関連審決 | 無効2002-35025 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成17行ケ10490審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17ワ12207特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成14行ケ426特許取消決定取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19ワ8064特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19ネ10005損害賠償等請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 技術的思想 / 頒布された刊行物 / 進歩性(29条2項) / 同一技術分野(同一の技術分野) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 相違点の認定 / 技術常識 / 均等 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 加工 / 交換 / 設定登録 / 請求の範囲 / 拡張 / 変更 / 同一事実(同一の事実) / 取消判決 / 判決の拘束力 / |
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事件 |
平成
17年
(行ケ)
10857号
審決取消請求事件
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原告エヌティーツール株式会社 訴訟代理人弁護士永冨史子 訴訟代理人弁理士佐竹弘 同 中島知子 同 中村敬 被告大昭和精機株式会社 訴訟代理人弁護士森崎博之 同 安藤誠悟 訴訟代理人弁理士稲葉良幸 同 江口昭彦 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2007/05/30 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1原告の請求を棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1当事者の求めた裁判1原告特許庁が無効2002-35025号事件について平成17年11月21日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2被告主文と同旨第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「工具保持具」とする特許第3223219号(平成5年9月24日特許出願,平成13年8月17日設定登録。以下「本件特許」という。請求項の数は1である )の特許権者である(以下,設定登録時の願 。 書に添付した明細書及び図面を「本件明細書」という。。)被告は,平成14年1月28日,本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という )についての特許を無効とすることを求める審判の請求をし 。 た。 特許庁は,同請求を無効2002-35025号事件として審理し,平成15年6月5日に「本件審判の請求は,成り立たない 」との審決(以下 「第 。,1次審決」という )をした。これに対して,被告は,同審決の取消訴訟(平 。 成15年(行ケ)311号)を東京高等裁判所に提起し,平成16年11月25日に同審決を取り消す旨の判決(乙2,以下 「前訴判決」という )がさ ,。 れ,平成17年4月8日,当該判決は確定した(前訴判決は,本件発明と特表平3-500511公報(本訴における甲1-1)を主引用例として対比し,その相違点(本件発明では引込み具及び引込み具係合部が引具及びプルスタッドであって「主軸側の引具でシャンク部を引き込むためにシャンク部の先端に設けられたプルスタッド」を備えている点に係る相違点)は,同公報及び「日本工作機械工業規格 プルスタッド (本訴における甲5)からは当業者が容 」易に想到できないとした第1次審決の判断には誤りがあるとして,同審決を取り消した。。)特許庁は 再度無効審判の審理をした上で 平成17年11月21日に特 , , ,「許第3223219号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする 」。 との審決(以下「審決」という )をし,その謄本は,同年12月1日に原告 。 に送達された。 2特許請求の範囲【請求項1】「本体の軸線方向の一端には工具保持部を備え,本体の軸線方向の他端には,該本体を工作機の主軸に対して軸線が一致する状態に取付ける為に,上記主軸の端部に備わっているテーパ孔に嵌合させるようにした対応テーパ形状のシャンク部と,主軸側の引具でシャンク部を引込むためにシャンク部の先端に設けられたプルスタッドとを備え,上記本体における上記の工具保持部と上記のシャンク部との間の外周に備えさせた鍔部には,工作機の主軸の孔縁部端面に対して当て付ける為の鍔状の当部を上記孔縁部端面に対向させる位置に周設している工具保持具において,上記シャンク部の外周面の外径は,上記テーパ孔に差込むことによってシャンク部の外周面がテーパ孔の内周面に当接した状態では,上記工作機の主軸に対して上記鍔状の当部が当接することのない寸法に形成してあり,上記シャンク部の内部は,上記シャンク部をテーパ孔の深部方向に向けて力が加えられたときに,減径して,上記深部方向に向かって僅かに移動させられるような肉厚を残して中空に形成してあり,しかもそのシャンク部内側の中空部は,シャンク部の元部側の最大径部を越えて上記鍔部寄りにも上記の肉厚と同じように減径する肉厚が得られるように鍔部の内側に向けて連続的に形成してあり,上記本体の外周に周設した上記鍔状の当部の位置は,上記シャンク部におけるプルスタッドに対してテーパ孔の深部方向に向けて力が加えられて,上記シャンク部の外周面が減径されながら上記シャンク部がテーパ孔深部方向へ僅かに移動することにより上記主軸の孔縁部の端面に上記鍔状の当部が当接するような位置に設定してあることを特徴とする工具保持具(以下,この発明を」「本件発明」という )。 3審決の理由( ) 別紙審決書の写しのとおりである。 1審決の理由は,要するに,本件発明は,本件出願前に頒布された刊行物であるグーリング社のカタログ「GHRING 93 (1993年発行。 U 」5頁。審判における甲2,本訴における甲2-1〔なお,甲2-2は訳文で,,「」,「」。〕。 あり 以下 甲2-1を 甲2 といい 甲2-2を 甲2訳文 という,。)(「」 乙1は 同刊行物の全部であるに記載された発明 以下 甲2記載発明という,特開平2-124204号公報(審判における甲4,本訴にお 。)ける甲4)に記載された発明(以下「甲4記載発明」という )及び周知の。 事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものであり,同法123条1項2号に該当するというものである。 ( ) 審決が,本件発明と甲2記載発明との一致点及び相違点として認定したと2ころは,以下のとおりである。 (一致点)「本体の軸線方向の一端には工具保持部を備え,本体の軸線方向の他端には,該本体を工作機の主軸に対して軸線が一致する状態に取付ける為に,上記主軸の端部に備わっているテーパ孔に嵌合させるようにしたシャンク部を備え,上記本体における上記の工具保持部と上記のシャンク部との間の外周に備えさせた鍔部には,工作機の主軸の孔縁部端面に対して当て付ける為の鍔状の当部を上記孔縁部端面に対向させる位置に周設している工具保持具において,上記シャンク部の外周面の外径は,上記テーパ孔に差込むことによってシャンク部の外周面がテーパ孔の内周面に当接した状態では,上記工作機の主軸に対して上記鍔状の当部が当接することのない寸法に形成してあり,上記シャンク部の内部は,上記シャンク部をテーパ孔の深部方向に向けて力が加えられたときに,上記深部方向に向かって僅かに移動させられるような肉厚を残して中空に形成してあり,しかもそのシャンク部内側の中空部は,シャンク部の元部側の最大径部を越えて上記鍔部寄りにも上記の肉厚と同じように減径する肉厚が得られるように鍔部の内側に向けて連続的に形成してあり,上記本体の外周に周設した上記鍔状の当部の位置は,上記シャンク部に対してテーパ孔の深部方向に向けて力が加えられて,上記シャンク部がテーパ孔深部方向へ僅かに移動することにより上記主軸の孔縁部の端面に上記鍔状の当部が当接するような位置に設定してある工具保持具」である点。 (相違点)@本件発明では,シャンク部の外形状が,主軸の端部に備わっているテーパ孔に嵌合させるようにした対応テーパ形状であるのに対し,甲2発明では シャンク部の外形状がそのようなものであるか不明である点 相 , (違点1 。)A本件発明では,主軸側の引具でシャンク部を引込むためにシャンク部の先端に設けられたプルスタッドを備え,当該プルスタッドに対してテーパ孔の深部方向に向けて力が加えられるのに対し,甲2発明では,主軸側の引具がどのようなものであるか不明である点(相違点2 。)B本件発明では,シャンク部をテーパ孔の深部方向に向けて力が加えられたときに,シャンク部が減径し,シャンク部の外周面が減径されながら主軸の孔縁部の端面に上記鍔状の当部が当接するような位置に移動するのに対し,甲2発明では,シャンク部をテーパ孔の深部方向に向けて力が加えられたとき,少なくともシャンク部の鍔部に近い部分が減径するものの,締まり嵌め位置への移動がシャンク部全長に亘っての減径によるものか否かは不明である点(相違点3 。)第3取消事由に係る原告の主張審決には,甲2記載発明の認定の誤り(取消事由1 ,本件発明と甲2記載 )発明との一致点の認定の誤り(取消事由2 ,本件発明と甲2記載発明との相 )違点の認定,判断の誤り(取消事由3 ,甲4記載発明の認定の誤り(取消事 )由4)があり,その結果,本件発明の進歩性の判断を誤った。 なお,取消事由1ないし4に係る原告の主張には,審決に違法を来す独立の取消事由とはいえないもの及び内容の重複するものを含むが,一応,原告の準備書面の記載に沿って整理した。 