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関連審決 無効2005-80232 訂正2004-392
関連ワード 29条の2(拡大された先願の地位) /  出願公開 /  発明の詳細な説明 /  加工 /  同意 /  設定登録 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10241号 審決取消請求事件
原告北 海道ニチモウ株式会社
訴訟代理人弁理 士中尾俊輔
同 伊藤高英
同 畑中芳実
同 大倉奈緒子
同 玉利房枝
同 鈴木健之
同 磯田志郎
被告森下株式会社
被告Y
被告ら訴訟代理人弁理士染谷伸一
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/05/16
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が無効2005-80232号事件について平成18年4月11日にした審決中,特許第3222107号の請求項1に係る発明についての特許につき 「本件審判の請求は,成り立たない 」とした部分を取り消す。 , 。
第2争いのない事実1特許庁における手続の経緯被告らは,発明の名称を「貝類中間育成篭」とする特許第3222107号の特許(平成10年7月16日出願,平成13年8月17日設定登録。請求項の数は3である )の特許権者である。 。
被告らは,平成16年12月17日,上記特許に係る明細書(特許請求の範囲を含むの記載を訂正 以下 この訂正を 本件訂正 と 本件訂正後の特 。)(,「」 ,許を「本件特許」と,本件特許に係る明細書及び図面を「本件明細書」と,それぞれいうする審判を請求し 特許庁は この請求を訂正2004-392 。),,88号事件として審理した上,平成17年2月24日,本件訂正を認める旨の審決をし,平成17年3月8日,上記審決は確定した。
原告は,平成17年7月27日,本件特許の請求項1及び3に係る発明についての特許を無効とすることについて審判を請求し,特許庁は,この請求を無効2005-80232号事件として審理した上 平成18年4月11日本 ,,「件審判の請求は,成り立たない 」との審決(以下,単に「審決」という )を 。 。
し,同年4月21日,その謄本を原告に送達した。
なお,原告は,本訴の第2回弁論準備手続期日(平成18年10月17日)において,審決中,特許第3222107号の請求項3に係る発明についての特許につき 「本件審判の請求は,成り立たない 」とした部分の取消を求めた , 。
部分について,訴えを取り下げ,被告らはこれに同意した。
2特許請求の範囲,(, 本件明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は 次のとおりである 以下この発明を「本件発明1」という。。)請求項1略正方形状の網地を一側縁部に蓋片が突出するように折り曲 「【】げられており,この折り曲げ部に対して直角方向の両側短辺部が重ね合わせた状態で連結されており,上記折り曲げ部が正方形状の底部の一方の対角線となるように拡げられて上記両連結部が上記対角線上に沿うと共に二つ折りした蓋片が閉じた状態となるように折り畳まれている網袋であって,底面部の外縁部より上方に至るに従い,次第に外方に傾斜するように起こされて皿状に形成された底部,この底部の上方に続く四角錐状部,この四角錐状部の稜部において口部を開放可能に閉塞し得る蓋片を有する網袋と,前記網袋の折り畳み状態の底部の外形より小さい正方形状の外枠を有し,上記網袋の皿状の底部内側における底面部上に設けられて上記網袋の底面部と連結される枠体と,上記網袋の底面部中央部と四角錐状部の頂部に挿通され,上記網袋を吊下げることができる吊綱とを備え,上記蓋片が一方を他方の内方に潜らせるように構成された貝類中間育成篭 」。
3審決の理由別紙審決書写しのとおりである。要するに,本件発明1は,本件特許の出願日前の他の特許出願であって,その出願後に出願公開された特願平10-63836号の願書に最初に添付された明細書及び図面(以下「先願明細書」という 甲3の2 に記載された発明 以下 先願発明 というと同一というこ 。)(「」。)とはできないから,特許法29条の2の規定に違反してされたものではなく,本件発明1に係る特許を無効とすることはできない,というものである。
