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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19ネ10024損害賠償請求控訴事件 判例 特許
平成13ワ24051特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成16ワ11060職務発明の対価請求事件 判例 特許
平成13ワ15276特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成12ネ3624特許権侵害差止等請求控訴事件 平成12ネ4895同附帯控訴事件 判例 特許
関連ワード 特許を受ける権利 /  発明者 /  技術的思想 /  製造方法 /  公然知られ(29条1項1号) /  頒布された刊行物 /  周知技術 /  技術的範囲 /  出願公開 /  技術常識 /  模倣 /  ライセンス /  出願経過 /  実施 /  加工 /  構成要件 /  業として /  侵害 /  損害額 /  不法行為(民法709条) /  対価 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 18年 (ワ) 8019号 特許出願人変更等請求事件
原告X
被告 オージーケー技研株式会社
訴訟代理人弁護士 鎌田邦彦
補佐人弁理士 安田敏雄
同 安田幹雄
同 山本淳也
同国立久
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2007/06/04
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は,原告に対し,300万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成18年9月17日)から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 被告は,特許出願(特願2002-332662号)について,出願人にP1を追加し,発明者をP2に変更せよ。
事案の概要
本件は,法人格のない社団である原告の構成員らが,自転車のハンドルグリップ傘について被告に対して情報提供をし,被告は前記情報提供に基づいて製品を開発したとして,原告が,被告に対し,@合意又は原告が情報を提供したことに基づいて,被告の特許出願につき,出願人に原告の構成員を追加し,発明者を原告の構成員に変更することを請求すると共に,A合意に基づき情報提供料の支払,B前記Aの合意がなかった場合,被告が原告に無断で原告が提供した情報を利用して製品を開発したことは不法行為に該当するとして損害賠償金の支払(上記ABについては遅延損害金の支払も含む。)を求めた事案である。
前提となる事実(次の事実は,当事者間に争いがないか,末尾記載の証拠等に
より認められる。)1当事者(1) 原告原告は,特許関係の検討及び発明等を目的とする法人格のない社団である。
原告の現在の構成員は,P1,P2,P3の3名である。(甲1,7,9,10,弁論の全趣旨)(2) 被告被告は,自転車部品等の製造販売等をしている会社である。
2 被告の特許出願被告は,次の特許出願の出願人である(以下,この特許出願を「本件特許出願」といい,本件特許出願の願書に添付された明細書を「本件特許明細書」という。)。(甲4)発明の名称 軽車両用風防及び自転車出願日 平成14年11月15日出願番号 特願2002-332662公開日 平成16年6月17日特許出願公開番号 特開2004-168079発明者 P4特許請求の範囲 別紙1の公開特許公報記載のとおり3 ハンドルグリップ傘に関する原告構成員の特許(1) P1は,次の特許の特許権者である(以下,この特許を「原告特許」,その特許出願の願書に添付された明細書を「原告特許明細書」という。)。(乙1)発明の名称 自転車用ハンドルグリップ傘出願日 平成11年8月10日出願番号 特願平11-226157公開日 平成13年2月20日特許出願公開番号 特開2001-48077登録日 平成17年8月5日特許番号 特許第3705963号発明者 P2特許請求の範囲 別紙2の特許公報記載のとおり(2) P2は,原告特許の出願人であったが,平成16年8月14日,P1に対し,原告特許出願に係る特許を受ける権利を譲渡した。(甲3,11の1・2)4調停原告は,平成18年5月8日,被告を相手方とし,@300万円及び遅延損害金の支払,A本件特許出願のうちハンドルの上部に取り付けて使用する部分に係る発明を分離して,出願人を原告,発明者をP2に変更することを求める調停を申し立てた(東大阪簡易裁判所平成18年(ノ)第49号。甲8。以下「本件調停」という。)。本件調停は不成立で終了した。
5 被告製品の販売被告は,フロントプロテクターUV(UV-001。以下「UV-001」という。),ハンドプロテクターUV(UV-002。以下「UV-002」といい,UV-001と併せて「被告製品」という。)を製造販売している(甲5,乙6,7,9)。
争点
1 出願人の追加及び発明者変更の請求権を原告が有するか否か(合意の有無又は原告の情報提供による上記請求権発生の有無)(争点1)2 情報提供料支払の合意の有無(争点2)3 不法行為の成否及び損害発生の有無・額(争点3)
争点に対する当事者の主張