1取消事由1(甲2記載発明の認定の誤り)( ) 甲2記載発明が 「装着位置」においては,シャンクは主軸のテーパ孔に1 ,テーパ係合し,鍔部と主軸の端面には端面の遊びがあり,工具保持具がテーパ孔の深部方向に引かれた締まり嵌め位置において,シャンク部は主軸ホルダー(主軸又はアダプタ)のテーパ孔にテーパ係合し,鍔部が主軸の端面に接すると認定した点の誤りア甲2の5頁中段の左側の図(以下「甲2の左図」という )には,テー。 パ孔のテーパ面よりも,シャンク部のテーパ面の方が軸線に対して大きな傾斜角を有しており 「装着位置」において,シャンク部の小径側が主軸 ,等のテーパ孔に対して隙間ができることが示されている。 甲2記載発明の「装着位置」とは,主軸等のテーパ孔に工具保持具のシャンク部を単に差込んだだけの状態をいうものであって,テーパ孔と工具保持具との間に差込み時の抵抗はほとんどないものと解されるため,主軸等のテーパ孔のテーパ面と,シャンク部のテーパ面との間には微小な隙間が必ず存在すると解することが自然であるから,シャンク部を単に差し込んだだけの状態である装着位置では,テーパ孔のテーパメントシャンク部のテーパ面が係わり合うことはあるものの,それらのテーパ面が一部で密着するか否かは不明である。 イ甲2の5頁中段の右側の図にベクトル図が記載されており,甲2のシャンク部の被クランプ面は,主軸側のクランプ装置でシャンク部を拡張しながら引き込むためのものであり,甲2の他の部分である乙1の9頁には,甲2記載発明の工具保持具と,この工具保持具を主軸等のテーパ孔内に固定するためのクランプ装置の詳細が記載されており,甲2記載発明の工具保持具は,テーパ孔の深部方向に引かれただけでは,テーパ孔のテーパ面とシャンク部のテーパ面とが密着せず,クランプ装置によってテーパ孔内で拡張して初めて両テーパ面が少なくとも一部で確実に密着するものであり,甲2の右図のベクトル図は,その際の力を表わしている。 ウ甲2には,シャンク元部側の最大径部の外径d及び主軸等のテーパ孔の最大径部の内径Dは記載されていない。甲2記載発明において,シャンク部をテーパ孔に差込むと,シャンク元部側の最大径部の外径dが主軸等のテーパ孔の最大径部の内径Dより大きい場合に限ってシャンク部がテーパ孔と当接し,この状態において,工具保持具の端面が主軸に対して当接することのない寸法に設計されていれば,工具保持具の端面と主軸等の端面との間に遊びが存在することになる。 エしたがって,審決の「少なくともシャンク部の鍔部に近い部分が主軸のテーパ孔の対応部分に接している (審決5頁30〜31行)との認定に 」は誤りがある。 ,「」「」, ( ) 甲2記載発明が装着位置 から 締まり嵌め位置 への移動に当たり2シャンク部の鍔部に近い部分が減径すると認定した点の誤りア審決は,甲2に「シャンク部の鍔部に近い部分‥‥‥が減径している」ことについての記載もなく,その示唆もないにもかかわらず 「甲2のシ,ャンク部内側の中空部が鍔部内側まで連続して形成されている」シャンク部の鍔部に近い部分が減径することが,技術常識であると認定している。 イ甲2記載発明の工具保持具は 「装着位置」において,テーパ孔のテー ,パ面とシャンク部のテーパ面との間に微小な隙間が必ず存在し,シャンク部は主軸等のテーパ孔と点接触し得るだけであって 「締まり嵌め位置」,において,その隙間を解消できるだけである。 ウ甲2には,シャンク元部側の最大径部の外径d及び主軸等のテーパ孔の最大径部の内径Dが記載されていないから,シャンク部の鍔部に近い部分は必ずしも減径しない。仮に,シャンク元部側の最大径部の外径dが主軸等のテーパ孔の最大径部の内径Dより大きくても,主軸等のテーパ孔周りの肉厚によっては,鍔部に近い部分は減径せず,主軸等の端面に近い部分が拡張する。 エしたがって,審決が甲2につき 「上記中空テーパシャンク(中空のシ ,ャンク部)は,第5頁中段の左側の図に示される『装着位置』から主軸またはホルダー(アダプタ)のテーパ孔の深部方向に向けて力が加えられて右側の図に示される『締り嵌め位置』に移動するときに,‥‥‥少なくともシャンク部の鍔部に近い部分が主軸のテーパ孔の対応部分に接している『装着位置』から『締まり嵌め位置』への移動にあたっては,当該接している部分が減径していることは技術常識より明らかであり (審決5頁2」7〜33行)と認定した点には誤りがある。 ( ) 甲2記載発明のシャンク部の元部側の最大径部を特定することなく,甲23記載発明のシャンク部内側の中空部がシャンク部の元部側の最大径部を越えて上記鍔部寄りにも上記の肉厚と同じように減径する肉厚が得られるように鍔部の内側に向けて連続的に形成されていると認定した点の誤りア審決は,最大径部がどこであるかが特定されなければならないにもかかわらず,甲2記載発明の工具保持具について,シャンク部の元部側の最大径部がどこであるか認定していない。 イ甲2図2の左側の図及び右側の図(以下 「甲2左図「甲2右図」と ,」,いう場合がある )によれば,シャンクと鍔部との境界が最大径部であっ 。 て,最大径部を中心とし,その図中の左側と右側とで肉厚に差があることが示されている。甲2記載発明の工具保持具の「シャンク部内側の中空部は,シャンク部の元部側の最大径部を越えて上記鍔部寄りにも上記の肉厚と同じように減径する肉厚」ではない。 しかも,シャンク部内側の中空部は,その最大径部において,鍔部の内側に向けてシャンク元部で肉厚が軸芯側に厚くなっており,非連続的に形成され,連続して又は連続的に形成されてはいない。これは,甲2記載発明の工具保持具では,シャンク部が後述するクランプ装置によってテーパ孔内で拡張されるものであるため,シャンク元部の肉厚を厚くして応力集中を防止し,そこでのクラックによる破壊を防止する必要があるからである。 ,,「, , ウしたがって 審決が甲2について図2に シャンク内部の中空部はシャンクの元部側の最大径部を越えて鍔部の内側に向けて連続的に形成されていることが記載されていると認める審決5頁24〜26行シ 。」(),「ャンク部内側の中空部が鍔部内側まで連続して形成されている (審決5」頁29〜30行「しかもそのシャンク部内側の中空部は,シャンク部 ),の元部側の最大径部を越えて上記鍔部寄りにも上記の肉厚と同じように減径する肉厚が得られるように鍔部の内側に向けて連続的に形成してある」(審決6頁7〜9行)と認定した点には誤りがある。 ( ) 甲2記載発明が「締まり嵌め位置」において 「テーパ係合」及び「鍔部4 ,が主軸の端面に接すること」によってトルク伝達するものと認定した点の誤りア「テーパ係合」は,シャンク部のテーパ面とテーパ孔のテーパ面とが係わり合うことを意味し,シャンク部のテーパ面とテーパ孔のテーパ面とが嵌合,密着することを意味しない。 イ甲4の記載によれば,シャンク部のテーパ面とテーパ孔のテーパ面とが嵌合,密着することにより,本体の軸芯に対する工具保持具の軸芯の合致精度が高くなる。また,鍔部の端面が主軸の端面に接することにより,本体に対する工具保持具の倒れに対する耐力が大きくなる。 トルクの伝達には,主軸等と工具保持具との間に設けられるキーが必要であるが,甲2では,このことを「2つのキーが,ツールホルダーのシャンク末端と係合し (甲2訳文1頁21〜22行)で示している。 」ウしたがって,審決が,甲2記載発明について「工具保持具がテーパ孔の深部方向に引かれた締まり嵌め位置において,シャンク部は主軸ホルダー(主軸又はアダプタ)のテーパ孔にテーパ係合し,鍔部が主軸の端面に接することによりトルク伝達するものであり (審決6頁1〜3行)と認定 」している点は,シャンク部のテーパ面とテーパ孔のテーパ面とが必ずしも密着しない「テーパ係合」によってトルク伝達が行われることとしているとともに,トルクの伝達に「鍔部が主軸の端面に接すること」を必要としていると認定している点で誤りがある。 2取消事由2(本件発明と甲2記載発明との一致点の認定の誤り)( ) 本件発明と甲2記載発明とが「二面係合」である点で共通すると認定した1点の誤り審決は,本件発明と甲2記載発明について 「両者共にテーパーシャンク ,(テーパ形状のシャンク部)と主軸の端面及び鍔部による二面係合の工具保持具である点で共通」する(審決7頁32〜33行)としているが 「二面,拘束」の語は当業界において用いられているものの 「二面係合」の語は用 ,いられておらず,意味が不明である。 ( ) 甲2記載発明の「装着位置」と本件発明の「差込んだ状態」とが共通する2と認定した点の誤り審決は 本件発明と甲2記載発明について後者 甲2記載発明 の 装 , ,「() 『着位置』と前者(本件発明)の『テーパ孔に差込むことによってシャンクの外周面がテーパ孔の内周面に当接した状態』とが共通」する(審決7頁34〜35行)としているが,誤りである。 甲2記載発明の工具保持具は 「装着位置」において,シャンク部は主軸 ,等のテーパ孔と面接触することはなく,点接触し得るだけである。これに対し,本件発明の工具保持具は 「テーパ孔に嵌合させるようにした対応テー ,パ形状のシャンク部」なる構成を有しているため 「装着位置」においてシ ,ャンク部の外周面がテーパ孔の内周面と面接触する。審決は,両者が共通しているとしている点に誤りがある。 ( ) 甲2記載発明の「締まり嵌め位置」における主軸等の端面と工具保持具の3,「 」 鍔部の端面との位置関係と 本件補正発明の プルスタッドによる引張状態における主軸等の端面と工具保持具の鍔部の端面との位置関係とが共通すると認定した点の誤り審決は,本件発明と甲2記載発明との共通点について 「後者(甲2記載,) 『』『』() 発明 の 締まり嵌め位置 における 主軸ホルダー主軸又はアダプタと『鍔部』の位置関係と,前者(本件発明)の『本体の外周に周設した上記鍔状の当部の位置は,上記シャンク部におけるプルスタッドに対してテーパ孔の深部方向に向けて力が加えられて,上記シャンク部の外周面が減径されながら上記シャンク部がテーパ孔深部方向へ僅かに移動することにより上記主軸の孔縁部の端面に上記鍔状の当部が当接するような位置に設定してある』こと‥‥‥が共通する (審決7頁35行〜8頁5行)としているが, 」誤りである。主軸等の端面と工具保持具の鍔部の端面とが当接した状態において,甲2記載発明の工具保持具は,シャンク部が必ずしも減径しないのに対して,本件発明の工具保持具は,シャンク部が減径する。審決は,両者が共通しているとしている点で誤りがある。 