関連審決 | 不服2002-12831 |
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関連ワード | 考案者 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 周知技術 / 上位概念 / 技術的意義 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 構成要件 / 拒絶査定不服審判 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
16年
(行ケ)
116号
審決取消請求事件
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原告 三菱重工業株式会社 訴訟代理人弁理士 田中康幸,松元洋 被告 特許庁長官小川洋 指定代理人 鹿股俊雄,長井真一,高橋泰史,大橋信彦,井出英一郎 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2005/02/10 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
「特許庁が不服2002-12831号事件について平成16年2月9日にした審決を取り消す。」との判決。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 平成9年特許願第319694号「原子炉用制御棒」は,原告による平成9年11月20日の出願であって,平成14年6月7日付けで拒絶査定がなされ,これを不服として,同年7月11日に審判請求がなされるとともに,同年8月9日付けで手続補正(以下「補正」というときは,この手続補正を指す。)がなされた。平成16年2月9日,審判請求不成立の審決があり,その謄本は同月24日原告に送達された。 2 本願発明(請求項1に記載の発明)の要旨 (1) 補正前 両端が上部端栓及び下部端栓によりそれぞれ密封された被覆管に収納された中性子吸収体を有する原子炉用制御棒において, 中性子吸収体が収納された前記被覆管の下端側の一部外面に相対的に厚さの小さい下部耐摩耗表面処理層を形成し,前記被覆管の上部の外面に相対的に厚さの大きい上部耐摩耗表面処理層を前記下部耐摩耗表面処理層と連続して形成したことを特徴とする原子炉用制御棒。 (2) 補正後(下線部が補正箇所) 両端が上部端栓及び下部端栓によりそれぞれ密封された被覆管に収納された中性子吸収体を有し,緊急時には 落下 して 制御棒案内管 の下方 のダッシュポット に下端側が挿入 され ,その 上方 に押さえ 用の圧縮 コイル ばねが 介装 されている 原子炉用制御棒において, 前記被覆管の下端側の ,落下時 に落下衝撃緩和用 ダッシュポット 部に対応 する 前記被覆管 の外面 に,相対的に厚さの小さい下部耐摩耗表面処理層を形成し,前記被覆管の上部の外面に相対的に厚さの大きい上部耐摩耗表面処理層を前記下部耐摩耗表面処理層と連続して形成したことを特徴とする原子炉用制御棒。 3 審決の理由の要点 (1) 刊行物1 原査定の拒絶の理由に引用された実願平2-169号(実開平3-91998号)マイクロフィルム(刊行物1。本訴甲2)には,次の(a1)〜(a4)の事項が記載されている。 (a1)「このような制御棒組立体1に取り付けられる従来一般の制御棒2は,第3図に示すように,ステンレス鋼製の被覆管5内に銀・インジウム・カドミウム合金等の中性子吸収体6を収容したもので,被覆管5の下端及び上端にはそれぞれ下部端栓7及び上部端栓8が溶着されている。また,被覆管5内で中性子吸収体6が移動しないように,中性子吸収体6と上部端栓8との間のプレナム部にはコイルスプリング9が配置され,中性子吸収体6を下部端栓7に押し付けている。」(2頁14行〜3頁3行) (a2)「かかる制御棒2の長寿命化を図るべく,近年,第4図に示すように,被覆管5の外面にクロムメッキ層10を設け,摩耗減肉を低減する方法が採られている。具体的には,全長約4m,被覆管5の肉厚が0.5mmの典型的な制御棒2において,被覆管5のほぼ全長にわたり,30μmの厚さのクロムメッキ層10を形成している。クロムメッキ層10の厚さは大きいほど,摩耗による寿命の低下を抑制できるが,メッキ厚の増加は被覆管外径の増加となるため,燃料集合体内の制御棒案内シンブルとの隙間が小さくなり,燃料集合体への挿入時,特に,緊急挿入時において挿入時間に影響を与えることから,メッキ層厚を前述の如く30μmに抑えている。このように30μmのクロムメッキ層10を設けることにより,1.3倍以上の長寿命化が炉外試験で確認された。同1条件下での摩耗の進行速度は同一と考えられることから,概ね30μmのクロムメッキ層10は,被覆管5の肉厚を約3割相当厚くしたのと同等の効果がある。」(4頁10行〜5頁8行) (a3)「制御棒は,プラント運転中,その下端部あるいは出力制御に必要な長さ部分が燃料集合体の制御棒案内シンブルの中に挿入された状態となっており,緊急挿入時には,その状態から自由落下させる。自由落下の終端では,機械的衝突を防止するため,制御棒案内シンブルの下端部は内径を小さくしてあり,制御棒案内シンブルと制御棒との隙間を小さくして流体抵抗によるクッション効果が得られるようにしている。制御棒案内シンブルのこの部分は一般にダッシュポットと呼ばれている。」(9頁16行〜10頁5行) (a4)「一方,プレナム部被覆管5bのクロムメッキ層21bは制御棒20の上端の約100mmの範囲であり,この範囲が燃料集合体の制御棒案内シンブルの中に到達する時には,既に,制御棒20の先端がダッシュポットを通過中であり,ダッシュポットに至るまでの大部分の間は従来と変わりなく自由落下する。