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関連審決 不服2003-962
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明特定事項 /  相違点の認定 /  周知技術 /  上位概念 /  下位概念 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  共有 /  登録実用新案 /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 430号 審決取消請求事件
原告 株式会社東京カンテイ
訴訟代理人弁理士 沼形義彰
同 住吉多喜男
同 沼形泰枝
同 中村修身
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 平井誠
同 小林信雄
同 小曳満昭
同 伊藤三男
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2005/02/15
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2003-962号事件について平成15年8月11日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成12年5月22日,発明の名称を「マンション売買支援システム及びオークションセンタ用機器とデータセンタ用機器並びに記録媒体」とする特許出願(特願2000-149909号,以下「本件出願」という。)をしたが,平成14年12月11日に拒絶の査定を受けたので,平成15年1月16日,これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は,同請求を不服2003-962号事件として審理した結果,同年8月11日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月26日,原告に送達された。
2 本件出願の願書に添付した明細書(平成13年8月20日及び平成14年1月18日付け手続補正書による補正に係るもの。以下,願書に添付した図面と併せて,「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の【請求項5】記載の発明(以下「本願発明」という。)の要旨 オークションセンタ用機器とでマンション売買支援システムを構成するデータセンタ用機器であって,各種物件の事例データを格納するデータベース部と,オークションセンタ用機器からの事例データ検索依頼を受ける検索依頼受付部と,検索依頼物件の事例データを検索する検索部と,検索結果の事例データを返送する検索結果返送部と,を備えることを特徴とするデータセンタ用機器。
3 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願発明は,登録実用新案公報第3061933号公報(平成11年9月28日発行,甲5,以下「引用例1」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
原告主張の審決取消事由
審決は,本願発明と引用発明との相違点4の認定判断を誤った(取消事由1)上,相違点2及び3に関する判断を誤り(取消事由2,3),さらに本願発明の顕著な作用効果を看過した(取消事由4)結果,本願発明は当業者が容易に発明をすることができたものであるとの誤った結論に至ったものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点4の認定判断の誤り) (1) 審決は,本願発明と引用発明との相違点4として,「本願発明のデータセンター用機器は,オークションセンタ用機器からの検索依頼を受ける検索依頼受付部と,検索依頼物件のデータを検索する検索部と,検索結果のデータを返送する検索結果返送部とを備えているのに対し,引用例1に記載された発明(注,引用発明)の不動産データべースは,伝送要求に応じて不動産情報を提供する手段を備えている点」(審決謄本4頁第4段落)を認定したが,正しくは,「本願発明のデータセンタ 用機器は,オークションセンタ用機器からの事例 データ 検索依頼を受ける検索依頼受付部と,検索依頼物件の事例データを検索する検索部と,検索結果の事例 データを返送する検索結果返送部とを備えているのに対し,引用例1に記載された発明の不動産データべースは,伝送要求に応じて不動産情報を提供する手段を備えている点」(下線付加)と認定すべきであり,審決の上記認定は誤りである。