3取消事由3(本件発明と甲2記載発明との相違点の認定,判断の誤り)( ) 相違点1の認定,判断の誤り1ア相違点1の認定の誤り甲2記載発明のシャンク部の外形状はシャンク部の傾斜角より小さい傾斜角のテーパ形状である。審決の相違点1に関する認定には,この点を不明とした点で誤りがある。 イ相違点1についての容易想到性の判断の誤り本件出願前,甲4が存在していたとしても,甲4記載発明の技術的思想は,前述したように「一面拘束」の工具取付構造であり 「二面拘束」を,前提とする甲2記載発明とは技術分野が相違する。 甲4記載発明は 「テーパ突起()の外周面の傾斜角を,主軸のテー ,12hパ孔()の傾斜角よりも小さく形成」し,その上,テーパ突起()4ah 12hの先端部を自由端に構成し,そこに弾性を持たせる技術的思想を基本とするものであり 「テーパ突起(」での剛性面(拘束面)の成立を否定 ,)12hする技術的思想を開示するものであって 「二面拘束」に係わる工具保持 ,具の技術分野の発明ではない。 したがって,甲2記載発明は「二面拘束」を実現するための工具保持具であるのに対し,甲4記載発明は「一面拘束」の技術的思想を提供するに,「」 ,, 止まり二面拘束 の技術的思想を備えていないものであるから 本来「備えていない二面拘束」の技術的思想を,甲2記載発明に適用することはできない。 甲4記載発明における「テーパ突起(」の技術的思想を,甲2記載12h )発明の「外周面()を外周方向に拡張して「剛性面(拘束面 」を構成す10a )る」技術的事項に適用しようとすれば,甲2記載発明の「二面拘束」における「外周面()を外周方向に拡張して「剛性面(拘束面 」を構成しよ10a )うとする技術的思想と矛盾することになるから,その適用は困難である。 ( ) 相違点2の認定,判断の誤り2ア相違点2の認定の誤り甲2記載発明は,主軸側のクランプ装置でシャンク部を拡張しながら引き込むためにシャンク部の先端に被クランプ面を備えるものであって,決して不明ではない。審決の相違点2に関する認定には,この点を不明とした点で誤りがある。 イ相違点2についての容易想到性の判断の誤り(ア)本件発明の工具保持具に装着するプルスタッドは,本件発明の工具保持具のように主軸側に引き込まれるだけで主軸等に固定されるものに限って装着できるものである(甲7 。これに対し,甲2記載発明の工 )具保持具は,テーパ形状のシャンクが,クランプ装置が挿入可能なように末端が開放された中空であるから,主軸側に引き込まれるとともに拡張させて主軸等に固定される。このため,仮に,甲2記載発明の工具保持具にプルスタッドを組み合わせるとすれば,被クランプ面の役割を損なうとともに,シャンクの拡張を妨げることになる。プルスタッドを甲2記載発明の工具保持具に装着させるのは困難である。 審決は,この阻害要因を考慮することなく,周知のプルスタッドと甲2記載発明とを組み合わせることが容易であるとした点で,容易想到性の判断を誤った。 (イ)「プルスタッド」は 「引き込むという一次元的な動き」に限定さ ,れるものであり 「三次元的な拡張と引き込みの全ての機能」を備える ,ものではない(甲11。13頁5-4参照 。このようなプルスタッド )を 「シャンク部()を拡張させて,その拡張部に剛性面(拘束面)を ,10作り出す作用」が要求される「甲2記載発明」と組み合わせることは困難である(甲11。13頁5-3参照 。すなわち,プルスタッド(甲 )5)は 「一方向へのみ力を伝達する」機能しか備えないので,甲5の ,プルスタッドが本来備えていない「三次元的な機能」を,甲2記載発明に対して供給することは不可能である。甲2記載発明に甲5記載のプルスタッドを適用すると,甲2記載発明における「三次元的な拡張機能」に基づく「二面拘束」の技術的思想を達成することはできない。したがって,相違点2について,当業者が容易に想到することができるとした審決の判断には誤りがある。 ( ) 相違点3の認定,判断の誤り3ア甲2記載発明では,シャンク部の内部は,シャンク部を拡張する方向に向けて力が加えられたときに,拡張して,拡張方向に向かって移動させられるような肉厚を残して中空に形成してある。また,シャンク部は,シャンク部をテーパ孔の深部方向に向けて力が加えられたときに,上記深部方向に向かってわずかに移動させられるように形成されている。そして,中空と深部方向への移動とは何ら関係がない。審決は,この点で相違点3を誤って認定している。 イ甲2記載発明に甲4記載発明を適用することができない以上,相違点3が容易に想到し得るとした審決の判断も誤りである。 ( ) 相違点の看過4ア本件発明では 「シャンク部の内部は,上記シャンク部をテーパ孔の深 ,部方向に向けて力が加えられたときに,減径して,上記深部方向に向かってわずかに移動させられるような肉厚を残して中空に形成してある」のに対し,甲2記載発明では 「シャンク部の内部は,シャンク部の先端部に ,存在する被クランプ面(ベクトル図が付記されている斜面)に対してベクトル図が示す方向の力が加えられたときに,シャンク部の内部は拡張しながら深部方向に向けて移動させられるような肉厚を残して中空に形成してある」点で相違する。 すなわち,本件発明では,シャンク部の先端に設けられたプルスタッドを単純に引き込むだけで,本件明細書記載のように,主軸のテーパ孔の内周面と,シャンク部の外周面との間及び鍔状の当部と主軸の孔縁端面との間のそれぞれにおける二重の芯ぶれ防止(二面拘束)効果が同時に得られる効果がある。これに対し,甲2記載発明では,シャンク部をテーパ孔の深部方向に向けてのみ力を加えることは不可能な構成であるため,シャン( ) ク部の先端部に存在する被クランプ面 ベクトル図が付記されている斜面に対してベクトル図が示す方向の力を加える必要性がある。仮に,シャンク部を,単純にテーパ孔の深部方向に向けて引き込んだ場合,甲2左図の「装着位置」で明らかなように,テーパ孔の内周面と,シャンク部の外周面との間に隙間が残り,芯ぶれ防止(二面拘束)効果が生じなくなる。 甲2記載発明は本件発明と作用効果が異なる。 以上のとおり,審決は,上記の相違点を看過している。 イ本件発明では 「シャンク部内側の中空部は,シャンク部の元部側の最 ,大径部を越えて上記鍔部寄りにも上記の肉厚と同じように減径する肉厚が得られるように鍔部の内側に向けて連続的に形成してある」のに対し,甲2記載発明では 「シャンク部内側の中空部は,シャンク部の元部側の最 ,大径部を越えて上記鍔部の内側に向けて上記シャンク部の中心位置の肉厚よりも逐次肉厚が厚くなるように鍔部の内側に向けて形成してある」点で相違する。 すなわち,本件発明は,上記の「シャンク部の周囲の肉厚部は,装着利用状態において,シャンク部の最大径部を含めて内側に減径させる」ものであるから,工作機の主軸におけるテーパ孔縁を不用意に膨らませたり,工作機の主軸のテーパ孔縁に対して繰返し塑性変形を与えたりする恐れもなく,高価な工作機の主軸を疲労させて稼動不能に追込むような不測の事態を防止できる。 審決は,上記の相違点を看過している。 4取消事由4(甲4記載発明の認定の誤り)審決は 「第7.判断(i)相違点1について」において,甲2記載発明と ,甲4に記載された事項とは,二面係合する中空のツールシャンクに関するものである(審決9頁14〜15行)と認定している。 しかし,甲4記載発明に関する審決の認定には,以下のとおり誤りがある。 ( ) 甲4の「第14図〜第16図」は,本件発明のシャンク部()に相当する1 10「テーパ突起(」は 「先部側が開口され,自由端」となっている。 12h ),「テーパ突起(」の先部側には,テーパ突起()に対して「剛性12h 12h)面(拘束面 」の形成手段は,全く講じられていない。すなわち,本件発明 )のように「テーパ突起()の先端を先細に形成して,そこにプルスタッ12hドを備えさせることにより,シャンク部()の外周面に引張面を構成する」 10等の「剛性面(拘束面 」形成手段,或いは,甲2のようにシャンク部() ) 10の外周面を 「内側から拡張する」手段による「剛性面(拘束面 」形成手 , )段は,講じられていない。 ( ) 甲4の4頁左下欄17行〜右下欄17行の記載事項によれば 「テーパ突2 ,起(」は 「寸法差吸収構造にするため先部側を自由端(解放端)にし12h ),て,弾力的な変形を可能ならしめた」構成とされている。したがって,上記テーパ突起には剛性面 拘束面 は生じることはなく 剛性面 拘 「()」(),(12h束面)を形成する技術的思想はない(なお,上記「第14図等」の場合,剛() ,「 」 性面 拘束面 は本体の受面3に工具ホルダの当面を密接させAB11ることによって,剛性面(拘束面)を生じさせる。。)( ) 以上のとおり,甲4記載の工具取付構造は 「一面拘束」の工具取付構造3 ,であって 「二面拘束」の工具保持具の技術分野の発明ではない 「テーパ , 。 突起(」での剛性面(拘束面)を生じさせることを否定する技術的思想12h )であるといえる(甲11。11頁4-3参照 。)第4被告の反論原告主張の取消事由は,以下のとおり理由がない。 1取消事由1(甲2記載発明の認定の誤り)について審決における相違点1ないし3において不明であると認定された点については,たとえそれらの不明点を明確にしたところで,審決における相違点1ないし3についての判断に何ら影響するものではなく,審決の結論に影響を及ぼさない。したがって,原告の主張は,主張自体失当である。 ( ) 甲2記載発明が 「装着位置」においては,シャンクは主軸のテーパ孔に 1 ,テーパ係合し,鍔部と主軸の端面には端面の遊びがあり,工具保持具がテーパ孔の深部方向に引かれた締まり嵌め位置において,シャンク部は主軸ホルダー(主軸又はアダプタ)のテーパ孔にテーパ係合し,鍔部が主軸の端面に接すると認定した点の誤りに対しア甲2左図において,鍔部と主軸の端面との間に面遊び()を残Face playして,シャンク部がテーパ孔に装着されており,その際,テーパ孔の開口端部とそれに対応するシャンク部の鍔部に近い部分が接していることは,両者の間に互いに作用反作用が働いていることを示す矢線が赤帯内及び青帯内に図示されていることに照らすならば,当業者にとって自明の事項といえる。したがって 「少なくともシャンク部の鍔部に近い部分が主軸の ,テーパ孔の対応部分に接している」及び「装着位置においては,シャンクは主軸のテーパ孔にテーパ係合し」とした審決の認定に誤りはない。 