しかも,プレナム部のクロムメッキ層21bをたとえ100μmの厚さとしても,制御棒案内シンブルと制御棒20との隙間は約1.5mmあり,ダッシュポット部での隙間約0.3mm比して非常に大きく,制御棒20の緊急挿入に全く影響を与えない。」(10頁6行〜16行) 以上の記載及び第4図の記載から,上記刊行物1には,以下の発明が記載されているものと認められる。 「両端が上部端栓8及び下部端栓7によりそれぞれ密封された被覆管5に収納された中性子吸収体6を有し,緊急時には落下して制御棒案内管の下方のダッシュポットに下端側が挿入され,その上方に押さえ用のコイルスプリング9が介装されている原子炉用制御棒において,被覆管のほぼ全長にわたってクロムメッキ層10が形成されている原子炉用制御棒」 (2) 対比(補正発明について) そこで,補正発明と刊行物1に記載された発明とを比較すると,刊行物1に記載の「コイルスプリング」,「クロムメッキ層」は,それぞれ補正発明の「圧縮コイルばね」,「耐摩耗表面処理層」に実質的に相当するから,結局,両者は,「両端が上部端栓及び下部端栓によりそれぞれ密封された被覆管に収納された中性子吸収体を有し,緊急時には落下して制御棒案内管の下方のダッシュポットに下端側が挿入され,その上方に押さえ用の圧縮コイルばねが介装されている原子炉用制御棒において,被覆管のほぼ全長にわたって耐摩耗表面処理層が形成されている原子炉用制御棒」である点で一致し,次の点で相違する。 [相違点1] 補正発明では,被覆管の下端側の,落下時に落下衝撃緩和用ダッシュポット部に対応する前記被覆管の外面に,相対的に厚さの小さい下部耐摩耗表面処理層を形成し,前記被覆管の上部の外面に相対的に厚さの大きい上部耐摩耗表面処理層を前記下部耐摩耗表面処理層と連続して形成しているのに対し,刊行物1のものでは,被覆管のほぼ全長にわたって同じ厚さの耐摩耗表面処理層が形成されている点。 (3) 判断(補正発明について) 上記相違点1について検討する。 まず,落下衝撃緩和用に制御棒案内管下部にダッシュポットを設けることは従来から採用されている技術であるが,その際,ダッシュポット内面と被覆管外面との間隙は,落下衝撃緩和機能と所定時間内に制御棒がダッシュポット最下部までに到達する機能を併せ持つ必要があることから,その間隙は,大きすぎても(落下衝撃緩和機能が失われる),小さすぎても(小間隙によるブレーキ効果が利きすぎるため,所定時間内での制御棒挿入が不可能となる),問題であり,両者の機能を満足するためには一定の間隙が必要であること,及び従来からそのように炉心設計及び安全評価設計が行われていることは当業者において自明の技術的事項である(要すれば,特開昭59-154388号公報(甲11)の1頁右下欄3行〜2頁左上欄10行,特開平1-129193号公報(甲12)の2頁左上欄7行〜右上欄14行,特開平2-55994号公報(甲13)の2頁左上欄19行〜右上欄6行を参照のこと。)。 また,ダッシュポット部との間隙を得るために,ダッシュポット部に挿入される部分の制御棒被覆管の外径を他の部分よりも小さくすることも,本件出願前周知の技術事項である(要すれば,特開平1-123195号公報(甲3),特開昭49-1995号公報(甲14)を参照のこと)。 これらを前提に,相違点1を総合勘案すれば,刊行物1に記載の耐摩耗表面処理層が施された被覆管について,ダッシュポット部において所定の間隙を確保するために,ダッシュポット部に対応する被覆管の外径を小さくすることは,たとえ耐摩耗表面処理層が施された被覆管であっても当業者であれば,通常に採用し得る事項であり,その際,耐摩耗表面処理層(補正発明及び刊行物1に記載の発明とも,その実施例では,クロムメッキ層)の厚みが表面処理時間等をコントロールすることにより,適宜調節可能であることを考慮すれば,ダッシュポット部に対応する耐摩耗表面処理層の厚みを小さくすることは,当業者であれば容易に想到することができたものである。 また,厚みの異なる上部及び下部の耐摩耗表面処理層を連続的に形成することは単なる設計事項にすぎない。 そして,補正発明の作用効果も,上記刊行物1及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。 なお,請求人(原告)は,平成15年12月12日付け上申書(甲10)において,隙間の下限値について「従来,当業者が考慮してきたのは,・・・ひっかかりが生じるゼロ隙間(下限)です。・・・使用開始時に干渉しなければよしとするものです。」(3頁22〜25行),「当時の当業者にとってこの技術課題は認識されておらず,・・・極力隙間を狭くするネガティブティーチングが示唆されています。」(3頁33〜35行)と主張しているが,上記炉心設計及び安全評価の考え方からみて,根拠のないものであり,採用することができない。 また,ダッシュポット及びダッシュポットに対応する制御棒が中性子照射によって変形し,それによって間隙も変化する課題については,本件出願前周知である(要すれば,特開昭62-247288号公報(甲15)の2頁右下欄12〜20行,特開平1-129193号公報(甲12)の2頁右上欄15行〜右下欄7行,特開平2-55994号公報(甲13)の2頁右上欄7行〜左下欄6行を参照のこと)。 なお,請求人は,平成15年12月12日付け上申書において,被覆管の下端側の,落下時に落下衝撃緩和用ダッシュポット部に対応する前記被覆管の外面に形成される耐摩耗表面処理層の膜厚を10μmとする補正案を提示しているが,仮に,この補正案を採用したとしても,該当部の膜厚は,上述の機能及び課題を考慮して,必要な間隙を確保すべく,当業者が適宜設計し得る事項にすぎないものであり,10μmとしたことに格別な臨界的な技術的意義をみいだすことはできないものである。 