(2) 被告は,審決が,本願発明のデータセンタ用機器のデータベース部が「事例データ」を格納している点を,相違点3として認定していることを理由に,上記相違点4の認定に誤りはない旨主張する。しかしながら,本願発明は,検索依頼受付部,検索部及び検索結果返送部が,「事例データ」検索依頼を受け,検索依頼物件の「事例データ」を検索し,検索結果の「事例データ」を返送するものである点においても,引用発明とは質的に相違する。にもかかわらず,審決は,その点を相違点として認定せず,その結果,看過された相違部分に関する進歩性の有無を判断していないから,この誤りは審決の結論に影響を及ぼすものというべきである。
2 取消事由2(相違点2の判断の誤り) (1) 審決は,本願発明と引用発明との相違点2として認定した,「本願発明はマンション売買を対象とするのに対して,引用例1に記載された発明(注,引用発明)は不動産売買を対象としている点」(審決謄本4頁第2段落)について,「マンションは土地,一戸建てと並び代表的な不動産売買の対象商品であるから,引用例1に記載された発明の不動産として,マンションを対象とすることは当業者が容易になし得たことである。よって相違点2は格別のものではない」(同頁下から第2段落)と判断した。
(2) しかしながら,土地又は土地付き建物とマンションとを比較すると,@土地は分筆等により変更になることが多いため,データベース化しても検索が難しくなる(そのため,坪単位等に換算された相場がデータベース化される。)が,マンションは分割されることがないため,データベース化すれば,個別の物件自体(例えば,AマンションB棟C階D号室)のデータを検索することが容易となる,A土地付き建物は,通常,単独所有又は親族による少数の共有であり,取壊しや新築,増改築等が比較的自由にできることから,物件自体の状態に変化が起きやすいため,データベース化しても,過去の事例は,現状と同じ状態ではないことが多く,参考になり難いのに対し,マンションは,通常,堅固な躯体で区分され,権利関係も多数の者の共有であるため,取壊しや新築,増改築等を自由にすることができず,当該物件に状況変化が起こらないことがほとんどであるため,データベース化した場合,過去の事例は,現状と同じ状態であると推定できる,という違いが存在する。
このように,本願発明におけるマンション売買と,引用発明における不動産売買とは明確に相違しており,審決の上記判断は失当である。
(3) 引用発明に係る技術をマンション売買に適用してデータベース化する際,データベースとしては,本願発明のように,個別の物件(例えば,AマンションB棟C階D号室)ごとに○○万円というデータを格納する個別方式のほかに,対象となるマンションの所在地近傍の他の物件のデータと合わせ,マンション所在地付近では平米当たり△△万円(相場)というデータを格納する集約方式があり,従来,不動産業界では後者の集約方式が通常であって,本願発明のような個別方式の採用は非常に少なく,物件の資料データ,例えば,位置図,パース,建築概要図,平面図(本件明細書〔甲2〕段落【0015】参照)に適用される程度である。
また,上記従来方式において,物件の資料データに個別方式が適用された場合でも,データベースにデータを格納する回数は通常1回(格納されたデータを修正することはあっても,同じ種類のデータが複数個になることはない。)であり,個別(単一)方式と呼ぶことができる。これに対し,本願発明の個別方式においては,事例データの発生回数に応じて,事例データが複数個になる場合があるから,個別(加算)方式というべきものであって,上記従来における個別(単一)方式とは相違する。
以上のとおり,引用発明に係る技術をマンション売買に適用してデータベース化する際,データベースを,本願発明のように個別(加算)方式とすることは,当業者が容易に行い得たものということはできないから,審決の上記判断は失当である。
3 取消事由3(相違点3の判断の誤り) (1) 審決は,本願発明と引用発明との相違点3として認定した,「データベース部が,本願発明では各種物件の事例データを格納しているのに対して,引用例1に記載された発明(注,引用発明)では不動産物件の売買価格を評価するのに必要な不動産情報を蓄積している点」(審決謄本4頁第3段落)について,「過去の売買価格を参考に価格を決定することは,例えば,A,モバイル・オークションの実現を目指す大阪南港中古自動車協同組合(注,「中古車共同組合」とあるのは誤記と認める。),SunWorld(注,「Wold」とあるのは誤記と認める。),株式会社IDGジャパン,1999年12月1日,第9巻第12号,p.34〜38(注,甲6,以下「甲6文献」という。),特に『過去の落札データを蓄積しONAAの会員に提供』の項,特開平11-194707号公報(注,甲7,以下「甲7公報」という。)第15段落,特開平11-195069号公報(注,甲8,以下「甲8公報」という。)第34段落および39段落,特開2000-137736号公報(注,甲9,以下「甲9公報」という。)第24段落および第29段落に記載されるように周知事項であり,また,過去の売買は一種の売買事例であるから,引用例1に記載された発明の売買価格を評価するのに必要な情報として該周知事項を採用して事例データを格納するように構成することは当業者が容易になし得たことである」(同頁最終段落〜同5頁第1段落)と判断した。
