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関連審決 不服2004-26463
関連ワード 頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  周知技術 /  優先権 /  実施 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10416号 審決取消請求事件
原告モトローラ・インコーポレイテッド
訴訟代理人弁護 士鈴木修
同 山口裕司
同 河野祥多
訴訟代理人弁理 士小林泰
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理人工藤一光
同 藤内光武
同 竹井文雄
同 大場義則
同 山本章裕
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/05/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2004-26463号事件について平成18年5月8日にした審決を取り消す。
第2争いのない事実1特許庁における手続の経緯原告は,1997年(平成9年)12月31日(優先権主張:1997年2月28日 米国発明の名称を 2つの対置する側から視認可能なディスプレ ,),「イを有する電子装置」とする国際特許出願(特願平10-537627号,以下 本願 というをした その後 原告は 平成14年1月16日付けで本 「」。)。,,(。) , 願に係る明細書 特許請求の範囲を含むを補正する手続補正をしたところ(,「」。) 平成16年3月2日付けで拒絶理由通知 以下 単に 拒絶理由通知 というを受けたので,更に同年6月3日付けで特許請求の範囲を補正する手続補正を(, 「」。) した 以下 この補正後の本願に係る明細書及び図面を 本願明細書 というが 同年9月16日付けで拒絶査定 以下 原査定 というを受けた そこ , (「」。)。
で,原告は,平成16年12月27日,拒絶査定不服審判を請求し,上記審判請求は不服2004-26463号事件 以下 本件審判 というとして特 (「」。)許庁に係属した 特許庁は 審理の結果 平成18年5月8日本件審判の請 。,,,「求は 成り立たないとの審決 附加期間90日 をし 同年5月18日 そ ,。」(),,の謄本を原告に送達した。
2特許請求の範囲本願明細書の特許請求の範囲の請求項10の記載は,次のとおりである(以下,この発明を「本願発明」という。。)「メッセージを処理するプロセッサと,前記プロセッサに電気的に結合され,メッセージを含む画像を表示するディスプレイとを備え,前記ディスプレイは,前記画像が前記ディスプレイの第1側及び第2側であって互いに対置している当該第1側及び第2側から視認可能であるように構成且つ配置されている,電子装置 」。
3審決の理由別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,本願の優先権主張に係る日の前に頒布された刊行物である特開平5-53991号公報(以下,審決と同じく引用例 という 甲2 に記載された発明 以下 審決と同じ ,「」。)(,く 「引用発明」という )に基づいて当業者が容易に発明をすることができた ,。
ものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
審決が上記結論を導くに当たり認定した引用発明の内容,本願発明と引用発明との一致点・相違点は,次のとおりである。
(引用発明の内容)「ディスプレイデータを処理するコンピュータ本体と,前記コンピュータ本体に電気的に結合され,ディスプレイデータを含む内容を表示するディスプレイモニタとを備え,前記ディスプレイモニタは,前記内容が前記ディスプレイモニタの前方及び後方であって互いに対置している当該前方及び後方から画面の内容を確認することができるパーソナルコンピュータ」(一致点)「ディスプレイデータを処理するプロセッサと,前記プロセッサに電気的に, , 結合され ディスプレイデータを含む画像を表示するディスプレイとを備え前記ディスプレイは,前記画像が前記ディスプレイの第1側及び第2側であって互いに対置している当該第1側及び第2側から視認可能であるように構成かつ配置されている,電子装置」である点。