したがって,補正発明は,刊行物1に記載された発明,及び,周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (4) 補正についての審決判断のむすび 以上のとおり,本件補正は,特許法17条の2第5項で準用する同法126条4項の規定に違反するものであり,特許法159条1項で準用する特許法53条1項の規定により却下されるべきものである。 (5) 補正前発明についての審決の判断 平成14年8月9日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,平成14年5月20日付けの手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,本判決前記2の(1)のとおりのものである(以下「補正前発明」という。)。 (5)-1 刊行物1 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1の記載事項は,前記のとおりである。 (5)-2 対比・判断 補正前発明は,さきに認定した補正発明から「緊急時には落下して制御棒案内管の下方のダッシュポットに下端側が挿入され,その上方に押さえ用の圧縮コイルばねが介装されている」との構成を省き,また,同補正発明の「落下時に落下衝撃緩和用ダッシュポット部に対応する前記被覆管の外面に」との限定を「被覆管の下端側の一部外面に」と上位概念化したものである。 そうすると,補正前発明の構成要件をすべて含み,更に他の構成要件を付加したものに相当する補正発明が,前記のとおり,上記刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,補正前発明も,同様の理由により,刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 (6) 審決のむすび 以上のとおり,本願発明は,刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 |
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原告主張の審決取消事由
審決は,補正発明と刊行物1との間の相違点1に関する判断を誤ったものである。 1 審決は,「まず,落下衝撃緩和用に・・・従来からそのように炉心設計及び安全評価設計が行われていることは当業者において自明の技術的事項である。」,「また,ダッシュポット部との・・・小さくすることも,本件出願前周知の技術事項である。」と,二つの事項を前提として挙げている。しかし,これらの前提事項の認定に誤りがある。 (1) まず,審決は,「落下衝撃緩和機能と所定時間内に制御棒がダッシュポット最下部までに到達する機能を併せ持つ必要がある」としているが,「所定時間内に制御棒がダッシュポット最下部までに到達する機能を併せ持つ必要」については,その根拠が不明である。補正発明が対象としている加圧水型原子炉で決められているのは,制御棒がダッシュポットの入口まで落下するのにかかる時間であり,ダッシュポットの最下部に到達するまでの時間ではない。原子炉の緊急停止は瞬時に行われる必要があるので,衝撃を緩和するためにゆっくり下降させる領域を含まない,ダッシュポットの入口に制御棒が到達するまでの時間が,原子炉停止のために重要である。したがって,制御棒がダッシュポットの入口まで落下する時間は決められているのである。 (2) 審決は,「ダッシュポット内面と被覆管外面との間隙は・・・両者の機能を満足するためには一定の間隙が必要であること,及び従来からそのように炉心設計及び安全評価設計が行われていることは当業者において自明の技術的事項である」とし,要すればとして,甲11(特開昭59-154388号公報の1頁右下欄3行〜2頁左上欄10行),甲12(特開平1-129193号公報の2頁左上欄7行〜右上欄14行),甲13(特開平2-55994号公報の2頁左上欄19行〜右上欄6行)を挙げている。 しかし,甲11におけるダッシュポット機構は,制御棒の上部に制御棒とは別に設けられているものである。甲11の図に示すように,制御棒4の上部に連結された駆動延長軸2に,当該駆動延長軸2の外径より径を大きくしてダッシュラム5が形成される一方,駆動延長軸2を案内する上部案内管6の一部の内径をより小さくしてダッシュポット5が形成されているのである。甲11には,このダッシュポット機構におけるダッシュポットとダッシュラム(制御棒そのものの一部ではない。)との間のギャップを一定に製作,組立てすることは,極めて難しい,と記載されているにすぎない。つまり,甲11には,「ダッシュポット内面と被覆管外面との間隙」の調整については記載されていないのである。なお,甲11で対象としているのは高速増殖炉であり,加圧水型原子炉ではない。 甲12,13におけるダッシュポット機構におけるダッシュラムは,「上記制御棒3の下端には円柱状のダッシュラム5が突設されており」(甲12の2頁左上欄3〜4行,甲13の1頁右下欄下から6〜5行)と記載されているように,制御棒の下端に,制御棒とは別に設けられるものである(制御棒そのものの一部ではない。)。つまり,甲12,13にも,「ダッシュポット内面と被覆管外面との間隙」の調整については記載されていない。甲12,13で対象としているのも,高速増殖炉である(甲12の1頁右下欄8行,甲13の1頁左下欄最下行)。 