1 出願人の追加及び発明者変更の請求権を原告が有するか否か(争点1)(1) 原告の主張ア P1らは,平成14年1月29日,原告特許明細書と試作品(以下「本件試作品」という。)を持参して被告を訪れ(以下「14年1月訪問」という。),これらを被告に交付して,次のとおり口頭で説明をした(以下,下記の説明内容を「本件情報」といい,原告特許明細書及び本件試作品を示すこと並びに本件情報を説明することを併せて「本件情報提供」という。)。
(ア) ハンドルグリップの傘部分は一体成形とし,使用するプラスチックは紫外線を防止する性質があり,強度も十分備わるプラスチックを使用すること。
(イ) プラスチックに紫外線防止効果がない場合は,紫外線防止効果のあるプラスチック等を混合して成形すること。
(ウ) 支柱は,持参した本件試作品では強度が足りないと思われるので,強度を高めること。
(エ) 転倒したとき,従来の袋状のハンドルグリップカバーでは,手が抜けずに,手及び手首等に損傷が生じることが考えられるが,傘の形状により,ハンドルグリップを握っている手がすばやく抜け安全であること。
(オ) ハンドルグリップの傘部分は日差しを防止する効果があること。
イ 被告は,本件情報提供に基づき,本件特許出願をし,実施品を開発した。
本件特許出願における製品の使用目的及び製造方法についての考え方は,本件情報提供の内容と同じであり,使用する部位をハンドル部分以外に拡大したものにすぎない。本件特許出願に係る実施品のうちハンドル部分に設置して使用する製品(甲5)は,本件情報提供の内容を製品化したものである。
また,本件特許明細書に記載されているプラスチックによる一体成形,左右前後に変形できるフレキシブルによる取付け,紫外線吸収樹脂の使用又は混合による製造,その他の重要な部分は,原告特許明細書に記載されている内容そのものである。
ウ 被告は,被告製品について,本件情報提供以前に被告が独自で開発したと主張するが,P1らが本件情報提供をした際,被告は,ハンドルグリップ傘のような製品は販売されておらず,おもしろい製品であり興味もあるので,取り扱うかどうか検討したいと述べていた。仮に,被告が同種の製品を開発していたとすれば,原告は,本件情報提供の内容について特許出願をしていたはずであるが,被告から同種の製品を開発しているとの話もなく,被告は,原告に特許出願をしなくてもよいと述べたので,原告は,特許出願しなかったのである。
エ P1らが,平成18年1月18日に被告を訪問した際(以下「18年1月訪問」という。),被告とP1らは,本件特許出願について,出願人にP1を追加し,発明者をP2に変更する旨の合意をした(以下「本件合意1」という。)。
オ 仮に,本件合意1が成立していなかったとしても,本件特許出願に係る発明のうちハンドルグリップ傘に関する部分は,本件情報提供の内容と同じ内容のものであって,原告の権利に属する。したがって,被告は,本件特許出願に係る発明のうちハンドルグリップ傘に関する部分を分離して,出願人をP1,発明者をP2に変更すべきである。
(2) 被告の主張ア 前記(1)アについてP1らが,平成14年ころ,原告特許明細書と本件試作品を持参して被告を訪れ,被告取締役のP5と会ったことは認めるが,その余の事実は否認する。P1らは,単に参考までに話を聞いてほしいというので,P5は応じたのであり,情報提供がされた事実はないし,前記(1)ア(ア)ないし(オ)の説明もなかった。原告が主張する本件情報の内容は,被告製品を見て,被告製品が有している性質を情報提供したと主張しているにすぎない。前記(1)ア(ア)ないし(オ)の自転車用アクセサリーにおいて強度のあるプラスチックを使用することも,紫外線を防止するプラスチックを使用することも,古くからの周知技術であり,プラスチックで一体成形することはプラスチックの成形上当然のことであり,いずれも被告が知悉してたことであるし,強度を高めることは一般に当業者が設計にあたり当然に考慮することである。
P1らは,原告特許出願をライセンスしたいと申し出たが,P5は,原告特許出願は一見して特許性がなかったので,ライセンスを受ける意思はまったくないと返答した。
イ 前記(1)イについて否認する。原告が原告特許の実施品であると主張する被告製品は,いずれも平成14年にP1らが被告を訪れる以前に,被告が既に開発していたもので,原告の主張する本件情報提供に基づくものではない。原告特許は,自転車用ハンドルグリップ傘に係るもので,「雨水を受けるとい部」や「スリット」等を必須の構成要素とするもので,被告製品はいずれも,原告特許に関係しない。
本件特許出願は,UV-001についての出願であり,原告特許とは技術的思想を異にするもので,製品についての使用目的や製造方法も異なる。本件特許出願に係る発明は,被告の従業員P4が独自に発明したもので,原告の主張する本件情報提供に基づくものではない。なお,UV-002はハンドルカバーであり,本件特許明細書に記載されているものではない。
原告が主張する「プラスチックによる一体成形」,「左右前後に変形できるフレキシブルによる取付け」,「紫外線吸収樹脂の使用又は混合による製造」は,原告特許明細書には記載されていない。上記の3点は,いずれも自転車用アクセサリーとして古くから周知の技術あるいは当然のことであり,各種自転車部品や各種プラスチック製品の製造販売等を業とする老舗メーカーである被告も当然に知悉していたものであって,情報的に価値がなく,このような常識事項を「情報提供」とする主張は理解しがたい。
ウ 前記(1)ウについて否認する。