イ甲2記載発明の工具保持部がテーパ孔の深部方向に引かれたときに,少なくともシャンク部の鍔部に近い部分が減径することは,技術常識からして明らかである。 すなわち,まず,甲2左図には,上記したとおり,鍔部と主軸の端面との間に面遊び()を残した状態で,テーパ孔の開口端部とそれにFace play対応するシャンク部の鍔部に近い部分との間に互いに作用反作用が働いていることが示されていること,また,甲3及び甲7のDIN規格の規格表, , に記載されていることから シャンク部の鍔部に近い部分における外径はテーパ孔の開口端における内径よりも大きいことが分かる。そして,テーパ孔の内径はその深部方向に向かうに従い次第に小さくなっているので,上記シャンク部がテーパ孔の深部方向に引かれれば,テーパー孔に接するシャンク部の鍔部に近い部分は,テーパ孔の内周面から減径方向の力を受け,その反作用としてテーパ孔は,シャンク部の鍔部に近い部分の外周面から拡張方向の力を受ける。このとき,シャンク部の鍔部に近い部分は,クランプ爪から拡張方向の力を受けないばかりか,主軸側の対応部分よりも肉厚が薄いために当該対応部分よりも弾性変形し易いことは,技術常識であるから,当該鍔部に近い部分及び当該鍔部に近い部分より鍔部側の部分は,減径しながらテーパ孔に引き込まれることになる。 ウ原告は,甲2右図にベクトルが記載されていることを根拠に 「被クラ,ンプ面は,主軸側のクランプ装置でシャンク部を拡張しながら引き込むためのものである」と主張する。しかし,ベクトルは力のかかる方向を示すのみであり,ベクトル方向に拡張することを示すものではないこと,シャ, , , ンクが縮径して テーパ面に圧接していれば 面方向に力が加わるのみで拡張することはないことから,原告の主張は失当である。 エ原告は,本体の外周に周設した鍔状の当部の位置は,シャンク部における被クランプ面に対してテーパ孔の深部方向及び拡張方向に力が加えられ(締まり嵌め位置),シャンク部が拡張しながらテーパ孔の深部方向へ僅かに移動することにより,主軸等の端面に鍔状の当部が当接するような位置。, , に設定してあると主張する しかし 本体の外周に周設した鍔状の当部はシャンク部の鍔部に近い部分が,上記のとおり縮径しながらテーパ孔の深部方向へ僅かに移動することにより,主軸の端面に当接するような位置に設定されているので,原告の主張は失当である。 オ原告は,甲2記載発明の工具保持具は,主軸等のテーパ等のテーパ孔にシャンク部を単に差込んだだけの状態(装着状態)では,テーパ孔のテーパ面とシャンク部のテーパ面とが係わり合うことはあるものの,それらのテーパ面が一部で密着するか否かは不明であると主張する。しかし,審決は 「接していること ,すなわち「係わり合うこと」は認定しているが, ,」。,。 密着しているか否かを論じていない 原告の主張は 主張自体失当であるカ原告は 甲2左図の工具保持部のシャンク部の最も鍔部に近い箇所を 最 , 「大径部」と主張する。しかし,甲9の図6によれば,工具保持部のシャンク部の最も鍔部に近い箇所には,研磨逃げ溝が設けられており,その分窪んでいるので,研磨逃げ溝が設けられる直前が最大径部であるから,原告の主張は誤りである。なお,このような溝が設けられるのは,当業者には常識であり,例えば,甲9の22頁の下部の写真にも,このような溝が存在するし,また,甲3の規格書にも,2枚目右上図に「(注:逃Freistich)」, 。 げ溝509 として このような溝が記載されている Form F nach DIN( ) 甲2記載発明が「装着位置」から「締まり嵌め位置」への移動にあたり, 2シャンク部の鍔部に近い部分が減径すると認定した点の誤りに対しア甲2の5頁の図は,主軸のテーパ孔周りの肉厚がどれだけ大きいかは明示していないものの,少なくともシャンク部の厚みの数倍あることは明示されており,しかも,シャンク部内側の中空部は鍔部内側まで連続して形成されており,相対的に主軸よりも弾性変形が容易な構成となっているので,テーパ孔が拡張するのではなく,シャンク部が減径することは,技術常識である。以上のとおり,甲2記載発明の工具保持具は 「装着位置」,から「締まり嵌め位置」への移動により,シャンク部の鍔部に近い部分は必ず減径する。 イ原告は,甲6には 「引例1記載の発明の工具保持具は,シャンク部が ,拡張するものである」ことを示す記載があると主張する。確かに,甲6には,原告の引用する記載があるが,甲6においても 「締結開始」の状態,で,ツールホルダーのシャンク部の端面に近い部分の面が,主軸のテーパ部に接触していることが示されており,かつ,シャンク部は,より狭いテーパに引き込まれるのであるから,減径することは明らかである。 , , ウ装着位置において テーパ部とシャンク部が接触しているのであるからそのシャンク部をテーパが細くなる方向に軸方向に引けば,必然的に接触面から反作用力を受け縮径する。シャンク部が,縮径することなく,主軸等の端面とシャンク部の端面とが密着するまで,主軸へ引き込まれることはあり得ない。 ( ) 甲2記載発明のシャンク部の元部側の最大径部を特定することなく,甲23記載発明のシャンク部内側の中空部がシャンク部の元部側の最大径部を越えて上記鍔部寄りにも上記の肉厚と同じように減径する肉厚が得られるように鍔部の内側に向けて連続的に形成されていると認定した点の誤りに対し「図2に,シャンク内部の中空部は,シャンクの元部側の最大径部を越えて鍔部の内側に向けて連続的に形成されていることが記載されていると認める(審決5頁24〜26行)とした審決の認定に誤りはない。 。」図2は,シャンク部の元部側の最大径部は,原告が最大径部と主張するシャンク部と鍔部との境界ではなく,シャンク部の鍔部との境界部に設けられる研磨逃げ用溝の手前であることを示している。また,シャンク内部の中空部は,シャンク部を越えて設けられているから,どこが最大径部かを明記しなくとも「シャンク内部の中空部は,シャンクの元部側の最大径部を越えて鍔部の内側に向けて連続的に形成されていること」は明らかである。なお,「連続的に形成」とは,中空部が続いていることを示したものであるから,肉厚に差があることと連続していることとは,矛盾しない。 ( ) 甲2記載発明が「締まり嵌め位置」において 「テーパ係合」及び「鍔部4 ,が主軸の端面に接すること」によってトルク伝達するものと認定した点の誤りに対し「係合」が係わり合うことを意味するものであるならば 「テーパ係合」,は,甲2左図及び右図に示されているような,装着位置(左図)と締まり嵌め位置(右図)の両者を含む 「テーパ係合」には,シャンク部のテーパ面 。 とテーパ孔のテーパ面とが嵌合,密着することも含まれる。この点の審決の認定に誤りはない。 2取消事由2(本件発明と甲2記載発明との一致点の認定の誤り)について( ) 「二面係合」である点が共通するとした点について 1仮に「二面係合」との語が一般的でなく 「二面拘束」との語の方が多用 ,されているとしても,審決の「本件発明と甲2記載の発明とを対比すると,両者共にテーパシャンクと主軸の端面及び鍔部による二面係合の工具保持具である点で共通し」の記載中の「二面係合」が「二面拘束」を意味するものとして使用されていることは,明白であり,原告の主張は失当である。 ( ) 甲2記載発明の「装着位置」と本件発明の「差し込んだ状態」とが共通す2るとした点について原告は 「本件発明の工具保持具は 『テーパ孔に嵌合させるようにした , ,対応テーパ形状のシャンク部』なる構成を有しているため 『装着位置』に,おいてシャンク部の外周面がテーパ孔の内周面と面接触する」点が甲2記載発明との異なる旨主張する。しかし,本件発明における「当接」は,面接触に限定されていないから,原告の主張は失当である。 ( ) 甲2記載発明の「締まり嵌め位置」における主軸等の端面と工具保持具の3鍔部の端面との位置関係と,本件発明の「プルスタッドによる引張状態」における主軸等の端面と工具保持具の鍔部の端面との位置関係が共通するとした点について原告は 「主軸等の端面と工具保持具の鍔部の端面とが当接した状態にお ,いて,甲2記載発明の工具保持具はシャンク部が必ずしも減径しない 」と。 主張する。 しかし,上記のとおり,甲2記載発明の工具保持部がテーパ孔の深部方向に引かれれば,シャンク部は少なくともその鍔部に近い部分が減径しながらテーパ孔内に引き込まるから,主軸等の端面と工具保持具の鍔部の端面とが当接した状態においては,シャンク部の少なくとも一部(鍔部に近い部分)は必ず減径する。甲2右図及び左図にも矢印によっても明らかである。原告の主張は,失当である。 3取消事由3(本件発明と甲2記載発明との相違点の認定,判断の誤り)について( ) 相違点1についての容易想到性の判断の誤りに対し1審決の容易想到性の判断に誤りはない。 ( ) 相違点2についての容易想到性の判断の誤りに対し2甲2記載発明とプルスタッドは,主軸に引き込まれる工具保持具と,工具保持具を主軸側に引き込む引込具であるという互いに密接な関係にあり,い,。, ずれも工具保持具に関するものであるから 同一の技術分野に属する また工具保持具に係る技術分野において,工具保持具のシャンク部と主軸とを確,,,。 実に固定して 芯ずれ 芯振れを防止することは 一般的な解決課題である甲2記載発明の工具本体にプルスタッドを適用するに当たり,阻害要因はない。さらに,当業者にとって,プルスタッドの適用に好適な形状に変更を加えることは,設計変更にすぎない。 ( ) 相違点3の認定,判断の誤りに対し3甲2記載発明では,シャンク部に対してテーパ孔の深部方向に向けて力が加えられると,少なくとも,シャンク部の鍔部に近い部分は減径する。原告の主張は失当である。 ( ) 相違点の看過に対し4アシャンク部がテーパ孔に密着すると,両者の軸線が高精度に一致する状態に取り付き,また,両者の端面が当接するとベンドが防止される点や,中実から中空になれば軽量化される点は,当業者にとっての技術常識である。また,主軸テーパ孔の内周面とシャンク部の外周面との間,及び,鍔状の当部と主軸の孔縁端面との間の夫々の二重の芯ぶれ防止効果は,テーパ面と端面とによる二面拘束の一般的な効果であって,これも当業者にとっての技術常識である。審決に,原告の主張する相違点の看過はない。 イ原告は,甲2記載発明において,シャンク部が減径しないことを前提として,相違点を主張する。しかし,原告の主張の前提が誤りであることは, 。