(相違点)ディスプレイデータが,本願発明では,受信したメッセージ又は送信する,, 。 メッセージであるのに対して 引用発明では メッセージとはしていない点第3取消事由に係る原告の主張本件審判の手続は特許法159条2項により準用される同法50条本文の規定に違背したものであり 取消事由1また 審決は本願発明と引用発明との (),,相違点を看過したものであって,この誤りが審決の結論に影響することは明らかである(取消事由2)から,審決は取り消されるべきである。
1取消事由1(審判手続の法令違背)原査定(甲9)及びその引用する拒絶理由通知(甲8)において拒絶の理由を構成する公知発明とされたのは,特開平6-197077号公報(甲1)記載の発明であり,引用例(甲2)は,特開平4-238515号公報(甲3)及び特開平8-36440号公報(甲4)とともに,ディスプレイを表裏2面に有し,メッセージを両面で確認することができるようにすることが周知技術であることを示すため例示されたものにすぎない。一方,審決は,引用例(甲2)を拒絶の理由を構成する公知発明を示すために引用したものであるから,審決が,原査定とは異なる理由により,本願を拒絶すべきものと判断したことは明らかである。
しかるに,本件審判の手続において,拒絶理由は通知されておらず,また,原告に,本願発明と引用発明との相違点について意見を陳述する機会がなかったことも明らかである。
したがって,本件審判の手続は,特許法159条2項により準用される同法, , 50条本文の規定に違背したものであって 原告の防御の機会が奪われたまま審決がなされたものであるから,審決は取り消されるべきである。
2取消事由2(相違点の看過)審決は,引用発明の認定を誤ったか,あるいは本願発明が一つのディスプレイの表裏両側から表示された画像を「視認可能」とするものであることを正し, , く理解せず 二つのディスプレイを有する構成を包含するものと誤解したため, , 本願発明と引用発明との一致点の認定を誤り 相違点を看過したものであってこの誤りが審決の結論に影響することは明らかであるから,審決は取り消されるべきである。
, (1)審決が引用発明をどのように理解しているかは必ずしも明確ではないが引用発明は二つのディスプレイを背中合わせに配置したものに限られず,ディスプレイモニタが一つしかないものを含むという趣旨であれば,かかる理解は明らかに誤りである。
(2)審決が 引用発明について 二つのディスプレイを表示画面を外側にして ,,表裏に背中合わせとなるように配置した構成である旨正しく理解した上で,一致点を認定したものであるとすれば,審決は本願発明の内容を誤解したものということになる。
本願発明は,引用例に記載された二つのディスプレイを表示画面を外側にして背中合わせに配置し,二つのディスプレイに同じ内容を表示することに, 。 よって ディスプレイ上の画像等を両側から確認できるとする発明ではないすなわち,本願発明は,一つのディスプレイが「第1側及び第2側から視認,」,「」 可能であるように構成且つ配置されている 電子装置 であって視認可能とは,一つのディスプレイに対して,そこに表示される画像等を両側から見ることができることを意味する。引用発明のように,パーソナルコンピュータの蓋の両側に二つのディスプレイを配置すれば,ディスプレイ上の画像等を両側から見ることができるのは当然のことであり,本願発明において,わざわざ「視認可能」としているのは,そのような当然の事柄を規定する趣旨ではない。
「視認可能」の意味について,本願明細書は,第1図から第4図にその具体的な構成を示し またディスプレイ114は ディスプレイの能動ピク ,,「,セル素子を形成する層を除いて透明であり,そのため表示された画像はディ」(,), スプレイのいずれの側からも視認可能である甲5 6頁18行〜20行「好適な実施例の外面シール302は透明なので,画像ピクセル404および背景ピクセル402はディスプレイ114のいずれの側からも見ることが」(,),, できる甲5 8頁11行〜14行 と説明しており これらの記載からは本願発明が一つのディスプレイに表示される画像等を,ディスプレイを透明なものとするなどの構成として両側から見ることができるようにしたことを,ディスプレイの第1側及び第2側から「視認可能である」という文言で表現していることは明らかである。