エ 前記(1)エについて否認する。18年1月訪問の際,P1らから,本件特許出願のうち「ハンドルグリップ」部分のみを分離して原告に移転してほしい旨の申入れがあったが,被告は,拒絶している。本件特許出願に係る発明は,「軽車両用風防及び自転車」に関するものであって,分離すべき対象たる「ハンドルグリップ」は含まれていないし,本件特許出願に係る発明は,被告従業員によるもので,同発明についてP2は何らの関与もしていないので,被告が原告に本件特許出願に係る特許を受ける権利の持分を譲渡する約束をすることはありえず,本件合意1の合意の事実はない。
オ 前記(1)オについて否認ないし争う。
2 情報提供料支払の合意の有無(争点2)(1) 原告の主張ア 被告は,14年1月訪問では,本件情報提供の採否を留保し,平成14年9月26日,P1らが被告を訪れた際(以下「14年9月訪問」という。),本件情報提供に係る情報を採用すること及び自転車の他の部分に取り付ける同種の製品も同時に開発することを伝えた。その際,原告と被告は,被告が原告に本件情報提供に関する情報提供料を支払う旨の合意をした(以下「本件合意2」という。)。
イ 本件合意2が成立した根拠として,P5は,平成15年7月24日,P1らが被告を訪れた際(以下「15年7月訪問」という。),被告の同年9月の決算終了後に本件合意2に基づく支払の一部を振込により支払う旨述べたので,P1は,三井住友銀行天王寺駅前支店に「X カイケイ P1」名義の普通預金口座(甲12)を開設した。しかし,被告からの支払はなかった。
ウ 被告は,平成17年8月23日,P1らが被告を訪問した際(以下「17年8月訪問」という。),開発費として約1000万円の費用を要した旨伝え,原告はその2,3割を謝礼としてほしいと述べた結果,被告が原告に対し,200万円を支払うことを合意した。
エ 原告は,18年1月訪問の際,いったん上記の合意金額を保留した。被告は,本件調停において,当初30万円を支払う,後に60万円まで支払う旨述べたことからも,原告に対し,金銭を支払う意思があったことは明らかである。
(2) 被告の主張ア 前記(1)アについてP1らが平成14年夏ないし秋に被告を訪れたことは認めるが,その余は否認する。14年1月訪問は,P1らの参考までに話を聞いてほしいという申出に応じたものにすぎず,有償ライセンスや情報提供申込みのために行われたものではなく,被告は,ライセンスを受ける意思がないことを念押ししている。原告が主張する本件情報提供を「採用」して自転車の他の部分に取り付ける同種製品を開発することもない。原告が主張する本件合意2の内容は極めて曖昧であるし,企業として,そのような契約を口頭で締結することも,特許権のような独占権がなく容易に模倣され得る単なる情報に対価を支払うことも,対価の額も基準も決めず支払のみを合意することも,周知技術技術常識対価を支払うことも,通常はない。
イ 前記(1)イについてP1らが平成15年夏ごろ,被告を訪問したこと,P1が口座を開設したこと及び被告が支払をしていないことは認め,その余は否認する。
ただし,平成15年夏ごろ,被告のP5は,P1らに対し,一般の声を聞かせてもらったことに対する心づけの意味で,礼金として10万円を支払う用意があると伝えたことはある。P1らは,被告の申出に対し,感謝の意を表すとともに,ハンドプロテクターの売上の3パーセントにしてほしいと述べ,被告は後日,決算(平成15年9月20日)までの売上の3パーセントを心づけとして支払ってもよいと述べ,P1らは感謝の言葉を述べた。しかし,決算までの売上の3パーセントは3万円弱であったため,P1らの要望で,3年間の売上の3パーセントとすることとなった。
ウ 前記(1)ウについてP1らが,被告に対し,200万円ないし300万円の支払を求めた事実は認め,その余は否認する。200万円の支払合意はない。前記のとおり,被告は,P1らの要望を容れて,ハンドプロテクターの3年間の売上の3パーセントを心づけとして支払う旨伝え,P1らも,被告の申出にたいそう感謝し,満足していたところ,突然,上記の200万円ないし300万円の要求をしてきたものである。
P5は,本件特許出願は,風防に関するものであって,原告特許に係る「自転車用ハンドルグリップ傘」を含むものではないと理解していたところ,18年1月訪問において,P1から,本件特許出願は「ハンドルの上の部分」を含む形で障害となっていると指摘されたので,仮に,法律上,P1の指摘するとおりであったとすれば,原告が「自転車用ハンドルグリップ傘」を実施できるよう調整を図ることを検討する用意があるという姿勢で対応したにすぎない。
エ 前記(1)エについて原告が,本件調停において,被告に300万円の支払を求め,被告が,本件調停において,紛争解決のために若干の金銭の支払の用意がある旨を調停委員に伝えたことは認めるが,その余は否認ないし争う。
3 不法行為の成否及び損害発生の有無・額(争点3)(1) 原告の主張ア 仮に,本件合意2が成立していなかったとしても,本件特許出願に係る発明のうちハンドルグリップ部分に関する発明は,本件情報提供に基づくものであり,原告は,被告に対し,無償で本件情報提供に係る情報を開示することも,本件情報提供に係る発明について本件特許出願をすることも承諾したことはない。にもかかわらず,被告は,本件特許出願をして,その実施品を製造販売し,原告の権利を著しく害した。
イ 原告は,本件試作品を完成したとき,被告以外の製造業者に対し,ハンドルグリップ傘の販売を検討し,営業活動をしたり,製造のための見積をして,製品販売のための活動もしていた。しかし,本件特許出願が特許として登録された場合,原告は,ハンドルグリップ傘の販売をすることができなくなる。