,, 上述のとおりであるから 原告の主張は主張自体失当である また 仮に甲2記載発明において,シャンク部の元部側の最大径部を越えて上記鍔部の内側に向けて上記シャンク部の中心位置の肉厚よりも逐次肉厚が厚くなっていたとしても,上記のとおり,工具保持部がテーパ孔の深部方向に引かれれば,シャンク部は少なくともその鍔部に近い部分が減径しながらテーパ孔内に引き込まれるから,主軸のテーパ孔縁を不用意に膨らませるおそれもないし,テーパ孔縁に対して繰り返し塑性変形を与えるおそれもない。審決に,原告の主張する相違点の看過はない。 4取消事由4(甲4記載発明の認定の誤り)について甲4記載発明は,甲4に「このような構成のものにあっては,第14図の状態からテーパ突起12hをテーパ孔4h内に差込み,更に差込を深めると,‥‥‥これにより,テーパ突起12hはテーパ孔4hの深部へ向けて侵入して当面11hが受面3hに密着する(4頁左下欄2〜7行)と記載されている 。」とおり,二面拘束のツールシャンクに関するものである。審決には,甲4記載発明に関する認定の誤りはない。 第5当裁判所の判断1取消事由1(甲2記載発明の認定の誤り)について( ) 甲2(甲2の1,2)の記載1甲2には,以下のとおりの記載がある。 ア「GM300 モジュラーツーリングシステム 我々の新しいモジュラツーリングシステムGM300は,回転及び固定ツールに適用するために開発された。締付方法のユニークな設計は,ツーリングシステム内の手動締付用の理想的なインターフェイスを提供するのみならず,機械主軸又はツールホルダーへの直接自動締付用の理想的なインターフェイスを提供する。特徴:ドイツ工業規格(DIN69893)第1部に基づく軸平面締。 。 付機構を有する中空テーパシャンク 最も重要な利点は以下の通りである・強い固定及び動剛性ツールシャンクで生じる軸方向及び径方向の力は,必要な締付力を提供する(図1 。)・高いトルク伝達及び径方向の位置決め中空テーパシャンクとホルダー又は主軸との間のくさび効果は,全テー()。, パ表面及び平らな支持面に摩擦接触を生じさせる 図22つのキーがツールホルダーのシャンク末端と係合し,完全な径方向の位置決めを提供し,これにより,設置の誤りをなくす。 ・高いツール交換精度及び繰り返し取付け精度中空ツールシャンク内における締付爪の環状の係合は,シャンクと主軸又はホルダーとの間の完全な密着を提供する(図2及び3 。)・高速機械加工性能回転数が増えるほど,締付機構の締め付け力及び締め付け効果が向上する。中空シャンクと主軸ホルダーとの間の直接的な初期の応力は,遠心力, ()。 により生じる主軸の拡張を相殺し 径方向の遊びを完全に無くす 図2平面締付位置は,軸方向の滑りを防ぐ。 ・ツール交換時間の短縮化長さの短いシャンク(ISOテーパの約3分の1)及び軽量化(ISOテーパの約50%)による合理的なツール交換(第4頁中欄)。」イ「接合部における中空テーパシャンクの初期応力及び摩擦力」を示す図2が記載され,左側の図の上方に「装着位置 ,下方に「端面の遊び , 」」右側の図の上方に「締り嵌め位置 ,下方に「有効締め付け力 (5頁中 」 」段)ウ甲2左図及び甲2右図には,黄色に着色されたシャンクと青色に着色されたシャンクを受け入れるテーパ孔を有する主軸又はホルダー 以下主(,「軸等」という )が図示され,シャンクは,主軸等の端面と当接する当接 。 面を備えた鍔部が外周に形成され,その内部には中空部が形成され,中空部は,主軸側先端部から鍔部を越えて鍔部の内側に連続的に形成され,中空部の肉厚は主軸側先端から鍔部側に向けて第1の段差が形成され,最大径部を越えた部分に第2の段差が形成され,段差を境に中空部の肉厚が変化していることが図示されている。 エ甲2左図には,シャンクの鍔部の当接面と主軸等の端面との間に遊びが存在し,シャンクのテーパ面の元部側の赤色で着色された部分と主軸等のテーパ孔の内面の青色で着色された部分にそれぞれ向かい合う3本の矢印があり,さらに,当該着色された部分(以下 「装着位置着色部分」とい ,う )よりテーパ孔深部側のシャンクのテーパ面と主軸等のテーパ孔の内 。 面との間に隙間があることが示されている。 オ甲2右図には,シャンクの鍔部の当接面と主軸等の端面とが当接しており,青色と赤色で着色され,向かい合う矢印が均等に記載された部分(以下 「締まり嵌め位置着色部分」という )が,シャンクの鍔部の当接面 , 。 と対応する主軸等の端面,及びシャンクのテーパ面と主軸等のテーパ孔の内面の全面にわたり記載され,シャンクのテーパ面と主軸等のテーパ孔の内面との間には,全面にわたり隙間なく,また,シャンク中空部には,主軸側及び主軸と直角方向の赤い矢印とその合力を表す矢印が表示され,その説明として有効締め付け力と記載されている。 ( ) 甲2記載発明の内容2ア上記( )の記載によれば,以下の技術が示されていると認められる。 1(ア)「ツールシャンクで生じる軸方向及び径方向の力は,必要な締付力を提供する」ものであって 「中空テーパシャンクとホルダー又は主軸 ,との間のくさび効果は,全テーパ表面及び平らな支持面に摩擦接触を生じさせ「2つのキーが,ツールホルダーのシャンク末端と係合し, 」,完全な径方向の位置決めを提供」するものであると認められるから,甲2には,シャンクのテーパ面と主軸等のテーパ孔の内面との当接面すべての間と鍔部の当接面と主軸等の端面との間の摩擦接触により,シャンクが主軸等に取り付けられるものであって 「2面拘束」される工具保 ,持具である(上記( )ア 。 1 )(イ)シャンクの中空部が,主軸側先端部から鍔部を越えて鍔部の内側に連続的に形成され,主軸側先端部から鍔部側に向けて第1の段差が形成され,最大径部を越えた部分に第2の段差が形成されており,段差を境に中空部の肉厚が変化している(上記( )ウ 。 1 )(ウ)「装着位置」において 「シャンクのテーパ面の根本側の赤色で着 ,色された部分」と「主軸等のテーパ孔の内面の青色で着色された部分」に応力が存在することが読み取れるから,シャンクのテーパ面と主軸等のテーパ孔の内面とは 「装着位置着色部分」において互いに当接して ,いる。すなわち 「装着位置」において,鍔部の当接面と主軸等の端面 ,との間には,遊びが存在し,シャンクのテーパ面と主軸等のテーパ孔の内面は,装着位置着色部分において当接しており,装着位置着色部分以外では,隙間が存在し,当接していない(上記( )イ及びエ 。 1 )(エ)「締まり嵌め位置」において,鍔部の当接面と主軸等の端面及びシャンクのテーパ面と主軸等のテーパ孔の内面の「締まり嵌め位置着色部分」において応力が存在し,互いに当接している。赤い矢印によれば,装着位置から「締まり嵌め位置」に移行するに際し,主軸と平行な方向のテーパ孔深部方向の力及び主軸と直交する外径方向の力が作用する。 「締まり嵌め位置」においては 「装着位置」よりもテーパ孔深部側に ,シャンクが引き込まれる(上記( )オ 。 1 )(オ)主軸等のテーパ孔の内面は,主軸等の端面からテーパ孔深部側に向けて,その直径が小さくなるようなテーパ形状であるから 「締まり嵌,め位置」においては,シャンクの「装着位置着色部分」は,さらにテーパ孔深部側に引き込まれることにより 「装着位置」で当接するテーパ ,, 。, 孔の内面よりも 小さな直径の内面と当接することになる そうすると「装着位置」から 「締まり嵌め位置」へ引き込まれるに伴い,少なく ,ともシャンクのテーパ面の 装着位置着色部分 は 減径する 上記( ) 「」 ,(1ウ 。)イ上記ア(ア)ないし(オ)によれば,甲2記載発明の内容は,以下のとおりである。 「一端に工具保持部を備え,他端には主軸等のテーパ孔に装着するためのテーパ面を有するシャンクと主軸等端面に当接する当接面を備えた鍔部がその外周に形成された工具保持具であって,装着位置において,シャンクのテーパ面と主軸等のテーパ孔の内面とは一部(装着位置着色部分)で当接するが当該当接部分以外には隙間が存在するとともに鍔部の当接面と主軸の端面との間には遊びが存在し,工具保持具がテーパ孔の深部方向に引かれた締まり嵌め位置において,前記当接部分が少なくとも減径し,シャンクのテーパ面と主軸等のテーパ孔の内面が全面において当接し,鍔部の当接面と主軸等の端面とが当接するものであり,シャンクの中空部は,シャンクの最大径部を越えて鍔部の内側に向けて連続的に形成してある工具保持具」( ) 審決の認定の誤りの有無について3ア甲2記載発明が,装着位置においては,シャンクは主軸のテーパ孔にテーパ係合し,鍔部と主軸の端面には端面の遊びがあり,工具保持具がテーパ孔の深部方向に引かれた締まり嵌め位置において,シャンク部は主軸ホルダー(主軸又はアダプタ)のテーパ孔にテーパ係合し,鍔部が主軸の端面に接すると認定した点について(ア)原告は,審決の「少なくともシャンク部の鍔部に近い部分が主軸のテーパ孔の対応部分に接している」との認定は誤りであると主張する。 確かに,甲2記載発明は 「装着位置」において,シャンクのテー ,パ面と主軸等のテーパ孔の内面は装着位置着色部分で当接しているが,それ以外の部分では隙間が存在して当接していない。しかし,シャンクのテーパ面と主軸等のテーパ孔の内面は,装着位置着色部分において当接しているから,両者は面接触しているものと解される。そして,審決の「シャンク部の鍔部に近い部分」が 「装着位置着色部分」を意味す ,ることは図面上明らかであるから,審決の認定に,誤りはない。 原告のこの点の主張は失当である。 (イ)原告は 「甲2のシャンク部の被クランプ面は主軸側のクランプ装 ,置でシャンク部を拡張しながら引き込むことによりテーパ孔のテーパ面とシャンク部のテーパ面とが少なくとも一部で確実に密着するものであって,単に引き込むだけではテーパ孔のテーパ面とシャンク部のテーパ面は密着しない」と主張する。しかし,甲2記載発明が「締まり嵌め位置」においてシャンクのテーパ面と主軸等のテーパ孔の内面とが全面で当接することは,上記( )で認定したとおりであるから,原告の主張は2失当である(なお,甲2記載発明が「締まり嵌め位置」において単に引き込むだけではテーパ孔のテーパ面とシャンク部のテーパ面とは密着しないものであるかは,甲2左図のみからは明らかではない。原告が根拠とする,乙1の9頁の図7,8,9においては,上半分がクランプ開放, ,, 時 下半分がクランプ時の状態を示す分割図が示されており 同図では上下いずれにおいてもシャンクは既に引き込まれた状態に記載されており,しかもその状態において,クランプ開放時の上半分において,主軸等のテーパ孔の内面とシャンク部のテーパ面との間には隙間が見受けられない。