なお,本願明細書には,第5図に二つのディスプレイを表裏一体に配置し,「」, た構成が記載されているところ 当該構成は 別の実施例 とされているが「好適な実施例」に比べて「別の実施例」が欠点を有することが明確に指摘されている。そして,二つのディスプレイを表裏に配置した「別の実施例」では2つの側で同一の画像または2つの異なる画像を表示できる とされ ,「 」ており,ディスプレイに表示された画像を両側から視認可能であるとされておらず,その上,2つの異なる画像を表示することが示されているから,本願発明の「ディスプレイは,画像が前記ディスプレイの……第1側及び第2側から視認可能」との構成を欠くことになる。すなわち,本願発明は,本願明細書記載の「好適な実施例」を対象としたものであり,第5図に示された。,「, 構成を含むものでないと理解すべきである 本願発明が全てのユーザはバッテリ寿命が長いように,装置がほんのわずかのバッテリ電力しか利用し」(,),「, ないことを希望する甲5 4頁21行〜23行 ためディスプレイは……ほんのわずかのバッテリ電力しか利用しない甲5 4頁26行〜28 」(,行)とされていることと整合性を有するものである。ディスプレイが単一であるからこそディスプレイの使用電力を抑えることができ,わずかのバッテリ電力しか利用しない構成となり得るのである。
第4取消事由に係る被告の反論本件審判の手続に法令違背はなく,また,審決の認定判断にも誤りはないから,原告主張の取消事由は理由がない。
1取消事由1(審判手続の法令違背)について審決は,本願発明が引用発明,すなわち引用例(甲2)記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとしたものであるが,引用例は拒絶理由通知(甲8)に示された公知刊行物である。審決は,拒絶理由通知における拒絶の理由と同じ理由,すなわち引用例と一般的な電子装置により,本願発明が進歩性を欠くと判断したものである(なお,一般的な電子装置を記載した文献を示す必要がないことは,明らかである。。)本件審判の手続において,原告に,本願発明と引用発明との相違点について意見陳述の機会があったことは明らかであり,また,現に,原告は,審判請求書(甲11)において引用例に関する意見を述べている。
したがって,本件審判の手続に法令違背がないことは明らかである。
2取消事由2(相違点の看過)について(1)審決は,引用発明におけるディスプレイモニタについて 「内容が前記デ,ィスプレイモニタの前方及び後方であって互いに対置している当該前方及び後方から画面の内容を確認することができる」ものと認定したものである。
「 」, ディスプレイモニタが一つしかない構成を含むもの とは認定しておらずまた表裏二つのディスプレイを表示画面を外側にして背中合わせとなるよ ,「うに配置した構成」とも認定していない。
(2)本願発明は,ディスプレイに関し 「画像が前記ディスプレイの第1側及 ,び第2側であって互いに対置している当該第1側及び第2側から視認可能であるように構成且つ配置されている と規定するのみで ディスプレイが 一 」,「つ」又は「二つ」であるとは規定していない。すなわち,本願明細書の請求項10には一つのディスプレイ との記載はない また 広辞苑第四版 乙 ,「」。,(1 によれば視認可能 とは 目で確認することが可能であることを意味 ),「」,するにすぎない。
また一つのディスプレイが第1側及び第2側から視認可能であるように ,「構成かつ配置されている」発明は,請求項10の構成を更に限定した請求項14に記載されており,本願発明はこれに限られるものではないし,本願明細書には別の実施例 として第5図の構成が記載されているところ 請求 ,「」 ,項10の記載は「別の実施例」を排除するものではない。
なお,ディスプレイの使用電力は,ディスプレイの面積や材料などディスプレイの数以外の要因によっても増減することは明らかであるから,ディスプレイが単一であるからこそディスプレイの使用電力を抑えることができ,わずかのバッテリ電力しか利用しない構成となり得るとの原告主張も,失当である。
(3)以上のとおり 原告の主張は 審決及び本願明細書の特許請求の範囲の記 ,,載に基づかない主張であり,失当である。
第5当裁判所の判断1取消事由1(審判手続の法令違背)について原告は,審決が原査定とは異なる理由により本願を拒絶すべきものと判断しているにもかかわらず,拒絶理由を通知することなくされたものであって,原告の防御の機会が奪われたまま,審決がなされたものであるから,本件審判の手続は特許法159条2項により準用される同法50条本文の規定に違背したものである旨主張する。
