さ寸法を隙間として確保するに足りる程度に「厚さの厚い」ものであり,また,ポリエステルテープ5は,下記 に照らせば,その存在により,釣糸ガイド部材の断面形状を滑らかに形成する程度に「厚さの薄い」ものである。
 凸面9Bは,テープ4間に形成された所定間隔の隙間にポリエステルテープ5が入り込むように密巻きされ,その結果ポリエステルテープ5に形成された凹部にテープ7Aが入り込むように密巻きされ,焼成することにより形成されるところ,ポリエステルテープ5は,密巻きされていて連続したものであり,テープ4間の隙間に対応する部分が入り込むように内側に向けて変形するものであるから,ポリエステルテープ5の外表面に形成される凹部は滑らかに連続したものである。さらに,テープ7Aも,密巻きされていて連続したものであり,ポリエステルテープ5の凹部に対応する部分が入り込むように内側に向けて変形するものであって,かつ,ポリエステルテープ5自体が弾性を有していることからも,焼成後に凸面9Bとなるテープ7Aの内側突出部分の断面形状は,竿素材7から半径方向に突出する表面が滑らかに形成されるものである。
 訂正発明と先願発明との対比上記 ,  を前提に,以下検討する。
ア先願発明のテープ7Aの突出部分は,焼成前に配設され,焼成後,竿素材7の内周面に形成される螺旋状の凸面9Bとなるものである。そして,訂正発明における「釣糸ガイド部材」が多義的に用いられており,その素材や大きさ,形状等も特定されていないことに照らせば,先願発明のテープ7Aの突出部分及び凸面9Bは,いずれも訂正発明の「釣糸ガイド部材」に相当すると認められる。
イ先願発明の「凹凸形成用テープ4」は,凸面9Bの高さ寸法を隙間として確保するに足りる程度に「厚さの厚い」ものであるということができるから,訂正発明の「厚さの厚い巻回部材」に相当すると認められ,同様に,先願発明の「テープ5」は,その存在により,焼成後に凸面9Bとなるテープ7Aの内側突出部分の断面形状につき,竿素材7から半径方向に突出する表面を滑らかに形成するものということができるから,釣糸ガイド部材の断面形状を滑らかに形成する程度に「厚さの薄い」ものであるということができ,訂正発明の「厚さの薄い柔軟部材」に相当すると認められる。
ウ先願発明における,焼成前のテープ7Aの内側突出部分(焼成後の凸面9B)は,凹凸形成用のテープ4間に形成された隙間の中に位置してはいないものの,凹凸形成用のテープ4間に形成された隙間に対して,近い距離を保って離れずにいる状態にあるから,テープ7Aの内側突出部分は,凹凸形成用テープ4間に形成された隙間に「沿わせる」ものであるということができ,先願発明は,訂正発明の「…マンドレルに厚さの厚い巻回部材を,該巻回部材側縁間に釣糸ガイド部材を沿わせる隙間を有するように巻回し,…」と同一の構成であると認められる。
エ上記ア〜ウを総合すれば,審決が,訂正発明と先願発明との一致点を,前記第3,1 イのとおり認定したことに誤りはない。
 原告の主張に対する補足的説明ア原告は,先願発明の離型用テープ5は,図4の断面図に示されるように,「凹凸形成用テープ4」よりも厚さの厚いものであり,訂正発明の「薄い柔軟部材」に相当しない旨主張する。しかし先願発明においては,前記第3,1 イに記載したとおり 「凹凸形成用テープ4」と「離型用テープ ,5」の厚さの関係は直接規定されていないところ,前記 イ  ,  に説示したとおり,テープ5は,その存在により,釣糸ガイド部材の断面形状を滑らかに形成する程度に「厚さの薄い」ものであれば足り,その厚さが図4で示されるものに限定されるとはいえない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
イまた原告は,先願発明では,テープ7Aは,焼成後に,結果として釣糸ガイド部材を構成するものであり,焼成前に配設されるものではないから,製造方法の発明にかかる訂正発明の「釣糸ガイド部材」に相当しない旨主張する。しかし,前記 イ  に説示したとおり,訂正発明における「釣糸ガイド部材」自体が多義的に用いられており,その素材や大きさ,形状等も特定されていないものである上,前記 イ  ,  アに説示したとおり,「釣糸ガイド部材」に相当する先願発明のテープ7Aの内側突出部分は,焼成前に配設されるものである。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
ウ原告は,先願発明では,凹凸形成用テープ4の上から厚さの厚い離型用テープ5を巻いているので,既にその時点でテープ4側縁間にテープ7Aを沿わせる隙間を有していない旨主張する。しかし,前記 ウの説示に照らせば,先願発明のテープ7Aの内側突出部分は,凹凸形成用テープ4間に形成された隙間に「沿わせる」ものであるということができるというのであるから,原告の上記主張は採用することができない。
 以上によれば,原告主張の取消事由1は理由がない。
3取消事由2(相違点(A)の判断の誤り)について 原告は,取消事由1と同様の理由により,相違点(A)は実質的な構成の差異である旨主張するが,取消事由1に理由がないことは,上記2に説示したとおりである。