したがって,仮に,甲2記載発明が,クランプによる引き込みにより装着位置に移動するものであるとしても,クランプによる拡張方向の力がなくても締まり嵌め位置においてはシャンクのテーパ面と主軸等のテーパ孔の内面が密着するものであり,クランプによる拡張方向の力により密着を増すようにして摩擦力を大きくしているものと解するのが相当である。。)(ウ)原告は 「甲2には,シャンク元部側の最大径部の外径d及び主軸 ,等のテーパ孔の最大径部の内径Dが記載されていない」と主張する。しかし,甲2左図の「装着位置」において,シャンク鍔部の当接面と主軸等の端面との間に遊びが存在し,シャンクのテーパ面と主軸等のテーパ孔内面が装着位置着色部分において当接していることは,寸法の表記の有無にかかわらず明らかであるから,原告の主張は失当である。 「」「」, イ甲2記載発明が 装着位置 から 締まり嵌め位置 への移動に当たりシャンク部の鍔部に近い部分が減径すると認定した点について(ア)甲2記載発明は 「装着位置」から「締まり嵌め位置」に移行する ,に当たり,少なくともシャンクのテーパ面の装着位置着色部分が減径するものと認められることは,上記( )(オ)において認定したとおりであ2るから,これと同旨の審決の認定に誤りはない。 (イ)原告は,主軸等のテーパ孔周りの肉厚によっては,鍔部に近い部分は減径せず,主軸等の端面に近い部分が拡張するから,甲2記載発明のシャンクのテーパ面が減径するとはいえないと主張する。しかし,甲2左図及び右図においては,主軸等のテーパ孔周りの肉厚は,シャンク中空部の肉厚に比較して大きく示されているから,シャンクのテーパ面が減径せずに,主軸等の端面に近い部分のテーパ孔の方が拡張すると解することはできない。原告の主張は失当である。 (ウ)原告は 「甲2記載発明は,締まり嵌め位置においてシャンク部に ,拡張方向の力が付与されることにより,テーパ孔と密着するものであるから,シャンク部の鍔部に近い部分は減径するものとは限らない」と主張する。しかし,シャンクのテーパ面に拡張方向の力が付与されるとしても,それによりシャンク部の最大径部の径が小さくなるものとは考えられないから 「装着位置」において,シャンクのテーパ面とテーパ孔 ,の内面が「装着位置着色部分」で当接している以上,その部分が縮径しなければ,シャンクのテーパ孔深部方向への移動が不可能となるから,原告の主張は失当である。 ウ甲2記載発明のシャンク部の元部側の最大径部を特定することなく,甲2記載発明のシャンク部内側の中空部がシャンク部の元部側の最大径部を越えて上記鍔部寄りにも上記の肉厚と同じように減径する肉厚が得られるように鍔部の内側に向けて連続的に形成されていると認定した点について(ア)原告は,審決が「中空部が連続的に形成されている」とした点に誤りがあると主張する。しかし,甲2左図及び右図によれば,シャンク部内側の中空部の肉厚は変化しているが,シャンクの厚みが変化しているとしても,中空部が「連続的」に形成されているとの認定を左右するものではなく,原告のこの点の主張は失当である。 (イ)原告は,審決が「シャンク部の元部側の最大径部を越えて上記鍔部よりにも上記の肉厚と同じように減径する肉厚が得られる」と認定した点に誤りがあると主張する。 この点を検討する。 甲2右図から,@甲2記載発明は 「締まり嵌め位置」において,鍔 ,部の当接面と主軸等の端面とが当接し,主軸等のテーパ孔にシャンクの元部側が鍔部の当接面まで入り込むこと,Aシャンクのテーパ面の最大径部は,鍔部とシャンクの境界ではなく,鍔部とシャンクの境界よりもテーパ孔深部側であることは明らかである。他方,甲2右図によれば,甲2記載発明は 「締まり嵌め位置」において,当該最大径部を越えた ,鍔部とシャンクの境界までの部分は 「締まり嵌め位置着色部分」に含 ,まれているから,テーパ孔内面に当接するものと認められるものの,当該最大径部を越えた鍔部とシャンクの境界までの部分が最大径部と同様に縮径するか否かは明らかではない。したがって,甲2記載発明においては,シャンクの元部側の最大径部を越えて鍔部側に連続する部分の肉厚が,装着位置着色部分と同様に縮径する厚みであるかは明らかではないから,この点に関する審決の認定には誤りがある。 もっとも,以下において検討するように,この点の認定の誤りが結論に影響することはない。 エ甲2記載発明が「締まり嵌め位置」において 「テーパ係合」及び「鍔 ,部が主軸の端面に接すること」によってトルク伝達するものと認定した点について原告は,甲2記載発明は,シャンク部のテーパ面とテーパ孔のテーパ面とが必ずしも密着しない「テーパ係合」によってトルク伝達が行われるこ,「 」 ととしているとともに トルクの伝達に 鍔部が主軸の端面に接することを必要としている点で,審決の認定に誤りがあると主張する。しかし,甲2記載発明が「締まり嵌め位置」において,シャンクのテーパ面と主軸等のテーパ孔の内面が全面にわたり当接しているものと認められる以上,これと異なる前提に基づく原告の上記主張は,主張自体失当である。 ( ) 以上のとおり,審決の甲2記載発明の認定には,結論に影響する誤りはな4いから,原告主張の取消事由1には理由がない。 2取消事由2(本件発明と甲2記載発明との一致点の認定の誤り)について( ) 「二面係合」である点で共通すると認定した点について1原告は 「二面係合」の意味が不明であるから 「両者共にテーパシャン , ,ク(テーパ形状のシャンク部)と主軸の端面及び鍔部による二面係合の工具保持具である点で共通」するとした審決の認定に誤りがあると主張する。 しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。 審決が「二面係合」の語を 「二面拘束」の意味で用いていることは明ら ,。,,,「」 かである そして 上記認定のとおり 甲2記載発明は締まり嵌め位置において 「鍔部当接面と主軸等の端面が当接」し 「シャンクのテーパ面 , ,」, , と主軸等のテーパ孔内面とが全面で当接 して 摩擦力を有するものであり「 」「」 , 主軸テーパ孔の内周面とシャンク部の外周面 及び 鍔と孔縁部端面 は同時に密着し,剛性を向上させる「二面拘束」であるといえるから,審決の認定に誤りはない (なお,原告も,甲2記載発明が「二面拘束」の機能を 。 備えることは自認する。原告準備書面( )25頁2〜4行 。 3 )( ) 「装着位置」と「差し込んだ状態」について共通すると認定した点につい2て本件発明の「テーパ孔に差込むことによってシャンク部の外周面がテーパ孔の内周面に当接した状態」とは,その状態においては,鍔状の当部と主軸が当接せず,さらにテーパ孔の深部方向に向けて引き込み可能な状態である点で,甲2記載発明の「装着位置」と共通するから,審決が 「装着位置」,と「差し込まれた状態」が共通すると認定した点に誤りはない。 原告は,甲2記載発明が「装着位置」において,シャンク部は主軸等のテーパ面と面接触することなく点接触し得るものであるから,両者は相違すると主張する。しかし,甲2記載発明が装着位置において,シャンクのテーパ面と主軸等のテーパ孔の内面とが「装着位置着色部分」において面接触するものであることは,既に認定したとおりであるから,原告の主張は失当である。 ( ) 甲2記載発明の「締まり嵌め位置」における主軸等の端面と工具保持具の3,「 」 鍔部の端面との位置関係と 本件補正発明の プルスタッドによる引張状態における主軸等の端面と工具保持具の鍔部の端面との位置関係が共通すると認定した点について原告は,本件発明の工具保持具のシャンク部が減径するのに対して,甲2記載発明の工具保持具のシャンク部は必ずしも減径しないから,審決の認定には誤りがあると主張する。 しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。 審決が,認定した「共通点」は,甲2記載発明の「締まり嵌め位置」における「主軸ホルダー(の端面 」と「鍔部(の当接面 」の位置関係と,本 ))件発明の「主軸の孔縁部の端面」と「鍔状の当部」の位置関係が「シャンク部がテーパ孔深部方向へ僅かに移動することにより‥‥主軸の孔縁部の端面に上記鍔状の当部が当接するような位置に設定してある」点に限定されるものと理解される。この点は,審決が,相違点3として「本件発明では,シャンク部をテーパ孔の深部方向に向けて力が加えられたときに,シャンク部が減径し,シャンク部の外周面が減径されながら主軸の孔縁部の端面に上記鍔状の当部が当接するような位置に移動するのに対し,甲2に記載された発明では,シャンク部をテーパ孔の深部方向に向けて力が加えられたとき,少なくともシャンク部の鍔部に近い部分が減径するものの,締まり嵌め位置への移動がシャンク部全長に亘っての減径によるものか否かは不明である点」と記載していることに照らして明らかである。 ( )その他,原告は,審決の一致点についての誤りを縷々主張するが,いず4れも理由がない。 3取消事由3(相違点の認定,判断の誤り)について( ) 相違点1について1ア相違点1の認定の誤りについて原告は,甲2記載発明のシャンク部の外径形状はテーパ孔のテーパ面の傾斜角よりも大きい傾斜角のテーパ形状であるから,不明ではないにもかかわらず,審決が相違点の認定において,甲2記載発明がシャンク部の外径形状がそのようなものであるか不明であると認定した点に誤りがあると主張する。 確かに,甲2左図においては,甲2記載発明のシャンクのテーパ面の傾斜角は,テーパ孔の内面の傾斜角よりも大きいと認められる。しかし,甲2記載発明のシャンクのテーパ面の傾斜角がテーパ孔の内面の傾斜角よりも大きいとしても,甲2記載発明のシャンクのテーパ面の外径形状が本件発明とは相違する点において変わりはないから,審決の認定が誤りとはいえない。 また,以下のイにおいて検討するとおり,甲2記載発明のシャンクのテーパ面の傾斜角がテーパ孔の内面よりも大きい形状を前提として,甲2記載発明のシャンクのテーパ面を主軸等のテーパ孔に嵌合させるようにした対応テーパ形状とすることが,甲4記載発明を適用することにより,容易,, 。 に想到し得るといえるから 原告の主張は 結論に影響するものではないイ相違点1についての容易想到性の判断の誤りについて(ア)甲4に記載された事項a甲4には,以下の記載がある。 