さらに,甲12,13におけるダッシュラムは,耐摩耗性の高いオーステナイト系ステンレス鋼製であり(甲12の2頁右上欄下から8〜7行,甲13の2頁右上欄5〜6行),耐摩耗性を高めるためにメッキを施す必要のないものである。 上記のように,甲11〜13には,「ダッシュポット内面と被覆管外面との間隙」については記載されていない。 (3) 以上のように,甲11〜13には,審決で主張する「落下衝撃緩和用に・・・従来からそのように炉心設計及び安全評価設計が行われていること」は記載されていないのであるから,これが「当業者において自明の技術的事項」とする認定は誤りである。 2 審決は,「ダッシュポット部との間隙を得るために,ダッシュポット部に挿入される部分の制御棒被覆管の外径を他の部分よりも小さくすることも,本件出願前周知の技術事項である」とし,要すればとして,甲3(特開平1-123195号公報),甲14(特開昭49-1995号公報)を挙げている。 (1) しかし,甲3には「ダッシュポット部との隙間を得るために,ダッシュポットに挿入される部分の制御棒被覆管の外径を他の部分より小さくすること」は記載されていない。そもそも,甲3に記載されている制御棒は,「したがって,Hfを制御棒として用いる場合,Ag-In-Cd合金棒のようにステンレスで被覆する必要がない。」(3頁左上欄最下行〜右上欄2行)と記載されているように,「被覆管」を必要としないものであり,「制御棒被覆管」は存在しない。また,甲3には「先端部21を細径にする理由は制御棒の先端部の反応度が大きいと制御棒の挿入されている先端部分,すなわち燃料集合体で制御棒が挿入されている部分と挿入されていない部分の境界で大きな出力変動が見られ燃料の健全性が保たれないからである。よって細径にして他の部分より反応度を小さくする。」(3頁右下欄8〜14行)と記載されているように,先端部21を細径にするのは,「ダッシュポット部との隙間を得るため」ではなく,この部分の反応度を小さくするためである。補正発明でいえば,被覆管の中の中性子吸収体を小さくすることである。 甲14にも「ダッシュポット部との隙間を得るために,ダッシュポットに挿入される部分の制御棒被覆管の外径を他の部分より小さくすること」は記載されていない。甲14における緩衝装置は,「制御要素組立体42を形成している5本の制御ロッド38のうち,他の4本の中心に位置された1本だけが緩衝される。」(4頁左下欄12〜15行)と記載されているように,各制御棒を緩衝するものではなく,しかも「整列ポスト30は・・・ピストン54に対し緩衝装置のシリンダー又はハウジングを与える。」(4頁右下欄下から3行〜5頁左上欄1行)と記載されているように,制御棒の上部に連結されるピストン54と,頂端板28に形成された整列ポスト30とで構成されるもので,制御棒とは別に設けられるものである。 甲14の第3図に示すように,ピストン54は,ピストン54より径の小さい副ピストン54aを有するが,この副ピストン54aはピストン54につなげて設けられているのであって,制御棒被覆管に設けられているのではない。つまり「制御棒被覆管の外径を他の部分より小さく」しているのではない。さらに,この副ピストン54aは,「環状の小間隙を保って収縮55によって形成されたオリフィス58を通って挿入されるよう半径方向の寸法が与えられている」(6頁右上欄下から2行〜左下欄1行)と記載されているように「ダッシュポット部との隙間を得るために」径が小さく形成されているのでもない。 (2) このように,周知の技術事項の根拠として挙げた甲3及び14には,「ダッシュポット部との隙間を得るために,ダッシュポットに挿入される部分の制御棒被覆管の外径を他の部分より小さくすること」が記載されていないのであるから,「ダッシュポット部との隙間を得るために,ダッシュポットに挿入される部分の制御棒被覆管の外径を他の部分より小さくすること」も,本件出願前周知の技術事項であるとする審決の認定は誤りである。 3 審決は,「これらを前提に,相違点1を総合勘案すれば・・・ダッシュポット部に対応する耐摩耗表面処理層の厚みを小さくすることは,当業者であれば容易に想到することができたものである。」と判断しているが,誤りである。 (1) 上述のように,そもそも判断の前提としている「当業者において自明の技術的事項」及び「本件出願前周知の技術事項」の認定自体に誤りがあるのであるから,「これらを前提に,相違点1を総合勘案すれば・・・ダッシュポット部に対応する耐摩耗表面処理層の厚みを小さくすることは,当業者であれば容易に想到することができたものである。」との判断は,誤りである。 (2) たとえ,刊行物1に,甲11〜13の記載を考慮したとしても,「ダッシュポット部に対応する耐摩耗表面処理層の厚みを小さくすることは」,当業者であっても容易に想到することができたことではない。 刊行物1には,制御棒の被覆管の外面のほぼ全長にわたって均一の厚さ(30μm)のクロムメッキ層を設ける技術が開示されている。一方,甲11〜13には,制御棒に連結させて制御棒とは別に設けたダッシュラムとダッシュポットの隙間の調整について記載されている。したがって,刊行物1に記載の技術に甲11〜13の技術を勘案して得られるものは,せいぜいほぼ全長に均一な厚さのクロムメッキを施した制御棒に連結させて別にダッシュポット機構を設けたものである。ダッシュポット機構において,ダッシュラムとダッシュポットとの間を所定の隙間に設定するのは,ダッシュポット機構の機能からして甲11〜13を待つまでもないことである。しかし,その所定の隙間をいかにして確保するかについては,刊行物1にも,甲11〜13にも記載されていない。