 原告は,先願明細書には,離型用テープ5として側面同士を接触する状態に密巻きしたものでないが凹凸形成用テープ4及びその隙間を被覆するものが示されてはおらず 「離型用テープの側面同士が接触する状態に密巻きし ,たものではない場合に,それが凹凸形成用テープ4及びその隙間を被覆すること」も全く記載,示唆がされていない旨主張し,社員亀田謙一作成の試験報告書(甲53)等を提出する。
しかし,先願明細書(甲4)には 「…凹凸形成用テープ4の上より,離 ,型用のポリエステルテープ5をそのテープ5の側面同士が接触する状態に密巻きする。これによって,凹凸形成用テープ4の剥離が容易になる。…」(4頁6欄13〜16行)と記載されているから,先願発明は,離型用のポリエステルテープ5がその側面同士が接触する状態に密巻きされるものであるところ,原告も主張するように(第3,1 カ  ,当業者(その発明の)属する技術の分野における通常の知識を有する者)には,テープの覆い方には重ねて巻くか,側面同士が接触する状態に密巻きするか,間をおいて(粗に)巻くかのいずれかであることは自明である(特開平1-113226号公報〔甲37 ,特開昭50-39766号公報〔甲38 ,特開平4-3 〕 〕04832号公報〔甲39 ,実公平3-56212号公報〔甲40 ,実 〕 〕公平2-46286号公報〔甲41 ,特開平3-35745号公報〔甲4 〕2 )から,隙間の覆い方から密巻きする方法を除くことで特定される方法 〕(且つ,凹凸形成用テープ4の表面全体に亘って覆う方法)が,密巻きする方法と対比して実質的な相違点となるものとはいえない。また先願発明は,凹凸形成用テープ4の間隔(隙間)を覆うものである点で,訂正発明と同一であるところ,先願発明の「テープ5」は,凹凸形成用テープ4及びその隙間を被覆していれば,離型用ポリエステルテープ5の側面同士が接触する状態に密巻きしたものでなくても,凹凸形成用テープの剥離が容易になるとの作用を奏することも明らかである。
なお原告は,上記試験報告書(甲53)において,離型用ポリエステルテープ5を,その側面同士が凹凸形成用テープの間隔(隙間)の位置で接触する状態に密巻きしたとき,凸部が形成されるものの樹脂に角部が形成される(甲53の試料1)等の主張をするが,離型用ポリエステルテープ5の側面同士から樹脂が流出する状態が定常的に起こるのであれば,予めそれを回避するようにテープ5を密巻きすればよいだけのことであり,そのように樹脂が流出する状態は,もはや「密巻き」したということはできないというべきである。同様に,原告の甲53の資料2,3についての指摘も,前記2 ア ,イ  に照らし失当である。
そうすると,先願発明において,離型用ポリエステルテープ5の側面同士が接触する状態に密巻きする方法ではない方法を採用して,凹凸形成用テープ4及びその隙間を被覆するように構成することは当業者なら適宜採用できる程度の設計上の微差にすぎないというほかない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
 原告は,審決は,訂正発明が「テープ5の側面同士が接触する状態になるように密巻きする場合」を除いていることを無視している 「隙間の部分に,テープ5の側面同士が位置することでうまく密巻きできない状況が想定される」とのことは先願明細書に一切記載されていない,そもそも,訂正発明のような目的並びに作用効果を持たない「テープ5」に対し,当業者が密巻き以外の巻き方で被覆する設計を考える必然性も必要性もないと主張する。
しかし,訂正発明が「テープ5の側面同士が接触する状態になるように密巻きする場合」を除いているとしても,先願発明においては,離型用のポリエステルテープ5がその側面同士が接触する状態に密巻きされるのであるから,凹凸形成用テープ4の間隔(隙間)を覆うものである点で,訂正発明と同一であることに変わりはない。このことは,先願明細書に「隙間の部分にテープ5の側面同士が位置することでうまく密巻きできない状況が想定される」とのことが記載されているかどうかによって左右されるものではない。
また,先願発明においては,前記第3の1 イの記載を見ると 「凹凸形成,用テープ4」と「離型用テープ5」の厚さの関係は直接規定されていないものであるところ,前記2 イ  ,  に説示したとおり,テープ5は,その存在により,釣糸ガイド部材の断面形状を滑らかに形成する程度に「厚さの薄い」ものということができるのであるから 「テープ5」が,訂正発明のよ ,うな目的,作用効果を持たないということもできない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
 以上によれば,取消事由2は理由がない。
4取消事由3(相違点(B)の判断の誤り)について 原告は,先願明細書には,焼成前に 「厚さの厚い巻回部材の側縁によっ ,て形成されている隙間に沿わせて釣糸ガイド部材を配設すること」が記載されておらず,実際にも,凹凸形成用テープ4の上から巻かれる離型用テープ5は厚さが厚いので,テープ4に隙間が形成されていても,焼成前には,テープ7Aをここに沿わせることはできないと主張する。