すなわち 「受面を備える本体と,上記受面に当接させる為の当面 ,を備える工具ホルダとを備え,上記本体又は工具ホルダの一方には,上記受面又は当面に開口するテーパ孔を,他方には,上記当面又は受面から突出しかつ上記テーパ孔のテーパ面に対応するテーパ面を有するテーパ突起を夫々具備させ,それらテーパ孔及びテーパ突起の大きさは,テーパ突起をテーパ孔内に差込む過程においてテーパ孔の内周面にテーパ突起の外周面が当接する大きさにしてあり,上記テーパ孔の内周部又はテーパ突起の外周部の構造は,上記内周面又は外周面が弾性変形して上記受面に対する当面の当接を許容可能な寸法差吸収構造にしてある工具取付構造(特許請求の範囲「上記本体Aは一 。」),例として工作機のスピンドル1に対して,自体の軸芯Acがスピンドルの回動軸芯と一致する状態で複数の取付ねじ2でもって固定してあるが,上記スピンドル1の一部をもって構成される場合もある(2。」頁右上欄8行〜12行「次に第14図乃至16図は本願の更に異 ),なる実施例を示すもので,テーパ突起12hの外周部における寸法差吸収構造の更に異なる例を示すものである。本例においては,テーパ突起12hの外周部(第14〜16図の記載から 「内周部」の誤記,であると認められる )に環状の溝27を備えさせてある。このよう 。 な構成のものにあっては,第14図の状態からテーパ突起12hをテーパ孔4h内に差込み,更に差込を深めると,溝27の外側の環状部分28は第16図に示されるように溝27に向け弾性変形する。これによりテーパ突起12hはテーパ孔4hの深部へ向けて侵入して当面11hが受面3hに密着する。尚本例における工具ホルダ8hはその製造を容易にする為に,二つの部材29,30に分けて構成し,それらを符号31で示されるねじ部において連結してある(4頁右上。」欄17行〜左下欄11行)と記載されている。 また,第14図,第16図によれば,当面11hの元部は,図にお,,, いて当面11hよりも右側に位置し 受面3hと接しないこと 及びテーパ突起12hの外周面は図の右に向かって拡がり,径が最大となった後,上記の元部に連続していることが図示されている。 b上記によれば,甲4には 「工作機のスピンドルは受面とテーパ孔 ,を備え,工具ホルダは上記受面に当接させる為の当面と上記テーパ孔のテーパ面に対応するテーパ面を有するテーパ突起を備え,それらテーパ孔及びテーパ突起の大きさは,テーパ突起をテーパ孔に差し込む過程においてテーパ孔の内周面にテーパ突起の外周面が当接する大きさにしてあり,上記テーパ孔の内周部又はテーパ突起の外周部の構造は,上記内周面又は外周面が弾性変形して上記受面に対する当面の当接を許容可能な寸法差吸収構造にしてある工具取付構造」及び「当面11hの元部は,図において当面11hよりも右側に位置し,受面3hと接しないこと,及び,テーパ突起12hの外周面は図の右に向かって拡がり,径が最大となった後,上記元部に連続している 」との。 発明が開示されている。 (イ)容易想到性の検討甲2記載発明と甲4記載発明は,共に「主軸等にテーパ孔端面とテーパ孔を備え,工具保持具には,上記端面に当接させる為の当面と上記テーパ孔に嵌合するためのテーパ面を有し,それらテーパ孔及びテーパ面の大きさは,テーパ面をテーパ孔に差し込む過程においてテーパ孔の内周面にテーパ面が当接する大きさにしてあり,上記テーパ面の構造は,テーパ面が弾性変形して上記受面に対する当面の当接を許容可能な寸法差吸収構造にしてある工具取付構造」である点で一致する。 この点について,原告は,甲4記載発明は「二面拘束」の工具保持具ではないとし,テーパ突起の構成は,先部側が開口され自由端となっていることを根拠として挙げる。しかし,甲4には 「 従来の技術]こ,[の種の工具取付構造としては,本体にテーパ孔を,工具ホルダにテーパ, 。 突起を夫々設け テーパ孔にテーパ突起を差込むようにしたものがあるまた他の例としては,本体に受面を,工具ホルダに当面を夫々設け,受面に当面を密接させるようにしたものがある [発明が解決しようとす 。 る課題]前者の工具取付構造では,本体の軸芯に対する工具ホルダの軸芯の合致精度は高いが,本体に対する工具ホルダの倒れに対しての耐力は比較的小さい問題点がある。一方,後者の工具取付構造では,上記倒れに対しての耐力は高いが軸芯の合致精度が悪い問題点がある。そこでこれらの問題点の解決の為に,上記2種の構造を兼備させることを試みた。しかしそのようにする場合は,テーパ孔とテーパ突起の寸法関係に極めて高精度が要求される(精度が悪いと,テーパ孔とテーパ突起との間又は受面と当面の間のいずれか一方にすき間ができてしまう。こ。)の為極めて難しい工作技術が要求される問題点があった。本発明は以上のような点に鑑みてなされたもので,その目的とするところは,テーパ孔に対するテーパ突起の密接と,受面に対する当面の密接を共に達成でき,しかもそのような二つの達成を可能にしたものであっても,テーパ孔やテーパ突起の加工精度は比較的ラフで足りるようにした工具取付構造を提供することである(1頁右欄4行〜2頁左上欄11行)と記 。」載されているから,甲4記載発明が「二面拘束」を目的とする工具保持具であることは明らかである。 また,甲4記載発明のテーパ突起は,自由端を有するとしても弾性力を有するものであるから,テーパ孔の深部方向へ引き込まれて縮径した場合には,復元力が作用して,外径方向への拡張力が発生することは明らかであり,テーパ突起はテーパ孔に密着する方向の拡張作用が生じるものであるから,テーパ突起とテーパ孔の当接面には拘束力が生じているということができる。 そうすると,甲2記載発明に甲4記載発明を適用して,甲2記載発明において主軸等のテーパ孔及びシャンクのテーパ面の大きさを装着位置においてテーパ孔の内周にシャンクのテーパ面が当接する大きさにし,シャンクのテーパ面をテーパ孔に嵌合させるようにした対応テーパ形状とし,テーパ面が弾性変形して主軸等端部と鍔部の当接面との当接を許容可能な寸法差吸収構造とすることは,当業者が容易に想到し得ることというべきである。 (ウ)原告の主張に対する判断原告は,甲2記載発明に甲4記載発明を適用すると,二面拘束の技術が阻害されると主張する。しかし,甲2記載発明に甲4記載発明を適用すれば,テーパ孔深部方向への引き込み力により「締まり嵌め位置」においてシャンクのテーパ面と主軸等のテーパ孔の内面が全面にわたり密着することとなることは明らかである。 原告は,甲4記載発明には,工具保持具を引き込む引具が備えられておらず 「二面拘束」ではなく 「一面拘束」のものであり,適用を妨 ,,げる事情があると主張する。しかし,甲4には 「工具ホルダをテーパ ,孔深部方向へ引き込む引き込み用の操作体C (甲4の3頁左上欄3行 」〜右上欄11行)が設けられているから,甲4記載発明は,引具を備えているということができるのであって,甲4記載発明を「二面拘束」の工具保持具構造に適用することを妨げる事情があるとはいえない。そして,甲2記載発明の引具が主軸と直交する外径方向への拡張力を付与するものであるとしても,当該拡張力は,テーパ面の接合をより密着させる方向に働くものであるから,工具保持具の作用が阻害されるものでもない。 審決の相違点1についての判断に誤りはない。 ( ) 相違点2について2ア相違点2の認定の誤りについて原告は,乙1の9頁の8図等の記載を参照すれば,甲2記載発明は,主軸側のクランプ装置でシャンク部を拡張しながら引き込むためにシャンク部の先端に被クランプ面を備えるものと認められるから,主軸側の引具は不明であるとした相違点2に係る審決の認定に誤りがあると主張する。 しかし,審決が,引用例とした発明は,甲2左図及び右図に記載の発明であり,同図においては,主軸側の引具がどのようなものであるかは明ら, 。 かでないから 審決の相違点2の認定に誤りがあるということはできない仮に,甲2記載発明の引具が原告主張のものであるとしても,甲2記載発明が本件発明のプルスタットを有していない点で,同様に相違するのであるから,審決の相違点2の認定が誤りであるとはいえない。 イ相違点2についての容易想到性の判断の誤りについて原告は,甲2記載発明の工具保持具は,単に主軸側に引き込まれるだけでは主軸等に固定されるものではなく,主軸側に引き込まれるとともに拡張させて主軸等に固定されるものであるから,甲2記載発明とプルスタッドを組み合わせれば,被クランプ面の役割を損なうとともに,シャンクの拡張を不可能とするため,阻害要因が存在すると主張する。 しかし,上記( )イにおいて説示したように,甲2記載発明に甲4記載1発明を適用することにより 「主軸等のテーパ孔及びシャンクのテーパ面 ,の大きさを装着位置においてテーパ孔の内周にシャンクのテーパ面が当接する大きさにし,シャンクのテーパ面をテーパ孔に嵌合させるようにした対応テーパ形状とし,テーパ面が弾性変形して主軸等端部と鍔部の当接面との当接を許容可能な寸法差吸収構造」とした場合には,引具による深部方向へ引き込む力を用いただけでも鍔部当接面と主軸端部及びシャンクのテーパ面と主軸等のテーパ孔の内面の全面において当接し摩擦力が生じることは明らかであるから,甲2記載発明に甲4記載発明を適用するに当たり,シャンクの先端に周知のプルスタッドを備えるようにすることは,当業者が必要に応じて適宜なし得るといえる。 この点については,前訴判決において,甲1-1記載の発明が,シャンクのテーパ面とその他拡張力を要する固定構造を有するものについて,テーパ面のみとすることができるという事情の下で 「刊行物1(判決注: ,本訴における甲1-1)に記載の工具保持部の引込み具係合部としてプル, , スタッドを採用し これに応じて主軸の引き込み具が変更された場合には工具保持部の主軸への固定に関する構成も,深部方向へ引っ張る力のみが作用して,シャンク部が深部方向へ引っ張られ,これによりシャンク部が1箇所で主軸に固定される構成に変更されることは,いずれも,当業者に1 とっては自明のことというべきである(前訴判決(乙2)の「第4 。」( )エ」参照)と判示されている。1してみると,審決の相違点2についての判断に誤りはない。 ( ) 相違点3について3ア相違点3の認定の誤りについて原告は,甲2記載発明はシャンク部の内部は,シャンク部を拡張する方向に向けて力が加えられたときに,拡張して,拡張方向に向かって移動させられるような肉厚を残して中空に形成している,また,シャンク部はシャンク部をテーパ孔の深部方向に向けて力が加えられたときに,上記深部方向に向かって僅かに移動させられるように形成している,したがって,中空と深部方向への移動とは関係がない,と主張する。