したがって,補正発明のように,「被覆管の下端側の,落下時に落下衝撃緩和用ダッシュポット部に対応する前記被覆管の外面に,相対的に厚さの小さい下部耐摩耗処理層を形成」するという構成は,刊行物1に,甲11〜13を勘案したとしても,得られるものではない。 なお,前述のように甲3及び14には,「ダッシュポット部との隙間を得るために,ダッシュポットに挿入される部分の制御棒被覆管の外径を他の部分より小さくすること」は記載されていないのであるから,刊行物1に,甲11〜13,更には甲3及び14を考慮したとしても,補正発明には想到し得ない。 4 刊行物1の10頁中ほどでは,ダッシュポット部での隙間と比較して,制御棒の緊急挿入への影響が述べられている。しかし,この記述は,制御棒外径増加の範囲が,制御棒上端の約100mmと全長約4mに占める割合がわずかであって,かつその外径増加範囲の制御棒における位置が,制御棒上端のほんの一部分であるために,緊急挿入に問題ないとしたものである。 制御棒の燃料集合体への緊急挿入性(すなわち時間)は,次の影響を受ける。 @ 制御棒のうち,燃料集合体に挿入されるすべての全長方向範囲の外径[→外周長が,制御棒自由落下中に制御棒がその周りに存在する冷却材(液体)から受ける抵抗の大きさに影響する] A 制御棒の表面状態[→冷却材(液体)との摩擦係数に影響する] B 制御棒の質量[→大きければ落下速度が増加する] 上記のうち,刊行物1における従来技術(全長にわたってクロムメッキ層を設けたもの)から刊行物1に係る発明(制御棒の上端に外径増加部分を設けたもの)の変更点で,挿入性への影響が懸念されるものは@と考えられる。刊行物1では,その10頁に記載されているとおり,制御棒の上端の外径増加範囲(上端の100mm)が燃料集合体に挿入されるときには,制御棒先端が既にダッシュポット内に挿入されており,既にブレーキがかかっている状態であり,しかも外径増加部分と制御棒案内シンブルとの隙間が十分確保されていることから,この外径増加範囲はブレーキに影響を与えないと判断している。 つまり,刊行物1では,制御棒の全長にわたって同じ径であるものと,制御棒のほぼ全長にわたって同じ径(上端100mmを除く)であるものについて,挿入性には差がないことが述べられている。したがって,刊行物1から,「燃料への挿入完了時にダッシュポットに対応する範囲の制御棒外径を,他の部分よりも小さくする」という構成はもとより,このような構成を導き出すような課題を見いだすこともできず,当業者といえども,制御棒案内管への挿入開始以降のすべての挿入性への影響を考慮して「被覆管の下端側の,落下時に落下衝撃緩和用ダッシュポット部に対応する前記被覆管の外面に,相対的に厚さの小さい下部耐摩耗表面処理層を形成し,前記被覆管の上部の外面に相対的に厚さの大きい上部耐摩耗表面処理層を前記下部耐摩耗表面処理層と連続して形成」することは,容易に想到できるものではない。 5 審決は,「厚みの異なる上部及び下部の耐摩耗表面処理層を連続的に形成することは単なる設計事項にすぎない。」と判断する。しかし,この判断は,補正発明全体の構成を見ないものである。つまり,補正発明において,相対的に厚さの小さい耐摩耗表面処理層の部分は,制御棒の下端側のほんの一部であり,それにつなげてそれより上側の全部の部分の外面には相対的に厚さの厚い耐摩耗表面処理層を設けているのであり,このような構成は,刊行物1及びその他の文献にも見られないものである。 6 審決は,「補正発明の作用効果も,上記刊行物1及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。」と判断する。しかし,「被覆管の下端側の,落下時に落下衝撃緩和用ダッシュポット部に対応する前記被覆管の外面に,相対的に厚さの小さい下部耐摩耗表面処理層を形成し,前記被覆管の上部の外面に相対的に厚さの大きい上部耐摩耗表面処理層を前記下部耐摩耗表面処理層と連続して形成した」ことにより,ダッシュポット部に挿入される下端部(4mの制御棒の下端部のほんの300mmの部分)の耐摩耗性を高めるとともに,その部分とダッシュポット部との隙間を維持し,かつダッシュポット部に挿入される下端部以外の部分(制御棒の下端部を除く3m70cmの部分)の耐摩耗性を高く維持するという作用効果は,刊行物1及び周知技術から予測できるものではない。刊行物1に記載のものは,メッキ厚が均一の制御棒であり,甲11〜13,甲3及び14には,メッキについて一切記載されていないからである。 7 審決は,「ダッシュポット及びダッシュポットに対応する制御棒が中性子照射によって変形し,それによって間隙も変化する課題については,本件出願前周知である(要すれば,特開昭62-247288号公報(甲15)・・・,特開平1-129193号公報(甲12)・・・,特開平2-55994号公報(甲13)・・・を参照のこと)。」と判断しているが,誤りである。 そこで挙げた甲15,12,13では,いずれも一般に照射スエリングという事象について記載されているが,それは,ダッシュポット及びダッシュポットに対応する制御棒の部分が中性子照射によって照射クリープ変形し,それによって間隙も変化する課題とは,事象が異なる(数値的な規模も違う)ものであり,補正発明の技術的課題は出願前周知ではない。すなわち,甲15,12,13に記載された照射スエリングという事象は,体積膨張することを示しているが,補正発明では,照射クリープによる扁平化に伴い二次的に発生する大変形を示しているものである。 なお,数値的には,制御棒だけに着目したとしても,扁平化に伴う外径増加は210μmが規定されるのに対し,照射スエリングによる外径増加は,十数μm(5年間の計算例)であり,桁が違う。 したがって,上記のように桁の違う扁平化を見いだし,それを考慮して耐摩耗表面処理層の膜厚を10μmとしたのは新規のものであり,当業者が適宜設計し得る事項にすぎないものではない。 |