しかし,前記2 イ  ,2  アに説示したとおり,先願発明において,「釣糸ガイド部材」に相当するテープ7Aの内側突出部分が焼成前に配設されるものであることに照らせば,先願明細書には,焼成前に 「厚さの厚い,巻回部材の側縁によって形成されている隙間に沿わせて釣糸ガイド部材を配設すること」が記載されている。また,前記2 イ  ,  に説示したとおり,テープ5は,その存在により,釣糸ガイド部材の断面形状を滑らかに形成する程度に「厚さの薄い」ものであるということができるから,テープ5の厚さが厚いことを前提に,焼成前にテープ7Aを隙間に沿わせることはできないとする主張は,そもそもその前提を欠くものである。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
 また原告は,訂正発明は製造方法の発明であり,かつ,相違点(B)は,焼成前の工程に関するものであるから,訂正発明における焼成前の工程と先願発明の焼成前の工程とを対比することなく,訂正発明における焼成前の工程と先願発明の焼成後の物(中通し竿)の構成とを対比するのは誤りであるし,また,テープ7Aが間隔にも巻回されていることをもって,即,隙間に「沿って」配設されているとする点も誤りである,先願明細書には,テープ7Aを焼成前に,隙間に沿って配設することは一切記載されていない,と主張する。
しかし,前記2 イ  ,2  アに説示したとおり,先願発明において,「釣糸ガイド部材」に相当するテープ7Aの内側突出部分は焼成前に配設されるものであって,訂正発明における焼成前の工程と先願発明の焼成前の工程とを対比し,同一であるといえるものである。また,前記2 ウの説示に照らせば,先願発明のテープ7Aの内側突出部分は,凹凸形成用テープ4間に形成された隙間に「沿わせる」ものであるということができる。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
 原告は,薄い柔軟部材を介在していない別実施例を,当業者が適宜設計できるかどうかということの根拠にはできない旨主張するが,仮にこれを前提としても,上記 ,  の説示が左右されるものではない。
 以上によれば,原告主張の取消事由3は理由がない。
5取消事由4(相違点(C)の判断の誤り)について 原告は,先願発明は,薄い柔軟部材が隙間を覆っているわけでも,厚さの厚い巻回部材の側縁によって形成された隙間に該薄い柔軟部材の上から釣糸ガイド部材を沿わせて配設しているわけでも,該隙間に押し込められた薄い柔軟部材が存在しているわけでもないと主張する。
しかし,先願発明は,離型用のポリエステルテープ5がその側面同士が接触する状態に密巻きされるのであって,前記3 に説示したとおり,凹凸形成用テープ4の間隔(隙間)を覆うものである点で訂正発明と同一である。
また,先願発明においても,隙間に釣糸ガイド部材を沿わせて配設しているといえること,薄い柔軟部材が存在しているといえることについては,前記4 ,  に説示したとおりである。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
 また原告は,先願発明では,凹凸形成用テープ4上に巻回されたテープ7Aが,焼成後,竿の内周面に凸面9Bを形成するとしても,その凸面9Bの表面を滑らかにすることについて全く手当していないし,手当する意図もないと主張するが,前記2 イ  ,  の説示に照らし,原告の同主張は失当である。
 以上によれば,原告主張の取消事由4は理由がない。
6取消事由5(作用効果の相違の判断の誤り)について 原告は,先願発明においては,焼成前の工程において,離型用テープ5はテープ4の側縁によって形成された隙間を覆っているわけではないし,隙間に釣糸ガイド部材を沿わせて配設してもいないから,訂正発明と先願発明とは相違点に係る構成によって両発明の奏する作用効果が顕著に相違すると主張するが,前記2 ウ,3  の説示に照らせば,その前提自体が失当である。
 また原告は,先願発明は,焼成時に凹凸形成用テープの間隔内に竿素材が入り込んで竿素材の内面に凹凸面が形成される方法であり,焼成前は凹凸形成用テープの間隔内に竿素材が入り込む方法ではないと主張するが,前記2 イ  ,2  アに説示したとおり,先願発明において 「釣糸ガイド部材」,に相当するテープ7Aの内側突出部分が焼成前に配設されるものであることに照らせば,先願明細書(甲4)には,焼成前に 「厚さの厚い巻回部材の ,側縁によって形成されている隙間に沿わせて釣糸ガイド部材を配設すること」が記載されているというべきであるから,原告の上記主張は採用することができない。
 以上によれば,原告主張の取消事由5は理由がない。
7まとめ以上によれば,訂正発明は先願発明と同一であるとする審決の判断に誤りはないこととなる。
そうすると,その余(取消事由6=旧特許法17条2項の要件の充足性についての判断の誤りの有無)の点について判断するまでもなく,本件特許の請求項1に係る発明についての特許を無効とした審決の判断は正当である。
よって,原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 森義之
裁判官 田中孝一