(1)審決が 引用例 甲2 を 引用発明 すなわち ディスプレイデータを ,() ,,「処理するコンピュータ本体と,前記コンピュータ本体に電気的に結合され,ディスプレイデータを含む内容を表示するディスプレイモニタとを備え,前記ディスプレイモニタは,前記内容が前記ディスプレイモニタの前方及び後方であって互いに対置している当該前方及び後方から画面の内容を確認することができるパーソナルコンピュータ」を開示するものとして,引用していることは,審決の記載から明らかである。
(2)一方,原査定(甲9)には 「平成16年3月2日付け拒絶理由通知書に ,記載した理由によって,拒絶をすべきものである。なお,意見書及び手続補正書の内容を検討したが 拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせないと , 。」の記載があり,拒絶理由通知記載の理由により,本願を拒絶すべきものとしたことが認められる。
そこで,原査定が引用する拒絶理由通知(甲8)をみると,次の記載がある。
「この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない 」。
「・請求項1,2,4,9,10,11,13,18・引用文献等1〜4・備考引用例2乃至引用例4に記載されているように,ディスプレイを表裏2面に有し,メッセージを両面で確認することができるようにすることは周知であり,引用例1に記載されたような携帯無線メッセージング装置及び電子装置に当該機構を設けることは当業者にとって容易である。
また,どのような表示を行うかは単なる設計的事項に過ぎない 」。
「引用文献等一覧1.特開平06-197077号公報2.特開平05-053991号公報3.特開平04-238515号公報4.特開平08-036440号公報……」上記記載中の「引用例2」とは引用例(甲2)であり(拒絶理由通知における引用例1〜4は,それぞれ本訴における甲1〜4である,請求項10。)とは本願発明を記載したものである(拒絶理由通知の後,平成16年6月3日付けで特許請求の範囲が補正されているが,請求項10の記載は変更されていないから 拒絶理由通知において 引用例は 本願発明が進歩性を有 。),,,しないことを示す文献の一つとされており 「ディスプレイを表裏2面に有 ,し,メッセージを両面で確認することができるようにする」との技術事項を開示するものとして引用されたものということができる。そして,拒絶理由通知が引用例が開示するとして具体的に指摘した技術事項は,まさに審決が認定した引用発明に係るパーソナルコンピュータにおけるディスプレイが有する技術事項そのものである。
(3)また 原査定が引用する意見書である原告が審査手続において提出した平 ,成16年6月3日付け意見書 甲10 には 引用例について反対方向に (),,「面している2つのディスプレイ11及び12を有するラップトップタイプもしくはブックタイプのパーソナルコンピュータを開示する3頁14行〜1」(5行)との記載があり,原告が本件審判の手続において提出した同年12月27日付け審判請求書 甲11 には 引用例について二人が同じ情報を (),,「同時に見るのを可能にするため反対方向に面している2つのディスプレイ11及び12を有するラップトップタイプもしくはブックタイプのパーソナル・コンピュータを開示する4頁18行〜20行二人が例えば対話中に 」(),「同じパーソナル・コンピュータ(或いは携帯用コンピュータ)上の同じ情報を同時に見るのを可能にするため2つのディスプレイを有するパーソナル・( )」() コンピュータ 或いは携帯用コンピュータ を教示する5頁5行〜8行との記載がある。
これらの記載に照らせば,原告は,引用例に関して,審決が引用発明として認定した技術事項について,意見を述べていたものというべきである。
(4)以上検討したところによれば 審決が原査定とは異なる理由により本願を ,拒絶すべきものと判断したということはできないし,原告の防御の機会が奪われたまま,審決がなされたということもできない。