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当裁判所の判断
1 原告は,審決が,「落下衝撃緩和用に制御棒案内管下部にダッシュポットを設けることは従来から採用されている技術であるが,その際,ダッシュポット内面と被覆管外面との間隙は,落下衝撃緩和機能と所定時間内に制御棒がダッシュポット最下部までに到達する機能を併せ持つ必要があることから,その間隙は,大きすぎても(落下衝撃緩和機能が失われる),小さすぎても(小間隙によるブレーキ効果が利きすぎるため,所定時間内での制御棒挿入が不可能となる),問題であり,両者の機能を満足するためには一定の間隙が必要であること,及び従来からそのように炉心設計及び安全評価設計が行われていることは当業者において自明の技術的事項である(要すれば,特開昭59-154388号公報(甲11)・・・,特開平1-129193号公報(甲12)・・・,特開平2-55994号公報(甲13)・・・を参照のこと。)。」とした認定は誤りであると主張する。 (1) そこで,甲11〜13の記載事項から審決の上記認定の当否を検討する。 甲11(特開昭59-154388号公報)には, 「従来の制御棒駆動装置のスクラム時緩衝装置としては,一例として円筒型で相互にはまり合い,流体の絞りを利用するところのダッシュラムとダッシュポットから構成されるものがある。 これは,ダッシュポットとダッシュラムの直径ギャップを小さくして,流体の圧縮する抗力を利用して衝突力を緩和するものである。このギャップが小さければ小さいほど,緩衝効果が大きいわけであるが,このギャップが小さ過ぎると緩衝効果が効きすぎて所定位置までの落下時間が遅くなり,また制御棒への衝突力が過大となる。 一方,ギャップが大きすぎると緩衝効果が小さく,落下時間が早くなるわけであるが,極めて大きい衝撃力でダッシュポット底部にぶつかることになり,装置を破損するおそれがある。 したがって,この最終段階における速度の微調整が必要となる。」(1頁右下欄9行〜2頁左上欄5行) と記載されている。 また,甲12(特開平1-129193号公報)には, 「制御棒3が炉心内へ挿入され下降してきた場合には第4図に示すようにダッシュラム5はダッシュポット6内に挿入されるが,この場合ダッシュラム5の外周面とダッシュポット6の内周面との間には所定の間隙7が形成されている。よって原子炉緊急停止時(以下スクラムという)に制御棒3が挿入された場合には,ダッシュラム5がダッシュポット6内に侵入してダッシュポット6内の冷却材が間隙7から押し出される。その時の流動抵抗によって制御棒3は減速緩衝される。第5図はこのスクラム時における制御棒3の挿入特性すなわちスクラム特性を示すもので,横軸に時間をとり縦軸にストロークをとって示している。図中符号Aは制御棒駆動機構内のガス圧あるいはスプリングの付勢力によって下向に加速される加速区間を示し,符号Bは制御棒3が制御棒3の重量及び外径によって決定される一定速度で下降する下降区間を示しており,また符号Cはダッシュラム5とダッシュポット6によって制御棒3が減速されて停止する緩衝区間を示している。 ダッシュラム5とダッシュポット6との間の間隙7は制御棒3の全挿入までの時間すなわちスクラム時間が所定時間以上とならないように,かつ停止時の衝撃が所定の値を超えないようにその寸法を設定されている」(2頁左上欄7行〜右上欄11行) と記載され,甲13(特開平2-55994号公報)の2頁左上欄にも同趣旨の記載が認められる。 甲11〜13の上記記載からして,ダッシュポットは,ダッシュラムがダッシュポット内に侵入することによりダッシュポット内の流体が圧縮される際の抗力を利用するものであって,ダッシュラムがダッシュポット内に侵入することによりダッシュポット内の流体がダッシュポット内面とダッシュラム外面との間隙から押し出される際の流動抵抗によって制御棒の下降を減速緩衝するものであると認められる。 (2) そして,以上の各記載からすると,ダッシュポット内面とダッシュラム外面との間隙を大きくすれば,圧縮されたダッシュポット内の流体が,ダッシュポット内面とダッシュラム外面との間隙から押し出される際の流動抵抗が小さくなる結果,ダッシュポットによる減速緩衝効果は小さくなり,逆に,ダッシュポット内面とダッシュラム外面との間隙を小さくすれば,圧縮されたダッシュポット内の流体が,ダッシュポット内面とダッシュラム外面との間隙から押し出される際の流動抵抗が大きくなる結果,ダッシュポットによる減速緩衝効果も大きくなるとともに,ダッシュポット内面とダッシュラム外面との間隙を小さくしすぎて,制御棒に対する減速緩衝効果が効きすぎ所定位置までの落下時間が長くなったり,停止時の衝撃が所定の値を超えたりしないようにその寸法を設定する必要があることは,本件出願当時周知であったと認められる。 2 そこで,補正発明が刊行物1記載の発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるか否かにつき,原告の主張に即して検討する。 (1) この点に関する原告の主張の要点は次のとおりである。 (ア)補正発明が対象としている加圧水型原子炉で決められているのは,制御棒がダッシュポットの入口まで落下するのにかかる時間であり,ダッシュポットの最下部に到達するまでの時間ではない。 