審決が上記結論を導くに当たり認定した先願発明の内容,本件発明1と先願発明との一致点・相違点は,次のとおりである。
(先願発明の内容)「編地3を一側縁部に片開き網袋30の開口縁32,32が位置するように折り曲げられており,この折り曲げ部に対して直角方向の片口開き網袋30の両端縁31,31が重ね合わせた状態で連結されており,上記折り曲げ部が正方形状の底部の一方の対角線となるように拡げられて上記両連結部が上記対角線上に沿うと共に二つ折りした片開き網袋30の開口縁32,32が閉じた状態となるように折り畳まれている網袋であって,底部,この底部の上方に続く四角錐状部,この四角錐状部の稜部において口部を開放可能に閉塞し得る片開き網袋開口縁32,32を有する網袋と,前記網袋の折り畳み状態の底部の外形より小さい正方形で,上記網袋の底部に設けられて上記網袋の底部上に設けられる正方形枠体1と,上記網袋の底部中央部と四角錐状部の頂部に挿通され,上記網袋を吊下げることができる垂下綱2とを備え,上記片開き網袋開口縁32,32が一方を他方の内方に潜らせるように構成された帆立貝の中間育成篭 」。
(一致点)「網地を一側縁部に蓋片が位置するように折り曲げられており,この折り曲げ部に対して直角方向の両側短辺部が重ね合わせた状態で連結されており,上記折り曲げ部が正方形状の底部の一方の対角線となるように拡げられて上記両連結部が上記対角線上に沿うと共に二つ折りした蓋片が閉じた状態となるように折り畳まれている網袋であって,底部,この底部の上方に続く四角錐状部,この四角錐状部の稜部において口部を開放可能に閉塞し得る蓋片を有する網袋と,前記網袋の折り畳み状態の底部の外形より小さい正方形状の外枠を有し,上記網袋の底部に設けられて上記網袋の底部上に設けられる枠体と,上記網袋の底部中央部と四角錐状部の頂部に挿通され,上記網袋を吊下げることができる吊綱とを備え,上記蓋片が一方を他方の内方に潜らせるように構成された貝類中間育成篭 」である点。。
(相違点1)本件発明1の網地が「ほぼ正方形状」であるのに対し,先願発明は明確でない点 審決書8頁24行に 網地が ほぼ正方形状 ある とあるのは網 (「『』」,「地が『ほぼ正方形状』である」の誤記と認める。。)(相違点2)網地を一側縁部に蓋片が位置するように折り曲げられており,この折り曲げ部に対して直角方向の両側短辺部が重ね合わせた状態で連結されており,上記折り曲げ部が正方形状の底部の一方の対角線となるように拡げられて上記両連結部が上記対角線上に沿うと共に二つ折りした蓋片が閉じた状態となるように折り畳まれ,上記蓋片が一方を他方の内方に潜らせるように構成する際に,本件発明1が「略正方形状の網地を一側縁部に蓋片が突出するように折り曲げられており,上記蓋片が一方を他方の内方に潜らせるように構成された」ものであるのに対し,先願発明は,蓋片が一方を他方の内方に潜らせるように構成されたものではあるが,網地を一側縁部に蓋片が突出するように折り曲げられる旨の限定はない点。
(相違点3)底部は,本件発明1が,底面部の外縁部より上方に至るに従い次第に外方に傾斜するように起こされて皿状に形成されたものであるのに対し,先願発明は,明確でない点。
(相違点4)本件発明1が「上記網袋の皿状の底部内側における底面部上に設けられて上記網袋の底面部と連結される枠体」であるのに対し,先願発明は,明確でない点。
第3取消事由に係る原告の主張審決は,本件発明1が先願発明と同一ということはできないと誤って認定判断したものであるから 審決中 本件発明1についての特許につき本件審判 ,, ,「,。」, 。 の請求は 成り立たないとした部分は 違法として取り消されるべきである1相違点2の認定判断の誤り審決は 以下のとおり 先願発明の認定を誤ったことにより本件発明1と ,, ,「先願発明とは少なくとも相違点2を有し,その点が先願明細書に記載されているに等しいともいうことができない」と誤って認定判断したものであり,この誤りが 審決中 本件発明1についての特許につき本件審判の請求は 成り ,, ,「,立たない 」とした部分の結論に影響することは明らかである。 。