原告は,原査定及びその引用する拒絶理由通知において拒絶の理由を構成する公知発明とされたのは甲1記載の発明であり,引用例(甲2)はディスプレイを表裏2面に有し,メッセージを両面で確認することができるようにするという特定の技術が周知技術であることを示すために例示されたにすぎ, ,。 ない旨主張するが 上記説示したところに照らし 採用することができないなお 付言するに 上記(1)イで認定した拒絶理由通知の記載によれば 拒 ,, ,絶理由通知は,請求項1,2,4,9,10,11,13,18に係る発明,(), , について 引用文献 引用例1〜4 として 甲1〜4を掲げているところ平成14年1月16日付け手続補正書(甲6)によれば,拒絶理由通知にいう請求項1,2,4,9に係る発明は「携帯無線メッセージング装置」に関するものであり,請求項10,11,13,18に係る発明は「電子装置」に関するものであることが認められる。しかるところ,拒絶理由通知における 引用例1甲1 は その記載に照らし 携帯型の無線電話装置ないし 「」() ,,無線データ通信装置に特化したものであることが認められるから,拒絶理由通知の「備考」における「引用例1に記載されたような携帯無線メッセージング装置及び電子装置に当該機構を設けることは当業者にとって容易である」との記載中の「引用例1に記載されたような」は「携帯無線メッセージ」,「」 。 ング装置 を修飾するにすぎず電子装置 を修飾するものとは解されない上記 備考 において電子装置 としていかなるものが想定されているか 「」,「」, , は明示されていないといわざるを得ないが 拒絶理由通知にいう請求項10,,, ,「」 11 13 18に係る各発明は 基本的な構成要素としてプロセッサと「ディスプレイ」を有するのみであるから,技術的な概念として,一般的() ,, な電子機器 装置 と格別異なるものとは解されないから 拒絶理由通知はそのような一般的な電子機器(装置)を想定しているものと解するのが相当である そうすると 拒絶理由通知は携帯無線メッセージング装置 に関 。,,「 」する請求項1,2,4,9に係る発明との関係で甲1に言及したものであって電子装置 に関する請求項10 11 13 18に係る発明との関係 ,「」,,,でこれに言及したものではないというべきである。
(5)以上によれば,原告主張の取消事由1は理由がない。
2取消事由2(相違点の看過)について原告は,審決が,引用発明の認定を誤ったか,あるいは本願発明が二つのディスプレイを有する構成を包含するものと誤解したため,本願発明と引用発明との一致点の認定を誤り,相違点を看過した旨主張する。
原告の上記主張の趣旨は,本願発明が一つのディスプレイに表示される画像等を両側から見ることができるものであるのに対し,引用発明は二つのディスプレイを背中合わせに配置したものであるから,審決における一致点の認定には誤りがあるというものと理解される。
(1)そこで,まず,本願発明の構成について検討する。
ア本願明細書の特許請求の範囲の請求項10の記載は,前記第2,2のとおりである。これによれば,本願発明の構成要素である「ディスプレイ」は,@メッセージを含む画像を表示するものであること,Aメッセージを処理するプロセッサと電気的に結合されるものであること,B互いに対置している第1側及び第2側を有し,当該第1側及び第2側からメッセージを含む画像が視認可能であるように構成かつ配置されていることが規定されているが,ディスプレイの数は明示されておらず,単一又は二つのいずれか一方であることが特定されているとはいえない。
原告は,請求項10の「視認可能」という文言が,一つのディスプレイに表示される画像等を両側から見ることができるということを意味する旨主張するが 本願明細書には視認可能 という語について定義ないし説 ,,「」明する記載は見当たらない。一般に「視認」とは「目で確認する」ことを意味する(乙1 ,から 「視認可能」とは「目で確認することができる」 ),ことを意味するにとどまり,一つのディスプレイに表示される画像等を両側から見ることができることを意味するということはできない。
原告は,請求項10の「画像が前記ディスプレイの第1側及び第2側であって」における「第1側「第2側」との文言は1つのディスプレイの 」,両面を説明する記載である旨主張するが,そもそも「前記ディスプレイ」が単一のものに限定されているとは認められないのであるから,原告の上記主張はその前提を欠くというべきである。
イ本願明細書(甲5,6,7)には,図面と共に次の記載がある。