原子炉の緊急停止は瞬時に行われる必要があるので,衝撃を緩和するためにゆっくり下降させる領域を含まない,ダッシュポットの入口に制御棒が到達するまでの時間が,原子炉停止のために重要である。 (イ)甲11〜13には,「ダッシュポット内面と被覆管外面との間隙」については記載されていない。 (2) まず,補正された請求項1には,単に「原子炉」と記載されているにすぎないから,補正発明を加圧水型原子炉を対象としたものに限定して解すべき理由はない。したがって,補正発明が加圧水型原子炉を対象としていることを前提とした原告の主張は,その前提において失当である。 仮に,原子炉一般において,ダッシュポットの入口に制御棒が到達するまでの時間が,原子炉停止のために重要であるとしても,そのことにより制御棒に対する減速緩衝効果が効きすぎて所定位置までの落下時間が長くならないようにする必要性が否定されるものではない。 確かに,甲11〜13には,「ダッシュポット内面と被覆管外面との間隙」については記載されていないが,そのことは,ダッシュポットの機能に関する上記理解の当否を左右するものではない。 (3) そして,制御棒の下降をダッシュポット内面とダッシュラム外面との間隙から流体が押し出される際の流動抵抗によって減速緩衝するというダッシュポットの上記周知の機構からすれば,当業者であれば,「緊急時には落下して制御棒案内管の下方のダッシュポットに下端側が挿入され・・・被覆管のほぼ全長にわたって耐摩耗表面処理層が形成されている原子炉用制御棒」である刊行物1記載の発明(この点は原告も争っていない。)においても,制御棒の下端側がダッシュポット内に侵入することにより圧縮されたダッシュポット内の流体が,ダッシュポット内面と制御棒の耐摩耗表面処理層が形成された下端側外面との間隙から押し出される際の流動抵抗によって制御棒の下降を減速緩衝すること,そして,ダッシュポット内面と制御棒の耐摩耗表面処理層が形成された下端側外面との間隙を大きくすれば,圧縮されたダッシュポット内の流体が,ダッシュポット内面と制御棒の耐摩耗表面処理層が形成された下端側外面との間隙から押し出される際の流動抵抗が小さくなる結果,ダッシュポットによる減速緩衝効果は小さくなることを理解するというべきである。 しかも,その減速緩衝効果は,制御棒に対する減速緩衝効果が効きすぎて所定位置までの落下時間が長くなったり,停止時の衝撃が所定の値を超えたりしないようにする必要があることは,前判示のとおりである。 他方,制御棒の燃料集合体への緊急挿入性(すなわち時間)は,制御棒の重量や原子炉内の環境条件に影響を受けることは,原告も自認するとおりであるから(審決取消事由4の項),刊行物1記載の発明に係る「原子炉用制御棒」において,制御棒の重量や原子炉内の環境条件によっては,制御棒の下降に対する減速緩衝効果を小さくする必要が生じることは明らかである。 してみると,その場合,当業者であれば,刊行物1記載の発明に係る「原子炉用制御棒」において制御棒の下降に対する減速緩衝効果を小さくするためには,ダッシュポット内面と制御棒の耐摩耗表面処理層が形成された下端側の被覆管外面との間隙を大きくして流動抵抗を小さくすればよいことを当然理解するものというべきである。 加えて,ダッシュポット内面と制御棒の耐摩耗表面処理層が形成された下端側の被覆管外面との間隙は,ダッシュポットの内径と制御棒の(耐摩耗表面処理層が形成されていない)下端側の被覆管外面の径との差から該被覆管外面に形成する耐摩耗表面処理層の厚さを差し引いたものであるから,ダッシュポットの内径や制御棒の(耐摩耗表面処理層が形成されていない)下端側の被覆管外径が必ずしも一定ではないとしても,制御棒の下端側の被覆管外面に形成する耐摩耗表面処理層の厚さを小さくすれば,少なくともその厚さを小さくしない場合より,ダッシュポット内面と制御棒の耐摩耗表面処理層が形成された下端側の被覆管外面との間隙を大きくできることも明らかである。 (4) このことは,下記@,Aのように,刊行物1や乙4に,逆に制御棒の被覆管に形成する耐摩耗表面処理層の厚さを大きくすると,制御棒を囲む部材(制御棒案内シンブル,案内チューブ)の内面と制御棒の耐摩耗表面処理層が形成された被覆管外面との間隙が小さくなることが示されていることからも,明らかである。 @ 刊行物1(甲2)の記載 制御棒を囲む部材(制御棒案内シンブル)の内面と制御棒の耐摩耗表面処理層(クロムメッキ層)が形成された被覆管外面との間隙と該被覆管に形成する耐摩耗表面処理層(クロムメッキ層)の厚さとについて, 「クロムメッキ層10の厚さは大きいほど,摩耗による寿命の低下を抑制できるが,メッキ厚の増加は被覆管外径の増加となるため,燃料集合体内の制御棒案内シンブルとの隙間が小さくなり,燃料集合体への挿入時,特に,緊急挿入時において挿入時間に影響を与えることから,メッキ層厚を前述の如く30μmに抑えている。」(4頁16行〜5頁2行)との記載。 A 実願昭63-120446号(実開平2-43699号)のマイクロフィルム(乙4)の記載 制御棒を囲む部材(案内チューブ)の内面と制御棒の耐摩耗表面処理層(被覆層)が形成された被覆管外面との間隙と該被覆管に形成する耐摩耗表面処理層(被覆層)の厚さについて, 「各制御棒は,その移動時,制御棒クラスタ案内管内にある対応のC字形案内チューブの中を通る。制御棒と案内チューブとの間の環状の隙間は,小さ過ぎても,スクラム時に原子炉停止に要する時間を長くする,等というように制御棒の移動に悪影響を与え,また,大き過ぎることは被覆管の厚さが薄いことを意味しており,耐摩耗性は低い。