ウ なお,原告と被告は,被告の商品が完成したときは,被告の商品を原告に供給することを合意しており,原告は,商品をある営利企業に販売する旨の約束をしていた。18年1月訪問の際の話合いでは,被告から,対価を金銭の代わりに商品を供給したいとの提案もあった。しかし,被告は,商品の供給をしなかったので,原告は,商品を上記企業に販売していれば得ることができたであろう利益を得ることができなかった。この損害についても補償されるべきである。
エ したがって,原告は,被告に対し,次の各損害について,不法行為による損害賠償請求権を有している。これらの損害額の合計は300万円をくだらない。
(ア) 被告が原告の権利を侵害したことによる慰謝料(イ) 被告がハンドルグリップ傘を販売する場合における本件特許出願をしたことによる利益及び本件特許出願が特許として登録された場合の登録されたことによる利益(ウ) 原告が被告以外の者に対して情報提供した場合に得ることのできた利益(エ) 原告が原告特許に係る特許出願及び本件試作品製作とその完成までに要した費用(オ) 原告は,本件情報提供において被告に開示した内容を発展させ,別の特許出願を考慮していたが,本件特許出願があるため,別の特許出願及び原告のハンドルグリップ傘の製造を断念せざるを得なかったことに対する補償(2) 被告の主張ア 前記(1)アについて否認ないし争う。本件特許出願に係る発明は,被告の従業員が独自に発明したものである。
イ 前記(1)イについて否認ないし争う。本件特許出願は,「軽車両用風防及び自転車」に関するもので,「ハンドルグリップ」に関するものではなく,本件情報提供の内容とは無関係であるから,「軽車両用風防及び自転車」に関する本件特許出願が,原告の「ハンドルグリップ」の販売の妨げになることはない。
ウ 前記(1)ウについて原告とある営利企業との約束は不知。その余は否認ないし争う。なお,P1らから知人に配りたいと頼まれたので,被告製品の各色について段ボール合計2箱を好意で送ったことはある。
エ 前記(1)エについて否認ないし争う。本件情報提供の内容は,古くからの周知技術であるし,被告製品は,原告特許を侵害していない。また,被告製品や本件特許出願は,被告の従業員の独自の発明によるものであって,本件情報提供によるものではない。
当裁判所の判断
1 前記第3の前提となる事実,争いのない事実,証拠(各事実の末尾に記載)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1) 本件特許出願ア 本件特許出願の特許請求の範囲は次のとおりである。(甲4)【請求項1】「形状的に安定した樹脂材により形成されていることを特徴とする軽車両用風防。」【請求項2】「透明素材により形成され,且つ紫外線カット作用が付加されていることを特徴とする軽車両用風防。」【請求項3】「装着の対象とされる軽車両が自転車(1)であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の軽車両用風防。」【請求項4】「自転車(1)に子供用補助座席(4)が装着されているものとしてこの子供用補助座席(4)に乗車する子供を保護対象として自転車(1)に直接又は子供用補助座席(4)を介して間接に装着可能となっている請求項3記載の軽車両用風防。」【請求項5】「前記子供用補助座席(4)は自転車(1)のハンドル(3)近傍へ装着されるものとされており,この子供用補助座席(4)の前面を覆う位置に装着可能とされていることを特徴とする請求項4記載の軽車両用風防。」【請求項6】「軽車両に対する装着部(60)(61)が設けられた風防支持体(8)と,この風防支持体(8)の上部に設けられる風防本体(9)とを有し,風防本体(9)は風防支持体(8)の上部へ起立した姿勢と風防支持体(8)の前方へ向けて倒れた姿勢との間で屈曲動作自在とされていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の軽車両用風防。」【請求項7】「前記風防支持体(8)が自転車(1)のハンドル(3)に装着可能とされ,この自転車(1)にはハンドル(3)の前部に前カゴ(5)が装着されているときに,風防本体(9)が前方へ倒れた姿勢で前カゴ(5)上部を覆蓋可能になっていることを特徴とする請求項6記載の軽車両用風防。」【請求項8】「前記風防本体(9)は,風防支持体(8)に対して起立した姿勢で前後反転自在になっており,前方へ倒れて前カゴ(5)上部を覆蓋するときには起立姿勢時の前面を上方へ向けた姿勢にできることを特徴とする請求項7記載の軽車両用風防。」【請求項9】「請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の軽車両用風防(2)が装着されていることを特徴とする自転車。」イ 本件特許明細書には,次の記載がある。(甲4)【0001】【発明の属する技術分野】「本発明は,自転車などの軽車両に装着することのできる風防と,この風防を装着した自転車とに関するものである。」【0005】【発明が解決しようとする課題】「従来,上記したように自転車用装着部品として各種のものは知られている。