(ア)「第1図は,本発明による,第1(閉)位置のディスプレイ114を有する携帯無線メッセージング装置100の等角図である。装置10, 。 0は ディスプレイ部102およびベース部104によって構成されるディスプレイ部102およびベース部104は,ヒンジ106によって共通の端部にて回転可能に結合される。ディスプレイはさらに,互いに対置する第1側116および第2側118(第2図)を有する。両方の側116,118は,ディスプレイ114に表示される情報を見るために利用できる。また,ディスプレイ114は,第1図に示すようにディスプレイ部102が閉位置のとき,装置100のユーザ制御を提供するために,好ましくは第1側116上で従来のタッチスクリーン108をなす。なお,メッセージ110は,閉位置のディスプレイ114上で読めることに留意されたい(甲5,6頁6行〜16行) 。」(イ)「第2図は,本発明による,第2(開)位置のディスプレイ114を有する携帯無線メッセージング装置100の等角図である。好ましくは,ディスプレイ114は,ディスプレイの能動ピクセル素子を形成する層を除いて透明であり,そのため表示された画像はディスプレイのいずれの側からも視認可能である。なお,メッセージ110は,画像の適切な方向を維持するために縦に回転されていることに留意されたい。好ましくは,この縦回転(verticalflipping)は,以下でさらに説明するように,ディスプレイ114が第1(閉)位置から第2(開)位置に移動されることに応答して,自動的に行われる(甲。」5,6頁17行〜24行)(ウ)「第3図は,本発明による,ディスプレイ114の好適な実施例300の側面図である。好適な実施例300は,好ましくはガラスからなる,2つの透明で硬質な外面シール(outerseal)302によって構成される。プラスチック・スペーサ304は,外面シール302の分離を維持する。透明ディスプレイ電極306および透明カウンタ電極308のマトリクスは,酸化錫などの透明な導電材料をシールの内面にメッキすることによって形成される。……ディスプレイは,画像および背景を形成する電気化学材料をなす能動部分を除いて透明なので,上で簡単に説明したように,ディスプレイの両側を画像および背景を表示するために有利に利用できる。透明なディスプレイは,タッチスクリーン108とあいまって,ディスプレイ114のいずれの側からもメッセージなど一つの画像を見ることができ,またディスプレイ部102を開かずに装置100を操作できるという利点を提供する(甲5,7頁。」4行〜8頁7行)(エ)「第4図は,本発明による,ディスプレイの好適な実施例300の一部の正面図である。第4図は,画像を表示するためのピクセル406のフィールドを示す。画像は,画像ピクセル404を第1色,例えば,黒,で描画し,背景ピクセル402を第2色,例えば,黄色,で描画することによって表示される。好適な実施例の外面シール302は透明なので,画像ピクセル404および背景ピクセル402はディスプレイ1。」(,) 14のいずれの側からも見ることができる甲5 8頁8行〜14行(オ)「第5図は,本発明による,ディスプレイ114の別の実施例500の側面図である。別の実施例500は,好ましくはガラスからなる,2つの透明で硬質な外面シール502によって構成される。硬質な内側基板504は2つの外面シール502の間で支持され,いずれかの側で2つの反射性カウンタ電極(reflectivecounterelectrode)510からなる。……透明ディスプレイ電極508の2つのマトリクスは,外面シール502の内面上に形成される。……別の実施例500は,ディスプレイ114の2つの側で同一の画像または2つの異なる画像を表示できる。しかし,別の実施例500の欠点は,好適な実施例に比べてコストが高いことおよび厚さが大きくなることである(甲5,8頁15行〜26行) 。」上記(ア)ないし(エ)及び第1図〜第3図の記載によれば,実施例300におけるディスプレイ114は単一のものであるが,上記(オ)及び第5図の記載によれば,実施例500におけるディスプレイ114は二つのディスプレイによって構成されていることが認められる。
そうすると,本願明細書には,ディスプレイが単一のものに加え,ディスプレイが二つのものが,共に実施例として記載されているということができる。
ウ原告は,本願発明について,本願明細書記載の「好適な実施例」を対象としたものであり,第5図に示された「別の実施例」を含むものではないと主張する。
しかし,請求項10には,ディスプレイの数は明示されておらず,単一又は二つのいずれか一方であることが特定されているとはいえないことは,前記アのとおりであり,本願発明が「別の実施例」を排除しているとは認められない。