(2) しかしながら,甲6文献に記載された技術が扱う情報は,中古車の車種や年代ごとのデータであって,「類似する取引の情報」にすぎず,本願発明における物件自体の事例データ(同一物件の取引の情報)とは質的に相違する。したがって,甲6文献等から周知事項ということができるのは,「過去の類似する物件の売買価格を参考にすること」にすぎないから,当該周知事項を採用しても,データベースにつき,事例データ(同一物件の取引の情報)を格納するように構成することはできないというべきであって,審決の上記判断は誤りである。
(3) これに対し,被告は,本件明細書(甲2)の特許請求の範囲の【請求項5】には,「物件の事例データ」が,物件自体の事例データ,すなわち,同一物件の取引の情報であるとは記載されていない旨主張する。しかしながら,本願発明における「物件の事例データ」が,「物件自体の事例データ」であることは,原告が,拒絶査定不服審判請求後の平成15年2月14日付け手続補正書(甲4)において説明している(4頁最終段落〜5頁第1段落)とおりである。
(4) また,被告は,引用発明における不動産物件の売買価格を評価するのに必要な不動産情報を,物件自体の事例データとすることは格別のものではないとも主張する。しかしながら,上記(2)のとおり,周知事項ということができるのは,「過去の類似する物件の売買価格を参考にすること」にすぎないし,また,少なくとも,個別(加算)方式のデータベースを構築し,検索依頼を受け,検索し,検索結果を返送することにより,オークション対象物件であるマンションの事例データを提供する本願発明について,その進歩性を否定する理由はないから,被告の上記主張は失当である。
4 取消事由4(顕著な作用効果の看過) 審決は,本願発明の効果について,「これら相違点に基づく効果も格別のものではない」(審決謄本5頁第3段落)と判断した。 しかしながら,本願発明は,マンション売買を対象とし,そして,データセンタ用機器は,各種物件の事例データを格納するデータべース部と,オークションセンタ用機器からの事例データ検索依頼を受ける検索依頼受付部と,検索依頼物件の事例データを検索する検索部と,検索結果の事例データを返送する検索結果返送部とを備えているため,多数の要因が価格決定に影響するマンションについて,その価格を決める際の参考となるデータとして,そのマンション自体の事例データをオークションに参加する者に提供することができる,という顕著な作用効果を奏するものである。したがって,審決の上記判断は誤りである。
被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告の取消事由の主張はいずれも理由がない。
1 取消事由1(相違点4の認定判断の誤り)について 審決は,本願発明のデータセンタ用機器のデータベース部が「事例データ」を格納している点を相違点3として認定しているところ,当該データベース部が「事例データ」を格納しているということは,すなわち,当該データセンタ用機器が「事例データ」を検索の対象としていることを意味するから,原告主張に係る相違点の看過はない。相違点4は,相違点3においてデータ内容の相違の点を抽出していることを前提に,データ内容以外の構成上の相違を抽出したものであって,その認定に何ら誤りはない。
2 取消事由2(相違点2の判断の誤り)について マンションは,土地,一戸建てと並ぶ代表的な不動産売買の対象商品である(甲9公報の段落【0043】参照)から,引用発明に係る不動産として,マンションを対象とすることは,当業者が容易に行い得たことであるとした審決の判断に誤りはない。
原告は,マンションと土地又は土地付き建物とを比較して,その相違をるる主張しているが,原告の主張に従うと,マンションの方がデータを提供しやすいことになるから,引用例1に接した当業者は,マンションの方が引用発明に係るデータセンタ用機器に好適であると認識することは明らかである。そうすると,原告の主張に従ったとしても,引用発明に係る不動産として,マンションを対象とすることは,当業者が容易に行い得たことであるということになる。そして,引用発明に係る不動産としてマンションを対象とすることに,何ら阻害要因がないことも明らかであるから,原告の主張は失当である。