しかしながら,これらのものはいずれも単機能であり,複数の異なった使い方ができるような,多機能のものは無かった。そのため,自転車に対して複数の機能を持たせるためには,それぞれに対応した複数の装着部品を各種取り混ぜて取り付ける必要があるが,この場合,取付位置が干渉するなどして取り付けが不可能であったり,取り付けできるとしても自転車が重くなりすぎて運転し難くなったり,或いは費用的な負担が大きくなったりするといった不具合があった。」【0006】「また,殊に子供用補助座席に乗車させる子供を日差し(紫外線)から保護するようなものも無かった。…自転車などの軽車両に装着させるものとして,形状的に安定した(即ち,硬質の樹脂製とされた)風防というものは,そもそも無かった。本発明は,上記事情に鑑みてなされ,自転車などの軽車両に装着することのできる風防を提供するものであって,この風防により,多機能化を図り,もって装着の簡便性向上,運転阻害性の防止,低廉化などが得られるようにすることを目的とする。」【0007】「また本発明は,子供用補助座席に乗車させる子供を対象として,日差し(紫外線)や風雨などからの保護ができるようにした軽車両用風防を提供することを目的とする。」【0008】【課題を解決するための手段】「前記目的を達成するため,本発明は次の手段を講じた。即ち,本発明に係る軽車両用風防2は,形状的に安定した樹脂材により形成されている。ここにおいて「形状的に安定した樹脂材」とは,特許文献3に記載されているような柔軟な膜とは異なり,支持骨のようなものが無くても所定の形状を自ら保持できる程度の剛性や強度を具備したものを言う。例えばポリカーボネイトなどを使用すればよい。」【0009】「このように,形状的に安定した樹脂材によって形成されたものとすることで,風雨に対して変形などせずに耐えるものとなり,実質的且つ十分に風防としての作用が得られることになる。この風防2は,透明素材により形成され,且つ紫外線カット作用が付加されている。このようにすることで,視認性を確保させながらも日差し(紫外線)からの保護ができることになる。」(2) 原告特許ア 原告特許の特許請求の範囲は次のとおりである。(乙1)【請求項1】「自転車のハンドルのグリップ部の上方のみを,前記グリップ部と所定間隔を隔てて覆う傘部材を備え,前記傘部材は,下方に向かって広がる傾斜面を周方向において有するような形状に形成され,その外周縁部には雨水を受けるとい部を有し,前記とい部には前記グリップ部の長手方向外方と対向する位置に開口されるスリットが形成されていることを特徴とする,自転車用ハンドルグリップ傘。」【請求項2】「自転車のハンドルのグリップ部の上方のみを,前記グリップ部と所定間隔を隔てて覆う傘部材を備え,前記傘部材は,その内壁面に小物を収容するための棚が形成されていることを特徴とする,自転車用ハンドルグリップ傘。」【請求項3】「前記傘部材は,前記ハンドルに,上下方向および車両前後方向に移動可能に取り付けられていることを特徴とする,請求項1または2に記載の自転車用ハンドルグリップ傘」イ 原告特許の特許請求の範囲構成要件に分説すると次のとおりとなる。
(ア) 請求項11A 自転車のハンドルのグリップ部の上方のみを,前記グリップ部と所定間隔を隔てて覆う傘部材を備え,1B 前記傘部材は,下方に向かって広がる傾斜面を周方向において有するような形状に形成され,1C その外周縁部には雨水を受けるとい部を有し,1D 前記とい部には前記グリップ部の長手方向外方と対向する位置に開口されるスリットが形成されていることを特徴とする,1E 自転車用ハンドルグリップ傘。
(イ) 請求項22A 自転車のハンドルのグリップ部の上方のみを,前記グリップ部と所定間隔を隔てて覆う傘部材を備え,2B 前記傘部材は,その内壁面に小物を収容するための棚が形成されていることを特徴とする,2C 自転車用ハンドルグリップ傘。
(ウ) 請求項33A 前記傘部材は,前記ハンドルに,上下方向および車両前後方向に移動可能に取り付けられていることを特徴とする,3B 請求項1または2に記載の自転車用ハンドルグリップ傘ウ 原告特許明細書には,次の記載がある。(乙1)【0001】【発明の属する技術分野】「本発明は,自転車のハンドルのグリップ部の付属品に関する。」【0002】【従来の技術】「従来,自転車,ミニバイクおよびオートバイ等の2輪車の走行中に,ハンドルのグリップ部を握る手を,風や雨,および,強い日差しから保護するものとしては,たとえば,実開昭63-52684号公報に示されているような,袋状のハンドルカバーが知られている。」【0003】「また,オートバイやミニバイク等の比較的走行速度の速い2輪車に対しては,走行中に前方から風や雨が手に当たるため,たとえば,実開昭58-93585号公報に示されているような,合成樹脂材等からなるフード状のカバーが知られている。」【0004】【発明が解決しようとする課題】「しかし,実開昭63-52684号公報に記載されるようなハンドルカバーでは,その形状が袋状であるため,グリップ部を握る手をハンドルカバー内部へ出し入れするのが面倒であり,たとえば,走行中の転倒時に,瞬時に手をカバーから抜いて地面に着くことが困難となる。」【0006】「また,実開昭58-93585号公報に記載されるようなフード状のカバーは,ハンドルの前方のみを覆うように形成されているので,走行中に前方から当たる風や雨などから手を保護することはできるが,夏季の強い日差しによる手の日焼け等を防止することはできず,しかも,オートバイやミニバイクに比べて走行速度が遅い自転車においては,雨は前方よりむしろ上方から手に当たるので,このようなフード状のカバーでは,手を雨から有効に保護することはできない。」【0007】「本発明は,上記した不具合を解決するためになされたものであり,その目的は,安全性に優れ,各種操作レバーやベル等の操作に支障をきたすことがなく,しかも,雨や強い日差しから手を有効に保護することができる自転車用ハンドルグリップ傘を提供することにある。」