しかし,甲2記載発明は,装着位置において当接すること,少なくとも当接した部分が縮径するように中空部の肉厚が設定されているものと認められるから,原告の主張は失当であり,審決の相違点3の認定に誤りはない。 イ相違点3についての容易想到性の判断の誤りについて相違点3についての容易想到性の判断の誤りに関する原告の主張は,上記相違点1及び2における判断と同様の理由により失当である。 ( ) 相違点の看過について4ア原告は,本件発明では 「シャンク部の内部は,上記シャンク部をテー ,パ孔の深部方向に向けて力が加えられたときに,減径して,上記深部方向に向かって僅かに移動させられるような肉厚を残して中空に形成してある」のに対し,甲2記載発明では 「シャンク部の内部は,シャンク部の ,先端部に存在する被クランプ面(ベクトル図が付記されている斜面)に対してベクトル図が示す方向の力が加えられたときに,シャンク部の内部は拡張しながら深部方向に向けて移動させられるような肉厚を残して中空に形成してある」点で相違する点を,審決は看過していると主張する。 しかし,審決は,相違点3として「本件発明では,シャンク部をテーパ孔の深部方向に向けて力が加えられたときに,シャンク部が減径し,シャンク部の外周面が減径されながら主軸の孔縁部の端面に上記鍔状の当部が当接するような位置に移動するのに対し,甲第2号証に記載された発明では,シャンク部をテーパ孔の深部方向に向けて力が加えられたとき,少なくともシャンク部の鍔部に近い部分が減径するものの,締まり嵌め位置への移動がシャンク部全長に亘っての減径によるものか否かは不明である点 」と認定し,また,相違点3についての容易想到性の判断として 「甲 。 ,2に記載された発明においても,少なくともシャンク部の鍔部に近い部分が減径しており,また,当該減径する部分をシャンク部の全体とすることは,上記相違点1に係る構成であるシャンク部のテーパ形状を主軸のテーパ孔のテーパ形状に合わせることにより,必然的に成し遂げられる事項であり,相違点4(相違点3の誤記と認める)における本件発明のように構成することに格別の困難性は見当たらない」と判断している。 すなわち,審決は,甲2記載発明に甲4記載発明を適用すれば,必然的に 「シャンクに主軸等のテーパ孔の深部方向に向けて力が加えられたと ,きに,シャンクのテーパ面が全面にわたり減径されながら主軸等のテーパ孔縁部の端面に鍔部の当接面が当接する位置に移動する」ものとなると認。,, , 定判断している したがって 審決は 原告の主張する相違点についても実質的に認定,判断しているものと解されるから,原告の主張は理由がない。 イ原告は,本件発明では 「シャンク部内側の中空部は,シャンク部の元 ,部側の最大径部を越えて上記鍔部寄りにも上記の肉厚と同じように減径する肉厚が得られるように鍔部の内側に向けて連続的に形成してある」のに対し,甲2記載発明では 「シャンク部内側の中空部は,シャンク部の元 ,部側の最大径部を越えて上記鍔部の内側に向けて上記シャンク部の中心位置の肉厚よりも逐次肉厚が厚くなるように鍔部の内側に向けて形成してある」点で相違するにもかかわらず,審決はその相違点を看過していると主張する。 (ア)確かに,既に述べたとおり,甲2記載発明においては,シャンク中空部は,シャンクの元部側の最大径部を越えて鍔部側に連続して形成されてはいるものの 「シャンクの元部側の最大径部を越えて鍔部側に連 ,続する部分の肉厚が,装着位置においてシャンクのテーパ面と主軸等のテーパ孔の内面と当接する部分と同様に縮径する厚みであるかは明らかではない」から,審決はこの点において,相違点を看過している。 しかし,上記( )イにおいて認定したように,甲4記載発明において2は 「テーパ突起12hの外周面は図の右に向かって拡がり,径が最大 ,となった後,上記元部に連続している 」のであり,その厚みは,ほぼ 。 一定であるから,甲2記載発明に甲4記載発明を適用すれば,シャンクの元部側の最大径部を越えて鍔部側に連続する部分の肉厚が,装着位置においてシャンクのテーパ面と主軸等のテーパ孔の内面と当接する部分と同じ厚みとなることは明らかであるから,原告の主張する相違点は,当業者が容易に想到し得る程度のものというべきものである。 (イ)この点ついて,原告は,本件発明は,上記の「シャンク部の周囲の肉厚部は,装着利用状態において,シャンク部の最大径部を含めて内側に減径させる」ものであるから,工作機の主軸におけるテーパ孔縁を不用意に膨らませる恐れもなく,工作機の主軸のテーパ孔縁に対して繰返し塑性変形を与える恐れもなく,高価な工作機の主軸を疲労させて稼動不能に追込むような不測の事態を防止できる効果があると主張する。し,, , かし 甲2記載発明においても シャンクの最大径部は減径されるから同様の効果を奏することは明らかである。 (ウ)原告の主張する相違点の看過は結論に影響しない。 ( ) 以上のとおりであるから,原告の主張する取消事由3は理由がない。 54取消事由4(甲4記載発明の認定の誤り)について原告は,甲4には,二面拘束の工具保持具が記載されていないにもかかわらず,審決が「二面係合する中空のツールシャンクに関するものである」と認定している点に誤りがあると主張する。しかし,審決の甲4記載発明の認定に誤りがないことは,既に上記3( )において説示したとおりであるから,原告主1張に係る取消事由4は採用できない。 5結語( )なお,本件の審決について,補足して述べる。 1ア本件は,容易想到であるとはいえない(進歩性がある)との判断をした第1次審決に対して,容易想到であるとはいえないとの審決の判断に誤り, () がある旨を理由中で判示して 第1次審決を取り消した前判決 確定判決を受けて,再度無効審判手続を行った上で,進歩性がない(容易想到であるといえる )と判断して,特許を無効とした審決に対する取消訴訟であ 。 る。 ところで,特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において,審決を取り消す旨の判決が確定したときは,審判官は,特許法181条5項の規定に基づき,当該審判事件について更に審理をし,審決をすることにな,, , るが 再度の審理及び審判には 行政事件訴訟法33条1項の規定により取消判決(確定判決)の効力が及ぶ。そして,この拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断の一般にわたるものであるから,審判官は,当事者が取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断についてこれを誤りであるとして従前と同様の主張を繰り返したり,あるいは同様の主張を裏付けるための新たな立証をすることを許すべきではない。また,取消判決の拘束力に従ってした再度の審決は,その限りにおいて違法を来すことはない。 したがって,当該発明が,特定の引用例から容易に発明をすることができたとの理由で無効審決がされた場合の取消訴訟において,本件発明が特定の引用例から容易に発明をすることはできなかったと判示して,上記審決を取り消した場合には,拘束力は,取消判決(確定判決)が示した判決理由中の判断について生ずるのであるから,再度の審判手続において,当事者において,当該発明は,別の引用例から容易に発明をすることができたと主張,立証することが許されるし,審決においてその旨を判断することも許される。このように判断しても,取消判決(確定判決)の拘束力に違反することはない。 しかし,当該発明が,特定の引用例から容易に発明をすることができたとはいえないとの理由で「無効審判請求は成り立たない」とした審決がされた場合の取消訴訟において,本件発明が特定の引用例から容易に発明をすることができたと判示して,上記審決を取り消した場合には,再度の審,( ), 判手続において 同一の事実に基づく限り 事実関係の変更がない限り再度「無効審判請求は成立しない」とすることは審決取消判決の拘束力に反することになり許されない。すなわち,同一事実に基づく限り(事実関係の変更がない限り ,取消判決(確定判決)の結論に拘束されることを )意味する。行政事件訴訟法33条1項が設けられた趣旨は,司法審査によって,事実の存否及び法律判断が示された事項については,同一争点が,蒸し返され,裁判所と行政庁との間を往復することによっていつまでも紛争が終了しない事態を防止し,できる限りすみやかに紛争解決を図るためのものであることは明らかである。 イところで,本件についてこれを見ると,被告のした無効審判請求に対して「本件審判の請求は成り立たない 」との判断をした第1次審決につい 。 て,前判決は,本件発明と特表平3-500511公報(本訴における甲1-1)を主引用例として対比し,その相違点(本件発明では引込み具及び引込み具係合部が引具及びプルスタッドであって「主軸側の引具でシャンク部を引き込むためにシャンク部の先端に設けられたプルスタッド」を備えている点に係る相違点)は,同公報及び「日本工作機械工業規格 プルスタッド (本訴における甲5)から当業者が容易に想到できないとし 」た第1次審決の判断には誤りがある(容易に想到することができる)と判示して,同審決を取り消した。そうすると,本件においては,再度審理を開始した審判手続において,前判決の拘束力に従った判断をすることにより,迅速な解決を図ることができたはずであり,当事者に対しても,前判決の拘束力から離れた主張,立証をすることを禁じる指揮をすることもできたはずである。しかるに,再度の審判手続及び審決においては,拘束力の生じた前判決が基礎とした本件発明と引用例との対比とは,全く異なる引用例に基づいた対比についての審理を実施し,これに基づく判断をすることとなった。このような審判及び審決のあり方は,行政事件訴訟法33条1項が設けられた趣旨に反するものであり,速やかな紛争解決を妨げるものであるといえよう。 ( )以上検討したとおり,審決に,原告主張の取消事由は理由がなく,その2他,これを取り消すべき誤りは見当たらない。よって,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 飯村敏明 |
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裁判官 | 三村量一 |
裁判官 | 上田洋幸 |