3 取消事由3(相違点3の判断の誤り)について (1) 原告は,本願発明の「物件の事例データ」が,物件自体の事例データ,すなわち,同一物件の取引の情報であることを前提に,審決の判断は誤りである旨主張する。しかしながら,本件明細書(甲2)の特許請求の範囲の【請求項5】には,「物件の事例データ」が,物件自体の事例データであることは何ら記載されていないから,原告の主張は,特許請求の範囲に基づかないものである。
(2) なお,本願発明の「物件の事例データ」を,原告主張のとおり,物件自体の事例データの意味に解したとしても,引用発明における不動産物件の売買価格を評価するのに必要な不動産情報を,物件自体の事例データとすることは格別のものではないというべきである。すなわち,引用発明において売買対象をマンションとした場合に,その情報の具体的内容をマンション売買に適合したものとすることは当然であり,かつ,マンション自体の事例データが価格決定の際に大いに参考になることは,本件出願による開示を待つまでもなく,通常のマンション売買の経験上明らかであるから,マンション自体の事例データを提供することは格別のものではないということができる。したがって,いずれにしても,審決の結論に誤りはない。
4 取消事由4(顕著な作用効果の看過)について 原告が主張する効果は,本願発明の発明特定事項のみからは得られない効果であり,また,引用発明と周知技術から容易に構成できたものが当然に有する効果でもあるから,本願発明の進歩性を肯定する根拠にはなり得ない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点4の認定判断の誤り)について (1) 審決は,本願発明と引用発明との相違点4として,「本願発明のデータセンター用機器は,オークションセンタ用機器からの検索依頼を受ける検索依頼受付部と,検索依頼物件のデータを検索する検索部と,検索結果のデータを返送する検索結果返送部とを備えているのに対し,引用例1に記載された発明(注,引用発明)の不動産データべースは,伝送要求に応じて不動産情報を提供する手段を備えている点」(審決謄本4頁第4段落,以下「審決認定に係る相違点4」という。)を認定した。
これに対し,原告は,相違点4は,正しくは,「本願発明のデータセンタ用機器は,オークションセンタ用機器からの事例 データ 検索依頼を受ける検索依頼受付部と,検索依頼物件の事例データを検索する検索部と,検索結果の事例 データを返送する検索結果返送部とを備えているのに対し,引用例1に記載された発明の不動産データべースは,伝送要求に応じて不動産情報を提供する手段を備えている点」(下線付加)と認定すべきであるから,審決の認定は誤りであり,また,その結果,審決は,看過された相違部分に関する進歩性の有無を判断していないから,当該認定の誤りは審決の結論に影響を及ぼす旨主張する。
(2) そこで検討すると,本願発明の要旨は,上記第2の2のとおり,「オークションセンタ用機器とでマンション売買支援システムを構成するデータセンタ用機器であって,各種物件の事例データを格納するデータベース部と,オークションセンタ用機器からの事例データ検索依頼を受ける検索依頼受付部と,検索依頼物件の事例データを検索する検索部と,検索結果の事例データを返送する検索結果返送部と,を備えることを特徴とするデータセンタ用機器」であり,引用発明は,「オークション制御手段とで不動産オークションシステムを構成する不動産データベースであって,前記不動産データベースは不動産物件の売買価格を評価するのに必要な不動産情報を蓄積する手段と,オークション制御手段の伝送要求に応じて不動産情報を提供する手段とを備えることを特徴とする不動産データベース」(審決謄本3頁第2段落)であって,いずれも当事者間に争いがない。
そして,審決は,本願発明と引用発明とを対比して,両者の一致点として,「『オークション用の手段とで不動産売買支援システムを構成するデータ蓄積・提供手段であって,各種物件の売買価格を評価するためのデータを格納するデータベース部を備えることを特徴とするデータ蓄積・提供手段。』である点」(審決謄本3頁下から第2段落,以下「一致点」という。)を,両者の相違点として,@「オークション用の手段が,本願発明ではオークションセンタ用機器であるのに対して,引用例1に記載された発明(注,引用発明)ではオークション制御手段であり,データ蓄積・提供手段が本願発明ではデータセンタ用機器であるのに対して,引用例1に記載された発明では不動産データベースである点」(同頁最終段落〜同4頁第1段落,以下「相違点1」という。),A「本願発明はマンション売買を対象とするのに対して,引用例1に記載された発明は不動産売買を対象としている点」(同頁第2段落,以下「相違点2」という。),B「データベース部が,本願発明では各種物件の事例データを格納しているのに対して,引用例1に記載された発明では不動産物件の売買価格を評価するのに必要な不動産情報を蓄積している点」(同頁第3段落,以下「相違点3」という。)及び審決認定に係る相違点4を認定したものであり,一致点及び相違点1〜3の認定については,当事者間に争いがない。