本考案に従って30±10μmに被覆層の厚さを設定することにより,他に悪影響を及ぼさずに耐摩耗性を上限まで向上させることが可能となる」(5頁3〜12行), 「被覆管2aをある限度以上に厚くすると,各制御棒と制御棒クラスタ案内管の案内チューブとの間の隙間が小さくなって,原子炉の緊急停止に要する時間すなわちスクラム時間が増加したり,被覆管がクリープ変形を起こした時の見掛けの外径が増加し,制御棒クラスタ案内管の細径部すなわち案内チューブと干渉する可能性が生じたり,制御棒の剛性が変形したりすることから,本考案者は,この知見に基づいて種々の実験を重ね,被覆層2aの最適厚さは30±10μmであることに到達した。」(6頁9〜18行)との記載。 (5) してみると,刊行物1記載の発明に係る「原子炉用制御棒」においてダッシュポット内面と制御棒の下端側の耐摩耗表面処理層が形成された被覆管外面との間隙を大きくするに当たり,該被覆管外面に形成する耐摩耗表面処理層の厚さを小さくすることは,当業者が必要に応じてなし得る設計事項であるというべきである。 そして,刊行物1記載の発明に係る「原子炉用制御棒」において,ダッシュポットに挿入される下端側の被覆管外面に形成する耐摩耗表面処理層の厚さを小さくすれば,下端側以外の上部の被覆管外面に形成する耐摩耗表面処理層の厚さは下端側の被耐摩耗表面処理層の厚さに比べて相対的に大きくなることになる。 そして,刊行物1記載の発明に係る「原子炉用制御棒」は,「被覆管のほぼ全長にわたって耐摩耗表面処理層が形成されている」,つまり,被覆管外面に耐摩耗表面処理層が連続して形成されているものであるとともに,上記のように,ダッシュポットに挿入される下端側の被覆管外面に形成する耐摩耗表面処理層の厚さを小さくする場合,耐摩耗表面処理層の厚さの異なる被覆管の下端側と上部との境界部分にだけ耐摩耗表面処理層を形成しない理由はないから,補正発明のように,「前記被覆管の上部の外面に相対的に厚さの大きい上部耐摩耗表面処理層を前記下部耐摩耗表面処理層と連続して形成」することになるのも当然のことというべきである。 例えば,刊行物1に,「この吸収体部被覆管5aのクロムメッキ層21aと,プレナム部被覆管5bのクロムメッキ層21bとの境界は,燃料集合体内の制御棒案内シンブル・・・への挿入性を考慮して,滑らかに仕上げてある。」(9頁6〜10行)と記載されているように,制御棒の挿入性を考慮し,耐摩耗表面処理層の厚さの異なる被覆管の下端側と上部との境界部分を連続的に形成することは,耐摩耗表面処理層の厚さを異なるものとした場合に,当業者であれば当然考慮する程度の技術的付随事項にすぎないものというべきである。 (6) 以上によれば,審決が,相違点1について,「刊行物1に記載の耐摩耗表面処理層が施された被覆管について,ダッシュポット部において所定の間隙を確保するために,ダッシュポット部に対応する被覆管の外径を小さくすることは,たとえ耐摩耗表面処理層が施された被覆管であっても当業者であれば,通常に採用し得る事項であり,その際,耐摩耗表面処理層(補正発明及び刊行物1に記載の発明とも,その実施例では,クロムメッキ層)の厚みが・・・適宜調節可能であることを考慮すれば,ダッシュポット部に対応する耐摩耗表面処理層の厚みを小さくすることは,当業者であれば容易に想到することができたものである。また,厚みの異なる上部及び下部の耐摩耗表面処理層を連続的に形成することは単なる設計事項にすぎない。」と認定判断した点に誤りはない。 3 補正発明の作用効果についてみても,補正発明の「被覆管の下端側の,落下時に落下衝撃緩和用ダッシュポット部に対応する前記被覆管の外面に,相対的に厚さの小さい下部耐摩耗表面処理層を形成し,前記被覆管の上部の外面に相対的に厚さの大きい上部耐摩耗表面処理層を前記下部耐摩耗表面処理層と連続して形成した」構成が,刊行物1記載の発明及び上記周知技術に基づき容易に想到し得るものであることは上述のとおりである以上,原告主張に係る補正発明の作用効果も,刊行物1記載の発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものであるといわざるを得ない。 4 原告は,審決が「ダッシュポット部との間隙を得るために,ダッシュポット部に挿入される部分の制御棒被覆管の外径を他の部分よりも小さくすることも,本件出願前周知の技術事項である(要すれば,特開平1-123195号公報(甲3),特開昭49-1995号公報(甲14)を参照のこと)。」とした認定は誤りであると主張するが,刊行物1記載の発明及び上記周知技術に基づけば,補正発明の相違点1に係る構成を容易に想到し得ることは,上述のとおりであるから,原告のこの主張は明らかに失当である。 なお,原告は,耐摩耗表面処理層の膜厚を10μmとしたことについての主張を加えるが,更なる補正案に関するものにすぎず,判断の限りではない。 5 以上によれば,補正発明は,刊行物1記載の発明及び前記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるというべきであるから,本件補正を却下すべきものとした審決の判断に誤りはなく,この判断を前提にして拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決の結論にも誤りはない。 |
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結論
以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。 |
裁判長裁判官 | 塚原朋一 |
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裁判官 | 塩月秀平 |
裁判官 | 野輝久 |