(1)審決は,先願明細書には 「網地を折り曲げる段階で,網地を一側縁部に ,蓋片が突出するように折り曲げることまでは記載されていない」と認定したが,以下のとおり,誤りである。
ア先願明細書の図2には,後面側の編地が前面側より突出することが図示されている。すなわち,編地の加工前の説明図である同図においては,二つ折りされた編地3は,後面側の半部の編地が,前面側の半部の編地の下端部から,一旦下方に湾曲し,その後上方に延びるように図示され,その上端の開口縁32は前面側の半部の編地の上端の開口縁32より上側に若干突出している。
イ先願明細書の図1も,上記アの突出を前提としている。すなわち,組立状態にある篭体の説明図である同図においては,四角錐状の篭体4の4つの稜線部分のうち,篭体4の最前側の1つの隅1Cと頂部の結節部2Aとの間の収納口5部分の稜線部分についてのみ,一方の開口縁と他方側の開口縁が所定幅をもって重なっていることが図示され,その余の稜線部分には,開口縁が所定幅をもって重なっていることは図示されていない。このように篭体4の最前側の1つの隅1Cと頂部の結節部2Aとの間の収納口, , 5部分の稜線部分についてのみ 開口縁が所定幅をもって重なるためには当該重なり部分に相当する一方の開口縁32が他方の開口縁32よりも二つ折りした場合に突出していなければならない。
ウ先願明細書の段落 00140015 にはその一方の正方形枠 【】,【】,「体1の隅1Cから結節部2Aに亘る開口縁32相互が適宜の幅で接合され縫合されている反面その他方の正方形枠体1の隅1Cから結節部2A 。」,「に亘る開口縁32については図4に示す如く一方側開口縁32Aを下面とし且他方側の開口縁32Bを上面としてその接合する幅が1乃至5cmの(。)」, , 範囲で接合させ るとの記載があるが 上記のとおりとなるためには図2において,当該重なり部分に相当する編地3の一方の開口縁32が他方の開口縁32よりも二つ折りした場合に突出している必要がある。
また 先願明細書の段落 0015 には上面の開口縁32Bを形成 ,【】,「する編地長が下面の開口縁32Aを形成する編地長に比べて3乃至10%の範囲で短かく形成されるよう接合両端33が縫合されて収納口5が形成されているとの記載があり 上記のとおりとなるためには 篭体4の最 。」, ,前側の1つの隅1Cと頂部の結節部2Aとの間の全長に亘って上下の開口縁32A,32Bが図4に示されるように重なっていないと,接合両端33を縫合することは不可能であるから,編地3を二つ折りする際,編地3の一方の開口縁32が他方の開口縁32よりも突出するように折り曲げられる必要がある。
(2)審決は 「先願明細書の【図2】の網地を折り曲げる段階で網地を一側縁 ,部に蓋片が突出するようにせずとも,先願明細書の【図3】の段階でも,開口縁32A及び32Bを互いに重ね合わせて接合両端33で縫合することも可能である」とするが,以下のとおり,誤りである。
ア先願明細書の図3の状態から2つの開口縁32同士を一方の開口縁32Aと他方側の開口縁32Bとが所定幅をもって重なるようにすると,篭体4の最前側の1つの隅1Cと頂部の結節部2Aとの間の収納口5部分の稜線部分のみではなく,当該最前側の1つの隅1Cと対角位置にある他の隅1Cと頂部の結節部2Aとの間の稜線部分においても同様に一方の開口縁32Aと他方側の開口縁32Bとが所定幅をもって重なることとなり,篭体4の最前側の1つの隅1Cと頂部の結節部2Aとの間の収納口5部分の稜線部分のみが重なることを示している図1に示す篭体4とは,異なる構成となる。
イまた,編地の開口縁を無理矢理引き寄せて重ね合わせると,網目を不自然に引っ張り合って網目が斜めに交錯した状態にして重ねることとなり,先願明細書の図4に示されるように網目の正方形を保持した状態で重ねることは不可能であるし まして接合する幅が1乃至5cmの範囲で 網 ,,「 」目の正方形を保持した状態で重ねることは不可能である。
ウ被告は,先願明細書の図2に図示されている後面側の半部の編地の上端の開口縁32が前面側の半部の編地の上端の開口縁32より上部へ突出している突出量が,図1及び図4に図示されている重複部分の重なり合いの量と相違する旨主張する。しかし,図1及び図4は,いずれも図2より拡大されており,しかも,重複部分について多少誇張して図示しているものであり,何ら矛盾するものではない。