このような審決における一致点及び相違点の認定は,引用発明の「不動産物件の売買価格を評価するのに必要な不動産情報」と本願発明の「各種物件の事例データ」とは,いずれも,上位概念である「物件の売買価格を評価するためのデータ」に該当する点で一致するとした上で,相違点3として,下位概念であるデータの内容についての相違点として,「データベース部が,本願発明では各種物件の事例データを格納しているのに対して,引用例1に記載された発明(注,引用発明)では不動産物件の売買価格を評価するのに必要な不動産情報を蓄積している点」を認定し,さらに,相違点3におけるデータ内容についての上記相違を前提として,審決認定に係る相違点4,すなわち,「本願発明のデータセンター用機器は,オークションセンタ用機器からの検索依頼を受ける検索依頼受付部と,検索依頼物件のデータを検索する検索部と,検索結果のデータを返送する検索結果返送部とを備えているのに対し,引用例1に記載された発明の不動産データベースは,伝送要求に応じて不動産情報を提供する手段を備えている点」を認定したものであるとみることができる。
そして,上記のような審決の認定手法は,本件明細書(甲2)における「データセンタ用機器2は,データセンタ用2に設置され,図3に示すように,データベース部21,検索依頼受付部22,検索部23,検索結果返送部24を備えている。データベース21は,各種物件の『事例データ』及び資料データを格納する。検索依頼受付部22は,オークションセンタ用機器1からの『事例データ』及び資料データ検索依頼を受ける。検索部23は,検索依頼物件の『事例データ』及び資料データについてデータベース部21を利用して検索する。検索結果返送部24は,検索結果の『事例データ』及び資料データを返送する。資料データとしては,物件の位置図,パース,建築概要図,平面図等である。検索依頼物件についての『事例データ』及び資料データが存在しないとき,類似の物件に関するデータを利用することは可能である」(段落【0015】)との記載及び「また,売り手は,依頼する予定の物件に類似する『事例データ』等を閲覧することができるため,物件登録依頼する前等に参考資料を得ることができる。また,買い手は,購入希望の物件に類似する『事例データ』等を閲覧することができる」(段落【0018】)との記載とも符合し,さらには,データベースの技術分野においては,検索の対象として,そのデータベースに格納されたデータが利用されることが技術常識であると認められることからも支持し得るものであって,特段,誤りとすべき点は認められない。
(3) 以上によれば,審決認定に係る相違点4は,原告の主張する「物件の事例データ」に係る相違を前提としたものであると解されるから,その認定に誤りはないというべきであり,また,原告の主張する上記相違は,審決において,相違点4ではなく,相違点3として認定された上,その点に関する進歩性の有無の検討が加えられていることも明らかであるから,原告の取消事由1の主張は理由がない。
2 取消事由2(相違点2の判断の誤り)について (1) 審決は,本願発明と引用発明との相違点2として認定した,「本願発明はマンション売買を対象とするのに対して,引用例1に記載された発明(注,引用発明)は不動産売買を対象としている点」(審決謄本4頁第2段落)について,「マンションは土地,一戸建てと並び代表的な不動産売買の対象商品であるから,引用例1に記載された発明の不動産として,マンションを対象とすることは当業者が容易になし得たことである。よって相違点2は格別のものではない」(同頁下から第2段落)と判断した。
(2) これに対し,原告は,土地又は土地付き建物とマンションとを比較すると,様々な違いが存する旨主張して,これを理由に,審決の上記判断は誤りであると主張する。
しかしながら,引用発明が対象とするのは「不動産売買」であって,土地又は土地付き建物の売買に限定されるものではなく,マンション売買も当然にその対象に含まれるものである。そして,マンションが,土地や土地付き建物と並ぶ代表的な不動産売買の対象商品であることは一般常識に属することであるから,引用例1に接した当業者が,引用発明に係る技術をマンション売買に適用することは,正に容易に想到し得ることであるというほかはなく,原告の上記主張を採用する余地はない。
(3) また,原告は,本願発明のデータベースは,個別の物件ごとにデータを格納し,さらに,事例データの発生回数に応じて事例データが複数個になる場合がある方式,すなわち,個別(加算)方式によるものであるとして,本願発明は当業者が容易に行い得たものではない旨主張する。