【0008】【課題を解決するための手段】「上記の目的を達成するため,請求項1に記載の発明は,自転車のハンドルグリップ部の上方のみを,前記グリップ部と所定間隔を隔てて覆う傘部材を備え,前記傘部材は,下方に向かって広がる傾斜面を周方向において有するような形状に形成され,その外周縁部には雨水を受けるとい部を有し,前記とい部には,前記グリップ部の長手方向外方と対向する位置に開口されるスリットが形成されていることを特徴としている。」【0009】「このような構成によると,傘部材は,グリップ部と所定の間隔を隔てて,その上方のみを覆うように設けられているので,運転者は,傘部材とグリップ部との間の側方のいかなる方向からも手を出し入れして,グリップ部を握りあるいは離すことができる。また,ハンドルに取り付けられる各種操作レバーやベル等が傘部材に接触することもない。さらに,走行中に雨が降っている時には,雨は,傘部材の傾斜面に当たると,その表面を伝わって下方へと流れてとい部で受け止められ,その後,とい部に留まった雨水は,グリップ部の長手方向外方と対向位置にあるスリットから排出される。」【0010】「また,請求項2に記載の発明は,自転車のハンドルのグリップ部の上方のみを,前記グリップ部と所定間隔を隔てて覆う傘部材を備え,前記傘部材は,その内壁面に小物を収容するたの棚が形成されていることを特徴としている。」【0011】「このような構成によると,傘部材は,グリップ部と所定の間隔を隔てて,その上方のみを覆うように設けられているので,運転者は,傘部材とグリップ部との間の側方のいかなる方向からも手を出し入れして,グリップ部を握りあるいは離すことができる。また,ハンドルに取り付けられる各種操作レバーやベル等が傘部材に接触することもない。さらに,この棚を小物入れとして使用して,たとえば,サドルカバー等の小物を収容することができる。」【0014】「また,請求項3に記載の発明は,請求項1または2に記載の発明において,前記傘部材は,前記ハンドルに,上下方向および車両前後方向に移動可能に取り付けられていることを特徴としている。」【0015】「このような構成によると,傘部材は,グリップ部に対して,上下方向および前後方向に移動するため,その時々の雨や日差しの方向や角度に応じて,最適の位置でグリップ部および手を保護することができる。」エ 出願経過原告特許の特許請求の範囲は,当初は,請求項1が「自転車のハンドルのグリップ部の上方のみを,前記グリップ部と所定間隔を隔てて覆う傘部材を備えていることを特徴とする,自転車用ハンドルグリップ傘」(判決注・原告特許の構成要件1A及び1E)であり,これに,3Aの「前記傘部材は,前記ハンドルに,上下方向および車両前後方向に移動可能に取り付けられていることを特徴とする」こと,1Bの「前記傘部材は,下方に向かって広がる傾斜面を周方向において有するような形状に形成され,」,1Cの「その外周縁部には雨水を受けるとい部を有し,」,1Dの「前記とい部には前記グリップ部の長手方向外方と対向する位置に開口されるスリットが形成されていること」,2Bの「前記傘部材は,その内壁面に小物を収容するための棚が形成されていることを特徴とする」ことなどを単独の又は併存する構成要件として付加して他の請求項とする内容であった。
しかし,1A,2A,3Aは,原告特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載されたものであるとの指摘等を内容とする2度の拒絶通知を経た結果,前記のとおりの内容となった。(甲3,乙2の1・2)(3) 被告製品ア UV-001UV-001は,自転車用風防であり,本体の材質はポリカーボネイトで,ハンドルのグリップより内側の部分やハンドルポスト(ハンドルを支えている支柱)にナイロンベルトで固定して使用するものである。その特徴は,@前面からの紫外線カット機能,特に自転車の幼児用前部補助座席に座る幼児の保護,A風よけ,特に衝撃に強く,透明で視界を遮らず,風の抵抗を考慮した形状で走行の妨げになりにくい,B風防の上部部分を反転させてカゴ側に倒すことにより,カゴの蓋として使用することができるとの点にある。
(乙6,9)イ UV-002UV-002は,ハンドルグリップの傘であり,本体の材質はポリカーボネイトで,ハンドルに取り付けて使用するものである。もっとも,その形状は,1A及び2Aは備えているものの,少なくとも1Bないし1D,2B,3Bの各構成要件を充足していない。そのため,原告特許の請求項1ないし3のいずれの技術的範囲にも属しない。(乙6,7)(4) ハンドルグリップ傘に関する従来の技術ア 構成要件1A及び2A自転車のハンドルのグリップ部の上方のみを,前記グリップ部と所定間隔を隔てて覆う傘部材を備えていること(構成要件の1A及び2A)は,実公昭12-6140号公報(乙3),実公昭12-8114号公報(乙4)に記載され,昭和12年には公然知られていた。
構成要件3A傘部材が,ハンドルに,上下方向及び車両前後方向に移動可能に取り付けられていること(構成要件の3A)は,実公昭12-8114号公報(乙4)に記載され,昭和12年には公然知られていた。
なお,構成要件3Aのうち「ハンドルに,上下方向および車両前後方向に移動可能に取り付けられている」ことは,自転車のバックミラー,尾灯,傘取付け器具については,実開平1-116790号公報,同平3-43092号公報,同昭60-64190号公報,特開平8-207857号公報,実開昭60-137819号公報,同昭62-105888号公報に記載され,原告特許出願前には周知の技術であった。(乙11ないし乙16)(5) 紫外線防止のための従前の技術ア 特開平9-30474号公報(乙18)の【0046】には,次の記載がある。