2相違点1,3,4の認定の誤り仮に上記1の誤りが直ちに審決中上記部分の結論に影響するものでないとしても,審決には,上記相違点2の認定判断の誤りに加え,本件発明1と先願発明の対比において,相違点1,3,4を認定したという誤りがあるから,審決中上記部分は取り消しを免れないというべきである。
第4取消事由に係る被告らの反論審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。
1相違点2の認定判断の誤りについて(1)ア先願明細書の図2には 二つ折りされた編地3は 後面側の半部の編地 ,,の上端部だけでなく左端縁部も,前面側の半部の編地より若干突出しているように表現されているが,このように編地3を二つ折りする際に後面側と前面側をずらして重ね合わせて両端緑部を縫製することは,後面側と前面側にずれが生じるので当業者にとってはあり得ないことである。二つ折りされている編地を示す場合に,前面側の半部を後面側の半部よりも若干ずらして図面に表現することは通常行われていることであり,図面上後面側の半部が若干突出するように見えても,実際に突出することを意味するものではない。
イ先願明細書の図2において,二つ折りされた編地3が,後面側の半部の編地の上端の開口縁32の方が,前面側の半部の編地の上端の開口縁32より若干突出するように折り曲げられていると解すると,先願明細書の段落【0014【0015】及び図1,図3,図4の各記載と矛盾する。 】,また,図2に図示されている後面側の半部の編地の上端の開口縁32が前面側の半部の編地の上端の開口縁32より上部へ突出している突出量が,図1及び図4に図示されている重複部分の重なり合いの量と相違する点で矛盾がある。
(2)先願明細書の図3において 対角線位置の半分に 前面側の編地の上端の ,,開口縁32が重なり合わず,単に向き合った状態で位置している部分の編地が引き寄せられて重なり合わされ,適宜の幅で接合され縫合されていることは,明らかである。編地の引き寄せにより1ないし5cmの接合幅で開口縁を重ねることは不可能であるとの原告の主張は,編地のずれや伸張を考慮すれば,失当であることが明らかである。
2相違点1,3,4の認定の誤りについて審決が相違点1,3,4を認定したことに誤りはない。
第5当裁判所の判断1相違点2の認定判断の誤りについて当裁判所は 先願明細書には網地を折り曲げる段階で 網地を一側縁部に ,,「 ,蓋片が突出するように折り曲げる」との構成は記載されていないと認められるので,本件発明1と先願発明とは,少なくともこの点(相違点2)において相違するものと判断する。
原告は,先願明細書に上記の構成が記載されている根拠として,概要2点を指摘するが,そのいずれも理由がない。以下順に述べる。
(1)先願明細書の図2に係る原告の主張原告は,先願明細書の図2には,二つ折りされた編地3は,後面側の半部の編地が,前面側の半部の編地の下端部から,一旦下方に湾曲し,その後上方に延びるように示され,その上端の開口縁32は前面側の半部の編地の上端の開口縁32より上側に若干突出している図が示されていることに照らすならば,後面側の編地が前面側より突出するとの構成が記載されていると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
ア先願明細書(甲3の2)の「発明の詳細な説明」欄の記載内容先願明細書の発明の詳細な説明欄には,以下の記載がある。
(ア)0014 かかる要請に本発明は次の如き技術手段で対処してい 「【】る。即ち図2は編地3の張設に際しての前加工の説明図であって,予め正方形枠体1の寸法及び正方形枠体1から結節部2Aまでの高さ寸法により篭体4が展開された場合の展開表面積を算出のうえ,その適合する幅と且適宜目合に角目編成させてなる編地原反を適合する長さで切断し二つ折してそれぞれの両端縁31を縫合することにより,上部に開口縁32を有する片口開き編袋30を作成する。而して該片口開き編袋30をA-A線方向に開口させたうえ図3に示す如く,片口開き編袋30の開口縁32が正方形枠体1の任意の隅1Cの対角線上に位置するよう正方形枠体1をその内部に挿入する。