しかしながら,本件明細書(甲2,3)の特許請求の範囲の【請求項5】の記載は,上記第2の2のとおりであって,そこでは,データの格納が個別の物件ごとに行われるか否か,あるいは,事例データが複数個になる場合があるかといった事項は,何ら規定されていないから,原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張といわざるを得ず,採用の限りではない。
(4) 以上によれば,審決の上記判断に誤りはないというべきであるから,原告の取消事由2の主張は理由がない。
3 取消事由3(相違点3の判断の誤り)について (1) 審決は,本願発明と引用発明との相違点3として認定した,「データベース部が,本願発明では各種物件の事例データを格納しているのに対して,引用例1に記載された発明(注,引用発明)では不動産物件の売買価格を評価するのに必要な不動産情報を蓄積している点」(審決謄本4頁第3段落)について,「過去の売買価格を参考に価格を決定することは,例えば,A,モバイル・オークションの実現を目指す大阪南港中古自動車協同組合,SunWorld,株式会社IDGジャパン,1999年12月1日,第9巻第12号,p.34〜38(注,甲6文献),特に『過去の落札データを蓄積しONAAの会員に提供』の項,特開平11-194707号公報(注,甲7公報)第15段落,特開平11-195069号公報(注,甲8公報)第34段落および39段落,特開2000-137736号公報(注,甲9公報)第24段落および第29段落に記載されるように周知事項であり,また,過去の売買は一種の売買事例であるから,引用例1に記載された発明の売買価格を評価するのに必要な情報として該周知事項を採用して事例データを格納するように構成することは当業者が容易になし得たことである」(同頁最終段落〜同5頁第1段落)と判断した。
(2) これに対し,原告は,本願発明における「物件の事例データ」とは,「物件自体の事例データ」,すなわち「同一物件の取引の情報」であることを前提に,審決の引用する甲6文献,甲7公報〜甲9公報からは,事例データ(同一物件の取引の情報)をデータベース部に格納するように構成することはできない旨主張する。
しかしながら,本件明細書(甲2)の特許請求の範囲の【請求項5】には,単に,物件の「事例データ」と記載されているだけであり,「物件自体の事例データ」ないし「同一物件の取引の情報」と記載されているわけではないし,また,発明の詳細な説明を見ても,「事例データ」について,「物件自体の事例データ」ないし「同一物件の取引の情報」の意味であると定義する記載は見当たらない。
そして,「事例データ」という語は,学術用語(特許法施行規則様式第29,備考7)ではなく,その有する通常の意味(同,備考8)において理解すべきであるところ,広辞苑第五版によれば,「事例」とは,「事件の前例。前例となる事実」であるとされるから,「事例データ」とは,「前例となるデータ」の意味であると解することができ,また,そのように解して,何ら矛盾なく,上記【請求項5】の記載を理解することができる。さらに,発明の詳細な説明の記載を参酌しても,原告主張のように,「事例データ」を,「物件自体の事例データ」ないし「同一物件の取引の情報」の意味に限定して理解すべき理由は格別見当たらないというほかはないから,原告の上記主張は,その前提において失当というべきである。
なお,原告は,審判段階において,「物件の事例データ」が「物件自体の事例データ」であることの説明(甲4)をした旨主張するが,もとより,審判段階における説明の内容によって,特許請求の範囲の記載の意味内容が変わるものではないから,この点に関する原告の主張は,上記の判断を左右するものではない。
(3) 以上によれば,審決の上記判断に誤りはないというべきであるから,その余の点につき検討するまでもなく,原告の取消事由3の主張は理由がない。
4 取消事由4(顕著な作用効果の看過)について (1) 原告は,本願発明は,多数の要因が価格決定に影響するマンションについて,その価格を決める際の参考となるデータとして,そのマンション自体の事例データをオークションに参加する者に提供することができる,との顕著な作用効果を奏するものである旨主張する。
(2) しかしながら,上記3のとおり,本件明細書(甲2)の特許請求の範囲の【請求項5】には,「事例データ」が,「そのマンション自体の事例データ」に限定されるとの記載はなく,原告主張に係る効果は,本願発明の構成のみから導かれる効果であるとは認められないから,原告の上記主張は採用の限りではない。
(3) そうすると,本願発明の効果について,「これら相違点に基づく効果も格別のものではない」(審決謄本5頁第3段落)とした審決の判断に誤りはないというべきであり,原告の取消事由4の主張は理由がない。
5 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 古城春実
裁判官 早田尚貴