「上記カバー体本体58と庇61はアクリル板,PP板,あるいは塩化ビニール板等の樹脂製で,透明,半透明,あるいは不透明とされ,いずれも紫外線を遮断するものであり,また雨除けとしても働く。」イ 特開平9-123968号公報(乙19)の【0009】には,次の記載がある。
「日除け部の材質は,発砲スチロール又は防水処理をした厚紙,もしくはプラスチックを成型加工したものでも可である。」ウ 「プラスチック読本」(乙21。平成4年8月15日改訂第18版発行)には,次の記載がある。
「紫外線吸収剤は紫外線エネルギーを吸収し,吸収剤分子の内部変化にそれを消費してしまって,ポリマーにエネルギーを及ぼさない作用を持っている。…280〜350nmをよく吸収する添加剤を用いれば,紫外線劣化のほとんどを防止することができる。…添加量は,吸収剤の吸光係数(光の吸収力を表す)と製品の用途によって異なるが,0.2%あたりが標準であり,製品寿命を4〜6倍も伸ばすことができる。」(6) プラスチックの成型前記「プラスチック読本」には,次の記載がある。
「プラスチックは軽く,成形しやすく,複雑な形状の製品でも少ない工程数でつくることができ,透明/不透明の材料があり,電気絶縁性,耐水又は耐油,耐薬品性に優れている。…成形加工は,一般に,加熱された金型内で硬化反応(架橋反応)を起こさせて三次元網目構造とし,金型温度において変更しない耐熱性を付与した後,脱型して行う。」2 出願人の追加及び発明者変更の請求権の有無(争点1)について(1) 本件全証拠によっても,本件合意1があったという事実を認めることはできない。
原告は,本件合意1があったと主張し,これに沿う内容の原告代表者P1の陳述書(甲7)を提出する。また,これに関して,18年1月訪問の際のやりとりを原告が録音したとするCD-Rやその反訳書(甲15の1・2,乙22)が提出されている。
しかし,上記のCD-R及びその反訳書によっても,P1が,本件情報提供があったことを前提に,被告がこれを利用して本件特許出願をした旨述べている点について,応対したP5は明確に否定している(甲15の2,乙22の各7,8ページ)。また,P1が,本件特許出願に,「ハンドルの上」のものも含まれるので,原告の何らかの権利を侵害するかのように述べたところ,P5は,そういうつもりはなかったと述べており,その後更に,P1に追及されたため,仮に含まれるとすれば,本件特許出願の分割,出願内容の修正,出願人にP1,発明者にP2を加えることを検討はする旨を述べているようにも理解できる部分もあるが(甲15の2,乙22の各10,19,30,32,34ページ),あくまで「仮に含まれるとすれば」,「検討する」旨の返答をしているのにすぎないのであって,被告の会社内部あるいは弁理士に相談をした後ではないと確定的に回答できない趣旨と理解されるから,これらをもって,原告と被告との間に本件合意1があったと認めることはできない。
(2) 原告が本件合意1の前提として主張する本件情報提供の内容は,原告特許明細書及び試作品並びに前記第5の1(1)ア(ア)ないし(オ)に記載の本件情報である。
ア 原告特許明細書及び本件試作品について前記1で認定した事実によれば,本件特許出願は,その発明に係る物は,軽車両用の風防であり,その構成は,形状的に安定した樹脂材,透明素材かつ紫外線カット作用が付加されていること等であり,その作用効果は,@風防を反転させて前カゴの蓋として利用できる,A特に子供用補助座席に乗車させる子供を紫外線から保護する,B形状的に安定した強度があり,装着が簡易,透明素材で運転を阻害しない,低廉等であることが認められる。
他方で,原告特許は,その発明に係る物は,自転車のハンドルグリップ傘であり,その構成は,ハンドルグリップ部分の上方のみを覆う傘部材で,「雨水を受けるとい部」及び開口スリット又は小物収容棚を必須の要件とするもので,その作用効果は,運転者の手を雨や日差しから保護し,レバー等の操作に支障をきたさないこと等であることが認められる。
そして,本件特許出願に係る発明と原告特許に係る発明とを比較すると,その発明に係る物については,本件特許出願は軽車両用の風防であるが,原告特許は自転車のハンドルグリップ部分の上方のみを覆う傘部材であるから,両者は全く異なる。その構成も,原告特許は「雨水を受けるとい部」及び開口スリット又は小物収容棚を必須の要件とする点で,これらを要件とはしていない本件特許出願とは異なる。その作用効果も,本件特許出願は,@風防を反転させて前カゴの蓋として利用できる,A特に子供用補助座席に乗車させる子供を紫外線から保護する,B形状的に安定した強度があり,装着が簡易,透明素材で運転を阻害しない,低廉等であることに対し,原告特許は,運転者の手を雨や日差しから保護し,レバー等の操作に支障をきたさないことであるから,両者は全く異なる。
なお,P1らが持参した本件試作品の内容は明らかではないが,原告特許の実施品であるとすれば,上記に述べたとおり,本件特許出願に係る発明の内容とは全く異なるものである。