そしてかかる開口縁32をその中央に配位されてなる垂下綱2の上部適宜位置に設けた結節部2Aに集束縫合のうえ固定されるとともに,その一方の正方形枠体1の隅1Cから結。」 節部2Aに亘る開口縁32相互が適宜の幅で接合され縫合されている(イ)0015 反面その他方の正方形枠体1の隅1Cから結節部2A 「【】に亘る開口縁32については図4に示す如く一方側開口縁32Aを下面とし且他方側の開口縁32Bを上面としてその接合する幅が1乃至5cmの範囲で接合させ,而も上面の開口縁32Bを形成する編地長が下面の開口縁32Aを形成する編地長に比べて3乃至10%の範囲で短かく形成されるよう接合両端33が縫合されて収納口5が形成されている。
即ちかかる構成を用いることにより多数の篭体4が連結され垂下展張されると,垂下展張に係る張力が連結される垂下綱2はもとより,篭体4の正方形枠体1の四隅1Cと結節部2Aを結ぶ編地面に付加される。そして正方形枠体1の四隅1Cの中の対照的位置2ヶ所の隅1Cと結節部2Aとを結ぶ編地面は,編地3の包被展張に際して予め形成させた片口開き編袋30の開口縁31で形成されるものであるから角目方向に配され,従って張力が付加された状態では変形伸長することなく緊張状に保持されることとなる 」。
(ウ)0016 かくして緊張状に保持される編地面には その一方側 「【】 ,の開口縁32Aを形成する編地3を下面とし且他方側の開口縁32Bを, , 形成する編地3を上面として その接合する幅が1乃至5cmの範囲で而も上面の開口縁32Bを形成する編地長が下面の開口縁32Aを形成する編地長に比べて3乃至10%の範囲で短かく形成されるよう,その接合両端33が縫合されて収納口5が形成されてなるため,垂下展張に係る張内の付加時には常に収納口5を形成している編地長の短かい上面の開口縁32Bを形成する編地3に強く張力が付加され,下面の編地3を圧着して収納口5が閉塞された状態となる。かかる場合において,該収納口5の長さは稚貝の収納や育成した成貝の取出しに支障の無いよう,好ましくは正方形枠体1の隅1Cより結節部2Aに亘って形成されることが望まれ,而も該収納口5が十分長く形成される場合には,該収納口5を形成させるための上面の編地3と下面の編地3との接合の幅も大きく形成させることが稚貝の逃散や脱落防止のうえから望まれる。そして収納口5を形成する相互の編地3の接合の幅の範囲が1乃至5cmに制限される事由は,1cm以下では垂下展張時における潮流や波浪等の外力が加重された場合に篭体4の変形等により開口し稚貝の逃散や脱落の危険があり且5cmを超えると取出時に支障が生ずることによる。
更に収納口5を形成する上面の編地長が下面の編地長に比べて3乃至10%の範囲に制限される所以は,編地自体並びに張設される篭体自身も, , 多少の変形を有するため 3%以下では張力付加時に圧着作用が働かず而も10%をこえると収納口5に緩みや弛みが発生し稚貝の逃散や脱落の危険が生ずることによる。かくしてなる本発明の収納口より所要数の帆立稚貝を収納させたうえ,それぞれに延出されてなる垂下綱2の端部2Cを連結させたうえ図5に示すように海中に垂下展張し育成をおこなう 」。
イ先願明細書の図面の記載内容先願明細書の図2は編地原反を適合する長さで切断し二つ折してそれ ,「ぞれの両端縁31を縫合することにより,上部に開口縁32を有する片口開き編袋30を作成する」過程を示すために描かれた図であり,その内容は,以下のとおりである。
同図には片口開き編袋30 を開口する方向を 左右端部からほぼ中 ,「」,,(),, 央を基点として 2本の矢印A A-A線 で示しているが その矢印は前面側半部の編地の開口方向については右下に向けて,後面側半部の編地の開口方向については左上に向けて,それぞれ図示している。また,同図では,二つ折りされた前面側,後面側それぞれの編地の形状を示すに当たり 前面側半部の編部について 右側 下端部 から上端部を経て左側 下 , ,()(端部)までをそれぞれ直線で図示し,僅かな円弧で結んだ後,後面側半部の編地について,左側(下端部)から上端部を経て左側(下端縁)までをそれぞれ直線で図示している。さらに,同図は,前面側半部と後面側半部における上端部及び左端縁部の各直線の間隔について,ほぼ同一幅で表示している。