付言するに,本願明細書の前記イ(オ)の記載は,第5図に示された「別の実施例 について好適な実施例 と比べた場合の欠点を指摘するもの 」,「」であるが,この点が本願発明から「別の実施例」を排除することの根拠となるものではないことは明らかであるし 「別の実施例」において 「ディ ,,スプレイ114の2つの側で同一の画像または2つの異なる画像を表示できる」とされているのは,表示可能な画像の種類を示したものにすぎず,むしろ,画像を第1側及び第2側から視認可能であることを示すものというべきである。
上記のとおり 本願発明は別の実施例 を包含するものであり これ ,,「」,を排除するものではない。
なお,原告は,本願発明の作用効果に関し,ディスプレイが単一であるからこそディスプレイの使用電力を抑えることができ,わずかのバッテリ電力しか利用しない構成となる旨主張するが,ディスプレイに限らず電力を消費する構成要素を有する装置においては,その部品点数が少なくなれば使用電力を抑えることができることは自明であるから,本願明細書において全てのユーザは バッテリ寿命が長いように 装置がほんのわずか ,「, ,のバッテリ電力しか利用しないことを希望する甲5 4頁21行〜23 」(,),「, 」 行ディスプレイは ……ほんのわずかのバッテリ電力しか利用しない(甲5,4頁26行〜28行)との記載があることは,本願発明におけるディスプレイが単一であることの根拠となるものではない。
エ以上検討したところによれば,本願発明は,ディスプレイが単一の場合, 。, のみならず 二つの場合をも包含するものというべきである 本願発明が一つのディスプレイに表示される画像等を両側から見ることができるものであるとの原告主張は,採用することができない。
(2)ア引用例(甲2)には,図面と共に次の記載がある。
(ア)「……上記開閉蓋の両面に取り付けられるフラットパネルタイプのディスプレイモニタと,上記各表示モニタに対し同一内容を表示する…… ( 請求項1 ,段落【0006 ) 」【】】(イ)「本発明は,ラップトップタイプもしくはブックタイプのパーソナルコンピュータが持つ開閉蓋の両面にディスプレイモニタを埋め込み,キーボードを操作する人とプレゼンテーションされる相手が,それぞれの画面をみながら向かい合って対話することを実現する。そのために,上記の両ディスプレイモニタに対し共通に表示データを供給する……」(段落【0007 )】(ウ)「……符号11はディスプレイモニタ1であり,通常のラップトップタイプのパーソナルコンピュータが内蔵する液晶モニタである。符号12はディスプレイモニタ2であり,解像度他性能はディスプレイモニタ11と同じであり,開閉蓋13の反対に取付けられている。開閉蓋13はディスプレイフレームとなっており,両面にディスプレイモニタ11,12が埋め込まれている(段落【0009 ) 。」】(エ)「本発明の特徴は,ラップトップあるいはブックタイプのパーソナルコンピュータが持つ開閉蓋13の両面にディスプレイモニタ11,12が埋め込まれ,同一内容が表示されることにある。即ち,その蓋13を開くと,図1のようにキーボードを操作する側とその反対側からもディスプレイ内容を見ることができる(段落【0013 ) 。」】イ上記アの記載によれば,引用例には,ディスプレイモニタ11及び12が開閉蓋13の両面に埋め込まれているものが記載されているにとどまり,それ以外の配置構成は記載されていないから,引用発明においては,ディスプレイモニタは一つではなく,二つあるというべきである。
審決は引用発明の内容を認定するに当たってディスプレイモニタの数について言及していないが,本願発明がディスプレイが一つの場合のみなら, ,, ず 二つの場合をも包含することは前記(1)のとおりであるから 審決が引用発明についてディスプレイモニタの数を明らかにしない形で認定した, (,, ことは 一致点及び相違点の認定に影響するものではない なお 原告も審決における引用発明の認定について,ディスプレイ(モニタ)の数を含めたディスプレイ配置のとらえ方を除き,これを積極的に争うものではない。。)(3)以上によれば 審決における一致点の認定は これを正当として是認する , ,ことができる。原告主張の取消事由2は理由がない。
3結論上記検討したところによれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,その他,審決に,これを取り消すべき誤りがあるとは認められない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 嶋末和秀
裁判官 上田洋幸