イ 本件情報について仮に,原告が主張するとおりの本件情報を説明していたとしても,その内容のうち前記第5の1(1)ア(ア)及び(イ)について,プラスチックを一体成形とすること,プラスチックは紫外線を防止する性質があるものを使用すること,プラスチックに紫外線防止効果がない場合は,紫外線防止効果のあるプラスチック等を混合して成形することといった事項は,前記1(5)(6)で認定したとおり,遅くとも原告特許出願前には周知の技術となっていた。また,前記第5の1(1)ア(ア)及び(ウ)のうち,強度が十分備わるプラスチックを使用すること,強度が足りないと思われる支柱は強度を高めることは,製品の製造者においては当然の常識である。さらに,前記第5の1(1)ア(エ)及び(オ)については,ハンドルグリップカバーに関するもの及びハンドルグリップ傘に関するもので,風防についての本件特許出願とは全く関係がないし,ハンドルグリップ傘は,日差し防止のためのものであるから,これが日差し防止の効果を備えていることは当然のことであり,ハンドルグリップカバーとは異なる手を抜きやすい形状であるハンドルグリップ傘は,前記1(4)で認定したとおり,昭和12年に既に公然知られていたものである。
以上のとおり,原告が本件合意1の前提として主張する本件情報提供は,原告特許明細書及び試作品については,本件特許出願に係る発明の内容とはまったく異なるものであるし,本件情報は,既に周知の技術ないし常識であって,その情報自体に,対価を支払って入手しなければならないような価値があるとは認め難い。よって,これらの事情からしても,本件合意1があったという事実を到底認めることはできない。
(3) 原告は,仮に,本件合意1が成立していなかったとしても,本件特許出願に係る発明のうちハンドルグリップ傘に関する部分は,本件情報提供と同じ内容のものであって,原告の権利に属するので,本件特許出願に係る発明のうちハンドルグリップ傘に関する部分を分離して,出願人をP1,発明者をP2に変更すべきであるとも主張する。
しかしながら,前述のとおり,本件特許出願に係る発明の中にハンドルグリップ傘に関する部分はなく,原告特許に係る発明及びその試作品と同じ内容のものはないし,本件情報は,原告が本件情報提供をしたと主張する平成14年当時はもとより,原告特許出願前には周知ないし技術常識であったものであるから,原告の権利に属する何らかの情報が本件特許出願に係る発明に用いられたと認めることはできず,原告の主張はその前提を欠いているもので理由がない。
3 情報提供料支払の合意の有無(争点2)について(1) 本件全証拠によっても,本件合意2があったという事実を認めることはできない。
すなわち,原告とP5との会話を録音したCD-R及びその反訳書(甲15の1・2,乙22)によっても,P5は,被告が本件情報提供の内容を利用した事実を明確に否認していることは,前記のとおりであり,これらの証拠によっても,本件合意2の事実を認めることはできない。また,P1が,口座を開設したこと(甲12)や契約書案を作成したこと(甲14の1・2)をもって,本件合意2があったと認めることはできないことはいうまでもない。また,本件調停において,被告が若干の金銭を支払う旨を申し出たことをもって,本件合意2があったことを根拠づけることはできないこともいうまでもないし,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(2) 原告が本件合意2の前提として主張する本件情報提供は,原告特許明細書及び試作品については,本件特許出願に係る発明の内容とはまったく異なるものであるし,本件情報は,既に周知の技術ないし常識であって,その情報自体に,対価を支払って入手しなければならないような価値はないことは,前述のとおりである。よって,仮に原告が主張する本件情報提供があったとしても,自転車関連の製品のメーカーである被告が,本件情報提供について対価を支払う旨の合意をすることは考えられない。
また,証拠(甲5,乙6ないし乙8)によれば,UV-002は,ハンドルグリップ傘の製品ではあるが,「雨水を受けるとい部」及び開口スリット又は小物収容棚を有しておらず,これを必須の要件とする原告特許に係る発明とは異なるものであることが認められるうえ,UV-002が備えているか又は備えている可能性のある原告特許の構成要件1A,2A,3Aは,前示のとおり昭和12年には公然知られていたものである。したがって,仮に,原告の主張が,本件合意2を,被告が本件情報提供に係る情報をUV-002の製造販売に利用したことについての対価であるとするものであったとしても,被告が,本件情報提供について対価を支払う旨の合意をすることは考えられない。
4 不法行為の成否及びその損害発生の有無・額(争点3)について(1) 原告は,本件特許出願に係る発明のうちハンドルグリップ部分に関する発明は,本件情報提供に基づくものであるから,被告が原告に無断で本件特許出願をして,その実施品を製造販売することは,原告の権利を侵害すると主張する。
しかし,前述のとおり,本件特許出願に係る発明と原告特許に係る発明及び本件試作品とはまったく異なるもので,相互に利用関係はないし,本件情報は,平成14年当時はもとより,原告特許出願前から周知の技術ないし常識であったことから,仮に,原告が主張するとおり,本件情報提供があったとしても,本件特許出願に係る発明の一部でも本件情報提供に基づくものということはできず,被告の行為が原告との関係で不法行為となることはない。
(2) 原告は,原告と被告は,被告の商品が完成したときは,被告の商品を原告に供給することを合意していたとして,同合意が履行されなかったことについての損害も求めるようである。
しかしながら,上記の内容の合意があったことを認めるに足りる証拠はない。
5結論よって,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山田知司
裁判官 高松宏之
裁判官 村上誠子