ウ小括「」 , 上記先願明細書の 発明の詳細な説明 欄の記載及び図2を総合すれば同図は二つ折りされた編地3 の立体形状を 左上方視した斜視図であ ,「」,ると理解するのが相当である。
ところで,同図では,二つ折りされた編地3の後面側半部の編地の上端部が前面半部の編地の上端部より上方に描かれている。しかし,後面側半部の編地の左端縁部についても,前面側半部の編地よりも左側に描かれていること,上端部の間隔と左端縁部の各間隔は,ほぼ等しく描かれていることに照らすならば後面側半部の編地の上端部が前面半部の編地の上端 ,「部より上方に描かれていること」は,編地の厚みを表現するか,あるいは僅かに開口された様子を表現する等の目的から,立体図形を斜視方向から描いた図法上に由来するものにすぎず,これをもって,同図において,後面側の編地の上端部が前面側の編地の上端部より突出させるとの構成が開示されたものと理解することは到底できない。
以上のとおりであり,この点の原告の主張は採用することができない。
(2)先願明細書のその他の記載部分に係る主張についてア原告は,先願明細書において,図3に示される状態を経て,図1,4に示される組立状態を実現するためには,編地の一方が突出するように「片口開き網袋30」を折り曲げることが必然である旨を主張する。
しかし 前記(1)ア(イ) (ウ)で述べた先願明細書の記載によれば 先願 ,, ,発明を構成する編地や篭体は,素材の性質により若干伸縮や変形すると考えられ,しかも,先願発明において,上面の開口縁32Bを形成する編地長は,下面の開口縁32Aを形成する編地長に比べ,3ないし10%短かく形成されるよう縫合されるのであるから,目数を減らすなどの処置を採ることによって,無理矢理開口縁を引き寄せることによって重ね合わせることなく,図1,4に示される組立状態を実現することは可能であると考えられる。以上のように,図4で示すとおり,正方形枠体1の一つの隅1Cと頂部の結節部2Aとの間を結ぶ一つの稜線部分において,所定幅をもって互いに重ね合わせて接合両端33で縫合することは 開口縁32A 下,(面)と開口縁32B(上面)とを,少なくとも一方を他方に向けて引き寄せることによって,組み立てることは可能であるから,図3で示す,編地を折り曲げる段階で,編地を一側縁部に蓋片が突出するようにすることが必要不可欠であるとはいえない。
イこの点について,原告は,編地の開口縁を無理矢理引き寄せて重ね合わせると,網目を不自然に引っ張り合って網目が斜めに交錯した状態にして重ねることとなり,先願明細書の図4に示されるように網目の正方形を保持した状態で重ねることは不可能であるし接合する幅が1乃至5cmの ,「範囲で」網目の正方形を保持した状態で重ねることは不可能である旨主張する。
しかし,特許出願の願書に添付される図面は,発明の内容を説明する目的で,その趣旨に添って作図される性質を有するものであるから,図4において,網目が正方形を保持した形状に描かれているとしても,この点を捉えて直ちに,編地が一側縁部に蓋片が突出するように折り曲げられている構成が開示されていると認定することは到底できない。また,育成篭全体の大きさを考慮すれば 先願明細書の段落 0011 には正方形枠 (【】,「体1が略35乃至50cm平方程度のものが好都合」であることが記載されている,接合幅が1cmないし5cm程度であれば,開口縁を無理矢 。)理引き寄せて重ね合わせなければならないということもできない。
以上のとおりであり,この点の原告の主張は採用することができない。
(3)したがって 「本件発明1と先願発明とは少なくとも相違点2を有し,こ ,の点が先願明細書に記載されているに等しいともいうことができない」とした審決の認定判断に誤りはない。
2結論原告は,その他,審決における相違点2の認定判断の誤りについて縷々主張するが,いずれも先願明細書の記載に基づくものではなく,理由がない。
以上のとおり,審決における相違点1,3,4の認定の当否にかかわらず,本件発明1が先願発明と同一ということはできないとした審決の認定判断は正当である。よって,原告のその余主張について検討するまでもなく,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 大鷹一郎
裁判官 嶋末和秀